• 春郷祭1016

【春郷祭】の蚤の市~残り福

マスター:龍河流

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/05/29 12:00
完成日
2016/06/14 05:27

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 村長会議の途中、春郷祭の企画として、ジェオルジにいた人々にこんな報せが届いた。
 そもそも蚤の市という言葉も聞き慣れないが、誰でも商売していいと言われてもピンとこない。


『●春郷祭・蚤の市開催のお知らせ
・会場はジェオルジ中央部の広場です
・指定された区画にて、参加者が用意した商品の売買を行うことが出来ます。飲食店の設置も可能です
・出店期間は祭り中のおおよそ2週間、参加費用として1000Gが必要です
 開催期間中の収益は出店者当人のものになりますが、赤字になっても主催者は関知しません
・出店区画は5メートル四方と10メートル四方(どちらも平地)の二種類のうち、必要な広さを指定してください
・店舗は、期間終了後に平地に戻せるなら、仮店舗等の建設は自由です
 必要な方には、天幕・机等の貸し出しがあります
・他の地域にある店舗の関係者が出店する場合、その支店として看板を掛けても構いません
・性風俗産業と公序良俗に反するものは参加不可』


 色々と書かれた張り紙を眺めて、まずは噂に花が咲く。

「蚤の市か。リアルブルーの祭りかね?」
「へえ、祭の間だけ、商人でなくても大っぴらに商売が出来るらしいぞ」
「商売って、私らが何を売るのよ?」

 もともと祭りの期間には、各村から農作物や家畜、加工品を持ち寄って、小規模の売買が行われていた。今更、こんな風に言われてもというのが、大半の感想だったが……
 リアルブルー人達は、反応が少し違う。

「これ、大掛かりなフリーマーケットってこと?」
「あ、そうか。じゃ、うちの不用品を売って、こっちの種を買おう」
「私の作ったアクセサリーでも、少しはお金になるかしら」
「参加費節約に、人を集めて区画を取ろうぜ。広くても同額らしいじゃん」

 よく見れば、開催予定地になにやら線を引いて回っているのも、服装からしてリアルブルー人だ。

「村のかみさん達の織った絨毯を、仲買人を通さずに自分で売ってもいいってことか」
「そういや、去年の祭りでは目新しい飯屋が多かったから……今回も期待出来る?」

 一つの店は小規模でも、たくさん集まればすごい市場が出来るのだと、皆が納得するのにさほどの時間は掛からなかった。


 そして、蚤の市は予想以上に賑やかに過ぎ行き、そろそろ終わりが見えてきた。
 残り期間は、あと三日。
 売るのも買うのも、この機会では、もうそれだけだ。

リプレイ本文

●探し物はなんですか
「うぅっわぁーっ!!」
 早朝一番。人目もはばからずに歓声を上げたのは、十代後半と思しき若い娘だった。悲鳴だったら誰かが助けに来たろうが、彼女の声色はどう聞いても楽しげで、小走りに行く足取りも軽い。
「おもしろ美味しそうなの~っ」
 興奮のあまり、思ったことが口から盛大に漏れているディーナ・フェルミ(ka5843)の目的が分かりやすい一言に、道を行く人達は笑みを誘われ、蚤の市に店を出している人々を当て込んで早くから店を開けている飲食店からは呼び込みの声が掛かる。
 呼ばれたディーナはちょっと考えて、一番手前から順番に制覇することに決めたようだ。

 ジェオルジ村長祭の蚤の市も、残りは三日。
 始まってから十日ほど、市場内の地図を作って売り歩いていたジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、すっかり顔馴染みになった大伴 鈴太郎(ka6016)の姿を見付けて、短期で習慣になった溜息をついた。
「まだ見付からねーか」
「うん、なんかあったら頼まぁ」
 口調もぶっきらぼうだが、鈴太郎は十代半ば、年頃の女の子だ。それが祭りだと言うのに、毎日暗い表情でうろうろしているのは、やや異様である。
 理由を承知しているジャックは、余計なことは言わず、これも自分が作った地図看板の端に留めてあった『探し物・熊のぬいぐるみ』の張り紙を、目立つ位置に張り直してやった。

 姉達が珍しい買い物をしたいと言うので同行したレイ・T・ベッドフォード(ka2398)は、自分の役割を正しく理解していた。
 まず荷物持ち。次に、買い物の際の財布。長姉のガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)、次姉のメリル・E・ベッドフォード(ka2399)共に、自分の財布を持って来ているだろうが、品定めに集中するあまり、支払いを忘れないとも限らない。特にメリル。
 その蚤の市での買い物を提案したメリルは、すでに人ごみの中に走り込んでいきそうな勢いだった。
「メリル姉上、走らなくても品物は逃げませんよ」
「レイったら、呑気なことをいうものではありませんわ。品物は逃げなくても、誰かに買われてしまうかもしれないじゃありませんの」
 弟の言い分をさくっと足蹴にしたメリルだが、彼女が欲しいものは『黒魔術用物品』である。この長閑なジェオルジの蚤の市で、品物があっても買い手がそうそういるとは思えない代物ばかりだが……
「確かにメリル姉上の仰る通りでした。気が回らなくて申し訳ありません」
 素直と言うべきか、押しに弱いと言うべきか。レイはあっさり納得してしまっていた。
 だが、そんな二人をたしなめる人物がいる。
「二人とも、幾ら家から離れた場所とはいえ、無様な振る舞いは許しませんよ」
 地元では名家に数えられる実家の名を知る者がいないとは限らないと、ガーベラは祭りの雰囲気に浮かれる弟妹にびしっと言って聞かせていた。
 幸いにして、その直前まで彼女がすれ違った同年代女性の抱えていた綺麗な包みを凝視していたことは、弟妹達には気付かれていない。

 蚤の市の規模の大きさに、入り口でどう回ろうかと迷いかけていたマリィア・バルデス(ka5848)だが、解決方法は向こうからやってきた。
「地図が二種類あるの?」
「一枚は全部の店の種類の説明付きで、もう一枚は食べ物の店限定。案内を付けると、料金がねぇ」
 誰が発行したものだか、地図が二種類。売っている子供達は集団で、案内や荷物持ちのオプションも頼めるらしい。とはいえ、欲しいものは可愛いペット達のアクセサリー程度。確かにペットは複数いるが、荷物持ちが必要とはなるまい。
 地図だけ買おうとしたマリィアは、子供の一人がホットドックのようなものを売っているのに気付いて、そちらも買い求めた。どこで作ったのか、ソーセージが焼き立てで、ハーブも効いて、なかなかに美味しい。
「これは、色々と期待出来そうね」

 蚤の市の初日から商売を続けて、はや何日。
 店番も苦にならないし、時折一時休業して小物や自分と似た商品を扱う店を覗いて満足していたソナ(ka1352)は、ふとあることに気が付いた。
「あら……もしかして」
 自分は、こんなに色々な食べ物が並んでいる蚤の市にいて、まだろくに食べ歩きをしていないのではないか。毎日、近くのお店で食事は買っているが、ゆっくり一巡りはしていない。
 これは大変と、ソナはお客の誰かに貰った地図を取り出し、興味を惹かれる店がないかと確かめ始めた。それと同時に、残り少ない商品を手早く売り切る方法を悩み始めている。


●お買い物はどうですか
 ジェオルジの村長祭は賑やかだと聞いていたし、更に蚤の市には色々な人と品物が集まっているらしい。
 そんな噂に引き寄せられた時音 ざくろ(ka1250)と箍崎 来流未(ka2219)の二人は、ちょうど一番人出の多い時間帯にぶつかったらしい。もしくは、単に人が多い場所にうっかり飛び込んでしまったか。
 入り口で子供達にわらわらと取り囲まれて、あって困るものではないしと地図を二枚買ったざくろと来流未は、それぞれに手元の地図を覗き込んでいる。この二枚、種類が違うのであるが、まだどちらも気付いてはいないようだ。
「こっちの世界の品物を、色々見てみたいよね。でもこれ、食べ物屋しか載ってないなぁ」
「そんなことないよ。ほら、家畜市場なんて、珍しいこと書いてあるもの」
「家畜市場ぁ?」
 ようやく二枚を突き合わせて、来流未の持っている方を見ることにした。食べ物も興味はあるが、最初は色々と見て回りたい。
 地図の両端を二人がそれぞれに持って、額を突き合わせるように眺めていた二人は、ああでもないこうでもないと相談した結果、地図に『若い人に人気』と書いてある区画に向かうことにした。
 はぐれたら困るので、彼と彼女は手を繋いでいる。一見、仲良しの女の子同士に見えるのはご愛敬だろう。

 これを、日曜大工と言っていいものか。
 明王院 蔵人 ( ka5737 )が並べている商品は、かなり大型だった。なにしろ持ち込んだのが、自作の屋台。屋台で何かを売るのではなくて、『屋台を』売っている。
 とはいえ、それだけでは屋台の良さが伝わらないので、三基持ち込んだ屋台の一つは、リアルブルーで言うお好み焼き風の軽食屋台としても活用されていた。
「これには小型の窯を付けてあるが、焼き台に変更も出来る。火を使わないなら、また別の台も付けられるな」
「雨が降ったら商売にならないが、店を出す資金を貯めるにはいいかなぁ」
 薄く焼いたお好み焼きをたたんで油紙で包んだものを頬張りつつ、明王院より十歳くらい若い青年が、屋台の作りの説明を受けていた。
 地元で露店の営業許可は得ているが、簡素な卓と椅子だけで実入りが今ひとつ。新たな商売方法を同業者に学ぶつもりでやって来て、屋台に目を留めたのだ。まさに明王院が狙っていたお客である。
「雨の時は、防水布をこの屋根から斜めに張ればいい。あいにくと、布は扱いがないがね」
「そっか、それも必要か」
 考えるついでに椅子の座り心地を試すと、青年は屋台の前にどっかりと座って長考の態勢だ。人がいるのはいい客寄せと、明王院はまたお好み焼きを焼く仕事に戻っている。

 一軒ごとに、とりあえず一品。節制すれば、残り三日で全店制覇も夢ではないはず。
 ディーナはそう考えていたが、とある店で『とりあえず一品』はもろくも崩れ去った。
「わぁ、懐かし~の~」
 串焼きされているそれを手に、彼女はにこにこと店主に話し掛けた。自分も故郷では似たような虫をよく食べていたと。
 そう、虫。
「虫は美味いし、すぐ増えるから家畜より安上がりにたんぱく質が取れるってのに、クリムゾンウェストの人達もあんまり食べてくれないんだよなぁ」
 同好の士が現われて喜ぶ店主は、リアルブルーの虫食文化圏出身らしい。辺境出身でサソリも蜘蛛も食べていたディーナとは、話が合うこと。
「蜂の子は美味しかったの。また食べたいのね」
 大変話が弾んでいる様子のディーナと店主の様子に、何を売っているのかと近付いてくる人々はいるのだが、大抵が品物を見てそっと立ち去っていく。

 ベッドフォード三姉弟の買い物は、素晴らしく順調だった。
「姉上、これをご覧になって。異世界の魔法陣ですわ!」
 リアルブルー人が乱雑に並べた商品から、器用に曼荼羅の描かれたタペストリーを掘り出したメリルが、相手の言い値に心付けまで加えて、ご機嫌に買い込む。同じ店で、ガーベラは美麗な絵蝋燭を見付けて、こちらは上品にお買い上げ。なぜか、一緒に古着のつなぎも購入した。
「使えば失われる物に凝るのも、たまには良いでしょう。レイ、折れないように用心してくださいな」
「勿論ですとも」
 厚手の布で突かれた蝋燭を差し出されたレイも、浮かれ調子のメリルはもちろん、ガーベラも常より表情が柔和なのを見て取り、穏やかな笑顔で姉達の買ったものを店の者から受け取った。そして器用に、肩から下げた籠に入れて行くが……
 彼の籠には、どこに売っていたのだか、蝙蝠と蜥蜴の干物が各一山。合間に覗くのはサソリか何か怪しげなもの。油紙で包まれているのは、形と大きさから本らしいが、一緒に入っている物を考えると女性向け恋愛小説とは思い難い。
 そこに、今度は綺麗な布で包まれた絵蝋燭と別の袋に入ったつなぎが加わった。タペストリーは反対の肩に担ぐらしい。
「さっ、次こそは馬の心臓を手に入れたいものですわ」
「メリル姉上、生ものは最後がいいですよ。どうしても臭いますから。ガーベラ姉上は、他にお買いになりたいものはありますか?」
「そうですわね……工房で汚れ作業に使う丈夫な服が、もう一着あると便利かしら。珍しい柄のテーブルクロスがあれば、吟味したいと思いますの」
 生ものは後でと、まずはガーベラが地図を眺めて行き先を検討している。彼女が持っているのは、他に自分の財布だけだ。荷物は全て、レイが担当である。
 と、その隙にふらりと姿を消していたメリルが、なにやら抱えてきた。
「レイ、素敵なものが手に入りましたわ! せっかくですから、被せてあげましょう」
 いったいどこの店にあったのか、髑髏の置物を手に入れてきたメリルがレイの頭にそれを乗せた。乗せやすいように屈む弟の姿にぎょっとするのは周りだけで、長姉は当たり前の物を見るような顔で弟妹のやり取りを見守っていた。

 店の様子を見た時には、統一性がないのでどうかとは思ったが、なかなかの当たりだった。
「カポナータかと思ったら、チャンボッタに近いかしら……歩き回った後だし、たまには甘酸っぱい味付けも悪くないわね」
 リアルブルーのものとは幾らか違うだろうが、味付けはそれに近い料理の名前をあげつつ、匙を口に運ぶマリィアがいるのは、やたらと店員が多い店だった。ついでに商品も種類が多い。
 どうやら料理を作っているのは夫婦が二組、野菜のごった煮に自家製ソーセージに付け合わせの酢漬け、焼き立てではないが温めてくれる黒パンはいずれもなかなかの味だ。それを食べる長テーブルと椅子のセットのテーブルの端には、中古品と新品が混じりあって食器や雑貨が置かれている。それらを磨いたり並べ直しているのは、十代前半の子供達だ。
 更に加えて、二十歳前後の女性陣が細い毛糸でベルトを編んでいる。合計で、店員は十数人が入り乱れているだろうか。
 しかし、マリィアがこの店に立ち止まったのは、人が多くて繁盛しているように見えたから。騙された気もするが、料理は素朴でも味わい深いし、毛糸ベルトはペットの首輪に良さそうだ。
「あ、そのお皿、ちょっと見せてくれる?」
 新品なのか、少しだけ使った中古か、これまたペットの餌皿を新しくしたかったマリィアの心をくすぐる品物が出てきた。一枚だけ見るつもりが、子供達は似たような皿を揃えて出してくるから、つい迷ってしまう。
「なんだか商売上手ねぇ」
 一番いい皿を選ぼうと裏まで眺めつつ、マリィアが一番欲しいのは店員が使っているミートチョッパーだったりするのだが……こればかりは使う機会がないので諦めるしかない。
 だが、迷う時間も楽しいものだ。

 歩き始めたら楽しくなって、来流未とざくろは目につく店を片端から覗いていた。
「あ、あのね、来流未」
「なあに、ざくろさん。あっ、ほらほら、あれ、可愛いと思わない!」
 大分前から、来流未はざくろを引きずるように連れ回していた。なにしろここにはリアルブルー人の彼女には物珍しいものがたくさんだ。あれもこれも見てみたいので、自然と彼女はざくろの腕を掴んでいた。連れ回すにはこの方が便利だからで、他のことはなんにも考えていないのだが。
 ざくろにしたら、その姿勢は腕に当たるのだ。何がとは言わない。言えない。
 役得と思えばいいのだろうが、ざくろはそこまでこなれていなかった。おかげで、来流未があれこれと指し示すものを落ち着いて眺める余裕がない。
「え、日焼け止め? 自然素材のお化粧品なら、買おうかしら」
「そうおっしゃるのは、リアルブルーの方ですね。これは、お肌に優しいですよ」
 お値段もお手頃と、ソナが効能別にセットにした化粧品や石鹸、匂い袋などを説明し、来流未は熱心に聞き入っていた。こういう話になるとざくろはお呼びではない。
 ひと安心して、来流未の嬉しいような、困ってしまう束縛から解放されたざくろは、右隣の店に目をやった。
 手作り品を売っている様子の青年が、ニヤリとざくろに片眼をつむって見せる。ざくろもにこりと笑顔を返した。
 そんな様子に気付かず、来流未は日焼け止めなどを試してから買い求め、ソナは無事商品が完売して喜んでいる。
「はあ、疲れちゃった。ざくろさんは大丈夫?」
「ちょっと休憩しようか」
 お店をたたみ始めたソナに見送られ、二人は休憩どころを目指して歩き出した。


●終わるのはいつでしょう
 無事に屋台を一基売り上げ、使い方に慣れたいという買い手の青年が志願するので、お好み焼きを伝授していた明王院は、先程から笑いをかみ殺すのに苦労していた。
「これがお好み焼き……食べなきゃ、でも今は無理ですぅ」
 卵と油のソースの熱せられた香りが堪らないと、先程から屋台にへばりつくディーナは、まあおなかがこなれたら買い食いしてもらえばよい。せめても年頃の女の子らしく、今にも食い付きそうな姿勢はどうにかしたらと思うのだが、言ったところで聞こえなさそうだ。
「もう、こっちに寄ってこないでよ。そのカップは、私のお酒だってば」
 たまたま隣り合わせたマリィアが、お好み焼きの材料を探りながら食べているのを凝視され、飲み物を取り違えられそうになっている。お好み焼きにどういう酒を合わせたものか、明王院も後ほど教えを請いたいところだ。
 ちなみにこれは、ペットへの土産に予想以上に良いものが買えて御機嫌なマリィアが、幾つかの店に無理を言って作ってもらった、いわばマリィアブレンドカクテル。彼女の舌の確かさの証明にはなったかもしれないが、もう一度作るのは難しい代物だ。
 そして、もう一組。
「くまごろーくまごろーくまごろー」
 いったい何をしているものか。熊のぬいぐるみを抱きしめて号泣する鈴太郎と、見た目は同年代のドワーフの女性がいた。前者は椅子の端で号泣中で、後者は屋台の造りを観察するのに忙しい。
「うーん、窯をこう組み込むのね。熊を売りに来てよかったわ」
「くまごろー、もう売らねーからなー」
 鈴太郎とドワーフ女性の関係は、ちょっとややこしい。ドワーフ女性は父親から、当人曰く『娘の趣味を理解していない贈り物』として鈴太郎が誤って手放したぬいぐるみのくまごろーを入手。置き場に困り、知り合いがいたら売ってもらおうと蚤の市にやって来て、この店の前で熊ごろーを発見して慌てふためいた鈴太郎に体当たりされたのだ。
 突然の体当たりも、事情を知った女性はお好み焼きはじめとする軽食幾つかで許したのだが、その際に屋台の構造に興味を覚えて観察し始めた。
 よって、鈴太郎は号泣している間はドワーフ女性もそこに居るしかないとかなんとか、放置されている。まあ、明王院も彼女が喜んでいるのだからと、構い付けないでいた。
 最初は驚いたディーナもマリィアも、同様。
 鈴太郎の喜びの号泣は、もうしばらく続きそうだ。
「なんだか賑やかなお店ですけれど、美味しいのかしら」
 感極まった号泣振りに、うっかり引き寄せられたソナがお好み焼きを買い付けて、ディーナに羨望の眼差しを向けられるのはもう少し後である。

 休憩するなら、何か食べるものをと思ったざくろだったが、来流未がサンドイッチを作ってきたくれたと知って、買うのは飲み物とデザートに切り替えた。足りなかったら、またそぞろ歩いて選べばいい。
「このサンドイッチ、向こうの味で美味しい」
「それなら良かったです。このジュースも、珍しい味ですね」
 しかし、実はこの時来流未は他にも何かお礼をしなきゃいけないのではと考えていて、ざくろはさっきこっそり買った髪飾りをいつあげようか、迷っている。

 レイは、メリルが差し出したカフスボタンを、今までの買い物の品と同じく、丁寧に籠に仕舞おうとした。途端に、ガーベラにたしなめられる。
「レイ、それはそちらに仕舞うものではありませんわ」
「え……成程、別にしまうべき大切なお品なのですね」
 姉達の好みを言われれば、それを探すのは率先して、的確に行えるレイだが、その実ものすごい鈍感である。姉達はよく知っているが、何でもかんでも丁寧にする割に、自分のことには無頓着。
 よって、ガーベラが遠回しに指摘してやっても気付かず、メリルがそっぽを向く羽目になった。
「予算が余りましたから、それは差し上げますわ。レイときたら、気が回らないのですから」
 自分は華奢な細工が美しいイヤリングを貰ったガーベラは、弟が驚きに固まっているのを横目に、ちょうど目の前の店に並ぶ布製品を眺めている。
 奇妙な荷物持ちが固まっているので人目を引いた三姉弟は、しばらくして何事もなかったように動き出し、今度はおいしそうなものを買い込んで、やはり荷物持ちの奇妙度をあげている。


 蚤の市の夕暮れ頃。
「よう、今日はどうだった?」
 ここ数日は、自分が商人として売るための仕入れ先を見付けるために市場を歩き回っていたジャックが立ち寄ったのは、料理から中古品、手作り品と雑多な商品を抱えていた大量店員の店だった。
「おかげで随分儲かったよ。子供らも、よく働いてたね」
「そりゃなによりだ。パンは、ちゃんと手間賃を上乗せしたか? 他所から仕入れた物を、そのままの値段で売ったら商売にならないぜ」
 数軒隣合わせて、それぞれ一種類ずつを寂しく売っていて、売り上げも今ひとつだった店をまとめて、あれこれ雑多に店に作り替えさせたのはジャックの入れ知恵だった。ちょっと雑多すぎるとは彼も思ったが、商品が少ない店より多い店の方が人の興味を惹くし、店の周りに人が多いのは賑わって見える。
 最初が振るわなかったせいか、合同の店にしてから人出が増えたと大喜びの皆の稼ぎは、実際はそれほどでもない。しかし、商売の仕方は少し覚えただろうから、次の機会にはもっと自分達で稼げる方法を見付けてくれたらいい。
 ジャックが自分の野望が一歩進んだと、多少の実感を持っていると、ごった煮づくりの夫婦に声を掛けられた。
「兄さんも食べておいきよ。ご馳走するから」
「いや、あいつらの分も貰いたいから、金払うぜ」
 ジャックを見付けて駆け寄ってきたのは、彼の代わりに地図を売っていた子供達だ。自分の仕事をするために、地図売りを依頼したのである。稼ぎは当人達の取り分だが、任せた分、少し奢ってやっても良かろうと思ったジャックは、
「金はいらねぇ」
「そんなんで商売になるか」
 意地のぶつかり合いで、結構な時間を費やすことになった。
 蚤の市は、賑やかなままに終わりへと向かっている。

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参加者一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • 戦場の舞姫
    箍崎 来流未(ka2219
    人間(蒼)|19才|女性|闘狩人
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 闊叡の蒼星
    メリル・E・ベッドフォード(ka2399
    人間(紅)|23才|女性|魔術師

  • ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401
    人間(紅)|28才|女性|聖導士
  • 鉄壁の守護神
    明王院 蔵人(ka5737
    人間(蒼)|35才|男性|格闘士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言