ゲスト
(ka0000)
これが僕の考えた最強の乙女
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/05/15 22:00
- 完成日
- 2016/05/21 19:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
連休の間カチャ・タホは、エルフハイムへ旅行に行っていた。
買い込んできたおみやげ『森のささやき』というナッツクッキーを配りつつ彼女は、ハンター仲間に、こんな土産話をする。
すごくきれいでしたよ、エルフハイム。今がちょうど花盛りの時期でしたから。
木がね、どれもすごく大きいんです。500年、いやいや千年は余裕で越しているんじゃないかと思えるものばかりで。
自然が豊かなおかげでしょうね、珍しい生き物もたくさんいました。
でも、あそこに住んでいるエルフさんたち、今ちょっと困っているらしいです。
ユニコーンて知ってます?
そう、あの一本角の幻獣。紋章によく描かれてる奴ですよ。
あれがね、増え過ぎちゃってるらしいんです。
いえ、繁殖したんじゃないんですよ。ユニコーンはものすごく繁殖率が低くて、一生の間に1匹2匹くらいしか子供を作らないらしいですから。
そうじゃなくて、よそから流れ込んでくるんです。
猟師に狙われるからここで保護してくれないかって頼みに来る人が、最近多いらしくて。
エルフさんたちは、ユニコーンを受け入れること自体は別に構わないんだそうですが、やっぱり限度があるそうで。
ユニコーンてね、ある一定の広さの縄張りがないと、頻繁に衝突するんです。オス同士の間で。
いったんケンカが始まると、死ぬまで戦い続けることも珍しくないらしくて。だから、安全だからといって一カ所に集めると、かえって個体数が減る可能性があるんだそうで。
原因? 十中八九『乙女』です。
ユニコーンという生き物は、『乙女』に執着する傾向がありますから、それを巡って争いが勃発するんだそうで。
別に乙女が何をしたというわけじゃなくて、勝手に仲間同士が取り合いを始めるってだけの話なんですけどね。
でね、エルフさんたちは今対策を考えているところなんです。
なるべくユニコーン同士がかちあわないよう障壁を作っておくとか、これ以上のユニコーンの受け入れを制限するとか、森にユニコーンが持ち込まれる原因になっているユニコーン狩りについて、各方面に規制を呼びかけるとか。
で、ですね……そのアイディアの内の一つにですね、 美少女人形を作ったらどうかっていうのがあって……それなりに人間ぽく動けるような。
それをユニコーン1匹1匹にあてがうようにしたら取り合いによる騒ぎも起きないはず。人形なら永遠に乙女のままだからいつまでも萌えられるに違いないとのことだそうです。
……ちなみにこの案を考えたのはエルフの人たちじゃなくて、エルフハイム自治区に出入りしている錬金術協会関係者です。
リアルブルー出身で、向こうの世界では『びしょうじょふぃぎゅあし』とかいう職業についておられたそうです。ギルド内では『神の手を持つ男』と呼ばれていたとかなんとか。
名前? 『ぺころん』だそうですよ。いえ、本当にそう名乗られたんです。冗談じゃなしに。
とにかくそういうワケでですね、そのぺころんさん、モデルを募集してるんだそうです、今。
容姿に自信のある女性に是非来て欲しいとか――あ、男性でもいいらしいですよ。資料として必要なのは首から上だそうですから。
いえ、モデルそっくりの人形を作るっていうわけじゃないみたいです。全員の顔を描き出し、いいとこどりして、『美少女』という概念にそった理想の顔を作り上げるんだとかなんとか。
……誰かこの依頼受けたい方、いらっしゃいます?
少なくとも私は受けたくないです。ええ、もう全然受けたくないです。
リプレイ本文
「美少女フィギュアでしたか。前に読んだリアルブルーの本に美少女フィギュアの絵とか載っていましたが」
と呟いた後エルバッハ・リオン(ka2434)は、眉根を寄せた。
「その美少女フィギュアでユニコーンたちが満足するかは疑問に思いますね」
Honor=Unschuld(ka6274)は、依頼書の報酬欄に目を奪われ続け。
「ふんふん、報酬結構お高めだねー」
彼女の脳裏に浮かぶのは、姉と慕う月影 葵(ka6275)の姿。
(お姉ちゃん、確か今朝、でゅなみす? は高いですねって難しい顔してたよね、ショプのチラシ見ながら……とくれば、この情報は是非教えてあげなくちゃ)
思い立つと同時に即、行動。葵を呼びに行くため場を離れる。
松瀬 柚子(ka4625)は、他者に先駆け宣言した。
「決めました。私、この依頼を受けます!」
こんな怪しげな依頼引き受ける人間などいまい。そう信じていたカチャは、目をむいた。
「えええっ!? ほ、本気なんですか!?」
「依頼書を見た瞬間……確信しました……これは! 私が! 呼ばれている!! この超絶美少女女子高生ハンター松瀬さんの出番だ、と!!」
セレス・フュラー(ka6276)もまた、依頼受諾の意志を示す。
成長期を迎え容姿への自信を得たところなのだ。『いい女』という自己認識が客観的事実であるのだと確かめられる機会を、見過ごす気にはなれない。
「ふふ、せーっかく立派にいい女に成長したんだからさ。モデルなんて言われたらそりゃあ……ねえ?」
続けて最上 風(ka0891)が手を挙げる。
「風も受けますよ、この依頼」
「皆さん、剛毅ですねえ……」
ため息交じりに首を振るカチャ。セレスは、からかい交じりの言葉をかける。
「ついでだから、カチャ君も受けたら?」
「い、いいえ、私は遠慮します。依頼人さんの独特すぎる雰囲気がちょっと」
柚子は、ずっと思案している様子の仁川 リア(ka3483)に話しかけた。
「一緒にやりませんか。男女問わずって書いてありますし」
「……爺ちゃんが生きてた頃、『パンツ見られたくなかったらユニコーンには触るな。特に角とか持つな』って言われてたしなあ……」
「……あのー、お婆さまではなくてお爺さまが言われたのですか?」
「うん。僕の爺ちゃん若い時は、よく女装してたんだ。その縁でユニコーンに接触することがあったそうなんだけど……男だと分かった瞬間キレられて、あやうく殺されそうになったんだって」
「ほほう……ユニコーン的に男の娘はNG物件なのでしょうか」
「みたい。とにかくそういう恐ろしい獣らしいから、僕としては直接拘わりあいになりたくないんだけど……ねえカチャ、この依頼、ユニコーンと接触するってことは、ないんだよね?」
「ええ、と、そうですねー、ないと思いますよ。単にモデルをするだけですし」
ますますフィギュア作戦の実効性が乏しく思えてきたなあ、と人事のように思うリオン。ぼそぼそ一人ごちる。
「まあ、今回、受けた依頼はそのフィギュアのモデルですから、作戦の成功率について私がどうこう言う筋合いもないですかね。失敗したらしたで、次の手を考えればいいだけですし」
そこに葵を連れたHonorが、スキップしながら戻ってきた。
「お姉ちゃん、これだよ、この依頼」
「どれどれ……アナ、私は『美少女』に当てはまらないと思うのですけど」
「大丈夫だよ、お姉ちゃんとってもきれいだもの、十分いけるよ! ねえねえ、一緒にやろう、一緒にー」
自発的にやりたいという気持ちはあんまりないのだが、妹分から袖をぐいぐい引っ張られせがまれてはしょうがない。葵もまたこの依頼を引き受ける。
「まあ、たまにはこういう依頼もいいでしょう」
「やったー」
うれしげに跳ね回るHonor。その姿に葵は、目を細める。
「この依頼内容なら、アナは大人しくしているより、普段通りの姿を見せた方が良いでしょうね」
「はーい!」
カチャは葵にもおみやげを渡しつつ、言った。
「まあ依頼を受けるのは自由ですけれど、くれぐれもお気をつけてくださいね。なんだか得体が知れない感じでしたから、ぺころんさんていう人」
「――カチャ・タホ。そのぺころんという名前、私は聞いた覚えがありますね。確か……良いフィギュアの作り手として有名だったと記憶しています。本名はたな……あいえ。ここから先は言うべきではありませんね。失礼しました」
「えっ、な、なんでそこまで知っているんですか?」
「ふふ、何故でしょう?」
リアルブルー出身者には謎めいた人が多い。カチャは、そう思った。
●
煉瓦造りの建物が並ぶ、古びた静かな小路の一角。そこに、『ぺころん工房』なる表札がかかった、依頼者のアトリエがある。
柚子は手鏡を覗きセルフチェック。ちょっとお高い化粧水を使いお肌の調子を整え、ナチュラルメイクを施した己の姿に、会心の笑みを零す。
「完ッ璧……360度どこから見ても完璧な美少女……モデルに相応しい美しさです……」
彼女と対照的にすっぴんのセレスは、呼び鈴を鳴らす。
「すいませーん、ハンターオフィスからやってきたものですがー」
バタバタした足音に続いて、がちゃりと開く扉。
出てきたのは額にバンダナを巻きアニメ絵Tシャツ(多分自作だろう)をジーパンにインした太めの眼鏡中年男だった。
風は感心した。相手が微塵も予想を裏切らないビジュアルであることに。
「やあやあ皆さんお待ちしていましたー。僕がぺころんです、どうぞどうぞお入りください。ぐふふ」
この男大丈夫だろうか。部屋の内部に見るに耐えないようなものが飾ってなければいいのだがと、ひそかに危ぶむ葵。
しかしその懸念は杞憂であった。
アトリエ内部は一言で言って、ごく普通の画家とあまり変わらないものであった。塑像作成用の作業台があるのと、フィギュアが並んだ棚のある点が異なりはするが……。
「わー、女の子のお人形いっぱいだー! あっ、ちっちゃいCAMがたくさんあるー! えっ、これもしかしてサルバトーレ・ロッソ!? すごーい!」
「アナ、勝手に触ってはいけません。棚に戻しなさい」
フィギュアに興味津々なHonorを制した葵は、ぺころんに釘を刺す。
「大丈夫だとは思いますがアナや皆さんに無理強いはなさらぬよう――」
ぺころんは汗をふきふき、メガネをくいっと押し上げた。
「ぐふふ。ノープロブレムだよ。僕は究極の美少女像を求めてるんだ。生身の女体はその崇高なるイデーを実体化させるための素材に過ぎないのさ、ぐふ」
なんだかよく分からないが信念を感じる言葉だ。
というわけで葵は、相手への認識を改めた。
「これは失礼いたしました」
「いやいやいいよ、気にしないで。ぐふふ」
そこでリオンが、確認を取る。
「顔だけでいいと聞いたのですが、何なら体の参考として脱ぎますけど。服の下にはビキニアーマーを装備していますし」
リアもそこのところはちょっと気掛かりだったので、聞いておく。
「やっぱモデルだしポーズ取った方がいい? パンツといえば見せパンとか流行ってるらしいけど、そういうの見せるポーズとかかな?」
「あ、それはしなくてもいいよ。実のところね、もう大体体の方は、出来上がってるんだ。後必要なのは、本当に顔だけなの、ぐふふ」
と言いつつぺころんは、部屋の片隅に置いてあった白布を、ふぁさっと取り除く。
セレスは思わず息を呑んだ。そこにある首のない少女の裸体が、本物としか見えなかったからだ。
その反応にぺころんは鼻高々。
「渾身の1/1スケールさ、ぐふふ」
風は感嘆の声を上げる。
「なるほど、確かに神の手ですね」
●
モデルという仕事には何よりも忍耐力が必要なのだと、風は思い知っていた。椅子に腰掛けじっとしていると半端ない眠気に誘われる。
それを覚ますために、ぺころんへどしどし質問を浴びせかける。
「――所で、フィギュア制作と言うのは、儲かるのですか? この世界で需要とかあるんですかね?」
「ん? なになに、フィギュア道に興味ある?」
「安心して下さい、フィギュアには一切興味はありません、あるのはそこから発生する、お金の流れです」
「あ、そう。そうだなあ、人やものによってピンキリだねえ。モノによるけど原価、つまり僕に入る手取りは1体15万G~80万Gってとこ。もっともこれは、量産品のひな型を作る場合ね。特注品の場合は、100万G越えるときもある。その分時間も手間もかかるけどね。ぐふふ」
あれこれ頭の中で計算しつつ彼女は、最も気になるところ、核心に迫る。
「この世界にもニーズはあるんですか?」
ぺころんは描く手を止めずに答える。
「あるよ。ただし、リアルブルーと全く同じ意味でのニーズじゃないけどね。依頼の半分は、小型彫像のモデリング。なにしろクリムゾンウェストには、アニメがないからねえ……漫画については最近随分発展してきたととはいえ、本格的なオタクカルチャーが定着するレベルには至ってないなあ――はい、終了。次のかたどうぞ。ぐふふ」
二番手にモデルとなったリオンは、美少女フィギュアの作り方について聞いてみた。特に興味があるわけでもないが、ただ座っているのも退屈なので。
「デッサンを元にして設計デザインを作成するところから始めるね。それをベースに原型制作。ポーズを決めて粗く体を作って、その後削って細かな微調整をしていくんだ。服を着せて、色を塗って、仕上げに表面を磨いて……」
「どのくらい時間がかかるものなんです?」
「なんやかやで二週間はかかるね。それも最も簡単なものの場合に限るよ。クオリティを上げようと思えばもっと時間がいるんだ。一カ月、二カ月……納期が迫ってるときは徹夜もざらさ。ぐふ」
出番を待っているリアは、かねてよりの懸念を口にする。
「ユニコーンてさ、流石に人形のパンツとか見たりしないよね? 仮にも僕の顔も一部使われるんだから、なんか複雑なんだよねー」
「さあ、どうかなあ。僕は直にユニコーンを見たことがないからわかんないけど……プロならそういうディテールにもこだわるもんだよねー。ぐふ」
ぺころんの返答にリアは、美少女フィギュアの一つを手に引っ繰り返してみた。
なるほど、ちゃんとパンツが履かせてある。しかも脱がせられる。
なんて芸が細かいんだと感心しいじり回していると、冷たい視線を感じた。振り向いてみれば葵が汚らわしいものを見るような顔をしている。
「……何をしていらっしゃるんです?」
「えっ、あ、いや、これは別に、怪しいことでは……」
わたわたフィギュアを棚に戻したリア、流れを変えようとぺころんに話しかける。しかし動揺のあまりその台詞は、なお怪しまれそうな内容となってしまった。
「パンツといえばぺころんはどんなパンツ好きなの? ふぃぎゅあ作ってるって事はそういうのにも拘りあるのかなぁって。パンツにも色々種類あるもんね」
「んー、そうだな、色々あるけどぼかぁレースものがいいね、白で清純黒で小悪魔、幅広い属性を演出可能なまさに美少女マストアイテムさあ! ぐふふ!」
下着類に並々ならぬ拘りがあるようだが、正直そこはセレスにとってどうでもいい。
この際だから自分も質問してみる。
「ねぇ、ぺ……ぺろ……じゃなかった、ぺころんさん。あたしがよりいい女になるためにはどうしたらいいと思う?」
「いい女って、具体的にはどんな女を想定しているの? ぐふふ」
「え……っと、そうだですね、いわゆるモテる女? ってことでしょうか」
「んー、それならどういう層にモテたいかで対応は全然変わってくるよねえ。外面重視の相手なら、今のままで十分寄ってくると思うけど、どうなのかな、そこは。ぐふ」
セレスは腕組みをして考え込んだ。
そういえば、どんな相手にモテたいかなんて、これまで突き詰めてみたことがなかったかも知れない。いくらモテると言ったって、好みじゃない相手ばかり集まってくるのだったら、うれしくもなんともないし。
「……ちょっと後で検討してみます」
柚子は棚のCAMフィギュアに酔拳のポーズをつけさせつつ、尋ねる。
「あ、ぺころんさん。そういえば一つ気になってたんですけれど、美少女人形って皆同じ顔になるんですか?」
「いいや、違うよ。ぐふ。そこは差別化しておかないとね。ぐふ」
「あ、そうですか。よかった。もし同じ乙女を別のユニコーンに与えたら、相当危険なんじゃないかと思ってたんですよね――ところで、私のつけてるような超絶スタイリッシュな眼帯を差別化アイテムの一つにする可能性とか、ないですかね?」
「うーん、そうだねえ……考えてみるよ。ぐふ。はい、次のかた――Honorちゃん?」
部屋の隅でダックスフンドとインコを相手に遊んでいたHonorは、2匹を膝に乗せ椅子に腰掛けた。
「ね、この子たちも一緒にいーい? この依頼なら普段どおりしているほうがいいいんじゃないかって、お姉ちゃんも言ったし!」
「んー、ま、いいかな。じゃあ始めるからね」
何のかんので、滞りなく依頼は終了した。
柚子は皆に、持ち込んできた菓子と水、炭酸飲料を振る舞った。
葵もまた台所を借り、ミントソーダを作って出す。
風は先程聞いた100万Gという文字が頭から離れない。この際だからと、ぺころんとのコネ作りにつとめる。
「今度は、風のフィギュアとか作りませんか? モデル料とか、著作権とかお安くしますよ? 風のフィギュアを作りたくなったら、呼んで下さいよー?。不労取得の為に、全力で参上しますよー」
リオンは、こっそり思い描く。美少女フィギュアを愛でるユニコーンたちの姿を。
「しかし、今回の美少女フィギュア作戦がうまくいったらいったで、ユニコーンに対する見方などが変わってしまいそうですね」
●
後日。モデルとなったメンバーたちに、フィギュア初号機が完成したとの一報がもたらされた。
首尾を確かめるため一同、再度アトリエを訪れる。
「やあ皆さんお久しぶりー。見て、これが究極の乙女プロトタイプだよ。これをベースにして二号、三号と作って行くつもりさ。ぐふ」
ぺころんが自慢げに見せてくれたのは、ガラスの柩の中で花に埋もれ、心地良さそうに目を閉じる美少女。各人のいいところを寄せ集めただけあって、完全無欠。花から生まれた妖精、もしくは地上に舞い降りた天使のごとき愛らしさ。
「色々考えたんだけど、なまじ動き回るとボロが出そうだからね。眠れる美少女スタイルにしたよ。ぐふ」
エルフハイムで試運転するときにはまた知らせるから、とぺころんは言った。
それを聞いたHonorは、今からわくわく。
「とりあえずお姉ちゃんと一緒に見に行って良いなら行く! ユニコーンともお友達になれないかなぁ」
止めておいた方がいいのではとリオンは思ったが、あえて――そう、あえて口にはしなかった……。
と呟いた後エルバッハ・リオン(ka2434)は、眉根を寄せた。
「その美少女フィギュアでユニコーンたちが満足するかは疑問に思いますね」
Honor=Unschuld(ka6274)は、依頼書の報酬欄に目を奪われ続け。
「ふんふん、報酬結構お高めだねー」
彼女の脳裏に浮かぶのは、姉と慕う月影 葵(ka6275)の姿。
(お姉ちゃん、確か今朝、でゅなみす? は高いですねって難しい顔してたよね、ショプのチラシ見ながら……とくれば、この情報は是非教えてあげなくちゃ)
思い立つと同時に即、行動。葵を呼びに行くため場を離れる。
松瀬 柚子(ka4625)は、他者に先駆け宣言した。
「決めました。私、この依頼を受けます!」
こんな怪しげな依頼引き受ける人間などいまい。そう信じていたカチャは、目をむいた。
「えええっ!? ほ、本気なんですか!?」
「依頼書を見た瞬間……確信しました……これは! 私が! 呼ばれている!! この超絶美少女女子高生ハンター松瀬さんの出番だ、と!!」
セレス・フュラー(ka6276)もまた、依頼受諾の意志を示す。
成長期を迎え容姿への自信を得たところなのだ。『いい女』という自己認識が客観的事実であるのだと確かめられる機会を、見過ごす気にはなれない。
「ふふ、せーっかく立派にいい女に成長したんだからさ。モデルなんて言われたらそりゃあ……ねえ?」
続けて最上 風(ka0891)が手を挙げる。
「風も受けますよ、この依頼」
「皆さん、剛毅ですねえ……」
ため息交じりに首を振るカチャ。セレスは、からかい交じりの言葉をかける。
「ついでだから、カチャ君も受けたら?」
「い、いいえ、私は遠慮します。依頼人さんの独特すぎる雰囲気がちょっと」
柚子は、ずっと思案している様子の仁川 リア(ka3483)に話しかけた。
「一緒にやりませんか。男女問わずって書いてありますし」
「……爺ちゃんが生きてた頃、『パンツ見られたくなかったらユニコーンには触るな。特に角とか持つな』って言われてたしなあ……」
「……あのー、お婆さまではなくてお爺さまが言われたのですか?」
「うん。僕の爺ちゃん若い時は、よく女装してたんだ。その縁でユニコーンに接触することがあったそうなんだけど……男だと分かった瞬間キレられて、あやうく殺されそうになったんだって」
「ほほう……ユニコーン的に男の娘はNG物件なのでしょうか」
「みたい。とにかくそういう恐ろしい獣らしいから、僕としては直接拘わりあいになりたくないんだけど……ねえカチャ、この依頼、ユニコーンと接触するってことは、ないんだよね?」
「ええ、と、そうですねー、ないと思いますよ。単にモデルをするだけですし」
ますますフィギュア作戦の実効性が乏しく思えてきたなあ、と人事のように思うリオン。ぼそぼそ一人ごちる。
「まあ、今回、受けた依頼はそのフィギュアのモデルですから、作戦の成功率について私がどうこう言う筋合いもないですかね。失敗したらしたで、次の手を考えればいいだけですし」
そこに葵を連れたHonorが、スキップしながら戻ってきた。
「お姉ちゃん、これだよ、この依頼」
「どれどれ……アナ、私は『美少女』に当てはまらないと思うのですけど」
「大丈夫だよ、お姉ちゃんとってもきれいだもの、十分いけるよ! ねえねえ、一緒にやろう、一緒にー」
自発的にやりたいという気持ちはあんまりないのだが、妹分から袖をぐいぐい引っ張られせがまれてはしょうがない。葵もまたこの依頼を引き受ける。
「まあ、たまにはこういう依頼もいいでしょう」
「やったー」
うれしげに跳ね回るHonor。その姿に葵は、目を細める。
「この依頼内容なら、アナは大人しくしているより、普段通りの姿を見せた方が良いでしょうね」
「はーい!」
カチャは葵にもおみやげを渡しつつ、言った。
「まあ依頼を受けるのは自由ですけれど、くれぐれもお気をつけてくださいね。なんだか得体が知れない感じでしたから、ぺころんさんていう人」
「――カチャ・タホ。そのぺころんという名前、私は聞いた覚えがありますね。確か……良いフィギュアの作り手として有名だったと記憶しています。本名はたな……あいえ。ここから先は言うべきではありませんね。失礼しました」
「えっ、な、なんでそこまで知っているんですか?」
「ふふ、何故でしょう?」
リアルブルー出身者には謎めいた人が多い。カチャは、そう思った。
●
煉瓦造りの建物が並ぶ、古びた静かな小路の一角。そこに、『ぺころん工房』なる表札がかかった、依頼者のアトリエがある。
柚子は手鏡を覗きセルフチェック。ちょっとお高い化粧水を使いお肌の調子を整え、ナチュラルメイクを施した己の姿に、会心の笑みを零す。
「完ッ璧……360度どこから見ても完璧な美少女……モデルに相応しい美しさです……」
彼女と対照的にすっぴんのセレスは、呼び鈴を鳴らす。
「すいませーん、ハンターオフィスからやってきたものですがー」
バタバタした足音に続いて、がちゃりと開く扉。
出てきたのは額にバンダナを巻きアニメ絵Tシャツ(多分自作だろう)をジーパンにインした太めの眼鏡中年男だった。
風は感心した。相手が微塵も予想を裏切らないビジュアルであることに。
「やあやあ皆さんお待ちしていましたー。僕がぺころんです、どうぞどうぞお入りください。ぐふふ」
この男大丈夫だろうか。部屋の内部に見るに耐えないようなものが飾ってなければいいのだがと、ひそかに危ぶむ葵。
しかしその懸念は杞憂であった。
アトリエ内部は一言で言って、ごく普通の画家とあまり変わらないものであった。塑像作成用の作業台があるのと、フィギュアが並んだ棚のある点が異なりはするが……。
「わー、女の子のお人形いっぱいだー! あっ、ちっちゃいCAMがたくさんあるー! えっ、これもしかしてサルバトーレ・ロッソ!? すごーい!」
「アナ、勝手に触ってはいけません。棚に戻しなさい」
フィギュアに興味津々なHonorを制した葵は、ぺころんに釘を刺す。
「大丈夫だとは思いますがアナや皆さんに無理強いはなさらぬよう――」
ぺころんは汗をふきふき、メガネをくいっと押し上げた。
「ぐふふ。ノープロブレムだよ。僕は究極の美少女像を求めてるんだ。生身の女体はその崇高なるイデーを実体化させるための素材に過ぎないのさ、ぐふ」
なんだかよく分からないが信念を感じる言葉だ。
というわけで葵は、相手への認識を改めた。
「これは失礼いたしました」
「いやいやいいよ、気にしないで。ぐふふ」
そこでリオンが、確認を取る。
「顔だけでいいと聞いたのですが、何なら体の参考として脱ぎますけど。服の下にはビキニアーマーを装備していますし」
リアもそこのところはちょっと気掛かりだったので、聞いておく。
「やっぱモデルだしポーズ取った方がいい? パンツといえば見せパンとか流行ってるらしいけど、そういうの見せるポーズとかかな?」
「あ、それはしなくてもいいよ。実のところね、もう大体体の方は、出来上がってるんだ。後必要なのは、本当に顔だけなの、ぐふふ」
と言いつつぺころんは、部屋の片隅に置いてあった白布を、ふぁさっと取り除く。
セレスは思わず息を呑んだ。そこにある首のない少女の裸体が、本物としか見えなかったからだ。
その反応にぺころんは鼻高々。
「渾身の1/1スケールさ、ぐふふ」
風は感嘆の声を上げる。
「なるほど、確かに神の手ですね」
●
モデルという仕事には何よりも忍耐力が必要なのだと、風は思い知っていた。椅子に腰掛けじっとしていると半端ない眠気に誘われる。
それを覚ますために、ぺころんへどしどし質問を浴びせかける。
「――所で、フィギュア制作と言うのは、儲かるのですか? この世界で需要とかあるんですかね?」
「ん? なになに、フィギュア道に興味ある?」
「安心して下さい、フィギュアには一切興味はありません、あるのはそこから発生する、お金の流れです」
「あ、そう。そうだなあ、人やものによってピンキリだねえ。モノによるけど原価、つまり僕に入る手取りは1体15万G~80万Gってとこ。もっともこれは、量産品のひな型を作る場合ね。特注品の場合は、100万G越えるときもある。その分時間も手間もかかるけどね。ぐふふ」
あれこれ頭の中で計算しつつ彼女は、最も気になるところ、核心に迫る。
「この世界にもニーズはあるんですか?」
ぺころんは描く手を止めずに答える。
「あるよ。ただし、リアルブルーと全く同じ意味でのニーズじゃないけどね。依頼の半分は、小型彫像のモデリング。なにしろクリムゾンウェストには、アニメがないからねえ……漫画については最近随分発展してきたととはいえ、本格的なオタクカルチャーが定着するレベルには至ってないなあ――はい、終了。次のかたどうぞ。ぐふふ」
二番手にモデルとなったリオンは、美少女フィギュアの作り方について聞いてみた。特に興味があるわけでもないが、ただ座っているのも退屈なので。
「デッサンを元にして設計デザインを作成するところから始めるね。それをベースに原型制作。ポーズを決めて粗く体を作って、その後削って細かな微調整をしていくんだ。服を着せて、色を塗って、仕上げに表面を磨いて……」
「どのくらい時間がかかるものなんです?」
「なんやかやで二週間はかかるね。それも最も簡単なものの場合に限るよ。クオリティを上げようと思えばもっと時間がいるんだ。一カ月、二カ月……納期が迫ってるときは徹夜もざらさ。ぐふ」
出番を待っているリアは、かねてよりの懸念を口にする。
「ユニコーンてさ、流石に人形のパンツとか見たりしないよね? 仮にも僕の顔も一部使われるんだから、なんか複雑なんだよねー」
「さあ、どうかなあ。僕は直にユニコーンを見たことがないからわかんないけど……プロならそういうディテールにもこだわるもんだよねー。ぐふ」
ぺころんの返答にリアは、美少女フィギュアの一つを手に引っ繰り返してみた。
なるほど、ちゃんとパンツが履かせてある。しかも脱がせられる。
なんて芸が細かいんだと感心しいじり回していると、冷たい視線を感じた。振り向いてみれば葵が汚らわしいものを見るような顔をしている。
「……何をしていらっしゃるんです?」
「えっ、あ、いや、これは別に、怪しいことでは……」
わたわたフィギュアを棚に戻したリア、流れを変えようとぺころんに話しかける。しかし動揺のあまりその台詞は、なお怪しまれそうな内容となってしまった。
「パンツといえばぺころんはどんなパンツ好きなの? ふぃぎゅあ作ってるって事はそういうのにも拘りあるのかなぁって。パンツにも色々種類あるもんね」
「んー、そうだな、色々あるけどぼかぁレースものがいいね、白で清純黒で小悪魔、幅広い属性を演出可能なまさに美少女マストアイテムさあ! ぐふふ!」
下着類に並々ならぬ拘りがあるようだが、正直そこはセレスにとってどうでもいい。
この際だから自分も質問してみる。
「ねぇ、ぺ……ぺろ……じゃなかった、ぺころんさん。あたしがよりいい女になるためにはどうしたらいいと思う?」
「いい女って、具体的にはどんな女を想定しているの? ぐふふ」
「え……っと、そうだですね、いわゆるモテる女? ってことでしょうか」
「んー、それならどういう層にモテたいかで対応は全然変わってくるよねえ。外面重視の相手なら、今のままで十分寄ってくると思うけど、どうなのかな、そこは。ぐふ」
セレスは腕組みをして考え込んだ。
そういえば、どんな相手にモテたいかなんて、これまで突き詰めてみたことがなかったかも知れない。いくらモテると言ったって、好みじゃない相手ばかり集まってくるのだったら、うれしくもなんともないし。
「……ちょっと後で検討してみます」
柚子は棚のCAMフィギュアに酔拳のポーズをつけさせつつ、尋ねる。
「あ、ぺころんさん。そういえば一つ気になってたんですけれど、美少女人形って皆同じ顔になるんですか?」
「いいや、違うよ。ぐふ。そこは差別化しておかないとね。ぐふ」
「あ、そうですか。よかった。もし同じ乙女を別のユニコーンに与えたら、相当危険なんじゃないかと思ってたんですよね――ところで、私のつけてるような超絶スタイリッシュな眼帯を差別化アイテムの一つにする可能性とか、ないですかね?」
「うーん、そうだねえ……考えてみるよ。ぐふ。はい、次のかた――Honorちゃん?」
部屋の隅でダックスフンドとインコを相手に遊んでいたHonorは、2匹を膝に乗せ椅子に腰掛けた。
「ね、この子たちも一緒にいーい? この依頼なら普段どおりしているほうがいいいんじゃないかって、お姉ちゃんも言ったし!」
「んー、ま、いいかな。じゃあ始めるからね」
何のかんので、滞りなく依頼は終了した。
柚子は皆に、持ち込んできた菓子と水、炭酸飲料を振る舞った。
葵もまた台所を借り、ミントソーダを作って出す。
風は先程聞いた100万Gという文字が頭から離れない。この際だからと、ぺころんとのコネ作りにつとめる。
「今度は、風のフィギュアとか作りませんか? モデル料とか、著作権とかお安くしますよ? 風のフィギュアを作りたくなったら、呼んで下さいよー?。不労取得の為に、全力で参上しますよー」
リオンは、こっそり思い描く。美少女フィギュアを愛でるユニコーンたちの姿を。
「しかし、今回の美少女フィギュア作戦がうまくいったらいったで、ユニコーンに対する見方などが変わってしまいそうですね」
●
後日。モデルとなったメンバーたちに、フィギュア初号機が完成したとの一報がもたらされた。
首尾を確かめるため一同、再度アトリエを訪れる。
「やあ皆さんお久しぶりー。見て、これが究極の乙女プロトタイプだよ。これをベースにして二号、三号と作って行くつもりさ。ぐふ」
ぺころんが自慢げに見せてくれたのは、ガラスの柩の中で花に埋もれ、心地良さそうに目を閉じる美少女。各人のいいところを寄せ集めただけあって、完全無欠。花から生まれた妖精、もしくは地上に舞い降りた天使のごとき愛らしさ。
「色々考えたんだけど、なまじ動き回るとボロが出そうだからね。眠れる美少女スタイルにしたよ。ぐふ」
エルフハイムで試運転するときにはまた知らせるから、とぺころんは言った。
それを聞いたHonorは、今からわくわく。
「とりあえずお姉ちゃんと一緒に見に行って良いなら行く! ユニコーンともお友達になれないかなぁ」
止めておいた方がいいのではとリオンは思ったが、あえて――そう、あえて口にはしなかった……。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/15 09:25:03 |
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打ち合わせとか 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/05/15 09:27:58 |