ゲスト
(ka0000)
【詩天】越地家の陰謀を掴め!
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/22 22:00
- 完成日
- 2016/07/29 07:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●越地家の野望
如何にも柄の悪い男共が数人、悪態をつきながら闊歩していた。
雑魔が連続して出現するようになり、商人や行商の数がめっきりと減った街道を、何台もの荷馬車と供に進む。
「ライバルがいねぇと、こりゃ、楽に商品を送れるなぁ」
「命あってのって言うから、な」
詩天で売る商品を運んでいるのだ。
とりわけ、希少なもの、高価なもの、生活に最低限必要なものは、値が高くつきやすい。
雑魔出現でここ最近、この街道を使う者も居ないので、値は、ほとんど、言い値である。
「死天から金を全部巻き取らねぇとなぁ」
峠が見えて来た。
ここを下っていけば、詩天までは目と鼻の先だ。
「さてと。そんじゃまぁ、頼むぜ、責任感の強い、兄さんよ?」
ずっと目隠しをされたままの男が馬車から突き落とされた。
その際に膝を打ちつけ、血が流れる。
「な、な、なにを、させるんだ」
「難しい事じゃねぇ。向こうの山の峠を越えた先に、どういう訳か雑魔が出没している所があってよ。そこまで行って、雑魔を連れて帰って来るだけだ」
「ば、バカを言うな。そんな事したら、死んじまう」
叫んだ男の顔面を、柄の悪い男は力の限り殴った。
「てめぇに拒否権はねぇんだよ。分かってるだろうな。てめぇの妹が、どうなるかぐらいな?」
男の妹は越地家で働いていた。だが、失敗して大事な商品を台無しにしてしまった。
それを償う為、兄である男は連れて来れられたのだ。
「ほら、さっさと、いきやがれ!」
柄の悪い男に、脅され、男は山の中へと踏み込んだ。
●天ノ都
それは、タチバナがいつもの麺屋で、かけうどんを食している時だった。
「旦那! 旦那! てぇへんだ!」
駆け込んできたのは野次馬根性の塊の町民だった。
それが血相変えて麺屋に入って来るのだ。店の人や他の客からは『毎度騒がしい奴だな』みたいな視線が飛ぶ。
「そんなに慌てなくていいですよ」
音を立てずに、静かにゆっくりとした動作で麺をすする。
冷めるまで待ったので、麺がのびてしまっているが、気にはしない。ここの汁は、どこの店よりも美味いのだから。
「そんな、悠長に喰ってる場合じゃねぇって! 雑魔だよ! 詩天に至る街道で、また雑魔が出たんだよ!」
その言葉に周囲からどよめきが起こる。
詩天に至る街道の一つで立て続けに雑魔が出現しているのは、天ノ都の一部では噂になっていた。
特に商売に関する人では敏感な人も中にはいるだろう。
「……そうですか。思ったよりも、遅かったですね」
「へ?」
タチバナの意味深な言葉に野次馬町民は間の抜けた顔をした。
最後に汁を飲み干すと、両手を合わせて「御馳走様でした」と呟く。
「旦那、行くんですか?」
「えぇ……実は、再び街道に雑魔が出現したら討伐するように、先の依頼主から言われているので」
微笑みながら席を立ったタチバナに、野次馬町民が慌てて縋る。
「旦那! 実は、旦那に会ってもらいてぇ人がいるんです」
●古ぼけた寺院
「お嬢さんが、件の人か?」
野次馬町民の手引きで、待ち合わせ場所にやって来た若い娘にタチバナは話しかけた。
「はい……」
キョロキョロと辺りを心配そうに見渡す。
「周りには誰も居ない。ここは、そんな場所です」
「そ、そうだったのですね。ありがとうございます。じ、実は、私は……」
若い娘は語りだした。
詩天へ商売をしている越地家で働いている事。
大事な商品を台無しにして、借金を抱えている事。借金を返済する為に、兄がどこかへと連れて行かれ帰ってこない事。
詩天へ行く荷馬車に乗せられている所を、職場仲間が目撃した事――。
「私は、兄の行方を知りたいのです。でも、仕事で離れられなく……頼める人も、お金もなくて……」
落ち込んでいる若い娘の肩をポンポンとタチバナは優しく叩いた。
「事情は分かった。依頼で街道を通る故、気にかけておこう」
「あ、ありがとうございます!」
若い娘は何度も何度も頭を下げた。
「大切な兄なのです。歪虚の襲撃で両親を失い、たった一人の肉親なのです」
「そう……か……」
タチバナはゆっくりと頷くと一礼して立ち去る。
きっと、この若い娘は、これから先、大きな失望に打ちのめされるだろう。
それを、自分では救ってやる事ができない。その歯痒さにタチバナは苦悩を浮かべていた。
如何にも柄の悪い男共が数人、悪態をつきながら闊歩していた。
雑魔が連続して出現するようになり、商人や行商の数がめっきりと減った街道を、何台もの荷馬車と供に進む。
「ライバルがいねぇと、こりゃ、楽に商品を送れるなぁ」
「命あってのって言うから、な」
詩天で売る商品を運んでいるのだ。
とりわけ、希少なもの、高価なもの、生活に最低限必要なものは、値が高くつきやすい。
雑魔出現でここ最近、この街道を使う者も居ないので、値は、ほとんど、言い値である。
「死天から金を全部巻き取らねぇとなぁ」
峠が見えて来た。
ここを下っていけば、詩天までは目と鼻の先だ。
「さてと。そんじゃまぁ、頼むぜ、責任感の強い、兄さんよ?」
ずっと目隠しをされたままの男が馬車から突き落とされた。
その際に膝を打ちつけ、血が流れる。
「な、な、なにを、させるんだ」
「難しい事じゃねぇ。向こうの山の峠を越えた先に、どういう訳か雑魔が出没している所があってよ。そこまで行って、雑魔を連れて帰って来るだけだ」
「ば、バカを言うな。そんな事したら、死んじまう」
叫んだ男の顔面を、柄の悪い男は力の限り殴った。
「てめぇに拒否権はねぇんだよ。分かってるだろうな。てめぇの妹が、どうなるかぐらいな?」
男の妹は越地家で働いていた。だが、失敗して大事な商品を台無しにしてしまった。
それを償う為、兄である男は連れて来れられたのだ。
「ほら、さっさと、いきやがれ!」
柄の悪い男に、脅され、男は山の中へと踏み込んだ。
●天ノ都
それは、タチバナがいつもの麺屋で、かけうどんを食している時だった。
「旦那! 旦那! てぇへんだ!」
駆け込んできたのは野次馬根性の塊の町民だった。
それが血相変えて麺屋に入って来るのだ。店の人や他の客からは『毎度騒がしい奴だな』みたいな視線が飛ぶ。
「そんなに慌てなくていいですよ」
音を立てずに、静かにゆっくりとした動作で麺をすする。
冷めるまで待ったので、麺がのびてしまっているが、気にはしない。ここの汁は、どこの店よりも美味いのだから。
「そんな、悠長に喰ってる場合じゃねぇって! 雑魔だよ! 詩天に至る街道で、また雑魔が出たんだよ!」
その言葉に周囲からどよめきが起こる。
詩天に至る街道の一つで立て続けに雑魔が出現しているのは、天ノ都の一部では噂になっていた。
特に商売に関する人では敏感な人も中にはいるだろう。
「……そうですか。思ったよりも、遅かったですね」
「へ?」
タチバナの意味深な言葉に野次馬町民は間の抜けた顔をした。
最後に汁を飲み干すと、両手を合わせて「御馳走様でした」と呟く。
「旦那、行くんですか?」
「えぇ……実は、再び街道に雑魔が出現したら討伐するように、先の依頼主から言われているので」
微笑みながら席を立ったタチバナに、野次馬町民が慌てて縋る。
「旦那! 実は、旦那に会ってもらいてぇ人がいるんです」
●古ぼけた寺院
「お嬢さんが、件の人か?」
野次馬町民の手引きで、待ち合わせ場所にやって来た若い娘にタチバナは話しかけた。
「はい……」
キョロキョロと辺りを心配そうに見渡す。
「周りには誰も居ない。ここは、そんな場所です」
「そ、そうだったのですね。ありがとうございます。じ、実は、私は……」
若い娘は語りだした。
詩天へ商売をしている越地家で働いている事。
大事な商品を台無しにして、借金を抱えている事。借金を返済する為に、兄がどこかへと連れて行かれ帰ってこない事。
詩天へ行く荷馬車に乗せられている所を、職場仲間が目撃した事――。
「私は、兄の行方を知りたいのです。でも、仕事で離れられなく……頼める人も、お金もなくて……」
落ち込んでいる若い娘の肩をポンポンとタチバナは優しく叩いた。
「事情は分かった。依頼で街道を通る故、気にかけておこう」
「あ、ありがとうございます!」
若い娘は何度も何度も頭を下げた。
「大切な兄なのです。歪虚の襲撃で両親を失い、たった一人の肉親なのです」
「そう……か……」
タチバナはゆっくりと頷くと一礼して立ち去る。
きっと、この若い娘は、これから先、大きな失望に打ちのめされるだろう。
それを、自分では救ってやる事ができない。その歯痒さにタチバナは苦悩を浮かべていた。
リプレイ本文
●街道にて
ビシっと姿勢を正し立つ男――メンカル(ka5338)――が遠慮のない視線でタチバナをつま先から頭へと観察する。
ぼやっとしたタチバナの顔を見つめ、目が合った所で彼は言った。
「……お前がタチバナか」
弟から聞いた通りの風貌の侍。
全身から発せられる雰囲気に――なるほどと心の中で呟いてから、礼儀正しく頭を下げて挨拶をする。
「メンカルと名乗っている。先の依頼、黒髪に青い瞳、耳の短いエルフの男を覚えているか。俺はあれの兄だ。弟が大変世話になった」
「お兄さんでしたか。いえ、こちらこそ、お世話になりました」
「お前の話はアレから聞いている……お前さえよければ、今後とも仲良くしてやってくれ」
再び丁寧に一礼したメンカルに対し、タチバナは微笑みながら、「こちらこそ」と応じる。
そんなやり取りを見ながら、チョココ(ka2449)は桃とナッツを使ったパイを頬張っていた。
(タチバナ様……やっぱり似てますの。むむっ、ですのー)
彼女の謎センサーが流浪の侍の正体をビビッと感じているようであった。
ボロボロの衣服と刀の鞘を見れば、単なる浪人かと思うが、タチバナから発せられる雰囲気に違和感を感じる。
まるで吸い込まれそうな違和感――と思った所で意識を愛用の双眼鏡に向けて言った。
「今回は、街道に現れた雑魔を討伐すること、ですの。それと、行方不明者の捜索ですわね」
思えばタチバナと出会った最初の依頼も雑魔を討伐する依頼だったはず……。
チョココの言葉に天竜寺 詩(ka0396)が心配するように口を開いた。
「お兄さんが行方不明って心配だよね……私も、この世界ではお姉ちゃんが、たった一人の肉親だから居なくなったらやっぱり辛い」
キュっと胸元で手を握って瞳を閉じた。
ぶっきらぼうだが優しい姉の姿を思い描き、もし、居なくなったらと思うと胸が張り裂けそうだった。
「なんとか無事で居て欲しいけど……」
悲しい表情で祈るように言葉を発した詩の隣で、考えるように首を傾げるライラ = リューンベリ(ka5507)。
「この前の和洋折衷歪虚の仕業でしょうか」
前回の依頼、雨の中に現れた虚博という名の歪虚を思い出す。
街道に現れた雑魔は今回もその歪虚が絡んでいる可能性がある。小さくため息をついた。
「あの時、仕留めておかなくてはなりませんでしたね」
敵対する雰囲気が無かったので見逃してしまったが、やはり、歪虚は歪虚ということなのだろうか。
ライラの台詞にアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も頷いていた。
「私が嫌いな者の中で最高に嫌いだな」
あの歪虚はどうみても、異常であった。
まるで生み出した雑魔の実験を人を使って試しているような……そんな感じがした。
「私欲のために人の命を軽く扱うやつだ。裏に居るのが誰だろうが、それが、例え一国の王であろうと刻んでやる」
「その意気込み、頼もしいですね」
憤慨しているアルトにタチバナが妙に真面目な表情で応える。
それぞれが想う事を抱えながら街道を行く一行の先頭で、狛犬と立ち並ぶルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は詩天の方角を見つめていた。
「ルンルン忍法と忍犬『もふら』ちゃんの力を駆使して、街道の雑魔をやっつけて、行方不明者さんを探しちゃいます!」
威風堂々と胸を張り豊かな二つの頂きが強調された。
「妹さんを安心させてあげたいもの……それに、この雑魔事件の裏に糸引く悪が居るのなら、放ってなんておけないんだからっ!」
忍犬もふらも「ワン」と力強く吠える。
必ず、街道に出没した雑魔を倒し、そして、行方不明になっている人物を探し出すと強く決意したのであった。
●峠にて
詩天に至る街道の峠の頂辺にその雑魔は居た。
人型ではあるが、胴体を中心に3人が合わさっているような姿だ。
「鎧は和風だけど……あれ、ゲリュオンかな?」
詩が自信なさそうに呟く。
またもや西洋風の雑魔である。となると、先の依頼で接触した虚博という歪虚が作り出した雑魔の可能性がある。
「変な歪虚だったけど、はた迷惑なのは間違いないね」
困ったような表情で仲間に防護の魔法を掛けていく。
「ちょうど、前衛の数はピッタリだな。取り囲むか」
アルトの言葉にメンカルとライラが頷いた。
二人共、各々が獲物を構える。
「俺は翼を重点的に狙い斬り落とす」
「アルト様、メンカル様の足を引っ張ることはできませんわ」
そして、三人同時に雑魔に向かって駆け出した。
その様子を頭を掻きながらタチバナが見守る。どうやら、前衛の数に入っていなかったようだ。
「……獄炎を打ち破ったハンター達の力、近くで見せて貰いましょうか」
そんな事を呟きながら、大太刀を抜いて構えもせずフラフラと峠を登る。
その横を風の刃が疾走した。
「射程が長い魔法で攻撃ですの」
チョココが放った風の魔法だ。
その魔法攻撃を雑魔は盾と刀で振り払う。翼を広げ、空へと上がる――が、足を取られて飛び上がる事ができない。
「ジュゲームリリ(略)ルンルン忍法土蜘蛛の術! 場に伏せずインスタントでトラップ発動です☆」
符を煌めかせルンルンが放った符術の力だ。
不可視の結界が展開され、その端に雑魔が囚われていた。泥状に固まった地面が雑魔の足の何本かを掴んでいる。
接近した3人のハンター達に向かって雑魔が刀を振るう……が、どうも可動域に無理があったようで、刀と刀がぶつかり、妙な軌道を描いた。
「まさかと思ったが……これ、失敗作か?」
思わず苦笑を浮かべるアルト。
雑魔は剣術的な動きは出来ず、ただ刀を振り回すだけだ。
「飛ばれる事はなさそうだな。もっとも、俺も範囲に入らないように気を付けないといけないが」
翼に向かって刀を振りながらメンカルは雑魔との距離を計る。
下手に結界に入り込んでは自身も動けなくなりそうな気がしたからだ。
「私はこちらですよ。腰は一つですけど、どなたをお狙いになりますか」
ライラも雑魔を攪乱するように戦う。
竜尾刀を鞭モードに切り替え、しなるように扱う度に雑魔へダメージを重ねていく。
「……氷よ、凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じよ! ですの!」
氷のマテリアルが雑魔へと放たれる。チョココが放った魔法だ。
今度は確実に雑魔へと効果を発揮している。移動もできず、体の動きも緩慢となった。
「8時だよルンルン忍法三雷神! もういっちょいってみよう、なのです♪」
ルンルンが宙に投げた符が稲妻となり、轟音と共に雑魔貫いた。
咄嗟に防ぐ雑魔だが、その程度で防げるものではない。衝撃で倒れる雑魔。
苦し紛れに全身から炎が吹き出る――ようであったが、噴出する前に消え去った。
不思議な光景にライラが後衛の仲間に視線を向けると、チョココが嬉しそうに跳ねながら答えた。
「カウンターマジックですのー」
ここは追い打ちを掛ける所であろう。
倒れた雑魔に向かって剣モードへと移行させて、突き立てる。
「私は、あなたの様な雑魔に対する情けは、持ち合わせておりません」
反対側のメンカルもトドメとばかりにザクザクと刀先で突き刺していた。
「逃げ出す様子はなさそうだな」
「仕方ない。知能もなさそうだし、ここで倒してしまおう」
雑魔の正面に居たアルトがメンカルの言葉に頷きながら応えると刀を最上段に構えた。
活動を停止した雑魔が足元からゆっくりと消滅していく。完全に消え去るには、まだ少し時間がかかるだろう。
「……結局、戦いをしっかりと見られませんでした」
タチバナがボーとした表情で詩に振り返って言った。
今回ばかりは仕方がない。
「私も、同じ様なものですから」
ニコッと笑って答える。
詩は雑魔が飛ばないよう、また、仲間の回復ができるように魔法の準備をしていたからだ。
「この雑魔を調べてみようかな。もしかしたら、行方不明のお兄さんの所持品を持ってるかもしれない」
タタタと詩が駆け出した。
●探索
「わたくしに肉親と呼べる方はいませんわ。でも……」
周囲の山々の木々を双眼鏡で確認しながらチョココは呟いた。
双眼鏡に映る光景は青々とした木々ばかりだった。
「見渡す限り山と森ですのー」
確かに、街道から見えるのは大自然ばかりである。
双眼鏡でなにか見えれば仲間に連絡するつもりである。山や森の中に入ってしまうと、意外と気がつかない事も外からだと一目瞭然な時があるからだ。
森の中を探索するライラとメンカル。
「私は、私の様に争いで家族を失う人を出したくないのです」
哀しい表情を浮かべながらライラが言った。
行方不明になって日は経過している。無事にいる……というのは絶望的かもしれない。
残された家族の気持ちを思うと……。
(胃が、痛い……)
そっとお腹に手を当てるメンカル。
弟や妹が行方不明になってしまったらと想像するだけで、胃に穴が空きそうだ。
「人の気配はなさそうなだ……」
森林の為、分りにくいが、いくつか足跡もみつける事ができた。
それも一人ではなく幾人分か。
「もう少し、範囲を広げてみますか?」
ライラの問いにメンカルは頷いた。
崖があるという情報を得てアルトは山の中を通り、崖下までやってきた。
「来ると思ったよ、西方の人。僕の作った雑魔、どうだった?」
見上げると憤怒の歪虚である虚博が、琥珀色の瞳をアルトに向けていた。
「……また、雑魔を見失ったのか?」
「途中までね。まぁ、人間同士の諍いは知らないけど、街道に居れば、君達がやって来ると思ってさ」
アルトの質問に虚博は楽しそうに答えた。
「自分の作った雑魔がどうなってもか?」
続けて質問するアルトに歪虚は手のひらをヒラヒラとしながら踵を返した。
「僕にとって、雑魔も人も、『興味対象』に過ぎないさ。それじゃね、西方の強い人」
詩が見送る中、街道に現れた雑魔は完全に消滅した。
「なにか分かりましたか?」
問い掛けてきたタチバナに詩は残念そうに首を横に振った。
「雑魔が使っていた刀が……なまくらだった位しか」
刃が殆ど無かった。あれでは人を斬るはできないだろう。
人を斬ったような跡も確認できなかった。
「洗練された動きではなかったですからね」
呆れたような口調でタチバナは言った。これが初陣ですかという程だ。
「ゲリュオンは伝説の怪物ですから」
伝え聞いただけで虚博が作ったとしたら、その程度なのかもしれない。
「失せ人探しもニンジャにお任せ、忍犬の鼻は誤魔化せないんだからっ!」
ルンルンがいつもと変わらない高テンションでビシっとポーズを取っていた。
忍犬――ただの狛犬だが――は茂みの中をガサゴソとなにかしているようだ。
足跡を追って森の中まで進んで来たが思ったより森が深く身動きも簡単ではない。
しかし、諦めるという事はしない。符を取り出すと、これも変わらず無駄な身振りで胸を揺らしながら符術を使う。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法分身の術!」
るんるんと書かれているであろう式神がふわーと森の中を進む。
式神が行方不明者と思われる人物の遺体を発見したのは、それから間もなくの事であった。
●掴んだ陰謀
「酷いな……」
手拭いで遺体の顔を拭うアルト。
血と泥で汚れていた。苦しんだ表情のままだったのは、相当、辛かったはずだ。
「……誰の仕業かわからないけど、絶対許さないんだからっ!」
都で帰りを待っている妹さんの気持ちを想っていたルンルンが悲しい表情から一転して怒る。
なにか、痕跡が残っていないのか、慎重に遺体を調べる。
一方、両手を合わせて黙祷していた詩も遺体に手を伸ばした。
「調べ終わったら、遺体を綺麗に清めたいです。私には、この人の妹さんの為に出来る事、それ位しかないから」
その言葉に一同は深く頷いた。
死者を生き返す事はできない。それでも、できる事はしておきたかった。
「……来たのが俺で良かった。アレにこの件は重すぎる……間違いなく泣くぞ」
メンカルが弟の事を思い、言った。
胃の痛みは続きそうだが堪えながら周囲を警戒する。争った……という程には酷くはないが、当たりは血が飛び散っていた。
「あの和洋折衷歪虚は、人を追いかけていったといいましたね。こんな人里離れた所まで人は来るでしょうか?」
詩やルンルンと共に遺体を調べながらライラがそんな疑問を呟いた。
その言葉にアルトは森の中で出会った虚博の事を話す。
「そういえば、あの歪虚、『人間同士の諍い』って言っていたな」
「誰かに使われて、この山の中に入ったのでしょうか?」
ライラの疑問にメンカルは唸る。
遺体を調べていた詩が声を上げる。
「可笑しいよ。あの雑魔の持っていた刀は、『斬れない』はずなのに、この人の死因は刀傷だよ」
遺体は刀でバッサリと背中を斬られていた。
必死に抵抗したのだろうか、腕や手にも切り傷が見られる。
「……考えられるとしたら、雑魔を誘き出す囮となった者を口封じの為に殺したという所か」
「怖いですのー」
メンカルの推理にチョココが震える。
口封じという言葉に反応してライラは作業する手を止めて考える。
「街道には、馬車が何台も通った新しい跡がありました。雑魔が出没する街道という事で通る商隊は少ないというのにです」
「となると、その商隊が怪しいな」
「詩天に出入りしている商人を洗ってみましょうか?」
ライラは視線をタチバナに向けた。
遺体を険しい表情で見つめていた彼はその質問に首を振った。
「この街道の維持管理は越地屋が行っています。彼らは詩天で商売しているはずです」
タチバナの台詞の意味は、つまり――
「街道が使えなくする事で――」
「――自分達の手を汚さず商売敵を排除していたのではないか」
ライラの言葉を続けるように、メンカルが言った台詞にタチバナは頷く。
「越地屋が十分に怪しいな。この人の妹さんも越地屋で働いていたというし。でも、これでは証拠が足らなくないか?」
遺体を綺麗に布に包み即席の担架に乗せた所でアルトは立ち上がりながら口にした。
「……そうとも限りませんよ。突き止めてしまえば、証拠とは、罰する者が判断する際に必要な物に過ぎませんから」
タチバナが遺体の傍に落ちていた小鞠を拾いながら言う。
「……自分で裁くような言い方だな」
「それは、言い過ぎました」
メンカルの言葉に苦笑を浮かべるタチバナは担架をの片方を持ったのであった。
おしまい
●既視感
タチバナの後ろ姿を眺めながらチョココはある事を思っていた。
誰かに似ているかと思っていたが、それが誰なのか、違和感が解消されつつあったからだ。
(最初は、少なくとも縁者に違いないと思ったのですが……)
タチバナの揺れる灰色の長い髪。
刀の腕は達人の域を越えているのに、浪人という立場を続ける――かと思えば、街道の事も知る――。
もしかして……と生唾を飲み込んだ。
(しょーぐーん)
ビシっと姿勢を正し立つ男――メンカル(ka5338)――が遠慮のない視線でタチバナをつま先から頭へと観察する。
ぼやっとしたタチバナの顔を見つめ、目が合った所で彼は言った。
「……お前がタチバナか」
弟から聞いた通りの風貌の侍。
全身から発せられる雰囲気に――なるほどと心の中で呟いてから、礼儀正しく頭を下げて挨拶をする。
「メンカルと名乗っている。先の依頼、黒髪に青い瞳、耳の短いエルフの男を覚えているか。俺はあれの兄だ。弟が大変世話になった」
「お兄さんでしたか。いえ、こちらこそ、お世話になりました」
「お前の話はアレから聞いている……お前さえよければ、今後とも仲良くしてやってくれ」
再び丁寧に一礼したメンカルに対し、タチバナは微笑みながら、「こちらこそ」と応じる。
そんなやり取りを見ながら、チョココ(ka2449)は桃とナッツを使ったパイを頬張っていた。
(タチバナ様……やっぱり似てますの。むむっ、ですのー)
彼女の謎センサーが流浪の侍の正体をビビッと感じているようであった。
ボロボロの衣服と刀の鞘を見れば、単なる浪人かと思うが、タチバナから発せられる雰囲気に違和感を感じる。
まるで吸い込まれそうな違和感――と思った所で意識を愛用の双眼鏡に向けて言った。
「今回は、街道に現れた雑魔を討伐すること、ですの。それと、行方不明者の捜索ですわね」
思えばタチバナと出会った最初の依頼も雑魔を討伐する依頼だったはず……。
チョココの言葉に天竜寺 詩(ka0396)が心配するように口を開いた。
「お兄さんが行方不明って心配だよね……私も、この世界ではお姉ちゃんが、たった一人の肉親だから居なくなったらやっぱり辛い」
キュっと胸元で手を握って瞳を閉じた。
ぶっきらぼうだが優しい姉の姿を思い描き、もし、居なくなったらと思うと胸が張り裂けそうだった。
「なんとか無事で居て欲しいけど……」
悲しい表情で祈るように言葉を発した詩の隣で、考えるように首を傾げるライラ = リューンベリ(ka5507)。
「この前の和洋折衷歪虚の仕業でしょうか」
前回の依頼、雨の中に現れた虚博という名の歪虚を思い出す。
街道に現れた雑魔は今回もその歪虚が絡んでいる可能性がある。小さくため息をついた。
「あの時、仕留めておかなくてはなりませんでしたね」
敵対する雰囲気が無かったので見逃してしまったが、やはり、歪虚は歪虚ということなのだろうか。
ライラの台詞にアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も頷いていた。
「私が嫌いな者の中で最高に嫌いだな」
あの歪虚はどうみても、異常であった。
まるで生み出した雑魔の実験を人を使って試しているような……そんな感じがした。
「私欲のために人の命を軽く扱うやつだ。裏に居るのが誰だろうが、それが、例え一国の王であろうと刻んでやる」
「その意気込み、頼もしいですね」
憤慨しているアルトにタチバナが妙に真面目な表情で応える。
それぞれが想う事を抱えながら街道を行く一行の先頭で、狛犬と立ち並ぶルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は詩天の方角を見つめていた。
「ルンルン忍法と忍犬『もふら』ちゃんの力を駆使して、街道の雑魔をやっつけて、行方不明者さんを探しちゃいます!」
威風堂々と胸を張り豊かな二つの頂きが強調された。
「妹さんを安心させてあげたいもの……それに、この雑魔事件の裏に糸引く悪が居るのなら、放ってなんておけないんだからっ!」
忍犬もふらも「ワン」と力強く吠える。
必ず、街道に出没した雑魔を倒し、そして、行方不明になっている人物を探し出すと強く決意したのであった。
●峠にて
詩天に至る街道の峠の頂辺にその雑魔は居た。
人型ではあるが、胴体を中心に3人が合わさっているような姿だ。
「鎧は和風だけど……あれ、ゲリュオンかな?」
詩が自信なさそうに呟く。
またもや西洋風の雑魔である。となると、先の依頼で接触した虚博という歪虚が作り出した雑魔の可能性がある。
「変な歪虚だったけど、はた迷惑なのは間違いないね」
困ったような表情で仲間に防護の魔法を掛けていく。
「ちょうど、前衛の数はピッタリだな。取り囲むか」
アルトの言葉にメンカルとライラが頷いた。
二人共、各々が獲物を構える。
「俺は翼を重点的に狙い斬り落とす」
「アルト様、メンカル様の足を引っ張ることはできませんわ」
そして、三人同時に雑魔に向かって駆け出した。
その様子を頭を掻きながらタチバナが見守る。どうやら、前衛の数に入っていなかったようだ。
「……獄炎を打ち破ったハンター達の力、近くで見せて貰いましょうか」
そんな事を呟きながら、大太刀を抜いて構えもせずフラフラと峠を登る。
その横を風の刃が疾走した。
「射程が長い魔法で攻撃ですの」
チョココが放った風の魔法だ。
その魔法攻撃を雑魔は盾と刀で振り払う。翼を広げ、空へと上がる――が、足を取られて飛び上がる事ができない。
「ジュゲームリリ(略)ルンルン忍法土蜘蛛の術! 場に伏せずインスタントでトラップ発動です☆」
符を煌めかせルンルンが放った符術の力だ。
不可視の結界が展開され、その端に雑魔が囚われていた。泥状に固まった地面が雑魔の足の何本かを掴んでいる。
接近した3人のハンター達に向かって雑魔が刀を振るう……が、どうも可動域に無理があったようで、刀と刀がぶつかり、妙な軌道を描いた。
「まさかと思ったが……これ、失敗作か?」
思わず苦笑を浮かべるアルト。
雑魔は剣術的な動きは出来ず、ただ刀を振り回すだけだ。
「飛ばれる事はなさそうだな。もっとも、俺も範囲に入らないように気を付けないといけないが」
翼に向かって刀を振りながらメンカルは雑魔との距離を計る。
下手に結界に入り込んでは自身も動けなくなりそうな気がしたからだ。
「私はこちらですよ。腰は一つですけど、どなたをお狙いになりますか」
ライラも雑魔を攪乱するように戦う。
竜尾刀を鞭モードに切り替え、しなるように扱う度に雑魔へダメージを重ねていく。
「……氷よ、凍てる矢となりて、突き刺さり、動きを封じよ! ですの!」
氷のマテリアルが雑魔へと放たれる。チョココが放った魔法だ。
今度は確実に雑魔へと効果を発揮している。移動もできず、体の動きも緩慢となった。
「8時だよルンルン忍法三雷神! もういっちょいってみよう、なのです♪」
ルンルンが宙に投げた符が稲妻となり、轟音と共に雑魔貫いた。
咄嗟に防ぐ雑魔だが、その程度で防げるものではない。衝撃で倒れる雑魔。
苦し紛れに全身から炎が吹き出る――ようであったが、噴出する前に消え去った。
不思議な光景にライラが後衛の仲間に視線を向けると、チョココが嬉しそうに跳ねながら答えた。
「カウンターマジックですのー」
ここは追い打ちを掛ける所であろう。
倒れた雑魔に向かって剣モードへと移行させて、突き立てる。
「私は、あなたの様な雑魔に対する情けは、持ち合わせておりません」
反対側のメンカルもトドメとばかりにザクザクと刀先で突き刺していた。
「逃げ出す様子はなさそうだな」
「仕方ない。知能もなさそうだし、ここで倒してしまおう」
雑魔の正面に居たアルトがメンカルの言葉に頷きながら応えると刀を最上段に構えた。
活動を停止した雑魔が足元からゆっくりと消滅していく。完全に消え去るには、まだ少し時間がかかるだろう。
「……結局、戦いをしっかりと見られませんでした」
タチバナがボーとした表情で詩に振り返って言った。
今回ばかりは仕方がない。
「私も、同じ様なものですから」
ニコッと笑って答える。
詩は雑魔が飛ばないよう、また、仲間の回復ができるように魔法の準備をしていたからだ。
「この雑魔を調べてみようかな。もしかしたら、行方不明のお兄さんの所持品を持ってるかもしれない」
タタタと詩が駆け出した。
●探索
「わたくしに肉親と呼べる方はいませんわ。でも……」
周囲の山々の木々を双眼鏡で確認しながらチョココは呟いた。
双眼鏡に映る光景は青々とした木々ばかりだった。
「見渡す限り山と森ですのー」
確かに、街道から見えるのは大自然ばかりである。
双眼鏡でなにか見えれば仲間に連絡するつもりである。山や森の中に入ってしまうと、意外と気がつかない事も外からだと一目瞭然な時があるからだ。
森の中を探索するライラとメンカル。
「私は、私の様に争いで家族を失う人を出したくないのです」
哀しい表情を浮かべながらライラが言った。
行方不明になって日は経過している。無事にいる……というのは絶望的かもしれない。
残された家族の気持ちを思うと……。
(胃が、痛い……)
そっとお腹に手を当てるメンカル。
弟や妹が行方不明になってしまったらと想像するだけで、胃に穴が空きそうだ。
「人の気配はなさそうなだ……」
森林の為、分りにくいが、いくつか足跡もみつける事ができた。
それも一人ではなく幾人分か。
「もう少し、範囲を広げてみますか?」
ライラの問いにメンカルは頷いた。
崖があるという情報を得てアルトは山の中を通り、崖下までやってきた。
「来ると思ったよ、西方の人。僕の作った雑魔、どうだった?」
見上げると憤怒の歪虚である虚博が、琥珀色の瞳をアルトに向けていた。
「……また、雑魔を見失ったのか?」
「途中までね。まぁ、人間同士の諍いは知らないけど、街道に居れば、君達がやって来ると思ってさ」
アルトの質問に虚博は楽しそうに答えた。
「自分の作った雑魔がどうなってもか?」
続けて質問するアルトに歪虚は手のひらをヒラヒラとしながら踵を返した。
「僕にとって、雑魔も人も、『興味対象』に過ぎないさ。それじゃね、西方の強い人」
詩が見送る中、街道に現れた雑魔は完全に消滅した。
「なにか分かりましたか?」
問い掛けてきたタチバナに詩は残念そうに首を横に振った。
「雑魔が使っていた刀が……なまくらだった位しか」
刃が殆ど無かった。あれでは人を斬るはできないだろう。
人を斬ったような跡も確認できなかった。
「洗練された動きではなかったですからね」
呆れたような口調でタチバナは言った。これが初陣ですかという程だ。
「ゲリュオンは伝説の怪物ですから」
伝え聞いただけで虚博が作ったとしたら、その程度なのかもしれない。
「失せ人探しもニンジャにお任せ、忍犬の鼻は誤魔化せないんだからっ!」
ルンルンがいつもと変わらない高テンションでビシっとポーズを取っていた。
忍犬――ただの狛犬だが――は茂みの中をガサゴソとなにかしているようだ。
足跡を追って森の中まで進んで来たが思ったより森が深く身動きも簡単ではない。
しかし、諦めるという事はしない。符を取り出すと、これも変わらず無駄な身振りで胸を揺らしながら符術を使う。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法分身の術!」
るんるんと書かれているであろう式神がふわーと森の中を進む。
式神が行方不明者と思われる人物の遺体を発見したのは、それから間もなくの事であった。
●掴んだ陰謀
「酷いな……」
手拭いで遺体の顔を拭うアルト。
血と泥で汚れていた。苦しんだ表情のままだったのは、相当、辛かったはずだ。
「……誰の仕業かわからないけど、絶対許さないんだからっ!」
都で帰りを待っている妹さんの気持ちを想っていたルンルンが悲しい表情から一転して怒る。
なにか、痕跡が残っていないのか、慎重に遺体を調べる。
一方、両手を合わせて黙祷していた詩も遺体に手を伸ばした。
「調べ終わったら、遺体を綺麗に清めたいです。私には、この人の妹さんの為に出来る事、それ位しかないから」
その言葉に一同は深く頷いた。
死者を生き返す事はできない。それでも、できる事はしておきたかった。
「……来たのが俺で良かった。アレにこの件は重すぎる……間違いなく泣くぞ」
メンカルが弟の事を思い、言った。
胃の痛みは続きそうだが堪えながら周囲を警戒する。争った……という程には酷くはないが、当たりは血が飛び散っていた。
「あの和洋折衷歪虚は、人を追いかけていったといいましたね。こんな人里離れた所まで人は来るでしょうか?」
詩やルンルンと共に遺体を調べながらライラがそんな疑問を呟いた。
その言葉にアルトは森の中で出会った虚博の事を話す。
「そういえば、あの歪虚、『人間同士の諍い』って言っていたな」
「誰かに使われて、この山の中に入ったのでしょうか?」
ライラの疑問にメンカルは唸る。
遺体を調べていた詩が声を上げる。
「可笑しいよ。あの雑魔の持っていた刀は、『斬れない』はずなのに、この人の死因は刀傷だよ」
遺体は刀でバッサリと背中を斬られていた。
必死に抵抗したのだろうか、腕や手にも切り傷が見られる。
「……考えられるとしたら、雑魔を誘き出す囮となった者を口封じの為に殺したという所か」
「怖いですのー」
メンカルの推理にチョココが震える。
口封じという言葉に反応してライラは作業する手を止めて考える。
「街道には、馬車が何台も通った新しい跡がありました。雑魔が出没する街道という事で通る商隊は少ないというのにです」
「となると、その商隊が怪しいな」
「詩天に出入りしている商人を洗ってみましょうか?」
ライラは視線をタチバナに向けた。
遺体を険しい表情で見つめていた彼はその質問に首を振った。
「この街道の維持管理は越地屋が行っています。彼らは詩天で商売しているはずです」
タチバナの台詞の意味は、つまり――
「街道が使えなくする事で――」
「――自分達の手を汚さず商売敵を排除していたのではないか」
ライラの言葉を続けるように、メンカルが言った台詞にタチバナは頷く。
「越地屋が十分に怪しいな。この人の妹さんも越地屋で働いていたというし。でも、これでは証拠が足らなくないか?」
遺体を綺麗に布に包み即席の担架に乗せた所でアルトは立ち上がりながら口にした。
「……そうとも限りませんよ。突き止めてしまえば、証拠とは、罰する者が判断する際に必要な物に過ぎませんから」
タチバナが遺体の傍に落ちていた小鞠を拾いながら言う。
「……自分で裁くような言い方だな」
「それは、言い過ぎました」
メンカルの言葉に苦笑を浮かべるタチバナは担架をの片方を持ったのであった。
おしまい
●既視感
タチバナの後ろ姿を眺めながらチョココはある事を思っていた。
誰かに似ているかと思っていたが、それが誰なのか、違和感が解消されつつあったからだ。
(最初は、少なくとも縁者に違いないと思ったのですが……)
タチバナの揺れる灰色の長い髪。
刀の腕は達人の域を越えているのに、浪人という立場を続ける――かと思えば、街道の事も知る――。
もしかして……と生唾を飲み込んだ。
(しょーぐーん)
依頼結果
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サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/19 19:05:15 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/07/22 21:33:46 |