その力は何のために

マスター:水貴透子

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/21 07:30
完成日
2014/08/29 22:30

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

護りたかったんだ。
けど、俺の力は及ばなかった。
……だからと言って、あの仕打ちはないだろう!
あれさえなければ……。

人間を守る価値なんてない、滅びてしまえ――。
他力本願でハンターに縋る愚鈍な人間も、守れなかった俺も、すべて滅びろ。

※※※

「……今回は、討伐ではなく捕縛任務をお願い致します」

案内人から告げられた言葉に、集まったハンター達は僅かに戸惑いの表情を見せた。
それもそのはずだ。
『雑魔』は討伐すべき対象であり、今まで『捕縛』なんてした事もないのだから。

「捕縛なんて……雑魔の生態でも調べようってのか? なかなか悪趣味だねぇ」

戸惑いを隠すように、1人の男性ハンターが軽い口調で案内人に言葉を投げかける。

「……雑魔、ではありません」
「今回の対象は……皆さんと同じ、ハンターです」

ハンターが対象だと知り、集まった者達もさすがに驚きを隠せなくなったようだ。

「少し前、とある雑魔退治が行われたのですが……失敗して、ハンターは大怪我で戻ってきました」
「同じく任務に向かったハンター1人の遺体を抱えてながら……」

そこまではよくある話、で済ます事が出来る。
力及ばず、同僚の亡骸を抱えて戻ってくるハンターも、ありえなくはないから。

「ですが、そのハンターはある程度怪我が癒えた後……再びその場に戻り、雑魔退治を行ったそうです」

「雑魔退治をしたハンターを捕まえろって? 意味がわかんねぇ」

「問題はその前と後にあります」
「何故か、近隣にあった集落の人間すべてが殺されているのです」

「……まさか、そのハンターが?」

「いえ、亡骸に残された爪痕などを考えると雑魔に殺された……というのが妥当でしょう」
「ですが、明らかにハンターが雑魔退治に向かった後に殺されているのです」

「……間に合わなかったんじゃないのか? ハンターだって万能じゃない」

集まった者の1人が怪訝そうな表情で案内人に言葉を投げかける。

「その集落には、言葉が残されていました」
「目には目を、毒には毒を……お前らの犯した罪は死ぬだけでは許されない程のものだ――と」

案内人の言葉を聞き、ハンター達には1つの考えが頭を過った。

「……まさか、集落の住人が襲われているのを見て……見殺しに、した?」

「その可能性があるので、捕縛をお願いしたいのです」

案内人の言葉を聞き、複雑な気持ちを抱えながら、ハンター達は出発して行った。

リプレイ本文

●何が起きたのかを知るために

「もし集落を見捨てたとしたら……いや、今は何があったかを突き止めよう」
 ヴァイス(ka0364)は案内人の言葉を聞いた後、短く呟いた。
「願わくば、依頼者側の推測が外れているといいんだけど……」
 ルーエル・ゼクシディア(ka2473)も浮かない表情を見せながら呟く。
 やはり、同じハンターを捕まえに行くというのは気が重いのだろう。
「亡くなった人の遺体を抱えて戻ってきたってあったけど、何か関係あるのかな……」
 ベル(ka0738)は眉根を寄せながら、依頼書を見つめる。
「フェンという人について、色んな人に聞いてきたけど……悪い噂はなかったよ。正義感溢れる、誰よりもハンターに適している、と答えた人が多かった」
 ルーエルは聞きこんだ結果を、今回同じ任務に就いたハンター達に告げる。
「今回の件は、何か裏があるに違いありません。話し合いで解決出来れば良いのですが」
 シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が呟く。
「どうかね、集落に残された言葉がそいつの残したもんなら、一筋縄じゃいかねーだろうさ」
 アクアレギア(ka0459)もため息混じりに呟いた。
(人を撃つ事が出来ないわけではないが、ただ、俺は漁師として人を害獣から守るために銃を扱ってきた、だからその銃で人を撃つというのは……どうにも煮え切らんな)
 三船・啓司(ka0732)は愛用の『猟銃』を見つめながら、苦しげな表情を見せている。
「問題を起こした危険性のあるハンターを捕縛する、若い者には苦い仕事になりそうだな」
 バルバロス(ka2119)は、同じ任務に就いたハンター達を見つめ、ため息を吐く。彼自身はどんな事情を抱えていようと、捕縛が仕事なら如何な理由があっても捕まえる覚悟がある。
 だが、全員が同じ覚悟を持っているかと言えば、それはYESではない事を知っている。
(……本当に見殺しにしたのなら、その力は、何のために手に入れたというの!)
 雲類鷲 伊路葉 (ka2718)は強く唇を噛みしめながら、心の中で呟く。

※※※

 ハンター達は、捕縛班と集落班に分けて行動をする作戦を立てた。
「それじゃ、後で必ず合流する」
 ヴァイスが捕縛班のシルヴィア、アクアレギア、三船、バルバロス、雲類鷲に言葉を投げかける。
「……何か、フェンという男性の心を動かすものを見つけられればいいんですが」
 ルーエルがため息混じりに呟き、先行して向かう捕縛班の背中を見送る。
(何があったのかは分からないけど、前向きに立ち直ってほしいと思ってるんだけどな)
 捕縛班を見送りながら、ベルも心の中で呟いていた。

●あの日、何が起こったのか

※集落班

 ハンターオフィスから乗用馬を借りて、集落班の3名は、フェンが最後に立ち寄ったという場所へと赴いていた。
「……凄まじいですね、凄惨さがそのまま残っている」
 集落に残された爪痕、血痕が赤黒く変色した場所、どれも目を背けたくなるほどだった。
 ベルは、1つ1つを確認するように歩き、問題の言葉が刻まれている場所の前に立つ。
「これが問題の言葉か……目には目を、毒には毒を……お前らの犯した罪は死ぬだけでは許されない程のものだ――」
 力強く刻まれた言葉に、その恨みの大きさが知れる気がした。
「雑魔が刻んだ、という可能性を願いたいですが……それは、無理でしょうね」
 ルーエルはため息混じりに呟くが、ベルとヴァイスも、それはありえない、と心の中で呟いていた。それほどの知能が雑魔にあるとも思えないからだ。
「木彫りの人形……これは、きっと集落にいた子供の物でしょうね」
 ルーエルは地面に転がっていた人形を手に取りながら、やりきれない表情を見せて呟く。
「案内人に聞くと、フェンが雑魔退治の報告に来なくて、別のハンターを向かわせたらしい。それで雑魔の死体、集落の有様を知ったそうだ」
 ヴァイスが予め調べてきた事をベルとルーエルに告げる。
「フェンが抱えてきたハンターは幼馴染で、同じ任務に就く事が多かったらしい。何があったのかは知らないが、そいつが死んだ事と……何か関係があるんだろうな」
 3人は、まず村長の家らしき家に向かう。恐らく避難場所として、集落の人間達は村長の家に集まったのだろう、他の家よりも被害が多いように見受けられた。
「これ、もしかしてフェンという人の事じゃないかな」
 ベルが血まみれの手記を見つけ、3人はそれを読み始める。
 そして、その手記に書かれていた事こそが、すべての始まりなのだと知った――……。

※捕縛班

「……あいつ、か」
 アクアレギアは小高い丘でぼんやりと座り込んでいる男性を見つける。恐らく、彼こそが問題のハンターとなっているフェンで間違いないだろう。
 ハンター達は、フェンに接触する者、逃走を阻む者、それぞれに分かれ、一歩ずつフェンに近づいていく。
「……俺を捕まえに来たのか? そろそろ来るだろうなとは思ってたけどさ」
 遠くを見つめたまま、人の気配に気づいたらしく、フェンがハンター達に話しかける。
「おいおい、そんな警戒しないでくれよ。別に逃げようなんて思っちゃいない」
 まるで友人にでも話しかけるような明るさに、ハンター達は言い知れぬ不気味さを感じた。
「単刀直入に聞くぞ。あのメッセージはどういう意味だ?」
 アクアレギアが低い声で問いかけるけれど、フェンは「ふん」と鼻であざ笑った。
「あの言葉に他の意味なんてあるのか? あんたらが思っている通りの意味で問題ないよ。やられたらやり返す、罪には罰を、俺は何も間違った事なんてしていない」
「――その力は、何のために得たのよ! 力とは祈りであり、希望であり、救いでなければ破壊しか生まない、それはただの暴力でしかない!」
 雲類鷲が心の底から絞り出すように叫び、フェンに問い掛ける。
「何のために、か……守るためだったよ。自分の力が誰かを救えるならこんなに嬉しい事はない。そう思って、俺は今まで何度も命がけで戦っていたよ。別に見返りを求めたわけじゃない、誰かを救えるなら報酬なんて最低限で良かった」
(……こんな考えを持つハンターが、何故……?)
 少し離れた所から話を聞いていた三船は眉根を寄せながら心の中で呟く。自分達が来れば逃げるだろうと思っていたが、フェンには逃げる素振りがない。
 むしろ、誰かが来るのを待っていたかのようにさえ見える。
「あなたのような人が問題を起こすとは、少々納得がいきません。何かあったのなら、事情を話せば、悪いようにはならないはずです」
 シルヴィアがフェンに話しかけた途端「悪いようにはならない? はははははっ!」とけたたましいほどの大きな声で笑い始めた。
「お嬢ちゃん、俺はもう何も望んでいないんだよ。ある意味、歪虚は正しい。人間は増えすぎた、だからこそ考えの相違が出てくる、今まで人間の世界だったんだ、そろそろ淘汰されるべきじゃないのかな? 俺も、キミも、ここにいる全員! 生きる価値なんかない!」
「……」
 フェンの言葉を聞き、バルバロスは妙な悪寒を感じていた。相手が強いとか、そう言う類の悪寒ではなく、フェンが何をするか分からない、という悪寒だ。
 バルバロス自身はフェンにどんな事情があっても、頼まれた依頼を遂行するのみ。
 だが、フェンの事を気遣う仲間達の事を考えると、どうしても心配にならざるを得ない。
「治療拒否、だな」

●合流、フェンを捕まえろ

 そこに、集落に赴いていた3名が合流した。
「……合計8人か、俺を捕まえるためだけに随分と人員を裂いたんだな」
「あなたの友人は、雑魔との戦いで重症を負い、集落に助けを求めたそうだね。あなたも、あなたの友人も、酷い怪我をしていたと村長の手記に書かれていたよ」
 ベルが見せた血まみれの手記に、フェンはピクリと眉を動かした。
「だが、集落の人間は治療を拒否した。ハンターに治療道具を使ったら、自分達の分がなくなるから使えない、そう言ったそうだな」
「……まともに雑魔退治も出来んハンターに何故わしらが治療をしてやらねばならん! 雑魔を倒せば報酬も入るだろう、それで病院なり何なり行けばよかろう! さっさとここから出て行け! ……くくっ、それが言われた言葉だ。何、綺麗事書いてんだ、あのクソジジイ」
 フェンの言葉に、ハンター達は言葉を失う。依頼人のすべてがハンターに協力的とは言わないが、そんな言われ方をしたなんて、とても信じられなかったからだ。
「あいつの怪我、あの時に出血だけでも抑えられたら助かっていたんだよ。あいつらが、治療さえしてくれれば! 人を殺しておいて、自分達だけ助かろうなんて勝手すぎる。だから、集落まで雑魔を誘導してやったんだよ」
 自嘲気味に呟いたフェンの言葉に、ハンター達は凍りつくような表情を見せた。フェンは集落を見捨てたのではなく、わざと集落が襲われるように仕向けたのだから。
「生きる価値なんてない……? 死んだ同僚も滅ぶべきだったって言うのかよ!」
「俺とあんた達は平行線だ。決して交わらない、お互いが納得するなんてありえないんだよ」
 フェンはそう呟くと、剣を持ってハンター達に襲いかかってきた。
「やっぱり、戦うしかないのね」
 雲類鷲は唇を強く噛みながら『ライフル「メルヴイルM38」』を構える。
「出来れば、抵抗せずについてきて欲しかったです」
 シルヴィアも苦しそうな表情を浮かべながら『アサルトライフル』を構える。
「お前らが来る事を予想しながら、何で俺がここにいたと思う? 罠を仕掛けやすいからさ」
 木に括りつけていたロープを切ると、木の上から岩などが落ちてきて、ハンター達を撹乱する。
「くっ、逃げるつもりか……っ!」
 ヴァイスは『ルーンソード』を構え、小さく舌打ちをすると……背後から斬られる。
「この仕掛けは逃げるために用意したんじゃない」
 フェンは不敵な笑みを浮かべると、次々に仕掛けていた罠を駆使していく。
「奴を釘付けにする、その間に対処を頼む」
 三船は仲間であるハンター達に言葉を投げかけ、フェンを殺さぬよう、腕や足などを狙い威嚇射撃を行う。
 三船の威嚇射撃によって、フェンの動きは僅かに鈍り、ベルがフェンの持っている武器を攻撃して弾いた。
「これ以上、騒ぎなど起こさんで欲しいな」
 バルバロスは武器を失い、その場に立ちすくむフェンの頬を強く殴りつける。
 もちろん死なすつもりではないので、殺すための全力ではないけれど。
「ぐっ……」
「若造、死にたくなければ罪を償う道を選ぶといい」
 バルバロスの言葉に「……償う? 俺は償わなきゃいけない事なんてしてないよ」と口の端から零れる血を乱暴に拭いながら、不敵に微笑んで言葉を返す。
「俺を殺せ、最初からそのつもりでここにいた」
「……『お前の犯した罪は死ぬだけでは許されない程のものだ』……だから、生きて償えよ。その同僚がもし生きていたら救ってただろう連中の分まで、てめぇの力で救ってみやがれ」
 アクアレギアがフェンに言葉を投げかけるが「……く、くく、救う? そうだな」と自嘲気味に呟いた。
「確かに救わなきゃいけないな、死に恐怖する人間を救ってやるよ。死の恐怖を拭い去るため、俺の手で、皆殺しにしてやる」
(……こいつ自身が、もう壊れているのか)
 けたたましく笑うフェンを見ながら、三船が心の中で呟く。
(苦しい時、楽しかった時、亡くなった友人と色々分かち合っていたのだろう。ただ雑魔に殺されただけなら、ここまでにはならなかったかもしれない……だが、人間に見捨てられ、友人を失い、こいつの支えになっていたものが、壊れてしまったんだ)
 三船は拳を強く握り締めながら、ある意味では誰もが味わうかもしれない絶望に恐怖した。
(この人は確かに罪を犯したけど、人が人である限り、立ち直る機会はあってもいいはず。フェン、貴方の新しい生、私が手伝ってあげる)
 雲類鷲は心の中で呟き、フェンが心から立ち直る日を望んでいた。
(情状酌量はありそうですし、どうにか罪を軽減できないか、お願いしてみましょう)
 シルヴィアは心の中で呟く。怯えていた集落の者が悪かったわけではない、もちろんフェンと友人が悪かったわけでもない、ただ、今回は悲しみが悲しみを呼んでしまっただけ。
「ご友人のためにも、あなたには立ち直ってほしいです」
 シルヴィアが言葉を投げかけるが、フェンは聞こえていないかのように反応はしなかった。
「その場に居合わせなかった俺には、あんたの絶望がどれ程のもか分からない。でも、何があっても集落を見捨てるべきじゃなかったと思っている」
 ヴァイスも、自分の気持ちをフェンにぶつけるが、不気味な笑みを浮かべながら、フェンはヴァイスを見つめた。
「あんたらさぁ、きっとそのうち後悔するよ。あの時、フェンを殺しておけば良かったなぁって……絶対に、あんた達は後悔する日がくる。偽善的な優しさで俺を生かした事……今すぐじゃないだろう、だが……絶対に後悔させてやるよ」
 フェンの笑い声を聞きながら、ハンター達は任務通り、フェンを連行した。
 ハンター達の中には情状酌量を求める者がいたが、本人の供述で雑魔を集落に誘導させた事が決定的となり、フェンはDWJ(デッド・ウェスト・ジェイル)に収監される事が決定した――……。

END

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MVP一覧

  • オキュロフィリア
    アクアレギアka0459

  • ベルka0738

  • 雲類鷲 伊路葉 ka2718

重体一覧

参加者一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • オキュロフィリア
    アクアレギア(ka0459
    ドワーフ|18才|男性|機導師
  • 闇裂きの銃弾
    三船・啓司(ka0732
    人間(蒼)|23才|男性|猟撃士

  • ベル(ka0738
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士

  • 雲類鷲 伊路葉 (ka2718
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/16 00:08:26
アイコン 相談卓。
ベル(ka0738
人間(リアルブルー)|18才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/08/20 22:50:06