ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】酒は飲んでも飲まれるな!?
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/05/28 12:00
- 完成日
- 2016/06/14 05:09
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●祭の光景
農耕推進地域ジェオルジでは年に二回、郷祭という行事が行われる。
元々は領主の主催する村長祭に各村の村長が集まり、村の間の揉め事を調整したり、自由都市同盟に提案するためジェオルジ全体の方針を話し合ったりする会議がメインなのだが。
その機会にそれぞれが特産品をアピールしたり、買いつけの商人が来たり、見物客が来たり、飲めや歌えの賑やかな宴が開かれたりと、大いに賑わうのである。
そんな郷祭も大詰めとなったある夜のこと。
ジェオルジ現領主の姉であり、一族唯一のハンターであるルイーザ・ジェオルジは、死んだ魚のような目をしてフラフラと通りを歩いていた。
「あ~……やっと解放されたわ……」
ジェオルジ全体を巻き込んだ郷祭の期間中、領主である弟のセストと、実質的な権力者である母のバーバラは、連日会議だお茶会だ宴だと走り回っている。父のルーベンは(領主の仕事を息子に放り投げたぐらいの人なので)この期間、何処かへ姿をくらましていた。
そしてルイーザはといえば、母に見つかったが最後、やはり来客の対応などに駆り出されるわけだ。
尚、セスト曰く「そんなドレスを着て、見つからないと思っている姉上のほうが僕には不思議です」とのこと。
そう、ルイーザはキレイな服が好きだった。
それもジェオルジでは最先端すぎる、ヴァリオス最新流行のドレスなどが。
今日も似合ってはいるのだが、祭の最中でもはっきり言って浮いている、金と緑の大きなリボンがついたヘッドドレスを被り、半径1m以内に人が近づけないぐらいに膨らんだスカートのドレスを纏っている。
だが義務を果たし、ようやく自由を手に入れたルイーザの心は軽かった。
「うん。せめて今日一晩ぐらい、楽しく過ごさなくちゃね!」
気を取り直し、賑やかな声の漏れてくる一軒の店に入っていく。
中はかなり混雑していた。
「あら。ごめんなさい、相席でもいいですか?」
店のおかみさんがルイーザを見て、申し訳なさそうに尋ねた。
「大丈夫よ! できたら楽しそうな人の席がいいけどね」
にっこり笑って見せるルイーザは、暫くしてやはり女性がひとりで座っている席に案内された。
女はルイーザより少し年上だろう。酒場でも妙にしゃんと背筋を伸ばしているあたり、軍関係かもしれない。
「ごめんなさい、ご一緒させてね?」
「どうぞ。一人じゃ広すぎると思ってたんです……あら?」
どうやら女はルイーザを見て、何者かを察したらしい。ルイーザは右手の人差し指を唇にあて、片目を閉じる。
女はクスッと笑う。
「私はメリンダ。よろしくね」
「ルイーザでいいわ。今日は楽しみましょうね!」
運ばれてきたワインのグラスを合わせ、ふたりは笑いあう。
●女ふたり
それから少し時間が経った頃。
「そうよね~~~~~! ジェオルジがいくら田舎だって、イマドキ二十歳越えたら婿探しとか、ありえないわよね~~~~~~!!!」
ルイーザが拳でテーブルを叩く。
「久しぶりに故郷に帰った娘に、それしか言うことないのかって話よね! いくら男の多い職場だからって、相性ってものがあるんだから~~~~~! 羊や馬だって、気に入らないオスは蹴りとばすっての!!」
メリンダがジョッキを乱暴にテーブルに置く。
近寄りたくない、いや、近寄ったら怖いようなオーラが、ふたりを包んでいたのだった……。
農耕推進地域ジェオルジでは年に二回、郷祭という行事が行われる。
元々は領主の主催する村長祭に各村の村長が集まり、村の間の揉め事を調整したり、自由都市同盟に提案するためジェオルジ全体の方針を話し合ったりする会議がメインなのだが。
その機会にそれぞれが特産品をアピールしたり、買いつけの商人が来たり、見物客が来たり、飲めや歌えの賑やかな宴が開かれたりと、大いに賑わうのである。
そんな郷祭も大詰めとなったある夜のこと。
ジェオルジ現領主の姉であり、一族唯一のハンターであるルイーザ・ジェオルジは、死んだ魚のような目をしてフラフラと通りを歩いていた。
「あ~……やっと解放されたわ……」
ジェオルジ全体を巻き込んだ郷祭の期間中、領主である弟のセストと、実質的な権力者である母のバーバラは、連日会議だお茶会だ宴だと走り回っている。父のルーベンは(領主の仕事を息子に放り投げたぐらいの人なので)この期間、何処かへ姿をくらましていた。
そしてルイーザはといえば、母に見つかったが最後、やはり来客の対応などに駆り出されるわけだ。
尚、セスト曰く「そんなドレスを着て、見つからないと思っている姉上のほうが僕には不思議です」とのこと。
そう、ルイーザはキレイな服が好きだった。
それもジェオルジでは最先端すぎる、ヴァリオス最新流行のドレスなどが。
今日も似合ってはいるのだが、祭の最中でもはっきり言って浮いている、金と緑の大きなリボンがついたヘッドドレスを被り、半径1m以内に人が近づけないぐらいに膨らんだスカートのドレスを纏っている。
だが義務を果たし、ようやく自由を手に入れたルイーザの心は軽かった。
「うん。せめて今日一晩ぐらい、楽しく過ごさなくちゃね!」
気を取り直し、賑やかな声の漏れてくる一軒の店に入っていく。
中はかなり混雑していた。
「あら。ごめんなさい、相席でもいいですか?」
店のおかみさんがルイーザを見て、申し訳なさそうに尋ねた。
「大丈夫よ! できたら楽しそうな人の席がいいけどね」
にっこり笑って見せるルイーザは、暫くしてやはり女性がひとりで座っている席に案内された。
女はルイーザより少し年上だろう。酒場でも妙にしゃんと背筋を伸ばしているあたり、軍関係かもしれない。
「ごめんなさい、ご一緒させてね?」
「どうぞ。一人じゃ広すぎると思ってたんです……あら?」
どうやら女はルイーザを見て、何者かを察したらしい。ルイーザは右手の人差し指を唇にあて、片目を閉じる。
女はクスッと笑う。
「私はメリンダ。よろしくね」
「ルイーザでいいわ。今日は楽しみましょうね!」
運ばれてきたワインのグラスを合わせ、ふたりは笑いあう。
●女ふたり
それから少し時間が経った頃。
「そうよね~~~~~! ジェオルジがいくら田舎だって、イマドキ二十歳越えたら婿探しとか、ありえないわよね~~~~~~!!!」
ルイーザが拳でテーブルを叩く。
「久しぶりに故郷に帰った娘に、それしか言うことないのかって話よね! いくら男の多い職場だからって、相性ってものがあるんだから~~~~~! 羊や馬だって、気に入らないオスは蹴りとばすっての!!」
メリンダがジョッキを乱暴にテーブルに置く。
近寄りたくない、いや、近寄ったら怖いようなオーラが、ふたりを包んでいたのだった……。
リプレイ本文
●
酒場は大いに賑わっていた。
黒蜜(ka5411)は桐壺(ka4164)の着物の袖に掴まり、興味深そうに辺りを見回す。
「おぉ……これが酒場か……! あちらには年寄り、こちらには若い連中。男に女、色んなヒトがいっぱいで、ざわざわ賑やかであるな……!」
桐壺は美しく化粧した白い頬に艶やかな笑みを浮かべ、黒蜜をそっと中へと促す。
「面白いかえ?」
黒蜜はこくこくと忙しく頷く。まだ飲酒はできないが、漏れ聞こえてくる楽しそうな様子が以前から気になっていた。
今回、顔見知りの桐壺が立ち寄るというので、頼んでみたのだ。
「かいらしい子ぉとお出かけなんて、嬉しいでありんす♪」
二つ返事で引き受け、桐壺は一軒の店に立ち寄ったというわけだ。
桐壺は席に腰を落ち着け、黒蜜にメニューを渡す。
「ええんよ。ゆうるりと選んで、お好きぃなもんを注文しやんせ? 私ぃはお酒を楽しむでありんす」
「桐壺、我輩は、果実のジュースを一杯頼む! なのだ!」
「あいな」
桐壺は給仕に米酒とつまみをいくつか持ってくるように頼んだ。
それからうんうん唸っている黒蜜の肩越しに、ふと見知った顔を見つける。
「あら。お一人でありんすか?」
入口の鵤(ka3319)に、ひらひらと手を振る。
「おっと、こいつは奇遇だねぇ」
よれた白衣をひっかけた姿で、ニヤリと笑って大げさに目の上で手をかざす。
「いやあ、混んでてどうしようかと思ったよ。ご相伴に預からせてもらうとするかねぇ」
鵤は勝手に椅子を引いて座りこんだ。
ごそごそと煙草を探し、口に咥えたところで、ぱっと火が点る。桐壺のリトルファイアだ。
「こりゃどうも?」
「お高くつきますえ?」
「そりゃ怖いねぇ」
運ばれてきた酒を互いに注ぎ、杯を口に運ぶ。
「ここのところ気に入りの、まめしの酒ですわいなぁ」
独特の香気と爽やかな口当たりの酒に、鵤は目を細めた。
「いいねぇ」
黒蜜がそうっと杯をとり、クンクンと匂いを嗅いで、首を傾げる。
「これがお米のお酒か。米や麦からお酒できるの不思議なのだ……最初に作り方を考えた者は偉大であるな!」
その背後に、ぬうっと立つ人影。
「酒の出会いは常の出会いとは趣を異とし、夜の出会いは昼の出会いと色を違える。一夜限りの細糸だとて、記憶に留めるに相応しきは杯に浮かんで消えゆく火影か」
ぶつぶつと呟くのは喬栄(ka4565)だ。
「芳しい香りの糸で釣られなんしたかえ?」
桐壺が流し眼をくれる。
「アラー桐壺チャンジャナイノ、奇遇ネー!」
「一夜限りのほうが幸せな縁もあるってことかねえ?」
鵤は笑いをこらえながら、席を作ってやる。
乾杯。
「あ~奢りのお酒が疲れた身体にしみわたるねぇ」
喬栄がうそぶいて、勝手に杯を重ねる。
もとより金を払う気などない。仮に気があっても金はない。
「ほんに偶然でありんすなぁ。今日も酒場に入り浸りでありんすか?」
「なんのなんの。やれ世間は祭りとなれば当然ハレの日、然しまあその気になり切れない人もいるもので。坊主の端くれとしては、そのような話に耳を傾け、心ばかりの浄財を受け取るのみ。……てなわけで、結構大変なお仕事を終えて来たんだよ~?」
尚、喬栄のこの話、その場の誰も途中から聞いていない。
●
シュウヤ・ツキオリ(ka0757)とシン・ユジン(ka0780)は差し向かいで座っている。
「俺なあ、帰れなくてもそれはそれって感じなんだよね。住めば都って言うじゃん? ここって結構いいとこだよね」
シュウヤはリアルブルーからの転移者だ。だが持ち前のポジティブ思考で、現在の境遇を受け入れたのだ。
「シュウヤはあれだな、生命力に溢れてるわ。いいことだぜェ、その調子だ」
ユジンはへこたれないシュウヤに、ある種の尊敬を覚える。自分ならどうだろう……?
だがその考えはすぐに追い払う。
「そうだ、リアルブルーと言やぁ、どんな月でも酒が飲めるぞという素晴らしい歌もあるそうじゃねぇの」
「あ? 酒はー飲め飲めー飲んだらーおかわりー! ってやつか?」
「……違うような気がするがなあ?」
「まあ細かいことは気にすんな! あ、ビールもう一杯お願いねー! ビールな、リアルブルーと変わらずこっちのも美味いねー」
ビールを煽り、アツアツの肉の串焼きを頬張るふたり。
「これがまた合うんだなあ!」
「肉な! 串焼きな!」
ユジンが嬉しそうに目を細める。
「うちの部族はめでたいことがあると牛や羊を1頭つぶして祝ったもんだぜ」
一晩中火を焚き、弦を鳴らして。皆で歌い踊り明かしたことを懐かしく思いだす。
「あー、これで漬物があったらなあ」
シュウヤの呟きに、ユジンが首を傾げた。
「ツケモノ?」
「……あ、漬物ってのはピクルスと似てんだけど、ちょっと違うのよ。酢じゃなくて、糠な。糠がわかんねえかー! ともかくジェオルジの野菜で作ったら美味いだろうなあ、あー漬物食いてえ漬物」
そう言ってはまたビールを煽る。
ユジンは笑いながら、追加を頼んだ。
「こちらも酒じゃ! とりあえず麦酒を頼めるか? 祭と言ったら酒であろう!!」
エルディラ(ka3982)が思い切り手を振り、存在を主張する。
「いいのかい?」
おかみさんが見た目の幼いエルディラに僅かに眉を寄せ、同席するピオス・シルワ(ka0987)を見た。
「えー、と……」
「ちなみに、我はドワーフじゃ。見た目はコレじゃがとうの昔に成人しておる。我が連れには、テキトーにジュースでも見繕ってくれい」
「ええと、うん、それでお願い」
見た目こそピオスのほうが上だが、実際の年齢はエルディラのほうが上らしい。
「僕やっぱり、場違いだったかなあ……」
一度酒場をみたいというのもあったが、恋人のエルディラが好む酒というモノにも興味がある。
祭のついでに連れて来てもらったが、やはり落ち着かない。
「気にするな。周りは誰も気にしておらんぞ」
エルディラの言う通り、皆自分の連れと騒ぐのに夢中だ。いや、下手をしたら、連れの姿すらわかっていないようなぐでんぐでんの奴もいる。
やがて運ばれてきたビールとジュースで乾杯。
「エルディ、それ何?」
「ビールじゃな。麦から作った泡の出る酒じゃ」
「じゃああれは?」
ピオスは隣の席を指さす。
「あれはワインじゃろうな。葡萄の酒じゃ」
「葡萄のジュースじゃないの!?」
指さされたのはエリス・ブーリャ(ka3419)のグラスであった。
当人は、全く気にしていないが。
「あー、やっぱりお祭りはお酒飲むのに限るわー!」
景気よく飲み干し、グラスを置く。かわいらしい見た目に反し、実に豪快な飲みっぷりだ。
「すいませーん、ウィスキーをロックで!」
ピオスは自分と年かっこうの変わらない少女を、感心したように眺めていた。
ふとその視線に気づいて、エリスが振り向いた。
「なあに? 未成年は飲んじゃダメだってー? 大丈夫ー、エルちゃんこう見えて67歳だしー!」
陽気に笑う天真爛漫な少女に、エルディラもグラスを掲げて見せる。
「良い飲みっぷりじゃな!」
「こういうときに飲むお酒っておいしいわよね! 昼間から飲んでても誰も怒らないし、やっぱり祭りってサイコーね」
「全くじゃな!」
そうして楽しく飲んでいる間に、ピオスは席を立って店の中を見回しながら歩いていく。
忙しく動き回る給仕たち、並んだ酒瓶、食べ物の匂い。全てがもの珍しく、あちこちを見て回りたくなるのだ。
「見た目以上に子供かあやつは……」
苦笑いしたエルディラだったが、突然立ち上がる。
「ピオス、前っ……!」
「え?」
「ちょっと、危ないよ!」
大量のジョッキを運んでいる給仕が、素早く身をかわす。
だがピオスのほうは足元が定まらず、そのままよろよろと他人のテーブルへ。
「あ、ごめんなさい! え? あ、あれ~っ?」
「きゃああっ!?」
エルディラが思わず額を押さえた。
「あやつは何をやっておるのじゃ……」
ピオスはつまづいて、他の客の席に突っ込んで行ったのだ。
それも女性客の席に。
「お、あのハデな衣装はジェオルジ家のルイーザさん?」
エリスの呟きに、エルディラが振り向く。
「知り合いか?」
「知り合いってわけじゃないけどねー」
エリスは笑いながら、ルイーザについて説明する。
「卿祭のお礼ってことで。労いを兼ねてルイーザさんと、その相方さんにお酒ついでこようかなってね」
「成程な。では我も連れを回収に行くとしようかのぅ」
ふたりは揃って席を移動する。
●
その少し前。
「イマドキ二十歳越えたら婿探しとか、ありえないわよね~!」
意気投合して騒ぐルイーザとメリンダの傍に、影のように近づく少年がひとり。
「まあまあ、あまりに荒ぶると余計惨めになりますよ」
シバ・ミラージュ(ka2094)はいきなりの爆弾発言。
「なあんですってえ?」
ルイーザがキッと睨みつけると、メリンダがまあまあと肩を押さえ、そっと耳打ち。
「この人に真面目に怒ったら疲れるだけよ」
シバは何をしでかすかわからず、いちいち反応してたら身がもたない。
……と、わかってはいるのだが。
「シバです。メリンダさんとはショタ的な関……あ、いや、なんでも」
少女と見まがうような白い頬をほんのり赤く染め、そっとメリンダの隣に座り、恥ずかしそうに袖をつまむ。
メリンダは無言のままグラスを持った手を額に当てた。
「へえ。そういういうこと。隅に置けないわねえ?」
ルイーザはからかうような口調で言った。
「メリンダさんのために頭頂部を剃ったり、女装して一緒にお祭を回ったり……冷たい海で励まし合ったり……僕にも色々ありました……」
シバはそう言ってどこか遠いところを見るような眼をする。
「……言っておきますけどね、どれもシバさんが自分から……!」
言いかけたメリンダに、シバは更に爆弾を投げつけた。懐にしまった遺書を、無意識のうちに押さえながら。
「そう言えばメリンダさんは、彼氏とかいるんですか?」
ぴしっ。
どこかでそんな音がした。
「さあ、どうかしら?」
メリンダは、気合でオフィシャルスマイルを維持した。
「もしもですよ。メリンダさんに言い寄る命知らず、じゃない、モノ好き、でもない、勇者? がいたとしてですね」
一言ごとにこめかみがひくひくするが、それでもまだ耐えた。
「守備範囲は上下何歳ぐらいまでですか? 参考までに、ですけれど」
「え?」
メリンダは暫く宙を睨み、うーんと唸る。
「そうですねえ、相手による、としか……」
その時だった。
体勢を崩したピオスが、ルイーザのドレスの膝に顔を突っ込んで来たのである。
「へぶ! あ、ごめ! ごめんね!」
「若いのにセクハラ!? ぶんなぐるわよ!!」
ルイーザは胸元に伸びてきた腕を掴み、ぐっと引き上げる。
「ち、ちがう! 誤解だって!! 僕にはエルディという、大事な人がいるんだから……!」
この上まだ惚気か!!
ルイーザの頬が引きつった。
かなり騒がしい店内でも、この騒動はさすがに目立つ。
鵤はそれをアテのようにして、酒を口に運ぶ。
「いやはや、騒がしい嬢ちゃん達だねぇ」
そこですっと立ち上がるのは桐壺。何処へ行くのかと視線で追えば、ピオスが狼藉を働いたと思ったのか、スリープクラウドでいきなり眠らせてしまった。
そのまま摘んで外へ放り出そうとする所へ、エルディラが追いつく。
「すまぬ、そいつは我の連れでな……」
ハッと目を覚ましたピオスが、涙目で訴える。
「事故だよ! わざとじゃないって!!」
「故意かそうでないかは問題ではない。もう少し落ち着けと言うておるじゃろ! まったく、保護者が必要な歳でも無かろうに……」
そう言ってピオスを小突き、頭を下げさせる。
「すまぬなご両人。お詫びに酒でも注ごうか」
「お詫びはいらないけど。良かったらご一緒にいかが? 大事な方もね」
くすっと笑いながら、ルイーザが自分の向かいを指差した。
「ああ、ほんにもう……いややわ、つい癖ぇで」
桐壺が早とちりを恥じらうように、頬に片手を当てて苦笑する。
「こちらこそ、面倒をかけてすまぬ。詫びに一杯どうじゃ?」
「あらあ、ほな遠慮なくぅ」
「くくっ、意外なところで面白いもんが見られるもんだねぇ」
鵤が相変わらず笑っている。
近付く気は全くないらしい。亀の甲より年の功、君子危うきに近寄らず。
だが黒蜜が桐壺を追って行った。
「其方の淑女方も、ご一緒に乾杯いかがであるか?」
ジュースを片手に、覚えたばかりの乾杯のしぐさで満面の笑み。
(ふふふー我輩もいずれカッコ良くお酒を飲める大人の男になるのである……!)
「賑やかなのは大好きよ!」
笑うルイーザに、シュウヤが面白半分で瓶を提げて近付いていく。
「荒れてるよりそっちのほうがいいと思うぜ?」
ユジンも手招きし、勝手に座りこんだ。
「結婚とか、女の子は色々大変よなー。あ、すんませーんこっち串焼きとピザ追加ねー!」
「このお店はオムレツも評判ですよ」
メリンダがふわとろオムレツやミートパイを追加。運ばれてきたごちそうに、黒蜜は目を輝かせた。
「すっごく美味しいのであるー♪」
ジェオルジ産の野菜やハム、ハーブがたっぷりの焼き立てピザは絶品だった。
喬栄がさりげなーく黒蜜の横に座りこむ。
「あら、坊ちゃんいいもの食べてんのね、貰ったの、そーぉ、おじさんにも少し頂戴な、なんて」
「一緒に食べるのであるー!」
満面の笑みで、黒蜜はスプーンを差し出した。
それをじっと見ていたピオスが、自分のスプーンをそっと持ち上げる。
「エルディ、あーん」
「……はあ?」
エルディラが顔を明かしてあとじさる。
「おぬしな…こういう人目の多い場所でそういうことは……!」
「だめかな……?」
顔を曇らせたピオスには、エルディラも降参するしかない。
「あーわかった、わかったとも。やれば良いのじゃろ……仕方のないヤツめ。いいか、一度だけじゃぞ!」
ぱくり。
「おいしい?」
満足そうなピオスの表情。エルディラにはものの味などわかる筈もなかった。
「ま、今夜ぐらいは嫌なことは忘れて、楽しく過ごそうぜ!」
シュウヤはそう言って、ユジンの肩を叩く。
「なんか歌えよ! 賑やかに行こうぜ!」
「って、ああ? おいおい、流行りの歌なんざ知らねぇぞ」
そう言いつつも咳払いをひとつ。少し懐かしい、良く知られた祭の歌を披露した。
シュウヤは椅子の座面でリズムをとり、自分も合いの手を入れたり。
こうなると混沌系アイドルのエリスとしてはじっとしていられない。
「お立ち台はないの!? ほら、ルイーザさんとメリンダさんも歌おうよ」
椅子の上に立ちあがり、ユジンの歌に声を合わせ、即興で見事なダンスを披露する。
「ほらほら~! いやなことなんか飛んでっちゃうよ!」
「いいぞお姉ちゃん! 後でおごるぜ!」
「ありがとー! エルちゃん、ピザと唐揚げとミックスナッツ食べたい!」
「わはははは!!」
酒場じゅうを巻き込んで、賑やかな宴となった。
●
通りすがりの人に奢らせた唐揚げとサラダをつつき、エリスが頷いている。
「えー、マジ、メリンダさん。わかるわ~!」
酔っ払いのように見えるが、これでも24時間シラフらしい。
「心配はわかるんですけど。今はやることがいっぱいなんですよ」
メリンダが苦笑いする。
軍に入って数年、未熟すぎる自分が悔しい日々。まだまだひよっこもいいところだ。
「一度きりの人生だ、みんな納得して進みたくて悩んでる。偶には自分を甘やかすのもいいんじゃねーの?」
ユジンが悪戯めいた笑みで、果物のシロップ煮を差し出す。
「俺は相方一筋、迷いなんかないけどな」
真剣そのものの顔でシュウヤが頷くと、わかってるというようにユジンがひらひらと手を振った。
「あ、でもそういう意味じゃねえぞ?」
「はいはい」
ひと通り飲んで、食べて、騒いで、語りあって。
夜は更けていった。
「また、沢山お話ししような……」
こくり、こくり。黒蜜ははしゃぎ疲れてうとうとしながらも、目をこすりながら頑張ってみたのだが。
「今日はあるじ様ぁにたくさん土産話を持ち帰るでありんすよ?」
桐壺に手を引かれて、立ちあがる。
鵤は大きく伸びをした。
「あーあ、中々面白かったねぇ。さって、朝までやってるとことかなぁいかしらぁー?」
「おじさん同士、しっぽり続きと行こうかねえ?」
すすっと近づく喬栄に、鵤が苦笑い。
「おたく、金持ってるのかい?」
「おやこれは随分野暮なことを言いなさる。おたくさん悩み事とかない? 話聞くよぉ、おじさんこう見えて聞き上手なの、お代は一杯二杯のお酒でいいのよぉ?」
なんだかんだで男ふたり、夜の街路へ消えて行く。
「あの、メリンダさん」
店の外で、シバが呼びとめた。
「良かったらこの後、少し一緒に歩きませんか……?」
改めて差し出す干し芋は、シバなりにメリンダの好きなものをリサーチした結果で。
メリンダはくすくす笑った。
「一応、頼りにしてはいるんですよ?」
ピオスはエルディラと手を繋いで一緒に帰っていく。
「エルディ、ありがとう。また一緒に来ようね! 今度は僕もお酒飲みたいし」
「う、うむ……」
楽しかったのは本当だ。
だが、酒を飲んだピオスがどうなるのかは少し恐ろしいような気もする。
それでも。
「……うむ。いずれまた共に来よう」
こうして祭の夜は静かに更けて行くのだった。
<了>
酒場は大いに賑わっていた。
黒蜜(ka5411)は桐壺(ka4164)の着物の袖に掴まり、興味深そうに辺りを見回す。
「おぉ……これが酒場か……! あちらには年寄り、こちらには若い連中。男に女、色んなヒトがいっぱいで、ざわざわ賑やかであるな……!」
桐壺は美しく化粧した白い頬に艶やかな笑みを浮かべ、黒蜜をそっと中へと促す。
「面白いかえ?」
黒蜜はこくこくと忙しく頷く。まだ飲酒はできないが、漏れ聞こえてくる楽しそうな様子が以前から気になっていた。
今回、顔見知りの桐壺が立ち寄るというので、頼んでみたのだ。
「かいらしい子ぉとお出かけなんて、嬉しいでありんす♪」
二つ返事で引き受け、桐壺は一軒の店に立ち寄ったというわけだ。
桐壺は席に腰を落ち着け、黒蜜にメニューを渡す。
「ええんよ。ゆうるりと選んで、お好きぃなもんを注文しやんせ? 私ぃはお酒を楽しむでありんす」
「桐壺、我輩は、果実のジュースを一杯頼む! なのだ!」
「あいな」
桐壺は給仕に米酒とつまみをいくつか持ってくるように頼んだ。
それからうんうん唸っている黒蜜の肩越しに、ふと見知った顔を見つける。
「あら。お一人でありんすか?」
入口の鵤(ka3319)に、ひらひらと手を振る。
「おっと、こいつは奇遇だねぇ」
よれた白衣をひっかけた姿で、ニヤリと笑って大げさに目の上で手をかざす。
「いやあ、混んでてどうしようかと思ったよ。ご相伴に預からせてもらうとするかねぇ」
鵤は勝手に椅子を引いて座りこんだ。
ごそごそと煙草を探し、口に咥えたところで、ぱっと火が点る。桐壺のリトルファイアだ。
「こりゃどうも?」
「お高くつきますえ?」
「そりゃ怖いねぇ」
運ばれてきた酒を互いに注ぎ、杯を口に運ぶ。
「ここのところ気に入りの、まめしの酒ですわいなぁ」
独特の香気と爽やかな口当たりの酒に、鵤は目を細めた。
「いいねぇ」
黒蜜がそうっと杯をとり、クンクンと匂いを嗅いで、首を傾げる。
「これがお米のお酒か。米や麦からお酒できるの不思議なのだ……最初に作り方を考えた者は偉大であるな!」
その背後に、ぬうっと立つ人影。
「酒の出会いは常の出会いとは趣を異とし、夜の出会いは昼の出会いと色を違える。一夜限りの細糸だとて、記憶に留めるに相応しきは杯に浮かんで消えゆく火影か」
ぶつぶつと呟くのは喬栄(ka4565)だ。
「芳しい香りの糸で釣られなんしたかえ?」
桐壺が流し眼をくれる。
「アラー桐壺チャンジャナイノ、奇遇ネー!」
「一夜限りのほうが幸せな縁もあるってことかねえ?」
鵤は笑いをこらえながら、席を作ってやる。
乾杯。
「あ~奢りのお酒が疲れた身体にしみわたるねぇ」
喬栄がうそぶいて、勝手に杯を重ねる。
もとより金を払う気などない。仮に気があっても金はない。
「ほんに偶然でありんすなぁ。今日も酒場に入り浸りでありんすか?」
「なんのなんの。やれ世間は祭りとなれば当然ハレの日、然しまあその気になり切れない人もいるもので。坊主の端くれとしては、そのような話に耳を傾け、心ばかりの浄財を受け取るのみ。……てなわけで、結構大変なお仕事を終えて来たんだよ~?」
尚、喬栄のこの話、その場の誰も途中から聞いていない。
●
シュウヤ・ツキオリ(ka0757)とシン・ユジン(ka0780)は差し向かいで座っている。
「俺なあ、帰れなくてもそれはそれって感じなんだよね。住めば都って言うじゃん? ここって結構いいとこだよね」
シュウヤはリアルブルーからの転移者だ。だが持ち前のポジティブ思考で、現在の境遇を受け入れたのだ。
「シュウヤはあれだな、生命力に溢れてるわ。いいことだぜェ、その調子だ」
ユジンはへこたれないシュウヤに、ある種の尊敬を覚える。自分ならどうだろう……?
だがその考えはすぐに追い払う。
「そうだ、リアルブルーと言やぁ、どんな月でも酒が飲めるぞという素晴らしい歌もあるそうじゃねぇの」
「あ? 酒はー飲め飲めー飲んだらーおかわりー! ってやつか?」
「……違うような気がするがなあ?」
「まあ細かいことは気にすんな! あ、ビールもう一杯お願いねー! ビールな、リアルブルーと変わらずこっちのも美味いねー」
ビールを煽り、アツアツの肉の串焼きを頬張るふたり。
「これがまた合うんだなあ!」
「肉な! 串焼きな!」
ユジンが嬉しそうに目を細める。
「うちの部族はめでたいことがあると牛や羊を1頭つぶして祝ったもんだぜ」
一晩中火を焚き、弦を鳴らして。皆で歌い踊り明かしたことを懐かしく思いだす。
「あー、これで漬物があったらなあ」
シュウヤの呟きに、ユジンが首を傾げた。
「ツケモノ?」
「……あ、漬物ってのはピクルスと似てんだけど、ちょっと違うのよ。酢じゃなくて、糠な。糠がわかんねえかー! ともかくジェオルジの野菜で作ったら美味いだろうなあ、あー漬物食いてえ漬物」
そう言ってはまたビールを煽る。
ユジンは笑いながら、追加を頼んだ。
「こちらも酒じゃ! とりあえず麦酒を頼めるか? 祭と言ったら酒であろう!!」
エルディラ(ka3982)が思い切り手を振り、存在を主張する。
「いいのかい?」
おかみさんが見た目の幼いエルディラに僅かに眉を寄せ、同席するピオス・シルワ(ka0987)を見た。
「えー、と……」
「ちなみに、我はドワーフじゃ。見た目はコレじゃがとうの昔に成人しておる。我が連れには、テキトーにジュースでも見繕ってくれい」
「ええと、うん、それでお願い」
見た目こそピオスのほうが上だが、実際の年齢はエルディラのほうが上らしい。
「僕やっぱり、場違いだったかなあ……」
一度酒場をみたいというのもあったが、恋人のエルディラが好む酒というモノにも興味がある。
祭のついでに連れて来てもらったが、やはり落ち着かない。
「気にするな。周りは誰も気にしておらんぞ」
エルディラの言う通り、皆自分の連れと騒ぐのに夢中だ。いや、下手をしたら、連れの姿すらわかっていないようなぐでんぐでんの奴もいる。
やがて運ばれてきたビールとジュースで乾杯。
「エルディ、それ何?」
「ビールじゃな。麦から作った泡の出る酒じゃ」
「じゃああれは?」
ピオスは隣の席を指さす。
「あれはワインじゃろうな。葡萄の酒じゃ」
「葡萄のジュースじゃないの!?」
指さされたのはエリス・ブーリャ(ka3419)のグラスであった。
当人は、全く気にしていないが。
「あー、やっぱりお祭りはお酒飲むのに限るわー!」
景気よく飲み干し、グラスを置く。かわいらしい見た目に反し、実に豪快な飲みっぷりだ。
「すいませーん、ウィスキーをロックで!」
ピオスは自分と年かっこうの変わらない少女を、感心したように眺めていた。
ふとその視線に気づいて、エリスが振り向いた。
「なあに? 未成年は飲んじゃダメだってー? 大丈夫ー、エルちゃんこう見えて67歳だしー!」
陽気に笑う天真爛漫な少女に、エルディラもグラスを掲げて見せる。
「良い飲みっぷりじゃな!」
「こういうときに飲むお酒っておいしいわよね! 昼間から飲んでても誰も怒らないし、やっぱり祭りってサイコーね」
「全くじゃな!」
そうして楽しく飲んでいる間に、ピオスは席を立って店の中を見回しながら歩いていく。
忙しく動き回る給仕たち、並んだ酒瓶、食べ物の匂い。全てがもの珍しく、あちこちを見て回りたくなるのだ。
「見た目以上に子供かあやつは……」
苦笑いしたエルディラだったが、突然立ち上がる。
「ピオス、前っ……!」
「え?」
「ちょっと、危ないよ!」
大量のジョッキを運んでいる給仕が、素早く身をかわす。
だがピオスのほうは足元が定まらず、そのままよろよろと他人のテーブルへ。
「あ、ごめんなさい! え? あ、あれ~っ?」
「きゃああっ!?」
エルディラが思わず額を押さえた。
「あやつは何をやっておるのじゃ……」
ピオスはつまづいて、他の客の席に突っ込んで行ったのだ。
それも女性客の席に。
「お、あのハデな衣装はジェオルジ家のルイーザさん?」
エリスの呟きに、エルディラが振り向く。
「知り合いか?」
「知り合いってわけじゃないけどねー」
エリスは笑いながら、ルイーザについて説明する。
「卿祭のお礼ってことで。労いを兼ねてルイーザさんと、その相方さんにお酒ついでこようかなってね」
「成程な。では我も連れを回収に行くとしようかのぅ」
ふたりは揃って席を移動する。
●
その少し前。
「イマドキ二十歳越えたら婿探しとか、ありえないわよね~!」
意気投合して騒ぐルイーザとメリンダの傍に、影のように近づく少年がひとり。
「まあまあ、あまりに荒ぶると余計惨めになりますよ」
シバ・ミラージュ(ka2094)はいきなりの爆弾発言。
「なあんですってえ?」
ルイーザがキッと睨みつけると、メリンダがまあまあと肩を押さえ、そっと耳打ち。
「この人に真面目に怒ったら疲れるだけよ」
シバは何をしでかすかわからず、いちいち反応してたら身がもたない。
……と、わかってはいるのだが。
「シバです。メリンダさんとはショタ的な関……あ、いや、なんでも」
少女と見まがうような白い頬をほんのり赤く染め、そっとメリンダの隣に座り、恥ずかしそうに袖をつまむ。
メリンダは無言のままグラスを持った手を額に当てた。
「へえ。そういういうこと。隅に置けないわねえ?」
ルイーザはからかうような口調で言った。
「メリンダさんのために頭頂部を剃ったり、女装して一緒にお祭を回ったり……冷たい海で励まし合ったり……僕にも色々ありました……」
シバはそう言ってどこか遠いところを見るような眼をする。
「……言っておきますけどね、どれもシバさんが自分から……!」
言いかけたメリンダに、シバは更に爆弾を投げつけた。懐にしまった遺書を、無意識のうちに押さえながら。
「そう言えばメリンダさんは、彼氏とかいるんですか?」
ぴしっ。
どこかでそんな音がした。
「さあ、どうかしら?」
メリンダは、気合でオフィシャルスマイルを維持した。
「もしもですよ。メリンダさんに言い寄る命知らず、じゃない、モノ好き、でもない、勇者? がいたとしてですね」
一言ごとにこめかみがひくひくするが、それでもまだ耐えた。
「守備範囲は上下何歳ぐらいまでですか? 参考までに、ですけれど」
「え?」
メリンダは暫く宙を睨み、うーんと唸る。
「そうですねえ、相手による、としか……」
その時だった。
体勢を崩したピオスが、ルイーザのドレスの膝に顔を突っ込んで来たのである。
「へぶ! あ、ごめ! ごめんね!」
「若いのにセクハラ!? ぶんなぐるわよ!!」
ルイーザは胸元に伸びてきた腕を掴み、ぐっと引き上げる。
「ち、ちがう! 誤解だって!! 僕にはエルディという、大事な人がいるんだから……!」
この上まだ惚気か!!
ルイーザの頬が引きつった。
かなり騒がしい店内でも、この騒動はさすがに目立つ。
鵤はそれをアテのようにして、酒を口に運ぶ。
「いやはや、騒がしい嬢ちゃん達だねぇ」
そこですっと立ち上がるのは桐壺。何処へ行くのかと視線で追えば、ピオスが狼藉を働いたと思ったのか、スリープクラウドでいきなり眠らせてしまった。
そのまま摘んで外へ放り出そうとする所へ、エルディラが追いつく。
「すまぬ、そいつは我の連れでな……」
ハッと目を覚ましたピオスが、涙目で訴える。
「事故だよ! わざとじゃないって!!」
「故意かそうでないかは問題ではない。もう少し落ち着けと言うておるじゃろ! まったく、保護者が必要な歳でも無かろうに……」
そう言ってピオスを小突き、頭を下げさせる。
「すまぬなご両人。お詫びに酒でも注ごうか」
「お詫びはいらないけど。良かったらご一緒にいかが? 大事な方もね」
くすっと笑いながら、ルイーザが自分の向かいを指差した。
「ああ、ほんにもう……いややわ、つい癖ぇで」
桐壺が早とちりを恥じらうように、頬に片手を当てて苦笑する。
「こちらこそ、面倒をかけてすまぬ。詫びに一杯どうじゃ?」
「あらあ、ほな遠慮なくぅ」
「くくっ、意外なところで面白いもんが見られるもんだねぇ」
鵤が相変わらず笑っている。
近付く気は全くないらしい。亀の甲より年の功、君子危うきに近寄らず。
だが黒蜜が桐壺を追って行った。
「其方の淑女方も、ご一緒に乾杯いかがであるか?」
ジュースを片手に、覚えたばかりの乾杯のしぐさで満面の笑み。
(ふふふー我輩もいずれカッコ良くお酒を飲める大人の男になるのである……!)
「賑やかなのは大好きよ!」
笑うルイーザに、シュウヤが面白半分で瓶を提げて近付いていく。
「荒れてるよりそっちのほうがいいと思うぜ?」
ユジンも手招きし、勝手に座りこんだ。
「結婚とか、女の子は色々大変よなー。あ、すんませーんこっち串焼きとピザ追加ねー!」
「このお店はオムレツも評判ですよ」
メリンダがふわとろオムレツやミートパイを追加。運ばれてきたごちそうに、黒蜜は目を輝かせた。
「すっごく美味しいのであるー♪」
ジェオルジ産の野菜やハム、ハーブがたっぷりの焼き立てピザは絶品だった。
喬栄がさりげなーく黒蜜の横に座りこむ。
「あら、坊ちゃんいいもの食べてんのね、貰ったの、そーぉ、おじさんにも少し頂戴な、なんて」
「一緒に食べるのであるー!」
満面の笑みで、黒蜜はスプーンを差し出した。
それをじっと見ていたピオスが、自分のスプーンをそっと持ち上げる。
「エルディ、あーん」
「……はあ?」
エルディラが顔を明かしてあとじさる。
「おぬしな…こういう人目の多い場所でそういうことは……!」
「だめかな……?」
顔を曇らせたピオスには、エルディラも降参するしかない。
「あーわかった、わかったとも。やれば良いのじゃろ……仕方のないヤツめ。いいか、一度だけじゃぞ!」
ぱくり。
「おいしい?」
満足そうなピオスの表情。エルディラにはものの味などわかる筈もなかった。
「ま、今夜ぐらいは嫌なことは忘れて、楽しく過ごそうぜ!」
シュウヤはそう言って、ユジンの肩を叩く。
「なんか歌えよ! 賑やかに行こうぜ!」
「って、ああ? おいおい、流行りの歌なんざ知らねぇぞ」
そう言いつつも咳払いをひとつ。少し懐かしい、良く知られた祭の歌を披露した。
シュウヤは椅子の座面でリズムをとり、自分も合いの手を入れたり。
こうなると混沌系アイドルのエリスとしてはじっとしていられない。
「お立ち台はないの!? ほら、ルイーザさんとメリンダさんも歌おうよ」
椅子の上に立ちあがり、ユジンの歌に声を合わせ、即興で見事なダンスを披露する。
「ほらほら~! いやなことなんか飛んでっちゃうよ!」
「いいぞお姉ちゃん! 後でおごるぜ!」
「ありがとー! エルちゃん、ピザと唐揚げとミックスナッツ食べたい!」
「わはははは!!」
酒場じゅうを巻き込んで、賑やかな宴となった。
●
通りすがりの人に奢らせた唐揚げとサラダをつつき、エリスが頷いている。
「えー、マジ、メリンダさん。わかるわ~!」
酔っ払いのように見えるが、これでも24時間シラフらしい。
「心配はわかるんですけど。今はやることがいっぱいなんですよ」
メリンダが苦笑いする。
軍に入って数年、未熟すぎる自分が悔しい日々。まだまだひよっこもいいところだ。
「一度きりの人生だ、みんな納得して進みたくて悩んでる。偶には自分を甘やかすのもいいんじゃねーの?」
ユジンが悪戯めいた笑みで、果物のシロップ煮を差し出す。
「俺は相方一筋、迷いなんかないけどな」
真剣そのものの顔でシュウヤが頷くと、わかってるというようにユジンがひらひらと手を振った。
「あ、でもそういう意味じゃねえぞ?」
「はいはい」
ひと通り飲んで、食べて、騒いで、語りあって。
夜は更けていった。
「また、沢山お話ししような……」
こくり、こくり。黒蜜ははしゃぎ疲れてうとうとしながらも、目をこすりながら頑張ってみたのだが。
「今日はあるじ様ぁにたくさん土産話を持ち帰るでありんすよ?」
桐壺に手を引かれて、立ちあがる。
鵤は大きく伸びをした。
「あーあ、中々面白かったねぇ。さって、朝までやってるとことかなぁいかしらぁー?」
「おじさん同士、しっぽり続きと行こうかねえ?」
すすっと近づく喬栄に、鵤が苦笑い。
「おたく、金持ってるのかい?」
「おやこれは随分野暮なことを言いなさる。おたくさん悩み事とかない? 話聞くよぉ、おじさんこう見えて聞き上手なの、お代は一杯二杯のお酒でいいのよぉ?」
なんだかんだで男ふたり、夜の街路へ消えて行く。
「あの、メリンダさん」
店の外で、シバが呼びとめた。
「良かったらこの後、少し一緒に歩きませんか……?」
改めて差し出す干し芋は、シバなりにメリンダの好きなものをリサーチした結果で。
メリンダはくすくす笑った。
「一応、頼りにしてはいるんですよ?」
ピオスはエルディラと手を繋いで一緒に帰っていく。
「エルディ、ありがとう。また一緒に来ようね! 今度は僕もお酒飲みたいし」
「う、うむ……」
楽しかったのは本当だ。
だが、酒を飲んだピオスがどうなるのかは少し恐ろしいような気もする。
それでも。
「……うむ。いずれまた共に来よう」
こうして祭の夜は静かに更けて行くのだった。
<了>
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 5人 |
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【酒場の一角】 桐壺(ka4164) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/05/27 20:34:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/05/25 19:50:53 |