【AP】CLOSED CIRCLE

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
7日
締切
2016/04/12 19:00
完成日
2016/04/23 06:44

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 その日は、ごうごうと風が強く、雪も降り注いでいた。
 ハンターたちはそれぞれの事情でこのペンションにやってきている。
 依頼だったり、レジャーだったり、その事情は本当に様々だ。
 ――そう、ペンション。
 名前を『ウサギ亭』というそのペンションには、今日はその主人夫婦とハンターたちしかいなかった。
「外には出られそうもないな」
 外の猛吹雪を見ながら、ペンションのオーナーであるジョンが言う。雪のシーズンには良くあることらしく、食料品の備蓄はきちんとなされているという話だったが――何しろ数メートル先すらろくに見えないというレベルの吹雪だ。
「とりあえず、そろそろ御夕飯にしましょうか。外は寒くても、あたたかな食べもので少し気持ちが楽になるのでしたら、どうぞどうぞ」
 オーナーの妻であるマリーもそう言って微笑む。
 言われたハンターたちも、確かにその通りだ、と言うことでダイニングの席に着いた。


 ――その夜のことだった。
「きゃああああああ!」
 絹を引き裂くような、甲高い悲鳴が上がる。
 何事かとざわめきながら、ハンターたちは声の元へ向かった。
 そこには、すっかり怯えた表情のマリーがいる。
「夫が、夫が、」
 壊れた機械のようにそう呟くマリー。彼女の指さすほうには――血まみれになった、ジョンの姿があった。
 既に事切れているらしく、妻の声にも、ハンターたちの呼びかけにも、まったく反応しない。
「……ッ、駄目だ。外への連絡手段もない」
 夜になって吹雪はいっそう酷くなり、外へ出るのは危険になっている。ハンターの一人がそう言って、ぎりっと唇を噛んだ。
「……ねえ、じゃあちょっと待って。このペンションに、犯人がいるってことなのかしら……?」
 マリーが震える声で、そう尋ねる。
 誰がどうしてこうなったのか、分からない。
 マリーの問いには誰も答えることが出来なかった。

リプレイ本文


 この雪の日、ペンションに泊まっていたのは、十人の老若男女。
 それと、オーナー夫妻。

 悲鳴を聞いて駆けつけた宿泊客達は、オーナー夫人であるマリーとともに、ペンションの一室に集まっていた。
 彼女のいれた温かいお茶を飲みながら、集まった面々は話をしていた。
「……まったく、折角の休暇だから雪を見ながら読書とでも思っていたんだけどねぇ」
 眠たそうな、しかししっかりとした声を上げているのは、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)。彼はひとりでの宿泊である。
「俺もさ、雪なんてお目にかかったことがないからと思って泊まりに来たのに、なんでこんな血なまぐさいことに巻き込まれてるんだよ……くそっ」
 南国育ちと言うだけあって如何にも健康的な赤褐色の肌を服の下に覗かせているボルディア・コンフラムス(ka0796)は少し怒り気味。こちらもひとりでの宿泊だ。
 それもそうだろう、折角のバカンスを台無しにされているのだから。
 しかも――状況が状況だ。
 雪に閉ざされたこのペンションに侵入することも、あるいは抜け出すことも出来ないはず――つまり、犯人はこのなかに居るのではないか、と言う仮説が成り立ってしまう以上、自分にも嫌疑が向けられるのは仕方のない話だ。
「まあ、まずは落ち着こうじゃないか。主人の眠りを邪魔するのはしのびないからね……と、あれ? ヒース君かい?」
 そう落ち着くように声をかけてから、ヒースににんまり笑いかけたのは、探偵稼業も営むHolmes(ka3813)である。
「あの、お知り合いなんですか?」
 マリーが尋ねると、ホームズは苦笑を浮かべた。
「顔見知りという程度だけどね。彼は刑事でもあるから」
 その言葉に、わずかではあるが周囲の面々が顔色を明るくさせる。
 探偵と刑事がいる――それだけでも、心は落ち着くというものだ。解決の糸口を見つけてくれる存在となり得るのだから。
「それにしても殺人か……休暇中というのについてないね、ボクにとっても犯人にとっても」
 以前の事件で受けた怪我を癒やす為の休暇中だったというホームズは、しかし口元に手を当ててふむ、と頷いた。
「とりあえず、それぞれの名前とかんたんな素性、宿泊の目的あたりを教えてくれるかな」
 言われて、マリーもはっとしたように宿帳を持ってくる。
「俺はアリストラ=XX(ka4264)。クロシェット=アルカナ(ka4448)は俺の娘だ。目的は……娘との、ただの旅行だ」
 苦み走った赤毛の男がそう言うと、その横にいるやや小柄な、茶色い髪の少女――と言うには若干年かさかも知れないが――が、小さくこくり、と頷く。
「ふぉっふぉ、なにやら面白いことになっておるのう。わしはハクロウ=V(ka4880)と言うものじゃ。そこなギュンター君とは友人でね、旅行するというのでついてきたんじゃ」
 チラ、と如何にも老人というていのハクロウが目をやるのは片眼鏡を付けたロマンスグレーの男性、ギュンター=IX(ka5765)である。
「ギュンターさんのお知り合いですか」
 ギュンターは死体となっていたオーナーとも面識のあった人物である。その妻でもあるマリーは、ひどく安堵した表情を受けていた。
「私はあくまで、オーナーから招待を受けていただけですけれどね……」
 その割りに口数少ない印象を受ける。それを指摘されると、
「……ああ、ええ。突然のことでしたので……少々、動揺をしているだけですよ」
 まあこんなことになったら、むしろそうなってしまうのかも知れない。
「でも、そうね……タイムリミットは吹雪が止んで応援が来るまで、かしらね……?」
 意味深なことを呟くのはマリィア・バルデス(ka5848)、彼女もひとりでの宿泊である。
「スキーや雪遊びが出来ると思ってきたのだけれど……まさかこんなことになるなんて、ね」
「ふむふむ。真冬のウサギ亭殺人事件……猛吹雪の夜殺されたオーナーの謎……みたいな感じかな?」
 緊張感の薄い声でそう言ってのけるのは、自称『美人女子大生占い師探偵』のルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)である。
「私、旅行に出ると何故か事件に巻き込まれやすくて……でも、こんなところで足止めなんて食らってられないもの、スキーと温泉の為にもこの事件をズバット解決しちゃうんだから!」
 如何にも元気な女子大生らしい理由である。……事件に巻き込まれやすい、というのは少々危険な発言のような気もするが。
「……ザレム・アズール(ka0878)だ。雪景色を写真に撮ろうと思ってね、今回はここに泊まっている」
 最後のひとりであるザレムがそう自己紹介をすると、全員が、ふう、とため息をついた。
 そして、ヒースがぼそり、と言う。
「状況的に、このなかに犯人がいる確率は高い。なら、黙って待っているよりも行動したほうが合理的だから、ねぇ」
 暗に、事件解決の為に調査をし、犯人を突き止めようとしていることを口にしている。言われるとその通りだ。しかしそれが全員同じ考えであるとは限らないのもまた現実。
「とりあえずお互いの素性も分かったことだし、もういいだろ! とりあえずここにいる誰かが犯人なんだろ? そんな奴らと一緒になんかいられるかってんだ!」
 やれやれ、と言わんばかりに立ち上がったのはボルディアだ。たしかにこの事件に全くの無関係ならば、へんに疑われるのは好ましくない。いや、嫌悪感を抱くだろう。
 彼女はそう言い捨てると自分の泊まっている部屋へと戻っていった。
「ボルディアさん……」
 誰かがそう、思わず呟く。

 風がごう、と吹いた。
 まだまだ、事件ははじまったばかりだ。


「それにしても、狂気はこのガラスの灰皿かな。ご丁寧なことに、倒れたあとにも何回か殴ったような痕跡が残ってるし、血痕は天井にまで飛び散っている。振り上げた時に散ったと仮定すると、相当な素早さが必要だろう。つまり……犯人は、かなり手慣れている」
 ホームズが冷静に見解を示すと、ふむ、と頷くのはザレム。
「なかなかいい推理だね。しかしそんな手慣れている人物が犯人だとしたら、もしかすると外部はんの仕業、と言うのも考えられないか? つまり、この吹雪に乗じて逃げてしまい、足跡を雪に隠してしまうという可能性さ」
「可能性はゼロじゃないだろうけれど、限りなくゼロには近いんじゃないかなあ?」
 ルンルンが指摘するのは、このウサギ亭の外に出る為には扉ないし窓を開ける必要がある、と言うこと。
「それよりも、あたしとしてはあの人の格好が気になります……今日のラッキーから―は赤の筈なのに、違う色を身につけているだなんて!」
 残念なことに赤を身につけていない人間のほうが多いのだが、そんなことは気にしないらしい。本人は拳をぐっと握りしめたまま、推理するつもりは満々のようだが……如何にも【迷】探偵、と言う風情のルンルンである。
「それにしても、これ、まず狂言ではないのよね?」
 尋ねたのはマリィア。
「それは確認済みだ。それに、これだけの状況で狂言だったら逆に笑うしかない」
 ヒースが頷く。
「ふぅむ……それなら、ちと気になることがあるからワシも部屋に籠もらせてもらうことにするかの?」
「気になること?」
 ハクロウの意外な一言に、尋ねたのは友人でもあるギュンター。
「大丈夫じゃよ、ふぉっふぉ」
 ハクロウはそう言って、にやり、と笑い、そして部屋へと戻っていく。こつん、とギュンターによろけてぶつかったりもしたが、年齢も考えればあり得ることだし、まあ気にするほどのことではないだろう。
 心配そうに首をかしげているのはクロシェット。
「そういえばクロシェットさんはあまり話をしていないですが」
 マリーが問うと、傍にいた保護者でもあるアリストラが
「この子は実は以前にショック性の失語症になってな。少し回復してはいたんだが、どうやらまた再発してしまったのかも知れない」
 そう説明する。この世にはそう言う事例は少なくないので、ふむ、と納得したようだった。
「……にしても、やれやれ……厄介ごとに巻き込まれちまったな……」
 アリストラはぼやくように呟く。
「ひとが一人死んでいても、そんな態度なのか?」
 尋ねられて、アリストラはふうと大きく吐息をついた。
「……そんなことを言われても、なぁ」
 そしてにやり、と挑発するような笑みを見せる。
「もしかすると、俺が犯人かも知れないしなぁ」
「……!」
 そんな言葉が突然飛び出して、驚くなと言う方が無理からぬ話である。ヒースは慎重に問いかけた。
「あんたが、まさか犯人だとでも?」
「もしそうだと少しでも思うなら、南京でも何でもすればいいだろう?」
 挑発的な言葉。
 ザレムが、ぎり、と歯を食いしばる。
「すぐに犯人だ、と言いきることは出来ないけれど、それでも疑わしい発言をするなら、そうさせてもらうしかないかも知れない。……ああ、あと、操作をする者が全くの無実とも限らない。もしかしたら、ボクらのような側にも罪人がいるかも知れないから、ねぇ?」
 ヒースは歌うようにそう言ってみせる。
「ああ、あと、捜査の過程で得た情報は共有できるかぎりしたほうが効率がいい。ボクに見えないものが、他のものにはまったく違う意味をともなって何かに見えるかも知れない。そう、誰かが答えにたどり着くことが出来れば、事件は解決だからねぇ」
 たしかにその通りである。
 そして疑わしき、と思われる発言をしたアリストラは、とりあえず隔離されることとなった。
「そう、言えば……」
 ギュンターは、ふと思い返す。知人でもあったこのペンションのオーナーの、つぶやきを。
「どうかしたかね?」

「いえ、その……オーナーは、誰かに殺されるかも、と以前に呟いていたんですよ」
「……なんだって?」
 ホームズは思わず大きな声を上げる。つまり、殺害されるだけの動機らしきものを、彼は所持していた可能性が高い。
「奥さん、何か知りませんか。糸口になることがあるなら、教えて頂きたい」
 しかし夫人はおろおろと焦っているばかりで、言葉に出来ない。
 その様子を、ザレムが冷ややかに見つめていた。


「それじゃあ、いったん解散。ただし……ぜったいに無茶な行動などをしたりしないように」
 ホームズがそう言うと、それぞれが部屋へと戻っていく。ここで一つところに固まったままでいても進展があるとは限らないのだから、むしろ犯人がこのなかにいる可能性を考えると、泳がせる、と言うほうが正しいだろう。
 そんな中、ザレムは胸ポケットから一枚の写真を撮りだして、そっと見つめていた。それをクロシェットが不思議そうに見つめ、首をこてんとかしげる。その様子に青年は苦笑した。
「これは俺の家族だよ。もっとも、もう俺しかいないけどな」
 ザレムの話によると、もともと彼の家は宝石店だったのだという。しかしあるとき強盗が入り、両親は殺害された。彼は妹と逃げた後にハンターに保護されたものの、惨劇を目の当たりにした妹は心を病み、そして失意のうちに亡くなったのだという。
「……ベタすぎるだろ?」
 そう苦笑するザレムだが、その瞳は笑っていなかった。

(その宝石強盗こそ、このオーナー夫妻だ。やっと突き止めたんだ)
 幼かった自分が抱いた復讐心。
 それを実行に移すつもりで、この宿に泊まったのだ。
 ――もっとも、彼が手を下すまえに、オーナーである男は殺されていた……部屋に入ったときには既に事切れていたのだ。
 だからこそ、犯人捜しをするように見せて自分を犯人の候補から外したかった。まだ妻が生きている――復讐すべき相手はまだいるのだから。
(何とか、妻を殺すチャンスを……)

 一方その頃。
「クソ、とんだ休日になっちまったぜ」
 ボルディアは頭に血が上っていた。こんな異常すぎる環境で、平気で色というほうが難しいのだ。
 ドアにはかんたんなバリケードを築き、窓にも補強を施して籠城戦の構えだ。
 ルンルンがきにかけたのだろう、
「大丈夫?」
 と声をかけても、
「うるせえ!」
 と怒鳴り散らすのみ。とりつく島もないというのはこう言うことだ。むしろボルディア自身も若干のパニック状態なのだろう。
「……ッ、酒がねぇか」
 食糧はあるが酒がない。こういうときは酒でもかっ食らって眠ってしまうほうが気分的にもいいのだろうが、その鮭をあいにくと切らしていた。
 無茶な行動は命取り、けれど部屋でじっとしているのも性に合わない。ボルディアは何か飲み物――出来れば酒――を探しに、部屋を出たのであった。
 ――それが、次の惨劇の幕開けになるとも知らず。

 ――お前の罪を知っている。
 ただそれだけが書かれた手紙を、その人物は改めて読み、そしてくしゃりと握りつぶす。
 差出人のない手紙。
 呼び出してきた相手を殺す、そのためにやってきたのだ。

 宿帳は見せてもらったときに筆跡を確認した。
 この手紙と一致する筆跡は無かった――いや、手紙のほうはあえて筆跡をわかりにくくする為に加工されているっぽいので、分からない、と言うほうが正しい。
 【犯人】は、オーナーを手にかけても、まだ不安が残っていた。
 自分以外にハンターは九人。加えて、オーナー夫人もいる。このなかに、自分を呼び出した人物がいてもおかしくないはずなのだから。
 と、かたんと音がした。
 大柄な女性――ボルディアが、キッチンに向かっている。
(……囮にしてしまえば)
 それから先は行動が早かった。
 後ろから近づき、ボルディアが酒を手に入れて部屋に入るところを見計らってそっと忍び込む。そして手にしていたナイフで、暗がりからざくり。普段は銃を使うタイプなので、これから犯人だとはすぐには割り出せないだろうという計算も勿論入っている。
「え……ッ、まさか、あんたが……ッ!」
 突然の衝撃に、ボルディアは悲鳴も上げるまもなく倒れ伏した。ぱっと見を密室殺人に仕立て上げてから、物音立てずに部屋を出る。
 加えて、犯人は偽装工作も施した。送られてきた手紙、それをボルディアの手に掴ませるようにしておいたのである。
 これで、少しまた時間稼ぎが出来るはずだ。


 朝が訪れる数時間前。
 血のにおいがする、そう言ったのはルンルンだった。
 たまたまボルディアの隣の部屋をあてがわれていた彼女は、ある時間を境に物音がいっさいしなくなった隣室を不思議に思っていた。眠っているだけならまだしも、この状況下で安眠というのもおかしな話だろう。
 ヒースやホームズといった面々に相談し、ヒースがバリケードを突破して中に入ると、血だまりの中に倒れているボルディアがいた。既に事切れてから時間が経過しているらしく、温もりが失われている。
「……無闇に入ってくるなっ」
 思わずヒースは叫ぶ。中の惨劇を、不用意に見せるわけにも行かない。
「密室殺人、か……?」
 バリケードや窓の補強まで施してある様子を見ると、余程この状況に嫌気がさしていたようで。
 怪しいそぶりを見せていたアリストラは軟禁状態にある。まさか、と思ってホームズは彼を軟禁してある部屋に向かった。
 しかし、そこで見たのは――アリストラが同様に、血の海に倒れ伏している姿だった。
 しかもこちらも密室殺人。
「犯人はやつじゃなかった……だと? なら、いったい誰が」
 謎は増えていくのに、解決の糸口は見つからない。
 じりじりと、探偵達の顔にも焦りが見え始めてくる。
「……!」
 言葉を話せないというクロシェットが、驚きを隠せないといった顔で父の姿を見つめている。家族には刺激のつよいものだろう、まずいという顔を探偵達はちらりとするが、ここで物音に気づいてきたらしいマリィアが尋ねてきた。
「……そう言えば、オーナー夫人は大丈夫なのかしら」
 すっかり存在を忘れていたが、彼女の姿を見かけていない。
 まさか――?
 オーナーの部屋に向かう。
 と言ってもオーナーの部屋にたどり着くまえに、オーナー夫人を見つけることはできた。
 しかし、最悪の形で。
「ちょ、外みて下さい!」
 震え混じりのルンルンの声に、
「……なんでだよ、一度に三つも死体がでてくるなんて聞いてないんだけど!」
 苛立ち混じりの声で、ヒースが叫ぶ。
 窓の外で倒れている女。
 血痕は大きくないところを見ると撲殺かなにかだろうか。
 既に雪に覆われており、死体の死亡時刻は予想がつかない状態である。
 とりあえず吹雪の中、オーナー夫人の遺骸を何とか引きずってくるものの、既に冷え切った骸は何も語らない。ただわかるのは、まず間違いなく殺されたと言うことだけ。
 一晩に、死体が四つ。
 まるでフィクションの出来事のようだが、今彼らの目の前で起きている現実なのだ。これは、悔しいことに。


「さて――」
 ホームズは言葉を紡ぐ。
「こんな事態になったわけだが、何かヒントがないと、ろくに動けないな」
 その言葉に、誰もが頷く。
「さっき俺の言った外部犯の可能性もまだ残ってるかも知れないしな。貯蔵庫あたりに上手く潜んでいるのかも知れない」
 誰もが動揺を隠しきれないなか、ザレムがそう呟く。
 ザレムは最初から、外部犯の可能性を示唆していた。
 しかし、そこまで強く言う必要性は何かヒントでも掴んでいるからこそなのか、はたまた――彼自身が今回の事件に関わっているか。
 彼の表情をうかがってみるものの、それは分からない。
「ザレム君。君はこの事件に関わってはいないんだね?」
 ホームズが問いかけると、ザレムは頷いた。
「疑われても仕方はないけれど、オーナーが殺害された時間はホールで皆と話してた。それについてはアリバイもしっかりあるし、見当違いもいいところだろ」
「だが――そのあとの三件については、アリバイが立証できない。違うか?」
「まあ、ね」
 と、ルンルンがザレムの足元をふと見て呟いた。
「ズボンの裾……随分濡れているけど。外に出たの、もしかして?」
 チラ、とザレムの顔を見る。ザレムはわずかに青ざめた顔をして、ため息をつく。
「……そもそもこの事件の発端はオーナーの殺害だ。あんたら、このオーナーが【ごく普通】だと本当に信じているのか?」
 そう言って、ザレムは家族写真を突きつける。
「俺の家族は、ここのオーナー夫妻に殺されたんだ。こいつらは強盗だったんだ、宝石店を目あてにしたたちの悪い強盗。うちは宝石店だった……」
 ごくり、誰かが喉を鳴らした。
「ああそうさ。たしかに女の方を殺したのは俺だ。三脚を使って殴りつけて、屋根の上の雪を落としてやった。証拠隠滅は雪に任せるってね」
 灯台もと暗しだろう? ザレムはあざ笑うように口元を歪める。
「でもさっき言ったとおり、オーナー殺しは俺じゃない。先に殺されていたからな」
 昏い瞳の中の、復讐心。
 ザレムの心の内側を目の当たりにして、誰もが口を思わずつぐむ。気づけば彼の手にはナタがあったが、それを振り下ろせないのはわずかにのこった良心故か。
「わあああああああああ!」
 やけくそ気味に叫んで、彼は表に飛び出す。そして油を身体に振りまくと、彼は――火を放った。
(兄ちゃんも、今……そっちに行くから、な……)
 そう、そっと呟いて。
 他のものは、それをただただ見つめることしか出来なかった。
 あっという間の出来事だったから。

 ややあってから口を開いたのは、マリィア。
「そう言えば……さっき、ボルディアさん、何か手に握っていたような」
 マリィアの言葉に、ホームズが頷く。
「お前の罪を知っている――そう書かれた手紙だった。犯人の偽装工作かも知れないが、少なくともその手紙が原因でこのペンションに来たものが少なくとも一人はいる、と考えていいだろうな」
 ザレムはその時間帯、オーナー夫人を殺していただろうから除外される。むしろ彼は己を断罪者と認識しているだろうから、「罪を知っている」という手紙の内容にはそぐわない。
「うーん……あと一つ、何かが抜け落ちているような……」
 ルンルンはそう言ってから、ぽんと手を叩く。
「謎は解けました! そう、すべてはラッキーカラーの赤、赤だったのです……!」
 血の赤は確かにヒントとなるのだろうか……正直分からないが、本人はそれで納得しているらしい、からまあいいだろう。
「……そういえば、クロシェットさんは大丈夫でしょうか……親御さんをなくしたと言うことになると思うのですけれど」
 言われてみればその通りだ。そしてアリストラも軟禁状態からの殺害と言うことは、手紙の該当人物ではあり得ないだろう。
「いまは、アリストラさんの傍にいさせてあげるべきでしょうね」
 そう言って微笑むのはギュンターだ。いつの間に現れたのだろう、やや意味深にも見える、柔和な笑みを浮かべている。
「ハクロウは洒落っ気のきいた男ではありますが、人殺しまではしないと思いますよ。それより、こんなものを見つけたのですが」
 ギュンターが取り出したのは、カフスボタンらしきものと、一通の手紙。
「このボタンはオーナーの殺害現場近くに落ちていましてね。ハクロウから託されたものです」
 手紙はギュンターのところに届いたもの、なのだという。
「……いったいどんな手紙なんだい?」
 ホームズが問うと、ギュンターはそっと笑う。
「少し長い手紙になりますが、かいつまんで説明します」


 ――この手紙が白日の下にさらされるころ、私は既にこの世にいないかも知れません。
 ギュンター氏には申し訳ないが、この事件の全貌を見届けて欲しいのです。そのためにも、わがペンションへ是非来て頂きたいのです。
 私と妻は、かつて名うての宝石店強盗をやっておりました。その頃はかなりあくどいことにも手を染め、目的の為には人殺しも厭わないと言うくらいの、言うなれば外道という言葉がしっくりする存在でした。
 けれど、ある宝石店で殺害した夫婦の子どもが、自分たちの悪行に心を痛め、結果的に死に至ったと聞いて、私たちは強盗から足を洗うことにしました。
 そして亡くなった子どもの兄である青年がこの宿に泊まる、と言うことになり、私は思ったのです。これは償いの時だと。

「――宝石強盗、か」
 なるほど、ザレムの言うことと言い分は一致する。と、少女がふっと思い起こしたかのようにぐい、とヒースの袖を引いた。
「……クロシェット?」
 不思議そうな顔を浮かべたヒースは、彼女が示す先にそのままついて行く。そこには果たして、死んだと思われていたアリストラがにやりと笑って座っていた。
「……!」
 そういえば、アリストラが血の海に倒れているのは確認したが、それが「事切れているか」を確認したかというと自信がない。彼は満足そうに頷くと、クロシェットに
「よし、喋っていいぞ。いい子だ」
 そう言って頭をそっと撫でる。
「高いコートも駄目になっちまったんだから、しっかり結末まで見届けないといけねぇよな」
 すると、クロシェットは嬉しそうに頷き、
「にゃあ……かいぬしさま、ろしぇ、がんばる、した」
 そう言ってふわりと微笑む。
「すまねえな。こうやってちょいと時間稼ぎさせてもらった。他の証拠も見つけたかったんでな」
 アリストラはそう言うと、実はギュンターとハクロウも同じ結社――つまり旧知の関係だと明かす。
 また、クロシェットは軟禁状態にあったアリストラの代わりに、情報の収集などを担当していたらしい。
「ハクロウにも狂言殺人をしてもらおうかと思ったが、そこまでする必要はなさそうだったんでな」
 呵々と笑うアリストラ。しかしすぐに顔を引き締め、
「それよりも、ギュンターの手紙はまだ続いているぜ。そっちの確認が先決だ」
 言われて、ギュンターのもとに向かう面々である。

 それを、一人、昏い瞳で見つめている人物がいた。
 隠し持っていた銃の安全装置のロックを慎重に外し、話の輪にそっと加わる。
 ――それと気づかれぬよう、注意を払いながら。


「実はもう一通、手紙は頂いていたんです」
 ギュンターはそう言い、手紙をそっと差し出す。
 そこには――思いも寄らない記述がなされていた。

 ペンションへの宿泊客。
 宿泊の動機。
 誰が殺されるか。
 殺される順番。
 そして――その結末。
 それらが事細かに書かれているのだ。
 しかもそれが書かれた日付は、かなり昔のものである。
 きっと彼は、こうなることをすべて知っていたのだろう。
 そしてこの手紙を、しかるべき人物、つまりギュンターに託したのだ。

「……全ては貴方のシナリオどおり――と言うわけですか、ジョン。たしかに見届けましたよ。私は【隠者】を名乗るものですから……きっと、これでよかったのでしょう?」
 ギュンターは虚空にそう尋ねる。
 そしてそっと振り向くと、そこには明らかに狼狽した顔の、オーナーを殺害した犯人――マリィアがいた。
 手にはマシンガン。
 もう片方の手には、油の入った大きな瓶。
 このペンションごと、燃やし尽くすつもりだったのだろう。
 しかしそれも、オーナーの手紙ですべてが明るみに出た今、ほぼ不可能に近い。
 そう、この事件も解決に近づいている――。


 迷宮入り寸前の事件を、ペンションの宿泊客達は見事な推理で解き明かした。
 それはきっと、いつまでも語り継がれることとなるのだろう。

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参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 唯一つ、その名を
    Holmes(ka3813
    ドワーフ|8才|女性|霊闘士

  • アリストラ=XX(ka4264
    人間(紅)|46才|男性|疾影士

  • クロシェット=アルカナ(ka4448
    人間(紅)|18才|女性|疾影士

  • ハクロウ=V(ka4880
    人間(紅)|70才|男性|舞刀士

  • ギュンター=IX(ka5765
    人間(紅)|65才|男性|符術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/04/10 10:44:22
アイコン 犯人はこの中にいる!
ハクロウ=V(ka4880
人間(クリムゾンウェスト)|70才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/04/12 17:57:16