ゲスト
(ka0000)
【夜煌】Blockade Runner
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2014/09/15 22:00
- 完成日
- 2014/09/18 22:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「っと、こういう時こそ、儲け時……ってな」
海上。
歪虚『狂気』が撃破され、ある程度の平静は海域に戻ってきた。だが、その残党が駆逐されつくしたわけではなく、またそれとは関係のない脅威もまた、無いとは限らない。
海は、未だに危険である。
そんな中、一隻の商船が、その海を移動していた。
「船長、本当に大丈夫なんですかい?歪虚どもが襲ってきたら――」
「バカだなぁ。こういう時こそチャンスなんだよ」
心配そうな部下の一人に、船長と呼ばれた男はそう返す。
「希少なもんは高く売れる。そういうもんだ。今回は別の依頼人から、たっけぇ金額での運搬依頼もあったしな。その荷物が、たった一つの小さな箱。儲けもんだ」
「……船長。ここに居るのは全員身内です。そういう建前は――」
船室の積荷。その厚い布の下にあったのは……彼らが言う『箱』以外にも、多くの食料と、薬品。
「ああ、そうだな。ここでかっこつけてもしかたねぇか。…そうだよ。こんな時だからこそ、俺たちは、俺たちの故郷を見捨てるわけにはいかねぇ」
タバコに一本、火をつける。
「あの箱の依頼人が護衛にハンターたちをも呼んだし、そいつらの仲間たちが大規模な作戦を展開して歪虚を駆除してるって話だ。俺たちがそう、運悪く遭遇する可能性は――」
――ズズーン
鈍い音と共に、大きく船が揺れる。
「どうした!」
駆けつけたハンターたちを手で制しながら、船長と呼ばれた男は叫ぶ。
「分かりません!何かが横からぶつかったようで――ひ、ひぃ!?」
ザシュ。
肉を切り裂く音と共に、彼に答えた声は途絶える。
すぐさま、ハンターと甲板に居た三人の男は、その理由を悟る。
――水中から跳躍し、甲板へと次々と魚人が着地する。
「ちっ……」
船長の『理屈』は間違っていなかった。ただ、運が悪いと言わざるを得ない。
その残った僅かな『狂気』の眷属は、彼らを狙ったのである。
「おい、てめぇら!」
乱暴な言葉は、余裕のなさからか。
「俺たち誰か一人でいい!操舵室まで送り届けてくれ! 下に居るだろうデカブツを……振り切ってやる!」
海上。
歪虚『狂気』が撃破され、ある程度の平静は海域に戻ってきた。だが、その残党が駆逐されつくしたわけではなく、またそれとは関係のない脅威もまた、無いとは限らない。
海は、未だに危険である。
そんな中、一隻の商船が、その海を移動していた。
「船長、本当に大丈夫なんですかい?歪虚どもが襲ってきたら――」
「バカだなぁ。こういう時こそチャンスなんだよ」
心配そうな部下の一人に、船長と呼ばれた男はそう返す。
「希少なもんは高く売れる。そういうもんだ。今回は別の依頼人から、たっけぇ金額での運搬依頼もあったしな。その荷物が、たった一つの小さな箱。儲けもんだ」
「……船長。ここに居るのは全員身内です。そういう建前は――」
船室の積荷。その厚い布の下にあったのは……彼らが言う『箱』以外にも、多くの食料と、薬品。
「ああ、そうだな。ここでかっこつけてもしかたねぇか。…そうだよ。こんな時だからこそ、俺たちは、俺たちの故郷を見捨てるわけにはいかねぇ」
タバコに一本、火をつける。
「あの箱の依頼人が護衛にハンターたちをも呼んだし、そいつらの仲間たちが大規模な作戦を展開して歪虚を駆除してるって話だ。俺たちがそう、運悪く遭遇する可能性は――」
――ズズーン
鈍い音と共に、大きく船が揺れる。
「どうした!」
駆けつけたハンターたちを手で制しながら、船長と呼ばれた男は叫ぶ。
「分かりません!何かが横からぶつかったようで――ひ、ひぃ!?」
ザシュ。
肉を切り裂く音と共に、彼に答えた声は途絶える。
すぐさま、ハンターと甲板に居た三人の男は、その理由を悟る。
――水中から跳躍し、甲板へと次々と魚人が着地する。
「ちっ……」
船長の『理屈』は間違っていなかった。ただ、運が悪いと言わざるを得ない。
その残った僅かな『狂気』の眷属は、彼らを狙ったのである。
「おい、てめぇら!」
乱暴な言葉は、余裕のなさからか。
「俺たち誰か一人でいい!操舵室まで送り届けてくれ! 下に居るだろうデカブツを……振り切ってやる!」
リプレイ本文
●開戦
「……この中で操舵ができる者は?」
目の前の魚人を油断なく見据えながら、冷静に、オウカ・レンヴォルト(ka0301)は三人の男に問う。
逆手で得物である機械の大剣を抜刀し、いつでも迎撃できるようにしながら、である。
「俺ら三人は全員、操舵できるぜ」
「そうか。……ならば、一人だけ俺と来い。残りのヤツは船室に入っていろ」
「なっ……俺たちはあんなヤツ怖くはねぇ! なんなら――」
「はいはーい。ジャマしないで。大人しく中に入っててねー。皆守ってあげるから」
「……全員纏めて海の藻屑になりたくなかったなら、大人しくする事だ」
有無を言わさず。強引に後ろの二名を松岡 奈加(ka0988)と如月 鉄兵(ka1142)が船室の中へと投げ込む。一般人がハンターの力に抵抗できるはずもなく。そのまま後ろの扉はバタンと閉められる。
「……すまんな」
「いーのよ。全員守りきって、無事に帰る。それが私たちの目的でしょ?」
にこっと、奈加がオウカに微笑みかける。
「……それじゃ、先に操舵室の入り口……確保してくる……」
「……気をつけてな」
「はい。出来るだけわたくしたちの方は早く済ませますので、皆様も急いでついてきてくださいね」
無表情な姫凪 紫苑(ka0797)が、疾風の如きマテリアルをその足に纏わせその場から飛び出した後。味方に一礼して、アイ・シャ(ka2762)もまたその後に続く。
『狂気』の眷属たる魚人たちが、彼女らを素通りさせるはずもない。飢えた獣の如く、一斉に飛び掛るが……
「……ジャマよ」
「お相手をしている時間は、わたくしたちにはありませんの」
残像すら見える、高速の動き。紫苑は跳躍し、アイシャは魚人たちの間の僅かな隙間をすり抜けるようにして。撹乱、駆け抜けていく。反撃を行わないのは、一刻も早く目標地点へと到達するためなのだろう。彼女たちを捕らえ損ねた魚人たちの動きに、一瞬の混乱が生まれる。
「道、空けて貰うよ!」
フラン・レンナルツ(ka0170)の威嚇射撃が一瞬魚人たちの動きを止める。直後に、海から飛び上がってきた敵に、
「うおおおお! 貴様らのあるべきところへ、カエレ!!」
ラグナ・グラウシード(ka1029)の盾が直撃し、そのまま海に叩き返す。
一つ息をつき、
「ピンチの状況だが、私は退かぬ!『窮地においてこそ騎士の真価は問われる』と『神聖騎士教則本』と書いてあるからッ!」
逆の手に持った本をバタンと閉じ。懐に仕舞うと共に盾を構えなおす。
空中でムーンサルトし、着地したアイシャ。振り向くと、紫苑は彼女のように操舵室には辿り着いていない。
装備量による速度の違い。通常の戦闘中ではその差は僅かだが、全力で疾駆した場合――その差は稼げる距離と言う形で顕著に現れる事となる。
分断された紫苑と合流すべく、敵の群れを切り裂くべく短剣を振り上げたその刹那。大きな揺れが、船を襲う。
「っ……」
咄嗟に刃を甲板に突き立て、バランスを崩す事を防ぐ。ここを追撃されれば危ない所だが、その攻撃が来る事はない。
何故ならば、魚人たちも同様にバランスを崩したからだ。遠くでは、甲板に上がったばかりの魚人の一体が落水する事も見て取れる。
体制を崩さなかった事による、僅かな立ち直りの早さ。それは『速度』を武器とする疾影士であるアイシャには、十分すぎる攻撃チャンスを作り出していた。
ナイフの一閃が、目の前の魚人を断ち切り。出来たそのスペースから、紫苑が滑り込む。
「これからが本番ですわね」
「うん……頑張って倒す」
背中合わせになった二人は、周囲の敵を駆逐すべく。その武器を構えた。
●増殖
「少しは止まってもいいもんだけどねぇ」
足元への威嚇掃射。然し、魚人たちはそれを恐れる事はなく、真っ直ぐに突っ込んでくる。
僅かにため息をつくフラン。弾丸による直撃で足を僅かに止める事はある物の、『威嚇射撃』は彼女が想像した程の効果を成してはいない。
――そもそも威嚇とは、相手が直撃を恐れる事を利用した、心理戦術の一種。
死すらも恐れぬ『狂気』の眷属には、効果が多少低下するのもまた自明の理であろう。
「この程度では怯まんか」
同様に、咆哮し『ブロウビート』による混乱を狙う鉄兵の行動も、また大きな効果を及ぼせてはいない。寧ろ威嚇射撃と違い弾丸による直撃がなく、純粋な精神威嚇である分、その効果は更に薄まっている。
「……ふん」
前方の敵を、オウカの一閃が断つ。後方より敵は襲来するが、それはラグナの盾にによって受け止められる。
直後、奈加が杖を振り下ろすと共に聖なる光が煌き。その魚人を灰と化す。
ドン。大きく船が体当たりで揺らぎ、オウカと彼の後ろをついてきた、船長と呼ばれた男――はバランスを崩し。ラグナは大きく揺れる船に船外へと投げ出されそうになる。
「教本どおりに固定してよかったっ!!」
船に、身につけた浮き輪についたロープを結びつけたお陰で。ターザンの如く水面を掠るように跳び、甲板へと復帰する。
直後。巨大な口が水面を割り。先程まで彼がいた場所に空を切るようにして噛み付いた。
「水中のアレは鮫型か……!」
万一にも船が壊され、こんな物が居る水中に叩き込まれてしまえば……どうなるかは想像に難しくない。
それを避けるためにも、一刻も早く前進しなければ。
体勢を立て直したオウカが見たのは、更に増えた魚人たち。
――初手に移動を優先し。先行班が攻撃を行わなかった事。
牽制、支援スキルを優先した者が多かった事。そして結果として相性の問題から、牽制スキルの効果が十全に発揮されなかった事。
これらは敵の数の増加に繋がり、その数の増加が僅かにオウカと船長の進軍速度を落としていた。
「……きりがない……」
斬っても斬ってもどこからともなく増加する魚人に辟易しながら、紫苑はただその大鎌を振るい続け、目の前の敵を肉塊と化していく。
「っ……」
再度、大きな揺れ。武器を床に突き刺して耐え、直後に大きくそれを振り上げ甲板の木屑を目潰しに使うと共に、目の前の敵を切り裂く。
そしてその木屑の嵐に乗じ、魚人の一体の背後に忍び寄ったアイシャの、脇下から後方への逆手の一刺しが、魚人の心臓を貫通する。
反撃は、幻影のようなステップで回避する。だが、敵が増えた弊害はこちらにも出ており――回避スペースを狭められてしまい、僅かに魚人の鋭いヒレが紫苑のふくらはぎを掠め、血が噴き出す。
――彼女らのように対策を行っている者は、この揺れを攻撃のチャンスとした。だが、対策を怠った者は、魚人同様大きな揺れの起こる時期には行動不能となる。その間も――魚人たちは、続々と水中から飛び上がり続けるのだ。
●隙
「……見えてきたな」
前方に戦う紫苑とアイシャの姿が見える。無愛想な彼なりに船長を励まそうとしたのか。オウカが呟く。
「あと一息だ――っ!?」
その直後、付近の魚人の一体が彼へと飛び掛る。咄嗟に機械剣でそれを受け止めるが、勢いに僅かに押し込まれてしまう。
直後、後ろから犬の吠えるような声。
「小太郎――後ろもか――!」
迸る電撃を放ち、目の前の敵を麻痺させ、振り返る。
攻めるために前進したフランの、振り向きざまの射撃は無理な体勢からと言う事もあり、完全に魚人を撃破は出来ず。既に前に進んだ彼らは、入り口を守る奈加、そして柊 真司(ka0705)のどちらからみても射程外。
ラグナはロープの長さの限界から直ぐには駆けつけられず。急いで浮き輪を外すが一手遅い。
そしてアイシャと紫苑とは……前方の敵により阻まれている。彼女らの剣、鎌閃がそれぞれ敵を断ち切るが、その直後の移動では届かない。
かくして、二体の魚人たちの手は船長に掛かり
「う、おおあぁぁぁあ!?」
その体をぼろ布のように引き裂いた。
「くっ……」
守りきれなかった事は悔やむべきだ。だが、その時は今ではない。
武器を構えなおし、次の操舵手を迎えるため、オウカは船室へ向かって駆ける。
――一方、その船室側。
例え射程内に居たとしても。奈加にオウカを援護する事は難しかっただろう。
「数だけは多いものだ」
気合の一撃で、奈加に聖光の力を付与された鉄兵の大鋸の如き剣が、敵を地に叩き伏せる。
すぐさま後ろの魚人がその穴を埋める様をみて、奈加があきれたような笑みを浮かべる。
「たいした根性ね」
彼女の聖光の一撃に足を砕かれた魚人は、尚も這うようにして接近してくる。まるで命尽きるまであきらめない、と言うかのように。
速度こそ低下している物の、何れは接近してくるそれ。振り上げる爪が狙うのは、銃を構えていた真司!
(「無事に帰ってきてくれる事が、一番大事なんだからね……?」)
出発前に言われたその一言が、天啓のように頭を過ぎり。咄嗟に飛びのいた真司。爪は彼の足を掠めるが、傷は小さく掴まれる事態にも至っていない。
「機導剣、起動! これでもくらいやがれ!」
その手には具現化された光の剣。飛び退く勢いで剣を魚人の頭部に突き刺し、そのまま船室の上の甲板の方へと着地する。
船室を守っていた三人の内、真司が後退した事で、残る魚人たちは一気に残りの二名……奈加と鉄兵に押し寄せる。己の防御力を高めた鉄兵が、敢えて奈加の前に出る事で彼女を守るが――いくら鋼鉄の防御力があるとは言え、敵の数が数である。一気に、やや防護が薄い脚、腕を中心に、その体には傷跡が増えていく。
「彼らを無事に守りきるなら、私達が倒れてちゃ話にならないわ……頑張りましょ」
奈加の回復術が鉄兵を癒し、彼自身もまた、自己治癒の術を展開し自身の傷を消す。が、それは即ち、攻撃の手が止まると言う事。
押し寄せる肉の壁は、既に強引に彼らを扉の前に追い詰めていた。
「数がこんなに厄介とはな……」
増えるのは知っていた。予想していなかったのは、これだけ増える速度が速い、と言う事。
真司の銃撃が、外側に居る魚人の頭部撃ち抜く。然し、魚人の層が厚過ぎて、中に居る二人への直接的な援護とはならず。
時間だけが、刻一刻と過ぎていく。
●タイムリミット
「退きたまえッ!」
「しつこいヤツは、どこでも嫌われるよ!」
フランの掃射により足を止めた隙に、ラグナの強打が、また一体魚人を水中に叩き落す。
彼女らの援護を受けたオウカは、自らに飛び掛る魚人を雷撃により麻痺させると、船室を守る二人に叫ぶ。
「……開けてくれ。もう一人動かさなければならん」
「無茶よこの状態じゃ! 開けた瞬間雪崩れ込まれるよ!」
――犠牲を抑えるために。一人だけ連れ出し残り二人を船室に押し込んだのは、この状況に於いては間違って居なかった。人命を守るのが、ハンターたちの信念であるからだ。
――ただ、それは「絶対に守り抜ける」と言う自信がある時にのみ適用される。一度一人目が殺害されてしまえば、船室にも押し寄せる魚人の群れによって、次の一人を迎えるのが困難になるというのは確実だからだ。
ドン。
何度目かの、大きな揺れ。
そろそろ船体も持たなくなってきている。
「いい加減に……しやがれ!」
真司のアサルトライフルが、また魚人を撃ち抜く。然し、弾切れだ。リロードする。その間に敵が増える。
剣に切り替え、襲い来る一体の攻撃を受け止め。返す手に光の剣を掴み、真っ直ぐ敵の胸へと突き刺す。
「キリがねぇ…早く次の人を連れて行け!」
船室の上から真司が見渡す。
操舵室付近のアイシャと紫苑は、上手く障害物を生かして回避している事もあり、それ程大きな消耗はない。ならば、急いで船室から人を連れ出し、上手く護衛して向かうことが出来れば、まだ間に合うかもしれない。
しかし、そもそもこの状態を想定していなかったハンターたちは、この場合の計画を立てておらず。ただ、各員の力に任せて、魚人の肉の壁を切り開いている状況であった。
――それでも。彼らの戦闘力は、魚人のそれを上回る。オウカと鉄兵の大剣が交差するように間にいた最後の魚人を叩き潰し、彼らは合流する。
扉を開ける際に丁度船が揺れて、扉を開けたまま隙を作らぬよう。オウカはゆれた直後に、扉を開けて船室へと飛び込む。
また、一際大きな揺れ。再度床に刃を突き立て耐えようとするアイシャだったが、激戦により甲板は既にぼろぼろになっており、即座に刃が抜けない場所を選ぶのは困難。
「……つかまって」
鎌を操舵室の壁に引っ掛けた紫苑が、彼女に手を伸ばす。
「だめですよ。紫苑様の支えも、そこまで安定してません。二人分の力が掛かったら、一緒に落ちてしまうかもしれません」
ふふ、と笑みを浮かべ。アイシャは付近の魚人に腕を伸ばし、しかと掴む。
「さて、どうしますか? 一緒に落ちますか?」
無論、『狂気』しかその頭にない魚人が選ぶ道は一つ。『攻撃』あるのみ。かくして、二人は水中へ落下する事になる。
まだ新たな操舵手が船室から出ていないのは僥倖と言えよう。でなければ、出てきた者は、きっとアイシャを助けるために水中へと飛び込んでいたのだから。
一人目の操舵手である船長を失ったハンターたちの奮戦の結果、船室前の魚人は大きく減らされている。
「今よ!」
ホーリーライトが目の前の魚人の顔面に叩きつけられ、光が一時的にその目を焼く。
その隙を突いて、二人目を守りながら、オウカが船室から飛び出し再度操舵室へと向かう。
「援護するぜ……真っ直ぐ突っ込みな!」
「ボクに任せて!」
未だ彼を襲おうとする魚人たちを。真司が腕を、そしてフランが脚を狙撃し、攻撃を間一髪で止める。
回転する紫苑の一閃が操舵室付近を薙ぎ払い、スペースを作り出す。後少し。あと少しで辿り着く――
ガン。
何かが折れる音と共に。猛烈な揺れが船を襲い、船が横に傾く。
「沈む――!」
水中に投げ出されたオウカが最後に見たのは、巨大な口を開けて。船室であった部分に噛み付き、食い散らかす鮫のような歪虚の姿であった。
●鮮血の海
水中に投げ出されたハンターたち。水中用武装に切り替え、迎撃を試みた者も居たが、鮫型の巨体による耐久力を突破するには至らない。
幸か不幸か。鮫型の狙いは『欠片の箱』のみだったようで、それを飲み込んだ後に悠々と撤退していった。
船室に居た船員の半数ほどがその一噛みに巻き込まれ、物資も大半が流されてしまったものの――魚人の大部分を甲板上で既に殲滅していた事から、船員の一部を救う事は出来た。
ハンターオフィスから派遣された迎えの救助船に引き上げられた真司は、ある疑問を頭に浮かべる。
――きっちり箱を奪うと言う意思を持っていたが故に、狂気の眷属とは思えない。
――果たしてあの鮫型は、なんだったのだろうか?
「……この中で操舵ができる者は?」
目の前の魚人を油断なく見据えながら、冷静に、オウカ・レンヴォルト(ka0301)は三人の男に問う。
逆手で得物である機械の大剣を抜刀し、いつでも迎撃できるようにしながら、である。
「俺ら三人は全員、操舵できるぜ」
「そうか。……ならば、一人だけ俺と来い。残りのヤツは船室に入っていろ」
「なっ……俺たちはあんなヤツ怖くはねぇ! なんなら――」
「はいはーい。ジャマしないで。大人しく中に入っててねー。皆守ってあげるから」
「……全員纏めて海の藻屑になりたくなかったなら、大人しくする事だ」
有無を言わさず。強引に後ろの二名を松岡 奈加(ka0988)と如月 鉄兵(ka1142)が船室の中へと投げ込む。一般人がハンターの力に抵抗できるはずもなく。そのまま後ろの扉はバタンと閉められる。
「……すまんな」
「いーのよ。全員守りきって、無事に帰る。それが私たちの目的でしょ?」
にこっと、奈加がオウカに微笑みかける。
「……それじゃ、先に操舵室の入り口……確保してくる……」
「……気をつけてな」
「はい。出来るだけわたくしたちの方は早く済ませますので、皆様も急いでついてきてくださいね」
無表情な姫凪 紫苑(ka0797)が、疾風の如きマテリアルをその足に纏わせその場から飛び出した後。味方に一礼して、アイ・シャ(ka2762)もまたその後に続く。
『狂気』の眷属たる魚人たちが、彼女らを素通りさせるはずもない。飢えた獣の如く、一斉に飛び掛るが……
「……ジャマよ」
「お相手をしている時間は、わたくしたちにはありませんの」
残像すら見える、高速の動き。紫苑は跳躍し、アイシャは魚人たちの間の僅かな隙間をすり抜けるようにして。撹乱、駆け抜けていく。反撃を行わないのは、一刻も早く目標地点へと到達するためなのだろう。彼女たちを捕らえ損ねた魚人たちの動きに、一瞬の混乱が生まれる。
「道、空けて貰うよ!」
フラン・レンナルツ(ka0170)の威嚇射撃が一瞬魚人たちの動きを止める。直後に、海から飛び上がってきた敵に、
「うおおおお! 貴様らのあるべきところへ、カエレ!!」
ラグナ・グラウシード(ka1029)の盾が直撃し、そのまま海に叩き返す。
一つ息をつき、
「ピンチの状況だが、私は退かぬ!『窮地においてこそ騎士の真価は問われる』と『神聖騎士教則本』と書いてあるからッ!」
逆の手に持った本をバタンと閉じ。懐に仕舞うと共に盾を構えなおす。
空中でムーンサルトし、着地したアイシャ。振り向くと、紫苑は彼女のように操舵室には辿り着いていない。
装備量による速度の違い。通常の戦闘中ではその差は僅かだが、全力で疾駆した場合――その差は稼げる距離と言う形で顕著に現れる事となる。
分断された紫苑と合流すべく、敵の群れを切り裂くべく短剣を振り上げたその刹那。大きな揺れが、船を襲う。
「っ……」
咄嗟に刃を甲板に突き立て、バランスを崩す事を防ぐ。ここを追撃されれば危ない所だが、その攻撃が来る事はない。
何故ならば、魚人たちも同様にバランスを崩したからだ。遠くでは、甲板に上がったばかりの魚人の一体が落水する事も見て取れる。
体制を崩さなかった事による、僅かな立ち直りの早さ。それは『速度』を武器とする疾影士であるアイシャには、十分すぎる攻撃チャンスを作り出していた。
ナイフの一閃が、目の前の魚人を断ち切り。出来たそのスペースから、紫苑が滑り込む。
「これからが本番ですわね」
「うん……頑張って倒す」
背中合わせになった二人は、周囲の敵を駆逐すべく。その武器を構えた。
●増殖
「少しは止まってもいいもんだけどねぇ」
足元への威嚇掃射。然し、魚人たちはそれを恐れる事はなく、真っ直ぐに突っ込んでくる。
僅かにため息をつくフラン。弾丸による直撃で足を僅かに止める事はある物の、『威嚇射撃』は彼女が想像した程の効果を成してはいない。
――そもそも威嚇とは、相手が直撃を恐れる事を利用した、心理戦術の一種。
死すらも恐れぬ『狂気』の眷属には、効果が多少低下するのもまた自明の理であろう。
「この程度では怯まんか」
同様に、咆哮し『ブロウビート』による混乱を狙う鉄兵の行動も、また大きな効果を及ぼせてはいない。寧ろ威嚇射撃と違い弾丸による直撃がなく、純粋な精神威嚇である分、その効果は更に薄まっている。
「……ふん」
前方の敵を、オウカの一閃が断つ。後方より敵は襲来するが、それはラグナの盾にによって受け止められる。
直後、奈加が杖を振り下ろすと共に聖なる光が煌き。その魚人を灰と化す。
ドン。大きく船が体当たりで揺らぎ、オウカと彼の後ろをついてきた、船長と呼ばれた男――はバランスを崩し。ラグナは大きく揺れる船に船外へと投げ出されそうになる。
「教本どおりに固定してよかったっ!!」
船に、身につけた浮き輪についたロープを結びつけたお陰で。ターザンの如く水面を掠るように跳び、甲板へと復帰する。
直後。巨大な口が水面を割り。先程まで彼がいた場所に空を切るようにして噛み付いた。
「水中のアレは鮫型か……!」
万一にも船が壊され、こんな物が居る水中に叩き込まれてしまえば……どうなるかは想像に難しくない。
それを避けるためにも、一刻も早く前進しなければ。
体勢を立て直したオウカが見たのは、更に増えた魚人たち。
――初手に移動を優先し。先行班が攻撃を行わなかった事。
牽制、支援スキルを優先した者が多かった事。そして結果として相性の問題から、牽制スキルの効果が十全に発揮されなかった事。
これらは敵の数の増加に繋がり、その数の増加が僅かにオウカと船長の進軍速度を落としていた。
「……きりがない……」
斬っても斬ってもどこからともなく増加する魚人に辟易しながら、紫苑はただその大鎌を振るい続け、目の前の敵を肉塊と化していく。
「っ……」
再度、大きな揺れ。武器を床に突き刺して耐え、直後に大きくそれを振り上げ甲板の木屑を目潰しに使うと共に、目の前の敵を切り裂く。
そしてその木屑の嵐に乗じ、魚人の一体の背後に忍び寄ったアイシャの、脇下から後方への逆手の一刺しが、魚人の心臓を貫通する。
反撃は、幻影のようなステップで回避する。だが、敵が増えた弊害はこちらにも出ており――回避スペースを狭められてしまい、僅かに魚人の鋭いヒレが紫苑のふくらはぎを掠め、血が噴き出す。
――彼女らのように対策を行っている者は、この揺れを攻撃のチャンスとした。だが、対策を怠った者は、魚人同様大きな揺れの起こる時期には行動不能となる。その間も――魚人たちは、続々と水中から飛び上がり続けるのだ。
●隙
「……見えてきたな」
前方に戦う紫苑とアイシャの姿が見える。無愛想な彼なりに船長を励まそうとしたのか。オウカが呟く。
「あと一息だ――っ!?」
その直後、付近の魚人の一体が彼へと飛び掛る。咄嗟に機械剣でそれを受け止めるが、勢いに僅かに押し込まれてしまう。
直後、後ろから犬の吠えるような声。
「小太郎――後ろもか――!」
迸る電撃を放ち、目の前の敵を麻痺させ、振り返る。
攻めるために前進したフランの、振り向きざまの射撃は無理な体勢からと言う事もあり、完全に魚人を撃破は出来ず。既に前に進んだ彼らは、入り口を守る奈加、そして柊 真司(ka0705)のどちらからみても射程外。
ラグナはロープの長さの限界から直ぐには駆けつけられず。急いで浮き輪を外すが一手遅い。
そしてアイシャと紫苑とは……前方の敵により阻まれている。彼女らの剣、鎌閃がそれぞれ敵を断ち切るが、その直後の移動では届かない。
かくして、二体の魚人たちの手は船長に掛かり
「う、おおあぁぁぁあ!?」
その体をぼろ布のように引き裂いた。
「くっ……」
守りきれなかった事は悔やむべきだ。だが、その時は今ではない。
武器を構えなおし、次の操舵手を迎えるため、オウカは船室へ向かって駆ける。
――一方、その船室側。
例え射程内に居たとしても。奈加にオウカを援護する事は難しかっただろう。
「数だけは多いものだ」
気合の一撃で、奈加に聖光の力を付与された鉄兵の大鋸の如き剣が、敵を地に叩き伏せる。
すぐさま後ろの魚人がその穴を埋める様をみて、奈加があきれたような笑みを浮かべる。
「たいした根性ね」
彼女の聖光の一撃に足を砕かれた魚人は、尚も這うようにして接近してくる。まるで命尽きるまであきらめない、と言うかのように。
速度こそ低下している物の、何れは接近してくるそれ。振り上げる爪が狙うのは、銃を構えていた真司!
(「無事に帰ってきてくれる事が、一番大事なんだからね……?」)
出発前に言われたその一言が、天啓のように頭を過ぎり。咄嗟に飛びのいた真司。爪は彼の足を掠めるが、傷は小さく掴まれる事態にも至っていない。
「機導剣、起動! これでもくらいやがれ!」
その手には具現化された光の剣。飛び退く勢いで剣を魚人の頭部に突き刺し、そのまま船室の上の甲板の方へと着地する。
船室を守っていた三人の内、真司が後退した事で、残る魚人たちは一気に残りの二名……奈加と鉄兵に押し寄せる。己の防御力を高めた鉄兵が、敢えて奈加の前に出る事で彼女を守るが――いくら鋼鉄の防御力があるとは言え、敵の数が数である。一気に、やや防護が薄い脚、腕を中心に、その体には傷跡が増えていく。
「彼らを無事に守りきるなら、私達が倒れてちゃ話にならないわ……頑張りましょ」
奈加の回復術が鉄兵を癒し、彼自身もまた、自己治癒の術を展開し自身の傷を消す。が、それは即ち、攻撃の手が止まると言う事。
押し寄せる肉の壁は、既に強引に彼らを扉の前に追い詰めていた。
「数がこんなに厄介とはな……」
増えるのは知っていた。予想していなかったのは、これだけ増える速度が速い、と言う事。
真司の銃撃が、外側に居る魚人の頭部撃ち抜く。然し、魚人の層が厚過ぎて、中に居る二人への直接的な援護とはならず。
時間だけが、刻一刻と過ぎていく。
●タイムリミット
「退きたまえッ!」
「しつこいヤツは、どこでも嫌われるよ!」
フランの掃射により足を止めた隙に、ラグナの強打が、また一体魚人を水中に叩き落す。
彼女らの援護を受けたオウカは、自らに飛び掛る魚人を雷撃により麻痺させると、船室を守る二人に叫ぶ。
「……開けてくれ。もう一人動かさなければならん」
「無茶よこの状態じゃ! 開けた瞬間雪崩れ込まれるよ!」
――犠牲を抑えるために。一人だけ連れ出し残り二人を船室に押し込んだのは、この状況に於いては間違って居なかった。人命を守るのが、ハンターたちの信念であるからだ。
――ただ、それは「絶対に守り抜ける」と言う自信がある時にのみ適用される。一度一人目が殺害されてしまえば、船室にも押し寄せる魚人の群れによって、次の一人を迎えるのが困難になるというのは確実だからだ。
ドン。
何度目かの、大きな揺れ。
そろそろ船体も持たなくなってきている。
「いい加減に……しやがれ!」
真司のアサルトライフルが、また魚人を撃ち抜く。然し、弾切れだ。リロードする。その間に敵が増える。
剣に切り替え、襲い来る一体の攻撃を受け止め。返す手に光の剣を掴み、真っ直ぐ敵の胸へと突き刺す。
「キリがねぇ…早く次の人を連れて行け!」
船室の上から真司が見渡す。
操舵室付近のアイシャと紫苑は、上手く障害物を生かして回避している事もあり、それ程大きな消耗はない。ならば、急いで船室から人を連れ出し、上手く護衛して向かうことが出来れば、まだ間に合うかもしれない。
しかし、そもそもこの状態を想定していなかったハンターたちは、この場合の計画を立てておらず。ただ、各員の力に任せて、魚人の肉の壁を切り開いている状況であった。
――それでも。彼らの戦闘力は、魚人のそれを上回る。オウカと鉄兵の大剣が交差するように間にいた最後の魚人を叩き潰し、彼らは合流する。
扉を開ける際に丁度船が揺れて、扉を開けたまま隙を作らぬよう。オウカはゆれた直後に、扉を開けて船室へと飛び込む。
また、一際大きな揺れ。再度床に刃を突き立て耐えようとするアイシャだったが、激戦により甲板は既にぼろぼろになっており、即座に刃が抜けない場所を選ぶのは困難。
「……つかまって」
鎌を操舵室の壁に引っ掛けた紫苑が、彼女に手を伸ばす。
「だめですよ。紫苑様の支えも、そこまで安定してません。二人分の力が掛かったら、一緒に落ちてしまうかもしれません」
ふふ、と笑みを浮かべ。アイシャは付近の魚人に腕を伸ばし、しかと掴む。
「さて、どうしますか? 一緒に落ちますか?」
無論、『狂気』しかその頭にない魚人が選ぶ道は一つ。『攻撃』あるのみ。かくして、二人は水中へ落下する事になる。
まだ新たな操舵手が船室から出ていないのは僥倖と言えよう。でなければ、出てきた者は、きっとアイシャを助けるために水中へと飛び込んでいたのだから。
一人目の操舵手である船長を失ったハンターたちの奮戦の結果、船室前の魚人は大きく減らされている。
「今よ!」
ホーリーライトが目の前の魚人の顔面に叩きつけられ、光が一時的にその目を焼く。
その隙を突いて、二人目を守りながら、オウカが船室から飛び出し再度操舵室へと向かう。
「援護するぜ……真っ直ぐ突っ込みな!」
「ボクに任せて!」
未だ彼を襲おうとする魚人たちを。真司が腕を、そしてフランが脚を狙撃し、攻撃を間一髪で止める。
回転する紫苑の一閃が操舵室付近を薙ぎ払い、スペースを作り出す。後少し。あと少しで辿り着く――
ガン。
何かが折れる音と共に。猛烈な揺れが船を襲い、船が横に傾く。
「沈む――!」
水中に投げ出されたオウカが最後に見たのは、巨大な口を開けて。船室であった部分に噛み付き、食い散らかす鮫のような歪虚の姿であった。
●鮮血の海
水中に投げ出されたハンターたち。水中用武装に切り替え、迎撃を試みた者も居たが、鮫型の巨体による耐久力を突破するには至らない。
幸か不幸か。鮫型の狙いは『欠片の箱』のみだったようで、それを飲み込んだ後に悠々と撤退していった。
船室に居た船員の半数ほどがその一噛みに巻き込まれ、物資も大半が流されてしまったものの――魚人の大部分を甲板上で既に殲滅していた事から、船員の一部を救う事は出来た。
ハンターオフィスから派遣された迎えの救助船に引き上げられた真司は、ある疑問を頭に浮かべる。
――きっちり箱を奪うと言う意思を持っていたが故に、狂気の眷属とは思えない。
――果たしてあの鮫型は、なんだったのだろうか?
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/13 02:36:03 |
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★相談卓★ 松岡 奈加(ka0988) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/15 22:00:43 |