ゲスト
(ka0000)
【龍奏】地は我を見放したか
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/20 19:00
- 完成日
- 2016/04/28 02:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ハンター達は左を見る。そこにあったのは切り立った崖。足を付く場所は何処にもない。
ハンター達は右を見る。そこにあったのも切り立った崖。足を付く場所は何処にもない。
そしてハンター達は下を見る。その道幅は1メートル程度だろうか。もし向こうから人が来たとしたら、すれ違うのも一苦労だ。最もそのような人間が来ることは無いであろうが。
●
今、ハンター達が進むのは龍園の東に存在するザムラ・ガラン遺跡、そこへの道のりだった。しかしその道は実に険しいものだった。切り立った崖、転がる岩、急角度の坂。どれもこれも人々を拒絶する。下がって上がって、左に右に曲がり遺跡を目指す。そこを進むのに頼れるものはただ一つ、その二本の足だった。南側にあるデ・シェール遺跡に比べれば歪虚の量は少ないとのことだが、そもそも人類がその戦力を送り込むことが一苦労である。先が思いやられるが、だからといってUターンすることは許されない。ハンター達は一歩一歩その道を進んでいた。
そしてその時、ハンター達が見たもの。それは途切れ途切れになった道だった。2メートル程の間を開けて、2メートル四方程度の足場がぽつんと存在しており、そこからまた2メートル程の間を開けて道が続いていた。いやになるほど悪意が感じられる道のりだったが、ジャンプすれば何とか飛び移れそうだ。勿論足を踏み外せばタダでは済まないだろうが……。
そこでハンター達は順番に足場に飛び移り、先を進む。足場は実に狭いため、同時に立てるのは二人が限度だろうか。そこをハンター達は順番に進んでいく。そしてその時だった。最悪の状況がやって来るのは。
●
バサリ、バサリ。大きくゆっくりとした羽の音が聞こえる。そして間もなく敵は姿を現した。ワイバーンが一体、そしてそこから複数の影が飛び降りてくる。リザードマンだった。
分断状態にあるその時に敵襲が来るとは。地は我を見放したというのか。
ハンター達は左を見る。そこにあったのは切り立った崖。足を付く場所は何処にもない。
ハンター達は右を見る。そこにあったのも切り立った崖。足を付く場所は何処にもない。
そしてハンター達は下を見る。その道幅は1メートル程度だろうか。もし向こうから人が来たとしたら、すれ違うのも一苦労だ。最もそのような人間が来ることは無いであろうが。
●
今、ハンター達が進むのは龍園の東に存在するザムラ・ガラン遺跡、そこへの道のりだった。しかしその道は実に険しいものだった。切り立った崖、転がる岩、急角度の坂。どれもこれも人々を拒絶する。下がって上がって、左に右に曲がり遺跡を目指す。そこを進むのに頼れるものはただ一つ、その二本の足だった。南側にあるデ・シェール遺跡に比べれば歪虚の量は少ないとのことだが、そもそも人類がその戦力を送り込むことが一苦労である。先が思いやられるが、だからといってUターンすることは許されない。ハンター達は一歩一歩その道を進んでいた。
そしてその時、ハンター達が見たもの。それは途切れ途切れになった道だった。2メートル程の間を開けて、2メートル四方程度の足場がぽつんと存在しており、そこからまた2メートル程の間を開けて道が続いていた。いやになるほど悪意が感じられる道のりだったが、ジャンプすれば何とか飛び移れそうだ。勿論足を踏み外せばタダでは済まないだろうが……。
そこでハンター達は順番に足場に飛び移り、先を進む。足場は実に狭いため、同時に立てるのは二人が限度だろうか。そこをハンター達は順番に進んでいく。そしてその時だった。最悪の状況がやって来るのは。
●
バサリ、バサリ。大きくゆっくりとした羽の音が聞こえる。そして間もなく敵は姿を現した。ワイバーンが一体、そしてそこから複数の影が飛び降りてくる。リザードマンだった。
分断状態にあるその時に敵襲が来るとは。地は我を見放したというのか。
リプレイ本文
●
「スニーカーを履いてきて、正解なんダヨー♪」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はぴょんぴょんと軽い足取りで足場を渡っていた。足場と足場の間は2メートルほど。落ち着いて飛べばどうということの無い距離である。が、もし落ちれば恐らく命は無い。その事が足をすくませる。
「こんな道を平気で進めるキミたちがおかしいんだからね?」
前を行く仲間たちの姿を、最後尾で南條 真水(ka2377)が見ていた。そんな真水の姿を、パティ=アヴァロンウッド(ka3439)は更に後ろから見ていた。仲間たちは順番に足場を飛び移っている。もうすぐ自分たちが渡る番、そう思っていた時だった。空から降ってくる4つの影。それらはハンター達の退路を断つように足場に立つ。
「なぁ、なんで南條さんたちはこんなところでトカゲと向き合ってるんだろうね……?」
真水は思わずそう漏らす。眼と眼が合った相手はリザードマン達であった。
(要領をもって本分とすべし……とは言いつつも厭な予感がしていたんですよね……)
そしてパティも心のなかでため息を付いていた。しかし、すぐに目を上げた。
「でも、好都合、です」
●
「マンマ・ミーア!! よりによってこんな足場で敵と遭遇!? むー、上等じゃんね。逆に蹴散らしちゃうよ~」
真水とパティの前で今まさに飛び移ろうとしていた超級まりお(ka0824)は、機先を制されて少々おかんむりだった。ならば急いでこのリザードマン達を撃破すべく戦うのみだ。それにこの状況でリザードマンに追い詰められれば一巻の終わりだ。そこで彼女は一気にダッシュして近づいていき、その勢いのまま光斬刀を上段に構えると
「いやっほ~!」
思いっきり大きくジャンプする。勢いと重力を活かした一撃。確かに当たれば威力は抜群だ。しかし、ここまで大きい動きだと対応するのもまた簡単だ。リザードマンは刀を受け止めるべく盾と剣を上段に掲げる。
しかしいつまで待ってもその受け止めるべき攻撃が来なかった。よっぽど高く飛び上がったのかとも思ったが、それにしても遅すぎる。訝しみながら盾と剣を下ろすリザードマン。そこで見たものは、音もなく着地していたまりおの姿だった。
反応する間もなく、まりおは刀を振るう。マテリアルを身体に回し、的確に鋭く足を払う様に振るう。ジャンプによるフェイントに盛大に引っかかっていたリザードマンにはそれに対応できる訳もなかった。
「これで掴みはOK?」
そうまりおが決めた時歌声が聞こえてきた。歌われているのは聖歌。逆境に抗うべきときこそ神を信じていると、高らかに信仰を謳う歌である。パティは丁寧に音程をなぞり、歌声を紡ぐ。その音は一帯に広がり、そしてリザードマンの動きを止める。
あとは仕上げをするだけで良い。真水が構えた拳銃から、風の精霊の加護を受けた銃弾が発射される。銀の銃身から撃ち出された弾はまさしく銀の弾丸と成ってリザードマンを葬り去った。
●
「最悪の環境、って奴だが……ま、理想的な戦場の方が希少だわなあ!」
一方、奥の方では龍崎・カズマ(ka0178)が構えていた。最悪ではあるが、その中でもパトリシアが渡り終えていたことは運が良かったのかもしれない。彼はまず皆に、一度飛び移らないよう叫んで伝え、そして槍と盾を構える。その後ろにはパトリシアが居る。まずは彼女を守ることが彼の目標だ。
そんな龍崎に、リザードマンは嵩にかかって攻め立てる。左手に持った剣を振り回し、ガツン、ガツンと何度も金属音を鳴らす。龍崎も反撃として槍を突くが、それはかわされさらに剣撃を打ち込まれる。
しかし、龍崎にはそれで良かった。槍をかわし、避けるうちにリザードマンは後ろに下がっている。これで間合いは確保できた。つまりパトリシアの安全は確保できた。時間も稼いだ。
「きらきらデスヨー♪」
それにパトリシアは答えた。手持ちの札から光のカードを5枚取り出し、一気にバラ撒く。覚えたばかりの技だったが、存外に上手くいった。カードから光が放たれ、それが折り重なり、混じり合って行く。一帯を光が包み、そしてそれが晴れた時そこには光に目が眩み立ち尽くすリザードマンの姿があった。
こうなれば早く片付けるに越したことは無い。龍崎はためらわなかった。槍を横薙ぎにフルスイング。
土手っ腹に槍を叩きつけられたリザードマンにとって、この道はあまりに細すぎた。足を滑らせ、道から落ちるリザードマン。その不快な叫び声は悲鳴だったのだろうか。しかしその音はあっという間に風にかき消され、聞こえなくなった。
「こんなに足場の悪い戦場は初めてだな……いい経験と受け止めるべきか否か」
その頃央崎 枢(ka5153)は、二人から一歩離れた位置で二本の剣を構えていた。二人がリザードマンに向かって集中していた頃、彼には別のものが見えていた。いや、聞こえていた。
バサリ、バサリ。大きな羽音が聞こえる。それを生み出した主もすぐに確認できた。ワイバーンだ。こいつがリザードマン達をここへと連れてきたのだろう。
まずはリザードマンを倒す。そのことでここにいる者達の考えは一致していた。しかし、だからといってワイバーンが手出しをしてくれない訳では無い。央崎はワイバーン達を牽制し、二人がリザードマンの排除に集中できる様にしていた。
●
「いやはや……単なる谷ならともかく、中途半端に足場があって渡れるせいで、余計に悪意を感じるね」
手前と奥の道に三人ずつのハンターが居る状況で、まさに渡る真っ最中だった二人のハンターがその間にある足場に取り残されていた。ウィーダ・セリューザ(ka6076)はその状況に思わず呪詛の言葉をつぶやく。龍崎が叫んでいるように、もし無理に渡ろうとすれば奈落に真っ逆さまに落とされるだろう。さらに言えばこの足場は二人も居れば一杯一杯。動きたくても動けない。この現実の前に、彼女はやれるべきことをこなすことを選択した。
ウィーダは弓を構える。足を止め、矢をつがえ、息を殺す。マテリアルを集中させる。風が動く音、敵が力を込めて筋肉が僅かに盛り上がるその変化まで見通し、その時を待つ。
「厄介な時に最悪の敵が出てきてくれたものだ!」
そしてもう一人、シルヴェイラ(ka0726)が足場に立っていた。クールで、何事も冷静に対処する彼にとって、最も理知的で冷静な反応は息を殺し身を隠し、敵を静かにやり過ごすことだった。だが
「私1人でいる、訳ではないものな」
そう、ここに居るのは彼一人ではない。覚悟を固める。盾を構える。
ワイバーンに取って、最も与し易いと見えた相手。それは中央の足場に居る二人だった。空が飛べぬ者達に取って、空が飛べ火を吹ける、それだけで脅威である。ワイバーンがそこまで把握していたかはともかく、奴はためらわず息を吸い込み、足場に向かって吹き付ける。
それを受け止めるシルヴェイラ。その火は容赦なくハンター達を焦がしていく。
しかし彼は耐え切った。熱風が二人に決して少なくはないダメージを与えたものの、立っていた。
そして時が来た。ウィーダは矢を放つ。その一矢はリザードマンの足元に刺さり、その動きを縫い付ける。
同時にシルヴェイラは光の障壁を生み出す。それをワイバーンに向かって送り出す。その光の壁は竜の身体を押し、弾き飛ばす。まとった雷撃が衝突した音がバチン! と大きな音を立てて一帯に響く。
この雷撃はワイバーンの動きを止めることは叶わなかった。しかし間合いは一旦離れた。これで稼いだ時間を使い、二人は敵の中心でワイバーンに再び立ち向かう。
●
まりおはもう一体のリザードマンとやりあっていた。このトカゲは相棒がやられたのを見て、慎重に戦いを進める事を決めたようだった。
リザードマンの剣をまりおはひらり、ひらりとかわす。当たりようがない。しかし、同時にまりおの刀もまたリザードマンに受け止められていた。
そこでまりおはフェイントを一つ入れ、刀を振るう。後ろからはウィーダの矢。前からはまりおの刀。フェイントとフェイントの間に鋭い斬撃を加え、斬り裂いていこうとする。
しかし、この場にいるものは皆が分かっていた。まだワイバーンは空を飛んでいる。間もなく再びこちらに来て攻め込んでくるだろう。ならば体勢を立て直される前にリザードマンを倒さねば。
そこでパティは再び歌った。正成らざる命を持つ者を沈めるための鎮魂歌。その歌声は再び戦場に広がり、リザードマンの動きを鈍らせる。
「ふふー。こっちのパティもがんばるデスヨ♪」
そしてその歌声はもう一人のパティ、パトリシアにも届いていた。歌声をBGM代わりに、彼女は三枚のカードを抜き出し天空へと投げ上げる。その札に描かれていたのは風のサイン。それが空を舞い、やがて風の精霊の力を受けて変化していく。
次の瞬間鳴り響く轟音。一体は稲光に包まれる。精霊は荒れ狂い、正成らざるものに裁きの雷を下す。二本の稲妻がリザードマン達を貫く。
その時だった。真水はかかとを二回鳴らした。そしてやおら走りだし――飛んだ。
ふわり。中に浮かぶ真水の体。それは高く高く、リザードマンの、まりおの頭よりも遥か高く飛び上がり、そして柔らかく、音もなく着地する。その場所はリザードマンの真裏。
そして彼女は魔導機械のスイッチを入れる。カチリ。チクタク、チクタク。歯車が時を刻む。その音とともに、狭く細長い地面に魔法陣が描かれる。その姿はまるで時計盤上のよう。
そして時計盤上に浮かび上がった三本の光の針、それが浮かび上がったかと思うと、宙を疾走った。
長い針は真っすぐ飛び、空舞うワイバーンの翼を貫く。言葉で表せないくぐもった悲鳴が上がる。
短い針は真っすぐ飛び、目の前に居たリザードマンの体に突き刺さっていた。トカゲはもはや己の運命がこれまでであったことを悟ったのか、最後の力で剣を振り回す。切っ先が向くのはそれまで正面に居たまりおの方向ではなかった。その反対側、背後に居た真水の方向だった。
しかし真水はすっと半身を傾けるだけで切っ先をかわす。そして彼女を守るかのように光の壁が現れ、その壁が前に出て、リザードマンの体を押し出した。
そのリザードマンが押し出された足元には、もはやそれを支えるものは存在していなかった。トカゲは最後に自然の理通り、重力に引かれ落ちていくのであった。
●
その頃、奥側では稲妻に灼かれたリザードマンが一体でも道連れにしてやろうと剣を振り回していた。狙うはそのカードで己を焼いてくれたパトリシア。しかし、彼女の前に立つ龍崎が決してリザードマンを先に進めない。そして奥側に居たもう一人、央崎は――その姿は無かった。
しかし央崎は身を隠しているわけでも、転落したわけでも無かった。彼は歩いていた。どこをか。それはこの足場の、切り立った側面、そこであった。マテリアルを体に巡らせて重力の枷から離れ、誰の眼にも止まらない場所を進む。例え空を飛びすべてを見渡しているワイバーンでも、足場の裏側に居る者の姿は捉えようがない。ましてやリザードマンはそこに彼が居たことを知りようが無かった。
央崎が背後に立った時、リザードマンはまだそこに二本の剣を持つ敵が存在していることに気づいても居なかった。そして次の瞬間、リザードマンの首は空を飛び、別れた頭と胴はそれぞれ崖下へと落ちていっていた。
●
弾き飛ばされたワイバーンだが、己の体を縛り付けようとしていた雷撃を何とか耐えていた。再びその翼を羽ばたかせ、大きく息を吸い込む。今度こそ己の息で、その小さな足場に佇む小さな者達を吹き飛ばしてやろう、そう考えていた。
しかしそれより先にパトリシアが動いていた。取り出したのは二枚の星が描かれたカード。それを振る。その二枚の札が、ハンター達の進む方向を示していた。
そんなことも知らずワイバーンは息を吸い込み、そして炎を吐き出す。
シルヴィエラはそれを盾一枚で受け止める。熱風と圧力が迫る。熱からは盾が身を守ってくれるが、圧力はそうではない。普段ならバランスを崩さぬよう押されればいいが、ここは数歩下がれば奈落の底。
そこで彼はブレスを受けながら、あえてその身を横に倒した。大木をも吹き折る暴風でも、その力を受け流す柳を折ることは出来ない。ブレスが吹き抜けた時、何の問題もなく存在しているシルヴィエラの姿があった。
一方ウィーダは覚悟を決めていた。元より動かぬことを決めた身。例えシルヴィエラが守ってくれるとはいえ限度がある。彼女の体は炎に包まれる。焼き焦がされるはずだった彼女の体。
しかし、ウィーダが感じたのは猛々しい熱ではなく、優しく身を包む暖かな輝きだった。
奈落を挟み向かい合うパティの目が彼女を見つめていた。生み出された光球がブレスにより傷ついた彼女の体を包み、癒していた。
「――その翼、打ち貫かせていただきます」
パティはワイバーンに向き直った。短く聖句を詠唱すると、光の杭が現れる。そしてそれは飛び、ワイバーンの羽を打ち付ける。
断罪の光の杭に翼を貫かれた時、偽竜の身はもはや動かすことは叶わぬことだった。
「……今です!」
その声に合わせてウィーダが動く。十分に集中し、引き絞った弓。そこから矢が放たれる。それは1ミリの狂いもなく、ワイバーンの体を貫いていた。
「図体が大きい分狙いやすいね」
シルヴィエラも立ち上がり、三本の光線を飛ばす。大きな体で空を飛び、しかしながら杭に止められ動けなくなったワイバーンの体をその光線で貫くことなど、造作も無いことであった。
そして龍崎は構えていた。手からマテリアルをその槍に流し込み、眼は竜の姿をよく狙う。十分に狙いをつけた所で、その腕をしならせ槍を投げる。それは空を走り、そして竜の心臓を間違いなく捉えていた。
手元に槍を引き戻す龍崎。しかしワイバーンは再びハンター達の前にその姿を表すことは無かった。
●
敵襲を乗り切れば、あとはこの道を進むだけだ。時に手を取り合って、時に覚悟を決めて。ハンター達はそれぞれ道を飛び移っていく。
「うん。南條さんは身体を動かすのが恐ろしく苦手なんだ」
そして最後に残った真水はそう言い訳するように一言言うと、再びかかとを二度鳴らした。もう一度空高く舞い上がる彼女の体。
「下手にジャンプして落っこちるくらいなら、羽の靴でひとっ飛び、ってね」
ピタリと足場を飛び越え奥側に着地した彼女が見たのは、ウィーダとシルヴィエラの手当に勤しむパトリシアの姿だった。手当を素早く終えると彼女はにっこりと微笑んで立ち上がり、そして再びその足を進め始めた。
「暗くなる前に、到着できたら良いデスネー♪」
「スニーカーを履いてきて、正解なんダヨー♪」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はぴょんぴょんと軽い足取りで足場を渡っていた。足場と足場の間は2メートルほど。落ち着いて飛べばどうということの無い距離である。が、もし落ちれば恐らく命は無い。その事が足をすくませる。
「こんな道を平気で進めるキミたちがおかしいんだからね?」
前を行く仲間たちの姿を、最後尾で南條 真水(ka2377)が見ていた。そんな真水の姿を、パティ=アヴァロンウッド(ka3439)は更に後ろから見ていた。仲間たちは順番に足場を飛び移っている。もうすぐ自分たちが渡る番、そう思っていた時だった。空から降ってくる4つの影。それらはハンター達の退路を断つように足場に立つ。
「なぁ、なんで南條さんたちはこんなところでトカゲと向き合ってるんだろうね……?」
真水は思わずそう漏らす。眼と眼が合った相手はリザードマン達であった。
(要領をもって本分とすべし……とは言いつつも厭な予感がしていたんですよね……)
そしてパティも心のなかでため息を付いていた。しかし、すぐに目を上げた。
「でも、好都合、です」
●
「マンマ・ミーア!! よりによってこんな足場で敵と遭遇!? むー、上等じゃんね。逆に蹴散らしちゃうよ~」
真水とパティの前で今まさに飛び移ろうとしていた超級まりお(ka0824)は、機先を制されて少々おかんむりだった。ならば急いでこのリザードマン達を撃破すべく戦うのみだ。それにこの状況でリザードマンに追い詰められれば一巻の終わりだ。そこで彼女は一気にダッシュして近づいていき、その勢いのまま光斬刀を上段に構えると
「いやっほ~!」
思いっきり大きくジャンプする。勢いと重力を活かした一撃。確かに当たれば威力は抜群だ。しかし、ここまで大きい動きだと対応するのもまた簡単だ。リザードマンは刀を受け止めるべく盾と剣を上段に掲げる。
しかしいつまで待ってもその受け止めるべき攻撃が来なかった。よっぽど高く飛び上がったのかとも思ったが、それにしても遅すぎる。訝しみながら盾と剣を下ろすリザードマン。そこで見たものは、音もなく着地していたまりおの姿だった。
反応する間もなく、まりおは刀を振るう。マテリアルを身体に回し、的確に鋭く足を払う様に振るう。ジャンプによるフェイントに盛大に引っかかっていたリザードマンにはそれに対応できる訳もなかった。
「これで掴みはOK?」
そうまりおが決めた時歌声が聞こえてきた。歌われているのは聖歌。逆境に抗うべきときこそ神を信じていると、高らかに信仰を謳う歌である。パティは丁寧に音程をなぞり、歌声を紡ぐ。その音は一帯に広がり、そしてリザードマンの動きを止める。
あとは仕上げをするだけで良い。真水が構えた拳銃から、風の精霊の加護を受けた銃弾が発射される。銀の銃身から撃ち出された弾はまさしく銀の弾丸と成ってリザードマンを葬り去った。
●
「最悪の環境、って奴だが……ま、理想的な戦場の方が希少だわなあ!」
一方、奥の方では龍崎・カズマ(ka0178)が構えていた。最悪ではあるが、その中でもパトリシアが渡り終えていたことは運が良かったのかもしれない。彼はまず皆に、一度飛び移らないよう叫んで伝え、そして槍と盾を構える。その後ろにはパトリシアが居る。まずは彼女を守ることが彼の目標だ。
そんな龍崎に、リザードマンは嵩にかかって攻め立てる。左手に持った剣を振り回し、ガツン、ガツンと何度も金属音を鳴らす。龍崎も反撃として槍を突くが、それはかわされさらに剣撃を打ち込まれる。
しかし、龍崎にはそれで良かった。槍をかわし、避けるうちにリザードマンは後ろに下がっている。これで間合いは確保できた。つまりパトリシアの安全は確保できた。時間も稼いだ。
「きらきらデスヨー♪」
それにパトリシアは答えた。手持ちの札から光のカードを5枚取り出し、一気にバラ撒く。覚えたばかりの技だったが、存外に上手くいった。カードから光が放たれ、それが折り重なり、混じり合って行く。一帯を光が包み、そしてそれが晴れた時そこには光に目が眩み立ち尽くすリザードマンの姿があった。
こうなれば早く片付けるに越したことは無い。龍崎はためらわなかった。槍を横薙ぎにフルスイング。
土手っ腹に槍を叩きつけられたリザードマンにとって、この道はあまりに細すぎた。足を滑らせ、道から落ちるリザードマン。その不快な叫び声は悲鳴だったのだろうか。しかしその音はあっという間に風にかき消され、聞こえなくなった。
「こんなに足場の悪い戦場は初めてだな……いい経験と受け止めるべきか否か」
その頃央崎 枢(ka5153)は、二人から一歩離れた位置で二本の剣を構えていた。二人がリザードマンに向かって集中していた頃、彼には別のものが見えていた。いや、聞こえていた。
バサリ、バサリ。大きな羽音が聞こえる。それを生み出した主もすぐに確認できた。ワイバーンだ。こいつがリザードマン達をここへと連れてきたのだろう。
まずはリザードマンを倒す。そのことでここにいる者達の考えは一致していた。しかし、だからといってワイバーンが手出しをしてくれない訳では無い。央崎はワイバーン達を牽制し、二人がリザードマンの排除に集中できる様にしていた。
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「いやはや……単なる谷ならともかく、中途半端に足場があって渡れるせいで、余計に悪意を感じるね」
手前と奥の道に三人ずつのハンターが居る状況で、まさに渡る真っ最中だった二人のハンターがその間にある足場に取り残されていた。ウィーダ・セリューザ(ka6076)はその状況に思わず呪詛の言葉をつぶやく。龍崎が叫んでいるように、もし無理に渡ろうとすれば奈落に真っ逆さまに落とされるだろう。さらに言えばこの足場は二人も居れば一杯一杯。動きたくても動けない。この現実の前に、彼女はやれるべきことをこなすことを選択した。
ウィーダは弓を構える。足を止め、矢をつがえ、息を殺す。マテリアルを集中させる。風が動く音、敵が力を込めて筋肉が僅かに盛り上がるその変化まで見通し、その時を待つ。
「厄介な時に最悪の敵が出てきてくれたものだ!」
そしてもう一人、シルヴェイラ(ka0726)が足場に立っていた。クールで、何事も冷静に対処する彼にとって、最も理知的で冷静な反応は息を殺し身を隠し、敵を静かにやり過ごすことだった。だが
「私1人でいる、訳ではないものな」
そう、ここに居るのは彼一人ではない。覚悟を固める。盾を構える。
ワイバーンに取って、最も与し易いと見えた相手。それは中央の足場に居る二人だった。空が飛べぬ者達に取って、空が飛べ火を吹ける、それだけで脅威である。ワイバーンがそこまで把握していたかはともかく、奴はためらわず息を吸い込み、足場に向かって吹き付ける。
それを受け止めるシルヴェイラ。その火は容赦なくハンター達を焦がしていく。
しかし彼は耐え切った。熱風が二人に決して少なくはないダメージを与えたものの、立っていた。
そして時が来た。ウィーダは矢を放つ。その一矢はリザードマンの足元に刺さり、その動きを縫い付ける。
同時にシルヴェイラは光の障壁を生み出す。それをワイバーンに向かって送り出す。その光の壁は竜の身体を押し、弾き飛ばす。まとった雷撃が衝突した音がバチン! と大きな音を立てて一帯に響く。
この雷撃はワイバーンの動きを止めることは叶わなかった。しかし間合いは一旦離れた。これで稼いだ時間を使い、二人は敵の中心でワイバーンに再び立ち向かう。
●
まりおはもう一体のリザードマンとやりあっていた。このトカゲは相棒がやられたのを見て、慎重に戦いを進める事を決めたようだった。
リザードマンの剣をまりおはひらり、ひらりとかわす。当たりようがない。しかし、同時にまりおの刀もまたリザードマンに受け止められていた。
そこでまりおはフェイントを一つ入れ、刀を振るう。後ろからはウィーダの矢。前からはまりおの刀。フェイントとフェイントの間に鋭い斬撃を加え、斬り裂いていこうとする。
しかし、この場にいるものは皆が分かっていた。まだワイバーンは空を飛んでいる。間もなく再びこちらに来て攻め込んでくるだろう。ならば体勢を立て直される前にリザードマンを倒さねば。
そこでパティは再び歌った。正成らざる命を持つ者を沈めるための鎮魂歌。その歌声は再び戦場に広がり、リザードマンの動きを鈍らせる。
「ふふー。こっちのパティもがんばるデスヨ♪」
そしてその歌声はもう一人のパティ、パトリシアにも届いていた。歌声をBGM代わりに、彼女は三枚のカードを抜き出し天空へと投げ上げる。その札に描かれていたのは風のサイン。それが空を舞い、やがて風の精霊の力を受けて変化していく。
次の瞬間鳴り響く轟音。一体は稲光に包まれる。精霊は荒れ狂い、正成らざるものに裁きの雷を下す。二本の稲妻がリザードマン達を貫く。
その時だった。真水はかかとを二回鳴らした。そしてやおら走りだし――飛んだ。
ふわり。中に浮かぶ真水の体。それは高く高く、リザードマンの、まりおの頭よりも遥か高く飛び上がり、そして柔らかく、音もなく着地する。その場所はリザードマンの真裏。
そして彼女は魔導機械のスイッチを入れる。カチリ。チクタク、チクタク。歯車が時を刻む。その音とともに、狭く細長い地面に魔法陣が描かれる。その姿はまるで時計盤上のよう。
そして時計盤上に浮かび上がった三本の光の針、それが浮かび上がったかと思うと、宙を疾走った。
長い針は真っすぐ飛び、空舞うワイバーンの翼を貫く。言葉で表せないくぐもった悲鳴が上がる。
短い針は真っすぐ飛び、目の前に居たリザードマンの体に突き刺さっていた。トカゲはもはや己の運命がこれまでであったことを悟ったのか、最後の力で剣を振り回す。切っ先が向くのはそれまで正面に居たまりおの方向ではなかった。その反対側、背後に居た真水の方向だった。
しかし真水はすっと半身を傾けるだけで切っ先をかわす。そして彼女を守るかのように光の壁が現れ、その壁が前に出て、リザードマンの体を押し出した。
そのリザードマンが押し出された足元には、もはやそれを支えるものは存在していなかった。トカゲは最後に自然の理通り、重力に引かれ落ちていくのであった。
●
その頃、奥側では稲妻に灼かれたリザードマンが一体でも道連れにしてやろうと剣を振り回していた。狙うはそのカードで己を焼いてくれたパトリシア。しかし、彼女の前に立つ龍崎が決してリザードマンを先に進めない。そして奥側に居たもう一人、央崎は――その姿は無かった。
しかし央崎は身を隠しているわけでも、転落したわけでも無かった。彼は歩いていた。どこをか。それはこの足場の、切り立った側面、そこであった。マテリアルを体に巡らせて重力の枷から離れ、誰の眼にも止まらない場所を進む。例え空を飛びすべてを見渡しているワイバーンでも、足場の裏側に居る者の姿は捉えようがない。ましてやリザードマンはそこに彼が居たことを知りようが無かった。
央崎が背後に立った時、リザードマンはまだそこに二本の剣を持つ敵が存在していることに気づいても居なかった。そして次の瞬間、リザードマンの首は空を飛び、別れた頭と胴はそれぞれ崖下へと落ちていっていた。
●
弾き飛ばされたワイバーンだが、己の体を縛り付けようとしていた雷撃を何とか耐えていた。再びその翼を羽ばたかせ、大きく息を吸い込む。今度こそ己の息で、その小さな足場に佇む小さな者達を吹き飛ばしてやろう、そう考えていた。
しかしそれより先にパトリシアが動いていた。取り出したのは二枚の星が描かれたカード。それを振る。その二枚の札が、ハンター達の進む方向を示していた。
そんなことも知らずワイバーンは息を吸い込み、そして炎を吐き出す。
シルヴィエラはそれを盾一枚で受け止める。熱風と圧力が迫る。熱からは盾が身を守ってくれるが、圧力はそうではない。普段ならバランスを崩さぬよう押されればいいが、ここは数歩下がれば奈落の底。
そこで彼はブレスを受けながら、あえてその身を横に倒した。大木をも吹き折る暴風でも、その力を受け流す柳を折ることは出来ない。ブレスが吹き抜けた時、何の問題もなく存在しているシルヴィエラの姿があった。
一方ウィーダは覚悟を決めていた。元より動かぬことを決めた身。例えシルヴィエラが守ってくれるとはいえ限度がある。彼女の体は炎に包まれる。焼き焦がされるはずだった彼女の体。
しかし、ウィーダが感じたのは猛々しい熱ではなく、優しく身を包む暖かな輝きだった。
奈落を挟み向かい合うパティの目が彼女を見つめていた。生み出された光球がブレスにより傷ついた彼女の体を包み、癒していた。
「――その翼、打ち貫かせていただきます」
パティはワイバーンに向き直った。短く聖句を詠唱すると、光の杭が現れる。そしてそれは飛び、ワイバーンの羽を打ち付ける。
断罪の光の杭に翼を貫かれた時、偽竜の身はもはや動かすことは叶わぬことだった。
「……今です!」
その声に合わせてウィーダが動く。十分に集中し、引き絞った弓。そこから矢が放たれる。それは1ミリの狂いもなく、ワイバーンの体を貫いていた。
「図体が大きい分狙いやすいね」
シルヴィエラも立ち上がり、三本の光線を飛ばす。大きな体で空を飛び、しかしながら杭に止められ動けなくなったワイバーンの体をその光線で貫くことなど、造作も無いことであった。
そして龍崎は構えていた。手からマテリアルをその槍に流し込み、眼は竜の姿をよく狙う。十分に狙いをつけた所で、その腕をしならせ槍を投げる。それは空を走り、そして竜の心臓を間違いなく捉えていた。
手元に槍を引き戻す龍崎。しかしワイバーンは再びハンター達の前にその姿を表すことは無かった。
●
敵襲を乗り切れば、あとはこの道を進むだけだ。時に手を取り合って、時に覚悟を決めて。ハンター達はそれぞれ道を飛び移っていく。
「うん。南條さんは身体を動かすのが恐ろしく苦手なんだ」
そして最後に残った真水はそう言い訳するように一言言うと、再びかかとを二度鳴らした。もう一度空高く舞い上がる彼女の体。
「下手にジャンプして落っこちるくらいなら、羽の靴でひとっ飛び、ってね」
ピタリと足場を飛び越え奥側に着地した彼女が見たのは、ウィーダとシルヴィエラの手当に勤しむパトリシアの姿だった。手当を素早く終えると彼女はにっこりと微笑んで立ち上がり、そして再びその足を進め始めた。
「暗くなる前に、到着できたら良いデスネー♪」
依頼結果
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質問卓 ウィーダ・セリューザ(ka6076) エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/04/16 20:46:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/17 11:39:03 |
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【相談】矮路戦闘 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/04/20 15:32:36 |