ゲスト
(ka0000)
【龍鉱】ふと、ももの節句
マスター:韮瀬隈則

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/10 07:30
- 完成日
- 2016/03/18 18:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
北の遺跡にも春は訪れるのだろうか?
──カムラディ拠点防衛作戦。
忘れられた冬の庭園。枯れ果てた敷地に積もるように残る龍鉱石は、雪にも氷柱にも似て、作戦に参加するハンター達の凍えそうな気持ちばかりを加速させる。
リアルブルーならばそろそろ早春の花を愛でる地域もあるだろうに、と、プリケッタ・ケモンスカヤは心中の手帳をめくる動作をし、そうだあれは雛祭というのだったと思い当たる。
「チョーさんチョーさん、雛祭ってそろそろですよね。3月3日! 私、昔に通販した同人誌でしか知らないんですけど……弦楽と桃の花の香りの中、美形同士が緋毛氈のうえで十二単を着る祭りですよね!?」
ハァハァ……
紅潮させた頬とキラキラ目で詰問されて、彼女に同行するシモン・チョウは迷惑そうに否定した。
「そりゃ日本ローカルの更に特殊事例じゃねぇか。俺は桃の節句ってので、美形同士じゃなく女の子同士のをイラストサイトで見たぞ。あと、中国系じゃ上巳節。昔は曲水の宴や野遊びをしてたそうだ。そう、いま探索してるみたいな庭園で、男女のお見合い兼ねてなァ!」
くっそ、俺にも出会いが欲しいぜ。
シモンは拳を握り締めて天を見上げて泣き真似をした。
二人のハンターは現在、過去、そして想定される未来ともド貧乏である。
二人のハンターは現在、龍鉱石探索プロジェクトの一環に従事中である。
二人のハンターは未来ある展望を掴むために努力を惜しまない。
まぁ、ぶっちゃけピンク色の欲望を満たすための報酬目当て、であった。
「それにしても、雅な庭園ですよねぇ……私達が手分けしてるトコロだけで、西方とも東方とも違う様式の築山と泉がありますよ。凍ってますけど。心なしか、桃の花の香りが感じられます」
「あぁー。早くがっぽり龍鉱石見つけてさ、俺も曲水の合コンしたいぜ、あんなふうにな! ってか、おまえら祝宴あげるなら呼んでくれよ!」
シモンが指差して駆け寄る先。
そこには既に、雛壇状の築山に散らばる幾多の龍鉱石と、防寒具を脱ぎ楽器を奏でて白酒で祝杯をあげるハンター仲間達が、遅いじゃないかと二人を手招きしていたのである。
●
「ひょー! 宴会宴会! 男が俺以外6人で、女の子が4人とプリケッタさん? おいおい……アンバランスじゃねぇの? 合コンにはさ」
──ん?
君ら2名以外の当庭園探索従事者を募集したとき、追加枠は最大6名だぞ?
「え? 男性同士でくっつけばいいじゃないですか! 美形ミュージさん揃いだし!」
──どういう思考回路だ? 解決するのか、それで?
あと、募集要項に「楽器持参」とも指定してないぞ?
どんちゃんどんちゃん。
築山の一際高い位置から超絶イケメンが余興を勧めてくる。横に座る美幼女が扇であおぐと、白酒に漬けられた桃の香りがさらに立ち上る。その酒の勺をしていた美女達は絶賛シモンと物理的に絡み中であり、それを囃すように楽器演奏していたミュージさん達同士が自分達も絡み始め、プリケッタにも混ざるように手を引いていた。
「うひゃひゃ! 太腿できゅ☆きゅ☆きゅっ☆っと幸せ固めに幸せ投げッスかぁ? お姉さんたちのプロレスごっこ、大胆すぎぃ!」
「いやいやいや、脱ぎません! 私は見てるだけで! 間に挟まるより見てるだけで! あえて混ざるなら応援するほうで! ……楽器って呼び笛しか持って来てないけど吹きますね」
ぴるぴるぴー☆
なんとも調子っぱずれな警笛が、北の遺跡の枯れ庭園に響き渡った。
●
──駆けつけた本来の仲間たちが見たものは、イニシャライザーを放り投げ、酩酊あるいは衰弱し、10匹ほどの小型竜種とプロレスごっこに興じる2人の姿である。
2人の目は正体を無くし、しかし幸せそうに、リザードマンサイズのワイバーンもどきと戯れている。
飛行する力も、武器を持つ腕も無く。
しかし、その発達した大腿部を多用する攻撃は、何らかの原因による酩酊と装備を失った衰弱を巧みについて、無抵抗の彼らを確実に死に至らしめるだろう。
「おい大丈夫か! 今行くぞ!」
交戦に割り込もうとするハンター達だったが、しかし──
鼻腔を心地よくくすぐる桃の香り、天上の音楽にも似た管楽、そして、うっとり瞳孔が開いたシモンとプリケッタの戯言に眩暈を催す。
「あ! 敵だよ、敵! よーし、幸せ投げでやっつけちゃうぞ☆」
いや、どうしようね? この地獄絵図……
北の遺跡にも春は訪れるのだろうか?
──カムラディ拠点防衛作戦。
忘れられた冬の庭園。枯れ果てた敷地に積もるように残る龍鉱石は、雪にも氷柱にも似て、作戦に参加するハンター達の凍えそうな気持ちばかりを加速させる。
リアルブルーならばそろそろ早春の花を愛でる地域もあるだろうに、と、プリケッタ・ケモンスカヤは心中の手帳をめくる動作をし、そうだあれは雛祭というのだったと思い当たる。
「チョーさんチョーさん、雛祭ってそろそろですよね。3月3日! 私、昔に通販した同人誌でしか知らないんですけど……弦楽と桃の花の香りの中、美形同士が緋毛氈のうえで十二単を着る祭りですよね!?」
ハァハァ……
紅潮させた頬とキラキラ目で詰問されて、彼女に同行するシモン・チョウは迷惑そうに否定した。
「そりゃ日本ローカルの更に特殊事例じゃねぇか。俺は桃の節句ってので、美形同士じゃなく女の子同士のをイラストサイトで見たぞ。あと、中国系じゃ上巳節。昔は曲水の宴や野遊びをしてたそうだ。そう、いま探索してるみたいな庭園で、男女のお見合い兼ねてなァ!」
くっそ、俺にも出会いが欲しいぜ。
シモンは拳を握り締めて天を見上げて泣き真似をした。
二人のハンターは現在、過去、そして想定される未来ともド貧乏である。
二人のハンターは現在、龍鉱石探索プロジェクトの一環に従事中である。
二人のハンターは未来ある展望を掴むために努力を惜しまない。
まぁ、ぶっちゃけピンク色の欲望を満たすための報酬目当て、であった。
「それにしても、雅な庭園ですよねぇ……私達が手分けしてるトコロだけで、西方とも東方とも違う様式の築山と泉がありますよ。凍ってますけど。心なしか、桃の花の香りが感じられます」
「あぁー。早くがっぽり龍鉱石見つけてさ、俺も曲水の合コンしたいぜ、あんなふうにな! ってか、おまえら祝宴あげるなら呼んでくれよ!」
シモンが指差して駆け寄る先。
そこには既に、雛壇状の築山に散らばる幾多の龍鉱石と、防寒具を脱ぎ楽器を奏でて白酒で祝杯をあげるハンター仲間達が、遅いじゃないかと二人を手招きしていたのである。
●
「ひょー! 宴会宴会! 男が俺以外6人で、女の子が4人とプリケッタさん? おいおい……アンバランスじゃねぇの? 合コンにはさ」
──ん?
君ら2名以外の当庭園探索従事者を募集したとき、追加枠は最大6名だぞ?
「え? 男性同士でくっつけばいいじゃないですか! 美形ミュージさん揃いだし!」
──どういう思考回路だ? 解決するのか、それで?
あと、募集要項に「楽器持参」とも指定してないぞ?
どんちゃんどんちゃん。
築山の一際高い位置から超絶イケメンが余興を勧めてくる。横に座る美幼女が扇であおぐと、白酒に漬けられた桃の香りがさらに立ち上る。その酒の勺をしていた美女達は絶賛シモンと物理的に絡み中であり、それを囃すように楽器演奏していたミュージさん達同士が自分達も絡み始め、プリケッタにも混ざるように手を引いていた。
「うひゃひゃ! 太腿できゅ☆きゅ☆きゅっ☆っと幸せ固めに幸せ投げッスかぁ? お姉さんたちのプロレスごっこ、大胆すぎぃ!」
「いやいやいや、脱ぎません! 私は見てるだけで! 間に挟まるより見てるだけで! あえて混ざるなら応援するほうで! ……楽器って呼び笛しか持って来てないけど吹きますね」
ぴるぴるぴー☆
なんとも調子っぱずれな警笛が、北の遺跡の枯れ庭園に響き渡った。
●
──駆けつけた本来の仲間たちが見たものは、イニシャライザーを放り投げ、酩酊あるいは衰弱し、10匹ほどの小型竜種とプロレスごっこに興じる2人の姿である。
2人の目は正体を無くし、しかし幸せそうに、リザードマンサイズのワイバーンもどきと戯れている。
飛行する力も、武器を持つ腕も無く。
しかし、その発達した大腿部を多用する攻撃は、何らかの原因による酩酊と装備を失った衰弱を巧みについて、無抵抗の彼らを確実に死に至らしめるだろう。
「おい大丈夫か! 今行くぞ!」
交戦に割り込もうとするハンター達だったが、しかし──
鼻腔を心地よくくすぐる桃の香り、天上の音楽にも似た管楽、そして、うっとり瞳孔が開いたシモンとプリケッタの戯言に眩暈を催す。
「あ! 敵だよ、敵! よーし、幸せ投げでやっつけちゃうぞ☆」
いや、どうしようね? この地獄絵図……
リプレイ本文
●
地獄絵図のモチーフは凍河と灼熱と亡者の群れである。ならば、この庭園の様子はまさに地獄そのものであった。
「なにこの阿鼻叫喚……」
時音 ざくろ(ka1250)のいう叫喚地獄と阿鼻地獄は悪徳に飲酒邪淫の罪の果て。冴え渡る鋭敏視覚が逆効果だ。
「理解したくない細かい事情があるんだよね? ね?」
顔を赤らめたざくろをの肩を、アルラウネ(ka4841)が抱いて宥める。
「ざくろん、あれは夢よ。夢は寝てみるものよ? 大丈夫。あとで私が天国の夢で上書きするから」
夢は寝てみろのラブ活用形が、自分にも言い聞かせる口調なのも納得の惨状である。
「あの人達、あれが素だったりしないでしょうね? ワイバーンの術中だと思うけど、頭の大丈夫じゃなさっぷりが妙にリアルで厭ンなのだけど?」
同じく観測をしていたティス・フュラー(ka3006)が仲間に確認する。
そういえば元からちょっとおかしかったし、幸も薄そうだった。
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)がオフィスでであった時の二人を回想して頷く。
「幸せ……投げ、あの方々に福音は遠い。しかし、若い身空でやっつけで幸福を投げだして宜しいものでしょうか?」
いいえ! 小さな幸せを護るのが私!
二人のヒエラルキーに共感するものがあったのか? 叫んで吶喊していくレイを、慌ててレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が追う。
「幸せの前にイニシャライザーを護らねぇと不味いってェの! ちくしょう、どうしてこうなった!?」
まずはあの邪魔な敵を引き剥がさないと、深呼吸しハンマー「ロンペール」を振り上げる。
「☆ とか語尾につけてる場合じゃねぇぞ! 今は「いいね!」だと身体に教えてやらぁ! 喰らえ渾身のハートマークぅ」
──ん?
「貴方様がたが人でなしなのは承知……が、幸薄いお二方への前に、私にお導きを戴きとうございます」
──おい!
レイオスだけではない。シモンとプリケッタを庇うレイまでも、男らしく前屈みになって妙なセリフを口走っている。
「んはぁ! オネェたんをクンカクンカしたいお! 間違えた、腿をモフモフしたいお!」
速攻で堕ちた男性2名の姿に女性陣はドン引きである。
「はゎゎ……生脚美女? ううん竜?」
ざくろは目に映る敵の異様さにアルラの胸に顔を埋めて震え、ティスも抵抗するように自分のぼんの窪をチョップする。
救いは竜が男性陣二人に釘付けになった事であるが、そこにあぶれたプリケッタとシモンが襲ってくる。
「オネェちゃんが更に4人、俺の脚は3本なのに足りなくね?」
「シモンさん相手違いますよ! さっきの男性達の間に挟まりましょうよ!」
さらりと下ネタを混ぜ込んでくるのに、静観していたエルバッハ・リオン(ka2434)が分析する。
「幻惑攻撃ですか。厄介ですね。とりあえず、寝言も寝てから言ってもらう方向で構いませんね?」
「蹴り戴きました! ピンヒールの先が釘みたいでくぎゅぅ!」
レイのハスハスが益々ヤバいセリフを吐き出した。
素か防衛行動か、前屈み体勢が敵の脚攻撃を蹴りに限定させているのが不幸中の幸いであるが、この重症さ──彼は超嗅覚発動中ではなかったか?
確実にヤバげなこの香り……
男性陣吶喊の成果は、酒の香りに幻惑要因があるとの判明。さらにシモンとプリケッタが痛飲したらしき残香にも効果がある件だ。
「動き回られては……」
「困りますので!」
エルバッハとティスが目配せをする。
生体ならばスリープクラウドが効く。竜にも効くかは期待薄だが、幻惑対象が眠れば彼らの思惑が狂う。そこを数の不利を覆す……
そしてなにより──
((ちっ……近づきたくないのよね。ないのですよ!))
射程ぎりぎりまで距離を推し量る。
あくまで──あくまで戦術上の行動である。
「しまった! 銃、忘れてるぅ! 息止めれば大丈夫かな?」
「ざくろん。毒ガス戦の基本は風上よね? 相手の上を取ればよいの。ざくろんは上になるの好き?」
近接に全振りしたざくろに、アルラウネが戦術を整える。ちょっと文脈がおかしいのは、レイオスが桃香薫る酒器を片手に半裸で近づいてきたからである。
「かけつけ三杯飲み勝負といこうじゃねぇの! な☆ オネェちゃん?」
大人のプロレスごっこだぜぇ☆ と、語尾に☆をつけて迫ってくるのは、篭絡が深いためか、ハートマークが機種依存文字のためか? 大問題は、半裸なのが下半身のほうだった件だ。
「脚を大きく開いてばっちこーい☆」
ぱっかぱっかと開閉するレイオスの毛脛──
「「厭ぁぁっ!」」
誰の悲鳴だろう?
スリープクラウドの霧に幻惑された4人が崩れ、ウィンドスラッシュに酒器が割られる。
一瞬で展開されたざくろの攻性防壁が飛沫を弾き、鞘に収められたままのアルラウネの大太刀「鬼霧雨」がレイオスを真っ逆さまに凍った小川に突き落とす。
表面の氷が割れ、水面から\ /の形に毛脛が突き出す映画っぽい光景で、様相は悪夢の桃源郷から事件現場に様変わりした。
「竜がフリーなうちに! お願い!」
件の酒器は合計3つ。残りの2つは雛壇の小型竜が扇いでいる。幻惑アイテムを持たない敵数を減らすなら今のうち。
エルバッハとティスに竜を任せ、水音で目を覚ました残り3人を今度は物理的に眠らせようと、ざくろが三角締め狙いでプリケッタに飛びつき、アルラウネがらきすけを装い挟まろうとするシモンに円の型【長夜】で殴り飛ばす。
「私のざくろんになにすんのよ!」
「え! ちょっとやだ、なにこの姿勢……」
技の途中でアルラvsシモンの巻き添えを食らったざくろが、恥かし固めでプリケッタもろとも築山を転げ落ちていく。レイオスの\ /で生じた氷のひび割れが、二人の体重で拡大したのだろう。軋みの後に水音が響く。
「ざくろんが貴方のせいで。お仕置きよ! えいえいっ」
アルラウネが八つ当たりでシモンを連打する音が心の琴線にツボヒットしたのかレイが混ざりに来る。
「姉上様……私が悪いことをしたのですね? そうなのですね?」
──混ざりに来る方向がそっちかよ!
白目を剥くシモンに、熱い吐息で身を捩らせるレイが身を重ねる。
なんか悦びに回復しちゃってない? アルラウネがげんなりする後ろから、這い上がったらしいプリケッタが暢気な声をかけた。
●
「傷つき庇いあう男と男、これで水も滴れば素敵ですよねー」
あなたも元気ハツラツじゃないっ!
慌ててざくろを探すアルラウネに、こっちこっちと川の中からざくろが手を振っている。
「これ、マテリアルの泉ですー。異常と体力が直る感じー」
全く回復してないように見えるのは、腐と属性持ちは素ということか?
とりあえずシモンとレイを川に蹴り落とし、オネェちゃん竜を火球と風撃の絶妙コンボで片付けたエルバッハとティスを手招きする。
「ダメ、築山に陣取る一団には地形が邪魔で射程が届かない。風下のこっちの築山は盾にできない」
なんとか遠方狙撃を考えていたエルバッハが肩をすくめる。結局は吶喊、か……
「元は弱いわね、ワイバーンのなり損ない。幻惑以外蹴りしかないみたい」
で、幻惑からの装備放棄と同士討ちだけど、やっぱり属性の化学反応こわいしねぇ……と溜息をつく。
思うより広い幻惑の効果範囲に射程が届かないのが口惜しい。
「ドふざけた敵だが統率的な連携だ。すぐ正気を取り戻しながら吶喊する方法が……」
──あるじゃないか!
一斉にレイオスの肩が叩かれる。
「イニシャライザーを鼻に詰めれば無くさないし一石二鳥です」
レイがイイ笑顔でレイオスの鼻に予備のイニシャライザーを押し込む。ピッタリだ!
「さぁ皆様もどうぞ」
と勧めるレイを余所に、川の氷を耕して来いと皆にレイオスが送り出される。エルバッハが地面に攻略図を描いていく。敵本陣周囲を半周する川と泉。かくして──桃源郷攻城戦が開始された。
●
「CAM兼用武器は伊達じゃねぇ! 今度こそ喰らえ渾身のアイスクラッシュ!」
レイオスの鼻声が破砕音に混じってこだまする。河川を耕耘進軍するのだから敵が気づかない筈がない。
「そのまま引きつけて、一気に行く」
「射程までは私の陰、吶喊の際は援護とスナイプを宜しくお願いいたします」
エルバッハの作戦確認に同じく鼻声でレイが頷く。不安要素は同行するプリケッタだが傍観型の腐である彼女の化学反応は控えめと信じたい。
築山の雛壇は小規模だが堅固な山城だ。司令塔が采配の手を振るえば、幼女が幻惑の香りをハンターにむける。香りが指向性をもって拡がり、幻惑されたハンターを襲わんとオス竜どもの構え。
「策定位置到着、竜どもの反応が早い。連携未確認だが状況を開始する!」
エルバッハのワンドが火を吹いた。
敵前衛にも届かぬは承知の上、目的はレイオス、レイ、プリケッタの吶喊支援であり、さらに──
鋭い風切り音が、竜どもの背後からその粗末な翼を切り裂いた。
「射程圏、敵全域。鍛えた甲斐があったってものね」
差し伸べたティスの片腕に八卦鏡「止水」が煌めく。築山周りの川沿いに、正面と背後からの挟撃強襲。桃花の香りと布陣に指向性が発生すれば、彼女の射程は風下のハンデを超越する。
「一気に接近します! 援護続けてお願い!」
「ざくろん、背中は私が護るから暴れていらっしゃい!」
慌てて方向転換する竜の隙を突いて、ざくろとアルラウネが築山を駆け上がる。横撃部隊──彼女達に即応すれば正面戦が疎かになり、頭数を分割すれば方面戦力は低下する。指向性の幻惑など、恐れるに足りない作戦であった。
──が……
ふらり、とざくろが震えだし、雄たけびをあげるオス竜に幸せ固めをかけられる。
「男の毛脛とか、ざくろ間に合ってるから! イケメンとか興味ないから!」
「私が間に合わせてるのよ! 毛脛と永久脱毛の太腿勝負だったら負けないわよ!」
即応したアルラウネもセリフがおかしい。
貴女達……と助けに走るティスに、シモンが後出し情報を出す。
「そういやプリケッタさん、ミュージさんの声聞いた途端、乙女ロードが恋しくなったって言ってた」
「ちょっ、早く言いなさいよ! 二人とも川まで下がって……うっ」
がばぁっとコートを肌蹴て美脚をほりだしたアルラウネを、シモンに川まで引きずらせるが、肝心の自分の退避が一瞬遅れる。
「お姉さまぁ、助けて!」
オス竜に寝技に持ち込まれては、ティスといえども平常心を失っても仕方ない。救いに頭の中で「凶器、凶器!」と囁いたのは心中のお姉様か、内なる闘志か? 懐から姉と同名の魔導書を取り出すと、イケメンことオス竜の弁慶の泣き所を連打する。
ばちこん! ばちこん! ばちこん! ばちこん!
脳内お姉様の「顔はやめな、ボディにしな」の指示。お手製装丁による角に填め込まれた隅金が、頭を狙うより命中率的にイイ仕事をしてくれた。お姉様GJ!
さて、涙目のティスが川を振り向き唖然とする。安否を案じたアルラウネが半裸どころか全裸で水辺に座り、膝枕を作ってぽんぽんっと誘っているのである。
「安心して頂戴、穿いてるわよ」
肌色の装備を見せつつも母性溢れるその風格……まさにダメハンター製造機!
「バブー!」
シモンが速攻膝にダイブし次の瞬間、川に叩き込まれる。なおも振りまかれる母性と全裸っぷりに、なんとオス竜までもが膝に吸い寄せられては声を封じられ、水中に寝かしつけられていく。おそるべし定置網漁法であった。
「ダメぇ! アルラのお膝はざくろのだもん!」
フリーになったざくろがジェットブーツで竜に跳び蹴りを喰らわせ、そのままアルラの膝に顔を埋める。
「ふふ、甘えん坊さんね」
まさに地獄に仏と抱き合う二人だが、つい悦びのあまり締め技を掛け合い、川に転がり流れていく。水はまだ冷たいがマテリアルの泉なのできっと大丈夫だろう。
──時を前後して正面突破方面にも、音声幻惑でのアクシデントが襲い掛かっていた。
横撃による隙に一気に距離を詰めた彼らは、幼女の持つ酒器の破壊に邁進する。
カラリ。と1つの酒器が横撃部隊の風撃で弾かれ、呼応するエルバッハの炎で灼かれて消える。側近5匹のうち直衛に残るは1匹。あと1つの酒器さえ壊せば、雑魚が3匹も同然であった。
鼻にみっしりイニシャライザーを詰めたレイとレイオスが、酒器を庇う幼女から奪わんと同時多面攻撃を仕掛けたその時。護衛のオス竜がひときわ高く雄たけびをあげた。
「ぶっ!」
幼女が崩れる。酒器が宙に舞いレイオスを直撃する。ぱたたっと飛沫音と立ててレイオスの顔面を穢す。
「あああ、白酒(比喩)が」
「早く。コーラで洗えば大丈夫です」
──血迷ったプリケッタが無駄に(比喩)と注釈を入れたせいで、影響されたレイが出典不明の民間療法で川の水を運用しようと退却にかかる。
「いやいや、なにか声が原因らしい。敵の口を塞ぐかこちらの耳を塞ぐか……」
横撃部隊の様子と連携していたエルバッハが対処を伝えるも、幻惑的に手遅れであった。
「口を塞ぐ……そうか!」
「違っ……そっちの口じゃ、こんな大きいの、入らなっ……」
レイが手頃な龍鉱石をレイオスの口に突っ込む。プリケッタ大興奮だが、レイオスは目を白黒させてロープを手探りすることしかできない。
「ギブ、ギブ!」
「きゃぁ! なにをする!」
やっと掴んだ紐状の物がよりによってエルバッハの着る「カプリチョーザ」のサッシュベルトであり、耳を両手で塞ぐ彼女の奇抜なドレスは一気に脱げ落ちるまま、肢体を彩る深紅の薔薇文様を冬の庭園に晒していく。
「魅せるタイミングと演出にはこだわりがあるんだから、やり直しっ! いまのカット!」
──美学を極める彼女のらきすけ道は険しく厳しい。
フレンドリーファイヤー防止に自粛していた近距離ファイアーボールが薔薇に映える。口呼吸と骨伝導が盲点であったエルバッハもやっぱりちょっとダメだった。
●
ざっざっ。今は静かな庭園に水音と砂利の擦れる音が響く。
「これを機に、目先の欲望より抵抗力重視で装備を整えるのが良いと思う」
「ご褒美をあげるから、ガッツリ回収しましょうね? 大丈夫よ、ざくろんのご褒美は帰ったらたっぷり、ね?」
プリケッタとシモンの龍鉱石回収を監督するエルバッハの言葉が、実感こもりすぎなのは気のせいか? アルラウネのダメハンター更正機能力も未知数で怖い。
「もう脅威はないから、ゆっくり確実にね?」
「ああ、大きいと入らないものな。荷台に……」
ガッスガッス。凝り固まったさざれ龍鉱石をティスとレイオスが砕く。
本の角で。遠い目で。
「雅に楽しき春の宴でございました……」
レイが提出した報告書の一文である。
──そういうことにしよう、そうしよう。
地獄絵図のモチーフは凍河と灼熱と亡者の群れである。ならば、この庭園の様子はまさに地獄そのものであった。
「なにこの阿鼻叫喚……」
時音 ざくろ(ka1250)のいう叫喚地獄と阿鼻地獄は悪徳に飲酒邪淫の罪の果て。冴え渡る鋭敏視覚が逆効果だ。
「理解したくない細かい事情があるんだよね? ね?」
顔を赤らめたざくろをの肩を、アルラウネ(ka4841)が抱いて宥める。
「ざくろん、あれは夢よ。夢は寝てみるものよ? 大丈夫。あとで私が天国の夢で上書きするから」
夢は寝てみろのラブ活用形が、自分にも言い聞かせる口調なのも納得の惨状である。
「あの人達、あれが素だったりしないでしょうね? ワイバーンの術中だと思うけど、頭の大丈夫じゃなさっぷりが妙にリアルで厭ンなのだけど?」
同じく観測をしていたティス・フュラー(ka3006)が仲間に確認する。
そういえば元からちょっとおかしかったし、幸も薄そうだった。
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)がオフィスでであった時の二人を回想して頷く。
「幸せ……投げ、あの方々に福音は遠い。しかし、若い身空でやっつけで幸福を投げだして宜しいものでしょうか?」
いいえ! 小さな幸せを護るのが私!
二人のヒエラルキーに共感するものがあったのか? 叫んで吶喊していくレイを、慌ててレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が追う。
「幸せの前にイニシャライザーを護らねぇと不味いってェの! ちくしょう、どうしてこうなった!?」
まずはあの邪魔な敵を引き剥がさないと、深呼吸しハンマー「ロンペール」を振り上げる。
「☆ とか語尾につけてる場合じゃねぇぞ! 今は「いいね!」だと身体に教えてやらぁ! 喰らえ渾身のハートマークぅ」
──ん?
「貴方様がたが人でなしなのは承知……が、幸薄いお二方への前に、私にお導きを戴きとうございます」
──おい!
レイオスだけではない。シモンとプリケッタを庇うレイまでも、男らしく前屈みになって妙なセリフを口走っている。
「んはぁ! オネェたんをクンカクンカしたいお! 間違えた、腿をモフモフしたいお!」
速攻で堕ちた男性2名の姿に女性陣はドン引きである。
「はゎゎ……生脚美女? ううん竜?」
ざくろは目に映る敵の異様さにアルラの胸に顔を埋めて震え、ティスも抵抗するように自分のぼんの窪をチョップする。
救いは竜が男性陣二人に釘付けになった事であるが、そこにあぶれたプリケッタとシモンが襲ってくる。
「オネェちゃんが更に4人、俺の脚は3本なのに足りなくね?」
「シモンさん相手違いますよ! さっきの男性達の間に挟まりましょうよ!」
さらりと下ネタを混ぜ込んでくるのに、静観していたエルバッハ・リオン(ka2434)が分析する。
「幻惑攻撃ですか。厄介ですね。とりあえず、寝言も寝てから言ってもらう方向で構いませんね?」
「蹴り戴きました! ピンヒールの先が釘みたいでくぎゅぅ!」
レイのハスハスが益々ヤバいセリフを吐き出した。
素か防衛行動か、前屈み体勢が敵の脚攻撃を蹴りに限定させているのが不幸中の幸いであるが、この重症さ──彼は超嗅覚発動中ではなかったか?
確実にヤバげなこの香り……
男性陣吶喊の成果は、酒の香りに幻惑要因があるとの判明。さらにシモンとプリケッタが痛飲したらしき残香にも効果がある件だ。
「動き回られては……」
「困りますので!」
エルバッハとティスが目配せをする。
生体ならばスリープクラウドが効く。竜にも効くかは期待薄だが、幻惑対象が眠れば彼らの思惑が狂う。そこを数の不利を覆す……
そしてなにより──
((ちっ……近づきたくないのよね。ないのですよ!))
射程ぎりぎりまで距離を推し量る。
あくまで──あくまで戦術上の行動である。
「しまった! 銃、忘れてるぅ! 息止めれば大丈夫かな?」
「ざくろん。毒ガス戦の基本は風上よね? 相手の上を取ればよいの。ざくろんは上になるの好き?」
近接に全振りしたざくろに、アルラウネが戦術を整える。ちょっと文脈がおかしいのは、レイオスが桃香薫る酒器を片手に半裸で近づいてきたからである。
「かけつけ三杯飲み勝負といこうじゃねぇの! な☆ オネェちゃん?」
大人のプロレスごっこだぜぇ☆ と、語尾に☆をつけて迫ってくるのは、篭絡が深いためか、ハートマークが機種依存文字のためか? 大問題は、半裸なのが下半身のほうだった件だ。
「脚を大きく開いてばっちこーい☆」
ぱっかぱっかと開閉するレイオスの毛脛──
「「厭ぁぁっ!」」
誰の悲鳴だろう?
スリープクラウドの霧に幻惑された4人が崩れ、ウィンドスラッシュに酒器が割られる。
一瞬で展開されたざくろの攻性防壁が飛沫を弾き、鞘に収められたままのアルラウネの大太刀「鬼霧雨」がレイオスを真っ逆さまに凍った小川に突き落とす。
表面の氷が割れ、水面から\ /の形に毛脛が突き出す映画っぽい光景で、様相は悪夢の桃源郷から事件現場に様変わりした。
「竜がフリーなうちに! お願い!」
件の酒器は合計3つ。残りの2つは雛壇の小型竜が扇いでいる。幻惑アイテムを持たない敵数を減らすなら今のうち。
エルバッハとティスに竜を任せ、水音で目を覚ました残り3人を今度は物理的に眠らせようと、ざくろが三角締め狙いでプリケッタに飛びつき、アルラウネがらきすけを装い挟まろうとするシモンに円の型【長夜】で殴り飛ばす。
「私のざくろんになにすんのよ!」
「え! ちょっとやだ、なにこの姿勢……」
技の途中でアルラvsシモンの巻き添えを食らったざくろが、恥かし固めでプリケッタもろとも築山を転げ落ちていく。レイオスの\ /で生じた氷のひび割れが、二人の体重で拡大したのだろう。軋みの後に水音が響く。
「ざくろんが貴方のせいで。お仕置きよ! えいえいっ」
アルラウネが八つ当たりでシモンを連打する音が心の琴線にツボヒットしたのかレイが混ざりに来る。
「姉上様……私が悪いことをしたのですね? そうなのですね?」
──混ざりに来る方向がそっちかよ!
白目を剥くシモンに、熱い吐息で身を捩らせるレイが身を重ねる。
なんか悦びに回復しちゃってない? アルラウネがげんなりする後ろから、這い上がったらしいプリケッタが暢気な声をかけた。
●
「傷つき庇いあう男と男、これで水も滴れば素敵ですよねー」
あなたも元気ハツラツじゃないっ!
慌ててざくろを探すアルラウネに、こっちこっちと川の中からざくろが手を振っている。
「これ、マテリアルの泉ですー。異常と体力が直る感じー」
全く回復してないように見えるのは、腐と属性持ちは素ということか?
とりあえずシモンとレイを川に蹴り落とし、オネェちゃん竜を火球と風撃の絶妙コンボで片付けたエルバッハとティスを手招きする。
「ダメ、築山に陣取る一団には地形が邪魔で射程が届かない。風下のこっちの築山は盾にできない」
なんとか遠方狙撃を考えていたエルバッハが肩をすくめる。結局は吶喊、か……
「元は弱いわね、ワイバーンのなり損ない。幻惑以外蹴りしかないみたい」
で、幻惑からの装備放棄と同士討ちだけど、やっぱり属性の化学反応こわいしねぇ……と溜息をつく。
思うより広い幻惑の効果範囲に射程が届かないのが口惜しい。
「ドふざけた敵だが統率的な連携だ。すぐ正気を取り戻しながら吶喊する方法が……」
──あるじゃないか!
一斉にレイオスの肩が叩かれる。
「イニシャライザーを鼻に詰めれば無くさないし一石二鳥です」
レイがイイ笑顔でレイオスの鼻に予備のイニシャライザーを押し込む。ピッタリだ!
「さぁ皆様もどうぞ」
と勧めるレイを余所に、川の氷を耕して来いと皆にレイオスが送り出される。エルバッハが地面に攻略図を描いていく。敵本陣周囲を半周する川と泉。かくして──桃源郷攻城戦が開始された。
●
「CAM兼用武器は伊達じゃねぇ! 今度こそ喰らえ渾身のアイスクラッシュ!」
レイオスの鼻声が破砕音に混じってこだまする。河川を耕耘進軍するのだから敵が気づかない筈がない。
「そのまま引きつけて、一気に行く」
「射程までは私の陰、吶喊の際は援護とスナイプを宜しくお願いいたします」
エルバッハの作戦確認に同じく鼻声でレイが頷く。不安要素は同行するプリケッタだが傍観型の腐である彼女の化学反応は控えめと信じたい。
築山の雛壇は小規模だが堅固な山城だ。司令塔が采配の手を振るえば、幼女が幻惑の香りをハンターにむける。香りが指向性をもって拡がり、幻惑されたハンターを襲わんとオス竜どもの構え。
「策定位置到着、竜どもの反応が早い。連携未確認だが状況を開始する!」
エルバッハのワンドが火を吹いた。
敵前衛にも届かぬは承知の上、目的はレイオス、レイ、プリケッタの吶喊支援であり、さらに──
鋭い風切り音が、竜どもの背後からその粗末な翼を切り裂いた。
「射程圏、敵全域。鍛えた甲斐があったってものね」
差し伸べたティスの片腕に八卦鏡「止水」が煌めく。築山周りの川沿いに、正面と背後からの挟撃強襲。桃花の香りと布陣に指向性が発生すれば、彼女の射程は風下のハンデを超越する。
「一気に接近します! 援護続けてお願い!」
「ざくろん、背中は私が護るから暴れていらっしゃい!」
慌てて方向転換する竜の隙を突いて、ざくろとアルラウネが築山を駆け上がる。横撃部隊──彼女達に即応すれば正面戦が疎かになり、頭数を分割すれば方面戦力は低下する。指向性の幻惑など、恐れるに足りない作戦であった。
──が……
ふらり、とざくろが震えだし、雄たけびをあげるオス竜に幸せ固めをかけられる。
「男の毛脛とか、ざくろ間に合ってるから! イケメンとか興味ないから!」
「私が間に合わせてるのよ! 毛脛と永久脱毛の太腿勝負だったら負けないわよ!」
即応したアルラウネもセリフがおかしい。
貴女達……と助けに走るティスに、シモンが後出し情報を出す。
「そういやプリケッタさん、ミュージさんの声聞いた途端、乙女ロードが恋しくなったって言ってた」
「ちょっ、早く言いなさいよ! 二人とも川まで下がって……うっ」
がばぁっとコートを肌蹴て美脚をほりだしたアルラウネを、シモンに川まで引きずらせるが、肝心の自分の退避が一瞬遅れる。
「お姉さまぁ、助けて!」
オス竜に寝技に持ち込まれては、ティスといえども平常心を失っても仕方ない。救いに頭の中で「凶器、凶器!」と囁いたのは心中のお姉様か、内なる闘志か? 懐から姉と同名の魔導書を取り出すと、イケメンことオス竜の弁慶の泣き所を連打する。
ばちこん! ばちこん! ばちこん! ばちこん!
脳内お姉様の「顔はやめな、ボディにしな」の指示。お手製装丁による角に填め込まれた隅金が、頭を狙うより命中率的にイイ仕事をしてくれた。お姉様GJ!
さて、涙目のティスが川を振り向き唖然とする。安否を案じたアルラウネが半裸どころか全裸で水辺に座り、膝枕を作ってぽんぽんっと誘っているのである。
「安心して頂戴、穿いてるわよ」
肌色の装備を見せつつも母性溢れるその風格……まさにダメハンター製造機!
「バブー!」
シモンが速攻膝にダイブし次の瞬間、川に叩き込まれる。なおも振りまかれる母性と全裸っぷりに、なんとオス竜までもが膝に吸い寄せられては声を封じられ、水中に寝かしつけられていく。おそるべし定置網漁法であった。
「ダメぇ! アルラのお膝はざくろのだもん!」
フリーになったざくろがジェットブーツで竜に跳び蹴りを喰らわせ、そのままアルラの膝に顔を埋める。
「ふふ、甘えん坊さんね」
まさに地獄に仏と抱き合う二人だが、つい悦びのあまり締め技を掛け合い、川に転がり流れていく。水はまだ冷たいがマテリアルの泉なのできっと大丈夫だろう。
──時を前後して正面突破方面にも、音声幻惑でのアクシデントが襲い掛かっていた。
横撃による隙に一気に距離を詰めた彼らは、幼女の持つ酒器の破壊に邁進する。
カラリ。と1つの酒器が横撃部隊の風撃で弾かれ、呼応するエルバッハの炎で灼かれて消える。側近5匹のうち直衛に残るは1匹。あと1つの酒器さえ壊せば、雑魚が3匹も同然であった。
鼻にみっしりイニシャライザーを詰めたレイとレイオスが、酒器を庇う幼女から奪わんと同時多面攻撃を仕掛けたその時。護衛のオス竜がひときわ高く雄たけびをあげた。
「ぶっ!」
幼女が崩れる。酒器が宙に舞いレイオスを直撃する。ぱたたっと飛沫音と立ててレイオスの顔面を穢す。
「あああ、白酒(比喩)が」
「早く。コーラで洗えば大丈夫です」
──血迷ったプリケッタが無駄に(比喩)と注釈を入れたせいで、影響されたレイが出典不明の民間療法で川の水を運用しようと退却にかかる。
「いやいや、なにか声が原因らしい。敵の口を塞ぐかこちらの耳を塞ぐか……」
横撃部隊の様子と連携していたエルバッハが対処を伝えるも、幻惑的に手遅れであった。
「口を塞ぐ……そうか!」
「違っ……そっちの口じゃ、こんな大きいの、入らなっ……」
レイが手頃な龍鉱石をレイオスの口に突っ込む。プリケッタ大興奮だが、レイオスは目を白黒させてロープを手探りすることしかできない。
「ギブ、ギブ!」
「きゃぁ! なにをする!」
やっと掴んだ紐状の物がよりによってエルバッハの着る「カプリチョーザ」のサッシュベルトであり、耳を両手で塞ぐ彼女の奇抜なドレスは一気に脱げ落ちるまま、肢体を彩る深紅の薔薇文様を冬の庭園に晒していく。
「魅せるタイミングと演出にはこだわりがあるんだから、やり直しっ! いまのカット!」
──美学を極める彼女のらきすけ道は険しく厳しい。
フレンドリーファイヤー防止に自粛していた近距離ファイアーボールが薔薇に映える。口呼吸と骨伝導が盲点であったエルバッハもやっぱりちょっとダメだった。
●
ざっざっ。今は静かな庭園に水音と砂利の擦れる音が響く。
「これを機に、目先の欲望より抵抗力重視で装備を整えるのが良いと思う」
「ご褒美をあげるから、ガッツリ回収しましょうね? 大丈夫よ、ざくろんのご褒美は帰ったらたっぷり、ね?」
プリケッタとシモンの龍鉱石回収を監督するエルバッハの言葉が、実感こもりすぎなのは気のせいか? アルラウネのダメハンター更正機能力も未知数で怖い。
「もう脅威はないから、ゆっくり確実にね?」
「ああ、大きいと入らないものな。荷台に……」
ガッスガッス。凝り固まったさざれ龍鉱石をティスとレイオスが砕く。
本の角で。遠い目で。
「雅に楽しき春の宴でございました……」
レイが提出した報告書の一文である。
──そういうことにしよう、そうしよう。
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相談卓 ティス・フュラー(ka3006) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/03/09 12:51:13 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/09 03:12:50 |