ゲスト
(ka0000)
鶏を狙うゴブリン
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/08 07:30
- 完成日
- 2014/09/15 07:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
バームロは鶏を飼っていて、主にその肉と、卵を売って生計を立てている。他にも、薫製肉や、塩漬けの卵も作って納屋に置かれてある。これらもよい値で売れるし、家族の冬場の食料にもなる。
それなりに広い放牧場と、大きめの小屋、雑多な物を置いてある納屋と、密接して自分たちの暮らす家。家の中でも、バームロの寝室と勝手口は小屋にいちばん近い位置だ。鶏の匂いがきついが、仕方ない。何しろ、キツネやイタチが常に狙っているのだ、異変にすぐに気づけるようにしておかなければ、商売はあがったりだ。
この日も、何やら夜中に物音がした。来やがった、とバームロは、枕元に常備してある棍棒を持って小屋に向かう。
しかし、小屋の前にいた『モノ』の姿を見て、バームロは足が一瞬、すくんでしまった。
それは、子供のような背でありながら、異様にがっしりした、人間ではないもの……ゴブリンだったのだ。そいつが、小屋の戸を壊し、中の鶏をまさに奪わんとしていた。
「失せろ、化け物!!」
バームロは必死で棍棒を振り回し、ゴブリンを追い払おうとした。胴体に棍棒がぶつかる手応えがあったが、ゴブリンは悲鳴を上げながらも、しっかり鶏をひとつ右手に握りしめ、夜の闇に消えていった。
それから数日後。
また、夜中に物音がした。バームロはまた、棍棒を持って起きあがったが……。
今度は、ゴブリンが2匹に増えていた!
しかも、どちらも頑丈そうな鎧をまとい、手にぶっとい棍棒を持っていた。
抵抗、しないわけにはいかない。バームロは追い返そうと飛び出したが。
何発か殴られたところで、気を失った。もともと、喧嘩なぞしたことないのだ、ましてや化け物相手になど。気が付けば、鶏が何羽かと、納屋にあった薫製肉と塩漬け卵がいくつか消えていた。
また、何日かして。
バームロはぞっとした。
あいつら、味を占めやがった! 今度は、5匹も来やがった!!
先日の怪我を知っている女房は、バームロを止める。止めなくても足が震えて動けない。
5匹のゴブリンは悠々と鶏小屋を通り過ぎ、納屋へ入り、薫製肉と塩漬け卵を物色し始めた。
それぞれが、持てるだけの量を持つと、来たときと同じように、また悠々と出ていった。
何ということだ、あいつら、ここを便利な餌場に認定したのだ。
このままでは、何度でも来るだろう。抵抗すれば、また仲間を引き連れて。
目的は、納屋の薫製肉と塩漬け卵。これを無くせば、もう来なくなるのか? ……いや、目的がまた鶏そのものに戻るだけだろう。
バームロは歯噛みする。あいつらは、何度でも来る、きっと、また近いうちに! それが悔しくて、仕方なかった。
それなりに広い放牧場と、大きめの小屋、雑多な物を置いてある納屋と、密接して自分たちの暮らす家。家の中でも、バームロの寝室と勝手口は小屋にいちばん近い位置だ。鶏の匂いがきついが、仕方ない。何しろ、キツネやイタチが常に狙っているのだ、異変にすぐに気づけるようにしておかなければ、商売はあがったりだ。
この日も、何やら夜中に物音がした。来やがった、とバームロは、枕元に常備してある棍棒を持って小屋に向かう。
しかし、小屋の前にいた『モノ』の姿を見て、バームロは足が一瞬、すくんでしまった。
それは、子供のような背でありながら、異様にがっしりした、人間ではないもの……ゴブリンだったのだ。そいつが、小屋の戸を壊し、中の鶏をまさに奪わんとしていた。
「失せろ、化け物!!」
バームロは必死で棍棒を振り回し、ゴブリンを追い払おうとした。胴体に棍棒がぶつかる手応えがあったが、ゴブリンは悲鳴を上げながらも、しっかり鶏をひとつ右手に握りしめ、夜の闇に消えていった。
それから数日後。
また、夜中に物音がした。バームロはまた、棍棒を持って起きあがったが……。
今度は、ゴブリンが2匹に増えていた!
しかも、どちらも頑丈そうな鎧をまとい、手にぶっとい棍棒を持っていた。
抵抗、しないわけにはいかない。バームロは追い返そうと飛び出したが。
何発か殴られたところで、気を失った。もともと、喧嘩なぞしたことないのだ、ましてや化け物相手になど。気が付けば、鶏が何羽かと、納屋にあった薫製肉と塩漬け卵がいくつか消えていた。
また、何日かして。
バームロはぞっとした。
あいつら、味を占めやがった! 今度は、5匹も来やがった!!
先日の怪我を知っている女房は、バームロを止める。止めなくても足が震えて動けない。
5匹のゴブリンは悠々と鶏小屋を通り過ぎ、納屋へ入り、薫製肉と塩漬け卵を物色し始めた。
それぞれが、持てるだけの量を持つと、来たときと同じように、また悠々と出ていった。
何ということだ、あいつら、ここを便利な餌場に認定したのだ。
このままでは、何度でも来るだろう。抵抗すれば、また仲間を引き連れて。
目的は、納屋の薫製肉と塩漬け卵。これを無くせば、もう来なくなるのか? ……いや、目的がまた鶏そのものに戻るだけだろう。
バームロは歯噛みする。あいつらは、何度でも来る、きっと、また近いうちに! それが悔しくて、仕方なかった。
リプレイ本文
●罠
ミノア・エデン(ka1540)は怒っていた。
「わたしでさえ食料の調達には苦労してるのに、楽に食べ物を得ようとするなんて、絶対許さない! 食べ物の恨み、思い知るがいいわ」
定まった家を持たないミノアは、腹を満たすのに野山を常に駆け回っている。気前のいい野山はいくらか実りを授けてくれ、ミノアはそれに感謝する。それが野に生きる者と自然との、正しい関わり方ではないのか?
「バームロさんが抵抗できないのを良い事に、好き放題奪っていくなんて……絶対に許せないです!」
同じように憤る、ライオ・イルミナル(ka1446)。彼の目前にある納屋には、まだゴブリンに襲われた跡が残っている。力尽くで戸が開けられ、通り道にある諸々の道具は乱暴に避け、または踏み壊され、保存食の置いてある棚は半分近くが空になっている。この場でつまみ食いをしたのか、開けられた瓶もあった。ゴブリンときたら、こんなおいしそうなものを、力尽くで奪い取るとは!
「まあ、せっかくだから食べてみな、街でもけっこう売れるんだよ」
「あ、いただきます」
バームロは集まったハンター達のために、昼食の用意をしていた。来て早々に、敷地の周りに罠をしかけるべく動き回る彼らをねぎらうため、自慢の薫製肉を炙り直している。作業が一段落ついて戻ってきたハンターから、用意された食事に手を伸ばしていく。
「まったく、やってらんないわ。か弱い乙女が土木工事だよ? こんな重労働が待ってるなんて思ってなかったよ」
汗を拭きながら、出された薫製肉にかぶりつくのは、今回が初仕事の、ミィコ=クレアスター(ka3103)。ハンターとは化け物相手に丁々発止と戦うものかと思っていたが、まさか剣ではなくシャベルを持たされるとは。
「どんな依頼を受けようと、似たようなもんだ。最初の根回しが肝心だからな」
依頼の数では若干先輩のシュタール・フラム(ka0024)が慰める。
「それに、今度の相手はゴブリンじゃ。並のヴォイドより、頭がいいかもしれんぞ? ……ご主人、旨い肉じゃのう」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、指についた脂も残さず舐めた。
「ゴブリンどもは文字通り、鶏肉の味を占めたのだろうな」
しかし自分たちが来たからには、それももう食べ納めだ、とロニ・カルディス(ka0551)は言った。
「あんた達ドワーフは、そりゃあ力仕事は得意だよね!」
「それをこのノノトトの前で言うてみよ」
レーヴェに背中を押されて、よろけるように前に出たのはノノトト(ka0553)だった。ドワーフらしからぬ華奢さで、ミィコよりも小さい。
「ええっと、……ぼくは頼りなく見えるかもしれないけど、でも、がんばりますので……」
「な、なによ? あたいだって、頑張らないとは言ってないよ?」
きゃんきゃん騒がしいやり取りを、バームロは面白そうに眺めていた。
「いやあ、やっぱり子供はにぎやかでいいねえ」
「子供扱いしてはなりませんよ、あの子らも立派なハンターでございます」
「おっと、こりゃ失敬」
デヴィット・ギデオン(ka2977)に諭され、バームロは自分の額をぴしゃりと叩いた。
休憩が終わり、作業を再開する。
放牧場の周りに、ぐるりと鳴子の付いた紐が張り巡らされる。
納屋の周りには落とし穴を……落とし込むためではなく、躓かせることを目的として。
掘り出した土は1箇所に山として積み上げ、それの影に隠れられるようにした。
こうして下準備を終え、いよいよ見張りに入る。
ロニが鶏小屋の中に潜み、レーヴェとデヴィットはその屋根の上に登る。
納屋の屋根の上にはシュタールは就き、周りをライオとミノアとミィコがそれぞれの場所に身を潜める。
ノノトトはバームロと女房を守るために、家の中に入った。
さあ、またゴブリンは獲物を求めてやってくるだろうか。
●ゴブリン
過去3度、ゴブリンが現れたのは夜中の、ほぼ似たような時間帯だった。また今夜も同じ時間となり、待ち伏せているハンター達の緊張は、否が応にも高まる。
(バームロさん、もう寝たかな?)
寝室に繋がる扉の前で、鉄パイプを握りしめたノノトトは様子を伺う。ゴブリンの影に怯えてここ数日、安眠できないと言っていた。自分たちが守っていることで、彼の心配が取り除かれればよいのだが。
眠れないバームロと、それを心配するノノトトとは裏腹に、レーヴェは鶏小屋の上ですうすう寝息を立て始めていた。
「コホン」
デヴィットの咳払いに、片目をちらりとだけ開ける。
「緊張感がございませんね」
「緊張してどうするね」
レーヴェは寝返りをうち、また目を閉じた。果報は寝て待て、というリアルブルーの諺もある。
「ごもっとも」
そう言うと、デヴィットも同じように寝ころんだ。屋根の上で身を潜めるためにはその姿勢が必要であり、仕掛けた鳴子の音に耳を澄ますためにも、眠るように静かにしていることは必要であった。
…………からん。
放牧場の方から、小さく音がした。
ハンター達は色めき立つ。
月の薄暗い灯りの下で、小さい影が5つ、固まって納屋に近づいてきた。手に持った棍棒を振り回し、何やら笑いながら、納屋の扉を叩き壊そうとした、その時だ。
『ギャッ!?』
見事、3体のゴブリンが落とし穴にはまった。ご丁寧に穴の中には、割れた陶器の破片が敷き詰めてある。何が起こったのかと動揺するゴブリン達を、LEDの眩しい灯りが照らした。
それを合図に、一斉に灯りがともされた。
「来やがったか!」
シュタールは魔導銃を構え、落とし穴に気を取られているゴブリンに、まずは一発喰らわせた。マテリアルが光の筋となり、ゴブリンの足に当たった。
「よしっ!」
『攻性強化』を伴ったそれは、分厚い革の脛当てを抉り、中の肉から血を噴き出させた。
「人様の敷地でいつまでも好き勝手出来ると思うなよ」
残る4体も同じように足止めせんと、狙いを定める。だがゴブリンは負傷した仲間を置き去りに、てんでんばらばらに散らばった。
「やった!」
ゴブリンが分散したのは好都合だ、これをチャンスと、ライオは納屋の影から飛び出す。目の前にいるのは、たった1体っきりの敵、これを確実に仕留めるべく、ロングソードに全ての力を込める。
「まずは1匹!」
棍棒を振り上げた手は、逆に胸元をがらあきにさせた。『強打』の一振りは、ゴブリンの腕と胴体を切り離す。悲鳴を上げて転倒するゴブリンの、鎧で覆われていない箇所をめざとく見つけ、ライオは決着を付けた。
「……他のみんなは?」
ゴブリンは、まだ残っている。
「逃げられると思ってんの? バカねぇ」
さあていよいよ本番だ、と、待ちかねたミィコは猫の耳をぴん立て、舌なめずりをする。
「早々に、諦めなさい」
モノクルの奥の瞳を紅く変化させたデヴィットとで、とうに退路は断たれている。だが、こちらを子供と年寄りと侮ってかゴブリンは、威嚇の声を上げながら棍棒を叩きつけてくる。
「おっと」
『地を駆けるもの』で身を軽くしたミィコは、それを易々とかわす。
「あんたのへなちょこ攻撃なんか、当たるわけないじゃない?」
背後に回り、ダガーで斬りつける。しかし、ゴブリンの鎧もそうそう脆くはできていない。
「斬るのではなく、突くのですよ、……例えば、ここを」
エストックが腿を貫く。腹や局部のような急所ではないそこは、装甲も薄い。攻撃をもろに喰らってゴブリンはのたうち回る。
「……おいたが過ぎましたね」
逃げようとするゴブリンの前に立ちはだかるのは、フラメアを握りしめたミノア。
「食べ物を楽して会得しようとした罪は重いよ!」
どうやらゴブリンは、彼女のいちばん触れてはいけない逆鱗に触れてしまったようである、依頼人よりも怒りに燃えている。
『ギィッ』
逃げることに必死なゴブリンは、ミノアのそんな挑発には乗らず、別の方向へ逃げようとする。だが、視界の外から飛んできた光の弾丸により、元の場所へ押し戻される。
「おまえのような存在に、この聖なる光は勿体ないのだがな」
ロニの放った『ホーリーライト』はゴブリンの腹にまともに当たったらしく、げえげえと唸りながら膝を折る。
「ロニ、ありがとー!」
座り込んだゴブリンはさながら、断頭台に乗せられた罪人のようだ。俯く首筋を狙ってミノアは刑を執行した。
5匹で来たゴブリンが次々と倒れ、残る1匹と対峙していたのはレーヴェだ。
「やはり、きみらは畜生よのう……」
人間ならば鳴子に引っかかった、いや、見つけた時点で引き返すだろう。その先に罠が仕掛けられていることは容易に想像できるのだから。それとも、人間ごときが仕掛けた罠なぞ蹴散らせると考えていたのか。……ならば、その甘い考えをも、所詮畜生だと言っておこう。
そして、目の前に武器を持ったハンターがいて、……その数がどんどん増えていて、……ついに7人のハンターに囲まれて、それでも逃げられると考えているのなら。
そんな愚かな生物を、この世界で繁栄させるわけにはいかないのだ。
(静かだな……)
勝手口の覗き窓から、ノノトトはそっと外の様子を伺った。
納屋の周りは煌々と灯りで照らされている。
だが、それが1つ消え、2つ消え、元の夜の闇に戻った。
静寂。穏やかな、静寂。
(おやすみなさい)
ノノトトは毛布にくるまって目を閉じた。
●事件の解決
鶏小屋か納屋の何カ所かは壊れる覚悟でいたのだが、納屋に入られる前に事が終えられたので、修繕作業はさほど時間はかからなかった。いちばん手間がかかったのは、例の落とし穴の埋め直しである。
「あーッ、腰が痛い! もう終わったんだから、さっさと帰ろうよ」
相変わらずミィコは文句が多い。
「仕事の後片付けはきちんとするのが、依頼を受けた者の責任だ」
「来る前よりも綺麗にして帰るぐらいの気概でやるのじゃ」
「うう~~……」
先輩ハンターに心得を叩き込まれる、これも経験だ。
「いやあ、ありがとう、ありがとう! おかげで今夜から、枕を高くして寝られるよ」
やはりハンターを呼んで正解だったと、バームロは満面の笑みで礼を述べた。
「家のモンでお礼と言っちゃなんだけどよ、肉と卵、好きなだけ持って行きなよ」
と、バームロは納屋を指さした。しかし、ここに滞在している間、それらは十分にご馳走になったし、それ以外の食事もかなり助けられている。
「どうぞ、これ以上お気遣いなさらないでください……」
デヴィットは辞退しようとした。が、背後からの突き刺すような視線を感じた。
(肉! 肉!! 卵!!! 卵!!!!)
もしもミノアに尻尾が生えていたら、ぶんぶん振っているに違いない。
ああ、どうぞこの娘が人並みに遠慮があって、ゴブリンに奪われた以上の肉を貰って帰ったりしませんように。
ミノア・エデン(ka1540)は怒っていた。
「わたしでさえ食料の調達には苦労してるのに、楽に食べ物を得ようとするなんて、絶対許さない! 食べ物の恨み、思い知るがいいわ」
定まった家を持たないミノアは、腹を満たすのに野山を常に駆け回っている。気前のいい野山はいくらか実りを授けてくれ、ミノアはそれに感謝する。それが野に生きる者と自然との、正しい関わり方ではないのか?
「バームロさんが抵抗できないのを良い事に、好き放題奪っていくなんて……絶対に許せないです!」
同じように憤る、ライオ・イルミナル(ka1446)。彼の目前にある納屋には、まだゴブリンに襲われた跡が残っている。力尽くで戸が開けられ、通り道にある諸々の道具は乱暴に避け、または踏み壊され、保存食の置いてある棚は半分近くが空になっている。この場でつまみ食いをしたのか、開けられた瓶もあった。ゴブリンときたら、こんなおいしそうなものを、力尽くで奪い取るとは!
「まあ、せっかくだから食べてみな、街でもけっこう売れるんだよ」
「あ、いただきます」
バームロは集まったハンター達のために、昼食の用意をしていた。来て早々に、敷地の周りに罠をしかけるべく動き回る彼らをねぎらうため、自慢の薫製肉を炙り直している。作業が一段落ついて戻ってきたハンターから、用意された食事に手を伸ばしていく。
「まったく、やってらんないわ。か弱い乙女が土木工事だよ? こんな重労働が待ってるなんて思ってなかったよ」
汗を拭きながら、出された薫製肉にかぶりつくのは、今回が初仕事の、ミィコ=クレアスター(ka3103)。ハンターとは化け物相手に丁々発止と戦うものかと思っていたが、まさか剣ではなくシャベルを持たされるとは。
「どんな依頼を受けようと、似たようなもんだ。最初の根回しが肝心だからな」
依頼の数では若干先輩のシュタール・フラム(ka0024)が慰める。
「それに、今度の相手はゴブリンじゃ。並のヴォイドより、頭がいいかもしれんぞ? ……ご主人、旨い肉じゃのう」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、指についた脂も残さず舐めた。
「ゴブリンどもは文字通り、鶏肉の味を占めたのだろうな」
しかし自分たちが来たからには、それももう食べ納めだ、とロニ・カルディス(ka0551)は言った。
「あんた達ドワーフは、そりゃあ力仕事は得意だよね!」
「それをこのノノトトの前で言うてみよ」
レーヴェに背中を押されて、よろけるように前に出たのはノノトト(ka0553)だった。ドワーフらしからぬ華奢さで、ミィコよりも小さい。
「ええっと、……ぼくは頼りなく見えるかもしれないけど、でも、がんばりますので……」
「な、なによ? あたいだって、頑張らないとは言ってないよ?」
きゃんきゃん騒がしいやり取りを、バームロは面白そうに眺めていた。
「いやあ、やっぱり子供はにぎやかでいいねえ」
「子供扱いしてはなりませんよ、あの子らも立派なハンターでございます」
「おっと、こりゃ失敬」
デヴィット・ギデオン(ka2977)に諭され、バームロは自分の額をぴしゃりと叩いた。
休憩が終わり、作業を再開する。
放牧場の周りに、ぐるりと鳴子の付いた紐が張り巡らされる。
納屋の周りには落とし穴を……落とし込むためではなく、躓かせることを目的として。
掘り出した土は1箇所に山として積み上げ、それの影に隠れられるようにした。
こうして下準備を終え、いよいよ見張りに入る。
ロニが鶏小屋の中に潜み、レーヴェとデヴィットはその屋根の上に登る。
納屋の屋根の上にはシュタールは就き、周りをライオとミノアとミィコがそれぞれの場所に身を潜める。
ノノトトはバームロと女房を守るために、家の中に入った。
さあ、またゴブリンは獲物を求めてやってくるだろうか。
●ゴブリン
過去3度、ゴブリンが現れたのは夜中の、ほぼ似たような時間帯だった。また今夜も同じ時間となり、待ち伏せているハンター達の緊張は、否が応にも高まる。
(バームロさん、もう寝たかな?)
寝室に繋がる扉の前で、鉄パイプを握りしめたノノトトは様子を伺う。ゴブリンの影に怯えてここ数日、安眠できないと言っていた。自分たちが守っていることで、彼の心配が取り除かれればよいのだが。
眠れないバームロと、それを心配するノノトトとは裏腹に、レーヴェは鶏小屋の上ですうすう寝息を立て始めていた。
「コホン」
デヴィットの咳払いに、片目をちらりとだけ開ける。
「緊張感がございませんね」
「緊張してどうするね」
レーヴェは寝返りをうち、また目を閉じた。果報は寝て待て、というリアルブルーの諺もある。
「ごもっとも」
そう言うと、デヴィットも同じように寝ころんだ。屋根の上で身を潜めるためにはその姿勢が必要であり、仕掛けた鳴子の音に耳を澄ますためにも、眠るように静かにしていることは必要であった。
…………からん。
放牧場の方から、小さく音がした。
ハンター達は色めき立つ。
月の薄暗い灯りの下で、小さい影が5つ、固まって納屋に近づいてきた。手に持った棍棒を振り回し、何やら笑いながら、納屋の扉を叩き壊そうとした、その時だ。
『ギャッ!?』
見事、3体のゴブリンが落とし穴にはまった。ご丁寧に穴の中には、割れた陶器の破片が敷き詰めてある。何が起こったのかと動揺するゴブリン達を、LEDの眩しい灯りが照らした。
それを合図に、一斉に灯りがともされた。
「来やがったか!」
シュタールは魔導銃を構え、落とし穴に気を取られているゴブリンに、まずは一発喰らわせた。マテリアルが光の筋となり、ゴブリンの足に当たった。
「よしっ!」
『攻性強化』を伴ったそれは、分厚い革の脛当てを抉り、中の肉から血を噴き出させた。
「人様の敷地でいつまでも好き勝手出来ると思うなよ」
残る4体も同じように足止めせんと、狙いを定める。だがゴブリンは負傷した仲間を置き去りに、てんでんばらばらに散らばった。
「やった!」
ゴブリンが分散したのは好都合だ、これをチャンスと、ライオは納屋の影から飛び出す。目の前にいるのは、たった1体っきりの敵、これを確実に仕留めるべく、ロングソードに全ての力を込める。
「まずは1匹!」
棍棒を振り上げた手は、逆に胸元をがらあきにさせた。『強打』の一振りは、ゴブリンの腕と胴体を切り離す。悲鳴を上げて転倒するゴブリンの、鎧で覆われていない箇所をめざとく見つけ、ライオは決着を付けた。
「……他のみんなは?」
ゴブリンは、まだ残っている。
「逃げられると思ってんの? バカねぇ」
さあていよいよ本番だ、と、待ちかねたミィコは猫の耳をぴん立て、舌なめずりをする。
「早々に、諦めなさい」
モノクルの奥の瞳を紅く変化させたデヴィットとで、とうに退路は断たれている。だが、こちらを子供と年寄りと侮ってかゴブリンは、威嚇の声を上げながら棍棒を叩きつけてくる。
「おっと」
『地を駆けるもの』で身を軽くしたミィコは、それを易々とかわす。
「あんたのへなちょこ攻撃なんか、当たるわけないじゃない?」
背後に回り、ダガーで斬りつける。しかし、ゴブリンの鎧もそうそう脆くはできていない。
「斬るのではなく、突くのですよ、……例えば、ここを」
エストックが腿を貫く。腹や局部のような急所ではないそこは、装甲も薄い。攻撃をもろに喰らってゴブリンはのたうち回る。
「……おいたが過ぎましたね」
逃げようとするゴブリンの前に立ちはだかるのは、フラメアを握りしめたミノア。
「食べ物を楽して会得しようとした罪は重いよ!」
どうやらゴブリンは、彼女のいちばん触れてはいけない逆鱗に触れてしまったようである、依頼人よりも怒りに燃えている。
『ギィッ』
逃げることに必死なゴブリンは、ミノアのそんな挑発には乗らず、別の方向へ逃げようとする。だが、視界の外から飛んできた光の弾丸により、元の場所へ押し戻される。
「おまえのような存在に、この聖なる光は勿体ないのだがな」
ロニの放った『ホーリーライト』はゴブリンの腹にまともに当たったらしく、げえげえと唸りながら膝を折る。
「ロニ、ありがとー!」
座り込んだゴブリンはさながら、断頭台に乗せられた罪人のようだ。俯く首筋を狙ってミノアは刑を執行した。
5匹で来たゴブリンが次々と倒れ、残る1匹と対峙していたのはレーヴェだ。
「やはり、きみらは畜生よのう……」
人間ならば鳴子に引っかかった、いや、見つけた時点で引き返すだろう。その先に罠が仕掛けられていることは容易に想像できるのだから。それとも、人間ごときが仕掛けた罠なぞ蹴散らせると考えていたのか。……ならば、その甘い考えをも、所詮畜生だと言っておこう。
そして、目の前に武器を持ったハンターがいて、……その数がどんどん増えていて、……ついに7人のハンターに囲まれて、それでも逃げられると考えているのなら。
そんな愚かな生物を、この世界で繁栄させるわけにはいかないのだ。
(静かだな……)
勝手口の覗き窓から、ノノトトはそっと外の様子を伺った。
納屋の周りは煌々と灯りで照らされている。
だが、それが1つ消え、2つ消え、元の夜の闇に戻った。
静寂。穏やかな、静寂。
(おやすみなさい)
ノノトトは毛布にくるまって目を閉じた。
●事件の解決
鶏小屋か納屋の何カ所かは壊れる覚悟でいたのだが、納屋に入られる前に事が終えられたので、修繕作業はさほど時間はかからなかった。いちばん手間がかかったのは、例の落とし穴の埋め直しである。
「あーッ、腰が痛い! もう終わったんだから、さっさと帰ろうよ」
相変わらずミィコは文句が多い。
「仕事の後片付けはきちんとするのが、依頼を受けた者の責任だ」
「来る前よりも綺麗にして帰るぐらいの気概でやるのじゃ」
「うう~~……」
先輩ハンターに心得を叩き込まれる、これも経験だ。
「いやあ、ありがとう、ありがとう! おかげで今夜から、枕を高くして寝られるよ」
やはりハンターを呼んで正解だったと、バームロは満面の笑みで礼を述べた。
「家のモンでお礼と言っちゃなんだけどよ、肉と卵、好きなだけ持って行きなよ」
と、バームロは納屋を指さした。しかし、ここに滞在している間、それらは十分にご馳走になったし、それ以外の食事もかなり助けられている。
「どうぞ、これ以上お気遣いなさらないでください……」
デヴィットは辞退しようとした。が、背後からの突き刺すような視線を感じた。
(肉! 肉!! 卵!!! 卵!!!!)
もしもミノアに尻尾が生えていたら、ぶんぶん振っているに違いない。
ああ、どうぞこの娘が人並みに遠慮があって、ゴブリンに奪われた以上の肉を貰って帰ったりしませんように。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 8人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/06 20:12:00 |
|
![]() |
ゴブリンを〆る会 ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/08 00:14:35 |