ゲスト
(ka0000)
おおきに屋、イルドの依頼
マスター:水貴透子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/21 07:30
- 完成日
- 2014/09/29 20:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
すべては、ここから始まった。
あの時の光景を忘れた事なんてあらへん。
あの血に塗れた夜から、どれだけの日が過ぎたんやろ。
馬鹿みたいにふるまっても、俺の記憶からは消えてくれへん。
あの夜、逃げ出した場所――……。
数年の月日を越えて、今日、戻ろう。
※※※
配送業を営む『おおきに屋』の社長兼従業員、イルド・ザック。
彼は今まで、多くのハンター達に迷惑をかけてきた。
けど、そんな彼が真面目な表情で、ハンターズソサエティを訪れた。
「おおきに屋のイルド・ザック言うもんや」
「……今回は、ハンターに依頼をしたくて、ここまでやってきたんやけど」
いつもの冗談めかした口調ではなく、表情も口調も、真剣そのもの。
もしかしたら、またリヤカーでも奪われたのか、と案内人は心の中で呟いたけれど……。
「今回、運び出したい荷物があるんや。せやけど、そこには雑魔がおると思うからさ」
「残念やけど、俺1人じゃどうしようもないねん、しゃーから、ハンターについてきてもらいたいねん」
イルドは呟きながら、机の上にお金の入った袋をドサッと置いた。
「ハンター全員に払う報酬や、正直、少な目やけど、今の俺にはこれが精一杯や」
「……それでも、仕事を受けたるってハンターがおったら紹介してほしいんやけど」
いつになく真剣な表情のイルドに「行先は?」と案内人が問いかける。
すると、イルドは古ぼけた地図を取り出して、案内人に見せた。
「名前もない元・集落。俺の故郷や」
あの時の光景を忘れた事なんてあらへん。
あの血に塗れた夜から、どれだけの日が過ぎたんやろ。
馬鹿みたいにふるまっても、俺の記憶からは消えてくれへん。
あの夜、逃げ出した場所――……。
数年の月日を越えて、今日、戻ろう。
※※※
配送業を営む『おおきに屋』の社長兼従業員、イルド・ザック。
彼は今まで、多くのハンター達に迷惑をかけてきた。
けど、そんな彼が真面目な表情で、ハンターズソサエティを訪れた。
「おおきに屋のイルド・ザック言うもんや」
「……今回は、ハンターに依頼をしたくて、ここまでやってきたんやけど」
いつもの冗談めかした口調ではなく、表情も口調も、真剣そのもの。
もしかしたら、またリヤカーでも奪われたのか、と案内人は心の中で呟いたけれど……。
「今回、運び出したい荷物があるんや。せやけど、そこには雑魔がおると思うからさ」
「残念やけど、俺1人じゃどうしようもないねん、しゃーから、ハンターについてきてもらいたいねん」
イルドは呟きながら、机の上にお金の入った袋をドサッと置いた。
「ハンター全員に払う報酬や、正直、少な目やけど、今の俺にはこれが精一杯や」
「……それでも、仕事を受けたるってハンターがおったら紹介してほしいんやけど」
いつになく真剣な表情のイルドに「行先は?」と案内人が問いかける。
すると、イルドは古ぼけた地図を取り出して、案内人に見せた。
「名前もない元・集落。俺の故郷や」
リプレイ本文
●イルドの依頼を受けた者達
(イルドさんも、あんな表情を見せる事があるんですね)
メリエ・フリョーシカ(ka1991)は黙ったまま歩くイルドの横顔を見ながら心の中で呟く。
彼女は茶化した態度のイルドしか見た事がないため、少し意外に思っているようだった。
(何かただ事ではなさそうな雰囲気ですけど、頑張りましょう)
立花 沙希(ka0168)も、イルドが纏う空気に話しかける事が出来ず、心の中で今回の依頼に対しての意気込みを見せていた。
「故郷に残した荷物、ですか……」
リーリア・バックフィード(ka0873)が呟いた時「……ほんまに、ええん?」とイルドが力なく、リーリアに問い掛けた。
「アンタだけやのうて、他の人にも言いたい。金は十分に払えへんのに、夜やから危険は多い……もし、今からでも嫌やって言うんなら、帰るのは止めへんよ」
「報酬など些細な事です。あなたの想いが伝わってくるからこそ、私は喜んで受けたんです」
リーリアが答える。
他のハンター達も異議がある者はおらず、低報酬で依頼を受ける旨を伝えた。
「……おおきに」
「何で夜なんだ? 視界が確保しやすい昼の方がいいだろうに……そんなに急ぎなのか?」
ザレム・アズール(ka0878)が問い掛ける。
「それは僕も気になっていました……荷物を探すにしても、積むにしても、余計に時間が掛かるでしょうし、周辺警護をする方にしても、視界が狭まって……危険が増えるだけなのに」
天央 観智(ka0896)もザレム同様の疑問を抱えていたらしく、首を傾げながら呟く。
「俺の故郷が滅んだのは、数年前の……今日なんや、あの日も今みたいに気色悪い月が出てた……せやから、あの日と同じ状況で、みんなを迎えに行きたいんや」
イルドの言葉にザレムと天央は黙り込む。
運び出す物は分からないが、イルドはそれなりの覚悟を持っているのだと分かったから。
「どんな事でも楓にお任せですの! イルドさんと言いましたか、何を運びたいのです?」
八劒 颯(ka1804)はかくりと首を傾げながら呟き「それと故郷とはどんな場所ですの? 地図があるなら見せて欲しいですの」と次々に質問を投げかける。
「運び出す物は、罪の証や。それに故郷と言っても、雑魔が現れては移動を繰り返すから、場所自体に思い出はないんやけどな、地図はここにある。これが……最後の場所やった」
イルドはくしゃくしゃになった地図をハンター達に見せる。
その地図は涙の跡があり、イルドがどんな気持ちでこの地図を持ち続けていたかを伺わせる雰囲気があった。
「イルドさん、運び出したい物って大きい物なのかな?」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)が何気なく問いかけると「……1つ1つは大きくない、せやけど量はぎょうさんある」となぞなぞのような言葉を返した。
「大きくないけど量はたくさん? よく分からないな、俺には故郷を追われる辛さという物は分からんが、せめて、出来る限りの協力はするさ」
原村睦月(ka2538)が呟き、ハンター達は見え始めたイルドの故郷跡地に奇妙な緊張感を持っていた――……。
●イルドの故郷、彼が抱える罪
ハンター達はイルドからの依頼を成功させるべく、4つの班に分かれていた。
A班:ルーエル&原村
B班:リーリア&八劒
C班:天央&メリエ
D班:立花&ザレム
しかし、D班はイルドの護衛という任務であり、集落の中を歩き回る他の班と違って、イルドから離れない、というのが与えられた役割だった。
「イルドさん、無事に目的を果たして帰れたら思い出の荷物が何なのか聞かせて下さいね」
立花はにっこりと微笑みながら呟き、それぞれの班は動き始めた。
「見取り図を作成してもらったが、これではあまり役に立ちそうにないな……」
原村はイルドの作成した見取り図を見ながら、苦笑気味に呟く。
イルドの中では在りし日の集落の姿しか残っていないらしく、見取り図と現実の集落では、多少――……いや、かなりの違いが出てきてしまっている。
「僕達は灯りを大っぴらに使って散策、でしたね」
灯りを持ちながらルーエルが呟く。
A班とC班は灯りを持って散策、B班は隠密で散策、そして最後尾に護衛のD班、という陣形で夜の集落跡地を歩く事になっていた。
「正直に言えば、どこから何が出てきてもおかしくない状況ですね……」
リーリアは足元を見ながら小さな声で呟く。
集落のテントは破れ、風雨にさらされ続け、不気味な雰囲気を醸し出している。
万が一にも生き残りなんていそうにない状況に、彼女は少し心を痛めていた。
(もしかしたら、誰か生き残っていて奇跡の再会――……などあれば良かったんですが。さすがにそこまで甘い時代ではないようですね)
「雑魔がいるとしても、夜目の効く相手でなければいいのですが……」
八劒がため息混じりに呟く。土地勘もなく、この荒れ果てた場所での戦闘、それに相手に夜目が効くという能力があれば、ハンター達の不利は絶対的な物になる。
それが強い相手ならば、ハンター達の命、イルドの命にも関わってくるのだから。
「こちらC班。今の所異常なし」
メリエは『魔導短伝話』で他の班に現在の状況を逐一報告している。
情報を共有する事で、少しでも不利な状態を軽減させようとしているらしい。
「……いえ、何やら物音が聞こえます、これは……足音?」
天央が呟き、ハンター達に緊張が走る。
「おいおい、何か走って来るぞ……」
ざ、ざ、と地面を蹴る音を響かせながらこちらに向かってくる3体の何かを見つけて、ザレムが呟く。
「イルドさん、下がって……! あれは、雑魔です……!」
D班である立花とザレム、そしてイルドは立花が用意していた暗い場所でも目立たない色の外套を被っている、そのせいか雑魔はそれぞれ向かって行き、ハンター達は戦闘態勢を取ったのだった――……。
※A班
「くっ、まさかそれぞれに向かってくるとは思わなかったな……! しかし、鳴神抜刀流、原村睦月、参る――ッ!」
原村は『日本刀』を構え、向かってくる雑魔に『飛燕』と『スラッシュエッジ』を使用して攻撃を仕掛けた。
「応援要請をしたい所だけど、さすがに今はそんな事を言っていられる状況じゃないね」
ルーエルは他の班の状況を見て、自分達と同じように雑魔に襲われているのを知り、苦笑気味に呟く。
3班それぞれが1体の雑魔、しかも原村の様子を見る限りそれなりの強さを持つ雑魔である事が伺え、それを2人で相手にしなければならない。
(簡単な仕事と思っていたわけじゃないけど、予想以上にキツい物になりそうかも)
ルーエルは心の中で呟いた後『ホーリーライト』で雑魔に攻撃を仕掛ける。
そして、ルーエルの攻撃で足が止まった雑魔に、再び原村が斬りかかった。
「原村さん、傷を回復します」
雑魔は後衛のルーエルも狙って攻撃を仕掛けてくるが、前衛で戦う原村の方が圧倒的に受ける傷は大きい。
その傷の深さを感じ取り、ルーエルは『ヒール』で原村の傷を癒した。
「……僕達に向かって来た事を、後悔させてあげる」
※B班
「やれやれ、思い出の地に土足で踏み込んだ罪は重いですよ」
C班に向かおうとしている雑魔に奇襲攻撃を仕掛け、リーリアが呟く。
どうやら雑魔は灯りを持っている班の方に気を取られていたらしく、リーリアの攻撃は、まったくの無防備状態で受けてしまった。
「ここは雑魔が跋扈する地ではありません」
淡々とした口調だけど、その声色からは僅かに怒りの色がにじみ出ている。
「ここで戦闘をすると、イルドさんのいる方に行ってしまう可能性がありますので、少しだけ場所を移動させてもらいましょう」
八劒は呟くと『デリンジャー』で雑魔を撃ち続ける。
その射撃に雑魔は一歩、また一歩と下がって行き、射撃が止んだ途端、リーリアが『フラメア』で雑魔の身体を突き刺す。
「……姿形は私達と同じでも、その中身は全くの異形……これくらいでは無理ですか」
リーリアは『フラメア』を引き抜き『ランアウト』を使用しながら、再び攻撃を仕掛ける。
「今回の雑魔退治はあくまで手段、つつがなく終わらせましょう」
八劒は『機導砲』を雑魔に向けて放ち、リーリアは力を込めた攻撃で雑魔の頭を狙った。
※C班&D班
「前に出ます! 用心は頼みますね!」
メリエは雑魔に向かって駆け出し『斬馬刀』で強力な一撃を繰り出す。
そして、天央は『ウインドガスト』をメリエに使用し、そのすぐ後に『マジックアロー』で攻撃を行う。
だが、C班が相手にしている雑魔はA班とB班よりも素早さが高いらしく、攻撃は当たるものの、致命傷になるダメージを与えられずにいる。
(他の班の戦闘は終わっていない、まだ応援が来るにも時間が掛かる……けど、このままではじり貧で、標的をイルドさん達に向ける可能性も――……)
メリエが心の中で焦りの言葉を漏らす。
「私を見ろ! よそ見してると、掻っ捌くぞ!」
メリエが大きな声を出した時、天央が再び『マジックアロー』で攻撃を仕掛ける。
その時、僅かに雑魔が見せた隙を突いてメリエも攻撃を行うが、雑魔は突然標的をD班に向けてしまい、イルドに向かって駆けだす。
「しまっ――……! そちらに雑魔が向かいます! 気をつけて!」
「くっ、間に合わない……!」
メリエと天央が叫び、D班のザレムと立花はその身を持ってイルドを庇う。
「……くっ、う……!」
「あ、あんたら大丈夫か……?」
「だ、大丈夫です……私達の仕事は、あなたを守る事ですから」
痛いはずなのに、立花はイルドを心配させないようににっこりと微笑みながら答える。
「守る事に専念するのも大事だが、こちらに気づいた以上、俺達も戦うしかない、か……」
ザレムはため息交じりに呟き『防御障壁』をイルドにかける。
そして『エレクトリックショック』を使用して、雑魔は雷撃を浴びて麻痺してしまう。
「今です……!」
立花は『メイスファイティング』、天央は『マジックアロー』、メリエは『渾身撃』を使用して、それぞれ雑魔に攻撃を仕掛けたのだった――……。
●イルドの探し物
集落跡地に潜んでいた雑魔3体を倒したハンター達は、漸く本来の目的に戻る事になった。
「危険な場所だと予想出来ていたはずだが、そこまでして運び出したい物とは何なんだ?」
原村が疑問に思っていた事を問い掛ける。
恐らく原村だけではなく、この場にいるハンター達全員が思っている事だろう。
「確かに荷物と呼べるような物はほとんど風化している、とてもじゃないが持ち帰れる物はほとんどないんじゃないか?」
ザレムが周りを見ながら呟く。
集落跡地にあるテントは破れ、中の荷物もボロボロで持ち帰る前に崩れてしまう物ばかり。
「……俺の探し物は、そこら中に落ちとるよ」
イルドが指差した『モノ』を見て、ハンター達は言葉を失う。
涙を零しながらイルドが拾い上げたもの、それは人骨だった。
(……そういえば、この集落跡地には到る所に骨が……恐らく、雑魔に襲われて、そのまま誰も残らず、この集落の存在すら知られず、ここで遺体は朽ち果てた、という事でしょうか)
からん、からん、と音を響かせながらイルドは1つずつ大事そうに取り、リヤカーに人骨を乗せていく。
恐らくどの骨が誰の物なのか、既に分かるすべはないだろう。
「全財産はたいて、土地を買うたんや、みんなを弔えるだけの土地」
イルドが思い出すようにポツリ、またポツリと呟く。
「……お手伝い、します」
メリエは複雑な表情を見せながら、イルドの隣にしゃがみこんで1つ1つ丁寧に拾う。
「あの日、偶然集落を出てたおかげで、俺だけが助かった。誰も言葉を返す者がいない中、俺はただ怖いという思いに駆られてここから逃げ出したんや」
「……イルドさん、辛い過去ならば無理に話さなくてもいいんですよ」
イルドの表情があまりにもつらそうで、立花が言葉を投げかける。
「ええんや、こないな危険な仕事を受けてくれた皆には言わなあかんて。俺だけが生き残って、まだ10歳やった弟も死んでしもたんや」
(弟さんがいたんですか、数年前って言っていたし、僕と同い年くらいなのかな)
痛々しく話すイルドを見ながらルーエルが心の中で呟く。
(なるほど、あの日の再現……イルドさんはここで待つ人達を助けに来たんですか、それならばあの無茶な依頼……納得出来るような気がします)
天央も心の中で呟き、集落跡地に残る遺骨を拾い始める。
(まさか、遺骨を運び出したいなんて予想もしなかったよ……もしかしたら、楓達の戦闘で壊してしまった遺骨もあるかもしれない……)
そう思うと、八劒は酷い罪悪感に苛まれた。
もちろんハンター達のせいではない、遺骨の事を最初に言ったら戦闘になった場合、支障が出ると思って、イルド自身も言わなかったのだから。
(ハンター頼りなだけじゃなかったんだな、ちゃんと自分の意志を持ってここに来た……)
トラウマとも呼べるべき場所に再び足を踏み入れる、それだけでも称賛に値する――とザレムは心の中で言葉を付け足す。
結局、それからハンター達とイルドは口数も少ないまま、集落跡地に残る遺骨を回収する。すべての遺骨を回収し終える頃には、朝日が昇り始めるころだった。
「この朝日が、イルドの進むこれからを照らしてくれるものになるといいな」
原村はリヤカーを引くのを手伝いながら、イルドに言葉を投げかけた。
それから数日後。
イルドからの感謝状と、1枚のヘタクソな字で書かれた紙が同封されていた。
『今回はおおきに! 俺もちょおしんみりなってしもたんやけど、これから明るくいくで! あ、同封してあるんは『おおきに屋』の割引券や! 何かの際にはよろしゅう!』
割引券、と書きながらも『1割引き』しかしてくれないイルドに、ハンター達は呆れるばかりだった……。
END
(イルドさんも、あんな表情を見せる事があるんですね)
メリエ・フリョーシカ(ka1991)は黙ったまま歩くイルドの横顔を見ながら心の中で呟く。
彼女は茶化した態度のイルドしか見た事がないため、少し意外に思っているようだった。
(何かただ事ではなさそうな雰囲気ですけど、頑張りましょう)
立花 沙希(ka0168)も、イルドが纏う空気に話しかける事が出来ず、心の中で今回の依頼に対しての意気込みを見せていた。
「故郷に残した荷物、ですか……」
リーリア・バックフィード(ka0873)が呟いた時「……ほんまに、ええん?」とイルドが力なく、リーリアに問い掛けた。
「アンタだけやのうて、他の人にも言いたい。金は十分に払えへんのに、夜やから危険は多い……もし、今からでも嫌やって言うんなら、帰るのは止めへんよ」
「報酬など些細な事です。あなたの想いが伝わってくるからこそ、私は喜んで受けたんです」
リーリアが答える。
他のハンター達も異議がある者はおらず、低報酬で依頼を受ける旨を伝えた。
「……おおきに」
「何で夜なんだ? 視界が確保しやすい昼の方がいいだろうに……そんなに急ぎなのか?」
ザレム・アズール(ka0878)が問い掛ける。
「それは僕も気になっていました……荷物を探すにしても、積むにしても、余計に時間が掛かるでしょうし、周辺警護をする方にしても、視界が狭まって……危険が増えるだけなのに」
天央 観智(ka0896)もザレム同様の疑問を抱えていたらしく、首を傾げながら呟く。
「俺の故郷が滅んだのは、数年前の……今日なんや、あの日も今みたいに気色悪い月が出てた……せやから、あの日と同じ状況で、みんなを迎えに行きたいんや」
イルドの言葉にザレムと天央は黙り込む。
運び出す物は分からないが、イルドはそれなりの覚悟を持っているのだと分かったから。
「どんな事でも楓にお任せですの! イルドさんと言いましたか、何を運びたいのです?」
八劒 颯(ka1804)はかくりと首を傾げながら呟き「それと故郷とはどんな場所ですの? 地図があるなら見せて欲しいですの」と次々に質問を投げかける。
「運び出す物は、罪の証や。それに故郷と言っても、雑魔が現れては移動を繰り返すから、場所自体に思い出はないんやけどな、地図はここにある。これが……最後の場所やった」
イルドはくしゃくしゃになった地図をハンター達に見せる。
その地図は涙の跡があり、イルドがどんな気持ちでこの地図を持ち続けていたかを伺わせる雰囲気があった。
「イルドさん、運び出したい物って大きい物なのかな?」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)が何気なく問いかけると「……1つ1つは大きくない、せやけど量はぎょうさんある」となぞなぞのような言葉を返した。
「大きくないけど量はたくさん? よく分からないな、俺には故郷を追われる辛さという物は分からんが、せめて、出来る限りの協力はするさ」
原村睦月(ka2538)が呟き、ハンター達は見え始めたイルドの故郷跡地に奇妙な緊張感を持っていた――……。
●イルドの故郷、彼が抱える罪
ハンター達はイルドからの依頼を成功させるべく、4つの班に分かれていた。
A班:ルーエル&原村
B班:リーリア&八劒
C班:天央&メリエ
D班:立花&ザレム
しかし、D班はイルドの護衛という任務であり、集落の中を歩き回る他の班と違って、イルドから離れない、というのが与えられた役割だった。
「イルドさん、無事に目的を果たして帰れたら思い出の荷物が何なのか聞かせて下さいね」
立花はにっこりと微笑みながら呟き、それぞれの班は動き始めた。
「見取り図を作成してもらったが、これではあまり役に立ちそうにないな……」
原村はイルドの作成した見取り図を見ながら、苦笑気味に呟く。
イルドの中では在りし日の集落の姿しか残っていないらしく、見取り図と現実の集落では、多少――……いや、かなりの違いが出てきてしまっている。
「僕達は灯りを大っぴらに使って散策、でしたね」
灯りを持ちながらルーエルが呟く。
A班とC班は灯りを持って散策、B班は隠密で散策、そして最後尾に護衛のD班、という陣形で夜の集落跡地を歩く事になっていた。
「正直に言えば、どこから何が出てきてもおかしくない状況ですね……」
リーリアは足元を見ながら小さな声で呟く。
集落のテントは破れ、風雨にさらされ続け、不気味な雰囲気を醸し出している。
万が一にも生き残りなんていそうにない状況に、彼女は少し心を痛めていた。
(もしかしたら、誰か生き残っていて奇跡の再会――……などあれば良かったんですが。さすがにそこまで甘い時代ではないようですね)
「雑魔がいるとしても、夜目の効く相手でなければいいのですが……」
八劒がため息混じりに呟く。土地勘もなく、この荒れ果てた場所での戦闘、それに相手に夜目が効くという能力があれば、ハンター達の不利は絶対的な物になる。
それが強い相手ならば、ハンター達の命、イルドの命にも関わってくるのだから。
「こちらC班。今の所異常なし」
メリエは『魔導短伝話』で他の班に現在の状況を逐一報告している。
情報を共有する事で、少しでも不利な状態を軽減させようとしているらしい。
「……いえ、何やら物音が聞こえます、これは……足音?」
天央が呟き、ハンター達に緊張が走る。
「おいおい、何か走って来るぞ……」
ざ、ざ、と地面を蹴る音を響かせながらこちらに向かってくる3体の何かを見つけて、ザレムが呟く。
「イルドさん、下がって……! あれは、雑魔です……!」
D班である立花とザレム、そしてイルドは立花が用意していた暗い場所でも目立たない色の外套を被っている、そのせいか雑魔はそれぞれ向かって行き、ハンター達は戦闘態勢を取ったのだった――……。
※A班
「くっ、まさかそれぞれに向かってくるとは思わなかったな……! しかし、鳴神抜刀流、原村睦月、参る――ッ!」
原村は『日本刀』を構え、向かってくる雑魔に『飛燕』と『スラッシュエッジ』を使用して攻撃を仕掛けた。
「応援要請をしたい所だけど、さすがに今はそんな事を言っていられる状況じゃないね」
ルーエルは他の班の状況を見て、自分達と同じように雑魔に襲われているのを知り、苦笑気味に呟く。
3班それぞれが1体の雑魔、しかも原村の様子を見る限りそれなりの強さを持つ雑魔である事が伺え、それを2人で相手にしなければならない。
(簡単な仕事と思っていたわけじゃないけど、予想以上にキツい物になりそうかも)
ルーエルは心の中で呟いた後『ホーリーライト』で雑魔に攻撃を仕掛ける。
そして、ルーエルの攻撃で足が止まった雑魔に、再び原村が斬りかかった。
「原村さん、傷を回復します」
雑魔は後衛のルーエルも狙って攻撃を仕掛けてくるが、前衛で戦う原村の方が圧倒的に受ける傷は大きい。
その傷の深さを感じ取り、ルーエルは『ヒール』で原村の傷を癒した。
「……僕達に向かって来た事を、後悔させてあげる」
※B班
「やれやれ、思い出の地に土足で踏み込んだ罪は重いですよ」
C班に向かおうとしている雑魔に奇襲攻撃を仕掛け、リーリアが呟く。
どうやら雑魔は灯りを持っている班の方に気を取られていたらしく、リーリアの攻撃は、まったくの無防備状態で受けてしまった。
「ここは雑魔が跋扈する地ではありません」
淡々とした口調だけど、その声色からは僅かに怒りの色がにじみ出ている。
「ここで戦闘をすると、イルドさんのいる方に行ってしまう可能性がありますので、少しだけ場所を移動させてもらいましょう」
八劒は呟くと『デリンジャー』で雑魔を撃ち続ける。
その射撃に雑魔は一歩、また一歩と下がって行き、射撃が止んだ途端、リーリアが『フラメア』で雑魔の身体を突き刺す。
「……姿形は私達と同じでも、その中身は全くの異形……これくらいでは無理ですか」
リーリアは『フラメア』を引き抜き『ランアウト』を使用しながら、再び攻撃を仕掛ける。
「今回の雑魔退治はあくまで手段、つつがなく終わらせましょう」
八劒は『機導砲』を雑魔に向けて放ち、リーリアは力を込めた攻撃で雑魔の頭を狙った。
※C班&D班
「前に出ます! 用心は頼みますね!」
メリエは雑魔に向かって駆け出し『斬馬刀』で強力な一撃を繰り出す。
そして、天央は『ウインドガスト』をメリエに使用し、そのすぐ後に『マジックアロー』で攻撃を行う。
だが、C班が相手にしている雑魔はA班とB班よりも素早さが高いらしく、攻撃は当たるものの、致命傷になるダメージを与えられずにいる。
(他の班の戦闘は終わっていない、まだ応援が来るにも時間が掛かる……けど、このままではじり貧で、標的をイルドさん達に向ける可能性も――……)
メリエが心の中で焦りの言葉を漏らす。
「私を見ろ! よそ見してると、掻っ捌くぞ!」
メリエが大きな声を出した時、天央が再び『マジックアロー』で攻撃を仕掛ける。
その時、僅かに雑魔が見せた隙を突いてメリエも攻撃を行うが、雑魔は突然標的をD班に向けてしまい、イルドに向かって駆けだす。
「しまっ――……! そちらに雑魔が向かいます! 気をつけて!」
「くっ、間に合わない……!」
メリエと天央が叫び、D班のザレムと立花はその身を持ってイルドを庇う。
「……くっ、う……!」
「あ、あんたら大丈夫か……?」
「だ、大丈夫です……私達の仕事は、あなたを守る事ですから」
痛いはずなのに、立花はイルドを心配させないようににっこりと微笑みながら答える。
「守る事に専念するのも大事だが、こちらに気づいた以上、俺達も戦うしかない、か……」
ザレムはため息交じりに呟き『防御障壁』をイルドにかける。
そして『エレクトリックショック』を使用して、雑魔は雷撃を浴びて麻痺してしまう。
「今です……!」
立花は『メイスファイティング』、天央は『マジックアロー』、メリエは『渾身撃』を使用して、それぞれ雑魔に攻撃を仕掛けたのだった――……。
●イルドの探し物
集落跡地に潜んでいた雑魔3体を倒したハンター達は、漸く本来の目的に戻る事になった。
「危険な場所だと予想出来ていたはずだが、そこまでして運び出したい物とは何なんだ?」
原村が疑問に思っていた事を問い掛ける。
恐らく原村だけではなく、この場にいるハンター達全員が思っている事だろう。
「確かに荷物と呼べるような物はほとんど風化している、とてもじゃないが持ち帰れる物はほとんどないんじゃないか?」
ザレムが周りを見ながら呟く。
集落跡地にあるテントは破れ、中の荷物もボロボロで持ち帰る前に崩れてしまう物ばかり。
「……俺の探し物は、そこら中に落ちとるよ」
イルドが指差した『モノ』を見て、ハンター達は言葉を失う。
涙を零しながらイルドが拾い上げたもの、それは人骨だった。
(……そういえば、この集落跡地には到る所に骨が……恐らく、雑魔に襲われて、そのまま誰も残らず、この集落の存在すら知られず、ここで遺体は朽ち果てた、という事でしょうか)
からん、からん、と音を響かせながらイルドは1つずつ大事そうに取り、リヤカーに人骨を乗せていく。
恐らくどの骨が誰の物なのか、既に分かるすべはないだろう。
「全財産はたいて、土地を買うたんや、みんなを弔えるだけの土地」
イルドが思い出すようにポツリ、またポツリと呟く。
「……お手伝い、します」
メリエは複雑な表情を見せながら、イルドの隣にしゃがみこんで1つ1つ丁寧に拾う。
「あの日、偶然集落を出てたおかげで、俺だけが助かった。誰も言葉を返す者がいない中、俺はただ怖いという思いに駆られてここから逃げ出したんや」
「……イルドさん、辛い過去ならば無理に話さなくてもいいんですよ」
イルドの表情があまりにもつらそうで、立花が言葉を投げかける。
「ええんや、こないな危険な仕事を受けてくれた皆には言わなあかんて。俺だけが生き残って、まだ10歳やった弟も死んでしもたんや」
(弟さんがいたんですか、数年前って言っていたし、僕と同い年くらいなのかな)
痛々しく話すイルドを見ながらルーエルが心の中で呟く。
(なるほど、あの日の再現……イルドさんはここで待つ人達を助けに来たんですか、それならばあの無茶な依頼……納得出来るような気がします)
天央も心の中で呟き、集落跡地に残る遺骨を拾い始める。
(まさか、遺骨を運び出したいなんて予想もしなかったよ……もしかしたら、楓達の戦闘で壊してしまった遺骨もあるかもしれない……)
そう思うと、八劒は酷い罪悪感に苛まれた。
もちろんハンター達のせいではない、遺骨の事を最初に言ったら戦闘になった場合、支障が出ると思って、イルド自身も言わなかったのだから。
(ハンター頼りなだけじゃなかったんだな、ちゃんと自分の意志を持ってここに来た……)
トラウマとも呼べるべき場所に再び足を踏み入れる、それだけでも称賛に値する――とザレムは心の中で言葉を付け足す。
結局、それからハンター達とイルドは口数も少ないまま、集落跡地に残る遺骨を回収する。すべての遺骨を回収し終える頃には、朝日が昇り始めるころだった。
「この朝日が、イルドの進むこれからを照らしてくれるものになるといいな」
原村はリヤカーを引くのを手伝いながら、イルドに言葉を投げかけた。
それから数日後。
イルドからの感謝状と、1枚のヘタクソな字で書かれた紙が同封されていた。
『今回はおおきに! 俺もちょおしんみりなってしもたんやけど、これから明るくいくで! あ、同封してあるんは『おおきに屋』の割引券や! 何かの際にはよろしゅう!』
割引券、と書きながらも『1割引き』しかしてくれないイルドに、ハンター達は呆れるばかりだった……。
END
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/16 22:11:01 |
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相談卓 リーリア・バックフィード(ka0873) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/09/20 23:53:24 |