ゲスト
(ka0000)
【機創】人の役に立つために
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/06 19:00
- 完成日
- 2016/03/14 07:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●錬金術師組合・組合長室
帝都バルトアンデルス・錬金術師組合本部の組合長室でリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は、魔導トラックを駆って出発するハイデマリーの姿を見ていた。
彼女の義手である浄化ガントレッド“ナイチンゲール”。
これはエルフハイムの浄化術を組み込んだ義手で、ハイデマリーから乞われてリーゼロッテがつけた物だ。
当初は彼女の命を危惧して手術を躊躇ったものだが、不謹慎にも今では手術を行って良かったと思う。
「人の命で実験をし、それを良かったと思ってしまう……昔と何が変わらないのでしょうね……」
そう、自嘲気味に零して息を吐く。
今でこそ錬金術師組合の組合長と言う立場にいるが、こうなる前は現錬魔院院長のナサニエル・カロッサ(kz0028)と共に錬魔院にいた。
機導術を兵器として開発するのが主な目的の錬魔院では、人を使った実験が行われることもあった。
その度にリーゼロッテは、内に生まれる気持ちと葛藤してきたのだ。
錬金術は人のために使う技術。錬金術は人を傷つける技術ではない。錬金術は人を助ける技術――。
「……過去を悔やむことは出来ても戻すことは出来ませんね。今は私に出来ることをするだけ、ですよね」
そう言って、ハイデマリーが残した新型スペルデバイスに目を落とす。
彼女はこのデバイスを使って浄化術を基本とした新たな技術を生み出そうとしている。
汚染地域の浄化。それは錬金術師組合にとって願ってもない技術。この技術があれば今まで指摘されていた、錬金術を使うことで生まれる汚染が軽減されるかもしれないのだ。
「私のほうでも何か出来ないか調べてみましょうか」
リーゼロッテは顔を上げると、デバイスと共に残された義手の報告書に手を伸ばした。その時だ。
「先生、大変です!!」
突然扉が開かれ、助手のペリドが飛び込んできた。
「どうしたんです、そんなに慌てて」
「詳しい説明は移動しながらします! だから今は急いで!!」
ペリドはそう言うと、リーゼロッテの腕を引いて走り出した。
●錬金術師組合・医務室
「歪虚病……ですね」
リーゼロッテはそう言うと、ベッドに横になる帝国軍人の顔を見詰めた。
「……申し訳ありません。本来報告のみで、自分が倒れる訳にはいかなかったのですが……っ」
「そのまま横になっていてください。それよりも先ほどの話は本当ですか?」
無理に起き上がろうとする軍人を制し、リーゼロッテは神妙な面持ちで問いかけた。
彼女が最初に口にした『歪虚病』とは、負のマテリアルに汚染された状態を指す。
この軍人はリーゼロッテを見て言ったのだ。「汚染に苦しむ仲間がまだ現地にいる。助けて欲しい」と。
「自分は、ブラストエッジ鉱山で活動する軍人です……今回は汚染状況の確認がメインでしたが、調査を進めていくうちに具合が……」
「ペリド、彼等がキャンプを張った場所はわかりますか?」
「え? あ、はい。えっと……駐屯地とは離れた場所で……んと、どうも選んだ場所が悪かったみたいです?」
ペリドは慌てたようにそう言うと、ブラストエッジ鉱山近辺の地図を差し出した。そこに記された○が今回のキャンプ地らしい。
ブラストエッジ周辺はコボルド族との共存特区となっているが、鉱山中心は強力な汚染地域であり、その影響は周囲にまで及ぶ。
コボルド達は負のマテリアルへの耐性のお陰でのんびり暮らしているが、ブラストエッジ周辺にはかつて歪虚の基地が隠されていたこともあり、コボルドとの和平で周辺調査を始めた帝国兵の中には歪虚病……つまり負のマテリアルの影響による不調を訴える者も現れ始めていた。
「確かこの辺りは汚染が酷い場所です。他の方々はこのキャンプに?」
事前調査をしなかったかも確認したいが、今は責めるよりも改善を図ることが先だ。
もし現地に他の軍人もいるのだとしたら、彼等は今も高濃度の負のマテリアルに晒されていることになる。
「いえ、少し離れた場所へ……ただ動ける者が自分しかいなかったので……そう遠くへは運べていません……」
「わかりました。至急ハンターに声を掛け、彼等の救出に当たりましょう。あなたはゆっくり休んで歪虚病を治してください」
そう言って、リーゼロッテは依頼を出すべく立ち上がった。が、隣に立つペリドがその行動をさえぎる。
「ペリド? どうかしましたか?」
「あの、先生……ボク、考えていたんですけど。この歪虚病、機導術で治せませんか?」
「え?」
「はい。前に先生が見せてくれた浄化術の報告書ありましたよね? 確か浄化術は汚染を吸い取って正常化させる、でしたっけ? それならその浄化術を使って人体に充満した汚染物質を抜き取ることも出来るんじゃないかな、って……」
どうでしょう? そう見上げてくる視線に息を呑む。
「確かに浄化術は汚染を浄化する術があります。でもそれは、人体に汚染を吸収するという意味で……」
「覚醒者なら大丈夫って、ハイデマリーちゃんが言ってました。ボクも覚醒者だからきっと大丈夫です! 先生! ボクに試させてください! もしうまくいけばこの人も、汚染地域の人も元気になります! 機導術がみんなの役に立つんですよ!!」
機導術がみんなの役に立つ。この言葉にリーゼロッテの心が揺れた。
彼女はポケットにしまっておいた新型スペルデバイスを取り出すと、しばし考えるように沈黙を落とす。
(ペリドの言うように機導術が人の役に立つかもしれない。でもそのためには実験をしなければいけない……人の体を……ペリドを使って実証を? そんなこと――)
「先生、ボクなら大丈夫です!」
「大丈夫って……どこにそんな」
「ボクが浄化に失敗しても先生がそばにいるじゃないですか! それにやらなきゃ前には進めないですよ!」
先生がいてくれれば助けてくれる。そう笑顔で言った彼女にリーゼロッテの思考が止まった。
「私はあなたが思うほど凄くはないですよ……でも、そうですね。やらないと前に進まないですよね」
「はい! だからボクに任せてください!」
ペリドはそう言うと、リーゼロッテからデバイスを受け取った。
帝都バルトアンデルス・錬金術師組合本部の組合長室でリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)は、魔導トラックを駆って出発するハイデマリーの姿を見ていた。
彼女の義手である浄化ガントレッド“ナイチンゲール”。
これはエルフハイムの浄化術を組み込んだ義手で、ハイデマリーから乞われてリーゼロッテがつけた物だ。
当初は彼女の命を危惧して手術を躊躇ったものだが、不謹慎にも今では手術を行って良かったと思う。
「人の命で実験をし、それを良かったと思ってしまう……昔と何が変わらないのでしょうね……」
そう、自嘲気味に零して息を吐く。
今でこそ錬金術師組合の組合長と言う立場にいるが、こうなる前は現錬魔院院長のナサニエル・カロッサ(kz0028)と共に錬魔院にいた。
機導術を兵器として開発するのが主な目的の錬魔院では、人を使った実験が行われることもあった。
その度にリーゼロッテは、内に生まれる気持ちと葛藤してきたのだ。
錬金術は人のために使う技術。錬金術は人を傷つける技術ではない。錬金術は人を助ける技術――。
「……過去を悔やむことは出来ても戻すことは出来ませんね。今は私に出来ることをするだけ、ですよね」
そう言って、ハイデマリーが残した新型スペルデバイスに目を落とす。
彼女はこのデバイスを使って浄化術を基本とした新たな技術を生み出そうとしている。
汚染地域の浄化。それは錬金術師組合にとって願ってもない技術。この技術があれば今まで指摘されていた、錬金術を使うことで生まれる汚染が軽減されるかもしれないのだ。
「私のほうでも何か出来ないか調べてみましょうか」
リーゼロッテは顔を上げると、デバイスと共に残された義手の報告書に手を伸ばした。その時だ。
「先生、大変です!!」
突然扉が開かれ、助手のペリドが飛び込んできた。
「どうしたんです、そんなに慌てて」
「詳しい説明は移動しながらします! だから今は急いで!!」
ペリドはそう言うと、リーゼロッテの腕を引いて走り出した。
●錬金術師組合・医務室
「歪虚病……ですね」
リーゼロッテはそう言うと、ベッドに横になる帝国軍人の顔を見詰めた。
「……申し訳ありません。本来報告のみで、自分が倒れる訳にはいかなかったのですが……っ」
「そのまま横になっていてください。それよりも先ほどの話は本当ですか?」
無理に起き上がろうとする軍人を制し、リーゼロッテは神妙な面持ちで問いかけた。
彼女が最初に口にした『歪虚病』とは、負のマテリアルに汚染された状態を指す。
この軍人はリーゼロッテを見て言ったのだ。「汚染に苦しむ仲間がまだ現地にいる。助けて欲しい」と。
「自分は、ブラストエッジ鉱山で活動する軍人です……今回は汚染状況の確認がメインでしたが、調査を進めていくうちに具合が……」
「ペリド、彼等がキャンプを張った場所はわかりますか?」
「え? あ、はい。えっと……駐屯地とは離れた場所で……んと、どうも選んだ場所が悪かったみたいです?」
ペリドは慌てたようにそう言うと、ブラストエッジ鉱山近辺の地図を差し出した。そこに記された○が今回のキャンプ地らしい。
ブラストエッジ周辺はコボルド族との共存特区となっているが、鉱山中心は強力な汚染地域であり、その影響は周囲にまで及ぶ。
コボルド達は負のマテリアルへの耐性のお陰でのんびり暮らしているが、ブラストエッジ周辺にはかつて歪虚の基地が隠されていたこともあり、コボルドとの和平で周辺調査を始めた帝国兵の中には歪虚病……つまり負のマテリアルの影響による不調を訴える者も現れ始めていた。
「確かこの辺りは汚染が酷い場所です。他の方々はこのキャンプに?」
事前調査をしなかったかも確認したいが、今は責めるよりも改善を図ることが先だ。
もし現地に他の軍人もいるのだとしたら、彼等は今も高濃度の負のマテリアルに晒されていることになる。
「いえ、少し離れた場所へ……ただ動ける者が自分しかいなかったので……そう遠くへは運べていません……」
「わかりました。至急ハンターに声を掛け、彼等の救出に当たりましょう。あなたはゆっくり休んで歪虚病を治してください」
そう言って、リーゼロッテは依頼を出すべく立ち上がった。が、隣に立つペリドがその行動をさえぎる。
「ペリド? どうかしましたか?」
「あの、先生……ボク、考えていたんですけど。この歪虚病、機導術で治せませんか?」
「え?」
「はい。前に先生が見せてくれた浄化術の報告書ありましたよね? 確か浄化術は汚染を吸い取って正常化させる、でしたっけ? それならその浄化術を使って人体に充満した汚染物質を抜き取ることも出来るんじゃないかな、って……」
どうでしょう? そう見上げてくる視線に息を呑む。
「確かに浄化術は汚染を浄化する術があります。でもそれは、人体に汚染を吸収するという意味で……」
「覚醒者なら大丈夫って、ハイデマリーちゃんが言ってました。ボクも覚醒者だからきっと大丈夫です! 先生! ボクに試させてください! もしうまくいけばこの人も、汚染地域の人も元気になります! 機導術がみんなの役に立つんですよ!!」
機導術がみんなの役に立つ。この言葉にリーゼロッテの心が揺れた。
彼女はポケットにしまっておいた新型スペルデバイスを取り出すと、しばし考えるように沈黙を落とす。
(ペリドの言うように機導術が人の役に立つかもしれない。でもそのためには実験をしなければいけない……人の体を……ペリドを使って実証を? そんなこと――)
「先生、ボクなら大丈夫です!」
「大丈夫って……どこにそんな」
「ボクが浄化に失敗しても先生がそばにいるじゃないですか! それにやらなきゃ前には進めないですよ!」
先生がいてくれれば助けてくれる。そう笑顔で言った彼女にリーゼロッテの思考が止まった。
「私はあなたが思うほど凄くはないですよ……でも、そうですね。やらないと前に進まないですよね」
「はい! だからボクに任せてください!」
ペリドはそう言うと、リーゼロッテからデバイスを受け取った。
リプレイ本文
ガタガタと揺れる魔導トラック。その荷台で目的地を目指す天竜寺 詩(ka0396)は、胸の前で組んだ手をそのままに視線を前へ飛ばした。
「嫌な風……」
目に見えてきた景色はお世辞にも綺麗とは言えない。不浄の空気が近付くだけで肌を冷たくするような、そんな気配に彼女の眉が顰められた。
「この先に助けを待っている人達がいるんだよね。私は浄化の術を使えないけど困ってる人達を無事助けられるようしっかりお手伝いするよ……!」
詩はそう言うと、同じように眉を顰めるペリドを見た。そこにミカ・コバライネン(ka0340)の声が聞こえてくる。
「目的地に着いたら3手に分かれよう。クリューガーさんも付いて行った方が良いとは思うが」
「そうですね。汚染状況の確認をしたいので同行させて頂きます」
問いにそう答えてリーゼロッテは少しだけ不自然な笑みを見せた。これに守原 有希遥(ka4729)が声を潜める。
「汚染地域外とはいえ体への負担がありますか?」
ここにいる能力者と違いリーゼロッテは一般人だ。身体への影響は能力者である彼等にはわからない。だからこその問いだったのだが。
「いえ、大丈夫です」
「無理はしないほうが良いよ。折角良いスキルが出来ても、リーゼロッテさん自身が歪虚病に感染したら元も子もないんだし」
メル・アイザックス(ka0520)はそう言って彼女の顔を心配そうに覗き込む。
今回は歪虚病に感染した軍人を助けるのが任務だ。新スキル『浄化回復術(仮)』を使って状態異常を治すのが目的になっている。
「待望の技術だ、大勢助かるのは間違いない……が、汚染環境での作戦が増え戦死者は減らず、かね」
人を助けるための技術だと言うのはわかっているが、実際にそれを行使する時には当然危険が付きまとう。
それを思ってつい漏れた声なのだが言ったところで詮無いことなのかもしれない。
「……儘ならないな」
「みんな、思うことがあるんだね……僕だって……」
皆の言葉を聞いていたキヅカ・リク(ka0038)はある少女のことを思い出し手を握り締めた。
「浄化術、か……これがあればラズビルナムも、王国との戦闘も大分楽になるはずなんだ。けれど、これの元はエルフハイム……ホリィの技術」
知り合いの少女――浄化の器はこの術を1人で使ってきた。
ペリドが浄化術を使ったときの様子を聞く限り、どれほどの苦しみがあり、どれほどの負担があるのか想像もつかない。
「――知らなきゃ」
そう覚悟を決めて顔を上げた時、トラックが止まった。
「さぁてこっからが本番だねぇ。今回はよろしくちゃーん」
コキッと肩を鳴らし、鵤(ka3319)がトラックを降りる。その手には錬金術師組合から渡された新型スペルデバイスを装着したルーンタブレットがあった。
彼はそれを満足げに見てポケットに入れると「さて」と周囲を見回した。
「あれ。そのタブレット何かと繋がってるんだね」
タブレットをポケットにしまった鵤の手元を覗き込んだメルの言う通り、鵤のタブレットはアルケミストデバイスと繋がっている。これは彼の目的達成の為に必要なものなのだが、
「ちょっちねー」
誤魔化すようにヘラリと笑って肩を竦める彼に、メルもそれ以上の突っ込む気はないらしい。
「それにしても本当に良いスキルだね。痛みを共有して……浄化する。私からは『マテリアルレゾネイター』とでも呼ばせて貰おうか」
「マテリアルレゾネイターか、悪くはないかな」
魔導トラックから魔導バイクを下ろす有希遥は、思案げにそう呟いて地図を確認する仲間の元に近付いてくる。
現在地はブラストエッジ鉱山を臨む街道。ここから脇道に反れた僅かな木々や岩の間に要救助者である軍人がいるらしい。
「折角だし、私は『リフレッシュ』って呼ぼうかな♪」
詩は少し楽しげにそう言うと、3手に分かれた後の手はずについて確認を始めた。
「各班との連絡はトランシーバーか短伝話でいこう。緊急時の集合場所はここで! それじゃ出発しよう。この先に助けを待っている人達がいる。私は浄化の術を使えないけど困ってる人達を無事助けられるようしっかりお手伝いするよ!」
「そうだね……さ、人助けに行こうか!」
詩の声に頷き、メルは緊急避難場所を頭に叩き込むと前へ歩き出した。
●
舗装されていない道なき道を魔導バイクが駆ける。
1台はキヅカが運転するもの、そしてもう1つは有希遥が運転するものだ。そして有希遥の前には後ろから抱えられるようにして乗車する心許なげなリーゼロッテの姿も見える。
「あ、あの! このバイク、1人乗りでは?!」
「そうなんだけど、少し無理矢理だけど色々やるなら足は速い方がいいから」
バイクの音に負けないように声を上げて応える。そんな彼の内心は複雑だ。
本来であれば後ろに乗せるのが定石。しかし色々な煩悩に負けそう――否、同乗する彼女を庇い易いように前に乗せたのだが、結局どっちも変わらなかった。
「腕に乗ってるよね……」
呟いたのはキヅカだ。
ここでは敢えて何がとは言わないが、どことなく羨む視線が紛れていない気もしなくもない。
「ごほん。まあ、それはさておき」
わざとらしい咳をしてキヅカがリーゼロッテを捉える。
「リーゼさんに聞きたいことがあるんですが、良いですか?」
張り上げる声に頷きを返す彼女を見て問う。
「今回のスキルだけど、負のマテリアルを耐久の強い存在に移し替えるような作りにみえるけど、抵抗値が上がればより多く引き受ける事が出来るのかな?」
「簡単に言えば取り込んでいるのと同じ状態です。この状態を繰り返せば、場合によって歪虚病を発症する可能性はあると推測できます。ただその上限がどの様になるのか……今後の発展と研究しだいかと」
キヅカの言うように耐久値が上がれば受け入れる数値が上がると考えるのが普通だろう。
だが現状はデータ不足と言わざる終えない。
「という事は、エルフハイムの様に弐式などの連携による高度な技への派生が出来るかも、今後の発展と研究次第、ということかな?」
若干口元に苦笑が浮かんだのは隠しようもない事実だ。
思い返せば今回のスキルはリーゼロッテの助手が思いついたものだったはず。つまりそれは実践データが殆どないということ。
「……今日の頑張りが未来に繋がる。そうとも取れるか」
キヅカはそう零すとゆっくりと速度を落としてバイクを止めた。
「この辺りだね」
自分が先に下りてリーゼロッテを下ろす有希遥は周囲を見回してトランシーバーに視線を落とす。
今のところ他のメンバーから連絡は来ていない。
「この辺りはだいぶ負のマテリアルの濃度が濃いですね……」
リーゼロッテがそう呟いた時だ。
そう遠くない位置から悲鳴が聞こえた。
「急ごう!」
駆け出すキヅカに続いて有希遥とリーゼロッテも駆け出す。そうして駆けつけた直後、キヅカの銃が火を噴き、有希遥の足が更に素早く地面を蹴った。
「凄いです……!」
思わず声を上げたリーゼロッテの目の前で、要救助者に襲い掛かろうとしていたゾンビが崩れ落ちた。
「間に合ったみたいだね」
安堵する有希遥に同意しながらキヅカが軍人に近付いてゆく。そしてその前に跪くとそっと手を翳した。
この場にいた軍人は3人。その誰もがぐったりとして動けないでいるようだ。
「悪いものを中に吸い込むイメージでやってみてください」
リーゼロッテの声に目を閉じる。
「……、……っ」
一瞬の眩暈を覚えて頭を押さえるが、直ぐにその異変が成功の一端なのだと気付く。
「これが、浄化?」
「すごい。顔色がみるみる良くなってく」
有希遥の言うように浄化術を試みた軍人は顔色が良くなっているようだ。ならば次の軍人も。
2人目も無事成功させたキヅカだが、3人目で手間取った。
「……ごめん。失敗した、かも……」
「やっぱり使用者の負担が大きいんだね。ねえ、ちとうちに考えがあるんだけど」
額を押さえるキヅカの肩に手を添え有希遥がリーゼロッテを振り返る。そうして彼が語りだしたのは、マテリアルヒーリングの自己回復を参考に術者の負担を軽減する『機浄治癒』という提案だった。
●
「アイザックスさんはどこにスペルデバイスをセットしたんだい?」
「ここだよ」
トンッと彼女が叩いたのは自分の胸だ。
彼女は身に纏う試作型アーマースーツにデバイスをセットしたと言う。その発想に感心しつつ、ミカは出発前にリーゼロッテにした問いを思い出していた。
「意地悪な問いだったかね……」
故意ではないのだ。故意ではないが、錬金術の善し悪しの話に踏込んだ際「人が生み出し、政策が利用法を決め、連鎖的に更なる技術が必要になる」という話を思い出した。
これは過去、リアルブルーで爆弾の技術を開発した者達の歴史を学ぶ中で聞いた言葉だ。
『能力者であれ、あなた方は人です。人の体を使って実験をしなければいけないことに、心よりお詫びを……そして身勝手ですが、どうぞよろしくお願いします』
リーゼロッテはそう言って皆の前で頭を下げた。
その時思わず聞いてしまったのだ。
『傷つけるんじゃなく助ける技術って、何だろう』と。
「リーゼロッテさんの『誰もが幸せに、平和に生きられる技術。誰も苦しまず生きていける、そんな技術』って言葉。実現するといいね」
メルが口にした言葉がリーゼロッテの答えだった。そしてこの言葉は偽善だ。
それでも彼女の言葉に嘘はない。彼女は心からそう願っている。だから迷うのだろう。
「……錬魔院長はシンプルだったが」
こっちは複雑だ。そう零した時、前を歩くメルの足が止まった。
「あの木の影に……いた!」
だいぶ見辛いが注意深く周囲を探ってくれた彼女の功績だろう。
完全に周囲から隠して置かれた要救助者に駆け寄る彼女に続いてミカも現場に到着する。
「3人か……頼めるか?」
「勿論」
頷き膝を折った彼女に虚ろな軍人の目が向かう。
「お待たせ、大丈夫かな……? ちょーっと待っていてね」
安心させるように声を落ち着かせて手を伸ばす。そして全身から邪気を祓うようにそっと撫でると意識を集中してスキルを起動させた。
「! なん、だ……体が軽く」
「……効いたみたい、だね。それじゃ次はあなた」
思いの外難しくない技術なのだろうか。
予想以上にすんなりとスキルを起動させるメルに、ミカが「良い腕だ」と零す。だが3人目を治療し終えたところで彼女に異変が起きた。
「おっと! 大丈夫か?」
「……ごめん。ちょっとふらついちゃった」
苦笑に近い笑みを浮かべ踏ん張る彼女に眉を潜め、ミカはトランシーバーを取り出すとリーゼロッテと連絡を取るべく通話を開始した。
●
「ね、上手くいったでしょ!」
満面の笑みでペリドの手を取るのは詩だ。
彼女は今、鵤とペリドと共に1人目の要救助者を発見し治療を施した直後である。
「誰かを助けたいってペリドさんの思いが実を結ばないなんて事絶対ないよ。だから大丈夫!」
「まー実際に出来たしねぇ」
初回は経験者に実践してもらって様子を見ていた鵤だが、その間もスペルデバイスに関する情報はタブレットで収集中だ。
本来は自分で使用し、機導の徒の効果で得た詳細なデータを可能な限り解析したいのだが、今のでもだいたいのことはわかった。
「患者の汚染物質を自分に移して治療とする、ねぇ……確かにこれは安全な技術ではないかもねー」
リーゼロッテが苦悩するのも良くわかる。とは言え、今目の前でペリドが実践したことで回復した患者がいるのも事実。
「さぁて、次に行くよー……っと、残り3人かぁ」
トランシーバーから聞こえて来た声に「ふむ」と目を馳せる。聞こえてくる声から察するに、浄化の術を連続使用したメルの具合が悪いらしい。
「ペリドさん。はい、ナッツとジュースだよ。これで少しでも体力が回復すると良いけど」
聞こえてくる声に僅かな和みを得つつ、3人は更に奥へと進んでゆく。そうして事前に聞いていた場所へ到達すると詩がディヴァインウィルを発動させた。
「今の内に治療をお願い!」
「おー頑張るねぇ」
どれ。そう前に出た鵤が浄化術を試みる。
体の中に違和感を覚えるような不思議な感覚の後に襲ってくる悪寒。それが負のマテリアルの所為なのだと理解したのは、タブレットに浮かび上がる数値を見たからだ。
「これはこれは」
目に見える数値を頭に叩き込もうとするが、襲い来る不快感にどうにも上手くいかない。それでもなんとか治癒を施すと、鵤の口から僅かな息が漏れた。
「おっさんの力でもこれか……」
運もあるのかもしれないが1回の術で体が受けた負担は予想値を越えている。それでも要救助者はあと1人。
「こっちもおっさんが請け請け負おうかねぇ」
「それは良いけど……さっきから取ってる数値。あとで先生に渡してね?」
「あー気付いてたのね」
そりゃね。ペリドそう言うと、回復した軍人を介助するために鵤の傍を離れて行った。
●
「こんなに頑張ってたんだな……帰ったら、お菓子かなんかあげよっと」
緊急集合場所に戻ってきたキヅカは、そう零すと魔導トラックの荷台で休んでいるメルに視線を向けた。
彼女は現地から帰還後、安静にしているようにとのリーゼロッテの言葉を素直に聞き、今の今まで体力の回復に努めていた。
「飲めそうだったら飲んで。少しは気分も良くなるかもしれないし」
「ありがとう」
メルはそう言うと、笑顔でジュースを差し出す詩に笑みを向けた。
そしてそんな彼女等の直ぐ傍では、今回のことを踏まえてミカから厳しい言葉が寄せられている。
「試作段階だから仕方ないかもしれないが、浄化し切れない、人手が足りない、汚染弾頭とまあ色々問題点のあるスキルだな、と」
それに加えて術者が負荷に耐えられないと来てる。
そんなミカの言葉にリーゼロッテは一瞬の戸惑いを見せて皆の顔を見回した。
「確かに課題は多いですが、今回のことで見えてきたものもあります。有希遥さんから頂いた、マテリアルヒーリングを応用して負担を軽減するという方法も視野に入れながら、実用に向けて最終調整をしようと思います。それと、このデータも頂いていきますね」
ありがとうございます。リーゼロッテはそう言葉を添え、鵤に向かって含みも何もない真っ直ぐな笑顔を向け、頭を下げた。
これに鵤の視線が泳ぐがリーゼロッテには伝わらない。
「なんか、会ってわかった。あの子がひねてない理由……」
有希遥はそう密かに呟くと、腕の残る感触を確かめるように自らの腕に手を添えた。
「嫌な風……」
目に見えてきた景色はお世辞にも綺麗とは言えない。不浄の空気が近付くだけで肌を冷たくするような、そんな気配に彼女の眉が顰められた。
「この先に助けを待っている人達がいるんだよね。私は浄化の術を使えないけど困ってる人達を無事助けられるようしっかりお手伝いするよ……!」
詩はそう言うと、同じように眉を顰めるペリドを見た。そこにミカ・コバライネン(ka0340)の声が聞こえてくる。
「目的地に着いたら3手に分かれよう。クリューガーさんも付いて行った方が良いとは思うが」
「そうですね。汚染状況の確認をしたいので同行させて頂きます」
問いにそう答えてリーゼロッテは少しだけ不自然な笑みを見せた。これに守原 有希遥(ka4729)が声を潜める。
「汚染地域外とはいえ体への負担がありますか?」
ここにいる能力者と違いリーゼロッテは一般人だ。身体への影響は能力者である彼等にはわからない。だからこその問いだったのだが。
「いえ、大丈夫です」
「無理はしないほうが良いよ。折角良いスキルが出来ても、リーゼロッテさん自身が歪虚病に感染したら元も子もないんだし」
メル・アイザックス(ka0520)はそう言って彼女の顔を心配そうに覗き込む。
今回は歪虚病に感染した軍人を助けるのが任務だ。新スキル『浄化回復術(仮)』を使って状態異常を治すのが目的になっている。
「待望の技術だ、大勢助かるのは間違いない……が、汚染環境での作戦が増え戦死者は減らず、かね」
人を助けるための技術だと言うのはわかっているが、実際にそれを行使する時には当然危険が付きまとう。
それを思ってつい漏れた声なのだが言ったところで詮無いことなのかもしれない。
「……儘ならないな」
「みんな、思うことがあるんだね……僕だって……」
皆の言葉を聞いていたキヅカ・リク(ka0038)はある少女のことを思い出し手を握り締めた。
「浄化術、か……これがあればラズビルナムも、王国との戦闘も大分楽になるはずなんだ。けれど、これの元はエルフハイム……ホリィの技術」
知り合いの少女――浄化の器はこの術を1人で使ってきた。
ペリドが浄化術を使ったときの様子を聞く限り、どれほどの苦しみがあり、どれほどの負担があるのか想像もつかない。
「――知らなきゃ」
そう覚悟を決めて顔を上げた時、トラックが止まった。
「さぁてこっからが本番だねぇ。今回はよろしくちゃーん」
コキッと肩を鳴らし、鵤(ka3319)がトラックを降りる。その手には錬金術師組合から渡された新型スペルデバイスを装着したルーンタブレットがあった。
彼はそれを満足げに見てポケットに入れると「さて」と周囲を見回した。
「あれ。そのタブレット何かと繋がってるんだね」
タブレットをポケットにしまった鵤の手元を覗き込んだメルの言う通り、鵤のタブレットはアルケミストデバイスと繋がっている。これは彼の目的達成の為に必要なものなのだが、
「ちょっちねー」
誤魔化すようにヘラリと笑って肩を竦める彼に、メルもそれ以上の突っ込む気はないらしい。
「それにしても本当に良いスキルだね。痛みを共有して……浄化する。私からは『マテリアルレゾネイター』とでも呼ばせて貰おうか」
「マテリアルレゾネイターか、悪くはないかな」
魔導トラックから魔導バイクを下ろす有希遥は、思案げにそう呟いて地図を確認する仲間の元に近付いてくる。
現在地はブラストエッジ鉱山を臨む街道。ここから脇道に反れた僅かな木々や岩の間に要救助者である軍人がいるらしい。
「折角だし、私は『リフレッシュ』って呼ぼうかな♪」
詩は少し楽しげにそう言うと、3手に分かれた後の手はずについて確認を始めた。
「各班との連絡はトランシーバーか短伝話でいこう。緊急時の集合場所はここで! それじゃ出発しよう。この先に助けを待っている人達がいる。私は浄化の術を使えないけど困ってる人達を無事助けられるようしっかりお手伝いするよ!」
「そうだね……さ、人助けに行こうか!」
詩の声に頷き、メルは緊急避難場所を頭に叩き込むと前へ歩き出した。
●
舗装されていない道なき道を魔導バイクが駆ける。
1台はキヅカが運転するもの、そしてもう1つは有希遥が運転するものだ。そして有希遥の前には後ろから抱えられるようにして乗車する心許なげなリーゼロッテの姿も見える。
「あ、あの! このバイク、1人乗りでは?!」
「そうなんだけど、少し無理矢理だけど色々やるなら足は速い方がいいから」
バイクの音に負けないように声を上げて応える。そんな彼の内心は複雑だ。
本来であれば後ろに乗せるのが定石。しかし色々な煩悩に負けそう――否、同乗する彼女を庇い易いように前に乗せたのだが、結局どっちも変わらなかった。
「腕に乗ってるよね……」
呟いたのはキヅカだ。
ここでは敢えて何がとは言わないが、どことなく羨む視線が紛れていない気もしなくもない。
「ごほん。まあ、それはさておき」
わざとらしい咳をしてキヅカがリーゼロッテを捉える。
「リーゼさんに聞きたいことがあるんですが、良いですか?」
張り上げる声に頷きを返す彼女を見て問う。
「今回のスキルだけど、負のマテリアルを耐久の強い存在に移し替えるような作りにみえるけど、抵抗値が上がればより多く引き受ける事が出来るのかな?」
「簡単に言えば取り込んでいるのと同じ状態です。この状態を繰り返せば、場合によって歪虚病を発症する可能性はあると推測できます。ただその上限がどの様になるのか……今後の発展と研究しだいかと」
キヅカの言うように耐久値が上がれば受け入れる数値が上がると考えるのが普通だろう。
だが現状はデータ不足と言わざる終えない。
「という事は、エルフハイムの様に弐式などの連携による高度な技への派生が出来るかも、今後の発展と研究次第、ということかな?」
若干口元に苦笑が浮かんだのは隠しようもない事実だ。
思い返せば今回のスキルはリーゼロッテの助手が思いついたものだったはず。つまりそれは実践データが殆どないということ。
「……今日の頑張りが未来に繋がる。そうとも取れるか」
キヅカはそう零すとゆっくりと速度を落としてバイクを止めた。
「この辺りだね」
自分が先に下りてリーゼロッテを下ろす有希遥は周囲を見回してトランシーバーに視線を落とす。
今のところ他のメンバーから連絡は来ていない。
「この辺りはだいぶ負のマテリアルの濃度が濃いですね……」
リーゼロッテがそう呟いた時だ。
そう遠くない位置から悲鳴が聞こえた。
「急ごう!」
駆け出すキヅカに続いて有希遥とリーゼロッテも駆け出す。そうして駆けつけた直後、キヅカの銃が火を噴き、有希遥の足が更に素早く地面を蹴った。
「凄いです……!」
思わず声を上げたリーゼロッテの目の前で、要救助者に襲い掛かろうとしていたゾンビが崩れ落ちた。
「間に合ったみたいだね」
安堵する有希遥に同意しながらキヅカが軍人に近付いてゆく。そしてその前に跪くとそっと手を翳した。
この場にいた軍人は3人。その誰もがぐったりとして動けないでいるようだ。
「悪いものを中に吸い込むイメージでやってみてください」
リーゼロッテの声に目を閉じる。
「……、……っ」
一瞬の眩暈を覚えて頭を押さえるが、直ぐにその異変が成功の一端なのだと気付く。
「これが、浄化?」
「すごい。顔色がみるみる良くなってく」
有希遥の言うように浄化術を試みた軍人は顔色が良くなっているようだ。ならば次の軍人も。
2人目も無事成功させたキヅカだが、3人目で手間取った。
「……ごめん。失敗した、かも……」
「やっぱり使用者の負担が大きいんだね。ねえ、ちとうちに考えがあるんだけど」
額を押さえるキヅカの肩に手を添え有希遥がリーゼロッテを振り返る。そうして彼が語りだしたのは、マテリアルヒーリングの自己回復を参考に術者の負担を軽減する『機浄治癒』という提案だった。
●
「アイザックスさんはどこにスペルデバイスをセットしたんだい?」
「ここだよ」
トンッと彼女が叩いたのは自分の胸だ。
彼女は身に纏う試作型アーマースーツにデバイスをセットしたと言う。その発想に感心しつつ、ミカは出発前にリーゼロッテにした問いを思い出していた。
「意地悪な問いだったかね……」
故意ではないのだ。故意ではないが、錬金術の善し悪しの話に踏込んだ際「人が生み出し、政策が利用法を決め、連鎖的に更なる技術が必要になる」という話を思い出した。
これは過去、リアルブルーで爆弾の技術を開発した者達の歴史を学ぶ中で聞いた言葉だ。
『能力者であれ、あなた方は人です。人の体を使って実験をしなければいけないことに、心よりお詫びを……そして身勝手ですが、どうぞよろしくお願いします』
リーゼロッテはそう言って皆の前で頭を下げた。
その時思わず聞いてしまったのだ。
『傷つけるんじゃなく助ける技術って、何だろう』と。
「リーゼロッテさんの『誰もが幸せに、平和に生きられる技術。誰も苦しまず生きていける、そんな技術』って言葉。実現するといいね」
メルが口にした言葉がリーゼロッテの答えだった。そしてこの言葉は偽善だ。
それでも彼女の言葉に嘘はない。彼女は心からそう願っている。だから迷うのだろう。
「……錬魔院長はシンプルだったが」
こっちは複雑だ。そう零した時、前を歩くメルの足が止まった。
「あの木の影に……いた!」
だいぶ見辛いが注意深く周囲を探ってくれた彼女の功績だろう。
完全に周囲から隠して置かれた要救助者に駆け寄る彼女に続いてミカも現場に到着する。
「3人か……頼めるか?」
「勿論」
頷き膝を折った彼女に虚ろな軍人の目が向かう。
「お待たせ、大丈夫かな……? ちょーっと待っていてね」
安心させるように声を落ち着かせて手を伸ばす。そして全身から邪気を祓うようにそっと撫でると意識を集中してスキルを起動させた。
「! なん、だ……体が軽く」
「……効いたみたい、だね。それじゃ次はあなた」
思いの外難しくない技術なのだろうか。
予想以上にすんなりとスキルを起動させるメルに、ミカが「良い腕だ」と零す。だが3人目を治療し終えたところで彼女に異変が起きた。
「おっと! 大丈夫か?」
「……ごめん。ちょっとふらついちゃった」
苦笑に近い笑みを浮かべ踏ん張る彼女に眉を潜め、ミカはトランシーバーを取り出すとリーゼロッテと連絡を取るべく通話を開始した。
●
「ね、上手くいったでしょ!」
満面の笑みでペリドの手を取るのは詩だ。
彼女は今、鵤とペリドと共に1人目の要救助者を発見し治療を施した直後である。
「誰かを助けたいってペリドさんの思いが実を結ばないなんて事絶対ないよ。だから大丈夫!」
「まー実際に出来たしねぇ」
初回は経験者に実践してもらって様子を見ていた鵤だが、その間もスペルデバイスに関する情報はタブレットで収集中だ。
本来は自分で使用し、機導の徒の効果で得た詳細なデータを可能な限り解析したいのだが、今のでもだいたいのことはわかった。
「患者の汚染物質を自分に移して治療とする、ねぇ……確かにこれは安全な技術ではないかもねー」
リーゼロッテが苦悩するのも良くわかる。とは言え、今目の前でペリドが実践したことで回復した患者がいるのも事実。
「さぁて、次に行くよー……っと、残り3人かぁ」
トランシーバーから聞こえて来た声に「ふむ」と目を馳せる。聞こえてくる声から察するに、浄化の術を連続使用したメルの具合が悪いらしい。
「ペリドさん。はい、ナッツとジュースだよ。これで少しでも体力が回復すると良いけど」
聞こえてくる声に僅かな和みを得つつ、3人は更に奥へと進んでゆく。そうして事前に聞いていた場所へ到達すると詩がディヴァインウィルを発動させた。
「今の内に治療をお願い!」
「おー頑張るねぇ」
どれ。そう前に出た鵤が浄化術を試みる。
体の中に違和感を覚えるような不思議な感覚の後に襲ってくる悪寒。それが負のマテリアルの所為なのだと理解したのは、タブレットに浮かび上がる数値を見たからだ。
「これはこれは」
目に見える数値を頭に叩き込もうとするが、襲い来る不快感にどうにも上手くいかない。それでもなんとか治癒を施すと、鵤の口から僅かな息が漏れた。
「おっさんの力でもこれか……」
運もあるのかもしれないが1回の術で体が受けた負担は予想値を越えている。それでも要救助者はあと1人。
「こっちもおっさんが請け請け負おうかねぇ」
「それは良いけど……さっきから取ってる数値。あとで先生に渡してね?」
「あー気付いてたのね」
そりゃね。ペリドそう言うと、回復した軍人を介助するために鵤の傍を離れて行った。
●
「こんなに頑張ってたんだな……帰ったら、お菓子かなんかあげよっと」
緊急集合場所に戻ってきたキヅカは、そう零すと魔導トラックの荷台で休んでいるメルに視線を向けた。
彼女は現地から帰還後、安静にしているようにとのリーゼロッテの言葉を素直に聞き、今の今まで体力の回復に努めていた。
「飲めそうだったら飲んで。少しは気分も良くなるかもしれないし」
「ありがとう」
メルはそう言うと、笑顔でジュースを差し出す詩に笑みを向けた。
そしてそんな彼女等の直ぐ傍では、今回のことを踏まえてミカから厳しい言葉が寄せられている。
「試作段階だから仕方ないかもしれないが、浄化し切れない、人手が足りない、汚染弾頭とまあ色々問題点のあるスキルだな、と」
それに加えて術者が負荷に耐えられないと来てる。
そんなミカの言葉にリーゼロッテは一瞬の戸惑いを見せて皆の顔を見回した。
「確かに課題は多いですが、今回のことで見えてきたものもあります。有希遥さんから頂いた、マテリアルヒーリングを応用して負担を軽減するという方法も視野に入れながら、実用に向けて最終調整をしようと思います。それと、このデータも頂いていきますね」
ありがとうございます。リーゼロッテはそう言葉を添え、鵤に向かって含みも何もない真っ直ぐな笑顔を向け、頭を下げた。
これに鵤の視線が泳ぐがリーゼロッテには伝わらない。
「なんか、会ってわかった。あの子がひねてない理由……」
有希遥はそう密かに呟くと、腕の残る感触を確かめるように自らの腕に手を添えた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/01 22:18:01 |
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質問卓 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/03/05 00:59:00 |
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救助作戦会議室 守原 有希遥(ka4729) 人間(リアルブルー)|19才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/03/06 13:20:21 |