ゲスト
(ka0000)
BUON VIAGGIO
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/18 07:30
- 完成日
- 2016/07/02 03:02
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●June Bride/Amore mio
風光明媚な観光名所としても人気が高い自由都市同盟最大の港湾都市、ポルトワール。
白い雲が漂う澄んだ青空と、太陽の光に照らされてきらきらと輝く海と。その二つの青が重なる果てへと旅路を行く豪華客船『ラモーレエテルノ号』が、今、港に泊まっている。
通称、愛の女神(ヴィーナス)が運ぶ船。優しい海に抱かれながら、船上で愛を誓い合った二人は海のように永い果てまで、そして海のように何処までも深く――女神の祝福を受けて永遠に愛が結ばれると信じられている、ポルトワールでは有名な船だ。
だからこそポルトワールの花嫁達は6月の船旅に憧れていた。
永遠の愛、そして幸せな結婚に、焦がれながら……。
「……みんな、幸せそうな顔をしているな」
「それはそうよ! この船はポルトワールの花嫁達の憧れ――『ラモーレエテルノ号』なのよ?
ロマンチックな夜を過ごせるクルーズだもの。チケットだってなかなか取れない特別なクルーズ旅行なんだからっ」
豪華客船『ラモーレエテルノ号』のクルーズ旅行を代々主催するアナスタージ家の姉弟――ロザリーナ・アナスタージ(kz0138)とギアン・アナスタージ(kz0165)は幸せに満ちた乗客達を覗きながら言葉を交わす。
そんな二人を眺めながら、優しげに目を細める白鬚を蓄えた高齢の男性が居た。
一見厳格な雰囲気を漂わせているが、眼差しには慈愛が溢れている――『ラモーレエテルノ号』の寡黙な船長だ。
「……ロザリーナ、ギアン。お客様にとって最高の船旅となれるように、最大限のおもてなしを尽くそう」
船長の温かく落ち着いた声が紡ぐ。
もちろん、ロザリーナとギアンは力強く頷いた。
みんなみんな、幸せな夜を過ごせますように。
*
――最愛の人の喜ぶ顔が見たくて。
そんな想いで、きっと、乗客の多くの花婿達はチケットを手に入れた筈だ。
そして愛されている花嫁の幸せそうな顔が、なんて可愛いんだろうとロザリーナはうっとりしていた。
海はとても静かで、波の音はとても優しくて、見上げれば、満点の星空が広がっていて。
夜が恋人達をロマンティックに包み込んでいる。
(そろそろ、消灯の時間ね)
キラキラと美しく光を纏わせていたラモーレエテルノ号の外観のライトが消灯すると、周辺はとても薄暗くなった。
それでも、真っ暗になる事はない。
星明りが眩しくて、海の色が幻想的に蒼白く煌めいているから――。
恋人達にロマンティックな夜が、訪れる。
風光明媚な観光名所としても人気が高い自由都市同盟最大の港湾都市、ポルトワール。
白い雲が漂う澄んだ青空と、太陽の光に照らされてきらきらと輝く海と。その二つの青が重なる果てへと旅路を行く豪華客船『ラモーレエテルノ号』が、今、港に泊まっている。
通称、愛の女神(ヴィーナス)が運ぶ船。優しい海に抱かれながら、船上で愛を誓い合った二人は海のように永い果てまで、そして海のように何処までも深く――女神の祝福を受けて永遠に愛が結ばれると信じられている、ポルトワールでは有名な船だ。
だからこそポルトワールの花嫁達は6月の船旅に憧れていた。
永遠の愛、そして幸せな結婚に、焦がれながら……。
「……みんな、幸せそうな顔をしているな」
「それはそうよ! この船はポルトワールの花嫁達の憧れ――『ラモーレエテルノ号』なのよ?
ロマンチックな夜を過ごせるクルーズだもの。チケットだってなかなか取れない特別なクルーズ旅行なんだからっ」
豪華客船『ラモーレエテルノ号』のクルーズ旅行を代々主催するアナスタージ家の姉弟――ロザリーナ・アナスタージ(kz0138)とギアン・アナスタージ(kz0165)は幸せに満ちた乗客達を覗きながら言葉を交わす。
そんな二人を眺めながら、優しげに目を細める白鬚を蓄えた高齢の男性が居た。
一見厳格な雰囲気を漂わせているが、眼差しには慈愛が溢れている――『ラモーレエテルノ号』の寡黙な船長だ。
「……ロザリーナ、ギアン。お客様にとって最高の船旅となれるように、最大限のおもてなしを尽くそう」
船長の温かく落ち着いた声が紡ぐ。
もちろん、ロザリーナとギアンは力強く頷いた。
みんなみんな、幸せな夜を過ごせますように。
*
――最愛の人の喜ぶ顔が見たくて。
そんな想いで、きっと、乗客の多くの花婿達はチケットを手に入れた筈だ。
そして愛されている花嫁の幸せそうな顔が、なんて可愛いんだろうとロザリーナはうっとりしていた。
海はとても静かで、波の音はとても優しくて、見上げれば、満点の星空が広がっていて。
夜が恋人達をロマンティックに包み込んでいる。
(そろそろ、消灯の時間ね)
キラキラと美しく光を纏わせていたラモーレエテルノ号の外観のライトが消灯すると、周辺はとても薄暗くなった。
それでも、真っ暗になる事はない。
星明りが眩しくて、海の色が幻想的に蒼白く煌めいているから――。
恋人達にロマンティックな夜が、訪れる。
リプレイ本文
●愛の海を渡って
「スーくーん!」
「ノイシュ……」
スフェン・エストレア(ka5876)は、弟子である“お嬢さん”――ノイシュ・シャノーディン(ka4419)を迎えつつ。格好を改めて窺うと、思わずつっこみを入れた。
「なんつー格好してんだよ」
「あら、似合ってるでしょう?」
ノイシュは、にこっと笑った。そしてスカートの裾をつまみ軽く持ち上げ、その場でくるりと回ってみせる。
デコルテを覆うアメリカンスリーブ――ビタミンカラーのエアリーなプリンセスドレスを纏う姿は、絵になる程美しい。
ゆえに、スフェンは参ったような微笑を浮かべながら頷いた。
「あぁ。似合いすぎてて誰も気付いてねぇだろうなあ」
――本当は女じゃなくて野郎だってことに。
そう胸の中で呟きつつ、性別を見事に偽らせている弟子に感心する。
「ふふっ♪ だからスー君も、面倒くさがってないでちゃんとエスコートしてくれなきゃなのよ?」
「おい、ノイシュ。知ってたか? この船はポルトワールの花嫁の憧れの船だぞ?」
「勿論よ。豪華客船でブライダル! ロマンチックで素敵よね♪ まあ確かに、私は生憎と花嫁でもなければオンナノコでもないけれど――見た目には十分でしょ☆」
ノイシュがウインクすると、スフェンは目を見開いた。そして。
「あーあ。そんな格好されて適当に扱ってたら俺が人でなし扱いじゃねーの。しょーがねえなあ……」
双眸を細め、手を差し出す。
「ほれ、姫君。お手をどうぞ」
――いつだってなんだかんだと甘やかしている彼の眼は、安心する色。
正装するのは面倒だと言っていたけれど、ダークグレーのスーツに袖を通し、髪をオールバックにセットしている姿がとても様になっているなぁと思いながらノイシュは微笑み、当然のように手を伸べた。
「そうしてると、スー君やっぱりカッコいいよ♪」
「大人をからかうんじゃねえぞ」
「もう、本心なのにっ」
「うん…やっぱり真夕によく似合ってる…かわいい、よ…」
「ありがとう。私が選んだ紅葉のドレスもぴったりね。とても可愛いわ」
七夜・真夕 (ka3977) と雪継・紅葉(ka5188)は互いにドレスを選びあって、身に纏った姿を見せ合い、それから幸せそうに微笑みあった。
真夕が選んだ紅葉のドレスはスカートがふんわりと広がる純白――紅葉の綺麗な髪を目立たせるように、と想いを込めて。
紅葉が選んだ真夕のドレスは上質でレースのシックな藍色――首飾りをワンポイントに、真夕と素敵な時間を過ごしたくて一生懸命考えて選んだ。
そして真夕と紅葉は共に手を繋ぎ、ある人の元へと行く。
「ロゼに紹介するわね。私の大切な人よ」
真夕の友人でありPであるお嬢様、ロザリーナは目を輝かせた。
「まぁ、貴方が!」
そして紅葉を見つめ、にっこりと微笑む。
「――お会いしたかったです。真夕ちゃんにとって大切な最愛の人だ、と聞いておりましたから」
ロザリーナに握手を求められた紅葉は、真夕の話に照れ、ぽっと頬が赤く染まっていた。
そんな反応を見た真夕とロザリーナは可愛いなぁとほっこりして、互いの顔を見合わせ、ふふ、と微笑む。
「ヴァレーリオさーん、えいっ!」
「わあ!?」
突然ミィナ・アレグトーリア(ka0317)に背後からハグされたヴァレーリオは、動揺しながら顔が真っ赤に染まった。そして白薔薇のフローラルな甘い香りがふわりと舞うと、ドキドキしてしまうのを抑えられなくて。
「お前なぁ…っ」
「えへへ」
だが一方のミィナは、ほわんと微笑んだ。
それから少し離れると、レース地の上品なドレススカートをふわっと揺らし、
「似合う? 似合う?」
体を捻りながら窺う。
(心臓に悪すぎんだろ、マジで…)
ヴァレーリオがそんなふうに思っているとはミィナは露知らず。
編み込みのハーフアップにしてみた髪を少し気にするようにいじりつつ、そわそわしていた。
「まぁ…悪くねえよ?」
彼の回答は相変わらず素直じゃないが、それでもミィナはほっとしたように良かったぁと安心する。
そんな彼女の首元で煌めくのは、ハートのピンクダイヤのネックレス。
「ネックレス、無くしたり壊したりするんが怖くて大事に仕舞ってるんよ」
「…」
嬉しいやら、照れるやら。
ヴァレーリオの胸の中は色々忙しいようだが、
「ヴァレーリオさんも格好良いなぁ」
更にトドメを刺され、たじたじの様子である。
「こういう船の上で夜を過ごすの、実は憧れだったんです」
海にも、豪華な場所にも、縁がなくて、――けれど今夜は夢が1つ叶った。
だから。
「お誘いを受けてくださってありがとうございます、神代さん」
上質な深みのあるローズ色のドレス姿の椿姫・T・ノーチェ(ka1225)は、悪戯っぽい微笑みを浮かべながらお礼を言って、スーツ姿の神代 誠一(ka2086)に振り返った。
そして、目を丸くする。
あくまでも自然に誠一の顔が近付いてきて――“今夜この船であなたを独り占めできるなんて、嬉しいです”と甘い声で耳元に囁くから――赤面してしまうのを抑えられない。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は少女のようなあどけない笑顔を浮かべつつ、ルピナス(ka0179)を連れて歩く。
今宵、赤い花のカチューシャを飾ったアルゼンタムの髪を揺らすエヴァは、ローズミストの可憐なドレスが華やかな可愛らしいお嬢さん。
ねえ、ルピナス。
あっちに行ってみましょう?
こっちも楽しそう。
まあ、ダンスホールだわ!
パートナーと踊っている彼らを見つめながらいいなぁ、と憧れていると。
「では一曲踊って頂けますか? マドモアゼル」
「……!」
紳士的な微笑みを浮かべ――正装のスーツを着こなすルピナスが、そっと手を差し伸べた。
エヴァは嬉しくなって、にこっと笑う。
勿論、喜んで!
そんなダンスホールで彼らも、踊る。
――最初は楽しい時間を過ごせたらいいなって、軽い気持ちで。でも。
「千春ちゃん、少し大人っぽくなったよね。髪が伸びたからかな?」
ウォルター・ヨー(ka2967)の言葉に柏木 千春(ka3061)は胸を締め付けられた。なんでこんなに胸が痛いんだろう。嬉しいのに、幸せなのに。赦されないと知っている――だがそれでも、傍に居たくて堪らないのだ。
鮮やかなブルーのドレスを着て、パールの髪飾りで綺麗に纏めて。そんな千春を見つめて綺麗だよ、とウォルターは微笑んだ。
大人びたモスグリーンに、胸元のドレープでいつもより少し大きく見えるスリーピース・スーツ。そんな格好良い彼のエスコートに、千春はくらくらする。
――時音 ざくろ(ka1250)から、愛を込めて。
冒険談仲間で恋人のアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)、舞桜守 巴(ka0036)、アルラウネ(ka4841)、白山 菊理(ka4305)、カイナ(ka3407)を誘って、ロマンチックなクルーズデートにご招待。
「みんなのドレス姿、ほんとに素敵だよ」
ざくろは5人のドレス姿に思わず見惚れていた。
「ざくろさんからいただいたサンドリヨン……サイズもぴったりでした」
アデリシアは美しさを引き立てる高貴な白と灰カラーのスカートの裾を軽く持ち上げながら、頬を染めつつ笑った。
「うん、よく似合ってるよ」
ざくろに照れながら囁かれると、嬉しくて、幸せを感じる。
菊理は真っ赤になりながら緊張していた。
政治家の娘としてドレスを着るパーティーに出席する事には慣れているのだが、恋人とのこういったデートは初めてなのだ。
けれど上質な漆黒色のワンピースドレスを着た姿を恋人のざくろに褒められるのは、やはり嬉しくて。
「ありがとう……」
頬をほんのりと赤く染める。
「オレのドレス姿も褒められるなんてな……」
カイナは吃驚するような反応をした。
デート前はドレスが似合うものかと多少なりとも気にしていたのだが――普段結い上げている髪を下ろし、青いドレスに着替えた彼女は実際とても綺麗だった。
だが本人に自覚は無く、けれど、ざくろが喜んでくれているようだと気付くと、ほっとしながら笑う。
――そんな中。
「うふふ、誉めても私達以外は何も出ませんよ?」
「えっ、どういうこ――」
暗い青の夜空をそのまま着ているような妖しい雰囲気を漂わせるドレスを着た巴は、くすっと悪戯っぽい笑みを浮かべると、そのまましれっと頬にキスをした。
「……!」
突然の事に真っ赤になって動揺するざくろ。
すると少々よろめいて、
「……ざくろんたら」
「ご、ごめん……! わざとというわけじゃ……!」
愛事故発生。オフショルダーの暗青色のドレスを着たアルラウネに触れた。その事にざくろは慌てるけれど、アルラウネは特に気にしている訳ではない。
むしろくすっと微笑みながら、眼差しを愛で溢れさせていた。
――六月二日は妻の誕生日で、結婚記念日。
だが当日は仕事だったから、本日はそのお祝いの日だ。
そんな志鷹 恭一(ka2487)と志鷹 都(ka1140)は船内バーで、夜をしっとりと過ごしていた。
キャンドルグラスが優しく揺れ、寄せ合う肩の距離は近い。
「豪華客船なんて夢みたい…」
ロマンティックなムードの中で都が頬を赤くしながら、うっとりと紡ぐ。
そして、
「喜んで貰えて良かった。それに…、」
恭一が何かを伝えようとすると都と目が合って、その途端、彼の心臓は早鐘を打った。
ビスチェの白いレースドレスワンピも、上品なメイクも婀娜やかで、――思わず見惚れてしまったのだ。結婚して十数年、四児の親となったが、妻を愛おしいと思う想いは今も変わらない。
そんな旦那の眼差しに照れて、はにかみながら、都は視線を落とした。
彼が言いたかった事なら、もう察している。
「ええ、着けてみたの。似合ってる?」
夫からの贈り物であるワイヤーパールネックレスに触れながら、首を傾げた。
「ああ、…とても」
そう頷いた恭一は、心なしか頬が赤くなっている。
そんな二人にマスターが声を掛けると、カクテルをそっと置いた。
「キス・イン・ザ・ダーク…? なんだか照れちゃうわ。でも…素敵」
恋人気分を楽しみながら嬉しそうに微笑む都を見つめ、恭一は双眸を細める。
そして二人は、静かに乾杯した。
(ああ、やだやだ。何故に私がこんな茶番に付き合わないといけないのかしら……)
――豪華なディナーに釣られたせいね。
そんなふうに内心で呟いたエリシャ・カンナヴィ(ka0140)は御馳走に舌鼓をうっていた。
だがエヴァンス・カルヴィ(ka0639)の視線が気になって、軽く眉を潜める。
「何よ。じろじろ見ないで」
そして指摘されたエヴァンスはというと、驚いたような顔をしていた。
「そんなに見ちまってたか?」
「見てたわよ」
「あー…、」
そしてばつが悪そうに目を逸らしながら、頬を掻く。
「そういうドレスも似合ってるっつーか、やっぱ綺麗だなぁって思ってさ」
「……」
深緑色の瀟洒なイブニングドレスーーエリシャの普段見慣れない姿に見惚れていた事をあっさりと自白した。
すると、エリシャは深い溜息を吐く。
「おいおい、なんで溜息吐くんだよ!?」
「……エヴァンス。貴方って本当、」
――バカね。
一方、立食スタイルで楽しめる場所も用意されている。
――美味しいっ!
たっぷりのチーズが糸を引く出来立てのピッツァに思わず頬が落ちて蕩けるエヴァ。
普段食事にそこまでお金をかけない分、美味しい食事には目が無いのだ。
すると、ルピナスはくすっと微笑む。
「美味しい?」
「♪」『ええ、とても美味しいピッツァだわ。ルピナスの分もとってきてあげるわね!』
そう笑って、たたーっと取りに行くエヴァの背を見つめながら、ルピナスは双眸を細めた。
――食べ物の美味は、実はよく分からない。
でも、エヴァちゃんの顔を見てるとよくわかるから。
1人で来なくて良かった。
「珍しいな、貴方から誘って貰えるなんて…」
ステラ=XVII(ka3687)が微笑むと、イグナート=X(ka2299)は小さく笑みを浮かべた。
「どうしても君の名前である“ステラ”の下で、デートがしたかったんですよ」
「ふふっ、他の子に妬かれてしまいそうだね」
――なんて。
幼馴染で、大切で。
けれど二人だけの時間を過ごすのは久しぶりだった。
(思えば仕事に追われて居なければ、誰かが彼の傍にいるのが常。それを見守るのも好きだから、特に寂しくはなかったけれど……)
イグナートが自身の為に時間を作ってくれた事を嬉しく思うステラ。
彼の横に立つならと、背中の大きく開いた黒のマーメイドドレスに、星空のように煌めくストールを羽織って華やかに――そして装飾には、赤い耳飾りを身に着けていた。
一方のイグナートも夜空の星を彷彿するようなスーツを着て、まるでステラに合わせているかのようだろう。
そんな二人が、“星の下のデート”を愉しむ。
船内は少し賑々しい。
――もっと静かな場所でゆっくりとしたい気分だった蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、扼城(ka2836)に声を掛けた。
「折角じゃ。表へ出て酒を楽しまぬか? 誘うておいて何じゃが、エスコートを頼んでも良いかのう?」
双眸を細め、微笑みを浮かべる。
船内の雰囲気は性に合わない…というのは扼城も同感だった――ゆえに、差し伸べられたその手を取って。
「エスコートか…不慣れ也に務ませてもらおうか…」
甲板へと誘った――共に星月夜を愛でに行く為に。
●女神の祝福と流れ星
夜を彩るライトが消えた頃。
椿姫は背中の上を指先でつつつと辿られていく感触に、心臓が跳ねた。
暗い為、周りが気付かないのをいい事に、誠一が悪戯をしているのだ。
「ちょ…ちょっと、神代さん…?」
「はい?」
彼女の慌てる様子を見て可愛いと思いつつ、誠一がしれっと返す。
そして首筋へと唇を落とすと、
「もう、誠一さん…!」
椿姫が思わず声を微かに大きくしたので、誠一は人差し指を口の前に立てながら、目を細めた。
暗くてよく見えないものの、彼の顔には、してやったりと書いてある。
だから椿姫は拗ねた表情をするが、何をされても結局は許してしまう。彼の悪戯は甘えている証拠だと、解っているから。それに……。彼の愛情なら、ちゃんと伝わっている。
――誠一にとって椿姫は大切だから。こんな悪戯が限界で。
「見てください、海がこんなに青く光ってる……綺麗ですね」
海が蛍光色に煌めき、波に揺れているのを眺めながら、彼は紡いだ。そして彼女の背後から体を覆う様、両手を手摺につく。
背に触れた温かさが、なんて愛おしいんだろうと椿姫は双眸を細めて。
「そう、ですね…」
彼へと振り返った椿姫の唇が、誠一の頬へと優しく触れた。
『矮小なる光明よ、温かき御手より翅を広げ、冥き闇を照らせ』
夜空は星屑が散らばり、海は蒼く、幻想的な世界で、蜜鈴の炎を纏った灯蝶がひらりひらりと舞い踊る。優雅に羽ばたいている姿を目で追い掛けていた扼城は、海の景観を肴に、酒を味わっていたが――。
「おや、早々に着崩してしもうのか?」
蜜鈴はきょと、としながら首を傾げる。
タキシード姿で髪も綺麗にセットしていた扼城だったが――ネクタイを外し、ヘアスタイルも無造作に崩したのだ。
そして一息吐いた彼は、
「…普段通り、店で飲んでいる気分の方がな…性に合う、と言った所か…」
と零す。
どうやら慣れない格好が馴染めない……という事だったらしい。
「…確かに、おんしはその方が男前じゃの」
蜜鈴がくすくすと笑った。
「そうなれば妾はどうしようかのう」
「君は別に…ドレスの着こなしも、雰囲気も場に合っていると思うがな…」
「…ほう?」
両肩のベアトップタイプで、腰の辺りから大きくスリットの入った深紅のイブニングドレスーーそして黒羽のストールを羽織る姿を見て、扼城がぽつりと零した言葉に。
蜜鈴は双眸を細める。
「おぬしに褒められるのは、悪い気はせん」
ころころと笑えば、扼城もまたほんの少し微笑みを浮かべた。
「……悪くない夜だ」
「そうじゃな」
星月夜を肴に――何とも贅沢なひとときに、浸っていた。
外の景色が、とても綺麗だから――。
ラモーレエテルノ号のディナーや施設を堪能した真夕と紅葉は、甲板へと訪れていた。
「真夕…綺麗…」
「ん…綺麗ね…」
共に並び、同じ景色を楽しみながら、触れあった指先を絡め合った。
(真夕との時間を共有できるのが、嬉しい……)
そんなふうに紅葉はひそり、想いを秘めながら。
――普段は取らない食事を少しだけ。
ステラが口に運ぶのを見たイグナートは小さく微笑んで。愉しんだその後、甲板へと移動した。
「料理は“彼”の方が腕はいいですが、なかなかでしたね」
彼とは同じ組織に所属するイグナートの部下のことだ。
そしてステラは静かに微笑みを浮かべ、それから空を見上げた。
――夜空には満点の星々。
燦然と輝く、ロマンチックな空。
「今にも星が降って来そうな、美しい夜だね」
ステラが双眸を細め、呟く。
イグナートと過ごすこの夜は、とても静かで、とても穏やかだ。
星が綺麗な夜だから。
ルピナスは親愛のフリージアと尊敬の紫の薔薇ブーケをエヴァに渡した。
「いつもありがとう、エヴァちゃん。感謝を込めて――」
甘く麗しい声で、囁きながら。
(いつもありがとう、なんて、凄い)
エヴァは声無く、言葉を紡いだ。
そして。
『貴方、前よりずーっと人らしくなってるわ』
驚いていた表情が、照れくさそうな笑顔へと変わる。
――そんな彼女の為に。
ルピナスはヴァイオリンで曲を奏でた。
言葉よりずっと、何か届く気がして。
エヴァは美しい音色に耳を澄まし、目を閉じていた。
そして曲が終わり、目を開けた時。
夜空に、煌めく色を見付ける。
――流れ星だ。
(すごい、すごい。ルピナス、見て。流れ星よ!)
と、感動しながらはしゃぐエヴァはルピナスに視線を遣るがーー彼はその場に倒れていた。
どうやら船酔いをしたらしい。
折角素敵な夜景なのに。
勿体ないなぁと想うけれど。彼を介抱しつつ、空を見上げて、思うのだ。
(今日も素敵な絵が描けそうだわ)
――星空と薔薇を、題材に。思い出の色で溢れた世界を。
「吃驚したぜ…オレ達の部屋を薔薇で埋め尽くしてくれるなんてな」
薔薇で部屋を覆いつくす程埋め尽くしたざくろに、やり過ぎだとカイナが叱ったのはつい先程のこと。
けれどその薔薇の数は、恋人達をそれ程深く愛しているという証だから、きっとそんなざくろを愛おしく思っていた筈だ。
――そして恋人達は流れ星が空に瞬く夜景を共に眺めていた。
海風に吹かれ、ざくろはいつもと違う彼女達の姿にドキドキで。
愛を込めて誓った。
「今のこの素敵な時に誓うよ、永遠に愛し絶対幸せにするから」
すると恋人達は、嬉しそうに微笑む。
「ふふ、言ったからにはやり遂げて下さいね? ……愛してますわ」
巴はざくろに抱き寄せられつつ口付け、終わるとうっとりしながら目を細めた。
そして次は、カイナが。
「オレはもうお前についていく未来しか見てないぜ?」
信頼を寄せた笑顔を浮かべるとざくろに抱きしめられ、唇を重ねる。
そして次は、アルラウネが。
「こうも薄暗いとちょっと悪戯心が湧くわね」
「え…っ」
「勿論、雰囲気を壊さない程度によ」
赤くなっているざくろをぎゅっとしながら、甘いキスをして、笑った。
「しかし、全員一辺にというのも凄いですねえ……普通だったら血の海ですけど……」
巴がぽつりと零すと、アルラウネが頷いた。
「こんなハーレムが許せちゃうのは、ざくろんだから…かしらね」
「……まあ、ざくろですしね?」
そして巴は心の中で星に願いを込めた。
(このまま全員でいられますように)
――口に出しては言えない願いを。
ざくろは遠慮して離れた場所に居た菊理の元へと歩み寄った。
「……!」
抱きしめられキスをした菊理は、どきっとした。
そして。
「こんな私でも愛してくれると言うのなら、私も君を愛すると誓うよ。永遠に」
星に願うのではなく、誓った。
深い想いを告げ乍ら。
そして最後は――。
黒赤色の花束を腕に抱えるアデリシアが双眸を細めた。
花言葉は、『永遠の愛』。
「あなたに、変わらぬ愛を――」
最後はちょっと大胆にいってみようとアデリシアは自ら、ざくろの腕の中へと収まった。
そして甘く、熱いキスを。
1番は譲りたくない、という想いを密かに抱きながら。
――だが。
(いつまでもこの関係が続きますように……)
無論ざくろの恋人である皆とも仲良くやっていきたいと思い、願っていた。
それはきっと、皆も同じ。
だからこそ、ざくろは星に願った。
(愛しい彼女達とずっと一緒に冒険をして、いつか幸せな家庭を作れます様に…いや作る)
――いや、宣言した。
愛する恋人達一人一人を大切に、大事に思い、見つめてから、海の果てへと視線を遣る。
そして恋人達はざくろに寄り添いながら、幸せな時間を堪能していたのだった。
「…偶には僕に甘えても、誰も何も言いませんよ」
流れ星を鑑賞しながら言葉を交わしていたら、イグナートがふとそう告げた。
「ふふっ、それはどうも…これでもイグには結構甘えてると思うけど」
「そうですか? 貴方はあまり我儘を言いませんからね。もっと我儘を言って欲しい、と思う時があるんですよ」
ステラとは長く幼馴染と付き合ってきた仲だが、どうにも彼女には甘くなりがちだ。
そんな彼に、くすっと微笑みつつ。
「イグこそ…人を気にかけるばかりでなくて、少しは息抜きをしてね。
それこそ、もっと甘えて貰って構わないのだから 」
「僕が、ですか?」
「そう。お互いさまでね」
イグナートは暫く目を丸くしていたが目を細め、手を差し伸べた。
「さ、続きは部屋で…風で冷えたでしょう。僕が紅茶でも入れましょうか」
そうして部屋に戻るなら、橙の薔薇がステラを迎えるだろう。
「綺麗…」
甲板で夜空を眺める都の体が冷えない様に、恭一は黒のドレススーツのジャケットを脱いで羽織らせた。
「ありがとう」
気遣ってくれる優しさがとても嬉しい。
その時。
恭一は都を背後から、ぎゅっと抱きしめた。
「!」
「…このまま、聞いてくれ」
抱擁する腕は優しく、けれど力強く。
そして恭一は、胸の内を紡ぐ。
彼女は、元々勤勉で辛抱強く、子育てや仕事で疲れているにも拘らずいつも笑顔で弱音を吐かない――。
だから偶には無理せず心の声を聞かせて欲しい。
(患者の心身を癒す彼女の心身を、出来る限り癒してやりたい――だから、)
「医者にしか解らない事も有るだろうが…俺にもっと、頼ってくれ」
そんな夫の想いを聞いた都――。
仕事の間、子供達の面倒、料理・家事を熟してくれる夫。充分助かっているけれど…、
(これからはもう少し、彼の言葉に甘えてみようかな…)
そして都が気付いただろう。
今日はきっと多忙な私を労う為の日でもあったのだろう、と。
星に願うのは、
――妻子の幸い。
――夫の無事。
「おい、大丈夫か?」
「ふぁれーりおしゃーん、らいしゅきー」
「は、はぁ…!?」
シャンパンで酔ってしまったミィナを心配していたら、ぎゅっと抱き着いて戯れ始められ、ヴァレーリオの身は固まった。
そしてミィナは、とろんとしたまま夜空を見上げる。
「にゃ、おふぉししゃまにあねやい…。身体が早く成長します様に。ヴァレーリオさんと…、」
――並んでも、平気なくらい…。
うと、うと。
微睡んでいたミィナが、遂に意識を手放した。
彼女はもう、夢の中なのだろう。
「しょうがねぇなぁ……」
ヴァレーリオは観念しつつ、頭を撫でてみるとミィナがふにゃっと笑った気がした。
だから優しい表情で、双眸を細める。
「流れ星に願い事をすると叶うっていうらしいな。ノイシュも願ってみたらどうだ?」
「お星さまに願い事? んー、今でも割と幸せよ、私。素敵なおめめを見つけるのは自分で叶えるしね。スー君は何かお願い事するの?」
「俺はそうだな……」
星降る夜空の下。スフェンはシャンパンを片手に、ノイシュへと視線を遣って答えた。
「……世間知らずの弟子が、独り立ち出来ますように、かね」
すると、
「ふふ、私が独り立ちしちゃったらスー君寂しくならない?」
ノイシュが悪戯っぽく微笑み、
「はは」
スフェンも静かに微笑んでいた。
「こんな事もあるんだな……」
扼城は空を見上げながら呟いた。
何度も、何度も、星が流れて行く。
まるでラモーレエテルノ号の乗客へ、祝福を贈る為に。
すると、ふと。
蜜鈴があるものを扼城に捧げた。
それはとても美しい――綺麗な一輪の薔薇。
「今宵の礼じゃ。殿御に贈るはちと華美であったかのう?」
扼城は一瞬驚いて目を見開くが、その薔薇をそっと受け取る。
「……ありがとう、と言っておこう」
そうして二人はシャンパンを味わいながら、微笑みあう。
「単刀直入に言う、俺はお前のことが好きだ」
言葉を濁す事無く、気持ちの全てを告白したい。
そんなエヴァンスの真っすぐな想いを聞いたエリシャは、
「あなたが私を好きなことくらい知ってるわよ。でも、分かってるでしょ?」
素っ気なく返し、手に持っていたシャンパンを口にした。
「ああ。お前が若い男にあんまいい印象を持ってないってのは分かってる、理由は知らねぇがな」
「そういうこと。でも戦友としてなら認めてあげ――」
「だがな、今更どんな理由を知ったところで動じるような男じゃねぇってのは分かってんだろ?」
それでも彼が諦めない様子である事に、彼女は目を見開く。
(私が『年下の男が大嫌い』って知った上での暴挙……馬鹿なのかしら?
……あぁ、馬鹿だったわ。馬鹿以外の何者でもなかったわ)
そうして腹立たしげに、吐き捨てるように。
「何度も言わせないで。私は若い男が心底嫌いよ」
繰り返してきた言葉を告げて、エリシャは踵を返した。
もう部屋に戻ろう。
そう思った、次の瞬間。
エヴァンスがエリシャの手を掴み、振り向かせ、両肩を掴む。
「……!」
エリシャの目の前には、いつになく真剣なエヴァンスの顔があった。
そして。
「――それでも好きなんだよエリシャ、お前のことが!」
「……。どうして私が若い男嫌いか知ってる? 知らないわよね、言ってないし」
エヴァンスはじっと見つめていた。
星に願いはしない。
少しでも恋人に近付きたい――この想いは、自分が叶えてみせる。
「ラザラスさんは、もしかしてこういう場所に慣れてる?」
千春が、首を傾げた。
二人の時は本名で呼んでいる――海泡石のパイプを咥えていたウォルターことラザラスが、落ち着いているように見えたから。
「いやほら、ねえ? 何でもやらなきゃ食っていけなかったからさ」
ラザラスは中折れ帽のつばを持ちながら、にっと笑う。
けれど。
つい彼はぽつりと零す。
「でもプライベートは初めてだよ。緊張してる。ほんとさ」
本当は彼女が思っている程、余裕なんてないことを。
そして、うっかり愛だって囁きかねなくなってしまっていた。
なんて言ったって海は綺麗で、夜空には流れ星。
これ以上にないロマンチックな景色の中に居る千春は――本当に眩しくて、綺麗だ。
だけど雰囲気に流されるのは、彼女は好かないだろうから。
ラザラスは唇の端をちょっとごちそうさまするくらいに留めておく……。
「……!」
千春は、瞬きを忘れる程目を見開いていた。
ラザラスの顔がゆっくり近付いてきたと思えば――唇の端に柔らかな感触が触れたから。
それは、紛れも無く。
「どう……して……?」
千春は緑の眸を潤ませて訊ねた。
――ねえ。唇に触れたものは、何?
すると“嫌だった?”なんて聞か返され、千春は首を横に振る。
嬉しくないはずがない。
期待していなかったといったら、嘘になる。
でも、今じゃない。
今は、まだ駄目なのに。
熱く火照ってしまった頬の赤さを、抑える事はもうできない。
高鳴る胸の鼓動も。
心に募りだす感情も。
それでも、溢れそうになる涙だけは――千春は頑張って、堪えていた。
椿姫と誠一も、星が幾つも降り注ぐ奇跡の夜を共に寄り添いながら眺めていた――。
誠一は他力本願は好きじゃない――けれど周囲の甘い空気に、酒に、酔ったのか――心の内で一つ願う。
(彼女の心の傷が癒えますように)
そして、椿姫は。
(これから先、彼が迷う事があったとしても――。
選び進む道が幸せに満ち溢れんことを)
星に願い、祈る。
「もしかして寒いですか?」
「ええ、少しだけ――」
「なら、部屋に戻りましょう」
そうして寒気を感じている彼女を気遣い、二人は部屋に戻ることにした。
椿姫の凍えた手を、誠一が優しく握った。
真夕と紅葉の頬は真っ赤に染まっていた。
ちょっと照れる上、本当は恥ずかしいけれど――でも、とても幸せで。
星が降り注ぐ夜の下、彼女達は銀の指輪を交換を。
そして想いを確かめながら、お互いの指に嵌め合った。
「う~…は、恥ずかしい…すごく、とても。でもね、温かくて何よりも幸せ、なの」
紅葉はぽつりと零しながら、表情が緩む。
――この船で愛を誓い合った恋人は、女神の祝福を受けて、永遠に愛が結ばれると言われている。
「大好きよ。紅葉」
「ありがとう…。えへへ、これからも…ずっと一緒、だよ」
――誰よりも大事で、誰よりも愛している。
――永遠の愛を、誓って。
見つめ合う目を閉じて、寄り添いあっていた二人は柔らかな唇を重ねた。
ラモーレエテルノ号が浮かんでいる海も、星降る空も、世界も、彼女達を優しく、美しく、包み込む。
彼女達の幸せが永遠のものになるよう、願うように。
「スーくーん!」
「ノイシュ……」
スフェン・エストレア(ka5876)は、弟子である“お嬢さん”――ノイシュ・シャノーディン(ka4419)を迎えつつ。格好を改めて窺うと、思わずつっこみを入れた。
「なんつー格好してんだよ」
「あら、似合ってるでしょう?」
ノイシュは、にこっと笑った。そしてスカートの裾をつまみ軽く持ち上げ、その場でくるりと回ってみせる。
デコルテを覆うアメリカンスリーブ――ビタミンカラーのエアリーなプリンセスドレスを纏う姿は、絵になる程美しい。
ゆえに、スフェンは参ったような微笑を浮かべながら頷いた。
「あぁ。似合いすぎてて誰も気付いてねぇだろうなあ」
――本当は女じゃなくて野郎だってことに。
そう胸の中で呟きつつ、性別を見事に偽らせている弟子に感心する。
「ふふっ♪ だからスー君も、面倒くさがってないでちゃんとエスコートしてくれなきゃなのよ?」
「おい、ノイシュ。知ってたか? この船はポルトワールの花嫁の憧れの船だぞ?」
「勿論よ。豪華客船でブライダル! ロマンチックで素敵よね♪ まあ確かに、私は生憎と花嫁でもなければオンナノコでもないけれど――見た目には十分でしょ☆」
ノイシュがウインクすると、スフェンは目を見開いた。そして。
「あーあ。そんな格好されて適当に扱ってたら俺が人でなし扱いじゃねーの。しょーがねえなあ……」
双眸を細め、手を差し出す。
「ほれ、姫君。お手をどうぞ」
――いつだってなんだかんだと甘やかしている彼の眼は、安心する色。
正装するのは面倒だと言っていたけれど、ダークグレーのスーツに袖を通し、髪をオールバックにセットしている姿がとても様になっているなぁと思いながらノイシュは微笑み、当然のように手を伸べた。
「そうしてると、スー君やっぱりカッコいいよ♪」
「大人をからかうんじゃねえぞ」
「もう、本心なのにっ」
「うん…やっぱり真夕によく似合ってる…かわいい、よ…」
「ありがとう。私が選んだ紅葉のドレスもぴったりね。とても可愛いわ」
七夜・真夕 (ka3977) と雪継・紅葉(ka5188)は互いにドレスを選びあって、身に纏った姿を見せ合い、それから幸せそうに微笑みあった。
真夕が選んだ紅葉のドレスはスカートがふんわりと広がる純白――紅葉の綺麗な髪を目立たせるように、と想いを込めて。
紅葉が選んだ真夕のドレスは上質でレースのシックな藍色――首飾りをワンポイントに、真夕と素敵な時間を過ごしたくて一生懸命考えて選んだ。
そして真夕と紅葉は共に手を繋ぎ、ある人の元へと行く。
「ロゼに紹介するわね。私の大切な人よ」
真夕の友人でありPであるお嬢様、ロザリーナは目を輝かせた。
「まぁ、貴方が!」
そして紅葉を見つめ、にっこりと微笑む。
「――お会いしたかったです。真夕ちゃんにとって大切な最愛の人だ、と聞いておりましたから」
ロザリーナに握手を求められた紅葉は、真夕の話に照れ、ぽっと頬が赤く染まっていた。
そんな反応を見た真夕とロザリーナは可愛いなぁとほっこりして、互いの顔を見合わせ、ふふ、と微笑む。
「ヴァレーリオさーん、えいっ!」
「わあ!?」
突然ミィナ・アレグトーリア(ka0317)に背後からハグされたヴァレーリオは、動揺しながら顔が真っ赤に染まった。そして白薔薇のフローラルな甘い香りがふわりと舞うと、ドキドキしてしまうのを抑えられなくて。
「お前なぁ…っ」
「えへへ」
だが一方のミィナは、ほわんと微笑んだ。
それから少し離れると、レース地の上品なドレススカートをふわっと揺らし、
「似合う? 似合う?」
体を捻りながら窺う。
(心臓に悪すぎんだろ、マジで…)
ヴァレーリオがそんなふうに思っているとはミィナは露知らず。
編み込みのハーフアップにしてみた髪を少し気にするようにいじりつつ、そわそわしていた。
「まぁ…悪くねえよ?」
彼の回答は相変わらず素直じゃないが、それでもミィナはほっとしたように良かったぁと安心する。
そんな彼女の首元で煌めくのは、ハートのピンクダイヤのネックレス。
「ネックレス、無くしたり壊したりするんが怖くて大事に仕舞ってるんよ」
「…」
嬉しいやら、照れるやら。
ヴァレーリオの胸の中は色々忙しいようだが、
「ヴァレーリオさんも格好良いなぁ」
更にトドメを刺され、たじたじの様子である。
「こういう船の上で夜を過ごすの、実は憧れだったんです」
海にも、豪華な場所にも、縁がなくて、――けれど今夜は夢が1つ叶った。
だから。
「お誘いを受けてくださってありがとうございます、神代さん」
上質な深みのあるローズ色のドレス姿の椿姫・T・ノーチェ(ka1225)は、悪戯っぽい微笑みを浮かべながらお礼を言って、スーツ姿の神代 誠一(ka2086)に振り返った。
そして、目を丸くする。
あくまでも自然に誠一の顔が近付いてきて――“今夜この船であなたを独り占めできるなんて、嬉しいです”と甘い声で耳元に囁くから――赤面してしまうのを抑えられない。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は少女のようなあどけない笑顔を浮かべつつ、ルピナス(ka0179)を連れて歩く。
今宵、赤い花のカチューシャを飾ったアルゼンタムの髪を揺らすエヴァは、ローズミストの可憐なドレスが華やかな可愛らしいお嬢さん。
ねえ、ルピナス。
あっちに行ってみましょう?
こっちも楽しそう。
まあ、ダンスホールだわ!
パートナーと踊っている彼らを見つめながらいいなぁ、と憧れていると。
「では一曲踊って頂けますか? マドモアゼル」
「……!」
紳士的な微笑みを浮かべ――正装のスーツを着こなすルピナスが、そっと手を差し伸べた。
エヴァは嬉しくなって、にこっと笑う。
勿論、喜んで!
そんなダンスホールで彼らも、踊る。
――最初は楽しい時間を過ごせたらいいなって、軽い気持ちで。でも。
「千春ちゃん、少し大人っぽくなったよね。髪が伸びたからかな?」
ウォルター・ヨー(ka2967)の言葉に柏木 千春(ka3061)は胸を締め付けられた。なんでこんなに胸が痛いんだろう。嬉しいのに、幸せなのに。赦されないと知っている――だがそれでも、傍に居たくて堪らないのだ。
鮮やかなブルーのドレスを着て、パールの髪飾りで綺麗に纏めて。そんな千春を見つめて綺麗だよ、とウォルターは微笑んだ。
大人びたモスグリーンに、胸元のドレープでいつもより少し大きく見えるスリーピース・スーツ。そんな格好良い彼のエスコートに、千春はくらくらする。
――時音 ざくろ(ka1250)から、愛を込めて。
冒険談仲間で恋人のアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)、舞桜守 巴(ka0036)、アルラウネ(ka4841)、白山 菊理(ka4305)、カイナ(ka3407)を誘って、ロマンチックなクルーズデートにご招待。
「みんなのドレス姿、ほんとに素敵だよ」
ざくろは5人のドレス姿に思わず見惚れていた。
「ざくろさんからいただいたサンドリヨン……サイズもぴったりでした」
アデリシアは美しさを引き立てる高貴な白と灰カラーのスカートの裾を軽く持ち上げながら、頬を染めつつ笑った。
「うん、よく似合ってるよ」
ざくろに照れながら囁かれると、嬉しくて、幸せを感じる。
菊理は真っ赤になりながら緊張していた。
政治家の娘としてドレスを着るパーティーに出席する事には慣れているのだが、恋人とのこういったデートは初めてなのだ。
けれど上質な漆黒色のワンピースドレスを着た姿を恋人のざくろに褒められるのは、やはり嬉しくて。
「ありがとう……」
頬をほんのりと赤く染める。
「オレのドレス姿も褒められるなんてな……」
カイナは吃驚するような反応をした。
デート前はドレスが似合うものかと多少なりとも気にしていたのだが――普段結い上げている髪を下ろし、青いドレスに着替えた彼女は実際とても綺麗だった。
だが本人に自覚は無く、けれど、ざくろが喜んでくれているようだと気付くと、ほっとしながら笑う。
――そんな中。
「うふふ、誉めても私達以外は何も出ませんよ?」
「えっ、どういうこ――」
暗い青の夜空をそのまま着ているような妖しい雰囲気を漂わせるドレスを着た巴は、くすっと悪戯っぽい笑みを浮かべると、そのまましれっと頬にキスをした。
「……!」
突然の事に真っ赤になって動揺するざくろ。
すると少々よろめいて、
「……ざくろんたら」
「ご、ごめん……! わざとというわけじゃ……!」
愛事故発生。オフショルダーの暗青色のドレスを着たアルラウネに触れた。その事にざくろは慌てるけれど、アルラウネは特に気にしている訳ではない。
むしろくすっと微笑みながら、眼差しを愛で溢れさせていた。
――六月二日は妻の誕生日で、結婚記念日。
だが当日は仕事だったから、本日はそのお祝いの日だ。
そんな志鷹 恭一(ka2487)と志鷹 都(ka1140)は船内バーで、夜をしっとりと過ごしていた。
キャンドルグラスが優しく揺れ、寄せ合う肩の距離は近い。
「豪華客船なんて夢みたい…」
ロマンティックなムードの中で都が頬を赤くしながら、うっとりと紡ぐ。
そして、
「喜んで貰えて良かった。それに…、」
恭一が何かを伝えようとすると都と目が合って、その途端、彼の心臓は早鐘を打った。
ビスチェの白いレースドレスワンピも、上品なメイクも婀娜やかで、――思わず見惚れてしまったのだ。結婚して十数年、四児の親となったが、妻を愛おしいと思う想いは今も変わらない。
そんな旦那の眼差しに照れて、はにかみながら、都は視線を落とした。
彼が言いたかった事なら、もう察している。
「ええ、着けてみたの。似合ってる?」
夫からの贈り物であるワイヤーパールネックレスに触れながら、首を傾げた。
「ああ、…とても」
そう頷いた恭一は、心なしか頬が赤くなっている。
そんな二人にマスターが声を掛けると、カクテルをそっと置いた。
「キス・イン・ザ・ダーク…? なんだか照れちゃうわ。でも…素敵」
恋人気分を楽しみながら嬉しそうに微笑む都を見つめ、恭一は双眸を細める。
そして二人は、静かに乾杯した。
(ああ、やだやだ。何故に私がこんな茶番に付き合わないといけないのかしら……)
――豪華なディナーに釣られたせいね。
そんなふうに内心で呟いたエリシャ・カンナヴィ(ka0140)は御馳走に舌鼓をうっていた。
だがエヴァンス・カルヴィ(ka0639)の視線が気になって、軽く眉を潜める。
「何よ。じろじろ見ないで」
そして指摘されたエヴァンスはというと、驚いたような顔をしていた。
「そんなに見ちまってたか?」
「見てたわよ」
「あー…、」
そしてばつが悪そうに目を逸らしながら、頬を掻く。
「そういうドレスも似合ってるっつーか、やっぱ綺麗だなぁって思ってさ」
「……」
深緑色の瀟洒なイブニングドレスーーエリシャの普段見慣れない姿に見惚れていた事をあっさりと自白した。
すると、エリシャは深い溜息を吐く。
「おいおい、なんで溜息吐くんだよ!?」
「……エヴァンス。貴方って本当、」
――バカね。
一方、立食スタイルで楽しめる場所も用意されている。
――美味しいっ!
たっぷりのチーズが糸を引く出来立てのピッツァに思わず頬が落ちて蕩けるエヴァ。
普段食事にそこまでお金をかけない分、美味しい食事には目が無いのだ。
すると、ルピナスはくすっと微笑む。
「美味しい?」
「♪」『ええ、とても美味しいピッツァだわ。ルピナスの分もとってきてあげるわね!』
そう笑って、たたーっと取りに行くエヴァの背を見つめながら、ルピナスは双眸を細めた。
――食べ物の美味は、実はよく分からない。
でも、エヴァちゃんの顔を見てるとよくわかるから。
1人で来なくて良かった。
「珍しいな、貴方から誘って貰えるなんて…」
ステラ=XVII(ka3687)が微笑むと、イグナート=X(ka2299)は小さく笑みを浮かべた。
「どうしても君の名前である“ステラ”の下で、デートがしたかったんですよ」
「ふふっ、他の子に妬かれてしまいそうだね」
――なんて。
幼馴染で、大切で。
けれど二人だけの時間を過ごすのは久しぶりだった。
(思えば仕事に追われて居なければ、誰かが彼の傍にいるのが常。それを見守るのも好きだから、特に寂しくはなかったけれど……)
イグナートが自身の為に時間を作ってくれた事を嬉しく思うステラ。
彼の横に立つならと、背中の大きく開いた黒のマーメイドドレスに、星空のように煌めくストールを羽織って華やかに――そして装飾には、赤い耳飾りを身に着けていた。
一方のイグナートも夜空の星を彷彿するようなスーツを着て、まるでステラに合わせているかのようだろう。
そんな二人が、“星の下のデート”を愉しむ。
船内は少し賑々しい。
――もっと静かな場所でゆっくりとしたい気分だった蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、扼城(ka2836)に声を掛けた。
「折角じゃ。表へ出て酒を楽しまぬか? 誘うておいて何じゃが、エスコートを頼んでも良いかのう?」
双眸を細め、微笑みを浮かべる。
船内の雰囲気は性に合わない…というのは扼城も同感だった――ゆえに、差し伸べられたその手を取って。
「エスコートか…不慣れ也に務ませてもらおうか…」
甲板へと誘った――共に星月夜を愛でに行く為に。
●女神の祝福と流れ星
夜を彩るライトが消えた頃。
椿姫は背中の上を指先でつつつと辿られていく感触に、心臓が跳ねた。
暗い為、周りが気付かないのをいい事に、誠一が悪戯をしているのだ。
「ちょ…ちょっと、神代さん…?」
「はい?」
彼女の慌てる様子を見て可愛いと思いつつ、誠一がしれっと返す。
そして首筋へと唇を落とすと、
「もう、誠一さん…!」
椿姫が思わず声を微かに大きくしたので、誠一は人差し指を口の前に立てながら、目を細めた。
暗くてよく見えないものの、彼の顔には、してやったりと書いてある。
だから椿姫は拗ねた表情をするが、何をされても結局は許してしまう。彼の悪戯は甘えている証拠だと、解っているから。それに……。彼の愛情なら、ちゃんと伝わっている。
――誠一にとって椿姫は大切だから。こんな悪戯が限界で。
「見てください、海がこんなに青く光ってる……綺麗ですね」
海が蛍光色に煌めき、波に揺れているのを眺めながら、彼は紡いだ。そして彼女の背後から体を覆う様、両手を手摺につく。
背に触れた温かさが、なんて愛おしいんだろうと椿姫は双眸を細めて。
「そう、ですね…」
彼へと振り返った椿姫の唇が、誠一の頬へと優しく触れた。
『矮小なる光明よ、温かき御手より翅を広げ、冥き闇を照らせ』
夜空は星屑が散らばり、海は蒼く、幻想的な世界で、蜜鈴の炎を纏った灯蝶がひらりひらりと舞い踊る。優雅に羽ばたいている姿を目で追い掛けていた扼城は、海の景観を肴に、酒を味わっていたが――。
「おや、早々に着崩してしもうのか?」
蜜鈴はきょと、としながら首を傾げる。
タキシード姿で髪も綺麗にセットしていた扼城だったが――ネクタイを外し、ヘアスタイルも無造作に崩したのだ。
そして一息吐いた彼は、
「…普段通り、店で飲んでいる気分の方がな…性に合う、と言った所か…」
と零す。
どうやら慣れない格好が馴染めない……という事だったらしい。
「…確かに、おんしはその方が男前じゃの」
蜜鈴がくすくすと笑った。
「そうなれば妾はどうしようかのう」
「君は別に…ドレスの着こなしも、雰囲気も場に合っていると思うがな…」
「…ほう?」
両肩のベアトップタイプで、腰の辺りから大きくスリットの入った深紅のイブニングドレスーーそして黒羽のストールを羽織る姿を見て、扼城がぽつりと零した言葉に。
蜜鈴は双眸を細める。
「おぬしに褒められるのは、悪い気はせん」
ころころと笑えば、扼城もまたほんの少し微笑みを浮かべた。
「……悪くない夜だ」
「そうじゃな」
星月夜を肴に――何とも贅沢なひとときに、浸っていた。
外の景色が、とても綺麗だから――。
ラモーレエテルノ号のディナーや施設を堪能した真夕と紅葉は、甲板へと訪れていた。
「真夕…綺麗…」
「ん…綺麗ね…」
共に並び、同じ景色を楽しみながら、触れあった指先を絡め合った。
(真夕との時間を共有できるのが、嬉しい……)
そんなふうに紅葉はひそり、想いを秘めながら。
――普段は取らない食事を少しだけ。
ステラが口に運ぶのを見たイグナートは小さく微笑んで。愉しんだその後、甲板へと移動した。
「料理は“彼”の方が腕はいいですが、なかなかでしたね」
彼とは同じ組織に所属するイグナートの部下のことだ。
そしてステラは静かに微笑みを浮かべ、それから空を見上げた。
――夜空には満点の星々。
燦然と輝く、ロマンチックな空。
「今にも星が降って来そうな、美しい夜だね」
ステラが双眸を細め、呟く。
イグナートと過ごすこの夜は、とても静かで、とても穏やかだ。
星が綺麗な夜だから。
ルピナスは親愛のフリージアと尊敬の紫の薔薇ブーケをエヴァに渡した。
「いつもありがとう、エヴァちゃん。感謝を込めて――」
甘く麗しい声で、囁きながら。
(いつもありがとう、なんて、凄い)
エヴァは声無く、言葉を紡いだ。
そして。
『貴方、前よりずーっと人らしくなってるわ』
驚いていた表情が、照れくさそうな笑顔へと変わる。
――そんな彼女の為に。
ルピナスはヴァイオリンで曲を奏でた。
言葉よりずっと、何か届く気がして。
エヴァは美しい音色に耳を澄まし、目を閉じていた。
そして曲が終わり、目を開けた時。
夜空に、煌めく色を見付ける。
――流れ星だ。
(すごい、すごい。ルピナス、見て。流れ星よ!)
と、感動しながらはしゃぐエヴァはルピナスに視線を遣るがーー彼はその場に倒れていた。
どうやら船酔いをしたらしい。
折角素敵な夜景なのに。
勿体ないなぁと想うけれど。彼を介抱しつつ、空を見上げて、思うのだ。
(今日も素敵な絵が描けそうだわ)
――星空と薔薇を、題材に。思い出の色で溢れた世界を。
「吃驚したぜ…オレ達の部屋を薔薇で埋め尽くしてくれるなんてな」
薔薇で部屋を覆いつくす程埋め尽くしたざくろに、やり過ぎだとカイナが叱ったのはつい先程のこと。
けれどその薔薇の数は、恋人達をそれ程深く愛しているという証だから、きっとそんなざくろを愛おしく思っていた筈だ。
――そして恋人達は流れ星が空に瞬く夜景を共に眺めていた。
海風に吹かれ、ざくろはいつもと違う彼女達の姿にドキドキで。
愛を込めて誓った。
「今のこの素敵な時に誓うよ、永遠に愛し絶対幸せにするから」
すると恋人達は、嬉しそうに微笑む。
「ふふ、言ったからにはやり遂げて下さいね? ……愛してますわ」
巴はざくろに抱き寄せられつつ口付け、終わるとうっとりしながら目を細めた。
そして次は、カイナが。
「オレはもうお前についていく未来しか見てないぜ?」
信頼を寄せた笑顔を浮かべるとざくろに抱きしめられ、唇を重ねる。
そして次は、アルラウネが。
「こうも薄暗いとちょっと悪戯心が湧くわね」
「え…っ」
「勿論、雰囲気を壊さない程度によ」
赤くなっているざくろをぎゅっとしながら、甘いキスをして、笑った。
「しかし、全員一辺にというのも凄いですねえ……普通だったら血の海ですけど……」
巴がぽつりと零すと、アルラウネが頷いた。
「こんなハーレムが許せちゃうのは、ざくろんだから…かしらね」
「……まあ、ざくろですしね?」
そして巴は心の中で星に願いを込めた。
(このまま全員でいられますように)
――口に出しては言えない願いを。
ざくろは遠慮して離れた場所に居た菊理の元へと歩み寄った。
「……!」
抱きしめられキスをした菊理は、どきっとした。
そして。
「こんな私でも愛してくれると言うのなら、私も君を愛すると誓うよ。永遠に」
星に願うのではなく、誓った。
深い想いを告げ乍ら。
そして最後は――。
黒赤色の花束を腕に抱えるアデリシアが双眸を細めた。
花言葉は、『永遠の愛』。
「あなたに、変わらぬ愛を――」
最後はちょっと大胆にいってみようとアデリシアは自ら、ざくろの腕の中へと収まった。
そして甘く、熱いキスを。
1番は譲りたくない、という想いを密かに抱きながら。
――だが。
(いつまでもこの関係が続きますように……)
無論ざくろの恋人である皆とも仲良くやっていきたいと思い、願っていた。
それはきっと、皆も同じ。
だからこそ、ざくろは星に願った。
(愛しい彼女達とずっと一緒に冒険をして、いつか幸せな家庭を作れます様に…いや作る)
――いや、宣言した。
愛する恋人達一人一人を大切に、大事に思い、見つめてから、海の果てへと視線を遣る。
そして恋人達はざくろに寄り添いながら、幸せな時間を堪能していたのだった。
「…偶には僕に甘えても、誰も何も言いませんよ」
流れ星を鑑賞しながら言葉を交わしていたら、イグナートがふとそう告げた。
「ふふっ、それはどうも…これでもイグには結構甘えてると思うけど」
「そうですか? 貴方はあまり我儘を言いませんからね。もっと我儘を言って欲しい、と思う時があるんですよ」
ステラとは長く幼馴染と付き合ってきた仲だが、どうにも彼女には甘くなりがちだ。
そんな彼に、くすっと微笑みつつ。
「イグこそ…人を気にかけるばかりでなくて、少しは息抜きをしてね。
それこそ、もっと甘えて貰って構わないのだから 」
「僕が、ですか?」
「そう。お互いさまでね」
イグナートは暫く目を丸くしていたが目を細め、手を差し伸べた。
「さ、続きは部屋で…風で冷えたでしょう。僕が紅茶でも入れましょうか」
そうして部屋に戻るなら、橙の薔薇がステラを迎えるだろう。
「綺麗…」
甲板で夜空を眺める都の体が冷えない様に、恭一は黒のドレススーツのジャケットを脱いで羽織らせた。
「ありがとう」
気遣ってくれる優しさがとても嬉しい。
その時。
恭一は都を背後から、ぎゅっと抱きしめた。
「!」
「…このまま、聞いてくれ」
抱擁する腕は優しく、けれど力強く。
そして恭一は、胸の内を紡ぐ。
彼女は、元々勤勉で辛抱強く、子育てや仕事で疲れているにも拘らずいつも笑顔で弱音を吐かない――。
だから偶には無理せず心の声を聞かせて欲しい。
(患者の心身を癒す彼女の心身を、出来る限り癒してやりたい――だから、)
「医者にしか解らない事も有るだろうが…俺にもっと、頼ってくれ」
そんな夫の想いを聞いた都――。
仕事の間、子供達の面倒、料理・家事を熟してくれる夫。充分助かっているけれど…、
(これからはもう少し、彼の言葉に甘えてみようかな…)
そして都が気付いただろう。
今日はきっと多忙な私を労う為の日でもあったのだろう、と。
星に願うのは、
――妻子の幸い。
――夫の無事。
「おい、大丈夫か?」
「ふぁれーりおしゃーん、らいしゅきー」
「は、はぁ…!?」
シャンパンで酔ってしまったミィナを心配していたら、ぎゅっと抱き着いて戯れ始められ、ヴァレーリオの身は固まった。
そしてミィナは、とろんとしたまま夜空を見上げる。
「にゃ、おふぉししゃまにあねやい…。身体が早く成長します様に。ヴァレーリオさんと…、」
――並んでも、平気なくらい…。
うと、うと。
微睡んでいたミィナが、遂に意識を手放した。
彼女はもう、夢の中なのだろう。
「しょうがねぇなぁ……」
ヴァレーリオは観念しつつ、頭を撫でてみるとミィナがふにゃっと笑った気がした。
だから優しい表情で、双眸を細める。
「流れ星に願い事をすると叶うっていうらしいな。ノイシュも願ってみたらどうだ?」
「お星さまに願い事? んー、今でも割と幸せよ、私。素敵なおめめを見つけるのは自分で叶えるしね。スー君は何かお願い事するの?」
「俺はそうだな……」
星降る夜空の下。スフェンはシャンパンを片手に、ノイシュへと視線を遣って答えた。
「……世間知らずの弟子が、独り立ち出来ますように、かね」
すると、
「ふふ、私が独り立ちしちゃったらスー君寂しくならない?」
ノイシュが悪戯っぽく微笑み、
「はは」
スフェンも静かに微笑んでいた。
「こんな事もあるんだな……」
扼城は空を見上げながら呟いた。
何度も、何度も、星が流れて行く。
まるでラモーレエテルノ号の乗客へ、祝福を贈る為に。
すると、ふと。
蜜鈴があるものを扼城に捧げた。
それはとても美しい――綺麗な一輪の薔薇。
「今宵の礼じゃ。殿御に贈るはちと華美であったかのう?」
扼城は一瞬驚いて目を見開くが、その薔薇をそっと受け取る。
「……ありがとう、と言っておこう」
そうして二人はシャンパンを味わいながら、微笑みあう。
「単刀直入に言う、俺はお前のことが好きだ」
言葉を濁す事無く、気持ちの全てを告白したい。
そんなエヴァンスの真っすぐな想いを聞いたエリシャは、
「あなたが私を好きなことくらい知ってるわよ。でも、分かってるでしょ?」
素っ気なく返し、手に持っていたシャンパンを口にした。
「ああ。お前が若い男にあんまいい印象を持ってないってのは分かってる、理由は知らねぇがな」
「そういうこと。でも戦友としてなら認めてあげ――」
「だがな、今更どんな理由を知ったところで動じるような男じゃねぇってのは分かってんだろ?」
それでも彼が諦めない様子である事に、彼女は目を見開く。
(私が『年下の男が大嫌い』って知った上での暴挙……馬鹿なのかしら?
……あぁ、馬鹿だったわ。馬鹿以外の何者でもなかったわ)
そうして腹立たしげに、吐き捨てるように。
「何度も言わせないで。私は若い男が心底嫌いよ」
繰り返してきた言葉を告げて、エリシャは踵を返した。
もう部屋に戻ろう。
そう思った、次の瞬間。
エヴァンスがエリシャの手を掴み、振り向かせ、両肩を掴む。
「……!」
エリシャの目の前には、いつになく真剣なエヴァンスの顔があった。
そして。
「――それでも好きなんだよエリシャ、お前のことが!」
「……。どうして私が若い男嫌いか知ってる? 知らないわよね、言ってないし」
エヴァンスはじっと見つめていた。
星に願いはしない。
少しでも恋人に近付きたい――この想いは、自分が叶えてみせる。
「ラザラスさんは、もしかしてこういう場所に慣れてる?」
千春が、首を傾げた。
二人の時は本名で呼んでいる――海泡石のパイプを咥えていたウォルターことラザラスが、落ち着いているように見えたから。
「いやほら、ねえ? 何でもやらなきゃ食っていけなかったからさ」
ラザラスは中折れ帽のつばを持ちながら、にっと笑う。
けれど。
つい彼はぽつりと零す。
「でもプライベートは初めてだよ。緊張してる。ほんとさ」
本当は彼女が思っている程、余裕なんてないことを。
そして、うっかり愛だって囁きかねなくなってしまっていた。
なんて言ったって海は綺麗で、夜空には流れ星。
これ以上にないロマンチックな景色の中に居る千春は――本当に眩しくて、綺麗だ。
だけど雰囲気に流されるのは、彼女は好かないだろうから。
ラザラスは唇の端をちょっとごちそうさまするくらいに留めておく……。
「……!」
千春は、瞬きを忘れる程目を見開いていた。
ラザラスの顔がゆっくり近付いてきたと思えば――唇の端に柔らかな感触が触れたから。
それは、紛れも無く。
「どう……して……?」
千春は緑の眸を潤ませて訊ねた。
――ねえ。唇に触れたものは、何?
すると“嫌だった?”なんて聞か返され、千春は首を横に振る。
嬉しくないはずがない。
期待していなかったといったら、嘘になる。
でも、今じゃない。
今は、まだ駄目なのに。
熱く火照ってしまった頬の赤さを、抑える事はもうできない。
高鳴る胸の鼓動も。
心に募りだす感情も。
それでも、溢れそうになる涙だけは――千春は頑張って、堪えていた。
椿姫と誠一も、星が幾つも降り注ぐ奇跡の夜を共に寄り添いながら眺めていた――。
誠一は他力本願は好きじゃない――けれど周囲の甘い空気に、酒に、酔ったのか――心の内で一つ願う。
(彼女の心の傷が癒えますように)
そして、椿姫は。
(これから先、彼が迷う事があったとしても――。
選び進む道が幸せに満ち溢れんことを)
星に願い、祈る。
「もしかして寒いですか?」
「ええ、少しだけ――」
「なら、部屋に戻りましょう」
そうして寒気を感じている彼女を気遣い、二人は部屋に戻ることにした。
椿姫の凍えた手を、誠一が優しく握った。
真夕と紅葉の頬は真っ赤に染まっていた。
ちょっと照れる上、本当は恥ずかしいけれど――でも、とても幸せで。
星が降り注ぐ夜の下、彼女達は銀の指輪を交換を。
そして想いを確かめながら、お互いの指に嵌め合った。
「う~…は、恥ずかしい…すごく、とても。でもね、温かくて何よりも幸せ、なの」
紅葉はぽつりと零しながら、表情が緩む。
――この船で愛を誓い合った恋人は、女神の祝福を受けて、永遠に愛が結ばれると言われている。
「大好きよ。紅葉」
「ありがとう…。えへへ、これからも…ずっと一緒、だよ」
――誰よりも大事で、誰よりも愛している。
――永遠の愛を、誓って。
見つめ合う目を閉じて、寄り添いあっていた二人は柔らかな唇を重ねた。
ラモーレエテルノ号が浮かんでいる海も、星降る空も、世界も、彼女達を優しく、美しく、包み込む。
彼女達の幸せが永遠のものになるよう、願うように。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
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