ゲスト
(ka0000)
ハンターのみの結婚式、開催!
マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2016/06/19 19:00
- 完成日
- 2016/07/02 21:18
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
六月のとある日の昼間、ルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)とフェイト・アルテミス(kz0134)は応接室で、テーブルの上いっぱいに山積みになっている手紙を片っ端から開封しては読んでいくという作業を黙々と繰り返している。
「……ったく。いくら今の季節がジューンブライドとは言え、毎日毎日どこかで結婚式を行うのは止めてほしいわね」
「しょうがありませんよ。この季節に結婚することを、特に貴族のお嬢様達はとても夢見ておられるそうですから」
二人が眼を通している手紙の八割が、結婚式関連だった。
ウィクトーリア領地内で行われる結婚式はもちろんのこと、仕事付き合いやプライベートの付き合いがある者達からも誘われる。
その上、結婚した知らせも手紙で送られてくるものだから、後で返事とお祝いの品をこちらから送らなければならない。
自分よりも他人の結婚式に集中しなければならないルサリィは、いろんな意味でうんざりしていた。
「ウィクトーリアの名前がここまで広まっているのは、次期当主としては嬉しいことよ? ……でもね、一日数回も結婚式に出席できるワケないでしょーがっ!」
流石に全ての結婚式には参加できないので、吟味しなければいけない。
その選別もまた、ルサリィとフェイトの頭を痛ませていた。
「マルセド旦那様とミナーヴァ奥様は既に、出席する結婚式は決めておられるようですね」
「お父様とお母様はズルいわ! 自分達で勝手に決めるんですもの! 何で娘のわたしがウィクトーリア家当主代理として、残りの結婚式に参加しなきゃいけないのよ!」
ルサリィの両親は五月の内に参加する式を決めていた為に、残りの結婚式は全てルサリィに任せているのだ。
「イベント屋敷会場の方も、結婚式で利用する方が増えてきましたね」
「それはまあ……嬉しいことだけど」
フェイトの一言で、ルサリィは冷静になる。
イベント屋敷会場で行われる結婚式の評判は良く、おかげで六月いっぱい結婚式で使われることになっていた。
「あのっ、お話中、申し訳ありません!」
そこへ平メイドのエルサが慌てた様子で、ノックも無しに応接室に入って来る。
「ルサリィお嬢様に、緊急の電話連絡が来ております」
「わたしに? すぐ行くわ」
――数分後、フェイトがいる応接室に戻って来たルサリィは、難しい表情を浮かべていた。
「何のお話でした?」
「実はイベント屋敷会場で、数日後に結婚式を挙げる予定のカップルがいたんだけど……」
一般民である二人は既に一緒に同じ家で暮らしていたのだが、夫になる男性の実家から母親が倒れたという知らせの手紙が届いたのだ。
母親は自分のことは気にせず結婚式を挙げるように言っているらしいが、妻になる女性の勧めもあり、結婚式を中止して実家に行くことになったらしい。
「母親の容態次第でもしかしたら実家に戻るかもしれないから、結婚式を挙げるのはもう少し後にするみたい。夫になる男性は三人兄弟の末っ子だから、嫁になる女性がどうしても自分達の結婚式を見てもらいたいと思っているようだしね」
「良いお嫁さんですね。……しかしそうなると、その日のイベント屋敷会場は空いてしまいますね」
イベント屋敷会場で行う結婚式は、一日一組限定で行われていた。貴族や金持ちからはガッポリ使用料は頂いていたものの、一般民達は使用するのは抽選になるもののほぼ無料で済む。
イベント会場屋敷の六月分の予定は全て埋まっていることは周知のことであるし、六月になった今、結婚式の予定を入れてくる人はいないだろう。
「何だか勿体無いわね。わたしとフェイトはその日、別の結婚式に出席する予定なんだけど……。使用されないと思うと、寂しいわ」
そこでふと、ルサリィは一年前のことを思い出した。
「……そうだわ。確か昨年、ハンター達に模擬合同結婚式(※シナリオ名・『【JB】模擬合同結婚式に参加してください』を参照)をしてもらったわね。今年も行うのはどうかしら?」
「まあ確かに参加者も多くて、盛り上がりましたが……。内容はほぼ同じで行いますか?」
「ええ。それに元々行う予定だった結婚式だから、準備は多少手を加えるだけで済むわね。じゃあ早速、ハンター達に声をかけに行きましょう! ハンターのみの結婚式、開催よ!」
「……ったく。いくら今の季節がジューンブライドとは言え、毎日毎日どこかで結婚式を行うのは止めてほしいわね」
「しょうがありませんよ。この季節に結婚することを、特に貴族のお嬢様達はとても夢見ておられるそうですから」
二人が眼を通している手紙の八割が、結婚式関連だった。
ウィクトーリア領地内で行われる結婚式はもちろんのこと、仕事付き合いやプライベートの付き合いがある者達からも誘われる。
その上、結婚した知らせも手紙で送られてくるものだから、後で返事とお祝いの品をこちらから送らなければならない。
自分よりも他人の結婚式に集中しなければならないルサリィは、いろんな意味でうんざりしていた。
「ウィクトーリアの名前がここまで広まっているのは、次期当主としては嬉しいことよ? ……でもね、一日数回も結婚式に出席できるワケないでしょーがっ!」
流石に全ての結婚式には参加できないので、吟味しなければいけない。
その選別もまた、ルサリィとフェイトの頭を痛ませていた。
「マルセド旦那様とミナーヴァ奥様は既に、出席する結婚式は決めておられるようですね」
「お父様とお母様はズルいわ! 自分達で勝手に決めるんですもの! 何で娘のわたしがウィクトーリア家当主代理として、残りの結婚式に参加しなきゃいけないのよ!」
ルサリィの両親は五月の内に参加する式を決めていた為に、残りの結婚式は全てルサリィに任せているのだ。
「イベント屋敷会場の方も、結婚式で利用する方が増えてきましたね」
「それはまあ……嬉しいことだけど」
フェイトの一言で、ルサリィは冷静になる。
イベント屋敷会場で行われる結婚式の評判は良く、おかげで六月いっぱい結婚式で使われることになっていた。
「あのっ、お話中、申し訳ありません!」
そこへ平メイドのエルサが慌てた様子で、ノックも無しに応接室に入って来る。
「ルサリィお嬢様に、緊急の電話連絡が来ております」
「わたしに? すぐ行くわ」
――数分後、フェイトがいる応接室に戻って来たルサリィは、難しい表情を浮かべていた。
「何のお話でした?」
「実はイベント屋敷会場で、数日後に結婚式を挙げる予定のカップルがいたんだけど……」
一般民である二人は既に一緒に同じ家で暮らしていたのだが、夫になる男性の実家から母親が倒れたという知らせの手紙が届いたのだ。
母親は自分のことは気にせず結婚式を挙げるように言っているらしいが、妻になる女性の勧めもあり、結婚式を中止して実家に行くことになったらしい。
「母親の容態次第でもしかしたら実家に戻るかもしれないから、結婚式を挙げるのはもう少し後にするみたい。夫になる男性は三人兄弟の末っ子だから、嫁になる女性がどうしても自分達の結婚式を見てもらいたいと思っているようだしね」
「良いお嫁さんですね。……しかしそうなると、その日のイベント屋敷会場は空いてしまいますね」
イベント屋敷会場で行う結婚式は、一日一組限定で行われていた。貴族や金持ちからはガッポリ使用料は頂いていたものの、一般民達は使用するのは抽選になるもののほぼ無料で済む。
イベント会場屋敷の六月分の予定は全て埋まっていることは周知のことであるし、六月になった今、結婚式の予定を入れてくる人はいないだろう。
「何だか勿体無いわね。わたしとフェイトはその日、別の結婚式に出席する予定なんだけど……。使用されないと思うと、寂しいわ」
そこでふと、ルサリィは一年前のことを思い出した。
「……そうだわ。確か昨年、ハンター達に模擬合同結婚式(※シナリオ名・『【JB】模擬合同結婚式に参加してください』を参照)をしてもらったわね。今年も行うのはどうかしら?」
「まあ確かに参加者も多くて、盛り上がりましたが……。内容はほぼ同じで行いますか?」
「ええ。それに元々行う予定だった結婚式だから、準備は多少手を加えるだけで済むわね。じゃあ早速、ハンター達に声をかけに行きましょう! ハンターのみの結婚式、開催よ!」
リプレイ本文
ブライズメイドとして先に黒のメイド服に着替えたユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)とデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)は、女性ハンター達を女性用の更衣室へ案内した。
「女性の方達はこちらの更衣室に本日の衣装が用意されておりますので、中で着替えてください」
「更衣室の中にはウィクトーリア家のメイドの人達がいらっしゃいますので、名乗っていただければ着替えのお手伝いをしてくださります」
二人が更衣室の扉を開けると、女性ハンター達は期待に胸をふくらませながら中へ入る。
そしてグルーズムマンのアルファス(ka3312)と牧師役のローエン・アイザック(ka5946)は、男性ハンター達を男性用の更衣室に案内した。
「結婚式は女性が主役のようなものですけど、隣に立つ男性もちゃんと着飾らなければいけません」
「今日の僕は牧師役をするから、まあのんびり楽しい結婚式にしようね」
二人の言葉で緊張が解けたのか、男性ハンター達は軽く笑いながら更衣室へ入る。
○六月の花婿と花嫁
今日の大ホールは最奥に、結婚式用の祭壇が設置された。既にローエンが立っており、誓いの儀式を行う準備を整えている。
花婿と花嫁達は自分の番がくるまで、立ったまま待つ事になっていた。
まず最初に誓いの儀式を行うのは、黒五つ紋付き羽織袴を着ている久延毘 大二郎(ka1771)と、白無垢姿の八雲 奏(ka4074)の恋人だ。
「私、久延毘大二郎は八雲奏を妻として……」
大二郎は若干緊張しながらも、誓いの言葉を語る。
「私、八雲奏は久延毘大二郎を夫として……」
対して奏は、いつものように平静だ。
そして誓いの口付けを交わすと、仲間達から祝福の拍手を贈られる。
顔が真っ赤になった大二郎に、ソッと奏は囁く。
「昨年は頬でしたけど、今年はちゃんと口付けてくれましたね。毘古ちゃん♪」
大二郎の顔がゆでダコよりも赤くなったのは言うまでもなく、移動する時はぎこちない動きになってしまった。
そして綿狸 律(ka5377)と皆守 恭也(ka5378)の恋人は黒五つ紋付き羽織袴を着て、手を繋ぎながら祭壇まで歩く。
「きょっきょーや、コレは一体……どういう事なんだ?」
律は自分の手を引いて歩く恭也に、こっそり尋ねる。
「アレ、言ってなかったか? 今日はここで、結婚式が行えるんだ。だから律と俺も結婚するんだよ」
「んなぁっ!?」
律がアタフタしている間に、祭壇まで到着してしまう。
ローエンは二人の男性が来ても、表情一つ変えず・動じずに結婚式を進行する。
滞る事なく誓いの言葉が終わり、指輪交換も済ませて、誓いの口付けとなった。
大ホールが多少なりと緊張に満ちる中、律は思考停止状態になり、恭也は困り顔になる。
「……腹をくくるか」
恭也は軽く息を吐くと袖を上げて、仲間達から律の顔を隠す。そして律の顎に手をかけて、そっと口付けを交わした。
次の瞬間、ボンッ!と音が鳴り、律は頭から湯気が出るほど顔が真っ赤になる。
そんな律の手を引きながら、恭也は移動した。
純白のウエディングドレスに身を包んだフィルメリア・クリスティア(ka3380)は濃紺のタキシードを着たゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)と共に、静かに誓いの儀式を進める。
だが誓いのキスを終えると、ゼクスは突然フィルメリアをお姫様抱っこして、もう一度キスをした。
「今日みたいなイベントなら、多少はしゃいでも良いだろう?」
「ゼクスの場合は『多大』になると思うんだけど……。まあせっかくの結婚式だし、良いわよ」
フィルメリアは幸せそうに微笑むと、自らゼクスにキスをする。
紫色のウエディングドレスを着たクリスティン・ガフ(ka1090)と黒のタキシードを着た春日 啓一(ka1621)は、先の恋人達の熱に当てられたのか、顔を真っ赤にして照れていた。
クリスティンと啓一も大人しく誓いの儀式を進めていると思いきや、誓いのキスを終えると熱く見つめ合う。
そして啓一はクリスティンをお姫様抱っこして、真っ直ぐに見つめながら告げる。
「今日からお前は俺のモノで、俺はお前のモノだ。これからよろしくな」
「もちろん。啓一君は私だけの旦那様だよ。これからよろしくね」
二人はニッコリ微笑み合うと、再び熱いキスをした。
最後のビスマ・イリアス(ka1701)は黒いタキシードを着ており、リューナ・ヘリオドール(ka2444)は青いウエディングドレスを着ている。
だが二人は戸惑いの表情を浮かべており、どことなくぎこちない。
((何でこんな事にっ……!))
と、二人は心の中で同じ疑問を抱いていた。
実はビスマは料理人、リューナはブライズメイドの役を申請していたのだが、いざ更衣室で使用人に名乗ったところ、何故か花婿と花嫁の衣装を着せられたのだ。
ビスマの頭の中にはアルファスとローエン、リューナの頭の中ではユーリとデュシオンが、意味ありげに笑っている姿が浮かぶ。
それでも今更止めるわけにもいかず、誓いの儀式をやり遂げてしまった。
○それぞれの結婚披露宴
誓いの儀式を終えた後は、大広間で披露宴のような立食パーティとなる。
女性用の更衣室ではユーリとデュシオンが、天の原 九天(ka6357)の着替えを手伝っていた。
「ふふっ、まことにめでたき日よ。思う存分、祝い尽くしてくれようぞ! 祝言が挙げられたのならば、全てに等しく祝う事こそ神の役目である。これでもかと言うほど、歌って踊って盛り上げようぞ!」
「九天様、祝う事は良い事だと思いますけど……」
「新婚さん達は初々しい気分でいられるので、ほどほどにしてくださいね?」
九天にピンク色のミニウエディングドレスを着せながら、二人は少し苦く笑いながら注意をする。
「ふむ、そうじゃな。わしに夢中になってしまったら、仲違いをさせてしまうからのぅ」
本気で語る九天に、二人は何も言えなくなった。
「では見守る事にするのじゃ。誓いの儀式は既に見終えたし、後はハネムーンを……」
「「それは絶対に止めてください」」
暴走する九天の右肩を強張った表情のユーリが、左肩は凍り付いた笑みを浮かべるデュシオンがガシッと力強く掴む。
流石に二人の本気度を感じ取った九天は、コクコクッと顔を上下に振った。
そして二人は着替えさせ終えると、大広間の舞台の裏まで九天を案内する。
舞台に踊りながら出た九天は、元気に仲間達へ向かって大きく手を振り、声をかけた。
「このたびはご結婚、おめでとうなのじゃ! わしはこれから『きゅーと』で『ぽっぷ』な歌と踊りを披露するからのぅ。神が直々に、祝いと愛の加護を授けようぞ♪」
楽しそうにショーをはじめた九天の頭には、ピンク色のハナミズキの髪飾りがつけてある。
ハナミズキの花言葉は『私の想いを受けとめてください』、結婚した仲間達を祝福する気持ちを受け止めてほしいと思う九天の気持ちを表しているようだった。
大広間には中庭へ続くガラス扉があり、今は開かれている。
誓いの儀式で疲れきった大二郎は休憩の意味も込めて、中庭の木陰にある木製のベンチに座り、奏を待っていた。
「お待たせしました、毘古ちゃん。綿帽子を取ってきました」
奏は「綿帽子をつけたままでは動きにくいですよ」と言うユーリとデュシオンと共に女性用の更衣室へ行き、綿帽子を取ってきたのだ。
今は結び上げた髪を、八重桜の髪飾りでまとめている。
太陽の光を受けて光り輝く白無垢を身にまとう奏は、見慣れぬせいか大二郎の目には眩しく映った。
そのことを隠すように、大二郎は奏から視線をそらす。
「八重桜の髪飾り、奏に似合うな。確か花言葉は『淑やか』と『優美な女性』だから、奏のイメージにピッタリだ」
「うふふ、ありがとうございます。隣に座っても良いですか?」
大二郎は頷き、奏の分のスペースを空けた。
「昨年同様、このイベントに奏と参加できて良かった。……今日を迎えるまでにいろいろな事があったが、それでもようやく落ち着いてきたと言えるな」
「……長い一年間でしたね。様々な悲劇が起こってしまいましたが、とりあえず平穏な日々は少しずつですが戻ってきているようです。戦巫女として、そしてハンターとしてやるべき事はまだまだ残っていますが……。それでも今はこの時を、穏やかに過ごしたいと思います」
弱々しく微笑みながら、奏は大二郎の肩に寄りかかる。
大二郎は周囲を見回して、近くに誰もいない事を確認した。そして「ごっほん」と咳を一つすると、表情を引き締める。
「なっなあ、奏。一年前と大きく違った事と言えば、私にとっては奏と恋人になった事……だと思っているんだ。だっだから、君さえ良ければ……いつか私と本物の結婚式を挙げてみないか?」
「毘古ちゃん……」
驚きに眼を丸くした奏は顔を上げて、間近で大二郎を見つめた。
「でっでもまだ時期尚早……と言うか、私自身が君の夫として相応しい男になっていない……と思う。だから私がもう少し成長したら……、考えてみてくれないか?」
しどろもどろになりながらも必死に求婚の言葉を語る大二郎、奏はゆっくりと嬉しそうな笑みを浮かべる。
「……嬉しいです。私も毘古ちゃんと将来は結婚したいと思っていますが……、私もまだまだ半人前ですからね。やるべき全ての事を終えたのならば、きっと私達は成長する事ができるでしょう。その時には……」
「ああ、その時には――な」
涙を浮かべる奏を、優しく大二郎は抱き締めた。
白薔薇が咲き誇る庭園に置かれた白いガゼボの中のベンチには、気が抜けた律が座っている。
「律、飲み物と食べ物を持ってきた」
恭也が声をかけても、律は無反応。それでも構わず恭也は隣に座って、律に持ってきたものを飲ませたり食べさせたりした。
食事を終えるとようやく気力が回復したのか、律は涙目になりながら恭也をキッ!と睨む。
「きょーやっ、騙したな! 『グラズヘイム王国の模擬結婚式を体験できる依頼がある。美味しい食事がタダだし、衣装も無料で貸してくれる』と、きょーやから聞いたから今日は一緒に参加したのに! ただの参加者役かと思っていたのに何故か新郎役で、しかもひっ人前でせっ接吻なんて……!」
「顔は俺の袖で隠したから、接吻の場面は仲間達からは見えなかっただろう。……ローエン殿以外は、だけど」
しかしローエンは二人のキスシーンを見ても変わらず進行を続けたのだから、ある意味、心がとても広いと恭也は密かに思う。
「でもまあ模擬結婚式と言うのは本当だから、仲間達は本気にしていないさ。――俺達の本当の結婚式は、もう少し静かにやりたいしな?」
意味深げに恭也に言われて、再び律は顔を真っ赤にする。そして唸りながらも、恭也に抱き着いた。
「ううっ……! きょーやめ、カッコ良いぜ」
「それはどうも」
恭也に頭を優しく撫でられる律はしばらく静かにしていたものの、ふと白薔薇を見て口を開く。
「……何だかきょーやと白薔薇って、似ているな。色もそうだけど、何となく雰囲気が近い気がするぜ」
「ああ、そうかもな。白薔薇の花言葉は『私はあなたにふさわしい』だからな」
自信満々な笑みを浮かべる恭也を見て、律は一瞬息をするのを忘れてしまう。
「ぐっ……! きょーやにピッタリな花言葉だ」
「律にピッタリな花は……ストックかな? 花言葉は『愛の絆』だ」
さらりと今の二人の関係を言われた律は、それでも必死に反撃の言葉を考える。
「……きょーやって、結構恥ずかしい事を平気で言うよな」
「まあここには律しかいないからな。二人っきりの時は、俺の気持ちを包み隠さず律に伝えたいんだ」
「そっそうかよ……」
律は何を言っても敵わない事を実感して、大人しく恭也に再び抱き着く事にした。
大広間で歌って踊る九天を立ったまま見ながら、フィルメリアは幸せそうに微笑んでいる。
「……まさかこんな形で結婚式を挙げられるなんて、想像もしなかったよ。軍人になって、生涯添い遂げる人ができても、結婚式を挙げる事はないだろうと思っていたからね。正直嬉しいし、楽しいよ」
そんなフィルメリアに、隣に立つゼクスは熱い視線を向けていた。
「フィルのウエディングドレス姿、やっぱりステキだなぁ。軍隊の奴らが見たら、絶対に騒ぐだろう。ヘタしたら俺の命が……ふぎゅっ!?」
「考えている事が全て口から出ているわよ?」
フィルメリアは視線を動かさないまま、素早くゼクスの頬をつねる。
「まったく……。ちょっと気を緩めると、すぐにゼクスは調子付くんだから」
咎めるように横目でゼクスを睨んだ後、頬を解放した。
「イテテッ。……だってグラズヘイム王国で結婚式を挙げられるなんて、思ってもいなかったんだ。まあイベントとしてだけど、せっかくなら盛り上がるようにと思って行動してみたんだよ」
ゼクスは眼にうっすら涙を浮かばせながらも、必死に訴える。
するとフィルメリアは赤いバラのブーケを両手で持ち上げた後、ゼクスが着ているタキシードの胸元を飾る赤いバラを見た。
「分かっているよ。だから私はゼクスが赤いバラの花束を持ってプロポーズをしてきた時、返事と共に一輪を渡したんだから」
そう言うと少しだけ背伸びをして、ゼクスの耳元に唇を近付ける。
「赤いバラの花言葉は『あなたを愛しています』。――私も同じ気持ちだからこそ、ゼクスに贈ったのよ。だからちゃんと幸せにしてよね? 勝手に遠くに行ったりしたら、許さないんだから」
「……フィルッ!」
感極まったゼクスが抱き着こうとしたものの、フィルメリアは素早く避けた。
「フィルメリア様、バイオリンをお持ちしました」
「そろそろ九天様が休憩に入られますので、お願いします」
バイオリンケースを持ったユーリとデュシオンが、フィルメリアに声をかける。
「分かったわ。バイオリン、持ってきてくれてありがとうね」
フィルメリアはバイオリンケースを受け取ると、かわりにブーケをゼクスへ渡す。
「と言う事で、私は休憩する九天さんに代わって舞台でバイオリンを演奏してくるから、ブーケを預かっててね」
「……はい」
大人しくブーケを受け取りながらもへこむゼクスを見て、フィルメリアは優しい口調で話しかけた。
「ゼクスには後でルピナスの花束を贈ってあげるから、元気出して」
「ルピナスの花束って……何で?」
不思議そうに首を傾げるゼクスに、フィルメリアは微笑みかける。
「ルピナスの花言葉が『あなたは私の安らぎ』なのよ」
「えっ、それって……」
ゼクスが問い掛ける間を与えず、フィルメリアは背を向けて歩き出した。
中庭を散歩しているクリスティンと啓一は、花が咲いていないホトトギスの花壇を見て足を止める。
「ホトトギスの花が咲くのは初夏なんだけど、一斉に咲いたら綺麗だろうね」
「へぇ。そんじゃあ咲いたら、花束にしてクリスに贈ろうか?」
「えっ!? まっまさか啓一君、ホトトギスの花言葉を知っているの?」
「んなワケねーだろ。ホトトギスの花言葉って何だ?」
尋ねられたクリスティンは、顔を真っ赤にして俯きながらも小さな声で答えた。
「……『永遠にあなたのもの』」
「ふぅん。なら俺がクリスへ贈っても、おかしくはないな」
ニヤッと笑うと、啓一はクリスティンの腰を掴んで引き寄せる。
「告白もプロポーズも、クリスに先を越されちまったからな。ホトトギスの花束を贈るから、改めて俺からプロポーズさせろ」
「あの、アレはそもそもそういう意味じゃなくて……いや、もう遅いね」
クリスティンは恥ずかしそうに啓一から顔を背けながら、数日前の事を思い出す。
今回の依頼を知ったクリスティンは、スターチスの花束を持って啓一に一緒に参加しないかと誘ったのだ。
逆プロポーズのような形になってしまい、あくまでもクリスティンはイベントとして考えていたのだが、啓一は真面目に真剣に考えた結果、今日が二人の結婚式――となった。
「そういやぁ、クリスがプロポーズの時に持ってきた花の花言葉は何だ?」
啓一は、タキシードの胸元を飾る黄色のスターチスを指さして問う。
クリスティンが持つブーケも、もちろん黄色のスターチスだ。
「黄色のスターチスの花言葉は……『愛の喜び』だよ」
啓一は一瞬キョトンとしたが、すぐにクリスティンを強く抱き締める。
「……クリスってさ、意外と恋愛に積極的だよな。俺はな、こっちの世界に来てから随分経つけど、まさか嫁さんをもらう日がくるなんて夢にも思わなかったんだ。自分で言うのもなんだが、不良顔だろう? なのにクリスときたら俺の事を好きだなんて言い出すし、戸惑って上手く接する事ができなかった俺の事をずっと想っていてくれた。だから恋に落ちてしまったんだろうな」
啓一の胸の中でクリスティンは今までの自分の行動を振り返り、恥ずかしくて顔が上げられなくなった。
「けっ結構時間がかかったけどね……」
「だからその分、今度は俺がクリスに愛情をめいっぱい注いでやる。欲しかった女が、嫁になってくれたんだ。後はひたすら一緒にいて、愛するだけだ」
「ううっ……! けっ啓一君の方が、実は恋愛に積極的なんじゃないのかな?」
「変えたのはクリスだろう? 責任を持って、俺を愛せよ」
自信たっぷりに言うと、啓一はクリスティンにキスをする。
「……んもぅ。啓一君、今はまだ仕事中なんだから、続きは家に帰ってからね?」
「そりゃ残念。んじゃ、真面目に仕事に戻るか」
啓一はそれでもクリスティンの腰に回した手を放さないまま、大広間へ戻った。
大広間の壁際に置かれた二人掛け用のソファに座るビスマとリューナは、ようやく一息つく。
「……模擬とは言え、結婚式の主役をするのは疲れたな」
「ええ。……それに花嫁衣裳なんて、私には似合わないしね。何だか恥ずかしいわ」
「そっそんなワケない! とても良く似合っているし、うっ美しい花嫁……だと思う。……俺はリューナのウエディングドレス姿を見れて嬉しいし、模擬だが誓いの儀式を挙げられた事は……役得だと思っている」
たどたどしくも必死に褒めてくれるビスマを見て、リューナはふわりと笑う。
「うふふ、ありがとう。ビスマの花婿姿もなかなか様になっているわ。……でもごめんなさいね? 相手が私という事もあって、いろいろ合わせてくれて……。青いバラを胸に飾られたのも、きっと私のせいでしょうし」
「いや、青いバラは嫌いではないし……。それに俺の方こそすまない。リューナに相応しい相手ではないだろうに……」
「そんな事ないわよ。私はあなたが相手で良かったと思っているもの」
「そっそうか? それならもうお互いに謝るのは無しにしよう。いくら予定外の役目になったとは言え、本気で参加している仲間達がいるんだ。暗い空気は流石に、な」
「そうね。暗い空気にしちゃあ、新婚さん達が可哀想よね。ここはイベントとして、楽しみましょう」
二人はぎこちなくも、ようやく微笑み合う。
ビスマはふと、テーブルの上に置かれたリューナの青いバラのブーケを見て、首を傾げた。
「なあリューナ、今更聞くのも何だが、青いバラは結婚式に向いているのか?」
「そうねぇ……。青いバラの花言葉には『夢かなう』・『奇跡』・『神の祝福』があるから、向いていると思うわよ。バラはちょうど今が見頃だしね」
「そうか。花言葉が重要なんだな。俺が知っている花言葉といえば……」
ビスマは知っている花言葉を思い出した途端、少し顔を赤くしながら改めてリューナのウエディングドレス姿を見る。
「――どうかしたの? ビスマ」
「いっいや、その……リューナはクルクマという名の花を知っているか?」
「……多分知らないわね。はじめて聞く花の名前だし」
「そうか! 八月に美しく咲く花なんだが、今度一緒に見に行かないか?」
「アラ、嬉しいお誘いね。八月が待ち遠しいわ」
「良かった。じゃあ約束だ」
二人は互いに小指を絡ませて、約束を交わす。
機嫌が良くなったリューナは、ビスマの企みに気付かない――。
クルクマの花言葉は『あなたの姿に酔いしれる』、ビスマはその事をリューナと花を見に行った時に伝えようと考えているのだ。
休憩に入ったデュシオンとローエンは中庭を散歩している途中で、ライラックの木とアイリスの花が植えられた場所へ来た。
「美しい光景ですわね。ライラックもアイリスも今が見頃ですけど、わたくしは紫色のライラックが気に入りましたわ」
「僕はアイリスの花畑が気に入ったよ。今日ここで、結婚式を挙げられた仲間達は幸せ者だね。こんな素敵な場所で、模擬だけど結婚式ができたんだから」
「ええ。皆様、本当にお幸せそうでした。結婚式とは生涯添い遂げる事を誓う儀式、とても素晴らしいのですが……少々当てられてしまいますわ」
誓いの儀式を行った五組のカップルを思い出して、デュシオンは熱い吐息をもらす。
ブライズメイドとして平静を装わなければならなかったものの、熱々のカップルに当てられては心の中はどうしても動揺してしまう。
それでも何とか取り乱さずにいられたのは、ずっと平常のままでいたローエンを見ていたからだ。
「デュシオンちゃんはそれでもしっかりとやってくれていたね。……でも何だかずっと僕を見ていたような気がしていたんだけど、何か言いたい事でもあるのかい?」
イタズラっぽく尋ねてきたローエンを見て、デュシオンは自分の胸が高鳴るのを知り、改めて彼への気持ちを自覚する。
「……アイザック様、誓いの儀式をわたくしとしてくださいませんか? ――と言ったら、あなた様はどうされます?」
言っている途中でデュシオンは急に正気に戻り、反撃するように意味ありげに微笑んで見せた。
「デュシオンちゃんと、かい? う~ん……」
ローエンは少しの間考えた後、首に下げていたロザリオを外す。
「僕なんかで良ければ、よろしくね。今日の儀式はもう終わっちゃったから、今度改めて行おう」
そう言ってローエンは、デュシオンの首にロザリオをかけた。
「えっ……ええっ!?」
驚いたデュシオンは仰け反り過ぎて、倒れてしまう。
「大丈夫かい?」
ローエンはデュシオンのそばにしゃがみ込むと、アイリスの花を見てポンッと手を叩く。
「後でこのアイリスを貰って、デュシオンちゃんに贈るよ。アイリスの花言葉は『あなたを大切にします』だからね」
「……わたくし、紫色のライラックの花言葉の効果を思い知りましたわ。『恋の芽生え』ですの」
「それは凄い効果だ」
クスッと笑うローエンの手を借りながら立ち上がったデュシオンは無意識に紫のライラックに手を伸ばすと、手のひらに五枚の花びらになっている花が落ちてきた。気付いたデュシオンは、慌ててその花を飲み込む。
「もうそろそろ大広間に戻ろうか?」
「はっはい……!」
――ライラックの花びらの数は普通は四枚である。しかし五枚になっている花を見つけて黙って飲み込むと、『愛する人と永遠に過ごせる』という言い伝えがあった。
デュシオンは秘密を閉じ込めるように、ローエンから貰ったロザリオで自分の唇を塞ぐ。
デュシオンとローエンが大広間に戻って来たので、今度はユーリとアルファスの休憩時間になる。
二人は大広間を出て、ベランダに置いてある木のベンチに二人並んで座った。
そして大広間で今も楽しそうに過ごしている仲間達の姿を見て、ホッと安堵する。
「ようやく一段落ついたわね。会場の飾り付けも大変だったけれど、綺麗にできて良かったわ」
「ユーリはブルースターの花を気に入っていたよね」
「ええ。ブルースターの花言葉は『幸福な愛』だし、サムシング・フォーの一つ、サムシング・ブルーになるから。アルはベコニアの花を気に入っていたわね」
「ベコニアの花言葉は『幸福な日々』なんだよ。結婚した人達に贈る言葉って感じかな?」
会場のセッティングにも関わっていた二人は、飾る花にもこだわっていた。
自分達の仕事が半分終わった事で、二人は多少なりと緊張を緩める。
「……ねぇ、ユーリ。大きな戦いも一段落ついて、平和な時間が少しずつだけど戻ってきたね。いくつもの戦いを経て、自分の刃に誇りを持てたんじゃないのかな?」
「私の『刃』は、大切な人達と明日という名の道を歩む為に切り開くモノ……。確かに私は数多くの戦いを経験して、『刃』の技術や能力を上昇させる事はできたわ。おかげで敵を倒すほどの力をつける事ができたのだけど……、正直言うと手放しで喜べないわ。あまりに多くの戦いを経験し過ぎたからかな?」
視線は大広間へ向けたまま、ユーリは弱々しく微笑む。
「けれどユーリが僕にとって誇れる刃になった――と思っても良いんだよね?」
「アル……、そうだね。まだまだ成長するけれど、『鞘』であるアルが誇れる『刃』にはなれたと思うよ。それが私の目標だったのだから」
「それならば、僕達はようやく鞘と刃として一本の剣になれるんだね。どんな絶望も闇も切り開いて、希望の光を輝かせる白銀の剣に」
アルファスは懐からダイヤモンドリングを取り出すと、ベンチから立ち上がり、ユーリの前に跪いた。
「未来への道を、二人で一緒に歩いて行こう。僕は君の事を『鞘』として護るよ。君はエルフで僕は人間で……生きる時間が違うけれど、それでもユーリの心を永遠に護り続けるから。だからどうか、僕と結婚してください」
「もちろん、喜んで」
ダイヤモンドリングを受け取ったユーリの眼に、ブルースターの花が映る。
「アル、ちょっと待ってて」
ユーリは急いで大広間に戻ると、数分後には両手いっぱいにブルースターの花束を抱えて戻って来た。
「ブルースターの花言葉には『信じあう心』というのもあるの。今の私達にはピッタリな花言葉だから……。アル、私と結婚してください」
真っ赤になったユーリに花束を差し出されて、アルファスは受け取ると一輪を引き抜いて胸元のポケットに入れる。
「ありがとう、ユーリ。ベコニアの花言葉には『愛の告白』という意味もあるんだ。僕達の結婚式にも、この花を飾ろうね」
白い新和装を着た黒の夢(ka0187)と黒の羽織袴を着た恭牙(ka5762)は、手をつないで大広間から出て中庭を歩いていた。
しかし華やかな花が咲き乱れる所ではなく、落ち着いた新緑の植物が植えてある場所に来ている。
黒の夢は申し訳なさそうな顔をしながら、恭牙に手を引かれていた。
「……キョーちゃん、ゴメンなのな。せっかく花婿の衣装を着てもらったのに、誓いの儀式をやらなくて……」
「なぁに、構わんさ。ユーリ殿とデュシオン殿も、『無理にしなくても良い』と言ってくれたんだろう? 『こういうのは当人達の気持ち次第だから』と」
「うん……。でもビスマちゃんとリューナちゃんが身代わりになっちゃったのな」
「アイツらの事はそれこそ気にする必要もない。強制的にでも参加させなければ、いつまで経っても進展しないからな」
「ふふっ、キョーちゃんは本当に優しい鬼なのな。……我輩の事、見つけてくれてありがとう」
黒の夢はギュッ……と恭牙の腕にしがみつく。
黒の夢の長い黒髪をまとめているのは、『君を愛す』という花言葉を持つ赤いアネモネの花飾り。恭牙が衣装合わせの時に、黒の夢に似合う物を選んだのだ。
純白の花嫁衣裳は黒の夢の黒き肌に映えていて、恭牙の眼には眩しく映って思わず眼を細める。
いつもとは違う黒の夢の姿に胸が高鳴りながらも、恭牙は緊張しながら口を開く。
「アンナにはちゃんと誓いを立てたい。仲間達に祝福されながらというのも悪くはないが、私の誓いはアンナだけが知っていれば良いからな」
「キョーちゃん……」
恭牙はそっと黒の夢から離れると、目の前で跪いた。そして真っ直ぐに真剣に、黒の夢の金色の双眸を見つめる。
「アンナ、私の隣にいてくれまいか? 私はアンナを護る鬼になると誓う。だから……私がいつか天命を全うする日がきても、アンナの心に少しでもいいから残してくれないか?」
求婚をされた黒の夢はしかし、戸惑いの表情を浮かべる。後ろに一歩下がり視線を泳がせるも、意を決して自分の想いを伝えることにした。
「……キョーちゃん、我輩はかつてはじめて愛し合った人と結婚の約束をしていたの。でも結局その人を失ってしまって……、本音を言うと、愛する人ができるという事はとても怖いんだよ。……結婚できたとしてもエルフである我輩は長寿だから、必ず『夫』が先に逝ってしまうの。我輩の中ではほんの一時の間でも、共に過ごせば失った時にとても辛くて悲しい想いをする事になる……。それでもキョーちゃんは、我輩を妻にしたいと言ってくれるの?」
「……ああ、分かっている。だけどそれでも私はアンナを選ぶ。全てを受け入れて、愛して、そばにいてほしいと願うんだ」
真摯な恭牙の気持ちをぶつけられて、黒の夢は涙をこぼしながらも彼の唇にキスをした。
「――それじゃあ我輩も誓うよ。種族が『鬼』の夫はキョーちゃんだけ。もし我輩よりも先に逝ってしまったとしても、他に鬼の夫は作らないよ」
「ああっ……! それで良い」
笑顔になった恭牙は、黒の夢を抱き上げる。
「キョーちゃん、愛しているなのな!」
満面の笑みを浮かべる黒の夢。流れる涙は、喜びと嬉しさから。
くしくも二人がいる場所には、アイビーが植えられている。アイビーの花言葉は『永遠の愛』と『誠実』、そして『結婚』だった――。
<終わり>
「女性の方達はこちらの更衣室に本日の衣装が用意されておりますので、中で着替えてください」
「更衣室の中にはウィクトーリア家のメイドの人達がいらっしゃいますので、名乗っていただければ着替えのお手伝いをしてくださります」
二人が更衣室の扉を開けると、女性ハンター達は期待に胸をふくらませながら中へ入る。
そしてグルーズムマンのアルファス(ka3312)と牧師役のローエン・アイザック(ka5946)は、男性ハンター達を男性用の更衣室に案内した。
「結婚式は女性が主役のようなものですけど、隣に立つ男性もちゃんと着飾らなければいけません」
「今日の僕は牧師役をするから、まあのんびり楽しい結婚式にしようね」
二人の言葉で緊張が解けたのか、男性ハンター達は軽く笑いながら更衣室へ入る。
○六月の花婿と花嫁
今日の大ホールは最奥に、結婚式用の祭壇が設置された。既にローエンが立っており、誓いの儀式を行う準備を整えている。
花婿と花嫁達は自分の番がくるまで、立ったまま待つ事になっていた。
まず最初に誓いの儀式を行うのは、黒五つ紋付き羽織袴を着ている久延毘 大二郎(ka1771)と、白無垢姿の八雲 奏(ka4074)の恋人だ。
「私、久延毘大二郎は八雲奏を妻として……」
大二郎は若干緊張しながらも、誓いの言葉を語る。
「私、八雲奏は久延毘大二郎を夫として……」
対して奏は、いつものように平静だ。
そして誓いの口付けを交わすと、仲間達から祝福の拍手を贈られる。
顔が真っ赤になった大二郎に、ソッと奏は囁く。
「昨年は頬でしたけど、今年はちゃんと口付けてくれましたね。毘古ちゃん♪」
大二郎の顔がゆでダコよりも赤くなったのは言うまでもなく、移動する時はぎこちない動きになってしまった。
そして綿狸 律(ka5377)と皆守 恭也(ka5378)の恋人は黒五つ紋付き羽織袴を着て、手を繋ぎながら祭壇まで歩く。
「きょっきょーや、コレは一体……どういう事なんだ?」
律は自分の手を引いて歩く恭也に、こっそり尋ねる。
「アレ、言ってなかったか? 今日はここで、結婚式が行えるんだ。だから律と俺も結婚するんだよ」
「んなぁっ!?」
律がアタフタしている間に、祭壇まで到着してしまう。
ローエンは二人の男性が来ても、表情一つ変えず・動じずに結婚式を進行する。
滞る事なく誓いの言葉が終わり、指輪交換も済ませて、誓いの口付けとなった。
大ホールが多少なりと緊張に満ちる中、律は思考停止状態になり、恭也は困り顔になる。
「……腹をくくるか」
恭也は軽く息を吐くと袖を上げて、仲間達から律の顔を隠す。そして律の顎に手をかけて、そっと口付けを交わした。
次の瞬間、ボンッ!と音が鳴り、律は頭から湯気が出るほど顔が真っ赤になる。
そんな律の手を引きながら、恭也は移動した。
純白のウエディングドレスに身を包んだフィルメリア・クリスティア(ka3380)は濃紺のタキシードを着たゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)と共に、静かに誓いの儀式を進める。
だが誓いのキスを終えると、ゼクスは突然フィルメリアをお姫様抱っこして、もう一度キスをした。
「今日みたいなイベントなら、多少はしゃいでも良いだろう?」
「ゼクスの場合は『多大』になると思うんだけど……。まあせっかくの結婚式だし、良いわよ」
フィルメリアは幸せそうに微笑むと、自らゼクスにキスをする。
紫色のウエディングドレスを着たクリスティン・ガフ(ka1090)と黒のタキシードを着た春日 啓一(ka1621)は、先の恋人達の熱に当てられたのか、顔を真っ赤にして照れていた。
クリスティンと啓一も大人しく誓いの儀式を進めていると思いきや、誓いのキスを終えると熱く見つめ合う。
そして啓一はクリスティンをお姫様抱っこして、真っ直ぐに見つめながら告げる。
「今日からお前は俺のモノで、俺はお前のモノだ。これからよろしくな」
「もちろん。啓一君は私だけの旦那様だよ。これからよろしくね」
二人はニッコリ微笑み合うと、再び熱いキスをした。
最後のビスマ・イリアス(ka1701)は黒いタキシードを着ており、リューナ・ヘリオドール(ka2444)は青いウエディングドレスを着ている。
だが二人は戸惑いの表情を浮かべており、どことなくぎこちない。
((何でこんな事にっ……!))
と、二人は心の中で同じ疑問を抱いていた。
実はビスマは料理人、リューナはブライズメイドの役を申請していたのだが、いざ更衣室で使用人に名乗ったところ、何故か花婿と花嫁の衣装を着せられたのだ。
ビスマの頭の中にはアルファスとローエン、リューナの頭の中ではユーリとデュシオンが、意味ありげに笑っている姿が浮かぶ。
それでも今更止めるわけにもいかず、誓いの儀式をやり遂げてしまった。
○それぞれの結婚披露宴
誓いの儀式を終えた後は、大広間で披露宴のような立食パーティとなる。
女性用の更衣室ではユーリとデュシオンが、天の原 九天(ka6357)の着替えを手伝っていた。
「ふふっ、まことにめでたき日よ。思う存分、祝い尽くしてくれようぞ! 祝言が挙げられたのならば、全てに等しく祝う事こそ神の役目である。これでもかと言うほど、歌って踊って盛り上げようぞ!」
「九天様、祝う事は良い事だと思いますけど……」
「新婚さん達は初々しい気分でいられるので、ほどほどにしてくださいね?」
九天にピンク色のミニウエディングドレスを着せながら、二人は少し苦く笑いながら注意をする。
「ふむ、そうじゃな。わしに夢中になってしまったら、仲違いをさせてしまうからのぅ」
本気で語る九天に、二人は何も言えなくなった。
「では見守る事にするのじゃ。誓いの儀式は既に見終えたし、後はハネムーンを……」
「「それは絶対に止めてください」」
暴走する九天の右肩を強張った表情のユーリが、左肩は凍り付いた笑みを浮かべるデュシオンがガシッと力強く掴む。
流石に二人の本気度を感じ取った九天は、コクコクッと顔を上下に振った。
そして二人は着替えさせ終えると、大広間の舞台の裏まで九天を案内する。
舞台に踊りながら出た九天は、元気に仲間達へ向かって大きく手を振り、声をかけた。
「このたびはご結婚、おめでとうなのじゃ! わしはこれから『きゅーと』で『ぽっぷ』な歌と踊りを披露するからのぅ。神が直々に、祝いと愛の加護を授けようぞ♪」
楽しそうにショーをはじめた九天の頭には、ピンク色のハナミズキの髪飾りがつけてある。
ハナミズキの花言葉は『私の想いを受けとめてください』、結婚した仲間達を祝福する気持ちを受け止めてほしいと思う九天の気持ちを表しているようだった。
大広間には中庭へ続くガラス扉があり、今は開かれている。
誓いの儀式で疲れきった大二郎は休憩の意味も込めて、中庭の木陰にある木製のベンチに座り、奏を待っていた。
「お待たせしました、毘古ちゃん。綿帽子を取ってきました」
奏は「綿帽子をつけたままでは動きにくいですよ」と言うユーリとデュシオンと共に女性用の更衣室へ行き、綿帽子を取ってきたのだ。
今は結び上げた髪を、八重桜の髪飾りでまとめている。
太陽の光を受けて光り輝く白無垢を身にまとう奏は、見慣れぬせいか大二郎の目には眩しく映った。
そのことを隠すように、大二郎は奏から視線をそらす。
「八重桜の髪飾り、奏に似合うな。確か花言葉は『淑やか』と『優美な女性』だから、奏のイメージにピッタリだ」
「うふふ、ありがとうございます。隣に座っても良いですか?」
大二郎は頷き、奏の分のスペースを空けた。
「昨年同様、このイベントに奏と参加できて良かった。……今日を迎えるまでにいろいろな事があったが、それでもようやく落ち着いてきたと言えるな」
「……長い一年間でしたね。様々な悲劇が起こってしまいましたが、とりあえず平穏な日々は少しずつですが戻ってきているようです。戦巫女として、そしてハンターとしてやるべき事はまだまだ残っていますが……。それでも今はこの時を、穏やかに過ごしたいと思います」
弱々しく微笑みながら、奏は大二郎の肩に寄りかかる。
大二郎は周囲を見回して、近くに誰もいない事を確認した。そして「ごっほん」と咳を一つすると、表情を引き締める。
「なっなあ、奏。一年前と大きく違った事と言えば、私にとっては奏と恋人になった事……だと思っているんだ。だっだから、君さえ良ければ……いつか私と本物の結婚式を挙げてみないか?」
「毘古ちゃん……」
驚きに眼を丸くした奏は顔を上げて、間近で大二郎を見つめた。
「でっでもまだ時期尚早……と言うか、私自身が君の夫として相応しい男になっていない……と思う。だから私がもう少し成長したら……、考えてみてくれないか?」
しどろもどろになりながらも必死に求婚の言葉を語る大二郎、奏はゆっくりと嬉しそうな笑みを浮かべる。
「……嬉しいです。私も毘古ちゃんと将来は結婚したいと思っていますが……、私もまだまだ半人前ですからね。やるべき全ての事を終えたのならば、きっと私達は成長する事ができるでしょう。その時には……」
「ああ、その時には――な」
涙を浮かべる奏を、優しく大二郎は抱き締めた。
白薔薇が咲き誇る庭園に置かれた白いガゼボの中のベンチには、気が抜けた律が座っている。
「律、飲み物と食べ物を持ってきた」
恭也が声をかけても、律は無反応。それでも構わず恭也は隣に座って、律に持ってきたものを飲ませたり食べさせたりした。
食事を終えるとようやく気力が回復したのか、律は涙目になりながら恭也をキッ!と睨む。
「きょーやっ、騙したな! 『グラズヘイム王国の模擬結婚式を体験できる依頼がある。美味しい食事がタダだし、衣装も無料で貸してくれる』と、きょーやから聞いたから今日は一緒に参加したのに! ただの参加者役かと思っていたのに何故か新郎役で、しかもひっ人前でせっ接吻なんて……!」
「顔は俺の袖で隠したから、接吻の場面は仲間達からは見えなかっただろう。……ローエン殿以外は、だけど」
しかしローエンは二人のキスシーンを見ても変わらず進行を続けたのだから、ある意味、心がとても広いと恭也は密かに思う。
「でもまあ模擬結婚式と言うのは本当だから、仲間達は本気にしていないさ。――俺達の本当の結婚式は、もう少し静かにやりたいしな?」
意味深げに恭也に言われて、再び律は顔を真っ赤にする。そして唸りながらも、恭也に抱き着いた。
「ううっ……! きょーやめ、カッコ良いぜ」
「それはどうも」
恭也に頭を優しく撫でられる律はしばらく静かにしていたものの、ふと白薔薇を見て口を開く。
「……何だかきょーやと白薔薇って、似ているな。色もそうだけど、何となく雰囲気が近い気がするぜ」
「ああ、そうかもな。白薔薇の花言葉は『私はあなたにふさわしい』だからな」
自信満々な笑みを浮かべる恭也を見て、律は一瞬息をするのを忘れてしまう。
「ぐっ……! きょーやにピッタリな花言葉だ」
「律にピッタリな花は……ストックかな? 花言葉は『愛の絆』だ」
さらりと今の二人の関係を言われた律は、それでも必死に反撃の言葉を考える。
「……きょーやって、結構恥ずかしい事を平気で言うよな」
「まあここには律しかいないからな。二人っきりの時は、俺の気持ちを包み隠さず律に伝えたいんだ」
「そっそうかよ……」
律は何を言っても敵わない事を実感して、大人しく恭也に再び抱き着く事にした。
大広間で歌って踊る九天を立ったまま見ながら、フィルメリアは幸せそうに微笑んでいる。
「……まさかこんな形で結婚式を挙げられるなんて、想像もしなかったよ。軍人になって、生涯添い遂げる人ができても、結婚式を挙げる事はないだろうと思っていたからね。正直嬉しいし、楽しいよ」
そんなフィルメリアに、隣に立つゼクスは熱い視線を向けていた。
「フィルのウエディングドレス姿、やっぱりステキだなぁ。軍隊の奴らが見たら、絶対に騒ぐだろう。ヘタしたら俺の命が……ふぎゅっ!?」
「考えている事が全て口から出ているわよ?」
フィルメリアは視線を動かさないまま、素早くゼクスの頬をつねる。
「まったく……。ちょっと気を緩めると、すぐにゼクスは調子付くんだから」
咎めるように横目でゼクスを睨んだ後、頬を解放した。
「イテテッ。……だってグラズヘイム王国で結婚式を挙げられるなんて、思ってもいなかったんだ。まあイベントとしてだけど、せっかくなら盛り上がるようにと思って行動してみたんだよ」
ゼクスは眼にうっすら涙を浮かばせながらも、必死に訴える。
するとフィルメリアは赤いバラのブーケを両手で持ち上げた後、ゼクスが着ているタキシードの胸元を飾る赤いバラを見た。
「分かっているよ。だから私はゼクスが赤いバラの花束を持ってプロポーズをしてきた時、返事と共に一輪を渡したんだから」
そう言うと少しだけ背伸びをして、ゼクスの耳元に唇を近付ける。
「赤いバラの花言葉は『あなたを愛しています』。――私も同じ気持ちだからこそ、ゼクスに贈ったのよ。だからちゃんと幸せにしてよね? 勝手に遠くに行ったりしたら、許さないんだから」
「……フィルッ!」
感極まったゼクスが抱き着こうとしたものの、フィルメリアは素早く避けた。
「フィルメリア様、バイオリンをお持ちしました」
「そろそろ九天様が休憩に入られますので、お願いします」
バイオリンケースを持ったユーリとデュシオンが、フィルメリアに声をかける。
「分かったわ。バイオリン、持ってきてくれてありがとうね」
フィルメリアはバイオリンケースを受け取ると、かわりにブーケをゼクスへ渡す。
「と言う事で、私は休憩する九天さんに代わって舞台でバイオリンを演奏してくるから、ブーケを預かっててね」
「……はい」
大人しくブーケを受け取りながらもへこむゼクスを見て、フィルメリアは優しい口調で話しかけた。
「ゼクスには後でルピナスの花束を贈ってあげるから、元気出して」
「ルピナスの花束って……何で?」
不思議そうに首を傾げるゼクスに、フィルメリアは微笑みかける。
「ルピナスの花言葉が『あなたは私の安らぎ』なのよ」
「えっ、それって……」
ゼクスが問い掛ける間を与えず、フィルメリアは背を向けて歩き出した。
中庭を散歩しているクリスティンと啓一は、花が咲いていないホトトギスの花壇を見て足を止める。
「ホトトギスの花が咲くのは初夏なんだけど、一斉に咲いたら綺麗だろうね」
「へぇ。そんじゃあ咲いたら、花束にしてクリスに贈ろうか?」
「えっ!? まっまさか啓一君、ホトトギスの花言葉を知っているの?」
「んなワケねーだろ。ホトトギスの花言葉って何だ?」
尋ねられたクリスティンは、顔を真っ赤にして俯きながらも小さな声で答えた。
「……『永遠にあなたのもの』」
「ふぅん。なら俺がクリスへ贈っても、おかしくはないな」
ニヤッと笑うと、啓一はクリスティンの腰を掴んで引き寄せる。
「告白もプロポーズも、クリスに先を越されちまったからな。ホトトギスの花束を贈るから、改めて俺からプロポーズさせろ」
「あの、アレはそもそもそういう意味じゃなくて……いや、もう遅いね」
クリスティンは恥ずかしそうに啓一から顔を背けながら、数日前の事を思い出す。
今回の依頼を知ったクリスティンは、スターチスの花束を持って啓一に一緒に参加しないかと誘ったのだ。
逆プロポーズのような形になってしまい、あくまでもクリスティンはイベントとして考えていたのだが、啓一は真面目に真剣に考えた結果、今日が二人の結婚式――となった。
「そういやぁ、クリスがプロポーズの時に持ってきた花の花言葉は何だ?」
啓一は、タキシードの胸元を飾る黄色のスターチスを指さして問う。
クリスティンが持つブーケも、もちろん黄色のスターチスだ。
「黄色のスターチスの花言葉は……『愛の喜び』だよ」
啓一は一瞬キョトンとしたが、すぐにクリスティンを強く抱き締める。
「……クリスってさ、意外と恋愛に積極的だよな。俺はな、こっちの世界に来てから随分経つけど、まさか嫁さんをもらう日がくるなんて夢にも思わなかったんだ。自分で言うのもなんだが、不良顔だろう? なのにクリスときたら俺の事を好きだなんて言い出すし、戸惑って上手く接する事ができなかった俺の事をずっと想っていてくれた。だから恋に落ちてしまったんだろうな」
啓一の胸の中でクリスティンは今までの自分の行動を振り返り、恥ずかしくて顔が上げられなくなった。
「けっ結構時間がかかったけどね……」
「だからその分、今度は俺がクリスに愛情をめいっぱい注いでやる。欲しかった女が、嫁になってくれたんだ。後はひたすら一緒にいて、愛するだけだ」
「ううっ……! けっ啓一君の方が、実は恋愛に積極的なんじゃないのかな?」
「変えたのはクリスだろう? 責任を持って、俺を愛せよ」
自信たっぷりに言うと、啓一はクリスティンにキスをする。
「……んもぅ。啓一君、今はまだ仕事中なんだから、続きは家に帰ってからね?」
「そりゃ残念。んじゃ、真面目に仕事に戻るか」
啓一はそれでもクリスティンの腰に回した手を放さないまま、大広間へ戻った。
大広間の壁際に置かれた二人掛け用のソファに座るビスマとリューナは、ようやく一息つく。
「……模擬とは言え、結婚式の主役をするのは疲れたな」
「ええ。……それに花嫁衣裳なんて、私には似合わないしね。何だか恥ずかしいわ」
「そっそんなワケない! とても良く似合っているし、うっ美しい花嫁……だと思う。……俺はリューナのウエディングドレス姿を見れて嬉しいし、模擬だが誓いの儀式を挙げられた事は……役得だと思っている」
たどたどしくも必死に褒めてくれるビスマを見て、リューナはふわりと笑う。
「うふふ、ありがとう。ビスマの花婿姿もなかなか様になっているわ。……でもごめんなさいね? 相手が私という事もあって、いろいろ合わせてくれて……。青いバラを胸に飾られたのも、きっと私のせいでしょうし」
「いや、青いバラは嫌いではないし……。それに俺の方こそすまない。リューナに相応しい相手ではないだろうに……」
「そんな事ないわよ。私はあなたが相手で良かったと思っているもの」
「そっそうか? それならもうお互いに謝るのは無しにしよう。いくら予定外の役目になったとは言え、本気で参加している仲間達がいるんだ。暗い空気は流石に、な」
「そうね。暗い空気にしちゃあ、新婚さん達が可哀想よね。ここはイベントとして、楽しみましょう」
二人はぎこちなくも、ようやく微笑み合う。
ビスマはふと、テーブルの上に置かれたリューナの青いバラのブーケを見て、首を傾げた。
「なあリューナ、今更聞くのも何だが、青いバラは結婚式に向いているのか?」
「そうねぇ……。青いバラの花言葉には『夢かなう』・『奇跡』・『神の祝福』があるから、向いていると思うわよ。バラはちょうど今が見頃だしね」
「そうか。花言葉が重要なんだな。俺が知っている花言葉といえば……」
ビスマは知っている花言葉を思い出した途端、少し顔を赤くしながら改めてリューナのウエディングドレス姿を見る。
「――どうかしたの? ビスマ」
「いっいや、その……リューナはクルクマという名の花を知っているか?」
「……多分知らないわね。はじめて聞く花の名前だし」
「そうか! 八月に美しく咲く花なんだが、今度一緒に見に行かないか?」
「アラ、嬉しいお誘いね。八月が待ち遠しいわ」
「良かった。じゃあ約束だ」
二人は互いに小指を絡ませて、約束を交わす。
機嫌が良くなったリューナは、ビスマの企みに気付かない――。
クルクマの花言葉は『あなたの姿に酔いしれる』、ビスマはその事をリューナと花を見に行った時に伝えようと考えているのだ。
休憩に入ったデュシオンとローエンは中庭を散歩している途中で、ライラックの木とアイリスの花が植えられた場所へ来た。
「美しい光景ですわね。ライラックもアイリスも今が見頃ですけど、わたくしは紫色のライラックが気に入りましたわ」
「僕はアイリスの花畑が気に入ったよ。今日ここで、結婚式を挙げられた仲間達は幸せ者だね。こんな素敵な場所で、模擬だけど結婚式ができたんだから」
「ええ。皆様、本当にお幸せそうでした。結婚式とは生涯添い遂げる事を誓う儀式、とても素晴らしいのですが……少々当てられてしまいますわ」
誓いの儀式を行った五組のカップルを思い出して、デュシオンは熱い吐息をもらす。
ブライズメイドとして平静を装わなければならなかったものの、熱々のカップルに当てられては心の中はどうしても動揺してしまう。
それでも何とか取り乱さずにいられたのは、ずっと平常のままでいたローエンを見ていたからだ。
「デュシオンちゃんはそれでもしっかりとやってくれていたね。……でも何だかずっと僕を見ていたような気がしていたんだけど、何か言いたい事でもあるのかい?」
イタズラっぽく尋ねてきたローエンを見て、デュシオンは自分の胸が高鳴るのを知り、改めて彼への気持ちを自覚する。
「……アイザック様、誓いの儀式をわたくしとしてくださいませんか? ――と言ったら、あなた様はどうされます?」
言っている途中でデュシオンは急に正気に戻り、反撃するように意味ありげに微笑んで見せた。
「デュシオンちゃんと、かい? う~ん……」
ローエンは少しの間考えた後、首に下げていたロザリオを外す。
「僕なんかで良ければ、よろしくね。今日の儀式はもう終わっちゃったから、今度改めて行おう」
そう言ってローエンは、デュシオンの首にロザリオをかけた。
「えっ……ええっ!?」
驚いたデュシオンは仰け反り過ぎて、倒れてしまう。
「大丈夫かい?」
ローエンはデュシオンのそばにしゃがみ込むと、アイリスの花を見てポンッと手を叩く。
「後でこのアイリスを貰って、デュシオンちゃんに贈るよ。アイリスの花言葉は『あなたを大切にします』だからね」
「……わたくし、紫色のライラックの花言葉の効果を思い知りましたわ。『恋の芽生え』ですの」
「それは凄い効果だ」
クスッと笑うローエンの手を借りながら立ち上がったデュシオンは無意識に紫のライラックに手を伸ばすと、手のひらに五枚の花びらになっている花が落ちてきた。気付いたデュシオンは、慌ててその花を飲み込む。
「もうそろそろ大広間に戻ろうか?」
「はっはい……!」
――ライラックの花びらの数は普通は四枚である。しかし五枚になっている花を見つけて黙って飲み込むと、『愛する人と永遠に過ごせる』という言い伝えがあった。
デュシオンは秘密を閉じ込めるように、ローエンから貰ったロザリオで自分の唇を塞ぐ。
デュシオンとローエンが大広間に戻って来たので、今度はユーリとアルファスの休憩時間になる。
二人は大広間を出て、ベランダに置いてある木のベンチに二人並んで座った。
そして大広間で今も楽しそうに過ごしている仲間達の姿を見て、ホッと安堵する。
「ようやく一段落ついたわね。会場の飾り付けも大変だったけれど、綺麗にできて良かったわ」
「ユーリはブルースターの花を気に入っていたよね」
「ええ。ブルースターの花言葉は『幸福な愛』だし、サムシング・フォーの一つ、サムシング・ブルーになるから。アルはベコニアの花を気に入っていたわね」
「ベコニアの花言葉は『幸福な日々』なんだよ。結婚した人達に贈る言葉って感じかな?」
会場のセッティングにも関わっていた二人は、飾る花にもこだわっていた。
自分達の仕事が半分終わった事で、二人は多少なりと緊張を緩める。
「……ねぇ、ユーリ。大きな戦いも一段落ついて、平和な時間が少しずつだけど戻ってきたね。いくつもの戦いを経て、自分の刃に誇りを持てたんじゃないのかな?」
「私の『刃』は、大切な人達と明日という名の道を歩む為に切り開くモノ……。確かに私は数多くの戦いを経験して、『刃』の技術や能力を上昇させる事はできたわ。おかげで敵を倒すほどの力をつける事ができたのだけど……、正直言うと手放しで喜べないわ。あまりに多くの戦いを経験し過ぎたからかな?」
視線は大広間へ向けたまま、ユーリは弱々しく微笑む。
「けれどユーリが僕にとって誇れる刃になった――と思っても良いんだよね?」
「アル……、そうだね。まだまだ成長するけれど、『鞘』であるアルが誇れる『刃』にはなれたと思うよ。それが私の目標だったのだから」
「それならば、僕達はようやく鞘と刃として一本の剣になれるんだね。どんな絶望も闇も切り開いて、希望の光を輝かせる白銀の剣に」
アルファスは懐からダイヤモンドリングを取り出すと、ベンチから立ち上がり、ユーリの前に跪いた。
「未来への道を、二人で一緒に歩いて行こう。僕は君の事を『鞘』として護るよ。君はエルフで僕は人間で……生きる時間が違うけれど、それでもユーリの心を永遠に護り続けるから。だからどうか、僕と結婚してください」
「もちろん、喜んで」
ダイヤモンドリングを受け取ったユーリの眼に、ブルースターの花が映る。
「アル、ちょっと待ってて」
ユーリは急いで大広間に戻ると、数分後には両手いっぱいにブルースターの花束を抱えて戻って来た。
「ブルースターの花言葉には『信じあう心』というのもあるの。今の私達にはピッタリな花言葉だから……。アル、私と結婚してください」
真っ赤になったユーリに花束を差し出されて、アルファスは受け取ると一輪を引き抜いて胸元のポケットに入れる。
「ありがとう、ユーリ。ベコニアの花言葉には『愛の告白』という意味もあるんだ。僕達の結婚式にも、この花を飾ろうね」
白い新和装を着た黒の夢(ka0187)と黒の羽織袴を着た恭牙(ka5762)は、手をつないで大広間から出て中庭を歩いていた。
しかし華やかな花が咲き乱れる所ではなく、落ち着いた新緑の植物が植えてある場所に来ている。
黒の夢は申し訳なさそうな顔をしながら、恭牙に手を引かれていた。
「……キョーちゃん、ゴメンなのな。せっかく花婿の衣装を着てもらったのに、誓いの儀式をやらなくて……」
「なぁに、構わんさ。ユーリ殿とデュシオン殿も、『無理にしなくても良い』と言ってくれたんだろう? 『こういうのは当人達の気持ち次第だから』と」
「うん……。でもビスマちゃんとリューナちゃんが身代わりになっちゃったのな」
「アイツらの事はそれこそ気にする必要もない。強制的にでも参加させなければ、いつまで経っても進展しないからな」
「ふふっ、キョーちゃんは本当に優しい鬼なのな。……我輩の事、見つけてくれてありがとう」
黒の夢はギュッ……と恭牙の腕にしがみつく。
黒の夢の長い黒髪をまとめているのは、『君を愛す』という花言葉を持つ赤いアネモネの花飾り。恭牙が衣装合わせの時に、黒の夢に似合う物を選んだのだ。
純白の花嫁衣裳は黒の夢の黒き肌に映えていて、恭牙の眼には眩しく映って思わず眼を細める。
いつもとは違う黒の夢の姿に胸が高鳴りながらも、恭牙は緊張しながら口を開く。
「アンナにはちゃんと誓いを立てたい。仲間達に祝福されながらというのも悪くはないが、私の誓いはアンナだけが知っていれば良いからな」
「キョーちゃん……」
恭牙はそっと黒の夢から離れると、目の前で跪いた。そして真っ直ぐに真剣に、黒の夢の金色の双眸を見つめる。
「アンナ、私の隣にいてくれまいか? 私はアンナを護る鬼になると誓う。だから……私がいつか天命を全うする日がきても、アンナの心に少しでもいいから残してくれないか?」
求婚をされた黒の夢はしかし、戸惑いの表情を浮かべる。後ろに一歩下がり視線を泳がせるも、意を決して自分の想いを伝えることにした。
「……キョーちゃん、我輩はかつてはじめて愛し合った人と結婚の約束をしていたの。でも結局その人を失ってしまって……、本音を言うと、愛する人ができるという事はとても怖いんだよ。……結婚できたとしてもエルフである我輩は長寿だから、必ず『夫』が先に逝ってしまうの。我輩の中ではほんの一時の間でも、共に過ごせば失った時にとても辛くて悲しい想いをする事になる……。それでもキョーちゃんは、我輩を妻にしたいと言ってくれるの?」
「……ああ、分かっている。だけどそれでも私はアンナを選ぶ。全てを受け入れて、愛して、そばにいてほしいと願うんだ」
真摯な恭牙の気持ちをぶつけられて、黒の夢は涙をこぼしながらも彼の唇にキスをした。
「――それじゃあ我輩も誓うよ。種族が『鬼』の夫はキョーちゃんだけ。もし我輩よりも先に逝ってしまったとしても、他に鬼の夫は作らないよ」
「ああっ……! それで良い」
笑顔になった恭牙は、黒の夢を抱き上げる。
「キョーちゃん、愛しているなのな!」
満面の笑みを浮かべる黒の夢。流れる涙は、喜びと嬉しさから。
くしくも二人がいる場所には、アイビーが植えられている。アイビーの花言葉は『永遠の愛』と『誠実』、そして『結婚』だった――。
<終わり>
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
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