夢のアイドルフェス!

マスター:チャリティーマスター

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/06/13 22:00
完成日
2016/06/26 22:49

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 クリムゾンウェストに一人の男が居た。彼は一つの夢を抱いていた。それはアイドル、クリムゾンウェストに居るあらゆるアイドル達に集ってもらい、共演する夢の祭典を開くことだった。
 しかしそれには様々な障害があった。何処を会場にするのか、どうやって人を整理するのか、何より誰に出てもらうのか。
 クリムゾンウェストには様々なアイドルが居るが、その中でもツートップとも言えるのがナナ・ナインとグリューエリン・ヴァルファーだ。もしアイドル達を集めたイベントを開くというのであれば、この二人に出てもらわなければ話が始まらない。しかしそれが問題だった。
 ナナ・ナインと言えばクリムゾンウェストのトップアイドル。スケジュールは2年先まで埋まっているという噂まである。どうやってスケジュールを確保するというのか。
 グリューエリン・ヴァルファーはアイドルであるが、同時にれっきとした帝国軍人である。軍人としての立場が優先される。そんな彼女にどうやって出演の話を持っていけば良いのか。
 そして何より、帝国はナナの事を嫌っているという噂があった。アイドルの力を歪虚との戦いにも活かすべきだと考える帝国と、あくまで人々を楽しませることを最優先し、誰かに縛られることを嫌うナナ。一言で言えば水と油だった。
 男の夢は、タダの夢物語で終わるはずだった。


 しかしその夢はかなった。リゼリオからしばらく山中へ向かったなだらかな広場、そこに特設ステージが用意されている。この草原こそが観客席であった。
 そしてナナとグリューエリン、この二人が居た。様々な偶然と幸運が重なり、今、確かに二人はこの同じ場所に居た。
 夢の始まる時間は刻一刻と迫っている。そんな中、君たちはこの場所に様々な立場で居る者たちだ。これから始まる夢の時間を、目一杯感じていただきたい。

リプレイ本文


 奇跡が重なって実現することに成った、まさに夢のアイドルフェス、その会場となった草原はその夢の瞬間を見届けるべく、数多くの人で賑わっていた。ここが数日前まで静かな緑の絨毯であったことを信じられようものか。
「アイドルフェスが面白いらしいから来てみたけど……凄いな」
 そんな熱気を目の当たりにして、玉兎 小夜(ka6009)は驚いていた。そして彼女は隣りにいた遠藤・恵(ka3940)に話しかける。
「ライブなんてはじめてだよ、私! 場違い感半端ないから多分記憶失う前でも来たことないよ!」
 一方の恵は付き合いとはいえ数回ライブに行ったことがある。だから今日は彼女をリードしようと決意する。そんな所に小夜が言葉を続けた。
「迷子になりそうだから手握ってい?」
「ええ!勿論ですっ。ありがとうございますね♪」
 恵は即答するとすぐさま手を絡ませ、いちゃつき始める。
(今日は初めてのデート♪ 思いっきりいちゃいちゃしましょうね)
(なかなか楽しそうなデートができそうだよ)
 二人はこの夢の時間を、デートの時間にしようと決めていた。そんないちゃつきながら歩く二人の前に立ち並んだ屋台が見えてくる。甘いものが好きな恵と、その事を知っている小夜が選ぶのはクレープの屋台だ。
「私はブルーベリーにしましょう。小夜さん、ストロベリーどうですか?」
「ストロベリーか! 好きだよ!」
 程なく二人に渡されたクレープを一口食べ、小夜は
「恵さん、食べっこする?」
 そうやって交換して互いに間接キスを交わしながら、本番の時を待つのであった。


 そして時が進み、陽が地平線の向こうに沈み始めた頃、いよいよ持って押しかけた人々がステージ前に陣取り、今にも堰を切ってステージ上に雪崩込みそうになっていた。それを押しとどめていたのはステージ前に陣取る警備員達。その中心には鼻下を斬り落とした能面を付け、帯刀しさらに抑止力としてハンドガンを見せつけるように装備している星輝 Amhran(ka0724)が立っていた。ここまで物々しい装備をしているが、そこまでしなくてもステージ周囲には彼女が張り巡らせたワイヤートラップが仕掛けられている。しかし念には念を入れてここまでの警備を行う彼女、そしてその部下の警備員79人が立ち並ぶ。
 そんな警備員たちなのだが、これもまた皆可愛らしい女性たちであった。
 実は彼女たちの正体はナナの妹的アイドルグループ、79シスターズであった。彼女たち79人は「身近に会って、話せるナナちゃん」をコンセプトとし、ナナを目指し超えるため活動するグループ。活動資金も自給自足。その一環として今日は警備員のバイトをしているのであった。
「ナナ姉さまをいつか超えるのですっ」
 そんな彼女達のリーダー的存在がUisca Amhran(ka0754)。彼女自身も警備隊長のキララの妹である。そんな彼女が憧れの目でステージ上を見つめていた頃、一人の男がステージ中央に進み出た。
「さぁ準備は良いかよ狂信者共!」
 男はありったけの声で叫ぶ。彼の名はジャック・J・グリーヴ(ka1305)。
「今をときめくアイドル達の競演、アイドルフェスねぇ……そんな激熱なモン、参加するに決まってんだろが!」
 と一も二もなく司会を買って出たのであった。
「今日みてえな日を迎えられるたぁ俺様も思わなかったぜ! 下手すりゃ明日は世界滅亡だ!」
 そしてジャックは一つ溜めると、一段と大きな声で叫ぶ。
「でもそんなん今この場にいる俺様らにゃ関係ねえよな? 今この時を最高に楽しもうぜ!」
 その声に観客達が大歓声で持って答え、夢のアイドルフェスは始まった。


「最初から飛ばしていくぜ! まずはナナの妹達、79シスターズの登場だ!」
 ジャックの紹介とともにイスカを先頭に、今の今まで警備員をしていたメンバーがステージに上がりだす。その数総勢79人。これだけ並べば流石にこれだけ大きいステージでも一杯一杯である。
「かわいいアイドル、だぁい好き!みんな頑張って!!」
 警備員だったと思ったらアイドルだったという驚きの演出に観客があっけにとられている中、ベベベール・ベールル(ka6336)は最前列からステージ上に精一杯の声を上げていた。彼女は最前列を確保するため早朝、まだ暗いうちから場所取りにやって来ていた。体力的にも大変だったが、そんなこともかわいいアイドルの姿を見れば一発で吹き飛ぶ。
 そんな中、彼女たちは巧みに動き歌い踊る。曲は勿論ナナの持ち歌のカバー。ナナを超えるため練習を重ねてきたことがあろうでわかる一糸乱れぬ動きを披露する。
 当然この場所にはナナファンも数多く集まっている。そんなファンたちにはシスターズの歌う曲もイントロが耳に入っただけで自然と反応してしまう。彼女たちはオープニングアクトとして、盛り上げ役としてピッタリだったようだ。
 そして79シスターズのステージ時間はあっという間に終わる。彼女たちはそのままステージを降り、再び警備員の位置に付いた。


「さあ次はコイツだ。魔物界の超弩級アイドル見参だ!」
 ジャックの紹介と共に現れたのは「NIENTE」こと黒の夢(ka0187)だった。
「うっななーん♪」
\うっななーん♪/
 彼女はステージに立つといつもの様にコールアンドレスポンス、そして早速その歌声を響かせ始める。一曲目は近日発売のファーストアルバムからの曲だ。その豊満な体から紡がれる歌声は下手なオペラ歌手が裸足で逃げ出すほどの豊かな声量を誇り、この広い会場の隅々まで広がっていく。
 そのまま彼女はアルバムからピックアップした曲をメドレーでつなぎ、いよいよ本日初公開の新曲、「Hellfire of love」を歌い始める。
 そんな彼女の歌声に合わせるように、その周りに火の玉が現れる。明るく輝き、彼女の顔を照らし、そして蝶が舞うように宙を動く。その幻想的な雰囲気に観客達はしばしの間言葉を失って見つめていた。
 さらにそんな客席に上空から何かが降ってくる。それはステージ上の彼女を愛嬌ある顔立ちにデフォルメした「マシーナリーあんこちゃん」なるマスコットであり、それは客席に降り立つと同時に同じ振付で動き始めた。魔法がもたらした不思議な空間が人々に夢を見せているかのようであった。 そしてサビにかかる。それと共に、彼女とマスコット達の服は黒から赤へと一瞬で変化する。その燃え上がるような炎の赤に染まるステージで、燃え上がる様な愛を歌う彼女の声に観客達は酔いしれるのであった。


「魔物の次は天使の登場だ!」
 ジャックのその紹介と共に登場したファリス(ka2853)は、確かに天使と呼ぶしか無いものだった。
 白を基調にした衣装に身を包み、落ち着いた銀製のアクセサリーで飾っている彼女の姿は天使そのもの。だが、それ以上にその体を包むやわらかな光と、背中から生えた6枚の翼が天使であることを強く印象づける。そのキラキラとした輝きはスターのそれなのか、それとも別のものなのか。
(……ナナ姉様に恥ずかしくないステージを勤めるの!)
 だが、その天使の様な姿とは裏腹に、彼女の心は熱く燃えていた。それはまるで地獄の劫火の様な熱さだった。
 だから彼女はその小さな体で、目一杯の声で叫ぶ。
「みんな! ファリスなの! ナナ姉様と一緒にみんなに元気を届ける為に一生懸命歌うの! しばらくファリスと一緒に楽しんで欲しいの!」
 そんな彼女の熱い思いに、観客達は目一杯の歓声で返す。思いは届いた。あとは歌うだけだった。
 彼女の歌声が、会場の熱気を更に高めていく。その熱気はこの屋根の無い会場でオーラのように空へ立ち上っていく。そして彼女のパフォーマンスが終わった時、会場は熱気に包まれ、それがファリス自身も包んでいた。


「歌で、想いが伝わるならば」
 このイベントのオファーを受けてアニス・エリダヌス(ka2491)はそう返した。彼女は出身の寒村で、この様なイベントで、そして時には戦場で歌い続けてきた。そして今まさに、彼女の歌声が必要とされる時だった。それならば。
「もし今またそういう機会があるのであれば、全力で……」
 それが彼女のOKの返事だった。

 そしてステージに立ったアニスは歌い始める。その歌の名は「月花墓標」。彼女の村で祭事に歌われる歌だった。
 落ち着いたメロディが流れ、それに合わせて彼女のやわらかな歌声がゆっくりと広がっていく。「月花墓標」は冥府の神に祈る歌。つまり鎮魂歌である。それは拳を振り上げて会場一体となり熱く盛り上がるような曲ではない。しかし彼女の優しい歌声は、灼熱の夏の熱気ではなく、心地良い春の暖かさとなって会場を包む。
 その暖かさに会場がゆったりと浸っていた。いつまでもこうしていたかったが、この後にもアイドル達は沢山登場する。彼女がパフォーマンスを終え、客席にお辞儀をして降りるのを観客達はいつまでも鳴り止まない拍手で送っていた。


「次はお待ちかねのニュースター、エルちゃんの登場だ!」
\エールちゃーん!/
 と紹介に観客達がコールを返し、イントロが流れ始める。しかし肝心の主役は登場しない。
 その時、突然ステージの真ん中にピンスポットが当たり、そこからエリス・ブーリャ(ka3419)が飛び出してきた。それに合わせて花火も上がり、観客達は一気に爆発したように盛り上がる。彼女は、その詰めかけた膨大な数の観客を見ながら、これまでの事を思い返していた。
 彼女はエルフハイムからアイドルを夢見てリゼリオにやって来た。そこから始まる下積み生活。自ら売り込み、地道にライブを重ねて、ゆっくりとファンたちを増やしてきた。そして増えたファンはある日突然堰を切ったように爆発し始める。誰も知らないアイドルが次のスーパースターになるのは文字通り一夜の出来事だ。
 ただ、それでも上は居る。このフェスの最後に出るのは生ける伝説のアイドル、ナナ・ナイン。しかしだからといって、同じステージに立つのなら負ける気は無い。
「いくよー、みんなー!! コールよろしくねー」
 だから彼女はありったけの愛と情熱を込めて歌い出す。その歌声に、観客達も最大の愛情で返す。
\エールちゃーん!/
 彼女のライブはこうして始まった。


「さぁさぁ、思う存分心行くまで、崇め奉るが良いぞっ☆」
 絶賛売出し中、歌って踊れる良妻系偶像と書いてアイドルと読むのは天の原 九天(ka6357)だった。ステージに登場したら信仰してくれる信者と書いてファンと読む相手に対して、神助と書いてファンサービスと読む物は欠かさない。最もその原動力は「一生誰かに養われたいっ☆」というものではあるが。

「儂に服を着せたい者は?」
\はーい!/

「儂の背中を流したい者は?」
\はーい!/

「儂に飯を食わせたい者は?」
\はーい!/

「儂に子守唄を歌いたい者は?」
\はーい!/

 ステージ上の九天が歌い、踊り、信者たちにそう声をかければ、訓練されたファンたちは一糸乱れぬレスポンスを返す。
「人が神へ尽くすは道理♪ 儂のために動くは摂理♪ 思う存分尽くすが良い♪ 全てを儂は許そうともよ♪」
\ははぁっ!/

「天の原……出てたんだな」
 一斉に土下座のリアクションを返すファンたちの姿を見て、鳳凰院ひりょ(ka3744)は驚いていた。彼は九天とは友人だが、友人になって日も浅い。彼女がアイドルだということは聞かされていたが、その姿を実際に生で見るのは初めてだった。その光景に思わず彼も
「九天ー!」
 と声を上げていた。
 そしてステージ上の彼女はそれを受けるかのように、曲のサビ、最高潮に達した所で信者とともに決め台詞を叫ぶ。

「「働いたら負けかなと思ってるっ☆」」


 九天のステージが終わり、次のステージへと変わるほんの少しのセットチェンジのタイミングの間、「あ、これどうぞ。一緒に応援してみない?」
 とケイルカ(ka4121)がお手製うちわを配っていた。なんとか最前列に出てきた彼女の隣には、ここまでずっと全力でアイドル達に声を送ってきていたベルが居る。
「それじゃあ、こっち持ってて!」
 しかしベルの両手は塞がっていた。そこで彼女はケイルカに、その手にしていたものを渡して交換にうちわを受け取る。
「うわー、お洒落な人がいっぱいだぁ……」
 そんな二人の間に、一人の少女がやってきた。いや、その純朴そうな雰囲気を見て、二人はここに押し流されてきたんだろうと感じていた。彼女の名はヴィーナ(ka6323)。たしかに彼女はここまで押し流されてきたのであった。
 ヴィーナはキョロキョロと辺りを見回す。するとケイルカの服が目に入った。黄色いシャツに赤いベストを合わせて、髪や足元にピンクのアクセサリーを付けている。自分が着たらどうなるんだろう。彼女は頭の中で想像する。
 視線を変えるとそこにはベルが居た。黒いドレスも美しいが、ヴィーナは足元に目を奪われていた。とてもヒールの高い独創的なデザインの靴。自分も一度履いてみたいと彼女はそう思っていた。
 彼女は世の服のきらびやかさに心を奪われ、色々な服を着てみたいと思っていた。今日も彼女お気に入りの服を着て来ている。白地に緑の差し色が爽やかな、彼女に似合う服だ。
 三人の目と目が合い、何か通じ合うものがあるような感覚を覚えた頃、セットチェンジは終わりに近づいていた。


 一方その頃、ステージ裏はまた戦場のような大騒ぎであった。なにせこのフェス、出演するアイドルの量だけでも半端ではない。しかも、丁度今ナナとグリューエリンが会場入りしたところだった。彼女たちは一人で会場入りしたわけではない。当然大勢のお付きのスタッフを引き連れている。が、そんな中でも二人が持つスターのオーラというべきものは、圧倒的に衆目を集めるのであった。
「あれが、トップアイドルのナナさんにグリューエリンさん……すごい、華……! 圧倒されそう……」
 その姿をクレール・ディンセルフ(ka0586)は驚くような、憧れるような、そんな目で見つめていた。彼女も、正確には彼女たちもアイドル、だがトップアイドルの二人とは比べるまでもない差があった。
「でも! 私達だって、いっぱい練習してきた! 伝えたい想いも、誰にも負けない……! ちーちゃん、みーちゃん……『すとろべりー*たいむ』行こうっ! この、約束のリムニルドにかけて!」
 その声を受けて、みーちゃんとちーちゃんと呼ばれたミィリア(ka2689)と柏木 千春(ka3061)はネックレスに通したお揃いのハート型の指輪、リムニルドをぎゅっと握り深呼吸する。今まで何度も繰り返してきたルーティーン。それで落ち着いた。
「集まってくれた皆の為にも、全力で行こう……っ」
 ミィリアの言葉に三人は頷き、ステージへと飛び出していった。
 そんな三人に歓声が押し寄せる。ベルカント大劇場よりも大きなこの会場にぎっしりと集った人々、この光景を見たものは誰も居なかった。その光景に千春は思わず眩しくて目を細める。でも彼女たちのやることはミィリアの言うとおり、いつもと変わらなかった。集まってくれた人たちのために全力を尽くす。だから。
「この曲が少しでも恋の手助けになれたら……とても、嬉しいです」
 火照ってほんの少し紅に染まる頬で、ふんわりと柔らかい笑顔を浮かべて、千春はそう言った。
「聴いてください! 私達の……初夏の恋心!!」
 そしてクレールのその言葉に今回のバックバンド担当のルナ・レンフィールド(ka1565)は手にしたリュートを爪弾く。
 リュートから紡ぎだされる音に乗って、彼女たちの曲、「恋のガーデンタイム」は始まった。
「きゃあああ! クレールちゃあああん!!」
 そんな三人、特にクレールに向かって最前列で叫んでいたのはケイルカであった。お手製のうちわを手に大きな声を出す。あまりの興奮に彼女は思わず覚醒し、彼女の周りには共に応援するファンである猫……の幻影が現れている。何せ彼女はクレールの幼なじみ、小さい頃から大好き、つまりデビュー前からのファンである。年季が違う。
 そんな彼女の隣ではベルが黄色いポンポンを持って力いっぱい振りながらぴょんぴょんと飛びはなていた。ケイルカも片手にポンポンを持っている。ベルが彼女に渡したものがこれだった。明るい黄色が何度も上空に飛び出してくる。
 そしてヴィーナは二人のやっていることを見て楽しみ方を理解したのか、同じようにきゃーきゃーと歓喜の声を上げていた。
 一方ステージでは、ルナの優しく爽やかなリュートの調べに合わせ、三人が歌い、踊っていた。
(笑顔に幸せを、歌に高鳴る鼓動を、からだいっぱいに恋する気持ちを! 伝えたい想い、届けたい勇気……ぜんぶぜんぶこの曲に乗せて!)
 ミィリアは不思議に落ち着いていた。いや、この体の底から溢れ出てくるような想いが、雑念を振り払いただ自らの思いを歌い踊ることだけに集中させていた。そしてそれは他の二人も同じだった。今、幸せいっぱいな恋人達に、優しさを。これから幸せになる、未来の恋人達に、勇気を。そんな恋心を優しく爽やかに歌い上げていた。


「さあお前たち準備はいいか? ここから最後まで一気に突っ走っていくぜ! まずはこいつら、ボーアのお出ましだ!」
 そんなジャックの煽りと共に、ステージに男女四人組が飛び出してくる。彼らは手には楽器を持ちスタンバイに入る。彼らこそがロックアイドルユニット、Voice Of Organizing Ability、略してVOOAだった。
「いくよ!」
 右手を高く振り上げたのは央崎 遥華(ka5644)。黒ベースのゴシックパンクな衣装には青白いフリルが差し色として入っている。そして肩から白く大きなギターを掛けていた。そこにもフリルと同じ色で茨の柄が描かれている。
 そんな彼女が右手を高く上げると、そこに突如として稲妻が落ち、そしてそれは彼女の体を囲んでいた。それはまるで稲妻の服を纏ったかのようであった。
「歪虚や天災みてーな理不尽なモンに負けねー勇気を! 行くぜ、RiseUp!」
 一方遥華が青ならその隣りにいる大伴 鈴太郎(ka6016)は赤だった。同じく黒ベースのゴシックパンクな衣装には、赤いフリルが付いている。肩から掛けたベースも丁度遥華と対を為すようだ。
 そもそもVOOAの前身は遥華と鈴太郎、二人によるアイドルユニットだった。そこに男性メンバーを二人加え、現在に至っていた。
 そんな彼女が遥華と同じように拳を振り上げると、こちらはそこから激しい炎が上がり、そして彼女は絶え間なく舞い散る火の粉を纏う。
(ナナの前に会場を暖めるのが役目だ……が、暖めるなんて温い。一気に爆発させようぜ!)
 そんな女性陣二人を支えるように、後ろでメタルブルーのギターを構えていたのはザレム・アズール(ka0878)だった。そして彼がステージの最奥に向かって視線を送る。
 そこには黒のレーザーパンツに深紅のTシャツを着たヴァイス(ka0364)がドラムセットに座っていた。彼の着ているそのTシャツはまるで燃え上がる炎の様だった。
 そんな彼がアイコンタクトを受けてスティックを振り下ろす、その瞬間かれの体を紅蓮のオーラが覆う。同時にザレムがギターにピックを叩きつける、その時彼の目は真紅に輝き、背に黒い竜を思わせる翼が現れる。そして激しく鳴り響くディストーションサウンドと同時に、彼女たちは歌い出した。

 抗えない脅威にまみえて
 心折られそうになっても
 時間(アイツ)は待ってなんかくれない

 鈴太郎の少しハスキーなボーカルが会場を揺らす。足元からせり上がってくるようなそのパワフルなボイスに、観客達の体は自然に縦に揺れ始める。

そんな自分勝手なヤツでもいっそ、
ヤケになったら愛せたりするかな?
旗を掲げ目を閉じたら深呼吸で胸に聞いて

 そして遥華のハイトーンボイスが伸びやかに会場に広がっていき、観客達の頭上からその体を貫く。その衝撃に観客達は拳を突き上げていた。
 ここまで来たら一気に畳み掛ける。ザレムの32ビートのギターソロが鳴り響く。その手は高速で動き、逆にゆっくりとした動きに見えていた。そして4人はユニゾンして、曲のサビに入る。

\Rise Up!/
 叫んで!

\Rise Up!/
 旗を振れ!

\Rise Up!/
 恥じらいなんてすっ飛ばして

\Rise Up!/
 負けんな!

\Rise Up!/
 奮い立て!

\Rise Up!/
 理不尽なんかブッ飛ばせ!

 4人の歌声に、観客達も自然と合わせ始めていた。4人の熱いサウンドが、会場中をずっと覆っていた。


「さあ、いよいよお待ちかねの……」
\グリりーん/
 と、ジャックの紹介に先走ってコールが飛ぶ。それだけグリューエリンの出番は待ち望まれていた。
 一方その頃、ステージ裏では小柄な少女が小刻みに震えていた。彼女の名はグリューエリン・ヴァルファー。帝国軍属アイドルであった。彼女は真っ直ぐ物事に向き合える素直さを持ち、アイドルという立場に就くに相応しい向上心をその内面に秘めていた。しかし、今回の状況は余りに特殊だった。これだけの人々が集まることなんてまず見たことがない。彼女自身ももちろん初めて出会う状況であるし、それは誰もが、であった。
 それに軍属である彼女にとって、軍の主導ではない場所でアイドルをすることも経験していなかった。異常過ぎる状況に今はたった一人。それはどんなに強い人間でもプレッシャーで押し潰されそうになる状況だった。
「グリりん、こいつはいいチャンスじゃねぇか」
 そんな彼女に声をかける人物が居た。
「デスドクロ……プロデューサー……殿」
 彼はデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。グリューエリンのプロデューサーであった。
「チャンスというのは……」
「ああ、見てみろ。ここにはこの世界中のアイドルが集まってる状況だ。今までのステージにも、色んなアイドルが居ただろう?」
 それにコクリと頷くグリューエリン。
「そしてこの後には今、この世界でトップの人気を誇る……」
「ナナ・ナイン」
「そうだ。グリりん。そんなナナに自分のほうが上だと見せつけるチャンスなんだぜ?」
「……私、負けません!」
 彼女は意外と負けず嫌いなところがある。そんな彼女にプロデューサーの言葉はいい薬になったようだ。ステージに飛び出していく彼女を見送りながら
「グリりんが更にワンランク上のアイドルとなるためにも、このチャンスは利用させてもらうぜ」
 そうデスドクロはつぶやいていた。

 そしてステージに飛び出したグリューエリンに観客達の目がすべて集まる。その時、ステージの上には彼女とルナしか居なかった。
 ルナは手にしたリュートを静かに爪弾き始める。一粒一粒の音が綺麗に流れる。デスドクロがこのステージのために用意した曲。イメージは梅雨だった。
 そのリュートの調べだけに乗せて、グリューエリンは歌い始める。ただリュート一本の伴奏に乗せて歌われるその歌に彼女の思いがこもる。梅雨を思わせる紫陽花の様なブルーの衣装から、しっとりとした歌声が響く。それは観客達に彼女の歌唱力を存分に思い知らせる物となった。感動のあまり、泣き出しているものも居た。
 そんな静かな調べが、突然挟まるギターサウンドで打ち破られた。自然に心を盛り上げるポップスナンバー。いつの間にかルナもリュートからショルダーキーボードに楽器を持ち替えている。その曲に合わせて、楽しい気持ちを爆発させる。梅雨が開ければ真夏がやって来る。彼女の衣装もいつの間にか向日葵の様な明るいイエローに変わっていた。その楽しいリズムが、観客達のハートを真夏の夜の夢へと連れて行っていた。


「さあ、最後はもちろん彼女だ。超クリムゾンウェスト級アイドル、ナナ・ナインのお出ましだ!」
 ジャックのその煽りも観客達の悲鳴のような歓声の前にかき消される。中には興奮のあまりステージに飛び出そうとした不届き者まで居たが、そこはキララが仕掛けたワイヤートラップに見事絡め取られ、そのまま場外に引っ張りだされた上にゴミ箱に頭から突っ込まれていた。
「相変わらず人気者だねぇ、ナナは。そんな子と知り合いになった、なんて誰が信じられるだろうかね?」
 そんな中、観客席で一人アイビス・グラス(ka2477)はつぶやいていた。周りの騒乱も、何故かこの位置にいると静かに聞こえる。

 一方その頃、ステージ袖ではナナがスタンバイしていた。その後ろにはルナと天竜寺 舞(ka0377)が居る。ルナはバックバンド、舞はバックダンサーである。
「今日はよろしくね!」
 舞はナナに挨拶するが、ナナの方は
「なになに? その衣装かわいいー☆」
 と彼女の衣装に釘付けだった。リアルブルーの日本にある着物を着て、下駄を履いた彼女の姿はナナには随分と興味深かったようだ。
 そんな二人の様子はバックステージを華やかにしていた。
 そしてナナ達はステージへと飛び出していく。地鳴りのような大歓声が響き渡り、押し寄せてくる。 その勢いをそのまま受け止め、最初の曲が始まる。ルナの指がキーボードを滑り、東方の影響を受けた音階を奏でる。これに合わせナナが歌い、舞が踊る。
(まさか、あの超トップアイドルを実際に見られる時が来るとは!)
 その姿を見て、ひりょの興奮は最高潮に達していた。何を隠そう妹達にも秘密にしているが、彼はナナの大ファンなのである。これで興奮が止められようはずもなかった。
 一方、アニスはじっとナナを見つめていた。彼女は自分のステージが終わった後、こうして客席に混じり他のアイドル達のパフォーマンスを見ていた。最初は研究しようと真剣な表情で見ていたが、楽しい歌声を浴びて自然に顔がほころぶ。その時彼女は、ナナの楽しいという感情が歌声に乗せて伝わってくるのを感じていた。笑顔の輪が広がっていた。
 そして楽しく弾むようなリズムの中、舞はステージを踏み鳴らす。下駄の歯が当たる音がリズム楽器の様にビートを刻む。下駄のタップダンスに乗りながら、さらにナナは歌いあげる。
「ほんと、上手ですねー……熱気も凄いですし」
 恵はその様子を見て、まじまじとそうつぶやく。それに小夜も同意していたが、突然抱きつくと
「けど、私の抱き枕な恵さんの方が、可愛いな、なんてね?」
 といたずらっぽく笑う。
「……え。ちょ、小夜さん! 比べられても……!?」
 不意打ちを喰らった恵はそう返すのが精一杯だった。
 そんなことをしている頃、ステージ上では次の曲に移っていた。静かで落ち着いたメロディに合わせて、ナナ達もゆっくりと踊る。
 美しく流れるメロディに身を任せながら、キララは最も近いポジションでその音を楽しんでいた。あくまで何かあったら対応するためにここにいるわけだが、ここは特等席である。楽しんではいけない理由はない。まさに役得であった。
 一方、イスカは自分たちのステージを終えてから、ここまで全てのアイドル達をこの位置で見続けていて思っていた。
(ナナ姉さまを真似していても姉さまには勝てない……)
 そして彼女は決意する。
「私達は私達にしか出来ないパフォーマンスを!」
 彼女達の次の道は決まったようだ。
 そんな中、ステージ上では舞が手を差し出し頭を垂れる。ナナがそれに答え手を差し出し、触れた瞬間その体は引き寄せられ腕の中に収まった。ふわりと浮き上がるナナの体。まるで空を舞っているようだ。
「あの自由奔放さがナナの魅力の一つだと思うのだ!」
 それを見てひりょはそう熱弁していた。その瞬間光線が空を奔る。ザレムが仕掛けた演出に乗りナナは歌い続ける。いつまでも終わってほしくない夢はこうして、続いていた。


 それでも夢の終わりの時はやってくる。ステージを終えたナナ達が戻ってきた。
「思い切り踊れて楽しかったよ」
 舞がナナに握手を求める。
「ううん、こちらこそ」
 握り返すナナ。
「3人とも素敵! 特に伝えたい想い~届けたい勇気~♪ のあたり!」
 そんな二人の間にケイルカが飛び込んできた。彼女のお目当てはナナではなくその後ろにいるすとろべりー*たいむの3人。彼女は3人に花束やお手製ジュースを渡したり、寄せ書きを求めたり大騒ぎだ。
「皆、お疲れ様」
 ザレムがVOOAのメンバーたちに特製蜂蜜入りレモネードを渡して乾杯している。すっかり打ち上げモードだ。
 そんな喧騒の中、ナナに声をかける者が居た。
「応援に来たよ、ナナ。なかなか顔出せなくてごめんね」
「アイビスー!」
 ナナは友人を見て顔がほころぶ。その時初めて、彼女はアイドルではなく年頃の少女の顔を取った。
「っと、折角だしお土産……という程じゃないけど、北の地で採れた龍鉱石……これからのアイドル活動とナナ自身のお守り代わりに丁度いいかもしれないかな」
 アイビスから渡されたものを握ったナナはぱぁっと華やいだ顔になり、そして次の瞬間小悪魔の様な悪戯っぽい表情になった。
「ありがとう、これ、貰っていくね」
 ナナは衣装にそれを付ける。
「さあ、みんな。もう一回行くよ☆」
 そして彼女は舞に、すとろべりー*たいむの3人に、VOOAの4人に、グリューエリンに、この場にいる他のアイドル達に声をかけた。ほんの少しだけの夢の続き。出演アイドル全員によるアンコール。その時が今始まろうとしていた。

依頼結果

依頼成功度普通

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 新航路開発寄与者
    ファリス(ka2853
    人間(紅)|13才|女性|魔術師
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャ(ka3419
    エルフ|17才|女性|機導師
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 白兎と重ねる時間
    玉兎・恵(ka3940
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 紫陽
    ケイルカ(ka4121
    エルフ|15才|女性|魔術師
  • 雷影の術士
    央崎 遥華(ka5644
    人間(蒼)|21才|女性|魔術師
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • 梅雨を楽しむ娘
    ヴィーナ(ka6323
    人間(紅)|14才|女性|魔術師

  • ベベベール・ベールル(ka6336
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • ハナミズキの巫女アイドル
    天の原 九天(ka6357
    人間(紅)|20才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
人間(リアルブルー)|34才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/06/12 21:44:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/12 14:14:52