ゲスト
(ka0000)
【龍奏】哀しき守護者へ捧ぐ歌
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/20 19:00
- 完成日
- 2016/04/21 15:54
みんなの思い出
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オープニング
――世界の為に生まれ、世界の為に死ぬ。それが龍のさだめ。
だが、世界とはなんだ? 命とは……死とはなんだ?
疑問など必要ないと。生まれ落ちて死ぬその時まで、世界に隷属するだけだと、そう思っていた。
世界を脅かす外敵。闇より生まれた怪物たち、歪虚。使命の為、来る日も来る日も戦いに明け暮れた。
倒せど倒せど湧き上がる闇に、ひとつ、またひとつと同胞が飲み込まれていく。
それでも最後まで、王は立ち続けた。赤き翼を持つ、偉大なる龍の王。
誰にも認められない。褒められる事も、讃えられる事もない。
六大龍の中で最も勇敢で、最もひたむきで、さだめに従った龍の王は死んだ。
自らの領土を奪われ、王座を追われ、眷属も全て失って、それでも戦い続けた王が死んだ。
ザッハークは守るべき王が闇に飲み込まれるのを、ただ見ていることしかできなかったのだ。
龍園ヴリトラルカの東。そこにザムラ・ガランと呼ばれる遺跡がある。
カム・ラディ遺跡とよく似たその遺跡に人類が攻め込んだと聞き、ザッハークは傷も癒えきらぬ翼で飛び立った。
三つの遺跡はそれぞれが連なるもの。それを人類が奪還しようと動き出す事は承知していた。
「しかし……後手に回るようではな……!」
吹けば飛ぶような命でありながら、群れを成し、知力を駆使して勢力を拡大する人間たち。
その力が強いという事を理解すればするほど、認めるわけにはいかなかった。
「世界を潰す……邪悪な寄生虫が!」
「予想通り、敵は南側のデ・シェール遺跡に集中しています! ここの守りは手薄だ……一気に制圧してしまえば!」
遺跡を守る敵は強欲だけ。他の眷属も合流したと聞くが、まだ万全ではないのだ。
人類はカム・ラディ遺跡への強制転移からこっち、スムーズに物事を進めている。歪虚は元々まとまりのない集団、それがこの展開力についていけるはずもなかった。
防衛部隊であるリザードマン達を次々に薙ぎ払うハンター達。その中に篠原神薙の姿もあった。
襲いかかる竜の剣をさばき、胸に刃を突き立てる。返り血を拭って顔を上げると、どこも血で血を洗う肉弾戦が広がっている。
「俺達は……何と戦ってるんだ……」
龍園で謁見を果たした青龍は答えてくれなかった。“強欲”とは何か。
龍園に居た龍達と、この悪竜達とに見た目の差異などほとんどない。けれどあちらは仲間で、こちらは敵。
その境界線を引いたのは誰だ? それは本当に正しいのか?
倒れた竜は塵と消えていく。それは紛れも無く、これらの敵が闇に染まった存在である証拠だが……。
「ニンゲン共……調子に乗るな!」
その時、上空から光の雨が降り注いだ。それらの爆発に煽られたたらを踏む神薙の前に、光の翼を広げたザッハークが降り立つ。
「ザッハーク……くそ、もう少しって時に!」
「グ……ギ……ザッハーク……サマ……」
倒れたリザードマンが伸ばす手を掴み、ザッハークはその上体を抱き上げる。しかし、事切れた竜は塵と消えてしまった。
その塵を強く握り締め、ザッハークは吼えた。怒りと共に放たれたブレスがハンターの部隊を吹き飛ばし、爆炎が遺跡の外周に立ち上る。
「あいつを抑えないと、遺跡を攻められない……けど……」
苦悩するのは、あの怪物がどうしても悪には見えなかったからだ。
敵である事は間違いない。だが、仲間を討たれて哀しむことができるのなら、それは心があるという事ではないのか?
「何故だ……何故なのだ“世界”ッ! 何故だ精霊達よッ!! 何故貴様らはニンゲンに加担する! それは正義ではない……正義であってなるものか!!」
「ザッハーク……あなたは……あなた達強欲は、本当はなんなんだ! なんだったんだ!?」
「青龍と接触し、少しは真実に近づいたか。ならば己の頭で考えよ! 賢しさだけが取り柄だろう!」
空へ舞い上がり、眼下の人類軍に次々にレーザーを降り注がせる。高位歪虚の爆撃を受ければ、当然人も死ぬ。
「……やめろおおおお!」
迷い考えるヒマもなく、神薙はデルタレイを放った。ザッハークはそれを光の翼で薙ぎ払い、急降下する。
「私達を強欲と言ったなニンゲン! だが真の強欲とはどちらだ!? 貴様らが闘う闇とはなんだ!!」
猛スピードで突っ込んでくるザッハークの体当たりで、神薙の身体は空を舞った。
痛みと衝撃で視界が真っ白になる。そして時がゆっくりと流れ出した気がした。
これまで戦ってきた眷属達。それらは人が忌避し恐れる、闇の心によく似ている。
全てを焼きつくす憤怒の力。あれは自然信仰を成す東方の恐れにも似る。
死と戦いの連鎖を成す暴食は、争いをやめられない人類種の鏡のようだ。
そしてこの強欲は。何もかもを奪い尽くし己の力にしようとする、ニンゲンそのものではないのか。
「ぐっ……は」
大地に背中を打ち付け悶え、頭を振って立ち上がる。
奪われたくないから奪う。死にたくないから殺す。思い通りにならないモノを自分都合に切り開き、栄えてきたのが人間だ。
それがどうしようもなく世界に肯定された生き物だから、龍達は頭を悩ませたのだ。
「我ら龍はさだめを果たしたのだ。戦い続け、守り続け、死に続けた。その末路がこれである。私は憎い……ニンゲン共が憎い! 貴様らが自然の一部である事! 世界の庇護を受ける者である事! 精霊の寵愛を受ける者である事……! 全てが憎くて堪らぬ!」
「ザッハーク……」
「我らに世界を守れと仕組むなら、何故世界は我が王を見捨てたのだ! 何故精霊共は守られるだけで静観を続けた!? 何故ニンゲンは調和を知らぬのだ! 誰よりも世界を愛し、自然を愛した我ら龍が、何故誰にも愛される事もなく死に続けねばならぬのだ!!!」
竜は涙を流さない。だが、その叫びが、その心が、哀しみと怒りに満ち溢れている事はわかる。
「認めるわけには……負けるわけには行かないのだ。この運命を終わらせる為に……私は世界を壊し、そして奪って見せる! 我が王が嘆く事のない、新たな運命を!!」
「その為に……他の命全てを犠牲にするのか!」
「我らを顧みぬ“全て”になんの価値がある! 我らを愛さぬ“世界”に……なんのッ!!」
「俺はあんた達の世界の過去なんて知らない。仕組みも知らない。運命なんて全然わからないよ! でも……それに従うだけじゃないって、壊すだけじゃないって証明できるのも――人間だろ!!」
引き返す事はできない。積み重ねてきた時間が巻き戻る事はない。
アレはもう歪虚であり、人間の敵である。元に戻す方法などありはしないし、それを彼らは望まないだろう。
「だったら、受け止めてやる!」
涙は流さない。そんな資格など自分にありはしない。
生きる事はやめられない。どんなに人間が醜悪でも。どんなにおぞましくとも。
生きて、ただ生きて前に進み続けること。
それもまた、世界が祝福した血の宿業なのだから――。
だが、世界とはなんだ? 命とは……死とはなんだ?
疑問など必要ないと。生まれ落ちて死ぬその時まで、世界に隷属するだけだと、そう思っていた。
世界を脅かす外敵。闇より生まれた怪物たち、歪虚。使命の為、来る日も来る日も戦いに明け暮れた。
倒せど倒せど湧き上がる闇に、ひとつ、またひとつと同胞が飲み込まれていく。
それでも最後まで、王は立ち続けた。赤き翼を持つ、偉大なる龍の王。
誰にも認められない。褒められる事も、讃えられる事もない。
六大龍の中で最も勇敢で、最もひたむきで、さだめに従った龍の王は死んだ。
自らの領土を奪われ、王座を追われ、眷属も全て失って、それでも戦い続けた王が死んだ。
ザッハークは守るべき王が闇に飲み込まれるのを、ただ見ていることしかできなかったのだ。
龍園ヴリトラルカの東。そこにザムラ・ガランと呼ばれる遺跡がある。
カム・ラディ遺跡とよく似たその遺跡に人類が攻め込んだと聞き、ザッハークは傷も癒えきらぬ翼で飛び立った。
三つの遺跡はそれぞれが連なるもの。それを人類が奪還しようと動き出す事は承知していた。
「しかし……後手に回るようではな……!」
吹けば飛ぶような命でありながら、群れを成し、知力を駆使して勢力を拡大する人間たち。
その力が強いという事を理解すればするほど、認めるわけにはいかなかった。
「世界を潰す……邪悪な寄生虫が!」
「予想通り、敵は南側のデ・シェール遺跡に集中しています! ここの守りは手薄だ……一気に制圧してしまえば!」
遺跡を守る敵は強欲だけ。他の眷属も合流したと聞くが、まだ万全ではないのだ。
人類はカム・ラディ遺跡への強制転移からこっち、スムーズに物事を進めている。歪虚は元々まとまりのない集団、それがこの展開力についていけるはずもなかった。
防衛部隊であるリザードマン達を次々に薙ぎ払うハンター達。その中に篠原神薙の姿もあった。
襲いかかる竜の剣をさばき、胸に刃を突き立てる。返り血を拭って顔を上げると、どこも血で血を洗う肉弾戦が広がっている。
「俺達は……何と戦ってるんだ……」
龍園で謁見を果たした青龍は答えてくれなかった。“強欲”とは何か。
龍園に居た龍達と、この悪竜達とに見た目の差異などほとんどない。けれどあちらは仲間で、こちらは敵。
その境界線を引いたのは誰だ? それは本当に正しいのか?
倒れた竜は塵と消えていく。それは紛れも無く、これらの敵が闇に染まった存在である証拠だが……。
「ニンゲン共……調子に乗るな!」
その時、上空から光の雨が降り注いだ。それらの爆発に煽られたたらを踏む神薙の前に、光の翼を広げたザッハークが降り立つ。
「ザッハーク……くそ、もう少しって時に!」
「グ……ギ……ザッハーク……サマ……」
倒れたリザードマンが伸ばす手を掴み、ザッハークはその上体を抱き上げる。しかし、事切れた竜は塵と消えてしまった。
その塵を強く握り締め、ザッハークは吼えた。怒りと共に放たれたブレスがハンターの部隊を吹き飛ばし、爆炎が遺跡の外周に立ち上る。
「あいつを抑えないと、遺跡を攻められない……けど……」
苦悩するのは、あの怪物がどうしても悪には見えなかったからだ。
敵である事は間違いない。だが、仲間を討たれて哀しむことができるのなら、それは心があるという事ではないのか?
「何故だ……何故なのだ“世界”ッ! 何故だ精霊達よッ!! 何故貴様らはニンゲンに加担する! それは正義ではない……正義であってなるものか!!」
「ザッハーク……あなたは……あなた達強欲は、本当はなんなんだ! なんだったんだ!?」
「青龍と接触し、少しは真実に近づいたか。ならば己の頭で考えよ! 賢しさだけが取り柄だろう!」
空へ舞い上がり、眼下の人類軍に次々にレーザーを降り注がせる。高位歪虚の爆撃を受ければ、当然人も死ぬ。
「……やめろおおおお!」
迷い考えるヒマもなく、神薙はデルタレイを放った。ザッハークはそれを光の翼で薙ぎ払い、急降下する。
「私達を強欲と言ったなニンゲン! だが真の強欲とはどちらだ!? 貴様らが闘う闇とはなんだ!!」
猛スピードで突っ込んでくるザッハークの体当たりで、神薙の身体は空を舞った。
痛みと衝撃で視界が真っ白になる。そして時がゆっくりと流れ出した気がした。
これまで戦ってきた眷属達。それらは人が忌避し恐れる、闇の心によく似ている。
全てを焼きつくす憤怒の力。あれは自然信仰を成す東方の恐れにも似る。
死と戦いの連鎖を成す暴食は、争いをやめられない人類種の鏡のようだ。
そしてこの強欲は。何もかもを奪い尽くし己の力にしようとする、ニンゲンそのものではないのか。
「ぐっ……は」
大地に背中を打ち付け悶え、頭を振って立ち上がる。
奪われたくないから奪う。死にたくないから殺す。思い通りにならないモノを自分都合に切り開き、栄えてきたのが人間だ。
それがどうしようもなく世界に肯定された生き物だから、龍達は頭を悩ませたのだ。
「我ら龍はさだめを果たしたのだ。戦い続け、守り続け、死に続けた。その末路がこれである。私は憎い……ニンゲン共が憎い! 貴様らが自然の一部である事! 世界の庇護を受ける者である事! 精霊の寵愛を受ける者である事……! 全てが憎くて堪らぬ!」
「ザッハーク……」
「我らに世界を守れと仕組むなら、何故世界は我が王を見捨てたのだ! 何故精霊共は守られるだけで静観を続けた!? 何故ニンゲンは調和を知らぬのだ! 誰よりも世界を愛し、自然を愛した我ら龍が、何故誰にも愛される事もなく死に続けねばならぬのだ!!!」
竜は涙を流さない。だが、その叫びが、その心が、哀しみと怒りに満ち溢れている事はわかる。
「認めるわけには……負けるわけには行かないのだ。この運命を終わらせる為に……私は世界を壊し、そして奪って見せる! 我が王が嘆く事のない、新たな運命を!!」
「その為に……他の命全てを犠牲にするのか!」
「我らを顧みぬ“全て”になんの価値がある! 我らを愛さぬ“世界”に……なんのッ!!」
「俺はあんた達の世界の過去なんて知らない。仕組みも知らない。運命なんて全然わからないよ! でも……それに従うだけじゃないって、壊すだけじゃないって証明できるのも――人間だろ!!」
引き返す事はできない。積み重ねてきた時間が巻き戻る事はない。
アレはもう歪虚であり、人間の敵である。元に戻す方法などありはしないし、それを彼らは望まないだろう。
「だったら、受け止めてやる!」
涙は流さない。そんな資格など自分にありはしない。
生きる事はやめられない。どんなに人間が醜悪でも。どんなにおぞましくとも。
生きて、ただ生きて前に進み続けること。
それもまた、世界が祝福した血の宿業なのだから――。
リプレイ本文
片方の翼を半分失って尚、ザッハークの飛行能力は失われなかった。
光の翼が健在である限り、彼の竜を地べたに引きずり下ろす事は難しいだろう。
アーサー・ホーガン(ka0471)はライフルで、加茂 忠国(ka4451)はファイアアローでそれぞれザッハークを狙う。
ザッハークは速力よりも膂力に重きを置いたドラゴンだ。防御に自信があることもあり、大袈裟には避けない。
故に二人の攻撃は着弾はするが、ザッハークの光の鎧を砕くには及ばない。
「無駄だニンゲン……たった九人で私を相手取るとは、見誤ったな!」
「別にこれだけでお前を倒そうなんて思っちゃいねぇよ」
そう、ダメージはまだない。だが攻撃を続ける事に意味がある。
「こんなに頑張ったのに報われねぇのは間違ってる……なんて事はねぇ。要するに頑張った報いが欲しくなっただけだろ?」
「龍は生まれて死ぬのが定め? 人間は世界に愛されてて妬ましい? ハ、笑わせますね……駄々っ子か何かですか? 貴方は」
リリティア・オルベール(ka3054)が投げた手裏剣を翼で弾き、ザッハークは回転しながら多方へ光の矢を放つ。
雨のように降り注ぐそれを舞うように跳び躱すリリティアの頬が嘲笑に歪む。
「理不尽も、偶然も必然も、悪意も善意も全部ひっくるめて世界なのに……不幸自慢で正義を押し付けないでくださいよ!」
「理不尽の権化たるニンゲンが言うか!」
低空を飛行し、雪を吹き飛ばしながら繰り出されるザッハークの爪。リリティアはこれも回避し、その隙に花厳 刹那(ka3984)が跳躍した。
「何……!?」
攻撃の為低空に下ろしたザッハークの身体に飛び移った刹那はすぐさま背に振動刀を突き立てる。
「ぐっ、硬い……!」
当然振り払おうと回転するザッハークから飛び降りつつ、もう一度刃を振るう。これはガードされ尾による反撃が来るが、神薙の障壁が身を守った。
「回復は私がします。皆さんは攻撃を絶やさないで……!」
受け身を取れずに雪原に転がった刹那に駆け寄りヒールを施すマリエル(ka0116)。
ハンターらは空中のザッハークへ攻撃を続けると、翼への被弾が増え、飛行を維持できなくなる。
本来ならば光の翼がなくとも自前で飛行できた筈だが、それは先の戦いでバランスを失っていた。
「ザッハーク!!」
雄叫びを上げながら落下地点へ駆け寄りハルバードを叩きつける岩井崎 旭(ka0234)。ザッハークは翼を消し、左右の爪を大きく鋭く変化させる。
「私、あなたみたいな相手、嫌いよ。すっごく嫌い。それはもう、心の底から嫌悪するわ」
正面から撃ちあう旭に対し、キサ・I・アイオライト(ka4355)は背面から槍を繰り出す。
「デカい図体のくせに喚きながら暴れるとか……聞き分けの悪い子供より数段タチが悪いわね」
旭を弾き返したザッハークが振り返りながら繰り出す爪の一撃に身構えるキサ。そこへアーサーの銃弾が、そして銀 真白(ka4128)の盾が差し込まれる。
銃撃で逸らされた爪は盾にそって二人を逸れ、真白は隙の出来た脇腹を刀で打つ。
「気をつけな、嬢ちゃん」
「あ、ありがと……きゃっ!?」
ザッハークはまとわりつくハンター全員を回転するように尾で薙ぎ払い、真上に光の矢を放った。それは空中で折れ曲がり、それぞれに降り注ぐ。
爆炎が雪原に連鎖する中、刹那は束ねたカードを投げ、忠国の火の矢が爆ぜる。それを光の鎧で防いで突き抜けるザッハークは旭に爪による追撃を放った。
「なぁ、ザッハーク……あんたは何を求めて戦い続けた? あんたの望む明日はどんな形だ?」
「何?」
「大事なのは今じゃねぇ。ましてや過去でもねぇ。まだ見ぬ明日……いつか名前も知らない誰かが迎える未来だろ!」
「ザッハークさん、貴方は……悲しい人です」
傷ついた旭を回復しつつ、マリエルは目を伏せ首を横に振る。
「憐れむなんて失礼だけど、思ってしまったんです。可哀想だって……」
――倒れた仲間を竜は悼んだ。
ヒトへの憤りを叫び、憎しみと嫉妬に濁った魂は、しかしそれでも世界を思う純粋さが残っているように思えた。思ってしまった。
「どんなに力があっても、どんな使命があっても、誰かを踏みつけにしていいわけがないんです。私は今の貴方を認めません!」
「お前はヒトの所為にばっかりしてるけどよ。お前もまた、お前の主を苦しめる要因のひとつだったんじゃねぇか?」
アーサーの言葉を聞き捨てならなかったのか、露骨に視線が変わる。
「報いを得られぇことで生じる黒い感情は、絶好の負のマテリアルの温床だったろうぜ」
「貴様に……貴様に何がわかるというのだ!」
「貴方の方こそ理解しているのですか? 強欲王メイルストロム……いいえ。“六大龍”の一角たる、赤龍の過ちを」
目を見開き、大きく背後へ跳んだザッハークが睨んだのはリリティアだ。
「青龍に聞いたのか」
「まさか。しかしその様子では図星のようですね」
「強欲王の正体が、赤龍だって……?」
驚きに呟く神薙。一瞬、しんと戦場が静まり返った。
「これまでの貴方や青龍の言動を考えれば想像に難しくない事です。問題はその赤龍が何故歪虚になったのか……そしてこの世界が間違いだというのなら、“正しい形”とは何なのか」
「単純な話だ。貴様らヒトがそうであるように、滅びもまた一つの巨大な自然現象、摂理に過ぎない。歪虚とはお前達が考えるような純粋悪などではなかった」
「……どういう意味です?」
「龍もヒトもこの世界さえも、一つの大きな流れに……運命に組み込まれた虜囚に過ぎない。我が王はその仕組みを壊す事で、運命を……いや、私は何を言っているのだろうな」
頭を振り、改めて光を纏った竜は瞳に怒りを取り戻す。そして光の魔法陣を広げ、口に周囲から光を収束していく。
「ブレスか……!」
「ヤバい! 狙いは俺達じゃない! 後ろの遺跡だ!!」
銃を構えるアーサーに旭が叫ぶ。そう、ザッハークのブレスはハンター達ではなく、今まさに人類軍が占領しようとしているザムラ・ガラン遺跡にあった。
既に大勢は決した。残りの強欲の数も少なく、間もなくザムラ・ガランは人類の手に落ちるだろう。
「それだけは、させぬ!」
「回避は駄目だ! どうにか協力して防ぐぞ!」
舌打ちし引き金を引きまくるアーサー。だがそれだけでは攻撃は止まらない。
「ダメです、止められない!」
カードを投げる刹那だが、鎧に守られたザッハークは攻撃を中断しない。そしてザッハークのブレスは眩い光の奔流となって放たれた。
その進行方向上に駆け込んだ神薙が剣を構えるが、一瞬でその身体が燃え上がり津波に押し流されるように後退していく。
そして耐え切れず倒れこみそうになる神薙の肩を掴み、忠国はアースウォールで二人の前に壁を出現させた。
「加茂君!」
「どうせ一人で無茶をすると思ってたんですよ。こんな時の為にアースウォールを持ってきた僕って、やっぱりイケてますね♪」
「ごめん……ありがとう」
「気にする事じゃありませんよ。友達、ですからね」
しかしアースウォールは赤熱し、ドロドロと溶けていく。穏やかな雰囲気から一変、二人の顔が青ざめるが、そこへアーサーが割り込み烈光旋棍を構えた。
「無事か坊主共……!」
「アーサーさん!」
「こいつは光属性だ。お前らがやるよかちっとはマシだろ。それに……」
駆けつけたマリエルが三人の背後からヒーリングスフィアを展開。傷を癒やしてくれている。
「この攻撃はもう……止まります!」
「旭殿!」
「おう!」
ザッハークに駆け寄った真白と旭はそれぞれの獲物を走りながら重ね、そのまま勢い良く振り上げた。
狙いはザッハークの顎。攻撃の起点がそこであるなら、ずれれば当然ブレスの方向も変わる。
二人の攻撃でブレスは空に向かって放たれ中断。ザッハークは更に光の爪で二人を薙ぎ払い空に舞い上がろうとするが、そこへ刹那が駆け寄り跳躍する。
「無駄だ! それはもう読んでいる!」
斬りかかる刹那の斬撃を防ぎ、反撃しようとするザッハーク。しかし次の瞬間、刹那の影からリリティアが飛び出してきた。
刹那を踏み台にし、その体を下方向に押し出しザッハークの爪を避けさせると、自らは上方向に跳び、ザッハークの頭上を回転しながら刃を疾走らせた。
「生きている内に何も変えられなかった存在が、死んで歪虚になって奪って変えようなんて――その考えが強欲だって言うんですよ」
龍鉱石の光を帯びた刃が煌めく。その破片を纏ったリリティアもまた、ほのかに輝きを帯びていた。
刃はザッハークの右の翼を切り落とした。それは通常時であれば光の鎧に妨げられ不可能だったろう。
しかし、今はブレス攻撃、更には飛行開始、反撃の直後。故に翼に割り当てる防御点が下がっていたのだ。
「気配を消して……貴様!」
「あなたの行いはニンゲンのそれよ。自分が気に入らないから、何もかも奪って壊そうとする……今のあなたの姿、あなたの王に誇れるの?」
キサはマテリアルを纏った妖精を突撃させ、その攻撃を受けて落ちてくるザッハークに真白は滑りこむように背面に移動し刃を放った。
これは陽動だ。先行し背後に回った真白に目を向けるれば、旭が攻撃しやすくなる。
ハルバードの穂先がザッハークの腹に突き刺さる。これにザッハークはよろめくが、防御に力を集中させ凌ごうとする。
そこへ忠国の放ったアイスボルトが突き刺さり、凍結。僅かに鎧の再生を妨害した。
「ここで攻めきれば勝ちだろ――!」
アーサーが銃弾を、神薙がデルタレイを放つ。接近する刹那を振り払おうと腕を振るうと、そこにリリティアがワイヤーをかける。
伸びた腕の付け根を狙い真白とキサが同時に攻撃を仕掛け、旭は両手でハルバードを掲げ翼を広げる。
「――行くぜ、偉大なる世界の守護者!」
「グランフェストさんが作ってくれた轍なら……!」
ザッハークの胸には二つの傷跡がある。その一つはマリエルの友人がつけたものだ。
「擬似接続開始。コード、ロキ。イミテーションミストルティン!」
マリエルは法刀を掲げ、纏った黒い光を刃先へ集めていく。
「ザッハークさん。貴方の想いを尊く大切に思う。けど、必死な想いを抱いているのは貴方だけじゃない。誰かの想いを踏みつけた自分だけの正しさなんて――そんなのは悲しすぎるんです!」
マリエルの光を追いかけるように旭は雄叫びを上げながら走り、ザッハークの胸へと斧槍を繰り出す。
「残った気力も体力も全部くれてやる! 俺はあんたに……勝つ!!」
再形成の途中にあった鎧が砕け、ザッハークの胸に槍が突き刺さる。
鎧では止められぬと悟ったのか、腕で柄を掴んだザッハークは呻きながら何とか引き抜き、ハンター達から距離を取り膝を着いた。
「なんだ、このニンゲンの力は……! 脆弱でありながら高位竜種すら圧倒する……矛盾ではないか」
「俺達は変化する者、未知へ踏み込む者だ。今日はダメでも明日はきっと今日より少しだけいい日だ。そうやって、少しでもマシな明日を手に入れるために、自分も世界も変えてやる」
穂先の血を振り払い、旭は白い歯を見せ笑う。
「仲間や友達と、好きな奴との明日を手に入れる。だから闘うんだ」
ザッハークの傷は深い。既に鎧は再構成したが、これ以上闘えば自分が滅びる事は理解していた。
舞い上がったザッハークが見たのは敗れ去った強欲の軍勢。そして連合軍の旗が上がったザムラ・ガラン遺跡の様子だった。
「そう変えたのが誰だろうと、今のお前らは正しく闇だろ。闇を生み出したのが俺ら人間だって言うなら、別にそれでいいぜ」
銃を下ろし、頬から流れる血を拭ってアーサーは頭上を仰ぎ見る。
「責任持って打ち砕いてやるさ。闇となったお前らをな」
「私達がこの世界を救います。貴方の想いも背負って……きっと証明します。貴方達に勝って」
マリエルの言葉に目を細めるザッハーク。そこからは燃えるような怒りは既に消えていた。
「大丈夫ですよ。人生は案外楽しいモノです。誰にも愛されなくても、愛するかどうかは自分の自由でしょう?」
ひらひらと手を振り、忠国は笑う。
「世界の全てに愛されるのは難しいですよ。でもそれだけが世界を手に入れる方法じゃない。その全てを愛してしまえばいいのです。例え嫌われたってね」
「ニンゲンに愛を説かれるとはな。実に不愉快だ……」
「誰も愛してくれない寂しさはわかります。なんだったら僕が愛してあげますよ、ザッハーク」
ザッハークの口ぶりはどこか穏やかだった。そして大きく吼えると、生き残った強欲達が撤退を開始する。
無数のワイバーンと共に飛び去っていくザッハークの姿を見つめ、キサは小さく息をついた。
「本当、ニンゲンみたいなやつ」
「自分の為に他の生命を奪う……それは生物が存続する上で当然の本能だ。それを正当化するわけではないが……」
刃を収め、真白は自らの掌を見つめる。
「奪った者はその瞬間から“いつか奪われる者”となる。我々が真に世界にとって害悪ならば、どう足掻こうと逃れ得ぬ裁きの時が来るだろう」
「歪虚の存在も大きな流れの一つ……ザッハークさんの言ってた事は、そういう意味だったんでしょうか?」
不安げなマリエルの言葉に真白は目を瞑り。
「さて。必滅は運命か……いつか結果が出るその時まで、只生きて生きて、生き抜くだけだ」
「そういえば神薙君、大丈夫ですか? 無茶をして……やっぱり男の子よね」
「あ、はい。アーサーさんが庇ってくれたし、それに加茂……」
「あいたた……! 遺跡と仲間を守る為に負った傷が痛みます! 刹那さん、僕の心配もしてください!」
地べたに転がり悶える忠国に苦笑しつつも優しく頭を撫でて上げる刹那。その様子にキサはがくりと肩を落とす。
「さっきはちょっとかっこよさそうに見えたのにね」
「うん。加茂君はよくやったよ」
「え!? 僕に惚れたって言いました!?」
「「言ってない」」
飛びつく忠国をキサと神薙が足で踏みつけるように押さえた頃、リリティアは刹那に一礼し。
「ごめんなさいね、足蹴にしてしまって」
「いえ。むしろ助かりましたし、上手く決まって良かったです」
にこりと微笑み、リリティアは視線を鋭くし空の彼方を睨んだ。
「強欲王メイルストロム……次から次へと、この世界は飽きさせませんね」
敵将を撃退したハンターらの活躍により、ザムラ・ガラン遺跡の奪還は成った。
そしてまた一つ、彼らは世界の果てに駒を進める事となるだろう。
光の翼が健在である限り、彼の竜を地べたに引きずり下ろす事は難しいだろう。
アーサー・ホーガン(ka0471)はライフルで、加茂 忠国(ka4451)はファイアアローでそれぞれザッハークを狙う。
ザッハークは速力よりも膂力に重きを置いたドラゴンだ。防御に自信があることもあり、大袈裟には避けない。
故に二人の攻撃は着弾はするが、ザッハークの光の鎧を砕くには及ばない。
「無駄だニンゲン……たった九人で私を相手取るとは、見誤ったな!」
「別にこれだけでお前を倒そうなんて思っちゃいねぇよ」
そう、ダメージはまだない。だが攻撃を続ける事に意味がある。
「こんなに頑張ったのに報われねぇのは間違ってる……なんて事はねぇ。要するに頑張った報いが欲しくなっただけだろ?」
「龍は生まれて死ぬのが定め? 人間は世界に愛されてて妬ましい? ハ、笑わせますね……駄々っ子か何かですか? 貴方は」
リリティア・オルベール(ka3054)が投げた手裏剣を翼で弾き、ザッハークは回転しながら多方へ光の矢を放つ。
雨のように降り注ぐそれを舞うように跳び躱すリリティアの頬が嘲笑に歪む。
「理不尽も、偶然も必然も、悪意も善意も全部ひっくるめて世界なのに……不幸自慢で正義を押し付けないでくださいよ!」
「理不尽の権化たるニンゲンが言うか!」
低空を飛行し、雪を吹き飛ばしながら繰り出されるザッハークの爪。リリティアはこれも回避し、その隙に花厳 刹那(ka3984)が跳躍した。
「何……!?」
攻撃の為低空に下ろしたザッハークの身体に飛び移った刹那はすぐさま背に振動刀を突き立てる。
「ぐっ、硬い……!」
当然振り払おうと回転するザッハークから飛び降りつつ、もう一度刃を振るう。これはガードされ尾による反撃が来るが、神薙の障壁が身を守った。
「回復は私がします。皆さんは攻撃を絶やさないで……!」
受け身を取れずに雪原に転がった刹那に駆け寄りヒールを施すマリエル(ka0116)。
ハンターらは空中のザッハークへ攻撃を続けると、翼への被弾が増え、飛行を維持できなくなる。
本来ならば光の翼がなくとも自前で飛行できた筈だが、それは先の戦いでバランスを失っていた。
「ザッハーク!!」
雄叫びを上げながら落下地点へ駆け寄りハルバードを叩きつける岩井崎 旭(ka0234)。ザッハークは翼を消し、左右の爪を大きく鋭く変化させる。
「私、あなたみたいな相手、嫌いよ。すっごく嫌い。それはもう、心の底から嫌悪するわ」
正面から撃ちあう旭に対し、キサ・I・アイオライト(ka4355)は背面から槍を繰り出す。
「デカい図体のくせに喚きながら暴れるとか……聞き分けの悪い子供より数段タチが悪いわね」
旭を弾き返したザッハークが振り返りながら繰り出す爪の一撃に身構えるキサ。そこへアーサーの銃弾が、そして銀 真白(ka4128)の盾が差し込まれる。
銃撃で逸らされた爪は盾にそって二人を逸れ、真白は隙の出来た脇腹を刀で打つ。
「気をつけな、嬢ちゃん」
「あ、ありがと……きゃっ!?」
ザッハークはまとわりつくハンター全員を回転するように尾で薙ぎ払い、真上に光の矢を放った。それは空中で折れ曲がり、それぞれに降り注ぐ。
爆炎が雪原に連鎖する中、刹那は束ねたカードを投げ、忠国の火の矢が爆ぜる。それを光の鎧で防いで突き抜けるザッハークは旭に爪による追撃を放った。
「なぁ、ザッハーク……あんたは何を求めて戦い続けた? あんたの望む明日はどんな形だ?」
「何?」
「大事なのは今じゃねぇ。ましてや過去でもねぇ。まだ見ぬ明日……いつか名前も知らない誰かが迎える未来だろ!」
「ザッハークさん、貴方は……悲しい人です」
傷ついた旭を回復しつつ、マリエルは目を伏せ首を横に振る。
「憐れむなんて失礼だけど、思ってしまったんです。可哀想だって……」
――倒れた仲間を竜は悼んだ。
ヒトへの憤りを叫び、憎しみと嫉妬に濁った魂は、しかしそれでも世界を思う純粋さが残っているように思えた。思ってしまった。
「どんなに力があっても、どんな使命があっても、誰かを踏みつけにしていいわけがないんです。私は今の貴方を認めません!」
「お前はヒトの所為にばっかりしてるけどよ。お前もまた、お前の主を苦しめる要因のひとつだったんじゃねぇか?」
アーサーの言葉を聞き捨てならなかったのか、露骨に視線が変わる。
「報いを得られぇことで生じる黒い感情は、絶好の負のマテリアルの温床だったろうぜ」
「貴様に……貴様に何がわかるというのだ!」
「貴方の方こそ理解しているのですか? 強欲王メイルストロム……いいえ。“六大龍”の一角たる、赤龍の過ちを」
目を見開き、大きく背後へ跳んだザッハークが睨んだのはリリティアだ。
「青龍に聞いたのか」
「まさか。しかしその様子では図星のようですね」
「強欲王の正体が、赤龍だって……?」
驚きに呟く神薙。一瞬、しんと戦場が静まり返った。
「これまでの貴方や青龍の言動を考えれば想像に難しくない事です。問題はその赤龍が何故歪虚になったのか……そしてこの世界が間違いだというのなら、“正しい形”とは何なのか」
「単純な話だ。貴様らヒトがそうであるように、滅びもまた一つの巨大な自然現象、摂理に過ぎない。歪虚とはお前達が考えるような純粋悪などではなかった」
「……どういう意味です?」
「龍もヒトもこの世界さえも、一つの大きな流れに……運命に組み込まれた虜囚に過ぎない。我が王はその仕組みを壊す事で、運命を……いや、私は何を言っているのだろうな」
頭を振り、改めて光を纏った竜は瞳に怒りを取り戻す。そして光の魔法陣を広げ、口に周囲から光を収束していく。
「ブレスか……!」
「ヤバい! 狙いは俺達じゃない! 後ろの遺跡だ!!」
銃を構えるアーサーに旭が叫ぶ。そう、ザッハークのブレスはハンター達ではなく、今まさに人類軍が占領しようとしているザムラ・ガラン遺跡にあった。
既に大勢は決した。残りの強欲の数も少なく、間もなくザムラ・ガランは人類の手に落ちるだろう。
「それだけは、させぬ!」
「回避は駄目だ! どうにか協力して防ぐぞ!」
舌打ちし引き金を引きまくるアーサー。だがそれだけでは攻撃は止まらない。
「ダメです、止められない!」
カードを投げる刹那だが、鎧に守られたザッハークは攻撃を中断しない。そしてザッハークのブレスは眩い光の奔流となって放たれた。
その進行方向上に駆け込んだ神薙が剣を構えるが、一瞬でその身体が燃え上がり津波に押し流されるように後退していく。
そして耐え切れず倒れこみそうになる神薙の肩を掴み、忠国はアースウォールで二人の前に壁を出現させた。
「加茂君!」
「どうせ一人で無茶をすると思ってたんですよ。こんな時の為にアースウォールを持ってきた僕って、やっぱりイケてますね♪」
「ごめん……ありがとう」
「気にする事じゃありませんよ。友達、ですからね」
しかしアースウォールは赤熱し、ドロドロと溶けていく。穏やかな雰囲気から一変、二人の顔が青ざめるが、そこへアーサーが割り込み烈光旋棍を構えた。
「無事か坊主共……!」
「アーサーさん!」
「こいつは光属性だ。お前らがやるよかちっとはマシだろ。それに……」
駆けつけたマリエルが三人の背後からヒーリングスフィアを展開。傷を癒やしてくれている。
「この攻撃はもう……止まります!」
「旭殿!」
「おう!」
ザッハークに駆け寄った真白と旭はそれぞれの獲物を走りながら重ね、そのまま勢い良く振り上げた。
狙いはザッハークの顎。攻撃の起点がそこであるなら、ずれれば当然ブレスの方向も変わる。
二人の攻撃でブレスは空に向かって放たれ中断。ザッハークは更に光の爪で二人を薙ぎ払い空に舞い上がろうとするが、そこへ刹那が駆け寄り跳躍する。
「無駄だ! それはもう読んでいる!」
斬りかかる刹那の斬撃を防ぎ、反撃しようとするザッハーク。しかし次の瞬間、刹那の影からリリティアが飛び出してきた。
刹那を踏み台にし、その体を下方向に押し出しザッハークの爪を避けさせると、自らは上方向に跳び、ザッハークの頭上を回転しながら刃を疾走らせた。
「生きている内に何も変えられなかった存在が、死んで歪虚になって奪って変えようなんて――その考えが強欲だって言うんですよ」
龍鉱石の光を帯びた刃が煌めく。その破片を纏ったリリティアもまた、ほのかに輝きを帯びていた。
刃はザッハークの右の翼を切り落とした。それは通常時であれば光の鎧に妨げられ不可能だったろう。
しかし、今はブレス攻撃、更には飛行開始、反撃の直後。故に翼に割り当てる防御点が下がっていたのだ。
「気配を消して……貴様!」
「あなたの行いはニンゲンのそれよ。自分が気に入らないから、何もかも奪って壊そうとする……今のあなたの姿、あなたの王に誇れるの?」
キサはマテリアルを纏った妖精を突撃させ、その攻撃を受けて落ちてくるザッハークに真白は滑りこむように背面に移動し刃を放った。
これは陽動だ。先行し背後に回った真白に目を向けるれば、旭が攻撃しやすくなる。
ハルバードの穂先がザッハークの腹に突き刺さる。これにザッハークはよろめくが、防御に力を集中させ凌ごうとする。
そこへ忠国の放ったアイスボルトが突き刺さり、凍結。僅かに鎧の再生を妨害した。
「ここで攻めきれば勝ちだろ――!」
アーサーが銃弾を、神薙がデルタレイを放つ。接近する刹那を振り払おうと腕を振るうと、そこにリリティアがワイヤーをかける。
伸びた腕の付け根を狙い真白とキサが同時に攻撃を仕掛け、旭は両手でハルバードを掲げ翼を広げる。
「――行くぜ、偉大なる世界の守護者!」
「グランフェストさんが作ってくれた轍なら……!」
ザッハークの胸には二つの傷跡がある。その一つはマリエルの友人がつけたものだ。
「擬似接続開始。コード、ロキ。イミテーションミストルティン!」
マリエルは法刀を掲げ、纏った黒い光を刃先へ集めていく。
「ザッハークさん。貴方の想いを尊く大切に思う。けど、必死な想いを抱いているのは貴方だけじゃない。誰かの想いを踏みつけた自分だけの正しさなんて――そんなのは悲しすぎるんです!」
マリエルの光を追いかけるように旭は雄叫びを上げながら走り、ザッハークの胸へと斧槍を繰り出す。
「残った気力も体力も全部くれてやる! 俺はあんたに……勝つ!!」
再形成の途中にあった鎧が砕け、ザッハークの胸に槍が突き刺さる。
鎧では止められぬと悟ったのか、腕で柄を掴んだザッハークは呻きながら何とか引き抜き、ハンター達から距離を取り膝を着いた。
「なんだ、このニンゲンの力は……! 脆弱でありながら高位竜種すら圧倒する……矛盾ではないか」
「俺達は変化する者、未知へ踏み込む者だ。今日はダメでも明日はきっと今日より少しだけいい日だ。そうやって、少しでもマシな明日を手に入れるために、自分も世界も変えてやる」
穂先の血を振り払い、旭は白い歯を見せ笑う。
「仲間や友達と、好きな奴との明日を手に入れる。だから闘うんだ」
ザッハークの傷は深い。既に鎧は再構成したが、これ以上闘えば自分が滅びる事は理解していた。
舞い上がったザッハークが見たのは敗れ去った強欲の軍勢。そして連合軍の旗が上がったザムラ・ガラン遺跡の様子だった。
「そう変えたのが誰だろうと、今のお前らは正しく闇だろ。闇を生み出したのが俺ら人間だって言うなら、別にそれでいいぜ」
銃を下ろし、頬から流れる血を拭ってアーサーは頭上を仰ぎ見る。
「責任持って打ち砕いてやるさ。闇となったお前らをな」
「私達がこの世界を救います。貴方の想いも背負って……きっと証明します。貴方達に勝って」
マリエルの言葉に目を細めるザッハーク。そこからは燃えるような怒りは既に消えていた。
「大丈夫ですよ。人生は案外楽しいモノです。誰にも愛されなくても、愛するかどうかは自分の自由でしょう?」
ひらひらと手を振り、忠国は笑う。
「世界の全てに愛されるのは難しいですよ。でもそれだけが世界を手に入れる方法じゃない。その全てを愛してしまえばいいのです。例え嫌われたってね」
「ニンゲンに愛を説かれるとはな。実に不愉快だ……」
「誰も愛してくれない寂しさはわかります。なんだったら僕が愛してあげますよ、ザッハーク」
ザッハークの口ぶりはどこか穏やかだった。そして大きく吼えると、生き残った強欲達が撤退を開始する。
無数のワイバーンと共に飛び去っていくザッハークの姿を見つめ、キサは小さく息をついた。
「本当、ニンゲンみたいなやつ」
「自分の為に他の生命を奪う……それは生物が存続する上で当然の本能だ。それを正当化するわけではないが……」
刃を収め、真白は自らの掌を見つめる。
「奪った者はその瞬間から“いつか奪われる者”となる。我々が真に世界にとって害悪ならば、どう足掻こうと逃れ得ぬ裁きの時が来るだろう」
「歪虚の存在も大きな流れの一つ……ザッハークさんの言ってた事は、そういう意味だったんでしょうか?」
不安げなマリエルの言葉に真白は目を瞑り。
「さて。必滅は運命か……いつか結果が出るその時まで、只生きて生きて、生き抜くだけだ」
「そういえば神薙君、大丈夫ですか? 無茶をして……やっぱり男の子よね」
「あ、はい。アーサーさんが庇ってくれたし、それに加茂……」
「あいたた……! 遺跡と仲間を守る為に負った傷が痛みます! 刹那さん、僕の心配もしてください!」
地べたに転がり悶える忠国に苦笑しつつも優しく頭を撫でて上げる刹那。その様子にキサはがくりと肩を落とす。
「さっきはちょっとかっこよさそうに見えたのにね」
「うん。加茂君はよくやったよ」
「え!? 僕に惚れたって言いました!?」
「「言ってない」」
飛びつく忠国をキサと神薙が足で踏みつけるように押さえた頃、リリティアは刹那に一礼し。
「ごめんなさいね、足蹴にしてしまって」
「いえ。むしろ助かりましたし、上手く決まって良かったです」
にこりと微笑み、リリティアは視線を鋭くし空の彼方を睨んだ。
「強欲王メイルストロム……次から次へと、この世界は飽きさせませんね」
敵将を撃退したハンターらの活躍により、ザムラ・ガラン遺跡の奪還は成った。
そしてまた一つ、彼らは世界の果てに駒を進める事となるだろう。
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【相談卓】龍を討つ キサ・I・アイオライト(ka4355) エルフ|17才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/04/19 01:03:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/17 16:02:04 |