ゲスト
(ka0000)
大江家、イースターエッグぶん投げる
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/11 19:00
- 完成日
- 2016/04/18 18:00
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●食べ物でしょ!
大江 紅葉(kz0163)は飛んできた卵をよけきれなかった。生卵ならべっとりなるな、ゆで卵なら痛いかなぁと考えている間によければよかったのだが。
ゴチッ。
額にそれは当たった。非常に痛かったが、気絶するほどではなかった。卵を拾いながら「絵が描いてある」と考えた。
べちゃっ。
もう一つ来ていたらしく、それは紅葉の頭に当たり、割れた。
それらがどこから飛んできているかを知っている。紅葉は知っている、彼女たちが硬直してその場にいるということも。
「善木、テユカ……これ、どういう意味か説明しくれますかぁ?」
低い低い、押しごろした声に大人の鬼の善木とまだ子どものテユカは震えた。逃げようとしている。
「こらあ」
叱り飛ばす紅葉の声が屋敷の中を響き渡る。
説明の責任を果たす前に、大江家の家臣たちが声に気付いてやってきて、紅葉に付いた卵をふき取ったり着替えがいる等々の世話が始まった。
「五来、二人を逃がさないでくださいね」
もう一人の大人の鬼がこくりとうなずき、二人を抑えて置いた。
●説明
「西方には『イースター』と言うのがあるというから、あたしね、やってみようと思ったの」
「それと、卵投げとの間の因果関係は! 駄目ですよ、絵をかくだけなら中身は食べればいい。おもちゃがありません、食べ物です!」
「……いんがかんけい?」
「どうして卵投げになったのですか?」
「……善木が下手って言うから」
紅葉はジトッとした目で二人を見る。
大人げない大人と、子どもらしい子ども。そして、卵の投げ合いに発展し、よりによって屋敷の主にぶつけたのだった。
勉強と仕事で遊ぶ余裕がなく体力が余っているのだろうと紅葉は考える。
イースターが何かは伝え聞いてはいるが、こんなことしないはずだ。卵に絵付けはする、それを隠して探させる……といったことだったはず。
紅葉は部屋の隅に転がる自称『鞠』に気付いた。それと、近所の人が「田んぼをかきまぜたい」けど人手が足りないと言っていたのを思い出す。
「そうです、田んぼで走り回るのはいかがでしょう? それと球を蹴って遊ぶ『サッカー』という運動があるそうです」
テユカは遊べるということに目をキラキラさせる。
「宗主、球蹴りですね……用意しないと」
善木は許しが出るならそれがいいとうなずく。
紅葉は手で自称『鞠』を弄んでいる。
様子を見ている五来は気付いた、たぶん紅葉は持っているそれで遊べと言っていると。
「これ使っていいですよ?」
「え? 先日見たカカオ豆みたいな形ですね?」
「鞠です」
「……いやいや……どこの誰です、この不器用さ」
テユカは気付いた、善木が地雷を踏んだことに。これは、きっと紅葉が作った物に違いないと。褒めるところを見つけてほめるべし、人間関係を穏便にすることだと教わったとテユカは考える。
「ふふふ……ふんっ!」
紅葉は至近距離で笑いながら、鞠を善木の顔めがけて投げつけたのだった。鞠でぶん殴ったといって過言ではない。
「紅葉様、その、イースターエッグみたいできれいだよ、うん」
「テユカ……ちょっと遅かった」
五来がテユカに告げた。
●依頼内容
職員は依頼内容を聞いて「遊び相手募集ですね」と真顔で告げた。
「その通りですが、田んぼの土をかきまぜることも重要です」
「なるほど……この球蹴りで走り回り、土を蹴りまくり、自身で泥をかき混ぜる……」
「テユカも善木も体力を使う……まあ、善木の場合は、警備があるので本当は疲れ果てさせるのはダメなんですが……この際、一度、体力を使わせるべきです」
紅葉はきっぱりと言う。
「分かりました、田んぼで球蹴り大会、出しておきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
田んぼの大きさ、報酬の有無、条件を職員は書き入れる。
「……弁当は?」
「おにぎりとお茶くらいなら提供しますが、嗜好品に関しては」
「……ですよね……審判は」
「……審判?」
「……あ、それも書きこんでおきます」
職員は試合の判断をする人間の事だと告げ、「そこまで本格的にするの?」と紅葉は驚いた。
「いっそのこと、休暇はこちらで、にしてしまった方がいいですね……」
「……それでいいんですか、依頼」
「自分たちが楽しむ、そして役に立つ……一石二鳥ですよ」
職員はうなずいた。
大江 紅葉(kz0163)は飛んできた卵をよけきれなかった。生卵ならべっとりなるな、ゆで卵なら痛いかなぁと考えている間によければよかったのだが。
ゴチッ。
額にそれは当たった。非常に痛かったが、気絶するほどではなかった。卵を拾いながら「絵が描いてある」と考えた。
べちゃっ。
もう一つ来ていたらしく、それは紅葉の頭に当たり、割れた。
それらがどこから飛んできているかを知っている。紅葉は知っている、彼女たちが硬直してその場にいるということも。
「善木、テユカ……これ、どういう意味か説明しくれますかぁ?」
低い低い、押しごろした声に大人の鬼の善木とまだ子どものテユカは震えた。逃げようとしている。
「こらあ」
叱り飛ばす紅葉の声が屋敷の中を響き渡る。
説明の責任を果たす前に、大江家の家臣たちが声に気付いてやってきて、紅葉に付いた卵をふき取ったり着替えがいる等々の世話が始まった。
「五来、二人を逃がさないでくださいね」
もう一人の大人の鬼がこくりとうなずき、二人を抑えて置いた。
●説明
「西方には『イースター』と言うのがあるというから、あたしね、やってみようと思ったの」
「それと、卵投げとの間の因果関係は! 駄目ですよ、絵をかくだけなら中身は食べればいい。おもちゃがありません、食べ物です!」
「……いんがかんけい?」
「どうして卵投げになったのですか?」
「……善木が下手って言うから」
紅葉はジトッとした目で二人を見る。
大人げない大人と、子どもらしい子ども。そして、卵の投げ合いに発展し、よりによって屋敷の主にぶつけたのだった。
勉強と仕事で遊ぶ余裕がなく体力が余っているのだろうと紅葉は考える。
イースターが何かは伝え聞いてはいるが、こんなことしないはずだ。卵に絵付けはする、それを隠して探させる……といったことだったはず。
紅葉は部屋の隅に転がる自称『鞠』に気付いた。それと、近所の人が「田んぼをかきまぜたい」けど人手が足りないと言っていたのを思い出す。
「そうです、田んぼで走り回るのはいかがでしょう? それと球を蹴って遊ぶ『サッカー』という運動があるそうです」
テユカは遊べるということに目をキラキラさせる。
「宗主、球蹴りですね……用意しないと」
善木は許しが出るならそれがいいとうなずく。
紅葉は手で自称『鞠』を弄んでいる。
様子を見ている五来は気付いた、たぶん紅葉は持っているそれで遊べと言っていると。
「これ使っていいですよ?」
「え? 先日見たカカオ豆みたいな形ですね?」
「鞠です」
「……いやいや……どこの誰です、この不器用さ」
テユカは気付いた、善木が地雷を踏んだことに。これは、きっと紅葉が作った物に違いないと。褒めるところを見つけてほめるべし、人間関係を穏便にすることだと教わったとテユカは考える。
「ふふふ……ふんっ!」
紅葉は至近距離で笑いながら、鞠を善木の顔めがけて投げつけたのだった。鞠でぶん殴ったといって過言ではない。
「紅葉様、その、イースターエッグみたいできれいだよ、うん」
「テユカ……ちょっと遅かった」
五来がテユカに告げた。
●依頼内容
職員は依頼内容を聞いて「遊び相手募集ですね」と真顔で告げた。
「その通りですが、田んぼの土をかきまぜることも重要です」
「なるほど……この球蹴りで走り回り、土を蹴りまくり、自身で泥をかき混ぜる……」
「テユカも善木も体力を使う……まあ、善木の場合は、警備があるので本当は疲れ果てさせるのはダメなんですが……この際、一度、体力を使わせるべきです」
紅葉はきっぱりと言う。
「分かりました、田んぼで球蹴り大会、出しておきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
田んぼの大きさ、報酬の有無、条件を職員は書き入れる。
「……弁当は?」
「おにぎりとお茶くらいなら提供しますが、嗜好品に関しては」
「……ですよね……審判は」
「……審判?」
「……あ、それも書きこんでおきます」
職員は試合の判断をする人間の事だと告げ、「そこまで本格的にするの?」と紅葉は驚いた。
「いっそのこと、休暇はこちらで、にしてしまった方がいいですね……」
「……それでいいんですか、依頼」
「自分たちが楽しむ、そして役に立つ……一石二鳥ですよ」
職員はうなずいた。
リプレイ本文
●どたばた
大江家の入口に立ち、初めて来たのだとエルバッハ・リオン(ka2434)は思った。
声をかけて入ると、入口の脇の屋根の下には、先日、紅葉がグラズヘイム王国で悩んで借りた農具がしまわれている。
「ピカピカですね、使っている様子もありますのに」
毎日磨いている様子が目に浮かぶ。
「あら、エルさん? 今日は、テユカと善木をよろしくお願いします」
農具を毎日磨いているかもしれない人物である紅葉が、出かけるらしく玄関に来た。
「いえ、こちらこそ……ルールは調べてきましたが、厳密でなくてもかまいませんよね? 楽しい方が」
「はい、もちろんです。みなさんで楽しんでいただければそれが一番です」
紅葉が靴を履いたところにミオレスカ(ka3496)が入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日は宜しくお願いしますね」
「はい……紅葉さんもお時間があれば、走ってみるといいのではないでしょうか?」
最近、はしゃいでどこかに走り去る紅葉をミオレスカは見ているため、少しちくりと言ってみる。婉曲だったため、紅葉は気付かず出かけて行った。
「あ、紅葉殿」
雪継・白亜(ka5403)は出かける紅葉を見かける。
「いらっしゃい」
「おはよう、紅葉殿。元気そうで何より」
「おはようございます。みなさんのおかげです。さ、中でみなさんいますからどうぞ」
「うむ。紅葉殿、気を付けてな!」
にこにこと手を振りあって白亜と紅葉は別れた。
ハンターズソサエティで一緒になったヒュムネ・ミュンスター(ka4288)と央崎 遥華(ka5644)は共にリアルブルー出身でサッカーの経験がある。今回のメンバーがサッカーのルールから調査しているため、重要な位置に二人はいた。
「久々に腕が鳴るぜ!」
「英国の血が騒いでいます!」
「どこのポジションだ?」
「FWです、あなたは?」
「同じだ。チームは別れておいた方が戦えるな」
「そうですね、受けて立ちましょう」
楽しそうに二人は集合場所に向かった。
職員とあれこれ話をしていたディーナ・フェルミ(ka5843)は依頼を受けた仲間を追いかけるように出て行く。
「ビーチボール、水着類でしょ、それとゴーグル……手作りの鞠って言うし、汚れたら悲しいよね」
海に行くような荷物で集合場所になっていた大江家に急いだ。
●道を行く
女子サッカー経験者のヒュムネと遥華が道中で説明をする。チーム分けも行っておく。
「体力を考えて、覚醒してもいいでしょうか?」
「……覚醒しなくても大丈夫だと思いますよ?」
同じ魔術師である遥華に言われたが、エルバッハは今回のメンバー、特に鬼である善木の身長と体格を見た。その結果、女子の目が善木に集まる。
「そうだ! なぜ、女ばっかりなんだ!」
善木が居心地悪そうにしていたのだった。可愛い、かっこいい女の子に囲まれて嬉しいかは時と場合により、今回は困惑の一言に尽きる。
「そうだな、状況によっては……覚醒ありかも知れないな」
白亜は魔術師たちを見て、自分たちの身長と善木を比べる。
「うーん、まあ、用心すればありか? でも、それを有利すぎる条件として使うなら、技付きでゴールを狙うぞ」
ヒュムネはにやりと言った。
「そうなると回復魔法が必要だよね」
ディーナはまじめにつぶやく。
「……そうなる前に止めましょう」
ミオレスカは遊びが戦場になりそうで、不安を消すように首を横に振った。
鬼で人間より丈夫だとしても、テユカは非覚醒者である。全員が覚醒状態で動き回れば、体力の差が出て危険だろう。
「様子見ますね」
エルバッハはうなずいた。実際、田んぼで動いてみないと分からないから。
「着いたよ!」
テユカは田んぼに飛び降りた。グチャリと泥が飛び散る。
広々とした田んぼだ、サッカーコート一枚分ほど。
「……これをどうにかするのかこの人数で」
善木がさすがに頭を抱える。
「提案があります。時間を分けて半分ずつ使いませんか?」
ミオレスカが言う。少しでもまんべんなく土をいじることはできるだろう。
特に異論はなかった。
●キックオフ
審判なしの全力サッカー。これはこれで楽しいのだと、誰もが知っている。
試合の流れ通りまずは真ん中に整列する。整列するだけでもゲームが始まる感覚があり気分は昂揚する。
ボールは紅葉製楕円形鞠ではなく、前半はビーチボール、後半はボールとなった。ビーチボールであれば、慣れないメンバーがボールを取りやすく当たっても比較的痛くはないので採用された。後半は慣れて来たところで本格的に行こうと言う流れだ。
前半戦はテユカチームがボールを所持して始まる。
テユカチームはヒュムネ、エルバッハとディーナ。
「バンバン入れるよ!」
テユカがはしゃいだ声を上げる。すでに泥だらけ。
「おう! 雨でぬかるんだコートを思い出すぜ」
ヒュムネが笑う。
「何事も経験、楽しみましょう」
「そうだね、頑張ろう!」
エルバッハとディーナは周囲を見て、脳裏にどうなるかを想像する。
善木チームは遥華、白亜とミオレスカ。
「みなさん頑張りましょう!」
ミオレスカが拳を上げる。
「華麗にゴールを決めて、宗主を驚かす」
善木は拳を高々突き上げる。
「紅葉殿はここにおらぬが、活躍は教えよう」
白亜は冷静に言いながらも、ミオレスカの合図に合わせて拳を上げていた。
「勢いは重要です! 動きがチャンスを作りますよっ! フリーになったらパスを出しますから、華麗に決めてくださいね!」
遥華が笑顔で拳を掲げた。
ポーンと蹴られたビーチボールは転がらない。土に引っかかり意外と転がらない。
「これはなかなかのハンディキャップだ」
ヒュムネは闘志を燃やしドリブルを行おうとしたが、足元の不安定さも相まって進めない。
「チャンスです……あっ!」
遥華がスライディングで奪おうとするが、盛大に泥に埋まった。
「行くよー!」
テユカが思いっきり蹴った。
「甘いぜ」
泥を巻き散らし、変な回転付きで跳んでいくビーチボールは善木の顔面に当たり止まった。
「ナイスカットですっ!」
遥華が声をかけ近づこうとしたがすっと割って入ったエルバッハによって阻止される。追いつくリズムを乱したが、エルバッハは追いかけられない。
「はまりました……」
ぬっちりついた泥に動けなくなった。
「善木殿、こっちにボールを」
白亜が声をかけるが、華麗に足を上げた善木が向いているのはゴールの方。
その足元にヒュムネが入り込む。
「もらったっ!」
「むう!」
カットされた。
一時はミオレスカが守るゴール側に来ると思われたが、ゲームは反対側で動いている。
「暇ですねぇ」
ミオレスカは鳥の鳴き声、遠くで作業する人たちの音を聞きつつ、どろをかき混ぜつつ移動して運動していた。
「空、青いですねぇ……平和は良いことです……あっ!?」
団子状態のプレイヤーがこっちにやって来たのだった。
「キーパーは手を使っていいんですよね……それにしても……誰が誰だか分からない感じになってきています」
ミオレスカはボールを受け止めると真っ黒になった。
受け止めたビーチボールをミオレスカは思いっきり投げた。猟撃士としての腕前で、うまい具合に相手のゴール方向に飛ぶが、ビーチボールの飛行距離はそこまでなかった。
中途で落ちたボールに殺到する仲間たち。
「よっしゃ」
善木が受け止め、蹴り飛ばすが途中で失速する。
「よしっ! 点をいただくことにしよう!」
白亜はうまい具合に下がっており、ボールを押し込もうとタイミングを合わせた。
「あっ、とうとう来てしまったのね! えと、受けて立ちますっ!」
ディーナはドキドキしながら受け止めようと、思いっきりジャンプをした。ボールを掴もうとしたが、ビーチボールは滑る。
べちゃという音共に、ディーナが茶色の物体と化した。
ボールはディーナの頭の上に乗り、そのまま転がってゴールに入った。
「……ああああ、う、私のせいでっ!」
喜ぶ善木チームを前にディーナがうずくまる。
「いや、嘆くのは早い」
「そうだよ! あたしたちが点を入れればいんだよ!」
ヒュムネとテユカが励ましつつ、闘志を新たにする。
「あの~、覚醒していいでしょうか?」
動けていないエルバッハが大きな声で許可を求めた。
「エルさん……あの時からそこにいるんですね……」
遥華はサッカー経験者なおかげでなんとなくこなしているが、自分たちも必死だったために気付けなかった。
「うんいいよ……」
「ずるいだろう!」
テユカに食って掛かる善木。
「……試してみていいと思います……」
「そっちがいいって言うんだから、遠慮はいらないな!」
「いえひとまず、エルさんだけです」
遥華はヒュムネにくぎを刺した。
「楽しむのが一番ですよぉ」
反対側にいるミオレスカが大声で両手を上げた。
●休憩
半分終わったところで、一度休息を取る。
大江家が持たせたおにぎりや持参の弁当を食べるにも泥だらけである。近くを流れる小さな川で手と顔は洗う。
「ゴール地点は一応歩いておきました」
ミオレスカは待っている間進めた作業を告げる。遊びであり、一応耕す前の一動作だ。
「そっちは暇だったのね」
ディーナがげっそりして言う。あの後、危ないことが何度かあったのだった。
「これが終わったら作戦タイムだな!」
「確かに、このまま一点取って折り返すわけですから、一点を守って攻めないといけません」
ヒュムネと遥華はランチを取りつつ、思考を巡らせる。
「本格的になってきたな」
白亜は楽しそうに口を開く。
「そうですね。ドリブルをするより、すぐにパスを回さないといけませんね」
エルバッハは分析の結果をつぶやく。覚醒状態になると疲労の蓄積もあるが、動けると楽しかった。
「……お互いにそうだな」
「敵同士でしたね」
白亜とエルバッハはぽつりぽつりしゃべりながら、はたと気づく。
敵でも見方でも、ごはんの時は関係なかった。
ボールを変えての後半戦、動きが変わる。
ボールが飛びやすくなったのと、ドリブルは完全に諦めたために、試合展開が早くなったのだった。ボールが縦横無尽に飛び回る。
キーパーも忙しい。
一点差のまま進むと思われていたが、隙を突いたテユカの攻撃をミオレスカが通してしまった。
「……ゴール広いですね」
「線が引けませんから……」
ミオレスカと遥華がしみじみ呟いた。大よその位置だけのゴール。
そして、得点は一対一で終わった。
●笑顔とともに
泥だらけで髪も何も真っ黒だ。川で洗ってもいいのかもしれない、水着着用しているなら。
あぜ道に上がろうと歩いている時、テユカがしゃがんで何か始めた。
「泥団子っ! ていっ!」
テユカが泥団子を善木に投げた。
「お前なぁ……まだ遊ぶのか」
あきれたと言うように言いつつ善木はしゃがんで泥団子を作ると投げる。
「……えっ!」
ミオレスカに被弾した。
「……あ、すまない」
善木はテユカに投げたつもりだったらしい。
「ふふっ、楽しそうですね」
笑顔でミオレスカは手早く泥団子を作り投げつける、善木に向かって。
それを偶然にも避けたため泥団子はエルバッハに当たった。
「……最後のゲームですね」
「誰が早く泥団子をぶつけつつ、逃げて畔までたどり着くか」
エルバッハの言をうなずきながらヒュムネはまとめた。その方が収集つく、このままだと泥団子投げ大会に発展しかねない。
「ならば、こうですっ!」
遥華が手に握り、軽くまとめた泥団子を投げて走り出す。
「ひゃああ。ゴーグルありがとう。負けません」
ディーナは頭にあったそれが垂れたのを拭き、泥団子を作って投げた。
「避けてしまえばこちらの物」
白亜はひらりと避けて、足を滑らせた。そのまま、団子を作り、誰かに向かって投げる。
そんなふうに進んでいる彼女たちをあぜ道から微笑みながら見つめる紅葉。
「良かったです……楽しそうで……それにしても爺たち、汚れていい服にしたのはなぜでしょう」
べちゃり。
流れ弾の被弾というのを予想済みの爺たち。さすがに年の功。
「あっ」
「あれ?」
誰かしらの声が洩れて重なる。
「これでどうだっ」
握りやすい硬めの団子を作っていた善木は気付いていなかった、紅葉に誰かの泥団子が当たり、女性陣が困惑していたと言うことを。
ゴチッ。
「う、うわあああ、宗主!?」
善木はこの時気付いた、そして、またやったということを知った。
「何、入れたんですかっ!」
「紅葉殿っ!」
ミオレスカと白亜の悲鳴が上がる。明らかにひどい音がしていた。
「紅葉さん、大丈夫ですか?」
「回復魔法、回復魔法っ!?」
エルバッハと慌てるディーナが急いで近づこうとするが進まない。
「……ふふっ、覚悟はいいですか?」
紅葉は靴を脱ぐと、どろに足を踏み入れる。そして、一歩踏み出した瞬間、べちゃと言う音が響いた。
「あっ……紅葉さん?」
「おいおい……」
遥華とヒュムネが抱き起す。
「ふふ……真っ黒です」
紅葉は笑う。屈託のない爽やかな、吹っ切れたような声で。
自然と笑いは伝播する。
叱られないと分かった善木も畔に向かいながらほっとしていた。
遥華とヒュムネは見ていた、紅葉が泥団子を作っているところを。
ミオレスカと白亜、エルバッハとディーナは見た、それが真っ直ぐ善木に飛んでいくのを。
大江家の入口に立ち、初めて来たのだとエルバッハ・リオン(ka2434)は思った。
声をかけて入ると、入口の脇の屋根の下には、先日、紅葉がグラズヘイム王国で悩んで借りた農具がしまわれている。
「ピカピカですね、使っている様子もありますのに」
毎日磨いている様子が目に浮かぶ。
「あら、エルさん? 今日は、テユカと善木をよろしくお願いします」
農具を毎日磨いているかもしれない人物である紅葉が、出かけるらしく玄関に来た。
「いえ、こちらこそ……ルールは調べてきましたが、厳密でなくてもかまいませんよね? 楽しい方が」
「はい、もちろんです。みなさんで楽しんでいただければそれが一番です」
紅葉が靴を履いたところにミオレスカ(ka3496)が入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日は宜しくお願いしますね」
「はい……紅葉さんもお時間があれば、走ってみるといいのではないでしょうか?」
最近、はしゃいでどこかに走り去る紅葉をミオレスカは見ているため、少しちくりと言ってみる。婉曲だったため、紅葉は気付かず出かけて行った。
「あ、紅葉殿」
雪継・白亜(ka5403)は出かける紅葉を見かける。
「いらっしゃい」
「おはよう、紅葉殿。元気そうで何より」
「おはようございます。みなさんのおかげです。さ、中でみなさんいますからどうぞ」
「うむ。紅葉殿、気を付けてな!」
にこにこと手を振りあって白亜と紅葉は別れた。
ハンターズソサエティで一緒になったヒュムネ・ミュンスター(ka4288)と央崎 遥華(ka5644)は共にリアルブルー出身でサッカーの経験がある。今回のメンバーがサッカーのルールから調査しているため、重要な位置に二人はいた。
「久々に腕が鳴るぜ!」
「英国の血が騒いでいます!」
「どこのポジションだ?」
「FWです、あなたは?」
「同じだ。チームは別れておいた方が戦えるな」
「そうですね、受けて立ちましょう」
楽しそうに二人は集合場所に向かった。
職員とあれこれ話をしていたディーナ・フェルミ(ka5843)は依頼を受けた仲間を追いかけるように出て行く。
「ビーチボール、水着類でしょ、それとゴーグル……手作りの鞠って言うし、汚れたら悲しいよね」
海に行くような荷物で集合場所になっていた大江家に急いだ。
●道を行く
女子サッカー経験者のヒュムネと遥華が道中で説明をする。チーム分けも行っておく。
「体力を考えて、覚醒してもいいでしょうか?」
「……覚醒しなくても大丈夫だと思いますよ?」
同じ魔術師である遥華に言われたが、エルバッハは今回のメンバー、特に鬼である善木の身長と体格を見た。その結果、女子の目が善木に集まる。
「そうだ! なぜ、女ばっかりなんだ!」
善木が居心地悪そうにしていたのだった。可愛い、かっこいい女の子に囲まれて嬉しいかは時と場合により、今回は困惑の一言に尽きる。
「そうだな、状況によっては……覚醒ありかも知れないな」
白亜は魔術師たちを見て、自分たちの身長と善木を比べる。
「うーん、まあ、用心すればありか? でも、それを有利すぎる条件として使うなら、技付きでゴールを狙うぞ」
ヒュムネはにやりと言った。
「そうなると回復魔法が必要だよね」
ディーナはまじめにつぶやく。
「……そうなる前に止めましょう」
ミオレスカは遊びが戦場になりそうで、不安を消すように首を横に振った。
鬼で人間より丈夫だとしても、テユカは非覚醒者である。全員が覚醒状態で動き回れば、体力の差が出て危険だろう。
「様子見ますね」
エルバッハはうなずいた。実際、田んぼで動いてみないと分からないから。
「着いたよ!」
テユカは田んぼに飛び降りた。グチャリと泥が飛び散る。
広々とした田んぼだ、サッカーコート一枚分ほど。
「……これをどうにかするのかこの人数で」
善木がさすがに頭を抱える。
「提案があります。時間を分けて半分ずつ使いませんか?」
ミオレスカが言う。少しでもまんべんなく土をいじることはできるだろう。
特に異論はなかった。
●キックオフ
審判なしの全力サッカー。これはこれで楽しいのだと、誰もが知っている。
試合の流れ通りまずは真ん中に整列する。整列するだけでもゲームが始まる感覚があり気分は昂揚する。
ボールは紅葉製楕円形鞠ではなく、前半はビーチボール、後半はボールとなった。ビーチボールであれば、慣れないメンバーがボールを取りやすく当たっても比較的痛くはないので採用された。後半は慣れて来たところで本格的に行こうと言う流れだ。
前半戦はテユカチームがボールを所持して始まる。
テユカチームはヒュムネ、エルバッハとディーナ。
「バンバン入れるよ!」
テユカがはしゃいだ声を上げる。すでに泥だらけ。
「おう! 雨でぬかるんだコートを思い出すぜ」
ヒュムネが笑う。
「何事も経験、楽しみましょう」
「そうだね、頑張ろう!」
エルバッハとディーナは周囲を見て、脳裏にどうなるかを想像する。
善木チームは遥華、白亜とミオレスカ。
「みなさん頑張りましょう!」
ミオレスカが拳を上げる。
「華麗にゴールを決めて、宗主を驚かす」
善木は拳を高々突き上げる。
「紅葉殿はここにおらぬが、活躍は教えよう」
白亜は冷静に言いながらも、ミオレスカの合図に合わせて拳を上げていた。
「勢いは重要です! 動きがチャンスを作りますよっ! フリーになったらパスを出しますから、華麗に決めてくださいね!」
遥華が笑顔で拳を掲げた。
ポーンと蹴られたビーチボールは転がらない。土に引っかかり意外と転がらない。
「これはなかなかのハンディキャップだ」
ヒュムネは闘志を燃やしドリブルを行おうとしたが、足元の不安定さも相まって進めない。
「チャンスです……あっ!」
遥華がスライディングで奪おうとするが、盛大に泥に埋まった。
「行くよー!」
テユカが思いっきり蹴った。
「甘いぜ」
泥を巻き散らし、変な回転付きで跳んでいくビーチボールは善木の顔面に当たり止まった。
「ナイスカットですっ!」
遥華が声をかけ近づこうとしたがすっと割って入ったエルバッハによって阻止される。追いつくリズムを乱したが、エルバッハは追いかけられない。
「はまりました……」
ぬっちりついた泥に動けなくなった。
「善木殿、こっちにボールを」
白亜が声をかけるが、華麗に足を上げた善木が向いているのはゴールの方。
その足元にヒュムネが入り込む。
「もらったっ!」
「むう!」
カットされた。
一時はミオレスカが守るゴール側に来ると思われたが、ゲームは反対側で動いている。
「暇ですねぇ」
ミオレスカは鳥の鳴き声、遠くで作業する人たちの音を聞きつつ、どろをかき混ぜつつ移動して運動していた。
「空、青いですねぇ……平和は良いことです……あっ!?」
団子状態のプレイヤーがこっちにやって来たのだった。
「キーパーは手を使っていいんですよね……それにしても……誰が誰だか分からない感じになってきています」
ミオレスカはボールを受け止めると真っ黒になった。
受け止めたビーチボールをミオレスカは思いっきり投げた。猟撃士としての腕前で、うまい具合に相手のゴール方向に飛ぶが、ビーチボールの飛行距離はそこまでなかった。
中途で落ちたボールに殺到する仲間たち。
「よっしゃ」
善木が受け止め、蹴り飛ばすが途中で失速する。
「よしっ! 点をいただくことにしよう!」
白亜はうまい具合に下がっており、ボールを押し込もうとタイミングを合わせた。
「あっ、とうとう来てしまったのね! えと、受けて立ちますっ!」
ディーナはドキドキしながら受け止めようと、思いっきりジャンプをした。ボールを掴もうとしたが、ビーチボールは滑る。
べちゃという音共に、ディーナが茶色の物体と化した。
ボールはディーナの頭の上に乗り、そのまま転がってゴールに入った。
「……ああああ、う、私のせいでっ!」
喜ぶ善木チームを前にディーナがうずくまる。
「いや、嘆くのは早い」
「そうだよ! あたしたちが点を入れればいんだよ!」
ヒュムネとテユカが励ましつつ、闘志を新たにする。
「あの~、覚醒していいでしょうか?」
動けていないエルバッハが大きな声で許可を求めた。
「エルさん……あの時からそこにいるんですね……」
遥華はサッカー経験者なおかげでなんとなくこなしているが、自分たちも必死だったために気付けなかった。
「うんいいよ……」
「ずるいだろう!」
テユカに食って掛かる善木。
「……試してみていいと思います……」
「そっちがいいって言うんだから、遠慮はいらないな!」
「いえひとまず、エルさんだけです」
遥華はヒュムネにくぎを刺した。
「楽しむのが一番ですよぉ」
反対側にいるミオレスカが大声で両手を上げた。
●休憩
半分終わったところで、一度休息を取る。
大江家が持たせたおにぎりや持参の弁当を食べるにも泥だらけである。近くを流れる小さな川で手と顔は洗う。
「ゴール地点は一応歩いておきました」
ミオレスカは待っている間進めた作業を告げる。遊びであり、一応耕す前の一動作だ。
「そっちは暇だったのね」
ディーナがげっそりして言う。あの後、危ないことが何度かあったのだった。
「これが終わったら作戦タイムだな!」
「確かに、このまま一点取って折り返すわけですから、一点を守って攻めないといけません」
ヒュムネと遥華はランチを取りつつ、思考を巡らせる。
「本格的になってきたな」
白亜は楽しそうに口を開く。
「そうですね。ドリブルをするより、すぐにパスを回さないといけませんね」
エルバッハは分析の結果をつぶやく。覚醒状態になると疲労の蓄積もあるが、動けると楽しかった。
「……お互いにそうだな」
「敵同士でしたね」
白亜とエルバッハはぽつりぽつりしゃべりながら、はたと気づく。
敵でも見方でも、ごはんの時は関係なかった。
ボールを変えての後半戦、動きが変わる。
ボールが飛びやすくなったのと、ドリブルは完全に諦めたために、試合展開が早くなったのだった。ボールが縦横無尽に飛び回る。
キーパーも忙しい。
一点差のまま進むと思われていたが、隙を突いたテユカの攻撃をミオレスカが通してしまった。
「……ゴール広いですね」
「線が引けませんから……」
ミオレスカと遥華がしみじみ呟いた。大よその位置だけのゴール。
そして、得点は一対一で終わった。
●笑顔とともに
泥だらけで髪も何も真っ黒だ。川で洗ってもいいのかもしれない、水着着用しているなら。
あぜ道に上がろうと歩いている時、テユカがしゃがんで何か始めた。
「泥団子っ! ていっ!」
テユカが泥団子を善木に投げた。
「お前なぁ……まだ遊ぶのか」
あきれたと言うように言いつつ善木はしゃがんで泥団子を作ると投げる。
「……えっ!」
ミオレスカに被弾した。
「……あ、すまない」
善木はテユカに投げたつもりだったらしい。
「ふふっ、楽しそうですね」
笑顔でミオレスカは手早く泥団子を作り投げつける、善木に向かって。
それを偶然にも避けたため泥団子はエルバッハに当たった。
「……最後のゲームですね」
「誰が早く泥団子をぶつけつつ、逃げて畔までたどり着くか」
エルバッハの言をうなずきながらヒュムネはまとめた。その方が収集つく、このままだと泥団子投げ大会に発展しかねない。
「ならば、こうですっ!」
遥華が手に握り、軽くまとめた泥団子を投げて走り出す。
「ひゃああ。ゴーグルありがとう。負けません」
ディーナは頭にあったそれが垂れたのを拭き、泥団子を作って投げた。
「避けてしまえばこちらの物」
白亜はひらりと避けて、足を滑らせた。そのまま、団子を作り、誰かに向かって投げる。
そんなふうに進んでいる彼女たちをあぜ道から微笑みながら見つめる紅葉。
「良かったです……楽しそうで……それにしても爺たち、汚れていい服にしたのはなぜでしょう」
べちゃり。
流れ弾の被弾というのを予想済みの爺たち。さすがに年の功。
「あっ」
「あれ?」
誰かしらの声が洩れて重なる。
「これでどうだっ」
握りやすい硬めの団子を作っていた善木は気付いていなかった、紅葉に誰かの泥団子が当たり、女性陣が困惑していたと言うことを。
ゴチッ。
「う、うわあああ、宗主!?」
善木はこの時気付いた、そして、またやったということを知った。
「何、入れたんですかっ!」
「紅葉殿っ!」
ミオレスカと白亜の悲鳴が上がる。明らかにひどい音がしていた。
「紅葉さん、大丈夫ですか?」
「回復魔法、回復魔法っ!?」
エルバッハと慌てるディーナが急いで近づこうとするが進まない。
「……ふふっ、覚悟はいいですか?」
紅葉は靴を脱ぐと、どろに足を踏み入れる。そして、一歩踏み出した瞬間、べちゃと言う音が響いた。
「あっ……紅葉さん?」
「おいおい……」
遥華とヒュムネが抱き起す。
「ふふ……真っ黒です」
紅葉は笑う。屈託のない爽やかな、吹っ切れたような声で。
自然と笑いは伝播する。
叱られないと分かった善木も畔に向かいながらほっとしていた。
遥華とヒュムネは見ていた、紅葉が泥団子を作っているところを。
ミオレスカと白亜、エルバッハとディーナは見た、それが真っ直ぐ善木に飛んでいくのを。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/11 16:21:14 |