ゲスト
(ka0000)
格好良く叫んで魔王を撃破せよ!
マスター:チャリティーマスター
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
――この物語は、世界の終焉と闘った英雄達の物語――
「……馬鹿な……早すぎる……っ!?」
ノアーラ・クンタウの長城から北の大地を見た誰もがそう思った。
大地がひび割れ、地鳴りが大気を振るわせ、空には暗雲が立ちこめ、稲光が周囲を照らす。
恐ろしい負のマテリアルの奔流が全身を巻き込み、粟立つ肌を押さえることが出来ない。
轟音が鼓膜を打ち、雷光の眩しさに思わず視界を庇う。
重々しい雲を割って、巨大で不気味に蠢く顔が降りてくる。
遠くから見れば巨大な人の顔のようだが、近くで見ればそれが様々な生物を融合させたキメラじみた物だと知る。
口から吐くブレスは大地を融かし、炎上させた。
うねうねと動く髪のような蛇はその牙を剥き、嗤う。
「魔王グランドデッド……! あと3000年は封印されているはずではなかったのか……!?」
「くそ……こんな化け物とどうやって闘えっていうんだ……!?」
動揺する一同の後ろから、ひとりの老人が歩み寄った。
「こいつの弱点は……言霊に乗せたKPアタックじゃ」
「KPアタック……? 爺さん、知っているのか?」
「KPとはカッコイイポイント。格好いい言葉を叫びながら攻撃を繰り出すことで、人の強さと美しさを誇示し、グランドデッドの心を折るんじゃ……!」
「ま、まさかそんな攻撃方法が……!?」
「あとは、フュージョン攻撃も有効じゃよ」
「フュージョン攻撃……?!」
「心を通わせたひとりと協力し合い一緒に攻撃する事で、3倍以上の攻撃力を得ることが出来る技じゃ」
隣に立つ友を見る。……そこにいたはずの友は翼の生えた白虎の姿に変わっていた。その背に乗って攻撃すれば勇気百倍一騎当千であろうと思われた。
男はニヤリと笑う。お前が一緒なら、負ける気などしない。
「ここで、何としてでも食い止めてみせる……っ!!」
別の男もごくりと唾を飲み込みながら、腰元の長剣の柄へと手を掛ける。
「……あぁ。眠りから覚めてしまったことを後悔させてやろうぜ……!!」
「さぁ、魔王! かかってこい!!!」
「……馬鹿な……早すぎる……っ!?」
ノアーラ・クンタウの長城から北の大地を見た誰もがそう思った。
大地がひび割れ、地鳴りが大気を振るわせ、空には暗雲が立ちこめ、稲光が周囲を照らす。
恐ろしい負のマテリアルの奔流が全身を巻き込み、粟立つ肌を押さえることが出来ない。
轟音が鼓膜を打ち、雷光の眩しさに思わず視界を庇う。
重々しい雲を割って、巨大で不気味に蠢く顔が降りてくる。
遠くから見れば巨大な人の顔のようだが、近くで見ればそれが様々な生物を融合させたキメラじみた物だと知る。
口から吐くブレスは大地を融かし、炎上させた。
うねうねと動く髪のような蛇はその牙を剥き、嗤う。
「魔王グランドデッド……! あと3000年は封印されているはずではなかったのか……!?」
「くそ……こんな化け物とどうやって闘えっていうんだ……!?」
動揺する一同の後ろから、ひとりの老人が歩み寄った。
「こいつの弱点は……言霊に乗せたKPアタックじゃ」
「KPアタック……? 爺さん、知っているのか?」
「KPとはカッコイイポイント。格好いい言葉を叫びながら攻撃を繰り出すことで、人の強さと美しさを誇示し、グランドデッドの心を折るんじゃ……!」
「ま、まさかそんな攻撃方法が……!?」
「あとは、フュージョン攻撃も有効じゃよ」
「フュージョン攻撃……?!」
「心を通わせたひとりと協力し合い一緒に攻撃する事で、3倍以上の攻撃力を得ることが出来る技じゃ」
隣に立つ友を見る。……そこにいたはずの友は翼の生えた白虎の姿に変わっていた。その背に乗って攻撃すれば勇気百倍一騎当千であろうと思われた。
男はニヤリと笑う。お前が一緒なら、負ける気などしない。
「ここで、何としてでも食い止めてみせる……っ!!」
別の男もごくりと唾を飲み込みながら、腰元の長剣の柄へと手を掛ける。
「……あぁ。眠りから覚めてしまったことを後悔させてやろうぜ……!!」
「さぁ、魔王! かかってこい!!!」
リプレイ本文
●誰がために、何のために
とある教会の礼拝堂で静かに祈りを捧げていた神父がいた。
神父の名はエルディン(ka4144)。
祈りを捧げる彼の周囲を妖精アリスが光りの鱗粉を撒きながら飛び回る。
次の瞬間、エルディンの右手の手のひらから青白い光りが発せられ、苦悶の表情を浮かべながら右の手首を押さえた。
「くっ、まだです……」
ギチギチと音を立てるようにゆっくりと広げられた右の手のひらには丸い謎の紋章が浮かんでおり、それを見たアリスは満足そうに微笑んでいる。
「……神父様……?」
そっと礼拝堂の扉が開かれ、幼い少年少女達がエルディンを見ている。
エルディンは大きく深呼吸をすると、右手はストラの裾を握り締めながら扉の方へと笑顔を向けた。
「どうしましたか?」
いつもの笑顔にほっとしたように子ども達がエルディンの傍へと駆け寄ってきた。
「どこかお出かけなの?」
「えぇ、ちょっとお使いに行ってきますね」
「……帰ってくる?」
儀礼用のストラを身に纏い、普段と違う雰囲気を察した子ども達が不安げにエルディンを見る。
「当たり前じゃ無い! ほら、神父様を困らせるんじゃないわ」
お姉さん役の少女が笑顔で子ども達を宥めた。
「……行ってらっしゃい、神父様。神父様はおっちょこちょいでうっかりさんだから、気を付けて帰ってきて下さいね?」
「ありがとう、行ってきます」
エルディンは強がる少女に微笑み返すと、疼く右手を隠したままアリスを伴って礼拝堂を出た。
ノアーラ・クンタウの長城。
天の割れ目から姿を見せ始めた魔王グランドデッドを前に、時音 ざくろ(ka1250)は恋人である白山 菊理(ka4305)に手渡された手作りのお守りに口づけると、胸元へとしまった。
「目ェ覚ます時間を間違えたこと、後悔させてやるよ!!!」
央崎 枢(ka5153)が啖呵を切り、太陽の魔剣を引き抜くと正面で構えた。
その柄を握る手が細かに震えているのは、強敵と退治した興奮からなのか、それとも恐怖か。自分でも良くわからない。
それでも、何もできず終わるのは御免だ、と大きく息を吸い込むと丹田に力を込めた。
「……ボクは諦めないよ、君の遺志に応える為に!」
墨城 緋景(ka5753)の手には一枚の焦げた符が握られていた。
それはここまでの道のりで斃れ、命を散らせた仲間達との約束の符。
「行こう、共に」
符を掲げると、それに呼応するように符が輝きだした。
光りは緋景を包むように降り注ぎ、光りが消えたとき、そこにいたのは長身痩躯に黒髪の男。
体重はそのままに身長を188cmへ伸ばした緋景の真の姿だった。
普段は開いているのか解らないなどと言われる糸目は緩やかに開かれ、切れ長の瞳は真紅の光を宿していた。
「コモンズさん! あの人許せません……その、合体して倒すのです!」
シャルア・レイセンファード(ka4359)の魔王を指して『人』、という呼び方にノーマン・コモンズ(ka0251)はツッコミを入れるか少し迷って、止めた。
「合体ですかー、シャルアさん相当溜まってるんですねー」
代わりに軽口を叩けば、ノーモーションで盾が下顎を強打した。
「あ、ごめんなさい。手が滑ってしまって。大丈夫ですか?」
シャルアが、「あらあら」と両手で頬を押さえながら首を傾げてノーマンへ問う。
危うく決戦前に舌を噛んで死ぬ所だったノーマンは、無言のまま高速で首を縦に振った。
そして2人は向き合うと、互いに両手を取り合い、禁呪とされた合体魔法を紡ぐ。
「「究極合体! ファナティックブラッド!!」」
2人から放たれた魔力の奔流は2人を中心に竜巻のように巻き上がった。直後、その場にいたのは2人ではなく、1人の少女……いや。
「魔暴少女☆シャルア・レイセンファード、顕・現☆」
黒のゴシックドレスを翻し、腰まである柔らかな銀髪を風揺らした、魔暴少女シャルアがいた。
「ふぅ……私にこの姿を取らせるとは、わかっているわね下等生物? 私の怒りに触れてしまったという事に」
妖艶とも取れる微笑を浮かべながら高く飛び上がると、魔暴少女シャルアは魔王を睥睨する。
「世界の平和は、ざくろたちが取り戻すよ!」
ざくろはそんな仲間達を見て大きく頷くと、魔導符剣「インストーラー」を構え、長城の壁を力強く蹴って空へと舞い上がった。
●奇蹟を起こすために
魔王が怨嗟の塊のような蒼白い炎のブレスを吐く。
それを持ち前の反射神経と身体能力の高さから仰け反るようにして、最低限の動きだけで枢は避けると、一気に距離を詰めて、魔王の髪のようにひしめき合っている蛇たちへ向けてガラディンを振り上げる。
「不恰好な複合体(キメラ)が。解体してやろうか」
刀身は太陽のプロミネンスを思わせる光が焔のように揺らめき、振り下ろされる動きに合わせ鮮やかな軌跡を生み出していた。
アサルトDと呼ばれるこの技を用いれば、まるで豆腐を切るようなものだった。
何の抵抗を受けることなく蛇を薙ぎ払った後はそのまま距離を空け、周囲との連携をとり次の攻撃タイミングを見計らう。
「悠久の時を巡る星々よ……灯し滅びゆく幾千の光達よ……我らに力を! 『明滅する霜天宮』」
緋景が呪文を呟き符を空に放つと符は流星を思わせる動きで周囲を周回しながら落ちていく。
地上に落ちた符はまるで星屑のように煌めきながら、大地を包み、防御結界を貼った。
仲間だけでは無い、地上へのダメージそのものを減らす究極結界の一つを、緋景は習得していたのだ。
緋景はすぐに次の符を構え、魔王の次の動きを読むためじっと見つめる。
「羽虫にもわかるように身の程という物を教えてあげましょう、私は優しいからね」
魔王の周囲を浮遊する蒼白い魔弾をシャルアは片手で虫を追い払うようにして全て跳ね返すと、手のひらを空へ向けた。
まるで手のひらに羽毛でもあるかのように、優しくそっと息を吹きかけた。
すると、その吐息は冷気の嵐となって魔王を襲う。
「まさか……魔暴少女が誕生するとは……」
OPでKPアタックについて説明をした老人が、長城から身を乗り出すようにして決戦を見守っていた。
「魔暴少女……? 爺さん、知っているのか?」
同じく長城にいる男が老人に問う。
「あぁ。あれは、母体となる女性……この場合シャルア・レイセンファードがその性格から周りにセクハラやイタズラをされても言えず溜まった鬱憤と潜在魔力が、自由奔放な男性……この場合ノーマン・コモンズと合体する事によって爆発している状態じゃ」
見よ、と老人が魔暴少女シャルアを指差す。
「黒のゴシックドレスに銀髪と一見神秘的で美しさに目を奪われがちだが、今述べた通り鬱憤爆発状態なのでとにかく口が悪い。そしてどこをどうしたらそこまでになるのかわからないレベルに残虐冷酷無比でもある。そしてその圧倒的魔力は、地獄の大王が裸足で逃げ出して命乞いする程とも言われている」
「ま、まさかそんなフュージョン攻撃があるとは……!」
「あぁ、わしもこんな超伝説級の女王様……もとい、魔暴少女を見ることになるとは思わなかった……」
老人はシャルアに向かって拝んでいる。
――決して、黒いゴシックドレスなのに飛び立つときに見えたパンティーが淡桃色の総レースだったからとかいう理由では無い。決して。決して。
「お前がどんな強大な魔王だとしても、この世に悪の栄えたためしはない! 唸れ機導の咆吼!!」
ざくろが魔導符剣に渾身の力を込めて斬り掛かる。
しかし、縄状に絡まり合い、鞭状にしなった蛇たちによってその一撃は防がれ、逆に弾き飛ばされ、地面へと叩き付けられた。
「っ、ぐぅうぅぅ」
痛みに呼吸が上手く出来ず、ざくろは喘ぎながら身体を起こした。
その時、胸元に入れたお守りが光り輝き、光りは1人の女性の像を結んだ。
「菊理……っ!」
『ざくろ、一緒に、行こう』
祈りを通じ、思念体として現れた菊理は、優しく微笑むとざくろへと手を差し伸べる。ざくろは差し出された手を取ると力強く頷いた。
2人の手が、2つの心が合わさると、2人の頭上には愛のオーロラが架かり、そこは2人のための空中のダンスホールのように輝いた。2人はダンスを踊るかの様に天を翔ると、魔王の攻撃を軽々と避ていく。
『貴様を黄泉の世界へ括らせて貰う!』
菊理は菊理媛神の力を借りると、魔王を糸で括り動きを封じ、ざくろの攻撃チャンスを作る。
ざくろは心の中に燃える炎を結晶化したカードを取り出し、魔導符剣にセットすると、大きく振りかぶった。
「心に眠りし竜よその息吹を解き放て、ドラゴンドライブインストール! 全てを焼き尽くし、核への道を開け!!」
振り下ろした剣からは聖龍の幻影が炎を纏いながら魔王へと襲いかかる。
聖なる炎に焼かれ、魔王は大気を振るわせるような咆哮を上げた。
「やったか……!?」
『まだだよ、ざくろ、あれを見て』
大きな稲光と共に、天の割れ目から顔だけを出していた魔王の、ついに右肩と右腕が現れる。
「っち、しぶとい野郎だ」
枢が額を流れる汗を乱暴に拭いながら、大剣を構え直すと再びアサルトDを放たんと空中を蹴った。
「これ以上、お前の好きにさせない……顕現する夢、舞う軌跡、その姿胡蝶となり貫け。『踊る夢見鳥』」
緋景が両手で包んだ符に息を吹きかけると蝶の姿に変わり飛び立った。蝶は仲間の間を縫うようにひらりひらりと舞い、その優雅さとは対照的に高火力の光弾となって魔王へと襲いかかっていく。
「害虫の駆除にこれを使ってあげる事を光栄に思いながら死になさい、ああ慈悲深い私はなんて優しいのかしら」
シャルアもまたスカートを翻しながら、魔王の攻撃を避け、魔王を守るように周囲を飛ぶ魔弾を次々に吐息のブリザードで撃墜していく。
それでもなお、魔王は徐々に徐々にその身体を地上へと現してくる。
「いかん、まだ足りないのじゃ」
「な、何がだよ」
慌てふためく老人に、男は焦ったように問う。
「奇蹟を起こすためには、これだけでは足りんのじゃ……!」
「わかっています」
静かな肯定の声が老人と男の後ろから聞こえた。
「おぉ、お主は……!」
「天啓と聖痕を受け、使徒アリスの導きに従い、ここに来ました」
エルディンは顔を上げ、十字架を胸に抱いた。
「さあ、アリス、行きましょう、人々の笑顔と未来のために!」
エルディンの言葉に嬉しそうにアリスは光りの鱗粉を散らしながら飛び上がると、エルディンの額にキスを贈った。
次の瞬間、アリスの全身が発光し、エルディンの中へと融ける。
頭に天使の輪が輝き、背中には3対の白い翼。
光の神の加護で擬似的に熾天使の座を与えられたエルディンの姿がそこにはあった。
●いとおしいもののために
「聞こえます。風の、空の、大地の……助ける声が」
エルディンは空を舞い、皆の元に一気に駆けつけた。
アルカイックスマイルを浮かべたエルディンは静謐な瞳で魔王を見ると、これまで疼きを抑えてきた右手を魔王に向ける。
紋章の光が蔦のように空中に呪を刻みながら輝きを増し、エルディンの後ろにはセフィロトの樹が現れた。
「全知全能の神よ、我らが人に知恵を与えし者よ、魔王を戒め、裁きの杭を授けたまえ!」
紋章から光の杭が現れ、それは光の速さで魔王の喉元――秘中に突き刺さり動きを止める。
右手の紋章と杭は光りの蔦で繋がっている。それを断ち切らせまいと、エルディンは苦悶の表情を浮かべながらも左手で右手を支えながら叫んだ。
「皆さん! 今こそ魔王に鉄槌を!!」
エルディンの声に、それぞれが最終奥義を繰り出さんと神経を集中させる。
緋景の指の間から力強く放たれた符が、杭の苦痛に暴れる魔王の視界を奪う。
「『緋色の天蓋』……散る桜は綺麗かい? ボクらの涙、体、願いの重さだよ」
花弁の間からいつもの柔和な笑顔を浮かべ――次の瞬間には紅い瞳で鋭く魔王を睨む。
「万物創世の初めの神よ、我が呼び声に応えたまえ、汝が生まれいでしは極寒をも超える絶望の極致、されど汝は灼熱を超えるそれを持って己が身を守り世界を生み出す、我は忘れられしその物を欲す、如何なるモノを焼き尽くし、くべる薪の様に万物を燃やし尽くすそれを……『極限破壊灰燼発生魔法ウラノス・ヴェール(原初の神の産包み)』!」
まるでピッチャーのように振りかぶったかと思うとシャルアの右手から灼熱の業火が現れ、剛速球となって魔王を焼き払う。
「夜は明け、暁となるが如く、闇は光が切り裂く――」
エルディンの杭と緋景の桜吹雪、そしてシャルアの業火に自由を奪われた魔王の頭上へ、枢は一直線に球滑降した。
「“夜明け”の時間だ。光に還れ!! デイ――ブレイカーァっっっ!!!」
ざくろは菊理と2人で剣に手を添えて、世界を分断する様な巨大な光の剣を錬成するとそれを正眼に構えた。
「菊理、今こそ2人の愛で……」
『ざくろ、2人じゃない、3人だよ』
そっとお腹に手を当てて微笑む菊理に、ざくろはその大きな瞳が溢れんばかりに見開いて菊理を見た。
「……3人の愛で愛の女神の名において我らが命ずる、光よ今一度世界を切り裂き全てを照らす光となれ!」
巨大な光りの剣は魔王の核へと吸い込まれ――
――そして、世界は光りに包まれた。
魔王の首が石となり大地に転がった。
それと同時に人の姿を取り戻したエルディンもまた倒れた。
「エルディンさん!」
枢がエルディンに駆け寄り、その手を取った。
「ごめんなさい、私、帰れません。皆、いい子でいるのですよ……」
ふっ、とその力が失われ、手は大地へと落ちた。
「……彼の魂は……空に還ったんだね……」
星屑と共に元の姿に戻った緋景は空を見上げ、枢は十字を切って祈りを捧げた。
それを、魔暴少女から元に戻ったシャルアとノーマン、そしてざくろも目を閉じて悼んだのだった。
●そして、伝説へ。
「こうして魔王グランドデッドは消え去り、世界は平和を取り戻したのでした。おしまい」
「すごい! 勇者様達は世界を救ったんだ!」
「ねぇ、シスター。それで勇者様達はその後どうなったの?」
「さぁねぇ……私が知っているのはここまで」
「えー」
「ほら、もう寝る時間よ、みんな、おやすみなさいは?」
「はーい、おやすみなさーい」
子ども達が布団に入ったのを確認して、子供部屋の電気を切ると、妙齢のシスターはそっと部屋を出た。
優しい月明かりが礼拝堂照らし、自分の立てる衣擦れだけが響く。
「……『行ってきます』って言ったのにね」
「えぇ、すっかり遅くなってしまいました」
返ってくるはずの無い声にシスターは目を見開いて振り返る。
「ただいま」
懐かしい人影に、シスターは目にいっぱいの涙を溜めて微笑んだ。
「……おかえりなさい」
――そう、奇蹟を起こすのはいつだって、いとおしいものを思う心……愛、それしかないのだ。
とある教会の礼拝堂で静かに祈りを捧げていた神父がいた。
神父の名はエルディン(ka4144)。
祈りを捧げる彼の周囲を妖精アリスが光りの鱗粉を撒きながら飛び回る。
次の瞬間、エルディンの右手の手のひらから青白い光りが発せられ、苦悶の表情を浮かべながら右の手首を押さえた。
「くっ、まだです……」
ギチギチと音を立てるようにゆっくりと広げられた右の手のひらには丸い謎の紋章が浮かんでおり、それを見たアリスは満足そうに微笑んでいる。
「……神父様……?」
そっと礼拝堂の扉が開かれ、幼い少年少女達がエルディンを見ている。
エルディンは大きく深呼吸をすると、右手はストラの裾を握り締めながら扉の方へと笑顔を向けた。
「どうしましたか?」
いつもの笑顔にほっとしたように子ども達がエルディンの傍へと駆け寄ってきた。
「どこかお出かけなの?」
「えぇ、ちょっとお使いに行ってきますね」
「……帰ってくる?」
儀礼用のストラを身に纏い、普段と違う雰囲気を察した子ども達が不安げにエルディンを見る。
「当たり前じゃ無い! ほら、神父様を困らせるんじゃないわ」
お姉さん役の少女が笑顔で子ども達を宥めた。
「……行ってらっしゃい、神父様。神父様はおっちょこちょいでうっかりさんだから、気を付けて帰ってきて下さいね?」
「ありがとう、行ってきます」
エルディンは強がる少女に微笑み返すと、疼く右手を隠したままアリスを伴って礼拝堂を出た。
ノアーラ・クンタウの長城。
天の割れ目から姿を見せ始めた魔王グランドデッドを前に、時音 ざくろ(ka1250)は恋人である白山 菊理(ka4305)に手渡された手作りのお守りに口づけると、胸元へとしまった。
「目ェ覚ます時間を間違えたこと、後悔させてやるよ!!!」
央崎 枢(ka5153)が啖呵を切り、太陽の魔剣を引き抜くと正面で構えた。
その柄を握る手が細かに震えているのは、強敵と退治した興奮からなのか、それとも恐怖か。自分でも良くわからない。
それでも、何もできず終わるのは御免だ、と大きく息を吸い込むと丹田に力を込めた。
「……ボクは諦めないよ、君の遺志に応える為に!」
墨城 緋景(ka5753)の手には一枚の焦げた符が握られていた。
それはここまでの道のりで斃れ、命を散らせた仲間達との約束の符。
「行こう、共に」
符を掲げると、それに呼応するように符が輝きだした。
光りは緋景を包むように降り注ぎ、光りが消えたとき、そこにいたのは長身痩躯に黒髪の男。
体重はそのままに身長を188cmへ伸ばした緋景の真の姿だった。
普段は開いているのか解らないなどと言われる糸目は緩やかに開かれ、切れ長の瞳は真紅の光を宿していた。
「コモンズさん! あの人許せません……その、合体して倒すのです!」
シャルア・レイセンファード(ka4359)の魔王を指して『人』、という呼び方にノーマン・コモンズ(ka0251)はツッコミを入れるか少し迷って、止めた。
「合体ですかー、シャルアさん相当溜まってるんですねー」
代わりに軽口を叩けば、ノーモーションで盾が下顎を強打した。
「あ、ごめんなさい。手が滑ってしまって。大丈夫ですか?」
シャルアが、「あらあら」と両手で頬を押さえながら首を傾げてノーマンへ問う。
危うく決戦前に舌を噛んで死ぬ所だったノーマンは、無言のまま高速で首を縦に振った。
そして2人は向き合うと、互いに両手を取り合い、禁呪とされた合体魔法を紡ぐ。
「「究極合体! ファナティックブラッド!!」」
2人から放たれた魔力の奔流は2人を中心に竜巻のように巻き上がった。直後、その場にいたのは2人ではなく、1人の少女……いや。
「魔暴少女☆シャルア・レイセンファード、顕・現☆」
黒のゴシックドレスを翻し、腰まである柔らかな銀髪を風揺らした、魔暴少女シャルアがいた。
「ふぅ……私にこの姿を取らせるとは、わかっているわね下等生物? 私の怒りに触れてしまったという事に」
妖艶とも取れる微笑を浮かべながら高く飛び上がると、魔暴少女シャルアは魔王を睥睨する。
「世界の平和は、ざくろたちが取り戻すよ!」
ざくろはそんな仲間達を見て大きく頷くと、魔導符剣「インストーラー」を構え、長城の壁を力強く蹴って空へと舞い上がった。
●奇蹟を起こすために
魔王が怨嗟の塊のような蒼白い炎のブレスを吐く。
それを持ち前の反射神経と身体能力の高さから仰け反るようにして、最低限の動きだけで枢は避けると、一気に距離を詰めて、魔王の髪のようにひしめき合っている蛇たちへ向けてガラディンを振り上げる。
「不恰好な複合体(キメラ)が。解体してやろうか」
刀身は太陽のプロミネンスを思わせる光が焔のように揺らめき、振り下ろされる動きに合わせ鮮やかな軌跡を生み出していた。
アサルトDと呼ばれるこの技を用いれば、まるで豆腐を切るようなものだった。
何の抵抗を受けることなく蛇を薙ぎ払った後はそのまま距離を空け、周囲との連携をとり次の攻撃タイミングを見計らう。
「悠久の時を巡る星々よ……灯し滅びゆく幾千の光達よ……我らに力を! 『明滅する霜天宮』」
緋景が呪文を呟き符を空に放つと符は流星を思わせる動きで周囲を周回しながら落ちていく。
地上に落ちた符はまるで星屑のように煌めきながら、大地を包み、防御結界を貼った。
仲間だけでは無い、地上へのダメージそのものを減らす究極結界の一つを、緋景は習得していたのだ。
緋景はすぐに次の符を構え、魔王の次の動きを読むためじっと見つめる。
「羽虫にもわかるように身の程という物を教えてあげましょう、私は優しいからね」
魔王の周囲を浮遊する蒼白い魔弾をシャルアは片手で虫を追い払うようにして全て跳ね返すと、手のひらを空へ向けた。
まるで手のひらに羽毛でもあるかのように、優しくそっと息を吹きかけた。
すると、その吐息は冷気の嵐となって魔王を襲う。
「まさか……魔暴少女が誕生するとは……」
OPでKPアタックについて説明をした老人が、長城から身を乗り出すようにして決戦を見守っていた。
「魔暴少女……? 爺さん、知っているのか?」
同じく長城にいる男が老人に問う。
「あぁ。あれは、母体となる女性……この場合シャルア・レイセンファードがその性格から周りにセクハラやイタズラをされても言えず溜まった鬱憤と潜在魔力が、自由奔放な男性……この場合ノーマン・コモンズと合体する事によって爆発している状態じゃ」
見よ、と老人が魔暴少女シャルアを指差す。
「黒のゴシックドレスに銀髪と一見神秘的で美しさに目を奪われがちだが、今述べた通り鬱憤爆発状態なのでとにかく口が悪い。そしてどこをどうしたらそこまでになるのかわからないレベルに残虐冷酷無比でもある。そしてその圧倒的魔力は、地獄の大王が裸足で逃げ出して命乞いする程とも言われている」
「ま、まさかそんなフュージョン攻撃があるとは……!」
「あぁ、わしもこんな超伝説級の女王様……もとい、魔暴少女を見ることになるとは思わなかった……」
老人はシャルアに向かって拝んでいる。
――決して、黒いゴシックドレスなのに飛び立つときに見えたパンティーが淡桃色の総レースだったからとかいう理由では無い。決して。決して。
「お前がどんな強大な魔王だとしても、この世に悪の栄えたためしはない! 唸れ機導の咆吼!!」
ざくろが魔導符剣に渾身の力を込めて斬り掛かる。
しかし、縄状に絡まり合い、鞭状にしなった蛇たちによってその一撃は防がれ、逆に弾き飛ばされ、地面へと叩き付けられた。
「っ、ぐぅうぅぅ」
痛みに呼吸が上手く出来ず、ざくろは喘ぎながら身体を起こした。
その時、胸元に入れたお守りが光り輝き、光りは1人の女性の像を結んだ。
「菊理……っ!」
『ざくろ、一緒に、行こう』
祈りを通じ、思念体として現れた菊理は、優しく微笑むとざくろへと手を差し伸べる。ざくろは差し出された手を取ると力強く頷いた。
2人の手が、2つの心が合わさると、2人の頭上には愛のオーロラが架かり、そこは2人のための空中のダンスホールのように輝いた。2人はダンスを踊るかの様に天を翔ると、魔王の攻撃を軽々と避ていく。
『貴様を黄泉の世界へ括らせて貰う!』
菊理は菊理媛神の力を借りると、魔王を糸で括り動きを封じ、ざくろの攻撃チャンスを作る。
ざくろは心の中に燃える炎を結晶化したカードを取り出し、魔導符剣にセットすると、大きく振りかぶった。
「心に眠りし竜よその息吹を解き放て、ドラゴンドライブインストール! 全てを焼き尽くし、核への道を開け!!」
振り下ろした剣からは聖龍の幻影が炎を纏いながら魔王へと襲いかかる。
聖なる炎に焼かれ、魔王は大気を振るわせるような咆哮を上げた。
「やったか……!?」
『まだだよ、ざくろ、あれを見て』
大きな稲光と共に、天の割れ目から顔だけを出していた魔王の、ついに右肩と右腕が現れる。
「っち、しぶとい野郎だ」
枢が額を流れる汗を乱暴に拭いながら、大剣を構え直すと再びアサルトDを放たんと空中を蹴った。
「これ以上、お前の好きにさせない……顕現する夢、舞う軌跡、その姿胡蝶となり貫け。『踊る夢見鳥』」
緋景が両手で包んだ符に息を吹きかけると蝶の姿に変わり飛び立った。蝶は仲間の間を縫うようにひらりひらりと舞い、その優雅さとは対照的に高火力の光弾となって魔王へと襲いかかっていく。
「害虫の駆除にこれを使ってあげる事を光栄に思いながら死になさい、ああ慈悲深い私はなんて優しいのかしら」
シャルアもまたスカートを翻しながら、魔王の攻撃を避け、魔王を守るように周囲を飛ぶ魔弾を次々に吐息のブリザードで撃墜していく。
それでもなお、魔王は徐々に徐々にその身体を地上へと現してくる。
「いかん、まだ足りないのじゃ」
「な、何がだよ」
慌てふためく老人に、男は焦ったように問う。
「奇蹟を起こすためには、これだけでは足りんのじゃ……!」
「わかっています」
静かな肯定の声が老人と男の後ろから聞こえた。
「おぉ、お主は……!」
「天啓と聖痕を受け、使徒アリスの導きに従い、ここに来ました」
エルディンは顔を上げ、十字架を胸に抱いた。
「さあ、アリス、行きましょう、人々の笑顔と未来のために!」
エルディンの言葉に嬉しそうにアリスは光りの鱗粉を散らしながら飛び上がると、エルディンの額にキスを贈った。
次の瞬間、アリスの全身が発光し、エルディンの中へと融ける。
頭に天使の輪が輝き、背中には3対の白い翼。
光の神の加護で擬似的に熾天使の座を与えられたエルディンの姿がそこにはあった。
●いとおしいもののために
「聞こえます。風の、空の、大地の……助ける声が」
エルディンは空を舞い、皆の元に一気に駆けつけた。
アルカイックスマイルを浮かべたエルディンは静謐な瞳で魔王を見ると、これまで疼きを抑えてきた右手を魔王に向ける。
紋章の光が蔦のように空中に呪を刻みながら輝きを増し、エルディンの後ろにはセフィロトの樹が現れた。
「全知全能の神よ、我らが人に知恵を与えし者よ、魔王を戒め、裁きの杭を授けたまえ!」
紋章から光の杭が現れ、それは光の速さで魔王の喉元――秘中に突き刺さり動きを止める。
右手の紋章と杭は光りの蔦で繋がっている。それを断ち切らせまいと、エルディンは苦悶の表情を浮かべながらも左手で右手を支えながら叫んだ。
「皆さん! 今こそ魔王に鉄槌を!!」
エルディンの声に、それぞれが最終奥義を繰り出さんと神経を集中させる。
緋景の指の間から力強く放たれた符が、杭の苦痛に暴れる魔王の視界を奪う。
「『緋色の天蓋』……散る桜は綺麗かい? ボクらの涙、体、願いの重さだよ」
花弁の間からいつもの柔和な笑顔を浮かべ――次の瞬間には紅い瞳で鋭く魔王を睨む。
「万物創世の初めの神よ、我が呼び声に応えたまえ、汝が生まれいでしは極寒をも超える絶望の極致、されど汝は灼熱を超えるそれを持って己が身を守り世界を生み出す、我は忘れられしその物を欲す、如何なるモノを焼き尽くし、くべる薪の様に万物を燃やし尽くすそれを……『極限破壊灰燼発生魔法ウラノス・ヴェール(原初の神の産包み)』!」
まるでピッチャーのように振りかぶったかと思うとシャルアの右手から灼熱の業火が現れ、剛速球となって魔王を焼き払う。
「夜は明け、暁となるが如く、闇は光が切り裂く――」
エルディンの杭と緋景の桜吹雪、そしてシャルアの業火に自由を奪われた魔王の頭上へ、枢は一直線に球滑降した。
「“夜明け”の時間だ。光に還れ!! デイ――ブレイカーァっっっ!!!」
ざくろは菊理と2人で剣に手を添えて、世界を分断する様な巨大な光の剣を錬成するとそれを正眼に構えた。
「菊理、今こそ2人の愛で……」
『ざくろ、2人じゃない、3人だよ』
そっとお腹に手を当てて微笑む菊理に、ざくろはその大きな瞳が溢れんばかりに見開いて菊理を見た。
「……3人の愛で愛の女神の名において我らが命ずる、光よ今一度世界を切り裂き全てを照らす光となれ!」
巨大な光りの剣は魔王の核へと吸い込まれ――
――そして、世界は光りに包まれた。
魔王の首が石となり大地に転がった。
それと同時に人の姿を取り戻したエルディンもまた倒れた。
「エルディンさん!」
枢がエルディンに駆け寄り、その手を取った。
「ごめんなさい、私、帰れません。皆、いい子でいるのですよ……」
ふっ、とその力が失われ、手は大地へと落ちた。
「……彼の魂は……空に還ったんだね……」
星屑と共に元の姿に戻った緋景は空を見上げ、枢は十字を切って祈りを捧げた。
それを、魔暴少女から元に戻ったシャルアとノーマン、そしてざくろも目を閉じて悼んだのだった。
●そして、伝説へ。
「こうして魔王グランドデッドは消え去り、世界は平和を取り戻したのでした。おしまい」
「すごい! 勇者様達は世界を救ったんだ!」
「ねぇ、シスター。それで勇者様達はその後どうなったの?」
「さぁねぇ……私が知っているのはここまで」
「えー」
「ほら、もう寝る時間よ、みんな、おやすみなさいは?」
「はーい、おやすみなさーい」
子ども達が布団に入ったのを確認して、子供部屋の電気を切ると、妙齢のシスターはそっと部屋を出た。
優しい月明かりが礼拝堂照らし、自分の立てる衣擦れだけが響く。
「……『行ってきます』って言ったのにね」
「えぇ、すっかり遅くなってしまいました」
返ってくるはずの無い声にシスターは目を見開いて振り返る。
「ただいま」
懐かしい人影に、シスターは目にいっぱいの涙を溜めて微笑んだ。
「……おかえりなさい」
――そう、奇蹟を起こすのはいつだって、いとおしいものを思う心……愛、それしかないのだ。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
- 白山 菊理(ka4305)
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/28 23:14:47 |
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格好良く倒す卓 エルディン(ka4144) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/06/29 20:33:19 |