ゲスト
(ka0000)
駄菓子を食べタイ!
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/04/25 07:30
- 完成日
- 2016/05/02 06:02
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
リゼリオは存外広い街である。
そして、その郊外にある駄菓子屋は、子どもたちの少ない小遣いで腹を満たしてくれるのにとても大切な役目を背負っていた。
学校帰りの子どもはもちろんだが、中には懐かしい味を求めたハンターなども駄菓子を買いに訪れる。そこの主人はもうずいぶん年齢を重ねた老女だったが、逆にそう言う人物のほうが、如何にも子ども好きするという感じで、人気があった。
●
ところで、ガーディナのリーダーであるリムネラ(kz0018)は、そう言う駄菓子というのを食べたことがない。
幼い頃からの聖地での生活、そしてリゼリオに来てもユニオンリーダーという役目を背負っている都合上、そんなところまで頭が回らない、と言うか、知識として『駄菓子』を殆ど知らなかったのだ。
が、ある日。
「……ソレは、なんデスか?」
口元をべたべたにしながら、補佐役のジークが食べている謎の菓子を見て、首をかしげた。
「ああ、これはソースせんべいですよ。もともとはリアルブルーの駄菓子なんですけれど、リゼリオのとある駄菓子屋さんで扱っていると聞いて、つい手を出してしまいました」
「……ダガシ?」
「ああ、駄菓子は子どもの小遣い程度で手に入る、安いお菓子です。健康にいいとは言いがたいものも多いですが、懐かしい感じの味が多くて」
一口どうです? と言われて、リムネラもかじってみる。
――予想外に美味しくて、彼女は目を丸くした。ジークの話だと、他にも種類がありそうだが――気になる。
「ね、ジーク。ワタシも、こういうダガシ、買ってみたいデス」
「えっ――」
ジークは目を丸くして、そして二三度瞬きをした。
そんなこんなで、「リムネラのお忍び(?)駄菓子屋行き」が決まったのである。
リゼリオは存外広い街である。
そして、その郊外にある駄菓子屋は、子どもたちの少ない小遣いで腹を満たしてくれるのにとても大切な役目を背負っていた。
学校帰りの子どもはもちろんだが、中には懐かしい味を求めたハンターなども駄菓子を買いに訪れる。そこの主人はもうずいぶん年齢を重ねた老女だったが、逆にそう言う人物のほうが、如何にも子ども好きするという感じで、人気があった。
●
ところで、ガーディナのリーダーであるリムネラ(kz0018)は、そう言う駄菓子というのを食べたことがない。
幼い頃からの聖地での生活、そしてリゼリオに来てもユニオンリーダーという役目を背負っている都合上、そんなところまで頭が回らない、と言うか、知識として『駄菓子』を殆ど知らなかったのだ。
が、ある日。
「……ソレは、なんデスか?」
口元をべたべたにしながら、補佐役のジークが食べている謎の菓子を見て、首をかしげた。
「ああ、これはソースせんべいですよ。もともとはリアルブルーの駄菓子なんですけれど、リゼリオのとある駄菓子屋さんで扱っていると聞いて、つい手を出してしまいました」
「……ダガシ?」
「ああ、駄菓子は子どもの小遣い程度で手に入る、安いお菓子です。健康にいいとは言いがたいものも多いですが、懐かしい感じの味が多くて」
一口どうです? と言われて、リムネラもかじってみる。
――予想外に美味しくて、彼女は目を丸くした。ジークの話だと、他にも種類がありそうだが――気になる。
「ね、ジーク。ワタシも、こういうダガシ、買ってみたいデス」
「えっ――」
ジークは目を丸くして、そして二三度瞬きをした。
そんなこんなで、「リムネラのお忍び(?)駄菓子屋行き」が決まったのである。
リプレイ本文
●
ジークに教えてもらった『駄菓子屋』に向かいながら、依頼人であるリムネラと八人のハンターたちは気さくに語り合い、まだ見ぬ『駄菓子』や『駄菓子屋』に思いを馳せていた。
「ふむ、駄菓子、か……以前話に聞いて気になってはいたが」
クリムゾンウェスト人のヴァイス(ka0364)にとって、駄菓子というものはその程度の知識しか持ち合わせていない。
それは他のクリムゾンウェスト出身者も同様で、ネムリア・ガウラ(ka4615)は銀色の瞳をキラキラと輝かせ
「わたしも、駄菓子屋さんって、初めて!」
嬉しそうにそう頷く。
普段の白をベースとしたものではない、サックスブルーのフレアワンピースに身を包んでいるリムネラはと言えば、その服装も相まってまるで子どものように胸を高鳴らせていた。ちなみにヘレはお留守番。そうしないと、折角こっそり行ってみようと思っているのにすぐに正体が看破されてしまう。
白い巫女服に幼い白龍を釣れた少女――それがリムネラの最大の特徴の一つであるから、お忍びで遊びに行くならとジークがお膳立てしてくれた衣装は年齢相応の可愛らしさでリムネラによく似合っていた。
「ドキドキしますネ」
楽しそうに語る様も、すっかりハンターたちになじんでいる。この姿を見てすぐにガーディナのリーダーであるとは分からないだろう。
「それにしても警護依頼……と聞いていたのだが、駄菓子……? いったいこれは何のことだ……」
感情表現に乏しいキャリコ・ビューイ(ka5044)が、むむぅと眉を寄せている。そんなさまを見て、カミーユ・鏑木(ka2479)は小さくウィンクした。
「ユニオンリーダーだって一人の人間なんだから、ガス抜きが必要よね。そのお手伝い、と思えばいいんじゃない? 特に最近は戦いも多くて何かと慌ただしかったから、アタシ達も含めて、みんなで楽しんじゃいましょ♪」
リアルブルー出身のカミーユも、実際に行くのは初めてだという。父からは聞いていたらしいが。
その一方で藤堂 小夏(ka5489)は、胸を躍らせていた。
「駄菓子なら、子どもの頃よく食べたよ、懐かしいね……もっとも、近所の駄菓子屋はつぶれちゃって、そのあとはあんまし食べてなかったし、私も久しぶり!」
酸っぱい駄菓子が多いといいな、と声を潜めてそう付け加えながら、にこにこと笑う。
「私も、駄菓子だなんて子どもの頃以来です。……あ、でも、以前のご主人様のお一人がまだ幼かった頃に、一緒に購入に行ったことも御座いました。なんにせよ懐かしく楽しみで御座います」
同じように笑みを浮かべているのは若干変わった価値観を持ったメイド、エフィー(ka6260)。そのメイド根性(?)は、リアルブルー時代から染みついているものらしい。ただし、いまだに彼女の運命のご主人様、というのは現れていないらしいが。
(今日は皆様と楽しい時間を過ごさせていただき、そして運命のご主人様を見つけることが出来たら……!)
若干ぶっ飛んだことを考えているエフィーである。
「まあそんなわけで、駄菓子にはそこそこ詳しいつもりだから、よろしくー」
いっぽう小夏はそう言って、手をひらひらと振って見せた。駄菓子をよく知っている人物がいてくれることは、何よりもありがたい。リムネラも大きく頭を下げると、しかし小夏は慌ててしまう。
「そんなこといいよ。ちなみに私が教える駄菓子は全部酸っぱいからね。苦手な人はごめんね?」
「お菓子が酸っぱい……?」
菓子と言えば甘いものという認識が強い一同は目を丸くした。固定観念を打ち砕かれた感じだ。だがしかし、それに挑んでこそハンターというもの(少し違う気もするが)。
「でもいいねえ、駄菓子なんてとんと食べてないよ。こっちは殆どオーガニックな食べものだから、こう言うのっていいよね」
うずうずした声で玉兎 小夜(ka6009)が朱い瞳をくりくりと動かしている。こちらもキャリコと事情は違うものの表情に乏しいタイプだが、今回はかなり嬉しそうなのがわかる、という感じだ。
「でもいったいどう言うタイプの駄菓子屋さんでしょうかぁ。興味ありまくりですぅ」
言いながら頬に手を当てて悶えているのは星野 ハナ(ka5852)だ。
「そんなに駄菓子屋に種類があるものなのか?」
ヴァイスが不思議そうに尋ねると、ハナは嬉しそうに頷いた。
「駄菓子屋さんも、その場で食べていけるタイプとそうでないタイプ、ガチャガチャとかゲーム機を店頭に置いてあるタイプとないタイプとがありましてぇ。店舗面積と、店主さんの体力的行動力が密接に関わっていると思うんですけどぉ……あと、冷凍ショーケースを置けるかどうかも目安の一つかも、ですぅ」
リアルブルー人ならまだしも、クリムゾンウェストにはない技術や知識の用語が出てきて、首をひねるものもいる。まあ、逆に言えばそれだけハナは駄菓子屋さんが大好きだと言うことがうかがえて、それは嬉しいことなのかも知れない。
「そもそも駄菓子屋さんって言うのはどういう感じなんですか?」
ネムリアが尋ねて見ると、ハナは嬉しそうに語り出す。
「そうですねぇ……子どものお使いのおつり程度でも帰る安いお菓子がプラスチック製容器に一杯詰まってたり平積みの棚にも沢山並べてあったりぃ、おもちゃの火薬ピストルとか蛇花火とかメンコとかブロマイドとかシャボン玉とか……玩具も沢山ありましたぁ……あー、思い浮かべるだけでドキワクですぅ」
声が弾んでいる。本当に楽しみなのだろう。
「さあ、そろそろ目的地が近いみたいね☆」
カミーユの声に、皆の胸はいっそうドキドキと高鳴った。
●
リゼリオの裏道にある、やや異国情緒のある一軒家。
黒いかわらぶきの屋根に木造のその家――いや、店――には、『駄菓子 すなをや』という古めかしそうな看板が出ている。
「ここみたいね」
小夜がそう言って指をさす。店の周囲はどこか古めかしくごちゃっとした雰囲気があるが、なんとなくほっとする感じもかもし出している。
恐らく店内も、いい意味でごちゃっとしているのだろう。
「ふむふむ、これなら期待できそうですねぇ……! このなんとなくごちゃっとした感じ、これこそが駄菓子屋の醍醐味なのですよぅ!」
ハナがうきうきした声で、さっそく店内に入る。
他の面々も、興味深そうにきょろきょろと見回しながらハナに続いて店に入っていった。
店内はやや薄暗い。店の中にはプラスチック容器に入った菓子が山となっているほか、壁からはなにやら絵はがきやメンコなどと言った遊び道具やちょっとした文房具も置かれている。天井近くにはリアルブルーでは誰もが一度は見たことがあるであろうバルサ材の飛行機細工までもがぶら下がっている。
ノスタルジー。まさにその言葉がしっくりとする佇まいの店だった。
「……おや、いらっしゃい。珍しいね、大人数で来るなんて」
店主らしき女性は、ちょんと座っていた。前掛けを付けたその小柄な女性は、笑いじわのある、いかにも気さくそうな人だった。
「まあ……佇まいも店主様も、昔の……蒼の世界で見た、駄菓子屋と殆ど変わらないのですね!」
エフィーも、興奮気味に目を輝かせている。
「まあね。アタシの親父さんがリアルブルーで駄菓子屋をやっていてね、こっちに来てからもそれを続けていたのさ。アタシはその二代目だね」
なかなか風情があると思ったら、結構な老舗でもあったらしい。そんな以前から続く店と言うことに、誰もが目を丸くしている。
「でも、ステキですネ。まるで、コノ店だけ周囲から切り離されたヨウナ、そんなステキな感じデス」
リムネラがほうっと息をつきながらそう言うと、周りの面々もこくっと頷いた。
「……で、兄さんたち。まずは何か食べてみるかい?」
物珍しさからやってきたと判断したのだろう、店主――タマという名前らしい――は、にんまりと笑った。
「あ、それじゃあ酢昆布を」
真っ先にそう宣言したのは小夏。
「酢昆布だね。そこに入っているよ」
タマはそう指さしてみせる。なるほど、瓶状になった容器の中になにやら入っている。小夏は料金を払うとそれをさっそく取り出してさっそくしゃぶりはじめた。
「おすすめって何かあるか?」
ヴァイスが興味深そうに尋ねると、それならと取り出されたのは二本の棒になにやらくっついているものだ。
「それは水飴だよ。棒を使って飴の部分をよくねってから食べるといいよ」
店主に言われて、渡された面々はさっそくねりはじめる。
一人、キャリコは首をかしげながらではあるが。
「なるほど、これが水飴なのね……ええと、ねればねるほど味が変わる、ンだったかしら?」
「それは違うお菓子ですぅ」
そう言ってみせるハナは、にこにこと笑ってマシンガンのように店主に問いかける。
「ピンク色の麩菓子、さくら棒って名前でうってましてぇ、それが私は好きだったんですけれどぉ……売ってますぅ?」
「麩菓子は出してるけど、それは知らないねぇ。ごめんね、流石にこっちじゃなかなか手に入らないものも多くてね」
しっかりと謝るタマ。
「練るタイプの水飴なら、個人的なおすすめはいちご味かな。このぐるぐるねり回す途中も楽しむのだよ~」
小夜が嬉しそうに言う。こと記憶が欠落している彼女だが、駄菓子の食べ方は半ば本能的に覚えているようだ。
やがて水飴の色がだんだんくすんでいく。ねりあがってきた証拠だ。
「よし、できた! リムネラさん、どうぞ!」
渡されたリムネラは不思議そうな顔をしながら、さっそくそれを口に含む。とたん、ぱっと顔が明るくなった。いままであまり食べたことのない甘味に、感動しているようである。
「すごいデスネ、コレ」
嬉しそうにリムネラが歓声を上げると、
「ああ、リムネラさん、これもどう?」
小夏が差し出したのは小さな容器の駄菓子だった。
「ヨーグルト風の味で、ふわっとなめらかな口当たりだね。酸味もこれならきつくないし……さっきの酢昆布はちょっと口に合わなさそうな顔してたから」
容器に木べらのスプーンを突っ込んで食べるのだという。さっそくリムネラも口にすると、なるほど、これはヨーグルトに似たと言うだけあってリムネラの口にも合う。
「これね、あたりとはずれがあってね。当たりが出たらもう一個だったかな? 他にも色んな味の種類があるから、試してみるといいよ。駄菓子は安いし、一つあたりの量も多くないから」
一方キャリコは店内の粉末ジュースやココアシガレットなど、保存の利く甘味の存在の多さに驚いていた。特に粉末ジュースは水に混ぜると果物の味がすることにかなり驚いたようで、依頼にもつかえるかも知れないと買い込んでいる。
「でも本当、駄菓子って一杯あって、どれを買おうか迷っちゃうね!」
あめ玉を口に含んだネムリアが笑う。彼女はとりあえず買ったあめ玉以降はまだ何も買っていない。
「このあめ玉、空色で綺麗だなって思ったんだけど、なんか口の中がシュワシュワする! すごーい!」
嬉しそうにそう言うネムリア。彼女の選んだあめ玉はラムネ味だったので、口の中で弾けるような感じになっているのだろう。
「マシュマロや綿菓子ならわたしでも分かるなあ。あ、リムネラさんもお一つどうぞ!」
差し出したマシュマロは中にチョコレートの入ったもの。口の中でふわっと甘みが広がっていくタイプだ。
リムネラも、渡された菓子が多くて、食べても食べても追いつかない。でも嬉しそうに笑っているところを見ると、かなり気に入っているようだった。
●
少しばかり落ち着いて店を眺められるようになった頃
「あ、籤なんかもあるのね」
目を付けたのはカミーユ。
「折角だからみんなで引いてみない?」
その言葉に反対する声はなかった。駄菓子屋というワンダーランドにいるせいか、誰もが子どもの頃に返ったかのように胸を高鳴らせているのだから。
「籤にも種類があるけれど、まあ試しにやるならあめ玉籤だね。一等はこのあめ玉だよ」
おタマさん――なんとなくそう呼ぶに相応しい人だと誰もが感じていた――がそう言いながら見せたのは、ピンポン球ほどもあるまん丸いあめ玉。赤い色をしているところを見ると、いちご味だろうか。
「それじゃ、みんなでそれにチャレンジしてみましょ」
カミーユが笑う。
そして、結果は――
「……おいひいですぅ」
ハナが口の中を飴でいっぱいにしながら、また蕩けるような笑みを浮かべている。一等賞を出したのは彼女だった。
「二位でも、結構大きいな」
「持ち帰られれば、これも保存食代わりにしたいところだが……」
ヴァイスとキャリコの男性二人が仲良く二等賞。色から察するにミカン味だろうか、ピンポン球よりもやや小さいくらいだ。ヴァイスの言葉通りこれもかなりの大きさである。
「三等……ちょっと残念ですが」
「でも、初めて食べる味で、新鮮デス」
エフィーとリムネラはコーラ味の飴をくわえている。コーラ味の飴というのはたしかに駄菓子を食べ慣れないリムネラにとっては新鮮だったようだ。サイズはと言うと、二等のものよりは二回りほど小さい。それでも普通のあめ玉よりはやや大きい。
「まあ、このくらいなら普通サイズですね」
「酸っぱい飴だったから、まあ私的にはあたりかな」
「予想外の味でした。キャンディは甘いものというイメージが強かったので」
ネムリア、小夏、そして小夜が口に含んでいるのは梅味の四等賞。色はいちご味に近いけれど、味がまったく違うので甘いものだと思って食べたネムリアはかなり驚いた顔をしている。
「うーん、五等も酸っぱいわよ」
言い出しっぺの法則とでも言うべきか、カミーユはやや小ぶりのレモン味の飴をなめながら苦笑した。
「ちなみに六等って味はなんだったのかな?」
小夜がきくと、おタマさんはけろりとした顔で応えた。
「カレー味だよ」
……食べたかったような、食べなくて正解だったような。
●
なんだかんだで随分長居をしてしまった。
家族への土産として麩菓子ときなこ棒をかったネムリアをはじめ、皆駄菓子や玩具を片手に、おタマさんに挨拶をする。
残念ながらもんじゃ焼きがなかったのが悔やまれるとカミーユが呟くと、店主は楽しそうに笑った。
「駄菓子ってやつは、どんな世界でも愛されるんだねぇ」
リアルブルーでも、クリムゾンウェストでも、皆に愛される駄菓子達。
「今日は騒がせて悪かったな。でも楽しかった。ありがとな」
ヴァイスが礼をすると
「いいや。でもそう言ってくれると嬉しいよ、また来ておくれ。色々用意しておくからね」
おタマさんは、胸をとんと叩いてみせた。
どんな世界でも、懐かしい味がある。
愛される味がある。
だから、きっとこの『すなをや』も愛されているのだろう。
そしてこれからも、ずっと。
ジークに教えてもらった『駄菓子屋』に向かいながら、依頼人であるリムネラと八人のハンターたちは気さくに語り合い、まだ見ぬ『駄菓子』や『駄菓子屋』に思いを馳せていた。
「ふむ、駄菓子、か……以前話に聞いて気になってはいたが」
クリムゾンウェスト人のヴァイス(ka0364)にとって、駄菓子というものはその程度の知識しか持ち合わせていない。
それは他のクリムゾンウェスト出身者も同様で、ネムリア・ガウラ(ka4615)は銀色の瞳をキラキラと輝かせ
「わたしも、駄菓子屋さんって、初めて!」
嬉しそうにそう頷く。
普段の白をベースとしたものではない、サックスブルーのフレアワンピースに身を包んでいるリムネラはと言えば、その服装も相まってまるで子どものように胸を高鳴らせていた。ちなみにヘレはお留守番。そうしないと、折角こっそり行ってみようと思っているのにすぐに正体が看破されてしまう。
白い巫女服に幼い白龍を釣れた少女――それがリムネラの最大の特徴の一つであるから、お忍びで遊びに行くならとジークがお膳立てしてくれた衣装は年齢相応の可愛らしさでリムネラによく似合っていた。
「ドキドキしますネ」
楽しそうに語る様も、すっかりハンターたちになじんでいる。この姿を見てすぐにガーディナのリーダーであるとは分からないだろう。
「それにしても警護依頼……と聞いていたのだが、駄菓子……? いったいこれは何のことだ……」
感情表現に乏しいキャリコ・ビューイ(ka5044)が、むむぅと眉を寄せている。そんなさまを見て、カミーユ・鏑木(ka2479)は小さくウィンクした。
「ユニオンリーダーだって一人の人間なんだから、ガス抜きが必要よね。そのお手伝い、と思えばいいんじゃない? 特に最近は戦いも多くて何かと慌ただしかったから、アタシ達も含めて、みんなで楽しんじゃいましょ♪」
リアルブルー出身のカミーユも、実際に行くのは初めてだという。父からは聞いていたらしいが。
その一方で藤堂 小夏(ka5489)は、胸を躍らせていた。
「駄菓子なら、子どもの頃よく食べたよ、懐かしいね……もっとも、近所の駄菓子屋はつぶれちゃって、そのあとはあんまし食べてなかったし、私も久しぶり!」
酸っぱい駄菓子が多いといいな、と声を潜めてそう付け加えながら、にこにこと笑う。
「私も、駄菓子だなんて子どもの頃以来です。……あ、でも、以前のご主人様のお一人がまだ幼かった頃に、一緒に購入に行ったことも御座いました。なんにせよ懐かしく楽しみで御座います」
同じように笑みを浮かべているのは若干変わった価値観を持ったメイド、エフィー(ka6260)。そのメイド根性(?)は、リアルブルー時代から染みついているものらしい。ただし、いまだに彼女の運命のご主人様、というのは現れていないらしいが。
(今日は皆様と楽しい時間を過ごさせていただき、そして運命のご主人様を見つけることが出来たら……!)
若干ぶっ飛んだことを考えているエフィーである。
「まあそんなわけで、駄菓子にはそこそこ詳しいつもりだから、よろしくー」
いっぽう小夏はそう言って、手をひらひらと振って見せた。駄菓子をよく知っている人物がいてくれることは、何よりもありがたい。リムネラも大きく頭を下げると、しかし小夏は慌ててしまう。
「そんなこといいよ。ちなみに私が教える駄菓子は全部酸っぱいからね。苦手な人はごめんね?」
「お菓子が酸っぱい……?」
菓子と言えば甘いものという認識が強い一同は目を丸くした。固定観念を打ち砕かれた感じだ。だがしかし、それに挑んでこそハンターというもの(少し違う気もするが)。
「でもいいねえ、駄菓子なんてとんと食べてないよ。こっちは殆どオーガニックな食べものだから、こう言うのっていいよね」
うずうずした声で玉兎 小夜(ka6009)が朱い瞳をくりくりと動かしている。こちらもキャリコと事情は違うものの表情に乏しいタイプだが、今回はかなり嬉しそうなのがわかる、という感じだ。
「でもいったいどう言うタイプの駄菓子屋さんでしょうかぁ。興味ありまくりですぅ」
言いながら頬に手を当てて悶えているのは星野 ハナ(ka5852)だ。
「そんなに駄菓子屋に種類があるものなのか?」
ヴァイスが不思議そうに尋ねると、ハナは嬉しそうに頷いた。
「駄菓子屋さんも、その場で食べていけるタイプとそうでないタイプ、ガチャガチャとかゲーム機を店頭に置いてあるタイプとないタイプとがありましてぇ。店舗面積と、店主さんの体力的行動力が密接に関わっていると思うんですけどぉ……あと、冷凍ショーケースを置けるかどうかも目安の一つかも、ですぅ」
リアルブルー人ならまだしも、クリムゾンウェストにはない技術や知識の用語が出てきて、首をひねるものもいる。まあ、逆に言えばそれだけハナは駄菓子屋さんが大好きだと言うことがうかがえて、それは嬉しいことなのかも知れない。
「そもそも駄菓子屋さんって言うのはどういう感じなんですか?」
ネムリアが尋ねて見ると、ハナは嬉しそうに語り出す。
「そうですねぇ……子どものお使いのおつり程度でも帰る安いお菓子がプラスチック製容器に一杯詰まってたり平積みの棚にも沢山並べてあったりぃ、おもちゃの火薬ピストルとか蛇花火とかメンコとかブロマイドとかシャボン玉とか……玩具も沢山ありましたぁ……あー、思い浮かべるだけでドキワクですぅ」
声が弾んでいる。本当に楽しみなのだろう。
「さあ、そろそろ目的地が近いみたいね☆」
カミーユの声に、皆の胸はいっそうドキドキと高鳴った。
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リゼリオの裏道にある、やや異国情緒のある一軒家。
黒いかわらぶきの屋根に木造のその家――いや、店――には、『駄菓子 すなをや』という古めかしそうな看板が出ている。
「ここみたいね」
小夜がそう言って指をさす。店の周囲はどこか古めかしくごちゃっとした雰囲気があるが、なんとなくほっとする感じもかもし出している。
恐らく店内も、いい意味でごちゃっとしているのだろう。
「ふむふむ、これなら期待できそうですねぇ……! このなんとなくごちゃっとした感じ、これこそが駄菓子屋の醍醐味なのですよぅ!」
ハナがうきうきした声で、さっそく店内に入る。
他の面々も、興味深そうにきょろきょろと見回しながらハナに続いて店に入っていった。
店内はやや薄暗い。店の中にはプラスチック容器に入った菓子が山となっているほか、壁からはなにやら絵はがきやメンコなどと言った遊び道具やちょっとした文房具も置かれている。天井近くにはリアルブルーでは誰もが一度は見たことがあるであろうバルサ材の飛行機細工までもがぶら下がっている。
ノスタルジー。まさにその言葉がしっくりとする佇まいの店だった。
「……おや、いらっしゃい。珍しいね、大人数で来るなんて」
店主らしき女性は、ちょんと座っていた。前掛けを付けたその小柄な女性は、笑いじわのある、いかにも気さくそうな人だった。
「まあ……佇まいも店主様も、昔の……蒼の世界で見た、駄菓子屋と殆ど変わらないのですね!」
エフィーも、興奮気味に目を輝かせている。
「まあね。アタシの親父さんがリアルブルーで駄菓子屋をやっていてね、こっちに来てからもそれを続けていたのさ。アタシはその二代目だね」
なかなか風情があると思ったら、結構な老舗でもあったらしい。そんな以前から続く店と言うことに、誰もが目を丸くしている。
「でも、ステキですネ。まるで、コノ店だけ周囲から切り離されたヨウナ、そんなステキな感じデス」
リムネラがほうっと息をつきながらそう言うと、周りの面々もこくっと頷いた。
「……で、兄さんたち。まずは何か食べてみるかい?」
物珍しさからやってきたと判断したのだろう、店主――タマという名前らしい――は、にんまりと笑った。
「あ、それじゃあ酢昆布を」
真っ先にそう宣言したのは小夏。
「酢昆布だね。そこに入っているよ」
タマはそう指さしてみせる。なるほど、瓶状になった容器の中になにやら入っている。小夏は料金を払うとそれをさっそく取り出してさっそくしゃぶりはじめた。
「おすすめって何かあるか?」
ヴァイスが興味深そうに尋ねると、それならと取り出されたのは二本の棒になにやらくっついているものだ。
「それは水飴だよ。棒を使って飴の部分をよくねってから食べるといいよ」
店主に言われて、渡された面々はさっそくねりはじめる。
一人、キャリコは首をかしげながらではあるが。
「なるほど、これが水飴なのね……ええと、ねればねるほど味が変わる、ンだったかしら?」
「それは違うお菓子ですぅ」
そう言ってみせるハナは、にこにこと笑ってマシンガンのように店主に問いかける。
「ピンク色の麩菓子、さくら棒って名前でうってましてぇ、それが私は好きだったんですけれどぉ……売ってますぅ?」
「麩菓子は出してるけど、それは知らないねぇ。ごめんね、流石にこっちじゃなかなか手に入らないものも多くてね」
しっかりと謝るタマ。
「練るタイプの水飴なら、個人的なおすすめはいちご味かな。このぐるぐるねり回す途中も楽しむのだよ~」
小夜が嬉しそうに言う。こと記憶が欠落している彼女だが、駄菓子の食べ方は半ば本能的に覚えているようだ。
やがて水飴の色がだんだんくすんでいく。ねりあがってきた証拠だ。
「よし、できた! リムネラさん、どうぞ!」
渡されたリムネラは不思議そうな顔をしながら、さっそくそれを口に含む。とたん、ぱっと顔が明るくなった。いままであまり食べたことのない甘味に、感動しているようである。
「すごいデスネ、コレ」
嬉しそうにリムネラが歓声を上げると、
「ああ、リムネラさん、これもどう?」
小夏が差し出したのは小さな容器の駄菓子だった。
「ヨーグルト風の味で、ふわっとなめらかな口当たりだね。酸味もこれならきつくないし……さっきの酢昆布はちょっと口に合わなさそうな顔してたから」
容器に木べらのスプーンを突っ込んで食べるのだという。さっそくリムネラも口にすると、なるほど、これはヨーグルトに似たと言うだけあってリムネラの口にも合う。
「これね、あたりとはずれがあってね。当たりが出たらもう一個だったかな? 他にも色んな味の種類があるから、試してみるといいよ。駄菓子は安いし、一つあたりの量も多くないから」
一方キャリコは店内の粉末ジュースやココアシガレットなど、保存の利く甘味の存在の多さに驚いていた。特に粉末ジュースは水に混ぜると果物の味がすることにかなり驚いたようで、依頼にもつかえるかも知れないと買い込んでいる。
「でも本当、駄菓子って一杯あって、どれを買おうか迷っちゃうね!」
あめ玉を口に含んだネムリアが笑う。彼女はとりあえず買ったあめ玉以降はまだ何も買っていない。
「このあめ玉、空色で綺麗だなって思ったんだけど、なんか口の中がシュワシュワする! すごーい!」
嬉しそうにそう言うネムリア。彼女の選んだあめ玉はラムネ味だったので、口の中で弾けるような感じになっているのだろう。
「マシュマロや綿菓子ならわたしでも分かるなあ。あ、リムネラさんもお一つどうぞ!」
差し出したマシュマロは中にチョコレートの入ったもの。口の中でふわっと甘みが広がっていくタイプだ。
リムネラも、渡された菓子が多くて、食べても食べても追いつかない。でも嬉しそうに笑っているところを見ると、かなり気に入っているようだった。
●
少しばかり落ち着いて店を眺められるようになった頃
「あ、籤なんかもあるのね」
目を付けたのはカミーユ。
「折角だからみんなで引いてみない?」
その言葉に反対する声はなかった。駄菓子屋というワンダーランドにいるせいか、誰もが子どもの頃に返ったかのように胸を高鳴らせているのだから。
「籤にも種類があるけれど、まあ試しにやるならあめ玉籤だね。一等はこのあめ玉だよ」
おタマさん――なんとなくそう呼ぶに相応しい人だと誰もが感じていた――がそう言いながら見せたのは、ピンポン球ほどもあるまん丸いあめ玉。赤い色をしているところを見ると、いちご味だろうか。
「それじゃ、みんなでそれにチャレンジしてみましょ」
カミーユが笑う。
そして、結果は――
「……おいひいですぅ」
ハナが口の中を飴でいっぱいにしながら、また蕩けるような笑みを浮かべている。一等賞を出したのは彼女だった。
「二位でも、結構大きいな」
「持ち帰られれば、これも保存食代わりにしたいところだが……」
ヴァイスとキャリコの男性二人が仲良く二等賞。色から察するにミカン味だろうか、ピンポン球よりもやや小さいくらいだ。ヴァイスの言葉通りこれもかなりの大きさである。
「三等……ちょっと残念ですが」
「でも、初めて食べる味で、新鮮デス」
エフィーとリムネラはコーラ味の飴をくわえている。コーラ味の飴というのはたしかに駄菓子を食べ慣れないリムネラにとっては新鮮だったようだ。サイズはと言うと、二等のものよりは二回りほど小さい。それでも普通のあめ玉よりはやや大きい。
「まあ、このくらいなら普通サイズですね」
「酸っぱい飴だったから、まあ私的にはあたりかな」
「予想外の味でした。キャンディは甘いものというイメージが強かったので」
ネムリア、小夏、そして小夜が口に含んでいるのは梅味の四等賞。色はいちご味に近いけれど、味がまったく違うので甘いものだと思って食べたネムリアはかなり驚いた顔をしている。
「うーん、五等も酸っぱいわよ」
言い出しっぺの法則とでも言うべきか、カミーユはやや小ぶりのレモン味の飴をなめながら苦笑した。
「ちなみに六等って味はなんだったのかな?」
小夜がきくと、おタマさんはけろりとした顔で応えた。
「カレー味だよ」
……食べたかったような、食べなくて正解だったような。
●
なんだかんだで随分長居をしてしまった。
家族への土産として麩菓子ときなこ棒をかったネムリアをはじめ、皆駄菓子や玩具を片手に、おタマさんに挨拶をする。
残念ながらもんじゃ焼きがなかったのが悔やまれるとカミーユが呟くと、店主は楽しそうに笑った。
「駄菓子ってやつは、どんな世界でも愛されるんだねぇ」
リアルブルーでも、クリムゾンウェストでも、皆に愛される駄菓子達。
「今日は騒がせて悪かったな。でも楽しかった。ありがとな」
ヴァイスが礼をすると
「いいや。でもそう言ってくれると嬉しいよ、また来ておくれ。色々用意しておくからね」
おタマさんは、胸をとんと叩いてみせた。
どんな世界でも、懐かしい味がある。
愛される味がある。
だから、きっとこの『すなをや』も愛されているのだろう。
そしてこれからも、ずっと。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 6人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/04/23 19:24:50 |
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何喰う? 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/04/24 20:26:55 |