ゲスト
(ka0000)
ホワイトデーセール
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/03/14 19:00
- 完成日
- 2016/03/19 02:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ホワイトデーですわ!」
開口一番、セレーネ・リコお嬢様が叫びました。
「まあ、この展開は、ある程度予測していたというか……」
バレンタインデーセールの次に来るとすればホワイトデーセールだろうと予想していた案内所受付のフィネステラ嬢が、やっぱりという顔でうなずきました。
「それで、ホワイトデーって、どんなお祭りなのでしょう?」
まずは、そこからでした。
ということで、急遽、商店街の案内所で勉強会が催されます。
「つまり、男の子から女の子にクッキーやキャンディーを送って、愛を告白すると」
「そのようですな。アイテムは変わっていますが、バレンタインデーと男女が逆になっただけともいえますが」
納得するお嬢様に、デレトーレ支配人が補足します。まあ、もともとは、バレンタインデーにチョコレートをもらった男の子が、女の子にお返しをするイベントだったようですが、商売にそんなことは関係ありません。拡大解釈万歳です。
「それでは、お客様にはささやかなクッキーを配るとして、後は、手作りコーナーとかワゴン販売ですわね」
まあ、ホワイトデーにかこつけられれば、何でも商売になるわけです。
「それでは、3月のホワイトデーセール、頑張ってくださいませ!」
開口一番、セレーネ・リコお嬢様が叫びました。
「まあ、この展開は、ある程度予測していたというか……」
バレンタインデーセールの次に来るとすればホワイトデーセールだろうと予想していた案内所受付のフィネステラ嬢が、やっぱりという顔でうなずきました。
「それで、ホワイトデーって、どんなお祭りなのでしょう?」
まずは、そこからでした。
ということで、急遽、商店街の案内所で勉強会が催されます。
「つまり、男の子から女の子にクッキーやキャンディーを送って、愛を告白すると」
「そのようですな。アイテムは変わっていますが、バレンタインデーと男女が逆になっただけともいえますが」
納得するお嬢様に、デレトーレ支配人が補足します。まあ、もともとは、バレンタインデーにチョコレートをもらった男の子が、女の子にお返しをするイベントだったようですが、商売にそんなことは関係ありません。拡大解釈万歳です。
「それでは、お客様にはささやかなクッキーを配るとして、後は、手作りコーナーとかワゴン販売ですわね」
まあ、ホワイトデーにかこつけられれば、何でも商売になるわけです。
「それでは、3月のホワイトデーセール、頑張ってくださいませ!」
リプレイ本文
●手作りクッキー会場
「ぴっ?」
何かが、星野 ハナ(ka5852)のお菓子センサーに引っ掛かりました。
通りの向こうから、何やら甘い匂いが漂ってきます。
「こ、これはっ……。私のお菓子レーダーにガッツリ訴えかけるこの何かは……。まさか!」
すぐに走りだしたハナの目の前に現れたのは、真新しい商店街のアーケードでした。
商店街は、全体が甘いいい香りにつつまれています。どうやら、ホワイトデーのセールのようです。入り口のアーチの部分にも、『祝ホワイトデー』という、看板が飾られていました。
「ここには、きっと、お宝がありますぅ! 絶対探し出してGETですぅ!」
そう叫ぶと、ハナは商店街に突入していきました。
「おかしいなあ、迷っているのかなあ……」
商店街入り口にある宅配馬車屋の軒先では、鬼塚 雷蔵(ka3963)が人待ちをしていました。
「はっ、もしかして、入れ違いになったとか!」
せっかく、今日はホワイトデーにかこつけたデート――のようなもので、お互いの距離を少しでも縮めようと思っていたのに、またすれ違いでは大変です。
「捜さねば!」
お手々つなぎイベントや、キスイベントとか、こなす課題は山盛りなのです。こうしてはいられません。雷蔵は、ハナに続いて商店街の奧へと走りだしていきました。
商店街では、春らしく華やかにデコレーションアップされたお店が、ホワイトデーセールの真っ最中です。お店の前には特売ワゴンがならび、クッキーやキャンディーが山盛りならべられていました。その前で、男の子たちが、何度も往復してちょっと買うのを恥ずかしがっていたり、腕組みしてクッキーを睨みつけたまま悩んでいたりしています。
「クッキーいかがですかあ。ただいま、商店街御来訪記念クッキーをお配りしていまーす」
案内所の前まで来ると、フィネステラ案内嬢の元気な声が聞こえてきました。
思わず、ハナのポニーテールの先が、案内所の方に靡いた気がします。アンテナ?
「どうぞ、お一つ」
「ありがとうですぅ」
フィネステラ嬢にクッキーの入った小袋をさし出されて、躊躇なくハナがそれを受け取りました。この世の美味しくて甘いお菓子は、すべてハナの物なのです。もしかして、これがお宝なのでしょうか。
綺麗に縛られていたリボンを解いて袋を開くと、ハナが中から星形をしたクッキーを一つつまみ出します。
「あーん」
ポイと口の中に放り込むと、それはホロホロと崩れて、バターのコクとほどよい甘みが口一杯に広がりました。
「あ、美味しいですぅ」
思わず、ハナが両手でほっぺをおさえて目を細めてしまいます。
「ここにもいないか……」
そんなハナの後ろを、雷蔵が走り抜けていきました。
「お買い求めは、こちらなのですー」
案内所の隣で、月・芙舞(ka6049)が、フィネステラ嬢が配っていたのと同じクッキーをワゴン販売しています。さすがは商売人の巣窟である商店会、抜け目がありません。
「ください!」
流れるように、そのままクッキーを買ってしまったハナでした。
そのまた隣では、手作りクッキー教室が開かれており、抜け目なく材料の特価販売が行われていました。
「今後の食材も買い込みですぅ♪」
さすがにここで作っている暇はないからと、ハナは材料だけ買い込んでいきました。
「ホワイトデーの商売は、どこも順調のようですね」
商店街の他のお店の様子を観察してきたミオレスカ(ka3496)が、案内所の周りに所狭しとならぶワゴンを見て言いました。
「クッキー、美味しそうですね」
見ているだけでは我慢できなくなって、思わず、ミオレスカも月のワゴンでクッキーを買います。
「そうか、ホワイトデーかあ」
何やら賑やかな街の様子と甘い香りに誘われてきた鳳凰院ひりょ(ka3744)が、案内所に掲げられた『ホワイトデー特別セール』という看板を見て、やっと納得しました。
で、ここはどこなのでしょうか。
確か、ひりょは港を歩いていたはずなのですが、いつの間に商店街に入り込んでしまったのでしょう。――謎です。
ホワイトデーと言えば、やはりバレンタインデーを思い出さずにはいられません。ひりょも、今年は妹からチョコレートをもらっていました。他にも、確か友達から一つだけもらっています。
これは、この商店街でクッキーを買って、お返しをしろという天啓でしょうか。
本来なら手作りのクッキーでお返しにするところですが、いかんせん突然でしたので準備もしていません。ここは、この商店街で材料を買い集めて……。しかし、作っている時間がないのでは……。やはり、できあいの物を……。
ひりょがあれこれと悩んでいるときでした。
「まもなく、手作りクッキー教室開始いたします」
ディレトーレ支配人が、案内所の外に出てきて言いました。これは、ひりょにとっては渡りに船です。さっそく、隣接する会場へとむかいます。
「交代いたしましょう」
「ありがとうございます」
支配人にワゴン販売を交代してもらうと、月がクッキー教室の方へと移動しました。
テントの下の大きなテーブルを囲むようにして、青空教室が開かれています。そこには、すでにミオレスカを始めとする生徒たちが集まっていました。そこに、ひりょも加わります。
「それでは、みなさん、よろしくお願いします」
白いエプロンを着けた月が、大きなテーブルの前に立ってクッキーの作り方を説明していきます。
同じようにエプロンを貸し出されたひりょとミオレスカが、お手本通りに粉をふるってバターなどと混ぜ合わせていきます。
生地が完成すると、のし棒で薄くのばしていきます。次は型抜きです。
「お好きな型で、形を整えてください」
月の指示で、ミオレスカやひりょを始めとする生徒たちが、星形や動物型など、思い思いの形に生地を型抜きしていきます。
「トッピングもいいかも」
ミオレスカが、干しぶどうを生地の上にならべます。
さあ、後は用意されたオーブンで焼くだけです。
ほどなくして、無事にクッキーが焼きあがりました。火加減は、月が目を懲らして見ていましたのでバッチリです。
「これで、仕入れはバッチリです」
たくさん作ったクッキーをかかえて、ミオレスカがCAM像の方へむかいます。
「なかなかのでき……かな?」
うまく焼きあがった自分のクッキーをもらって、ひりょがちょっと顔ほころばせました。
こうなってくると、何か別の物をセットにして、ちゃんとしたプレセントにしたくなります。そうそう、メッセージカードも忘れてはいけないではありませんか。
「それで、お店はどこだろう?」
プレゼントにいい小物を探して、ひりょはあっちへふらふらこっちへふらふらと歩き始めました。同じようにキョロキョロしている女の子とぶつかりそうになって、あわててひりょが避けます。
「凄いの、お祭り、素敵なの♪」
華やかな商店街の雰囲気に心奪われてキョロキョロしていたディーナ・フェルミ(ka5843)が、思わず両手を広げて叫びました。
お祭り、それは心躍る言葉です。たくさんの信仰心と、たくさんの物と、たくさんの人がいて、初めてお祭りは華やかになるものなのです。何一つ欠けてもいけません。ここにはそれが揃っています。でも、このお祭りで祀られている神様って、誰なのでしょうか? 商店街の真ん中ほどに見える巨大なCAM像を遠目に見あげて、ディーナが小首をかしげました。
●ワッフル屋さん
「あれえ、ザレムくんも出店してるですぅ?」
あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロしていたハナが、ワゴン販売の中に知り合いの姿を見つけて声をかけました。
「星野か、何か買ってくか? 今なら、『デュミナスのアンテナ』がお勧めだ」
そう言って、ザレム・アズール(ka0878)が、ワゴンの上に突き立てられた商品を指して言いました。細長いワッフルに串が刺してあり、窪みや全体にチョコが絡められたお菓子です。それを見立てて『デュミナスのアンテナ』という商品名で売り出しています。
今回はホワイトデーなので、ホワイトチョコタイプと、白いシュガーコートタイプも用意されています。お好みで、トッピングもOKです。
「美味しそうですねぇ。一つ欲しいですぅ。そうそう。ザレムくんにホワイトデープレゼントですぅ。どうぞですぅ」
そう言って、ハナがさっき買ったばかりのクッキーをザレムに渡します。
「俺にか?」
バレンタインはとっくに終わっていますし、ホワイトデーは、いちおう男の子から女の子へプレゼントするのが習わしです。
「さっき食べて、とっても美味しかったのですぅ。美味しい物はみんなで食べた方が一層美味しくなりますぅ。笑顔は最高の調味料ですぅ♪」
ニコニコしながら、ハナが言いました。本当に、美味しい物に囲まれていると、思わず顔がほころんでしまいます。
「なら、ありがたく、一つ頂戴するか」
まあ、深い意味どころか、大した意味もないのでしょう。義理チョコ未満の、御挨拶クッキーです。
「ホントは、お礼にワッフルをプレゼントしたいんだけどさあ、商売だからなあ……。じゃ、おまけに連れをつけちゃうよ」
そう言うと、ザレムがワッフルの先っちょに、マシュマロを刺した楊枝を突き刺しました。これで、お菓子のカップルのできあがりと言うことのようです。
ワッフルをバンバン売って、バリバリ儲けたいザレムとしては、このへんがおまけサービスの落としどころのようでした。
「ありがとうなのですぅ」
さっそく、おまけのマシュマロにハナがパクつきます。
「あのー、ここどこでしょうか?」
しきりに周囲をキョロキョロしながら、ひりょが現れました。ちょっと不審人物です。
「なんだ、迷子か?」
その挙動を見て、ザレムが迷子と決めつけます。
多少の自覚から、ひりょがちょっと顔を赤らめながら、じっとワッフルを見つめました。
「迷子!?」
その言葉に反応した雷蔵が遠くから駆けてきましたが、人違いだと分かると、また走り去っていきました。いったい、商店街をもう何往復しているのでしょうか。その後ろ姿を、ザレムがちょっと唖然としながら見送りました。声をかける暇もありません。
「そうか、きっと、いろいろと放浪の旅を続けて、やっとヴァリオスに辿り着いたんだな。今まで、あんな苦労やこんな苦労を……」
気を取り直して、ザレムが再びひりょに話を続けます。
なんだか、勝手なストーリーを作りあげて、ザレムがほろりとします。なんだろうと、ハナがワッフルをもきゅもきゅしながら、成り行きを見つめました。
「しかたない、これでも食べて元気出せ。他の子には内緒だぞ」
そう言うと、ザレムがひりょにワッフルを一本くれました。
「あー、ずるうぃ!」
「いや、かわいそうな子にはだなあ……」
なんだかハナとザレムがもめだしたので、自分が原因だと感じたひりょは、そそくさとその場を離れていきました。
●CAMパン屋さん
パンパン。
商売の前に、お約束としてミオレスカがCAM像に手を合わせてお祈りしました。
「おかげでCAMに乗れるようになりました。なむなむ~」
どうやら、ちゃんと御利益があったようです。
「見つからないなあ」
相変わらず人探しを続けている雷蔵が、ミオレスカの姿を見て足を止めました。
「捜し人が見つかりますように……。ちゃんとつきあってくださいと言えますように……」
ミオレスカの隣で、雷蔵もCAM像に祈りを捧げます。
バイト先のパン屋さんの屋台に戻ったミオレスカは、先ほど焼いたクッキーとCAMパンをセットにして、袋を白いリボンでかわいく縛りました。
「CAMクッキーホワイトデースペシャルBOX?」
通りかかったハナが、看板を見て聞き返します。
「そうです。お一ついかがですか。試食もありますよ」
ミオレスカが、レーズンの載ったクッキーをハナに勧めました。
「美味しい。それに、スペシャルという名前に惹かれましたぁ、一つください!」
クッキーを囓ったハナが、即座にお金を出しました。どうやら、スペシャルという言葉が、ハナの琴線に触れたようです。
「美味しいでしょう?」
思わず、自分もクッキーを一つ囓って、ミオレスカが言いました。
いけません、このままでは、せっかく焼いた商品をみんな食べてしまいそうです。
「クッキーなの? それなら日持ちしそうなの」
ミオレスカたちが美味しそうにクッキーを食べているのを見て、ディーナも友人たちに配る分のクッキーを買いにきました。焼き菓子なら、少し離れた所にいる友人たちにも安心して配れます。
●飴細工屋さん
「さあ、わたくしたちも負けてはいられませんわよ! 売って売って売りまくるのです!」
「はい、親方!」
「違います、店長ですわ!」
元気に答えるエルバッハ・リオン(ka2434)に、素早くお嬢様がツッコミました。
お嬢様のお店の前には、飴細工の屋台があります。リアルブルーからの腕利きの職人を呼んであるので、大丈夫のはずです。はずなのですが……。
「はい、頑張ります!」
そう答えたのは、リゼリオでアイドル活動をしているアットリーチェです。なんで、こんな所でバイトしているのでしょうか。きっと、いろいろな苦労があるのでしょう。
「昔、飴屋さんでバイトしていたことがあります。大丈夫です」
やっぱり、苦労人のようです。
「へえ、器用なのですね」
テキパキと飴細工を作ってみせるアットリーチェの指先を見つめて、エルバッハが言いました。
アットリーチェが、見たこともない楕円型のハサミを握って、棒の先に丸められた飴に切れ込みを入れていきます。あっという間に、卵のようにまん丸だった飴が、鶏冠のある鶏の形に変化していきました。
「手早くやらないと、固まっちゃうんですよね」
ふうと一息つくアットリーチェですが、ミニのワンピースの上からお祭りの青い半纏を羽織り、頭には手ぬぐいを鉢巻きのようにして巻いています。飴屋さんには似合っているような、そうではないような……。でも、ホワイトデーの雰囲気はまるでありません。
その穴を埋めるように、エルバッハは上品なメイド服でバッチリと決めていました。今回のバイト用に、お嬢様のお店の衣装の中から選んだ逸品です。まあ、エルバッハとしては、もっとこう背中が大胆に開いて、胸元もこう谷間がよく見える感じで、スカート丈ももっとぎりぎりの方が好みなのですが、今日は借り物なので仕方ありません。ちょっと大胆な粗めのレースのオーバースカートと、ガーターベルトで吊ったストッキングの作る絶対領域で我慢するとしましょう。色もホワイトデーに合わせて白なので、淡いピンクのロングエプロンを着けてアクセントとします。
しかし、ホワイトデーと言えば、やはりバレンタインデーを思い出さずにはいられません。あれっ? デジャヴ?
エルバッハも両親に義理チョコをあげています。両親というところが、クリムゾンウェストらしいところですが。エルバッハの過去の経験上、じきにとてつもなく変な物が両親からお返しとして届けられるでしょう。そうに決まっていると、エルバッハが陰で溜め息をつきました。
「わあ、凄いの!」
店頭の屋台で、次々に作られていく飴細工に、ちょうど通りかかったディーナが歓声をあげました。
「どうですか? お一つ」
すかさず、エルバッハがディーナに飴を勧めます。
「では、一つくださいなの」
言われて、ディーナがさっくりと注文します。
「どんな形がよろしいですか?」
アットリーチェがディーナに訊ねました。
「うーんと、じゃあ、あれ」
そう言うと、ディーナがCAM像を指さしました。
「あ、あれですか!?」
さすがに、アットリーチェが困りました。結構難しそうです。
「やらせていただきます」
チャレンジャーです。
大丈夫かと、エルバッハが見守る中、なんとかCAMの飴が完成しました。
「いただきますのー」
さっそく、ディーナが飴にはむはむとしゃぶりつきます。細かいディティールまでしっかりと作られていたCAM飴が、みるみるうちに形を失って丸くなっていきます。芸術とは儚いものです。
「もったいないけど美味しいの」
思わず、ディーナが、自分が信仰する神に感謝の祈りを捧げました。故郷の村では、凶作で収穫祭すら行えない年がありました。それが、ここでは充分な物が充分な人によって支えられています。少し怪しいですが、不思議な御神体もあります。これは、幸せなことなのではないのでしょうか。
「ホワイトデーに感謝」
飴を口いっぱいに頬ばったまま、ディーナがニッコリと笑いました。
「ぴっ?」
何かが、星野 ハナ(ka5852)のお菓子センサーに引っ掛かりました。
通りの向こうから、何やら甘い匂いが漂ってきます。
「こ、これはっ……。私のお菓子レーダーにガッツリ訴えかけるこの何かは……。まさか!」
すぐに走りだしたハナの目の前に現れたのは、真新しい商店街のアーケードでした。
商店街は、全体が甘いいい香りにつつまれています。どうやら、ホワイトデーのセールのようです。入り口のアーチの部分にも、『祝ホワイトデー』という、看板が飾られていました。
「ここには、きっと、お宝がありますぅ! 絶対探し出してGETですぅ!」
そう叫ぶと、ハナは商店街に突入していきました。
「おかしいなあ、迷っているのかなあ……」
商店街入り口にある宅配馬車屋の軒先では、鬼塚 雷蔵(ka3963)が人待ちをしていました。
「はっ、もしかして、入れ違いになったとか!」
せっかく、今日はホワイトデーにかこつけたデート――のようなもので、お互いの距離を少しでも縮めようと思っていたのに、またすれ違いでは大変です。
「捜さねば!」
お手々つなぎイベントや、キスイベントとか、こなす課題は山盛りなのです。こうしてはいられません。雷蔵は、ハナに続いて商店街の奧へと走りだしていきました。
商店街では、春らしく華やかにデコレーションアップされたお店が、ホワイトデーセールの真っ最中です。お店の前には特売ワゴンがならび、クッキーやキャンディーが山盛りならべられていました。その前で、男の子たちが、何度も往復してちょっと買うのを恥ずかしがっていたり、腕組みしてクッキーを睨みつけたまま悩んでいたりしています。
「クッキーいかがですかあ。ただいま、商店街御来訪記念クッキーをお配りしていまーす」
案内所の前まで来ると、フィネステラ案内嬢の元気な声が聞こえてきました。
思わず、ハナのポニーテールの先が、案内所の方に靡いた気がします。アンテナ?
「どうぞ、お一つ」
「ありがとうですぅ」
フィネステラ嬢にクッキーの入った小袋をさし出されて、躊躇なくハナがそれを受け取りました。この世の美味しくて甘いお菓子は、すべてハナの物なのです。もしかして、これがお宝なのでしょうか。
綺麗に縛られていたリボンを解いて袋を開くと、ハナが中から星形をしたクッキーを一つつまみ出します。
「あーん」
ポイと口の中に放り込むと、それはホロホロと崩れて、バターのコクとほどよい甘みが口一杯に広がりました。
「あ、美味しいですぅ」
思わず、ハナが両手でほっぺをおさえて目を細めてしまいます。
「ここにもいないか……」
そんなハナの後ろを、雷蔵が走り抜けていきました。
「お買い求めは、こちらなのですー」
案内所の隣で、月・芙舞(ka6049)が、フィネステラ嬢が配っていたのと同じクッキーをワゴン販売しています。さすがは商売人の巣窟である商店会、抜け目がありません。
「ください!」
流れるように、そのままクッキーを買ってしまったハナでした。
そのまた隣では、手作りクッキー教室が開かれており、抜け目なく材料の特価販売が行われていました。
「今後の食材も買い込みですぅ♪」
さすがにここで作っている暇はないからと、ハナは材料だけ買い込んでいきました。
「ホワイトデーの商売は、どこも順調のようですね」
商店街の他のお店の様子を観察してきたミオレスカ(ka3496)が、案内所の周りに所狭しとならぶワゴンを見て言いました。
「クッキー、美味しそうですね」
見ているだけでは我慢できなくなって、思わず、ミオレスカも月のワゴンでクッキーを買います。
「そうか、ホワイトデーかあ」
何やら賑やかな街の様子と甘い香りに誘われてきた鳳凰院ひりょ(ka3744)が、案内所に掲げられた『ホワイトデー特別セール』という看板を見て、やっと納得しました。
で、ここはどこなのでしょうか。
確か、ひりょは港を歩いていたはずなのですが、いつの間に商店街に入り込んでしまったのでしょう。――謎です。
ホワイトデーと言えば、やはりバレンタインデーを思い出さずにはいられません。ひりょも、今年は妹からチョコレートをもらっていました。他にも、確か友達から一つだけもらっています。
これは、この商店街でクッキーを買って、お返しをしろという天啓でしょうか。
本来なら手作りのクッキーでお返しにするところですが、いかんせん突然でしたので準備もしていません。ここは、この商店街で材料を買い集めて……。しかし、作っている時間がないのでは……。やはり、できあいの物を……。
ひりょがあれこれと悩んでいるときでした。
「まもなく、手作りクッキー教室開始いたします」
ディレトーレ支配人が、案内所の外に出てきて言いました。これは、ひりょにとっては渡りに船です。さっそく、隣接する会場へとむかいます。
「交代いたしましょう」
「ありがとうございます」
支配人にワゴン販売を交代してもらうと、月がクッキー教室の方へと移動しました。
テントの下の大きなテーブルを囲むようにして、青空教室が開かれています。そこには、すでにミオレスカを始めとする生徒たちが集まっていました。そこに、ひりょも加わります。
「それでは、みなさん、よろしくお願いします」
白いエプロンを着けた月が、大きなテーブルの前に立ってクッキーの作り方を説明していきます。
同じようにエプロンを貸し出されたひりょとミオレスカが、お手本通りに粉をふるってバターなどと混ぜ合わせていきます。
生地が完成すると、のし棒で薄くのばしていきます。次は型抜きです。
「お好きな型で、形を整えてください」
月の指示で、ミオレスカやひりょを始めとする生徒たちが、星形や動物型など、思い思いの形に生地を型抜きしていきます。
「トッピングもいいかも」
ミオレスカが、干しぶどうを生地の上にならべます。
さあ、後は用意されたオーブンで焼くだけです。
ほどなくして、無事にクッキーが焼きあがりました。火加減は、月が目を懲らして見ていましたのでバッチリです。
「これで、仕入れはバッチリです」
たくさん作ったクッキーをかかえて、ミオレスカがCAM像の方へむかいます。
「なかなかのでき……かな?」
うまく焼きあがった自分のクッキーをもらって、ひりょがちょっと顔ほころばせました。
こうなってくると、何か別の物をセットにして、ちゃんとしたプレセントにしたくなります。そうそう、メッセージカードも忘れてはいけないではありませんか。
「それで、お店はどこだろう?」
プレゼントにいい小物を探して、ひりょはあっちへふらふらこっちへふらふらと歩き始めました。同じようにキョロキョロしている女の子とぶつかりそうになって、あわててひりょが避けます。
「凄いの、お祭り、素敵なの♪」
華やかな商店街の雰囲気に心奪われてキョロキョロしていたディーナ・フェルミ(ka5843)が、思わず両手を広げて叫びました。
お祭り、それは心躍る言葉です。たくさんの信仰心と、たくさんの物と、たくさんの人がいて、初めてお祭りは華やかになるものなのです。何一つ欠けてもいけません。ここにはそれが揃っています。でも、このお祭りで祀られている神様って、誰なのでしょうか? 商店街の真ん中ほどに見える巨大なCAM像を遠目に見あげて、ディーナが小首をかしげました。
●ワッフル屋さん
「あれえ、ザレムくんも出店してるですぅ?」
あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロしていたハナが、ワゴン販売の中に知り合いの姿を見つけて声をかけました。
「星野か、何か買ってくか? 今なら、『デュミナスのアンテナ』がお勧めだ」
そう言って、ザレム・アズール(ka0878)が、ワゴンの上に突き立てられた商品を指して言いました。細長いワッフルに串が刺してあり、窪みや全体にチョコが絡められたお菓子です。それを見立てて『デュミナスのアンテナ』という商品名で売り出しています。
今回はホワイトデーなので、ホワイトチョコタイプと、白いシュガーコートタイプも用意されています。お好みで、トッピングもOKです。
「美味しそうですねぇ。一つ欲しいですぅ。そうそう。ザレムくんにホワイトデープレゼントですぅ。どうぞですぅ」
そう言って、ハナがさっき買ったばかりのクッキーをザレムに渡します。
「俺にか?」
バレンタインはとっくに終わっていますし、ホワイトデーは、いちおう男の子から女の子へプレゼントするのが習わしです。
「さっき食べて、とっても美味しかったのですぅ。美味しい物はみんなで食べた方が一層美味しくなりますぅ。笑顔は最高の調味料ですぅ♪」
ニコニコしながら、ハナが言いました。本当に、美味しい物に囲まれていると、思わず顔がほころんでしまいます。
「なら、ありがたく、一つ頂戴するか」
まあ、深い意味どころか、大した意味もないのでしょう。義理チョコ未満の、御挨拶クッキーです。
「ホントは、お礼にワッフルをプレゼントしたいんだけどさあ、商売だからなあ……。じゃ、おまけに連れをつけちゃうよ」
そう言うと、ザレムがワッフルの先っちょに、マシュマロを刺した楊枝を突き刺しました。これで、お菓子のカップルのできあがりと言うことのようです。
ワッフルをバンバン売って、バリバリ儲けたいザレムとしては、このへんがおまけサービスの落としどころのようでした。
「ありがとうなのですぅ」
さっそく、おまけのマシュマロにハナがパクつきます。
「あのー、ここどこでしょうか?」
しきりに周囲をキョロキョロしながら、ひりょが現れました。ちょっと不審人物です。
「なんだ、迷子か?」
その挙動を見て、ザレムが迷子と決めつけます。
多少の自覚から、ひりょがちょっと顔を赤らめながら、じっとワッフルを見つめました。
「迷子!?」
その言葉に反応した雷蔵が遠くから駆けてきましたが、人違いだと分かると、また走り去っていきました。いったい、商店街をもう何往復しているのでしょうか。その後ろ姿を、ザレムがちょっと唖然としながら見送りました。声をかける暇もありません。
「そうか、きっと、いろいろと放浪の旅を続けて、やっとヴァリオスに辿り着いたんだな。今まで、あんな苦労やこんな苦労を……」
気を取り直して、ザレムが再びひりょに話を続けます。
なんだか、勝手なストーリーを作りあげて、ザレムがほろりとします。なんだろうと、ハナがワッフルをもきゅもきゅしながら、成り行きを見つめました。
「しかたない、これでも食べて元気出せ。他の子には内緒だぞ」
そう言うと、ザレムがひりょにワッフルを一本くれました。
「あー、ずるうぃ!」
「いや、かわいそうな子にはだなあ……」
なんだかハナとザレムがもめだしたので、自分が原因だと感じたひりょは、そそくさとその場を離れていきました。
●CAMパン屋さん
パンパン。
商売の前に、お約束としてミオレスカがCAM像に手を合わせてお祈りしました。
「おかげでCAMに乗れるようになりました。なむなむ~」
どうやら、ちゃんと御利益があったようです。
「見つからないなあ」
相変わらず人探しを続けている雷蔵が、ミオレスカの姿を見て足を止めました。
「捜し人が見つかりますように……。ちゃんとつきあってくださいと言えますように……」
ミオレスカの隣で、雷蔵もCAM像に祈りを捧げます。
バイト先のパン屋さんの屋台に戻ったミオレスカは、先ほど焼いたクッキーとCAMパンをセットにして、袋を白いリボンでかわいく縛りました。
「CAMクッキーホワイトデースペシャルBOX?」
通りかかったハナが、看板を見て聞き返します。
「そうです。お一ついかがですか。試食もありますよ」
ミオレスカが、レーズンの載ったクッキーをハナに勧めました。
「美味しい。それに、スペシャルという名前に惹かれましたぁ、一つください!」
クッキーを囓ったハナが、即座にお金を出しました。どうやら、スペシャルという言葉が、ハナの琴線に触れたようです。
「美味しいでしょう?」
思わず、自分もクッキーを一つ囓って、ミオレスカが言いました。
いけません、このままでは、せっかく焼いた商品をみんな食べてしまいそうです。
「クッキーなの? それなら日持ちしそうなの」
ミオレスカたちが美味しそうにクッキーを食べているのを見て、ディーナも友人たちに配る分のクッキーを買いにきました。焼き菓子なら、少し離れた所にいる友人たちにも安心して配れます。
●飴細工屋さん
「さあ、わたくしたちも負けてはいられませんわよ! 売って売って売りまくるのです!」
「はい、親方!」
「違います、店長ですわ!」
元気に答えるエルバッハ・リオン(ka2434)に、素早くお嬢様がツッコミました。
お嬢様のお店の前には、飴細工の屋台があります。リアルブルーからの腕利きの職人を呼んであるので、大丈夫のはずです。はずなのですが……。
「はい、頑張ります!」
そう答えたのは、リゼリオでアイドル活動をしているアットリーチェです。なんで、こんな所でバイトしているのでしょうか。きっと、いろいろな苦労があるのでしょう。
「昔、飴屋さんでバイトしていたことがあります。大丈夫です」
やっぱり、苦労人のようです。
「へえ、器用なのですね」
テキパキと飴細工を作ってみせるアットリーチェの指先を見つめて、エルバッハが言いました。
アットリーチェが、見たこともない楕円型のハサミを握って、棒の先に丸められた飴に切れ込みを入れていきます。あっという間に、卵のようにまん丸だった飴が、鶏冠のある鶏の形に変化していきました。
「手早くやらないと、固まっちゃうんですよね」
ふうと一息つくアットリーチェですが、ミニのワンピースの上からお祭りの青い半纏を羽織り、頭には手ぬぐいを鉢巻きのようにして巻いています。飴屋さんには似合っているような、そうではないような……。でも、ホワイトデーの雰囲気はまるでありません。
その穴を埋めるように、エルバッハは上品なメイド服でバッチリと決めていました。今回のバイト用に、お嬢様のお店の衣装の中から選んだ逸品です。まあ、エルバッハとしては、もっとこう背中が大胆に開いて、胸元もこう谷間がよく見える感じで、スカート丈ももっとぎりぎりの方が好みなのですが、今日は借り物なので仕方ありません。ちょっと大胆な粗めのレースのオーバースカートと、ガーターベルトで吊ったストッキングの作る絶対領域で我慢するとしましょう。色もホワイトデーに合わせて白なので、淡いピンクのロングエプロンを着けてアクセントとします。
しかし、ホワイトデーと言えば、やはりバレンタインデーを思い出さずにはいられません。あれっ? デジャヴ?
エルバッハも両親に義理チョコをあげています。両親というところが、クリムゾンウェストらしいところですが。エルバッハの過去の経験上、じきにとてつもなく変な物が両親からお返しとして届けられるでしょう。そうに決まっていると、エルバッハが陰で溜め息をつきました。
「わあ、凄いの!」
店頭の屋台で、次々に作られていく飴細工に、ちょうど通りかかったディーナが歓声をあげました。
「どうですか? お一つ」
すかさず、エルバッハがディーナに飴を勧めます。
「では、一つくださいなの」
言われて、ディーナがさっくりと注文します。
「どんな形がよろしいですか?」
アットリーチェがディーナに訊ねました。
「うーんと、じゃあ、あれ」
そう言うと、ディーナがCAM像を指さしました。
「あ、あれですか!?」
さすがに、アットリーチェが困りました。結構難しそうです。
「やらせていただきます」
チャレンジャーです。
大丈夫かと、エルバッハが見守る中、なんとかCAMの飴が完成しました。
「いただきますのー」
さっそく、ディーナが飴にはむはむとしゃぶりつきます。細かいディティールまでしっかりと作られていたCAM飴が、みるみるうちに形を失って丸くなっていきます。芸術とは儚いものです。
「もったいないけど美味しいの」
思わず、ディーナが、自分が信仰する神に感謝の祈りを捧げました。故郷の村では、凶作で収穫祭すら行えない年がありました。それが、ここでは充分な物が充分な人によって支えられています。少し怪しいですが、不思議な御神体もあります。これは、幸せなことなのではないのでしょうか。
「ホワイトデーに感謝」
飴を口いっぱいに頬ばったまま、ディーナがニッコリと笑いました。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/13 13:41:53 |