奪いたいのはお前だけ

マスター:奈華里

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2016/06/25 22:00
完成日
2016/07/05 18:10

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●自信

 ドゴォォォォン

 大海原に砲撃の轟音が木霊する。
 不運にも一隻の運搬船が海賊に目をつけられたのだ。
 威嚇射撃のその後で、急接近する海賊船に運搬船の乗組員が慌てて甲板に顔を出す。
「積み荷を全部置いてけやっ! でなければ皆殺しだぁ!」
 そんな彼らに追い打ちをかけるように海賊達が叫ぶ。
「お、おい…あれって…」
 その声に怯えながら運搬船の乗組員が空を指差す。
 そこには風にはためく黒地の旗。特徴ある銃の銃口から立ち昇る煙には髑髏がデザインされている。
「くっ、シルバーバレットか!?」
 別の船員が船長の元へと走る。
 海賊船・シルバーバレット――砲撃による攻撃の正確さを武器に最近この近辺を荒らして回っている海賊だ。
 一度目をつけられたら最後と噂されるその船であるが、運搬船の船長は怯まない。
「どうします? 積荷を渡せばあるいは…」
「ちょっと何言ってんの! そんな無責任な事出来る訳ないでしょ!」
 飛び込んで来た乗組員をそう叱咤し、この船の若き女船長は相手に睨みを利かすべく甲板に出る。
 そして、彼女はキッと海賊船を見据えて…。
「海賊? 上等よ! かかって来なさいなっ!!」
 その声が届いたのか海賊船には一瞬の静寂が広がるが、その後すぐさま湧き起ったのは嘲る笑声。
「おい、あの小娘、何言ってやがんだぁ?」
「恐怖の余りおかしくなったんじゃねぇかぁ!?」
 船長が女である事も異例であるが、それに加えて挑発まで仕掛けてくるとは…。
 肝が据わっているというか、無謀というか…どちらにしても海賊達の笑い声は止まらない。
 しかし、女船長は正気だった。
(見てなさい…私の底力、見せてやるわ)
 本当に笑うのは一体どちらか。彼女は知っている。それだけの自信が彼女にはあるのだから。

「いやー、やりましたね船長。さすがだ~」
 港にある宿の食堂で運搬船の乗組員の一人が彼女に言う。
「だから言ったでしょ。私の力があればどうって事ないのよ。知識は嘘をつかない…これからも私を信じてついてきて頂戴」
 船長も今日のそれに手ごたえを感じて、手にしたワインを飲み干す。
「けど、ありゃあ見物だったなぁ~。奴らの砲撃をひらりとかわした後のあの海賊達の顔! おまけに誘導されているとも知らずに追ってきて座礁した時は本当に笑いを堪えるのが大変でしたよ」
 ビールをグイッと煽って、顔を赤くしたままもう一人が言う。
「名が知れた海賊だって大した事ないわね。海の男が聞いて呆れるわ」
 船長が言う。彼女は無名であったが、ある才能の持ち主だった。それは――。

●才能
「何、風がよめるだと?」
 場所は変わって海賊船内。
 座礁からどうにか離脱して、子分に今日の船の事を探らせていた海賊船の船長が眉をしかめる。
「ええ、どうやら人より天候をよむ力が優れているらしくて…巷では『海の女神』と噂されているとか」
「成程、海の女神か…」
 今日の敗戦…いや、敗戦というには一方的か。略奪の失敗の要因を思い出せば、彼女の通り名の理由も頷ける。
 いつもならば当たる筈の砲撃が紙一重で交わされたり、目算が僅かに狂った時に吹いていた強風――。
 それが彼女の見立てで指示され、回避行動を取っていたとしたら…その名は嘘ではないという事だ。
(ほう、風がよめる女か…面白い)
 女が海に出るのはタブーと考える者が多いが、彼は気にしない。そんな逸材ならば尚更だ。
「おい、明日もあの女は海に出るのか?」
 船長が子分に問う。
「あ、はい。調べでは朝方次の港から…」
 その答えを聞き、船長はにやりと笑みを浮かべる。
(手に入れてやる……欲しいものは全て。それが海賊だ)

 そして、時は過ぎて数十日…。
「ああ、もうしつこい!!」
 ばんと机を叩いて、海の女神ことイズはぐったりと肩を落とす。
 あれからというもの、彼女の船はシルバーバレットによる執拗な追跡を受けて、現在彼女への仕事が急激に減少の一途を辿っているのだ。というのも、航海中どこかしらに海賊船の姿がある訳で…仲間ではないかと噂されたり、腕はいいと知られてはいてもいつ襲われるか判らない船に荷物を預けられないと贔屓の取引先からも距離をおかれてしまう始末…ほとほとうんざりである。
「こういう嫌がらせってホント無理ぃ~…」
 ばさりと宿の一室のベッドに手製の海図やノートと共に身を預けて、彼女は天井を見つめる。
(ラブコールは嬉しいんだけど、相手が海賊じゃあねぇ…)
 初めて会ったあの日の翌日。
 届けられた一通の手紙にはシルバーバレットの船長直々に記された恋文にも似たスカウトの文面が綴られており、もしこれが海軍や別の真っ当な組織ならば真剣に考えたいと思った程だ。
(このまま遊んでいたい気もするけど、仕事がゼロになっちゃ困るものね)
 認めてくれたのは嬉しいけれど、それでも相手は悪人なのだ。
「はぁ、さっさと諦めてくれれば良かったのに……いいわ、仕方ない。こうなれば本気でやり合いますか」
 イズが身を起こす。彼女は少しの寂しさを抱えながら、ハンターオフィスの扉をくぐるのだった。

リプレイ本文

●降伏
「…流石海賊、こうでなくては」
 大海原のど真ん中、海の女神ことイズの船ではためく白旗のその下でラジェンドラ(ka6353)が呟く。
「なんで引っかかって来ねぇかなぁ…」
 そう言うのはジャック・エルギン(ka1522)だ。
 偽装降伏で楽に勝ちを狙っていた彼であるが、どうやらこれは失敗に終わりそうだ。
「相手も一応、修羅場を潜って来てるんだろ? そっちの勘が働いたのかも知んねぇなあ…」
 ぷかりと煙草の煙を吐き出して、鵤(ka3319)が励ます。が、実際のところは――。
「イズさんは海賊さんからお手紙を頂いたんですよね? という事はこちらの動向って…」
『あ…』
 エルことエルバッハ・リオン(ka2434)の言葉に他のハンター達が一斉に声を出す。
 つまりこちらの状況は監視されていた可能性が高い。
「という事は敵は我々の事も知っているという事か?」
 門垣 源一郎(ka6320)が誰にともなく問う。
「さあのう。イズと顔合わせはしたが、話し合いはこの船に来てからしておるし、正体まではばれておらんのではないじゃろうか?」
 源一郎の質問にレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が回答する。
「どっちにしてもわるいこはメッ!ってするんじゃもん! それがボクらのおしごとじゃもん!」
 そう言い、張り切るのは白虎帽子が可愛い泉(ka3737)だ。その言葉に皆気を取り直し、やるべき事を再確認する。
(これでいい。あちらも旗を上げている限りプライドがある。ならば、こちらも正々堂々ぶつかってやるのが礼儀だしな)
 ラジェンドラはこの展開を密かに喜び、表は出さぬ様気遣いつつ双眼鏡をで相手の様子を確認する。
「じゃあ、ここは女神のお手並み拝見だな」
 ジャックがそうイズに声をかけると、彼女も張り切り操縦室へと戻って行く。
「おや、おぬし…具合でも悪いのかのう?」
 そんな中ただ一人、違う方向にベクトルを伸ばすお人がいた。それはチマキマル(ka4372)だ。
 黙ったまま、皆の話を聞きジッとその場に待機。彼女からの言葉には流石に首を少し動かし、こう答える。
「あぁ具合? そうだな…そう言われれば悪いかもしれない。最近…ストレスがね、酷いんだ。だからね、海賊には悪いが少々このうっぷんのやり場になって貰おうかと思うが、構わないだろうか?」
 不気味な仮面を装着したまま、彼が問う。
「ん…まぁ、いいんじゃないだろうか。俺もその一人だしな」
 その答えはレーヴェではなく、ラジェンドラがさらりと答えて、
「そうか。ならば思う存分やるまで…」
 チマキマルは仮面の奥で不敵な笑みを浮かべるのだった。

 一方海賊は現在の状況をこう分析する。
(あの勝気な女が白旗だぁ? 新しい乗組員を増やしたって報告があるし、きっとこれには裏があるな)
 そう判断して、女神の出方を慎重に見極める。
(だが、乗組員を入れたという事は元いたのが辞めていったか…とすると、今がチャンスだ。客に相手にされず、船員も失っている。後はあの船を潰せば、行く宛が無くなってこちらに着くかもしれねぇ)
 海に生きる女だ。ここで強い所を見せておけば、もしかしたら靡いてくるかもしれない。
 そんな展開を思い描いて、船長は早速子分共に号令をかける。
「いいか、野郎共。これより女神の船と交戦する。準備はいいなっ!」
『オォーーッ』
 彼の一声で船上が湧き立ち、いよいよ海戦が開始されようとしていた。

●操縦
 先に動いたのはイズだった。
 ぐんぐん海賊船に近付いてまずは真正面、船首にレーヴェがロングボウを撃ち込み挑発する。
 するとあちらもこちらの意図を理解し、砲台口を全門開放。イズの船目掛けての砲撃が始まる。だが、イズとてそれに屈しない。大事な船であるから慎重かつ大胆に操り、側面を避けるように立ち回ってゆく。
「ほう、目視でこれか。かわすイズの嬢ちゃんもすごいが、相手もやるな」
 ラジェンドラは海賊退治を生業にしていた。であるから少なからず『海賊』には興味があるのだ。相手の動きを観察し、いい所は素直に褒めたりもする。
「こういうスリル、はじめてじゃもーんっ! なんだかわくわくするんじゃもんっ♪」
 その横では泉が待ち遠しそうに興奮の舞い。
 早く自分も戦いたい。そんな想いを胸に、揺れる甲板をものともせずピョンピョン跳ねる。
「そろそろあれの射程じゃ。皆の者、気を引き締めてゆくのじゃ」
 だが、側面を避けてばかりでは始まらない。ハンターらをあちらに乗り込ませるべく、近距離接舷を狙い徐々に船は平行に並ぶ位置へ。激しくなる砲撃を緩急スピードを調整しつつ、避けてゆく。
「いいねぇ、いつ見ても惚れ惚れするぜ。野郎共、うまくやれば女が来る…張り切って行けよ」
 その動きに海賊船船長からも称賛の声。自身の目に狂いはなかったと改めて実感する。
 だが、それは始めだけだった。打てども打てども当たらないのでは勝負はつかない。イズの船はかわすだけであるが、海賊船からしてみれば弾の無駄撃ちにしかならず消耗する一方だ。
「何やってる。いい加減当てろっ!」
 苛立ちを見せつつ、船長自らも砲台の近くに陣取る。
 そして、双眼鏡を覗けば当たらない新たな理由が明らかとなって…。
「やつら、撃ち落としてやがる…」
 船長が奥歯を噛む。イズの船の甲板では二人の人間が彼らの放つ砲弾を海上で相殺し続けているのだ。
「コントロールが良くても途中で落とせば問題ありません」
 エルが落ち着いた面持ちでファイアーボールを発動させ、砲撃を迎え撃つ。
「おうおう、派手なこったなぁ。まさかこんなに花火が見れるとは…」
 そう言うのは相変わらずの鵤だ。念の為、防御障壁の展開を準備しているものの、この分では必要なさそうだ。
 だが、知ったからにはあちらも黙ってはいない。
「きゃっ!」
 エルのワンド目掛けて船長の狙撃が見事ヒット。握っていた筈の杖を弾き飛ばす。
「おいおい、マジかよ…」
「良い腕だな。名前通りという訳か」
 ジャックとラジェンドラ、二人がそれぞれの感想を漏らす。
「フフ、フフフッ…きましたね、私の出番が。接舷まで私が存分に相手をしてやろう」
 チマキマルはそう言って、手にした魔杖『スキールニル』を掲げる。そして、
「シィィィィィイイニサラセェェエェッ!!」
 彼がついに切れた。奇声に似た甲高い声と共に敵の砲台目掛けてウインドスラッシュをぶち込む。
 その声に否応なしでも視線を落として、海賊達は目を見開く。
「あ、兄貴…なんかあっちに変なのがいる!」
「あれは…化けもんだ……あんなの、みたことがねぇ!?」
 そして口々に呟かれる言葉にチマキマルの怒りはさらにエスカレートして、
「誰が化けもんだ…人を見た目で判断するとは、やはり万死に値するゥゥワァァァ!!」
 魔力が底を尽きるのも構わず乱れ打ち。とはいえ外見を悪く言われるのは余り良いものではない。
 しかしながら、彼の場合些か無理もない事だった。
 というのもローブで身体を隠している為、高い身長が更に高く見える。それに加えて彼のマスクがいけない。宗教画に描かれそうな角飾りのついた漆黒のお面は悪魔を模しているのだから、パッと見て驚かない方が不思議なのだが、彼自身そんな事しったこっちゃない。
「ひぇぇぇぇぇ、兄貴! 女神には悪魔も付き従ったますぜぇぇ!!」
 どたどたと足音を立てながら子分の一部がパニックを起こす。
「いまがチャンスじゃもんねー!」
 そこで跳び出したのは泉だった。
 彼女は無謀にも砲弾を足場にして敵船への乗船を試みる。しかし、彼女は霊闘士だ。彼女がいくら小柄だとは言え、身軽な影疾士とは違う。それにだ。ガレオン船の舷縁までの高さがそこそこある。飛び出したはいいものの足場を失くし、海に転落しかける彼女を仲間が助けに入る。
「全く、元気な嬢ちゃんだ」
 そう言ってレジオンワイヤーで乗船を試みていたラジェンドラが彼女を支えてほっと一息。そのまま勢いをつけて上に投げ上げると、彼も側面をワイヤーを頼りに駆け上がる。
「ちょっ、今度は白虎きた―――!!」
 そんな状況に慌てて叫ぶ海賊達。もはや実況状態である。
 先行して乗り込んだ二人に加えて、ジャックと源一郎も跳躍と砲台の枠を足掛かりによじ登り、乗船成功。
 甲板に上がると同時にジャックは視界に入る海賊の得物を確認して、
(飛び道具は…まぁ、それほど多くねぇか)
 ポケットのカードを取り出し銃持ちを狙う。
「まっ、女を口説くのに砲弾を持ち出すような野郎には仕置き…」
 そう言いかけて、だが言葉は続けられなかった。というのも彼の狙った海賊は泉によってなぎ倒されたのだ。
「あ、まぁ…さんきゅ」
 そそくさとカードを閉まって彼が言う。
「どういたしましてじゃもーん♪」
 そういう彼女は今も海賊の脚を掴んではフルスイングだ。
 自分を軸に人間独楽のようにして群がる敵を一掃してゆく。
「さて、じゃあ俺も暴れさせてもらおうか」
 ラジェンドラもそう言い、早速魔導槍を揮う。がこの程度の戦いで槍の消耗を避けたいのか柄や石突を避けて、刺すというよりは殴る形で海賊達をのしていく。一方のジャックは複数の敵にはバスターソードの薙ぎ払い。船長の元を目指そうとしているようだが、数が多く苦戦中。船長は最奥の船首楼前で銃身の長い銃を握っている。
「ならば俺が向かうまで」
 そこで動いたのはここまで無言を保っていた源一郎だった。
 太刀を片手に船長の元へと走る。しかし、そこにたちはだかったのは一人の青年。
「うちの船長には一歩も近付かせねぇ」
 そう言って体勢を低く、源一郎とは逆に闘志をむき出しに彼を睨む。
「では、仕方がない。おして通るまで」
 源一郎がまずは踏み込む。しかし、相手もそれを見切っていたように横にズレるとそのまま体を捻り、こちらに握っていたダガーをつき出す。
「おまえ、覚醒者か?」
 その動きの速さに源一郎が思わず呟く。情報にはなかったものの、別段海賊の中に覚醒者がいてもおかしい話ではない。この動きの良さからして、相手も影疾士か。しかし、同職であるなら彼も尚更負けられない。
(人を斬るのは久方ぶりだが…今更失って惜しい命でもあるまいよ)
 源一郎はそう思い、躊躇なく太刀を揮う。それは一瞬の出来事だった。
 彼に向かってきていた海賊のわき腹に一閃が走ると、次の瞬間ぱたりと音をたてその場に崩れる。
(まあ、依頼人の意向で峰打ちだがな)
 腕は鈍っていない。十分過ぎる手応えに、彼は無言のまま自分を囲む海賊らに目を走らせる。
(くそ…こいつ、できる)
 彼の瞳の奥に抱える何かを海賊らは悟って、それに圧倒されてしまい海賊達はそのまま動けない。
 そんな彼らには別からの鉄槌――。
「この距離でも案外当たるもんだなぁ」
 飛びきたのは炎の波――発動元は後から乗り込んで来た鵤だ。
 マテリアルで構築されて燃えない炎であるが衝撃は半端ない。
 集まっていた海賊達はドミノ式に倒れて、気を失う者も少なくない。
「おやおや、これじゃあ私の出番がなくなってしまうのう」
 更に今やってきたレーヴェが少し残念気に呟く。
「はっ、ちびっ子に負けてたまるかよっ!」
 そんな彼女を見つけて掛かってゆく一人がいたが、彼女をちびっ子と侮るなかれ。
 身長は百四十センチであっても彼女はれっきとしたドワーフであり、やすやすと男のダガーを交わして、ねらうは股上――男性の大事な部分。
「ッーー!?!」
「フフッ、ドワーフなめんなし」
 会心の一撃に等しい一発を貰い、泣き崩れる海賊。これでは当分動けないだろう。
「チィッ、やってくれるぜ。こうなったら最後の手段だ!」
 船長は何かを決意し、仲間の間をすり抜ける。そして、向かったのはイズの船の方だった。

●強行
 予め準備していた鉤の付いたバズーカに似た筒状の大物、それを抱えて船長はイズの船を狙う。
 乗船したハンターらが咄嗟に駆け寄るも一歩届かない。放たれたのは鉤の付いたロープ…それがイズの船のマストに引っかかると、彼は何を思ったか躊躇することなく飛んで…。それはどこかの怪盗がビルからビルに飛び移るように…彼は彼女の船に飛び移るつもりらしい。
「しまったかのう…」
 レーヴェが呟く。が、その表情はしまったというものではなく、むしろ飛んで火にいる夏の虫な歓迎顔。
 何故ならイズの船にはまだ二人残っている。
「フフッ、さっきは少し油断しましたが、今度はそうは行きませんから」
 船長の伝ってくるロープ目掛けて、エルがウインドスラッシュをお見舞いする。
 そこでバランスを崩した所に待っているのは狂気の人だ。
「奪イタイノハァァァ! 貴様ノ魂ィィィィイ!」
 半狂乱の雄叫びで彼が作り出したのは本日最大のファイアーボールだ。
「あ、ちょ、それ、あぁ―――!!」
 船長はその巨大な魔力の塊に情けない声を出し、空中を泳ぎ回避を試みる。
 だが、それがうまくいく筈もなくて…後に響いたのは着弾の衝撃音――。
 交戦していた彼の海賊達もその姿に皆手を止めてしまっている。
「あ、欠片が落ちてきたら危ないので近くに寄ってて下さいね」
 様子を知って操縦室から飛び出してきたイズをエルが庇う。もう一撃お見舞いしようとするチマキマルであったが、流石にそれは酷だと止めに入って、最後に残ったのは海に浮かぶ海賊船長の無残な姿だけだった。

 かくて戦いは終わった。
 残っていた海賊達は船長のそれを目の当たりにしてあっさり降伏、皆お縄についている。
「で、どうするんだ? 役所に任せてもこいつらはいずれ、周囲の寛容を裏切るだろう」
 源一郎がはっきりと言い切る。所詮悪人は悪人なのだ。本人が更生を誓っても既に張られたレッテルがある事で世間は冷たい目を向ける。それを拭うのは並大抵のものではなく、また手を染めてしまう可能性もあるのだ。けれど、命を奪うのは本望ではない。悪さをしないのであれば、見逃さないまでも届け出るだけでよいではないかと思う。レーヴェは怪我をした者に治療を施しつつ、その話を黙って聞いている。そこで判断はイズに託される事になって…始めは思案していた彼女であったが、何かを閃いたのかふと表情を変えて、
「決めた。あんた達、もし更生するつもりがあったら罪を償った後うちに来なさい。そしたら船員として雇ったげる」
『えーーーーーっ!!』
 彼女の突飛な発言にハンター達から声が上がる。
「本当にいいのか?」
 そう問うシルバーバレットの船長に彼女は言い切る。
「ええ。貴方達が戻ってくるまでに私はもっともっとおっきくなってるから。そうしたら、沢山人を雇わなきゃだしね。私に人生奪われる気があるならついてきなさい!」
 にこりと笑ってこの女神はなんて大胆なのだろう。
 ハンターらはそう思いつつ、彼女が決めた事ならとそれに同意し海賊達を役所に届けて、この依頼を完了とするのだった。

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MVP一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

重体一覧

参加者一覧

  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • もぐもぐ少女
    泉(ka3737
    ドワーフ|10才|女性|霊闘士
  • 迷いの先の決意
    チマキマル(ka4372
    人間(紅)|35才|男性|魔術師

  • 門垣 源一郎(ka6320
    人間(蒼)|30才|男性|疾影士
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談用スレッド
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/06/24 17:38:24
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/22 21:25:51