玻璃の瓦礫―正面庭園―

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/03/25 09:00
完成日
2016/04/03 03:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 フマーレの工業区を外れ、開けた丁字の通りに立ち入り禁止の黄色いテープが貼られている。
 テープの内側には黒い霧が濃く立ちこめている。
 肩のあいたお仕着せのマントにワンピース、リボンを飾った帽子の職員は、ポシェットからペンを取り出して、通りを横切り避難に向かう老人を呼び止めた。
 老人は懐かしむように薄い顎髭を撫でながら嗄れ声で話し始める。
 かつて、ここに建っていたのは棄てられた教会だったらしい。
 ステンドグラスのひび割れた無人の教会は、ある日新たな住人を得た。
 それは鎧を作る工場だったという。
 見知っているのはその頃からで、時が移り技術が進み、重いばかりの鎧は廃れ工場も閉鎖された。
 売れ残った鎧も、昔からのステンドグラスもそのままにして数年が経った。
 それからは手工業の会社が作業場に使ったりしながら、やがてステンドグラスは割れ、鎧も庭に放り出されて錆び付いた。
 蔦の茂る破れた柵から忍び込んだ子ども達が庭でよく遊んだが、今にも崩れそうなその建物に、母親達は良い顔をしない。
 この前から孫がここで遊べなくなったと拗ねている。
 テープの前で廃墟を、今は黒い霧に覆われた瓦礫を眺め、話し終えた老人は避難の列に加わった。


 テープの内に入った斥候の連絡が届く。
 庭は血の鉄臭い匂いに満ちている。腐乱死体が所々に積まれており、大きなカラスのような雑魔が時折それを啄んでいる。
 どうやら外から見えるよりも広く、廃墟まで100メートル程はあるだろう。左右はもう少し広いようだ。
 廃墟自体はそれ程大きくないように見えるが、霧が濃く正確な情報を得るには近付く必要がある。
 庭にいるのは雑魔と、それから。

 女の子だろうか、何かを抱えているらしい。と、斥候が呟いた声を通信機が拾う。
 テープの外側に急遽作った帆布の拠点から、斥候に近付くなと指示が飛んだ。
 しかし、遅く。
 通信機は甲高い笑い声と骨と腑の潰れる音を最後に拾ってぷつりと切れた。

「抱えられているというのは、恐らく先日攫われた女性でしょう」
「生存の望みは?」
「…………無いとは、言いませんが」
「絶望的ですね。――それよりも、あの歪虚をこのまま放置は出来ません」
「分かっています。すぐにハンターの招集を」
「情報不足なのでは?」
「仕方ありません」

 拠点の中職員達の声が争うが、1時間も経たずにオフィスに依頼が掲示された。

『歪虚の撃退』

 簡素な依頼には緊急の文字と、いくつかの付箋が貼られている。
 フマーレ内で何度も目撃され、一般人の被害者が両手を越すこと。
 恐らく傲慢と思われる1体と、もう1体以上存在していること、女性が1人攫われており、傲慢と見られる歪虚が何等かの執着を見せていること。
 斥候の報告による庭の状況と、歪虚が操っていると見られる雑魔について。大型のカラスの形状をしており、飛行が可能なことなどが纏められている。
 ハンターを集めた後、受付嬢が刷りたての資料を配付した。
「歪虚に関する物です。ハナと名乗っており人型、少女のような容姿をしており、確認されている攻撃手段は針の投擲、攻撃力は不明ですが低くはないと思われます。防御に用いていた扇の破壊を確認しておりますが、雑魔や人間を盾に使う行動が確認され、また、庭の中でも数体の雑魔が確認されておりますので留意をお願いします」
 付箋の被害状況について、一般人には民間の警邏組織が含まれている点、他の歪虚に関しては不明だが、ハナよりも上位の存在だと推測されている点、女性は歪虚に抱えられており生死さえ不明だという点が加えられた。
「女性を攫う際に使用したと思われる強要の能力ですが、戦闘中に使うことは無さそうだと……彼女の元に何度も通う姿が目撃されていますので」
 説明出来ることは以上だと受付嬢は一礼をして去っていった。

 オフィスの片隅に座っている少女と老人がハンター達を見詰めた。
 不安そうな目、攫われた女性を心配する目の一対は女性を姉さんと呼んで泣き濡れ、もう一対は黙って静かに伏せられた。

リプレイ本文


 門扉を破れば零れてくる血の臭い。腐った肉と臓物の死の臭い。ふと、明瞭に鼻を突いたそれは絶えたばかりの斥候の物だろうか。
 赤黒い地面、外の見えない黒い霧。羽ばたきを見上げれば、迫るカラスの濁り嗄れた囀り。錆びたプレートの擦れるざらざらと粗い音。
 その中に燦然と佇む、華やかな和装の歪虚の姿は明瞭に浮かび上がっている。
 腕に抱えられた女性、ユリアも共に。
 カリアナ・ノート(ka3733)の相貌はユリアを見詰めて凍り付いた。
――きっとユリアおねーさんを救ってくるから大丈夫よ!――
 出立前、不安そうにハンター達を見詰めていた2人を励ました自身の言葉が蘇る。
 嘘ではない。まだ生きている可能性はある。けれど、柄を握る指は真っ白になって震えた。
「諦めずにいかないとね。ね、リアちゃん」
 リディア・ノート(ka4027)がその指に手を添えて声を掛け、カリアナを、妹を庇う様に前に出る。
「レイアさんも」
 レイア・アローネ(ka4082)が頷いて構え、リディアは視線を上げて雑魔に据える。
 強張った指を解くと、カリアナはハンドルを取って空気を薙ぐ。宝玉の光りの流線が暗い霧の中を漂った。
 あ、と声が上がると同時に、光りが歪虚とユリアを照らした。
 冬樹 文太(ka0124)の向けたライトの先、歪虚に抱えられたユリアの腕が僅かに揺れ、その指先が意思を持つように動いている。
「心配しなくっても、生きてるわよ」
 歪虚の哄笑が響いた。
「ユリアおねーさん!」
 カリアナが咄嗟に呼び掛けるが、目を覚まして応える様子は無い。
 歪虚はユリアを人形の様に抱え直すとハンター達を見回した。
「――俺は、……俺の仕事をするだけや」
 静かな声。怒りを押し込めて、生存の安堵にも揺れずに、視界の雑魔を数え、歪虚を探る桃の瞳。
「今度は一匹も残さんと撃ち落としたるわ」
 ホルスターから引き抜く自動小銃を提げて、眇めた眼が羽ばたきを見上げて距離を量る。
 ロニ・カルディス(ka0551)が大鎌の金の柄を身に引き寄せてハンドルを取ると、仄かな光りが七色の刃に映り込む。
 目覚めぬユリアの状態も分からず、事態が逼迫していることだけが肌をひりつかせる。
「だが……ひとまずは女性の確保か」
 何を起こそうとしているのかと、歪虚を見た顔が僅かに眉間に皺を刻んだ。
「ユリアともっと仲良くなろうと思っているの、素敵でしょう?」
 だから邪魔をしないでね。歪虚の声を遮るように空気を薙いでマテリアルを昂ぶらせる。
 バルバロス(ka2119)もその巨躯に違わぬ声を上げ、死の色に染められた地面を踏みしめた。
 冬樹の手許に小銃は引き上げられ、銃床は肩に据わり馴染む。引鉄に指を掛けながらグリップを握り銃身に添える手で敵に狙いを定める。
 照門を覗く桃色の瞳は揺らぐ光りを灯らせて強膜を黒く染めていき、照星がカラスを捕らえて引き金を引く間際、反動に備えて噛む歯が覗くまで尖る。


 鎧に周囲を護らせ、ハンターと声の届く距離を保つ歪虚が雑魔を3羽傍に残して散開させる。
 大きく羽ばたいたカラスはハンター達へと真っ直ぐに飛んでくる。
 リディアがそれを誘うようにマテリアルで描く炎を纏う。暗がりの中煌々と燃え上がるマテリアルの輝きにカラスは虚ろな目と嘴を向け翼を傾ける。
 リディアに向かって飛ぶ雑魔にロニが対峙する。
 清廉で穏やかな瞳に剣呑な色を滲ませて歪虚を一瞥するも、歪虚を護る雑魔の対応が先だと気持ちを切り替えて金の柄を操るハンドルを取る。
 雑魔の間合いを構わず走り込むと、身体を軸に薙いで揺らす空気に鎮魂歌を乗せて広げる。
 生無き歪んだ黒い翼は、歌が響く中で藻掻くように羽を散らし羽ばたきを止める。落ちるようにぶつかってくる雑魔を柄と刀身でいなしながら更に踏み込んで光りを放った。
「こっちに引き付けます!」
「届かぬなら、止めてからだ――聞こえるかっ」
 救出に向かいたいと、張った声が響くが答えはない。
 巨人のために誂えたような、バルバロスの巨躯をも越える大斧が巻き起こした一陣の風。
 ロニの放つ閃光から溢れた1羽を叩き割った。
「っぉおおお」
 真二つに割れた雑魔はバルバロスの左右で黒い土塊に変わり、地面に落ちる前に黒い霧に溶けるように消えた。
 次だと返す切っ先を雑魔に向ける。
 ぶつかってきた嘴の衝撃が兜越しに響くが、地を踏みしめる足は動かず、その体躯はびくとも動かない。
 戦いに高揚する赤い瞳が雑魔を睨み爛と光る。
 バルバロスの左右へ逃げるように別たれた雑魔の内の1羽に照星が重なる。
「そっち、頼むわ」
「はい。任せて下さい」
 冬樹が掛けた声に頷くと、カリアナは鎌を器用に操り残りの三羽を捕らえて火球を落とす。
 銃口から上った白い煙が散る。
 弾丸は真っ直ぐに雑魔の胴体を貫き、濁った断末魔を上げさせながら地面に落とす。
 雑魔が土塊に変わる傍ら、爆ぜた炎は一帯を灼き尽くして消えていった。何もいなかったかのように赤黒い地面が広がっている。
「1匹やと、こんなもんやけどな」
 銃口を向け直す先、残りの3羽が歪虚の傍に羽ばたいている。撃ち抜くには鎧が邪魔になる場所だ。
「今度は前の時みたいに、家壁とかガラス窓とか気にせずに使えるわ」
 鎌の刃が空気を撫でる様に揺らし、先を指して定まる。ここに家は勿論、人もいない。仲間やユリアと距離があるなら構わずに燃やすことが出来る。
 カリアナは強気に口角を上げた。
「動かないのか?」
 背後に雑魔の斃れる音を聞きながら、レイアは鎧に向けた構えを解かず、ヴェール越しにじっとその様子を覗っている。
 ぽつりと零れた訝しむ声に応えるように、眼前の鎧が軋む音を立てた。


 雑魔を破ったハンター達が次へと走る。
 まだ目覚めぬユリアを抱え、歪虚は楽しげに硝子玉の様な目を細めた。
「ねえマスター、マスターのお人形も使っちゃ駄目? ねえ駄目? 可愛い私に手を貸して下さらない?」
 媚びるような声に応えるように歪虚の背後で霧が揺れ、佇むだけだった鎧がグレイブを掲げて大きく前へ踏み出す。
 雑魔との戦闘の間も、背後の友人とその妹を気に掛けながら鎧を警戒していたレイアがまずそれに反応する。
 マテリアルを燃やし守りから攻めに転じ、赤い蛇をあしらう剣を振りかぶる。
 地面を蹴って上段から鎧のプレートへ斬りつける。
 金属のぶつかる高い音を立てて凹んだ鎧は構わずにグレイブを薙ぎ、鋭い刃でレイアの腕を捕らえた。
 刀身でいなしながらも重い衝撃に弾かれ、体勢を立て直し切り結ぶ間に傷が増えて疲労が溜まる。
「――下がれ」
 返し閃くグレイブの刃を、ロニが鎌の柄に捕らえて割り入る。暫時目を伏せて祈ると、マテリアルの柔らかな光が2人を包み、レイアの負った傷を癒やす。
「さすがマスタ――」
 2人を眺めて笑った歪虚の声を遮るように別の鎧のプレートの中心が深く凹み、煙を立てる弾丸と相応の音が鳴る。
「――黙りぃや」
 2発目の弾丸は鎧の腕を凍て付かせた。
 弾丸の貫いた穴を開け、その衝撃に肘の拉げた腕当てはプレートの継ぎ目からもげるように地面に落ちて転がった。その光景を見詰めた歪虚が黒い針を投じた。
 マスターのお人形を壊したいじめっ子。そう喚きながら歪虚は顔を顰めて冬樹を睨む。
 銃の間合いまでは至らずに、中空で黒い花弁に変わって舞い散り消える。
「風で払うのは難しそうね……でも、あなた達になら」
 思わずそれを払おうと向けた鎌を、その針の鋭さと軌跡に引き上げ鎧へ向け直す。
 放たれた風の刃は鎧の腕を1本、斜に刈り取って吹き抜けた。
「あれが、危ないって言われた……」
 リディアの視線に冬樹が頷く。
 飛ばす距離すら短く、今はそれに救われたが、あの針がカラスを一撃で落とす様を冬樹は見ている。
 とん、と爪先で地面を叩く。
 そんなに危ないなら、とマテリアルを昂ぶらせ、妹を振り返ると同じ色をした目を細める。
 全身を覆う程の大きな盾を構えると、鎧の気を引くように飛び込んでいった。
 軽い身体は鎧の攻撃に揺れるが、盾にその衝撃を受けると、屈む姿勢から脛当てを蹴り飛ばした。
 バルバロスの声が上がる。
 手斧を振るい、削ぐように腕当てを、兜を捕らえて砕くように壊していく。
「次!――っ」
 胴のプレートを壊して1度は全て転がった筈の鎧が、足と腕を立て直し、そこに胴が有るように浮き上がって向かってくる。
 その歪さに剥いた目が得物を掲げればすぐに戦いの猛りに染まる。

 傷の癒えたレイアが前線に戻る。
 ロニも祈りを止めて鎌を振るった。
 弾かれた鎧は倒れて四肢を散乱させるが、地面を這うように集まってきて元の形で刃の切っ先を向けてくる。
 何度も蘇る様に見えて、所々が欠けている物も有った。
 冬樹に撃たれて拉げた物や、バルバロスやカリアナが砕いた物。
「……破壊するまで、か」
 厳しくなりそうだと、鎌を薙いで光りの衝撃を放ちながら前線に飛び込んだ。
 バルバロスは鎧をパーツずつ叩き割って壊してく。
 破壊すれば動かないと知ったリディアは鎧を引き付けて距離を取り、それをカリアナが風の刃で切り取っていく。
 鎧の隙から投じられた針が頬の寸前を掠め、リディアは歪虚の笑う声を聞いた。
 触れていないはずの頬がひりつき、肌が粟立つ。
 レイアに迫る鎧に冬樹が銃弾を撃ち込んで誘い、弾丸を払うように軋んだ腕にマテリアルを込めた一撃を撃ち込む。片腕を破壊された鎧が、その隻腕で掲げたグレイブを振り回した。
 2度目に投じられた針に腕を貫かれたリディアが傷を押さえて膝を突く。
「リナお姉ちゃん!」
 駆け寄ろうと踏み出す足を留め、刃を向けて氷の矢を放つ。
 凍て付いた腕宛が手甲まで霜を広げ、リディアに振り下ろされようとしたグレイブを止めた。
 レイアも剣で鎧を潰すように相手取るレイアも既に満身創痍で息を乱している。
「――残りは左脚だけか」
 剣を支えにふらつく脚で立ち上がり、マテリアルを込めて叩き込む。刃が脛当てを裂き、漸く一体の鎧の動きが全て止まった。
 粗方の鎧が沈黙し、レイアが祈るロニに、助かったと告げ、ロニは構わないと静かに告げながら周囲を警戒する。
 腕が2つと胴と脚が1つ、兜が2つ、まだ動くらしい、鎧のパーツが歪虚の元へ集まっていった。


 金属のぶつかり合った派手な音に歪虚の腕でユリアが目を覚ます。
「……なに、ここ……ハナ、ちゃん?――ハンターさんたち?」
 抱えられた格好に身動いで、得物を構えて傷付いたハンター達へ視線を巡らせる。
 状況を分かっていない顔は、それでも周りの異常さに怯え、その細い手が歪虚に縋った。
「こっちへ来るんだ!」
「ユリアおねーさん!」
 鎧を遮るようにロニが手を伸ばし、カリアナも高い声を張り上げて呼ぶ。
「嬢ちゃんらも、待っとるんや、帰ってきぃ」
 冬樹も呼ぶが、歪虚の背後に構える雑魔に構えを解けない。
 歪虚が、ユリアに何かを囁いた。
――あの人達、私のことをいじめるの。ユリアは私の友達だから味方でいてくれるでしょ――
 途端、ハンター達を見るユリアの目が見開いて、唇が、どうして、と震えた。
 歪虚とユリアを引き離そうと、カリアナが鎌を向ける柄とハンドルを握り締めて振り翳すも、ほんの些細なぶれでユリアに当たると思うと手が震えた。
「……鎧。頼むわ」
「分かったわ――ユリアおねーさんはそのまま返して貰うわ。あなた達、歪虚には勿体ないものっ!」
 冬樹の抑えた声にカリアナは頷き鎌を鎧へ向けた。
 カリアナの言葉にユリアが歪虚を見詰めるが、歪虚は笑ってそれを否定する。あの人達がいじめるの、私は悪くないのと言って。
 冬樹が小銃を構えて銃口を向ける。何がいじめるだと友達だと。強膜は完全に黒く染まり、桃の瞳の灯りが強く揺れた。
「ユリアを……人を何やと思ってる」
 カリアナが鎧を崩す。
 怒りの混ざった弾丸は狙いを歪虚から僅かに逸れた。
 すぐに次弾を構えるが、その照門の中に覗く、歪虚の口角が吊り上がった。
 悲鳴。
 絹を裂いたような声を上げてユリアの身体から力が抜けた。
 歪虚から、ユリアからも勿論、外れたはずの弾丸は歪虚がユリアを庇う様に被せた肩を掠めていた。
 据える狙いのままに次弾を放つと、歪虚は傍らの雑魔をそれにぶつけ、凍て付いた雑魔は砕け散って霧になった。
「友達って、助けてあげるんでしょ?」
 唐突な歪虚の問いが響いた。
 だから助けた様に振る舞って見せたと言うように。
 ユリアは歪虚の腕の中でぐったりと動かない。
「――るせぇ……」
 絞り出すような震えた声。続けざまに、尽きるまで放たれる銃声。
 最後の鎧へとバルバロスが手斧を振り上げ、カリアナも鎌を向けた。
 その攻撃が至る前に、鎧はがらがらと音を立てて崩れ落ち、動かなくなった。
 投げ出されたグレイブは地面に倒れ、仰向けに倒れたような格好で、四肢も胴も転がっている。
「マスター、もうお終い?」
 歪虚の声は、場違いな程明るく響く。


 歪虚は残った雑魔を従えて霧の中へ歩く。
 妨げようと放たれた攻撃を雑魔に防がせて進んでいく。
 振り向きざま、指に挟んで投じられた3本の針が、バルバロスの斧に弾かれ、リディアの盾に止められ、レイアの脚を裂いた。
 友人に咄嗟に駆け寄ったリディアに支えられ、レイアは座り込んで項垂れる。剣を支えに倒れずに留まっているが、鮮血の散った傷は酷い。
「……カリアナを、おまえの、っ……」
 震える指の先、カリアナが霧の中へと走っている。
「私は、平気だ。付いていてやれ」
 青い顔で励ますように笑うレイアに、リディアは頷いてカリアナを追う。

 霧の中、何かに足を阻まれた。
 よく見るとそれは瓦礫で、退けようと手を掛けると、ぱりん、と音を立てて砕け散った。よく見るとそれは色硝子で、背後からの光りにきらきらと燦めいている。
「冬樹さん、リナお姉ちゃん」
 ライトを向けた冬樹を見上げ、傍らの姉に安堵する。
 1歩、瓦礫の有った場所を越えると庭の霧が一息に晴れた。
 足りぬとばかりに手斧を振るうバルバロス、レイアと彼女を支えるように佇むロニ。
 正面には瓦礫が重なって道を作り、その先にはまだ霧が掛かっている。
 掛けだしたカリアナをリディアが追い、冬樹は空にした弾倉を落とすと銃口を下ろして引きずるような足で続く。
 3人の前には天に向かって聳えた螺旋階段の入り口が広がった。砂埃に塗れたそのステップを足跡が1つ上っている。見上げれば数メートル先に袂を翻して駆け上る歪虚の姿があった。


 ユリアの生存の確認に沸いた詰め所は、すぐに追撃の準備を強いられる。
 歪虚についても、多くの情報が得られたと喜ばれた。もう一体の歪虚に付いての情報も。
 冷静な言葉も、感情的な言葉も、ユリアの帰りを祈る2人の希望を繋ぐ。
 少女は泣き腫らした目でハンターに温かな珈琲を配って回った。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 弾雨のイェーガー
    冬樹 文太(ka0124
    人間(蒼)|29才|男性|猟撃士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • 真白き抱擁
    カリアナ・ノート(ka3733
    人間(紅)|10才|女性|魔術師
  • 盾の矜持
    リディア・ノート(ka4027
    人間(紅)|13才|女性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談
カリアナ・ノート(ka3733
人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/03/25 22:00:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/03/22 00:46:20