ゲスト
(ka0000)
魔法公害のミシニア
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/27 07:30
- 完成日
- 2016/07/06 04:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
その町『ミシニア』はグラズヘイム王国南部の伯爵地【ニュー・ウォルター】に存在する。
ミシニアは鍛冶を主体とした工場の町だが、機導術への感心は薄かった。
そもそも王国全体が他国に比べて機導術の導入が遅れ気味である。思案したタオリ町長は各地から指導者を呼んで機導術の工房を立ち上げた。
一朝一夕にはいかないが、生活を大きく変える冷蔵庫等の日用品や畑を耕す農耕魔導機械を独自生産。一歩一歩技術力を高めていった。
機導術の魔導機械にメンテナンスが不可欠である。少しずつ機導師等の職人によるアフターケアを充実させる。
町に新たな道を拓いたタオリ町長だが、喝采ばかりを浴びたわけではない。彼の強引なやり方を非難する声があったのも事実だ。
そのタオリ町長が半年ほど前に亡くなった。深夜の大通りにて、心臓にナイフを突き立てられて殺されたのである。
官憲によって捜査は行われたものの、未解決のまま終了してしまう。その後、新女性町長としてノリアが就いた頃からミシニアの雰囲気が変わった。
煙害が酷くなり、さらに雑魔が出没する騒ぎが起こる。
煙については元々が鍛冶の町なので程度の問題だとしても、誰もが気にしていたのが雑魔の出没だ。工場に未処理の鉱物マテリアルの残滓が溜まっていて、魔法公害が発生しているのではないかと誰もが心配した。
やがてスライムに襲われて、ついに人死にででしまう。それでもノリア町長は工房に問題なしと、町の人々からでていた調査の要望を頑なに拒んだ。
「このままじゃミシニアは駄目になってしまう」
「よい考えはないものか……」
そこで町の有志が集まってハンターズソサエティー支部に依頼をだした。ハンターによる調査を望んだのである。
目的はタオリ町長の殺害真相を暴くこと。但し、現町長ノリアの妨害で官憲の協力は得られないと考えたほうがよい。
前町長の殺害現場を目撃した男性は現在牢屋の中だ。窃盗の罪とされているが、本人は無実を主張している。
もう一人いた女性は行方不明中。噂では何者かに殺されかかったところを間一髪で逃げ延びたといわれている。
官憲は敵。密かに捜査することがハンター達には望まれていた。
ミシニアは鍛冶を主体とした工場の町だが、機導術への感心は薄かった。
そもそも王国全体が他国に比べて機導術の導入が遅れ気味である。思案したタオリ町長は各地から指導者を呼んで機導術の工房を立ち上げた。
一朝一夕にはいかないが、生活を大きく変える冷蔵庫等の日用品や畑を耕す農耕魔導機械を独自生産。一歩一歩技術力を高めていった。
機導術の魔導機械にメンテナンスが不可欠である。少しずつ機導師等の職人によるアフターケアを充実させる。
町に新たな道を拓いたタオリ町長だが、喝采ばかりを浴びたわけではない。彼の強引なやり方を非難する声があったのも事実だ。
そのタオリ町長が半年ほど前に亡くなった。深夜の大通りにて、心臓にナイフを突き立てられて殺されたのである。
官憲によって捜査は行われたものの、未解決のまま終了してしまう。その後、新女性町長としてノリアが就いた頃からミシニアの雰囲気が変わった。
煙害が酷くなり、さらに雑魔が出没する騒ぎが起こる。
煙については元々が鍛冶の町なので程度の問題だとしても、誰もが気にしていたのが雑魔の出没だ。工場に未処理の鉱物マテリアルの残滓が溜まっていて、魔法公害が発生しているのではないかと誰もが心配した。
やがてスライムに襲われて、ついに人死にででしまう。それでもノリア町長は工房に問題なしと、町の人々からでていた調査の要望を頑なに拒んだ。
「このままじゃミシニアは駄目になってしまう」
「よい考えはないものか……」
そこで町の有志が集まってハンターズソサエティー支部に依頼をだした。ハンターによる調査を望んだのである。
目的はタオリ町長の殺害真相を暴くこと。但し、現町長ノリアの妨害で官憲の協力は得られないと考えたほうがよい。
前町長の殺害現場を目撃した男性は現在牢屋の中だ。窃盗の罪とされているが、本人は無実を主張している。
もう一人いた女性は行方不明中。噂では何者かに殺されかかったところを間一髪で逃げ延びたといわれている。
官憲は敵。密かに捜査することがハンター達には望まれていた。
リプレイ本文
●
ハンター一行が訪れたミシニアは噂通りの町であった。様々な工房から立ちのぼる煙のせいで遠くの景色が霞んで見えた。雑魔出没騒ぎのせいか、人通りも少ないように感じられる。
だが待ちあわせの酒場は違う。真っ昼間から大繁盛で、赤ら顔の客達がジョッキを片手に騒いでいた。一行が空いていた卓へつくと恰幅のよい男性給仕が注文取りに現れる。
「うーん、親父さん、美味しいお茶をあたしたちに頂戴こうも煙が酷いと喉が苦しいよ。出来ればはちみつとかあると嬉しいな」
メイム(ka2290)が紅茶とハムサンドを頼む際に一言付け加えた。『お茶』と『はちみつ』が合い言葉だ。注文の品々が運ばれた頃、男三人組が隣の卓へと座る。
「周りの席は全員仲間だ。ただ奥にいる奴らはこの町の官憲だから注意してくれ。俺の名はガナイ。依頼した有志の代表をやらせてもらっている。よろしくな」
ガナイは一行に背中を向けたまま話しかけた。眼鏡をかけたインテリ風の青年である。
「美しいミシニアが戻るように、私にできることがあれば手を尽くすわ」
「失踪した女性はどのような身体的特徴だったのでしょうか?」
エマ・ハミルトン(ka4835)とシルヴィア・オーウェン(ka6372)は二人で話すような仕草で、実際にはガナイに質問した。
身の危険を察して失踪した女性の名はミッシル。肩ほどの赤毛で中肉中背。二十歳前後。裁縫店を営んでいたという。
窃盗の罪で捕まった男性についても話してくれた。名はリストンで三十歳独身。酒好きだが性格はおとなしめ。自宅では犬を飼っている。
二人とも前町長タオリの殺害現場を目撃した人物だ。
「工房といえば魔法公害とも繋がっていそうだね。具体的な情報は揃っているのかい?」
ルーデンス・フクハラ・LC(ka6362)は紅茶を香りを楽しみながらガナイに訊ねた。
「あたしも聞きたいかな。工房とか、スライムが出ている街の現状とか」
卯月 瑞花(ka6019)はレモンティを頂く。
「今のところ絞り込めていないのだ。雑魔の出現地点はまばらで、噂では残滓のせいではといわれてるが、必ずしも工房場近くとは限らない。……ただ雑魔は大抵月のでていない夜に現れる。日中にも現れたことがあるので参考までにだが」
ガナイが官憲がいる店奥から死角になるようにして「参考にして欲しい」と畳んだ紙をシルヴィアに渡す。開くとそれは数枚の町内地図であった。
「お願いしたいことがあるんです。雑魔が工房から逃げたとか、デモが予定されてるとか、噂を流して欲しいの。牢や町の出入り口からは離れた場所がいいかも」
「わかった。手分けして流しておこう」
卯月瑞花の願いをガナイは引き受ける。
細かい町の事情を聞いているうちにかれこれ一時間が経過した。
この間に充分酔いが回ったザレム・アズール(ka0878)とツィーウッド・フェールアイゼン(ka2773)が視線を合わせて立ちあがる。
「あー……イエール。人の仕事に文句つけやがって」
ツィーウッドがわずかに残ったジョッキの葡萄酒をザレムの頬傷にかけた。イエールとはザレムの偽名だ。
「本当のことをいって何が悪いんだ!」
金髪のザレムがツィーウッドの胸ぐらを掴んだ。その後は殴り合い。周囲の椅子や卓を転ばせて大立ち回りが始まる。
事前にわかっていたハンター仲間や町の有志達は関わらない。店主がおろおろしながら助けを求めると、店の奥にいた官憲が駆けつけるのだった。
●
「この辺りか」
ルーデンスは地図で確認しながら散策した。遠巻きにいくつかの工房の様子を窺う。仕事そのものはたくさんあるらしく、どの工房も忙しい様が垣間見える。
終業の時刻。人のよさそうな職人を見繕って酒を奢り、話を聞いた。
「工房? 至って普通だよ。忙しすぎて休みがとれないってのが不満だけど、給金はでているからな」
魔法公害の元となる残滓については適切に処理されているという。定期的に外へ運ばれていくところを何度も見かけていると。
「残滓処理の方法は希釈さ。一所に集まると問題だが薄まれば問題なしだからな。人里離れた場所で土に混ぜられていると思うぜ」
「なるほど、ね。それにしても商売が繁盛しているのはよいことだね」
「そういえば……、最近一社だけ潰れた工房があったな。トスカス工房だったか。景気よさそうだったのに」
ルーデンスは職人に教えてもらったトスカス工房に向かう。夜の闇に紛れて敷地内へと忍び込んだ。
「これは一体……」
もぬけの殻になった建物内には、何かが爆発したような黒焦げの跡が残っていた。
●
「こちらの家で間違いなさそうね」
エマは小さな庭付きの一軒家を視線をやった。直感視で窺いつつ、危険はないと判断した上で足を踏み入れる。扉は開けっ放しで各部屋は荒れていた。
「官憲が家捜しでもしたのかしら?」
エマは一部屋ずつ確かめる。庭の犬小屋にリストンの犬がいなかったからだ。
「いたわ」
想像していた通り、犬は家へ潜り込んでいた。威嚇されたものの、呻るだけ。空腹だと想像したエマは干し肉を取りだす。
「この状況で吠えないなんてとても利口ね。初めて会うけれど……貴方、愛情を沢山受けて育ってきたのでしょう? 分かるわ、美しい者同士、分かり合えると思うのよ」
エマは長い時間をかけて犬の警戒を解く。端を少し囓ってみせると、犬はようやく干し肉を口にするのだった。
●
メイムとシルヴィアは市場へと立ち寄る。
酒場で得られたミッシルの身長を鑑みてシルヴィア用に上げ底ブーツを用意。更にフード付きのコートで全身を覆い隠した。次にミッシルの裁縫店を訪ねる。
玄関の扉には『しばらく休みます』との走り書きの紙が。何者かが侵入した形跡として窓板が外されている。そこから覗きこむと家捜しされたようで店内は散らかっていた。
(あれ、きっとそうね)
(私もそう思います)
メイムとシルヴィアは監視の目に気づく。隣家の庭から何者かが見張っていたのである。
二人は気づかぬふりをして裁縫店を立ち去った。メイムの馬に二人乗りして町の外へ。そのままガナイが教えてくれた近隣の村を目指す。
ハンター二人の後方を追いかける者がいた。乗馬した二人組の男達である。実はさらに後方から追いかける者が。
当初は馬を借りるつもりの卯月瑞花だったが、荷馬車を所有する有志一名が協力してくれた。そこで彼女は麦藁の山に隠れながら後詰めをすることにしたのである。
(タオリ町長の殺害は強引なやり方に反発した輩の犯行って線が普通なんだろうけど……その後すぐに工房が閉鎖されたわけでもなさそうだし。あ、閉鎖しちゃうとノリア町長が犯人っていってるようなもの?)
このときの卯月瑞花はトスカス工房のことを知らなかった。荷馬車に揺られながらいろいろと考える。
三時間ほどで村へと到着。メイムとシルヴィアがミッシルの知人宅を訪ねてノックをしたが誰も現れない。だがメイムは超聴覚で中に二人居るのがわかっていた。
「裁縫店の状況は調べました。あまり語らぬ分、嘘はつかず真摯に。これが、わたしのやり方です」
「裁縫店は誰かに踏み込まれていたけど、建物そのものは燃やされたりしていませんよ。商品の多くも大丈夫だと思います」
シルヴィアとメイムが扉越しに説得を試みる。町の有志達に頼まれて助けに来たことを告げると扉がわずかに開く。
その瞬間、物影から監視していた男二人組が知人宅へと駆け寄ろうとする。だが急停車の荷馬車が行く手を遮った。
「きゃあ、ごめんなさい!」
荷台の卯月瑞花は麦藁の山を崩して男二人組を埋めてしまう。さらに荷台から飛び降りて、馬二頭の手綱を柵から解く。
麦藁の山から這いでた男二人組は遠ざかる馬二頭を追いかけていった。その間にメイムとシルヴィアは知人宅の中へ。
「あ、あんたたち、嘘ついたら覚悟しなさいね。こ、ころすから」
家の中ではミッシルと知人が鉄棒を握って身構えていた。裁縫店で見かけた衣服を誉めるとミッシルは照れくさそうな表情を浮かべる。
時間はかかったものの、ミッシルは信じてくれた。
「これを着てください」
シルヴィアがコートをミッシルに着せて家に残る。メイムは愛馬の後ろにミッシルを乗せて村からの脱出を図った。
それからしばらくして男二人組がミッシルの知人宅に現れた。
「お前か? ミッシルというのは」
男の片割れがミッシルの知人を押しのける。そして背中を向けていた女性の肩に手を掛けた。
「お探しの方は存じませんよ」
覚醒済みのシルヴィアが男一人を転ばせて渠打ちに踵を落とす。剣を抜こうとしたもう一人の顎には拳を捻り込んだ。
気絶する男二人組を目立つ道ばたへと放りだしたところでシルヴィアも退散。村外で待っていた卯月瑞花も乗る荷馬車と合流し、メイムとミッシルへと追いつくのだった。
●
看守が鍵を使って鉄格子牢の扉を開いた。突き飛ばされるように押し込まれた泥酔の男二人が床へと転がる。その二人は薄ら笑いを浮かべながらそのまま寝入ってしまう。
看守が牢前から姿を消した頃、二人はむくりとその場へと座り込んだ。
牢は大部屋で総勢十五名。寝転ぶ者、欠伸をする者、賭け事をする者など。全員が何かしらでだらけていた。
「あの奥にいるのがそうだよな?」
ツィーウッドが先にリストンを見つける。
ザレムは説得役としてリストンに接近。ごろりと床へ寝て「酒を飲んで気持ちよくなって一寸暴れたんだ」と笑ってみせた。
ツィーウッドは鉄格子にもたれ掛かり、看守が現れないかを見張る。
「相当呑んだみたいだな。入ってまもないはずなんだが、もう何年も飲んでいない気がする……」
「調子に乗ってな。酔いが醒めたらここからでられると思うから、そしたら一緒に美味い酒でも飲まないか?」
「いや、無理なんだ。盗みで捕まったから三年ぐらいは……信じてもらえないだろうが、俺は無実なんだよ」
リストンがザレムの世話話に乗ってきた。誰にも聞かれないよう牢の隅へと移る。
ツィーウッドが合図として首筋をかくとザレムは口を閉ざす。看守が通り過ぎてから話を再開した。
「なあ、脱獄しないか?」
ザレムの囁きにリストンが両の眼を大きく開く。
「此処に居ると殺されるぞ。理由は察してるだろ?」
「何となくは……だけど」
「あの殺人を目撃した口封じさ。けど真実を暴きたい人達が俺達を寄越したんだ。すべては貴方を助けて生かすためにさ」
リストンが愚痴をこぼす。ここのところ自分だけ食事の量が極端に減らされていて我慢の限界だと。
「トリガはちゃんと食べてるだろうか……」
愛犬のことを思いだしたリストンの目に覚悟の光が宿る。
ツィーウッドは見張りをしながら他の囚人と話していた。
「二年もここにいるのかァ。食い物とかどうなんだ?」
「それがよ。町長が替わってから酷いもんだぜ。贅沢とかじゃなくてよ。前の半分以下しか量はねぇ。水浴びも三日に一度から一週間になっちまったしよ」
ツィーウッドは何人かの囚人と約束を交わす。早めにでられたのなら、いつか差し入れを持ってくると。
実際、運ばれてきた晩食は酷いものであった。
一晩が過ぎ去って翌日。一人の女性がザレムとツィーウッドを引き取るために留置所を訪れる。女性らしい清楚な服装のエマであった。
「二人がご迷惑をかけてごめんなさいね。宜しければお詫びに」
釈放を促すための金子を看守達に握らせる。重犯罪人では難しいものの、喧嘩で入れられた程度なら鼻薬は効く。たくさんの葡萄酒も看守達に差し入れする。
「わりぃな」
鉄格子越しにツィーウッドが声をかけるとエマが微笑む。
ちょうど昼食時だったので、エマは看守達にお酌した。葡萄酒に混ぜられた睡眠薬よって看守達が次々と眠りに誘われる。
エマは物影で無線を取りだし、ルーデンスと連絡をとった。
ルーデンスは留置所のすぐ外で待機していた。建物の間に隠れて浮き輪を膨らます。
「――さて、上手くやっておくれよ」
門番に背中が見える位置取りをし、符術の胡蝶符で遠くの浮き輪を破裂させる。その直後に留置所の門を勝手に駆け抜けて叫んだ。「ウ、ウワァァァァッ!? っべー、マジ、な、なんだよあれ! 助けて!」と。
門番だけでなく所内の看守達も巻き込んで嘘をばらまいた。「銃だよ! 銃!! 街中で銃ぶっ放したアホがいるんだよ!! ほっとくとヤバいってアレ!」
その場に居た所員十人のうち、四名が外へ向かう。
「逃がすと責任問題じゃないの?!」
ルーデンスは残った六名も口車に乗せようとする。こうして四名がルーデンスと一緒に現場へ向かうこととなった。残った二名は門番なので、留置所内の玄関口付近は誰もいなくなる。
その頃、エマが眠りこけていた看守のベルトから鍵を入手。その鍵で鉄格子の扉が開けられた。即座に抜けだしたのはザレム、ツィーウッド、そして説得されたリストンだ。
看守達は寝ていたか、眠りかけていたかのどちらかである。
玄関口を通じて庭へでるとザレムが機導砲で高い外壁に穴を空けた。潜り抜けた後でリストンを抱えてジェットブーツで飛翔。ザレムとリストンは魔導バイクの隠し場所へ。二人乗りで留置所の敷地から遠ざかる。
エマとツィーウッドも馬で脱出。ルーデンスは所員達の前からいつの間にか姿を眩ます。
二時間後。脱獄に関わった全員が郊外の待ちあわせ場所で合流を果たしたのだった。
●
ミッシルとリストンを無事保護したハンター一行は、城塞都市マールの支部へと無事送り届ける。そこで詳しく前町長タオリの殺害状況が二人の口から語られた。
「聞こえてきたの。ここまでよくやってくれたと。女の声で、これから先はもう用済みだってタオリ町長に話しかけていたのよ」
ミッシルはタオリにナイフを突き刺した犯人の言葉を覚えていた。
「俺が居た場所は遠くて、会話は断片的にしか聞こえなかったんだ。でもミッシルさんがいっていたことは正しいと思うよ。……あの犯人の声に聞き覚えがある。ノリア町長とそっくりだ」
リストンは犯人の声質を記憶している。
殺人犯はフードを深く被っていて、顔の特徴については二人ともわからない。
「そうだ。もう一つ。死ぬ寸前のタオリ町長がいっていたの。機導術の魔導機械に仕掛けたとか」
「俺にも聞こえていたが、最後の部分が小さすぎてよくわからなかったよ」
ミッシルとリストンの証言はこれですべてであった。
ハンター一行が訪れたミシニアは噂通りの町であった。様々な工房から立ちのぼる煙のせいで遠くの景色が霞んで見えた。雑魔出没騒ぎのせいか、人通りも少ないように感じられる。
だが待ちあわせの酒場は違う。真っ昼間から大繁盛で、赤ら顔の客達がジョッキを片手に騒いでいた。一行が空いていた卓へつくと恰幅のよい男性給仕が注文取りに現れる。
「うーん、親父さん、美味しいお茶をあたしたちに頂戴こうも煙が酷いと喉が苦しいよ。出来ればはちみつとかあると嬉しいな」
メイム(ka2290)が紅茶とハムサンドを頼む際に一言付け加えた。『お茶』と『はちみつ』が合い言葉だ。注文の品々が運ばれた頃、男三人組が隣の卓へと座る。
「周りの席は全員仲間だ。ただ奥にいる奴らはこの町の官憲だから注意してくれ。俺の名はガナイ。依頼した有志の代表をやらせてもらっている。よろしくな」
ガナイは一行に背中を向けたまま話しかけた。眼鏡をかけたインテリ風の青年である。
「美しいミシニアが戻るように、私にできることがあれば手を尽くすわ」
「失踪した女性はどのような身体的特徴だったのでしょうか?」
エマ・ハミルトン(ka4835)とシルヴィア・オーウェン(ka6372)は二人で話すような仕草で、実際にはガナイに質問した。
身の危険を察して失踪した女性の名はミッシル。肩ほどの赤毛で中肉中背。二十歳前後。裁縫店を営んでいたという。
窃盗の罪で捕まった男性についても話してくれた。名はリストンで三十歳独身。酒好きだが性格はおとなしめ。自宅では犬を飼っている。
二人とも前町長タオリの殺害現場を目撃した人物だ。
「工房といえば魔法公害とも繋がっていそうだね。具体的な情報は揃っているのかい?」
ルーデンス・フクハラ・LC(ka6362)は紅茶を香りを楽しみながらガナイに訊ねた。
「あたしも聞きたいかな。工房とか、スライムが出ている街の現状とか」
卯月 瑞花(ka6019)はレモンティを頂く。
「今のところ絞り込めていないのだ。雑魔の出現地点はまばらで、噂では残滓のせいではといわれてるが、必ずしも工房場近くとは限らない。……ただ雑魔は大抵月のでていない夜に現れる。日中にも現れたことがあるので参考までにだが」
ガナイが官憲がいる店奥から死角になるようにして「参考にして欲しい」と畳んだ紙をシルヴィアに渡す。開くとそれは数枚の町内地図であった。
「お願いしたいことがあるんです。雑魔が工房から逃げたとか、デモが予定されてるとか、噂を流して欲しいの。牢や町の出入り口からは離れた場所がいいかも」
「わかった。手分けして流しておこう」
卯月瑞花の願いをガナイは引き受ける。
細かい町の事情を聞いているうちにかれこれ一時間が経過した。
この間に充分酔いが回ったザレム・アズール(ka0878)とツィーウッド・フェールアイゼン(ka2773)が視線を合わせて立ちあがる。
「あー……イエール。人の仕事に文句つけやがって」
ツィーウッドがわずかに残ったジョッキの葡萄酒をザレムの頬傷にかけた。イエールとはザレムの偽名だ。
「本当のことをいって何が悪いんだ!」
金髪のザレムがツィーウッドの胸ぐらを掴んだ。その後は殴り合い。周囲の椅子や卓を転ばせて大立ち回りが始まる。
事前にわかっていたハンター仲間や町の有志達は関わらない。店主がおろおろしながら助けを求めると、店の奥にいた官憲が駆けつけるのだった。
●
「この辺りか」
ルーデンスは地図で確認しながら散策した。遠巻きにいくつかの工房の様子を窺う。仕事そのものはたくさんあるらしく、どの工房も忙しい様が垣間見える。
終業の時刻。人のよさそうな職人を見繕って酒を奢り、話を聞いた。
「工房? 至って普通だよ。忙しすぎて休みがとれないってのが不満だけど、給金はでているからな」
魔法公害の元となる残滓については適切に処理されているという。定期的に外へ運ばれていくところを何度も見かけていると。
「残滓処理の方法は希釈さ。一所に集まると問題だが薄まれば問題なしだからな。人里離れた場所で土に混ぜられていると思うぜ」
「なるほど、ね。それにしても商売が繁盛しているのはよいことだね」
「そういえば……、最近一社だけ潰れた工房があったな。トスカス工房だったか。景気よさそうだったのに」
ルーデンスは職人に教えてもらったトスカス工房に向かう。夜の闇に紛れて敷地内へと忍び込んだ。
「これは一体……」
もぬけの殻になった建物内には、何かが爆発したような黒焦げの跡が残っていた。
●
「こちらの家で間違いなさそうね」
エマは小さな庭付きの一軒家を視線をやった。直感視で窺いつつ、危険はないと判断した上で足を踏み入れる。扉は開けっ放しで各部屋は荒れていた。
「官憲が家捜しでもしたのかしら?」
エマは一部屋ずつ確かめる。庭の犬小屋にリストンの犬がいなかったからだ。
「いたわ」
想像していた通り、犬は家へ潜り込んでいた。威嚇されたものの、呻るだけ。空腹だと想像したエマは干し肉を取りだす。
「この状況で吠えないなんてとても利口ね。初めて会うけれど……貴方、愛情を沢山受けて育ってきたのでしょう? 分かるわ、美しい者同士、分かり合えると思うのよ」
エマは長い時間をかけて犬の警戒を解く。端を少し囓ってみせると、犬はようやく干し肉を口にするのだった。
●
メイムとシルヴィアは市場へと立ち寄る。
酒場で得られたミッシルの身長を鑑みてシルヴィア用に上げ底ブーツを用意。更にフード付きのコートで全身を覆い隠した。次にミッシルの裁縫店を訪ねる。
玄関の扉には『しばらく休みます』との走り書きの紙が。何者かが侵入した形跡として窓板が外されている。そこから覗きこむと家捜しされたようで店内は散らかっていた。
(あれ、きっとそうね)
(私もそう思います)
メイムとシルヴィアは監視の目に気づく。隣家の庭から何者かが見張っていたのである。
二人は気づかぬふりをして裁縫店を立ち去った。メイムの馬に二人乗りして町の外へ。そのままガナイが教えてくれた近隣の村を目指す。
ハンター二人の後方を追いかける者がいた。乗馬した二人組の男達である。実はさらに後方から追いかける者が。
当初は馬を借りるつもりの卯月瑞花だったが、荷馬車を所有する有志一名が協力してくれた。そこで彼女は麦藁の山に隠れながら後詰めをすることにしたのである。
(タオリ町長の殺害は強引なやり方に反発した輩の犯行って線が普通なんだろうけど……その後すぐに工房が閉鎖されたわけでもなさそうだし。あ、閉鎖しちゃうとノリア町長が犯人っていってるようなもの?)
このときの卯月瑞花はトスカス工房のことを知らなかった。荷馬車に揺られながらいろいろと考える。
三時間ほどで村へと到着。メイムとシルヴィアがミッシルの知人宅を訪ねてノックをしたが誰も現れない。だがメイムは超聴覚で中に二人居るのがわかっていた。
「裁縫店の状況は調べました。あまり語らぬ分、嘘はつかず真摯に。これが、わたしのやり方です」
「裁縫店は誰かに踏み込まれていたけど、建物そのものは燃やされたりしていませんよ。商品の多くも大丈夫だと思います」
シルヴィアとメイムが扉越しに説得を試みる。町の有志達に頼まれて助けに来たことを告げると扉がわずかに開く。
その瞬間、物影から監視していた男二人組が知人宅へと駆け寄ろうとする。だが急停車の荷馬車が行く手を遮った。
「きゃあ、ごめんなさい!」
荷台の卯月瑞花は麦藁の山を崩して男二人組を埋めてしまう。さらに荷台から飛び降りて、馬二頭の手綱を柵から解く。
麦藁の山から這いでた男二人組は遠ざかる馬二頭を追いかけていった。その間にメイムとシルヴィアは知人宅の中へ。
「あ、あんたたち、嘘ついたら覚悟しなさいね。こ、ころすから」
家の中ではミッシルと知人が鉄棒を握って身構えていた。裁縫店で見かけた衣服を誉めるとミッシルは照れくさそうな表情を浮かべる。
時間はかかったものの、ミッシルは信じてくれた。
「これを着てください」
シルヴィアがコートをミッシルに着せて家に残る。メイムは愛馬の後ろにミッシルを乗せて村からの脱出を図った。
それからしばらくして男二人組がミッシルの知人宅に現れた。
「お前か? ミッシルというのは」
男の片割れがミッシルの知人を押しのける。そして背中を向けていた女性の肩に手を掛けた。
「お探しの方は存じませんよ」
覚醒済みのシルヴィアが男一人を転ばせて渠打ちに踵を落とす。剣を抜こうとしたもう一人の顎には拳を捻り込んだ。
気絶する男二人組を目立つ道ばたへと放りだしたところでシルヴィアも退散。村外で待っていた卯月瑞花も乗る荷馬車と合流し、メイムとミッシルへと追いつくのだった。
●
看守が鍵を使って鉄格子牢の扉を開いた。突き飛ばされるように押し込まれた泥酔の男二人が床へと転がる。その二人は薄ら笑いを浮かべながらそのまま寝入ってしまう。
看守が牢前から姿を消した頃、二人はむくりとその場へと座り込んだ。
牢は大部屋で総勢十五名。寝転ぶ者、欠伸をする者、賭け事をする者など。全員が何かしらでだらけていた。
「あの奥にいるのがそうだよな?」
ツィーウッドが先にリストンを見つける。
ザレムは説得役としてリストンに接近。ごろりと床へ寝て「酒を飲んで気持ちよくなって一寸暴れたんだ」と笑ってみせた。
ツィーウッドは鉄格子にもたれ掛かり、看守が現れないかを見張る。
「相当呑んだみたいだな。入ってまもないはずなんだが、もう何年も飲んでいない気がする……」
「調子に乗ってな。酔いが醒めたらここからでられると思うから、そしたら一緒に美味い酒でも飲まないか?」
「いや、無理なんだ。盗みで捕まったから三年ぐらいは……信じてもらえないだろうが、俺は無実なんだよ」
リストンがザレムの世話話に乗ってきた。誰にも聞かれないよう牢の隅へと移る。
ツィーウッドが合図として首筋をかくとザレムは口を閉ざす。看守が通り過ぎてから話を再開した。
「なあ、脱獄しないか?」
ザレムの囁きにリストンが両の眼を大きく開く。
「此処に居ると殺されるぞ。理由は察してるだろ?」
「何となくは……だけど」
「あの殺人を目撃した口封じさ。けど真実を暴きたい人達が俺達を寄越したんだ。すべては貴方を助けて生かすためにさ」
リストンが愚痴をこぼす。ここのところ自分だけ食事の量が極端に減らされていて我慢の限界だと。
「トリガはちゃんと食べてるだろうか……」
愛犬のことを思いだしたリストンの目に覚悟の光が宿る。
ツィーウッドは見張りをしながら他の囚人と話していた。
「二年もここにいるのかァ。食い物とかどうなんだ?」
「それがよ。町長が替わってから酷いもんだぜ。贅沢とかじゃなくてよ。前の半分以下しか量はねぇ。水浴びも三日に一度から一週間になっちまったしよ」
ツィーウッドは何人かの囚人と約束を交わす。早めにでられたのなら、いつか差し入れを持ってくると。
実際、運ばれてきた晩食は酷いものであった。
一晩が過ぎ去って翌日。一人の女性がザレムとツィーウッドを引き取るために留置所を訪れる。女性らしい清楚な服装のエマであった。
「二人がご迷惑をかけてごめんなさいね。宜しければお詫びに」
釈放を促すための金子を看守達に握らせる。重犯罪人では難しいものの、喧嘩で入れられた程度なら鼻薬は効く。たくさんの葡萄酒も看守達に差し入れする。
「わりぃな」
鉄格子越しにツィーウッドが声をかけるとエマが微笑む。
ちょうど昼食時だったので、エマは看守達にお酌した。葡萄酒に混ぜられた睡眠薬よって看守達が次々と眠りに誘われる。
エマは物影で無線を取りだし、ルーデンスと連絡をとった。
ルーデンスは留置所のすぐ外で待機していた。建物の間に隠れて浮き輪を膨らます。
「――さて、上手くやっておくれよ」
門番に背中が見える位置取りをし、符術の胡蝶符で遠くの浮き輪を破裂させる。その直後に留置所の門を勝手に駆け抜けて叫んだ。「ウ、ウワァァァァッ!? っべー、マジ、な、なんだよあれ! 助けて!」と。
門番だけでなく所内の看守達も巻き込んで嘘をばらまいた。「銃だよ! 銃!! 街中で銃ぶっ放したアホがいるんだよ!! ほっとくとヤバいってアレ!」
その場に居た所員十人のうち、四名が外へ向かう。
「逃がすと責任問題じゃないの?!」
ルーデンスは残った六名も口車に乗せようとする。こうして四名がルーデンスと一緒に現場へ向かうこととなった。残った二名は門番なので、留置所内の玄関口付近は誰もいなくなる。
その頃、エマが眠りこけていた看守のベルトから鍵を入手。その鍵で鉄格子の扉が開けられた。即座に抜けだしたのはザレム、ツィーウッド、そして説得されたリストンだ。
看守達は寝ていたか、眠りかけていたかのどちらかである。
玄関口を通じて庭へでるとザレムが機導砲で高い外壁に穴を空けた。潜り抜けた後でリストンを抱えてジェットブーツで飛翔。ザレムとリストンは魔導バイクの隠し場所へ。二人乗りで留置所の敷地から遠ざかる。
エマとツィーウッドも馬で脱出。ルーデンスは所員達の前からいつの間にか姿を眩ます。
二時間後。脱獄に関わった全員が郊外の待ちあわせ場所で合流を果たしたのだった。
●
ミッシルとリストンを無事保護したハンター一行は、城塞都市マールの支部へと無事送り届ける。そこで詳しく前町長タオリの殺害状況が二人の口から語られた。
「聞こえてきたの。ここまでよくやってくれたと。女の声で、これから先はもう用済みだってタオリ町長に話しかけていたのよ」
ミッシルはタオリにナイフを突き刺した犯人の言葉を覚えていた。
「俺が居た場所は遠くて、会話は断片的にしか聞こえなかったんだ。でもミッシルさんがいっていたことは正しいと思うよ。……あの犯人の声に聞き覚えがある。ノリア町長とそっくりだ」
リストンは犯人の声質を記憶している。
殺人犯はフードを深く被っていて、顔の特徴については二人ともわからない。
「そうだ。もう一つ。死ぬ寸前のタオリ町長がいっていたの。機導術の魔導機械に仕掛けたとか」
「俺にも聞こえていたが、最後の部分が小さすぎてよくわからなかったよ」
ミッシルとリストンの証言はこれですべてであった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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▼質問卓 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/06/27 00:49:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/25 21:43:33 |
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相談掲示板 卯月 瑞花(ka6019) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/26 23:20:13 |