ゲスト
(ka0000)
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マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2016/07/15 19:00
- 完成日
- 2016/07/29 06:11
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
七月に入り、雨の日よりも晴れる日が続きはじめた頃、ルサリィ・ウィクトーリア(kz0133)は大広間で一人、手帳を見ながら夏の予定を確認していた。
そこへメイドのフェイト・アルテミス(kz0134)が扉をノックした後に、大広間に入って来る。
「ルサリィお嬢様、お客様です」
「やあ、ルサリィ。元気にしてたかい?」
「アラ、残念天才博士と名高いハデス博士。久し振りね」
ウィクトーリア家の屋敷を訪ねてきたハデスは年下の少女の皮肉に慣れたもので、平然としながら向かいのソファ椅子に腰かけた。
「今日はキミに協力してもらいたいことがあってね。過去に何度かハンター達にお世話になった礼に、ウチの別荘を貸し出そうと思っているんだ」
「どこの別荘?」
「所有している小高い山の上にある別荘だ。東方風の二階建てだが横に広い別荘でな、空気が綺麗だから星空が夏になると美しく見える。確かリアルブルーでは七月にタナバタという季節のイベントがあるそうじゃないか。詳しいことは分からないが、何でも星空を見るのが目的らしい。ならば和の衣装を着てもらいながら、星空を見物してもらいたいと思ってな」
「まあ確かにハンター達はいつも多忙だから、依頼としてゆっくり休んでもらうこともアリでしょうけど……」
「それに話に聞くところによると、笹に願い事を書いた紙を下げると願いが叶うというオマジナイみたいなこともするそうだ。別荘の周辺には笹が数多く植えられてあるし、ピッタリだと思ってな」
「七夕、ねぇ……。ウチで働いているメイドのサーヤがリアルブルーの出身だから、わたしも聞いたことがあるわ。まあグラズヘイム王国にはちょっと縁薄いイベントだけど、楽しそうではあるわね」
そこでフェイトがハイビスカスティーを持ってきたので、二人は一旦話を止める。
そして一口飲んだところで、ルサリィは思っていた疑問を口に出す。
「ところで、何でわざわざわたしに言いに来たのよ? 真っ直ぐにハンターズソサエティに依頼をしに行けば良いじゃない」
「いや、流石に一度捕まったわたしが行けるわけがないだろう? そこまで恥知らずではない!」
かつてハデスが起こした『ぽっちゃり事件』を思い出して、ルサリィとフェイトは遠い目をする。
リア充達を一方的に妬み、そしてぽっちゃりした女性が好きなハデスが作った薬は、確かに騒ぎにはなった。
しかしその後、ぽっちゃり女性好きの男性が増えた上に、被害に合った女性達も一・二時間ほどのぽっちゃり体験を後に面白体験として語っている。
深刻な事件と言うよりも、面白ぽっちゃり事件として広まったので、ハデスが重く考える必要はあまり無いと言えた。
「……まあ、良いわよ。ハンター達にはわたしもいつも、お世話になっているしね」
「七夕というイベントも気に入られると思います。ですがハデス様も私達とご一緒に頼みに行かれませんか? 先の一件は既に終わったことですし、特に気にする必要もないと思われますが……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね、フェイト。やはり遠慮しとくよ。とりあえず準備は済ませておくから、二人はハンター達に依頼をしに行ってくれ」
そこへメイドのフェイト・アルテミス(kz0134)が扉をノックした後に、大広間に入って来る。
「ルサリィお嬢様、お客様です」
「やあ、ルサリィ。元気にしてたかい?」
「アラ、残念天才博士と名高いハデス博士。久し振りね」
ウィクトーリア家の屋敷を訪ねてきたハデスは年下の少女の皮肉に慣れたもので、平然としながら向かいのソファ椅子に腰かけた。
「今日はキミに協力してもらいたいことがあってね。過去に何度かハンター達にお世話になった礼に、ウチの別荘を貸し出そうと思っているんだ」
「どこの別荘?」
「所有している小高い山の上にある別荘だ。東方風の二階建てだが横に広い別荘でな、空気が綺麗だから星空が夏になると美しく見える。確かリアルブルーでは七月にタナバタという季節のイベントがあるそうじゃないか。詳しいことは分からないが、何でも星空を見るのが目的らしい。ならば和の衣装を着てもらいながら、星空を見物してもらいたいと思ってな」
「まあ確かにハンター達はいつも多忙だから、依頼としてゆっくり休んでもらうこともアリでしょうけど……」
「それに話に聞くところによると、笹に願い事を書いた紙を下げると願いが叶うというオマジナイみたいなこともするそうだ。別荘の周辺には笹が数多く植えられてあるし、ピッタリだと思ってな」
「七夕、ねぇ……。ウチで働いているメイドのサーヤがリアルブルーの出身だから、わたしも聞いたことがあるわ。まあグラズヘイム王国にはちょっと縁薄いイベントだけど、楽しそうではあるわね」
そこでフェイトがハイビスカスティーを持ってきたので、二人は一旦話を止める。
そして一口飲んだところで、ルサリィは思っていた疑問を口に出す。
「ところで、何でわざわざわたしに言いに来たのよ? 真っ直ぐにハンターズソサエティに依頼をしに行けば良いじゃない」
「いや、流石に一度捕まったわたしが行けるわけがないだろう? そこまで恥知らずではない!」
かつてハデスが起こした『ぽっちゃり事件』を思い出して、ルサリィとフェイトは遠い目をする。
リア充達を一方的に妬み、そしてぽっちゃりした女性が好きなハデスが作った薬は、確かに騒ぎにはなった。
しかしその後、ぽっちゃり女性好きの男性が増えた上に、被害に合った女性達も一・二時間ほどのぽっちゃり体験を後に面白体験として語っている。
深刻な事件と言うよりも、面白ぽっちゃり事件として広まったので、ハデスが重く考える必要はあまり無いと言えた。
「……まあ、良いわよ。ハンター達にはわたしもいつも、お世話になっているしね」
「七夕というイベントも気に入られると思います。ですがハデス様も私達とご一緒に頼みに行かれませんか? 先の一件は既に終わったことですし、特に気にする必要もないと思われますが……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね、フェイト。やはり遠慮しとくよ。とりあえず準備は済ませておくから、二人はハンター達に依頼をしに行ってくれ」
リプレイ本文
☆星空の下で……★
藍色の浴衣を着たヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、同じ藍色生地に白い蝶々柄の浴衣を着た南條 真水(ka2377)に声をかける。
「真水、あっちに笹の木があって、短冊とか折り紙が置いてあるって。行ってみないかい? せっかく星空のもとでデートができるんだし、楽しい思い出を作ろうよ」
「はっ初デートってことになるのかな? まっまあまだ恋人じゃないけど、良いよ」
二人は手を繋いで笹の群生地まで歩いて行き、テーブルに置かれた折り紙で飾りを作っていく。
「ボクとしては願い事を短冊に書くよりも、こうやって飾りを作る方が楽しいねぇ」
「ウォーカーさんは短冊に願い事を書かなくてもいいの?」
「うん。ボクは飾りを笹につけるから、真水は短冊を書くと良いよ。見ないようにしておくから」
ヒースは意味ありげに笑いながら、次々と飾りを作る。
真水は悩みながらも浴衣の袖で短冊を隠しながら、筆で願い事を書いた。そしてヒースに見えないように、笹の木の後ろに短冊を吊るす。
『幸せな夢を、いつまでも』と書いた短冊を見ながら、真水は祈るように両手を合わせた。
「……どうか末永く続きますように」
「真水、短冊は吊るせたかい?」
「うっうん。でも内容は乙女の秘密だからね!」
顔を赤く染めながら、真水はヒースの所へ戻る。
「わあっ……! 随分、飾ったね。ステキな笹の木になっているよ」
「真水に喜んでもらいたかったからな」
ヒースは隣に並んだ真水の手を、ギュッと握り締めた。
「短冊に願い事は書かなかったけれど、ボクの願いは一つ叶ったよ。……ありがとう、真水。ボクの隣にいてくれて」
真水はヒースの手から伝わる熱を感じて、照れ臭さから顔をそむける。
「まっまあ南條さんも、楽しんでいるからね。……こんな風に浴衣を着たり、星空を眺めたりするのは久し振りだし。リアルブルーにいた頃は体が弱かったせいで、ずっとベッドの中で寝たきりの生活を送っていたから……」
「じゃあ真水の浴衣姿は貴重なんだねぇ。とても可愛いよ」
「あっありがとう……。ウォーカーさんもその浴衣、良く似合っているね」
真水は近くに他の人がいないことを確認すると横に一歩移動して、ヒースに軽く寄りかかった。
ヒースはにっこり微笑み、より強く真水の手を握る。
紺色の浴衣を着たオウカ・レンヴォルト(ka0301)は白い生地に花柄の浴衣を着たイレーヌ(ka1372)と共に、笹の木の前にいた。
「まさかクリムゾンウェストで、このイベントを行えるとは思わなかった。なかなか楽しいものだ」
テーブルの上でオウカは折り紙で飾りを作っており、イレーヌは筆を持って短冊に願い事を書く。
「――よしっ、願い事が書けた。私は笹に短冊を吊るしてくるから……」
「ああ、俺は見ないようにする」
イレーヌが言い終える前に、オウカは気を利かせる。
「ではちょっと待っててくれ」
イレーヌはオウカの視線が届かない後ろの方に、『来年のイベントはオウカの妻として参加したい』と書いた短冊を吊るす。
「オウカが知ったら、茹でダコのように赤面するだろうな」
その様子を思い浮かべたイレーヌは、クスクスと笑いながら戻る。
二人は笹の木に飾りをつけていき、最後に並んで見上げた。
「オウカとこうして、同じ依頼に参加するのは久し振りだな。誘ってくれて、ありがとう。感謝しているよ。――ところで私の浴衣姿はどうかな? オウカは着慣れているようだからとても良く似合っているが、クリムゾンウェスト出身でドワーフの私には少々着慣れないものなんだが……」
イレーヌはその場で、一回転して見せる。
「うっうむ……。あまり派手に動くと、着崩れるぞ。まあ俺が直せるが……。イレーヌの浴衣姿はとても魅力的だと思う。――しかし覚醒状態になってよかったのか?」
実はイレーヌ、別荘に来た時まではいつもの10歳ぐらいの少女姿だったのだが、浴衣に着替え終えた時には覚醒状態の20歳ぐらいの女性の姿になっていたのだ。
「だってオウカ、流石に星の夜のデートに少女姿はないだろう? いくら同業者のみしかいないとはいえ、私のいつもの見た目年齢と身長差のせいで、オウカが変な目で見られるんじゃないかと思って」
「……それは否定できないな」
「それに少女姿のままでは、こうしてオウカと手を繋いで寄り添うことも難しいしな」
イレーヌはオウカに抱き着き、手をギュッと握り締める。
「まっまあその姿のイレーヌも素敵だがな。見惚れ過ぎて、星空を見上げるのを忘れてしまいそうだ」
「ふふっ。私もいつもより積極的なオウカから、眼が離せそうにないよ」
「こっちの世界でも、短冊に願い事を書くことになろうとはね」
灰色の浴衣を着ているキー=フェイス(ka0791)は片手に短冊、もう片手には筆を持ち、感慨深げにため息を吐いた。
「ボクも記憶はないけれど多分リアルブルー出身だから、何だか懐かしく思うよ」
雨夜 時雨(ka3964)は黒い生地に朝顔柄の浴衣を着ており、キーと同じく願い事について悩んでいる。
「――うん、願い事はやっぱり『家族やみんなが元気で過ごせますように』にしておこうかな。キーはどうするの?」
「ん~っと……。俺は『可愛い彼女ができますように!』だな」
「ブレないね。まあキーらしいよ」
キーは真剣な表情で、時雨は柔らかな笑みを浮かべながら、それぞれ短冊に願い事を書いて笹に吊るす。
そして二人は、星空を見上げながら別荘への帰り道を並んで歩く。
「別荘から美味そうな香りがしてくるな。星空も良いけど、季節の食事も楽しみたいもんだ」
「そうだね。美味しい食事も頂けるし、この依頼に誘ってくれたキーに感謝しているよ。今夜は星がよく見えるし、星座が分かりそうだね」
「星座かあ……。俺はあっちの世界にいた頃、こうやって星空を見上げていたんだろうか?」
「星空はどちらの世界にもあるようだし、どこでも見られるのは嬉しいよね」
切なげな表情で星空を見上げる時雨の横顔に、キーは思わず眼を奪われる。
しかし話術が得意なキーが何もしゃべらないことを不思議に思い、時雨は振り返って声をかけた。
「キー、突然黙ってどうかしたの?」
「あー、うん……。いつもの雨夜の姿も良いけれど、浴衣姿も良く似合っているなぁっと思って」
「ありがとう。キーも男前が上がっているよ」
キーが女性を褒めるのはいつもの事――と思っている時雨はケロッと流す。
そんな時雨の反応に、キーは複雑な心境になったが気付かれないように笑みを浮かべた。
「ははっ、サンキュー。……今日は俺に付き合ってくれて、ありがとな」
キーは照れ臭そうに俯いて、呟くように礼を言う。
「何を今更言っているんだよ。こういう静かに楽しめるイベントは好きだし、これからもいろいろな所に行ってみようね」
「そっそうだな! また今日みたいに、雨夜をデートに誘うよ」
「うん、楽しみにしているね」
黒い生地に赤い金魚柄の浴衣を着た時音 ざくろ(ka1250)は、黒い生地に花火柄の浴衣を着た白山 菊理(ka4305)と手を繋ぎながら、別荘への帰り道をゆっくりと歩いていた。
「小高い山の上だけあって空気は美味しいし、星空も良く見えるね。今夜は晴れているから、綺麗な天の川がハッキリと見えるよ」
「うん、本当に綺麗な星空……。ざくろと一緒に見られて、嬉しい」
菊理はざくろの肩に頭をのせて、幸せそうに微笑む。
そんな菊理を見て、ざくろはふと立ち止まる。そして優しく抱き寄せて、愛おしい女性の唇にキスをした。
「星空も綺麗だけど、浴衣姿の菊理はもっと綺麗だよ」
「ふふっ、ありがとう。ざくろの浴衣姿はカッコイイ。思わず惚れ直してしまいそうになるな」
ざくろはもう一度菊理を抱き締めると、名残惜しそうに体を離して再び歩き出す。
「短冊に書いた願い事、もう叶っちゃったのかも」
「ざくろは短冊に、どんな願い事を書いたの?」
「『これからも菊理と一緒にいて、もっとたくさんの冒険ができますように』」
「前半はともかく、後半はこれからだな」
二人はつい先程、短冊に願い事を書いて笹の木に吊るしてきた。
しかし菊理は自分の願い事をざくろに知られるのを恥ずかしがり、彼とは別の木に短冊を吊るしたのだ。
「……でも私の願い事も、叶ったのかもしれない」
「ん? 菊理、何か言った?」
「今回の依頼に誘ってくれたざくろに、感謝しているんだ。夏の良い思い出になりそうだよ」
菊理は呟きを誤魔化すように、少しだけ大きな声と笑顔で答える。
「そっそう……。ざくろはね、七夕の彦星と織姫のように、菊理と愛し合いたいと思って誘ったんだよ。……と言うのも、ちょっと照れるね」
「ざくろらしくて、私は良いと思う。今夜は同じ部屋に泊まるんだし、二人で星空を見ようよ。部屋の中から見る星空も、きっと綺麗だ」
「えっ? あっ、うん。そうだね……」
残念そうに俯くざくろを見て、菊理はクスッと笑みをこぼす。
「別荘の近くに他の建物はないことだし、窓を開け放っていても誰にも部屋の中を見られることはないんだよ。だから私はざくろにめいっぱい甘えられる」
菊理に耳元で意味深に囁かれて、ざくろはハッとした。
「そっそうだね! 今夜はたっくさん菊理を可愛がるよ」
二人は顔を赤く染めながら、笑い合う。
小川に足を入れながらスイカを食べているジャック・エルギン(ka1522)は、青い甚平を着ている。
隣に座り、同じく小川に足を入れて美味しそうにスイカに齧り付いているリンカ・エルネージュ(ka1840)が、紺色の生地に白い花柄の浴衣を着ている姿を見て、あっさりとこう言った。
「リンカの浴衣姿、すっげぇ似合っているな」
「んぐっ!? あっありがとう……。ジャックさんの甚平姿も、カッコイイよ」
「こういう機会じゃないと着ないのは、ちょっともったいねーな。この依頼に参加して良かったぜ。短冊に願い事を書いて笹の木に吊るすなんて、クリムゾンウェストじゃあやんねーしな」
「私は短冊に『みんなの日常を守れるように、立派な魔術師になって強くなる』と書いたんだけど、ジャックさんは?」
「えーっと……、うん、俺も似たような内容だ。ハンターだしな!」
短冊を書くところまでは一緒だったのだが、ジャックは願い事を知られるのを恥ずかしがって、リンカとは別の笹の木に吊るしたのだ。
その後、小川で冷やしていたスイカを食べていたのだが、リンカはふと気付いたように星空を指さす。
「願い事は流れ星にもお願いすることができるんだよ」
「ここから見える星空は、本当にすげぇよな。何だか吸い込まれそうだぜ」
星空を見上げながら、ジャックは短冊に書いた願い事を思い出す。
「――あの願いを叶えるには、もっとデカい男にならなきゃいけねぇ。我ながらガキっぽい願いかもしれねーが、それでも叶えるまで時間がかかりそうだぜ」
ため息を吐きながらジャックは視線を隣へ移すも、リンカは手に持ったスイカをジッと見つめていた。
「りっリンカ? スイカを真剣に見て、どうした?」
「……少し考えていたんだけど、スイカにアクティブスキルのアイスボルトをかけたら、氷スイカにならないかな?」
「そっそれは面白そうだが、アクティブスキルを発動させるのに必要なアイテムを別荘に置いてきているし、スイカはもう冷えているから、後でやった方がいいんじゃねーの?」
「それもそうだね。明日、スイカが余っていたら、試してみるよ」
リンカは素直にジャックの意見を受け入れて、再びスイカを食べ始める。
「ジャックさんも早くスイカを食べないと、ぬるくなっちゃうよ?」
「おっと、いけね!」
二人は星空を見ながら、スイカを食べ続けた。
青い浴衣に着替え終えたブレナー ローゼンベック(ka4184)は、別荘の玄関で待ち合わせをしている。
「ブレナー、お待たせしました」
そこへ黒い生地に撫子の花柄の浴衣に着替えたフローラ・ソーウェル(ka3590)が訪れた。
「わあ! フローラさんの浴衣姿、とっても素敵です! その浴衣、良く似合っていますよ」
「ふふっ、ありがとうございます。ブレナーも浴衣が似合っていますね」
「そうですか? 着るのははじめてなのでちょっと緊張しているんですけど、フローラさんにそう言ってもらえると嬉しいです。では短冊を吊るしに、そろそろ行きましょうか」
「ええ」
二人は並んで歩き出して、笹の木を目当てに向かう。
フローラは夜空を見上げて、ほぅ……と感動のため息をもらす。
「素晴らしい星空ですね。実は私、七夕のストーリーを聞いたことがあるんです。とてもロマンチックなお話なんですよ。……そんなステキなイベントに、私のような者が誰かと一緒に参加できる日がくるなんて……。まるで夢を見ているようで、今がとても幸せに思えます」
柔らかく微笑むフローラを見て、ブレナーは頬を赤く染める。しかし気付かれないように、前方の笹の木を指さした。
「あっ、あそこにテーブルと笹の木があります! 早速短冊に願い事を書きましょう!」
二人はテーブルに置いてある短冊と、筆を手に持つ。
「私の願い事は……やはり『愛しいみなさんが過ごす日々が、幸福に満たされたものでありますように』ですね。……ちょっと大袈裟かもしれませんが、こんなに素敵な星空に願うのならばこのぐらいは良いですよね」
フローラが願い事を短冊に書いている間に、ブレナーも願い事を決めた。
「……ボクはやっぱり、あの願い事ですね」
そしてブレナーはフローラから少し離れた所にある笹の木に、短冊を吊るす。ブレナーの短冊には『もっと男らしくなりたい』と書いてあった。
「大切な人達を守れるように――」
切なげに祈るような言葉を呟いた後、ブレナーはフローラのもとへ戻る。
「フローラさん、ボク、願い事を叶えられるように頑張ります!」
ブレナーの願い事を知らないフローラは、それでも励ますように頷いた。
「ええ、きっとブレナーなら叶えられますよ」
紫色の浴衣を着たマーオ・ラルカイム(ka5475)は、落ち着かなげに胸元や足を見ながら夜道を歩いている。
「体の至る所がスースーして、落ち着かないですね」
青の生地に金色の花柄の浴衣を着たルーン・ルン(ka6243)は、サイドアップにした髪をまとめている花の簪にそっと触れた。
「まあ確かにいつもと違う格好をすると、慣れていないから緊張するわね。でもマーオちゃんの浴衣姿、なかなか良いわよ」
「あっありがとうございます。ルーンさんも浴衣が良く似合っていますが……、胸元や足がはだけていますよ?」
マーオはあくまでも親切心から言ったのだが、ルーンは一瞬顔をしかめてすぐに笑みを浮かべる。
「アラ、ホントだわ。浴衣は着崩れしやすのね」
ルーンは浴衣を直しながらも、内心ではマーオにお色気作戦が通じない事を面白くないと思う。
「では私の手をどうぞ。繋いでいれば、お互いに激しい動きはあまりしないでしょうから」
「そうね。じゃあよろしく」
二人は手を繋ぎながら、夜の散歩を続ける。
「ここは本当に素晴らしい星空が見えますね。こんなに綺麗な景色をルーンさんと見ることができて、とても嬉しいです。でも私は七夕のお話を知らないんですよ。ルーンさんはご存知ですか?」
「織姫と彦星の物語ね。良いわよ、マーオちゃんに教えてあげるわ」
ルーンは七夕の物語を、マーオに語って聞かせた。
「――ロマンチックですけど、ちょっと悲しいお話ですね」
「そうね。でも恋愛ってそのぐらい夢中になってしまうから、注意しなさいってことかもしれないわよ」
「ですがそのぐらい夢中になれる相手と巡り会えたのならば、それはそれで幸せなことかもしれません」
不意に真剣な顔付きになるマーオの横顔を見て、ルーンは胸が高鳴るのを感じる。
「……マーオちゃん、胸元が着崩れているから直してあげるわ。ちょっと止まって」
「あっ、お願いします」
真正面から向かい合い、ルーンはマーオの浴衣の合わせ目に手をかけた。しかし直そうと手に力を込めた途端にグラッと前のめりになり、マーオに寄りかかる形になる。
「ゴメンなさい。よろけちゃって……」
「いっいえ、大丈夫ですよ」
ルーンはすぐにマーオから離れて、着崩れをしっかりと直す。
しかしマーオの首には、ルーンが倒れ込んだ時に付けた唇の跡が残った。
「うわあ、星空がキレイっすね♪ 今夜、晴れて良かったっす」
赤い生地にトンボ柄の浴衣を着た骸香(ka6223)は、紺色の浴衣を着ている鞍馬 真(ka5819)と小川へ向かっている。
「そうだな。最近は骸香とゆっくり過ごす機会がなかったから、この依頼はちょうど良かったよ」
二人は手を繋ぎながら歩いており、間近で微笑み合うその眼には熱い感情が浮かんでいた。
「今日は久し振りに真とデートっすからね。めいっぱい楽しむっす!」
「ああ。私も骸香もハンターという職業上、多忙でなかなか会えないが、それでもこうやって同じ時を過ごすことができて嬉しく思うよ。織姫と彦星は年に一度しか会えないが、私達はタイミングさえ合えば会えるんだから幸せだな」
「そうっすね。うちは真と年に一度しか会えなかったら、きっと寂しくて泣いてしまうっす!」
骸香は甘えるように、真の腕に寄りかかる。
そんな骸香の頭を、真は愛おしそうに撫でた。
「骸香と一緒にいられて、私は幸せ者だ。これからもこうやって会えると良いな」
「うちもそう思うっすよ。……あっ、水が流れる音が聞こえるっす」
笹の群生地の近くにある小川に到着した二人は、立ち止まる。
「夜風が気持ち良いね。笹の香りも、心が落ち着くよ」
「……アレ? でも何だか、小川の周辺も光っているっすよ?」
「えっ? ……ああ、蛍だ」
小川には数多くの蛍がいて、星空に負けないぐらい無数の光が輝いていた。
「うわぁ♪ 幻想的っすね~。ステキな自然の舞台なので、何だか歌って踊りたくなるっす!」
「歌うのは良いと思うけど、踊ると浴衣が着崩れると思うよ?」
「うっ!?」
冷静な真の忠告を聞いて、骸香は自分が歌いながらも浴衣を着崩していく姿を想像して、肩を落とす。
歌うことが大好きな骸香は、夢中になり過ぎると周りが見えなくなるクセがあった。
流石に恋人の前ではしたない姿にはなりたくない為に、激しく踊るのは諦めることにする。
「……じゃあ軽く体を動かす程度にするっす」
「そうすると良いね。私は横笛で伴奏するよ」
真が懐から横笛を取り出して見せると、骸香の表情がパアッと明るくなる。
「でも足元には気を付けてね。うっかり小川に落ちないように」
「分かっているっす! 真、うちの得意曲を頼むっすよ♪」
織姫の衣装に身を包んだ紅媛=アルザード(ka6122)はピクニックバスケットを両手で持ちながら、別荘の玄関でウロウロしている。
「紅媛、待たせたか?」
そこへ彦星の衣装に着替えたエル・ドラード(ka6347)が声をかけた。
「いっいや、こっちこそ待たせちゃったか?」
「それはこっちのセリフなんだけど……。でも紅媛の織姫姿、とても綺麗だな。よく似合っている。こういうイベントで特別な衣装を着るのは楽しいものだ」
「その……エルさんの彦星姿も、似合っている」
「ありがとう。そろそろ小川へ向かおうか」
エルは自然な動きで紅媛が持つピクニックバスケットを持ち、玄関の引き戸を開ける。
紅媛が外へ出て引き戸を閉めた後は、空いている手で彼女の手を握って歩き出した。
「……エルさん、すまない。私、男の人と二人っきりで夜に出掛けるなんてはじめてだから、いっぱいいっぱいで……」
「それに自分が一ヶ月以上前に交際を申し込んだから、余計に緊張しているんだな。ゆっくり慣れれば良いよ。紅媛のペースで、自分は構わないから」
「うっうん……」
赤面する紅媛はなかなか言葉が出ず、ほとんど会話なく小川に到着する。
そこで紅媛はピクニックバスケットからレジャーシートを取り出して、地面に敷く。
「エルさんが何が好きかまだよく分からないから、いろいろ作ってきたんだ。お口に合えばいいんだけど……」
二人は並んで座り、レジャーシートの上にお弁当箱を並べる。
「紅媛は料理が得意と言っていたから、楽しみにしていたんだ。あっ、星型の卵焼きがある。どれ……うん、とても美味しい。今まで食べた卵焼きの中で、一番美味しいよ」
「そう言ってもらえると、嬉しい」
「紅媛は良いお嫁さんになるタイプだな」
「エルさんに言われると照れ臭いんだけど……。実は料理の他にも、掃除や洗濯も得意なんだ。でも貴族の娘だから、使用人達をちょっと困らせてしまって……」
「ははっ、まあ自分はこうして紅媛の手作り弁当を食べられて、幸せだけどね」
二人は会話を楽しみながらお弁当を食べ終えて、立ちながら星空を見上げた。
「本当に、ここから見える星空は綺麗……」
紅媛がうっとりしている間に、エルは短冊を書くことにする。
「願い事はやはり『紅媛とずっと一緒にいられますように』だな。過ぎた願いかもしれないが、それでも祈りたい」
赤い生地に金色の金魚柄の浴衣を着たシェリル・マイヤーズ(ka0509)は黒い浴衣を着ている弥勒 明影(ka0189)から、笹の木の前に置かれたテーブルの上で折り紙の作り方を教えてもらっていた。
「ううっ……。七夕の飾りって、作るの結構疲れる……」
「七夕にちなんだ飾りは鶴の他にも提灯や星、網に貝、吹き流しに菱飾り、そして織姫と彦星など、折り紙でいろいろ作れるんだ。……でもシェリルはハサミで切って作る飾りの方が良いんじゃないか?」
シェリルが作ったヨレヨレの折り鶴を見て、明影は少し苦く笑いながらハサミを差し出す。
「……そうするよ。でもアキ、本当に短冊に願い事を書かなくていいの?」
「俺はこういうイベントで願う事は慣れていないし、シェリルもしないと言うのなら、無理にする必要はないだろう」
「まあ……そうだね」
そして二人は作った飾りを、笹の木につけていく。飾り終えると一歩後ろに下がり、笹の木と共に星空を二人並んで見上げる。
シェリルは景色を見ながら、懐かしそうに眼を細めた。
「キレイな景色だね。飾り付けた笹の木もステキ。……子供の頃はもっとはしゃいでいたんだけど、両親を亡くしてからはこういうイベントはあまり喜ばなくなったな……。ハンターになってからもいろいろと失うものが多くて、成長したと言うよりも変に悟っちゃったのかもしれないね」
「冷めるよりはマシだろう。それにこの依頼をシェリルが楽しんでくれている方が、大事だ。俺はその……女性を喜ばせたり楽しませたりする術をよく知らないからな。シェリルが楽しんでくれているのならば、俺は嬉しい」
優しく微笑む明影を見て、シェリルも表情を和らげる。
「アキ……。うん、私は今、楽しいよ。それに……何があっても絶対に私のもとへ帰って来てくれるアキみたいに、強くなりたいと思う」
「俺はシェリルのその笑顔を見たいが為に、生きて帰ってくるんだ。強くなるのは構わないが、あまり無茶はしないでくれ」
「うん。できるだけ頑張る」
シェリルが決意も固く頷く姿を見て、明影はヤレヤレと肩を竦めた後に彼女の手を握り締めた。
「後で小川の方にも行ってみよう。仲間達からの話では、蛍がいるそうだ」
「うん、蛍も見てみたい」
眼をキラキラと輝かせるシェリルを見て、明影は今この時を幸せに思う。
橙色の生地に色とりどりの花柄の浴衣を着たクウ(ka3730)は別荘の玄関で、アルバ・ソル(ka4189)を待っている。
「クウ、早かったね。待たせちゃったかな?」
黒い浴衣を着たアルバが声をかけると、クウはホッとしたように安堵の笑みを浮かべた。
「ううん、私も今来たところだから。アルバの浴衣姿を見るのははじめてだけど、よく似合っているよ!」
「おや、褒めるのを先越されてしまったな。クウも浴衣が良く似合っているよ。とても可愛い」
「あっありがとう。それじゃあ早速、星を見に行こうよ!」
別荘を出て歩き出した二人の数メートル後ろには、生成りに菖蒲柄の浴衣を着たヘルヴェル(ka4784)がこっそりつけている。
「少し前にアルバがクウに告白したと聞いた時には、夏の暑さにやられてしまったのかと思ったんだが……。二人の様子を見ると、案外良い雰囲気じゃないか。クウはいつもより可愛くなっているし、アルバもなかなか男らしい表情をするようになった。幼馴染みの関係からもう一歩先の関係に踏み出すのに必要なのは、クウの気持ち次第といったところだな」
二人の幼馴染みであるヘルヴェルはクウとアルバの関係が変わりそうなことを知り、居ても立っても居られなくなったのだ。
「しかしクウの最近の話題は恋愛に関する事が多いし、アルバなんてクウのことを『お姫様』と呼ぶようになったしなぁ。恋をすると、いろいろ変わるものだ。だが相手は同じハンターなんだし、気を付けて尾行……いや、見守らないと!」
ヘルヴェルは慎重に、二人の後をついて行く。
二人が訪れたのは、星が良く見える草原だった。
「うわあ! 天の川がこんなにハッキリ見えるなんて……!」
「来て良かったな。クウが喜ぶ顔も見られたし、僕は大満足だ」
「んもうっ! アルバったら……」
「本当だ。僕はクウの笑顔が好きなんだよ。子供の頃から見てきたのに、いつの間にかクウにはずっと笑っていてほしいと思うようになった。……でもクウを笑顔にさせるのは、僕以外じゃイヤだ。この感情の名前を知ったからには、もう黙っていられない」
アルバはクウの正面に立ち、彼女の両手をギュッと握り締める。
「僕はクウのことが好きなんだ。幼馴染みとしてではなく、一人の女性として愛しているんだよ。だから……僕のことも一人の男として見てほしい。そして恋人になってほしいと願うんだ」
「アルバ……。告白されるのは、これで二度目だね。最初の時はビックリして、私は逃げちゃったけど……」
クウは俯きながらも、しっかりとアルバの両手を握り返す。
「――本音を言うと、まだ恋愛感情ってよく分からないの。いろんな人達に聞いてみても、ピンとこなくて……。だからいっそのこと、こうやって確かめてみるよ!」
「えっ? ……うわわっ!」
クウは突然両手を離したかと思うと、アルバに抱き着いた。そしてアルバの背中に両腕を回して、ギュウッとしがみ付く。
「くっクウ?」
「……アルバの胸の鼓動、スッゴク高鳴っているね。私の胸も負けないぐらい、高鳴っているよ。ドキドキが止まらないなら、こうやって二人っきりでいたいと思うのならば、この感情は恋愛という名前だね。……恋人に、なってみようか?」
「クウ……! ああ、夢のようだ!」
強く抱き合う二人を見て、ヘルヴェルはこっそりこの場から移動する。
「ふう……、ヤレヤレ。食事を終えるとみんなして、個人行動に移るなんてねぇ。独り身には熱い夜となりそうだよ」
クスクスと笑いながら、紫の生地に白い花柄の浴衣を着た冷泉 雅緋(ka5949)は小川に両足を入れた。冷たさに思わず身を縮めながらも、星空を見上げて笑みを浮かべる。
「美しい星空だねぇ。真っ暗な空に無数の小さな星が光輝いている姿は、命あるもの達が一生懸命に生きる姿と似ていて、あたしは好きだよ。……闇に沈んで何も見えなくなったあたしに見えた希望の光は、守りたいねぇ。遠くの星空までは流石に無理だけど、せめてこの眼に映る星達は力強く命の光を輝かせていてほしい。その為に戦うことが、あたしがここにいる意味なんだろうねぇ」
「ふふっ、雅緋さんは優しいんだな」
「こういう時は聞かぬフリをするものよ。ヘルヴェル」
実は数メートル先には、ヘルヴェルが雅緋と同じく小川に両足を入れていたのだ。
「幼馴染みの二人はどうしたの? 別荘に来た時は一緒だったわよね?」
「今頃、恋人になったばかりの幸せを感じ合っているだろう。独り身のあたしの分まで、幸せになってほしいと思う」
「それはめでたいわね。これから別荘に戻って、一杯どう? 確かまだ食べる物も残っていたはずだし、部屋で一緒に飲まない?」
「祝い酒か、良いな。お互い一般スキルにうわばみがあるし、今夜は長く飲もう」
二人はにっこり微笑み合うと、小川から足を出す。
黒い浴衣を着たGacrux(ka2726)は、別荘の一室にいる。
窓を開けており、蚊帳の中に入って布団の上に寝転んでいた。持ってきた月光俳句集を読む為に用意してもらった畳に置くタイプのLEDライトは、そろそろ稼働時間が終わりそうだ。
「ふわぁ……。久し振りに、ゆっくりと読書ができましたねぇ」
欠伸を一つするとライトの電源を切り、月光俳句集を畳の上に置いて、団扇を代わりに手に持って自身を扇ぐ。
「小川で魚を釣って食べましたし、飾り付けられた笹の木を見たり、短冊を書いて吊るしたり、星空を見上げたり、蛍を捕まえたりと、のーんびり過ごせました」
蚊帳の中にはGacruxが小川で捕ってきた蛍が数匹、飛び回っている。
「……こうして眼を閉じれば、虫の声と仲間達の楽しそうな声が遠くから聞こえてきます。俺が短冊に書いた願い事はハンター絡みになってしまったけれど……、それでも叶うと……良い、ですね」
心地いい夜風にふかれながら、Gacruxは眠りの世界へ誘われていく。
穏やかな寝顔は、一時だけだが彼が苦痛や悩みを与える世界から解放されていることが分かった。
ハンター達の夜は、こうして更けていく――。
<終わり>
藍色の浴衣を着たヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、同じ藍色生地に白い蝶々柄の浴衣を着た南條 真水(ka2377)に声をかける。
「真水、あっちに笹の木があって、短冊とか折り紙が置いてあるって。行ってみないかい? せっかく星空のもとでデートができるんだし、楽しい思い出を作ろうよ」
「はっ初デートってことになるのかな? まっまあまだ恋人じゃないけど、良いよ」
二人は手を繋いで笹の群生地まで歩いて行き、テーブルに置かれた折り紙で飾りを作っていく。
「ボクとしては願い事を短冊に書くよりも、こうやって飾りを作る方が楽しいねぇ」
「ウォーカーさんは短冊に願い事を書かなくてもいいの?」
「うん。ボクは飾りを笹につけるから、真水は短冊を書くと良いよ。見ないようにしておくから」
ヒースは意味ありげに笑いながら、次々と飾りを作る。
真水は悩みながらも浴衣の袖で短冊を隠しながら、筆で願い事を書いた。そしてヒースに見えないように、笹の木の後ろに短冊を吊るす。
『幸せな夢を、いつまでも』と書いた短冊を見ながら、真水は祈るように両手を合わせた。
「……どうか末永く続きますように」
「真水、短冊は吊るせたかい?」
「うっうん。でも内容は乙女の秘密だからね!」
顔を赤く染めながら、真水はヒースの所へ戻る。
「わあっ……! 随分、飾ったね。ステキな笹の木になっているよ」
「真水に喜んでもらいたかったからな」
ヒースは隣に並んだ真水の手を、ギュッと握り締めた。
「短冊に願い事は書かなかったけれど、ボクの願いは一つ叶ったよ。……ありがとう、真水。ボクの隣にいてくれて」
真水はヒースの手から伝わる熱を感じて、照れ臭さから顔をそむける。
「まっまあ南條さんも、楽しんでいるからね。……こんな風に浴衣を着たり、星空を眺めたりするのは久し振りだし。リアルブルーにいた頃は体が弱かったせいで、ずっとベッドの中で寝たきりの生活を送っていたから……」
「じゃあ真水の浴衣姿は貴重なんだねぇ。とても可愛いよ」
「あっありがとう……。ウォーカーさんもその浴衣、良く似合っているね」
真水は近くに他の人がいないことを確認すると横に一歩移動して、ヒースに軽く寄りかかった。
ヒースはにっこり微笑み、より強く真水の手を握る。
紺色の浴衣を着たオウカ・レンヴォルト(ka0301)は白い生地に花柄の浴衣を着たイレーヌ(ka1372)と共に、笹の木の前にいた。
「まさかクリムゾンウェストで、このイベントを行えるとは思わなかった。なかなか楽しいものだ」
テーブルの上でオウカは折り紙で飾りを作っており、イレーヌは筆を持って短冊に願い事を書く。
「――よしっ、願い事が書けた。私は笹に短冊を吊るしてくるから……」
「ああ、俺は見ないようにする」
イレーヌが言い終える前に、オウカは気を利かせる。
「ではちょっと待っててくれ」
イレーヌはオウカの視線が届かない後ろの方に、『来年のイベントはオウカの妻として参加したい』と書いた短冊を吊るす。
「オウカが知ったら、茹でダコのように赤面するだろうな」
その様子を思い浮かべたイレーヌは、クスクスと笑いながら戻る。
二人は笹の木に飾りをつけていき、最後に並んで見上げた。
「オウカとこうして、同じ依頼に参加するのは久し振りだな。誘ってくれて、ありがとう。感謝しているよ。――ところで私の浴衣姿はどうかな? オウカは着慣れているようだからとても良く似合っているが、クリムゾンウェスト出身でドワーフの私には少々着慣れないものなんだが……」
イレーヌはその場で、一回転して見せる。
「うっうむ……。あまり派手に動くと、着崩れるぞ。まあ俺が直せるが……。イレーヌの浴衣姿はとても魅力的だと思う。――しかし覚醒状態になってよかったのか?」
実はイレーヌ、別荘に来た時まではいつもの10歳ぐらいの少女姿だったのだが、浴衣に着替え終えた時には覚醒状態の20歳ぐらいの女性の姿になっていたのだ。
「だってオウカ、流石に星の夜のデートに少女姿はないだろう? いくら同業者のみしかいないとはいえ、私のいつもの見た目年齢と身長差のせいで、オウカが変な目で見られるんじゃないかと思って」
「……それは否定できないな」
「それに少女姿のままでは、こうしてオウカと手を繋いで寄り添うことも難しいしな」
イレーヌはオウカに抱き着き、手をギュッと握り締める。
「まっまあその姿のイレーヌも素敵だがな。見惚れ過ぎて、星空を見上げるのを忘れてしまいそうだ」
「ふふっ。私もいつもより積極的なオウカから、眼が離せそうにないよ」
「こっちの世界でも、短冊に願い事を書くことになろうとはね」
灰色の浴衣を着ているキー=フェイス(ka0791)は片手に短冊、もう片手には筆を持ち、感慨深げにため息を吐いた。
「ボクも記憶はないけれど多分リアルブルー出身だから、何だか懐かしく思うよ」
雨夜 時雨(ka3964)は黒い生地に朝顔柄の浴衣を着ており、キーと同じく願い事について悩んでいる。
「――うん、願い事はやっぱり『家族やみんなが元気で過ごせますように』にしておこうかな。キーはどうするの?」
「ん~っと……。俺は『可愛い彼女ができますように!』だな」
「ブレないね。まあキーらしいよ」
キーは真剣な表情で、時雨は柔らかな笑みを浮かべながら、それぞれ短冊に願い事を書いて笹に吊るす。
そして二人は、星空を見上げながら別荘への帰り道を並んで歩く。
「別荘から美味そうな香りがしてくるな。星空も良いけど、季節の食事も楽しみたいもんだ」
「そうだね。美味しい食事も頂けるし、この依頼に誘ってくれたキーに感謝しているよ。今夜は星がよく見えるし、星座が分かりそうだね」
「星座かあ……。俺はあっちの世界にいた頃、こうやって星空を見上げていたんだろうか?」
「星空はどちらの世界にもあるようだし、どこでも見られるのは嬉しいよね」
切なげな表情で星空を見上げる時雨の横顔に、キーは思わず眼を奪われる。
しかし話術が得意なキーが何もしゃべらないことを不思議に思い、時雨は振り返って声をかけた。
「キー、突然黙ってどうかしたの?」
「あー、うん……。いつもの雨夜の姿も良いけれど、浴衣姿も良く似合っているなぁっと思って」
「ありがとう。キーも男前が上がっているよ」
キーが女性を褒めるのはいつもの事――と思っている時雨はケロッと流す。
そんな時雨の反応に、キーは複雑な心境になったが気付かれないように笑みを浮かべた。
「ははっ、サンキュー。……今日は俺に付き合ってくれて、ありがとな」
キーは照れ臭そうに俯いて、呟くように礼を言う。
「何を今更言っているんだよ。こういう静かに楽しめるイベントは好きだし、これからもいろいろな所に行ってみようね」
「そっそうだな! また今日みたいに、雨夜をデートに誘うよ」
「うん、楽しみにしているね」
黒い生地に赤い金魚柄の浴衣を着た時音 ざくろ(ka1250)は、黒い生地に花火柄の浴衣を着た白山 菊理(ka4305)と手を繋ぎながら、別荘への帰り道をゆっくりと歩いていた。
「小高い山の上だけあって空気は美味しいし、星空も良く見えるね。今夜は晴れているから、綺麗な天の川がハッキリと見えるよ」
「うん、本当に綺麗な星空……。ざくろと一緒に見られて、嬉しい」
菊理はざくろの肩に頭をのせて、幸せそうに微笑む。
そんな菊理を見て、ざくろはふと立ち止まる。そして優しく抱き寄せて、愛おしい女性の唇にキスをした。
「星空も綺麗だけど、浴衣姿の菊理はもっと綺麗だよ」
「ふふっ、ありがとう。ざくろの浴衣姿はカッコイイ。思わず惚れ直してしまいそうになるな」
ざくろはもう一度菊理を抱き締めると、名残惜しそうに体を離して再び歩き出す。
「短冊に書いた願い事、もう叶っちゃったのかも」
「ざくろは短冊に、どんな願い事を書いたの?」
「『これからも菊理と一緒にいて、もっとたくさんの冒険ができますように』」
「前半はともかく、後半はこれからだな」
二人はつい先程、短冊に願い事を書いて笹の木に吊るしてきた。
しかし菊理は自分の願い事をざくろに知られるのを恥ずかしがり、彼とは別の木に短冊を吊るしたのだ。
「……でも私の願い事も、叶ったのかもしれない」
「ん? 菊理、何か言った?」
「今回の依頼に誘ってくれたざくろに、感謝しているんだ。夏の良い思い出になりそうだよ」
菊理は呟きを誤魔化すように、少しだけ大きな声と笑顔で答える。
「そっそう……。ざくろはね、七夕の彦星と織姫のように、菊理と愛し合いたいと思って誘ったんだよ。……と言うのも、ちょっと照れるね」
「ざくろらしくて、私は良いと思う。今夜は同じ部屋に泊まるんだし、二人で星空を見ようよ。部屋の中から見る星空も、きっと綺麗だ」
「えっ? あっ、うん。そうだね……」
残念そうに俯くざくろを見て、菊理はクスッと笑みをこぼす。
「別荘の近くに他の建物はないことだし、窓を開け放っていても誰にも部屋の中を見られることはないんだよ。だから私はざくろにめいっぱい甘えられる」
菊理に耳元で意味深に囁かれて、ざくろはハッとした。
「そっそうだね! 今夜はたっくさん菊理を可愛がるよ」
二人は顔を赤く染めながら、笑い合う。
小川に足を入れながらスイカを食べているジャック・エルギン(ka1522)は、青い甚平を着ている。
隣に座り、同じく小川に足を入れて美味しそうにスイカに齧り付いているリンカ・エルネージュ(ka1840)が、紺色の生地に白い花柄の浴衣を着ている姿を見て、あっさりとこう言った。
「リンカの浴衣姿、すっげぇ似合っているな」
「んぐっ!? あっありがとう……。ジャックさんの甚平姿も、カッコイイよ」
「こういう機会じゃないと着ないのは、ちょっともったいねーな。この依頼に参加して良かったぜ。短冊に願い事を書いて笹の木に吊るすなんて、クリムゾンウェストじゃあやんねーしな」
「私は短冊に『みんなの日常を守れるように、立派な魔術師になって強くなる』と書いたんだけど、ジャックさんは?」
「えーっと……、うん、俺も似たような内容だ。ハンターだしな!」
短冊を書くところまでは一緒だったのだが、ジャックは願い事を知られるのを恥ずかしがって、リンカとは別の笹の木に吊るしたのだ。
その後、小川で冷やしていたスイカを食べていたのだが、リンカはふと気付いたように星空を指さす。
「願い事は流れ星にもお願いすることができるんだよ」
「ここから見える星空は、本当にすげぇよな。何だか吸い込まれそうだぜ」
星空を見上げながら、ジャックは短冊に書いた願い事を思い出す。
「――あの願いを叶えるには、もっとデカい男にならなきゃいけねぇ。我ながらガキっぽい願いかもしれねーが、それでも叶えるまで時間がかかりそうだぜ」
ため息を吐きながらジャックは視線を隣へ移すも、リンカは手に持ったスイカをジッと見つめていた。
「りっリンカ? スイカを真剣に見て、どうした?」
「……少し考えていたんだけど、スイカにアクティブスキルのアイスボルトをかけたら、氷スイカにならないかな?」
「そっそれは面白そうだが、アクティブスキルを発動させるのに必要なアイテムを別荘に置いてきているし、スイカはもう冷えているから、後でやった方がいいんじゃねーの?」
「それもそうだね。明日、スイカが余っていたら、試してみるよ」
リンカは素直にジャックの意見を受け入れて、再びスイカを食べ始める。
「ジャックさんも早くスイカを食べないと、ぬるくなっちゃうよ?」
「おっと、いけね!」
二人は星空を見ながら、スイカを食べ続けた。
青い浴衣に着替え終えたブレナー ローゼンベック(ka4184)は、別荘の玄関で待ち合わせをしている。
「ブレナー、お待たせしました」
そこへ黒い生地に撫子の花柄の浴衣に着替えたフローラ・ソーウェル(ka3590)が訪れた。
「わあ! フローラさんの浴衣姿、とっても素敵です! その浴衣、良く似合っていますよ」
「ふふっ、ありがとうございます。ブレナーも浴衣が似合っていますね」
「そうですか? 着るのははじめてなのでちょっと緊張しているんですけど、フローラさんにそう言ってもらえると嬉しいです。では短冊を吊るしに、そろそろ行きましょうか」
「ええ」
二人は並んで歩き出して、笹の木を目当てに向かう。
フローラは夜空を見上げて、ほぅ……と感動のため息をもらす。
「素晴らしい星空ですね。実は私、七夕のストーリーを聞いたことがあるんです。とてもロマンチックなお話なんですよ。……そんなステキなイベントに、私のような者が誰かと一緒に参加できる日がくるなんて……。まるで夢を見ているようで、今がとても幸せに思えます」
柔らかく微笑むフローラを見て、ブレナーは頬を赤く染める。しかし気付かれないように、前方の笹の木を指さした。
「あっ、あそこにテーブルと笹の木があります! 早速短冊に願い事を書きましょう!」
二人はテーブルに置いてある短冊と、筆を手に持つ。
「私の願い事は……やはり『愛しいみなさんが過ごす日々が、幸福に満たされたものでありますように』ですね。……ちょっと大袈裟かもしれませんが、こんなに素敵な星空に願うのならばこのぐらいは良いですよね」
フローラが願い事を短冊に書いている間に、ブレナーも願い事を決めた。
「……ボクはやっぱり、あの願い事ですね」
そしてブレナーはフローラから少し離れた所にある笹の木に、短冊を吊るす。ブレナーの短冊には『もっと男らしくなりたい』と書いてあった。
「大切な人達を守れるように――」
切なげに祈るような言葉を呟いた後、ブレナーはフローラのもとへ戻る。
「フローラさん、ボク、願い事を叶えられるように頑張ります!」
ブレナーの願い事を知らないフローラは、それでも励ますように頷いた。
「ええ、きっとブレナーなら叶えられますよ」
紫色の浴衣を着たマーオ・ラルカイム(ka5475)は、落ち着かなげに胸元や足を見ながら夜道を歩いている。
「体の至る所がスースーして、落ち着かないですね」
青の生地に金色の花柄の浴衣を着たルーン・ルン(ka6243)は、サイドアップにした髪をまとめている花の簪にそっと触れた。
「まあ確かにいつもと違う格好をすると、慣れていないから緊張するわね。でもマーオちゃんの浴衣姿、なかなか良いわよ」
「あっありがとうございます。ルーンさんも浴衣が良く似合っていますが……、胸元や足がはだけていますよ?」
マーオはあくまでも親切心から言ったのだが、ルーンは一瞬顔をしかめてすぐに笑みを浮かべる。
「アラ、ホントだわ。浴衣は着崩れしやすのね」
ルーンは浴衣を直しながらも、内心ではマーオにお色気作戦が通じない事を面白くないと思う。
「では私の手をどうぞ。繋いでいれば、お互いに激しい動きはあまりしないでしょうから」
「そうね。じゃあよろしく」
二人は手を繋ぎながら、夜の散歩を続ける。
「ここは本当に素晴らしい星空が見えますね。こんなに綺麗な景色をルーンさんと見ることができて、とても嬉しいです。でも私は七夕のお話を知らないんですよ。ルーンさんはご存知ですか?」
「織姫と彦星の物語ね。良いわよ、マーオちゃんに教えてあげるわ」
ルーンは七夕の物語を、マーオに語って聞かせた。
「――ロマンチックですけど、ちょっと悲しいお話ですね」
「そうね。でも恋愛ってそのぐらい夢中になってしまうから、注意しなさいってことかもしれないわよ」
「ですがそのぐらい夢中になれる相手と巡り会えたのならば、それはそれで幸せなことかもしれません」
不意に真剣な顔付きになるマーオの横顔を見て、ルーンは胸が高鳴るのを感じる。
「……マーオちゃん、胸元が着崩れているから直してあげるわ。ちょっと止まって」
「あっ、お願いします」
真正面から向かい合い、ルーンはマーオの浴衣の合わせ目に手をかけた。しかし直そうと手に力を込めた途端にグラッと前のめりになり、マーオに寄りかかる形になる。
「ゴメンなさい。よろけちゃって……」
「いっいえ、大丈夫ですよ」
ルーンはすぐにマーオから離れて、着崩れをしっかりと直す。
しかしマーオの首には、ルーンが倒れ込んだ時に付けた唇の跡が残った。
「うわあ、星空がキレイっすね♪ 今夜、晴れて良かったっす」
赤い生地にトンボ柄の浴衣を着た骸香(ka6223)は、紺色の浴衣を着ている鞍馬 真(ka5819)と小川へ向かっている。
「そうだな。最近は骸香とゆっくり過ごす機会がなかったから、この依頼はちょうど良かったよ」
二人は手を繋ぎながら歩いており、間近で微笑み合うその眼には熱い感情が浮かんでいた。
「今日は久し振りに真とデートっすからね。めいっぱい楽しむっす!」
「ああ。私も骸香もハンターという職業上、多忙でなかなか会えないが、それでもこうやって同じ時を過ごすことができて嬉しく思うよ。織姫と彦星は年に一度しか会えないが、私達はタイミングさえ合えば会えるんだから幸せだな」
「そうっすね。うちは真と年に一度しか会えなかったら、きっと寂しくて泣いてしまうっす!」
骸香は甘えるように、真の腕に寄りかかる。
そんな骸香の頭を、真は愛おしそうに撫でた。
「骸香と一緒にいられて、私は幸せ者だ。これからもこうやって会えると良いな」
「うちもそう思うっすよ。……あっ、水が流れる音が聞こえるっす」
笹の群生地の近くにある小川に到着した二人は、立ち止まる。
「夜風が気持ち良いね。笹の香りも、心が落ち着くよ」
「……アレ? でも何だか、小川の周辺も光っているっすよ?」
「えっ? ……ああ、蛍だ」
小川には数多くの蛍がいて、星空に負けないぐらい無数の光が輝いていた。
「うわぁ♪ 幻想的っすね~。ステキな自然の舞台なので、何だか歌って踊りたくなるっす!」
「歌うのは良いと思うけど、踊ると浴衣が着崩れると思うよ?」
「うっ!?」
冷静な真の忠告を聞いて、骸香は自分が歌いながらも浴衣を着崩していく姿を想像して、肩を落とす。
歌うことが大好きな骸香は、夢中になり過ぎると周りが見えなくなるクセがあった。
流石に恋人の前ではしたない姿にはなりたくない為に、激しく踊るのは諦めることにする。
「……じゃあ軽く体を動かす程度にするっす」
「そうすると良いね。私は横笛で伴奏するよ」
真が懐から横笛を取り出して見せると、骸香の表情がパアッと明るくなる。
「でも足元には気を付けてね。うっかり小川に落ちないように」
「分かっているっす! 真、うちの得意曲を頼むっすよ♪」
織姫の衣装に身を包んだ紅媛=アルザード(ka6122)はピクニックバスケットを両手で持ちながら、別荘の玄関でウロウロしている。
「紅媛、待たせたか?」
そこへ彦星の衣装に着替えたエル・ドラード(ka6347)が声をかけた。
「いっいや、こっちこそ待たせちゃったか?」
「それはこっちのセリフなんだけど……。でも紅媛の織姫姿、とても綺麗だな。よく似合っている。こういうイベントで特別な衣装を着るのは楽しいものだ」
「その……エルさんの彦星姿も、似合っている」
「ありがとう。そろそろ小川へ向かおうか」
エルは自然な動きで紅媛が持つピクニックバスケットを持ち、玄関の引き戸を開ける。
紅媛が外へ出て引き戸を閉めた後は、空いている手で彼女の手を握って歩き出した。
「……エルさん、すまない。私、男の人と二人っきりで夜に出掛けるなんてはじめてだから、いっぱいいっぱいで……」
「それに自分が一ヶ月以上前に交際を申し込んだから、余計に緊張しているんだな。ゆっくり慣れれば良いよ。紅媛のペースで、自分は構わないから」
「うっうん……」
赤面する紅媛はなかなか言葉が出ず、ほとんど会話なく小川に到着する。
そこで紅媛はピクニックバスケットからレジャーシートを取り出して、地面に敷く。
「エルさんが何が好きかまだよく分からないから、いろいろ作ってきたんだ。お口に合えばいいんだけど……」
二人は並んで座り、レジャーシートの上にお弁当箱を並べる。
「紅媛は料理が得意と言っていたから、楽しみにしていたんだ。あっ、星型の卵焼きがある。どれ……うん、とても美味しい。今まで食べた卵焼きの中で、一番美味しいよ」
「そう言ってもらえると、嬉しい」
「紅媛は良いお嫁さんになるタイプだな」
「エルさんに言われると照れ臭いんだけど……。実は料理の他にも、掃除や洗濯も得意なんだ。でも貴族の娘だから、使用人達をちょっと困らせてしまって……」
「ははっ、まあ自分はこうして紅媛の手作り弁当を食べられて、幸せだけどね」
二人は会話を楽しみながらお弁当を食べ終えて、立ちながら星空を見上げた。
「本当に、ここから見える星空は綺麗……」
紅媛がうっとりしている間に、エルは短冊を書くことにする。
「願い事はやはり『紅媛とずっと一緒にいられますように』だな。過ぎた願いかもしれないが、それでも祈りたい」
赤い生地に金色の金魚柄の浴衣を着たシェリル・マイヤーズ(ka0509)は黒い浴衣を着ている弥勒 明影(ka0189)から、笹の木の前に置かれたテーブルの上で折り紙の作り方を教えてもらっていた。
「ううっ……。七夕の飾りって、作るの結構疲れる……」
「七夕にちなんだ飾りは鶴の他にも提灯や星、網に貝、吹き流しに菱飾り、そして織姫と彦星など、折り紙でいろいろ作れるんだ。……でもシェリルはハサミで切って作る飾りの方が良いんじゃないか?」
シェリルが作ったヨレヨレの折り鶴を見て、明影は少し苦く笑いながらハサミを差し出す。
「……そうするよ。でもアキ、本当に短冊に願い事を書かなくていいの?」
「俺はこういうイベントで願う事は慣れていないし、シェリルもしないと言うのなら、無理にする必要はないだろう」
「まあ……そうだね」
そして二人は作った飾りを、笹の木につけていく。飾り終えると一歩後ろに下がり、笹の木と共に星空を二人並んで見上げる。
シェリルは景色を見ながら、懐かしそうに眼を細めた。
「キレイな景色だね。飾り付けた笹の木もステキ。……子供の頃はもっとはしゃいでいたんだけど、両親を亡くしてからはこういうイベントはあまり喜ばなくなったな……。ハンターになってからもいろいろと失うものが多くて、成長したと言うよりも変に悟っちゃったのかもしれないね」
「冷めるよりはマシだろう。それにこの依頼をシェリルが楽しんでくれている方が、大事だ。俺はその……女性を喜ばせたり楽しませたりする術をよく知らないからな。シェリルが楽しんでくれているのならば、俺は嬉しい」
優しく微笑む明影を見て、シェリルも表情を和らげる。
「アキ……。うん、私は今、楽しいよ。それに……何があっても絶対に私のもとへ帰って来てくれるアキみたいに、強くなりたいと思う」
「俺はシェリルのその笑顔を見たいが為に、生きて帰ってくるんだ。強くなるのは構わないが、あまり無茶はしないでくれ」
「うん。できるだけ頑張る」
シェリルが決意も固く頷く姿を見て、明影はヤレヤレと肩を竦めた後に彼女の手を握り締めた。
「後で小川の方にも行ってみよう。仲間達からの話では、蛍がいるそうだ」
「うん、蛍も見てみたい」
眼をキラキラと輝かせるシェリルを見て、明影は今この時を幸せに思う。
橙色の生地に色とりどりの花柄の浴衣を着たクウ(ka3730)は別荘の玄関で、アルバ・ソル(ka4189)を待っている。
「クウ、早かったね。待たせちゃったかな?」
黒い浴衣を着たアルバが声をかけると、クウはホッとしたように安堵の笑みを浮かべた。
「ううん、私も今来たところだから。アルバの浴衣姿を見るのははじめてだけど、よく似合っているよ!」
「おや、褒めるのを先越されてしまったな。クウも浴衣が良く似合っているよ。とても可愛い」
「あっありがとう。それじゃあ早速、星を見に行こうよ!」
別荘を出て歩き出した二人の数メートル後ろには、生成りに菖蒲柄の浴衣を着たヘルヴェル(ka4784)がこっそりつけている。
「少し前にアルバがクウに告白したと聞いた時には、夏の暑さにやられてしまったのかと思ったんだが……。二人の様子を見ると、案外良い雰囲気じゃないか。クウはいつもより可愛くなっているし、アルバもなかなか男らしい表情をするようになった。幼馴染みの関係からもう一歩先の関係に踏み出すのに必要なのは、クウの気持ち次第といったところだな」
二人の幼馴染みであるヘルヴェルはクウとアルバの関係が変わりそうなことを知り、居ても立っても居られなくなったのだ。
「しかしクウの最近の話題は恋愛に関する事が多いし、アルバなんてクウのことを『お姫様』と呼ぶようになったしなぁ。恋をすると、いろいろ変わるものだ。だが相手は同じハンターなんだし、気を付けて尾行……いや、見守らないと!」
ヘルヴェルは慎重に、二人の後をついて行く。
二人が訪れたのは、星が良く見える草原だった。
「うわあ! 天の川がこんなにハッキリ見えるなんて……!」
「来て良かったな。クウが喜ぶ顔も見られたし、僕は大満足だ」
「んもうっ! アルバったら……」
「本当だ。僕はクウの笑顔が好きなんだよ。子供の頃から見てきたのに、いつの間にかクウにはずっと笑っていてほしいと思うようになった。……でもクウを笑顔にさせるのは、僕以外じゃイヤだ。この感情の名前を知ったからには、もう黙っていられない」
アルバはクウの正面に立ち、彼女の両手をギュッと握り締める。
「僕はクウのことが好きなんだ。幼馴染みとしてではなく、一人の女性として愛しているんだよ。だから……僕のことも一人の男として見てほしい。そして恋人になってほしいと願うんだ」
「アルバ……。告白されるのは、これで二度目だね。最初の時はビックリして、私は逃げちゃったけど……」
クウは俯きながらも、しっかりとアルバの両手を握り返す。
「――本音を言うと、まだ恋愛感情ってよく分からないの。いろんな人達に聞いてみても、ピンとこなくて……。だからいっそのこと、こうやって確かめてみるよ!」
「えっ? ……うわわっ!」
クウは突然両手を離したかと思うと、アルバに抱き着いた。そしてアルバの背中に両腕を回して、ギュウッとしがみ付く。
「くっクウ?」
「……アルバの胸の鼓動、スッゴク高鳴っているね。私の胸も負けないぐらい、高鳴っているよ。ドキドキが止まらないなら、こうやって二人っきりでいたいと思うのならば、この感情は恋愛という名前だね。……恋人に、なってみようか?」
「クウ……! ああ、夢のようだ!」
強く抱き合う二人を見て、ヘルヴェルはこっそりこの場から移動する。
「ふう……、ヤレヤレ。食事を終えるとみんなして、個人行動に移るなんてねぇ。独り身には熱い夜となりそうだよ」
クスクスと笑いながら、紫の生地に白い花柄の浴衣を着た冷泉 雅緋(ka5949)は小川に両足を入れた。冷たさに思わず身を縮めながらも、星空を見上げて笑みを浮かべる。
「美しい星空だねぇ。真っ暗な空に無数の小さな星が光輝いている姿は、命あるもの達が一生懸命に生きる姿と似ていて、あたしは好きだよ。……闇に沈んで何も見えなくなったあたしに見えた希望の光は、守りたいねぇ。遠くの星空までは流石に無理だけど、せめてこの眼に映る星達は力強く命の光を輝かせていてほしい。その為に戦うことが、あたしがここにいる意味なんだろうねぇ」
「ふふっ、雅緋さんは優しいんだな」
「こういう時は聞かぬフリをするものよ。ヘルヴェル」
実は数メートル先には、ヘルヴェルが雅緋と同じく小川に両足を入れていたのだ。
「幼馴染みの二人はどうしたの? 別荘に来た時は一緒だったわよね?」
「今頃、恋人になったばかりの幸せを感じ合っているだろう。独り身のあたしの分まで、幸せになってほしいと思う」
「それはめでたいわね。これから別荘に戻って、一杯どう? 確かまだ食べる物も残っていたはずだし、部屋で一緒に飲まない?」
「祝い酒か、良いな。お互い一般スキルにうわばみがあるし、今夜は長く飲もう」
二人はにっこり微笑み合うと、小川から足を出す。
黒い浴衣を着たGacrux(ka2726)は、別荘の一室にいる。
窓を開けており、蚊帳の中に入って布団の上に寝転んでいた。持ってきた月光俳句集を読む為に用意してもらった畳に置くタイプのLEDライトは、そろそろ稼働時間が終わりそうだ。
「ふわぁ……。久し振りに、ゆっくりと読書ができましたねぇ」
欠伸を一つするとライトの電源を切り、月光俳句集を畳の上に置いて、団扇を代わりに手に持って自身を扇ぐ。
「小川で魚を釣って食べましたし、飾り付けられた笹の木を見たり、短冊を書いて吊るしたり、星空を見上げたり、蛍を捕まえたりと、のーんびり過ごせました」
蚊帳の中にはGacruxが小川で捕ってきた蛍が数匹、飛び回っている。
「……こうして眼を閉じれば、虫の声と仲間達の楽しそうな声が遠くから聞こえてきます。俺が短冊に書いた願い事はハンター絡みになってしまったけれど……、それでも叶うと……良い、ですね」
心地いい夜風にふかれながら、Gacruxは眠りの世界へ誘われていく。
穏やかな寝顔は、一時だけだが彼が苦痛や悩みを与える世界から解放されていることが分かった。
ハンター達の夜は、こうして更けていく――。
<終わり>
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/15 09:23:58 |