ゲスト
(ka0000)
【黒鷹】ある日の午後~伯爵家護衛
マスター:草なぎ

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/16 07:30
- 完成日
- 2016/06/18 20:36
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国王都、イルダーナ。第一街区。カレン・ブラックホーク(kz0193)伯爵の邸、パーレルクラウツ。黒髪黒瞳の女伯爵は、初老の男性貴族を出迎えていた。男の名をラヴェル・シャインと言った。伯爵である。
「カレン。久しぶりだな」
「ラヴェル伯。お元気そうですね」
二人は挨拶を交わすと、執事のジャック・フレイムの案内で、奥に消えて行った。
「さあてと……」
メイドのアナスタシア・アイスは、ダークスーツやメイド服に着替えたハンター達、あなたたちに声を掛けた。
「みなさ~ん。お仕事の時間ですよ~」
――今日、ハンター達がパーレルクラウツに呼ばれたのは、二人の伯爵の会合の警備のためであった。会合の間、ハンター達は邸の中を巡回し、外に目を光らせ、不審者の侵入などを防ぐことを依頼されていた。他にも武装した使用人がいるのだが、ハンターたちにはより機動的な役割を期待されていた。特に熟練のハンターともなれば並みの戦士よりもこうした仕事に関しては経験豊富な者が多い。
午後の静かなひと時、パーレルクラウツでハンター達の一日が始まる。
「カレン。久しぶりだな」
「ラヴェル伯。お元気そうですね」
二人は挨拶を交わすと、執事のジャック・フレイムの案内で、奥に消えて行った。
「さあてと……」
メイドのアナスタシア・アイスは、ダークスーツやメイド服に着替えたハンター達、あなたたちに声を掛けた。
「みなさ~ん。お仕事の時間ですよ~」
――今日、ハンター達がパーレルクラウツに呼ばれたのは、二人の伯爵の会合の警備のためであった。会合の間、ハンター達は邸の中を巡回し、外に目を光らせ、不審者の侵入などを防ぐことを依頼されていた。他にも武装した使用人がいるのだが、ハンターたちにはより機動的な役割を期待されていた。特に熟練のハンターともなれば並みの戦士よりもこうした仕事に関しては経験豊富な者が多い。
午後の静かなひと時、パーレルクラウツでハンター達の一日が始まる。
リプレイ本文
「午後のお屋敷……会合中の警護……か。それにしても。メイド姿……何か恥ずかしい気がするのはあたしだけなのかしら?」
メイド服を着たケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、言って金の文様装飾の壁紙が張り巡らされ、金の天井装飾が続いている廊下の間に続く窓のガラスを梯子に乗って拭いていた。スカートの内側のガーターベルトには拳銃を装備。
伯爵たちの会合は始まったばかりであった。
「良い天気だな」
歩いてきたダークスーツの金髪の男。伯爵家密偵ランドル・ブライトであった。
「ランドル……でしたっけ?」
「ケイ、だな。今回は礼を言うぜ」
「あたしは仕事で来ただけよ」
ケイは微笑を浮かべて窓の外に目をやり、ガラスを拭いた。ランドルは肩をすくめた。
「ともあれ、カレン様はハンターを高く買ってるからな。俺もうかうかしてられん」
「あなたは……ただの使用人じゃないわよね。と言っても、この邸の使用人にただの使用人は少ないみたいだけど」
「はは……まあ、そうだな。華麗なる怪盗、とでも言っておこうか」
「何よそれ」
ランドルが密偵であることはケイも知らない。しかし、ただの男ではないことは察しが付く。
シルヴェイラ(ka0726)とエルティア・ホープナー(ka0727)はスーツを来て執事に扮していた。通信機に耳をすませ、二人で廊下を歩きながら言葉を交わす。
「爵位を持つ者……ふぅん……上位の生き物が必ずしも賢しいという訳では無いと思うけれど……持つ者だからこそ手にできる知識には興味はあるわね」
エルティアが言うと、シルヴェイラは肩をすくめた。
「伯爵か……まさかエアとこんなところへ来ることが出来るとはね……」
銀髪銀瞳のエルフは、肩をすくめた。
「シーラ、カレン・ブラックホーク伯……まだ会ったばかりだけど、良さそうな感じの方だったわね」
「そうだね、エア」
シルヴェイラは、優しい瞳で微笑んだ。
エルティアはダークスーツに三つ編み。懐に銃。袖口にナイフ。少し胸を抑える。
「……抑えて来たつもりだけれど……大丈夫かしら?」
エルティアが心配するのに、シルヴェイラはくすくすと笑った。
「こぼれるほど無いのだから心配する事はないさ」
「ちょっと、何か言った?」
「冗談だよ。ところで……」
シルヴェイラとエルティアは小声で話しながら、邸内を移動していく。
二人は応接間に入った。マホガニーの扉を開ける。壁紙は金の文様装飾。黄金の燭台、宮廷絵師の絵画が壁にあり、女神像の彫刻の大理石の暖炉、窓には金細工のカーテン、金張りのソファ、金箔の椅子、黄金の象嵌が施された金箔脚のマホガニーのテーブル、絨毯はグラズヘイム・シュバリエの逸品。
「凄いわねえ……」
エルティアは室内に入ると、カーテンを直すように触れて窓から外を見た。美しい庭園が広がっている。
シルヴェイラは絵画を見やる。絵は空想的な風景画で、王宮の若手絵師のサインがしてあった。
通信機で仲間と連絡を取り合い、二人は屋上へ上がった。庭園が一望できる。
「見事ね……」
エルティアが眺望に見とれている横顔に、シルヴェイラは少し視線を向け、そして地上に目をやる。二人は屋上を回り、階下に戻るとギャラリーに入った。ギャラリーは列柱回廊の装飾がしてあって、大きな窓から庭園を一望出来た。
……そしてエルティアは吸い寄せられるように図書室へ。本の虫……中毒者がその誘惑に勝てる筈もなく。
エアが真面目にやっているようだし珍しいなとは思いつつ、図書室に行ったのは「やっぱりな」と苦笑するシルヴェイラ。
ジャック・フレイムと遭遇する。
「どうかしましたか?」
ジャックは微笑んでいた。
「申し訳ありません執事殿。連れが活字中毒でして……図書室の誘惑は強烈過ぎたようです」
シルヴェイラが申し訳なさそうに言うと、ジャックは微笑した。
「会合が終わるまでには仕事に戻って頂いて……」
「すみません」
「いえいえ」
ジャックは歩き去った。
図書室の中で、エルティアは蔵書を読みふけっていた。分厚い図鑑を開くと、絵画やデザイン画、図解が挿絵に、都市イルダーナの歴史が記されている。エルティアはすっかり没頭。
ザレム・アズール(ka0878)は飾りのような女は苦手であった。先日会ったカレン伯爵はともすればお高く留まっているお嬢様かと思いきや、銃の達人でホロウレイドでは父とともに前国王と駒を並べて戦ったという武人であった。短い会話の中ではあったが、リンスファーサが世話になっていることに頭を下げたカレン、その人となりを感じたザレムは、カレン伯にそう悪い印象は抱かなかった。
「リンスさんもカレンさんも、自立してて、リスペクトに値する女性だ」
ザレムはそう言って、カレン伯と握手を交わしたのであった。
ダークスーツに身を包んだザレムは、クナイと銃を服の内側に隠して庭園を猟犬シバと共に警邏。芝生に目を凝らして見る。不審な足跡などが付いていないか。
「ザレムだ。こちら異常はない」
通信機に向かって言うと、仲間たちからも声が返ってくる。午後の時間はゆったりと流れて行く。
Gacrux(ka2726)と遭遇する。彼は傭兵として庭園を騎乗してドーベルマンを伴い巡回警備していた。
「ザレム。凄い庭ですよねえ」
貴族との縁はこの先、必ずや役立つ時が来る筈……。Gacruxは内心呟きながら、ザレムに笑みを向ける。
「そっちは異常なしか」
「ええ。平和なものですよ。不審な気配はない。まあ……第一街区と言うだけあって、そもそも警備は厳重なのでしょうが」
「そうだなあ。まあ敵の敵は味方、とか、お貴族様だ。そんな世界なのかも知れんが」
「油断は禁物ですねえ」
Gacruxはザレムと別れた。会合の議題はジャックに確認したが、慣例的なものだとしか答えてもらえなかった。まあ仕方ない。
「立派なものですねえ……」
養魚池を見やり、馬を下りて清潔に保たれている水に触れる。
午後の時間は平和に過ぎて行く。
周辺の壁はそれほど高いわけではない。別棟を壁の一部にして、その間を小さなアーチ造りのレンガ壁に漆喰が塗り込まれ白い石造り細工のような外見になっていた。正面は鉄格子で門があった。Gacruxは門に近づいて行った。門番と挨拶を交わす。少し雑談していると、一台の馬車が停止した。来客であろうか。Gacruxは馬を下りて、客人を出迎えた。
貴族の男と女、随伴の騎士が二人、馬車から降りて来た。男爵とその夫人であった。門番とGacruxは丁寧に腰を折った。
「伯とお会いするのは久しぶりだ。私もまた邸を改築せねばならんな……」
男爵は、Gacruxに笑いかけた。
「男爵閣下、こちらでございます。執事がご案内いたしますので」
Gacruxは通信機で連絡を取ると、男爵一行を邸内に案内していく。
ジャック・フレイムに後を引き継ぐと、Gacruxは警備に戻った。
気になっていた記念碑に向かう。記念碑は、石碑であった。古い文字が刻み込まれている。どうやらブラックホーク伯爵家の先祖が記したものらしい。王家から伯爵号を賜ったことが短い年代記のように描かれている。カール・ブラックホークと、エリザベート・ブラックホーク、という名が重要な人物として描かれていた。
「ふむ……」
Gacruxはしばし石碑に見入った。
護鬼たる為に。この護衛の依頼を通し、手腕を磨こう。花(ka6246)は、Gacruxに声を掛けた。
「Gacrux君、そこには何と?」
「ああ……どうやら、これは伯爵家の由来に関わるものらしいですねえ」
「ほう……」
花も、碑文に目を落とした。
「なるほどね」
花は軍用PDAを操作して、簡単な情報を登録しておく。他にも庭園を見回って、情報を入力していた。
「最初の客人がやってきたようだね」
「ええ……男爵だそうですよ」
Gacruxは笑って警備に戻っていく。
それから、花の好奇心はまず岩屋に向かった。
「個人的には岩屋がなぜ敷地内にあるのか、好奇心がくすぐられるね」
そこはミニチュア洞窟であった。中にはランプの明かりが灯っていて、古代人のような壁画が一面に描かれていた。
「これは……素晴らしい」
生き生きとした古代人のような人々の戦や暮らしが、歴史絵巻のように色鮮やかに描かれている。早速PDAに登録しておく。
岩屋を堪能した花は、次に氷室に向かった。これからの季節、氷は欠かせない物となるので、しっかり点検するが、本心では氷室の仕組みに関心があった。
氷室は、レンガ造りの縦穴で、土の中に掘られ、そこに冬の間に労働者の手によって運び込まれた大量の氷が蓄えられている。地下への入口は頑丈な鉄の扉が二重になっており、外気は遮断されている。ただ、湿気を逃がすための通気口は設けられており、一番底には鉄格子がはめ込まれていて、外部の用水路に溶けた氷水を逃がす仕組みになっていた。使用人の案内で氷を確認した花は、確かに氷に触れて頷いた。これもPDAに登録しておく。
それから花は、庭園の片隅にあるロックガーデンに歩み寄った。これもPDAに登録して、それから仲間と連絡を取る。
「こちら花です。外の様子は異変はありません。どうぞ」
ややあって。
「ケイよ。邸内部も、今のところ異常無し」
「了解しました」
花は歩き出した。
ザレムは邸内に戻った。次に館内を見回る。ザレムは地下に降りた。
「おおう……」
貯蔵庫の鉄の扉を開けたザレムは、ひんやりした空気を感じながら、中に入った。牛や羊、鹿や豚の肉が吊るされていた。
「よお」
白衣を着た恰幅の良いつるっぱげの男がいて、ザレムに笑いかけた。
「警護の人かい? 今日は大事な客人が来るそうだからね」
「ああ。しかし凄いな……こんなの見たら俺もうずうずしてくるぜ」
「もっと良いものをを見せてやろうか?」
男はザレムを手招きした。
「何だ?」
「こいつも今日のために仕入れたんだ」
男はそう言ってアイスボックスを開けた。新鮮な魚がぎっしり詰まっていた。
「良いねえ……最高だよ」
ザレムは男に礼を言って、厨房に向かった。シェフやコックたちがいて、まだリラックスしていた。
コンロにオーブン、大きな調理台、そして例によって肉を焼くための自動回転串などが揃っている。
ザレムはシェフたちとひとしきり料理談義に花を咲かせると、上階に戻った。
会合が行われている別の応接間の前には、ダークスーツを着た男たちが立っていた。
「お疲れさん」
ザレムの声に、男達は軽く頷き、通信機に何事かを呟いた。
「ザレム、少し交代してくれ。ちょっと出る」
「分かった」
ザレムは黄金の扉の前で手を前で組んで待機した。
「お前……」
もう一人の男が言った。ザレムが笑顔を向けると男は軽く頷いた。
「いや、仕事に集中しようか……」
「そうだな」
ザレムは肩をすくめた。
「わざわざハンターを雇うとは、よっぽど重要な話し合いなんだろうな」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)はダークスーツに身を包み、廊下の天井装飾を見上げながら歩いていた。
「ヒュー、さすが伯爵ともなると一等地にこれだけの豪邸を持ってるのか」
ホールに入ったレイオスは、その荘厳な室内に身を委ね、心地よい感触を得ていた。
「リアルブルーじゃ展示じゃない現役の伯爵邸なんて普通は入れないからな。仕事に手を抜くつもりはないが、折角の機会だし警備がてら見物させてもらおう」
ホールには大理石が用いられていた。職人技の精緻な床細工に細工柱、天井の細工、そして壁にも天井にも床にも黄金細工。戦士の彫像は後光のようなオーラを模した彫刻を纏い、剣と盾を掲げていた。
レイオスは彫像を見上げて、それから不審者が隠れていないか、気になった貯蔵庫に向かった。
「色々と珍しい食材やグラス一杯で数十万とする酒もありそうだな。こいつは夜会のメシが楽しみだ」
ワイン庫にずらりと並んだ年代物の樽を見やり、レイオスはすっかり堪能していた。そして上階へ戻る。
メイド服に着替えながら、エルバッハ・リオン(ka2434)は、
「メイドに扮しての警護依頼ですか。ただの警護ならともかく、意外とそういった依頼は受けていないですね」と呟いていた。
メイド服に着替える際に、杖や銃や短剣などはスカートの内側の脚に装備しておく。
巡回するエル。会合が行われている部屋の前にはザレムがいた。エルはトレイにティーポットを乗せていて、軽く会釈して通り過ぎる。
そのまま歩いていて、ジャック・フレイムと遭遇する。
「やあ。順調ですかねエルさん」
「はいジャックさん」
「宜しくお願いしますよ」
ジャックは軽くお辞儀して歩き去った。
エルは巡回を続けた。向こうからケイがやってくる。すれ違いざまに、二人は軽く膝を折って会釈して、無事を確認し合った。
アナスタシアともエルは遭遇した。会釈すると、アナスタシアが口を開いた。
「このまま何事もなく終わると良いんですけど」
「そうですね」
「エルさん良く似合ってますよ」
アナスタシアはにっこり笑って、歩き去った。
それからレイオスと会う。
「よお」
「レイオスさん」
「そっちはどうだ」
「これと言って特には。もちろんそれが一番ですが」
「しかしまあ……さすが伯爵邸だな。オレにとっちゃ完全夢の世界だぜ」
「なかなかこういう機会はないですよね」
「ああ。無事に終わると良いんだが」
「ええ」
エルはにっこり笑って、レイオスと別れると廊下を歩き出した。
マーオ・ラルカイム(ka5475)はダークスーツに身を包み、廊下を歩いていた。時折仲間たちとすれ違う。警備の仕事はあまり行ったことがないマーオ。だが、彼にはある目的があった。それは恋人の捜索であった。ヴォイドのせいで離れ離れになってしまった恋人。上流階級の会合ならば、もしかして……と淡い希望を抱いてきた。
「見つからなくても……構いません」
マーオは呟き、一通り邸内を回ったところでホールに入った。見事な石造りの細工は職人技であろう。マーオは、揺れる心で戦士の彫像を見上げた。恋人の名を胸の内で反芻する。
それから玄関に向かう。ダークスーツを着た使用人が一人いて、待機していた。マーオは軽く会釈しておく。
そこで、ジャック・フレイムが姿を見せた。
「マーオさん」
「ジャックさん、いかが致しましたか」
「子爵が参られました」
「子爵閣下が。そうですか」
三人が待機していると、使用人が連絡を受けて扉を開けた。子爵と夫人、随伴の騎士が四人姿を見せた。
「やあジャック。またお邪魔するよ」
「子爵。お待ちしておりました」
マーオは、応対しながら見知った顔がないか探していたが、彼女はいなかった。
北谷王子 朝騎(ka5818)がまず向かったのは更衣室であった。朝騎が警戒したのは盗撮パルムが仕掛けていないかのチェックである。カーテンを開けて、クローゼットの中も入念にチェックする。邪悪なパルムはどこに潜んでいてもおかしくない。
「大丈夫でちゅ」
朝騎は銃をガーターベルトに戻すと、次は地階に降りた。メイドたちの部屋に向かう。アナスタシアと遭遇する。
「あら朝騎さん」
「アナスタシアさん、覗き魔がいないかメイドさん達の着替えを護衛するでちゅ」
「覗き魔? 覗いちゃ駄目よ」
アナスタシアは朝騎の頭をポム、と叩くと、立ち去った。
当人は真剣に巡回する朝騎。いや、彼女が一番危険な気がするが……。
次は洗濯室に向かう。下着泥棒がいないかチェックだ。
「ついでに可愛いパンツも探しまちゅ」
その発想が危険なのだが。しかし、期待に反して、小っちゃ可愛い女の子の下着は無かったのでガッカリする朝騎。
しかし、まだ小さな娘のメイドがいた。彼女は小部屋で石鹸を作っていた。朝騎、反射的に仰向けヘッドスライディングでスカートの中をのぞき魔した。
「ええっと、アサシンが潜んでないかチェックしたでちゅよ」
刹那――次の瞬間、少女のガーターベルトから拳銃が抜かれ、早技で朝騎の眉間を銃口が押さえ付けていた。
「何者?」
「ハ、ハンターでちゅ」
冷や汗を流す朝騎。コメディから一転してシリアスへ。が、娘は肩をすくめて銃を直すと、石鹸作りに戻った。
「ここの使用人は危険でちゅね……すぐに銃を抜くとか」
朝騎は巡回に戻る。他の場所も見回って何か日曜大工で直せる所があれば探す。覗き穴を探したが見つからなかった。
と、ランドル・ブライトがいつの間にか朝騎の背後にいて、声を掛けてきた。
「よお。不審な奴が紛れ込んでいると通報があったんだが、知らないか?」
ランドルは短剣の刃を撫でていた。
「朝騎は、し、知らないでちゅ……!」
朝騎はぶんぶん手を振った。
「そうか……ならいいんだが……」
ランドルは歩き去った。
朝騎は吐息した。
「朝騎は悪くないでちゅ。アサシンがいるかも知れないでちゅ」
「何か言ったか?」
ランドルが戻ってきた。
「な、何でもないでちゅ!」
朝騎は通常任務に戻った。
鞍馬 真(ka5819)はダークスーツに身を包み、黄金の廊下を歩いていた。
「何も起こらずに済めば良いがな」
見取り図を見て、大凡の造りを把握し、非常時の脱出経路や戦闘できそうな場所に当たりをつけておく。通信機で仲間とやり取り。
「しかし……見事なものだな」
壁や天井の黄金細工に見とれてしまう。廊下でケイと会った。
「どう?」
「こっちは異常無しだ」
「夜会があるのよね。楽しみだわ」
鞍馬は肩をすくめた。
そしてザレムと遭遇する。
「会合は無事に進んでいるようだ」
「ああ。他にも貴族たちがぼつぼつ到着し始めているようだな」
「そのようだ。まあ、一層警戒はしておかないとな」
「そっちもな」
鞍馬は別れて歩きだした。そしてレイオスと顔を合わせる。
「よお鞍馬。オレは飯が楽しみになって来たぜ」
レイオスは笑った。
「早くもそっちの方か」
「地下室行ってみ。すげー食材がたんまりこんだぜ」
「ああ、後で行ってみる」
そしてエルとも会った。
「鞍馬さん」
「エル君。順調かい」
「ええ」
エルはにっこり笑った。
それから会場近辺へ向かうと、メイド姿のマリィア・バルデス(ka5848)がいた。マリィアは通信機でやり取りしていた。
「よ、マリィア」
「あら、鞍馬」
「会合は順調そうだな」
「そうね。何の会合か、想像もつかないけど。……でもまあ、こういうところでお知り合いが増えると、面白そうな依頼が降ってきそうじゃない? 最近色々物足りなかったのよね」
マリィアが肩をすくめると、鞍馬は笑った。
「俺はちょっと屋上に出てくる」
「私はこのまま会場の警備に当たるわ」
鞍馬は立ち去った。
マリィアはスカートの内側に拳銃を太腿に装備していた。
銀の壺に花を入れて、それを窓際に置いて、それとなく会場の入り口に目をやる。ダークスーツの男二人、マリィアと目を合わせ軽く頷く。それからマリィアは洗面器を持って来て、壺の水を入れ替えたりしながら、また花を入れ替えたりしながら、警戒に当たる。
大体十分ほどで、また壺を持って、別の窓際へと移動する。
どれくらいの時間が経過したであろうか。廊下の向こうから、ざわざわと十人ほどの貴族の一団がジャックの案内でやってきた。
「客人がカレン様とお会いになる」
ジャックは通信機で全員に流した。
マリィアはジャックと目配せして、頷くと、壁際に引いて、通り過ぎて会場の部屋に入っていく貴族たちにお辞儀した。
マリィアは通信機で言った。
「客人は無事に入ったわ。どうやら、これからまた別幕が続きそうね」
鞍馬は屋上に上がっていた。屋上のテラスにも精緻な彫刻が施されていて、職人技が光っている。また屋上には屋根付きの会所があって、テーブルや椅子が設置されている。ここでパーティも開かれるのであろうか。
「…………」
鞍馬は双眼鏡で庭園を見渡した。邸の外にも目を向ける。第一街区にはこのような邸宅が幾つもあるようだ。
「さて……と」
鞍馬はテラスを指でなぞると、階下に戻って行った。
――会合は無事に終了した。
夜。
大広間にて、夜会が開かれる。主催のカレン・ブラックホークが、挨拶をして、来賓の貴族たちに、実はハンター達が来ていることを告げる。
「ほお……」
と、貴族と騎士たちが、ハンターらの方を向いた。
「さあ、わたくしの野暮な挨拶はこれくらいにして、みなさま、お楽しみ下さいませ」
カレンが手を叩くと、楽隊のクラシックの演奏が始まった。
ケイは、紫のミニ丈カクテルドレスを着用していた。後ろに行くに従いアゲハ裾になっており、背中が大きく開き、薔薇の意匠が施されている。何処か気品を思わせる振舞い。
ケイは貴族たちの輪に交じって、雑談を交わした。男性貴族たちは社交辞令かもしれないがケイの美貌を星のように賛美し、夫人たちは悪戯っぽく宮廷のゴシップを聞かせてくれた。ケイは楽しんでいた。
壁の窓は解放されていて、ケイはテラスに出て夜風に当たった。
「昼間とはまた違った雰囲気……素敵、ね」
そのまま庭園に出る。歩きだす。星々が瞬いている。ケイはランプライトに照らされる庭園の美しさに、歩きながらオペラを歌唱し始めた。その声は透明感と儚さが混じり、不思議な美しさを奏でる。会場の人々が、ふとケイの声に耳を傾ける。
「うん、ドレスのが似合っているよ」
シルヴェイラは、自身はスーツ。同伴のエルティアのドレス姿を褒め称えた。
「ありがとう……と礼は言っておくわ」
エルティアはハイネックで背中の大きく空いた夜空色のロングドレスで参加していた。
二人は夜会の最中も会場に目を光らせていた。と、カレン伯が二人に近寄って来た。
「昼間は疲れたでしょう。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。エアが御迷惑を……」
「ふふ……何かあったらしいわね」
カレンがワイングラスを掲げると、エルティアはお辞儀した。
「二人とも、楽しんで行って」
カレンは笑って立ち去った。
「また図書室へ行こうかしら……」
「いやいや……エア~てば」
閑話休題。
ザレムはカレンとグラスを打ち合わせた。
「カレンさん、招待ありがとう。また会えて嬉しいよ」
「私も会えて嬉しいわ。英雄だそうね」
夜会の食事はビュッフェ。ザレムは皿の肉をつついた。
「この肉……本物の仔牛のフィレですよね? 第三街区とかだと、ロースやももをフィレと言って出している店が普通にありますからね」
「もちろん、毎日こんなの出すわけじゃないのよ」
カレンは笑った。
「さすがに厨房は広いですね。俺、実はシェフでもありまして……休日は大抵料理かバイク弄りです。うずうずしちゃって」
「そうなの? うちのシェフらと話したそうね」
「ええ。俺ね、帝国軍人の家系から飛び出した口なんです。国や立場に関係なく動きたいので……軍人に向いてるとは思いますが……今後も協力を約束します。俺は、平和を守りたい」
「まさに『ハンター』ね。頼むわよ」
カレンはザレムと握手した。
レイオスは、晩餐を堪能した後、カレンに言った。
「料理人に美味かったと直接伝えたいな。そのままレシピを教えて欲しいくらいだ」
「そう? ちょっとアナスタシアに言って。オッケーよ」
「サンキュー」
レイオスは厨房へと降りて行った。
厨房は今まさに戦争だった。料理人たちがこの夜会のための仕事の真っ最中だった。
レイオスはシェフのもとに歩み寄った。
「あのカジキのポワレ、見事だな。あの黄金色のソースには何を使ってる?」
「複数種の肉、野菜、香辛料、それを合わせて……魔法を掛ける。気に入ってくれたかい?」
「オレの知ってるリアルブルーのレシピと交換でもいいぜ」
「リアルブルーか? そいつはたまらんな。また後でな!」
エルは、夜会の席でカレンと会話した。カレンは勿論先の戦でエルがブラックホーク家の兵士たちと同行したことを知っている。
「こうして直接、ご挨拶をするのは初めてですね。エルバッハ・リオンと申します。よろしければ、エルとお呼びください。よろしくお願いします」
「エル。よろしくね。私のこともカレンで良いわよ」
「カレン……さん」
エルは苦笑した。
「うちの魔術師ジークフリートを紹介するわ。ジーク!」
灰髪灰瞳のエルフがやってきた。
「ジーク、エルよ。ハンターオフィスの大マギステル」
「光栄です。ジークフリート・ローエンラインと申します」
「エルバッハ・リオンです。宜しくお願いします」
スーツに着替え護衛用に剣を装備したGacruxはエルの様子を横目に、貴族との雑談を楽しんでいた。
貴族たちの話は、今日は趣味や宮廷の雑談や政治談議であった。
Gacruxは笑いながら、人間観察をしていた。立場が強い者、弱い者がいて、皆見えない線を引いて、しかし皆社交の場を楽しんでいた。Gacruxはワインに口をつけると、 記念碑の話題を振ってみる。
「カレン伯の記念碑に、王国の古い話が記載されていましたが……」
「それぞれですよGacrux殿。王国にも光と影があり、そしてまた、我々貴族社会にも光と影があります。ですが……王国の臣民であるという一点において、我々は共同体です」
シャイン伯爵が言うと、他の貴族や騎士たちが微笑んで頷いた。
ドレス姿のマリィアは、貴夫人らに交じって会話していた。
「ハンターですって? 凄いわねえ……」
シャイン伯爵夫人が言葉を向けてきた。
「いえ、私など……ただの銃使いです」
「あなた、その銃で、人を殺したことはあるの?」
すると、マリィアは言った。
「私はリアルブルーからやって参りました。人を助けたい……守りたいという想いは、今もございます。ですが、軍人時代のように只管守らなければならないという想いはなくなりました。生死は結局のところ、自己責任だと思います。あの頃は……歪んでいたのだと、今はそう思っています」
「なるほどねえ……あなた、お名前は?」
「マリィア・バルデス、と申します。ハンター、猟撃士をやっております」
「うちの主人を密かに殺してって言ったら、やって下さる?」
「御冗談を」
「まあ、伯爵夫人たら、恐ろしい」
貴夫人たちは笑った。
「マーオ、どうしたの?」
カレンが、マーオに声を掛けてきた。
「え? ええ……」
「何か心ここにあらずって感じね。仕事は終わったのに」
「うーん……大丈夫ですよ。楽しんでおります。ただ、まあ、ここへ来れば、もしかして……と思うこともありましてね」
マーオは会場の中を目を泳がせていた。あの人はやはりいない。
「誰かを探しているの?」
「あ、いえ、そういうわけでは……失礼」
マーオは軽く会釈して、カレンにお辞儀した。
飲み物をもらいに行った。ボトルが並んでいるテーブルに、使用人に声を掛ける。
「アップルジュースはありますか?」
「かしこまりました」
使用人はグラスにジュースを注ぐと、マーオに手渡した。「ありがとう」と言ってグラスを受け取ったマーオ。ひとつ呼吸した。
朝騎は可愛らしいゴシックドレスに身を包んで、うろうろちょこまかしていたが、小さい女の子がいないと興味が薄れキッチンへ向かった。
ここでもコメディっぷりを発揮する朝騎。
「暗殺者が食材に毒を仕込んでいるかも知れまちぇん」
つみぐいという名の毒味。チーズパイをつまみ食い。
「おいしい……毒味でちゅからね」
もう一つつまみ食い。
「こらー!」
パティシエの怒号が飛んだ。
「毒が入っているかも知れまちぇん」
「入ってねーよ!」
真剣に言う朝騎に、パティシエは呆れていた。
「ちょっと疲れた顔してるわね」
カレンが鞍馬に笑みを向けると、鞍馬は肩をすくめた。
「こんなに貴族が集まる場に行くのは初めてなんですよ。まあ……場の雰囲気を楽しむ程度ですかね。堅苦しいのは苦手です」
「あなたにはリンスも世話になってるみたいね。これからも妹を助けてあげて」
「まあ、体が追い付けば」
鞍馬は笑って肩をすくめると、ワイングラス片手にテラスに出た。夜風に当たる。心地よい。見ると、ケイもグラス片手に夜風に当たっている。
「マドモワゼル」
「あら、何かしら?」
ケイは悪戯っぽく笑みを浮かべていた。鞍馬は仰向けにテラスにもたれかかると、広間の様子を眺めた。演奏と人々の喧騒が聞こえてくる。
「お疲れさんだったな」
「これくらい、何ともないわね。ステージに比べたらね」
「ステージか……」
「歌を歌ってたの。リアルブルーでね」
「歌……か……いいね。さっきの? 綺麗な声だった」
「こっちの世界じゃ星は綺麗よねえ……」
ケイは、夜空を見上げた。鞍馬も、星空に首を動かした。
そこへ花がやってきた。
「みなさんお疲れの御様子だ」
「まあ、な」
「花は楽しんでるみたいね」
「ええ……。もう十分ですよ。あとは……少し夜会が終わるまで、蔵書でも拝見させて頂こうかと思いましてね」
「行ってらっしゃい」
ケイが手を振った。
花はカレンのもとへ向かった。
「失礼、カレン伯。お願いがあるのですが……」
そうして、カレンの許可をもらった花は、図書室へ入って行った。ランプの明かりを灯すと、花はそのうちの一冊を適当に手に取った。何かの物語だ。リアルブルーの文庫サイズの本はなく、その本はずっしり重たい。花は金張りのソファに腰掛けると、マホガニーのテーブルに本を置いた。棚からグラスを取ってポットの水を入れると、花は読書にふけるのだった。
……夜もたけなわ。貴族達も馬車で帰っていく。カレンが見送る。そしてハンターたちもカレンと挨拶を交わして邸から出て行った。門扉が閉ざされ、依頼の終了を告げる。ハンターたちは帰路につき、カレンが発行した証明書を第二街区の検問所で手渡した。それから第三街区のソサエティ支部へ向かうと、リゼリオへと帰還したのであった。
メイド服を着たケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、言って金の文様装飾の壁紙が張り巡らされ、金の天井装飾が続いている廊下の間に続く窓のガラスを梯子に乗って拭いていた。スカートの内側のガーターベルトには拳銃を装備。
伯爵たちの会合は始まったばかりであった。
「良い天気だな」
歩いてきたダークスーツの金髪の男。伯爵家密偵ランドル・ブライトであった。
「ランドル……でしたっけ?」
「ケイ、だな。今回は礼を言うぜ」
「あたしは仕事で来ただけよ」
ケイは微笑を浮かべて窓の外に目をやり、ガラスを拭いた。ランドルは肩をすくめた。
「ともあれ、カレン様はハンターを高く買ってるからな。俺もうかうかしてられん」
「あなたは……ただの使用人じゃないわよね。と言っても、この邸の使用人にただの使用人は少ないみたいだけど」
「はは……まあ、そうだな。華麗なる怪盗、とでも言っておこうか」
「何よそれ」
ランドルが密偵であることはケイも知らない。しかし、ただの男ではないことは察しが付く。
シルヴェイラ(ka0726)とエルティア・ホープナー(ka0727)はスーツを来て執事に扮していた。通信機に耳をすませ、二人で廊下を歩きながら言葉を交わす。
「爵位を持つ者……ふぅん……上位の生き物が必ずしも賢しいという訳では無いと思うけれど……持つ者だからこそ手にできる知識には興味はあるわね」
エルティアが言うと、シルヴェイラは肩をすくめた。
「伯爵か……まさかエアとこんなところへ来ることが出来るとはね……」
銀髪銀瞳のエルフは、肩をすくめた。
「シーラ、カレン・ブラックホーク伯……まだ会ったばかりだけど、良さそうな感じの方だったわね」
「そうだね、エア」
シルヴェイラは、優しい瞳で微笑んだ。
エルティアはダークスーツに三つ編み。懐に銃。袖口にナイフ。少し胸を抑える。
「……抑えて来たつもりだけれど……大丈夫かしら?」
エルティアが心配するのに、シルヴェイラはくすくすと笑った。
「こぼれるほど無いのだから心配する事はないさ」
「ちょっと、何か言った?」
「冗談だよ。ところで……」
シルヴェイラとエルティアは小声で話しながら、邸内を移動していく。
二人は応接間に入った。マホガニーの扉を開ける。壁紙は金の文様装飾。黄金の燭台、宮廷絵師の絵画が壁にあり、女神像の彫刻の大理石の暖炉、窓には金細工のカーテン、金張りのソファ、金箔の椅子、黄金の象嵌が施された金箔脚のマホガニーのテーブル、絨毯はグラズヘイム・シュバリエの逸品。
「凄いわねえ……」
エルティアは室内に入ると、カーテンを直すように触れて窓から外を見た。美しい庭園が広がっている。
シルヴェイラは絵画を見やる。絵は空想的な風景画で、王宮の若手絵師のサインがしてあった。
通信機で仲間と連絡を取り合い、二人は屋上へ上がった。庭園が一望できる。
「見事ね……」
エルティアが眺望に見とれている横顔に、シルヴェイラは少し視線を向け、そして地上に目をやる。二人は屋上を回り、階下に戻るとギャラリーに入った。ギャラリーは列柱回廊の装飾がしてあって、大きな窓から庭園を一望出来た。
……そしてエルティアは吸い寄せられるように図書室へ。本の虫……中毒者がその誘惑に勝てる筈もなく。
エアが真面目にやっているようだし珍しいなとは思いつつ、図書室に行ったのは「やっぱりな」と苦笑するシルヴェイラ。
ジャック・フレイムと遭遇する。
「どうかしましたか?」
ジャックは微笑んでいた。
「申し訳ありません執事殿。連れが活字中毒でして……図書室の誘惑は強烈過ぎたようです」
シルヴェイラが申し訳なさそうに言うと、ジャックは微笑した。
「会合が終わるまでには仕事に戻って頂いて……」
「すみません」
「いえいえ」
ジャックは歩き去った。
図書室の中で、エルティアは蔵書を読みふけっていた。分厚い図鑑を開くと、絵画やデザイン画、図解が挿絵に、都市イルダーナの歴史が記されている。エルティアはすっかり没頭。
ザレム・アズール(ka0878)は飾りのような女は苦手であった。先日会ったカレン伯爵はともすればお高く留まっているお嬢様かと思いきや、銃の達人でホロウレイドでは父とともに前国王と駒を並べて戦ったという武人であった。短い会話の中ではあったが、リンスファーサが世話になっていることに頭を下げたカレン、その人となりを感じたザレムは、カレン伯にそう悪い印象は抱かなかった。
「リンスさんもカレンさんも、自立してて、リスペクトに値する女性だ」
ザレムはそう言って、カレン伯と握手を交わしたのであった。
ダークスーツに身を包んだザレムは、クナイと銃を服の内側に隠して庭園を猟犬シバと共に警邏。芝生に目を凝らして見る。不審な足跡などが付いていないか。
「ザレムだ。こちら異常はない」
通信機に向かって言うと、仲間たちからも声が返ってくる。午後の時間はゆったりと流れて行く。
Gacrux(ka2726)と遭遇する。彼は傭兵として庭園を騎乗してドーベルマンを伴い巡回警備していた。
「ザレム。凄い庭ですよねえ」
貴族との縁はこの先、必ずや役立つ時が来る筈……。Gacruxは内心呟きながら、ザレムに笑みを向ける。
「そっちは異常なしか」
「ええ。平和なものですよ。不審な気配はない。まあ……第一街区と言うだけあって、そもそも警備は厳重なのでしょうが」
「そうだなあ。まあ敵の敵は味方、とか、お貴族様だ。そんな世界なのかも知れんが」
「油断は禁物ですねえ」
Gacruxはザレムと別れた。会合の議題はジャックに確認したが、慣例的なものだとしか答えてもらえなかった。まあ仕方ない。
「立派なものですねえ……」
養魚池を見やり、馬を下りて清潔に保たれている水に触れる。
午後の時間は平和に過ぎて行く。
周辺の壁はそれほど高いわけではない。別棟を壁の一部にして、その間を小さなアーチ造りのレンガ壁に漆喰が塗り込まれ白い石造り細工のような外見になっていた。正面は鉄格子で門があった。Gacruxは門に近づいて行った。門番と挨拶を交わす。少し雑談していると、一台の馬車が停止した。来客であろうか。Gacruxは馬を下りて、客人を出迎えた。
貴族の男と女、随伴の騎士が二人、馬車から降りて来た。男爵とその夫人であった。門番とGacruxは丁寧に腰を折った。
「伯とお会いするのは久しぶりだ。私もまた邸を改築せねばならんな……」
男爵は、Gacruxに笑いかけた。
「男爵閣下、こちらでございます。執事がご案内いたしますので」
Gacruxは通信機で連絡を取ると、男爵一行を邸内に案内していく。
ジャック・フレイムに後を引き継ぐと、Gacruxは警備に戻った。
気になっていた記念碑に向かう。記念碑は、石碑であった。古い文字が刻み込まれている。どうやらブラックホーク伯爵家の先祖が記したものらしい。王家から伯爵号を賜ったことが短い年代記のように描かれている。カール・ブラックホークと、エリザベート・ブラックホーク、という名が重要な人物として描かれていた。
「ふむ……」
Gacruxはしばし石碑に見入った。
護鬼たる為に。この護衛の依頼を通し、手腕を磨こう。花(ka6246)は、Gacruxに声を掛けた。
「Gacrux君、そこには何と?」
「ああ……どうやら、これは伯爵家の由来に関わるものらしいですねえ」
「ほう……」
花も、碑文に目を落とした。
「なるほどね」
花は軍用PDAを操作して、簡単な情報を登録しておく。他にも庭園を見回って、情報を入力していた。
「最初の客人がやってきたようだね」
「ええ……男爵だそうですよ」
Gacruxは笑って警備に戻っていく。
それから、花の好奇心はまず岩屋に向かった。
「個人的には岩屋がなぜ敷地内にあるのか、好奇心がくすぐられるね」
そこはミニチュア洞窟であった。中にはランプの明かりが灯っていて、古代人のような壁画が一面に描かれていた。
「これは……素晴らしい」
生き生きとした古代人のような人々の戦や暮らしが、歴史絵巻のように色鮮やかに描かれている。早速PDAに登録しておく。
岩屋を堪能した花は、次に氷室に向かった。これからの季節、氷は欠かせない物となるので、しっかり点検するが、本心では氷室の仕組みに関心があった。
氷室は、レンガ造りの縦穴で、土の中に掘られ、そこに冬の間に労働者の手によって運び込まれた大量の氷が蓄えられている。地下への入口は頑丈な鉄の扉が二重になっており、外気は遮断されている。ただ、湿気を逃がすための通気口は設けられており、一番底には鉄格子がはめ込まれていて、外部の用水路に溶けた氷水を逃がす仕組みになっていた。使用人の案内で氷を確認した花は、確かに氷に触れて頷いた。これもPDAに登録しておく。
それから花は、庭園の片隅にあるロックガーデンに歩み寄った。これもPDAに登録して、それから仲間と連絡を取る。
「こちら花です。外の様子は異変はありません。どうぞ」
ややあって。
「ケイよ。邸内部も、今のところ異常無し」
「了解しました」
花は歩き出した。
ザレムは邸内に戻った。次に館内を見回る。ザレムは地下に降りた。
「おおう……」
貯蔵庫の鉄の扉を開けたザレムは、ひんやりした空気を感じながら、中に入った。牛や羊、鹿や豚の肉が吊るされていた。
「よお」
白衣を着た恰幅の良いつるっぱげの男がいて、ザレムに笑いかけた。
「警護の人かい? 今日は大事な客人が来るそうだからね」
「ああ。しかし凄いな……こんなの見たら俺もうずうずしてくるぜ」
「もっと良いものをを見せてやろうか?」
男はザレムを手招きした。
「何だ?」
「こいつも今日のために仕入れたんだ」
男はそう言ってアイスボックスを開けた。新鮮な魚がぎっしり詰まっていた。
「良いねえ……最高だよ」
ザレムは男に礼を言って、厨房に向かった。シェフやコックたちがいて、まだリラックスしていた。
コンロにオーブン、大きな調理台、そして例によって肉を焼くための自動回転串などが揃っている。
ザレムはシェフたちとひとしきり料理談義に花を咲かせると、上階に戻った。
会合が行われている別の応接間の前には、ダークスーツを着た男たちが立っていた。
「お疲れさん」
ザレムの声に、男達は軽く頷き、通信機に何事かを呟いた。
「ザレム、少し交代してくれ。ちょっと出る」
「分かった」
ザレムは黄金の扉の前で手を前で組んで待機した。
「お前……」
もう一人の男が言った。ザレムが笑顔を向けると男は軽く頷いた。
「いや、仕事に集中しようか……」
「そうだな」
ザレムは肩をすくめた。
「わざわざハンターを雇うとは、よっぽど重要な話し合いなんだろうな」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)はダークスーツに身を包み、廊下の天井装飾を見上げながら歩いていた。
「ヒュー、さすが伯爵ともなると一等地にこれだけの豪邸を持ってるのか」
ホールに入ったレイオスは、その荘厳な室内に身を委ね、心地よい感触を得ていた。
「リアルブルーじゃ展示じゃない現役の伯爵邸なんて普通は入れないからな。仕事に手を抜くつもりはないが、折角の機会だし警備がてら見物させてもらおう」
ホールには大理石が用いられていた。職人技の精緻な床細工に細工柱、天井の細工、そして壁にも天井にも床にも黄金細工。戦士の彫像は後光のようなオーラを模した彫刻を纏い、剣と盾を掲げていた。
レイオスは彫像を見上げて、それから不審者が隠れていないか、気になった貯蔵庫に向かった。
「色々と珍しい食材やグラス一杯で数十万とする酒もありそうだな。こいつは夜会のメシが楽しみだ」
ワイン庫にずらりと並んだ年代物の樽を見やり、レイオスはすっかり堪能していた。そして上階へ戻る。
メイド服に着替えながら、エルバッハ・リオン(ka2434)は、
「メイドに扮しての警護依頼ですか。ただの警護ならともかく、意外とそういった依頼は受けていないですね」と呟いていた。
メイド服に着替える際に、杖や銃や短剣などはスカートの内側の脚に装備しておく。
巡回するエル。会合が行われている部屋の前にはザレムがいた。エルはトレイにティーポットを乗せていて、軽く会釈して通り過ぎる。
そのまま歩いていて、ジャック・フレイムと遭遇する。
「やあ。順調ですかねエルさん」
「はいジャックさん」
「宜しくお願いしますよ」
ジャックは軽くお辞儀して歩き去った。
エルは巡回を続けた。向こうからケイがやってくる。すれ違いざまに、二人は軽く膝を折って会釈して、無事を確認し合った。
アナスタシアともエルは遭遇した。会釈すると、アナスタシアが口を開いた。
「このまま何事もなく終わると良いんですけど」
「そうですね」
「エルさん良く似合ってますよ」
アナスタシアはにっこり笑って、歩き去った。
それからレイオスと会う。
「よお」
「レイオスさん」
「そっちはどうだ」
「これと言って特には。もちろんそれが一番ですが」
「しかしまあ……さすが伯爵邸だな。オレにとっちゃ完全夢の世界だぜ」
「なかなかこういう機会はないですよね」
「ああ。無事に終わると良いんだが」
「ええ」
エルはにっこり笑って、レイオスと別れると廊下を歩き出した。
マーオ・ラルカイム(ka5475)はダークスーツに身を包み、廊下を歩いていた。時折仲間たちとすれ違う。警備の仕事はあまり行ったことがないマーオ。だが、彼にはある目的があった。それは恋人の捜索であった。ヴォイドのせいで離れ離れになってしまった恋人。上流階級の会合ならば、もしかして……と淡い希望を抱いてきた。
「見つからなくても……構いません」
マーオは呟き、一通り邸内を回ったところでホールに入った。見事な石造りの細工は職人技であろう。マーオは、揺れる心で戦士の彫像を見上げた。恋人の名を胸の内で反芻する。
それから玄関に向かう。ダークスーツを着た使用人が一人いて、待機していた。マーオは軽く会釈しておく。
そこで、ジャック・フレイムが姿を見せた。
「マーオさん」
「ジャックさん、いかが致しましたか」
「子爵が参られました」
「子爵閣下が。そうですか」
三人が待機していると、使用人が連絡を受けて扉を開けた。子爵と夫人、随伴の騎士が四人姿を見せた。
「やあジャック。またお邪魔するよ」
「子爵。お待ちしておりました」
マーオは、応対しながら見知った顔がないか探していたが、彼女はいなかった。
北谷王子 朝騎(ka5818)がまず向かったのは更衣室であった。朝騎が警戒したのは盗撮パルムが仕掛けていないかのチェックである。カーテンを開けて、クローゼットの中も入念にチェックする。邪悪なパルムはどこに潜んでいてもおかしくない。
「大丈夫でちゅ」
朝騎は銃をガーターベルトに戻すと、次は地階に降りた。メイドたちの部屋に向かう。アナスタシアと遭遇する。
「あら朝騎さん」
「アナスタシアさん、覗き魔がいないかメイドさん達の着替えを護衛するでちゅ」
「覗き魔? 覗いちゃ駄目よ」
アナスタシアは朝騎の頭をポム、と叩くと、立ち去った。
当人は真剣に巡回する朝騎。いや、彼女が一番危険な気がするが……。
次は洗濯室に向かう。下着泥棒がいないかチェックだ。
「ついでに可愛いパンツも探しまちゅ」
その発想が危険なのだが。しかし、期待に反して、小っちゃ可愛い女の子の下着は無かったのでガッカリする朝騎。
しかし、まだ小さな娘のメイドがいた。彼女は小部屋で石鹸を作っていた。朝騎、反射的に仰向けヘッドスライディングでスカートの中をのぞき魔した。
「ええっと、アサシンが潜んでないかチェックしたでちゅよ」
刹那――次の瞬間、少女のガーターベルトから拳銃が抜かれ、早技で朝騎の眉間を銃口が押さえ付けていた。
「何者?」
「ハ、ハンターでちゅ」
冷や汗を流す朝騎。コメディから一転してシリアスへ。が、娘は肩をすくめて銃を直すと、石鹸作りに戻った。
「ここの使用人は危険でちゅね……すぐに銃を抜くとか」
朝騎は巡回に戻る。他の場所も見回って何か日曜大工で直せる所があれば探す。覗き穴を探したが見つからなかった。
と、ランドル・ブライトがいつの間にか朝騎の背後にいて、声を掛けてきた。
「よお。不審な奴が紛れ込んでいると通報があったんだが、知らないか?」
ランドルは短剣の刃を撫でていた。
「朝騎は、し、知らないでちゅ……!」
朝騎はぶんぶん手を振った。
「そうか……ならいいんだが……」
ランドルは歩き去った。
朝騎は吐息した。
「朝騎は悪くないでちゅ。アサシンがいるかも知れないでちゅ」
「何か言ったか?」
ランドルが戻ってきた。
「な、何でもないでちゅ!」
朝騎は通常任務に戻った。
鞍馬 真(ka5819)はダークスーツに身を包み、黄金の廊下を歩いていた。
「何も起こらずに済めば良いがな」
見取り図を見て、大凡の造りを把握し、非常時の脱出経路や戦闘できそうな場所に当たりをつけておく。通信機で仲間とやり取り。
「しかし……見事なものだな」
壁や天井の黄金細工に見とれてしまう。廊下でケイと会った。
「どう?」
「こっちは異常無しだ」
「夜会があるのよね。楽しみだわ」
鞍馬は肩をすくめた。
そしてザレムと遭遇する。
「会合は無事に進んでいるようだ」
「ああ。他にも貴族たちがぼつぼつ到着し始めているようだな」
「そのようだ。まあ、一層警戒はしておかないとな」
「そっちもな」
鞍馬は別れて歩きだした。そしてレイオスと顔を合わせる。
「よお鞍馬。オレは飯が楽しみになって来たぜ」
レイオスは笑った。
「早くもそっちの方か」
「地下室行ってみ。すげー食材がたんまりこんだぜ」
「ああ、後で行ってみる」
そしてエルとも会った。
「鞍馬さん」
「エル君。順調かい」
「ええ」
エルはにっこり笑った。
それから会場近辺へ向かうと、メイド姿のマリィア・バルデス(ka5848)がいた。マリィアは通信機でやり取りしていた。
「よ、マリィア」
「あら、鞍馬」
「会合は順調そうだな」
「そうね。何の会合か、想像もつかないけど。……でもまあ、こういうところでお知り合いが増えると、面白そうな依頼が降ってきそうじゃない? 最近色々物足りなかったのよね」
マリィアが肩をすくめると、鞍馬は笑った。
「俺はちょっと屋上に出てくる」
「私はこのまま会場の警備に当たるわ」
鞍馬は立ち去った。
マリィアはスカートの内側に拳銃を太腿に装備していた。
銀の壺に花を入れて、それを窓際に置いて、それとなく会場の入り口に目をやる。ダークスーツの男二人、マリィアと目を合わせ軽く頷く。それからマリィアは洗面器を持って来て、壺の水を入れ替えたりしながら、また花を入れ替えたりしながら、警戒に当たる。
大体十分ほどで、また壺を持って、別の窓際へと移動する。
どれくらいの時間が経過したであろうか。廊下の向こうから、ざわざわと十人ほどの貴族の一団がジャックの案内でやってきた。
「客人がカレン様とお会いになる」
ジャックは通信機で全員に流した。
マリィアはジャックと目配せして、頷くと、壁際に引いて、通り過ぎて会場の部屋に入っていく貴族たちにお辞儀した。
マリィアは通信機で言った。
「客人は無事に入ったわ。どうやら、これからまた別幕が続きそうね」
鞍馬は屋上に上がっていた。屋上のテラスにも精緻な彫刻が施されていて、職人技が光っている。また屋上には屋根付きの会所があって、テーブルや椅子が設置されている。ここでパーティも開かれるのであろうか。
「…………」
鞍馬は双眼鏡で庭園を見渡した。邸の外にも目を向ける。第一街区にはこのような邸宅が幾つもあるようだ。
「さて……と」
鞍馬はテラスを指でなぞると、階下に戻って行った。
――会合は無事に終了した。
夜。
大広間にて、夜会が開かれる。主催のカレン・ブラックホークが、挨拶をして、来賓の貴族たちに、実はハンター達が来ていることを告げる。
「ほお……」
と、貴族と騎士たちが、ハンターらの方を向いた。
「さあ、わたくしの野暮な挨拶はこれくらいにして、みなさま、お楽しみ下さいませ」
カレンが手を叩くと、楽隊のクラシックの演奏が始まった。
ケイは、紫のミニ丈カクテルドレスを着用していた。後ろに行くに従いアゲハ裾になっており、背中が大きく開き、薔薇の意匠が施されている。何処か気品を思わせる振舞い。
ケイは貴族たちの輪に交じって、雑談を交わした。男性貴族たちは社交辞令かもしれないがケイの美貌を星のように賛美し、夫人たちは悪戯っぽく宮廷のゴシップを聞かせてくれた。ケイは楽しんでいた。
壁の窓は解放されていて、ケイはテラスに出て夜風に当たった。
「昼間とはまた違った雰囲気……素敵、ね」
そのまま庭園に出る。歩きだす。星々が瞬いている。ケイはランプライトに照らされる庭園の美しさに、歩きながらオペラを歌唱し始めた。その声は透明感と儚さが混じり、不思議な美しさを奏でる。会場の人々が、ふとケイの声に耳を傾ける。
「うん、ドレスのが似合っているよ」
シルヴェイラは、自身はスーツ。同伴のエルティアのドレス姿を褒め称えた。
「ありがとう……と礼は言っておくわ」
エルティアはハイネックで背中の大きく空いた夜空色のロングドレスで参加していた。
二人は夜会の最中も会場に目を光らせていた。と、カレン伯が二人に近寄って来た。
「昼間は疲れたでしょう。ありがとう」
「いえ、こちらこそ。エアが御迷惑を……」
「ふふ……何かあったらしいわね」
カレンがワイングラスを掲げると、エルティアはお辞儀した。
「二人とも、楽しんで行って」
カレンは笑って立ち去った。
「また図書室へ行こうかしら……」
「いやいや……エア~てば」
閑話休題。
ザレムはカレンとグラスを打ち合わせた。
「カレンさん、招待ありがとう。また会えて嬉しいよ」
「私も会えて嬉しいわ。英雄だそうね」
夜会の食事はビュッフェ。ザレムは皿の肉をつついた。
「この肉……本物の仔牛のフィレですよね? 第三街区とかだと、ロースやももをフィレと言って出している店が普通にありますからね」
「もちろん、毎日こんなの出すわけじゃないのよ」
カレンは笑った。
「さすがに厨房は広いですね。俺、実はシェフでもありまして……休日は大抵料理かバイク弄りです。うずうずしちゃって」
「そうなの? うちのシェフらと話したそうね」
「ええ。俺ね、帝国軍人の家系から飛び出した口なんです。国や立場に関係なく動きたいので……軍人に向いてるとは思いますが……今後も協力を約束します。俺は、平和を守りたい」
「まさに『ハンター』ね。頼むわよ」
カレンはザレムと握手した。
レイオスは、晩餐を堪能した後、カレンに言った。
「料理人に美味かったと直接伝えたいな。そのままレシピを教えて欲しいくらいだ」
「そう? ちょっとアナスタシアに言って。オッケーよ」
「サンキュー」
レイオスは厨房へと降りて行った。
厨房は今まさに戦争だった。料理人たちがこの夜会のための仕事の真っ最中だった。
レイオスはシェフのもとに歩み寄った。
「あのカジキのポワレ、見事だな。あの黄金色のソースには何を使ってる?」
「複数種の肉、野菜、香辛料、それを合わせて……魔法を掛ける。気に入ってくれたかい?」
「オレの知ってるリアルブルーのレシピと交換でもいいぜ」
「リアルブルーか? そいつはたまらんな。また後でな!」
エルは、夜会の席でカレンと会話した。カレンは勿論先の戦でエルがブラックホーク家の兵士たちと同行したことを知っている。
「こうして直接、ご挨拶をするのは初めてですね。エルバッハ・リオンと申します。よろしければ、エルとお呼びください。よろしくお願いします」
「エル。よろしくね。私のこともカレンで良いわよ」
「カレン……さん」
エルは苦笑した。
「うちの魔術師ジークフリートを紹介するわ。ジーク!」
灰髪灰瞳のエルフがやってきた。
「ジーク、エルよ。ハンターオフィスの大マギステル」
「光栄です。ジークフリート・ローエンラインと申します」
「エルバッハ・リオンです。宜しくお願いします」
スーツに着替え護衛用に剣を装備したGacruxはエルの様子を横目に、貴族との雑談を楽しんでいた。
貴族たちの話は、今日は趣味や宮廷の雑談や政治談議であった。
Gacruxは笑いながら、人間観察をしていた。立場が強い者、弱い者がいて、皆見えない線を引いて、しかし皆社交の場を楽しんでいた。Gacruxはワインに口をつけると、 記念碑の話題を振ってみる。
「カレン伯の記念碑に、王国の古い話が記載されていましたが……」
「それぞれですよGacrux殿。王国にも光と影があり、そしてまた、我々貴族社会にも光と影があります。ですが……王国の臣民であるという一点において、我々は共同体です」
シャイン伯爵が言うと、他の貴族や騎士たちが微笑んで頷いた。
ドレス姿のマリィアは、貴夫人らに交じって会話していた。
「ハンターですって? 凄いわねえ……」
シャイン伯爵夫人が言葉を向けてきた。
「いえ、私など……ただの銃使いです」
「あなた、その銃で、人を殺したことはあるの?」
すると、マリィアは言った。
「私はリアルブルーからやって参りました。人を助けたい……守りたいという想いは、今もございます。ですが、軍人時代のように只管守らなければならないという想いはなくなりました。生死は結局のところ、自己責任だと思います。あの頃は……歪んでいたのだと、今はそう思っています」
「なるほどねえ……あなた、お名前は?」
「マリィア・バルデス、と申します。ハンター、猟撃士をやっております」
「うちの主人を密かに殺してって言ったら、やって下さる?」
「御冗談を」
「まあ、伯爵夫人たら、恐ろしい」
貴夫人たちは笑った。
「マーオ、どうしたの?」
カレンが、マーオに声を掛けてきた。
「え? ええ……」
「何か心ここにあらずって感じね。仕事は終わったのに」
「うーん……大丈夫ですよ。楽しんでおります。ただ、まあ、ここへ来れば、もしかして……と思うこともありましてね」
マーオは会場の中を目を泳がせていた。あの人はやはりいない。
「誰かを探しているの?」
「あ、いえ、そういうわけでは……失礼」
マーオは軽く会釈して、カレンにお辞儀した。
飲み物をもらいに行った。ボトルが並んでいるテーブルに、使用人に声を掛ける。
「アップルジュースはありますか?」
「かしこまりました」
使用人はグラスにジュースを注ぐと、マーオに手渡した。「ありがとう」と言ってグラスを受け取ったマーオ。ひとつ呼吸した。
朝騎は可愛らしいゴシックドレスに身を包んで、うろうろちょこまかしていたが、小さい女の子がいないと興味が薄れキッチンへ向かった。
ここでもコメディっぷりを発揮する朝騎。
「暗殺者が食材に毒を仕込んでいるかも知れまちぇん」
つみぐいという名の毒味。チーズパイをつまみ食い。
「おいしい……毒味でちゅからね」
もう一つつまみ食い。
「こらー!」
パティシエの怒号が飛んだ。
「毒が入っているかも知れまちぇん」
「入ってねーよ!」
真剣に言う朝騎に、パティシエは呆れていた。
「ちょっと疲れた顔してるわね」
カレンが鞍馬に笑みを向けると、鞍馬は肩をすくめた。
「こんなに貴族が集まる場に行くのは初めてなんですよ。まあ……場の雰囲気を楽しむ程度ですかね。堅苦しいのは苦手です」
「あなたにはリンスも世話になってるみたいね。これからも妹を助けてあげて」
「まあ、体が追い付けば」
鞍馬は笑って肩をすくめると、ワイングラス片手にテラスに出た。夜風に当たる。心地よい。見ると、ケイもグラス片手に夜風に当たっている。
「マドモワゼル」
「あら、何かしら?」
ケイは悪戯っぽく笑みを浮かべていた。鞍馬は仰向けにテラスにもたれかかると、広間の様子を眺めた。演奏と人々の喧騒が聞こえてくる。
「お疲れさんだったな」
「これくらい、何ともないわね。ステージに比べたらね」
「ステージか……」
「歌を歌ってたの。リアルブルーでね」
「歌……か……いいね。さっきの? 綺麗な声だった」
「こっちの世界じゃ星は綺麗よねえ……」
ケイは、夜空を見上げた。鞍馬も、星空に首を動かした。
そこへ花がやってきた。
「みなさんお疲れの御様子だ」
「まあ、な」
「花は楽しんでるみたいね」
「ええ……。もう十分ですよ。あとは……少し夜会が終わるまで、蔵書でも拝見させて頂こうかと思いましてね」
「行ってらっしゃい」
ケイが手を振った。
花はカレンのもとへ向かった。
「失礼、カレン伯。お願いがあるのですが……」
そうして、カレンの許可をもらった花は、図書室へ入って行った。ランプの明かりを灯すと、花はそのうちの一冊を適当に手に取った。何かの物語だ。リアルブルーの文庫サイズの本はなく、その本はずっしり重たい。花は金張りのソファに腰掛けると、マホガニーのテーブルに本を置いた。棚からグラスを取ってポットの水を入れると、花は読書にふけるのだった。
……夜もたけなわ。貴族達も馬車で帰っていく。カレンが見送る。そしてハンターたちもカレンと挨拶を交わして邸から出て行った。門扉が閉ざされ、依頼の終了を告げる。ハンターたちは帰路につき、カレンが発行した証明書を第二街区の検問所で手渡した。それから第三街区のソサエティ支部へ向かうと、リゼリオへと帰還したのであった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 10人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/16 02:27:20 |
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相談卓 花(ka6246) 鬼|42才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/16 02:29:22 |