ゲスト
(ka0000)
禁断の果実
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~15人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/09 15:00
- 完成日
- 2014/09/17 10:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「ははははは、禁断の果実。確かにいただいた。それでは、チヴェディアーモ!」
虹の怪盗アルコバレーノが輸送船から華麗に脱出していきました。夜空に、漆黒の気球が浮かびます。
「くそ、逃がすな!」
アルマート・トレナーレ少佐が叫びました。
空にむかって、威嚇も込めて魔導銃を連射します。
「ははははは……、はあっ!?」
「あたった!?」
なんと、適当に撃っていた魔導銃の銃弾が偶然にもわずかにお宝の箱をかすめました。衝撃で、アルコバレーノが箱を手から落としてしまいます。
「しまった!」
さすがに、すぐに地上に下りて拾いに行くわけにもいきません。悔しがりつつも、アルコバレーノは闇の中へと消えていきました。
翌日、ヴァリオス魔術学院資料館からハンターたちに、昨日アルコバレーノによって盗み出された禁断の果実の捜査依頼が来ました。どうやら、問題の果実は、資料館での研究のためにセリオ・テカリオがサルヴァトーレ・ロッソの実験農場から取り寄せようとしていた物のようでした。なんでも、珍しい果実で、それを食した者は炎の力につつまれるということです。
怪盗アルコバレーノは、歪虚の討伐に目が向いている隙を突いて、農場から直接盗み出したようでした。
サルヴァトーレ・ロッソの農場にはまだ親株があるのでまた取り寄せることも可能ですが、資料館としては盗まれたことに怒っています。貴重な品物ですが、怪盗に与えるぐらいなら、潰してしまうなり、誰かが食べてしまってもいいとセリオたちは考えているようです。
さっそく、魔術学院の生徒たちにも、お宝探しが課題として出されたりもしています。
「ということらしいのよ。はい、じゃ、情報料ちょうだい」
ミチーノ・インフォルが、ちゃっかりと街角で情報屋としての商売をしています。
おかげで噂はあっという間に広がってしまったようで、ヴァリオスではちょっとしたお宝探しが始まっていました。
「そんな力のある果実なら、俺が食べて天下を取る!」
「きっと、新たな魔術を会得できるに違いないわ。絶対に食べたい!」
「何でも、不老長寿の効果があるっていうじゃないか。これは食べなければ」
なんだか、色々と噂に尾ひれがついているようです。大丈夫でしょうか。
とはいえ、何かの効果があるのは確かなようです。そうでなければ、サルヴァトーレ・ロッソの実験農場で栽培されているわけがないですし、魔術学院資料館がわざわざ取り寄せたりしないですよね。そうですよね、多分……。
虹の怪盗アルコバレーノが輸送船から華麗に脱出していきました。夜空に、漆黒の気球が浮かびます。
「くそ、逃がすな!」
アルマート・トレナーレ少佐が叫びました。
空にむかって、威嚇も込めて魔導銃を連射します。
「ははははは……、はあっ!?」
「あたった!?」
なんと、適当に撃っていた魔導銃の銃弾が偶然にもわずかにお宝の箱をかすめました。衝撃で、アルコバレーノが箱を手から落としてしまいます。
「しまった!」
さすがに、すぐに地上に下りて拾いに行くわけにもいきません。悔しがりつつも、アルコバレーノは闇の中へと消えていきました。
翌日、ヴァリオス魔術学院資料館からハンターたちに、昨日アルコバレーノによって盗み出された禁断の果実の捜査依頼が来ました。どうやら、問題の果実は、資料館での研究のためにセリオ・テカリオがサルヴァトーレ・ロッソの実験農場から取り寄せようとしていた物のようでした。なんでも、珍しい果実で、それを食した者は炎の力につつまれるということです。
怪盗アルコバレーノは、歪虚の討伐に目が向いている隙を突いて、農場から直接盗み出したようでした。
サルヴァトーレ・ロッソの農場にはまだ親株があるのでまた取り寄せることも可能ですが、資料館としては盗まれたことに怒っています。貴重な品物ですが、怪盗に与えるぐらいなら、潰してしまうなり、誰かが食べてしまってもいいとセリオたちは考えているようです。
さっそく、魔術学院の生徒たちにも、お宝探しが課題として出されたりもしています。
「ということらしいのよ。はい、じゃ、情報料ちょうだい」
ミチーノ・インフォルが、ちゃっかりと街角で情報屋としての商売をしています。
おかげで噂はあっという間に広がってしまったようで、ヴァリオスではちょっとしたお宝探しが始まっていました。
「そんな力のある果実なら、俺が食べて天下を取る!」
「きっと、新たな魔術を会得できるに違いないわ。絶対に食べたい!」
「何でも、不老長寿の効果があるっていうじゃないか。これは食べなければ」
なんだか、色々と噂に尾ひれがついているようです。大丈夫でしょうか。
とはいえ、何かの効果があるのは確かなようです。そうでなければ、サルヴァトーレ・ロッソの実験農場で栽培されているわけがないですし、魔術学院資料館がわざわざ取り寄せたりしないですよね。そうですよね、多分……。
リプレイ本文
「で、どんな箱なんだ?」
君島 防人(ka0181)が、アルマート・トレナーレ少佐に確認しました。
「よく分からん」
きっぱりと、少佐が言いました。
「せめて、箱の大きさとか、どんな果実なのか分からないのか?」
東郷 猛(ka0493)がちょっと呆れながら訊ねました。リアルブルー出身の猛でも、そんな果実は聞いたことがありません。
「ええと……」
少佐が曖昧に説明します。実は、少佐も見たことがないのでよく分かりません。
「なんだかよく分からないけれど、凄そうだね。妹が聞いたら喜びそうだな」
天竜寺 舞(ka0377)が、禁断の果実という名前だけで、ちょっと身を引き締めました。
「ちょっと眉唾物ですが……」
またリアルブルーからの話が変なふうに誤解されて伝わったのではないかと、上泉 澪(ka0518)が懐疑的な目を少佐にむけます。
「それで、見つけたら食べてしまってもいいんですよね」
好奇心に目を輝かせながら、藍那 翠龍(ka1848)が聞きました。
「数はあるらしいから、最低一つは残せばな。いやいや、盗難品なんだから、ちゃんと届けろよ!」
肯定はしたものの、全部食べてしまったのでは意味がないと、少佐がみんなに釘を刺しました。
「わーい、やっぱりいいんですね」
無視して喜ぶ翠龍です。
「ふふふ、でも、私がいただいちゃうんですよ」
プルミエ・サージ(ka2596)が、お宝は自分の物だとばかりに、ほくそ笑みました。
「とにかく、他にも探しているハンターはたくさんいるから、頑張って見つけだしてくれ。いいな!」
少佐の言葉に、ハンターたちは街へと散っていきました。
さて、路地裏で箱を探していたのはアーシェ・ネイラス(ka1066)です。
小柄な体格ながら、ドワーフらしい豪快さで植木鉢やら荷車などを持ちあげて箱を探しています。
「うーん、なかなか見つからないなあ。どっこいしょっと」
道端にあった適当な箱に腰をおろして、アーシェが一休みしました。
「箱?」
これじゃないかと、さっそくアーシェが箱を開けてみました。留め金を外すと、簡単に蓋が開きました。
中に詰まっていたのは、色とりどりの果実たちです。
「こっちの果実なら安全そうだけど……」
どれを食べようかと悩むアーシェでしたが、運のいいことに果物屋の屋台を見つけました。
これなら、そこで売られている物と比べることができます。
「これ、似てるけど、どうなんだろ?」
箱の中から小玉スイカを取り出して、アーシェが屋台のスイカと見比べてみました。よく似てますが、屋台の物の方が細長くて大きいです。
「お客さん、珍しい物持ってるねえ」
当然のように、果物屋の親父が、小玉スイカに興味を示しました。
「そんな凄いもんなら、さっそく切ってみようぜ」
新しい果物だと聞いた親父が、アーシェを手招いて、両方のスイカを切ってみました。
「黄色い!?」
二人が目を丸くします。小玉スイカは中が黄色だったのです。
「すげー、食べてみよ。……うわっ、甘ー!」
赤いスイカと黄色いスイカを食べ比べて、アーシェが声をあげました。
「きっと、すでに飲食店に搬入されているかもですよね」
勝手にそう思い込んだ翠龍は、あちこちの店の厨房に勝手に入り込んでは、鍋の中身や、パントリーの棚を調べていました。ついでに、それらしい食材をつまみ食いして確かめます。さらには、ウェイトレスのスカートをめくって中を確かめる始末です。
「おかしい、怪盗の盗んだ物を探しているだけなのに、なぜ、僕が泥棒にされているんだろう?」
当然、泥棒として店の者たちに追いかけられています。
逃げ回っていると、探している箱らしき物が道端にあるではないですか。
果物屋の屋台の前にあった箱を拾って逃げます。
「こら、待てー」
アーシェやら店の者たちが、追いかけてきます。
「こうなったら、禁断の果実の力で……」
箱の中にあったリンゴを手に取ると、翠龍がシャリッと囓りました。
「おおお、この力は……」
覚醒状態となった翠龍が、白くなった髪を靡かせてまるで蛇のような走りで追っ手たちを振り切りました。けれども、覚醒によって鱗に覆われた腕から、するりと箱が滑り落ちたことに、翠龍は気づきませんでした。
「なんだか騒がしい……怪しいな。おおっ?」
裏路地を探したボルディア・コンフラムス(ka0796)が、運よく翠龍の落とした箱を発見しました。
「どれどれ……」
さっそく、ボルディアが中からリンゴを一つ取って囓りました。
「おお、うまい。身体に力が漲ってくるようだ。熱いぜ!」
思わず、ボルディアが走りだしました。
何か特別な効果があったようにですが、ただのプラシーボ効果のようにも見えます。
「素晴らしいぞ、この力……!」
調子に乗って走っていたボルディアのおけつに何かが噛みつきました。
ボルディアが振り返ると、柴犬とゴールデンレトリバーがお尻に噛みついています。
「なんなんだ、この野犬は……」
犬を振り払おうとした時でした。不意をつかれたボルディアが、バットで後頭部を殴られて気絶しました。
「やったであります。念願の禁断の果実ゲットであります!」
隠密で物陰に隠れて待ち伏せしていた敷島 吹雪(ka1358)が、高らかに勝ち誇りました。
そそくさと箱を奪うと、吹雪はペットたちと共にその場から逃げだしていきました。
「禁断の果実と言うからには、リアルブルー最大のベストセラーに載っているあれに違いないであります」
吹雪が箱の中からリンゴを取り出しました。皆、考えることは一緒のようです。
さっそく味見をと、吹雪が大口を開けてリンゴにかじりつこうとした時です。
「うぎゃああああ……!」
突然現れた馬が、吹雪を蹴ってお空の星にしました。
『宝は、奪い取る物なのよお!!』
馬に乗っていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が、真っ黒い板に白字で書かれた手持ち看板を高く掲げて勝ち名乗りをあげました。
さっそく馬を下りて物色を開始します。
リンゴはエヴァの好物なのですが、なんとなく違う気もします。スイカもそうです。
そういえば、リアルブルーの漫画には、果物を食べたら特殊能力を得るという物が多いと聞きます。やはり、ちょっと変わった果実の方がいいのかもしれません。
この赤い果実、なんだかフワフワしていて、ちょっと他とは違います。これにしましょう。
『いただきます』
エヴァはそれにかぶりつきました。
何やら、裏通りで争う声が聞こえてきます。どうやら、子供たちが例の箱を取り合っているようです。確か、箱はエヴァが確保していたはずですが……。
「そこのお前たち」
そこへやってきた防人が声をかけると、子供たちは箱を持ったまま一斉に逃げだしました。側には、エヴァが倒れています。全身汗にまみれ、顔の一部が酷く腫れ、半ば気を失ったままピクピクと痙攣しています。いったい、何があったのでしょうか。
「襲われて箱を奪われたかの?」
デリンジャーを取り出すと、防人が逃げる子供たちを追いかけていきました。
子供たちが、身軽に屋根の上に登っていきます。
「逃がすか!」
防人も屋根に登って追いかけました。下からでは見失ってしまいます。とはいえ、ガタイの大きな防人が屋根の上を歩くのは無理があります。
ドンドン離れていく相手にむかって防人は走りながら猟銃を構えました。卓越した視覚で正確には子供を捉えると、牽制するために遠射します。マテリアルを込めた銃弾が、見事に箱にあたって、子供の手から叩き落としました。
「よし! えっ!?」
足止めはしたと、箱を拾いに行こうとした防人でしたが、その気の緩みからか屋根を踏み抜いてしまい、そのまま建物の中へと落ちていきました。
広場を探していた舞ですが、何やら箱を前にしてもめている子供たちを見つけました。どうやら、道で箱を見つけたら、いきなり銃で脅してきた怖い人がいたので、みんなでここまで逃げてきたとようです。
「どっちにしても、取り合いはダメ!」
みんなで仲良く分けましょうと子供たちを説得して、舞が箱を開けました。
見れば、みんなで分けられそうな大粒のマスカットがあります。これなら禁断の果実ではないでしょう。何よりも、舞の大好物です。
「さあ、みんなでこれを分けて食べよ。ああ、押さないで……」
子供たちに取り囲まれながらブドウを配る舞でしたが、押されて、箱から離されていきました。
「うむ、こっちの方か、ポチ」
猛が、愛犬のポチの先導で広場にやってきました。
焦って探してもしょうがないと、ポチの散歩のついでぐらいの覚悟で探していたら、それがよかったようです。みごと箱発見です。
「よくやったポチ」
猛が、ポチを撫でてやりながら褒めました。箱を確認すると、果物が詰まっています。
「詳しくは少佐に教えてもらうか」
猛は周囲の子供たちに気づかれないように箱をかかえて歩きだしました。
人目につかないようにと、裏通りを歩いていくと、誰かが倒れています。
「どうした?」
箱を脇に置いて駆けつけると、それはエヴァでした。
「これは酷い。いったい何があった……」
腕の中でピクピクしているエヴァを見て、思わず猛がつぶやきました。
「どこかに運んで治療しないと。ポチ、箱は頼んだぞ」
「わん!」
箱の版をポチに任せると、猛はエヴァをだきかかえて、医者を探しに行きました。
なんだか屋根が抜けたと騒いでいる宿屋を見つけると、いったんそこにエヴァを預けて戻ってきます。
「御苦労だった……。おい、ポチ、箱はどこだ!?」
「わふん?」
ところが、戻ってみると、すでに箱はなくなっていました。よく分からないという顔で、小首をかしげたポチが、しきりに尻尾を振ります。
「仕方ない、もう一度捜すしかないか。ポチ、匂いは覚えているな、追うぞ!」
「わん」
猛に言われて、それを理解したのかしないのか、ポチは勢いよく駆け出していきました。
「運がよかったですね。まさか、そのへんに落ちていただなんて」
箱をかかえ持った澪が、上機嫌で言いました。箱のそばには犬がいましたが、頭を撫でてやるとお手をしてすんなり箱をくれました。
「さて、一つ食べてもいいものでしょうか……」
箱を開けて、紫色の大きなブドウをつまみあげてみます。澪は名前を知りませんが、リアルブルーでは巨峰と呼ばれているブドウです。
見た目は、毒が入っているようにも、何か特別な精霊の力を宿しているようにも見えませんが。やっぱり、拾った物を食べるのはちょっと危険な気もします。
ここは食べるのは我慢して、さっさと渡してしまうのがよさそうですが……。
「あら、見つけたようね。おめでとう」
周囲に気を配って歩いている澪を見つけて、ミチーノ・インフォルが声をかけてきました。
ミチーノがみんなに情報を提供していたことを知っている澪が、拾った箱を見せました。なんだか、探したまではよかったのですが、なまじ見つかってしまったがために、厄介事をかかえ込んでしまったような気がします。探すのが楽しいのであって、見つかってしまうと、なんだか拍子抜けです。
「少佐が探していたから、あたしから渡しておこうか?」
「それは助かります」
そう言うと、澪は箱をあっさりとミチーノに手渡しました。
「ラッキー。これで、お礼は独り占めだわ」
一人になったミチーノが、なんとも欲深い笑みを浮かべます。
「おい、そこにいるのはミチーノか? まったく、よけいな情報を垂れ流してくれて……、待て、その箱!」
漁夫の利を狙っていたミチーノでしたが、なんとも間の悪いことに、少佐とばったり出会ってしまいました。反射的に、その場から全力で逃げだします。
「こら、なんで逃げる!」
当然、少佐が追っかけてきます。
「来ないでよ!」
「泥棒の泥棒してどうする。早くこっちによこせ!」
「やだよーだ」
必死に追いすがる少佐にむかって、思いっきりあっかんべーをしたミチーノでしたが、そんなことをするものですからバランスを崩して思いっきり転んでしまいました。そのまま勢いよくコロコロと転がって、ポチャンと水路に落ちます。
「何やってるんだ、バカ!」
頭をかかえつつ、少佐が水路に飛び込んでミチーノを助けました。ところが、箱がありません。
ミチーノを岸に届けると、少佐が箱を探して水の中に潜りました。
「あっちこっち探したが、やっぱり陸はダメだ。うー、少し陸酔いしたかなあ」
港で、ラグナ・アスティマーレ(ka3038)がつぶやきました。
ふと、横を流れる水路を見ていると、何かがどんぶらこっこと流れてきます。箱です。
「よっしゃあ、海でなら無敵だぜ!」
水に飛び込んで箱を回収すると、ラグナ元気になりました。
さっそく箱を開けて中を確かめてみると、色とりどりの果実が詰まっています。
「なんだか……うまそうだな」
好奇心と食欲に負けて、ラグナが箱の中からオレンジを取り出してかぶりつきました。
「こ、これは……、うまいぞおぉぉ!!」
思わず、両手で箱を高々と持ちあげて叫んでしまいます。なんだか全身をみずみずしいオレンジにつつまれたかのようで、今なら勝ち鬨を上げつつ、大将軍にもなれそうな気がします。
ところが、その時でした。
突然飛んできた大きな鳥に、掲げていた宝箱をかっさわれてしまったのです。
「ああっ、しまった……。仕方ない、報告だけはしに行くか……」
唖然とした後に、ラグナはとぼとぼと歩きだしました。
「ははははは、こいつう」
楽しそうにペットのカラスのグレイと遊んでいた榎本 歌音(ka0910)でしたが、突然そこへ大きな鳥が飛んできました。
縄張りに侵入されたグレイがその鳥を攻撃します。なんだか、屋根の上で激しい戦いが始まってしまったようです。
「ああ、グレイ……」
心配した歌音が、急いで屋根の上に上がってきました。二羽の鳥は、空中で激しくもみあっています。
「そんな奴に構うな……んがっ!?」
歌音が空を見あげて言った時でした。グレイにつつかれた鳥が、掴んでいた箱を落としたのです。
直撃でした。
「いてててて……」
へこみかけた鼻をさすりながら、歌音が立ちあがりました。運よく、歌音も箱も、屋根から落ちることはなかったようです。
開けてみると、中には果実が詰まっています。
「どうしよか、これ」
はっきり言って邪魔です。とはいえ、このまま屋根の上に放置するわけにもいかないでしょう。
歌音が悩んでいると、グレイが心配して下りてきました。そのまま、歌音の肩に止まります。
「んっ? 食べたいのか? まあ、一つぐらいはいいだろう」
そう言うと、歌音が箱の中から梨を一つ取り出しました。
自分で味見してから、グレイにも分け与えます。
思わず、ぶしゃあっと梨汁が迸りました。実にジューシーです。
歌音たちが梨を堪能していると、なぜか屋根の上を飛び伝ってサージがやってきました。
「ああっ、やっぱり、屋根の上にあったのですよ」
空から落としたのなら、屋根の上にあるに違いないと決めつけていたサージが、嬉々として歌音の所へとやってきました。
「箱を探していたハンターだね。ちょうどいいや、これ持ってってくれない?」
梨をしゃりしゃりと囓りながら、歌音が言いました。
「えっ、いいの? もっちろん♪」
元気に答えると、サージは歌音から箱を受け取って屋根の上を飛び跳ねていきました。
「さってっとぉ。届ける前に、ちょっと中を確かめちゃおうかなあ」
好奇心から、サージが箱を開けてみました。
色とりどりの果実の中に、ピンクがかった赤色をし、緑色の突起がある変わった果実があります。なんだか、いかにも炎の果実という感じです。きっと、これが禁断の果実なのでしょう。まあ、リアルブルーの人間であれば、それがドラゴンフルーツと呼ばれる物だと知る者はいたかもしれませんが、クリムゾンウェストの人間には未知の果実です。
さいてみると、中は白いゼリー状で、黒いつぶつぶがたくさんあります。
「これって、食べて大丈夫なのかな……」
半信半疑でサージが食べてみました。甘い!
「美味しい! で、これで、炎を操れるようになれるんなら、まさに私はバーニングメイドですよね!」
サージが炎を放つ真似をします。が、当然何も起こりません。
「呪文とかいるのかなあ」
何やら、中二病的な呪文をつぶやきながら、サージがいろいろと試し続けました。
あまりに夢中になっていたので、足許に置いておいた箱が滑り落ちていったことに、サージはまったく気づきませんでした。
「見つからないなあ……」
ずっと箱を探していた海堂 紅緒(ka1880)ですが、いっこうに見つかりません。
半ば諦めかけた時、頭の上に何かが落ちてきました。
ごす!
「いたたた……」
頭をさすりながら、紅緒が起きあがりました。どうやら、少し気絶していたようです。
見れば、側に箱が転がっています。
「これが依頼の品なのかな」
中に入っていた梨を手にとって、紅緒が言いました。爽やかないい香りがします。思わず、ゴクリと、紅緒が唾を飲み込みました。
気がつくと、パクリとかじりついていました。一気に、梨汁が迸ります。
「美味しー。これで、私にも何か不思議な力がつくのかなあ」
試しにバク転とかしてみますが、急に以前より身軽になったということはない感じです。
もう少し試してみようと、紅緒がとんぼ返りを続けていきました。当然、箱のことは忘れて離れていきます。
「きっと、落とした人は困っていると思うの」
下をむいて箱を探しながら、ファリス(ka2853)がやってきました。
道の真ん中に、なぜか箱が置いてあります。
「見つけたなの?」
偶然とは言え、幸運です。さっそく箱をかかえ持つと、ファリスは歩き始めました。でも、どこへ届ければいいんでしたっけ?
近くを見回すと、何やらとんぼ返りをしている人がいます。
ファリスが箱をかかえているのを見て、紅緒が慌てて戻ってきました。
「あなたも箱を捜していた人なの? 姉様も、ファリスと一緒に届けるの」
「そうだね。一緒に資料館に届けよう」
紅緒のおかげで、どこに届ければいいか知るファリスでした。
のんびりと町並みを楽しみつつ、魔術学院の方を目指します。
途中で、箱からもれてくる果実の香りに、ファリスがちょっとクンクンと鼻を鳴らします。美味しそうです。
「うん、いい香りだよね。食べたくなっちゃう」
紅緒が同意しました。
「これは落とし主の物なの。だから食べたらダメなの」
グッと我慢して、ファリスが言いました。それには、紅緒は苦笑いしてごまかすしかありません。
資料館を目指していると、途中で運よく少佐とラグナと防人に出会うことができました。一同で揃って、禁断の果実を届けます。
「ありがとう。禁断の果実都やらは無事ね。ちょうどいい、みんなで試食してみない?」
箱を受け取ったセリオ・テカリオが少佐たちに言いました。ちょっとした人体実験のつもりのようです。
セリオが、ピーマンのような真っ赤な果実を人数分に切り分けます。
「ではいただきましょう」
禁断の果実を、一同が同時に口に入れました。
「ぎゃあぁぁっ、辛い! 痛い!!」
とたんに、全員が悲鳴をあげてばったりと倒れます。まさに、辛さで全身が炎につつまれて焼かれたかのようです。その唇は、エヴァのように腫れてタラコ唇になっていました。
そう、禁断の果実とはジョロキアだったのです。
『あれ、みなさんどうしたんですか。みなさーん』
みんな床に倒れてピクピクしている側で、ディアーリオ君だけが不思議そうに文字で叫んでいました。
君島 防人(ka0181)が、アルマート・トレナーレ少佐に確認しました。
「よく分からん」
きっぱりと、少佐が言いました。
「せめて、箱の大きさとか、どんな果実なのか分からないのか?」
東郷 猛(ka0493)がちょっと呆れながら訊ねました。リアルブルー出身の猛でも、そんな果実は聞いたことがありません。
「ええと……」
少佐が曖昧に説明します。実は、少佐も見たことがないのでよく分かりません。
「なんだかよく分からないけれど、凄そうだね。妹が聞いたら喜びそうだな」
天竜寺 舞(ka0377)が、禁断の果実という名前だけで、ちょっと身を引き締めました。
「ちょっと眉唾物ですが……」
またリアルブルーからの話が変なふうに誤解されて伝わったのではないかと、上泉 澪(ka0518)が懐疑的な目を少佐にむけます。
「それで、見つけたら食べてしまってもいいんですよね」
好奇心に目を輝かせながら、藍那 翠龍(ka1848)が聞きました。
「数はあるらしいから、最低一つは残せばな。いやいや、盗難品なんだから、ちゃんと届けろよ!」
肯定はしたものの、全部食べてしまったのでは意味がないと、少佐がみんなに釘を刺しました。
「わーい、やっぱりいいんですね」
無視して喜ぶ翠龍です。
「ふふふ、でも、私がいただいちゃうんですよ」
プルミエ・サージ(ka2596)が、お宝は自分の物だとばかりに、ほくそ笑みました。
「とにかく、他にも探しているハンターはたくさんいるから、頑張って見つけだしてくれ。いいな!」
少佐の言葉に、ハンターたちは街へと散っていきました。
さて、路地裏で箱を探していたのはアーシェ・ネイラス(ka1066)です。
小柄な体格ながら、ドワーフらしい豪快さで植木鉢やら荷車などを持ちあげて箱を探しています。
「うーん、なかなか見つからないなあ。どっこいしょっと」
道端にあった適当な箱に腰をおろして、アーシェが一休みしました。
「箱?」
これじゃないかと、さっそくアーシェが箱を開けてみました。留め金を外すと、簡単に蓋が開きました。
中に詰まっていたのは、色とりどりの果実たちです。
「こっちの果実なら安全そうだけど……」
どれを食べようかと悩むアーシェでしたが、運のいいことに果物屋の屋台を見つけました。
これなら、そこで売られている物と比べることができます。
「これ、似てるけど、どうなんだろ?」
箱の中から小玉スイカを取り出して、アーシェが屋台のスイカと見比べてみました。よく似てますが、屋台の物の方が細長くて大きいです。
「お客さん、珍しい物持ってるねえ」
当然のように、果物屋の親父が、小玉スイカに興味を示しました。
「そんな凄いもんなら、さっそく切ってみようぜ」
新しい果物だと聞いた親父が、アーシェを手招いて、両方のスイカを切ってみました。
「黄色い!?」
二人が目を丸くします。小玉スイカは中が黄色だったのです。
「すげー、食べてみよ。……うわっ、甘ー!」
赤いスイカと黄色いスイカを食べ比べて、アーシェが声をあげました。
「きっと、すでに飲食店に搬入されているかもですよね」
勝手にそう思い込んだ翠龍は、あちこちの店の厨房に勝手に入り込んでは、鍋の中身や、パントリーの棚を調べていました。ついでに、それらしい食材をつまみ食いして確かめます。さらには、ウェイトレスのスカートをめくって中を確かめる始末です。
「おかしい、怪盗の盗んだ物を探しているだけなのに、なぜ、僕が泥棒にされているんだろう?」
当然、泥棒として店の者たちに追いかけられています。
逃げ回っていると、探している箱らしき物が道端にあるではないですか。
果物屋の屋台の前にあった箱を拾って逃げます。
「こら、待てー」
アーシェやら店の者たちが、追いかけてきます。
「こうなったら、禁断の果実の力で……」
箱の中にあったリンゴを手に取ると、翠龍がシャリッと囓りました。
「おおお、この力は……」
覚醒状態となった翠龍が、白くなった髪を靡かせてまるで蛇のような走りで追っ手たちを振り切りました。けれども、覚醒によって鱗に覆われた腕から、するりと箱が滑り落ちたことに、翠龍は気づきませんでした。
「なんだか騒がしい……怪しいな。おおっ?」
裏路地を探したボルディア・コンフラムス(ka0796)が、運よく翠龍の落とした箱を発見しました。
「どれどれ……」
さっそく、ボルディアが中からリンゴを一つ取って囓りました。
「おお、うまい。身体に力が漲ってくるようだ。熱いぜ!」
思わず、ボルディアが走りだしました。
何か特別な効果があったようにですが、ただのプラシーボ効果のようにも見えます。
「素晴らしいぞ、この力……!」
調子に乗って走っていたボルディアのおけつに何かが噛みつきました。
ボルディアが振り返ると、柴犬とゴールデンレトリバーがお尻に噛みついています。
「なんなんだ、この野犬は……」
犬を振り払おうとした時でした。不意をつかれたボルディアが、バットで後頭部を殴られて気絶しました。
「やったであります。念願の禁断の果実ゲットであります!」
隠密で物陰に隠れて待ち伏せしていた敷島 吹雪(ka1358)が、高らかに勝ち誇りました。
そそくさと箱を奪うと、吹雪はペットたちと共にその場から逃げだしていきました。
「禁断の果実と言うからには、リアルブルー最大のベストセラーに載っているあれに違いないであります」
吹雪が箱の中からリンゴを取り出しました。皆、考えることは一緒のようです。
さっそく味見をと、吹雪が大口を開けてリンゴにかじりつこうとした時です。
「うぎゃああああ……!」
突然現れた馬が、吹雪を蹴ってお空の星にしました。
『宝は、奪い取る物なのよお!!』
馬に乗っていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が、真っ黒い板に白字で書かれた手持ち看板を高く掲げて勝ち名乗りをあげました。
さっそく馬を下りて物色を開始します。
リンゴはエヴァの好物なのですが、なんとなく違う気もします。スイカもそうです。
そういえば、リアルブルーの漫画には、果物を食べたら特殊能力を得るという物が多いと聞きます。やはり、ちょっと変わった果実の方がいいのかもしれません。
この赤い果実、なんだかフワフワしていて、ちょっと他とは違います。これにしましょう。
『いただきます』
エヴァはそれにかぶりつきました。
何やら、裏通りで争う声が聞こえてきます。どうやら、子供たちが例の箱を取り合っているようです。確か、箱はエヴァが確保していたはずですが……。
「そこのお前たち」
そこへやってきた防人が声をかけると、子供たちは箱を持ったまま一斉に逃げだしました。側には、エヴァが倒れています。全身汗にまみれ、顔の一部が酷く腫れ、半ば気を失ったままピクピクと痙攣しています。いったい、何があったのでしょうか。
「襲われて箱を奪われたかの?」
デリンジャーを取り出すと、防人が逃げる子供たちを追いかけていきました。
子供たちが、身軽に屋根の上に登っていきます。
「逃がすか!」
防人も屋根に登って追いかけました。下からでは見失ってしまいます。とはいえ、ガタイの大きな防人が屋根の上を歩くのは無理があります。
ドンドン離れていく相手にむかって防人は走りながら猟銃を構えました。卓越した視覚で正確には子供を捉えると、牽制するために遠射します。マテリアルを込めた銃弾が、見事に箱にあたって、子供の手から叩き落としました。
「よし! えっ!?」
足止めはしたと、箱を拾いに行こうとした防人でしたが、その気の緩みからか屋根を踏み抜いてしまい、そのまま建物の中へと落ちていきました。
広場を探していた舞ですが、何やら箱を前にしてもめている子供たちを見つけました。どうやら、道で箱を見つけたら、いきなり銃で脅してきた怖い人がいたので、みんなでここまで逃げてきたとようです。
「どっちにしても、取り合いはダメ!」
みんなで仲良く分けましょうと子供たちを説得して、舞が箱を開けました。
見れば、みんなで分けられそうな大粒のマスカットがあります。これなら禁断の果実ではないでしょう。何よりも、舞の大好物です。
「さあ、みんなでこれを分けて食べよ。ああ、押さないで……」
子供たちに取り囲まれながらブドウを配る舞でしたが、押されて、箱から離されていきました。
「うむ、こっちの方か、ポチ」
猛が、愛犬のポチの先導で広場にやってきました。
焦って探してもしょうがないと、ポチの散歩のついでぐらいの覚悟で探していたら、それがよかったようです。みごと箱発見です。
「よくやったポチ」
猛が、ポチを撫でてやりながら褒めました。箱を確認すると、果物が詰まっています。
「詳しくは少佐に教えてもらうか」
猛は周囲の子供たちに気づかれないように箱をかかえて歩きだしました。
人目につかないようにと、裏通りを歩いていくと、誰かが倒れています。
「どうした?」
箱を脇に置いて駆けつけると、それはエヴァでした。
「これは酷い。いったい何があった……」
腕の中でピクピクしているエヴァを見て、思わず猛がつぶやきました。
「どこかに運んで治療しないと。ポチ、箱は頼んだぞ」
「わん!」
箱の版をポチに任せると、猛はエヴァをだきかかえて、医者を探しに行きました。
なんだか屋根が抜けたと騒いでいる宿屋を見つけると、いったんそこにエヴァを預けて戻ってきます。
「御苦労だった……。おい、ポチ、箱はどこだ!?」
「わふん?」
ところが、戻ってみると、すでに箱はなくなっていました。よく分からないという顔で、小首をかしげたポチが、しきりに尻尾を振ります。
「仕方ない、もう一度捜すしかないか。ポチ、匂いは覚えているな、追うぞ!」
「わん」
猛に言われて、それを理解したのかしないのか、ポチは勢いよく駆け出していきました。
「運がよかったですね。まさか、そのへんに落ちていただなんて」
箱をかかえ持った澪が、上機嫌で言いました。箱のそばには犬がいましたが、頭を撫でてやるとお手をしてすんなり箱をくれました。
「さて、一つ食べてもいいものでしょうか……」
箱を開けて、紫色の大きなブドウをつまみあげてみます。澪は名前を知りませんが、リアルブルーでは巨峰と呼ばれているブドウです。
見た目は、毒が入っているようにも、何か特別な精霊の力を宿しているようにも見えませんが。やっぱり、拾った物を食べるのはちょっと危険な気もします。
ここは食べるのは我慢して、さっさと渡してしまうのがよさそうですが……。
「あら、見つけたようね。おめでとう」
周囲に気を配って歩いている澪を見つけて、ミチーノ・インフォルが声をかけてきました。
ミチーノがみんなに情報を提供していたことを知っている澪が、拾った箱を見せました。なんだか、探したまではよかったのですが、なまじ見つかってしまったがために、厄介事をかかえ込んでしまったような気がします。探すのが楽しいのであって、見つかってしまうと、なんだか拍子抜けです。
「少佐が探していたから、あたしから渡しておこうか?」
「それは助かります」
そう言うと、澪は箱をあっさりとミチーノに手渡しました。
「ラッキー。これで、お礼は独り占めだわ」
一人になったミチーノが、なんとも欲深い笑みを浮かべます。
「おい、そこにいるのはミチーノか? まったく、よけいな情報を垂れ流してくれて……、待て、その箱!」
漁夫の利を狙っていたミチーノでしたが、なんとも間の悪いことに、少佐とばったり出会ってしまいました。反射的に、その場から全力で逃げだします。
「こら、なんで逃げる!」
当然、少佐が追っかけてきます。
「来ないでよ!」
「泥棒の泥棒してどうする。早くこっちによこせ!」
「やだよーだ」
必死に追いすがる少佐にむかって、思いっきりあっかんべーをしたミチーノでしたが、そんなことをするものですからバランスを崩して思いっきり転んでしまいました。そのまま勢いよくコロコロと転がって、ポチャンと水路に落ちます。
「何やってるんだ、バカ!」
頭をかかえつつ、少佐が水路に飛び込んでミチーノを助けました。ところが、箱がありません。
ミチーノを岸に届けると、少佐が箱を探して水の中に潜りました。
「あっちこっち探したが、やっぱり陸はダメだ。うー、少し陸酔いしたかなあ」
港で、ラグナ・アスティマーレ(ka3038)がつぶやきました。
ふと、横を流れる水路を見ていると、何かがどんぶらこっこと流れてきます。箱です。
「よっしゃあ、海でなら無敵だぜ!」
水に飛び込んで箱を回収すると、ラグナ元気になりました。
さっそく箱を開けて中を確かめてみると、色とりどりの果実が詰まっています。
「なんだか……うまそうだな」
好奇心と食欲に負けて、ラグナが箱の中からオレンジを取り出してかぶりつきました。
「こ、これは……、うまいぞおぉぉ!!」
思わず、両手で箱を高々と持ちあげて叫んでしまいます。なんだか全身をみずみずしいオレンジにつつまれたかのようで、今なら勝ち鬨を上げつつ、大将軍にもなれそうな気がします。
ところが、その時でした。
突然飛んできた大きな鳥に、掲げていた宝箱をかっさわれてしまったのです。
「ああっ、しまった……。仕方ない、報告だけはしに行くか……」
唖然とした後に、ラグナはとぼとぼと歩きだしました。
「ははははは、こいつう」
楽しそうにペットのカラスのグレイと遊んでいた榎本 歌音(ka0910)でしたが、突然そこへ大きな鳥が飛んできました。
縄張りに侵入されたグレイがその鳥を攻撃します。なんだか、屋根の上で激しい戦いが始まってしまったようです。
「ああ、グレイ……」
心配した歌音が、急いで屋根の上に上がってきました。二羽の鳥は、空中で激しくもみあっています。
「そんな奴に構うな……んがっ!?」
歌音が空を見あげて言った時でした。グレイにつつかれた鳥が、掴んでいた箱を落としたのです。
直撃でした。
「いてててて……」
へこみかけた鼻をさすりながら、歌音が立ちあがりました。運よく、歌音も箱も、屋根から落ちることはなかったようです。
開けてみると、中には果実が詰まっています。
「どうしよか、これ」
はっきり言って邪魔です。とはいえ、このまま屋根の上に放置するわけにもいかないでしょう。
歌音が悩んでいると、グレイが心配して下りてきました。そのまま、歌音の肩に止まります。
「んっ? 食べたいのか? まあ、一つぐらいはいいだろう」
そう言うと、歌音が箱の中から梨を一つ取り出しました。
自分で味見してから、グレイにも分け与えます。
思わず、ぶしゃあっと梨汁が迸りました。実にジューシーです。
歌音たちが梨を堪能していると、なぜか屋根の上を飛び伝ってサージがやってきました。
「ああっ、やっぱり、屋根の上にあったのですよ」
空から落としたのなら、屋根の上にあるに違いないと決めつけていたサージが、嬉々として歌音の所へとやってきました。
「箱を探していたハンターだね。ちょうどいいや、これ持ってってくれない?」
梨をしゃりしゃりと囓りながら、歌音が言いました。
「えっ、いいの? もっちろん♪」
元気に答えると、サージは歌音から箱を受け取って屋根の上を飛び跳ねていきました。
「さってっとぉ。届ける前に、ちょっと中を確かめちゃおうかなあ」
好奇心から、サージが箱を開けてみました。
色とりどりの果実の中に、ピンクがかった赤色をし、緑色の突起がある変わった果実があります。なんだか、いかにも炎の果実という感じです。きっと、これが禁断の果実なのでしょう。まあ、リアルブルーの人間であれば、それがドラゴンフルーツと呼ばれる物だと知る者はいたかもしれませんが、クリムゾンウェストの人間には未知の果実です。
さいてみると、中は白いゼリー状で、黒いつぶつぶがたくさんあります。
「これって、食べて大丈夫なのかな……」
半信半疑でサージが食べてみました。甘い!
「美味しい! で、これで、炎を操れるようになれるんなら、まさに私はバーニングメイドですよね!」
サージが炎を放つ真似をします。が、当然何も起こりません。
「呪文とかいるのかなあ」
何やら、中二病的な呪文をつぶやきながら、サージがいろいろと試し続けました。
あまりに夢中になっていたので、足許に置いておいた箱が滑り落ちていったことに、サージはまったく気づきませんでした。
「見つからないなあ……」
ずっと箱を探していた海堂 紅緒(ka1880)ですが、いっこうに見つかりません。
半ば諦めかけた時、頭の上に何かが落ちてきました。
ごす!
「いたたた……」
頭をさすりながら、紅緒が起きあがりました。どうやら、少し気絶していたようです。
見れば、側に箱が転がっています。
「これが依頼の品なのかな」
中に入っていた梨を手にとって、紅緒が言いました。爽やかないい香りがします。思わず、ゴクリと、紅緒が唾を飲み込みました。
気がつくと、パクリとかじりついていました。一気に、梨汁が迸ります。
「美味しー。これで、私にも何か不思議な力がつくのかなあ」
試しにバク転とかしてみますが、急に以前より身軽になったということはない感じです。
もう少し試してみようと、紅緒がとんぼ返りを続けていきました。当然、箱のことは忘れて離れていきます。
「きっと、落とした人は困っていると思うの」
下をむいて箱を探しながら、ファリス(ka2853)がやってきました。
道の真ん中に、なぜか箱が置いてあります。
「見つけたなの?」
偶然とは言え、幸運です。さっそく箱をかかえ持つと、ファリスは歩き始めました。でも、どこへ届ければいいんでしたっけ?
近くを見回すと、何やらとんぼ返りをしている人がいます。
ファリスが箱をかかえているのを見て、紅緒が慌てて戻ってきました。
「あなたも箱を捜していた人なの? 姉様も、ファリスと一緒に届けるの」
「そうだね。一緒に資料館に届けよう」
紅緒のおかげで、どこに届ければいいか知るファリスでした。
のんびりと町並みを楽しみつつ、魔術学院の方を目指します。
途中で、箱からもれてくる果実の香りに、ファリスがちょっとクンクンと鼻を鳴らします。美味しそうです。
「うん、いい香りだよね。食べたくなっちゃう」
紅緒が同意しました。
「これは落とし主の物なの。だから食べたらダメなの」
グッと我慢して、ファリスが言いました。それには、紅緒は苦笑いしてごまかすしかありません。
資料館を目指していると、途中で運よく少佐とラグナと防人に出会うことができました。一同で揃って、禁断の果実を届けます。
「ありがとう。禁断の果実都やらは無事ね。ちょうどいい、みんなで試食してみない?」
箱を受け取ったセリオ・テカリオが少佐たちに言いました。ちょっとした人体実験のつもりのようです。
セリオが、ピーマンのような真っ赤な果実を人数分に切り分けます。
「ではいただきましょう」
禁断の果実を、一同が同時に口に入れました。
「ぎゃあぁぁっ、辛い! 痛い!!」
とたんに、全員が悲鳴をあげてばったりと倒れます。まさに、辛さで全身が炎につつまれて焼かれたかのようです。その唇は、エヴァのように腫れてタラコ唇になっていました。
そう、禁断の果実とはジョロキアだったのです。
『あれ、みなさんどうしたんですか。みなさーん』
みんな床に倒れてピクピクしている側で、ディアーリオ君だけが不思議そうに文字で叫んでいました。
依頼結果
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【相談】謎の果実を追って 君島 防人(ka0181) 人間(リアルブルー)|25才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/09/08 20:34:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/09 08:33:00 |