ゲスト
(ka0000)
【龍鉱】自称最強竜メチタ
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/07 19:00
- 完成日
- 2016/03/09 18:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
凍てついた空で2頭の竜が舞っている。
高度を速度に変えて追いすがる。
追う側が超高温のブレスを吐いて、降り続く雪を蒸発させ何も無い空間をつくる。
追われる竜が体を捻る。
少しの減速と引き替えの180度近い進路変更は見事としか表現しようが無い。
もっとも翼が小さく風を捉えることもできず、元の速度も遅いためドラッケンブレスの直撃を受けてしまう。
『何をするのです!』
くわーっ、と小さな口を大きく開けて抗議する竜種歪虚。
全身ほんのり焦げたこの竜の全長はせいぜい6メートル。
人類側にCAMまで登場した現在では、よくて中ボス最悪出落ち担当の大きさである。
『ソレハ、俺ノセリフダァ!!』
追っているのは16メートル級ドラゴンだ。
興奮のしすぎで発音も怪しく目も血走っている。
『貴様ガ最強ナドトイイ続ケタセイデ、俺ガ叱責ヲ』
『おやおやぁ? 俺様最強で世界ぜーんぶ滅ぼすぜいっ、な強欲が上司を気にするんですかー?』
丸っこいというより縦に潰れているというかデフォルメ型というか、とにかくそんな形の竜種が意地悪い声でからかっている。
『シネ』
大型竜種が半球状のブレスを吐き出す。
『熱っ!』
尻尾から尻まで焼かれて悲鳴をあげて、しかし6メートルの竜種は全く懲りていない。
『タダデ死ネルト思ウナ。極限ノ痛ミヲ与エテカラ』
16メートルの巨体を負のマテリアルが覆い尽くし、空間が軋みながら歪んでいく。
どう見ても絶望的な状況であるはずなのに丸っこい竜は心底呆れた風に鼻をならす。
『そういうのが駄目なんですよ』
ぱたぱた翼を上下させて加速する。
全力で飛んでいるのに決して速くは無い。
ブレスの範囲外に逃げられたのに気づき、16メートルが文字通りの全力で追う。
『逃ゲルカッ!』
小柄な竜はやれやれと器用に肩をすくめ、数分かけて追いつかれては炎で焼かれ、相手が攻撃のため止まった隙をついて逃げてはまた追いつかれを繰り返す。
数時間が経過した。
小さな竜は相変わらず元気だ。
鱗に無数の傷がついてはいるが、その下の皮膚や肉は既に再生を完了しかかっている。
対照的に大きな竜は息が乱れ、時折吐き出すは炎の頻度も威力も衰えていた。
『おやおやどうしましたー? おつかれでちゅかー?』
ウケケケと心底小馬鹿にした口調で語りかける。
大型竜は荒い息をつきブレスもまともに吐けない。
高度も下がっている。
水晶化した大木を何度かかすめて時折破壊して、今では地表から10メートル程度を行ったり来たりだ。
『えへ』
体同様丸っこい瞳が食欲一色に染まる。
朱っぽい口からよだれが一筋垂れて、下に広がる雪原に小さなシミをつけた。
『調理開始ー!』
進路が変わる。
弧を描いて16メートルの巨体の退路を断てる位置へ移動。
巨竜のブレスが届かない位置で口を大きく開き、ドラッケンブレスにしてはあまりにささやかな炎を打ち出した。
『コノ程度ッ』
『100発で美味しいもも肉焼けるかなっ、1000発で丸焼き出来るかなっ』
食材の怒りを気にもせず、丸っこい竜は距離を保って小さな炎を連射した。
巨竜はようやく気づいた。
ここまでおびき寄せたのは巨竜を食らうため。目的はもちろんその力を奪うため。
『美味しく焼けるのですっ!』
大きな竜は明るい声に恐れをなして逃走に移る。
疲れ果てた翼では速度は出せず、数時間かけて生きながら焼かれ、消滅の瞬間まで小さな口に囓られ続けることになる。
●自称最強竜メチタ
『やりすぎたのです』
けぷっとげっぷをする。
あれから何頭か食らって、なんと2センチも成長した!
『どうしましょうかねー』
今は北に戻れない。
何者かに手下を減らされたことに気づいた大物が怒り狂っているからだ。
『カム・ラディをつつけって命令も出てた気がするけど』
何か美味しい物があったりするのだろうか?
人間は肉が少なすぎて食欲がわかない。
馬は食いでがあるけど外れが多い。
『マテリアルが詰まってないと無駄足なのです』
食事と成長は欠かせない。
竜種の1頭として、獲物を狩ってもっともっと強くなりたい。
『王とか美味しそうだし……いけないまたよだれが』
唾液が溢れて胃が元気に活動する。
血と肉が力に変換されて数ミリ成長する。自称最強竜、中身は伸びしろだけは有り余っている竜は、今日も楽しく北の生活を満喫していた。
●カム・ラディ
「またあの竜ですよ」
双眼鏡をのぞき込んだまま、熟練の覚醒者が苦々しげに報告する。
本人は隠れているつもりらしい竜が一匹、雪で出来た丘の陰からこちらを観察している。
典型的歪虚の、生あるもの全否定する視線なら数ヶ月でも耐えられる自信がある。
しかし知性と食欲が両立した視線だと非常に疲れる。
すぐにでも打って出たいが出撃許可を求めるたびに却下されていた。
「持ち場を離れるなよ。大きくも無い竜を1つ討ったが遺跡を失うなんて馬鹿な展開になりかねないぞ」
舌を火傷するほど熱いカップを持って年上の同僚がやってくる。
「分かってはいますが」
双眼鏡を渡して短い休憩に入る。
「嫌な気配がするんですよ」
「考えすぎだと思うぞ。歪虚の戦闘力が大きさに比例するのは知っているだろう? 小さな体に化ける個体も何例か報告はされてるが」
あごでしゃくって6メートル級の竜を示す。精悍さは皆無で戦闘に向いているようには見えない。
「あんな間抜けな外見にわざわざ化けるか?」
こちらが気づいているのに気づいたのだろう。
丸っこい竜は偉そうに胸を反らしすぎ、ころりと一回転して雪の中に埋まった。
「っと、来やがったぞ。いい精度だ。嫌な気配的中だな」
双眼鏡を下ろす。
転んだ竜を踏み越えて、雪と同じ色の装備で固めたリザードマン集団がこちらに向かってくる。
「手隙のハンターは1隊出てくれ。そう、1隊だ。敵の増援がいつどんな規模で現れるか分からない。他の隊は警戒と休憩を続けてくれ」
後方にそう伝え、彼らは遺跡の出入り口を固め続けるのだった。
高度を速度に変えて追いすがる。
追う側が超高温のブレスを吐いて、降り続く雪を蒸発させ何も無い空間をつくる。
追われる竜が体を捻る。
少しの減速と引き替えの180度近い進路変更は見事としか表現しようが無い。
もっとも翼が小さく風を捉えることもできず、元の速度も遅いためドラッケンブレスの直撃を受けてしまう。
『何をするのです!』
くわーっ、と小さな口を大きく開けて抗議する竜種歪虚。
全身ほんのり焦げたこの竜の全長はせいぜい6メートル。
人類側にCAMまで登場した現在では、よくて中ボス最悪出落ち担当の大きさである。
『ソレハ、俺ノセリフダァ!!』
追っているのは16メートル級ドラゴンだ。
興奮のしすぎで発音も怪しく目も血走っている。
『貴様ガ最強ナドトイイ続ケタセイデ、俺ガ叱責ヲ』
『おやおやぁ? 俺様最強で世界ぜーんぶ滅ぼすぜいっ、な強欲が上司を気にするんですかー?』
丸っこいというより縦に潰れているというかデフォルメ型というか、とにかくそんな形の竜種が意地悪い声でからかっている。
『シネ』
大型竜種が半球状のブレスを吐き出す。
『熱っ!』
尻尾から尻まで焼かれて悲鳴をあげて、しかし6メートルの竜種は全く懲りていない。
『タダデ死ネルト思ウナ。極限ノ痛ミヲ与エテカラ』
16メートルの巨体を負のマテリアルが覆い尽くし、空間が軋みながら歪んでいく。
どう見ても絶望的な状況であるはずなのに丸っこい竜は心底呆れた風に鼻をならす。
『そういうのが駄目なんですよ』
ぱたぱた翼を上下させて加速する。
全力で飛んでいるのに決して速くは無い。
ブレスの範囲外に逃げられたのに気づき、16メートルが文字通りの全力で追う。
『逃ゲルカッ!』
小柄な竜はやれやれと器用に肩をすくめ、数分かけて追いつかれては炎で焼かれ、相手が攻撃のため止まった隙をついて逃げてはまた追いつかれを繰り返す。
数時間が経過した。
小さな竜は相変わらず元気だ。
鱗に無数の傷がついてはいるが、その下の皮膚や肉は既に再生を完了しかかっている。
対照的に大きな竜は息が乱れ、時折吐き出すは炎の頻度も威力も衰えていた。
『おやおやどうしましたー? おつかれでちゅかー?』
ウケケケと心底小馬鹿にした口調で語りかける。
大型竜は荒い息をつきブレスもまともに吐けない。
高度も下がっている。
水晶化した大木を何度かかすめて時折破壊して、今では地表から10メートル程度を行ったり来たりだ。
『えへ』
体同様丸っこい瞳が食欲一色に染まる。
朱っぽい口からよだれが一筋垂れて、下に広がる雪原に小さなシミをつけた。
『調理開始ー!』
進路が変わる。
弧を描いて16メートルの巨体の退路を断てる位置へ移動。
巨竜のブレスが届かない位置で口を大きく開き、ドラッケンブレスにしてはあまりにささやかな炎を打ち出した。
『コノ程度ッ』
『100発で美味しいもも肉焼けるかなっ、1000発で丸焼き出来るかなっ』
食材の怒りを気にもせず、丸っこい竜は距離を保って小さな炎を連射した。
巨竜はようやく気づいた。
ここまでおびき寄せたのは巨竜を食らうため。目的はもちろんその力を奪うため。
『美味しく焼けるのですっ!』
大きな竜は明るい声に恐れをなして逃走に移る。
疲れ果てた翼では速度は出せず、数時間かけて生きながら焼かれ、消滅の瞬間まで小さな口に囓られ続けることになる。
●自称最強竜メチタ
『やりすぎたのです』
けぷっとげっぷをする。
あれから何頭か食らって、なんと2センチも成長した!
『どうしましょうかねー』
今は北に戻れない。
何者かに手下を減らされたことに気づいた大物が怒り狂っているからだ。
『カム・ラディをつつけって命令も出てた気がするけど』
何か美味しい物があったりするのだろうか?
人間は肉が少なすぎて食欲がわかない。
馬は食いでがあるけど外れが多い。
『マテリアルが詰まってないと無駄足なのです』
食事と成長は欠かせない。
竜種の1頭として、獲物を狩ってもっともっと強くなりたい。
『王とか美味しそうだし……いけないまたよだれが』
唾液が溢れて胃が元気に活動する。
血と肉が力に変換されて数ミリ成長する。自称最強竜、中身は伸びしろだけは有り余っている竜は、今日も楽しく北の生活を満喫していた。
●カム・ラディ
「またあの竜ですよ」
双眼鏡をのぞき込んだまま、熟練の覚醒者が苦々しげに報告する。
本人は隠れているつもりらしい竜が一匹、雪で出来た丘の陰からこちらを観察している。
典型的歪虚の、生あるもの全否定する視線なら数ヶ月でも耐えられる自信がある。
しかし知性と食欲が両立した視線だと非常に疲れる。
すぐにでも打って出たいが出撃許可を求めるたびに却下されていた。
「持ち場を離れるなよ。大きくも無い竜を1つ討ったが遺跡を失うなんて馬鹿な展開になりかねないぞ」
舌を火傷するほど熱いカップを持って年上の同僚がやってくる。
「分かってはいますが」
双眼鏡を渡して短い休憩に入る。
「嫌な気配がするんですよ」
「考えすぎだと思うぞ。歪虚の戦闘力が大きさに比例するのは知っているだろう? 小さな体に化ける個体も何例か報告はされてるが」
あごでしゃくって6メートル級の竜を示す。精悍さは皆無で戦闘に向いているようには見えない。
「あんな間抜けな外見にわざわざ化けるか?」
こちらが気づいているのに気づいたのだろう。
丸っこい竜は偉そうに胸を反らしすぎ、ころりと一回転して雪の中に埋まった。
「っと、来やがったぞ。いい精度だ。嫌な気配的中だな」
双眼鏡を下ろす。
転んだ竜を踏み越えて、雪と同じ色の装備で固めたリザードマン集団がこちらに向かってくる。
「手隙のハンターは1隊出てくれ。そう、1隊だ。敵の増援がいつどんな規模で現れるか分からない。他の隊は警戒と休憩を続けてくれ」
後方にそう伝え、彼らは遺跡の出入り口を固め続けるのだった。
リプレイ本文
●鉄の暴風
太い骨で支えられた筋肉が硬く分厚い鱗で覆われている。
雑な造りの甲冑を着て、酷く扱い辛い大型ハンマーを構えているのに上体が揺れすらしない。
そんなリザードマンが20体。大戦力だ。
「へっ」
岩井崎 旭(ka0234)が不敵に笑う。
吸い込まれるような青毛の馬が、雪煙を置き去りにして20体に真正面から突っ込んだ。
歪虚に奢りは無い。
長年待ち焦がれた破壊を現実にするために、扱いにくさを考えれば十分に鋭くそして凄まじい力のこもった鉄槌を黒馬とその主に振り下ろす。
だが遅い。
旭の意を先取りして愛馬シーザーが速度そのままに向きを微修正。
前方と斜め左右から迫るハンマー5つをぎりぎりで回避する。
旭の腕に血とマテリアルが流れ込み太さを増す。長い分ハンマーよりも扱い辛いハルバードを振り上げ、敵軍に突っ込んだ瞬間腰から腕までの力を載せ振り切った。
先端部についた斧が重厚な鎧ごと中身を切り裂く。
硬いが細い柄が鎧の最も厚い部分を押しつぶして中身を肉と血のジュースに変える。
2体潰しても止まらない。
切っ先が3体目の腰を両断。柄の中央部が特に体格の良い歪虚をはね飛ばし、手元近くの柄が躱そうとしたリザードマンの首を押し潰して切断した。
シーザーが雪原で踏ん張り旭をサポートする。
恐ろしいことに銀斧黒柄の長柄武器は勢いを失わず、旭を迎撃するため密集したいた残る5体を射程に捉えていた。
『ッ』
リザードマンが前に倒れるように動いてハルバードを回避する。
うかつにも防御を選んだ歪虚はハンマーと鎧ごと肉塊に変えられたが、4体が回避に成功して安堵の息を吐く時間も惜しみ走り出す。
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は旭の得物よりほんの少しだけ扱いやすいハルバードを振るう。
リザードマンの胸から上が横回転を得て吹き飛び、横腹を脊椎まで達するまで押し込まれた同種が崩れ落ちる。
しかし百発百中には遠すぎる。
旭と同じく、直径十数メートルに達する攻撃範囲と引き替えに狙いが甘い。回避に成功した敵を含めれば半数近い数が生き残っている。
重装徒歩の鈍足と戦闘用馬の足の差で追撃は容易だ。
旭もレイも後退しつつ広大な攻撃範囲を活かして瞬く間に敵の数を減らしていく。
「まずいですね」
レイは口の中だけでつぶやき残存ハンマーリザード3体を討ちさらに半減させる。
彼から見て左、敵軍中央のハンマーリザードの一部がこちらに向きを変え、彼から見て正面、敵軍東側から軽装鎧に片手剣装備のリザードマンが飛び込んでくる。
これがレイに向かってくれば巧みな動きで翻弄することもできただろうが、歪虚達から見て強すぎるレイと旭には最低限の足止めのみ残し、ハンマーリザードの数倍の速度で一直線に南へ向かった。
●未知
「あの竜なんか変」
アリア(ka2394)は双眼鏡を覗き込んだまま小首をかしげた。
100を超えるリザードマンを率いるのは敵陣奥で胸を張る6メートル級竜種歪虚、だと最初は思っていた。
実際に見てみるとリザードマンにほぼ無視されている。
語りかける丸っこい竜種に対し、リザードマンにしては賢そうな個体が露骨に迷惑そうな雰囲気だ。
「観察は任せたヨ。接敵まで時間はあるしネ」
フォークス(ka0570)とアリアがいるのは敵の真正面だ。
敵の中央最前列は足の遅いハンマーリザードマン。
アリアは徒歩でフォークスも限界まで下がっているので白兵戦が開始まで時間がある。
フォークスは雪原へスナイパーライフルの設置を終えると慎重に狙いをつけ、敵弓兵の中で最も良い装備を持つ1体を狙った。
「こうかナ」
引き金に触れる。
体の一部同然といえるほど慣れてはいないが必要十分には習熟している。
微かな振動を残して銃弾が放たれ、100メートルと少しの距離を飛んでリザードマンの胸に風穴を開けた。
引き絞った弓が転げ落ちて矢が明後日の方向に放たれる。
弓兵の生き残り39体が動揺し始める。
まずは倒れて消えた精鋭弓兵の左右の歪虚がスナイパーライフルの長射程と大威力に目を剥いて、その隣の歪虚達も順々に気づいては現状を認識しきれず混乱が拡大していく。
「あれ?」
アリアの双眼鏡の向きが高速で動いている。
敵前衛との距離はまだある。敵弓兵の動揺も見える。そして、敵陣奥で妙なポーズのまま固まった竜種に気づく。
「何か言ってる?」
いまのなにっ!? え? 人間の儀式魔法? という内容の言葉を身振り手振りと翼の動きを交えて口にして格下にうざがられていた。
「行動は変でも動きが鋭い。雪崩を起こすのは無理でも高速飛行可能、かな」
竜種の近くにいた精鋭リザードマンが移動を開始する。
歪虚がみるみる討たれていく戦場東側へ救援に向かうつもりらしい。
竜種は見送りながら肩をすくめ、ばっさばっさと自分でも擬音を口にしてゆっくりこちらに向かってきた。
銃声。竜種歪虚メチタの鼻に着弾し火花発生。激しくきりもみして雪原に頭から突っ込み雪煙に消えた。
「フェアにやり合うつもりはないヨ。……復活まで1分かネ」
フォークスは両手で抱え上げたスナイパーライフルを雪原に戻す。
焦ったリザードマン弓兵が微速前進を開始。
フォークスは再装填をスキルで行い稼いだ時間で後退する。
戦場は、剣と斧と弓が入り乱れる混戦に移行しようとしていた。
●抗戦
銃声が連続する。
不動シオン(ka5395)はライフルではなく拳銃を両手で構え、殺到するリザードマン隊に対し弾を浴びせた。
シオンにやや劣る体格の歪虚に穴が胸に開き、拳銃弾らしくない大威力で中身が破壊され反対側か吹き出した。
「悪くない」
薄皮一枚下に激烈な闘争心を感じさせる冷たい表情で、シオンは存在を打ち砕いた手応えを満喫する。
即座に再射撃。
今度は大柄の歪虚に当たり、剣の端を砕いて腕を貫通するにとどまる。
戦槍「ボロフグイ」が美しい円を描く。
ラウンドスウィングにしては狙いが鋭く、速度がある分装甲が薄いリザードマンを次々に切り裂きあるいは叩き伏せ雪原に打ち倒す。
軽装リザードマン20のうち3割が一瞬で消滅。
対するハンター側は無傷で圧倒的に有利に見える。
リューリ・ハルマ(ka0502)は引きつりそうになる口元を意識していつも通りに動かし、雄叫びと共に突き出された剣4本を軽く躱した。
振り切った槍を片手で保持して利き腕の拳で2連撃。
最も近くにいた歪虚が一度は回避し追撃の一打を浴び血を吐き、痙攣した。
敵の残りは13。
うち3体はリューリに向かい、2体はシオンが受け持ってくれている。
だが残る8体は何か恐ろしいものに追い立てられるような動きで南を目指す。
「戦わずに私を手こずらせるか。不愉快だ」
シオンが雪原を蹴って加速する。
前傾姿勢でMURAMASAを鞘から抜き、微かに振動する刃をリザードマンの脇腹に、そしてその斜め横の同種の腹に滑らせる。
血と臓物が零れ白い雪を赤黒く染める。
シオンは負の気配が薄れるのを感じ、反転して南へ向かう歪虚を追った。
だが追いつけない。
共に全速で駆けれるなら基本的な移動力がものをいうのだ。
風が舞った。
熟練ハンターでもイニシャライザー無しでは活動困難な土地に、強烈な冷気が生じて吹き荒れる。
リザードマンの鱗が凍り付く。
脂肪と血液の温度が急降下し前のめりに倒れ、数秒の後頭頂から尻尾まで薄れて消えていく。
1体2体ではなく実に4体が凍り付いて絶命していた。
「結果論じゃがスキル選択をしくじったかのうぅ」
遺跡の窮地を救ったヴィルマ・ネーベル(ka2549)がため息をついていた。
両の瞳に浮かぶ青い光も今は鈍い。
「それ」
ブリザードを再起動する。
切れ味鋭い冷気がリザードマンに迫りはしたが、どうやら術の性質を見抜かれていたようで歪虚は散会し被害を1体に抑える。
ヴィルマが追撃を仕掛けるかどうか一瞬にも満たない間迷った直後、つま先数センチ先に見慣れぬ矢が尽き立った。
「すまないが私の得物は防御にあまり向いていないのでね」
老練な精神を外見幼女な体に搭載したドワーフが、自身の身長の数割増しの大鎌を慣れた手つきで振るう。
10単位で飛来する矢の中から直撃コースの矢を捉え、3つ連なる刃で打ち落としあるいは切り捨てる。
「敵接近!」
戦場中央の歪虚がとうとう到着。アリアも必死の防戦を開始する。
リューリは大きな息を一つ吐く。複数の負の気配が南に離れていく。
あの程度なら遺跡の守備戦力だけで防御可能だ。今はこれ以上歪虚を南に行かせないことに専念するしかない。
3つの剣がリューリに迫る。
うち1つは巧みに動いて南に抜けるチャンスを狙っているようだ。
「ここは通さないし」
その動きを見逃さず、剣を避ける動きから拳による一撃に繋げる。
リザードマンが倒れて雪に埋もれ、しかし消滅しないことに気づいたリューリによって止めを刺された。
「死んだ真似も許さないよ!」
ハンターも歪虚も、戦意と戦力を保ったまま激しくぶつかりあっていた。
魔導バイクのエンジンをかけたままHolmes(ka3813)が敵勢を待ち構えている。
空からは一度に30近い矢が飛来し、地上からは10を越える強力なリザードマンが迫る。
1対1なら蹴散らせる相手でも数が多ければ話は別だ。
累計数百の矢を浴びた結果、比較的装甲が薄い腕部に2本の矢が深く刺さってしまっていた。
「ふふ」
西側は体勢の立て直しに精一杯、打撃力と速度を兼ね備えた東側は歪虚予備戦力に時間稼ぎされ、中央は濃密な援護射撃の元重装歩兵リザードマンが間近まで迫る。
「良いね、やはり戦場というのはわくわくするよ」
「これはまた、大勢の客じゃのぅ」
ヴィルマが白い息を吐き杖を振る。冷気が敵最前列の足下に集中し爆発。重装甲をものともせず内部を凍らせた。
なのにまだ動く。
下がっても上司に殺され留まってもハンターに滅ぼされるなら一歩でも前に進む。
体の一部が薄れかけているのにそれでもまだ進む。
「通すわけにはいかないのじゃが」
雷を撃つ。
ブリザードは既に品切れだ。雷の直線的な攻撃では全部に当てることは不可能。
そしてようやく重装備リザードマンがHolmesの間合いに到達した。
「こんな雪道だ、そう急ぐ事もないだろう?」
事前に仕掛けていたリジェネーションが発動継続。肉が再生しながら矢を腕から押し出す。
「ご馳走するよ。楽しんでくれたまえ」
大鎌を大きく回して重装リザードマン部隊に振るう。
同じく事前に込めていたマテリアルが旋回する大鎌の精度と威力を押し上げ、並の達人程度では制御困難な大振りを実用的な命中率に辿り着かせた。
甲冑がひしゃげ、砕け、変形して中身が骨片と肉と内臓のミックスジュースとなりこぼれる。
「すまないねヴィルマ君」
Holmesの意思に関係無く腕が震えている。直りきらない矢傷のせいだ。
「なに、お互い様じゃ」
小柄なドワーフが防いでくれなければ矢が5、6本当たったとしてもおかしくなかった。
ヴィルマはHolmesに庇われ、しぶとく前に進もうとする歪虚を確実に雷で焼いていった。
●決着
しぶとく前進する敵前衛とその増援を旭達が後退しながら壊滅させた。そして戦場中央に舞い戻り、射撃戦を行うリザードマン弓兵隊に側面から突入した。
「よくここまで耐えた。さて、最期に貴様らの執念とやらを見せてもらおう」
反対側からも、双眼を赤く光らせたシオンが攻める。
刀も銃も絶大というほどの威力はない。だが弓と矢しか持っていない歪虚相手なら十分過ぎる。
「後ろにいたアイツはどこにいる?」
側面から飛びかかる弓兵を切り捨て、目の前のリザードマンに銃を突きつけ冷たく問う。
返事は期待していない。必死に思考を巡らす歪虚に止めを刺し、レイ達に推されて押されて押し寄せる敵を防ぐ。
『人類の生き残りの上から8人大集合なのです?』
竜種歪虚は雪原を泳ぐように這っていた。
正直訳が分からない。こんな美味しそう……じゃなくて切り札級の覚醒者を最前線に注ぎ込むほど人類は戦力豊富? それともただの自暴自棄?
『まーどっちでもやるこたー変わらないの、ですっ』
雪の中から跳ね起きる。
狙うのは支援のためやむなく前に出ていた唯一の術者、ヴィルマだ。
大口を開けヴィルマ目がけて降下。歪虚メチタは捕食による急成長を確信していた。
「来ると思って」
アリアが隠の徒を解除する。
突然現れたように見えるアリアに気づいても、個人的な勝利を確信したメチタはすぐに思考を切り替えられない。
「いました」
アリアが銀の鞭を伸ばす。
メチタの片翼に当たってくるりと巻き付いて、本来なら半分は避けるはずの動きを大いに鈍らせる。
「獲物はそっちです!」
全長6メートル級、幅が広いのを考慮に入れればさらに強いはずの竜種にランアウトで急接近。アリアは紫電を纏う苦無を無防備な竜翼に命中させた。
丸っこい巨体がバランスを崩す。ヴィルマの手前数メートルに不時着して苦痛の悲鳴をあげた。
「お初にお目にかかります」
ハルバードを手にレイが登場する。
「あの、大変申し上げ辛いのですが」
『契約者な契約はノーなので……』
交渉と受け取るメチタは間違っている。
「その肉、少し分けていただけたりは? ぜひ、当家の食卓に……いえ、尾だけでも」
レイの言葉は相談でも提案でもなく宣言。
肉を獲らせろ。ついでに命も置いていけということだ。
『うひゃっ』
ハルバードが丸っこい竜種の脇を抉る。
鱗が9割、脂肪1割で肉が微量だ。
『みみ見逃してやってもいいのでっ』
遠くから重い銃声が連続する。
メチタが必死に転がり続けても痛みが連続する。
「何れにせよ、此処は堅牢、です。獲物をお探しでしたら何処かへいかれては」
『言行が一致してないたたたっ』
痛みの正体にようやく気づく。目の前の洒落男の攻撃ではなく遠く離れた場所で鉄塊を構えた女の仕業だ!
『ふ、ふふふのふ。わたしがいつまでもやられっぱなしだと』
虚勢7割本音3割で出任せを垂れ流しつつ負のマテリアルを集中させたちょうどそのとき、そっと近づいたアリアがメチタの鼻の穴に刃を突き刺した。
『ぎにゃー!』
「弱い犬ほどよく咆えるって、実例?」
アリアが可愛らしく小首をかしげる。相手の心を大破させるに足る挑発だった。
『お、覚えているのです痛っ』
メチタは翼を激しく動かす。雪原をバタフライで泳ぎ、馬を上回る速度に到達しゆっくりと上昇していく。
「敵残存戦力が射程外に離脱。終了だネ」
熱くなったライフルを下ろし、フォークスは火をつけていない煙草をくわえた。
人食いに失敗した竜が北に向かって飛んでいく。
リューリが試しに手を振ると、メチタは脳天気に応えようとしてバランスを崩していた。
太い骨で支えられた筋肉が硬く分厚い鱗で覆われている。
雑な造りの甲冑を着て、酷く扱い辛い大型ハンマーを構えているのに上体が揺れすらしない。
そんなリザードマンが20体。大戦力だ。
「へっ」
岩井崎 旭(ka0234)が不敵に笑う。
吸い込まれるような青毛の馬が、雪煙を置き去りにして20体に真正面から突っ込んだ。
歪虚に奢りは無い。
長年待ち焦がれた破壊を現実にするために、扱いにくさを考えれば十分に鋭くそして凄まじい力のこもった鉄槌を黒馬とその主に振り下ろす。
だが遅い。
旭の意を先取りして愛馬シーザーが速度そのままに向きを微修正。
前方と斜め左右から迫るハンマー5つをぎりぎりで回避する。
旭の腕に血とマテリアルが流れ込み太さを増す。長い分ハンマーよりも扱い辛いハルバードを振り上げ、敵軍に突っ込んだ瞬間腰から腕までの力を載せ振り切った。
先端部についた斧が重厚な鎧ごと中身を切り裂く。
硬いが細い柄が鎧の最も厚い部分を押しつぶして中身を肉と血のジュースに変える。
2体潰しても止まらない。
切っ先が3体目の腰を両断。柄の中央部が特に体格の良い歪虚をはね飛ばし、手元近くの柄が躱そうとしたリザードマンの首を押し潰して切断した。
シーザーが雪原で踏ん張り旭をサポートする。
恐ろしいことに銀斧黒柄の長柄武器は勢いを失わず、旭を迎撃するため密集したいた残る5体を射程に捉えていた。
『ッ』
リザードマンが前に倒れるように動いてハルバードを回避する。
うかつにも防御を選んだ歪虚はハンマーと鎧ごと肉塊に変えられたが、4体が回避に成功して安堵の息を吐く時間も惜しみ走り出す。
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は旭の得物よりほんの少しだけ扱いやすいハルバードを振るう。
リザードマンの胸から上が横回転を得て吹き飛び、横腹を脊椎まで達するまで押し込まれた同種が崩れ落ちる。
しかし百発百中には遠すぎる。
旭と同じく、直径十数メートルに達する攻撃範囲と引き替えに狙いが甘い。回避に成功した敵を含めれば半数近い数が生き残っている。
重装徒歩の鈍足と戦闘用馬の足の差で追撃は容易だ。
旭もレイも後退しつつ広大な攻撃範囲を活かして瞬く間に敵の数を減らしていく。
「まずいですね」
レイは口の中だけでつぶやき残存ハンマーリザード3体を討ちさらに半減させる。
彼から見て左、敵軍中央のハンマーリザードの一部がこちらに向きを変え、彼から見て正面、敵軍東側から軽装鎧に片手剣装備のリザードマンが飛び込んでくる。
これがレイに向かってくれば巧みな動きで翻弄することもできただろうが、歪虚達から見て強すぎるレイと旭には最低限の足止めのみ残し、ハンマーリザードの数倍の速度で一直線に南へ向かった。
●未知
「あの竜なんか変」
アリア(ka2394)は双眼鏡を覗き込んだまま小首をかしげた。
100を超えるリザードマンを率いるのは敵陣奥で胸を張る6メートル級竜種歪虚、だと最初は思っていた。
実際に見てみるとリザードマンにほぼ無視されている。
語りかける丸っこい竜種に対し、リザードマンにしては賢そうな個体が露骨に迷惑そうな雰囲気だ。
「観察は任せたヨ。接敵まで時間はあるしネ」
フォークス(ka0570)とアリアがいるのは敵の真正面だ。
敵の中央最前列は足の遅いハンマーリザードマン。
アリアは徒歩でフォークスも限界まで下がっているので白兵戦が開始まで時間がある。
フォークスは雪原へスナイパーライフルの設置を終えると慎重に狙いをつけ、敵弓兵の中で最も良い装備を持つ1体を狙った。
「こうかナ」
引き金に触れる。
体の一部同然といえるほど慣れてはいないが必要十分には習熟している。
微かな振動を残して銃弾が放たれ、100メートルと少しの距離を飛んでリザードマンの胸に風穴を開けた。
引き絞った弓が転げ落ちて矢が明後日の方向に放たれる。
弓兵の生き残り39体が動揺し始める。
まずは倒れて消えた精鋭弓兵の左右の歪虚がスナイパーライフルの長射程と大威力に目を剥いて、その隣の歪虚達も順々に気づいては現状を認識しきれず混乱が拡大していく。
「あれ?」
アリアの双眼鏡の向きが高速で動いている。
敵前衛との距離はまだある。敵弓兵の動揺も見える。そして、敵陣奥で妙なポーズのまま固まった竜種に気づく。
「何か言ってる?」
いまのなにっ!? え? 人間の儀式魔法? という内容の言葉を身振り手振りと翼の動きを交えて口にして格下にうざがられていた。
「行動は変でも動きが鋭い。雪崩を起こすのは無理でも高速飛行可能、かな」
竜種の近くにいた精鋭リザードマンが移動を開始する。
歪虚がみるみる討たれていく戦場東側へ救援に向かうつもりらしい。
竜種は見送りながら肩をすくめ、ばっさばっさと自分でも擬音を口にしてゆっくりこちらに向かってきた。
銃声。竜種歪虚メチタの鼻に着弾し火花発生。激しくきりもみして雪原に頭から突っ込み雪煙に消えた。
「フェアにやり合うつもりはないヨ。……復活まで1分かネ」
フォークスは両手で抱え上げたスナイパーライフルを雪原に戻す。
焦ったリザードマン弓兵が微速前進を開始。
フォークスは再装填をスキルで行い稼いだ時間で後退する。
戦場は、剣と斧と弓が入り乱れる混戦に移行しようとしていた。
●抗戦
銃声が連続する。
不動シオン(ka5395)はライフルではなく拳銃を両手で構え、殺到するリザードマン隊に対し弾を浴びせた。
シオンにやや劣る体格の歪虚に穴が胸に開き、拳銃弾らしくない大威力で中身が破壊され反対側か吹き出した。
「悪くない」
薄皮一枚下に激烈な闘争心を感じさせる冷たい表情で、シオンは存在を打ち砕いた手応えを満喫する。
即座に再射撃。
今度は大柄の歪虚に当たり、剣の端を砕いて腕を貫通するにとどまる。
戦槍「ボロフグイ」が美しい円を描く。
ラウンドスウィングにしては狙いが鋭く、速度がある分装甲が薄いリザードマンを次々に切り裂きあるいは叩き伏せ雪原に打ち倒す。
軽装リザードマン20のうち3割が一瞬で消滅。
対するハンター側は無傷で圧倒的に有利に見える。
リューリ・ハルマ(ka0502)は引きつりそうになる口元を意識していつも通りに動かし、雄叫びと共に突き出された剣4本を軽く躱した。
振り切った槍を片手で保持して利き腕の拳で2連撃。
最も近くにいた歪虚が一度は回避し追撃の一打を浴び血を吐き、痙攣した。
敵の残りは13。
うち3体はリューリに向かい、2体はシオンが受け持ってくれている。
だが残る8体は何か恐ろしいものに追い立てられるような動きで南を目指す。
「戦わずに私を手こずらせるか。不愉快だ」
シオンが雪原を蹴って加速する。
前傾姿勢でMURAMASAを鞘から抜き、微かに振動する刃をリザードマンの脇腹に、そしてその斜め横の同種の腹に滑らせる。
血と臓物が零れ白い雪を赤黒く染める。
シオンは負の気配が薄れるのを感じ、反転して南へ向かう歪虚を追った。
だが追いつけない。
共に全速で駆けれるなら基本的な移動力がものをいうのだ。
風が舞った。
熟練ハンターでもイニシャライザー無しでは活動困難な土地に、強烈な冷気が生じて吹き荒れる。
リザードマンの鱗が凍り付く。
脂肪と血液の温度が急降下し前のめりに倒れ、数秒の後頭頂から尻尾まで薄れて消えていく。
1体2体ではなく実に4体が凍り付いて絶命していた。
「結果論じゃがスキル選択をしくじったかのうぅ」
遺跡の窮地を救ったヴィルマ・ネーベル(ka2549)がため息をついていた。
両の瞳に浮かぶ青い光も今は鈍い。
「それ」
ブリザードを再起動する。
切れ味鋭い冷気がリザードマンに迫りはしたが、どうやら術の性質を見抜かれていたようで歪虚は散会し被害を1体に抑える。
ヴィルマが追撃を仕掛けるかどうか一瞬にも満たない間迷った直後、つま先数センチ先に見慣れぬ矢が尽き立った。
「すまないが私の得物は防御にあまり向いていないのでね」
老練な精神を外見幼女な体に搭載したドワーフが、自身の身長の数割増しの大鎌を慣れた手つきで振るう。
10単位で飛来する矢の中から直撃コースの矢を捉え、3つ連なる刃で打ち落としあるいは切り捨てる。
「敵接近!」
戦場中央の歪虚がとうとう到着。アリアも必死の防戦を開始する。
リューリは大きな息を一つ吐く。複数の負の気配が南に離れていく。
あの程度なら遺跡の守備戦力だけで防御可能だ。今はこれ以上歪虚を南に行かせないことに専念するしかない。
3つの剣がリューリに迫る。
うち1つは巧みに動いて南に抜けるチャンスを狙っているようだ。
「ここは通さないし」
その動きを見逃さず、剣を避ける動きから拳による一撃に繋げる。
リザードマンが倒れて雪に埋もれ、しかし消滅しないことに気づいたリューリによって止めを刺された。
「死んだ真似も許さないよ!」
ハンターも歪虚も、戦意と戦力を保ったまま激しくぶつかりあっていた。
魔導バイクのエンジンをかけたままHolmes(ka3813)が敵勢を待ち構えている。
空からは一度に30近い矢が飛来し、地上からは10を越える強力なリザードマンが迫る。
1対1なら蹴散らせる相手でも数が多ければ話は別だ。
累計数百の矢を浴びた結果、比較的装甲が薄い腕部に2本の矢が深く刺さってしまっていた。
「ふふ」
西側は体勢の立て直しに精一杯、打撃力と速度を兼ね備えた東側は歪虚予備戦力に時間稼ぎされ、中央は濃密な援護射撃の元重装歩兵リザードマンが間近まで迫る。
「良いね、やはり戦場というのはわくわくするよ」
「これはまた、大勢の客じゃのぅ」
ヴィルマが白い息を吐き杖を振る。冷気が敵最前列の足下に集中し爆発。重装甲をものともせず内部を凍らせた。
なのにまだ動く。
下がっても上司に殺され留まってもハンターに滅ぼされるなら一歩でも前に進む。
体の一部が薄れかけているのにそれでもまだ進む。
「通すわけにはいかないのじゃが」
雷を撃つ。
ブリザードは既に品切れだ。雷の直線的な攻撃では全部に当てることは不可能。
そしてようやく重装備リザードマンがHolmesの間合いに到達した。
「こんな雪道だ、そう急ぐ事もないだろう?」
事前に仕掛けていたリジェネーションが発動継続。肉が再生しながら矢を腕から押し出す。
「ご馳走するよ。楽しんでくれたまえ」
大鎌を大きく回して重装リザードマン部隊に振るう。
同じく事前に込めていたマテリアルが旋回する大鎌の精度と威力を押し上げ、並の達人程度では制御困難な大振りを実用的な命中率に辿り着かせた。
甲冑がひしゃげ、砕け、変形して中身が骨片と肉と内臓のミックスジュースとなりこぼれる。
「すまないねヴィルマ君」
Holmesの意思に関係無く腕が震えている。直りきらない矢傷のせいだ。
「なに、お互い様じゃ」
小柄なドワーフが防いでくれなければ矢が5、6本当たったとしてもおかしくなかった。
ヴィルマはHolmesに庇われ、しぶとく前に進もうとする歪虚を確実に雷で焼いていった。
●決着
しぶとく前進する敵前衛とその増援を旭達が後退しながら壊滅させた。そして戦場中央に舞い戻り、射撃戦を行うリザードマン弓兵隊に側面から突入した。
「よくここまで耐えた。さて、最期に貴様らの執念とやらを見せてもらおう」
反対側からも、双眼を赤く光らせたシオンが攻める。
刀も銃も絶大というほどの威力はない。だが弓と矢しか持っていない歪虚相手なら十分過ぎる。
「後ろにいたアイツはどこにいる?」
側面から飛びかかる弓兵を切り捨て、目の前のリザードマンに銃を突きつけ冷たく問う。
返事は期待していない。必死に思考を巡らす歪虚に止めを刺し、レイ達に推されて押されて押し寄せる敵を防ぐ。
『人類の生き残りの上から8人大集合なのです?』
竜種歪虚は雪原を泳ぐように這っていた。
正直訳が分からない。こんな美味しそう……じゃなくて切り札級の覚醒者を最前線に注ぎ込むほど人類は戦力豊富? それともただの自暴自棄?
『まーどっちでもやるこたー変わらないの、ですっ』
雪の中から跳ね起きる。
狙うのは支援のためやむなく前に出ていた唯一の術者、ヴィルマだ。
大口を開けヴィルマ目がけて降下。歪虚メチタは捕食による急成長を確信していた。
「来ると思って」
アリアが隠の徒を解除する。
突然現れたように見えるアリアに気づいても、個人的な勝利を確信したメチタはすぐに思考を切り替えられない。
「いました」
アリアが銀の鞭を伸ばす。
メチタの片翼に当たってくるりと巻き付いて、本来なら半分は避けるはずの動きを大いに鈍らせる。
「獲物はそっちです!」
全長6メートル級、幅が広いのを考慮に入れればさらに強いはずの竜種にランアウトで急接近。アリアは紫電を纏う苦無を無防備な竜翼に命中させた。
丸っこい巨体がバランスを崩す。ヴィルマの手前数メートルに不時着して苦痛の悲鳴をあげた。
「お初にお目にかかります」
ハルバードを手にレイが登場する。
「あの、大変申し上げ辛いのですが」
『契約者な契約はノーなので……』
交渉と受け取るメチタは間違っている。
「その肉、少し分けていただけたりは? ぜひ、当家の食卓に……いえ、尾だけでも」
レイの言葉は相談でも提案でもなく宣言。
肉を獲らせろ。ついでに命も置いていけということだ。
『うひゃっ』
ハルバードが丸っこい竜種の脇を抉る。
鱗が9割、脂肪1割で肉が微量だ。
『みみ見逃してやってもいいのでっ』
遠くから重い銃声が連続する。
メチタが必死に転がり続けても痛みが連続する。
「何れにせよ、此処は堅牢、です。獲物をお探しでしたら何処かへいかれては」
『言行が一致してないたたたっ』
痛みの正体にようやく気づく。目の前の洒落男の攻撃ではなく遠く離れた場所で鉄塊を構えた女の仕業だ!
『ふ、ふふふのふ。わたしがいつまでもやられっぱなしだと』
虚勢7割本音3割で出任せを垂れ流しつつ負のマテリアルを集中させたちょうどそのとき、そっと近づいたアリアがメチタの鼻の穴に刃を突き刺した。
『ぎにゃー!』
「弱い犬ほどよく咆えるって、実例?」
アリアが可愛らしく小首をかしげる。相手の心を大破させるに足る挑発だった。
『お、覚えているのです痛っ』
メチタは翼を激しく動かす。雪原をバタフライで泳ぎ、馬を上回る速度に到達しゆっくりと上昇していく。
「敵残存戦力が射程外に離脱。終了だネ」
熱くなったライフルを下ろし、フォークスは火をつけていない煙草をくわえた。
人食いに失敗した竜が北に向かって飛んでいく。
リューリが試しに手を振ると、メチタは脳天気に応えようとしてバランスを崩していた。
依頼結果
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【相談卓】Eat or die フォークス(ka0570) 人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/03/07 08:53:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/07 08:40:56 |