ゲスト
(ka0000)
イチゴ祭りを盛り上げよう!
マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2016/03/28 15:00
- 完成日
- 2016/04/10 09:57
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
その光景を見た時、ルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)はここが天国なのか地獄なのか、判断がつかなかった。
彼女の背後に控えながら、同じ光景を見ているフェイト・アルテミス(kz0134)は微妙な表情を浮かべている。
「コレは……例の魔術師養成学校の生徒達の仕業なの?」
「いえ、違います。原因は新しく作られた肥料のようです」
ルサリィはフェイトの答えを聞くと、がっくり項垂れた。
ウィクトーリア家では領地内の農業に力を注いでいて、特に領主の一人娘であるルサリィがフルーツ好きということもあり、主に果物が数多く育てられている。
春にはルサリィが「大好き♪」と言っている、とある果物が収穫できるのだが……。
「……流石にこんなにイチゴが実ると、ちょっとうんざりしてしまうわ。いえ、嬉しいことは嬉しいんだけどね」
農家の者達がイチゴをたくさん収穫できるようにと、新しい肥料を作ったのだ。
その肥料は正に成功作と言えるが、効果は発揮され過ぎた――。
二人がいる広いビニールハウスの中には数多くのイチゴの苗が育てられているのだが、見渡す限りビッシリと赤く大きなイチゴが実っている。
「まあ一概には肥料のせいだけとは言えないようですよ。天気や気温の条件がそろった上での、異常豊作となったのでしょう」
ウィクトーリア伯爵領には新種のイチゴを制作するビニールハウスがいくつもあるのだが、そこでも豊作となったらしい。
様々なイチゴが領内で豊作になったのは喜ばしいことだと言えないこともないが、実は困る点もあるのだ。
「イチゴは格安で大量に売ると、価格破壊が起こるのよね。他の土地で売ろうにも、イチゴは保存が難しくて長持ちしないし……」
暖かくなってきている今の季節は、イチゴを領地外まで運んで売るのは不可能に近い。
つまり、大量の廃棄品が出てしまう恐れがあるのだ。
「イチゴの食べ放題企画をやっても、難しいでしょうね。同じ領地内で同時に行っても、イチゴが減る量はさほど変わらないでしょうし」
「他所の土地からお客を招いて行っても、あまり効果はなさそうね。何せ今の季節はグライズヘイム王国各地で、同じイベントが行われているしね」
つまりいつものやり方では、大量のイチゴは減らないということになる。
「……そういえば、ルサリィお嬢様。収穫物が多く得られた地域では、お祭りを行うそうですよ」
「ああ、聞いたことはあるわ。でもイチゴ祭りって、何をするのよ?」
「そうですねぇ……。『イチゴ祭り』と言うとイチゴスイーツ特集と思われがちなので、そこは活かしても良いと思います。後は何か催し物を行うというのはどうでしょう?」
「イチゴ祭りの催し物と言うと、大食い大会とか、お菓子教室みたいな感じかしら?」
「ええ。複数の催し物を行えば、お客様は集まると思います」
「お客様参加型のイベントは盛り上がるからね。問題はスタッフの方だけど……ハンター達に任せてみましょうか」
「そうですね。こういうイベントは我々よりも、ハンターの方達が詳しいでしょうから」
二人は頷き合い、とりあえずイチゴ祭りの会場を用意する為に動き出すのであった。
彼女の背後に控えながら、同じ光景を見ているフェイト・アルテミス(kz0134)は微妙な表情を浮かべている。
「コレは……例の魔術師養成学校の生徒達の仕業なの?」
「いえ、違います。原因は新しく作られた肥料のようです」
ルサリィはフェイトの答えを聞くと、がっくり項垂れた。
ウィクトーリア家では領地内の農業に力を注いでいて、特に領主の一人娘であるルサリィがフルーツ好きということもあり、主に果物が数多く育てられている。
春にはルサリィが「大好き♪」と言っている、とある果物が収穫できるのだが……。
「……流石にこんなにイチゴが実ると、ちょっとうんざりしてしまうわ。いえ、嬉しいことは嬉しいんだけどね」
農家の者達がイチゴをたくさん収穫できるようにと、新しい肥料を作ったのだ。
その肥料は正に成功作と言えるが、効果は発揮され過ぎた――。
二人がいる広いビニールハウスの中には数多くのイチゴの苗が育てられているのだが、見渡す限りビッシリと赤く大きなイチゴが実っている。
「まあ一概には肥料のせいだけとは言えないようですよ。天気や気温の条件がそろった上での、異常豊作となったのでしょう」
ウィクトーリア伯爵領には新種のイチゴを制作するビニールハウスがいくつもあるのだが、そこでも豊作となったらしい。
様々なイチゴが領内で豊作になったのは喜ばしいことだと言えないこともないが、実は困る点もあるのだ。
「イチゴは格安で大量に売ると、価格破壊が起こるのよね。他の土地で売ろうにも、イチゴは保存が難しくて長持ちしないし……」
暖かくなってきている今の季節は、イチゴを領地外まで運んで売るのは不可能に近い。
つまり、大量の廃棄品が出てしまう恐れがあるのだ。
「イチゴの食べ放題企画をやっても、難しいでしょうね。同じ領地内で同時に行っても、イチゴが減る量はさほど変わらないでしょうし」
「他所の土地からお客を招いて行っても、あまり効果はなさそうね。何せ今の季節はグライズヘイム王国各地で、同じイベントが行われているしね」
つまりいつものやり方では、大量のイチゴは減らないということになる。
「……そういえば、ルサリィお嬢様。収穫物が多く得られた地域では、お祭りを行うそうですよ」
「ああ、聞いたことはあるわ。でもイチゴ祭りって、何をするのよ?」
「そうですねぇ……。『イチゴ祭り』と言うとイチゴスイーツ特集と思われがちなので、そこは活かしても良いと思います。後は何か催し物を行うというのはどうでしょう?」
「イチゴ祭りの催し物と言うと、大食い大会とか、お菓子教室みたいな感じかしら?」
「ええ。複数の催し物を行えば、お客様は集まると思います」
「お客様参加型のイベントは盛り上がるからね。問題はスタッフの方だけど……ハンター達に任せてみましょうか」
「そうですね。こういうイベントは我々よりも、ハンターの方達が詳しいでしょうから」
二人は頷き合い、とりあえずイチゴ祭りの会場を用意する為に動き出すのであった。
リプレイ本文
○パティシエ班
イチゴ祭り当日の早朝、パティシエ班のハンター達はコック服に着替えると、ウィクトーリア家が管理するレンガ屋敷の中へ足を踏み入れる。
レンガ屋敷は温度調節ができるので、イチゴを短期間であれば保存できる場所になるのだ。そこへ調理器具を運び入れて、料理ができるようにした。
着替え終えたラン・ヴィンダールヴ(ka0109)は、調理台の上に大量のイチゴが入ったザルを置く。
「さて、と。今日は客がたくさん来そうだし、作り置きは大量に用意しとかないとな」
イチゴを手に取ると、フルーツナイフでヘタを切り落としていく。
「おはようございます、ランさん」
そこへ浪風悠吏(ka1035)がやって来て、ランの隣の調理台で同じくイチゴのヘタを切る作業をはじめる。
「おはようさん。そっちは何を作る予定なのかな?」
「お菓子作りは趣味程度なんですけど、イチゴのタルトを作るつもりです。既に前日からタルト生地を作って冷やしていまして、先程かまどで焼いて、今は冷ましています。生地が冷めたらカスタードクリームとイチゴをたっぷりのせて、切り分けてお客様に振る舞いたいと思っているんですよ」
「そりゃ美味しそうだね。ちなみに僕はイチゴを使ったカクテルを作るんだよ。赤い色で少し甘酸っぱいカクテルは『紅いドレスの乙女』、そしてミルクを入れて甘くしたカクテルは『初恋に溺れる少女』と名付けたんだ」
「随分とメルヘンな……いえ、素敵なお名前ですね」
「だろう? 後はルサリィに許しを貰ったから、個人的にイチゴたっぷりのショートケーキをホールで作ろうと思ってるんだよ」
「個人的なお菓子を作っても良いんですか? それなら今日ここに来れなかった家族へのお土産として、イチゴのタルトを持って帰りましょうか」
「そうしたら? やっぱ自分が作ったモノは、食べてほしい人に食べてもらうのが一番だね」
ロラン・ラコート(ka0363)は前日に作って冷やしていたイチゴのクリームを、黒いカップケーキの上に絞りのせながら会話に加わった。
「ちなみに俺はガトーショコラをカップケーキの型で焼いて、イチゴのクリームをのせて、その上にイチゴを置いたスイーツを作っているんだ。土産用だから、良かったらコレもどうぞ。その代わりと言っては何だが、そちらのレシピと作ったモノをいただいても良いかな?」
「構わないよ。味見をしてくれるなら、ありがたいしね」
「確かに、試食はしておいた方が良いですね」
はしゃぐ三人の男性ハンターを見て、藤堂 小夏(ka5489)はフッ……と遠い目をする。
「何だか男達の方が、華やいでいるわね。こっちは割と必死になっているんだけど」
小夏は生クリームとイチゴのクリームを使った二種類のロールケーキを作っており、今は中に入れるイチゴをフルーツナイフで切っていた。
「数日前からスポンジケーキとイチゴのジャム、それにシロップを作るのに火にあぶられ続けてグッタリしているのよ」
お菓子作りは火の加減が難しいので、小夏はずっと熱と戦っていたのだ。
二種類のロールケーキを作るのに欠かせない材料だったので、他人には任せられなかった。
「まあ確かにずっと火の前にいるのはきつかったわよね」
小夏と同じくイチゴのジャムとシロップ作りをしていた十野間 灯(ka5632)は、苦く笑う。
ちなみに灯の場合、イチゴジャムはそのまま瓶詰めしてお土産にする。シロップはドライイチゴと共に鍋で煮て、冷ましたものをお土産用とした。
「それにもう一種類お土産用にイチゴの砂糖漬けを作ったんだけど、ラッピングするのはちょっと疲れるのよ」
既に灯のお菓子作りは終わっているのだが、それらを瓶に入れたり袋に入れたりする作業がまだまだ残っている。
流石に一人だけでは無理なので、ウィクトーリア家の使用人達も手伝っていた。
「私もイチゴパイを作るのに、中に入れるイチゴジャムとカスタードクリームを作るのに熱い思いをしちゃいましたよ」
央崎 遥華(ka5644)もまた、二人と一緒にイチゴジャム作りとカスタードクリーム作りに苦戦したのだ。
今朝から一晩冷やしたパイ生地にイチゴジャムとカスタードクリームをのせて、蓋用のパイを上からかぶせて卵黄を塗っていく作業を繰り返している。
「大分作れたので、かまどで焼いてきますね。……ああ、また熱さとの戦いです」
大きな黒い鉄板に数多くのイチゴパイを乗せて、遥華は外にあるかまどへ向かう。
大きなかまどに鉄板を入れて、扉を閉めて、遥華は祈る。
「どうか美味しく出来上がりますように!」
○そしてはじまったイチゴ祭り
イチゴ祭りはウィクトーリア領内全域で行われており、ハンター達が作ったイチゴ菓子の甘い香りが漂う頃にはじまった。
天気が良かったおかげもあり、内外からたくさんの客が訪れている。
お菓子を会場へ運びに来た遥華は、レンガ屋敷に戻る途中で親友の大伴 鈴太郎(ka6016)の姿を見つけて駆け寄った。
「鈴ちゃん、笑顔で接客している?」
「おっ、ハルカ。オレは料理はできねーけど、接客なら任せとけ! 何せ厨房のアルバイトは一日でクビになったが、接客業は三日持ったからな!」
得意げに胸を張りながら言った鈴太郎の言葉を聞き、遥華はその場で一瞬立ち止まる。
「迷惑客とか、追っ払うのすっげー上手いんだぜ?」
「そっそう……。あっ、鈴ちゃんが着ている女性スタッフ用の制服、可愛いわね」
「実はちょっと恥ずかしいんだけどな……」
女性スタッフ用の制服は、頭に赤の縁に白いリボンのカチューシャをつけて、上半身は白いブラウスと胸元には赤いリボン、下半身は赤いスカートとピンク色のストッキング、足には真っ赤なローヒールを履き、そして白い生地にイチゴ柄のエプロンをつける。
スタッフと一目で分かるように、左の二の腕にはウィクトーリアの紋章が刻まれた腕章をつけていた。
「こんなヒラヒラした制服なんて逆に動きにくいと思ったんだが、……フェイトに睨まれてな」
どうやらこの制服はルサリィがデザインしたらしく、女性ハンター達が着てくれるのを楽しみにしているらしい。
「依頼人を悲しませることはダメだかんな。まっまあ仕方なくだ」
言葉ではそう言っても、年頃の女の子らしく少し嬉しそうだ。
そんな鈴太郎を微笑ましく見ていた遥華だが、ふとやるべきことを思い出す。
「……ととっ、いけない。かまどで焼けたイチゴパイを、まだまだ運ばなきゃいけないから後でね」
「頑張れよ。……ん? もしかして迷子か?」
六歳ぐらいの男の子が、心細げに周辺をキョロキョロしているのを見つけた鈴太郎は急いで駆け寄った。
「おいっ、ボウズ! 親とはぐれたぐれぇでぐずってんじゃねー! 男ならしっかりしろ!」
周囲にいる人々が驚いて振り返るほどの迫力がある声を出した鈴太郎を見上げた男の子は、火山が噴火したような勢いで泣き出す。
「うわわっ!? 泣くなよ、オレが悪かった! だっ誰か助けてくれぇ!」
鈴太郎まで泣き出しそうになるも、そこへナッビ(ka6020)がロランお手製のイチゴのカップケーキを男の子へ差し出した。
「イチゴ祭りへようこそ! 美味しいイチゴのカップケーキをどうぞ♪」
男の子は笑顔になると、早速ナッビからカップケーキを受け取って食べ始める。
「助かったぜ、ナッビ」
「ちょうどお菓子を運んできたロランさんから、カップケーキを貰ったところだったんですよ」
ナッビは頭にイチゴの帽子をかぶり、体には丸ごとイチゴの着ぐるみを着ていた。身軽に動き回る為に手足は出ており、グリーンの長袖と手袋、ズボンと靴を身に付けている。
「おろ……? お二人とも、どうしました? 迷子さんでございますか?」
偶然にも、女性スタッフ用の制服に身を包んだデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が通りかかった。
デュシオンはしゃがみ込むと、男の子と目線を合わせてにっこり微笑む。
「お父様とお母様と一緒にいらしたの?」
妖艶なデュシオンに眼を奪われかけた男の子だが、すぐに我に返って事情を話す。
両親と一緒に来たのだが、男の子が美味しそうなイチゴの甘い香りに惹かれて走り出してしまったせいで、はぐれたようだ。
鈴太郎とナッビはふと、先程仲間達と会ったことを思い出した。
「……そういやぁさっきから、パティシエ班達が作ったお菓子をせっせと会場に運んでいるな」
「この美味しそうな甘い香りは、子供には抗いがたいものですね」
男の子が迷子になった原因が仲間達に微妙にあることが分かり、三人は何とも言えない複雑な顔付きになる。
しかしすぐに、デュシオンは笑みを浮かばせた。
「ではご両親が来るまで、わたくし達と一緒にこの辺りにいましょうか?」
男の子が嬉しそうに何度も首を縦に振ったのを見て、鈴太郎はナッビにこっそり声をかける。
「そんじゃあオレは迷子受付所に行ってみるぜ。もしかしたら親が来ているかもしれねーからな」
「了解です」
男の子を泣かせた前科がある鈴太郎は、迷子受付所へ向かって走り出す。
今日は多くの人が訪れると予想されていた為に、各所に迷子受付所が作られたのだ。
鈴太郎が走り去ると、デュシオンは男の子の手を引きながら、ナッビに声をかける。
「でも何をして待ちましょうか? 流石にご両親を差し置いて、イベントに参加させるわけにもいきませんし……」
「あっ、それなら良い方法がありますよ」
ナッビは着ぐるみの腰の辺りをゴソゴソと探ると、両手いっぱいのイチゴのお手玉を取り出す。
「子供達を楽しませる余興として、ウィクトーリア家のメイドさん達に数珠玉入りのお手玉を作ってもらったんです」
「アラ、良いですわね」
ナッビは二人から少し距離をとり、近くに人がいないことを確認するとお手玉を操り始めた。
お手玉の中に入っている数珠玉が軽快な音を鳴らすと、近くにいる人々も足を止めてナッビに視線を集める。
ナッビは器用にお手玉を操り、時には背面でキャッチしたり、空高く放り投げたかと思うとクルッと一回転をしながらキャッチをして見せた。
そうして時間が経つと、ナッビは急いでこちらへ走って来る鈴太郎と、すぐ後ろを夫婦らしき人達が走っているのを見て、お手玉をするのを止める。
全てのお手玉を両手で受け止めた後、頭を下げると周囲から大きな拍手と歓声が起こった。
人がばらけていく中で、男の子と両親は再会することができた。三人は何度もハンター達に頭を下げながら、歩いて行く。
「オレが迷子受付所に到着したら、ちょうどあのコの両親がやって来て助かったぜ。……しかしここから迷子受付所が遠かった」
鈴太郎は顔に汗を流しながらゼェゼェと肩で息をしていて、それはナッビも同じだった。男の子の気を引く為に時間稼ぎをしていたので、予想以上に体力を消耗してしまったのだ。
「鈴様、ナッビ様、お疲れさまでした。後はわたくし達に任せて、しばし休憩をしてくださいな」
「デュシオンさん……。申し訳ないですけど少しの間、休んできます……」
「同じく……。休んでくるぜ」
鈴太郎とナッビは少しフラフラしながらも、スタッフ専用の休憩所へ向かう。
「ふふっ。ナッビさんたら、子供達に『イチゴの妖精さん』と呼ばれていますわ。確かに素晴らしい余興でしたものね」
クスクスと笑った後、デュシオンはスッと背筋を伸ばす。
「お二人が頑張ったんですから、わたくしも頑張らなくては。お客様に笑顔で帰っていただきたいですし、心から楽しんでもらいたいですもの」
そしてデュシオンは来客達に、微笑みと声をかける。
「イチゴ祭りにようこそおいでくださいました。甘酸っぱい一時を、どうかお楽しみくださいませ♪」
一方で、休憩所の中にあるスタッフ専用の更衣室は男女別々になっており、男性用では恭牙(ka5762)と鳳凰院ひりょ(ka3744)が私服姿で微妙な表情を浮かべながら、イチゴの着ぐるみを見ていた。
「う~む……。イチゴ大食い大会の前に接客をしようと思ったのだが、私が着れる着ぐるみがあるのはありがたいが……何とも言えんな」
全身を覆うようなイチゴの着ぐるみは巨大で、動く為に最低限出てしまう両手足はナッビと同じくグリーンの長袖と手袋、ズボンと靴を身に付けることになっている。
「俺の場合は接客業に慣れていないから、着ぐるみを着て無口でいた方がまだマシなんだよね」
ひりょは難しい顔でため息を吐きながら、自分サイズの着ぐるみを手に取った。
「それとも恭牙はあの可愛らしい制服を着て、接客をするのかな?」
「うっ! ……流石にそれは勘弁だ」
男性スタッフ用の制服は女性スタッフ用と使われている色は同じで、デザインは基本的に可愛らしいものだ。
体格の良い恭牙サイズもあるにはあるのだが、種族が鬼なだけに顔と制服のバランスはあまり良くなさそうだった。
仕方なく恭牙も自分サイズの着ぐるみを選び取り、二人は着替える。
しかし着ぐるみを着終えたひりょは、ヨロヨロと不安定な動きをした。
「ううっ……! これは結構重労働だな。着ぐるみはなかなか重いし、動き辛いね」
「できれば制服スタッフと合流した方が良いだろう。私達は話せないことだし、一緒にいてもらった方がいろんな意味で安全だ」
「そうだね。それじゃあ外へ出ようか」
と言うひりょだが歩き出した途端にコケてしまったので、恭牙に手を引かれながら外へ出る。
そして女性用の更衣室から、着ぐるみに着替え終えたアルスレーテ・フュラー(ka6148)と北谷王子 朝騎(ka5818)が外に出た。
「とりあえず、イチゴのゆるキャラ着ぐるみに着替えてみたわ。なかなか可愛らしいわね。……って、アラ、いけない。着ぐるみはおしゃべり厳禁だったわよね」
アルスレーテは慌てて着ぐるみの口元を手で隠して周囲を見回したが、幸いなことに客の姿は近くにない。
女性用の着ぐるみは男性用とほぼ同じで、顔の表情だけ女の子になっている。
「う~ん……。でも話ができないのなら、踊って見せた方が良いのかしら? ねぇ……」
アルスレーテは意見を求めて振り返ったが、朝騎の姿は消えていた。
「スカートを穿いた可愛い女の子がいっぱいでちゅー!」
朝騎はそう叫びながら幼い女の子達の所へ走って行ったが、すぐにアルスレーテが瞬発力を発揮して追い付き、後ろから足払いをかける。
「ふぎゃんっ!」
地面に倒れた朝騎を小脇に抱えて、アルスレーテは休憩所の前まで走って戻った。
「あなたは一体何をしているのかしら?」
ドサッと地面に落とされた朝騎は、震えながら立ち上がる。
「すっすまないでちゅ……。可愛い年下の女の子を見ると、理性が吹っ飛ぶんでちゅよ」
そこへ休憩し終えた鈴太郎とナッビ、そして着ぐるみ姿のひりょと恭牙が休憩所から出て来た。
「何してんだ、おまえら。あっ、もしかして制服組を待ってたんか?」
鈴太郎はひりょと恭牙から着ぐるみ組がしゃべれない分、制服組と組んで代わりに客と話してもらおうということになっていたことを、二人に語る。
「それは良いわね。男性組は三人で充分だから、問題は年下の女の子を見ると興奮する朝騎ね」
「そんじゃあそいつはオレが引き受けてやるよ。アルスレーテはデュシオンと合流してくれ」
「分かったわ。問題児をよろしくね」
鈴太郎は朝騎の頭をガシッと片手で掴むと、そのまま歩き出す。
すると朝騎は突如、人込みの中を通してここから約三十メートルも離れている場所で、一人で泣いている五歳ぐらいの女の子を指さした。
「鈴さん、あっちに泣いている女の子がいるでちゅ! 朝騎はアクティブスキルの占術と禹歩が使えまちゅから、探している親ぐらいすぐに見つけられまちゅよ!」
「……この距離で、よく気付いたな。正義と犯罪は紙一重――か。とりあえず頼りにしているぜ?」
朝騎の頭から手を外して、鈴太郎達は女の子に駆け寄る。
○イチゴのお料理教室
今日は天気が良いので、調理台と器具を外へ運んで行われることになった。
参加者は親子連れの姿が多い。
短時間で調理が済むことから、ハンター達は代わる代わる料理を教えることになった。
まずは白生地にイチゴ柄の三角巾を頭につけて、同じデザインのエプロンをつけたメル・アイザックス(ka0520)が先生用の調理台の前に立つ。
「みんな、はじめまして! 私はメル、今からみんなとイチゴのシェイクを作るから、よろしくね♪」
メルの注文で、前もってヘタがとってある小粒で熟した甘いイチゴが用意された。
ウィクトーリア家の使用人達から配られたイチゴ柄の三角巾とエプロンを身に付けた子供達は親と共に、銀のボウルに入れたイチゴをフォークで潰していく。イチゴを潰し終えたらシェイカーに入れて、更に牛乳を入れて振る。
「牛乳にはね、体を健康に成長させる為の栄養がたっぷり入っているんだよ。それにイチゴも美味しいだけじゃなくて、虫歯予防にもなるの! 健康でいる為にも牛乳を飲んで、イチゴも食べるようにしてね」
そしてシェイカーを振り終えた後は、牛乳とイチゴが馴染むまで調理台の下に置いておく。
その間にメルは去り、代わりにウィアズ(ka1187)が先生になる。
「次の先生はこの俺、ウィアズに代わるから、よろしくな! ちなみに俺は、イチゴのクロカンブッシュを作ろうと思っているんだ」
ウィアズが選んだイチゴは鮮やかな赤い色をした大きめのモノで、あらかじめヘタは取ってあった。
「まずは小さな鍋に砂糖と水を入れて火にかけて、水飴を作るんだ。そして水飴が冷めないうちにイチゴを全体に付けて、練乳を敷いた白く平たい皿に上を向けながら並べるんだよ。水飴は熱いから、イチゴを付ける時は二本のフォークを両手に持って使うと良い」
ウィアズは参加者達の調理台を歩いて見て回り、調理法を教えていく。
やがてイチゴのタワーがそれぞれ組み立ったものの、まだ水飴は完全には固まっていない。
「水飴がまだ完全には冷めていないから、このまま食べるのは流石に無理だ。調理台の一番下の大きな引き出しに氷と水を入れたガラス瓶が入れてあって、簡易冷蔵庫になっているからそこに入れて冷やそう」
参加者達は形が崩れないように静かにイチゴのクロカンブッシュを、引き出しの簡易冷蔵庫に入れた。
そして先生役は、ウィアズからザレム・アズール(ka0878)に代わる。
「次はザレム先生だ。俺が作り教えるのはイチゴのプリザーブ、ジャムみたいだがこっちの方が簡単に作れるからな」
ザレムの要望通り用意された、ヘタが取ってある小粒のイチゴを鍋に入れた。続いて砂糖を入れて、弱火で煮込む。約二十分後、レモン汁を入れて完成となった。
「このイチゴのプリザーブはこのまま食べても良いが、次のイチゴ料理の材料の一つになるから、そのままにしとくように」
最後は星野 ハナ(ka5852)の出番となる。
「みなさぁん、はじめまして! 最後はハナ先生が、ザレム先生が作り教えてくれたイチゴのプリザーブを使った美味しいイチゴのお茶とゼリーの作り方を教えますねぇ♪」
まずはティーポットに二杯分の紅茶の葉を入れて、小粒のイチゴとブルーベリーを三粒ずつ入れた。最後に薄切りのレモンを加えて、完成となる。
「これでミックスベリーティーの完成ですぅ。お砂糖の代わりに、お好みでプリザーブを入れてくださいねぇ」
次にミックスベリーティーにゼラチンを入れて混ぜて、簡易冷蔵庫の中で冷やす。そして出来上がったゼリーをフォークでガラスコップに入れて、プリザーブをシロップごと入れて軽く混ぜる。
「まるで宝石のようなイチゴゼリーが出来ましたぁ♪ 食べるのが勿体なく思えるぐらい、キレイですねぇ!」
――そして全ての料理が完成した。
調理台まで椅子を運んで、試食会となる。
参加者達が笑顔で喜びながら食べている姿を見ながら、四人のハンターは隅に置かれたテーブルにそれぞれ作った物を持ち寄って椅子に座った。
「こういうイベントを盛り上げるのも、大切なお仕事だよね。それにイチゴ牛乳を作って飲めて、いろんな意味でおいしい依頼だよ♪」
メルも笑顔で、イチゴ牛乳を飲む。
「俺が作ったクロカンブッシュは、イチゴを一粒ずつ取りながら食べてくれよ。甘さが必要なら、皿に敷いた練乳を付けると美味いぞ」
ウィアズは冷めたクロカンブッシュのイチゴに練乳を付けて、大きな口で頬張る。
「俺が作ったイチゴのプリザーブも、美味くできた。……しかし教室をやる前に、傷を癒してもらって本当に良かった。流石にミイラ男になりながら、料理の先生はできなかったからな」
ザレムはこの依頼に参加する前に、とある依頼で重傷を負ってしまったせいで、今朝は包帯まみれの姿で現れて、ハンター仲間達に絶叫を上げさせた。
見かねた仲間の一人が、治癒系のアクティブスキルを使って傷を癒してくれたのだ。
「ザレムくんが作ってくれたプリザーブを材料にしたお茶とゼリー、とっても美味しいですぅ♪ ……って、あぁ! そろそろ大食い大会がはじまる時間ですよぉ! 応援に行かなきゃですぅ!」
ハナが気付いた直後、スピーカーからイチゴの大食い大会の知らせが流れる。
四人は慌てて飲み&食べ終えて、仲間達の応援に向かう。
○イチゴ大食い大会・開始!
一般人の部門が終わった後、ハンター部門がはじまる。十人のハンター同士による大食い対決ということもあり、多くの観客が大食い大会の会場に集まっていた。
観客席には仕事を終えた十二人のハンターの姿もあり、会場内は熱気に包まれている。
連なる長テーブルの上に置かれたザルには大量のイチゴが入っていて、味に飽きないように練乳入りの皿も置かれた。制限時間は三十分、多く食べたハンターが優勝者となる。
着ぐるみを脱いだ恭牙とひりょは、隣同士に座っていた。
「くくくっ、好物であるイチゴが食べ放題な上に、勝負事となれば負けるわけにはいかぬ! 優勝を目指して、食べまくるのみ!」
「恭牙、戦闘モードが怖いんだけど……。まあハンター仲間達が作ったイチゴの料理とレシピは後で貰えることになったし、ここでは生のイチゴをたくさん食べよう。いっぱい働いて、お腹も減ったしね」
浪風 鈴太(ka1033)は兄の悠吏が観客席にいるのを見つけて、大きく手を振った。
「ゆり兄ぃ、オレ頑張ってイチゴをいっぱい食べるよ! そんで一位になるからね!」
悠吏は照れ臭そうに微笑みながら、手を振り返す。
そして鈴太郎は女性スタッフ用の制服を脱いで、参加をする。
「よっしゃー! 一食分、浮かすぜ!」
「働き続けて疲れたでちゅ。もうお腹が空きまくりでちゅので、たくさん食べるでちゅ!」
着ぐるみを脱いだ朝騎も、気合を入れた。
会場内が熱くなる中、最上 風(ka0891)は冷静だ。
「働くことはめんどくさいですけど、タダでイチゴを大量に食べられる仕事ならば話は別です。それにお土産もタダで貰えますしね」
ニンマリと笑う風の視線の先には、観客席にいるザレムがいた。
実はザレムを癒したのは風で、アクティブスキルの巨大注射器を使ったのだ。治療費の代わりにザレムがお料理教室で作ったイチゴのプリザーブを瓶に入れて、持ち帰ることになっている。
風の隣では、アルスレーテが怪しげな笑みを浮かべていた。
「ふふふっ……、ようやくメインイベントがはじまるわ。今朝から何にも食べていないから、優勝できなくても食べまくるわよ!」
そしてベル(ka1896)と泉(ka3737)は偶然席が隣同士になり、同時に驚きの表情を浮かべる。
「あっ、イズミだ! じゃっもーん♪」
「あっ、ベルがいるんじゃもん!」
「実はランと一緒に来たんだけど、イチゴをいっぱい食べたいから、こっちに参加することにしたの。ふふっ、負けないからねー!」
「ボクだって、まけないんじゃもん! イチゴはだいすきだから、いっぱいたべられるんじゃもんっ!」
仲間達の様子をあたたかな眼差しで見ている黒の夢(ka0187)は、のんびりしていた。
「いっちごー♪ 食べるの楽しみ♪」
ハンター達の大食い大会へ向ける思いは様々だが、とりあえずはじまった――。
イチゴを一粒食べた黒の夢は、パァッと表情を輝かせる。
「んなーっ、美味しいイチゴ♪ ありゃ、リンちゃんもキョーちゃんもおっかない顔で食べているよ。もっと味わった方が美味しいのにぃ」
鈴太と恭牙が必死になって食べている姿を見て肩を竦めるも、そのままマイペースで食べ続けた。
「このイチゴ、美味しいからいくらでも食べられるな。……って、もう聞いていないな、恭牙」
ひりょは恭牙に話しかけるのを止めて、食べることに集中する。
「ランが観客席で応援してくれていることだし、負けられないんだから!」
「イチゴ、あっまーい♪ れんにゅーつけると、もっとおいしぃー♪」
ベルと泉は頬がパンパンになるほど、口の中にイチゴを詰め込んでいた。
ザルに入ったイチゴは空っぽになると、新たなイチゴ入りザルに取り換えられる。
ハンター達はしばらく黙々と食べていたが、制限時間が残り十分になるとその様子も変わってきた。
一般スキルに大食がある朝騎は、それでも苦しそうな顔になる。
「ふう……、大分お腹が膨れてきたでちゅよ。こうなったら、ビキニアーマーの腰紐を……」
隣に座っていた風は神楽鈴を手に持ち、朝騎の目の前に差し出してアクティブスキルのシャインを発動させて眼を潰す。
「ぐはっ!? なっ何をするでちゅかっ、風さん!」
「隣で食欲をなくすようなことを、しようとするからです。ついうっかり、アクティブスキルを使ってしまいました」
「『優勝したら女の子のパンツが欲しい』と、まだ言っていないのにでちゅかっ!」
「……考えてはいたんですか」
スッと眼を細めた風は、次にアクティブスキルのディヴァインウィルを発動させた。
「あれっ!? イチゴに近付けないでちゅ!」
「そのまま時間切れまで、イチゴを食べないでください」
そして鈴太郎は余裕でイチゴをハイスピードで食べていたが、ふとその手が止まる。
「イチゴはいくらでも食えんだが、優勝するほど食べ続けたら……流石に女としてみっともねーかも。そろそろ腹の膨らみ具合もヤベーし……。うっうん、イチゴは土産で貰えるし、このあたりにしとくか」
最初の頃は勢いよく食べていた者達は徐々にスピードを落としていき、最後の方では手が止まる者までいた。
やがて三十分が経過して、一番多くイチゴを食べたのは……。
「わーい♪ 優勝しちゃった!」
最後まで、マイペースに食べ続けた黒の夢だ。
表彰式では台に上がり、賞品のブーケ【永遠の赤】を受け取る。
更にパティシエ班全員が合同で作ってくれた巨大イチゴパフェも、優勝賞品として贈られた。
「イチゴの赤い色にかけてのブーケ、良い香りなの♪ ……だけどやっぱり、仲間達が一生懸命に作ってくれた巨大イチゴパフェの方が嬉しいな!」
黒の夢はスプーンとフォークを両手に持って、今度は巨大イチゴパフェを食べ始める。
表彰式が終わると、集まった人々はばらけていく。
そんな中、ランはベルを見つけて声をかけた。
「ベルちゃん、お疲れさま。コレ……」
「あっ、ラーン♪」
「うごっ!?」
突然ベルに抱き着かれたが、ランは体勢を崩しかけながらも持っている物を死守する。
「その箱、なぁに?」
「ぼっ僕が作った、イチゴのホールケーキだよ……。最近ベルちゃんの元気がないように見えたから、プレゼント。貰ってくれるかな?」
「うわぁ……! ありがとうなの! 大事に食べるからね♪」
そして泉は牛乳を貰って飲み、満足そうに大きく息を吐く。
「ぷっはー! やっぱりイチゴにはぎゅうにゅうじゃもん! まっかであまーいイチゴ、おいしかったじゃもん。……おみやげ、もらえるんじゃもん?」
再び眼に鋭い光を宿した泉は、余っているイチゴに視線を向けた。
大食い大会会場では、未だに鈴太が残ってイチゴを食べ続けている。
「鈴太っ! もういい加減にするんだ! 会場を片付けられなくて、困っているだろう?」
ウィクトーリア家の使用人達が会場を片付けたがっているので、悠吏は慌てて弟の肩を掴んでその場から離れさせた。
「ヤダっ! まだ食べたい!」
「残ったイチゴは土産として、持ち帰っても良いんだ! それに俺や他のハンターの人達が作ったお菓子も既に貰ってあるし、レシピも教えてもらったから、家に帰って作ってやる!」
「えっ? ……なら、早く家に帰ろう!」
途端に鈴太は兄の手を引いて、歩き出す。
既に夕方になりつつあり、イチゴ祭りは終わりが近付いている。
後片付けはウィクトーリア家がやるので、ハンター達は大食い大会が終われば自由に帰って良い事になっていた。
「ゆり兄ぃ、何かオレ、眠い……」
「お腹がいっぱいになって、緊張が無くなれば、眠くもなるさ。ホラ」
悠吏が屈んだので、鈴太はその背中に乗る。
鈴太を背負った悠吏は、家へと歩き出した。
<終わり>
イチゴ祭り当日の早朝、パティシエ班のハンター達はコック服に着替えると、ウィクトーリア家が管理するレンガ屋敷の中へ足を踏み入れる。
レンガ屋敷は温度調節ができるので、イチゴを短期間であれば保存できる場所になるのだ。そこへ調理器具を運び入れて、料理ができるようにした。
着替え終えたラン・ヴィンダールヴ(ka0109)は、調理台の上に大量のイチゴが入ったザルを置く。
「さて、と。今日は客がたくさん来そうだし、作り置きは大量に用意しとかないとな」
イチゴを手に取ると、フルーツナイフでヘタを切り落としていく。
「おはようございます、ランさん」
そこへ浪風悠吏(ka1035)がやって来て、ランの隣の調理台で同じくイチゴのヘタを切る作業をはじめる。
「おはようさん。そっちは何を作る予定なのかな?」
「お菓子作りは趣味程度なんですけど、イチゴのタルトを作るつもりです。既に前日からタルト生地を作って冷やしていまして、先程かまどで焼いて、今は冷ましています。生地が冷めたらカスタードクリームとイチゴをたっぷりのせて、切り分けてお客様に振る舞いたいと思っているんですよ」
「そりゃ美味しそうだね。ちなみに僕はイチゴを使ったカクテルを作るんだよ。赤い色で少し甘酸っぱいカクテルは『紅いドレスの乙女』、そしてミルクを入れて甘くしたカクテルは『初恋に溺れる少女』と名付けたんだ」
「随分とメルヘンな……いえ、素敵なお名前ですね」
「だろう? 後はルサリィに許しを貰ったから、個人的にイチゴたっぷりのショートケーキをホールで作ろうと思ってるんだよ」
「個人的なお菓子を作っても良いんですか? それなら今日ここに来れなかった家族へのお土産として、イチゴのタルトを持って帰りましょうか」
「そうしたら? やっぱ自分が作ったモノは、食べてほしい人に食べてもらうのが一番だね」
ロラン・ラコート(ka0363)は前日に作って冷やしていたイチゴのクリームを、黒いカップケーキの上に絞りのせながら会話に加わった。
「ちなみに俺はガトーショコラをカップケーキの型で焼いて、イチゴのクリームをのせて、その上にイチゴを置いたスイーツを作っているんだ。土産用だから、良かったらコレもどうぞ。その代わりと言っては何だが、そちらのレシピと作ったモノをいただいても良いかな?」
「構わないよ。味見をしてくれるなら、ありがたいしね」
「確かに、試食はしておいた方が良いですね」
はしゃぐ三人の男性ハンターを見て、藤堂 小夏(ka5489)はフッ……と遠い目をする。
「何だか男達の方が、華やいでいるわね。こっちは割と必死になっているんだけど」
小夏は生クリームとイチゴのクリームを使った二種類のロールケーキを作っており、今は中に入れるイチゴをフルーツナイフで切っていた。
「数日前からスポンジケーキとイチゴのジャム、それにシロップを作るのに火にあぶられ続けてグッタリしているのよ」
お菓子作りは火の加減が難しいので、小夏はずっと熱と戦っていたのだ。
二種類のロールケーキを作るのに欠かせない材料だったので、他人には任せられなかった。
「まあ確かにずっと火の前にいるのはきつかったわよね」
小夏と同じくイチゴのジャムとシロップ作りをしていた十野間 灯(ka5632)は、苦く笑う。
ちなみに灯の場合、イチゴジャムはそのまま瓶詰めしてお土産にする。シロップはドライイチゴと共に鍋で煮て、冷ましたものをお土産用とした。
「それにもう一種類お土産用にイチゴの砂糖漬けを作ったんだけど、ラッピングするのはちょっと疲れるのよ」
既に灯のお菓子作りは終わっているのだが、それらを瓶に入れたり袋に入れたりする作業がまだまだ残っている。
流石に一人だけでは無理なので、ウィクトーリア家の使用人達も手伝っていた。
「私もイチゴパイを作るのに、中に入れるイチゴジャムとカスタードクリームを作るのに熱い思いをしちゃいましたよ」
央崎 遥華(ka5644)もまた、二人と一緒にイチゴジャム作りとカスタードクリーム作りに苦戦したのだ。
今朝から一晩冷やしたパイ生地にイチゴジャムとカスタードクリームをのせて、蓋用のパイを上からかぶせて卵黄を塗っていく作業を繰り返している。
「大分作れたので、かまどで焼いてきますね。……ああ、また熱さとの戦いです」
大きな黒い鉄板に数多くのイチゴパイを乗せて、遥華は外にあるかまどへ向かう。
大きなかまどに鉄板を入れて、扉を閉めて、遥華は祈る。
「どうか美味しく出来上がりますように!」
○そしてはじまったイチゴ祭り
イチゴ祭りはウィクトーリア領内全域で行われており、ハンター達が作ったイチゴ菓子の甘い香りが漂う頃にはじまった。
天気が良かったおかげもあり、内外からたくさんの客が訪れている。
お菓子を会場へ運びに来た遥華は、レンガ屋敷に戻る途中で親友の大伴 鈴太郎(ka6016)の姿を見つけて駆け寄った。
「鈴ちゃん、笑顔で接客している?」
「おっ、ハルカ。オレは料理はできねーけど、接客なら任せとけ! 何せ厨房のアルバイトは一日でクビになったが、接客業は三日持ったからな!」
得意げに胸を張りながら言った鈴太郎の言葉を聞き、遥華はその場で一瞬立ち止まる。
「迷惑客とか、追っ払うのすっげー上手いんだぜ?」
「そっそう……。あっ、鈴ちゃんが着ている女性スタッフ用の制服、可愛いわね」
「実はちょっと恥ずかしいんだけどな……」
女性スタッフ用の制服は、頭に赤の縁に白いリボンのカチューシャをつけて、上半身は白いブラウスと胸元には赤いリボン、下半身は赤いスカートとピンク色のストッキング、足には真っ赤なローヒールを履き、そして白い生地にイチゴ柄のエプロンをつける。
スタッフと一目で分かるように、左の二の腕にはウィクトーリアの紋章が刻まれた腕章をつけていた。
「こんなヒラヒラした制服なんて逆に動きにくいと思ったんだが、……フェイトに睨まれてな」
どうやらこの制服はルサリィがデザインしたらしく、女性ハンター達が着てくれるのを楽しみにしているらしい。
「依頼人を悲しませることはダメだかんな。まっまあ仕方なくだ」
言葉ではそう言っても、年頃の女の子らしく少し嬉しそうだ。
そんな鈴太郎を微笑ましく見ていた遥華だが、ふとやるべきことを思い出す。
「……ととっ、いけない。かまどで焼けたイチゴパイを、まだまだ運ばなきゃいけないから後でね」
「頑張れよ。……ん? もしかして迷子か?」
六歳ぐらいの男の子が、心細げに周辺をキョロキョロしているのを見つけた鈴太郎は急いで駆け寄った。
「おいっ、ボウズ! 親とはぐれたぐれぇでぐずってんじゃねー! 男ならしっかりしろ!」
周囲にいる人々が驚いて振り返るほどの迫力がある声を出した鈴太郎を見上げた男の子は、火山が噴火したような勢いで泣き出す。
「うわわっ!? 泣くなよ、オレが悪かった! だっ誰か助けてくれぇ!」
鈴太郎まで泣き出しそうになるも、そこへナッビ(ka6020)がロランお手製のイチゴのカップケーキを男の子へ差し出した。
「イチゴ祭りへようこそ! 美味しいイチゴのカップケーキをどうぞ♪」
男の子は笑顔になると、早速ナッビからカップケーキを受け取って食べ始める。
「助かったぜ、ナッビ」
「ちょうどお菓子を運んできたロランさんから、カップケーキを貰ったところだったんですよ」
ナッビは頭にイチゴの帽子をかぶり、体には丸ごとイチゴの着ぐるみを着ていた。身軽に動き回る為に手足は出ており、グリーンの長袖と手袋、ズボンと靴を身に付けている。
「おろ……? お二人とも、どうしました? 迷子さんでございますか?」
偶然にも、女性スタッフ用の制服に身を包んだデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が通りかかった。
デュシオンはしゃがみ込むと、男の子と目線を合わせてにっこり微笑む。
「お父様とお母様と一緒にいらしたの?」
妖艶なデュシオンに眼を奪われかけた男の子だが、すぐに我に返って事情を話す。
両親と一緒に来たのだが、男の子が美味しそうなイチゴの甘い香りに惹かれて走り出してしまったせいで、はぐれたようだ。
鈴太郎とナッビはふと、先程仲間達と会ったことを思い出した。
「……そういやぁさっきから、パティシエ班達が作ったお菓子をせっせと会場に運んでいるな」
「この美味しそうな甘い香りは、子供には抗いがたいものですね」
男の子が迷子になった原因が仲間達に微妙にあることが分かり、三人は何とも言えない複雑な顔付きになる。
しかしすぐに、デュシオンは笑みを浮かばせた。
「ではご両親が来るまで、わたくし達と一緒にこの辺りにいましょうか?」
男の子が嬉しそうに何度も首を縦に振ったのを見て、鈴太郎はナッビにこっそり声をかける。
「そんじゃあオレは迷子受付所に行ってみるぜ。もしかしたら親が来ているかもしれねーからな」
「了解です」
男の子を泣かせた前科がある鈴太郎は、迷子受付所へ向かって走り出す。
今日は多くの人が訪れると予想されていた為に、各所に迷子受付所が作られたのだ。
鈴太郎が走り去ると、デュシオンは男の子の手を引きながら、ナッビに声をかける。
「でも何をして待ちましょうか? 流石にご両親を差し置いて、イベントに参加させるわけにもいきませんし……」
「あっ、それなら良い方法がありますよ」
ナッビは着ぐるみの腰の辺りをゴソゴソと探ると、両手いっぱいのイチゴのお手玉を取り出す。
「子供達を楽しませる余興として、ウィクトーリア家のメイドさん達に数珠玉入りのお手玉を作ってもらったんです」
「アラ、良いですわね」
ナッビは二人から少し距離をとり、近くに人がいないことを確認するとお手玉を操り始めた。
お手玉の中に入っている数珠玉が軽快な音を鳴らすと、近くにいる人々も足を止めてナッビに視線を集める。
ナッビは器用にお手玉を操り、時には背面でキャッチしたり、空高く放り投げたかと思うとクルッと一回転をしながらキャッチをして見せた。
そうして時間が経つと、ナッビは急いでこちらへ走って来る鈴太郎と、すぐ後ろを夫婦らしき人達が走っているのを見て、お手玉をするのを止める。
全てのお手玉を両手で受け止めた後、頭を下げると周囲から大きな拍手と歓声が起こった。
人がばらけていく中で、男の子と両親は再会することができた。三人は何度もハンター達に頭を下げながら、歩いて行く。
「オレが迷子受付所に到着したら、ちょうどあのコの両親がやって来て助かったぜ。……しかしここから迷子受付所が遠かった」
鈴太郎は顔に汗を流しながらゼェゼェと肩で息をしていて、それはナッビも同じだった。男の子の気を引く為に時間稼ぎをしていたので、予想以上に体力を消耗してしまったのだ。
「鈴様、ナッビ様、お疲れさまでした。後はわたくし達に任せて、しばし休憩をしてくださいな」
「デュシオンさん……。申し訳ないですけど少しの間、休んできます……」
「同じく……。休んでくるぜ」
鈴太郎とナッビは少しフラフラしながらも、スタッフ専用の休憩所へ向かう。
「ふふっ。ナッビさんたら、子供達に『イチゴの妖精さん』と呼ばれていますわ。確かに素晴らしい余興でしたものね」
クスクスと笑った後、デュシオンはスッと背筋を伸ばす。
「お二人が頑張ったんですから、わたくしも頑張らなくては。お客様に笑顔で帰っていただきたいですし、心から楽しんでもらいたいですもの」
そしてデュシオンは来客達に、微笑みと声をかける。
「イチゴ祭りにようこそおいでくださいました。甘酸っぱい一時を、どうかお楽しみくださいませ♪」
一方で、休憩所の中にあるスタッフ専用の更衣室は男女別々になっており、男性用では恭牙(ka5762)と鳳凰院ひりょ(ka3744)が私服姿で微妙な表情を浮かべながら、イチゴの着ぐるみを見ていた。
「う~む……。イチゴ大食い大会の前に接客をしようと思ったのだが、私が着れる着ぐるみがあるのはありがたいが……何とも言えんな」
全身を覆うようなイチゴの着ぐるみは巨大で、動く為に最低限出てしまう両手足はナッビと同じくグリーンの長袖と手袋、ズボンと靴を身に付けることになっている。
「俺の場合は接客業に慣れていないから、着ぐるみを着て無口でいた方がまだマシなんだよね」
ひりょは難しい顔でため息を吐きながら、自分サイズの着ぐるみを手に取った。
「それとも恭牙はあの可愛らしい制服を着て、接客をするのかな?」
「うっ! ……流石にそれは勘弁だ」
男性スタッフ用の制服は女性スタッフ用と使われている色は同じで、デザインは基本的に可愛らしいものだ。
体格の良い恭牙サイズもあるにはあるのだが、種族が鬼なだけに顔と制服のバランスはあまり良くなさそうだった。
仕方なく恭牙も自分サイズの着ぐるみを選び取り、二人は着替える。
しかし着ぐるみを着終えたひりょは、ヨロヨロと不安定な動きをした。
「ううっ……! これは結構重労働だな。着ぐるみはなかなか重いし、動き辛いね」
「できれば制服スタッフと合流した方が良いだろう。私達は話せないことだし、一緒にいてもらった方がいろんな意味で安全だ」
「そうだね。それじゃあ外へ出ようか」
と言うひりょだが歩き出した途端にコケてしまったので、恭牙に手を引かれながら外へ出る。
そして女性用の更衣室から、着ぐるみに着替え終えたアルスレーテ・フュラー(ka6148)と北谷王子 朝騎(ka5818)が外に出た。
「とりあえず、イチゴのゆるキャラ着ぐるみに着替えてみたわ。なかなか可愛らしいわね。……って、アラ、いけない。着ぐるみはおしゃべり厳禁だったわよね」
アルスレーテは慌てて着ぐるみの口元を手で隠して周囲を見回したが、幸いなことに客の姿は近くにない。
女性用の着ぐるみは男性用とほぼ同じで、顔の表情だけ女の子になっている。
「う~ん……。でも話ができないのなら、踊って見せた方が良いのかしら? ねぇ……」
アルスレーテは意見を求めて振り返ったが、朝騎の姿は消えていた。
「スカートを穿いた可愛い女の子がいっぱいでちゅー!」
朝騎はそう叫びながら幼い女の子達の所へ走って行ったが、すぐにアルスレーテが瞬発力を発揮して追い付き、後ろから足払いをかける。
「ふぎゃんっ!」
地面に倒れた朝騎を小脇に抱えて、アルスレーテは休憩所の前まで走って戻った。
「あなたは一体何をしているのかしら?」
ドサッと地面に落とされた朝騎は、震えながら立ち上がる。
「すっすまないでちゅ……。可愛い年下の女の子を見ると、理性が吹っ飛ぶんでちゅよ」
そこへ休憩し終えた鈴太郎とナッビ、そして着ぐるみ姿のひりょと恭牙が休憩所から出て来た。
「何してんだ、おまえら。あっ、もしかして制服組を待ってたんか?」
鈴太郎はひりょと恭牙から着ぐるみ組がしゃべれない分、制服組と組んで代わりに客と話してもらおうということになっていたことを、二人に語る。
「それは良いわね。男性組は三人で充分だから、問題は年下の女の子を見ると興奮する朝騎ね」
「そんじゃあそいつはオレが引き受けてやるよ。アルスレーテはデュシオンと合流してくれ」
「分かったわ。問題児をよろしくね」
鈴太郎は朝騎の頭をガシッと片手で掴むと、そのまま歩き出す。
すると朝騎は突如、人込みの中を通してここから約三十メートルも離れている場所で、一人で泣いている五歳ぐらいの女の子を指さした。
「鈴さん、あっちに泣いている女の子がいるでちゅ! 朝騎はアクティブスキルの占術と禹歩が使えまちゅから、探している親ぐらいすぐに見つけられまちゅよ!」
「……この距離で、よく気付いたな。正義と犯罪は紙一重――か。とりあえず頼りにしているぜ?」
朝騎の頭から手を外して、鈴太郎達は女の子に駆け寄る。
○イチゴのお料理教室
今日は天気が良いので、調理台と器具を外へ運んで行われることになった。
参加者は親子連れの姿が多い。
短時間で調理が済むことから、ハンター達は代わる代わる料理を教えることになった。
まずは白生地にイチゴ柄の三角巾を頭につけて、同じデザインのエプロンをつけたメル・アイザックス(ka0520)が先生用の調理台の前に立つ。
「みんな、はじめまして! 私はメル、今からみんなとイチゴのシェイクを作るから、よろしくね♪」
メルの注文で、前もってヘタがとってある小粒で熟した甘いイチゴが用意された。
ウィクトーリア家の使用人達から配られたイチゴ柄の三角巾とエプロンを身に付けた子供達は親と共に、銀のボウルに入れたイチゴをフォークで潰していく。イチゴを潰し終えたらシェイカーに入れて、更に牛乳を入れて振る。
「牛乳にはね、体を健康に成長させる為の栄養がたっぷり入っているんだよ。それにイチゴも美味しいだけじゃなくて、虫歯予防にもなるの! 健康でいる為にも牛乳を飲んで、イチゴも食べるようにしてね」
そしてシェイカーを振り終えた後は、牛乳とイチゴが馴染むまで調理台の下に置いておく。
その間にメルは去り、代わりにウィアズ(ka1187)が先生になる。
「次の先生はこの俺、ウィアズに代わるから、よろしくな! ちなみに俺は、イチゴのクロカンブッシュを作ろうと思っているんだ」
ウィアズが選んだイチゴは鮮やかな赤い色をした大きめのモノで、あらかじめヘタは取ってあった。
「まずは小さな鍋に砂糖と水を入れて火にかけて、水飴を作るんだ。そして水飴が冷めないうちにイチゴを全体に付けて、練乳を敷いた白く平たい皿に上を向けながら並べるんだよ。水飴は熱いから、イチゴを付ける時は二本のフォークを両手に持って使うと良い」
ウィアズは参加者達の調理台を歩いて見て回り、調理法を教えていく。
やがてイチゴのタワーがそれぞれ組み立ったものの、まだ水飴は完全には固まっていない。
「水飴がまだ完全には冷めていないから、このまま食べるのは流石に無理だ。調理台の一番下の大きな引き出しに氷と水を入れたガラス瓶が入れてあって、簡易冷蔵庫になっているからそこに入れて冷やそう」
参加者達は形が崩れないように静かにイチゴのクロカンブッシュを、引き出しの簡易冷蔵庫に入れた。
そして先生役は、ウィアズからザレム・アズール(ka0878)に代わる。
「次はザレム先生だ。俺が作り教えるのはイチゴのプリザーブ、ジャムみたいだがこっちの方が簡単に作れるからな」
ザレムの要望通り用意された、ヘタが取ってある小粒のイチゴを鍋に入れた。続いて砂糖を入れて、弱火で煮込む。約二十分後、レモン汁を入れて完成となった。
「このイチゴのプリザーブはこのまま食べても良いが、次のイチゴ料理の材料の一つになるから、そのままにしとくように」
最後は星野 ハナ(ka5852)の出番となる。
「みなさぁん、はじめまして! 最後はハナ先生が、ザレム先生が作り教えてくれたイチゴのプリザーブを使った美味しいイチゴのお茶とゼリーの作り方を教えますねぇ♪」
まずはティーポットに二杯分の紅茶の葉を入れて、小粒のイチゴとブルーベリーを三粒ずつ入れた。最後に薄切りのレモンを加えて、完成となる。
「これでミックスベリーティーの完成ですぅ。お砂糖の代わりに、お好みでプリザーブを入れてくださいねぇ」
次にミックスベリーティーにゼラチンを入れて混ぜて、簡易冷蔵庫の中で冷やす。そして出来上がったゼリーをフォークでガラスコップに入れて、プリザーブをシロップごと入れて軽く混ぜる。
「まるで宝石のようなイチゴゼリーが出来ましたぁ♪ 食べるのが勿体なく思えるぐらい、キレイですねぇ!」
――そして全ての料理が完成した。
調理台まで椅子を運んで、試食会となる。
参加者達が笑顔で喜びながら食べている姿を見ながら、四人のハンターは隅に置かれたテーブルにそれぞれ作った物を持ち寄って椅子に座った。
「こういうイベントを盛り上げるのも、大切なお仕事だよね。それにイチゴ牛乳を作って飲めて、いろんな意味でおいしい依頼だよ♪」
メルも笑顔で、イチゴ牛乳を飲む。
「俺が作ったクロカンブッシュは、イチゴを一粒ずつ取りながら食べてくれよ。甘さが必要なら、皿に敷いた練乳を付けると美味いぞ」
ウィアズは冷めたクロカンブッシュのイチゴに練乳を付けて、大きな口で頬張る。
「俺が作ったイチゴのプリザーブも、美味くできた。……しかし教室をやる前に、傷を癒してもらって本当に良かった。流石にミイラ男になりながら、料理の先生はできなかったからな」
ザレムはこの依頼に参加する前に、とある依頼で重傷を負ってしまったせいで、今朝は包帯まみれの姿で現れて、ハンター仲間達に絶叫を上げさせた。
見かねた仲間の一人が、治癒系のアクティブスキルを使って傷を癒してくれたのだ。
「ザレムくんが作ってくれたプリザーブを材料にしたお茶とゼリー、とっても美味しいですぅ♪ ……って、あぁ! そろそろ大食い大会がはじまる時間ですよぉ! 応援に行かなきゃですぅ!」
ハナが気付いた直後、スピーカーからイチゴの大食い大会の知らせが流れる。
四人は慌てて飲み&食べ終えて、仲間達の応援に向かう。
○イチゴ大食い大会・開始!
一般人の部門が終わった後、ハンター部門がはじまる。十人のハンター同士による大食い対決ということもあり、多くの観客が大食い大会の会場に集まっていた。
観客席には仕事を終えた十二人のハンターの姿もあり、会場内は熱気に包まれている。
連なる長テーブルの上に置かれたザルには大量のイチゴが入っていて、味に飽きないように練乳入りの皿も置かれた。制限時間は三十分、多く食べたハンターが優勝者となる。
着ぐるみを脱いだ恭牙とひりょは、隣同士に座っていた。
「くくくっ、好物であるイチゴが食べ放題な上に、勝負事となれば負けるわけにはいかぬ! 優勝を目指して、食べまくるのみ!」
「恭牙、戦闘モードが怖いんだけど……。まあハンター仲間達が作ったイチゴの料理とレシピは後で貰えることになったし、ここでは生のイチゴをたくさん食べよう。いっぱい働いて、お腹も減ったしね」
浪風 鈴太(ka1033)は兄の悠吏が観客席にいるのを見つけて、大きく手を振った。
「ゆり兄ぃ、オレ頑張ってイチゴをいっぱい食べるよ! そんで一位になるからね!」
悠吏は照れ臭そうに微笑みながら、手を振り返す。
そして鈴太郎は女性スタッフ用の制服を脱いで、参加をする。
「よっしゃー! 一食分、浮かすぜ!」
「働き続けて疲れたでちゅ。もうお腹が空きまくりでちゅので、たくさん食べるでちゅ!」
着ぐるみを脱いだ朝騎も、気合を入れた。
会場内が熱くなる中、最上 風(ka0891)は冷静だ。
「働くことはめんどくさいですけど、タダでイチゴを大量に食べられる仕事ならば話は別です。それにお土産もタダで貰えますしね」
ニンマリと笑う風の視線の先には、観客席にいるザレムがいた。
実はザレムを癒したのは風で、アクティブスキルの巨大注射器を使ったのだ。治療費の代わりにザレムがお料理教室で作ったイチゴのプリザーブを瓶に入れて、持ち帰ることになっている。
風の隣では、アルスレーテが怪しげな笑みを浮かべていた。
「ふふふっ……、ようやくメインイベントがはじまるわ。今朝から何にも食べていないから、優勝できなくても食べまくるわよ!」
そしてベル(ka1896)と泉(ka3737)は偶然席が隣同士になり、同時に驚きの表情を浮かべる。
「あっ、イズミだ! じゃっもーん♪」
「あっ、ベルがいるんじゃもん!」
「実はランと一緒に来たんだけど、イチゴをいっぱい食べたいから、こっちに参加することにしたの。ふふっ、負けないからねー!」
「ボクだって、まけないんじゃもん! イチゴはだいすきだから、いっぱいたべられるんじゃもんっ!」
仲間達の様子をあたたかな眼差しで見ている黒の夢(ka0187)は、のんびりしていた。
「いっちごー♪ 食べるの楽しみ♪」
ハンター達の大食い大会へ向ける思いは様々だが、とりあえずはじまった――。
イチゴを一粒食べた黒の夢は、パァッと表情を輝かせる。
「んなーっ、美味しいイチゴ♪ ありゃ、リンちゃんもキョーちゃんもおっかない顔で食べているよ。もっと味わった方が美味しいのにぃ」
鈴太と恭牙が必死になって食べている姿を見て肩を竦めるも、そのままマイペースで食べ続けた。
「このイチゴ、美味しいからいくらでも食べられるな。……って、もう聞いていないな、恭牙」
ひりょは恭牙に話しかけるのを止めて、食べることに集中する。
「ランが観客席で応援してくれていることだし、負けられないんだから!」
「イチゴ、あっまーい♪ れんにゅーつけると、もっとおいしぃー♪」
ベルと泉は頬がパンパンになるほど、口の中にイチゴを詰め込んでいた。
ザルに入ったイチゴは空っぽになると、新たなイチゴ入りザルに取り換えられる。
ハンター達はしばらく黙々と食べていたが、制限時間が残り十分になるとその様子も変わってきた。
一般スキルに大食がある朝騎は、それでも苦しそうな顔になる。
「ふう……、大分お腹が膨れてきたでちゅよ。こうなったら、ビキニアーマーの腰紐を……」
隣に座っていた風は神楽鈴を手に持ち、朝騎の目の前に差し出してアクティブスキルのシャインを発動させて眼を潰す。
「ぐはっ!? なっ何をするでちゅかっ、風さん!」
「隣で食欲をなくすようなことを、しようとするからです。ついうっかり、アクティブスキルを使ってしまいました」
「『優勝したら女の子のパンツが欲しい』と、まだ言っていないのにでちゅかっ!」
「……考えてはいたんですか」
スッと眼を細めた風は、次にアクティブスキルのディヴァインウィルを発動させた。
「あれっ!? イチゴに近付けないでちゅ!」
「そのまま時間切れまで、イチゴを食べないでください」
そして鈴太郎は余裕でイチゴをハイスピードで食べていたが、ふとその手が止まる。
「イチゴはいくらでも食えんだが、優勝するほど食べ続けたら……流石に女としてみっともねーかも。そろそろ腹の膨らみ具合もヤベーし……。うっうん、イチゴは土産で貰えるし、このあたりにしとくか」
最初の頃は勢いよく食べていた者達は徐々にスピードを落としていき、最後の方では手が止まる者までいた。
やがて三十分が経過して、一番多くイチゴを食べたのは……。
「わーい♪ 優勝しちゃった!」
最後まで、マイペースに食べ続けた黒の夢だ。
表彰式では台に上がり、賞品のブーケ【永遠の赤】を受け取る。
更にパティシエ班全員が合同で作ってくれた巨大イチゴパフェも、優勝賞品として贈られた。
「イチゴの赤い色にかけてのブーケ、良い香りなの♪ ……だけどやっぱり、仲間達が一生懸命に作ってくれた巨大イチゴパフェの方が嬉しいな!」
黒の夢はスプーンとフォークを両手に持って、今度は巨大イチゴパフェを食べ始める。
表彰式が終わると、集まった人々はばらけていく。
そんな中、ランはベルを見つけて声をかけた。
「ベルちゃん、お疲れさま。コレ……」
「あっ、ラーン♪」
「うごっ!?」
突然ベルに抱き着かれたが、ランは体勢を崩しかけながらも持っている物を死守する。
「その箱、なぁに?」
「ぼっ僕が作った、イチゴのホールケーキだよ……。最近ベルちゃんの元気がないように見えたから、プレゼント。貰ってくれるかな?」
「うわぁ……! ありがとうなの! 大事に食べるからね♪」
そして泉は牛乳を貰って飲み、満足そうに大きく息を吐く。
「ぷっはー! やっぱりイチゴにはぎゅうにゅうじゃもん! まっかであまーいイチゴ、おいしかったじゃもん。……おみやげ、もらえるんじゃもん?」
再び眼に鋭い光を宿した泉は、余っているイチゴに視線を向けた。
大食い大会会場では、未だに鈴太が残ってイチゴを食べ続けている。
「鈴太っ! もういい加減にするんだ! 会場を片付けられなくて、困っているだろう?」
ウィクトーリア家の使用人達が会場を片付けたがっているので、悠吏は慌てて弟の肩を掴んでその場から離れさせた。
「ヤダっ! まだ食べたい!」
「残ったイチゴは土産として、持ち帰っても良いんだ! それに俺や他のハンターの人達が作ったお菓子も既に貰ってあるし、レシピも教えてもらったから、家に帰って作ってやる!」
「えっ? ……なら、早く家に帰ろう!」
途端に鈴太は兄の手を引いて、歩き出す。
既に夕方になりつつあり、イチゴ祭りは終わりが近付いている。
後片付けはウィクトーリア家がやるので、ハンター達は大食い大会が終われば自由に帰って良い事になっていた。
「ゆり兄ぃ、何かオレ、眠い……」
「お腹がいっぱいになって、緊張が無くなれば、眠くもなるさ。ホラ」
悠吏が屈んだので、鈴太はその背中に乗る。
鈴太を背負った悠吏は、家へと歩き出した。
<終わり>
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 12人 |
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- 黒竜との冥契
黒の夢(ka0187)
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/03/27 20:08:41 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/03/27 20:15:02 |