ゲスト
(ka0000)
【闘祭】Elicit Fox&hound
マスター:風亜智疾

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/27 12:00
- 完成日
- 2016/07/11 23:47
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
■
「またか……」
「またなんだよ、悪いね」
全く悪いといった表情ではない顔馴染みの受付担当の前で、ディーノ・オルトリーニ(kz0148)は頭をがしがしと掻いた。
「前回の受けが良かったんだよ。まぁ、予想以上に本気すぎて、危うく救護テントが手術室状態だったけどな」
「加減するなという方が無理な話だったな……」
模擬戦にもかかわらず、まるで本戦のような熱い戦いを繰り広げたハンター達を思い出し、ディーノは溜息一つ。
自分もうっかり楽しんでしまったのが、またなんとも言えない後味の悪さというか居心地の悪さというか。
苦虫を噛み潰したような表情のディーノへとにんまり笑いかけ、受付担当の男はその肩へ手を置いた。
「そんなわけでな。本戦が始まったわけだが、思いのほか模擬戦みたいなやつも需要がありそうだと踏んだんだ」
「……次は何をさせる気だ……」
唸るような低い声と、ぎろりと鋭い視線を向ける元「灰色狼」を物ともせず、男は明るい声で告げるのだった。
「団体戦だ!!」
■
つまり。こういう事らしい。
今回の闘祭は1対1で行うものだった。
しかしハンターは通常、単独で戦闘を行う事が少ないのだ。依頼を受け戦闘に出ても、そこには味方が存在する。つまり、集団で戦う事が多いと言えるだろう。
ならば、本戦では出来ないその「ハンターらしい戦い」というものをやってみてほしい、という事だ。
「参加人数を半分に分けて、同じ人数にするだろう? で、後は其々が相談して集団戦をするってわけだ」
お前の得意な戦法だよな。そう言われてディーノは押し黙る。
前回の1対1の模擬戦でも彼は戦闘を行ったが、やはり自分には集団戦が合っていると実感する結果となった。
「人数が参加者だけで半分になればよし。そうでなけりゃディーノ、お前も入って一緒に戦えばいい」
「……入ったとしても、俺は添え物以上になるつもりはないぞ」
「それでもいいさ。だから、頼んだぞ!」
これは完全に断れない。
腹を括るしかないと、ディーノはこの日一番の深い息を吐き出した。
それすら、既視感を思わせるものであったのだが。
――もう、楽しむ以外に方法はないのだろう。
「またか……」
「またなんだよ、悪いね」
全く悪いといった表情ではない顔馴染みの受付担当の前で、ディーノ・オルトリーニ(kz0148)は頭をがしがしと掻いた。
「前回の受けが良かったんだよ。まぁ、予想以上に本気すぎて、危うく救護テントが手術室状態だったけどな」
「加減するなという方が無理な話だったな……」
模擬戦にもかかわらず、まるで本戦のような熱い戦いを繰り広げたハンター達を思い出し、ディーノは溜息一つ。
自分もうっかり楽しんでしまったのが、またなんとも言えない後味の悪さというか居心地の悪さというか。
苦虫を噛み潰したような表情のディーノへとにんまり笑いかけ、受付担当の男はその肩へ手を置いた。
「そんなわけでな。本戦が始まったわけだが、思いのほか模擬戦みたいなやつも需要がありそうだと踏んだんだ」
「……次は何をさせる気だ……」
唸るような低い声と、ぎろりと鋭い視線を向ける元「灰色狼」を物ともせず、男は明るい声で告げるのだった。
「団体戦だ!!」
■
つまり。こういう事らしい。
今回の闘祭は1対1で行うものだった。
しかしハンターは通常、単独で戦闘を行う事が少ないのだ。依頼を受け戦闘に出ても、そこには味方が存在する。つまり、集団で戦う事が多いと言えるだろう。
ならば、本戦では出来ないその「ハンターらしい戦い」というものをやってみてほしい、という事だ。
「参加人数を半分に分けて、同じ人数にするだろう? で、後は其々が相談して集団戦をするってわけだ」
お前の得意な戦法だよな。そう言われてディーノは押し黙る。
前回の1対1の模擬戦でも彼は戦闘を行ったが、やはり自分には集団戦が合っていると実感する結果となった。
「人数が参加者だけで半分になればよし。そうでなけりゃディーノ、お前も入って一緒に戦えばいい」
「……入ったとしても、俺は添え物以上になるつもりはないぞ」
「それでもいいさ。だから、頼んだぞ!」
これは完全に断れない。
腹を括るしかないと、ディーノはこの日一番の深い息を吐き出した。
それすら、既視感を思わせるものであったのだが。
――もう、楽しむ以外に方法はないのだろう。
リプレイ本文
■開戦前の狼煙代わりに
「いいかそこの激クソちびとクソガキんちょてめぇらだ叩きのめしてやるから覚悟しとけよクソッタレ!」
「どうやら此処が馬鹿オブビッグスターの墓場になるみたいだな……」
「ふふふ……王国馬鹿金髪野郎の血は、どんな香りがするのかしら……?」
「おーおー『上等だ』このクソちび共!!」
「今すぐ引導くれてやるよウルトラ大馬鹿ーニバルマッチョ野郎」
「人の事をちびちびいう貴方の心の方が小さいんじゃないかしら馬鹿様」
正にノンブレス。一気に言い切って悪い顔をするジャック・J・グリーヴ(ka1305)に向かって青筋を立てつつ応酬するのは、普段クールなウィンス・デイランダール(ka0039)と、可愛らしい姿からは想像もつかない黒い笑顔を浮かべるブラウ(ka4809)だ。
「試合前から元気なこって!」
「ふむ。今からあんなにはしゃいで大丈夫なのかね」
火花が散った3人を横目に豪華な笑い声をあげる万歳丸(ka5665)と、苦笑しつつ見守るHolmes(ka3813)。
「万歳丸! 今回の女子力勝負、負けないでござるよっ!」
「チャンピオンの血が疼くのです……デュエルスタンバイなんだからっ!」
「でゅえ……?」
ぐっと拳を胸の前で握って力説するミィリア(ka2689)のその後ろで、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は楽しそうに笑う。
参加メンバーを見渡して、遠い目をするのはディーノ・オルトリーニ。今回の引率兼依頼人兼添え物参加者だ。
「……いいかお前ら。これはあくまでも模擬の」
「表出ろやこの筋肉野郎」
「チービチービ」
「本当対戦が楽しみね金髪馬鹿野郎」
「……聞いてくれ」
どう考えても模擬にならない模擬戦が、今、始まる。
■開始直前
「やっぱりネックはルンルンの服装か」
「純情か」
「ふっふっふ。ルンルン忍法はこのスタイルが伝統なのですっ」
「遠距離は面倒だけど、やってやります勝つ日まで! いっくぞーでござる!」
Aチームはジャック、ディーノ、ルンルン、ミィリアの組み合わせだ。
闘狩人3名に符術師の布陣は全体的に行動阻害からの火力勝負に見える。行動阻害の隙をつける事と引き換えに、一度抜けられてしまった際どう凌ぎ切るかがポイントになるだろう。
会話は気が抜けるほど砕けたものだが、その実力は折り紙付きともいえるメンバーばかりである。
他方、Bチーム。
「あの金髪腐れ馬鹿野郎様ゼッテー泣かすここがテメェの墓場だ懺悔は済んだかクソ野郎」
「あぁ楽しみ……実力不足だろうと、漂う香りに惹かれる強さなら負けないわ。早く真っ赤な景色が見たいわね。主に金髪馬鹿様とか金髪馬鹿様とか筋肉金髪馬鹿様とかの」
「ほーう! そういう布陣で来たか!」
「気合十分、といった感じかな。フォローはボクが請け負うから、存分にやりたまえよ」
こちらはウィンス、ブラウ、万歳丸、Holmes。
闘狩人に舞刀士、霊闘士に格闘士。こちらは純粋に短期決戦型といえるだろう。火力で押すことが可能な組み合わせだが、比較的中距離からの行動阻害をどう躱し切るかが勝利への鍵になるだろう。
やはり会話の何処かがおかしいのは、集まった段階から繰り広げられた煽り煽られのせいか、それともこれから始まる対人戦への昂ぶりのせいか。
互いに位置につき、ゆっくりと時を待つ。
審判を担当するソサエティ担当者を視界の端に捉え。そして。
――模擬団体戦、はじめ!!
各々、武器は振り下ろされた。
■鬼さんこちら、手のなる方へ!
まず真っ先に動き出したのは万歳丸だ。
「っし! こういうのを鬼ごっこ、っていうんだっけな!」
間合いを詰める万歳丸の向かう先は、扇符を手にしたルンルン。けれど、彼女は慌てない。不敵な笑みを浮かべつつ、手にしたカードを掲げる。
「そう来ると思いましたっ」
人気者は辛いですね、なんて。可愛らしく呟いて。
結晶模様の浮かぶ扇符が美しく光った。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法ニンジャ結界陣! カードを場に伏せてターンエンドです」
「うォっと!」
掛け声とともに展開された地縛符の範囲に足を突っ込みかけた万歳丸は、咄嗟に進路を逸らす。
そこを追撃しに来たのは両刃剣を携えたディーノだ。
体勢を崩した万歳丸へと滑り込むように駆け込み、一気に剣を振り抜こうとする。が、
「Get down,Guy」
その動きがぴたりと止まる。
「……ふぅ。君が動き出すのも折り込み済みだ。悪いが、少しの間大人しくしていてくれると助かるな」
苦々し気な視線を送られたHolmesがディーノへと放ったのは、かつてとある名探偵が使っていたとされるリアルブルーの島国の武術だ。
不意を突かれたディーノは、彼女の純粋な敵意をぶつけられた事で動きを止めてしまった。
自分を守るべく動いていた人間が立ち止まってしまった事に僅か気をそらしたルンルンは、逆サイドから迫る影に気付かなかった。
「阻害は面倒だが……逆にそれを躱し切れば、今度は自分が無防備になるもんだ」
視線の先で厭味ったらしく笑う男を睨みつけつつ、凍結音を轟かせながら最短距離で突き出したウィンスの凍えた氷槍がルンルンとその先。直線状に並んだジャックを捉えた、その瞬間に響く発砲音。
割り込むように立ち位置を換えたジャックがシールドで槍を受けとめた後、彼のオーダーメイド銃でカウンターの弾丸を撃ち込んだ。
「よーおクソガキ。俺様がいながら余所見たぁいい度胸だなァ?」
「……悪いな見えなかった筋肉バカ様潰す」
にたり笑うジャックへと、米神から流れ落ちる血を拭う事もなく青筋を立てたウィンスが吐き棄てる。
しかし一方のジャックも、盾を持った手がひどく冷たく凍える様に痺れているのを隠している状態だ。
一進一退の両者、まずは挨拶代わりといったところだろうか。
大きく息を吸い込んだジャックが、その視界に捉えられない人物を脳裏に浮かべ笑った。
「そういやぁさっきからチビの姿が見えねぇなァ」
開始から姿を見せていないのは、血の香りを好む少女。その相手を煽る様に――否。眼前の少年も同じく煽る様に話し続ける。
「なァ、Bチームはちびにガキとおままごとでもやってんのか!? 笑っちまうぜ! ハハッ!」
見事な挑発はさて、届くのか。
(誰がちびよ……! 頭の中までツルツル金ぴかな馬鹿に言われたくないわね!)
口から出そうな言葉をぐっと堪え、ブラウは障害物に身を潜めていた。
援護に回ったディーノの邪魔はHolmesが成功させた。万歳丸とウィンスによるルンルンの撃破は、ジャックによって邪魔をされたがそれは想定内といえる。
地形を把握し終えたブラウは障害物から飛び出ると、最短距離で駆け込む。その先には、刀を手に身構えるミィリアの姿があった。
射程一歩手前から一気に加速。振りかぶった刀を一気に引き下げ突きを繰り出す。
鈍く響く金属音が、土埃を上げる広場を駆け抜ける。
「初めまして。同じ刀使いとして、どうぞお手柔らかにお願いするわね」
「こちらこそよろしく……ねっ!」
笑いつつミィリアは桜吹雪の幻影ごとブラウと彼女の刀を薙ぎ払った。
見た目の可憐さとは打って変わって思いその一撃に、思わず刀を取り落としそうになってブラウはぐっと握る拳に力を込めた。
「同じドワーフなのね。ふふっ、仲良くなれそうね」
「ミィリアも仲良くなれたら嬉しいな! けど今は……まずは勝たせてもらうでござる!」
僅かに後退しブラウの射程から再び離れたミィリアは、元気よく刀を構えた。
「強い人の血の匂いって凄く芳香で……それでもって強い匂いを発するの。それがどれだけ最高か、貴女には分かるかしら?」
「うーん、そこはちょっと分かんないごめんねっ」
その瞬間、勝負に出たのはブラウだ。
近くにある土の山を上段から振りかぶった刀で勢いよく叩き割る。
舞い上がる土埃で視界が曇るそれに紛れ、離された距離の分スキルを使って一気に接近する。
研ぎ澄まされた刺突が、ミィリアへと迫る。
「女子力勝負なら負けないぞーでござる!」
近接では動きづらくなるのが自分なのだと、ミィリアはしっかりと自覚していた。だからこそ、対策は怠らない。
刀で滑らせるようにして躱し切った後、閃かせたのは身に着けていた簪だ。
刺突の際の踏込みで重心を置いていた足へと足払いを仕掛けられ、ブラウの体勢が崩れる。
「ここ、だっ!!」
ミィリアはそこに一気に体を滑り込ませ、簪をブラウの横腹へと突き立てた。
「――っ!」
咄嗟の回避は崩れた体勢では間に合わない。深く突き刺さる簪から逃れる様に崩れ落ちるブラウへ、ミィリアが更に追撃を行おうとする。その側面から。
鋭く風を切り裂く音と共に力の込められた連撃が、ミィリアの身を切り裂いた。
「――っ!!」
肩口と腹部を深く裂かれたミィリアが視界に捉えたのは、大きな耳と尾を備えたHolmes。
「横恋慕失礼するよ。なに、恋愛物の群像劇にはよくあることさ」
芝居がかったその物言いに、ミィリアは冷や汗を落としつつ笑う。
「てっきり、Holmesはあっち担当だと、思ってたよ……でも」
腹部を押さえて崩れ落ちたブラウと、眼前に立つHolmesを交互に見た後、ミィリアは何処か楽し気に口を開いた。
「残念でした、でござる。これは……団体戦、だよ」
勢いよく振り返ったHolmesの視線の先、彼女の射程外で。
鋭い冷気を漂わせる槍と鋭い拳が、符術師へと迫っていた。
■
痺れる手を激しく叱咤して、ジャックは銃を構える。
スキルを乗せた鋭いウィンスの一撃は、まだ彼の手を万全にはさせてくれない。
(クソっ!)
離れた場所で倒れた自チームのミィリアを横目で捉えつつ、内心舌打ちを零す。
口は悪い彼だが、仲間が自分より先に倒れるのを見る事は堪えるのだ。可能ならば助けに入りたかったが、それをさせてはもらえないらしい。
「ガキの癖に、やってくれるじゃねェか……!!」
不可視の結界を生み出し続けるルンルンに合わせ、まるで獅子が吠える様な叫びをあげる。
正しく百獣の王が弱者を恐れさせるような咆哮が轟いた。
そんなジャックの咆哮を避けつつ、ルンルンへと迫るウィンスと万歳丸。
土嚢を巧みに使いつつ必死に避け、雷で反撃しつつルンルンは再び不可視の結界を展開する。
「他にもたくさん仕掛けてあるもの。真っ直ぐ来たら大変なんだからっ!」
半分はブラフだ。直線に飛び込まれる事を避けるその言葉だが、先刻から彼女に対峙している二人にはあまり効果が見えない。
ランダムとはいえ、その攻撃の有効範囲は把握出来る。それはつまり、その範囲に無計画に入らなければ問題はないという事だ。
歪虚との戦闘とは違い、相手は人間。同じハンター。
スキルの対策をされるのも当然と言えるだろう。
悔しさを堪え、その頬や腿に槍で裂かれた傷を負いながらも必死に動き回る彼女だが。
右からは万歳丸の拳、左からはウィンスの槍と挟まれてしまった状態では満足な回避も出来ず。
「鬼ごっこは仕舞いにしようかァ!」
黄金に輝く万歳丸の拳が、蒼い燐光を漂わせる麒麟を生み出し。
勢いよく突進してくるその蒼い光が通り過ぎた、その後に倒れ伏してしまうのだった。
■途中経過
ブラウはミィリアとの戦闘で腹部を激しく貫かれダウン。
そのミィリアも、Holmesに不意を突かれダウン。
万歳丸とウィンスによって挟撃されたルンルンも、力強い万歳丸の攻撃にダウン。
現段階で残っているのは、Aチームがジャックとディーノ。BチームがウィンスとHolmes、万歳丸。
数では2対3の構図だが、まだ勝負は分からない。
ダウンしたメンバーは意識を失ってはいないが負傷率8割を超えた為戦線には戻れない。
大人数同士で戦う利点は失われてしまったが、少数だからこそ出来る事も多い。
それは例えば、捉えきれない敵を全て視界に捉えられる点。
ここから先は先ほどより更に集中することが出来るだろう。
戦闘の手順も方針も変わっていく。どちらが先にそれに順応出来るか。
勝利への鍵は、きっとそこにある。
■
倒れたメンバーはこれ以上の被害を受けないようにと広場の隅へと移動した。
まだ立っているメンバーが睨みあう広場を、強い風が吹き抜けていく。
(あぁ、これだ)
ウィンスは戦いの最中では珍しく、小さく口角を引き上げる。
歪虚との戦いでは一切感じた事のない感覚を感じるのは、これで二度目だ。
愛用の槍を構え、一気にマテリアルを爆発させる。
広場に響く轟音と、まるで氷点下に陥ったかのような冷気を感じさせるマテリアルが彼を中心に逆巻く。
「……来るか」
ウィンスのその様子を捉え、ディーノが身構える。
雰囲気からして大技が出るのだろうと、そう予測しているのだろう。
さすがに付き合いの長いジャックは、なかなか自身の思惑に乗って来ないのが悔しいところだが、この際欲張ってはいられない。
ジャックとディーノが一直線に並んだその位置を確認し、少しずつ槍と体をずらし、その一線を捉えていく。
対抗して咆哮を上げようとするジャックは、Holmesによって動きを止められてしまう。
その場にあるはずのない長い長い氷河が、見えたような。そんな錯覚がディーノの脳裏に浮かぶ。
「……下がれ!!!」
声を上げたディーノが、Holmesによって動きを止められたジャックを押しやった。その直後。
「……遅い!」
絶対零度を思わせるマテリアルが、何処までも続く大氷河の様に伸び。
直線状に立っていたディーノの腹部を貫き、僅かに立ち位置の逸れたジャックの大腿部を切り裂いた。
ウィンスの攻撃を受けてぐらりと体勢を崩したディーノが、その勢いを逆に利用して一気に踏み込む。
一か八か、最後の賭けに出たのだろう。
ストールを靡かせウィンスへと一気に肉薄した彼は、両刃剣を閃かせ上段から切りかかるが。
「その心意気は買うが……あんたの刃は、俺には届かない」
槍を振るう事でそれを簡単に受け流すと、そのまま倒れ伏す男を見て、そういえばと一瞬だけ思考を巡らせる。
一度この男の前で、戦闘をしたことがあった。それはつまり、戦闘を「思考」されている可能性があったという事。
今回は自身を「援護役」だと言っていたが。果たして最後の動きは援護だったのか。
思考を払い、改めて眼前を見やったウィンスの前。大腿部を切り裂かれて珍しく表情を歪めたジャックの姿が見えた。
「さぁて、もう動けねェだろ」
「抜かせくそガキ」
銃を構えるジャックの腕が、細かく震えている。
Holmesによる威圧と、盾を構える暇もなかったウィンスからの鋭い貫撃によって、ジャックの脚部は相当量のダメージを蓄積していた。
それでも諦めるという文字は、彼にはない。
僅かずつでも後退し、繰り出される攻撃にスキルを発動させては耐え、何度でも膝を付きつつも立ち上がり、不屈の精神で銃を放つ。
攻撃へカウンターの弾丸を叩き込み、それでもジャックの身を刻む傷は増えていく。
ウィンスの槍を銃で受けとめたジャックの後方から、一人の鬼が迫る。
「万象を貫くべく磨いた拳よ。有難く頂戴しなァ!」
最後まで立ち塞がった男に敬意を表して。螺旋を描き迸る光を握り込み、万歳丸は勢いよく拳を振り抜いた。
突き抜けんばかりの強烈な腹部への一撃の後、更にやって来るのは初撃以上の螺旋の重み。
「クソッタレが……今回は、勝ちを譲ってやる……」
ゆっくりと、最後にゆっくりと倒れたのは、仲間想いの口の悪い男だった。
Aチーム全員8割負傷、ダウン。
勝者 Bチーム。
■まさかの番外戦
「ふぅ……これでボクたちの勝利かな」
広場を出てHolmesが息を吐いたその背後で、ガキンと金属の鳴く音がする。
振り返ったそこに広がった光景に、Holmesは一瞬絶句して動きを止めた。
試合が終わったはずの広場内。そこで――。
「成る程、つまり――」
マテリアルを纏った槍と拳が、組まれていた。
「――あんたを倒せば仕舞ってわけだな」
楽し気に笑ってそう言った少年に、鬼の男は揚々と笑う。
「仕方ねェ……受けて立ってやらぁ!」
突き出された槍は挨拶代わりか。軽く払いのける様にして右足を下げた万歳丸は、問答無用の蒼い麒麟を打ち出す。
氷塊のように堅固なオーラを纏ったウィンスの周囲から、甲高く澄んだ音と共にそれらが『割れた』。
楽し気な二人の表情を見て、固まっていたHolmesはやれやれと肩を竦める。
「男の子は少しくらいやんちゃがいいとは言うけれどね。試合の決着はついただろうに」
止めようかとも考えて、もう暫くは様子を見るかと溜息一つ。
流石にダメージが大きくなりそうなスキルが発動したら、止めに入らないとまずいだろうが。
Holmesのそんな心境もお構いなしに、ウィンスと万歳丸の戦闘は続く。
頬を切り裂き、腹部を殴打し、槍と拳が交差する。
先刻までの戦いと比べればまだ大人しい「小競り合い」のようなやり取りが続いて数十分。
「極上のデザートだ――味わってけッ!」
見守っていたHolmesの顔色が変わった。
ウィンスの持っていた槍が、鋭い音と共に冷気を思わせるマテリアルに覆われていく。
感情の昂ぶりのせいか、先ほどまでだってセーブしていたわけではないだろうが、一段と強い何かが生まれようとしている様な。そんな気がしたのだ。
「待ちたまえウィンス君! 万歳丸君!」
広場へと駆け戻ろうとHolmesが動き出す。
求められていた試合は終了している。ここから先万が一何かがあったら。
それは、果たして「治療の保証範囲内」に収まるか?
突き出される渾身の槍を受けて立とうと、万歳丸が拳に光を灯す。その直後。
勢いよく、二人の間を何かが遮った。
「そこまでだ」
二人の間に突き立てられた両刃剣と行く手を遮る大鎌に、二人の間に漂う気迫が霧散する。
「……血の気盛んだな。若者の特権だが……そこまでだ」
「ふぅ……間に合ったかな」
腹部を抑えつつ立ち上がり剣を突き立てたディーノと、遮る様に大鎌を振り抜いたHolmesが息を吐いた。
「ったく……手の施しようのねぇガキだな全くよぉ」
「チャンピオンを差し置いて二人でマッチなんて、認めませんよっ」
「あら、もうやめてしまうの? 素敵な香りがもっと嗅げると思ったのに」
「二人だけで戦うなんてずるいっ! 万歳丸! ミィリアとの女子力勝負もまだでござるっ!」
ジャック、ルンルン、ブラウ、ミィリア。
怪我をしていたメンバーが次々起き上がって羨まし気に戦っていた二人を見る姿に、ディーノとHolmes年長者は深いため息を吐く。
「構わないけれどね、君たち。あちらを見てご覧」
Holmesの指さす方で仁王立ちして、笑いつつ青筋を立てているのは。
「……そろそろ仕事させて頂いていいですかね?」
ソサエティから派遣された、治療班だった。
■お小言休題
「君たち本当に模擬戦って分かってるかな!」
今回は前回の個人戦と違って重傷者がいるわけではない。そのせいだろうか、まだ戦い足りないといった雰囲気のメンバーが多かった。
回復の為にソサエティからやってきていた人間たちは、メンバーの怪我を治療しつつグチグチと小言を言っている。
「……まぁ、またこういう機会もあるだろう。今日は諦めろ」
自身も怪我を治療されつつそう言ったディーノが頭を掻いた。
ハンターになる者はこうも血気盛んなのだろうかと。そんなことを考えていたのかもしれない。
自分も同類だろうと分かっていたから、口に出すことはなかったが。
■後日談
後日、今回のMVPが選出されたと連絡があった。
選出を担当した引率担当のハンター曰く。
「接戦であったが、仲間との協力を重要視したメンバーを選出した。今回は勝ち負け関係なく選出しているので悪しからず」
闘いの祭りは、もうすぐ終わりを迎えるだろう。
けれど、ハンターの戦いはまだまだ続く。
その道が、険しくとも。
END
「いいかそこの激クソちびとクソガキんちょてめぇらだ叩きのめしてやるから覚悟しとけよクソッタレ!」
「どうやら此処が馬鹿オブビッグスターの墓場になるみたいだな……」
「ふふふ……王国馬鹿金髪野郎の血は、どんな香りがするのかしら……?」
「おーおー『上等だ』このクソちび共!!」
「今すぐ引導くれてやるよウルトラ大馬鹿ーニバルマッチョ野郎」
「人の事をちびちびいう貴方の心の方が小さいんじゃないかしら馬鹿様」
正にノンブレス。一気に言い切って悪い顔をするジャック・J・グリーヴ(ka1305)に向かって青筋を立てつつ応酬するのは、普段クールなウィンス・デイランダール(ka0039)と、可愛らしい姿からは想像もつかない黒い笑顔を浮かべるブラウ(ka4809)だ。
「試合前から元気なこって!」
「ふむ。今からあんなにはしゃいで大丈夫なのかね」
火花が散った3人を横目に豪華な笑い声をあげる万歳丸(ka5665)と、苦笑しつつ見守るHolmes(ka3813)。
「万歳丸! 今回の女子力勝負、負けないでござるよっ!」
「チャンピオンの血が疼くのです……デュエルスタンバイなんだからっ!」
「でゅえ……?」
ぐっと拳を胸の前で握って力説するミィリア(ka2689)のその後ろで、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は楽しそうに笑う。
参加メンバーを見渡して、遠い目をするのはディーノ・オルトリーニ。今回の引率兼依頼人兼添え物参加者だ。
「……いいかお前ら。これはあくまでも模擬の」
「表出ろやこの筋肉野郎」
「チービチービ」
「本当対戦が楽しみね金髪馬鹿野郎」
「……聞いてくれ」
どう考えても模擬にならない模擬戦が、今、始まる。
■開始直前
「やっぱりネックはルンルンの服装か」
「純情か」
「ふっふっふ。ルンルン忍法はこのスタイルが伝統なのですっ」
「遠距離は面倒だけど、やってやります勝つ日まで! いっくぞーでござる!」
Aチームはジャック、ディーノ、ルンルン、ミィリアの組み合わせだ。
闘狩人3名に符術師の布陣は全体的に行動阻害からの火力勝負に見える。行動阻害の隙をつける事と引き換えに、一度抜けられてしまった際どう凌ぎ切るかがポイントになるだろう。
会話は気が抜けるほど砕けたものだが、その実力は折り紙付きともいえるメンバーばかりである。
他方、Bチーム。
「あの金髪腐れ馬鹿野郎様ゼッテー泣かすここがテメェの墓場だ懺悔は済んだかクソ野郎」
「あぁ楽しみ……実力不足だろうと、漂う香りに惹かれる強さなら負けないわ。早く真っ赤な景色が見たいわね。主に金髪馬鹿様とか金髪馬鹿様とか筋肉金髪馬鹿様とかの」
「ほーう! そういう布陣で来たか!」
「気合十分、といった感じかな。フォローはボクが請け負うから、存分にやりたまえよ」
こちらはウィンス、ブラウ、万歳丸、Holmes。
闘狩人に舞刀士、霊闘士に格闘士。こちらは純粋に短期決戦型といえるだろう。火力で押すことが可能な組み合わせだが、比較的中距離からの行動阻害をどう躱し切るかが勝利への鍵になるだろう。
やはり会話の何処かがおかしいのは、集まった段階から繰り広げられた煽り煽られのせいか、それともこれから始まる対人戦への昂ぶりのせいか。
互いに位置につき、ゆっくりと時を待つ。
審判を担当するソサエティ担当者を視界の端に捉え。そして。
――模擬団体戦、はじめ!!
各々、武器は振り下ろされた。
■鬼さんこちら、手のなる方へ!
まず真っ先に動き出したのは万歳丸だ。
「っし! こういうのを鬼ごっこ、っていうんだっけな!」
間合いを詰める万歳丸の向かう先は、扇符を手にしたルンルン。けれど、彼女は慌てない。不敵な笑みを浮かべつつ、手にしたカードを掲げる。
「そう来ると思いましたっ」
人気者は辛いですね、なんて。可愛らしく呟いて。
結晶模様の浮かぶ扇符が美しく光った。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法ニンジャ結界陣! カードを場に伏せてターンエンドです」
「うォっと!」
掛け声とともに展開された地縛符の範囲に足を突っ込みかけた万歳丸は、咄嗟に進路を逸らす。
そこを追撃しに来たのは両刃剣を携えたディーノだ。
体勢を崩した万歳丸へと滑り込むように駆け込み、一気に剣を振り抜こうとする。が、
「Get down,Guy」
その動きがぴたりと止まる。
「……ふぅ。君が動き出すのも折り込み済みだ。悪いが、少しの間大人しくしていてくれると助かるな」
苦々し気な視線を送られたHolmesがディーノへと放ったのは、かつてとある名探偵が使っていたとされるリアルブルーの島国の武術だ。
不意を突かれたディーノは、彼女の純粋な敵意をぶつけられた事で動きを止めてしまった。
自分を守るべく動いていた人間が立ち止まってしまった事に僅か気をそらしたルンルンは、逆サイドから迫る影に気付かなかった。
「阻害は面倒だが……逆にそれを躱し切れば、今度は自分が無防備になるもんだ」
視線の先で厭味ったらしく笑う男を睨みつけつつ、凍結音を轟かせながら最短距離で突き出したウィンスの凍えた氷槍がルンルンとその先。直線状に並んだジャックを捉えた、その瞬間に響く発砲音。
割り込むように立ち位置を換えたジャックがシールドで槍を受けとめた後、彼のオーダーメイド銃でカウンターの弾丸を撃ち込んだ。
「よーおクソガキ。俺様がいながら余所見たぁいい度胸だなァ?」
「……悪いな見えなかった筋肉バカ様潰す」
にたり笑うジャックへと、米神から流れ落ちる血を拭う事もなく青筋を立てたウィンスが吐き棄てる。
しかし一方のジャックも、盾を持った手がひどく冷たく凍える様に痺れているのを隠している状態だ。
一進一退の両者、まずは挨拶代わりといったところだろうか。
大きく息を吸い込んだジャックが、その視界に捉えられない人物を脳裏に浮かべ笑った。
「そういやぁさっきからチビの姿が見えねぇなァ」
開始から姿を見せていないのは、血の香りを好む少女。その相手を煽る様に――否。眼前の少年も同じく煽る様に話し続ける。
「なァ、Bチームはちびにガキとおままごとでもやってんのか!? 笑っちまうぜ! ハハッ!」
見事な挑発はさて、届くのか。
(誰がちびよ……! 頭の中までツルツル金ぴかな馬鹿に言われたくないわね!)
口から出そうな言葉をぐっと堪え、ブラウは障害物に身を潜めていた。
援護に回ったディーノの邪魔はHolmesが成功させた。万歳丸とウィンスによるルンルンの撃破は、ジャックによって邪魔をされたがそれは想定内といえる。
地形を把握し終えたブラウは障害物から飛び出ると、最短距離で駆け込む。その先には、刀を手に身構えるミィリアの姿があった。
射程一歩手前から一気に加速。振りかぶった刀を一気に引き下げ突きを繰り出す。
鈍く響く金属音が、土埃を上げる広場を駆け抜ける。
「初めまして。同じ刀使いとして、どうぞお手柔らかにお願いするわね」
「こちらこそよろしく……ねっ!」
笑いつつミィリアは桜吹雪の幻影ごとブラウと彼女の刀を薙ぎ払った。
見た目の可憐さとは打って変わって思いその一撃に、思わず刀を取り落としそうになってブラウはぐっと握る拳に力を込めた。
「同じドワーフなのね。ふふっ、仲良くなれそうね」
「ミィリアも仲良くなれたら嬉しいな! けど今は……まずは勝たせてもらうでござる!」
僅かに後退しブラウの射程から再び離れたミィリアは、元気よく刀を構えた。
「強い人の血の匂いって凄く芳香で……それでもって強い匂いを発するの。それがどれだけ最高か、貴女には分かるかしら?」
「うーん、そこはちょっと分かんないごめんねっ」
その瞬間、勝負に出たのはブラウだ。
近くにある土の山を上段から振りかぶった刀で勢いよく叩き割る。
舞い上がる土埃で視界が曇るそれに紛れ、離された距離の分スキルを使って一気に接近する。
研ぎ澄まされた刺突が、ミィリアへと迫る。
「女子力勝負なら負けないぞーでござる!」
近接では動きづらくなるのが自分なのだと、ミィリアはしっかりと自覚していた。だからこそ、対策は怠らない。
刀で滑らせるようにして躱し切った後、閃かせたのは身に着けていた簪だ。
刺突の際の踏込みで重心を置いていた足へと足払いを仕掛けられ、ブラウの体勢が崩れる。
「ここ、だっ!!」
ミィリアはそこに一気に体を滑り込ませ、簪をブラウの横腹へと突き立てた。
「――っ!」
咄嗟の回避は崩れた体勢では間に合わない。深く突き刺さる簪から逃れる様に崩れ落ちるブラウへ、ミィリアが更に追撃を行おうとする。その側面から。
鋭く風を切り裂く音と共に力の込められた連撃が、ミィリアの身を切り裂いた。
「――っ!!」
肩口と腹部を深く裂かれたミィリアが視界に捉えたのは、大きな耳と尾を備えたHolmes。
「横恋慕失礼するよ。なに、恋愛物の群像劇にはよくあることさ」
芝居がかったその物言いに、ミィリアは冷や汗を落としつつ笑う。
「てっきり、Holmesはあっち担当だと、思ってたよ……でも」
腹部を押さえて崩れ落ちたブラウと、眼前に立つHolmesを交互に見た後、ミィリアは何処か楽し気に口を開いた。
「残念でした、でござる。これは……団体戦、だよ」
勢いよく振り返ったHolmesの視線の先、彼女の射程外で。
鋭い冷気を漂わせる槍と鋭い拳が、符術師へと迫っていた。
■
痺れる手を激しく叱咤して、ジャックは銃を構える。
スキルを乗せた鋭いウィンスの一撃は、まだ彼の手を万全にはさせてくれない。
(クソっ!)
離れた場所で倒れた自チームのミィリアを横目で捉えつつ、内心舌打ちを零す。
口は悪い彼だが、仲間が自分より先に倒れるのを見る事は堪えるのだ。可能ならば助けに入りたかったが、それをさせてはもらえないらしい。
「ガキの癖に、やってくれるじゃねェか……!!」
不可視の結界を生み出し続けるルンルンに合わせ、まるで獅子が吠える様な叫びをあげる。
正しく百獣の王が弱者を恐れさせるような咆哮が轟いた。
そんなジャックの咆哮を避けつつ、ルンルンへと迫るウィンスと万歳丸。
土嚢を巧みに使いつつ必死に避け、雷で反撃しつつルンルンは再び不可視の結界を展開する。
「他にもたくさん仕掛けてあるもの。真っ直ぐ来たら大変なんだからっ!」
半分はブラフだ。直線に飛び込まれる事を避けるその言葉だが、先刻から彼女に対峙している二人にはあまり効果が見えない。
ランダムとはいえ、その攻撃の有効範囲は把握出来る。それはつまり、その範囲に無計画に入らなければ問題はないという事だ。
歪虚との戦闘とは違い、相手は人間。同じハンター。
スキルの対策をされるのも当然と言えるだろう。
悔しさを堪え、その頬や腿に槍で裂かれた傷を負いながらも必死に動き回る彼女だが。
右からは万歳丸の拳、左からはウィンスの槍と挟まれてしまった状態では満足な回避も出来ず。
「鬼ごっこは仕舞いにしようかァ!」
黄金に輝く万歳丸の拳が、蒼い燐光を漂わせる麒麟を生み出し。
勢いよく突進してくるその蒼い光が通り過ぎた、その後に倒れ伏してしまうのだった。
■途中経過
ブラウはミィリアとの戦闘で腹部を激しく貫かれダウン。
そのミィリアも、Holmesに不意を突かれダウン。
万歳丸とウィンスによって挟撃されたルンルンも、力強い万歳丸の攻撃にダウン。
現段階で残っているのは、Aチームがジャックとディーノ。BチームがウィンスとHolmes、万歳丸。
数では2対3の構図だが、まだ勝負は分からない。
ダウンしたメンバーは意識を失ってはいないが負傷率8割を超えた為戦線には戻れない。
大人数同士で戦う利点は失われてしまったが、少数だからこそ出来る事も多い。
それは例えば、捉えきれない敵を全て視界に捉えられる点。
ここから先は先ほどより更に集中することが出来るだろう。
戦闘の手順も方針も変わっていく。どちらが先にそれに順応出来るか。
勝利への鍵は、きっとそこにある。
■
倒れたメンバーはこれ以上の被害を受けないようにと広場の隅へと移動した。
まだ立っているメンバーが睨みあう広場を、強い風が吹き抜けていく。
(あぁ、これだ)
ウィンスは戦いの最中では珍しく、小さく口角を引き上げる。
歪虚との戦いでは一切感じた事のない感覚を感じるのは、これで二度目だ。
愛用の槍を構え、一気にマテリアルを爆発させる。
広場に響く轟音と、まるで氷点下に陥ったかのような冷気を感じさせるマテリアルが彼を中心に逆巻く。
「……来るか」
ウィンスのその様子を捉え、ディーノが身構える。
雰囲気からして大技が出るのだろうと、そう予測しているのだろう。
さすがに付き合いの長いジャックは、なかなか自身の思惑に乗って来ないのが悔しいところだが、この際欲張ってはいられない。
ジャックとディーノが一直線に並んだその位置を確認し、少しずつ槍と体をずらし、その一線を捉えていく。
対抗して咆哮を上げようとするジャックは、Holmesによって動きを止められてしまう。
その場にあるはずのない長い長い氷河が、見えたような。そんな錯覚がディーノの脳裏に浮かぶ。
「……下がれ!!!」
声を上げたディーノが、Holmesによって動きを止められたジャックを押しやった。その直後。
「……遅い!」
絶対零度を思わせるマテリアルが、何処までも続く大氷河の様に伸び。
直線状に立っていたディーノの腹部を貫き、僅かに立ち位置の逸れたジャックの大腿部を切り裂いた。
ウィンスの攻撃を受けてぐらりと体勢を崩したディーノが、その勢いを逆に利用して一気に踏み込む。
一か八か、最後の賭けに出たのだろう。
ストールを靡かせウィンスへと一気に肉薄した彼は、両刃剣を閃かせ上段から切りかかるが。
「その心意気は買うが……あんたの刃は、俺には届かない」
槍を振るう事でそれを簡単に受け流すと、そのまま倒れ伏す男を見て、そういえばと一瞬だけ思考を巡らせる。
一度この男の前で、戦闘をしたことがあった。それはつまり、戦闘を「思考」されている可能性があったという事。
今回は自身を「援護役」だと言っていたが。果たして最後の動きは援護だったのか。
思考を払い、改めて眼前を見やったウィンスの前。大腿部を切り裂かれて珍しく表情を歪めたジャックの姿が見えた。
「さぁて、もう動けねェだろ」
「抜かせくそガキ」
銃を構えるジャックの腕が、細かく震えている。
Holmesによる威圧と、盾を構える暇もなかったウィンスからの鋭い貫撃によって、ジャックの脚部は相当量のダメージを蓄積していた。
それでも諦めるという文字は、彼にはない。
僅かずつでも後退し、繰り出される攻撃にスキルを発動させては耐え、何度でも膝を付きつつも立ち上がり、不屈の精神で銃を放つ。
攻撃へカウンターの弾丸を叩き込み、それでもジャックの身を刻む傷は増えていく。
ウィンスの槍を銃で受けとめたジャックの後方から、一人の鬼が迫る。
「万象を貫くべく磨いた拳よ。有難く頂戴しなァ!」
最後まで立ち塞がった男に敬意を表して。螺旋を描き迸る光を握り込み、万歳丸は勢いよく拳を振り抜いた。
突き抜けんばかりの強烈な腹部への一撃の後、更にやって来るのは初撃以上の螺旋の重み。
「クソッタレが……今回は、勝ちを譲ってやる……」
ゆっくりと、最後にゆっくりと倒れたのは、仲間想いの口の悪い男だった。
Aチーム全員8割負傷、ダウン。
勝者 Bチーム。
■まさかの番外戦
「ふぅ……これでボクたちの勝利かな」
広場を出てHolmesが息を吐いたその背後で、ガキンと金属の鳴く音がする。
振り返ったそこに広がった光景に、Holmesは一瞬絶句して動きを止めた。
試合が終わったはずの広場内。そこで――。
「成る程、つまり――」
マテリアルを纏った槍と拳が、組まれていた。
「――あんたを倒せば仕舞ってわけだな」
楽し気に笑ってそう言った少年に、鬼の男は揚々と笑う。
「仕方ねェ……受けて立ってやらぁ!」
突き出された槍は挨拶代わりか。軽く払いのける様にして右足を下げた万歳丸は、問答無用の蒼い麒麟を打ち出す。
氷塊のように堅固なオーラを纏ったウィンスの周囲から、甲高く澄んだ音と共にそれらが『割れた』。
楽し気な二人の表情を見て、固まっていたHolmesはやれやれと肩を竦める。
「男の子は少しくらいやんちゃがいいとは言うけれどね。試合の決着はついただろうに」
止めようかとも考えて、もう暫くは様子を見るかと溜息一つ。
流石にダメージが大きくなりそうなスキルが発動したら、止めに入らないとまずいだろうが。
Holmesのそんな心境もお構いなしに、ウィンスと万歳丸の戦闘は続く。
頬を切り裂き、腹部を殴打し、槍と拳が交差する。
先刻までの戦いと比べればまだ大人しい「小競り合い」のようなやり取りが続いて数十分。
「極上のデザートだ――味わってけッ!」
見守っていたHolmesの顔色が変わった。
ウィンスの持っていた槍が、鋭い音と共に冷気を思わせるマテリアルに覆われていく。
感情の昂ぶりのせいか、先ほどまでだってセーブしていたわけではないだろうが、一段と強い何かが生まれようとしている様な。そんな気がしたのだ。
「待ちたまえウィンス君! 万歳丸君!」
広場へと駆け戻ろうとHolmesが動き出す。
求められていた試合は終了している。ここから先万が一何かがあったら。
それは、果たして「治療の保証範囲内」に収まるか?
突き出される渾身の槍を受けて立とうと、万歳丸が拳に光を灯す。その直後。
勢いよく、二人の間を何かが遮った。
「そこまでだ」
二人の間に突き立てられた両刃剣と行く手を遮る大鎌に、二人の間に漂う気迫が霧散する。
「……血の気盛んだな。若者の特権だが……そこまでだ」
「ふぅ……間に合ったかな」
腹部を抑えつつ立ち上がり剣を突き立てたディーノと、遮る様に大鎌を振り抜いたHolmesが息を吐いた。
「ったく……手の施しようのねぇガキだな全くよぉ」
「チャンピオンを差し置いて二人でマッチなんて、認めませんよっ」
「あら、もうやめてしまうの? 素敵な香りがもっと嗅げると思ったのに」
「二人だけで戦うなんてずるいっ! 万歳丸! ミィリアとの女子力勝負もまだでござるっ!」
ジャック、ルンルン、ブラウ、ミィリア。
怪我をしていたメンバーが次々起き上がって羨まし気に戦っていた二人を見る姿に、ディーノとHolmes年長者は深いため息を吐く。
「構わないけれどね、君たち。あちらを見てご覧」
Holmesの指さす方で仁王立ちして、笑いつつ青筋を立てているのは。
「……そろそろ仕事させて頂いていいですかね?」
ソサエティから派遣された、治療班だった。
■お小言休題
「君たち本当に模擬戦って分かってるかな!」
今回は前回の個人戦と違って重傷者がいるわけではない。そのせいだろうか、まだ戦い足りないといった雰囲気のメンバーが多かった。
回復の為にソサエティからやってきていた人間たちは、メンバーの怪我を治療しつつグチグチと小言を言っている。
「……まぁ、またこういう機会もあるだろう。今日は諦めろ」
自身も怪我を治療されつつそう言ったディーノが頭を掻いた。
ハンターになる者はこうも血気盛んなのだろうかと。そんなことを考えていたのかもしれない。
自分も同類だろうと分かっていたから、口に出すことはなかったが。
■後日談
後日、今回のMVPが選出されたと連絡があった。
選出を担当した引率担当のハンター曰く。
「接戦であったが、仲間との協力を重要視したメンバーを選出した。今回は勝ち負け関係なく選出しているので悪しからず」
闘いの祭りは、もうすぐ終わりを迎えるだろう。
けれど、ハンターの戦いはまだまだ続く。
その道が、険しくとも。
END
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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AチームのAはACEのAだぜ! ジャック・J・グリーヴ(ka1305) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/06/26 22:52:07 |
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BチームのBはBESTのB Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/06/27 02:47:15 |
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質問場所 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/06/24 19:31:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/23 06:03:06 |
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決戦だぜ! 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/06/25 12:46:17 |