復讐鬼

マスター:nao

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/11 07:30
完成日
2016/06/15 00:18

みんなの思い出

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オープニング

●惨劇
 爽やかな鳥のさえずりが鼓膜を揺らし、見上げた空には光と闇の境界線が曖昧に溶けて混じり合っていた。
 ……やがて。空には光が広がり、徐々に闇を飲み込んで……薄っすらと白みが増す。夜明けだ。
 朝も早いその時間を、商人の夫婦とまだ少年と呼べる子供、そして三人の護衛が歩いていた。一行が歩くのは街道……しかし途中、切り立った崖などの道幅の狭い悪路があり、低級とはいえ雑魔との遭遇率も低くない為、馬での移動はあまり推奨されていなかった。
 騎乗スキルが低い者が、崖付近で雑魔に襲われた際、馬ごと崖下へ真っ逆さま……そんな事故が多発しているからだ。
 次の街までそう遠くないのもあり、馬を繰るのが苦手な者の選択肢の一つに『護衛をつけ、夜明け前に街を発つ』というのがある。今のこの商人達だ。
 ――と。商人達が先を急いでいると、前方から三人の護衛に囲まれた一人の男が歩いてきた。二組の距離がゆっくりと近付いていく。……そして、すれ違う間際、
「どうです、そちらは。雑魔と遭遇されましたか?」
 男を囲んでいた護衛の一人が、目礼と共に商人達が雇った護衛へ問うた。軽い挨拶と、情報交換だ。
「いや、平和なものだ。警戒は怠れないが、静かなものだったぞ」
 商人達の護衛が、微かに肩の力を抜いて応えた――その瞬間、雲間から差し込んだ朝日に反射し、ふわりと銀光が瞬いた。
「……ぇ?」
 問うた護衛の腕が鋭く振り切られ――その手に握られていたのは、磨き抜かれた抜き身の短刀。一瞬後、応えた商人達の護衛の首が『信じられない』という面持ちで宙を舞った。首と胴の切断面が、断末魔の如く盛大に鮮血を噴き出し、ビシャビシャと大地を叩く。
「「……なッ!?」」
 完全に虚を突かれた商人達の護衛が身構えるより数段素早く、野盗と化した男達がそれぞれ武器を抜き、俊敏に襲い掛かるッ。……そして、二分後。
 地面には、おびただしいほどの鮮血に飛び散った臓物、そして肉の破片が大量に散乱していた。凄惨に切り刻まれた五つの死体がバラバラに混ざり合い、薄く湯気を上げている。
「……ぅぁ、ぁッ」
 少年は噎せ返り……口に手を当てて眼を見開き、声にならない悲鳴を漏らす。その全身はガクガクと小刻みに震えていた。
「よっし、これだけバラせば血の臭いに惹かれて、証拠もろとも雑魔が喰らってくれるだろ。この辺りの雑魔は人の血に敏感だからな。おい、金目のものは回収したか?」
「あぁ、したぜ。……っと、そっちのガキはバラさないのか?」
「必要ねぇだろ。こいつ、固まっちまってるぜ。後は雑魔がこいつも喰らってくれるだろうさ。俺達はさっさとずらかるぞ」
 野盗達は手馴れた様子で荷を纏め、その場から素早く撤退した。
 少年は固まったように動けない。
 遠くから小さく、飢えた獣のような獰猛な唸りが響いてくる。
 少年は固まったように動けない。
 飢えた獣のような獰猛な唸りが大きくなり、その息遣いまでもが少年の鼓膜をぶっ叩く。
 少年は――

●依頼
「……頼むッ。奴らを殺してくれッ!」
 全身生傷だらけの少年は涙を流し、懇願するように泣き叫んだ。その瞳は深い悲しみと殺意、そして煮え滾らんばかりの嚇怒の炎でギラギラと濡れ光っている。
「俺は、奴らを許せないッ。絶対にッ! 親が『復讐を望んでない、俺に手を穢すな』と言うだろう事も解ってるッ。それでも、俺は――許せないッ!」
 ダンッ、と拳をテーブルへ強く叩きつけ、少年は慟哭混じりで訴える。叩きつけられた拳には、数枚の紙が握られていた。
「これを見てくれ。ここ数ヶ月であの街道で起きた不審死だ。あいつらと同じ手口の、不審死だッ! ……捕まえるだけじゃ駄目かって? 甘いッ。甘いよ! この一帯を仕切る領主は、金に甘く腐ってやがるッ。金を握らせれば『雑魔に襲われた死体から金品を抜き取っただけ』とか改竄して、すぐ野放しにされるに決まってるッ! そして、放されたあいつらは――場所を変えて、きっとまた繰り返す! 奴らが生きてる限り、俺みたいな被害者がこれからも増え続けるッ! これまでだって、あいつらに泣かされた奴らは……こんなにも、居るッ!」
 少年は感情のまま絶叫し、広げた紙の上へ涙を零す。
「頼むッ。俺はあいつらを絶対に許せないッ! あいつらを殺さないと……先へ、進めない。……頼、むよ」
 少年は首を折るように項垂れ、低く掠れたような涙声で懇願した。

リプレイ本文

●出発
「ねぇ。本当に君が手を下さず、あたし達が賊を始末しちゃっても良いの? それで君は、本当に前に進める様になる……?」
 メイルと名乗った少年の傷を癒し……エルシス・ファルツ(ka4163)はその手を取り、視線を合わせるように屈みこんだ。メイルの瞳が、困惑に揺れる。
「着いて行って、いいのか……? 俺の手で決着をつけても? 俺は、弱い……自分で殺せるなら依頼なんかしていない。邪魔になるだけだぞ?」
「大丈夫です、その場合はきちんと護衛しますよぅ? 私たちがどうするか、その目で確認しませんかぁ」
 驚いたように問うメイルへ、星野 ハナ(ka5852)は力強い口調で請け負った。
「頼む」
 メイルは短く答える。短いながら、血を吐くような悲壮な決意をそこに感じ……ハナとエルシスは静かに頷いた。

「これが私達の仕事ですからね……。依頼人の心の平穏の為に……」
 メイルの隠れる為に借りた小さな荷馬車が、砂利や砂埃を巻き上げている。小さく響くその音に耳を傾けながら、護衛に扮したサクラ・エルフリード(ka2598)は複雑な心境で呟いた。その感情の根底は『メイルの手を血で穢したくない』という強い想い。
「向こうに居た頃、俺に依頼を持ち込んでくる奴は皆、あんな目をしていた。憎い、憎い、殺したい程憎い……だから殺して欲しい。この時勢、そんな感情を知らないで生きられたら幸せだろうな」
 商人に扮したヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)が、サクラの呟きへ応えるように口にする。その視線は護衛に扮し、メイルを気遣う二人に向けられていた。ハナは戦馬を繰りながらメイルへ小声で語りかけ、エルシスも同じように気遣っている。
(救済を望むのなら私はそれにただ答えるだけ。神は居ない、残酷な現実はただ目の前にあり続ける)
 ヴィントと並んで商人に扮し、その隣を粛々と歩くアスタリナ・シメイス(ka6296)は、仄暗い殺意を瞳へ滲ませ、静かな物思いにふける。己の過去と、少年の境遇を僅かに重ね……『野盗を必ず救済してやろう』と、唇が三日月状の弧を描いた。
 ――と、その時。
 前方から歩いてくる三人の護衛に囲まれた一人の男が、ハンター達の視界へ小さく映った。
 ……やがて。二組の距離が徐々に縮まり……初めは小さな人影にしか映らなかった四つの人影が、ゆっくりと輪郭を結び、その風貌までもがはっきりと捉えられた。ハンター達は微かに息を呑む。
 人数、聞いた風貌共に一致し……ほんの一瞬、緊張した空気が包むも、相手に気取られぬよう直ぐに霧散させる。
(彼らを殺せ、と。至極単純明快、わかりやすいご依頼ですね。あまり穏やかではないけれど……そのような感情、嫌いではありません)
 護衛に扮した女性、ノエル・ウォースパイト(ka6291)は、アスタリナと同じく、少年の境遇を己の過去に照らし合わせ……今にも口元に浮かびそうになる獰猛な感情を抑え、にっこり微笑む。それは、狂おしいほどの激情の裏返し。
 ……そうして。
 ハンター達は最大限の警戒に身を包み、真っ直ぐ前を進んだ。

●戦闘開始
「どうです、そちらは。雑魔と遭遇されましたか?」
 二組の距離が近付いて、すれ違う間際……先頭を歩くサクラへ、男を囲んだ護衛の一人が気さくな口調で問い掛けた。
「えぇ、こちらは遭遇し、」
 サクラが最後まで言い切る前に、朝日に反射して流れる銀光が、サクラの首元へ鋭く伸び上がった。サクラは素早く身を沈め、構えた盾を一気に押し上げる。ガギィンッと耳に痛い金属音が響き、盾が短刀を跳ね上げ――サクラは瞬時でガンソードを引き抜き、轟音が爆発した。
 凄まじい勢いで発射された鉛玉は、眼前の野盗の顔面へ喰らいつこうと唸りを上げる――が、野盗は咄嗟に仰け反り、銃弾は頬を掠めるに留まった。野盗の頬から鮮血が滴り、地面に赤い点を穿つ。
 今の攻防を目にし、野盗達に細波のような動揺が広がる……が、
「うろたえるな、てめぇらッ! こうなったらやる事は一つだろうがッ! この状況……おそらく、その商人達も手練れだ!」
 頬から鮮血を滴らせた野盗が一喝する。響く一喝に、野盗達は静まり……素早く武器を引き抜き、それぞれ荷馬車を囲むように散開した。
「……ふん、なるほどな。銃撃に対する反応速度に、その状況把握能力。貴様が頭か」
 両手をだらりと下げ、ヴィントは震えたような口調で言う。浮かべた笑みは僅かに引き攣り……それは油断を誘う演技と、幾ばくかの悔しさの表れだった。悔しいが、今の自分ではまだこいつに太刀打ちできないと理解し……情報を得るのに生かしておくのは、こいつ一人で充分だとも理解する。
「お前達の企みわぁ、まるっとお見通しですよぅ?」
「そうだぞ。あれだけ派手にやっといて、足が付かないと思ってたの?」
 荷馬車との距離を慎重に測りながら、ハナとエルシスは一瞬で身構え、野盗達を鋭く睨めつけた。二人の双眸には、燃えるような闘志が爛々と渦巻いている。
「さて、これはおまえ達の因果応報。とはいえ、嬲る趣味はありません。全力で葬ってあげるわ」
 ノエルは静かな……しかし、隠し切れない嫌悪を舌に乗せ、刀を引き抜いた。主の殺意に反応したかの如く、雲間から差し込む陽の光に反射して、刀身がギラリと輝く。
「綺麗な綺麗な、紅に染めてあげる。死化粧の代わりに鮮血を散らして、綺麗に彩って救済してあげる」
 長い灰色の髪から覗く瞳に殺意を漲らせ、アスタリナは細長い杖を緩やかに掲げる。『死』が『救済』と読み取れるその言葉に、野盗達が訝しげに首を傾げた……途端、ハンター達は一斉に野盗達へ襲い掛かった。
 サクラとハナとエルシスは単独で、ノエルにヴィントにアスタリナは結束し――開戦の火蓋が切って落とされた。

●それぞれの戦い
 サクラは上体を沈め、地を蹴り抜く勢いで、先の攻防で仕留め損ねた野盗頭へ襲い掛かった。
 彼我の間合いが一瞬で消失し――サクラは野盗頭の懐深くまで踏み込み、弾丸の勢いで柄を跳ね上げた。跳ね上がった柄が野盗頭の下顎を強烈に打ち据え、その身を大きく仰け反らせる。衝撃で噛み砕かれた歯が、血飛沫と共に宙を舞った。
 野盗頭は目を白黒させながら、今にも途切れそうな意識を必死で繋ぎ止める。次いで無理な体勢から身を捻り、強引に斬撃を繰り出す……が、手応えはなく、突き出した短刀は虚空を切った。次いで、伸びきった腕を反射的に引き戻そうとした間際、
「数々の非道な行為、許してはおけません。因果応報……自らが行った行為の非道さ、身を持って知りなさい」
 サクラの冷たい呟きが耳朶を叩いた。と、同時、サクラは低く身を旋回させ、ガンソードを横殴りに走らせる。遠心力を上乗せした剣の腹が、銀の軌跡と化して野盗頭の頭蓋をぶっ叩き――野盗頭の意識は暗転した。

 エルシスは地を滑るように疾走し、野盗との距離を詰める。誘うように距離を詰めたエルシスに、野盗は一歩を踏み込み、大上段へ構えた戦斧を一気に斬り下ろした。
 空を引き裂き、視界一杯に迫る戦斧の煌めきをエルシスは冷静に見極め――半身となって跳躍し、宙を回転、軽やかな体捌きで野盗の背後へ降り立つ。戦斧に巻き込まれた赤髪が数本舞い散り、ふわりと風に流れた。
「……ふッ!」
 野盗が翻るより早く、エルシスは地を這うような低い姿勢から、黄金の刀身を横薙ぎに振り抜いた。繰り出した切っ先が伸び上がるような斬閃と化し、野盗の軸足、その腱を断ち斬る。鮮血が噴き出し、びしゃりと大地を叩いた。
 それは狙い済ましたような正確な斬撃。
「ぐぅぁッ!?」
 身を襲う激痛に野盗が怯んだ瞬間、エルシスは素早く上体を浮かし、背後から縦横無尽に剣撃を走らせた。刃は寝かせ、剣の腹で叩くよう意識の淵で留意する。
 刹那、宙を駆け抜ける無数の剣閃が、野盗の全身をぶっ叩き……そして、決着した。

 ハナは一瞬で荷馬車へ戻れる距離、そしてその位置から充分に攻撃できる野盗を見極めて戦馬で疾駆し、中空で両腕を振り被った。その両手には、淡い赤に発光する数枚の符が、今にも放たれようと握られ……標的となった野盗は逸早く察し、構えた槍を凄まじい勢いで繰り出した。
 槍の穂先が二条に分裂し、銀の残像すら生み出す連撃となってハナの胸元へ跳ね上がる――が、その間際、それ以上の神速で放たれた数枚の符が野盗を取り囲んだ。瞬間、野盗を覆うように結界が生まれ、眩いばかりの光が爆発した。
「ギィァッ!?」
 爆発した光は、野盗の全身を激しく蝕み……肉がブスブスと焼け焦げる音と共に、不快な臭気が立ち込める。堪らず野盗は悲鳴を上げ、繰り出した槍撃がショックで緩んだ。その緩んだ槍撃を、ハナは身を捩って難なく避わし、
「安心してください、まだ殺しませんからぁ。最終的にどうするかはメイル君の決める事ですしぃ」
 どこか間延びした声と共に、再度、結界内へ光を爆発させる。
 ……そして。光の爆発は、野盗の全身が焼け爛れ、瀕死になるまで続けられた。

 ノエルにヴィントにアスタリナは、それぞれ野盗の正面、左右へ素早く散開した。己を取り囲むよう半円状へ分かれる三人に、野盗の構えた長剣の剣先が微かに揺れる。
『誰を標的にするか迷っている』
 三人は瞬時で看破し、その隙を突いて先手を取る。
 正面へ疾走したノエルが急激に速度を緩め、薄く目を閉じて深く息を吸い込み……右側面へ回り込んだヴィントの赤瞳が妖しく輝き……左から懐深くまで肉迫したアスタリナが、抜き放った漆黒の刃を天高く構える。
 刹那、意識から護りを捨てたアスタリナの剣撃が、豪風を纏って唐竹割りに斬り下ろされ――野盗は反射的に長剣を跳ね上げ、迫り来る刃へ叩き付けた。ガギィンッ、と耳に痛い剣戟音が鳴り響く。
 野盗の上体が斜めに崩れ……そこへ至近距離まで飛び込んだヴィントが、流れるように銃を抜き放つ。轟音が響いた。
 マテリアルの篭もった弾丸が、鋭く風を切って野盗の顔面へ迫り……野盗は崩れた体勢から無理に首を捻り、致命傷を避ける。弾丸は野盗の頬肉をごっそり抉り取り、肉片と鮮血が宙を舞った。そこへ間髪いれず、間合いを詰めたノエルが追撃――抜刀した切っ先が一条の銀閃と化し、苛烈な勢いで野盗の胴へ喰らいつく。
「ぐぅッあぁッ! た、助けて!」
 千切れかかった胴から臓物と血飛沫を撒き散らし、野盗の口腔から悲鳴と懇願が爆発する。それを三人は嫌悪に憎悪、怒りのままに黙殺した。
「そうやって命乞いをした人を、おまえは何人殺したのでしょうね」
「……命乞いなんて興味ない。救われたらいいよ」
「頭を生かせば、貴様は必要ないな」
 ノエルは呆れ混じりに、アスタリナは冷たく、ヴィントは淡々と言い捨て……そしてノエルの刀が銀の弧を描き、アスタリナの漆黒の刃が振り下ろされ、ヴィントの構えた銃口が火を噴いた。

●真相と選択
「さて、答えろ。貴様等は単独で動いていたのか? それとも、この一帯を仕切る領主と繋がりがあるのか?」
 生け捕りにした野盗三人……その中で、野盗頭と思われる者の額へ銃口を押し当て、ヴィントは冷たい口調で尋問する。
「……単独、領主?」
 歯が数本砕け、怪しい発音ながらも野盗頭は小さく反芻した。
「あなた達が奪った金品と、領主に繋がりはあるのかと聞いているのです。さっさと吐いた方が身の為ですよ?」
 サクラはにっこり微笑み、野盗頭を見下ろす。その微笑みに恐怖を覚えたのか、野盗頭の身体がびくんと震えた。 
「ぁ、あぁ。それを疑ってんのかよ。違う、逆だぜ、逆」
「……逆って。それは一体、どういう意味なのかな?」
 エルシスは不思議そうに問う。
「ここを仕切る領主は保身が高い……臆病とも言えるがな。が、金には汚い。だから俺達と繋がるようなリスクの高い事はしねぇ。だが、だからこそだ。俺達と繋がってないからこそ、薄い証拠で俺達が捕まれば……おそらく金で見逃してもらえる。初めから繋がってないから、領主は己に咎がないよう目論めると思ってんだろうな。それにここは辺境だし、そうそう他権力も介入して来ねぇ。こういう条件なら俺達も都合が良い。だからここを選んだのさ」
 サクラにヴィント、エルシスは野盗頭を観察、そして残りの野盗達の反応を窺うも、嘘を言っている様子はなく……三人は短く吐息をついた。
「じゃあ今度はこっちの問題ですねぇ。メイル君、今なら刺すだけで死にますけどどうしますぅ?」
 ハナはメイルを呼び寄せ、その手にナイフを握らせた。メイルは憤怒と殺意を相貌へ孕ませ、射るように野盗達を睨む。野盗達は胡乱そうにメイルを見やり……突如、苦虫を噛み潰したように頬を歪ませた。
「てめぇか……。くそッ、生き残ったのか」
 野盗頭は忌々しげに舌打ちする。
 メイルは無言でナイフを振り上げ、そして振り下ろす。何度も何度も……振り上げては振り下ろす。その度に鮮血が飛び散り、野盗達は痛みに絶叫した。
 ……やがて。返り血に塗れたメイルの手が止める。
 野盗達の身体には大きな穴が幾つも開き、そこから止め処なく血が溢れ続けた。が、傷は手足だけで致命傷ではない。
「どうして俺が生き残れたか解るか?」
「ぁ?」
 憎悪を吐き出すメイルに、野盗は絶え絶えに答える。
「俺の両親や護衛を喰ってる間、雑魔は俺に目もくれなかった。血の臭いに敏感だからな。……だから俺は逃げられた。お前達は、生きながら喰われちまえッ!」
 最後は血を吐くように絶叫し……その数秒後、遠くから獣のような咆哮が小さく響いてきた。その場の全員がメイルの意図を理解し、野盗達は青褪める。
 ……そして、十分後。
 そこに生きているのはハンター達とメイルだけだった。雑魔は殲滅され、野盗達の屍は見るも無残に喰い散らかされている。
「ちゃんと救済できた。悪党でも、綺麗な紅に染まれば綺麗だね」
 アスタリナは地に広がる惨状から目を背けずに微笑む。小さく流れる風が、アスタリナの髪を優しく揺らし……そこから覗いた瞳は、ほんの微か、涙に潤んでいた。
「こうして手を下した以上、あなたも『人殺し』の一人。それだけは、ゆめゆめお忘れなきように」
「人を殺す事が悪いんじゃなくて、人を苦しめる事が悪いんですぅ。殴られたら殴り返すのも悪い事じゃないですぅ。ご家族は自分達の為の怒りを全否定なんてしませんよぅ。愛してるんですからぁ」
 ノエルは厳かに宣告し、ハナは励ますように笑う。
「ありがとう。今までは憎しみに押し潰されて駄目だったけど……ようやく、両親の死を悲しめるよ」
 ボロボロと大粒の涙を零すメイルに、ハナはそっとハンカチと羽ペンを差し出した。困った時はいつでもこれで依頼してください、そう言葉を添えて。
 メイルは言葉もなく涙し……その場にはメイルの嗚咽だけが悲しく響き続けた。
 ハンター達はただ黙って、メイルを見守っていた。

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MVP一覧

  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 不撓不屈の黒き駒
    エルシス・ヴィーノ(ka4163
    人間(紅)|24才|女性|疾影士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイト(ka6291
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士

  • アスタリナ・シメイス(ka6296
    人間(紅)|14才|女性|闘狩人
  • 白腕の13
    ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346
    人間(蒼)|18才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/07 02:09:17
アイコン 相談卓
ノエル・ウォースパイト(ka6291
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/06/09 01:06:07