古城奪還作戦!

マスター:芹沢かずい

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/23 15:00
完成日
2016/03/31 18:43

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 夜。ここは月灯りに浮かび上がる古城を臨む位置にある、とある家。
 長らくリゼリオで商売をしていた老夫婦が、老後を過ごす為に戻ってきた故郷だ。その引っ越しの手伝いを半ば強引に引き受けたのが、リタとエマの姉妹。
 彼女たちはハンターとして書類登録を済ませた後、ろくに経験を積む事無くここまで来てしまったのだが、何とか覚醒することには成功している。……未だその力をコントロールできていないのが難点だが。
「あの古城、完全にゴブリンどもが自分たちの住処にしちゃってるわ! あいつらを追い出さないと、本当に村が無くなっちゃうわよ」
 先ほど他の優秀なハンターたちと共に、城内の調査を済ませてきたリタが、鼻息荒く言う。
 現在この村は、遠い昔この地を治めていた領主の居城のもと、肥沃な大地を耕しては多くの農作物を育て、近くを流れる川や森から、自然の豊かな恵みを分けてもらうことで、贅沢とは言えないが、それなりに豊かな暮らしをしていたのだという。
 今は城に住み着いたゴブリンのお陰で、その姿は見る影も無い。
 ゴブリンを恐れて村を離れた家族も多く、空き家となった家々は荒れ放題。……残っていた僅かな食料を求めて、ゴブリンやコボルドが物色した結果だ。畑に残された僅かな作物は根こそぎ奪われ、広大な農地が荒れ地と化している。
 現在村に残っているのは、村への愛着を捨てきれない高齢者が多く、数人の若者は半ば意地のようなものだ。
「……城の構造は良く分かったようじゃな」
 声に疲れを忍ばせ言うのは、この家の主、ガーゴだった。妻であるイルと共に故郷に戻ってみればこの有様。リタ、エマの姉妹が手伝うと言ってくれているのは嬉しいが、ここまで寂れてしまった村の現状は、やはり心が痛い。
「お爺さんに貰った見取り図に、分かった事を書き込んでおきますね」
 言いながらペンとメモ帳を手にしたのはエマ。先ほどの収穫を次々に書き込んでいく。
「ハンターズソサエティに依頼を出すなら、詳しく文章で示した方がいいのかな?」
「そうさな、分かりやすければ作戦も立てやすいじゃろうし」
「城の中では戦わんように。これは第一条件じゃぞ?」
 ガーゴの言葉を補足したのは、彼の幼馴染みのリブだった。
「……ここは抜け道あったね。それから武器庫には細工してくれたみたいだから……」
 ぶつぶつとメモを見ながら丁寧に書き込むエマ。彼女の横から見取り図を覗き込み、リタもあれこれと喋っている。
「城にはもう食料が殆どなかったわ! きっと空腹で力も出ないはずよ。楽勝ね!」


 翌朝、これまでに得た情報をまとめ終えた姉妹は、村の探索に出ていた。……一応、それぞれに武器を携え、何が起こってもすぐに逃げ出す準備をした上で。
 ガーゴの家は村の端で、城に一番近い場所にある。今は空き家が目立つ家々の間を歩き回りながら、リタとエマは食料になりそうなものを物色していた。空き家からは、不在の家主に心の中で謝って保存食などを失敬する。
 家々が立ち並ぶ区域を過ぎると、広大な畑が広がっていた。掘り起こされて土肌が剥き出しの地面。引き千切られた作物の蔓や雑草。そこらじゅうに、人間ではない足跡が無数。
 そのまた向こうには、森が広がっている。森は城の裏手にある湖を迂回し、城を大きく取り巻いている。森の中には比較的大きな川があるのだというが、ここからでは見えない。また、その川の一部が分かれ、城の地下を通って裏の湖に注いでいるのは、先日の調査で確認済みだ。
「畑はもう見る影もないって感じだね」
「ここなら派手に戦っても大丈夫そうじゃない? あとから人手を集めて耕せば」
 リタの発案に、微妙な表情を浮かべるエマ。
「……できるかもしれないけど……大変そうだね」

 どこをどう見ても、食料らしい食料は見当たらない。このままではゴブリンはおろか、住人たちでさえ飢えてしまう。
「お姉ちゃん、食料確保できそう?」
「ううーん、難しいわね。ゴブリンの所為で野生動物もいなくなっちゃってるしね。しばらくは隣村に買い出しにいかなきゃならないわ。だけど、それを狙われたらアウトよね……」
「私達の生活もギリギリなんだね……早くなんとかしなきゃ」
「作戦を立てたら即実行よ! ガーゴ爺ちゃんの『アレ』も無傷で取り戻さなきゃならないしね!」


「こんな感じかな?」
「どれどれ?」
 エマが書き終えた見取り図と、説明の為の文書を交互に読み返すリタ、ガーゴ、イル、そしてリブ。
「城壁は部分的に破壊されていて、正面と右手奥の厨房、裏口から侵入可能。正面にある城門も壊されてて、城の正面広場は荒れてるけど結構な広さがあり、ここでは戦闘も可能……かな」
「正面から入ると、右側にテラスと食堂、厨房があったわ。左側は多分兵舎になってて、正面に螺旋階段」
「お姉ちゃん……そんなに覚えてられるのにどうして方向音痴治らないのかしら」
「もうこれは個性よね! で、螺旋階段には隠し通路よ!」
 裏口の鍵は調査の時に上手く壊してあり、そこを抜けると城内の螺旋階段の陰に出られるのだ。そして城壁が壊れている右奥の厨房には、外からも侵入が可能。
「二階は使ってない部屋がいくつかあって、一番豪華な部屋でボスが寝てたのよ! そいつの頭の傍に例の『アレ』があったわ!」
「ガーゴよぉ、まだ拘ってたのか?」
 呆れ顔でリブが問う。ガーゴは少々バツの悪い顔をしたが、『生涯において最も大切』と言い切ったので、リブも何も言えなくなった。
「おびき出し作戦をするとしても、別の作戦にするとしても、ボスがそれを持って来ちゃったら面倒な事になりそうですね」
 ペン先で顎をつつきながら、エマがもっともな事を言う。
「そう言えば忘れてたわ! 二階の西にある衣装部屋! あそこから繋がる塔は地下に入れるのよ。地下にはコボルドみたいなのが七匹いたわね。檻に閉じ込められてたけど」
「ほほう、そんなものがまだ健在じゃったとはのぅ」
 どこか嬉しそうに、ガーゴ。
「その抜け道、出口は城門の外というのも、変わっておらんかの?」
「はい。縄梯子を上ったら城壁の外に出られました」
「兵舎の方は?」
 リタが問う。
「調査に行ったのが夜だったから、ざっと数えて二十四匹、寝てたみたい。兵舎には城の外側のドアからしか入れないようになってて、奥には武器庫。調査の時に武器庫に仕掛け、というか悪戯してきたみたいだから、すぐには武器を持ち出せないだろうって言ってたよ」
 見張りのゴブリンと別室で眠っていたボスゴブリン、合わせて三十体近くは居るだろう。そして地下に閉じ込められている奴隷のようなコボルドが七匹。
「これで大体のことは把握できたと思うんだけど……」
「十分じゃないかしら? これで、他にハンターさんの知恵が加われば、確実に城を取り戻せるわっ!」
 ぐっと握った拳を勢い良く突き出すのと、リタの腹の虫が騒ぎだすのが同時だった。 

リプレイ本文

●作戦会議
 「城の中では戦わんように、というのが条件じゃったはずじゃがのぅ……」
 テーブルを囲んでいたリブが、集まったハンターたちを見回して渋い顔をする。
 彼らが提案したのは、夜襲だった。
「急いで返してもらいたいかもだけど、城を無傷で取り返すにはやっぱり内から喰って外に逃がす方がいいでしょー」
 そう言うのは玉兎 小夜(ka6009)。フレンドリーな口調が妙に説得力を帯びている。
「つまり暗殺だな。俺はどっちかっつーと正面から突っ込む方が好きだけど、スマートにってのも大事だよな!」
 元気に賛同しているのが岩井崎 旭(ka0234)。
「上手く行けば城もほとんど無傷で奪還できるぜ、爺さん!」
「ふむ……寝込みを襲う、か。ゴブリンどもにとってはたまったもんではないじゃろのぅ」
 ガーゴが少しばかり悪そうな顔でリブを伺いながら言う。ふぅむ、と考え込むリブだったが、どうやら納得したようだ。
 依頼主の了解を得た所で、次の段階を踏んだのは日高・明(ka0476)。
「城を傷つけないことが基本だけど、容認できる場所はあるだろうか? それから、『アレ』とやらの形や大きさを確認したいんだけど」
「ってか、『アレ』ってなんだよ」
「そうそう、『アレ』ってなに!」
 明が口にした『アレ』という言葉に同時に反応する旭と小夜。その奪還も依頼に含まれているのだから、当然だろう。
「木箱って言ってたよね、お爺さん」
 エマがガーゴに視線を送りつつ問う。
「うむ……」
 大仰に一つ頷くと、勿体ぶりながら形状だけを伝えるガーゴ。どうやら中身は教えたくないらしい。
 両手に収まる程の小箱。蓋に綺麗な細工が施してあり、施錠されている。鍵は持っていたようだ。スペアがあったことを思い出したらしく、小さな木の鍵を見せてくれた。
「ガーゴ爺ちゃんの大事な箱だって言ってたわよね」
 リタも話に加わり、ついでに古城内での戦闘可能領域を確認する中、誰にも聞こえないように呟く声があった。
「リタさん、今回は普通に役割をこなしているようですね。今までの依頼での失敗が嘘のようです」
 エルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「今後の依頼でも同様にこなしていければいいのですが、それは駄目のような気がしますね」
 誰にも聞こえない呟きだが、それはやはり的を射ているのかもしれない。……今後のために、彼女には内緒にしておこう。
「今回は相手がゴブリン。それほど強くないと聞いていましたが、エリスさんは……」
 葛音 水月(ka1895)が呟きながら隣に座るエリス・フォンメール(ka6101)を見やる。
「……緊張せずに……しっかりと……」
 ぽっちゃりした着ぐるみのエリスが自己暗示のように呟き続けていた。
「メンバーも揃ってるしそんな気負わなくても」
 エリスにとって、今回の依頼は初めての戦闘になる。そんな彼女のサポート役を任されている水月が、柔らかく微笑んで言う。
「……はむすたー着てきてくれたんですね、似合ってて可愛ーですよ?」
「は……はむはむ……」
 エリスの気を紛らわせるつもりで提案した彼女の装備なのだが、やたらと可愛らしい。緊張で小刻みに震えている姿が、まさしく小動物のようだ。
「襲撃は皆さんに任せるわ! あたしたちじゃ足手まといだろうし」
 珍しくリタが殊勝なことを言う。エマは随分驚いた顔をしたが、盛大に安堵の溜め息を漏らしていた。
「今説明したことと見取り図が、私達の集めた情報です。よろしくお願いします」
 エマの言葉に力強く頷くハンターたち。
 辺りはオレンジ色が濃くなり、次第に濃紺に混じる。だんだんと夜の世界が広がっていく。そのまま夜が更けるのを待って、彼らは古城へと出発した。

●『アレ』奪還
 夜の闇に紛れ、城を正面から見渡せる場所。朧げな月明かりに照らされて作られる木々の影が、彼らの姿を隠してくれる。
「ジェロー、頼んだぜ」
 旭が相棒のイヌワシ・ジェローを空に放つ。ジェローの視界を共有して、見張りの様子を確認するためだ。渡された見取り図と照らし合わせ、侵入の経路を決める。
「鳥目じゃないのか?」
 飛び立つイヌワシを見上げ、明が疑問を口にする。
「よく言われるけどな、十分見えてんだぜ! ……っと。静かにしねーと」
 ハンターマントを纏って闇に紛れる準備を整えた旭。小声で仲間に状況を伝える。
「正面玄関前……正面の広場と兵舎前に見張りが一匹ずつだな。裏口は手薄だぜ……城壁を回り込めば見つからねーだろ」
 話では、見張りの数は少なく大半が寝ているらしい。正面突破よりも最短距離で、まずは例の『アレ』を奪還する作戦だ。
「……緊張せずに、しっかりと……あぅ……き、緊張します……」
 未だ固いエリスの目の前の暗闇に、黒猫のような耳と尻尾が現れた。水月だ。
「お、おおかみさん……」
 思わず反応し、闇のような耳と尻尾をもふもふするはむすたー。……和む。どうやらエリスの緊張も少しは紛れたようだ。呼吸を落ち着け、目指す場所を確認する。

 足音を立てないよう、そして想定外の見張りにも気を配り、一行は裏口へと向かう。
「こっちの城は初めてだなあ」
 千年の歴史を誇るという古城と周辺を見渡し、観察しながら言うのは明。彼がこれまでに訪れ、見てきたものとは違うタイプの城らしい。
 城壁の外側、狭い足場をゆっくりと回り込むと、湖が見えてくる。湖を臨む裏口には、何の気配もなかった。
「なんだかあっけなく侵入できそうだねー」
 ごくごく小さな足音に紛れて聞こえた小夜の声は、残念そうな響きを持っていた。
 裏口の鍵は、調査の際に解錠してある。ミミズクっぷりを遺憾なく発揮した旭が、その視覚と聴覚をフルに使って中の様子を伺いつつ、そのまま先頭に立って侵入する。
 侵入した先は、螺旋階段の途中にある扉。
「見張り一匹いるぜ」
 二階を見上げるようにしながら、旭が告げる。
 ボスの部屋の前に、動きの鈍いゴブリンが一匹。
 気配を殺して近付く。
 ゆっくりとこちらに背を向けたゴブリンの後ろに回り込むと、旭はグローブで口を押さえ、短く持った槍でその首をかき切る。彼の後ろから音を立てずに近付いたエルが手伝い、倒れたゴブリンを支えて静かにドアの脇に寝かせる。
 旭がドアに貼り付くようにして中の様子を伺っている間、小夜とエルは武器を構えて呼吸を整える。明と水月、エリスは二階の廊下、そして階段を注視。……少しの緊張と沈黙。
『ぐぶぅううう……』
 奇妙な音が聞こえた。
「……イビキだぜ、これ」
 半ば呆れたような響きの旭の声が合図だ。音を立てずにドアを開けると、旭と小夜、エルは素早く中に滑り込む。
 ちらちらと残り少ない蝋燭が、頼りなく部屋を照らしていた。
「それっぽいの片っ端からパクっとこうって思ったけどー」
「これだな」
 枕元にはそれしかなかった。自分の所有物であるかのように、頭の傍に置いてある。それを慎重に手に取ると、そのまま大事に服の中に仕舞い込む小夜。……と。
『ごぐごぐ……』
『!』
 一瞬固まる。ボスゴブリンが不思議な音で鼻を鳴らしたのだ。そして自らが発した不思議音で目を覚ましてしまったらしい。傍にいたハンターたちに気付くと、勢い良く起き出す! が、時すでに遅し。
「おはようございまーす」
 言い放つと、小夜は刀を納めたまま低く構える。彼女の声はボスゴブリンにとって不吉の象徴のような響きをもって届いたに違いない。
「残念」
 旭の槍が腹を薙ぐのと、エルが眠りへ誘う魔法を放つのはほぼ同時。
『ッ!? ……!』
 何がどうなったのか、ボスゴブリンには知る間もなかっただろう。薄れていく自我のカケラの中に、赤い線が入り込むのを、他人事のようにただ眺めていただけだ。
「そしておやすみなさい!」
 構えから床を擦り抜き放たれた刀が炎を纏い、赤い軌道が残る。……ボスゴブリンは、二度と目覚めることのない眠りについた。

●殲滅!
「あとは雑魚ゴブリンとコボルドですねー」
 ボスゴブリンの最期を見届け、『アレ』の奪還を確認した三人は、部屋を出て廊下で見張りについていたメンバーと合流した。水月の小さな声に、今度は敵の殲滅に向けて動き出す。
「一匹上ってくる」
 周囲を警戒していた明が短く告げると、猫のように音もなく水月が移動する。重力のくびきから解放され暗闇に紛れると、次の瞬間には階段を上ってきたゴブリンは絶命した。
 倒れるゴブリンを支えるが、やはり完璧に音を消すのは無理だったようだ。異変に気付いたらしい一階の見張りが階段下に集まって来てしまった。……漂う血の匂いが彼らを誘ったのかもしれない。
「や、やだっ……こ、こない、で……っ」
 緊張と恐怖に襲われながらも、エリスは武器を振り回す! 
 がっ……!
 鈍い音。直撃はしたものの、相手を絶命させるには至らない。エリスに向かって振り下ろされる棒切れを受け止め防ぐ明。その横を闇に紛れて駆け抜ける水月の刃が煌めく!
 鈍い音が連続する。
 ……少しの沈黙。息をひそめ、一階の見張りがないかを慎重に確認する。旭の研ぎ澄まされた夜目と聴覚が先導し、ホールを進む。
 階段の傍。食堂。テラス。厨房。壁の向こうの兵舎と、正面玄関。
「このまま正面から出て、見張りと兵舎の敵を殲滅、だな」
 明の言葉に頷いて、旭が静かに正面玄関のドアを開ける。……外ばかり気にしている見張りゴブリンたちの、背中が見える。交代の時間なのだろうか、数匹が入れ替わるように動いている。
 うっすらと月明かりが届く正面広場に、水月が音もなく飛び出した。 
 どさどさ……どさ……。
 静かに倒れるゴブリンたちには、断末魔を上げる暇も許さない。
 
 外に出ると、城内に籠っていた血の匂いから解放された気分になる。
「……二十匹ほどが寝ています。眠らせますが、全ては無理かもしれませんね」
 兵舎の扉、隙間から中を覗き込んで、エルが伝える。後ろには、突入準備を整えた水月と小夜。できるだけ寝ている間に倒したいが、飛び出して来たゴブリンどもを正面広場で殲滅すべく、残る三人は身構える。
 エルの魔法が発動! 間を置かず水月が走り込む! 
 簡素なベッドやボロ布が乱雑に並べられた室内。不規則に並ぶ障害物の隙間を、猫のようにしなやかに駆け抜ける水月。その手に光る刃は凶悪なほどに煌めき、容赦はない。後ろを行く小夜が、音と衝撃で目覚めたらしい敵を逃さず叩いていく。
「こんばんは、またまたおやすみなさいっ!」
 兵舎内で敵の半数近くを葬った。残る半数は手近にあった棒切れ(元は武器だったのだろうが)を手に兵舎を飛び出す。……そこに待ち構えているのは、手練のハンターたち。兵舎の奥にある武器庫へは辿り着くことはできないだろうし、そんな余裕もなかっただろう。兵舎から追い出すように、水月と小夜が追い立て、入り口付近にはエルが待機している。
 兵舎以外に存在する敵は、地下のコボルドのみ。そう判断した旭も戦闘に加わる。
 エルが打ち込んだ魔法によって眠りに誘われる敵を、旭の戦槍が次々と葬っていく。
「相手がゴブリンではソウルトーチは効果なし、か。……こっちだ、小鬼ども!」
 明がエリスを守るように立ち塞がる。怯えるエリスの脳裏に、水月の言葉が蘇った。
(大丈夫、エリスさんならできますよ)
「正面の一匹、できますか?」
 ……水月の声だ。
「おおかみさん……! はいっ」
 力強く頷くと、エリスは正面から一匹のゴブリンに向き合い、先ほどの反省を踏まえて体内の気を練り上げる。強烈な一撃が、大きく踏み込んでくるゴブリンに吸い込まれるように入り、そのままゴブリンは絶命した。……強く敵を打った衝撃が、エリスの手から全身に伝わるが、気丈に次の敵に向き合う。
 がしゅっ……!
「逃がしません」
 エルが放った風の刃が、逃走しようとするゴブリンの足元に炸裂した。素早い連撃を繰り出す旭が止めを刺す。
 奇声を上げて飛びかかってくるゴブリンには、冷たい氷の矢が突き刺さる。
「ここは通行止めだよ!」
 小夜は二本の刀を抜き放ち、踊るようにして敵を蹂躙していく。
 敵味方入り乱れている中、響くのはゴブリンを攻撃する生々しい音と、彼らの短い悲鳴。寝込みを襲われ、ボスを失ったことに気付いていないゴブリンたちは、まともな迎撃態勢を取れないままに、終焉を迎えた。

 一転して静寂が訪れる。

「残るはコボルドだねー。可哀想だけど」
「エリスさん、もう少しですよ」
 水月に励まされ、はむすたーの着ぐるみで拳を握りしめるエリス。
「二階の衣装部屋から地下へ向かうんだな」
 明の言葉に一同が頷く。取り逃がした敵がいないかを念入りに調べながら、見取り図にあった抜け道を目指す。

 水音が響いている。

 ……ッ! ギャゥ……ッ!

 外界から隔絶されたような地下道に響くのは、水音だけではなかった。金属同士を打ち付け合う、鈍く耳障りな音に混じって、飢えた獣のように凶暴な声。
 外の異変に気付いていたらしいコボルドたちは牙を剥き出し、激しく侵入者たちを威嚇する。が、彼らは檻の中。……解放されることなく、そこが哀れにも思える彼らの終焉の地となった。

 水音だけが響く地下道を抜けると、そこは城門の外だった。城から少し離れた林の中には、ひんやりとした夜の風が吹き抜けている。血の匂いを清めていくようだ。
(エリスさん、初めて敵とやりあって殴ったり止めをさしたり……ストレス大丈夫でしょーか)
 帰路につきながら、水月はエリスを気遣っている。……と、
「おっと」
 ぽふっ。
 緊張の糸が切れたエリスがふらりと水月にもたれかかった。彼女を支えて頭を撫でる水月に、エリスの手が差し出された。震えている。初めて敵を倒した感触が残っているのだろう。その感触を消すように、水月は優しく手を握る。……にぎにぎにぎ。……やはり和む。

●『アレ』って……?
「お帰りなさい!」
「殲滅は完了したのっ?」
 戻ってきた六人を、リタとエマが騒がしく出迎えた。
「おお、良く取り返してくれたのぅ……」
 若干涙目になりながら、小夜が差し出した箱を受け取るガーゴ。
「これ何なの?」
「話し聞かせてもらおーか?」
 興味津々の小夜の赤い瞳と旭の青い瞳がガーゴを見上げる。当然、皆がそれを気にしていたので、自然と全員の注目がガーゴに集まる。
 手にした小さな鍵で、ガーゴは嬉しそうに箱を開けた。

 ………………。

「……じいちゃんたちの『宝物』なんだね」
 誰の声かは分からないが、呟きと生温い視線を受け、ガーゴとイルが少々顔を赤らめた気がした。……蝋燭の揺らめきの所為だったのかも知れないが、本人たちは幸せそうだ。

 宝物っていいなぁ……。

 誰が口にしたのかは分からないが、和やかな気分にしてくれたのは間違いない。

 古城の後始末が残っていることに気付いたのは、もう少し後になってから。

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MVP一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月ka1895

重体一覧

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 挺身者
    日高・明(ka0476
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
  • たたかうはむすたー
    エリス・フォンメール(ka6101
    人間(蒼)|18才|女性|格闘士

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依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/21 12:08:32
アイコン 相談場所
葛音 水月(ka1895
人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/03/23 08:50:29