商店街で盆踊り

マスター:篠崎砂美

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/20 22:00
完成日
2016/07/26 00:54

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 今年の夏はやや暑く、ヴァリオスでも蒸し暑い日が続いています。
「こう暑いと、何か暑気払いがしたくなりますわねえ」
 商店街の案内所奧で、セレーネ・リコお嬢様が襟元をちょっと引っぱって、油単な胸元にパタパタと風を送り込みながら言いました。
 醤油制作もあまり軌道に乗らず、当面は東方からの輸入主体と言うことで、あまり大きな商売にはなりそうにありません。ひとまずは、商店街の飲食店で使う程度は確保できそうですが。新しい名物のラーメンも、よりリアルブルー産に近づけた物が提供できるでしょう。
「やはり、こう、なんかぱあーっとするようなイベントとかありません?」
「去年みたいに七夕かしら。リアルブルーでは、七夕前後から月遅れの七夕前後までずっと飾りっぱなしだって言うし」
 ちょっと考え込んでから、フィネステラ案内嬢が言いました。
「それは当然行うとしても、去年と同じでは芸がありませんことよ。もっと、今年ならではという物がほしいのですわ」
「話は聞かせてもらいました。それならば、いいアイディアがありますわよ……」
「誰!?」
 ふいに声をかけられて、お嬢様とフィネステラ嬢が振り返りました。そこには、いつの間にか情報屋のミチーノ・インフォルが立っていました。まるで、柱の陰に立つ家政婦のような現れ方ですが、今日は、藍染めの浴衣を着て、いつもとは違う格好です。長い黒髪を後ろへと流した姿は、小柄なこともあって一見すると実に愛らしく見えます。
「東方に伝わるボンダンスですよ」
「ボンダンス?」
 馴染みのない言葉に、お嬢様たちが聞き返しました。
「リアルブルーに伝わる、降霊の踊りの儀式です」
 もの凄く誤解を受けそうな説明をミチーノ・インフォルがしました。いったい、誰に教えてもらったのでしょうか。
「まあ、細かいことはおいておいて、リアルブルーでも、すでに形骸化して、とにかく踊りを踊って楽しむイベントと化しているそうです。そして、イベントには出店がセット。これは儲かりますよー。すでに、ジェオルジなどでは郷祭や村おこしでボンダンスが開催されたという実績もあるくらいです。これは、利用するしかありません」
 一気に、ミチーノがあおり立てました。
「これは、儲けの匂いがしますわ!」
 お嬢様も、乗り気になります。
 かくして商店街で盆踊り大会が開かれることになりました。

リプレイ本文

●浴衣
「こちらで、浴衣の貸し出しを行っておりまーす」
 お嬢様のお店の前で、月・芙舞(ka6049)が、頑張って呼び込みをしています。白地に赤いパルム模様の可愛い浴衣です。赤い帯を花文庫結びにして、アクセントにしています。
 彼女の周囲では、『浴衣貸し出します』・『絶賛レンタル中!』という垂れ幕を持った桜型妖精「アリス」たちが飛び回っていました。
 お店の前には笹飾りもしてあって、色とりどりの短冊や、紙で作った投げ網のモビールなどが風にゆらゆらしています。他にも、アクセサリーが吊してあったりと、かなり派手です。
「着付けサービスもしておりますわよ」
 鮮やかな藍の浴衣を着ているお嬢様ですが、なんだかフリルがあちこちについていて、変に派手です。正統派というよりも、浴衣ドレスですね。帯も、細めの白い帯を片流しにして変化をつけています。頭には、大きな花かんざしが挿してあります。
「月さん、売り子さんの着付けお願いしますわ」
 お嬢様が、アシェ-ル(ka2983)を月に預けました。今回、商店街の職員は浴衣姿です。アシェールも案内所でお手伝いをするので、当然浴衣にならなくてはなりません。
「浴衣って、こういうときじゃないと、なかなか着られないものね。お願いします!」
 ちょっとワクワクしながら、アシェールがお店の中へと入ってきました。
「どんな浴衣が好みですか?」
 月が、アシェールに訊ねました。着付けは、月が担当なのです。
「ええと、綺麗な緑とか、お花が一杯とかあ……」
 ちょっと考えてから、アシェールが答えます。
「それでしたら……」
 月が、テキパキと浴衣を選んできます。様々な色や模様の浴衣が、店の奥の棚には用意されていました。ほとんどがたたまれていますが、月の頭の中にはどこにどんな着物がおいてあるか全て入っているようです。
「これなんかどうでしょうか」
 選びだした浅黄色の浴衣をアシェールの身体に当てて合わせてみます。桜の花の模様も艶やかな浴衣です。
「わあ、綺麗です」
 鏡の前でアシェールが、目を輝かせます。
「これでバッチリですね」
 月とアシェールが、顔を見合わせてニッコリしました。
 丈を端折って合わせると、黄色い帯を花結びにして留めます。アシェールの幼い感じを残しつつ、ちょっと背伸びしたような、そんな雰囲気に纏まりました。ちょっとお姉さんという感じです。
 着付けがしっかりとできたので、アシェールは案内所のお手伝いへと出発です。
 そこへ、入れ替わるようにして、お嬢様の呼び込みでやってきた星野 ハナ(ka5852)が入ってきました。
「えーと、お任せで……」
 言いつつ、ハナがチラチラと外の様子をうかがいました。
 月は、その視線の先を見逃しません。
 店の入り口のむこうに、チラリチラリと男物の着物が垣間見えます。多分、このお客さんの連れでしょう。
「あれは……」
 見覚えある着物に、月の目が輝きました。あれは、『青波』と銘のついている、青地に白い波が立っている模様の着物です。足許も、着物に合わせた草履で、銘柄は『霧氷』。なかなかやります。負けてはいられません。
「これでいかがでしょう!」
 月が、紺地に大きな芍薬の花が描かれた浴衣を選びました。そして、少し大人っぽく、赤い帯を貝の口結びにします。これなら、ハナのお連れの浴衣ともぴったりですし、負けていません。

「お待たせー」
 着替えたハナが、お嬢様のお店からニコニコしながら出てきました。
「おお、なかなか様になってるな」
 大きく『涼』と筆文字で書かれた団扇をパタパタ扇ぎながら外で待っていたザレム・アズール(ka0878)が、感心したように言いました。
 えへへと、袖をつまんでハナがポーズをつけます。
「さあ、行こうか」
「うん♪」
 ザレムの左腕に、ハナが思いっきりだきついて言いました。ハナとしては猛烈アタックですが、ザレムとしては、単純に妹にしがみつかれた程度にしか思っていないようで、ちょっと二人の間に温度差があります。

「浴衣かあ。リアルブルーの異国情緒を楽しむというのもいいかも……」
 浴衣姿の人々を見て、マリィア・バルデス(ka5848)が考え込みました。
 なんだか、クリムゾンレッドにやってきてからの方が、異国の文化に触れる機会が増えたような気がします。とりあえず、浴衣という物も試してみましょう。
「どのような浴衣をお望みですか?」
 待ち構えていた月が声をかけます。
 どれどれと、マリィアが適当な着物に手をのばしてみました。手の込んだ模様が描かれてはいますが、袖が変に長くて、なんだか厚ぼったい生地です。
「うーん、浴衣って、もっと涼しい服かと思ってたけど」
「これは、振り袖ですね。浴衣はこちらです。ちゃんとした浴衣でしたら、軽くて涼しいですよ」
 普通の着物を手に取ってしまったマリィアに、月が絽の入った浴衣を勧めます。通気性のよい生地は、実に夏むきです。色は黄色で、鮮やかな朝顔が描かれていました。意匠も、実に異国情緒たっぷりです。
「ほんとだ」
 実際に袖を通すと確かに涼しいので、マリィアはそれを着付けてもらうことにしました。ふんわりとした、まるで綿のようなピンクの兵児帯を締めてもらいます。
「それでは、お楽しみください」
 月に送り出されて、マリィアは商店街のそぞろ歩きへとでかけました。
 それにしても、リアルブルーのお盆とかいうものは、先祖の霊などを祀る祭りだと聞いていたのですが、こんなに賑やかでいいのでしょうか。なんだか、ちょっと違和感を覚えるマリィアでした。こんなときは、やはり飲むに限ります。

●バーベキュー屋台
「さあ食え、食っていけ。ローストビーフとバーベキューだあ。うめえぜえ!」
 ジュージューと煙といい匂いを振りまきながら、アーサー・ホーガン(ka0471)が威勢よく叫んでいます。派手な錦の甚平を羽織って、とにかく目立っています。何ともお祭りらしい賑やかさです。
 アーサーが、『肉』と書かれた団扇でばたばた扇いでいるワゴンのバーベキュー台では、炭火でどんどん肉が焼けていきます。その隣の台では、ローストビーフの大きな塊が、切り分けられるのを待っていました。
「いい匂いだ。でも、肉だけなの?」
 そぞろ歩きしていたマリィアが、アーサーの屋台の香りに誘われてやってきました。
「肉しかないのかって? 何言ってんだ、肉があるじゃねぇか」
 アーサーがマリィアに答えますが、まったく答えになっていません。今のアーサーにとっては、肉が全てです。
「とにかく、肉食えや、肉! しっかり食いたきゃバーベキュー。手軽に食うならローストビーフだ!」
 有無をも言わせず、アーサーがマリィアに肉を勧めました。
「ついでに、酒も買ってけ。酒がなけりゃ、祭りが始まらねぇぜ!」
「それはそうよね」
 マリィアが、お酒がなきゃという部分には同意します。
 とりあえず、お肉に合わせて、お酒は赤ワインです。これで、マリィアとしては、なんとなく様になりました。
 けれど、お酒は貸し出し用の木のコップでもらったからいいのですが、肉は食べ歩きには不便です。
「大丈夫だ。ローストビーフなら、パンが用意してある」
 想定内だとばかりに、アーサーがトングで掴んだローストビーフをたっぷりとライ麦パンに挟みました。そこへ、すり下ろしたホースラディッシュとグレイビーソースをかけます。
 サンドイッチなら、食べ歩きしても大丈夫です。とはいえ、たっぷりと盛られたローストビーフは、盛大にパンの間からはみ出していて、こぼさないように食べるのは大変そうです。
「まいどありー」
 元気なアーサーの声に見送られて、マリィアはパクついたサンドイッチを赤ワインで胃へと流し込みながら、広場へとむかって歩いていきました。

●射的
「もう、いったいどうしたって言うんだ……」
 キョロキョロと周囲を見回しながら、ルーン・ルン(ka6243)が商店街を歩いていました。お祭りに行こうと、知り合いと待ち合わせしていたのですが、どうやらお相手が辿り着けなかったようです。
 せっかく、おしゃれな紫の浴衣を着てきたというのに……。シックな大人の女という演出がもったいないというところです。
 射的屋などの出店の前を通りすぎて、ルンは一人先へ進んでいきました。なんだか、どこからか香ばしいいい匂いがしてきます。まるで、ルンを呼んでいるかのようです。
 一方、射的屋には、ミオレスカ(ka3496)の姿がありました。今日は、いつも担当しているパン屋さんからはお休みをもらっています。シックに、黒地にナデシコ模様の浴衣を着、黄色い帯を一文字に結んで大人っぽくふるまうのです。
 のはずだったのですが……。
「あっ、あそこに見えるのは、CAM人形DX! こ、これは、取らねばなりませんよねっ、ねっ!」
 早くも目論見を崩壊させながら、ミオレスカがキラキラした目でCAM人形を見つめていました。景品のならぶ棚の中央に、まるでラスボスのように鎮座ましましています。
 かつてCAM像のお披露目で売られたCAM人形、まさにレア、そう、ウルトラレアです! これは、もう手に入れるしかありません!
 ミオレスカは、空気銃の先端にコルクを詰めました。気を落ち着けると、コルク弾のおいてあった台に豊かな胸をギュッと押しつけて、うーんと身体を伸ばしました。限界までCAM人形DXに銃口を近づけて、確実に屠るのです。
 CAM人形を我が手に!
 ポン!
 空気の弾ける音がして、コルク弾がCAM人形DXに命中……ああっ、そんな馬鹿な、なんとCAM人形DXがシールド防御しました。コルク弾が、あえなく弾き返されます。もちろん、CAM人形は倒れません。
「ちょっと、これインチキじゃあ……」
 当然抗議しますが、射的屋の親父は請け合いません。どうやら、悪徳商人コッレツィオの息のかかった出店だったようです。そう考えると、CAM人形自体もパチ物くさいです。きっと、フマーレでコピー生産した物でしょう。それにしても、よく出店権を手に入れたものです。
「もう一度です!」
 ちょっとむきになりつつ、ミオレスカが叫びました。パチ物とはいえ、負けたままでは納得がいきません。勝つまで戦うのです。ファィトォ!
 ポンポンポポーン!
 しかし、これでは、テキ屋の思うつぼです。熱くなるミオレスカの姿に、道行く人たちも何だろうと目をむけます。
「あーあ。ああいう、射的って、ろくな景品ないんですよねえ」
 通りすがりのハナが、リアルブルーのテキ屋の景品のことを思い出してつぶやきました。
「そうなのか?」
 あまり馴染みのないザレムが聞き返しました。
 ポンポンポポーン!

●焼きトウモロコシ
「しくしくしく……、結局、取れなかったです」
 どうやら、しっかりとミオレスカは敗退したようです。
「この仇は……、焼きトウモロコシでとります!」
 偶然目についた焼きトウモロコシの屋台を睨み据えて、ミオレスカが拳を握り締めました。お小遣いは大丈夫なのでしょうか……。ちょっと心配になります。
 そこでは、すでに匂いに誘われて辿り着いていたルンが、香ばしく焼けたトウモロコシにかじりついていました。
「トウモロコシください!」
 ルンの食べっぷりを見て、ミオレスカが焼きトウモロコシを頼みました。
「東方の文化は、少しは知っていたと思っていたけれど……。やっぱり、リアルブルーの文化は一味違うわね。特に、この香ばしい匂い、これって何なの!?」
 醤油の匂いにすっかり魅了されて、ルンが言いました。
 カリカリとトウモロコシを回して囓っていると、広場の方からは盆踊りの音楽が聞こえてきました。ちょうどいいお祭りのBGMです。
「美味しかった。ごちそうさま」
 とても甘い焼きトウモロコシを満喫はできましたが、この醤油という味つけはちょっと喉が渇きます。
「美味しいかき氷はこちらですよー」
 まるで狙ったかのように、すぐそばの案内所横でデレトーレ支配人がかき氷を売っていました。ちょっといなせに絣の浴衣を着こなしています。渋い初老の紳士は、一部女子に人気です。
 氷を砕いたフラッペではなく、氷を削ったかき氷は、ふんわりとしていてクリムゾンウェストでは珍しいものでした。
 クリムゾンウェストの機導術のたまものである製氷機と、リアルブルーの文化であるペンギンさんかき氷器、この奇跡のコラボがお祭りを盛り上げるのです。無理を言って、魔術学院の資料館からサルヴァトーレ・ロッソの放出品を借りてきたかいがあります。
 ヴァリオスの虹に合わせて、白蜜、黒蜜、抹茶、イチゴ、メロン、レモンなどの七色のシロップが選べます。本当は、もっと色々な色も選べるのですが、いちおう七色ということになっています。リアルブルーでは、香りと色が違うだけで味が同じという話もありますが、クリムゾンウェストでは人工着色料など使っていませんから、すべて自然のフルーツなどの色ということになっています。それはそれで、とても美味しいかき氷になっていました。
「レモン味を一つくださいな」
「ありがとうございます!」
 ルンの注文を受けて、デレトーレがシャキシャキとかき氷器のハンドルを回しました。明日の筋肉痛が、ちょっとだけ心配になってしまいます。

●案内所
「いらっしゃいませー。こちら、御当地ラーメン、絶賛販売中でーす」
 浴衣姿のアシェールとフィネステラ嬢が、仲良く案内所の前で御当地ラーメンの呼び込みをしていました。フィネステラ嬢は真っ赤なミニ浴衣で、ほっそい脚を惜しげもなく顕わにしていました。裾には、お嬢様のようにフリルがふんだんについています。
 案内所のそばには、『御当地ラーメン』の幟がいくつも立っています。笹には吹き流しや薬玉が提げられ、華やかに案内所の両側を飾っていました。
「おう、ここだここだ。残念なことに、コンテストのときは都合がつかなくて食べそこねたが、今回は食べるぞー!」
 ハナを先導してやってきたザレムが、案内所に立っている『御当地ラーメン』の幟を指さして言いました。
「実は、私も一からラーメン作れるんですよぅ。あの時は、もうちょっとで、私の花ラーメンが御当地ラーメンになったんですけれどぉ。おしかったですぅ。もし、ザレムくんがラーメンが好きなら、今度おうちに作りに行きますけどぉ」
 コンテストにも参加したハナが、チラリとザレムの方を見て言いました。
「それは楽しみだなあ」
「はい、絶対に行きます!」
 のほほんと言うザレムに、ハナが目をキラキラさせました。
「ということで、御当地ラーメン二つ!」
 勢いよく、ザレムが注文をしました。
「御注文ありがとうございます」
 さっそく、フィネステラ嬢が注文を厨房へと伝えます。
 テーブル席で待っていると、お盆を持ったアシェールがやってきました。
「ザレムさんが、デートしてる……」
 ハナとザレムを見て、アシェールが呆然とします。これは、想定外です。
「あれ? アシェール……?」
「はははは、ザレムさん、人違いですよぉ」
 そそくさと、アシェールが後退って案内所の中に姿を消します。
「いったい、あそこは何やってるんだ?」
 なんだかばたばたしているアシェールたちを見て、お酒でちょっと顔が赤くなったマリィアが少し呆れて案内所の前を通りすぎていきました。なんだか、関わると面倒くさそうです。
「あ、マリィアさんだ。行っちゃった……。お酒飲んでるんだあ。いつ見ても大人だなぁ~。マリィアさん」
 案内所の陰から様子方かがっていたアシェールが、少し遅れてマリィアに気づきましたが、声をかけそこねてしまいました。
「とにかく、驚いちゃったけど、これは陰から応援しなくっちゃ」
 なんだか、アシェールが、よけいなことを考え始めます。
 一方のザレムとハナは、御当地ラーメンを堪能していました。
「美味しいな、これ」
 やっと目当てのラーメンを食べられて、ザレムは御満悦です。
「うん、悔しいけれど、これも美味しいですねぇ」
 ハナも、ずずずずっとラーメンを啜ります。
 魚のつみれの入っている特製醤油ラーメンは、本物の醤油で、コンテストのときよりもバージョンアップしているようです。
「ふう、美味しかったですぅ」
 お腹をポンポンとさすりながら、ハナが言いました。
「お代わりしたいくらいだな」
 ザレムも満足です。
「こちら、デザートのサービスになっています」
 そこへ、アシェールがハートのプチケーキを持ってきました。
 二人を陰から応援です。応援しないと、ザレムさんはダメダメだと思っています。頑張れハナさん。
「では、私はこれで」
 陰からなので、アシェールはピューと全速力で案内所の中へと逃げ戻りました。長く二人の目に触れてはいけないのです。
「だから、アシェール……」
 いったい何をしているんだと、ザレムが軽く頭をかかえました。
「わあ、美味しそうですぅ」
 ラーメンのデザートにケーキというのも何ですが、ハナは大喜びです。
 その様子を、アシェールは建物の陰から半分だけ顔をのぞかせて見守りました。そこへ、ミオレスカが通りかかります。
「あっ、ミオさんだ。ミオさん! ミオさん! 醤油ラーメンですよー!」
 アシェールが両手を口許にあてて声をかけますが、すぐに人混みの中に見失ってしまいました。これでは呼び込み失格です。
「しゅん。これじゃ、お隣のラーメン屋さんに負けちゃう。エルさん、かわいいしぃ」
 隣に出ているとんこつラーメンの屋台を見て、アシェールがちょっと溜め息をつきました。

●とんこつラーメン屋台
「私の屋台は次世代の御当地ラーメン! とんこつをよろしく!」
 エルバッハ・リオン(ka2434)の屋台です。浴衣と言うよりも、着物ドレスと言うのでしょうか、とにかく派手な目立つ格好をしています。アシェールいわく、可愛いと言うことですが、その可愛い女の子が売っているのがとんこつラーメンというのが、ちょっとギャップを感じさせてツボのようです。
 屋台にくくりつけられた笹飾りには、可愛い豚のぬいぐるみがいくつも提げられていました。
 こちらで出しているとんこつラーメンも、おしくも御当地ラーメンになりそこねた物でした。それで終わりとせず、リオンはまだ虎視眈々と御当地ラーメンの座を狙っています。そのため、レシピを掲示するなど、アピール活動にも余念がありません。
 今回も、素材はリオンが一つ一つ厳選したものですし、仕込みにもじっくりと時間をかけています。臭いも極力抑えるようにしましたので、前よりは一般ウケするでしょう。
 それに、せっかくのお祭りなのですから、ラーメンが一種類しかないというのも淋しいものです。ここは、色々な種類があるというラーメンの奥深さを、みんなに知ってもらういい機会ではありませんか。
「やみつきになる味ですね。まあ、今のままでは、毎日食べたいとは思いませんが」
 同僚の魔術学院資料館館員たちと一緒に食べに来ていたセリオ・テカリオ女史が、曇ったメガネを布で拭きながら言いました。魔導書のディアーリオ君はさすがにお留守番ですが、後でレシピを目もメモした紙でもお土産として持っていってあげましょう。館員としては、こういった資料があるということは、研究に凄く助かります。
「もう少し改良すると、面白そうですねえ」
 御当地ラーメンの審査員をして以来、セリオ女史はとんこつラーメンに色々と興味を持ったようでした。
「御希望の方には、替え玉を御用意してあります。どうぞ、お気軽にお申しつけください」
 気持ちのいい食べっぷりの館員たちにむかって、リオンが言いました。すぐさま、お代わりの声が屋台に響きます。資料館の仕事というのは、そんなにお腹が空くものなのでしょうか。
 いずれにしても、この食べっぷりは、リオンにとってはしてやったりです。
 屋台の隅っこの方では、サングラスをかけて顔を隠したアットリーチェちゃんの姿もありました。どうやら、こちらもとんこつラーメンにハマってしまったようです。やはり、ハードなお仕事の人たちにとっては、濃厚なラーメンはエネルギー補給に最適なのでしょうか。
「さあ、とんこつで天下を目指しますわよ! いらっしゃいませー!」
 勢いに乗って、リオンは精力的に呼び込みをしていきました。

●短冊
 広場には、今年もメインの大きな笹飾りがありました。そこへは、願い事を書いた短冊を自由に結ぶことができます。
 そばにある台には、七色の短冊とペンがたくさんおいてありました。
「一つ書いていくか」
 立ち寄ったザレムが、ハナをうながしました。こういった儀式は、一通り体験してみるものです。
 短冊を手に取ると、ザレムは『リアルブルーに行きたい』と書きました。
 アルケミストであるザレムとしては、科学文明の発達したリアルブルーは心躍る世界です。叶うことであれば、一度行ってみたいと思うのは自然なことでした。
「じゃ転移できるようになったら一緒にリアルブルー行きますぅ?」
 その短冊を見たハナが、なんだか楽しそうに言いました。もしリアルブルーへ行けたら、そこはハナのいた世界です。ザレムを案内したい所は一杯あります。
 一方のハナは、『彼氏が欲しい!』と、ドストレートに書いていました。
 それをわざとザレムに見えるようにしながら、笹に縛りつけます。
「よし、頑張れ」
 ハナの短冊を見たザレムが、あっさりと応援します。なんだか、どこか他人事です。あらあら。
 チラチラとしつこく短冊をザレムに見せつけながら、負けないと心の中で頑張るハナでした。
 『全歪虚滅亡』と短冊に書いて吊したのは、マリィアです。
 実に、現在の皆の願いを素直に代弁していまるとも言えます。
 酔った勢いで、マリィアは、かつて戦友だった者たちのことを思い出していました。歪虚との戦いの中で、行方不明となったり、戦死していった仲間たちの顔と名前が脳裏に浮かんでは消えていきます。彼らも、今日はどこかへ戻ってきているのでしょうか。
 亡き人たちを思う祭りということなのですから、このくらいの感傷はいいいでしょう。
「……全ての狂気を滅亡させるとここに誓う」
 そう決意のような言葉を口にすると、マリィアは持っていた木のコップを地面に叩きつけました。別れの水杯の代わりといったところでしょうか。地面に叩きつけられて、コップに罅が入ります。
「ああっ、マリィアさんたら、コップは貸し出しですから壊しちゃだめですよお。困ったなあ、酔っちゃったのかなあ。後で、弁償しておいてくださいねっ」
 たまさか案内所から一部始終を見てしまったアシェールが、困り顔で捨てられたコップを回収していきました。

●CAM像
 ぱんぱん。
「今日も、このまま、よい日でありますように……」
 いつものように、ミオレスカがCAM像にお参りをしました。なにしろ、この商店街の守護像なのですから。ああ、CAM人形欲しかったなあ。
 CAM像も、お祭り仕様に飾り立てられていました。剣には笹飾りが結びつけられており、なんだかCAMが飾りを振り回しているような感じです。像のあちこちからそれぞれのお店にむかって渡されたロープには、色とりどりの提灯がたくさん提げられていました。おかげで、広場は明るく照らし出されています。
 CAM像参拝の後、ミオレスカは、いつもバイトをしているパン屋さんへとむかいました。お客さんとしては初めてです。
 お休みをもらったからといって、やっぱり顔出しはしておきたいものです。
「いらっしゃいませー」
 パン屋さんに行くと、ミチーノ・インフォルが座っていました。どうやら替わりのバイトは、彼女のようです。白地に青い格子の浴衣を着て、水色の帯を蝶結びにしています。珍しく髪は結い上げて、簪で留めていました。
 パン屋の笹飾りには、色とりどりのキラキラしたボンボンが提げられ、周囲の光を映して輝いています。
「CAMパン、いかがですか?」
 ミオレスカの顔を見て、ミチーノがあらという顔になりましたが、別段何か変わることもなく、普通に売り物のパンを勧めてきました。
「ええと、一つください」
 ちょっと不思議な気分になりながら、ミオレスカはCAMパンを買いました。

●盆踊り
 ドンドンドン!
 太鼓の音が、ひときわ大きく鳴り響きました。
 広場には二層の櫓が組まれて、上の方には太鼓がおかれていました。そこでは、浴衣の片肌を脱いだ駐在さんが、力強く太鼓を叩いています。商店街の警備の方はいいのでしょうか……。
 下の層では、ボンダンスの見本となるように、リアルブルーの詳しい人たちが踊っています。
 CAM像と同じように、たくさんの提灯が八方へとのびており、踊る人たちを暖かく照らし出していました。光に照らされた影たちも、ゆらゆらと地面の上で踊っています。
「あっ、なんだか、懐かしいような……」
 鳴り響く太鼓のリズムが、ミオレスカの中に眠る何かを呼び起こしたようです。どこか、ミオレスカの生まれ育った辺境の音楽に通じるところがあるのでしょうか。
 我慢できなくなったミオレスカは、櫓に上がって踊りだしました。
 同じような人々が櫓の周りに集まってきて、勝手に踊りだします。その数は増えて、いつしか輪になりました。やがて、ちょっとバラバラだった人々の踊りがだんだんとシンクロしていって、ついには一体化した一つの踊りとなります。
 周りで食べ物を楽しんでいた人たちや、踊りをながめていた人たちの間から歓声があがりました。我慢しきれなくなって、踊りの輪に加わる人々があっという間に増えていきました。そう、我慢などしなくてもいいのです。歪虚と戦う日々の中、こんな日がなくては人の心は持ちません。人の心は、人が支える物なのですから。
 そう、お祭りです。
「ザレムくん、誘うので、また一緒にお祭りへ来ましょうねぇ」
 みんなの踊りを見ながら、ハナがそうザレムに言いました。

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参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 堕落者の暗躍を阻止した者
    バレル・ブラウリィ(ka1228
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • アリス達と過ごす夏の夜
    月・芙舞(ka6049
    人間(蒼)|28才|女性|符術師

  • ルーン・ルン(ka6243
    エルフ|26才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/20 19:35:11