ゲスト
(ka0000)
ケルベロス
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/05 15:00
- 完成日
- 2016/05/14 18:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
紅い月が夜空を血の滲んだような色に染めている。
月下、ソレはいた。月光に染まった三首の獣。首のひとつは漆黒の、ひとつは真紅の、ひとつは黄金の――山犬。三体の山犬を混ぜ合わせたようなソレは伝説の地獄の番犬を思わせた。
先ほど惨殺した旅人の肉を引き裂き終えるとソレ――歪虚は鮮血にまっ赤に濡れた口を上げ、月に遠吠えを一つ。
身を苛む怒りを散じ、飢えを満たすためには、人間が一人ではまだ足りない。もっと多くの生命、肉が必要だ。
まだ見ぬ獲物を思い、歪虚はガチガチと牙を噛み鳴らした。
●
「友人を逃がすため、一人の旅人が犠牲となり、そして逃げ延びた旅人がしらせてくれました」
ハンターズソサエティを訪れた街の長はいった。
「彼らを襲ったソレは通りかかる人を襲うようです。が、獲物がなくなれば、当然獲物を求めて山を下りてくるでしょう。人ひとり丸呑みできるほどの巨躯であったと旅人はいっていました」
「それの武器は牙と爪ですか」
係員が問う。すると長は曖昧にうなずいた。
「無論、牙と爪は主要な武器だと思います。しかし、旅人の話によると咆哮もまた何らかの攻撃であるらしいのです」
「らしい、とは?」
「よくわからないというのです。その旅人は水を汲むために友人とは離れたところにいたらしいのですが……咆哮が響き渡った刹那、友人の身体から血が噴いたと」
「地獄の番犬と咆哮、ですか」
ふうむと係員は唸った。
紅い月が夜空を血の滲んだような色に染めている。
月下、ソレはいた。月光に染まった三首の獣。首のひとつは漆黒の、ひとつは真紅の、ひとつは黄金の――山犬。三体の山犬を混ぜ合わせたようなソレは伝説の地獄の番犬を思わせた。
先ほど惨殺した旅人の肉を引き裂き終えるとソレ――歪虚は鮮血にまっ赤に濡れた口を上げ、月に遠吠えを一つ。
身を苛む怒りを散じ、飢えを満たすためには、人間が一人ではまだ足りない。もっと多くの生命、肉が必要だ。
まだ見ぬ獲物を思い、歪虚はガチガチと牙を噛み鳴らした。
●
「友人を逃がすため、一人の旅人が犠牲となり、そして逃げ延びた旅人がしらせてくれました」
ハンターズソサエティを訪れた街の長はいった。
「彼らを襲ったソレは通りかかる人を襲うようです。が、獲物がなくなれば、当然獲物を求めて山を下りてくるでしょう。人ひとり丸呑みできるほどの巨躯であったと旅人はいっていました」
「それの武器は牙と爪ですか」
係員が問う。すると長は曖昧にうなずいた。
「無論、牙と爪は主要な武器だと思います。しかし、旅人の話によると咆哮もまた何らかの攻撃であるらしいのです」
「らしい、とは?」
「よくわからないというのです。その旅人は水を汲むために友人とは離れたところにいたらしいのですが……咆哮が響き渡った刹那、友人の身体から血が噴いたと」
「地獄の番犬と咆哮、ですか」
ふうむと係員は唸った。
リプレイ本文
●
時はすでに初夏。吹く風には濃い碧の匂いが含まれていた。日はとうに沈み、紅い月が草原に続く道を血色に染めている。
「実にシンプルで分かりやすい依頼だな」
十八歳ほどに見える少女がつぶやいた。燃えるような紅髪、すらりとした肢体の少女だ。物腰から戦闘なれしていることが窺われる。名はアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)といった。ハンターである。
彼女のいう依頼とは三首の歪虚を斃すというものであった。例えば人質がいるなどという他の要因のからまぬ、単純な戦闘依頼である。
「シンプルなのは好きよ、難しいこと考えなくていいから」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)という名の二十七歳ほどの娘がやや気だるげに微笑った。
美しい娘だ。人間離れしているほどに。それもそのはず、アルスレーテは人間ではなかった。エルフなのである。
「……この間のサラマンダーといい、神話の登場人物にでもなったか、俺達は?」
呆れたように榊 兵庫(ka0010)という名の青年は肩をすくめてみせた。その挙措が舞のように美しいのは、彼は武術を身につけているからで。古武術である榊流を伝える一族の末裔が兵庫なのであった。
「ケルベロス……か。シリアスは好みじゃないんだがね」
ふふんと鼻をならしたのは三十歳ほどの男であった。細身ではあるが、良く強靭な筋肉に覆われた体躯の持ち主である。
メニエル(ka3428)という名の元軍人であるのだが、実のところ、彼は戦いそのものは嫌いではなかった。ハンターになったのも戦いを求めてとのことである。
するとため息をこぼしてから、アルスレーテは空を見上げた。
「友人を助けるため……ね。私には真似できないわ、自分のことで精一杯だもの……。ま、無駄な犠牲なんて事にならないようにしてあげないとね」
「そうだね」
大人しげな十歳ほどに見える美少女――いや、女装した美少年がこくりとうなずいた。
ルーファス(ka5250)という名の少年であるのだが、なにも女装が趣味というわけではなかった。女性の服を着させられて育てられたため、自然に女装しているである。若年であるのに銃の扱いに長けているのも、そのように――護衛兼玩具として育てられたためであった。
「これ以上、悲劇を繰り返させないために……」
自ら言い聞かせるかのようにルーファスは独語した。
●
「……どこだ?」
腰におとした日本刀の柄に手を携えながら、若者は辺りを見渡した。
澄んだ蒼の瞳、無造作に後ろで結んだ髪。眠そうにさえしていなければそれなりに整った容姿の若者だ。名は鞍馬 真(ka5819)という。
彼の日本刀こそ『ダークMASAMUNE』。柄に特殊装置を搭載した、軍で試作された特殊な刀であった。
「いたぞ」
冷然たる美貌の娘の目が憎悪に光った。
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。彼女の鋭い視線の先、異様なモノが佇んでいた。
巨大な狗。ただ、それは三つの首をもっていた。まるで地獄の門番であるというケルベロスのように。――歪虚であった。
「これは地獄の番犬ですか?」
驚いたような声を、その十六歳ほどの少女は発した。超級まりお(ka0824)である。
怯えたふうもなく、まりおは続けた。
「おぉ、頭が三つ。まさにケルベロスだね~。犠牲者も出てるし、地獄に送り返さないと」
その時である。コーネリアの脳裏に一人の女の面影がよぎった。軍が行った無謀な対歪虚作戦のために死んでしまった妹の面影だ。
「どうやら今のうちに殺処分しておかなきゃならんようだな?」
憎悪に軋るような声でコーネリアはいった。
外道には外道な仕打ちを。それがハンターになってからのコーネリアの信条であった。
「人様を喰う狂犬には屈辱的な死を以て罪を償ってもらわねばならぬ。慈悲も容赦も、ましてや酌量もない」
反射的にコーネリアはアサルトライフル――『レイヨンQ10』をかまえた。
リアルブルーで作られた、歩兵が用いるという黒色の銃火器である。大型のレーザーサイトが特徴的で、定めた相手を逃さないといわれるほど命中率重視の調整をされた代物だ。
次の瞬間、歪虚の身体に赤い光点がうかびあがった。レーザーサイトから発するレーザー光だ。
コーネリアはトリガーをひいた。唸り飛ぶ弾丸が歪虚の身体を穿つ。
おおん。
一瞬身を震わせた歪虚の六対の目がハンターたちを見た。濡れ光るその目にやどっているのは激しい憎悪の光だ。
次の瞬間、歪虚が動いた。その動きを追ってメニエルが狙撃する。が、弾丸は空しく流れすぎた。
「ちいぃ。思ったより動きが速い」
「それなら、こいつはどうだい?」
ルーファスがとてつもない大きさの銃の銃口を疾駆する歪虚にむけた。
試作型重機関銃『恵方撒』。全長百十センチメートルに及ぶ黒く太い七銃身が束ねられたリアルブルーの機関銃だ。
瞬間、重機関銃が吼えた。怒涛のように大地を穿つ。が、歪虚はたくみに射線を躱してはしる。そして――。
ごおおおお。
歪虚が吼えた。
「あっ」
三人のハンター――コーネリアとメニエル、ルーファスが鉄槌を叩き込まれたように吹き飛ばされた。
「マンマ・ミーアッ!! 口から何かブッ放してきたっ!?」
愕然としてまりおが叫んだ。
その時、依頼主の言葉がまりおの脳裏をよぎった。咆哮が響き渡った刹那、友人の身体から血が噴いた。そう依頼主はいっていたのではなかったか。
「………衝撃波? 衝撃波だよね? これが例の不可視攻撃の正体か」
まりおは呻いた。
厄介である。遠距離攻撃であるばかりではなく、射口を三つも備えているのだから。
「口の直線上に注意すれば回避出来そうだけど、接近するのきっつー」
瞬間である。まりおは足にマテリアルを集中。ダッシュした。
無論、歪虚は迎撃態勢をとった。迫るまりおにむけて衝撃波を放つ。
衝撃波にまりおがはねとばされるのと、銃弾が歪虚の身をえぐるのが同時であった。コーネリアだ。
「さあさあ、ビーストハントと行こうじゃないか。大型を狩るビックゲームは得意分野なんだよ」
口にたまった血を吐き捨て、メニエルが黒光りする巨大で重たいアサルトライフル――『RJBS』をかまえた。撃つ。
歪虚が跳び退った。が、三首の一つから血が噴いている。
その時である。歪虚の眼前を再び怒涛のような重機関銃の斉射が薙いた。ルーファスだ。
「さて……行くわよ、犬っころ」
アルスレーテが地を蹴った。瞬く間に歪虚に接近する。
「ぐおっ」
歪虚が爪で薙いだ。その前脚をつかみ、アルスレーテを一気に投げ飛ばした。
ずずん。
地響きたてて、歪虚が地に叩きつけられた。
その時、同じく高速移動で間合いをつめていたアルトが襲いかかった。試作振動刀『オートMURAMASA』の刃を叩きつける。
柄に特殊モーターを搭載した日本刀。軍で試作された特殊な刀で、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増すという代物だ。おまけに、それは筋力から指の長さなどの身体的特徴、体捌きの癖などの技術的特徴、それらを技師である双子の妹と共に徹底的に調べ、変質的なまでのバランス調整を施した専用の一振りである。切るより断つという表現が相応しい無骨な一撃に、歪虚はたまらず短い鳴声をあげた。
●
「まだだ!」
わずかに遅れて肉薄した兵庫が叫んだ。そして渾身の力を込め、十字状の穂先を持つ槍――『人間無骨』を繰り出した。
狼牙一式。榊流の技のひとつである。移動した勢いを転化して、近接攻撃の威力を増すものであった。
何でたまろう。歪虚の肉が爆ぜ、黒血が散った。
その間、ハンターたちは態勢を整え、歪虚を包囲すべく動いた。有利にことが運んでいるようにも見えるが、しかし歪虚の傷はまだ浅い。対するハンターたちが負った傷は浅いものではなかった。これほどの数のハンターに対抗しうるだけの力を歪虚は秘めているのである。
思いのほか素早い動きで歪虚が身を起こした。が、その時すでに真が間合いをつめていた。
「遊ぶならもっと可愛い犬が良いな……」
この場にそぐわぬ呑気な声音でつぶやくと、真は『ダークMASAMUNE』の刃を歪虚に叩き込もうとし――歪虚の口が己の方にむいていることに気づいた。
「ぬっ」
真が身を翻らせたのと歪虚が衝撃波を放つのが同時であった。
身を一度回転させ、再び歪虚に向き直った真の手には大型で無骨な雰囲気の魔導拳銃が握られている。魔導拳銃剣『エルス』だ。
真は拳銃弾を歪虚にぶち込んだ。その直後のことであった。歪虚の爪が彼を引き裂いた。
「どくんだ!」
真にむかって叫ぶと、ルーファスは『恵方撒』の弾丸をばらまいた。が、歪虚は巨体に見合わぬ駿足を用いて乱れ飛ぶ弾丸を躱し、ハンターたちを襲った。短剣の刃ほどもある牙をアルスレーテにむける。
「くっ」
咄嗟に鉄扇ではじいたアルスレーテであった。舞うように逃れる。が、それを歪虚が逃すはずもない。
その時、追撃に移らんと猛る歪虚の足元で何かが跳ねた。一瞬後、歪虚の横腹に弾丸が叩き込まれる。跳弾した弾丸だ。噴く黒血にごわごわした獣毛が濡れた。
「人間の血肉がよほど気に入ってるようだな。だが残念ながら貴様に食わせるエサはこの弾丸だけだ!」
『レイヨンQ10』をかまえなおすと、コーネリアは冷たく告げた。
●
夜空を紅く染めていた月はわずかに傾きつつある。草原に響くのは吹き渡る風の哭く音だけだ。
「逃がさないよ」
月光と同じく紅の髪をなびかせ、アルトが『オートMURAMASA』を閃かせた。
剣閃連華、アルトが得意とする迅雷の剣技で、精度と威力は下がるが、補って余りある速さの高速連撃である。雷にも似たあまりにも速い斬撃は瞬時に幾条もの光流を描いた。
鮮血がほとばしり、脚を斬られた歪虚はとうとう地に転がった。逃さじとばかりにまりおが迫る。
「ヒアーウィーゴー!!」
まりおは闇をも切り裂く光刃の斬撃を叩きつけた。鋭い一撃は深い傷を負わせたはずだが、致命には至らない。
が、斃ねばならない。いかに神話存在に似ていようと、相手は歪虚。人の血肉を喰らい、害をもたらす相容れない存在なのだ。
「やはり滅ぼさねばならんのだよ」
ぎらつく瞳で睨みつけてくる歪虚に、真は正面から仕掛けた。十文字に重なる白光。『ダークMASAMUNE』と『エルス』の斬撃が歪虚の前脚を爆砕した。
ごおおん。
衝撃に吹き飛ばされた歪虚は、ぎこちない動作で身を起こすと、ハンターたちにむかって雄叫びをあげた。衝撃波をまきちらす。数人のハンターの身にハンマーで殴られたかのような衝撃が伝わり、おびただしい量の血が彼らの体中から噴き出した。
かろうじて範囲外にいたルーファスは、傷ついていく仲間の姿を見ていた。が、恐慌に陥ることはない。むしろ機械的な正確さでトリガーをしぼった。
「無慈悲な戦い方だよね……でも、僕らは手を抜けない。被害を最小限にできるなら、何のためらいもなく殺し尽くせる。 さようなら……」
ルーファスは静かに告げた。その間、怒涛のような銃弾の乱舞が歪虚の身をえぐっている。首のひとつががくりと垂れた。
が、まだ歪虚は死なない。今度はルーファスにむけて衝撃波を放った。
「なんてしぶといんだ」
歪虚の一首の額をメニエルは『RJBS』でポイントした。マテリアルを視力と感覚に集中。狙撃した。
鈍い衝撃音。
歪虚の額が陥没した。撒き散らされたのは鮮血と肉片、そして骨片と脳漿だ。はらはらと獣毛が舞う中、二つめの首ががくりと垂れた。
二首を失うという致命的な損傷に、もはや歪虚は自身の死を覚悟したのかもしれない。鮮血まじりの咆哮を発すると、ハンターたちの包囲を食い破らんとするかのように突進した。
「こいつは――」
兵庫は呻いた。歪虚は巨大な体躯をもっている。巨像の突進に等しかった。
力尽くで止めることはできない。咄嗟にそう判断すると、兵庫はあえて身をそらして歪虚を躱した。同時に残る一首を狙って槍を繰り出した。
ずぶり。
刃が肉をつらぬく不気味な感触を覚え、兵庫は微かに顔をしかめた。殺す感覚というものはやはり慣れることはないようだ。
「ぬっ」
慌てて兵庫は槍を引き抜いた。歪虚の疾駆は続いている。
その時だ。歪虚の前にするするとアルスレーテが立ちはだかった。
「があっ」
牙をむいて歪虚が襲いかかった。が、アルスレーテはそれをこそ待っていた。するりと身を躱す。同時に歪虚をとらえ、投げ飛ばす。
ぐきり。
首のへし折れる音が響いた。
反転した世界に立つ美麗なエルフの娘。それが歪虚の見た最期の物であった。
●
「……終わったのかな?」
倒れて動かぬ歪虚を見つめ、さすがに疲れた声をまりおはもらした。
「だろうね」
メニエルがこたえた。同じような疲れた声で。短時間の戦いではあったが、心身ともに消耗していた。
「そうであってもらわなくては困るよ」
「このあとのことだけれど」
アルトが仲間を見回した。
「どうする? 仲間が居れば戦闘中に助けにくるだろうから、きっといないとは思うが……。同種が他にも居ないか山狩りするか? そのぐらいはアフターサービスの範疇だろ」
「そうだな」
頷いて、コーネリアは歪虚を冷たい目で見下ろした。
「絶景だな。捕食対象の人間ごときに狩られるとはとんだ皮肉だ。屈辱に塗れて消え失せろ」
冷たい憤怒を言葉にやどし、コーネリアは告げた。その脳裏に浮かぶのは戦死した妹の面影だ。これで少しは妹の無念も晴れたかもしれない。しかし――。
まだだ。まだ足りない。もっと歪虚を狩らなければ。
「早く報せてやらなければ」
友を助けた者に。友に助けられた者に。兵庫はいった。
時はすでに初夏。吹く風には濃い碧の匂いが含まれていた。日はとうに沈み、紅い月が草原に続く道を血色に染めている。
「実にシンプルで分かりやすい依頼だな」
十八歳ほどに見える少女がつぶやいた。燃えるような紅髪、すらりとした肢体の少女だ。物腰から戦闘なれしていることが窺われる。名はアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)といった。ハンターである。
彼女のいう依頼とは三首の歪虚を斃すというものであった。例えば人質がいるなどという他の要因のからまぬ、単純な戦闘依頼である。
「シンプルなのは好きよ、難しいこと考えなくていいから」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)という名の二十七歳ほどの娘がやや気だるげに微笑った。
美しい娘だ。人間離れしているほどに。それもそのはず、アルスレーテは人間ではなかった。エルフなのである。
「……この間のサラマンダーといい、神話の登場人物にでもなったか、俺達は?」
呆れたように榊 兵庫(ka0010)という名の青年は肩をすくめてみせた。その挙措が舞のように美しいのは、彼は武術を身につけているからで。古武術である榊流を伝える一族の末裔が兵庫なのであった。
「ケルベロス……か。シリアスは好みじゃないんだがね」
ふふんと鼻をならしたのは三十歳ほどの男であった。細身ではあるが、良く強靭な筋肉に覆われた体躯の持ち主である。
メニエル(ka3428)という名の元軍人であるのだが、実のところ、彼は戦いそのものは嫌いではなかった。ハンターになったのも戦いを求めてとのことである。
するとため息をこぼしてから、アルスレーテは空を見上げた。
「友人を助けるため……ね。私には真似できないわ、自分のことで精一杯だもの……。ま、無駄な犠牲なんて事にならないようにしてあげないとね」
「そうだね」
大人しげな十歳ほどに見える美少女――いや、女装した美少年がこくりとうなずいた。
ルーファス(ka5250)という名の少年であるのだが、なにも女装が趣味というわけではなかった。女性の服を着させられて育てられたため、自然に女装しているである。若年であるのに銃の扱いに長けているのも、そのように――護衛兼玩具として育てられたためであった。
「これ以上、悲劇を繰り返させないために……」
自ら言い聞かせるかのようにルーファスは独語した。
●
「……どこだ?」
腰におとした日本刀の柄に手を携えながら、若者は辺りを見渡した。
澄んだ蒼の瞳、無造作に後ろで結んだ髪。眠そうにさえしていなければそれなりに整った容姿の若者だ。名は鞍馬 真(ka5819)という。
彼の日本刀こそ『ダークMASAMUNE』。柄に特殊装置を搭載した、軍で試作された特殊な刀であった。
「いたぞ」
冷然たる美貌の娘の目が憎悪に光った。
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)。彼女の鋭い視線の先、異様なモノが佇んでいた。
巨大な狗。ただ、それは三つの首をもっていた。まるで地獄の門番であるというケルベロスのように。――歪虚であった。
「これは地獄の番犬ですか?」
驚いたような声を、その十六歳ほどの少女は発した。超級まりお(ka0824)である。
怯えたふうもなく、まりおは続けた。
「おぉ、頭が三つ。まさにケルベロスだね~。犠牲者も出てるし、地獄に送り返さないと」
その時である。コーネリアの脳裏に一人の女の面影がよぎった。軍が行った無謀な対歪虚作戦のために死んでしまった妹の面影だ。
「どうやら今のうちに殺処分しておかなきゃならんようだな?」
憎悪に軋るような声でコーネリアはいった。
外道には外道な仕打ちを。それがハンターになってからのコーネリアの信条であった。
「人様を喰う狂犬には屈辱的な死を以て罪を償ってもらわねばならぬ。慈悲も容赦も、ましてや酌量もない」
反射的にコーネリアはアサルトライフル――『レイヨンQ10』をかまえた。
リアルブルーで作られた、歩兵が用いるという黒色の銃火器である。大型のレーザーサイトが特徴的で、定めた相手を逃さないといわれるほど命中率重視の調整をされた代物だ。
次の瞬間、歪虚の身体に赤い光点がうかびあがった。レーザーサイトから発するレーザー光だ。
コーネリアはトリガーをひいた。唸り飛ぶ弾丸が歪虚の身体を穿つ。
おおん。
一瞬身を震わせた歪虚の六対の目がハンターたちを見た。濡れ光るその目にやどっているのは激しい憎悪の光だ。
次の瞬間、歪虚が動いた。その動きを追ってメニエルが狙撃する。が、弾丸は空しく流れすぎた。
「ちいぃ。思ったより動きが速い」
「それなら、こいつはどうだい?」
ルーファスがとてつもない大きさの銃の銃口を疾駆する歪虚にむけた。
試作型重機関銃『恵方撒』。全長百十センチメートルに及ぶ黒く太い七銃身が束ねられたリアルブルーの機関銃だ。
瞬間、重機関銃が吼えた。怒涛のように大地を穿つ。が、歪虚はたくみに射線を躱してはしる。そして――。
ごおおおお。
歪虚が吼えた。
「あっ」
三人のハンター――コーネリアとメニエル、ルーファスが鉄槌を叩き込まれたように吹き飛ばされた。
「マンマ・ミーアッ!! 口から何かブッ放してきたっ!?」
愕然としてまりおが叫んだ。
その時、依頼主の言葉がまりおの脳裏をよぎった。咆哮が響き渡った刹那、友人の身体から血が噴いた。そう依頼主はいっていたのではなかったか。
「………衝撃波? 衝撃波だよね? これが例の不可視攻撃の正体か」
まりおは呻いた。
厄介である。遠距離攻撃であるばかりではなく、射口を三つも備えているのだから。
「口の直線上に注意すれば回避出来そうだけど、接近するのきっつー」
瞬間である。まりおは足にマテリアルを集中。ダッシュした。
無論、歪虚は迎撃態勢をとった。迫るまりおにむけて衝撃波を放つ。
衝撃波にまりおがはねとばされるのと、銃弾が歪虚の身をえぐるのが同時であった。コーネリアだ。
「さあさあ、ビーストハントと行こうじゃないか。大型を狩るビックゲームは得意分野なんだよ」
口にたまった血を吐き捨て、メニエルが黒光りする巨大で重たいアサルトライフル――『RJBS』をかまえた。撃つ。
歪虚が跳び退った。が、三首の一つから血が噴いている。
その時である。歪虚の眼前を再び怒涛のような重機関銃の斉射が薙いた。ルーファスだ。
「さて……行くわよ、犬っころ」
アルスレーテが地を蹴った。瞬く間に歪虚に接近する。
「ぐおっ」
歪虚が爪で薙いだ。その前脚をつかみ、アルスレーテを一気に投げ飛ばした。
ずずん。
地響きたてて、歪虚が地に叩きつけられた。
その時、同じく高速移動で間合いをつめていたアルトが襲いかかった。試作振動刀『オートMURAMASA』の刃を叩きつける。
柄に特殊モーターを搭載した日本刀。軍で試作された特殊な刀で、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増すという代物だ。おまけに、それは筋力から指の長さなどの身体的特徴、体捌きの癖などの技術的特徴、それらを技師である双子の妹と共に徹底的に調べ、変質的なまでのバランス調整を施した専用の一振りである。切るより断つという表現が相応しい無骨な一撃に、歪虚はたまらず短い鳴声をあげた。
●
「まだだ!」
わずかに遅れて肉薄した兵庫が叫んだ。そして渾身の力を込め、十字状の穂先を持つ槍――『人間無骨』を繰り出した。
狼牙一式。榊流の技のひとつである。移動した勢いを転化して、近接攻撃の威力を増すものであった。
何でたまろう。歪虚の肉が爆ぜ、黒血が散った。
その間、ハンターたちは態勢を整え、歪虚を包囲すべく動いた。有利にことが運んでいるようにも見えるが、しかし歪虚の傷はまだ浅い。対するハンターたちが負った傷は浅いものではなかった。これほどの数のハンターに対抗しうるだけの力を歪虚は秘めているのである。
思いのほか素早い動きで歪虚が身を起こした。が、その時すでに真が間合いをつめていた。
「遊ぶならもっと可愛い犬が良いな……」
この場にそぐわぬ呑気な声音でつぶやくと、真は『ダークMASAMUNE』の刃を歪虚に叩き込もうとし――歪虚の口が己の方にむいていることに気づいた。
「ぬっ」
真が身を翻らせたのと歪虚が衝撃波を放つのが同時であった。
身を一度回転させ、再び歪虚に向き直った真の手には大型で無骨な雰囲気の魔導拳銃が握られている。魔導拳銃剣『エルス』だ。
真は拳銃弾を歪虚にぶち込んだ。その直後のことであった。歪虚の爪が彼を引き裂いた。
「どくんだ!」
真にむかって叫ぶと、ルーファスは『恵方撒』の弾丸をばらまいた。が、歪虚は巨体に見合わぬ駿足を用いて乱れ飛ぶ弾丸を躱し、ハンターたちを襲った。短剣の刃ほどもある牙をアルスレーテにむける。
「くっ」
咄嗟に鉄扇ではじいたアルスレーテであった。舞うように逃れる。が、それを歪虚が逃すはずもない。
その時、追撃に移らんと猛る歪虚の足元で何かが跳ねた。一瞬後、歪虚の横腹に弾丸が叩き込まれる。跳弾した弾丸だ。噴く黒血にごわごわした獣毛が濡れた。
「人間の血肉がよほど気に入ってるようだな。だが残念ながら貴様に食わせるエサはこの弾丸だけだ!」
『レイヨンQ10』をかまえなおすと、コーネリアは冷たく告げた。
●
夜空を紅く染めていた月はわずかに傾きつつある。草原に響くのは吹き渡る風の哭く音だけだ。
「逃がさないよ」
月光と同じく紅の髪をなびかせ、アルトが『オートMURAMASA』を閃かせた。
剣閃連華、アルトが得意とする迅雷の剣技で、精度と威力は下がるが、補って余りある速さの高速連撃である。雷にも似たあまりにも速い斬撃は瞬時に幾条もの光流を描いた。
鮮血がほとばしり、脚を斬られた歪虚はとうとう地に転がった。逃さじとばかりにまりおが迫る。
「ヒアーウィーゴー!!」
まりおは闇をも切り裂く光刃の斬撃を叩きつけた。鋭い一撃は深い傷を負わせたはずだが、致命には至らない。
が、斃ねばならない。いかに神話存在に似ていようと、相手は歪虚。人の血肉を喰らい、害をもたらす相容れない存在なのだ。
「やはり滅ぼさねばならんのだよ」
ぎらつく瞳で睨みつけてくる歪虚に、真は正面から仕掛けた。十文字に重なる白光。『ダークMASAMUNE』と『エルス』の斬撃が歪虚の前脚を爆砕した。
ごおおん。
衝撃に吹き飛ばされた歪虚は、ぎこちない動作で身を起こすと、ハンターたちにむかって雄叫びをあげた。衝撃波をまきちらす。数人のハンターの身にハンマーで殴られたかのような衝撃が伝わり、おびただしい量の血が彼らの体中から噴き出した。
かろうじて範囲外にいたルーファスは、傷ついていく仲間の姿を見ていた。が、恐慌に陥ることはない。むしろ機械的な正確さでトリガーをしぼった。
「無慈悲な戦い方だよね……でも、僕らは手を抜けない。被害を最小限にできるなら、何のためらいもなく殺し尽くせる。 さようなら……」
ルーファスは静かに告げた。その間、怒涛のような銃弾の乱舞が歪虚の身をえぐっている。首のひとつががくりと垂れた。
が、まだ歪虚は死なない。今度はルーファスにむけて衝撃波を放った。
「なんてしぶといんだ」
歪虚の一首の額をメニエルは『RJBS』でポイントした。マテリアルを視力と感覚に集中。狙撃した。
鈍い衝撃音。
歪虚の額が陥没した。撒き散らされたのは鮮血と肉片、そして骨片と脳漿だ。はらはらと獣毛が舞う中、二つめの首ががくりと垂れた。
二首を失うという致命的な損傷に、もはや歪虚は自身の死を覚悟したのかもしれない。鮮血まじりの咆哮を発すると、ハンターたちの包囲を食い破らんとするかのように突進した。
「こいつは――」
兵庫は呻いた。歪虚は巨大な体躯をもっている。巨像の突進に等しかった。
力尽くで止めることはできない。咄嗟にそう判断すると、兵庫はあえて身をそらして歪虚を躱した。同時に残る一首を狙って槍を繰り出した。
ずぶり。
刃が肉をつらぬく不気味な感触を覚え、兵庫は微かに顔をしかめた。殺す感覚というものはやはり慣れることはないようだ。
「ぬっ」
慌てて兵庫は槍を引き抜いた。歪虚の疾駆は続いている。
その時だ。歪虚の前にするするとアルスレーテが立ちはだかった。
「があっ」
牙をむいて歪虚が襲いかかった。が、アルスレーテはそれをこそ待っていた。するりと身を躱す。同時に歪虚をとらえ、投げ飛ばす。
ぐきり。
首のへし折れる音が響いた。
反転した世界に立つ美麗なエルフの娘。それが歪虚の見た最期の物であった。
●
「……終わったのかな?」
倒れて動かぬ歪虚を見つめ、さすがに疲れた声をまりおはもらした。
「だろうね」
メニエルがこたえた。同じような疲れた声で。短時間の戦いではあったが、心身ともに消耗していた。
「そうであってもらわなくては困るよ」
「このあとのことだけれど」
アルトが仲間を見回した。
「どうする? 仲間が居れば戦闘中に助けにくるだろうから、きっといないとは思うが……。同種が他にも居ないか山狩りするか? そのぐらいはアフターサービスの範疇だろ」
「そうだな」
頷いて、コーネリアは歪虚を冷たい目で見下ろした。
「絶景だな。捕食対象の人間ごときに狩られるとはとんだ皮肉だ。屈辱に塗れて消え失せろ」
冷たい憤怒を言葉にやどし、コーネリアは告げた。その脳裏に浮かぶのは戦死した妹の面影だ。これで少しは妹の無念も晴れたかもしれない。しかし――。
まだだ。まだ足りない。もっと歪虚を狩らなければ。
「早く報せてやらなければ」
友を助けた者に。友に助けられた者に。兵庫はいった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/04 01:39:18 |
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相談卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/05/04 23:24:09 |