ゲスト
(ka0000)
【深棲】Shoggoth
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/21 15:00
- 完成日
- 2014/08/31 15:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ハンターの皆、ラッツィオ島上陸作戦お疲れ様~♪」
いつもの営業スマイルを浮かべ、新米受付嬢は久しぶりにオフィスへと戻って来たハンター達を待ってましたと言わんばかりに歓迎した。
「ねぇねぇねぇ、どうでした、ラッツィオ島? キモチ悪い雑魔いっぱい居ました? ルミちゃんも仕事が無ければ見に行きたかったんだけどな~!」
大好物のオカルティクスな狂気の雑魔達にすっかり没頭中の彼女はまだ見ぬその姿に想いを馳せているようでキラキラとお星様の輝く瞳をあさっての方向へ向けながらうっとりとした表情を浮かべていた。
「でもでも、依頼を斡旋するのがルミちゃんの仕事なのでこの場を離れるわけにはいかないのです! ルミちゃん、えっら~い☆」
キャハ☆ とそろそろハンター達も慣れつつあるひとしきりのウザ――可愛い営業トークを済ませると、彼女はごそごそと依頼書の束を漁り始めた。
「これ全部、狂気の歪虚関連の依頼なんですよ~。上陸作戦を受けて、各地で色んな影響が出てるみたいです」
そう言いながら依頼書の束をガサガサと漁ると、その中から1枚の依頼書をピックする。
「比較的早急なモノだと例えばこんなのとか」
ハンター達の前に突き出された依頼書の中にはこのような事が書かれていた。
――極彩色の街「ヴァリオス」の近海で狂気と思われる歪虚の群れを観測した。
発見したのは周辺をパトロールしていた同盟海軍の船舶。海中を物凄いスピードで移動してゆく蛸とも烏賊ともつかない面妖な姿の黒い生物を目視したとのこと。幸い船の下を通過するのみで船舶に被害は無かった。追跡を続けたものの途中で目視範囲外の深海へ潜られてしまい見失ってしまった。しかし、その歪虚群は確かに一目散にヴァリオスの方角へ向かっており、おそらく付近の海岸へ上陸しようとしているものと思われる。早急な対応が迫られるが上陸作戦の影響で同盟軍は現在戦力を回すことができない。ハンター達の助力を必要とするものとする。
大きな作戦はそれだけ柔軟な対応の術を狭めてゆく。しかし、そういった状況に対応するためにハンターズオフィスは存在するのだ。
「さぁ、ここからがハンターさんたちの腕の見せ所ですヨ♪」
そう言って再びニッコリ営業スマイルを浮かべながら、「お土産話待ってま~す☆」と狂気歪虚首ったけな新米受付嬢は期待いっぱいにハンター達を見送っていったのであった。
いつもの営業スマイルを浮かべ、新米受付嬢は久しぶりにオフィスへと戻って来たハンター達を待ってましたと言わんばかりに歓迎した。
「ねぇねぇねぇ、どうでした、ラッツィオ島? キモチ悪い雑魔いっぱい居ました? ルミちゃんも仕事が無ければ見に行きたかったんだけどな~!」
大好物のオカルティクスな狂気の雑魔達にすっかり没頭中の彼女はまだ見ぬその姿に想いを馳せているようでキラキラとお星様の輝く瞳をあさっての方向へ向けながらうっとりとした表情を浮かべていた。
「でもでも、依頼を斡旋するのがルミちゃんの仕事なのでこの場を離れるわけにはいかないのです! ルミちゃん、えっら~い☆」
キャハ☆ とそろそろハンター達も慣れつつあるひとしきりのウザ――可愛い営業トークを済ませると、彼女はごそごそと依頼書の束を漁り始めた。
「これ全部、狂気の歪虚関連の依頼なんですよ~。上陸作戦を受けて、各地で色んな影響が出てるみたいです」
そう言いながら依頼書の束をガサガサと漁ると、その中から1枚の依頼書をピックする。
「比較的早急なモノだと例えばこんなのとか」
ハンター達の前に突き出された依頼書の中にはこのような事が書かれていた。
――極彩色の街「ヴァリオス」の近海で狂気と思われる歪虚の群れを観測した。
発見したのは周辺をパトロールしていた同盟海軍の船舶。海中を物凄いスピードで移動してゆく蛸とも烏賊ともつかない面妖な姿の黒い生物を目視したとのこと。幸い船の下を通過するのみで船舶に被害は無かった。追跡を続けたものの途中で目視範囲外の深海へ潜られてしまい見失ってしまった。しかし、その歪虚群は確かに一目散にヴァリオスの方角へ向かっており、おそらく付近の海岸へ上陸しようとしているものと思われる。早急な対応が迫られるが上陸作戦の影響で同盟軍は現在戦力を回すことができない。ハンター達の助力を必要とするものとする。
大きな作戦はそれだけ柔軟な対応の術を狭めてゆく。しかし、そういった状況に対応するためにハンターズオフィスは存在するのだ。
「さぁ、ここからがハンターさんたちの腕の見せ所ですヨ♪」
そう言って再びニッコリ営業スマイルを浮かべながら、「お土産話待ってま~す☆」と狂気歪虚首ったけな新米受付嬢は期待いっぱいにハンター達を見送っていったのであった。
リプレイ本文
●何事も準備から
ドサリと音を立て、砂浜に麻袋が積み上げられる。等間隔に積み上げられた所謂『土嚢』は、海岸線を沿うように砂浜に小さな砦を築いていた。
ヴァリオス郊外の浜辺へと来ていたハンター達は依頼を受け、海から迫り来るという歪虚に備えるために念入りな準備を行っていた。
「地道じゃあるが、それこそが勝利への一歩ってな」
ケイト・グラス(ka0431)がスコップ片手に額の汗を拭う。彼の足元には大量の麻袋が積み上げられている。
「中に詰めるものならここいらにいくらでもあるんだ。懐にも優しい、良い案じゃないか」
そうして再び袋へ砂を詰めてゆく。そうして出来上がった土嚢――正確に言えば砂嚢は水害を防ぐために作っているものではない。海から来る狂気の歪虚、それをこの海岸で少しでも食い止めるためのバリケードとしての役割を担うのだ。
「せめて土嚢の準備だけでも手伝ってくれる人が居れば良かったんだがなぁ……」
パンパンに詰まった砂嚢を肩に担ぎ上げながらロクス・カーディナー(ka0162)はぽつりと呟いた。この長く続く砂浜だ、土嚢や砂嚢の準備だけでも手伝って貰えれば……と期待は抱いていたが、敵の本拠地ラッツィオ島からやや近い位置であるのと、敵は海から来るという状況から既にヴァリオスや周辺の村の住人は内陸へ疎開を行っており、人手を募ることができなかったのだ。
「無人とは言え、歪虚から街や村を護るのが俺達の仕事だ。少しでも楽に戦えるように地道に頑張ろうぜ」
そう言いながら、ジング(ka0342)もスコップ片手に袋に砂を詰め込んでゆく。2人の男手が作る砂嚢を他のハンター達は汗を流しながら黙々と運んだ。
「この袋一つが、明日の商売繁盛に通じるのです!」
良い汗流す男共の中に混じってむしろ男以上に砂嚢積みに励む少女、エステル・L・V・W(ka0548)。その小柄な身体からは想像もできないほどパワフルで、着々と袋の山を築き上げる。
「雑魔を街に入れたら大変だもん。しっかり通せんぼの準備をしないとね!」
「そうですね。偶然か否か、人手の少ないこの時期の襲来です。私達でなんとかしなければ」
こちらも二人で砂嚢を運ぶアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)と時音 ざくろ(ka1250)。仲良くてきぱきと山を作ってゆく。
「か弱い……かは別として、女の子ばかりに力仕事をさせるわけにはいかないな」
そんな働く彼女達(正確には一人男だが)の様子を見て、クラウス・エンディミオン(ka0680)は負けじと砂嚢を担ぐ。
「しかし、またもや海からの来客か……有事とは分かっていても流石にうんざりしてくるね」
思い袋を運びながら静かに海を見やる。そこに広がるのは静かで綺麗なクリムゾンウエストの海であるが、この穏やかな水平線の向こうには倒さなければならない歪虚が犇いているのだ。
「みなさん、気をつけてください……!」
不意に、メトロノーム・ソングライト(ka1267)の澄んだ鈴のような声が海岸に響いた。
彼女がこの地に来て真っ先に海へ放ったブイ。それらが大きな魚でも引っかかったかのように、大きく躍動したのだ。
同時に海面に写る黒い影。その数、ざっと10。
「おいでなすったなぁ……だが、パーティの開始にゃまだ少し早いんじゃないか?」
スコップを投げ捨て、ケイトは懐から銃を取り出す。
「ヤバイって、マジで来たよ。思い過ごしだったなら一番だってのに……」
若干眉間に皺を寄せながら、ジングもまた拳銃を取り出した。他のハンター達も抱えた砂嚢を投げ捨て、一様に戦闘態勢を取り砂嚢へと身を潜めるのだった。
●狂気の海岸にて
「目の前に来る前に少しでも数を減らそう、な」
ジングの構える拳銃の銃口に集まるマテリアルの輝き。集まった輝きは一つの筋となって迫る海中の歪虚へ向かって放たれた。
水中へと吸い込まれる強力なエネルギーの筋。その筋は確かに先頭の小さな歪虚を捉えたかのように見えたが、歪虚はその黒い軟体な身体を水中でぐにゃりと変形させると光の筋の射線だけ器用に避けて見せる。
「げぇ、ぐにゃぐにゃって避けやがったぜ!?」
その様子を目の当たりにして余計に顔をしかめるジング。
「軟体な身体……水中だとより立体的に変異させられるわけですね」
メトロノームもまた魔法の石つぶてを作り出し、一斉に歪虚へと放つ。が、同じように着弾点となる部分を器用に伸縮させ、その一撃をかわす。
「だが、反撃してこない様子を見ると、あの距離でこちらへの攻撃手段は持っていないようだな。射撃は苦手なんだが……そうも言ってられないか」
そう呟きながらクラウスのリボルバーが唸りを上げる。放たれた弾丸は奇跡的に歪虚の軟体な身体を貫いた。いかんせん物理的なダメージのせいか、大きく効いている様子は無い。
「よーしよし良い子だ。そのまま素直に撃たれてくれよ……?」
クラウスの一撃を掠めた歪虚にすかさずケイトが機導砲を放つ。立て続けの攻撃に避ける隙を失ったのか、その半身をマテリアルの輝きが包み込み蒸発するかのように散った。
「うまく魔法を当てさえすれば、意外と脆いみたいだな」
ハットを深く被りなおしながら、ケイトは静かに銃をさする。半身を失った歪虚は、それでもなお弾丸のように海岸を目指し海中を突き進む。
「つまり、一発掠めれば言いわけですよね」
アデリシアは己の杖の先に輝く球体を作り出す。
「私が牽制しますから、ざくろはその後を」
「分かったよ!」
半身を失った歪虚目掛けて放たれる光の球。その球は惜しくも歪虚に避けられるが――
「これでもくらえっ!」
突き出されたざくろの人差し指から放たれるマテリアルの輝きが、確かにその身体を貫いた。撃ち貫かれた歪虚は半身を失った時と同じようにジュワッっとその身を海中に散らした。
「なるほど、要領さえ分かればこっちのものだな」
ロクスの言葉通りある程度の要領を得たハンター達は歪虚が沿岸の大地を踏みしめる頃にはいくつか仕留める事に成功していた。
●砂浜のランデブー
砂浜へと上がった歪虚の姿は、文字通り奇怪であった。ヘドロのようなタールのような、真っ黒な軟体な身体に多種多様な貝の殻を付けた姿。まるで砂浜を侵食するかのようにずるりずるりと這いずり回りハンター達の目前へと迫るが、積み上げられた砂嚢にぶち当たるとそれを飛び越えるようなことはできないようで、ずるりと袋の山を登るようにゆっくりと砦を越えようと試みる。
「魔法が撃てるヤツは下がってくれ! 前は俺達が引き付ける……!」
ロクスの掛け声と共に歪虚との距離を取る後衛陣。前衛陣は武器を持ち替え、迫り来る歪虚へと備える。
同時に、砂嚢の傍らで控えていたエステルは紅く染まったその髪を潮風に靡かせながらどっしりと歪虚の群れの前へと立ちはだかる。
「ただ目の前の敵を全力で屠る……戦いの真髄とは歪虚も人間も、そう変わらないのです」
その両刃の斧を砂の上に突き立てると、彼女は文字通り『吼えた』。その咆哮に呼応してか否か、歪虚達の体が一斉に躍動を始める。殻の付いた部分を長く振り上げ、振り回し、まるで鎖分銅でも投げるかのように遠心力で力任せに撃ち出す。その一撃を正面から斧で受け止めるエステル。斧を貫き、重い衝撃が彼女の小さな体に響き渡る。一瞬歯を食いしばるような激痛が走るも、その身は不動のまま歪虚の眼前に立ちふさがる。
「一歩たりとも、ここから退くつもりはありません!」
そのまま斧を目の前の歪虚へと豪快に振り下ろした。
その間、クラウスもまた前線に立ちはだかり歪虚の侵攻を防いでいた。獲物をリボルバーから日本刀へと変え、真正面から大型の歪虚に対峙する。
「やはり、私にはこちらが性に合ってるようだ」
歪虚の体を一閃。その一撃は的確に殻の無い部分を突くも、その軟体な構造に阻まれ思うような手ごたえは無い。
それでもクラウスは不適な笑みを浮かべ、そのまま刀を振り抜く。
「少しでもここに引き付けておくことに意味があるんでね……付き合って貰うぞ」
歪虚の反撃をひらりとかわしながら、後衛の射線を確保するクラウス。
その先にジングの銃口が光る。
「軟体生物は去れよ、ちくしょおぉぉぉぉ!」
何処か悲痛の叫びと共に放たれた魔導の閃光に巨大なタール体の一部が霧散する。
「全く、どこのコズミック・ホラーだいって話だよ。いや、この場合はマリン・ホラーと言ったほうが良いのかな?」
そんな悪態を突きながらも何処か生き生きとした表情でケイトの魔導砲が追撃を放つ。
「どうせなら女優にでも化けて出てくりゃ気が利いてるのにね……まあ、こっちには歌姫様がついてるわけだけど」
そう言いながら深く被ったハットの先から覗く視線をメトロノームへと投げかける。歌うように魔法の旋律を奏でる彼女の周囲から、音符を刻むように石つぶてが放たれた。それらは歪虚の体を文字通り蜂の巣にするように突き破り、その身体を霧散させる。
「先へは一匹も通しません。確実に撃破して行きましょう」
魔法を奏で終えた彼女は凛とした表情でそう言い放つ。
「その通り、でっかい奴はざくろがしっかり抑えるもん!」
右手に携えるフェアリーワンドからマテリアルの剣を作り出し、ざくろは大きな個体へとその身を躍らせる。迫り来る殻の殴打をファルシオンで何とか受け流しつつ、その懐へと潜りこんだ。飛び込んだ勢いを利用してその巨体を横なぎに魔導の輝きが切り裂く。
「アデリシア!」
叫ぶ彼の後方から飛び出すスタッフを振りかぶったアデリシア。その一撃が本体へと引き戻されようとした殻部を強打する。
「……っ、堅い!」
殻の部分に打ち込まれた腕が反動で激しい痺れを訴えた。
「アデリシア、大丈夫!?」
「いえ、ちょっと手が痺れただけです……」
腕を摩りながらアデリシアは答える。ダメージを受けた様子は無い。本当に痺れただけなのだが……それくらい堅い。
「効かないと分かっていても、軟体な部分を狙うしかねぇようだな」
機械剣の一撃を受け、多少手痛いダメージを負ったと思われる大型の個体にロクスの渾身の一撃が振り下ろされた。グニャリとしたその身体にサーベルが飲み込まれるも、その衝撃で多少は一部を飛散させる。
「……切った感触が無いというのは度し難い」
舌打ち交じりにサーベルを歪虚から引き抜くと、ねっとりとした黒い液体がその刃に纏わりつく。同時に振り上げられた殻の一撃が彼の頭上を襲う。その一撃をサーベルの腹で受け流すと再び大降りの一撃をどす黒い身体へと見舞う。思うようなダメージが入っていないことは承知だが、それでもこの刃を振り下ろすことしか己には出来ないのだ。そうであるならばそれを精一杯に押し通す。それはまた、別の中型の個体を相手取るエステルにも同じことであった。
「小細工は要らないのです。例えそれがさほど効果が無いのだとしても、今こうしてわたくしがここに立っていることに意味があるのですから!」
敵の反撃を受け止めながらも斧一つで歪虚に対峙する姿は、まさに動かざる鉄壁の砦に見えただろう。そしてそれはまた決して引く事の無い勇敢なる獅子の姿であったのかもしれない。この街へ歪虚を通さないように、有効打を与えられる後衛に魔の手が迫らぬよう。一歩、そしてまた一歩と戦線を前へと押し遣る。
「ただ、一心に、この斧を振るうのです!」
振り下ろされたその半身よりも巨大な斧の一撃はグニャリと身体を歪ませ位置を変えて来た歪虚の殻が受け止める。ガキンと金属質な音を立て動きが止まるが、エステルはその斧に全力を全霊を込め、力任せに押し切った。
「Ghaaaaaaahhhhhhhhhhh!!!」
ミシリと音を立て殻にヒビが入り、その堅牢な鎧が真っ二つに砕け散る。そうして防衛手段を失った歪虚を包み込む強風。メトロノームの放った風の刃に細切れにされた歪虚は海へと向かって霧になっていった。
「マエストソ……素晴らしい旋律でした、エステルさん」
「ちょっと、限界も近かったですけどね」
そう言って肩で息をしながらも残る眼前の敵を目掛け斧を構えるエステルの背中に、メトロノームは鼓舞の意味を込めた旋律を奏で上げた。
「敵はあらかた片付いた、あと厄介なのはこいつだけだ」
先ほどから対峙している巨大なヘドロを前にロクスは再びサーベルを構え直す。その巨体から来るしぶとさか、対応している者が物理主体である事もあってか、他の個体よりも幾分時間が掛かっている様子であった。
「あともう一息だ、総力戦といこうじゃないか!」
もう一体の大型個体を倒し終え目標を合わせたケイトやジングの砲撃が半身となった歪虚の体を各所、霧散させていく。体の多くを欠損し、初見時よりはかなり小柄な姿となってしまった歪虚であるが、狂気の歪虚がしぶとい事は周知の事で尚もその巨大な殻を振り上げ眼前のハンター達をなぎ払おうとフルシングをかます。
「ぐぅ……!」
真横からのなぎ払いに、その先頭となっていたロクスはサーベルの腹で殻を受け止める。その勢いに、砂に二筋の足の後を残し押し遣られるロクス。しかし全身を使いサーベルを、その殻を押さえ、ついには一撃を耐え切った。
「押さえつけた、今だ!」
重圧から弾き飛ばされるのに耐えながら、ロクスが叫ぶ。
「聖なる輝きを……その身に!」
アデリシアが至近距離から放つ光弾。その一撃により歪虚のクレーターのような深い穴が出来る。
「人々の平和を守る為……ざくろの想いを力に変え輝け、光の剣ッ!」
そのクレーターに突きこまれたマテリアルの刃。深く突き入れられたその刃はそのまま扉をこじ開けるように歪虚の体の中を突き上げられ、その身をザックリと両断した。
「――終わったようだな。全く、手古摺らせてくれる」
最後に残っていた小型のヘドロにトドメの刃を突きたてながら、クラウスは大型歪虚が霧散していくのをその目で見ていた。
「わたくし、お腹が空きましたわ! この辺りの名物は何なのでしょう!? イカ、タコ? お酒も気になりますわね! あれ……皆さん、どうさなれました?」
遠巻きに戦いを終え集うハンター達の姿が見える。
エステルの提案に顔を青くするハンターの気持ちはなんとなく分からないでも無い。ふとその足元に何かキラキラと輝くものを見つける。エステルが砕いた中型歪虚の殻の破片であった。破片とは言っても元の大きさが大きさだったため拳で包む程度のサイズはあり、それは夏の太陽の日差しを浴び、キラキラと表面を虹色に輝かせていた。
「……ヤツ等、貝選びのセンスはあったらしい。霧散しないのであれば、あの受付嬢に土産にでも持って帰るか」
そう言いながら、静けさを取り戻したヴァリオスの海を再び見やるのであった。
ドサリと音を立て、砂浜に麻袋が積み上げられる。等間隔に積み上げられた所謂『土嚢』は、海岸線を沿うように砂浜に小さな砦を築いていた。
ヴァリオス郊外の浜辺へと来ていたハンター達は依頼を受け、海から迫り来るという歪虚に備えるために念入りな準備を行っていた。
「地道じゃあるが、それこそが勝利への一歩ってな」
ケイト・グラス(ka0431)がスコップ片手に額の汗を拭う。彼の足元には大量の麻袋が積み上げられている。
「中に詰めるものならここいらにいくらでもあるんだ。懐にも優しい、良い案じゃないか」
そうして再び袋へ砂を詰めてゆく。そうして出来上がった土嚢――正確に言えば砂嚢は水害を防ぐために作っているものではない。海から来る狂気の歪虚、それをこの海岸で少しでも食い止めるためのバリケードとしての役割を担うのだ。
「せめて土嚢の準備だけでも手伝ってくれる人が居れば良かったんだがなぁ……」
パンパンに詰まった砂嚢を肩に担ぎ上げながらロクス・カーディナー(ka0162)はぽつりと呟いた。この長く続く砂浜だ、土嚢や砂嚢の準備だけでも手伝って貰えれば……と期待は抱いていたが、敵の本拠地ラッツィオ島からやや近い位置であるのと、敵は海から来るという状況から既にヴァリオスや周辺の村の住人は内陸へ疎開を行っており、人手を募ることができなかったのだ。
「無人とは言え、歪虚から街や村を護るのが俺達の仕事だ。少しでも楽に戦えるように地道に頑張ろうぜ」
そう言いながら、ジング(ka0342)もスコップ片手に袋に砂を詰め込んでゆく。2人の男手が作る砂嚢を他のハンター達は汗を流しながら黙々と運んだ。
「この袋一つが、明日の商売繁盛に通じるのです!」
良い汗流す男共の中に混じってむしろ男以上に砂嚢積みに励む少女、エステル・L・V・W(ka0548)。その小柄な身体からは想像もできないほどパワフルで、着々と袋の山を築き上げる。
「雑魔を街に入れたら大変だもん。しっかり通せんぼの準備をしないとね!」
「そうですね。偶然か否か、人手の少ないこの時期の襲来です。私達でなんとかしなければ」
こちらも二人で砂嚢を運ぶアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)と時音 ざくろ(ka1250)。仲良くてきぱきと山を作ってゆく。
「か弱い……かは別として、女の子ばかりに力仕事をさせるわけにはいかないな」
そんな働く彼女達(正確には一人男だが)の様子を見て、クラウス・エンディミオン(ka0680)は負けじと砂嚢を担ぐ。
「しかし、またもや海からの来客か……有事とは分かっていても流石にうんざりしてくるね」
思い袋を運びながら静かに海を見やる。そこに広がるのは静かで綺麗なクリムゾンウエストの海であるが、この穏やかな水平線の向こうには倒さなければならない歪虚が犇いているのだ。
「みなさん、気をつけてください……!」
不意に、メトロノーム・ソングライト(ka1267)の澄んだ鈴のような声が海岸に響いた。
彼女がこの地に来て真っ先に海へ放ったブイ。それらが大きな魚でも引っかかったかのように、大きく躍動したのだ。
同時に海面に写る黒い影。その数、ざっと10。
「おいでなすったなぁ……だが、パーティの開始にゃまだ少し早いんじゃないか?」
スコップを投げ捨て、ケイトは懐から銃を取り出す。
「ヤバイって、マジで来たよ。思い過ごしだったなら一番だってのに……」
若干眉間に皺を寄せながら、ジングもまた拳銃を取り出した。他のハンター達も抱えた砂嚢を投げ捨て、一様に戦闘態勢を取り砂嚢へと身を潜めるのだった。
●狂気の海岸にて
「目の前に来る前に少しでも数を減らそう、な」
ジングの構える拳銃の銃口に集まるマテリアルの輝き。集まった輝きは一つの筋となって迫る海中の歪虚へ向かって放たれた。
水中へと吸い込まれる強力なエネルギーの筋。その筋は確かに先頭の小さな歪虚を捉えたかのように見えたが、歪虚はその黒い軟体な身体を水中でぐにゃりと変形させると光の筋の射線だけ器用に避けて見せる。
「げぇ、ぐにゃぐにゃって避けやがったぜ!?」
その様子を目の当たりにして余計に顔をしかめるジング。
「軟体な身体……水中だとより立体的に変異させられるわけですね」
メトロノームもまた魔法の石つぶてを作り出し、一斉に歪虚へと放つ。が、同じように着弾点となる部分を器用に伸縮させ、その一撃をかわす。
「だが、反撃してこない様子を見ると、あの距離でこちらへの攻撃手段は持っていないようだな。射撃は苦手なんだが……そうも言ってられないか」
そう呟きながらクラウスのリボルバーが唸りを上げる。放たれた弾丸は奇跡的に歪虚の軟体な身体を貫いた。いかんせん物理的なダメージのせいか、大きく効いている様子は無い。
「よーしよし良い子だ。そのまま素直に撃たれてくれよ……?」
クラウスの一撃を掠めた歪虚にすかさずケイトが機導砲を放つ。立て続けの攻撃に避ける隙を失ったのか、その半身をマテリアルの輝きが包み込み蒸発するかのように散った。
「うまく魔法を当てさえすれば、意外と脆いみたいだな」
ハットを深く被りなおしながら、ケイトは静かに銃をさする。半身を失った歪虚は、それでもなお弾丸のように海岸を目指し海中を突き進む。
「つまり、一発掠めれば言いわけですよね」
アデリシアは己の杖の先に輝く球体を作り出す。
「私が牽制しますから、ざくろはその後を」
「分かったよ!」
半身を失った歪虚目掛けて放たれる光の球。その球は惜しくも歪虚に避けられるが――
「これでもくらえっ!」
突き出されたざくろの人差し指から放たれるマテリアルの輝きが、確かにその身体を貫いた。撃ち貫かれた歪虚は半身を失った時と同じようにジュワッっとその身を海中に散らした。
「なるほど、要領さえ分かればこっちのものだな」
ロクスの言葉通りある程度の要領を得たハンター達は歪虚が沿岸の大地を踏みしめる頃にはいくつか仕留める事に成功していた。
●砂浜のランデブー
砂浜へと上がった歪虚の姿は、文字通り奇怪であった。ヘドロのようなタールのような、真っ黒な軟体な身体に多種多様な貝の殻を付けた姿。まるで砂浜を侵食するかのようにずるりずるりと這いずり回りハンター達の目前へと迫るが、積み上げられた砂嚢にぶち当たるとそれを飛び越えるようなことはできないようで、ずるりと袋の山を登るようにゆっくりと砦を越えようと試みる。
「魔法が撃てるヤツは下がってくれ! 前は俺達が引き付ける……!」
ロクスの掛け声と共に歪虚との距離を取る後衛陣。前衛陣は武器を持ち替え、迫り来る歪虚へと備える。
同時に、砂嚢の傍らで控えていたエステルは紅く染まったその髪を潮風に靡かせながらどっしりと歪虚の群れの前へと立ちはだかる。
「ただ目の前の敵を全力で屠る……戦いの真髄とは歪虚も人間も、そう変わらないのです」
その両刃の斧を砂の上に突き立てると、彼女は文字通り『吼えた』。その咆哮に呼応してか否か、歪虚達の体が一斉に躍動を始める。殻の付いた部分を長く振り上げ、振り回し、まるで鎖分銅でも投げるかのように遠心力で力任せに撃ち出す。その一撃を正面から斧で受け止めるエステル。斧を貫き、重い衝撃が彼女の小さな体に響き渡る。一瞬歯を食いしばるような激痛が走るも、その身は不動のまま歪虚の眼前に立ちふさがる。
「一歩たりとも、ここから退くつもりはありません!」
そのまま斧を目の前の歪虚へと豪快に振り下ろした。
その間、クラウスもまた前線に立ちはだかり歪虚の侵攻を防いでいた。獲物をリボルバーから日本刀へと変え、真正面から大型の歪虚に対峙する。
「やはり、私にはこちらが性に合ってるようだ」
歪虚の体を一閃。その一撃は的確に殻の無い部分を突くも、その軟体な構造に阻まれ思うような手ごたえは無い。
それでもクラウスは不適な笑みを浮かべ、そのまま刀を振り抜く。
「少しでもここに引き付けておくことに意味があるんでね……付き合って貰うぞ」
歪虚の反撃をひらりとかわしながら、後衛の射線を確保するクラウス。
その先にジングの銃口が光る。
「軟体生物は去れよ、ちくしょおぉぉぉぉ!」
何処か悲痛の叫びと共に放たれた魔導の閃光に巨大なタール体の一部が霧散する。
「全く、どこのコズミック・ホラーだいって話だよ。いや、この場合はマリン・ホラーと言ったほうが良いのかな?」
そんな悪態を突きながらも何処か生き生きとした表情でケイトの魔導砲が追撃を放つ。
「どうせなら女優にでも化けて出てくりゃ気が利いてるのにね……まあ、こっちには歌姫様がついてるわけだけど」
そう言いながら深く被ったハットの先から覗く視線をメトロノームへと投げかける。歌うように魔法の旋律を奏でる彼女の周囲から、音符を刻むように石つぶてが放たれた。それらは歪虚の体を文字通り蜂の巣にするように突き破り、その身体を霧散させる。
「先へは一匹も通しません。確実に撃破して行きましょう」
魔法を奏で終えた彼女は凛とした表情でそう言い放つ。
「その通り、でっかい奴はざくろがしっかり抑えるもん!」
右手に携えるフェアリーワンドからマテリアルの剣を作り出し、ざくろは大きな個体へとその身を躍らせる。迫り来る殻の殴打をファルシオンで何とか受け流しつつ、その懐へと潜りこんだ。飛び込んだ勢いを利用してその巨体を横なぎに魔導の輝きが切り裂く。
「アデリシア!」
叫ぶ彼の後方から飛び出すスタッフを振りかぶったアデリシア。その一撃が本体へと引き戻されようとした殻部を強打する。
「……っ、堅い!」
殻の部分に打ち込まれた腕が反動で激しい痺れを訴えた。
「アデリシア、大丈夫!?」
「いえ、ちょっと手が痺れただけです……」
腕を摩りながらアデリシアは答える。ダメージを受けた様子は無い。本当に痺れただけなのだが……それくらい堅い。
「効かないと分かっていても、軟体な部分を狙うしかねぇようだな」
機械剣の一撃を受け、多少手痛いダメージを負ったと思われる大型の個体にロクスの渾身の一撃が振り下ろされた。グニャリとしたその身体にサーベルが飲み込まれるも、その衝撃で多少は一部を飛散させる。
「……切った感触が無いというのは度し難い」
舌打ち交じりにサーベルを歪虚から引き抜くと、ねっとりとした黒い液体がその刃に纏わりつく。同時に振り上げられた殻の一撃が彼の頭上を襲う。その一撃をサーベルの腹で受け流すと再び大降りの一撃をどす黒い身体へと見舞う。思うようなダメージが入っていないことは承知だが、それでもこの刃を振り下ろすことしか己には出来ないのだ。そうであるならばそれを精一杯に押し通す。それはまた、別の中型の個体を相手取るエステルにも同じことであった。
「小細工は要らないのです。例えそれがさほど効果が無いのだとしても、今こうしてわたくしがここに立っていることに意味があるのですから!」
敵の反撃を受け止めながらも斧一つで歪虚に対峙する姿は、まさに動かざる鉄壁の砦に見えただろう。そしてそれはまた決して引く事の無い勇敢なる獅子の姿であったのかもしれない。この街へ歪虚を通さないように、有効打を与えられる後衛に魔の手が迫らぬよう。一歩、そしてまた一歩と戦線を前へと押し遣る。
「ただ、一心に、この斧を振るうのです!」
振り下ろされたその半身よりも巨大な斧の一撃はグニャリと身体を歪ませ位置を変えて来た歪虚の殻が受け止める。ガキンと金属質な音を立て動きが止まるが、エステルはその斧に全力を全霊を込め、力任せに押し切った。
「Ghaaaaaaahhhhhhhhhhh!!!」
ミシリと音を立て殻にヒビが入り、その堅牢な鎧が真っ二つに砕け散る。そうして防衛手段を失った歪虚を包み込む強風。メトロノームの放った風の刃に細切れにされた歪虚は海へと向かって霧になっていった。
「マエストソ……素晴らしい旋律でした、エステルさん」
「ちょっと、限界も近かったですけどね」
そう言って肩で息をしながらも残る眼前の敵を目掛け斧を構えるエステルの背中に、メトロノームは鼓舞の意味を込めた旋律を奏で上げた。
「敵はあらかた片付いた、あと厄介なのはこいつだけだ」
先ほどから対峙している巨大なヘドロを前にロクスは再びサーベルを構え直す。その巨体から来るしぶとさか、対応している者が物理主体である事もあってか、他の個体よりも幾分時間が掛かっている様子であった。
「あともう一息だ、総力戦といこうじゃないか!」
もう一体の大型個体を倒し終え目標を合わせたケイトやジングの砲撃が半身となった歪虚の体を各所、霧散させていく。体の多くを欠損し、初見時よりはかなり小柄な姿となってしまった歪虚であるが、狂気の歪虚がしぶとい事は周知の事で尚もその巨大な殻を振り上げ眼前のハンター達をなぎ払おうとフルシングをかます。
「ぐぅ……!」
真横からのなぎ払いに、その先頭となっていたロクスはサーベルの腹で殻を受け止める。その勢いに、砂に二筋の足の後を残し押し遣られるロクス。しかし全身を使いサーベルを、その殻を押さえ、ついには一撃を耐え切った。
「押さえつけた、今だ!」
重圧から弾き飛ばされるのに耐えながら、ロクスが叫ぶ。
「聖なる輝きを……その身に!」
アデリシアが至近距離から放つ光弾。その一撃により歪虚のクレーターのような深い穴が出来る。
「人々の平和を守る為……ざくろの想いを力に変え輝け、光の剣ッ!」
そのクレーターに突きこまれたマテリアルの刃。深く突き入れられたその刃はそのまま扉をこじ開けるように歪虚の体の中を突き上げられ、その身をザックリと両断した。
「――終わったようだな。全く、手古摺らせてくれる」
最後に残っていた小型のヘドロにトドメの刃を突きたてながら、クラウスは大型歪虚が霧散していくのをその目で見ていた。
「わたくし、お腹が空きましたわ! この辺りの名物は何なのでしょう!? イカ、タコ? お酒も気になりますわね! あれ……皆さん、どうさなれました?」
遠巻きに戦いを終え集うハンター達の姿が見える。
エステルの提案に顔を青くするハンターの気持ちはなんとなく分からないでも無い。ふとその足元に何かキラキラと輝くものを見つける。エステルが砕いた中型歪虚の殻の破片であった。破片とは言っても元の大きさが大きさだったため拳で包む程度のサイズはあり、それは夏の太陽の日差しを浴び、キラキラと表面を虹色に輝かせていた。
「……ヤツ等、貝選びのセンスはあったらしい。霧散しないのであれば、あの受付嬢に土産にでも持って帰るか」
そう言いながら、静けさを取り戻したヴァリオスの海を再び見やるのであった。
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作戦相談卓 ケイト・グラス(ka0431) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/08/20 12:09:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/16 22:27:24 |