ゲスト
(ka0000)
ヘロルドは飢えている
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/17 12:00
- 完成日
- 2016/07/29 18:06
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ぬたりとした濃い闇の中。ドアに手をかけた者がいる。
男だ。ゾンネンシュトラール帝国辺境の街の自警団員のリーダーであった。
「開けるぞ」
部下に告げると、男――リーダーはドアを開いた。
だだっ広い倉庫。中央の椅子に座している者があった。リーダーがカンテラの光をむけると、それは二十歳ほどの若者と知れた。
「よく来たな」
若者がニタリと笑った。すると真紅の唇から牙が覗いた。
「さ、さらった娘たちを返せ」
リーダーが叫んだ。すると若者の笑みが深くなった。
「いやだね。ゆっくり喰うんだ」
若者が合図すると、彼の背後に立つ者たちがゆらりと動いた。
咄嗟に自警団員たちは剣を引き抜いた。が、かまわずソレらは襲いかかった。
「やれ」
リーダーが命じ、自警団員たちは剣で迎え撃った。斬りつけ、突き刺す。が、ソレらは平然としていた。ソレらは動く屍人であったのだ。
屍人どもは自警団員たちに掴みかかった。とんでもなく強い指の力で自警団たちの肉をちぎりとり、あるいは口で噛み裂く。
「あ――」
呆然としてリーダーは立ちすくんだ。
その瞬間だ。若者の姿が消失した――ようにリーダーの目には映じた。それほどの迅速の動きで若者は彼を襲った。
若者の手がリーダーの首を掴んだ。凄まじい力だ。振りほどくことはできなかった。
「まずはお前からだ」
無造作にリーダーの首をへし折ると、若者のリーダーの首を噛み裂き、血とともにマテリアルをすすりだした。
ぬたりとした濃い闇の中。ドアに手をかけた者がいる。
男だ。ゾンネンシュトラール帝国辺境の街の自警団員のリーダーであった。
「開けるぞ」
部下に告げると、男――リーダーはドアを開いた。
だだっ広い倉庫。中央の椅子に座している者があった。リーダーがカンテラの光をむけると、それは二十歳ほどの若者と知れた。
「よく来たな」
若者がニタリと笑った。すると真紅の唇から牙が覗いた。
「さ、さらった娘たちを返せ」
リーダーが叫んだ。すると若者の笑みが深くなった。
「いやだね。ゆっくり喰うんだ」
若者が合図すると、彼の背後に立つ者たちがゆらりと動いた。
咄嗟に自警団員たちは剣を引き抜いた。が、かまわずソレらは襲いかかった。
「やれ」
リーダーが命じ、自警団員たちは剣で迎え撃った。斬りつけ、突き刺す。が、ソレらは平然としていた。ソレらは動く屍人であったのだ。
屍人どもは自警団員たちに掴みかかった。とんでもなく強い指の力で自警団たちの肉をちぎりとり、あるいは口で噛み裂く。
「あ――」
呆然としてリーダーは立ちすくんだ。
その瞬間だ。若者の姿が消失した――ようにリーダーの目には映じた。それほどの迅速の動きで若者は彼を襲った。
若者の手がリーダーの首を掴んだ。凄まじい力だ。振りほどくことはできなかった。
「まずはお前からだ」
無造作にリーダーの首をへし折ると、若者のリーダーの首を噛み裂き、血とともにマテリアルをすすりだした。
リプレイ本文
●
ゾンネンシュトラール帝国辺境の街。そのさらに郊外。
林の中で馬が足をとめた。
三騎。降りたのは三人の男女であった。
「……この辺りならいいだろう」
男がいった。
二十歳ほど。黒髪黒瞳の冷然たる風貌の持ち主であった。
名はザレム・アズール(ka0878)。ハンターである。
「そうだね」
こたえたのは男装した女であった。鮮やかな蒼の髪をもつとてつもない美形だ。
彼女はエルフであった。名をルーン・ルン(ka6243)という。
ルーンは手綱を木の幹に結びつけた。この場所ならターゲットに感づかれることもないであろう。
それに習い、三人めのハンターも木の幹に手綱を結びつけた。これは名をルーネ・ルナ(ka6244)という。
これも美しい少女だ。が、凛としたルーンと違い、ルーネの美はどこか霧に包まれたように朧であった。
ルーネはランタンを掲げると、
「さあ、まいりましょうか、姉さま」
とルーンを促した。
それから幾ばくか。ルーンがルーネに声をかけた。
「そろそろランタンの火を消した方がいいよ」
「はい」
ルーネがうなずいた。明かりを消す。すると辺りは真闇に包まれた。
「じゃあ、いこうか」
ザレムは再び歩き出した。そして、また幾ばくか後。三人は木陰で足をとめた。
闇の中、さらに黒々と建物が見える。
古ぼけた倉庫。吸血鬼の根城であった。
「あれか……」
ザレムがつぶやいた。するとルーンはため息をもらした。
「正直、待ち伏せされてんだろねェ」
「ですわね」
ルーネがうなずいた。そして辺りに油断なく視線を走らせた。
すでに自警団により根城は暴かれている。当然第二の敵が現れるこくらい吸血鬼は予想しているだろう。そうなれば心配なのは伏兵であるのだが――。
「……どうやら待ち伏せはなさそうですね」
「そうだな」
ザレムは倉庫を見つめた。壁は石造り。壊せそうになかった。入口は表のみ。裏にはなかった。
「突入口は一箇所のみか」
独語した時だ。背後で気配がわいた。はじかれたように振り向いたザレムは、そこに五人の男女の見出した。
妖精を想起させる可憐な少女、気品のある可愛らしい少女、右腕を肩から指の先まで赤い包帯で覆っている少女、碧瞳を好奇心に輝かせている少女、白髪を背に流した冷然たる少年。ハンターだ。それぞれに名をアニス・エリダヌス(ka2491)、シェルミア・クリスティア(ka5955)、玉兎 小夜(ka6009)、ウィーダ・セリューザ(ka6076)、ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)という。
「……様子はどうですか?」
アニスが声を低めて問うた。するとルーネがこたえた。
「変わったところはありません」
「吸血鬼かぁ……」
ある種の感慨を込めてシェルミアが声をもらした。彼女はリアルブルーの人間である。本物の吸血鬼と遭遇することなどありえようはずはなかった。
「逸話とか御伽だけかと思ってたけど、まぁ居たとしてもおかしくないのかな」
「それは、ね」
当然といわんばかりにうなずいたのはウィーダである。彼女はエルフであり、この世界の生まれであった。ウィーダにとってファンタジー世界の住人は別段珍しくはなかった。
「話によれば人質が居るらしいが……」
「だね」
小夜がこたえた。捕らわれの娘たちが生きているなら人質となる可能性があった。
「ボクだったらわざわざ連れ去らず、現地で食い散らかして帰るところだけど……ちゃんと持って帰ってから食べようとするあたり、なかなか行儀がいいじゃないか。お持ち帰りされた人たちは彼のモノじゃないっていうのが問題だけどね」
ウィーダが皮肉に笑った。するとシェルミアも同じように笑い、しかしすぐに笑みを消すと、
「でも、捕らえられた人達がまだ無事なら助けなくちゃ」
「そうだな」
ヴィントがうなずいた。
「面倒というか厄介な仕事になるがな。……が、引き受けたからにはきっちり仕事はこなす。それに」
ヴィントはちらりとシェルミアを見た。彼女はリアルブルーでの馴染みである。怪我をさせたくはなかった。
「これ以上、人々を危険にさらすわけにはいかない」
白地に赤の十字が鮮やかに描かれたカイトシールド――聖盾、ガラハドを握るアニスの手に力がこもった。
「その前に」
ルーネの瞳が金色に光った。するとヴィントの身が光に包まれた。
プロテクション。ルーネは魔法的にヴィントの防御能力を増幅したのであった。
●
アニスが静かなる鎮魂歌を口ずさんだ。
ただの歌ではない。それは魔法であった。夜と冥界、そして知恵を司る神であるニュクスに祈りを捧げることにより、正ならざる生命の行動を阻害するのである。
小夜が戸を蹴り開けた。突入。
「こんばんは、どこかの晩御飯!」
刹那である。黒影が襲いかかってきた。
咄嗟に小夜は漆黒の刃もつ巨刀――祢々切丸をかまえた。それは人の身にはあまるほどのとてつもない大きさをもつ、いっそギロチンと呼んでいい代物であった。その化物じみた刀を小夜は軽々と扱うのだが――さすがに遅れた。屍人に掴みかかられ、押し倒される。屍人の歯が小夜の首を噛み裂いた。
あっ、という小夜の苦鳴と銃声が重なった。屍人の頭蓋が着弾の衝撃ではじける。
「やはり気づいていたようだな」
銃口から硝煙を立ち上らせた黒の銃身のスナイパーライフル――バベル13をかまえたヴィントがいった。すると倉庫の中央に立つ人影がニヤリと笑った。ルーネの手の十字架型の白く神々しいメイス――セルベイションにやどる光に二十歳ほどの若者が浮かびあがる。――吸血鬼、ヘロルドであった。
「よく来たな。きっと、また来るとは思っていたが……まあ、お前たち人間の取り柄はしつこさくらいだからな」
「誉め言葉と受け取っておくよ」
ルーンが素早く視線をはしらせた。
捕らわれた娘たちは倉庫の奥にいる。縛られ、転がされていた。近くに敵の姿はない。
ルーンは符を投げ上げた。するとそれは宙で様相を変換。稲妻と化して幾つかの黒影を撃った。肉の焦げるような胸の悪くなる匂いを発し、黒影が倒れる。瞬間、ザレムが走った。倉庫の奥。捕らわれの娘たちにむかって。
「させるかよ」
ヘロルドの姿か消えた。そうとしか思えぬ高速の機動。たちまち肉薄するとザレムを蹴った。
「うっ」
凄まじい衝撃にザレムがはねとばされた。石の壁に激突する。
「遅い。遅いんだよぉ、人間」
ニンマリすると、ヘロルドは命じた。
「やれ」
「しゃあ」
牙をむき、獣の素早さで黒影――屍人たちが襲った。
瞬間、闇が爆ぜた。マズルフラッシュの閃光だ。シェルミアとヴィントの銃撃である。
衝撃に二体の屍人がはねとばされた。が、他の屍人は襲撃を続行した。
「ううっ」
アニスが盾で屍人の襲撃を防いだ。ものすごい衝撃だが、なんとかアニスは耐えた。
「この血を捧げる方は決めております。あなたたちのようなモノには与えられません」
アニスが叫んだ。
●
「お前の相手はボクだよ」
ウィーダが進み出た。ヘロルドがちらりと視線をむける。
「エルフか。エルフのマテリアルは喰らったことはないな」
ヘロルドがニンマリした。
「喰らってみなよ。喰らえるものなら、ね」
瞬間、ウィーダの手から光が噴出した。『Star of Bethlehem』。五芒星の形をした投擲武器だ。
「無駄だ」
ヘロルドはひらりと躱した。魔性の俊敏さで。
と、小夜がはねおきた。
「やってくれたよね。晩御飯? 夜食? どっちでもいいや、弱肉強食。お前を喰いに来ました!」
小夜が走った。豪風をまいて祢々切丸の刃をヘロルドに叩き込む。が、これもヘロルドは容易く躱した。のみならず小夜の腹に蹴りをぶち込んだ。
「人間の分際で、何をほざく。喰らうだとぉ。馬鹿がぁ」
「誰が馬鹿だい?」
苦痛にゆがむ小夜の唇が嘲笑の形にゆがんだ。
「!」
はじかれたようにヘロルドは振り向いた。その視線の先、ザレムの姿はない。
ウィーダの瞳が碧から蒼へと変わった。
「そういうことだよ」
「ぬうっ」
ヘロルドは視線をはしらせた。捕らわれの娘たちのもとへ。そこにザレムの姿はあった。
「今、助ける」
ザレムの刀――オートMURAMASAが閃いた。それこそは軍で試作された特殊な刀で、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増さしめる代物である。なんで縄ごときがたまろうか。娘たちの戒めがぷつりと断ち切れた。
「ほらほら、起きて。お姫さま」
同じく駆けつけたルーンが娘たちを抱き起こした。そして背に符を貼り付ける。
加護符。貼り付けられた者を守護するという魔法の符である。
「あ――」
立ち上がろうとし、すとんと一人の娘が尻をおとした。恐怖のあまり腰が抜けたのである。
「オレに任せてよ」
ルーンが娘を抱き上げた。よし、とうなずいたザレムが娘たちに告げた。
「入口まで走るんだ。できるか?」
「はい」
娘たちがうなずいた。
「やらせるか」
ヘロルドが襲いかかろうとし――足をとめた。その眼前をはしるすぎる光流が一条。ウィーダの『Star of Bethlehem』だ。
ぎろりとヘロルドがウィーダを睨みつけた。
「邪魔をするな」
「するよ」
小夜が祢々切丸をヘロルドに叩きつけた。それはあまりに重い斬撃。が、その鉄槌のごとき一撃をヘロルドは鋼の硬度をもつ爪ではじいた。のみならず、左手の爪を小夜の腹にぶち込んだ。
「くはっ」
小夜の口から鮮血がしぶいた。
●
娘を抱いたルーンが走る。他の娘たちがその後に続いた。
「逃がすな」
ヘロルドが命じると、屍人たちが娘たちに襲いかかった。
「あっちにいってくださいませ」
ルーネがセルベイションで屍人を殴り飛ばした。同時にもう一体が吹き飛ぶ。着弾の衝撃。ヴィントだ。
ちらりと見やり、ルーネが微笑んだ。見事な連携である。これであればこそ背を預けておける。
「気をそらせるな」
ヴィントがトリガーをひいた。轟音とともに吐き出された熱弾がルーネに走りよりつつあった屍人の額を撃ち抜く。
その時、娘を抱いたルーンが入口付近までたどり着いた。そのまま外に飛び出す。
他の娘たちは弱っているのか遅れていた。殿はザレムである。
「急げ」
ザレムは娘たちを急かせた。ヘロルドの足止めにも限界がある。
「役立たずどもめ」
舌打ちすると、小夜の腹から血濡れた爪を引き抜き、ヘロルドは娘たちを睨みつけた。彼の襲撃速度であれば逃がすことはない。
その時だ。幾枚かの符が翔び、ヘロルドを取り巻いた。
瞬間、光が空間を白く染めた。符が作り上げた結界内を光が灼いたのだ。
「うっ」
ヘロルドは呻いた。受けたダメージはたいしたものではない。が、目は眩んでしまっていた。
「ごめんね。わたし達もちゃんとしたお仕事で来てるんだ。君からあの人達を取り戻すっていうね」
シェルミアが告げた。
「ほざけ。殺れ」
ヘロルドが命じた。叱咤されたように屍人が躍りかかる。
「させません」
アニスが屍人の攻撃を盾で防いだ。が、それはフェイントであった。ヘロルドの身が空を舞う。そして娘たちに躍りかかった。
瞬間、ふたつの影が交差した。ひとつはヘロルドだ。そして、もうひとつはザレムであった。
「娘たちに手を出させるものかよ」
「人間め。よくも邪魔をしてくれたな」
ヘロルドがぎろりと狼を睨みつけた。その頬の傷がゆっくりと塞がっていく。
「が、しょせんは人間ごときの業。この身体に傷ひとつつけることはかなわぬ」
「なら、これはどうかな?」
シェルミアが拳銃のトリガーをひいた。
エア・スティーラー。風の精霊の加護を受けた、銀製の銃身を持つ魔導拳銃だ。
撃ち出された弾丸は風の精霊の力をまとい、さらに速度を増して疾った。さすがに躱せぬヘロルドの身を穿つ。着弾の衝撃でヘロルドがよろけた。
「きさま、よくも」
ヘロルドの形相が変わった。悪鬼のそれに。
その時、ルーンが入口に到達した。娘を抱いて飛び出す。それに娘たちが続いた。
「ルーネさん」
アニスがルーネの前に立った。盾をかまえる。
うなずいたルーネの瞳が金色に輝いた。身から立ち上るオーラが虹のような鮮やかな色彩をおびたしゃぼん玉となって彼女の周囲を舞う覚醒したのだ。
次の瞬間である。小夜の全身が淡い光に包まれた。その身の傷が見る間に癒えていく。
「再生できるのは貴方だけではありません」
「ううぬ」
悪鬼の形相のままヘロルドが歯軋りした。すでに屍人は全滅している。
「残るのはお前だけだ。rest in peace……。死者は死者らしく、土へ還れ…ってな」
・至近距離での射撃時」
ヴィントがバベル13の銃口をヘロルドにむけた。ポイントする。
瞬間、ヘロルドが動いた。迅い。ヴィントが放った弾丸が空しく流れすぎていく。が――。
疾風の速度で機動するヘロルドの顔が驚愕に歪んでいた。彼と同速度で疾る者がいたのだ。
「速さなら俺も負けてはいないのでな」
足の装備からマテリアルを噴射させるザレムのオートMURAMASAの刃が舞った。咄嗟に跳び退いたが、遅い。ヘロルドの腹が真一文字に切り裂かれている。
「これしきのこと」
ヘロルドがニンマリした。傷は浅い。その時――。
「ぎゃあああ」
ヘロルドが苦悶した。その身体が炎によって灼かれている。火炎符だ。
「『灰は灰に』って訳じゃないけど、吸血鬼退治とか、こういう時には火葬だよねっ!」
シェルミアが片目を瞑ってみせた。が――。
ククク、という笑い声が炎の中から流れ出た。ヘロルドだ。
「……まだだ、人間」
「なんという――」
さすがにウィーダが息をひいた。なんという吸血鬼のしぶとさだろう。
そのヘロルドの背後。躍り上がった影がある。小夜だ。雪のように白い垂れた耳いわゆるロップイヤーが側頭部の両側に、そして同色の毛玉のような尻尾が腰部下部に顕れている。
「ヴォーパルバニーが、刻み刈り取らん!」
納刀状態からの抜刀。それは居合の刀法に似ていた。
たばしる白光。血しぶき散らし、ヘロルドの首がとんだ。
●
吸血鬼の殲滅後、ハンターたちは周囲を探索した。
近くの林の中。無造作に捨てられた自警団員の死体があった。全身噛み裂かれ、引きちぎられた無残な死体が。
「勇敢に戦った魂に、光のお導きがございますよう……」
アニスが鎮魂の祈りを捧げた。その後ろでは泣き崩れる娘たちの姿がある。彼らは娘たちのめに戦い、そして散っていったのである。
その娘の一人の肩に、そっとルーンが手をおいた。
「彼の行為は無駄じゃなかった。きみたちが生きているんだから」
ルーンは告げた。
ゾンネンシュトラール帝国辺境の街。そのさらに郊外。
林の中で馬が足をとめた。
三騎。降りたのは三人の男女であった。
「……この辺りならいいだろう」
男がいった。
二十歳ほど。黒髪黒瞳の冷然たる風貌の持ち主であった。
名はザレム・アズール(ka0878)。ハンターである。
「そうだね」
こたえたのは男装した女であった。鮮やかな蒼の髪をもつとてつもない美形だ。
彼女はエルフであった。名をルーン・ルン(ka6243)という。
ルーンは手綱を木の幹に結びつけた。この場所ならターゲットに感づかれることもないであろう。
それに習い、三人めのハンターも木の幹に手綱を結びつけた。これは名をルーネ・ルナ(ka6244)という。
これも美しい少女だ。が、凛としたルーンと違い、ルーネの美はどこか霧に包まれたように朧であった。
ルーネはランタンを掲げると、
「さあ、まいりましょうか、姉さま」
とルーンを促した。
それから幾ばくか。ルーンがルーネに声をかけた。
「そろそろランタンの火を消した方がいいよ」
「はい」
ルーネがうなずいた。明かりを消す。すると辺りは真闇に包まれた。
「じゃあ、いこうか」
ザレムは再び歩き出した。そして、また幾ばくか後。三人は木陰で足をとめた。
闇の中、さらに黒々と建物が見える。
古ぼけた倉庫。吸血鬼の根城であった。
「あれか……」
ザレムがつぶやいた。するとルーンはため息をもらした。
「正直、待ち伏せされてんだろねェ」
「ですわね」
ルーネがうなずいた。そして辺りに油断なく視線を走らせた。
すでに自警団により根城は暴かれている。当然第二の敵が現れるこくらい吸血鬼は予想しているだろう。そうなれば心配なのは伏兵であるのだが――。
「……どうやら待ち伏せはなさそうですね」
「そうだな」
ザレムは倉庫を見つめた。壁は石造り。壊せそうになかった。入口は表のみ。裏にはなかった。
「突入口は一箇所のみか」
独語した時だ。背後で気配がわいた。はじかれたように振り向いたザレムは、そこに五人の男女の見出した。
妖精を想起させる可憐な少女、気品のある可愛らしい少女、右腕を肩から指の先まで赤い包帯で覆っている少女、碧瞳を好奇心に輝かせている少女、白髪を背に流した冷然たる少年。ハンターだ。それぞれに名をアニス・エリダヌス(ka2491)、シェルミア・クリスティア(ka5955)、玉兎 小夜(ka6009)、ウィーダ・セリューザ(ka6076)、ヴィント・アッシェヴェルデン(ka6346)という。
「……様子はどうですか?」
アニスが声を低めて問うた。するとルーネがこたえた。
「変わったところはありません」
「吸血鬼かぁ……」
ある種の感慨を込めてシェルミアが声をもらした。彼女はリアルブルーの人間である。本物の吸血鬼と遭遇することなどありえようはずはなかった。
「逸話とか御伽だけかと思ってたけど、まぁ居たとしてもおかしくないのかな」
「それは、ね」
当然といわんばかりにうなずいたのはウィーダである。彼女はエルフであり、この世界の生まれであった。ウィーダにとってファンタジー世界の住人は別段珍しくはなかった。
「話によれば人質が居るらしいが……」
「だね」
小夜がこたえた。捕らわれの娘たちが生きているなら人質となる可能性があった。
「ボクだったらわざわざ連れ去らず、現地で食い散らかして帰るところだけど……ちゃんと持って帰ってから食べようとするあたり、なかなか行儀がいいじゃないか。お持ち帰りされた人たちは彼のモノじゃないっていうのが問題だけどね」
ウィーダが皮肉に笑った。するとシェルミアも同じように笑い、しかしすぐに笑みを消すと、
「でも、捕らえられた人達がまだ無事なら助けなくちゃ」
「そうだな」
ヴィントがうなずいた。
「面倒というか厄介な仕事になるがな。……が、引き受けたからにはきっちり仕事はこなす。それに」
ヴィントはちらりとシェルミアを見た。彼女はリアルブルーでの馴染みである。怪我をさせたくはなかった。
「これ以上、人々を危険にさらすわけにはいかない」
白地に赤の十字が鮮やかに描かれたカイトシールド――聖盾、ガラハドを握るアニスの手に力がこもった。
「その前に」
ルーネの瞳が金色に光った。するとヴィントの身が光に包まれた。
プロテクション。ルーネは魔法的にヴィントの防御能力を増幅したのであった。
●
アニスが静かなる鎮魂歌を口ずさんだ。
ただの歌ではない。それは魔法であった。夜と冥界、そして知恵を司る神であるニュクスに祈りを捧げることにより、正ならざる生命の行動を阻害するのである。
小夜が戸を蹴り開けた。突入。
「こんばんは、どこかの晩御飯!」
刹那である。黒影が襲いかかってきた。
咄嗟に小夜は漆黒の刃もつ巨刀――祢々切丸をかまえた。それは人の身にはあまるほどのとてつもない大きさをもつ、いっそギロチンと呼んでいい代物であった。その化物じみた刀を小夜は軽々と扱うのだが――さすがに遅れた。屍人に掴みかかられ、押し倒される。屍人の歯が小夜の首を噛み裂いた。
あっ、という小夜の苦鳴と銃声が重なった。屍人の頭蓋が着弾の衝撃ではじける。
「やはり気づいていたようだな」
銃口から硝煙を立ち上らせた黒の銃身のスナイパーライフル――バベル13をかまえたヴィントがいった。すると倉庫の中央に立つ人影がニヤリと笑った。ルーネの手の十字架型の白く神々しいメイス――セルベイションにやどる光に二十歳ほどの若者が浮かびあがる。――吸血鬼、ヘロルドであった。
「よく来たな。きっと、また来るとは思っていたが……まあ、お前たち人間の取り柄はしつこさくらいだからな」
「誉め言葉と受け取っておくよ」
ルーンが素早く視線をはしらせた。
捕らわれた娘たちは倉庫の奥にいる。縛られ、転がされていた。近くに敵の姿はない。
ルーンは符を投げ上げた。するとそれは宙で様相を変換。稲妻と化して幾つかの黒影を撃った。肉の焦げるような胸の悪くなる匂いを発し、黒影が倒れる。瞬間、ザレムが走った。倉庫の奥。捕らわれの娘たちにむかって。
「させるかよ」
ヘロルドの姿か消えた。そうとしか思えぬ高速の機動。たちまち肉薄するとザレムを蹴った。
「うっ」
凄まじい衝撃にザレムがはねとばされた。石の壁に激突する。
「遅い。遅いんだよぉ、人間」
ニンマリすると、ヘロルドは命じた。
「やれ」
「しゃあ」
牙をむき、獣の素早さで黒影――屍人たちが襲った。
瞬間、闇が爆ぜた。マズルフラッシュの閃光だ。シェルミアとヴィントの銃撃である。
衝撃に二体の屍人がはねとばされた。が、他の屍人は襲撃を続行した。
「ううっ」
アニスが盾で屍人の襲撃を防いだ。ものすごい衝撃だが、なんとかアニスは耐えた。
「この血を捧げる方は決めております。あなたたちのようなモノには与えられません」
アニスが叫んだ。
●
「お前の相手はボクだよ」
ウィーダが進み出た。ヘロルドがちらりと視線をむける。
「エルフか。エルフのマテリアルは喰らったことはないな」
ヘロルドがニンマリした。
「喰らってみなよ。喰らえるものなら、ね」
瞬間、ウィーダの手から光が噴出した。『Star of Bethlehem』。五芒星の形をした投擲武器だ。
「無駄だ」
ヘロルドはひらりと躱した。魔性の俊敏さで。
と、小夜がはねおきた。
「やってくれたよね。晩御飯? 夜食? どっちでもいいや、弱肉強食。お前を喰いに来ました!」
小夜が走った。豪風をまいて祢々切丸の刃をヘロルドに叩き込む。が、これもヘロルドは容易く躱した。のみならず小夜の腹に蹴りをぶち込んだ。
「人間の分際で、何をほざく。喰らうだとぉ。馬鹿がぁ」
「誰が馬鹿だい?」
苦痛にゆがむ小夜の唇が嘲笑の形にゆがんだ。
「!」
はじかれたようにヘロルドは振り向いた。その視線の先、ザレムの姿はない。
ウィーダの瞳が碧から蒼へと変わった。
「そういうことだよ」
「ぬうっ」
ヘロルドは視線をはしらせた。捕らわれの娘たちのもとへ。そこにザレムの姿はあった。
「今、助ける」
ザレムの刀――オートMURAMASAが閃いた。それこそは軍で試作された特殊な刀で、攻撃の瞬間に超音波の振動を刃に流し、切れ味を増さしめる代物である。なんで縄ごときがたまろうか。娘たちの戒めがぷつりと断ち切れた。
「ほらほら、起きて。お姫さま」
同じく駆けつけたルーンが娘たちを抱き起こした。そして背に符を貼り付ける。
加護符。貼り付けられた者を守護するという魔法の符である。
「あ――」
立ち上がろうとし、すとんと一人の娘が尻をおとした。恐怖のあまり腰が抜けたのである。
「オレに任せてよ」
ルーンが娘を抱き上げた。よし、とうなずいたザレムが娘たちに告げた。
「入口まで走るんだ。できるか?」
「はい」
娘たちがうなずいた。
「やらせるか」
ヘロルドが襲いかかろうとし――足をとめた。その眼前をはしるすぎる光流が一条。ウィーダの『Star of Bethlehem』だ。
ぎろりとヘロルドがウィーダを睨みつけた。
「邪魔をするな」
「するよ」
小夜が祢々切丸をヘロルドに叩きつけた。それはあまりに重い斬撃。が、その鉄槌のごとき一撃をヘロルドは鋼の硬度をもつ爪ではじいた。のみならず、左手の爪を小夜の腹にぶち込んだ。
「くはっ」
小夜の口から鮮血がしぶいた。
●
娘を抱いたルーンが走る。他の娘たちがその後に続いた。
「逃がすな」
ヘロルドが命じると、屍人たちが娘たちに襲いかかった。
「あっちにいってくださいませ」
ルーネがセルベイションで屍人を殴り飛ばした。同時にもう一体が吹き飛ぶ。着弾の衝撃。ヴィントだ。
ちらりと見やり、ルーネが微笑んだ。見事な連携である。これであればこそ背を預けておける。
「気をそらせるな」
ヴィントがトリガーをひいた。轟音とともに吐き出された熱弾がルーネに走りよりつつあった屍人の額を撃ち抜く。
その時、娘を抱いたルーンが入口付近までたどり着いた。そのまま外に飛び出す。
他の娘たちは弱っているのか遅れていた。殿はザレムである。
「急げ」
ザレムは娘たちを急かせた。ヘロルドの足止めにも限界がある。
「役立たずどもめ」
舌打ちすると、小夜の腹から血濡れた爪を引き抜き、ヘロルドは娘たちを睨みつけた。彼の襲撃速度であれば逃がすことはない。
その時だ。幾枚かの符が翔び、ヘロルドを取り巻いた。
瞬間、光が空間を白く染めた。符が作り上げた結界内を光が灼いたのだ。
「うっ」
ヘロルドは呻いた。受けたダメージはたいしたものではない。が、目は眩んでしまっていた。
「ごめんね。わたし達もちゃんとしたお仕事で来てるんだ。君からあの人達を取り戻すっていうね」
シェルミアが告げた。
「ほざけ。殺れ」
ヘロルドが命じた。叱咤されたように屍人が躍りかかる。
「させません」
アニスが屍人の攻撃を盾で防いだ。が、それはフェイントであった。ヘロルドの身が空を舞う。そして娘たちに躍りかかった。
瞬間、ふたつの影が交差した。ひとつはヘロルドだ。そして、もうひとつはザレムであった。
「娘たちに手を出させるものかよ」
「人間め。よくも邪魔をしてくれたな」
ヘロルドがぎろりと狼を睨みつけた。その頬の傷がゆっくりと塞がっていく。
「が、しょせんは人間ごときの業。この身体に傷ひとつつけることはかなわぬ」
「なら、これはどうかな?」
シェルミアが拳銃のトリガーをひいた。
エア・スティーラー。風の精霊の加護を受けた、銀製の銃身を持つ魔導拳銃だ。
撃ち出された弾丸は風の精霊の力をまとい、さらに速度を増して疾った。さすがに躱せぬヘロルドの身を穿つ。着弾の衝撃でヘロルドがよろけた。
「きさま、よくも」
ヘロルドの形相が変わった。悪鬼のそれに。
その時、ルーンが入口に到達した。娘を抱いて飛び出す。それに娘たちが続いた。
「ルーネさん」
アニスがルーネの前に立った。盾をかまえる。
うなずいたルーネの瞳が金色に輝いた。身から立ち上るオーラが虹のような鮮やかな色彩をおびたしゃぼん玉となって彼女の周囲を舞う覚醒したのだ。
次の瞬間である。小夜の全身が淡い光に包まれた。その身の傷が見る間に癒えていく。
「再生できるのは貴方だけではありません」
「ううぬ」
悪鬼の形相のままヘロルドが歯軋りした。すでに屍人は全滅している。
「残るのはお前だけだ。rest in peace……。死者は死者らしく、土へ還れ…ってな」
・至近距離での射撃時」
ヴィントがバベル13の銃口をヘロルドにむけた。ポイントする。
瞬間、ヘロルドが動いた。迅い。ヴィントが放った弾丸が空しく流れすぎていく。が――。
疾風の速度で機動するヘロルドの顔が驚愕に歪んでいた。彼と同速度で疾る者がいたのだ。
「速さなら俺も負けてはいないのでな」
足の装備からマテリアルを噴射させるザレムのオートMURAMASAの刃が舞った。咄嗟に跳び退いたが、遅い。ヘロルドの腹が真一文字に切り裂かれている。
「これしきのこと」
ヘロルドがニンマリした。傷は浅い。その時――。
「ぎゃあああ」
ヘロルドが苦悶した。その身体が炎によって灼かれている。火炎符だ。
「『灰は灰に』って訳じゃないけど、吸血鬼退治とか、こういう時には火葬だよねっ!」
シェルミアが片目を瞑ってみせた。が――。
ククク、という笑い声が炎の中から流れ出た。ヘロルドだ。
「……まだだ、人間」
「なんという――」
さすがにウィーダが息をひいた。なんという吸血鬼のしぶとさだろう。
そのヘロルドの背後。躍り上がった影がある。小夜だ。雪のように白い垂れた耳いわゆるロップイヤーが側頭部の両側に、そして同色の毛玉のような尻尾が腰部下部に顕れている。
「ヴォーパルバニーが、刻み刈り取らん!」
納刀状態からの抜刀。それは居合の刀法に似ていた。
たばしる白光。血しぶき散らし、ヘロルドの首がとんだ。
●
吸血鬼の殲滅後、ハンターたちは周囲を探索した。
近くの林の中。無造作に捨てられた自警団員の死体があった。全身噛み裂かれ、引きちぎられた無残な死体が。
「勇敢に戦った魂に、光のお導きがございますよう……」
アニスが鎮魂の祈りを捧げた。その後ろでは泣き崩れる娘たちの姿がある。彼らは娘たちのめに戦い、そして散っていったのである。
その娘の一人の肩に、そっとルーンが手をおいた。
「彼の行為は無駄じゃなかった。きみたちが生きているんだから」
ルーンは告げた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/15 14:45:51 |
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作戦相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/07/17 00:37:14 |