ゲスト
(ka0000)
要塞都市で見かけた黒い噂?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/04 15:00
- 完成日
- 2014/09/13 14:50
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――辺境、要塞都市『ノアーラ・クンタウ』。
「ふむ……リゼリオでは大規模な戦いが起きているらしいとは聞いているけどねぇ」
そんなことを言って一つため息を付いたのは、帝国軍属軍医、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)である。彼女はその任務の性格ゆえ、要塞都市――というか、辺境を離れることが難しい。結果、彼女は他の地域で起きている戦闘でも待機を求められることになるのがほとんどであった。
「辺境に来たのは自分の意志だから別に異論はないのだけどね。でも、医者という立場上、やっぱりけが人が出たと聞くと……ねぇ」
ヨレヨレの白衣を着た、どこかマッドなサイエンティストのような雰囲気もある彼女だが、考えることはまともらしい。
「でも、どんな状況なのかな。ここにいるだけだと、やはり飽きてしまうね。せっかくなら何か、面白い話題でもあればいいのだけど……」
脇で聞いていた侍女は(またか)と思いつつ、ゲルタの独り言を聞いている。そろそろ頃合いとしては茶を欲しがる頃だ、なんて思いながら。
「ゲルタ様はハンターの話がお好きですからね。何か、また題材を決めて伺ってきましょうか?」
するとゲルタは意外にも、首を小さく横に振った。
「いやそれが、この間ちょっと面白い話を聞いてね。何でも要塞都市の中に、不審な影を見たものがいるとか、いないとか――」
言いながら、口元を歪ませる。
「いや、夏にふさわしい話題じゃないかい? ちょっとばかり探索に行ってみようかとも思うんだが」
いやそれは、まさか雑魔などの可能性もあるのでは――侍女のハンナは総口にしたかったが、言えば現実になってしまいそうで、口にできない。
「調査も研究者には大切なことだし、たまにはそんなこともいいかなと思ってね。今度の非番の日に、ちょっと行ってみようと思うよ」
●
「――というわけで、主であるゲルタ様が要塞都市内に出たという不審な影を追いたいのだそうです。万が一ということもございますので、どうかハンターの皆様、ゲルタ様の護衛をお願いできませんか」
ハンナは実に、忠実な侍女であった。
――辺境、要塞都市『ノアーラ・クンタウ』。
「ふむ……リゼリオでは大規模な戦いが起きているらしいとは聞いているけどねぇ」
そんなことを言って一つため息を付いたのは、帝国軍属軍医、ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)である。彼女はその任務の性格ゆえ、要塞都市――というか、辺境を離れることが難しい。結果、彼女は他の地域で起きている戦闘でも待機を求められることになるのがほとんどであった。
「辺境に来たのは自分の意志だから別に異論はないのだけどね。でも、医者という立場上、やっぱりけが人が出たと聞くと……ねぇ」
ヨレヨレの白衣を着た、どこかマッドなサイエンティストのような雰囲気もある彼女だが、考えることはまともらしい。
「でも、どんな状況なのかな。ここにいるだけだと、やはり飽きてしまうね。せっかくなら何か、面白い話題でもあればいいのだけど……」
脇で聞いていた侍女は(またか)と思いつつ、ゲルタの独り言を聞いている。そろそろ頃合いとしては茶を欲しがる頃だ、なんて思いながら。
「ゲルタ様はハンターの話がお好きですからね。何か、また題材を決めて伺ってきましょうか?」
するとゲルタは意外にも、首を小さく横に振った。
「いやそれが、この間ちょっと面白い話を聞いてね。何でも要塞都市の中に、不審な影を見たものがいるとか、いないとか――」
言いながら、口元を歪ませる。
「いや、夏にふさわしい話題じゃないかい? ちょっとばかり探索に行ってみようかとも思うんだが」
いやそれは、まさか雑魔などの可能性もあるのでは――侍女のハンナは総口にしたかったが、言えば現実になってしまいそうで、口にできない。
「調査も研究者には大切なことだし、たまにはそんなこともいいかなと思ってね。今度の非番の日に、ちょっと行ってみようと思うよ」
●
「――というわけで、主であるゲルタ様が要塞都市内に出たという不審な影を追いたいのだそうです。万が一ということもございますので、どうかハンターの皆様、ゲルタ様の護衛をお願いできませんか」
ハンナは実に、忠実な侍女であった。
リプレイ本文
●
ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)女史がノアーラ・クンタウに現れたという怪しい黒い影を追いたいらしい。
このご時世においてそのどうにものんきそうな話題は、それでもハンターたちの間でちょっとした話の種となった。
忠実を絵に描いたような侍女のハンナが彼女の護衛になるような人材を募集したのも原因の一つだろう。
そんなわけで好奇心に負けたりなんなり、とりあえず興味を惹かれたハンターたちは、要塞都市の指定された集合場所となっていた喫茶店にしっかり集まっていた。
「こんなに人数がいたら、逆にターゲットが逃げ出してしまうんじゃないかな?」
ゲルタはちょっぴり不満そうな顔だが、これもゲルタの護衛という名目で集まっているのだから、ある意味当然といえば当然である。
「しかし、またノアーラ・クンタウに来てしまいましたか」
そんなことをポツリと苦笑交じりに呟いたのは体格の良いリアルブルー出身の青年、真田 天斗(ka0014)である。しかし彼はそんな表情を出さず、右手をそっと差し出した。
「ハンナさんの紹介で参りました、真田天斗と申します。以後、お見知り置きを」
ゲルタはそんな天斗をじぃっと見つめると、くすりと笑った。
「君、ずいぶん鍛えているようだねぇ。どこぞのドワーフ王なんぞが見れば、きっと喜びそうだ」
ゲルタとしては悪意のない言葉なのだが、天斗としては苦笑を浮かべるばかり。
「でも物好きなお人だなぁ。ま、ウワサの影とやらを暴きに行くとすっかね?」
大したことはなかろうがと思いつつも、そんなことを言ってくつくつ笑っているのはマルク・D・デメテール(ka0219)、孤児院出身の元貴族階級の青年である。口は悪いがこれも責任感や正義感が強いがゆえの裏返しなのだ。
ゲルタの得ている情報は、要塞都市の中に現れた、小柄な黒い影――それくらいだ。何故か下働きのものや商人たちの目撃例ばかり、というのは少し気になるところだが、これもなにか意味があるのだろうか。
「まあ、このようなものは大抵何かの見間違いか悪戯のたぐいとは思いますわ。でも万が一、雑魔の可能性も否定はできませんものね」
銀髪の美しい、どこか幼さの残る中にお嬢様然としたところの見え隠れするミスティ・メイフィールド(ka0782)が、そう小さくため息をつく。
「仕方ありません、手伝って差し上げますわ」
「ありがたいな。では、早速向かおう――」
ゲルタが喜び勇んで歩こうとする。が、ミスティはくすりと口元に笑みを浮かべた。
「皆で聞き込みも良いのですけれど、かったるいですし私は机上で作業していきますわ」
唐突なる安楽椅子探偵発言である。まあ、たしかに人数ばかりいても効率化につながらないこともままあるわけで、それを思えば正しい判断……と言えなくはない。
「じゃ、チームを作ろうか。とりあえず聞き込みに行かないとね」
すっかり素人探偵団といった雰囲気にワクワクしているらしいゲルタが、ふんっと大きく頷いた。
●
そんなわけで、市井に下って捜索することになったゲルタ一行だが――
「なんか面白そうな事件だよなあ。俺も興味があるんだ」
そう言ってまず自ら動いたのはザレム・アズール(ka0878)、帝国軍人の家の生まれだが、まだ若いこともあってか好奇心旺盛な少年である。
「まずは現場百遍ってな。本当、即席探偵団ってカンジだよな」
「だがそれがいい。何しろこう見えて、軍医というのも色々と動きづらい立場でね」
ゲルタが苦笑する。帝国軍に協力しているものの、命を救うべき医師という職業ということもあっていろいろなものをみることがあるのだろう。
「やはりこの世界でも、そういう微妙な立場というのはけっこう苦労しているんだな。いや、久しいねゲルタくん」
軍人という立場にあった天斗やCharlotte・V・K(ka0468)にはなんとなくわかる気がして頷いた。
「でも、黒い影ってなんなのかしら? ちょっと気味が悪いわね……もっとも、誰かのイタズラだったりしたらお仕置きしないといけないけれど」
小さく首をひねっているのは教会育ち――の割にどこかすれたところのある天川 麗美(ka1355)だ。
(それにしても……)
麗美はちらりとゲルタを見て、小さく微笑む。
(ゲルタさんは『名探偵』と『迷探偵』、どちらになるのかしら?)
情報収集に赴いたのは、要塞都市でも商人たちが小さな市場を開いているエリアだった。
なんでも、ここで見かけることが最近増えているらしい。
「そういえば、黒い影――一体どんな条件下で見かけることが多いのかしら」
麗美が首をちょっとだけかしげる。
しかしこれも推理の材料となり得る。もし天気が悪かったり、夜に目撃されることがなかった場合、その影とやらは【飛行するもの】である可能性がある。それがなければ、あるいは小動物のたぐいか。
最近はずいぶんとハンターの間でも動物を飼うことは普及していて、また同時に野良猫や野良犬といった小動物の仕業と考えられなくもない。
「地図は、お借りして、きました」
つっかえつっかえそう言って紙を広げるのは引っ込み思案な少女ロミー・デクスター(ka2917)。
地図には何箇所かに、印が書かれている。どうやらそれは目撃証言のあった場所、ということらしい。
「こうして、地図上の、目撃例のあった地点に小石を置いて、照らしあわせていけば……行動範囲や、次に現れそうな場所の見当が、ついたり……しません、かね……?」
まさかとは思うが、もしも本当になにか怪しい存在の仕業だったとしたら。何よりもそれが恐ろしい。
とりあえず聞き込みに行ってはみたのだが、そこでわかったことは、食料品をその影が奪い去っていくことがあるということだった。
「うーん、けっこう範囲が広いな」
天斗が地図に記されていった目印を何度も確認する。
黒い影の行動範囲は要塞都市に点在していて、一定の法則性は一見見られない、ような気がする。出現パターンについても、日時や天候はあまり問わないらしい。しかし、こまめに短伝話などを通じて安楽椅子探偵担当(?)のミスティに報告してみると、彼女は思いもよらない事を言葉にした。
「これ……もしかして、残飯の多いところじゃありません?」
出現報告が多く記されていたのはレストラン、生鮮食料品店、それに寄宿舎や長屋の隅――。
いわれてみれば、どこも生ごみの多い場所だ。
そうだとすれば、ゴミをあさっている動物という可能性が高いかもしれない。そういうところに好んで生息している虫もいるだろう。いわゆる、口にするのもはばかられるたぐいの――
想像してしまったらしいザレムが、うげっと変な声を思わず上げてしまう。
「な、何にせよ、このまま放置しているわけにも行かないからね。手分けして、見張ってみるのがいいんじゃないかな」
その提案はたしかに悪いものではない。何箇所もある出現ポイントを、一箇所に絞るのは無理があるというものだ。
「最近は目撃例も増えてるって言うし、こういうのは手数が多いほうがいいかもしれねぇけどな……あとは、ちょっと高台とかから見下ろせる場所を見つけておくとか?」
おどけたようなマルクの言葉だが、正論であるゆえに誰からも反論はない。
とりあえず安楽椅子探偵を決め込んでいるミスティを高台担当に、そして他の仲間達で手分けして三箇所に散らばることにした。ミスティからも確認のできる範囲内で、というかたちである。
一箇所は長屋の隅。残飯の多いところ。
一箇所はレストランの勝手口。こちらも生ごみが多い。
そしてもう一箇所は商店街の端である。人通りもあるが、同時にそれだけゴミなどが散らばっている、とも言える。
じゃんけんというプリミティブな手段で別れたハンターたちは、それぞれの担当場所で、そっと待ち伏せを始めたのだった。
●
ロミーは、麗美と組んでレストランのそばで待ち伏せていた。
気弱なロミーとしては、訳の分からない『黒い影』は不安でしかたがない。それでも、どうやら亜人や雑魔、はたまたいわゆる『説明のつかないもの』のたぐいではなさそうだというのがわかっただけでもよしとせねばなるまい。
「目撃者が偏っていたのは……なぜなんでしょうか」
ロミーが気にかかるのは、そこだ。
「うーん。断言はできないけど、生ごみの多いところって言うなら、やっぱり食べ物を漁ってた可能性があるかな、って思ってるのよね。ペットや野良猫の仕業、ってとこかしら?」
生ごみの多い場所に行きがちなのは、どうしても下働きのもの、あるいは自ら商いをしていてそのゴミを処分するもの、そんなところだ。
「……つまり、軍人さんはゴミ捨て場にまで目が回っていなかった……?」
ロミーが尋ねると、麗美が頷く。
「そもそも、軍人などはその黒い影を怪しいものと認識していなかった可能性はあるかもしれないわ。もしそういう黒い影がいても、気に留めなかったのかも」
それはある意味納得の行く発想である。
帝国からの軍人は、そういったことをごく当たり前の事象として受け止めていた可能性は、皆無ではない。
「まあ、もうちょっと見張っていましょ。そのうち尻尾を出すでしょうから」
麗美は小さく笑った。
●
マルクとシャルロッテは長屋の隅に陣取っている。
これまでの予想は短伝話経由ですでに耳にしていた。小動物の可能性が一番高いことなどは、シャルロッテも想像の範疇であったけれど、そんな彼女は今ロープを握っている。
もし見つけたら、ひっ捕まえるつもり満々だ。
「ま、物乞いや盗人のたぐいの可能性も捨てきれねぇが……小動物ならそれほど騒ぎ立てる必要もないし、張り込むのも大丈夫だろう」
もし人間の仕業なら、犯人が張り込みに気づいて近づいてこない可能性もある。緊急性を要する依頼内容でもなく、聞いている限り大きな実害もないわけで、解決についてはゲルタに任せるのがいいだろうというのが彼の印象だった。と、シャルロッテはクックと笑う。
「マルク君はゲルタくんについてはあまり知らないのだっけね。彼女は面白い人だよ、何しろ普段からずいぶんと物好きな御仁としてここらでも有名らしいしね」
つまり、正体が何にしても、色んな意味で油断できないのだ。ゲルタが自分から無茶をしかねないから。
「……変わった奴だな」
「ああ。だが、ハンターへの理解は確かなものだし、異世界への興味故に差別などもない。そういう意味では付き合いやすい御仁だよ」
マルクが苦笑すれば、シャルロッテも笑いを禁じ得なかった。
●
そのゲルタはというと、天斗やザレムと一緒に商店街の端に座っていた。目立つことのないように、気をつけながら。
「目撃情報から私なりに考えて、恐らくドワーフなのではと思ったのですが……」
大真面目な顔でそう言う天斗。かのドワーフ王の豪快な笑顔がチラリと頭をよぎる。確かにドワーフならば辺境にも多く、そこら辺を歩いていても不思議ではない。
「まあ、まさかとは思いますが」
しかしその顔は結構本気と書いてマジである。
「そういえば、ハンターの話も聞きたいってことだけど……医者もハンターも、自分の力を活かして平和を守るっていう意味では同じだよ」
ザレムが呟く。
「ハンターも仕事自体はいろいろだしね。海の魔物と戦ったり、羊を宥めたり。まあ、羊の突撃で体力をかなり削られた時は……って、いやいやそういう話ばっかしに来たわけじゃないんだけど」
ザレムもずいぶんと面白いハンター経験を積んでいるようだ。
「うん。ハンターの仕事はやはり大切なんだと思う。そういう点では医師も変わらないね」
ゲルタも頷いてみせる。
――と。
ひゅっ、と黒い影が目の前を横切った。トン、と天斗の荷物袋に触れ、そのままぴゅっと走り去る。
「あー!」
思わず大声を上げるのはゲルタだ。天斗は目を瞬いたが、すぐに荷物を持って追いかけ始める。
ザレムはさっと手にしていた紙切れ――日刊ヤギダスをゲルタにも手渡した。そしてそれを丸め、
「挟み撃ちにしよう」
そうぽそっと呟く。
短伝話に別箇所にも黒い影が出没したという連絡が出たのは、それとほぼ同時期だった。
●
「複数箇所で、同時に……」
その情報を聞いて、一人推理していたミスティは唸る。
小動物――という線は正しそうだが、展開の早さに目を回さざるをえない。
「皆さん、そいつらを一箇所に追い込みましょう」
鬼が出るか蛇が出るか、楽しみですわね。
簡潔に指示を送ると、彼女もくすりと笑った。
●
追い込むのは小さな路地。
三組のハンターたちもそこへ向かうに連れて合流し、追いかける人の波は膨れ上がる。ノアーラ・クンタウの住人たちも興味深そうに遠巻きに眺めている。
走り去る黒い影複数と、ハンター複数名。それはどう見ても滑稽な捕物帳と言わざるをえない。
しかし、世の中にはこんな言葉がある。
『幽霊の正体見たり影尾花』――。
ハンターたちは、いよいよ黒い影を追い詰めていった。
と。
にゃーん。
そんな可愛い声が聞こえた。
●
「ね、猫……?」
ロミーが声を上げれば、そこにいるのはたしかに猫――黒猫だ。しかも一匹ではなく、十匹ほどはいるだろうか。黒い毛並みに金の瞳、よく似通った彼らはおそらく同じ血を引く猫達なのだろう。最近生まれたらしい子猫が何匹か、可愛らしい声を上げて鳴いている。
「派手なトラップをかけずに見つかってよかったわ。変なことしたら、この子たちも傷ついちゃうものね」
麗美が笑う。天斗は持っていたツナ缶をひとつ開けると、猫たちはわっと押し寄せてきた。
「この子たち、お腹が空いていたんだな。引き取り相手がいれば、こんな妙な騒動にならなかったのかもしれない」
シャルロッテは言いながら、猫の背中をそっと撫でる。人懐っこいところを見ると、人間を恐れているとかそういうことはないようだ。
「にしても猫とはね。こういうのは引取り相手がいればいいんだが。……こいつらも、みなしごなのかもしれねぇし」
孤児院育ちのマルクが、そんなことを言った。と、ゲルタがパッと顔を上げる。
「それなら、私が引き取ろうかな。こういうのを見ちゃうとね、やっぱりそのままというわけにも行かないじゃないか」
ゲルタは医者だ。困っているものを助けるべき存在だ。たとえその困っているのが猫であろうと、やはり手を差し伸べたい――そう思ったのだ。
「ああ、良いのではないですか? 困っているものを助けるのも、きっと私達の役目ですから」
ミスティも柔らかく頷いた。ゲルタは子猫たちの中から一匹抱き上げると、そっと問いかける。
「さて、君の名前は何にしようかな?」
●
小さな黒い影のウワサは、やがて消えていくだろう。
子猫たちのために手をつくした、ハンターたちを褒め称える言葉を残して。
ゲルタ・シュヴァイツァー(kz0051)女史がノアーラ・クンタウに現れたという怪しい黒い影を追いたいらしい。
このご時世においてそのどうにものんきそうな話題は、それでもハンターたちの間でちょっとした話の種となった。
忠実を絵に描いたような侍女のハンナが彼女の護衛になるような人材を募集したのも原因の一つだろう。
そんなわけで好奇心に負けたりなんなり、とりあえず興味を惹かれたハンターたちは、要塞都市の指定された集合場所となっていた喫茶店にしっかり集まっていた。
「こんなに人数がいたら、逆にターゲットが逃げ出してしまうんじゃないかな?」
ゲルタはちょっぴり不満そうな顔だが、これもゲルタの護衛という名目で集まっているのだから、ある意味当然といえば当然である。
「しかし、またノアーラ・クンタウに来てしまいましたか」
そんなことをポツリと苦笑交じりに呟いたのは体格の良いリアルブルー出身の青年、真田 天斗(ka0014)である。しかし彼はそんな表情を出さず、右手をそっと差し出した。
「ハンナさんの紹介で参りました、真田天斗と申します。以後、お見知り置きを」
ゲルタはそんな天斗をじぃっと見つめると、くすりと笑った。
「君、ずいぶん鍛えているようだねぇ。どこぞのドワーフ王なんぞが見れば、きっと喜びそうだ」
ゲルタとしては悪意のない言葉なのだが、天斗としては苦笑を浮かべるばかり。
「でも物好きなお人だなぁ。ま、ウワサの影とやらを暴きに行くとすっかね?」
大したことはなかろうがと思いつつも、そんなことを言ってくつくつ笑っているのはマルク・D・デメテール(ka0219)、孤児院出身の元貴族階級の青年である。口は悪いがこれも責任感や正義感が強いがゆえの裏返しなのだ。
ゲルタの得ている情報は、要塞都市の中に現れた、小柄な黒い影――それくらいだ。何故か下働きのものや商人たちの目撃例ばかり、というのは少し気になるところだが、これもなにか意味があるのだろうか。
「まあ、このようなものは大抵何かの見間違いか悪戯のたぐいとは思いますわ。でも万が一、雑魔の可能性も否定はできませんものね」
銀髪の美しい、どこか幼さの残る中にお嬢様然としたところの見え隠れするミスティ・メイフィールド(ka0782)が、そう小さくため息をつく。
「仕方ありません、手伝って差し上げますわ」
「ありがたいな。では、早速向かおう――」
ゲルタが喜び勇んで歩こうとする。が、ミスティはくすりと口元に笑みを浮かべた。
「皆で聞き込みも良いのですけれど、かったるいですし私は机上で作業していきますわ」
唐突なる安楽椅子探偵発言である。まあ、たしかに人数ばかりいても効率化につながらないこともままあるわけで、それを思えば正しい判断……と言えなくはない。
「じゃ、チームを作ろうか。とりあえず聞き込みに行かないとね」
すっかり素人探偵団といった雰囲気にワクワクしているらしいゲルタが、ふんっと大きく頷いた。
●
そんなわけで、市井に下って捜索することになったゲルタ一行だが――
「なんか面白そうな事件だよなあ。俺も興味があるんだ」
そう言ってまず自ら動いたのはザレム・アズール(ka0878)、帝国軍人の家の生まれだが、まだ若いこともあってか好奇心旺盛な少年である。
「まずは現場百遍ってな。本当、即席探偵団ってカンジだよな」
「だがそれがいい。何しろこう見えて、軍医というのも色々と動きづらい立場でね」
ゲルタが苦笑する。帝国軍に協力しているものの、命を救うべき医師という職業ということもあっていろいろなものをみることがあるのだろう。
「やはりこの世界でも、そういう微妙な立場というのはけっこう苦労しているんだな。いや、久しいねゲルタくん」
軍人という立場にあった天斗やCharlotte・V・K(ka0468)にはなんとなくわかる気がして頷いた。
「でも、黒い影ってなんなのかしら? ちょっと気味が悪いわね……もっとも、誰かのイタズラだったりしたらお仕置きしないといけないけれど」
小さく首をひねっているのは教会育ち――の割にどこかすれたところのある天川 麗美(ka1355)だ。
(それにしても……)
麗美はちらりとゲルタを見て、小さく微笑む。
(ゲルタさんは『名探偵』と『迷探偵』、どちらになるのかしら?)
情報収集に赴いたのは、要塞都市でも商人たちが小さな市場を開いているエリアだった。
なんでも、ここで見かけることが最近増えているらしい。
「そういえば、黒い影――一体どんな条件下で見かけることが多いのかしら」
麗美が首をちょっとだけかしげる。
しかしこれも推理の材料となり得る。もし天気が悪かったり、夜に目撃されることがなかった場合、その影とやらは【飛行するもの】である可能性がある。それがなければ、あるいは小動物のたぐいか。
最近はずいぶんとハンターの間でも動物を飼うことは普及していて、また同時に野良猫や野良犬といった小動物の仕業と考えられなくもない。
「地図は、お借りして、きました」
つっかえつっかえそう言って紙を広げるのは引っ込み思案な少女ロミー・デクスター(ka2917)。
地図には何箇所かに、印が書かれている。どうやらそれは目撃証言のあった場所、ということらしい。
「こうして、地図上の、目撃例のあった地点に小石を置いて、照らしあわせていけば……行動範囲や、次に現れそうな場所の見当が、ついたり……しません、かね……?」
まさかとは思うが、もしも本当になにか怪しい存在の仕業だったとしたら。何よりもそれが恐ろしい。
とりあえず聞き込みに行ってはみたのだが、そこでわかったことは、食料品をその影が奪い去っていくことがあるということだった。
「うーん、けっこう範囲が広いな」
天斗が地図に記されていった目印を何度も確認する。
黒い影の行動範囲は要塞都市に点在していて、一定の法則性は一見見られない、ような気がする。出現パターンについても、日時や天候はあまり問わないらしい。しかし、こまめに短伝話などを通じて安楽椅子探偵担当(?)のミスティに報告してみると、彼女は思いもよらない事を言葉にした。
「これ……もしかして、残飯の多いところじゃありません?」
出現報告が多く記されていたのはレストラン、生鮮食料品店、それに寄宿舎や長屋の隅――。
いわれてみれば、どこも生ごみの多い場所だ。
そうだとすれば、ゴミをあさっている動物という可能性が高いかもしれない。そういうところに好んで生息している虫もいるだろう。いわゆる、口にするのもはばかられるたぐいの――
想像してしまったらしいザレムが、うげっと変な声を思わず上げてしまう。
「な、何にせよ、このまま放置しているわけにも行かないからね。手分けして、見張ってみるのがいいんじゃないかな」
その提案はたしかに悪いものではない。何箇所もある出現ポイントを、一箇所に絞るのは無理があるというものだ。
「最近は目撃例も増えてるって言うし、こういうのは手数が多いほうがいいかもしれねぇけどな……あとは、ちょっと高台とかから見下ろせる場所を見つけておくとか?」
おどけたようなマルクの言葉だが、正論であるゆえに誰からも反論はない。
とりあえず安楽椅子探偵を決め込んでいるミスティを高台担当に、そして他の仲間達で手分けして三箇所に散らばることにした。ミスティからも確認のできる範囲内で、というかたちである。
一箇所は長屋の隅。残飯の多いところ。
一箇所はレストランの勝手口。こちらも生ごみが多い。
そしてもう一箇所は商店街の端である。人通りもあるが、同時にそれだけゴミなどが散らばっている、とも言える。
じゃんけんというプリミティブな手段で別れたハンターたちは、それぞれの担当場所で、そっと待ち伏せを始めたのだった。
●
ロミーは、麗美と組んでレストランのそばで待ち伏せていた。
気弱なロミーとしては、訳の分からない『黒い影』は不安でしかたがない。それでも、どうやら亜人や雑魔、はたまたいわゆる『説明のつかないもの』のたぐいではなさそうだというのがわかっただけでもよしとせねばなるまい。
「目撃者が偏っていたのは……なぜなんでしょうか」
ロミーが気にかかるのは、そこだ。
「うーん。断言はできないけど、生ごみの多いところって言うなら、やっぱり食べ物を漁ってた可能性があるかな、って思ってるのよね。ペットや野良猫の仕業、ってとこかしら?」
生ごみの多い場所に行きがちなのは、どうしても下働きのもの、あるいは自ら商いをしていてそのゴミを処分するもの、そんなところだ。
「……つまり、軍人さんはゴミ捨て場にまで目が回っていなかった……?」
ロミーが尋ねると、麗美が頷く。
「そもそも、軍人などはその黒い影を怪しいものと認識していなかった可能性はあるかもしれないわ。もしそういう黒い影がいても、気に留めなかったのかも」
それはある意味納得の行く発想である。
帝国からの軍人は、そういったことをごく当たり前の事象として受け止めていた可能性は、皆無ではない。
「まあ、もうちょっと見張っていましょ。そのうち尻尾を出すでしょうから」
麗美は小さく笑った。
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マルクとシャルロッテは長屋の隅に陣取っている。
これまでの予想は短伝話経由ですでに耳にしていた。小動物の可能性が一番高いことなどは、シャルロッテも想像の範疇であったけれど、そんな彼女は今ロープを握っている。
もし見つけたら、ひっ捕まえるつもり満々だ。
「ま、物乞いや盗人のたぐいの可能性も捨てきれねぇが……小動物ならそれほど騒ぎ立てる必要もないし、張り込むのも大丈夫だろう」
もし人間の仕業なら、犯人が張り込みに気づいて近づいてこない可能性もある。緊急性を要する依頼内容でもなく、聞いている限り大きな実害もないわけで、解決についてはゲルタに任せるのがいいだろうというのが彼の印象だった。と、シャルロッテはクックと笑う。
「マルク君はゲルタくんについてはあまり知らないのだっけね。彼女は面白い人だよ、何しろ普段からずいぶんと物好きな御仁としてここらでも有名らしいしね」
つまり、正体が何にしても、色んな意味で油断できないのだ。ゲルタが自分から無茶をしかねないから。
「……変わった奴だな」
「ああ。だが、ハンターへの理解は確かなものだし、異世界への興味故に差別などもない。そういう意味では付き合いやすい御仁だよ」
マルクが苦笑すれば、シャルロッテも笑いを禁じ得なかった。
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そのゲルタはというと、天斗やザレムと一緒に商店街の端に座っていた。目立つことのないように、気をつけながら。
「目撃情報から私なりに考えて、恐らくドワーフなのではと思ったのですが……」
大真面目な顔でそう言う天斗。かのドワーフ王の豪快な笑顔がチラリと頭をよぎる。確かにドワーフならば辺境にも多く、そこら辺を歩いていても不思議ではない。
「まあ、まさかとは思いますが」
しかしその顔は結構本気と書いてマジである。
「そういえば、ハンターの話も聞きたいってことだけど……医者もハンターも、自分の力を活かして平和を守るっていう意味では同じだよ」
ザレムが呟く。
「ハンターも仕事自体はいろいろだしね。海の魔物と戦ったり、羊を宥めたり。まあ、羊の突撃で体力をかなり削られた時は……って、いやいやそういう話ばっかしに来たわけじゃないんだけど」
ザレムもずいぶんと面白いハンター経験を積んでいるようだ。
「うん。ハンターの仕事はやはり大切なんだと思う。そういう点では医師も変わらないね」
ゲルタも頷いてみせる。
――と。
ひゅっ、と黒い影が目の前を横切った。トン、と天斗の荷物袋に触れ、そのままぴゅっと走り去る。
「あー!」
思わず大声を上げるのはゲルタだ。天斗は目を瞬いたが、すぐに荷物を持って追いかけ始める。
ザレムはさっと手にしていた紙切れ――日刊ヤギダスをゲルタにも手渡した。そしてそれを丸め、
「挟み撃ちにしよう」
そうぽそっと呟く。
短伝話に別箇所にも黒い影が出没したという連絡が出たのは、それとほぼ同時期だった。
●
「複数箇所で、同時に……」
その情報を聞いて、一人推理していたミスティは唸る。
小動物――という線は正しそうだが、展開の早さに目を回さざるをえない。
「皆さん、そいつらを一箇所に追い込みましょう」
鬼が出るか蛇が出るか、楽しみですわね。
簡潔に指示を送ると、彼女もくすりと笑った。
●
追い込むのは小さな路地。
三組のハンターたちもそこへ向かうに連れて合流し、追いかける人の波は膨れ上がる。ノアーラ・クンタウの住人たちも興味深そうに遠巻きに眺めている。
走り去る黒い影複数と、ハンター複数名。それはどう見ても滑稽な捕物帳と言わざるをえない。
しかし、世の中にはこんな言葉がある。
『幽霊の正体見たり影尾花』――。
ハンターたちは、いよいよ黒い影を追い詰めていった。
と。
にゃーん。
そんな可愛い声が聞こえた。
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「ね、猫……?」
ロミーが声を上げれば、そこにいるのはたしかに猫――黒猫だ。しかも一匹ではなく、十匹ほどはいるだろうか。黒い毛並みに金の瞳、よく似通った彼らはおそらく同じ血を引く猫達なのだろう。最近生まれたらしい子猫が何匹か、可愛らしい声を上げて鳴いている。
「派手なトラップをかけずに見つかってよかったわ。変なことしたら、この子たちも傷ついちゃうものね」
麗美が笑う。天斗は持っていたツナ缶をひとつ開けると、猫たちはわっと押し寄せてきた。
「この子たち、お腹が空いていたんだな。引き取り相手がいれば、こんな妙な騒動にならなかったのかもしれない」
シャルロッテは言いながら、猫の背中をそっと撫でる。人懐っこいところを見ると、人間を恐れているとかそういうことはないようだ。
「にしても猫とはね。こういうのは引取り相手がいればいいんだが。……こいつらも、みなしごなのかもしれねぇし」
孤児院育ちのマルクが、そんなことを言った。と、ゲルタがパッと顔を上げる。
「それなら、私が引き取ろうかな。こういうのを見ちゃうとね、やっぱりそのままというわけにも行かないじゃないか」
ゲルタは医者だ。困っているものを助けるべき存在だ。たとえその困っているのが猫であろうと、やはり手を差し伸べたい――そう思ったのだ。
「ああ、良いのではないですか? 困っているものを助けるのも、きっと私達の役目ですから」
ミスティも柔らかく頷いた。ゲルタは子猫たちの中から一匹抱き上げると、そっと問いかける。
「さて、君の名前は何にしようかな?」
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小さな黒い影のウワサは、やがて消えていくだろう。
子猫たちのために手をつくした、ハンターたちを褒め称える言葉を残して。
依頼結果
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相談卓ー 天川 麗美(ka1355) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/09/03 22:28:49 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/30 20:38:03 |