ゲスト
(ka0000)
下水道に潜む影
マスター:えーてる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/26 19:00
- 完成日
- 2014/08/30 15:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
雑魔発生の報を受けて、近辺に居合わせたハンターたち四人が討伐に向かっていた。
「仲間と楽しい休暇のはずが、とんだ邪魔が入っちまったぜ。なぁ?」
「うっさいわね! 私合コン抜け出て来たのよ!? イケメン高収入家事万能の優良物件をリリースしてきたのよ!? どうしてくれんのよぉ!?」
「届かない夢より目の前の仕事ですよ?」
「うっさいわね!! わかってんのよ彼の視線が隣のあざといマセガキにぶっ刺さってたことは!! それでも! 私は! 諦めない!」
低めに結ったツンツン跳ねるショートポニーを振り乱し、彼女は悲しい決意を叫んだ。叶うことは多分ない。
件の区画――下水道に足を踏み入れる。入り口は薄暗く、行く先は見えない。目撃情報では、この周辺に十五体、黒いタールの塊のような雑魔がいたようだ。近づいた目撃者に襲いかかり、彼が逃げ出すと水道へと潜っていったらしい。
飛び込みざま、両腕のジャマダハルを打ち鳴らして彼女は吠えた。
「さぁ出てきなさい! 食い殺してあげるわ!」
と気迫に満ちる彼女の声とは裏腹に、暗闇からは何の反応もなかった。
「移動しちまったか」
「……みたいね」
目を凝らしても、闇のわだかまる向こうには何もない。
「こりゃ面倒だな……虱潰しか」
「下水道は街の色んな場所に通じてるわ。応援を呼びましょう。私たちはこのまま行くわ」
「了解」
ハンターオフィスに連絡が行き、その後彼らは調査を始めた。
二時間後、ハンターたちは撤退した。覚醒状態を維持できなくなったためだ。
●
「下水道に雑魔が発生しました」
受付嬢は地図を差し出し、下水道の入り口を指し示した。
「二時間ほど前から先行班が探索を進めていましたが、先刻撤退してきました」
四人組で、時間いっぱいまで使って五体は始末したそうだ。
「残る数は十体。特徴はぶくぶくと膨れたスライム状の黒い姿で、見かけによらず俊敏です。また流体かそれに類する形質をもつようで、地下水道のフェンスを抜けて追手を撒くことが度々ありました。再生能力も有するようですが、基本的に殺傷力は低いです」
基本的にというのは、攻撃が不意打ちや妨害に特化しているという一点にある。
天井や足元から突然対象を包むように降り注ぎ、窒息死させようとする。ハンターの膂力でも、捕まった状態を一人で脱せるとは限らないらしい。
最初の目撃情報では一般人に体当たりをしかけただけで、包み込むのも遅かったらしい。直接戦闘力は非常に低いと見ていい。
「厄介な点としては、平時に攻撃を受けると即座に逃走するという特徴があります。移動も静音で、体色もあって暗闇で判別するには困難がつきまといます。基本的に物陰や曲がり角の天井隅に潜んでいるため、発見にも手間があります」
恐らく無抵抗の者のみを狙うのだろう。
固まって探索を続けて発見にかかった時間は二十分ほどだったらしい。一連の面倒な性質故に時間との戦いになる。
ハンターの連続覚醒可能時間は、駆け出しのもので二時間。それなりの熟練者でも三時間だ。
「依頼内容は下水道の雑魔の駆除です。よろしくお願いします」
リプレイ本文
●
一同は下水道の前に並んだ。
「さてまぁ、相手は雑魚みたいだけど油断しない程度にさくさく行きましょ」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は振り返った。
「スライムか……大剣でぶった斬っても、感触が弱くてあんまり面白みがねぇんだよな」
「雑魚とはいえ、囲まれると厄介だしね」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)のつぶやきに、エリシャも同意する。
「無抵抗の者を好んで襲うあたりいやらしいですね、この機会に全滅させないと」
ミリア・コーネリウス(ka1287)は気合を入れた。
「やれやれ……あまりこんな場所に長居すると義肢のメンテナンスが大変になりそうだ」
苦笑しながら義手を撫でる鳳 覚羅(ka0862)。
「ぬう……雑魔のくせに持久戦を挑むとは」
ルーガ・バルハザード(ka1013)は難しい顔で洞窟を睨んでいる。
『とにかく逃げまわるのが特徴! 配管の隙間とかにも滑りこむから、地形には要注意ね』
『位置はまばらだったが、天井に張り付いてることが多かったな』
など、彼女は先行班から情報を確認してきていた。
「見つけ難いのに制限時間付き……か」
「かくれんぼと鬼ごっこ……両方、あんまり得意じゃないけど……」
目印をつけるためのチョークを準備する鈴胆 奈月(ka2802)と、不安げなレナ・クラウステル(ka1953)。
「一人じゃないから、きっと大丈夫……だよね」
レナの言葉に、リィフィ(ka2702)はどんと胸を叩いた。
「だいじょーぶ! リィフィがぱぱっと見つけてやっつけちゃうもんね!」
「でも、今回班二つだよね」
「あっそうだった。えと……うーん……ガンバ!」
リィフィが奈月の肩をぽんと叩き、彼は溜息を付いた。
漂う微妙な空気を払拭するように、エヴァンスが声を上げた。
「早く行こうぜ。もたもたして被害が出てもまずいだろ」
その言葉と共に、一行は下水道へと足を踏み入れた。
●
班は二つに分けることになった。
A班、エリシャ、覚羅、レナ、リィフィ。四人は入り口左方を探索している。LEDライトで暗がりを照らしながらの探索は中々に難しい。
「地図は頼むわね」
「んむ、リィフィの方向感覚にまっかせて!」
リィフィが主体となってマッピングを進め、エリシャがチョークで壁に印を刻み、覚羅は地図にナンバリングを行う。レナは配管の影や隅の暗がりなどに意識してライトを当てている。
四人ともまだ覚醒はしていない。長時間の探索を行う以上、覚醒持続時間との勝負になる。ギリギリまで覚醒せずにおくことになっていた。
「しかしジメジメした場所ね。臭いし」
覚羅もそれに同意した。
「この手の場所はあの手の敵にとっては優位にたてる場所だからねぇ……油断は禁物禁物と」
四つの光が壁や水面に丸く投射され、周囲を探るように動き回る。
その中で、ふとリィフィが後ろ上方に向けた光の円に、ぬるりとした何かが入り込んだ。
「みーっけた! かくれんぼはリィフィの勝ち! 逃がさないよどろどろゼリーマン!!」
殆ど一斉に彼らは覚醒して、それぞれ退路を塞いだ。排水管やフェンスなどの細い隙間に向かわせない方針だ。
対する雑魔は光を受けても微動だにせず……いや、粘性の体を震わせながらゆっくりと動いている。
「……見つかっただけじゃ逃げ出さないのね」
「じゃあ、誘き出してみるね」
レナがぽてんと可愛らしく尻餅をついた。すると、雑魔は移動を早めてレナの頭上へ向かった。
「こりゃ分かりやすいね。あとは逃げ出されないように……と、レナさん、来るよ」
警告と共に粘体状の雑魔は落下を始め、レナはくるんと前転してそれをかわした。
「当たんないよ」
「今っ!」
エリシャが合図がてらに声を発し、鋭く一撃を繰り出した。雑魔の体が痙攣したように震えて、先ほどまでとは比べ物にならない速度で離脱を図る。
「逃がさない……の!」
が、合わせてシルバーマグが火を吹き、火矢の魔術が雑魔の大半を吹き飛ばした。雑魔は必死に速度を上げ、リィフィの脇を抜けようとする。
「こらぁー! もっとリィフィと遊んでくれなきゃだめなのっ!」
その横っ腹をチャクラムが直撃し、さらにリィフィは一歩回りこんで改めて退路を塞いだ。
それでもなお逃げようとする雑魔も、次の一斉攻撃で撃沈した。
「存外柔らかいね。外さなければ十分いけそうだ」
小さく頷く覚羅の横で、エリシャが得物を振り払った。
「所要時間は一分もなしってとこかしら? 思ってたよりチョロいわね」
「誰かがあいつにライト当てっぱなしにしてたほうがいいかも!」
「んと……じゃあそれ、レナがやるね」
リィフィの提案に、レナはめくれ上がったポンチョを直すと立ち上がり、ライトを手にとった。
現在地のメモを入れた後、覚羅は連絡のために魔導短伝話を取り出した。
「もしもし……」
「……相変わらず面妖な道具よ。もしもし、こちらB班」
ルーガが伝話を手にとる横で、エヴァンスたちは探索を続けていた。
B班はエヴァンス、ルーガ、ミリア、奈月だ。
「そうか。分かった。こちらも追って連絡する」
伝話を切り、ルーガはランタンを持ち直す。
「向こうは一体倒したそうだ」
「早いな」
マッピングをしながらの奈月の言葉にエヴァンスが頷いた。
「焦っても仕方ねぇから、じっくり行こうぜ。まだ覚醒はしてねぇしな」
「それにしても、中々見つかりませんね」
ミリアが呟く。薄暗く、すえた臭いの下水道を長時間探索するのは、想像以上に体力を使った。
二つのランタンのおかげで、逐一上へとライトを向ける必要はない。遠くを照らしながら進む一行は、ついに曲がり角の隅にいる雑魔を見つけた。
雑魔は逃げる素振りを見せない。それを確認してから、三人が覚醒を行った。ミリアは身を挺して囮になった形である。
案の定、雑魔はミリアの方へとやってきた。ミリアとルーガはランタンを床に置いた。細い隙間などの逃げ道を塞ぎ、全員が武器を構える。
十分に引きつけたところで、エヴァンスが大剣を振りかぶった。
「楽しみは薄いが仕事だ。全力で潰すぜ!」
「今です!」
ミリアが上手く攻撃を回避した所に、エヴァンスが斬りかかった。強烈な一撃が雑魔の体積を削ぐ。剣で切るのも十分に有効のようだった。
「生意気な軟体生物め、私がお前を滅ぼそうッ!」
ルーガのホーリーライトが追い打ちをかけた。奈月も機導砲でダメージを与えるが、単純な威力はスピアガンのほうが高そうだ。奈月は武器を構え直した。
「てか、ライトからでも撃てんのかよ。ギャグみてえだ」
「僕は大真面目なんだけどな」
あまり意味が無いようでいて、敵を照らしながら攻撃できる利点があった。
敵を厄介な場所へ逃さないように徹底すれば、大した相手でもない。その後順当に討伐を終えた。
「最後までこうすんなりと行けば楽なんだけどな……」
「そうだな」
壁に印をつけながらの奈月のぼやきにルーガも同意する。その後、B班も連絡を取った。
●
討伐は順調に進んでいた。
「どろどろの真ん中は……ここだ! レジェンドゥリィフィアターーーーック!!」
リィフィのジャマダハルが雑魔を真っ二つに引き裂き、とどめを刺した。
「参ったか! これが将来『伝説の黒い狼』と呼ばれ世界中から恐れられる(予定の)リィフィの真の力なんだから!!」
わー、と拍手をするレナに、えっへんとドヤ顔で胸を張るリィフィ。
「はいはい、次行きましょう」
構わずエリシャはチョークを壁に打ち付けた。
「そう急ぐこともなさそうだけどね」
二回目の覚醒から三十分ほど経過し、今ので四体目を討伐した所だ。この調子ならノルマの五体は倒せるだろう。
「あえてのんびりする必要もないでしょ」
覚羅の言葉にエリシャは呟いて、先へ進もうとする。
と、二人は同時に振り返った。
「レナ、下がりなさい!」
「天井からだ!」
「へっ――」
という言葉ごと、飛びかかった雑魔がレナを飲み込んだ。
「ちょっ、レナ!?」
「んんん――!」
目の前に降ってきたタール状のそれにリィフィも僅かに動転する。レナは慌てて首を振るが、雑魔は瞬く間にレナの全身を包み込んで動きを封じた。
「仲間を囮に奇襲ってわけ、上等よ……!」
エリシャの剣がレナに傷を付けぬように振るわれる。
「こらーっ! 卑怯者! レナを返せ!」
リィフィがジャマダハルで掻き分けるように攻撃した。覚羅も機導剣で雑魔をひっぺがそうとする。
その甲斐あってか、レナは雑魔の体からごろんと後ろへ飛び出た。
「思ったより……結構、怖いかも……」
といいつつ、彼女は雑魔を包囲出来るような位置に振り解いていた。集中して炎の矢を放ち、雑魔の体を吹き飛ばす。
やはり逃げ出した雑魔を、覚羅の機導剣が貫いた。
「まったく……あまり煩わせないで欲しいね」
アルケミストタクトを振り払って、覚羅は呟いた。
「ちょっと焦ったけど、これで五体は倒したね!」
「うん……ラッキーだね」
リィフィの言葉に、汚れを払いながらレナが同意した。
「さて、向こうはどうかしらね」
「未探索の場所もあるし、そちらを回るのが先かな」
覚羅はそういいつつ、魔導短伝話を起動した。
その頃、B班は敵を二体同時に相手にしていた。
天井に張り付いた二体の雑魔のうち片方を包囲し、慎重に武器を構える。
「動くんじゃない、そうすればあっさりと終わらせてやるぞ?」
ルーガの言葉をどう受け取ったのか、狙われている雑魔はこちらの様子を伺っていた。
一行はひとまず片方を叩き、逃げ出した所をエヴァンスが叩き潰す形を取ることにした。二匹目が隙間から逃げ出さないように警戒しながらである。
初撃はルーガのホーリーライトだ。雑魔は光と熱に身を焼かれて、堪らず逃げ出す。
「いきますよエヴァンスさん、まっぷたつです!」
「おう、いつでもこい!」
ミリアが仕掛けた。天井を走る雑魔に対して、大剣が唸りを上げて直撃する。エヴァンスもそこに追撃を入れた。
「作戦通りなんだけど、逃げられるのはいい気分じゃないな」
奈月のスピアガンが雑魔の横腹に突き刺さる。
「逃げ足の速い野郎みたいだが、俺らからは逃げられねぇよ!」
遠くへ逃げようとする雑魔に対してエヴァンスが踏み込んで追いすがり、一刀両断した。
「よし、次は――」
「きゃああっ!」
エヴァンスが振り返ると、隙を突かれたミリアが雑魔に捕まっていた。
「ちっ」
「油断したか……! 今助けるぞ!」
ルーガが聖なる光で雑魔を吹き飛ばすが、ミリアは脱出出来そうになかった。
「億劫だ……、無理矢理終わらせる」
奈月は機導剣で先に雑魔にとどめを刺そうとするが、上手くいかない。
エヴァンスも剣で雑魔を斬りつけるが、止めには至らなかった。ミリアごと切るわけにもいかない。
もがくミリアの周りで雑魔を引き剥がそうと三人が奮闘した末、ようやくミリアは雑魔の体を破って飛び出した。
「ぷはっ!」
「気をしっかり持て、傷は浅いぞ!」
ルーガがすかさず回復術をかける。
「よくもやってくれましたね!」
息を整えたミリアは雑魔に向けて鋭く踏み込み、大きく振りかぶって引き裂いた。
「この大剣に斬れないものなんてあんまりありません」
ミリアが大剣を鞘に納めた頃に、ルーガの魔導短電話に連絡があった。
「もしもし……あぁ、そうか。こちらもちょうど五体目が終わったところだ……あぁ、そうだな。下水道の入り口で落ち合おう。では」
ルーガが伝話を切り、エヴァンスは半ば想像のつく内容を問いかけた。
「向こうはなんつってた?」
「あぁ、あちらも五体討伐を終えたらしい」
ルーガの答えに、一同は安堵の息をついた。
●
「ふう……なんだか久しぶりな気がするね」
「二時間ほどだが、長いものだな」
覚羅とルーガは外の空気を吸い込んでそう言った。
「あぁもう、ひどい臭いだったわ。服に染みてないといいけど」
エリシャはぼやいた。
「意外に手間取らなかったな」
「手間取ったら逆に面倒だから、これでいいんじゃないか」
「面倒なのは俺とエリシャだけどな」
奈月の言葉にエヴァンスがそう答えた。この場のハンターたちの中では彼ら二人だけが三時間分の覚醒が可能なのだ。もし時間切れなら、二人だけで雑魔を倒さなければならなかった。覚醒できない状態ではハンターは満足に戦えないのだ。
「あ、地図をお預かりしてもいいですか」
「うん、いいよー」
ミリアは今後のことを考えて、発見した位置をオフィスに報告するつもりだ。リィフィは快く地図を渡した。
「はふ……長いかくれんぼは、疲れちゃう……の」
レナはくたりと首を倒した。
「お腹ぺこぺこだよ! ごはん食べよー……って……」
リィフィは持ち込んできたパンを取り出した。残念なことにどこかで汚したらしく、泥状の何かで汚れてしまっていた。
「うわぁ……」
ミリアは無残なものを見て思わずそんな声を出した。
「どう見ても生ごみね」
エリシャは相変わらず冷たい。リィフィは吠えた。
「のおおおおお!! リィフィのごはんーーー!!!」
一同は下水道の前に並んだ。
「さてまぁ、相手は雑魚みたいだけど油断しない程度にさくさく行きましょ」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)は振り返った。
「スライムか……大剣でぶった斬っても、感触が弱くてあんまり面白みがねぇんだよな」
「雑魚とはいえ、囲まれると厄介だしね」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)のつぶやきに、エリシャも同意する。
「無抵抗の者を好んで襲うあたりいやらしいですね、この機会に全滅させないと」
ミリア・コーネリウス(ka1287)は気合を入れた。
「やれやれ……あまりこんな場所に長居すると義肢のメンテナンスが大変になりそうだ」
苦笑しながら義手を撫でる鳳 覚羅(ka0862)。
「ぬう……雑魔のくせに持久戦を挑むとは」
ルーガ・バルハザード(ka1013)は難しい顔で洞窟を睨んでいる。
『とにかく逃げまわるのが特徴! 配管の隙間とかにも滑りこむから、地形には要注意ね』
『位置はまばらだったが、天井に張り付いてることが多かったな』
など、彼女は先行班から情報を確認してきていた。
「見つけ難いのに制限時間付き……か」
「かくれんぼと鬼ごっこ……両方、あんまり得意じゃないけど……」
目印をつけるためのチョークを準備する鈴胆 奈月(ka2802)と、不安げなレナ・クラウステル(ka1953)。
「一人じゃないから、きっと大丈夫……だよね」
レナの言葉に、リィフィ(ka2702)はどんと胸を叩いた。
「だいじょーぶ! リィフィがぱぱっと見つけてやっつけちゃうもんね!」
「でも、今回班二つだよね」
「あっそうだった。えと……うーん……ガンバ!」
リィフィが奈月の肩をぽんと叩き、彼は溜息を付いた。
漂う微妙な空気を払拭するように、エヴァンスが声を上げた。
「早く行こうぜ。もたもたして被害が出てもまずいだろ」
その言葉と共に、一行は下水道へと足を踏み入れた。
●
班は二つに分けることになった。
A班、エリシャ、覚羅、レナ、リィフィ。四人は入り口左方を探索している。LEDライトで暗がりを照らしながらの探索は中々に難しい。
「地図は頼むわね」
「んむ、リィフィの方向感覚にまっかせて!」
リィフィが主体となってマッピングを進め、エリシャがチョークで壁に印を刻み、覚羅は地図にナンバリングを行う。レナは配管の影や隅の暗がりなどに意識してライトを当てている。
四人ともまだ覚醒はしていない。長時間の探索を行う以上、覚醒持続時間との勝負になる。ギリギリまで覚醒せずにおくことになっていた。
「しかしジメジメした場所ね。臭いし」
覚羅もそれに同意した。
「この手の場所はあの手の敵にとっては優位にたてる場所だからねぇ……油断は禁物禁物と」
四つの光が壁や水面に丸く投射され、周囲を探るように動き回る。
その中で、ふとリィフィが後ろ上方に向けた光の円に、ぬるりとした何かが入り込んだ。
「みーっけた! かくれんぼはリィフィの勝ち! 逃がさないよどろどろゼリーマン!!」
殆ど一斉に彼らは覚醒して、それぞれ退路を塞いだ。排水管やフェンスなどの細い隙間に向かわせない方針だ。
対する雑魔は光を受けても微動だにせず……いや、粘性の体を震わせながらゆっくりと動いている。
「……見つかっただけじゃ逃げ出さないのね」
「じゃあ、誘き出してみるね」
レナがぽてんと可愛らしく尻餅をついた。すると、雑魔は移動を早めてレナの頭上へ向かった。
「こりゃ分かりやすいね。あとは逃げ出されないように……と、レナさん、来るよ」
警告と共に粘体状の雑魔は落下を始め、レナはくるんと前転してそれをかわした。
「当たんないよ」
「今っ!」
エリシャが合図がてらに声を発し、鋭く一撃を繰り出した。雑魔の体が痙攣したように震えて、先ほどまでとは比べ物にならない速度で離脱を図る。
「逃がさない……の!」
が、合わせてシルバーマグが火を吹き、火矢の魔術が雑魔の大半を吹き飛ばした。雑魔は必死に速度を上げ、リィフィの脇を抜けようとする。
「こらぁー! もっとリィフィと遊んでくれなきゃだめなのっ!」
その横っ腹をチャクラムが直撃し、さらにリィフィは一歩回りこんで改めて退路を塞いだ。
それでもなお逃げようとする雑魔も、次の一斉攻撃で撃沈した。
「存外柔らかいね。外さなければ十分いけそうだ」
小さく頷く覚羅の横で、エリシャが得物を振り払った。
「所要時間は一分もなしってとこかしら? 思ってたよりチョロいわね」
「誰かがあいつにライト当てっぱなしにしてたほうがいいかも!」
「んと……じゃあそれ、レナがやるね」
リィフィの提案に、レナはめくれ上がったポンチョを直すと立ち上がり、ライトを手にとった。
現在地のメモを入れた後、覚羅は連絡のために魔導短伝話を取り出した。
「もしもし……」
「……相変わらず面妖な道具よ。もしもし、こちらB班」
ルーガが伝話を手にとる横で、エヴァンスたちは探索を続けていた。
B班はエヴァンス、ルーガ、ミリア、奈月だ。
「そうか。分かった。こちらも追って連絡する」
伝話を切り、ルーガはランタンを持ち直す。
「向こうは一体倒したそうだ」
「早いな」
マッピングをしながらの奈月の言葉にエヴァンスが頷いた。
「焦っても仕方ねぇから、じっくり行こうぜ。まだ覚醒はしてねぇしな」
「それにしても、中々見つかりませんね」
ミリアが呟く。薄暗く、すえた臭いの下水道を長時間探索するのは、想像以上に体力を使った。
二つのランタンのおかげで、逐一上へとライトを向ける必要はない。遠くを照らしながら進む一行は、ついに曲がり角の隅にいる雑魔を見つけた。
雑魔は逃げる素振りを見せない。それを確認してから、三人が覚醒を行った。ミリアは身を挺して囮になった形である。
案の定、雑魔はミリアの方へとやってきた。ミリアとルーガはランタンを床に置いた。細い隙間などの逃げ道を塞ぎ、全員が武器を構える。
十分に引きつけたところで、エヴァンスが大剣を振りかぶった。
「楽しみは薄いが仕事だ。全力で潰すぜ!」
「今です!」
ミリアが上手く攻撃を回避した所に、エヴァンスが斬りかかった。強烈な一撃が雑魔の体積を削ぐ。剣で切るのも十分に有効のようだった。
「生意気な軟体生物め、私がお前を滅ぼそうッ!」
ルーガのホーリーライトが追い打ちをかけた。奈月も機導砲でダメージを与えるが、単純な威力はスピアガンのほうが高そうだ。奈月は武器を構え直した。
「てか、ライトからでも撃てんのかよ。ギャグみてえだ」
「僕は大真面目なんだけどな」
あまり意味が無いようでいて、敵を照らしながら攻撃できる利点があった。
敵を厄介な場所へ逃さないように徹底すれば、大した相手でもない。その後順当に討伐を終えた。
「最後までこうすんなりと行けば楽なんだけどな……」
「そうだな」
壁に印をつけながらの奈月のぼやきにルーガも同意する。その後、B班も連絡を取った。
●
討伐は順調に進んでいた。
「どろどろの真ん中は……ここだ! レジェンドゥリィフィアターーーーック!!」
リィフィのジャマダハルが雑魔を真っ二つに引き裂き、とどめを刺した。
「参ったか! これが将来『伝説の黒い狼』と呼ばれ世界中から恐れられる(予定の)リィフィの真の力なんだから!!」
わー、と拍手をするレナに、えっへんとドヤ顔で胸を張るリィフィ。
「はいはい、次行きましょう」
構わずエリシャはチョークを壁に打ち付けた。
「そう急ぐこともなさそうだけどね」
二回目の覚醒から三十分ほど経過し、今ので四体目を討伐した所だ。この調子ならノルマの五体は倒せるだろう。
「あえてのんびりする必要もないでしょ」
覚羅の言葉にエリシャは呟いて、先へ進もうとする。
と、二人は同時に振り返った。
「レナ、下がりなさい!」
「天井からだ!」
「へっ――」
という言葉ごと、飛びかかった雑魔がレナを飲み込んだ。
「ちょっ、レナ!?」
「んんん――!」
目の前に降ってきたタール状のそれにリィフィも僅かに動転する。レナは慌てて首を振るが、雑魔は瞬く間にレナの全身を包み込んで動きを封じた。
「仲間を囮に奇襲ってわけ、上等よ……!」
エリシャの剣がレナに傷を付けぬように振るわれる。
「こらーっ! 卑怯者! レナを返せ!」
リィフィがジャマダハルで掻き分けるように攻撃した。覚羅も機導剣で雑魔をひっぺがそうとする。
その甲斐あってか、レナは雑魔の体からごろんと後ろへ飛び出た。
「思ったより……結構、怖いかも……」
といいつつ、彼女は雑魔を包囲出来るような位置に振り解いていた。集中して炎の矢を放ち、雑魔の体を吹き飛ばす。
やはり逃げ出した雑魔を、覚羅の機導剣が貫いた。
「まったく……あまり煩わせないで欲しいね」
アルケミストタクトを振り払って、覚羅は呟いた。
「ちょっと焦ったけど、これで五体は倒したね!」
「うん……ラッキーだね」
リィフィの言葉に、汚れを払いながらレナが同意した。
「さて、向こうはどうかしらね」
「未探索の場所もあるし、そちらを回るのが先かな」
覚羅はそういいつつ、魔導短伝話を起動した。
その頃、B班は敵を二体同時に相手にしていた。
天井に張り付いた二体の雑魔のうち片方を包囲し、慎重に武器を構える。
「動くんじゃない、そうすればあっさりと終わらせてやるぞ?」
ルーガの言葉をどう受け取ったのか、狙われている雑魔はこちらの様子を伺っていた。
一行はひとまず片方を叩き、逃げ出した所をエヴァンスが叩き潰す形を取ることにした。二匹目が隙間から逃げ出さないように警戒しながらである。
初撃はルーガのホーリーライトだ。雑魔は光と熱に身を焼かれて、堪らず逃げ出す。
「いきますよエヴァンスさん、まっぷたつです!」
「おう、いつでもこい!」
ミリアが仕掛けた。天井を走る雑魔に対して、大剣が唸りを上げて直撃する。エヴァンスもそこに追撃を入れた。
「作戦通りなんだけど、逃げられるのはいい気分じゃないな」
奈月のスピアガンが雑魔の横腹に突き刺さる。
「逃げ足の速い野郎みたいだが、俺らからは逃げられねぇよ!」
遠くへ逃げようとする雑魔に対してエヴァンスが踏み込んで追いすがり、一刀両断した。
「よし、次は――」
「きゃああっ!」
エヴァンスが振り返ると、隙を突かれたミリアが雑魔に捕まっていた。
「ちっ」
「油断したか……! 今助けるぞ!」
ルーガが聖なる光で雑魔を吹き飛ばすが、ミリアは脱出出来そうになかった。
「億劫だ……、無理矢理終わらせる」
奈月は機導剣で先に雑魔にとどめを刺そうとするが、上手くいかない。
エヴァンスも剣で雑魔を斬りつけるが、止めには至らなかった。ミリアごと切るわけにもいかない。
もがくミリアの周りで雑魔を引き剥がそうと三人が奮闘した末、ようやくミリアは雑魔の体を破って飛び出した。
「ぷはっ!」
「気をしっかり持て、傷は浅いぞ!」
ルーガがすかさず回復術をかける。
「よくもやってくれましたね!」
息を整えたミリアは雑魔に向けて鋭く踏み込み、大きく振りかぶって引き裂いた。
「この大剣に斬れないものなんてあんまりありません」
ミリアが大剣を鞘に納めた頃に、ルーガの魔導短電話に連絡があった。
「もしもし……あぁ、そうか。こちらもちょうど五体目が終わったところだ……あぁ、そうだな。下水道の入り口で落ち合おう。では」
ルーガが伝話を切り、エヴァンスは半ば想像のつく内容を問いかけた。
「向こうはなんつってた?」
「あぁ、あちらも五体討伐を終えたらしい」
ルーガの答えに、一同は安堵の息をついた。
●
「ふう……なんだか久しぶりな気がするね」
「二時間ほどだが、長いものだな」
覚羅とルーガは外の空気を吸い込んでそう言った。
「あぁもう、ひどい臭いだったわ。服に染みてないといいけど」
エリシャはぼやいた。
「意外に手間取らなかったな」
「手間取ったら逆に面倒だから、これでいいんじゃないか」
「面倒なのは俺とエリシャだけどな」
奈月の言葉にエヴァンスがそう答えた。この場のハンターたちの中では彼ら二人だけが三時間分の覚醒が可能なのだ。もし時間切れなら、二人だけで雑魔を倒さなければならなかった。覚醒できない状態ではハンターは満足に戦えないのだ。
「あ、地図をお預かりしてもいいですか」
「うん、いいよー」
ミリアは今後のことを考えて、発見した位置をオフィスに報告するつもりだ。リィフィは快く地図を渡した。
「はふ……長いかくれんぼは、疲れちゃう……の」
レナはくたりと首を倒した。
「お腹ぺこぺこだよ! ごはん食べよー……って……」
リィフィは持ち込んできたパンを取り出した。残念なことにどこかで汚したらしく、泥状の何かで汚れてしまっていた。
「うわぁ……」
ミリアは無残なものを見て思わずそんな声を出した。
「どう見ても生ごみね」
エリシャは相変わらず冷たい。リィフィは吠えた。
「のおおおおお!! リィフィのごはんーーー!!!」
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 6人 |
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MVP一覧
- 可愛いうさぎさん
レナ・クラウステル(ka1953)
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/22 12:50:39 |
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相談卓 エリシャ・カンナヴィ(ka0140) エルフ|13才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/08/26 17:47:58 |