ゲスト
(ka0000)
【詩天】防禦の時
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- LV1~LV22
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/02 19:00
- 完成日
- 2016/07/10 08:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●密談
草木も眠る丑三つ時。暗闇に、二つの影が揺れる。
「……様。此度は素晴らしいものを頂戴し、恐悦至極に存じます」
「構いませんよ。泥田坊は副産物のようなものですし」
「いやはや。泥田坊は実に良き兵。もう少しお借りしていても宜しいか?」
「好きに使って良いと言った筈です」
「はっ。有難き幸せ」
深く腰を折る人影。もう一つの影が満足そうに頷く。
「では、後は頼みましたよ。私は客人をもてなさないといけませんから」
「客人とは、あの黒衣の男でしょうか。……あの者、本当に信用できるのですか?」
「……あなたが心配するようなことではありません。あなたはあなたの勤めを果たしなさい」
「御意」
再び頭を下げた人影を見ることもなく、もう一つの影は去ってゆき――。
生ぬるい風が、撫でるように吹き抜ける。
●再会
「こんにちは、シン君。元気にしてた?」
「はい、お蔭様で。先日はありがとうございました。助かりました」
「こちらこそありがとうです! また会えて嬉しいです!」
「本当、前回は大変だったよね。シンくん、いきなり歪虚に説教始めるしさ」
「あ、あれはですね……!」
久しぶりに会ったハンター達に、礼儀正しく頭を下げる少年。
深々と頭を下げ返すハンターに、もう一人のハンターが思い出したように呟くと少年はアワアワと慌てる。
「まあまあ、そう仰らず。シンさんも頑張ったのですから」
「元気そうで何よりだ。俺達を呼んだってことは……泥田坊のことが分かったのか?」
「……はい」
ハンターの問いに、すっと真顔になる少年。
シンと名乗るこの少年は、詩天の要人らしいが、詳しいことはよく分かっていない。
それでも。幼いながらに民を思う気持ちは本物で……前回、村を襲う泥田坊を撃退した折、一連の事件には首謀者がいるらしいという話を聞き、ハンター達が助力を申し出て――。
そして今回、シンから前回ハンター達が守った村……萩野村まで来て欲しいという手紙が届いて、この状況がある。
「首謀者の居場所は分かったのかい?」
「いえ、残念ながらそれはまだなんですが……でも、泥田坊達が近くの砦を根城にしていることが分かりました」
「砦……。今そこに人はいるの?」
「いいえ。ずいぶん前に打ち捨てられた砦です」
「それじゃ歪虚が入り込んでも不思議じゃないな」
「じゃあ、そこに行ってみれば何か分かるかしら」
「根城にしている、ということは泥田坊が多数いるかもしれませんわ。闇雲に近づいては危険かもしれません」
「そうだな。今揃ってる面子は俺達とシンの坊や含めて11人だ。しかも皆駆け出しハンターと来ている。用心を重ねたに越したことないな」
「そうだねえ。砦の地形でも分かれば大分違うのかなぁ」
むむむ、と腕を組んで考え込むハンター達と少年。
そこに聞こえて来たばたばたという足音。ハンター達が顔を上げると、村人が駆け込んできた。
「ハンターさん達、早う逃げなせえ!」
「……!? どうした? 一体何があった!」
「もうすぐここさ沢山の泥田坊が来るっぺよ!」
「何ですって……!?」
「前回は倒して下さったが今回は数が多くてな。多勢に無勢だんべ。今なら間に合うべ、わしらのことはええから早う逃げなされ!」
「ダメです! そんな! 村の皆さんを見捨てるなんてダメです……!」
突然の事態に叫ぶハンター。それにシンも頷いて考え込む。
「……この村には門と門扉がありましたね?」
「えっ? 確かにあっけど……」
「門を固く閉めて、村人の皆さんは村の中にいてください。決して外に出てはいけませんよ」
「どうなさる気ですの……?」
「砦に乗り込んで行きたいのはやまやまですが……困っている民を放って行く訳にはいきません。防衛線を敷きましょう」
「君は本当に正義感が強いんだねえ……」
「あっ。あの。でも皆さんにご迷惑おかけする訳にも……。当初の依頼しようと思っていたことと違いますし、降りて戴いても構いません」
「この期に及んでそれはないでしょ? 水臭いなあ、もう」
「こういう時に変な遠慮はなしにしてよね」
「そういうことだな。……さて。泥田坊がここに着くまでにどれくらいかかりそうだ?」
「ほだなぁ……。30分くれえかな」
「30分ね。その間に何か準備出来るかもしれないわね」
「そうですわね。周辺に使えるものがないか確認致しましょうか」
「ええ、急ぎましょう……!」
「む、村にあるモンだったら何でも使ってくだせえ!」
バタバタと迎撃準備を開始したハンター達に、慌てて声をかける村人。
正義感が強いが遠慮がちな少年と共に、ハンター達が立ち上がる。
「……さあ、泥田坊達。この地に混乱と死を。主に喜びを持ち帰るぞ!」
泥田坊の進軍を見つめ、ほくそ笑む人影。
不適な笑い声が辺りに響いた。
草木も眠る丑三つ時。暗闇に、二つの影が揺れる。
「……様。此度は素晴らしいものを頂戴し、恐悦至極に存じます」
「構いませんよ。泥田坊は副産物のようなものですし」
「いやはや。泥田坊は実に良き兵。もう少しお借りしていても宜しいか?」
「好きに使って良いと言った筈です」
「はっ。有難き幸せ」
深く腰を折る人影。もう一つの影が満足そうに頷く。
「では、後は頼みましたよ。私は客人をもてなさないといけませんから」
「客人とは、あの黒衣の男でしょうか。……あの者、本当に信用できるのですか?」
「……あなたが心配するようなことではありません。あなたはあなたの勤めを果たしなさい」
「御意」
再び頭を下げた人影を見ることもなく、もう一つの影は去ってゆき――。
生ぬるい風が、撫でるように吹き抜ける。
●再会
「こんにちは、シン君。元気にしてた?」
「はい、お蔭様で。先日はありがとうございました。助かりました」
「こちらこそありがとうです! また会えて嬉しいです!」
「本当、前回は大変だったよね。シンくん、いきなり歪虚に説教始めるしさ」
「あ、あれはですね……!」
久しぶりに会ったハンター達に、礼儀正しく頭を下げる少年。
深々と頭を下げ返すハンターに、もう一人のハンターが思い出したように呟くと少年はアワアワと慌てる。
「まあまあ、そう仰らず。シンさんも頑張ったのですから」
「元気そうで何よりだ。俺達を呼んだってことは……泥田坊のことが分かったのか?」
「……はい」
ハンターの問いに、すっと真顔になる少年。
シンと名乗るこの少年は、詩天の要人らしいが、詳しいことはよく分かっていない。
それでも。幼いながらに民を思う気持ちは本物で……前回、村を襲う泥田坊を撃退した折、一連の事件には首謀者がいるらしいという話を聞き、ハンター達が助力を申し出て――。
そして今回、シンから前回ハンター達が守った村……萩野村まで来て欲しいという手紙が届いて、この状況がある。
「首謀者の居場所は分かったのかい?」
「いえ、残念ながらそれはまだなんですが……でも、泥田坊達が近くの砦を根城にしていることが分かりました」
「砦……。今そこに人はいるの?」
「いいえ。ずいぶん前に打ち捨てられた砦です」
「それじゃ歪虚が入り込んでも不思議じゃないな」
「じゃあ、そこに行ってみれば何か分かるかしら」
「根城にしている、ということは泥田坊が多数いるかもしれませんわ。闇雲に近づいては危険かもしれません」
「そうだな。今揃ってる面子は俺達とシンの坊や含めて11人だ。しかも皆駆け出しハンターと来ている。用心を重ねたに越したことないな」
「そうだねえ。砦の地形でも分かれば大分違うのかなぁ」
むむむ、と腕を組んで考え込むハンター達と少年。
そこに聞こえて来たばたばたという足音。ハンター達が顔を上げると、村人が駆け込んできた。
「ハンターさん達、早う逃げなせえ!」
「……!? どうした? 一体何があった!」
「もうすぐここさ沢山の泥田坊が来るっぺよ!」
「何ですって……!?」
「前回は倒して下さったが今回は数が多くてな。多勢に無勢だんべ。今なら間に合うべ、わしらのことはええから早う逃げなされ!」
「ダメです! そんな! 村の皆さんを見捨てるなんてダメです……!」
突然の事態に叫ぶハンター。それにシンも頷いて考え込む。
「……この村には門と門扉がありましたね?」
「えっ? 確かにあっけど……」
「門を固く閉めて、村人の皆さんは村の中にいてください。決して外に出てはいけませんよ」
「どうなさる気ですの……?」
「砦に乗り込んで行きたいのはやまやまですが……困っている民を放って行く訳にはいきません。防衛線を敷きましょう」
「君は本当に正義感が強いんだねえ……」
「あっ。あの。でも皆さんにご迷惑おかけする訳にも……。当初の依頼しようと思っていたことと違いますし、降りて戴いても構いません」
「この期に及んでそれはないでしょ? 水臭いなあ、もう」
「こういう時に変な遠慮はなしにしてよね」
「そういうことだな。……さて。泥田坊がここに着くまでにどれくらいかかりそうだ?」
「ほだなぁ……。30分くれえかな」
「30分ね。その間に何か準備出来るかもしれないわね」
「そうですわね。周辺に使えるものがないか確認致しましょうか」
「ええ、急ぎましょう……!」
「む、村にあるモンだったら何でも使ってくだせえ!」
バタバタと迎撃準備を開始したハンター達に、慌てて声をかける村人。
正義感が強いが遠慮がちな少年と共に、ハンター達が立ち上がる。
「……さあ、泥田坊達。この地に混乱と死を。主に喜びを持ち帰るぞ!」
泥田坊の進軍を見つめ、ほくそ笑む人影。
不適な笑い声が辺りに響いた。
リプレイ本文
「……こんなことになってしまってすみません」
「シンのせいじゃないんだから謝らないの。もー。大勢で押し寄せちゃって嫌ねん」
「しかも同じ方角からやってくる、だなんて何かあることを教えてくださっているようなものですわね」
申し訳なさそうに頭を下げるシン(kz0198)の頬をちょん、と突くカメリア(ka4869)。
街道を見つめる金鹿(ka5959)の横で、アンネザリー・B・バルジーニ(ka5566)が頬に手を当てる。
「泥田坊は知能がない筈でしょ。統率が取れている……なんて逆に怖いわね」
「シン君、首謀者がいるって言ってたもんね。それが関係してるのかな」
「誰だろうと二度も村を襲うなんていけません! 反省が必要です!」
「砦の件も、首謀者の件も気になるが、まずは歪虚を片付けてからだな」
腕を組んで考え込む龍堂 神火(ka5693)。
ぷんぷん怒るエステル・ソル(ka3983)を宥めながら、三條 時澄(ka4759)も呟き……ラジェンドラ(ka6353)は少年の顔を覗き込む。
「俺達を呼ぶって約束は果たしてくれたな」
「はい。ご迷惑かとは思ったんですが……」
「それで正解だ。期待には応えるよ」
シンの頭をぽんぽんと撫でるラジェンドラ。それにノノトト(ka0553)も強く頷く。
「うん。ぼくも頑張るよ。村の人にこの前おにぎり貰ってお世話になったし、助けなきゃ。こういうの東方の言葉でイッシュク……何だっけ」
「一宿一飯の恩義、ですわね?」
「そう! それ!!」
「……あのお握りは美味しかったよね。僕らは詩天の人間じゃないかも知れないけど……でも、誰も傷付かないで、笑っていられたら、それって素敵なことだよね」
金鹿の助け舟に手を打つノノトト。バジル・フィルビー(ka4977)がクスッと笑う。
――そう。西方も東方も関係ない。ハンター達は、力なきものを守るために在るのだから。
ラース・フュラー(ka6332)はそんな仲間達のやり取りを見つめながら、考え込んでいた。
「シン……。まさかね」
「ラースさん、どうかしましたか?」
「ううん。ちょっと気になることがあって……シンさん。後でお話しさせて貰ってもいいですか?」
「はい。私に分かることであれば」
「……あなたにしか分からないことなんですけどね。今は撃退することだけを考えましょう」
「そうね。そうと決まれば迎撃準備よ!」
カメリアの声に仲間達は頷くと、それぞれの持ち場へと散っていく。
「この高さでは不安が残るが、継ぎ足している余裕は無いか。破られないことを最優先にしよう」
「うん。まずは門を中心にやるといいのかな」
「村人さんに声かけてきた! 手伝ってくれるそうだよ! 使えそうなものも持ってきてくれるって」
村をぐるっと囲む塀を見上げる時澄に、板の枚数を数えるノノトト。
走って戻ってきたバジルに頷き返したカメリアは、シンを呼び止めてトランシーバーと双眼鏡を手渡す。
「シンには火の見櫓から見張りをお願いしたいの。敵の姿、又は先行の仲間が戻ってくるのが見えたらすぐに教えて。皆が準備に集中出来るようお願いね」
「でも、私も準備に回った方がいいのでは」
「小さなお手伝いが大きなお手伝いを助けます。櫓さんでの偵察はとっても大事です」
「エステルの言う通りよ。頼りにしてるんだから。ほら、行った行った!」
「何かあったらすぐ知らせるんだぞ」
「は、はい!」
エステルとカメリア、時澄に促されて駆け出すシン。
ラジェンドラとラースが馬に跨り、仲間達を振り返る。
「よし、皆準備はいいか!?」
「エステルさん。そろそろ出ますよ!」
「はいです!」
「それじゃ、行ってきます!」
「御武運をお祈りしておりますわ」
「金鹿ちゃん、私達も行きましょう」
手を振る神火に、たおやかに礼をする金鹿はアンネザリーの声に頷き……。
先行班と、避難誘導班が出発したのはほぼ同時だった。
「釘を打ち付けている時間はないか。門にも傷をつけてしまうしな……」
「そんなこともあろうかと! じゃーん! ロープだよ!!」
「ロープ? それでどうする気だ?」
「板を横向きに塀に張り付けて、ロープで繋いで縛るの。こうすれば1か所が泥田坊に壊されそうになっても、他の部分が一緒になって支えるから丈夫になるよ……多分」
「ふむ。それなら門にも傷がつかないし、試してみる価値はあるな」
「でしょ! じゃ、時澄さん、そっち引っ張って」
門の表側。ロープで板を繋げながら補強をしていく時澄とノノトト。
その裏側では、カメリアとバジルが門の下辺りを調べていた。
「こう見ると意外と隙間あるわね」
「そうだね。出来ればこの辺埋めておきたいよね……」
「ハンター様。これで良かったら使ってくだせぇ」
「あら、ありがとう!」
「これなら何とかなりそうだね。カメリアさんそっち宜しく!」
古い木桶を持ってきてくれた村人に笑顔を返すカメリア。バジルと共に、突貫で門の隙間を埋めて行く。
その頃、金鹿とアンネザリーは村の1軒1軒を回り、村人達と話をしていた。
「突然お伺いして申し訳ございません。泥田坊の一団が迫っております。庄屋さんの家まで避難なさってくださいませ」
「仲間達が対応に当たっているから、泥田坊に入り込まれることはないと思うわ」
「念には念を入れて避難して欲しいんですの」
「絶対大丈夫だから、落ち着いて行動してね」
安心させるような笑顔を浮かべる2人に頷き返し、移動を始める村人達。
避難場所として庄屋の家を使わせて貰うようにしたし、万が一の時は後方の門から脱出できるようにも手配してある。
金鹿はよろよろと歩く老婆を見つけると、そっとその手を取る。
「おばあ様、足のお加減が宜しくないのですわね。私が庄屋さんの家までお送りしますわ」
「おお、すまないねえ……」
「庄屋さんの家に集まった人達の点呼をお願いね。一人でも欠けている人がいたら困るから」
「分かったべ」
手伝いを申し出た村人に指示を出すアンネザリー。これで、準備は大丈夫な筈だ……。
「……泥田坊が見えて来ました!」
先頭を走るラースの声。街道を進んで来る泥田坊に、エステルが眉根を寄せる。
「沢山いるです……! 変です。お行儀良く並んでるです!」
「やっぱりどこかで操ってる人がいるのかな」
「そうだな。気にはなるが……今はそれを調べるのが目的じゃない。ここで時間を稼いで数を減らせれば有利になるが、本番は村前だ。無理しない程度に行こう」
キョロキョロと周囲を伺う神火に、槍を構えるラジェンドラ。ラースが盾を構えて前に進み出る。
「私が盾になります。どうぞ皆さんは遠慮なく攻撃を!」
「ファイアーボール、行くです! それ以上前に出ないで下さいです!」
エステルの短い詠唱。放たれる火球。続く爆発音。それは、敵の半数以上を巻き込み、衝撃で泥田坊の身体が傾ぐ。
「やるな、エステルの嬢ちゃん!」
「まだ倒れてないです! 追撃お願いします!」
「任せろ!」
煌くラジェンドラの放たれる魔導槍。一条の光が泥田坊を貫き、泥田坊がぐしゃりとその場に崩れ落ちる。
そして神火の符から光り輝く蝶が飛び出し、歪虚にまっすぐに飛んで行き――。
「一体撃破しました! 残数18!」
――それにしても、狙いが分からない。何故村を襲うのか?
首謀者がいるということは何らかの目的があるということだ。でも、あの何の変哲もない、穏やかな村を幾度となく襲う理由が想像つかない……。
そんな事を考えている彼。仲間達と共に泥田坊にダメージを与えてはいるが、何しろ手数が多い。
取り囲まれそうになっているラースは、剣で応戦しながら必死に盾で攻撃を受け止めている。
もう一度来るはずの一撃の代わりに現れた光り輝く鳥。神火の放った瑞鳥符であると覚ると、ラースはふっと短く溜息をつく。
「ラースさん! しっかり!!」
「ありがとうございます。私のことより攻撃を……!」
「もう一度ファイアーボール行くですの! 下がってくださいです!」
その声に合わせて散会する仲間達。打ち込まれる火球に泥田坊が次々と泥に還っていく。
「残り12……! 大分数減らせたね」
「よし、このまま後退するぞ」
「殿を務めます! 皆さん、先行してください!」
「はいです!」
ラースの叫びに応えるように方向転換をする3人。村に向かって馬とバイクを走らせる――。
『皆さんが戻って来ました……!』
「了解した。俺達も出るぞ!」
「ノノトト君、敵来るよ!」
「ちょっと待ってー! あともうちょっとーー!!」
トランシーバーから聞こえるシンの声に、刀を抜き放つ時澄。
バジルの声に、ノノトトはアワアワと門の補強の仕上げをしている。
「お疲れさん。攻撃は俺達が引き受ける。疲れたなら休んでていいぞ」
「おいおい。美味しいとこ持ってこうったってそうはいかねえぞ」
「ふふ。怪我して大変かと思ったけど、大丈夫そうだね……!」
戻ってきた仲間を気遣う時澄にニヤリと笑い返すラジェンドラ。くすりと笑ったバジルのロッドから、聖なる光の弾が放たれ、歪虚に吸い込まれる。
「それじゃ、前線で引き付けるぞ。ラース、行けるか?」
「お任せください」
「わー! ぼくも戦うよーー!!」
迷わずに斬り込んで行く時澄とラース。その後を、バタバタとノノトトが追いかける。
「いよいよゲーム本番……かな。今回も頼むよ、ドルガ!」
「援護します! 頑張るです!」
ゴーグルをつけ、炎の龍を呼び出す神火。エステルの作り出した風の刃が、歪虚を切り伏せる時澄とラースの間を縫って舞う。
「……大分数が減っていますわね」
「そうねー。このまま撃破狙っちゃいましょうか」
「そうですわね。生かしておいても良いことございませんものね」
「うんうん。首謀者にがっかりしてもらいましょ☆」
にこにこ笑顔で不穏な会話をする金鹿とアンネザリー。
氷の矢を突き立てられ、動けなくなった泥田坊に、光の蝶が襲いかかり……花の乙女達の容赦のない攻撃で、泥田坊達は数を減らして行く。
「シンは後ろを見張っててね!」
「はい! カメリアさんは……?」
「私はここから援護よ。見てなさい。ここからでも届くんだから……」
火の見櫓の上から弓を番えるカメリア。
ここから、門の外を狙えるように長距離射撃ができる弓を持ってきたのだ。
十分に引き絞って――。
「おっ。流石だな。カメリアの嬢ちゃん」
目の前の泥田坊に突き立った矢を見て、親指を上に向け礼をするラジェンドラ。
そのまま崩れ去るそれを見て、彼は槍を持ち直す。
「……俺も負けてられんな!」
踏み込み、一気に間合いを詰めて歪虚を一閃する時澄。
その間も、周囲の様子を伺う。
――村ひとつには過剰ともいえる数の歪虚。操っている奴が蹂躙を楽しむ性質であるなら、ここが見える場所で見物しているはずだ。
どこだ。どこにいる……?
「もう一撃行くわよ!」
再び弓を引き絞るカメリア。泥田坊に向かって矢を放ったその時。視界の隅に、何かが映った。
「……人?」
慌てて双眼鏡を構える彼女。
――間違いない。人だ。
……いや、歪虚かもしれないがここからでは判別がつかない。
人型のそれの顔までは見えないが……倒される泥田坊に肩を竦めたのは分かる。
街道を戻って行く人影の距離を測る彼女。
弓は届く? いいえ、流石に無理ね……。
「あれが首謀者かしらん。嫌ねえ」
彼女がそう呟く頃。時澄が最後の泥田坊を撃破していた。
「無事に退治できて良かったけど、門が泥だらけになっちゃったね」
「街道もぐちゃぐちゃになっちゃったです。ごめんなさいです……!」
門を見つめて顔を顰めるバジルにぺこぺこと頭を下げるエステル。
そんな2人を、村人達がまあまあと宥める。
「いんやぁ。こうして村が無事だったのもハンターさん達のお陰だべ。感謝こそすれど文句はねえだよ」
「んだんだ。汚れっちまったのもわざとじゃねえべよ。片付けりゃええだ」
「そうだね。折角だし綺麗にして帰ります」
「お手伝いします!!」
「あ、ちょっと待って下さい」
村人と共に片づけを始めようとした2人をシンが呼び止め、バジルとエステルが首を傾げる。
「皆さんにお話したいことがあります。お時間戴いて宜しいですか?」
「……あの。シンさん。私もちょっとお伺いしたいことがあるんですが」
ラースの言葉にこくりと頷くシン。ただならぬ様子に、村人達も察したようで……。
「んー。生き返るわねー」
「村人さんには気を使ってもらってばっかりだわね」
村人から差し入れられちゃお茶を飲み、溜息をつくカメリアとアンネザリー。居住まいを正すシンに、ラースも真剣な眼差しを向ける。
「……あの、シンさん。失礼を承知で伺いますが、あなたは九代目詩天……三条 真美様ではありませんか?」
この国の名を冠し、王とも言える『詩天』。その座についた符術師は、お家争いの果てに八代目詩天の実子である真美が就任したと聞いている。
もし、己の推測が当たっているのなら。これまでの違和感に全て説明がつく――。
「おいおい。いくら要人って言ったって九代目詩天って言えば一国の主だろ? まさかこんなとこに……」
「はい。そうです」
さらっと認めた少年に、ずっこけるラジェンドラ。エステルは丸い目を更に丸くして仰け反る。
「ええっ!? シンさんはサネヨシさんです? お母様の執事さんと一緒の名前じゃないです?」
「エステル、ショック受けるのそこなのね」
「咄嗟に思いついた偽名なんですよ。名を騙ってしまってごめんなさい」
「そうだったですね。……いいんです。それでも一緒で嬉しいです」
ぼそっとツッコミを入れるカメリア。頭を下げる少年の頭を、元気付けるように撫でるエステルの横で、ラースが膝をついて頭を下げる。
「やはりそうでしたか……。話しにくいことを聞いて申し訳ありません。詩天様にご無礼仕りました。どうぞお許しを」
「あ、いえ。畏まらないでください。今までと変わらずにお願いします」
「それは僕達も有難いけど……そんな大事なこと、僕達に話してしまってよかったの?」
「皆さんには何度も助けて戴きました。これ以上隠し立てするのは失礼かと思いましたので……。隠していてすみませんでした」
「薄々そんなことじゃないかとは思っていた。気にしないでいい」
「でも、どうしてこの事件に一人で対応することになったの? 前の戦いもだけど、シン君が1人で抱えきれる問題じゃないよね。要人なら動かせる部下がいても不思議じゃないのに……」
時澄に宥められても申し訳なさそうにしていた少年は、神火の問いに明らかに挙動がおかしくなって……頬を染めて、もごもごと口を開く。
「ええと。それはその……お忍びで……」
「……黙って出てきたということですの? お家の方、きっと心配なさってますわよ」
「今詩天は、先の戦いもあって致命的な人手不足で……皆の手を煩わせたくなかったんです。それにどうしても気になることがあって……」
「泥田坊を操る首謀者のことですか?」
頬に手を当てて眉根を寄せる金鹿。続いたラースの問いに、シンが頷く。
「その首謀者が……三条の縁の者かもしれなくて。放っておけなかったんです」
「確証が持てないのに一人で来たんですの? 本当に困ったさんですわね」
「で、ですから! 次は正式に皆さんに依頼しようと思ってるんです!」
「ふふふ。それなら安心ね」
めっ! と叱る金鹿にくすくすと笑うアンネザリー。その横で、カメリアが考え込む。
「さっき火の見櫓から人影が見えたわ。はっきりと顔までは見えなかったけど、砦の方に向かって行ったみたい」
「こんな風に決まったところを狙って行動しているのは、命令を受けて動いているってことだよな」
「早急に砦を調べる必要があるな。次はさらに多い数での襲撃もありえる。主謀者がいるとするなら尚の事だ。考える頭があるということだからな。先手を打てるなら打っておいた方がいい」
「そうだね。あと、シン君の顔はなるべく隠しておいた方がいいよ。帰りもね。誰が狙っているか分からないでしょ」
「うん。ボクはシン君の味方だから。最後まで付き合うからね」
頷きあうラジェンドラと時澄。バジル神火も続いて……それに少年が心底不思議そうな顔をする。
「あの……どうしてそんなに親身になって戴けるんですか? まだ正式に依頼する前ですのに」
「シン君がすごく偉い人だったとしても、関係ないよ。同じ依頼を2回もこなした仲間……友達でしょ!」
「友達……?」
「ん? どうかした?」
「いえ。私、友達がいたことないので……」
「じゃあぼく達が友達第一号だね!!」
人懐こい笑顔のノノトトに、はにかむシン。ラジェンドラがニヤリと笑って近くの川を指差す。
「そりゃいいや。泥だらけだし、水浴びしたいな。友よ、一緒にどうだい?」
「えっ!? わ、私はその、大丈夫です」
「わーい! 入るー!」
「何だよ。男同士だろ? 恥ずかしがることないじゃないか」
「いえあの家訓で人前で肌を晒すなと……!」
「へー。偉い人って大変なんだねえ……」
「詩天様に無礼はダメです!」
3人とラースのやりとりに、仲間達が笑いを堪えて――。
こうして、一つの試練を乗り越えたハンター達。
少年の正体を知り、更に苦難は続きそうだけれど……。
きっと乗り越えてみせると、村の片づけを手伝いながら心に誓うのだった。
「シンのせいじゃないんだから謝らないの。もー。大勢で押し寄せちゃって嫌ねん」
「しかも同じ方角からやってくる、だなんて何かあることを教えてくださっているようなものですわね」
申し訳なさそうに頭を下げるシン(kz0198)の頬をちょん、と突くカメリア(ka4869)。
街道を見つめる金鹿(ka5959)の横で、アンネザリー・B・バルジーニ(ka5566)が頬に手を当てる。
「泥田坊は知能がない筈でしょ。統率が取れている……なんて逆に怖いわね」
「シン君、首謀者がいるって言ってたもんね。それが関係してるのかな」
「誰だろうと二度も村を襲うなんていけません! 反省が必要です!」
「砦の件も、首謀者の件も気になるが、まずは歪虚を片付けてからだな」
腕を組んで考え込む龍堂 神火(ka5693)。
ぷんぷん怒るエステル・ソル(ka3983)を宥めながら、三條 時澄(ka4759)も呟き……ラジェンドラ(ka6353)は少年の顔を覗き込む。
「俺達を呼ぶって約束は果たしてくれたな」
「はい。ご迷惑かとは思ったんですが……」
「それで正解だ。期待には応えるよ」
シンの頭をぽんぽんと撫でるラジェンドラ。それにノノトト(ka0553)も強く頷く。
「うん。ぼくも頑張るよ。村の人にこの前おにぎり貰ってお世話になったし、助けなきゃ。こういうの東方の言葉でイッシュク……何だっけ」
「一宿一飯の恩義、ですわね?」
「そう! それ!!」
「……あのお握りは美味しかったよね。僕らは詩天の人間じゃないかも知れないけど……でも、誰も傷付かないで、笑っていられたら、それって素敵なことだよね」
金鹿の助け舟に手を打つノノトト。バジル・フィルビー(ka4977)がクスッと笑う。
――そう。西方も東方も関係ない。ハンター達は、力なきものを守るために在るのだから。
ラース・フュラー(ka6332)はそんな仲間達のやり取りを見つめながら、考え込んでいた。
「シン……。まさかね」
「ラースさん、どうかしましたか?」
「ううん。ちょっと気になることがあって……シンさん。後でお話しさせて貰ってもいいですか?」
「はい。私に分かることであれば」
「……あなたにしか分からないことなんですけどね。今は撃退することだけを考えましょう」
「そうね。そうと決まれば迎撃準備よ!」
カメリアの声に仲間達は頷くと、それぞれの持ち場へと散っていく。
「この高さでは不安が残るが、継ぎ足している余裕は無いか。破られないことを最優先にしよう」
「うん。まずは門を中心にやるといいのかな」
「村人さんに声かけてきた! 手伝ってくれるそうだよ! 使えそうなものも持ってきてくれるって」
村をぐるっと囲む塀を見上げる時澄に、板の枚数を数えるノノトト。
走って戻ってきたバジルに頷き返したカメリアは、シンを呼び止めてトランシーバーと双眼鏡を手渡す。
「シンには火の見櫓から見張りをお願いしたいの。敵の姿、又は先行の仲間が戻ってくるのが見えたらすぐに教えて。皆が準備に集中出来るようお願いね」
「でも、私も準備に回った方がいいのでは」
「小さなお手伝いが大きなお手伝いを助けます。櫓さんでの偵察はとっても大事です」
「エステルの言う通りよ。頼りにしてるんだから。ほら、行った行った!」
「何かあったらすぐ知らせるんだぞ」
「は、はい!」
エステルとカメリア、時澄に促されて駆け出すシン。
ラジェンドラとラースが馬に跨り、仲間達を振り返る。
「よし、皆準備はいいか!?」
「エステルさん。そろそろ出ますよ!」
「はいです!」
「それじゃ、行ってきます!」
「御武運をお祈りしておりますわ」
「金鹿ちゃん、私達も行きましょう」
手を振る神火に、たおやかに礼をする金鹿はアンネザリーの声に頷き……。
先行班と、避難誘導班が出発したのはほぼ同時だった。
「釘を打ち付けている時間はないか。門にも傷をつけてしまうしな……」
「そんなこともあろうかと! じゃーん! ロープだよ!!」
「ロープ? それでどうする気だ?」
「板を横向きに塀に張り付けて、ロープで繋いで縛るの。こうすれば1か所が泥田坊に壊されそうになっても、他の部分が一緒になって支えるから丈夫になるよ……多分」
「ふむ。それなら門にも傷がつかないし、試してみる価値はあるな」
「でしょ! じゃ、時澄さん、そっち引っ張って」
門の表側。ロープで板を繋げながら補強をしていく時澄とノノトト。
その裏側では、カメリアとバジルが門の下辺りを調べていた。
「こう見ると意外と隙間あるわね」
「そうだね。出来ればこの辺埋めておきたいよね……」
「ハンター様。これで良かったら使ってくだせぇ」
「あら、ありがとう!」
「これなら何とかなりそうだね。カメリアさんそっち宜しく!」
古い木桶を持ってきてくれた村人に笑顔を返すカメリア。バジルと共に、突貫で門の隙間を埋めて行く。
その頃、金鹿とアンネザリーは村の1軒1軒を回り、村人達と話をしていた。
「突然お伺いして申し訳ございません。泥田坊の一団が迫っております。庄屋さんの家まで避難なさってくださいませ」
「仲間達が対応に当たっているから、泥田坊に入り込まれることはないと思うわ」
「念には念を入れて避難して欲しいんですの」
「絶対大丈夫だから、落ち着いて行動してね」
安心させるような笑顔を浮かべる2人に頷き返し、移動を始める村人達。
避難場所として庄屋の家を使わせて貰うようにしたし、万が一の時は後方の門から脱出できるようにも手配してある。
金鹿はよろよろと歩く老婆を見つけると、そっとその手を取る。
「おばあ様、足のお加減が宜しくないのですわね。私が庄屋さんの家までお送りしますわ」
「おお、すまないねえ……」
「庄屋さんの家に集まった人達の点呼をお願いね。一人でも欠けている人がいたら困るから」
「分かったべ」
手伝いを申し出た村人に指示を出すアンネザリー。これで、準備は大丈夫な筈だ……。
「……泥田坊が見えて来ました!」
先頭を走るラースの声。街道を進んで来る泥田坊に、エステルが眉根を寄せる。
「沢山いるです……! 変です。お行儀良く並んでるです!」
「やっぱりどこかで操ってる人がいるのかな」
「そうだな。気にはなるが……今はそれを調べるのが目的じゃない。ここで時間を稼いで数を減らせれば有利になるが、本番は村前だ。無理しない程度に行こう」
キョロキョロと周囲を伺う神火に、槍を構えるラジェンドラ。ラースが盾を構えて前に進み出る。
「私が盾になります。どうぞ皆さんは遠慮なく攻撃を!」
「ファイアーボール、行くです! それ以上前に出ないで下さいです!」
エステルの短い詠唱。放たれる火球。続く爆発音。それは、敵の半数以上を巻き込み、衝撃で泥田坊の身体が傾ぐ。
「やるな、エステルの嬢ちゃん!」
「まだ倒れてないです! 追撃お願いします!」
「任せろ!」
煌くラジェンドラの放たれる魔導槍。一条の光が泥田坊を貫き、泥田坊がぐしゃりとその場に崩れ落ちる。
そして神火の符から光り輝く蝶が飛び出し、歪虚にまっすぐに飛んで行き――。
「一体撃破しました! 残数18!」
――それにしても、狙いが分からない。何故村を襲うのか?
首謀者がいるということは何らかの目的があるということだ。でも、あの何の変哲もない、穏やかな村を幾度となく襲う理由が想像つかない……。
そんな事を考えている彼。仲間達と共に泥田坊にダメージを与えてはいるが、何しろ手数が多い。
取り囲まれそうになっているラースは、剣で応戦しながら必死に盾で攻撃を受け止めている。
もう一度来るはずの一撃の代わりに現れた光り輝く鳥。神火の放った瑞鳥符であると覚ると、ラースはふっと短く溜息をつく。
「ラースさん! しっかり!!」
「ありがとうございます。私のことより攻撃を……!」
「もう一度ファイアーボール行くですの! 下がってくださいです!」
その声に合わせて散会する仲間達。打ち込まれる火球に泥田坊が次々と泥に還っていく。
「残り12……! 大分数減らせたね」
「よし、このまま後退するぞ」
「殿を務めます! 皆さん、先行してください!」
「はいです!」
ラースの叫びに応えるように方向転換をする3人。村に向かって馬とバイクを走らせる――。
『皆さんが戻って来ました……!』
「了解した。俺達も出るぞ!」
「ノノトト君、敵来るよ!」
「ちょっと待ってー! あともうちょっとーー!!」
トランシーバーから聞こえるシンの声に、刀を抜き放つ時澄。
バジルの声に、ノノトトはアワアワと門の補強の仕上げをしている。
「お疲れさん。攻撃は俺達が引き受ける。疲れたなら休んでていいぞ」
「おいおい。美味しいとこ持ってこうったってそうはいかねえぞ」
「ふふ。怪我して大変かと思ったけど、大丈夫そうだね……!」
戻ってきた仲間を気遣う時澄にニヤリと笑い返すラジェンドラ。くすりと笑ったバジルのロッドから、聖なる光の弾が放たれ、歪虚に吸い込まれる。
「それじゃ、前線で引き付けるぞ。ラース、行けるか?」
「お任せください」
「わー! ぼくも戦うよーー!!」
迷わずに斬り込んで行く時澄とラース。その後を、バタバタとノノトトが追いかける。
「いよいよゲーム本番……かな。今回も頼むよ、ドルガ!」
「援護します! 頑張るです!」
ゴーグルをつけ、炎の龍を呼び出す神火。エステルの作り出した風の刃が、歪虚を切り伏せる時澄とラースの間を縫って舞う。
「……大分数が減っていますわね」
「そうねー。このまま撃破狙っちゃいましょうか」
「そうですわね。生かしておいても良いことございませんものね」
「うんうん。首謀者にがっかりしてもらいましょ☆」
にこにこ笑顔で不穏な会話をする金鹿とアンネザリー。
氷の矢を突き立てられ、動けなくなった泥田坊に、光の蝶が襲いかかり……花の乙女達の容赦のない攻撃で、泥田坊達は数を減らして行く。
「シンは後ろを見張っててね!」
「はい! カメリアさんは……?」
「私はここから援護よ。見てなさい。ここからでも届くんだから……」
火の見櫓の上から弓を番えるカメリア。
ここから、門の外を狙えるように長距離射撃ができる弓を持ってきたのだ。
十分に引き絞って――。
「おっ。流石だな。カメリアの嬢ちゃん」
目の前の泥田坊に突き立った矢を見て、親指を上に向け礼をするラジェンドラ。
そのまま崩れ去るそれを見て、彼は槍を持ち直す。
「……俺も負けてられんな!」
踏み込み、一気に間合いを詰めて歪虚を一閃する時澄。
その間も、周囲の様子を伺う。
――村ひとつには過剰ともいえる数の歪虚。操っている奴が蹂躙を楽しむ性質であるなら、ここが見える場所で見物しているはずだ。
どこだ。どこにいる……?
「もう一撃行くわよ!」
再び弓を引き絞るカメリア。泥田坊に向かって矢を放ったその時。視界の隅に、何かが映った。
「……人?」
慌てて双眼鏡を構える彼女。
――間違いない。人だ。
……いや、歪虚かもしれないがここからでは判別がつかない。
人型のそれの顔までは見えないが……倒される泥田坊に肩を竦めたのは分かる。
街道を戻って行く人影の距離を測る彼女。
弓は届く? いいえ、流石に無理ね……。
「あれが首謀者かしらん。嫌ねえ」
彼女がそう呟く頃。時澄が最後の泥田坊を撃破していた。
「無事に退治できて良かったけど、門が泥だらけになっちゃったね」
「街道もぐちゃぐちゃになっちゃったです。ごめんなさいです……!」
門を見つめて顔を顰めるバジルにぺこぺこと頭を下げるエステル。
そんな2人を、村人達がまあまあと宥める。
「いんやぁ。こうして村が無事だったのもハンターさん達のお陰だべ。感謝こそすれど文句はねえだよ」
「んだんだ。汚れっちまったのもわざとじゃねえべよ。片付けりゃええだ」
「そうだね。折角だし綺麗にして帰ります」
「お手伝いします!!」
「あ、ちょっと待って下さい」
村人と共に片づけを始めようとした2人をシンが呼び止め、バジルとエステルが首を傾げる。
「皆さんにお話したいことがあります。お時間戴いて宜しいですか?」
「……あの。シンさん。私もちょっとお伺いしたいことがあるんですが」
ラースの言葉にこくりと頷くシン。ただならぬ様子に、村人達も察したようで……。
「んー。生き返るわねー」
「村人さんには気を使ってもらってばっかりだわね」
村人から差し入れられちゃお茶を飲み、溜息をつくカメリアとアンネザリー。居住まいを正すシンに、ラースも真剣な眼差しを向ける。
「……あの、シンさん。失礼を承知で伺いますが、あなたは九代目詩天……三条 真美様ではありませんか?」
この国の名を冠し、王とも言える『詩天』。その座についた符術師は、お家争いの果てに八代目詩天の実子である真美が就任したと聞いている。
もし、己の推測が当たっているのなら。これまでの違和感に全て説明がつく――。
「おいおい。いくら要人って言ったって九代目詩天って言えば一国の主だろ? まさかこんなとこに……」
「はい。そうです」
さらっと認めた少年に、ずっこけるラジェンドラ。エステルは丸い目を更に丸くして仰け反る。
「ええっ!? シンさんはサネヨシさんです? お母様の執事さんと一緒の名前じゃないです?」
「エステル、ショック受けるのそこなのね」
「咄嗟に思いついた偽名なんですよ。名を騙ってしまってごめんなさい」
「そうだったですね。……いいんです。それでも一緒で嬉しいです」
ぼそっとツッコミを入れるカメリア。頭を下げる少年の頭を、元気付けるように撫でるエステルの横で、ラースが膝をついて頭を下げる。
「やはりそうでしたか……。話しにくいことを聞いて申し訳ありません。詩天様にご無礼仕りました。どうぞお許しを」
「あ、いえ。畏まらないでください。今までと変わらずにお願いします」
「それは僕達も有難いけど……そんな大事なこと、僕達に話してしまってよかったの?」
「皆さんには何度も助けて戴きました。これ以上隠し立てするのは失礼かと思いましたので……。隠していてすみませんでした」
「薄々そんなことじゃないかとは思っていた。気にしないでいい」
「でも、どうしてこの事件に一人で対応することになったの? 前の戦いもだけど、シン君が1人で抱えきれる問題じゃないよね。要人なら動かせる部下がいても不思議じゃないのに……」
時澄に宥められても申し訳なさそうにしていた少年は、神火の問いに明らかに挙動がおかしくなって……頬を染めて、もごもごと口を開く。
「ええと。それはその……お忍びで……」
「……黙って出てきたということですの? お家の方、きっと心配なさってますわよ」
「今詩天は、先の戦いもあって致命的な人手不足で……皆の手を煩わせたくなかったんです。それにどうしても気になることがあって……」
「泥田坊を操る首謀者のことですか?」
頬に手を当てて眉根を寄せる金鹿。続いたラースの問いに、シンが頷く。
「その首謀者が……三条の縁の者かもしれなくて。放っておけなかったんです」
「確証が持てないのに一人で来たんですの? 本当に困ったさんですわね」
「で、ですから! 次は正式に皆さんに依頼しようと思ってるんです!」
「ふふふ。それなら安心ね」
めっ! と叱る金鹿にくすくすと笑うアンネザリー。その横で、カメリアが考え込む。
「さっき火の見櫓から人影が見えたわ。はっきりと顔までは見えなかったけど、砦の方に向かって行ったみたい」
「こんな風に決まったところを狙って行動しているのは、命令を受けて動いているってことだよな」
「早急に砦を調べる必要があるな。次はさらに多い数での襲撃もありえる。主謀者がいるとするなら尚の事だ。考える頭があるということだからな。先手を打てるなら打っておいた方がいい」
「そうだね。あと、シン君の顔はなるべく隠しておいた方がいいよ。帰りもね。誰が狙っているか分からないでしょ」
「うん。ボクはシン君の味方だから。最後まで付き合うからね」
頷きあうラジェンドラと時澄。バジル神火も続いて……それに少年が心底不思議そうな顔をする。
「あの……どうしてそんなに親身になって戴けるんですか? まだ正式に依頼する前ですのに」
「シン君がすごく偉い人だったとしても、関係ないよ。同じ依頼を2回もこなした仲間……友達でしょ!」
「友達……?」
「ん? どうかした?」
「いえ。私、友達がいたことないので……」
「じゃあぼく達が友達第一号だね!!」
人懐こい笑顔のノノトトに、はにかむシン。ラジェンドラがニヤリと笑って近くの川を指差す。
「そりゃいいや。泥だらけだし、水浴びしたいな。友よ、一緒にどうだい?」
「えっ!? わ、私はその、大丈夫です」
「わーい! 入るー!」
「何だよ。男同士だろ? 恥ずかしがることないじゃないか」
「いえあの家訓で人前で肌を晒すなと……!」
「へー。偉い人って大変なんだねえ……」
「詩天様に無礼はダメです!」
3人とラースのやりとりに、仲間達が笑いを堪えて――。
こうして、一つの試練を乗り越えたハンター達。
少年の正体を知り、更に苦難は続きそうだけれど……。
きっと乗り越えてみせると、村の片づけを手伝いながら心に誓うのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問版 エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/06/29 23:41:19 |
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防衛線の作戦室 エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/07/02 18:34:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/27 21:50:23 |