天声降り注ぐ朱の夜に

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/20 09:00
完成日
2016/07/25 06:23

みんなの思い出

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オープニング


 天雲赫月の刻。
 緑繁茂する頂に、警世の徒、降り立ちて、賢たる畏人へ九星の釼を与えん。

●バ族の集落
「本当にやるのか?」
 滴る肉汁を舌で掬いつつ、少し焦げた腿へ齧り付いた。
「……んっ」
「……お前、事の重大さをわかってるんだよな?」
 呆れるままに肩を竦めた男は、手遊びしていた小枝を焚き火へ放り投げる。
「伝統だから。私達の代で途絶えさせるわけにはいかない」
 暗い満天へ舞い上がる火の粉を目で追い、夜空を見上げた。
「途絶えさせるわけには……ってな、そもそも今まで途絶えてたんだぞ。今更復活させる意味があるのか?」
「……関係ない。伝統を守るのが、この部族に生まれた者の使命だもの」
 湿樹の爆ぜる音と虫の音が織りなす静の音楽に、隣の男の溜息が混じる。
「……前にこの儀式が行われたのが24年前だ」
 しばらくの沈黙の後、口を開いたのは隣の男だった。
 淡々とした口調で語られていく、集落に今もなお口伝される惨劇の様子。

 儀式自体は、豊穣と繁栄を願い行われるどこの集落にもあるようなありふれた物で、中断されるまでは数年間隔で開かれていた。
 その年も代表に選ばれた若者が意気揚々と祭壇のある丘へと供物を持ち、村を発った。
 そして――。

「――いつになっても若者は戻らず、心配した村人10人が捜索に向かい……その10人も戻らなかった」
 男がこちらに体を向けたのがなんとなくわかった。
「うちの親父なんて、酔うといまだにその話をしてる。いや、あの事件を知っている皆が、今だにその話をする」
「……」
「スォンク、なんでだ? もう何十年も行われてない儀式に、なんでそんなに執着するんだ」
「……テイフ。私がその理由を話さなくても、あなたにもわかっているでしょう?」
「……」
 沈黙の内にテイフと呼ばれた男の気勢がしぼんでいくのが気配でわかる。
 彼もわかっているのだ。この儀式が集落に何を齎していたのかを。
「24年。この集落に起こった事をあなたも知っているでしょう? 寒波、洪水、飢饉、疫病……この20数年、いったいどれだけの厄災がこの集落にやってきたかを」
「そ、それは……。だけどな、それは……それが儀式と関係あるなんて誰が証明できるんだ? それに……もう、あの場所は昔みたいに儀式が行える様な安全な場所じゃないんだぞ!」
「それでも行くの! ここは私の……私達の集落なんだから!」
 満天の星空の元、スォンクは揺らめく炎に照らされた幼馴染の眼をようやく見つめた。
「……親父さんの事で責任を感じてるのか?」
「っ……。父の事は関係ない。そもそも顔も覚えてない」
 重ねていた視線を思わずそらしてしまう。
 24年前、最後の儀式の徒として選ばれたのが、スォンクの父親だった。
 スォンクの父親は、名誉ある儀式の徒として丘へと赴き、そして、それがあの悲劇の引き金となった。
「あれは事故だ。叔父さんのせいじゃない。お前が責任を感じる事なんて何もないんだ……」
「だからっ! ……だから父は関係ない、の。ただ、この集落が滅んでいくのを黙って見ていることが……できないだけ……」
 声がしぼんでいく。それが何を意味するのかを、幼馴染はわかっているのだろう。
「歪虚がいるっていう噂もある」
「もう何年も前にハンターが退治してる」
「そ、それでも! もし……もしもだ。歪虚がい――」
「いない! もう……もういないの……」
 遮られるままにぽかんと口を開けスォンクを見つめるテイフ。
「お、お前泣いて――」
「泣いてない!」
 大きく見開いた瞳の奥に、隠しきれないものが揺らめいているのが自分でもわかった。
「お前の気持ちはわかってきたつもりだ。だけど……」
「だけども何もないの! ずっと……ずっと、この時を待っていたんだから!」
 それでも、これだけは譲れない。
 幼いころからずっと、この儀式へ参加できる資格を得る年齢を待っていた。
 だから、いくら幼馴染であり、ほとんど兄妹の様に育ってきたテイフの言葉でも、諦めることは出来ない。
「……」
 自分の頑固っぷりは、彼が一番よく知っている。
 だから、引き止めないでほしい。これ以上、邪魔をしないでほしい。
 まだ言葉を重ねてくるのなら、口にはしたくない汚い言葉を吐かなければならない。
「……わかったよ」
 そんな決意をわかってかわからいでか、テイフが折れてくれた。
「説得は諦めた。お前の聞き分けのなさは理解してるつもりだ。だから、これはお願いだ。……必ず帰って来いよ」
「……うん」
 爆ぜて舞い上がる火の粉が消え入る様に、スォンクの返事も暗い夜空へ溶けて消えた。

リプレイ本文

●集落
「はぁはぁ……お待たせっ!」
 全力で走ってきたマチルダ・スカルラッティ(ka4172)の額には汗が浮かぶ。
「お疲れ様です。そちらはいかがでした?」
 クライヴ・バンフィールド(ka4999)から差し出された水筒を一気に煽り、マチルダは続けた。
「えっと、伝承は相当古くからあるみたい。長老さん級の偉い人達もいつからあるか知らないって」
「ふむ……場所や口伝だけは伝えられているけど、その本当の意味は失われた。辺境の部族にはよくある類のものですね」
 マチルダの報告に小さく呟いた連城 壮介(ka4765)は黙考に沈む。
「後ね、これは事前に調べてたんだけど、集落を襲っている災厄は年を追うごとに酷くなってるみたい。これは長老さんも間違いないって」
 マチルダが事前にハンターオフィスで調べ上げた事に裏付けが取れたと報告した。
「ふむ……やはり儀式を執り行えなくなった事との因果は少なからずある。そう考えるのが妥当でしょうか」
「そもそもこんなに長い間、儀式を行わなかった時期がないって話だから、確実とまでは言えないけど……」
「近年の歪虚侵攻の影響という線も考えられますしね」

 スォンクが旅だったその日の午後、集落へ入った三人は、各々に住民達へ儀式にまつわる様々な事を聞いて回った。
 既にかなりの年月が過ぎていることもあって、詳しく知る者も少ない中、テイフや数少ない年長者などを頼りに、聞き込みを続けていた。

「んー、なんか煮詰まっちゃったね」
「やはり26年という年月は長いと感じざるを得ませんね」
「俺達なんて生まれてもいないですからね……」
 三人はなかなか見いだせない光明に落胆を隠せない。
「うーん、それじゃ、ちょっと趣向を変えて、こんな情報はどうかな!」
 沈みそうな空気を変えようと、視線を自分に集めたマチルダが勢いたっぷりに言い放った。

「なんと…………テイフさんがスォンクさんに惚れてるっていうのは公然の秘密なんだって!」

 どどーんと小さな胸を張り、今日一番の手柄だとばかりに鼻を鳴らす。
「…………えー、それで、壮介君の方はどうでした?」
「…………あー、俺の方は口伝についてもう少し掘り下げてみました」
「口伝ですか、確かにあの言い伝えには不可解な点も多い」
「はい。口伝にある『九星』は、俺の故郷で、星詠み達が吉兆を占う時に用います。そこに引っかかっています」
「ふむ。壮介君は東方の方ですよね。こんな場所に東方の占いが伝えられたと? 辺境と東方の国々ではあまりにも距離が離れすぎてはいませんか?」
「確かにその疑問もわかります。しかし、場所が遠かろうと、空に瞬く星にそう違いはない。そう思ったんです」
「……ふむ、貴方の故郷とこの辺境に、偶然に同じ星を詠む風習が成ったと」
「もちろん可能性の話ですが、無くはない。そんな気がしています」
「なるほど面白い推論ですね。その推論からすると、東方と西方の――」
「ちょっとー! 私を置いてかないでっ!」
 自分を置いて勝手に話を進める二人に、ようやくオーラを収縮させたマチルダが割って入る。
「もぉ! っていうかさ、私達の話ばっかり聞いて、クライヴさんの方はどうだったの?」
「ああ、そうですね。自分の方は、儀式自体ではなく、執り行う者に何かしらの法則がないか調べてみました」
「執り行う者?」
「そうです。場所、日時、時刻、由来や伝承。この手の情報はお二人も調べたかと思います。もちろん私も最初は調べました。しかし、目ぼしい情報はなかった」
「うんうん」
「ですので、目線を変え血脈に法則性が無いかと当たりを付けてみました」
「血脈……なるほど、確か24年前に行われた最後の儀式を行ったのも、スォンクさんの父上でしたね」
「そうです。長い年月を挟んだとはいえ、親子で儀式の『選ばれた若者』に指定されている。何か意図的なものを感じませんか?」
「血の呪縛、あるいは洗礼……無い話じゃないよね。でも、スォンクさんの家柄が特別な家系とか、巫女筋とかそういう話はなかったよ?」
「ええ、ですからそう言う事も含めもう少し詳しく調べたかったのですが」
 と、クライヴは空を仰いだ。
「そろそろ時間ですね」
 釣られる様に空を見上げた壮介が呟く。
 三人が集落に到着してすでに半日。スォンクとの距離も随分と開いてしまった。
「そうだね。私達が遅刻する訳にはいかないし」
「続きは道中で、ですね」
 三人は調査を打ち切り、用意してあった馬と自転車にそれぞれ乗り込んだ。

●夜の原野
 適当な岩の隙間を見つけたスォンクは火を焚き野宿の準備と、この日初めての休憩を取った。
「はぁ……」
 炎をじっと見つめ、スォンクは眺めの息を吐く。
「父さん……」

「――冥原に光明。これは羽虫でなくとも引き寄せられてしまうな」

「っ!?」
 突然背後からの声に、スォンクは腰を浮かせる。
「あ、いや、これはすまない、驚かせるつもりはなかったんだ」
「だ、誰……!」
 スォンクは男を睨みつけながら、手探りで武器を探す。
「あ、怪しい者ではない。俺はただこの辺りを――」
 探り当てた武器を手にしたスォンクに、男は慌てて両手を上げた。

「私は進言する。先生。女性との邂逅は第一印象が大事だと」
 じりじりとひりつくような空気の中、突然涼やかな声が響く。
「そうやよ、お師匠はん。女の人に背中からいきなり声かけるゆぅんわ、まなぁ違反や」
 別の声。今度ははんなりとした幼い声だった。
「そう言わないでくれよ。これでも相手の心に染み入る様に詩的な登場を心掛けたんだ」
 両手を上げたまま肩を落とす男の影から、二人の少女がひょっこりと現れる。
「初めましてお姉はん。うちのお師匠はんが驚かせてごめんな?」
「私は告白する。先生。美人に弱いと」
「え、え……っと」
「はぁ……驚かせてしまったことは謝るよ。だから、その――」
 短剣を構えたまま固まるスォンクに、男はいい加減手を下ろしてもいいだろうかと目で訴えた。
「え、ええ」
「ふぅ、ありがとう。自己紹介が後先になったようだね。俺の名はエアルドフリス(ka1856)。辺境に起こる様々なマテリアルの異常を調べている旅の者だ」
「うちは静玖(ka5980)ゆぅんよ。よろしゅぅに」
「私は名乗る。雨を告げる鳥(ka6258)と」
「は、はぁ……」
 今だ状況が飲み込めていないスォンクに、三人はにこやかに話しかける。
「実は助手の一人が足を怪我してしまってね。そこの焚火の恩恵に預からせてはもらえれば助かるんだが」
「え……?」
「あまり芳しい状況でなくてね。もちろん迷惑でなければなのだが、どうだろう?」
「えっと……」
 エアルドフリスの頼みにも、なぜかスォンクは言いよどむ。
「ど、どないしたん? お師匠はんのお誘い、迷惑やった?」
「おい、なんで俺が悪いみたいになってるんだ。そもそも怪我したのはお前――」
「私は推察する。先生。初対面の女性に対してあまりにも性急だと」
「おいおい、レイン、それじゃどうすればいいて言うんだ。これでも俺は――」
「例えばやなぁ、うちらのどっちかに先に声をかけさせるとか」
「私は言葉を継ぐ。夜を避けるなど、警戒させる行動は慎むべきだと」
 二人の弟子の集中砲火に、エアルドフリスは立場なく項垂れる。
「くすっ。……ごめんなさい、どうぞ休んでいって、何もない荒野で大変だったでしょう」
 そんな絶妙な掛け合いに、スォンクはようやく表情を緩めた。

 夜更け共に時間は流れ、四人は焚火を囲み団欒を取っていた。
「そういえば理由を言ってなかったか。我々はこの辺りで観測されたマテリアルの変調を調べているんだ」
 ふと思い出したようにエアルドフリスが呟いた。
「マテリアルの変調……?」
「私は解説する。スォンク。マテリアルとは万物の内にあり、全ての生命の源流。流転と輪廻を繰り返し――」
「鳥はんの説明、相変わらず難しすぎてうちでもよぉわからへん……。お姉はん困ってはるよ?」
「むむ……。私は今一度説明を試みる。スォンク。そもそも正負のマテリアルが――」
「せやから鳥はん、そう言う専門用語を――」

「仲がいいんですね」
「いつも振り回されっぱなしだよ」
 焚火の向こうで小柄な青花二つが、あーだこーだと顔を付き合わせる様を微笑ましく見つめる。
「所で君はどうして一人でこんな所に? 見た所、旅の徒でもないようだが」
「……」
 そう問われ、一瞬悲しげな表情を見せたスォンクは、申し訳なさそうに俯いた。
「ふむ、どうやら込み入った事情があるようだね。すまなかった、忘れてくれ」
 これ以上の追及は再び事態の硬化を招くと、エアルドフリスはすぐさま会話を切る。
「なんや二人してにやにやと。怪しいわぁ」
「私は推奨する。スォンク。こちらに来ることを」
「わかったわ、それじゃ」
「お前達なぁ……」
 この日の荒野には遅くまで弾む声と笑い声が響いていた。

●翌日
 一礼し荒野へと進んでいくスォンクを見送った三人。
「さて、困ったな」
「鬼気迫るゆぅんやろうか。儀式の話を聞こぉとすると、すぐにだんまりやったねぇ」
「私は考察する。儀式における絶対の条件である単身行。スォンクは正確に履行しようとしていると」
「そうだな。その姿たるや、修験者かはたまた死地へ向かう戦士か、と言ったところか」
「縁起でもない事、言わんといて」
「私は頷く。死地に向かう戦士。言い得て妙、まさにそれほどの覚悟が彼女から感じられると」
「鳥はんまで……」
 団欒の夜、長い時間、話をした。スォンクの顔には笑顔が溢れ、心を開いたように見えた。しかし、儀式への同行だけは頑として許さなかった。
「とにかく現状の報告だ。――さて、届く範囲に居てくれるといいが」
 気の重い報告に溜息をつき、エアルドフリスは静に目を閉じた。

●丘
 危険な個所をさり気なく伝える為の目印を作り終えた先行組の三人。
「――これで穴はあらかた見つけたでしょうか、歪虚がいなかったのは幸いでした」
 出番のなかった愛刀をそっと撫で、壮介は額に浮かぶ汗をぬぐう。
「そうですね。あちらの同行が断られた以上、歪虚の存在は致命的なものになりかねませんから」
「うんうん。でもさ、それに関してはちゃんと予防出来たじゃない。なにせハンター三人のお墨付きなわけだしね」
「なるほど、そういう見方もできますね」
 二人の言葉に壮介は満足げに頷いた。
「んー、それにしてもこの穴なんでできたんだろうね」
「ふむ。確かに興味はありますね。まるで巨大な蟻の巣の様なこの有様――」
「歪虚の巣か、はたまた人の行いか。興味は尽きませんが、今は歪虚の気配がないというだけで満足しましょう」
「そうですね。我々の役目は探索ではない」
「でもさ、ちょっと気にならない? もし余裕があれば儀式の終わった後にでも……って、コールだ」
 にししと悪戯っぽい笑みを浮かべ二人を誘おうとするマチルダの頭に、声が響く。
「もう届く距離まで来たのですね。仕方ありません、一旦引き上げましょう」
「むー、了解。じゃ、集合場所のお返事だけしておくね」

●岩陰
 丘より少し離れた岩陰に、六人は息を潜めている。
「――登り始めましたね」
 クライヴの声に皆が丘へ目を凝らすと、小さくはあるがはっきりとその姿が視認できた。
「まだ夕方やけど、時間大丈夫なんやろか……」
「確かに赫月って、まだ出てないよね……」
 夕焼に染まる空に、月の気配はまだない。
「赤い月か。何か条件があるのだろうか」
「天雲って単語も気になりますね」
「私は告げる。皆。注意を。天雲の刻。そう、雨が、来る――」
 皆が伝承の意味を考察する中、一人空を見上げていた雨を告げる鳥が小さく呟いた。

●儀式
 豪雨により洗われた空に、赤く染まる月が昇る。
「酷い雨でしたね……」
 突然のスコールはおよそ一時間降り続き、荒野の姿を一変させた。
「しかし、赫月は昇った。いよいよ始まるぞ」
 エアルドフリスが目を凝らすと、丘の頂上ではスォンクが天を仰いでいた。
「一体何が起こるんだろうね」
「興味は尽きませんが、今はそっと見守りましょう」
 6人はいつしか息をするのも忘れ、丘上を見つめる。――そして、それは何の前触れもなく訪れた。

 轟音と共に朱の空を、眩いばかりの閃光が貫いたのだ。

「なっ、なんだ今のは! 敵か!?」
 白く染まる世界を振り払おうと壮介が頭を振る。
「私は推測する。違う。これは……残雷っ!」
 珍しく声を震わせた雨を告げる鳥の返答に、マチルダが駆けだした。
「うちらも!」
 マチルダに一歩遅れ5人も急いで岩陰から飛び出す。

●丘
「お姉はん! しっかりしぃ!」
 真っ先に駆け付けた静玖が、尻餅をつき呆然と天を見つめるスォンクの肩を揺する。
「あ……あれ、貴女は……」
 我に返ったスォンクが目の前の少女にゆっくりと焦点を合わせた。
「うわっ! はい、男性陣! あっち向いてホイ!」
 次いで駆け付けたマチルダが、駆け上がってくる男性陣に向け静止を呼びかける。
「ちょっと待っといて!」
 スォンクの服の一部は焼け焦げ、そこから白い肌が覗いていた。
「え……これって」
 急いで羽織を脱ぎスォンクへ掛けようとした静玖の手が止まる。
 覗く肌に、痣の様なものが浮かんでいるのが見て取れたのだ。
「これは……。私は考える。これこそが伝承にある九星の釼ではないかと」
 まさに今刻まれたように赤熱するその痣は、左右にそれぞれ四枝の刃を持つ九枝の剣の様にも見える。
「儀式は……成功したの?」
 痣の刻まれた背に視線を奪われる三人に、スォンクが問いかけた。
「大丈夫、成功してる。スォンクさんは立派に役目を果たしたよ」
 向けられるマチルダの笑顔に、スォンクの表情がゆっくりと緩み。
「よかった……これで……父さん」
 溢れる涙を拭う事もせず流し続けるスォンク。その左手には一片の骨が握られていた。

●終幕
 住人達の大歓迎を受け、スォンクが集落へ吸い込まれていく。
「これで一件落着でしょうか」
 その背を遠巻きに見つめながら壮介が呟いた。
「伝承の謎を全部解明できなかったのはちょっと心残りだけどね」
 わざとらしく肩を落とすマチルダの表情も、実に晴れやかだ。
「しかし、彼女の目的が、父親の遺骨回収だったとはな」
「まさに。その考えに至らなかった自身が恥ずかしくもありますね」
「同感だ」
 クライヴとエアルドフリスが、互いの言葉に苦笑で返す。
「でも、ほんまに釼の事話さなんでもよかったんやろか? お姉はん、ずっと隠すんやろ?」
「それが集落の掟なのでしょう。それこそ部外者の口の出す事ではないのかもしれませんよ?」
「うーん、そんなもんやろか」
「ええ、そんなもんです」
 年若い静玖に優しく教える兄の様に、壮介は告げた。
「私は予言する。スォンク。九星の釼の加護を受けた者が降り立った集落に、災いが訪れる事は無いと」
 締めくくる様に呟かれた雨を告げる鳥の言葉に、皆は大きく頷いたのだった。

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MVP一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥ka6258

重体一覧

参加者一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 三千世界の鴉を殺し
    連城 壮介(ka4765
    人間(紅)|18才|男性|舞刀士
  • 剣心一撃
    クライヴ・バンフィールド(ka4999
    人間(蒼)|35才|男性|舞刀士
  • 機知の藍花
    静玖(ka5980
    鬼|11才|女性|符術師
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
雨を告げる鳥(ka6258
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/07/20 06:08:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/16 03:29:36