ゲスト
(ka0000)
巫女様の憂いを払いまショウ
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/19 22:00
- 完成日
- 2014/08/27 21:41
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
リゼリオの辺境ユニオン・ガーディナ。
そこのリーダーであるリムネラ(kz0018)は、祈っていた。
――いや、厳密には祈るしか出来なかった。
昨今、リゼリオ近海で現れている多くの歪虚。
ハンター達は多くがその討伐に向かうということで、今のリゼリオは少しばかり慌ただしい。
掃討作戦も開始された。
すぐに結果が見えるというわけにはいかないが、もしかしたら怪我をして戻ってくるものもいるかもしれない。そんなことを思うと、リムネラはやきもきせざるを得なかった。
ユニオンリーダーという立場、そして大霊堂の巫女という立場であるリムネラは、辺境ユニオンと辺境に住まう人々にとっては大切な存在だ。いま大霊堂との道は閉ざされており、実質的に動くことのできる巫女はリムネラくらいしかいないのだから。
しかし彼女自身はまだ十七歳。まだまだ未熟なところの多いのは、自分でもわかっている。
でも、だからこそ、彼女は考えていた。
自分にできることを。
●
そんなリムネラを見て心配するものは、当然ながらユニオンにも数多くいた。
「そうだリムネラ様、ちょっと息抜きをしませんか?」
そう声をかけてきたのは、ユニオン所属のハンター。リムネラは苦笑しながら応える。
「エエ……ケド、どうしても考えてしまうのデース……」
それはしかたのないことだ。責任のある立場にあるのだから、考えるなという方が無理がある。
「ですから、ねっ。たまには、あたしたちにもてなさせてください。リムネラ様、すごく頑張ってらっしゃるから」
そのハンターの顔はひどく心配そうで。
リムネラのことを、気にかけていて。
「……アリガトウございマース。そんな言葉が、なによりモ嬉しいデスよ♪」
つとめて明るく返事をしてくれるリムネラは、優しい。けれど、その優しさは時にアダとなりかねないことも、ハンター達はわかっていた。
だから、こっそり提案したのだ――リムネラをティーパーティに誘うことを。
リゼリオの辺境ユニオン・ガーディナ。
そこのリーダーであるリムネラ(kz0018)は、祈っていた。
――いや、厳密には祈るしか出来なかった。
昨今、リゼリオ近海で現れている多くの歪虚。
ハンター達は多くがその討伐に向かうということで、今のリゼリオは少しばかり慌ただしい。
掃討作戦も開始された。
すぐに結果が見えるというわけにはいかないが、もしかしたら怪我をして戻ってくるものもいるかもしれない。そんなことを思うと、リムネラはやきもきせざるを得なかった。
ユニオンリーダーという立場、そして大霊堂の巫女という立場であるリムネラは、辺境ユニオンと辺境に住まう人々にとっては大切な存在だ。いま大霊堂との道は閉ざされており、実質的に動くことのできる巫女はリムネラくらいしかいないのだから。
しかし彼女自身はまだ十七歳。まだまだ未熟なところの多いのは、自分でもわかっている。
でも、だからこそ、彼女は考えていた。
自分にできることを。
●
そんなリムネラを見て心配するものは、当然ながらユニオンにも数多くいた。
「そうだリムネラ様、ちょっと息抜きをしませんか?」
そう声をかけてきたのは、ユニオン所属のハンター。リムネラは苦笑しながら応える。
「エエ……ケド、どうしても考えてしまうのデース……」
それはしかたのないことだ。責任のある立場にあるのだから、考えるなという方が無理がある。
「ですから、ねっ。たまには、あたしたちにもてなさせてください。リムネラ様、すごく頑張ってらっしゃるから」
そのハンターの顔はひどく心配そうで。
リムネラのことを、気にかけていて。
「……アリガトウございマース。そんな言葉が、なによりモ嬉しいデスよ♪」
つとめて明るく返事をしてくれるリムネラは、優しい。けれど、その優しさは時にアダとなりかねないことも、ハンター達はわかっていた。
だから、こっそり提案したのだ――リムネラをティーパーティに誘うことを。
リプレイ本文
●
「リムネラ(kz0018)様が、何やら一人で背負い込んでいらっしゃるようですね……」
銀髪のエルフ青年――のように見えるが実のところは女性である――ルシオ・セレステ(ka0673)が、いつもよりどこか元気のないユニオンリーダーの姿にそうつぶやいた。
リムネラが大霊堂の巫女であることは、ハンターならずとも知られている事実の一つである。巫女というのは、クリムゾンウェストの中でも特殊な立場であり、故に抱え込むことも多いのだろうというのは、容易に想像がつく。
「あー、うん……最近は何だか忙しい感じではあるね」
ジョナサン・キャラウェイ(ka1084)はそんなことを言いながら、周囲をきょろきょろと見回すと
(何やらこそこそ動きもあるみたいで……悪事の企てなら一枚噛ませて欲しいのだけどね)
そんなことを思ってほくそ笑む。彼は幸か不幸か、今回集まった意図をきちんと把握していないようだ。
「歪虚が出たとか何とかで、リムネラ嬢も何やら思いつめているようだしな」
そう言って何やら紙の包みを持ってきているのは『黒』をまとった青年。幼少時の記憶のない彼の名はレイス(ka1541)、同じくユニオン『ガーディナ』所属ののハンターである。
「優しいのはいいのだけれど、ずいぶんと煮詰まっているみたいだし……こんな時こそあたし達が支えてあげなくちゃ、ね♪」
リアルブルー出身のカミーユ・鏑木(ka2479)が、そう言って頷く。鍛えぬかれた筋肉質の肢体の持ち主だが、彼の心はピュア(?)な乙女。そういうタイプの人間である。しかし世話好きで気も回り、どこか頼りになるお姉さん的存在だった。
「うん! リムネラさんを和ませる! ですね!」
そんなカミーユの言葉に賛同して、花がほころぶように微笑むのは年齢よりも幼い風貌の少女、美作さくら(ka2345)。リアルブルー出身の彼女、実年齢はリムネラと大差ないらしい。
「うさ払いと、そのついでにただで飲み食いができるなら、それはそれでいいことじゃ」
いかにもといった風体のドワーフ・ギルバート(ka2315)もそう言いながら笑う。飲食を通じて気分を晴らすことができるのならば、それに越したことはない。
「うん、まぁ、気難しく考えずに楽しい時間を過ごせればいいなっていいと思います」
さくらはまた笑う。文字通り、桜の花がほころぶような、どこかふんわりとした笑顔。
「じゃあ、支度をしてみようか」
「リムネラ嬢にあまり悟られぬようにな」
自分のためにちょっとした宴を用意してくれるという事に気づいたら、リムネラは喜ぶと同時にきっと申し訳なく思うだろう。彼女は天真爛漫なところのある人物だが、人の心には敏いのである。
●
(……でも、交友の幅を広げろと言われても……ねぇ)
そんな空気の中、リアルブルー出身のいわゆるひきこもり少女、落葉松 日雀(ka0521)は面倒くさいとでも言うようにひとつため息をつく。姉の手により半ば無理やり参加させられることになった彼女、かぶっているパーカーのフードを深くかぶりなおしてから、小さく握りこぶしを作る。頑張ると言ってもなかなか頑張れないというタイプなのだ。
それでも持ってきたスナック菓子や炭酸飲料を机の上に並べる。机は中央に一つに集め、そこに菓子や飲み物を置く――リアルブルーでは学校の放課後などによく見られる光景だ。
「厨房は使えるかな?」
ルシオは小さく首を傾げると、
「ああ、あることはあるらしいが……」
ジョナサンがそう応じる。先日ユニオン内の大掃除に参加した彼ではあるが、そういえば厨房は掃除しなかった。けれど何かにつけて手作り菓子やら何やらが登場することを考えれば、普通に存在するだろう。
「それなら、材料を持ってきているので、桃のタルトをつくろうかと思っているんだ。出来たてのタルトは甘くて美味しいから」
ルシオの提案はとても素敵なものだった。女性というのは得てして甘いものが好きである。リムネラもクッキーを自作したりする程度にはお菓子好きであろうから、きっと喜ぶに違いない。
「俺はクッキーを焼いて持ってきた。リムネラ嬢の口にあうといいが」
レイスは小さく笑う。そして、
「彼女を呼びに行く役目は俺がやろう」
そう言うと、リムネラのいる執務室に一人で向かうのであった。
●
その頃リムネラはと言うと。
ユニオンリーダーの執務室で、ひとりため息をついていたのだった。
「はァ……」
小さなため息を付く彼女の顔はどこか憂いを帯びていて、いつもよりも二割増しくらい美人に見える気がする。十七歳という若さで辺境のハンターたちを束ねる立場にあるのだから、その心労は推して知るべしといえよう。
と、こんこん、と軽いノックの音がした。彼女ははっとして、慌てて笑顔を作る。
「リムネラ嬢、少し良いか」
「アラ、エエと……レイスさん、デスよネ? ドウカしましたカ?」
辺境ユニオンに所属している人のことはひと通り記憶しているリムネラ、顔を見て不思議そうに小首を傾げた。まさかここでサプライズパーティを計画しているだなんて、夢にも思っていないようだ。レイスは小さく笑うと、リムネラの手をとった。
「暇な奴らで茶会をしようと思うのだが、以外に菓子が余ってしまってな。日頃の礼もあるし、貴方もどうだ?」
「エ……?」
その発言に不思議そうに首を傾げるリムネラをよそに、レイスはぐいっと彼女を引っ張る。まだ状況を飲み込めていないリムネラは、それにただ従うまでだ。そしてそのまま、会場である会議室に入る。と、
「リムネラ様、たまには息抜きも必要ですよ」
「そうそう♪ こんな時は気晴らしに、リアルブルー式のお茶でもいかが?」
さくらとカミーユがニッコリと笑って出迎えた。
そこへ更にやってきたのは、出来たての桃のタルトを持ってきたルシオと、成り行きで手伝っていたジョナサンである。
料理道具の手入れや何やらと細かい作業を引き受けてくれたわけだが、本人としては微妙に
(あれ、僕いい人すぎねぇ?)
なんて自問自答していたり。でもそんなジョナサンだからこそ、嫌われ者にならないとも言える。
「とりあえずティーパーティね! リムネラさんはあまり経験がないのかしら?」
笑いながら陶器のカップを差し出しているのは満月美華(ka0515)。発育の良い肢体をしているが、彼女もリムネラと年齢は変わらない。ポニーテールにしている燃えるように赤い髪が、サラリと揺れた。
カップの中には緑色をした液体が並々と注がれている。
「これは緑茶っていうのよ。知ってるかしら? 美味しいから、ぜひ飲んでみて」
美華がニッコリと笑うので、進められるままにリムネラはそれを口に含むと、今まで飲んだことのない味わいの茶だった。
「コレは……トテモ、おいしいデース……」
思わずリムネラもにこりと笑顔を浮かべる。
「あ、リムネラ殿も笑いおったな! よいことじゃ!」
ギルバートが嬉しそうに歯を見せた。彼の手には、こっそり持ち込んだブランデー。わずかに香るアルコール臭にリムネラも気づいたが、リムネラのことを思っての集まりというのはこの様子を見ればわかるので、あえて口にはしない。
(ワタシのために……集まってクレタのですネ……)
それはとても嬉しいことで、思わず涙が零れそうだ。一人で肩肘張ったまま生活するのはやはりなにかと疲れてしまう。こうやって自分のことを思いやってくれるハンターという存在が、今は無性に嬉しかった。
●
「そう言えば、こんな時は歌でも口ずさんでみると気分転換になると思うんだが……」
レイスはそう言ってそっと口を開く。そこからこぼれだしたのは、今はない辺境のちいさな部族の歌。
「歌というのは言葉よりも前からあったとも言われていてな。巫女たる貴方に言うのも何だが、おそらくは人類最古の『世界に働きかけるモノ』だろう。力や絶対的な何かに拠らず、意思と想いを持って世界に相対するための無形――」
レイスは、そう言うとまた何やら口ずさむ。どこかものさびしいそれが辺境の歌だというのは、リムネラには理解できた。
「本当はリムネラ嬢の故郷の歌もわかればよいのだが」
しかしリムネラはゆるりと首を横に振る。彼女は辺境の住人である前に大霊堂の巫女だ。大霊堂のほうが彼女にとって馴染み深い環境――ということになる。
「でもでも、歌はほんとに元気が出ますよ! リアルブルーにはカラオケというものがあって、そこでは皆で一緒に歌を歌って、楽しく過ごす場所なんです」
さくらが頬をわずかに染めながら、そう説明する。リアルブルーのポップミュージックをいくつか口ずさんでみると、側にいたカミーユもつられて歌い出した。それに合わせて、美華が楽器を演奏してみせる。
はじめの頃は後ろでおどおどとおとなしくしていた日雀も、恐る恐る歌い始めた。声は決して大きくないけれど、澄み切った声が部屋中に響いていく。その美しさには、誰もが思わず耳を澄ませて聞き惚れてしまうほどに。日雀本人としてははじめはコーラス程度で終わらせるつもりだったのだが、気づけば彼女のソロになっているのに気づいて真っ赤になって引っ込んだ。
「フフ、皆サンたのしそうで何よりデスよ♪」
リムネラもそう言って微笑む。先程までよりも、表情もぐんと良くなっていた。そこを見計らって、カミーユが小さくウィンクをする。
「ねえリムネラちゃん。ユニオンリーダーで、悩み事も多いでしょうけど、リーダーが不安げにしていたら周りも困惑しちゃうわよ?」
その言葉は優しく、そして真実。リムネラもはっとして、小さく頷き返した。
「……ワタシは、大霊堂の外の世界を、今までホトンド知らなかったのデスヨ。知識とシテハ知ってイテモ、実体験が伴わナイ……中途半端、デスヨネ」
リムネラはそう言って、茶を飲み干す。カミーユが用意してくれたカモミール入りの紅茶を飲んで、少し気分も落ち着いたようだった。
「そういえばリムネラ殿は、こんな話を知っておるか?」
ギルバートはゆっくりと口を開いた。
「人は生きているうちにいろんな荷物を背負うものじゃ。それはどんなに重くても他人に預けてはいけないし、預かってもらってもいかん。……お主は今、すごく重たいものを背負っておる。それを下ろすことはできないじゃろ?」
「……エエ」
ドワーフの言葉に、リムネラは図星を指された時のようにぎこちなく頷く。
「なら軽くする方法はひとつしかない。簡単なことじゃ、誰かに支えてもらうんじゃよ」
そう言って、ギルバートは仲間たちの顔を見やった。
「今日集まった者達の手もあるし、今まで絆を結んできた者達もお主に力を貸してくれるじゃろう。むろん、ワシの手も。そして、見えたのなら笑うのじゃ。……誰も、リムネラ殿の憂いに満ちた顔など見たくはないのだから、のう」
ギルバートはそう言い切ると、ドワーフらしく豪快に笑った。その笑うさまは本当に見ているこちらも胸がすくような感じで、だからこそ嬉しい。
(笑顔であれバ、気持ちの持ちようも変わるのデスね……)
「リムネラ様、こちらも食べてください。厨房をお借りして作った桃のタルトなんですが、見ての通り少し作りすぎてしまったようで」
ルシオができたてのタルトを丁寧に切り分け、リムネラに差し出す。ふんわりと漂う桃の香りが、少女たちの適度な空腹を刺激した。
「皆サン……」
リムネラは強く感じていた。ハンターたちの優しさを、そして自分が落ち込んでいると他のハンターたちにもそれが無意識のうちに伝わってしまうのだということを。気づかぬうちに、涙が零れそうになる。そっと目尻をおさえて涙を我慢すると、笑顔を作った。まだぎこちなさはあるけれど、心からの感謝が生んだ笑顔だ。
「あ、リムネラさんが笑った」
さくらがどこか嬉しそうに笑う。笑顔というのは伝染るもので、気づけばその場にいる誰もの顔が笑顔に変わっていた。
「うんうん、リムネラちゃんには笑顔が一番似合うわ」
カミーユも頷く。
ひとりで抱え込みすぎても周囲を不安にするだけなら、頼ってくれても良いのだと、彼はそう言った。事実、そうなのだから。
●
「ほら、こんな余興も見て、少しは気分転換になるといいんだけど」
美華が取り出したのはトランプで、それを用いた簡単なマジックを披露する。虚空からぽんと花を一輪取り出してみせれば、リムネラはそれをまじまじと見つめていて、驚きを隠せないようだった。
「こうやってワイワイするのも、楽しいわね」
めったにないティーパーティとあって、誰も彼もが楽しそう。塞ぎがちなリムネラのために開かれたものだが、その当人もずいぶん自然な笑顔を浮かべるようになっていた。
と、何かを思い出したかのように、ジョナサンがそっぽを向きながら何事かを言う。
「あー……一応、君よリは十年くらい長く生きてきた、その経験も踏まえてのアドバイスなんだがね。どれだけ悩もうが考えようが、ひとりでできることなんてたかが知れてる。だから、君は周りを頼るべきだし、見ての通りに君を喜んで手伝おうって人もたくさんいる」
そこでこの自称(悪の)天才はくるりとリムネラの方を向いて、そして年長者らしい余裕のある笑顔を浮かべた。
「それに、ここは忘れちゃいけないところなんだが……、君の味方には、天才もいるからね」
その言葉には思わず誰もが顔を見合わせて、そしてくすりと笑った。
●
「……アリガトウ、皆サン。ワタシは、人に頼るコトをアマリ知らなかったノデ……皆サンのおカゲで、少し気持ちがラクにナリました。コレからも、よろしくオネガイしますネ」
夕方、リムネラは深く深く頭を下げる。
「ああ。前線は、俺達に任せて、信じてくれ」
レイスが微笑むと、ハンターたちも頷きあった。
リムネラはまだこれからもたくさん悩むことがあるだろう。それでも、ハンターは常に彼女の味方をしてくれる――それはなんとありがたいことか。
「デハ、ワタシは皆サンの無事を信じてイマス。戦いが終わったラ、また会いに来てクダサイネ♪」
ハンターたちはその言葉に頷いた。
彼女への一番の土産はきっと、それなのだろうから――。
「リムネラ(kz0018)様が、何やら一人で背負い込んでいらっしゃるようですね……」
銀髪のエルフ青年――のように見えるが実のところは女性である――ルシオ・セレステ(ka0673)が、いつもよりどこか元気のないユニオンリーダーの姿にそうつぶやいた。
リムネラが大霊堂の巫女であることは、ハンターならずとも知られている事実の一つである。巫女というのは、クリムゾンウェストの中でも特殊な立場であり、故に抱え込むことも多いのだろうというのは、容易に想像がつく。
「あー、うん……最近は何だか忙しい感じではあるね」
ジョナサン・キャラウェイ(ka1084)はそんなことを言いながら、周囲をきょろきょろと見回すと
(何やらこそこそ動きもあるみたいで……悪事の企てなら一枚噛ませて欲しいのだけどね)
そんなことを思ってほくそ笑む。彼は幸か不幸か、今回集まった意図をきちんと把握していないようだ。
「歪虚が出たとか何とかで、リムネラ嬢も何やら思いつめているようだしな」
そう言って何やら紙の包みを持ってきているのは『黒』をまとった青年。幼少時の記憶のない彼の名はレイス(ka1541)、同じくユニオン『ガーディナ』所属ののハンターである。
「優しいのはいいのだけれど、ずいぶんと煮詰まっているみたいだし……こんな時こそあたし達が支えてあげなくちゃ、ね♪」
リアルブルー出身のカミーユ・鏑木(ka2479)が、そう言って頷く。鍛えぬかれた筋肉質の肢体の持ち主だが、彼の心はピュア(?)な乙女。そういうタイプの人間である。しかし世話好きで気も回り、どこか頼りになるお姉さん的存在だった。
「うん! リムネラさんを和ませる! ですね!」
そんなカミーユの言葉に賛同して、花がほころぶように微笑むのは年齢よりも幼い風貌の少女、美作さくら(ka2345)。リアルブルー出身の彼女、実年齢はリムネラと大差ないらしい。
「うさ払いと、そのついでにただで飲み食いができるなら、それはそれでいいことじゃ」
いかにもといった風体のドワーフ・ギルバート(ka2315)もそう言いながら笑う。飲食を通じて気分を晴らすことができるのならば、それに越したことはない。
「うん、まぁ、気難しく考えずに楽しい時間を過ごせればいいなっていいと思います」
さくらはまた笑う。文字通り、桜の花がほころぶような、どこかふんわりとした笑顔。
「じゃあ、支度をしてみようか」
「リムネラ嬢にあまり悟られぬようにな」
自分のためにちょっとした宴を用意してくれるという事に気づいたら、リムネラは喜ぶと同時にきっと申し訳なく思うだろう。彼女は天真爛漫なところのある人物だが、人の心には敏いのである。
●
(……でも、交友の幅を広げろと言われても……ねぇ)
そんな空気の中、リアルブルー出身のいわゆるひきこもり少女、落葉松 日雀(ka0521)は面倒くさいとでも言うようにひとつため息をつく。姉の手により半ば無理やり参加させられることになった彼女、かぶっているパーカーのフードを深くかぶりなおしてから、小さく握りこぶしを作る。頑張ると言ってもなかなか頑張れないというタイプなのだ。
それでも持ってきたスナック菓子や炭酸飲料を机の上に並べる。机は中央に一つに集め、そこに菓子や飲み物を置く――リアルブルーでは学校の放課後などによく見られる光景だ。
「厨房は使えるかな?」
ルシオは小さく首を傾げると、
「ああ、あることはあるらしいが……」
ジョナサンがそう応じる。先日ユニオン内の大掃除に参加した彼ではあるが、そういえば厨房は掃除しなかった。けれど何かにつけて手作り菓子やら何やらが登場することを考えれば、普通に存在するだろう。
「それなら、材料を持ってきているので、桃のタルトをつくろうかと思っているんだ。出来たてのタルトは甘くて美味しいから」
ルシオの提案はとても素敵なものだった。女性というのは得てして甘いものが好きである。リムネラもクッキーを自作したりする程度にはお菓子好きであろうから、きっと喜ぶに違いない。
「俺はクッキーを焼いて持ってきた。リムネラ嬢の口にあうといいが」
レイスは小さく笑う。そして、
「彼女を呼びに行く役目は俺がやろう」
そう言うと、リムネラのいる執務室に一人で向かうのであった。
●
その頃リムネラはと言うと。
ユニオンリーダーの執務室で、ひとりため息をついていたのだった。
「はァ……」
小さなため息を付く彼女の顔はどこか憂いを帯びていて、いつもよりも二割増しくらい美人に見える気がする。十七歳という若さで辺境のハンターたちを束ねる立場にあるのだから、その心労は推して知るべしといえよう。
と、こんこん、と軽いノックの音がした。彼女ははっとして、慌てて笑顔を作る。
「リムネラ嬢、少し良いか」
「アラ、エエと……レイスさん、デスよネ? ドウカしましたカ?」
辺境ユニオンに所属している人のことはひと通り記憶しているリムネラ、顔を見て不思議そうに小首を傾げた。まさかここでサプライズパーティを計画しているだなんて、夢にも思っていないようだ。レイスは小さく笑うと、リムネラの手をとった。
「暇な奴らで茶会をしようと思うのだが、以外に菓子が余ってしまってな。日頃の礼もあるし、貴方もどうだ?」
「エ……?」
その発言に不思議そうに首を傾げるリムネラをよそに、レイスはぐいっと彼女を引っ張る。まだ状況を飲み込めていないリムネラは、それにただ従うまでだ。そしてそのまま、会場である会議室に入る。と、
「リムネラ様、たまには息抜きも必要ですよ」
「そうそう♪ こんな時は気晴らしに、リアルブルー式のお茶でもいかが?」
さくらとカミーユがニッコリと笑って出迎えた。
そこへ更にやってきたのは、出来たての桃のタルトを持ってきたルシオと、成り行きで手伝っていたジョナサンである。
料理道具の手入れや何やらと細かい作業を引き受けてくれたわけだが、本人としては微妙に
(あれ、僕いい人すぎねぇ?)
なんて自問自答していたり。でもそんなジョナサンだからこそ、嫌われ者にならないとも言える。
「とりあえずティーパーティね! リムネラさんはあまり経験がないのかしら?」
笑いながら陶器のカップを差し出しているのは満月美華(ka0515)。発育の良い肢体をしているが、彼女もリムネラと年齢は変わらない。ポニーテールにしている燃えるように赤い髪が、サラリと揺れた。
カップの中には緑色をした液体が並々と注がれている。
「これは緑茶っていうのよ。知ってるかしら? 美味しいから、ぜひ飲んでみて」
美華がニッコリと笑うので、進められるままにリムネラはそれを口に含むと、今まで飲んだことのない味わいの茶だった。
「コレは……トテモ、おいしいデース……」
思わずリムネラもにこりと笑顔を浮かべる。
「あ、リムネラ殿も笑いおったな! よいことじゃ!」
ギルバートが嬉しそうに歯を見せた。彼の手には、こっそり持ち込んだブランデー。わずかに香るアルコール臭にリムネラも気づいたが、リムネラのことを思っての集まりというのはこの様子を見ればわかるので、あえて口にはしない。
(ワタシのために……集まってクレタのですネ……)
それはとても嬉しいことで、思わず涙が零れそうだ。一人で肩肘張ったまま生活するのはやはりなにかと疲れてしまう。こうやって自分のことを思いやってくれるハンターという存在が、今は無性に嬉しかった。
●
「そう言えば、こんな時は歌でも口ずさんでみると気分転換になると思うんだが……」
レイスはそう言ってそっと口を開く。そこからこぼれだしたのは、今はない辺境のちいさな部族の歌。
「歌というのは言葉よりも前からあったとも言われていてな。巫女たる貴方に言うのも何だが、おそらくは人類最古の『世界に働きかけるモノ』だろう。力や絶対的な何かに拠らず、意思と想いを持って世界に相対するための無形――」
レイスは、そう言うとまた何やら口ずさむ。どこかものさびしいそれが辺境の歌だというのは、リムネラには理解できた。
「本当はリムネラ嬢の故郷の歌もわかればよいのだが」
しかしリムネラはゆるりと首を横に振る。彼女は辺境の住人である前に大霊堂の巫女だ。大霊堂のほうが彼女にとって馴染み深い環境――ということになる。
「でもでも、歌はほんとに元気が出ますよ! リアルブルーにはカラオケというものがあって、そこでは皆で一緒に歌を歌って、楽しく過ごす場所なんです」
さくらが頬をわずかに染めながら、そう説明する。リアルブルーのポップミュージックをいくつか口ずさんでみると、側にいたカミーユもつられて歌い出した。それに合わせて、美華が楽器を演奏してみせる。
はじめの頃は後ろでおどおどとおとなしくしていた日雀も、恐る恐る歌い始めた。声は決して大きくないけれど、澄み切った声が部屋中に響いていく。その美しさには、誰もが思わず耳を澄ませて聞き惚れてしまうほどに。日雀本人としてははじめはコーラス程度で終わらせるつもりだったのだが、気づけば彼女のソロになっているのに気づいて真っ赤になって引っ込んだ。
「フフ、皆サンたのしそうで何よりデスよ♪」
リムネラもそう言って微笑む。先程までよりも、表情もぐんと良くなっていた。そこを見計らって、カミーユが小さくウィンクをする。
「ねえリムネラちゃん。ユニオンリーダーで、悩み事も多いでしょうけど、リーダーが不安げにしていたら周りも困惑しちゃうわよ?」
その言葉は優しく、そして真実。リムネラもはっとして、小さく頷き返した。
「……ワタシは、大霊堂の外の世界を、今までホトンド知らなかったのデスヨ。知識とシテハ知ってイテモ、実体験が伴わナイ……中途半端、デスヨネ」
リムネラはそう言って、茶を飲み干す。カミーユが用意してくれたカモミール入りの紅茶を飲んで、少し気分も落ち着いたようだった。
「そういえばリムネラ殿は、こんな話を知っておるか?」
ギルバートはゆっくりと口を開いた。
「人は生きているうちにいろんな荷物を背負うものじゃ。それはどんなに重くても他人に預けてはいけないし、預かってもらってもいかん。……お主は今、すごく重たいものを背負っておる。それを下ろすことはできないじゃろ?」
「……エエ」
ドワーフの言葉に、リムネラは図星を指された時のようにぎこちなく頷く。
「なら軽くする方法はひとつしかない。簡単なことじゃ、誰かに支えてもらうんじゃよ」
そう言って、ギルバートは仲間たちの顔を見やった。
「今日集まった者達の手もあるし、今まで絆を結んできた者達もお主に力を貸してくれるじゃろう。むろん、ワシの手も。そして、見えたのなら笑うのじゃ。……誰も、リムネラ殿の憂いに満ちた顔など見たくはないのだから、のう」
ギルバートはそう言い切ると、ドワーフらしく豪快に笑った。その笑うさまは本当に見ているこちらも胸がすくような感じで、だからこそ嬉しい。
(笑顔であれバ、気持ちの持ちようも変わるのデスね……)
「リムネラ様、こちらも食べてください。厨房をお借りして作った桃のタルトなんですが、見ての通り少し作りすぎてしまったようで」
ルシオができたてのタルトを丁寧に切り分け、リムネラに差し出す。ふんわりと漂う桃の香りが、少女たちの適度な空腹を刺激した。
「皆サン……」
リムネラは強く感じていた。ハンターたちの優しさを、そして自分が落ち込んでいると他のハンターたちにもそれが無意識のうちに伝わってしまうのだということを。気づかぬうちに、涙が零れそうになる。そっと目尻をおさえて涙を我慢すると、笑顔を作った。まだぎこちなさはあるけれど、心からの感謝が生んだ笑顔だ。
「あ、リムネラさんが笑った」
さくらがどこか嬉しそうに笑う。笑顔というのは伝染るもので、気づけばその場にいる誰もの顔が笑顔に変わっていた。
「うんうん、リムネラちゃんには笑顔が一番似合うわ」
カミーユも頷く。
ひとりで抱え込みすぎても周囲を不安にするだけなら、頼ってくれても良いのだと、彼はそう言った。事実、そうなのだから。
●
「ほら、こんな余興も見て、少しは気分転換になるといいんだけど」
美華が取り出したのはトランプで、それを用いた簡単なマジックを披露する。虚空からぽんと花を一輪取り出してみせれば、リムネラはそれをまじまじと見つめていて、驚きを隠せないようだった。
「こうやってワイワイするのも、楽しいわね」
めったにないティーパーティとあって、誰も彼もが楽しそう。塞ぎがちなリムネラのために開かれたものだが、その当人もずいぶん自然な笑顔を浮かべるようになっていた。
と、何かを思い出したかのように、ジョナサンがそっぽを向きながら何事かを言う。
「あー……一応、君よリは十年くらい長く生きてきた、その経験も踏まえてのアドバイスなんだがね。どれだけ悩もうが考えようが、ひとりでできることなんてたかが知れてる。だから、君は周りを頼るべきだし、見ての通りに君を喜んで手伝おうって人もたくさんいる」
そこでこの自称(悪の)天才はくるりとリムネラの方を向いて、そして年長者らしい余裕のある笑顔を浮かべた。
「それに、ここは忘れちゃいけないところなんだが……、君の味方には、天才もいるからね」
その言葉には思わず誰もが顔を見合わせて、そしてくすりと笑った。
●
「……アリガトウ、皆サン。ワタシは、人に頼るコトをアマリ知らなかったノデ……皆サンのおカゲで、少し気持ちがラクにナリました。コレからも、よろしくオネガイしますネ」
夕方、リムネラは深く深く頭を下げる。
「ああ。前線は、俺達に任せて、信じてくれ」
レイスが微笑むと、ハンターたちも頷きあった。
リムネラはまだこれからもたくさん悩むことがあるだろう。それでも、ハンターは常に彼女の味方をしてくれる――それはなんとありがたいことか。
「デハ、ワタシは皆サンの無事を信じてイマス。戦いが終わったラ、また会いに来てクダサイネ♪」
ハンターたちはその言葉に頷いた。
彼女への一番の土産はきっと、それなのだろうから――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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よろず相談スレッド ジョナサン・キャラウェイ(ka1084) 人間(リアルブルー)|28才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/08/19 20:44:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/17 20:37:05 |