【闘祭】決勝トーナメント・マスターリーグ

マスター:WTRPGマスター

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
5~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2016/07/25 19:00
完成日
2016/08/08 18:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

『武闘大会イベント【闘祭】もついにクライマックス! 決勝リーグの開催です!』
 響き渡る竹村 早苗(kz0014)のマイク越しの声に続き、観客席からは歓声が上がる。
 リゼリオの特設ステージのボルテージは今、まさに最高潮に達しようとしていた。
 観光客の数は例年と比べるべくもない。この熱気を支えている物、それは武闘大会!
『皆の者、よくぞここまで戦い抜いてくれた! ソサエティ総長として誇りに思うぞ!』
『とまあ、そんな前置きはみんな聞き飽きてるだろうけどな』
 スメラギ(kz0158)がため息交じりに語ると、ナディアもそれに同意するように頷く。
『まあ一応アレじゃの。お約束っていうか、急に始まらない為の前置きっていうかの』
『それはもう十分だよな? それじゃあ野郎共、早速最高のハンターどもを紹介していくぜ!!』
『スメラギ様、ヤケになってません?』

『『『ハンターズソサエティ最強の戦士は誰か……知りたいかーーーー!?』』』
「「「おーーーー!!」」」
『無差別級と言っても過言ではない、あらゆる最強が集うリーグ! マスターリーグの選手入場です!! まずはAブロック! 東方より現れた王殺しの剣! 世界で一番薔薇の似合うハンター(暫定)、紅薔薇選手です!』
 歓声に笑顔で手を振り応じながら紅薔薇(ka4766)はステージを目指す。
『外見年齢14歳! 身長155㎝! あらゆる闇を屠る事のみに特化した、東方が生み出した無垢なるキリングマシーン! マスターリーグは第一線で闘うハンターぞろいですよ!!』
『まあ若干の語弊はあるが、マスターリーグはハンターの中でもトップクラスの連中の戦場だ。物見遊山じゃ観客も火傷するぜ?』
『なんだかソサエティ運営の想像も超えて確率の問題で大量の増殖してしまった事もありましたが、そんなハントなことはさておき、舞刀士の覇権を賭けて決勝に挑みます!』
『紅薔薇グッズ発売でソサエティの資金源待ったなしなので、各位備えてほしい』
『続いてBブロック! どんなハードルも飛び越えます! だって俺は鳥人間だから! 霊闘士代表! 岩井崎 旭選手ーーーー!!』
 岩井崎 旭(ka0234)は勢いよくステージまで駆け上がり、バック転を披露した後、観客席に腕を振る。
『思いっきりファンタジーになじんでいますが、実はリアルブルー人です! 外見年齢18歳! 身長175㎝!! さまざまな冒険を乗り越えて成長した男が、今辺境オッズを背負います!!』
『迷子にならず会場までたどり着けたようで何よりだぜ』
『龍奏作戦でえらくシリアスだった気がするが、武闘大会は是非楽しんで参加してもらいたいの』
『言われなくても楽しんでるだろうぜ』
『続きましてCブロック! 東方には俺がいる! 天下無敵の怪力無双! 格闘士の万歳丸ーーーー!!』
 万歳丸(ka5665)は両拳を掲げ雄たけびを上げた後、強く頬を叩き、笑みを浮かべリングへと上がっていく。
『身長223㎝! 体重100㎏! デカーーイ!! しかし外見年齢16歳です!!』
『いや……東方からハンターが参加するようになってからまだ日は浅い筈なんだが……帝の俺でもここまで残る奴がいるのは驚きだぜ』
『マスターリーグは熟達の英雄ばかりじゃからの。格闘士が、それも鬼が決勝に勝ち残るという事自体が既に偉業と言えるかもしれぬな』
『ザ・武闘大会って感じするわ……あの調子なら応援は必要ないかもしれないが、俺は帝として応援してるぜ』
『そして、Dブロック勝者! 水も滴るいい男! 打ち破った愛する人の想いを背負い、エアルドフリスが舞台に上がります!』
 ポリポリと頬を掻き、なんとも言えない表情を浮かべながら歩き出すエアルドフリス(ka1856)。
『予選決勝での戦いは壮絶だったな。色々な意味で』
『わらわは完全にバッチコイ状態じゃったな。色々な意味で』
『身長176㎝、体重75㎏。外見年齢27歳! 辺境仕込みのお薬で、あなたに恋の処方箋! 魔術師を代表し、今リングイン!!』
『おい、その紹介文どうなってんだよ。バトルスタイルコンテストかなんかと間違ってねぇか?』
『色々な意味で問題あるから、わらわ色々な意味で捗りそう』
『どういう意味かはさておき、最後に敗者復活選手! バトルロイヤル? 上等だぜ! カオスの中から生まれた反骨男子が再び戦場に舞い戻ります! ウィーーーンス・デイランダーーール!!』
 目を瞑り静かに姿を現したウィンス・デイランダール(ka0039)は、おもむろに瞳を見開き、ぐっと握り拳を掲げた。
『身長168㎝、体重55㎏! 外見年齢18歳!! 色々あったが反逆成功! トーナメント……? 知ったこっちゃねぇ! と言わんばかりに今、敗者復活!」
「俺はまだ――負けちゃいない」
『わかってる、わかってる』
『ハントでは結構な数が狩られておるがな』
『マスターリーグはこれまで本当に接戦で、単純な実力だけではなく運や相性の問題もありましたね』
『そのあたりも実力のうちと言う事もできるかもしれぬが、倒した猛者たちに恥じぬ戦いを皆には期待したい』
 ステージ上に5名の決勝進出者が揃った。いよいよ、マスターリーグの決勝戦が始まる。
 数多のドラマを生み出してきたこの武闘大会がどのような決着を迎えるのか……。
『今、運命の対戦発表です!!』
 ソサエティの歴史に名を刻む戦いが、始まろうとしていた……!

リプレイ本文


「精が出るな」
「……ありがとうございます」
「……お前ほどの剣の使い手が、なぜそこまでする?」
「……戦いは強い者が勝つ、というものではありません。弱い者が勝つかもしれないものです。故に己の迷いと憂いを断つため、刀を振るうのです」

●1回戦第1試合
『皆さん大変長らくお待たせしました! ただいまよりマスターリーグ決勝トーナメントを開始いたします!』
『皆が皆一騎当千の強者揃い! どの戦いも全く目が離せないのじゃ』
『流石にここまでくれば疲れも吹き飛ぶな。どうなるか、全く楽しみだぜ』
 場内アナウンスが会場の雰囲気を更にもり立てる。闘技場に集まった人々の目はただ一点、今から場内に入ってくる二人にのみ向けられていた。観客の感情の導火線に火を付ける言葉が、ここで響き渡った。
『1回戦第1試合、まずは敗者復活戦突破、ウィンス・デイランダール(ka0039)選手の入場です!』
 そのアナウンスとともにウィンスが闘技場に歩み出る。その手には彼の代名詞といえる大身槍。身の丈を遥かに超えるその得物は乱戦で無類の強さを発揮するが、しかし一対一の戦いに弱いというわけでもない。
『続きましてDブロック代表、辺境仕込みのお薬で、あなたに恋の処方箋! エアルドフリス(ka1856)選手の入場です!』
『あの紹介文気に入ってるのかよ……』
「誰だあの紹介文考えたの……」
 そんな風に愚痴りながら、エアルドフリスが入ってきた。
 そして両者は闘技場内で向かい合う。エアルドフリスは頬をかきながら、こうつぶやいた。
「どうにも俺は場違いだねぇ。若者ばっかりで気が引けるどころじゃあない」
 彼の眼光が鋭くなる。
「だが今は本気で立ち向かってこその『おとなげ』だろう?」
 その言葉にウィンスがニヤリと笑い、二人はスタート位置に移動する。そして戦いは始まった。
 開始と同時に大きくリングの縁を回るように全力でダッシュするウィンス。対して壁を背に音を聞き、相手の位置を割り出そうとするエアルドフリス。
『エアルドフリス選手、慎重に動いています。これはどういう狙いか!?』
『唯一の魔術師だからな、接敵されなきゃ無敵だが、接敵されたら一巻の終わりだ。チャンスを確実につかむためってとこだな』
 そして足音の方向を見定めたエアルドフリスはあえて壁の影から体を出し、ウィンスにその姿を見せる。
 ウィンスにとってそれは好機だった。一気に間合いを詰める。
 しかしその動きはエアルドフリスにとっても好機だった。
「円環の裡に万物は巡る」
 一瞬の時を待ち、口の中で詠唱を開始する。
「理の護り手にして旅人たる月、我が言霊を御身が雫と為し給え」
 その術が完成した時、淡い蒼色の燐光が降り注ぎウィンスの体を覆った。彼の瞳に見えたのは青白く輝く満月の幻影だった。そして意識が断ち切られた。円環成就弐、これで眠りに誘う。
 眠りに落ちたウィンスを起こしたのは優しい声でも時計のけたたましい音でもなかった。
「我均衡を以て均衡を破らんと欲す。理に叛く代償の甘受を誓約せん」
 エアルドフリスは続けて別の詠唱を開始する。その声とともにウィンスの周りを蒼い炎が取り巻く。
「――灰燼に帰せ!」
 そして完成した時、無数の炎の矢が一気に豪雨と化して降り注いだ。
 身を焦がす熱と轟音によって眠りから起こされたウィンスが見たのはエアルドフリスの姿ではなかった。あるはずのない土壁がそこにそびえ立っていた。
『動きを止めてから確実に攻撃、そして接敵を防ぐためすかさずアースウォールを出現させる。まったく憎たらしいほど完璧な作戦だぜ。一分の油断も無え』
 土壁の向こうでエアルドフリスは待つ。待ち構えて、ウィンスが再び姿を現した所に再び円環成就弐、そしてもう一度攻撃。その策は完璧だった。エアルドフリスにとっては相手の位置は分かるが、ウィンスからは分からない。その差は絶対的だった。
 待つ。待つ。そして待って、確かにウィンスが現れた。それを読んで詠唱を始めていた。その術はウィンスにとっては一瞬の間に完成し、そして再び蒼い燐光が……

 降り注がなかった。

『おおっと、どうしたのでしょうか!? エアルドフリス選手の術が発動しません!』
『何が起こったのじゃ!?』
『どんな達人でも万に一度はどうしても失敗を犯す。人がやることだからな。その万に一度の可能性が……たまたまここで来たんだ』

 もちろんエアルドフリスはこれで諦めたわけではない。もう一度詠唱を開始する。だが、その一度の失敗は両者の距離を大幅に縮めていた。しかし、間に合った。今度こそ完成した術は再びこの闘技場に月光を降り注がせる。
 全身に光を浴びるウィンス。だが彼は二度眠ることはなかった。腕を見れば小さく輝く金属片が突き出しており、そこから赤いものが滴り落ちている。
「“上”でやり合わなきゃなんねえ奴が――いるんでな」
 ウィンスは持っていたかんざしを腕に突き立てていた。その小さな体を走る激痛。しかしその激痛が、そしてその勝利への執念が、彼を再び眠りへといざなわれるのを留めていた。その痛みを歯を食いしばって耐え、ウィンスは迫る。そして間合いに入った。
 ウィンスは鋭く踏み込む。体内で練り上げたマテリアルが全身を巡り、青く輝く。その輝きは鋭い踏み込みと相まってまるで流星のように輝いていた。
 ウィンスはその槍を突き出す。大身槍の先から一瞬の内に青白いマテリアルがほとばしり、やや遅れて澄んだ凍結音が鳴る。その青白い光は一瞬のうちにエアルドフリスの身体を覆い、そしてその光が晴れた時、そこには意識ごと吹き飛ばされ倒れ伏した姿があった。

『勝負あり! ウィンス選手の大逆転勝利です!』
 実況の声は興奮を伴って更に大きくなり、闘技場に響き渡るが、観客の歓声はそれをかき消していた。
『それにしてもエアルドフリスは不運じゃったな』
『確かに不運だった。だが、不運ってだけじゃ済ませたく無えな。それじゃウィンスが運だけで勝ったようじゃ無えか』
 そして解説のスメラギは誰に聞かれるわけでもない言葉を口の中で転がしていた。
『戦いは強い者が勝つのではない、弱い者が勝つかもしれないのだ、か……』


●1回戦第2試合
『続きまして1回戦第2試合、まずは予選Aブロック代表、王殺しの刀は東方より来たれり、紅薔薇(ka4766)選手の入場です!』
 第1試合の興奮が冷めやらぬ中、場内アナウンスは第2試合の開始を告げる。その言葉とともに姿を現したのは、小柄な可愛らしい少女と、そんな彼女には不釣り合いな黒く禍々しい刀身を持った大太刀だった。
『わらわと一緒に喋っておると誰が誰だかわからなくなるあの紅薔薇じゃな』
『九尾との闘いもあり、今や東方を代表する剣士と言っていいだろう』
『グッズも販売中じゃぞ! 買え……買うのじゃ。そしてソサエティの売り上げに貢献するのじゃ!!』
 解説席で二人がそんな会話をしている頃、その対戦相手を呼びこむアナウンスが響き渡る。
『続きまして予選Bブロック代表、岩井崎 旭(ka0234)選手の入場です』
 その声を聞きながら、岩井崎は入場口で武者震いをしていた。
「どいつもこいつもおっかねー顔ぶれだな」
 だからこそ。
「ハハッ、いいねいいね! 燃えるぜッ! 強敵ぞろい、上等じゃねーか! その強さを超えて、俺はもっと高く飛ぶッ!!」
 そして岩井崎は闘技場に走りこんでくる。そんな彼もまた、一騎当千の強者だった。
 こうして第2試合が始まった。試合とともに前に出る岩井崎。その姿に迷いは無い。目指す場所は一点、己の間合いだ。そこに入ればあとは敵の攻撃を避け己の攻撃を当てる。シンプル極まりない戦法ではあるが、しかし本質を付いたその動きはシンプル故に澱みなく行われる。
 しかし紅薔薇もまた、一切の迷いが無かった。開始と同時に真っ直ぐ中央の十字型の壁へ走る。付くと同時に大太刀を起き、それを足場にスルスルと壁の上へ登る。そして刀を回収するとおもむろにもう一つの武器を構えた。
 構えたものはアサルトライフルだった。そのあまりに大きな太刀に目を奪われていたが、彼女はもう一つ、この銃を確かに持っていた。そして壁の中央に位置取り、そこから下を走る岩井崎を撃つ。
 一方的に攻撃ができる形になったが、岩井崎もここまでたどり着いた者である。射撃が本分ではない彼女の攻撃など児戯に等しかった。ただかわす、かわす、そしてかわす。
『おおっと、岩井崎選手、紅薔薇選手の射撃を次々とかわしております!』
『しかし反撃に移らんのう、どうしたんじゃ?』
『移らないんじゃない、移れないんだ』
 その通りだった。壁の中央に位置取った紅薔薇には、彼の武器はぎりぎり届かなかった。そしてその間合いを伸ばす術もなかった。それこそが彼女の狙いだった。
 あらゆる攻撃をかわすであろう岩井崎に攻撃を当てる、それは彼が壁の上に登ってきたタイミング、自在に動けなくなるその一瞬に攻撃を打ち込むことだった。相手に隙が無いのであれば、隙を生み出せばいい。
 そして岩井崎は紅薔薇の狙い通り、壁の上に登ってきた。狙い通り。彼女は真の狙いの業を当てるため、その太刀を振りかぶる。
『いかん、それは罠なのじゃ!』
 解説の声も虚しく、壁を登ってきた岩井崎に襲い来る無慈悲な太刀筋。この太刀を打ち込めれば倒せる。紅薔薇の考えは確かに正しかった。
 振るわれた一太刀目がその胴をえぐる。
 そして続けざまに振るわれた二太刀目、とどめとなる一撃が正確無比に振るわれた。その刃は確かに岩井崎を地に落とし彼女の勝利を確定させるはずだった。
 だがその刃は空を切った。かわせぬ一点を狙って放たれたはずなのに、空を切った。
 この期に及んでなお、岩井崎には一切の迷いが無かった。来た攻撃は死ぬ気でかわす。そのことだけを考えていた。空中に身を躍らせ、攻撃を避けれぬ状態になったはずの彼にも一瞬だけ避けるチャンスが有った。それは紅薔薇の一太刀目が彼の身体を捉えた時だった。その反動を使ってその身を動かし、二太刀目をかわす。その事を彼は狙っていたのか、それとも本能的に感づいたのか。
 かわした後もまた全く迷いが無かった。手にした得物、「斬夜破迷ポーラスター」と銘打たれたそのハルバードの、刺先で、錨爪で、斧刃で、石突で、そのすべてを用いて攻撃する。
 方向も速度も変わり続けるその攻撃は、乱れた烈風の如し。それは踊り狂う乱気流となって紅薔薇に襲いかかる!
 一撃目は頭へ。その刃は彼女の頭を痛烈に捉える。
 二撃目は腕へ。一撃目の衝撃にその小さな身体は揺らめくが、しかし既の所でかわし切る。
 だがそこに全く迷いなく放たれた三撃目が胴へと襲い来る。それを放った時、彼は一撃目が当たり二撃目をかわされていたことを確認していたか。それが確かに彼女の体に打ち込まれる。
 一瞬の静寂、その後紅薔薇はゆっくりと、闘技場の中心でその膝を付き、そして倒れた。
『決まりましたーっ! 最初に決勝進出を決めたのは岩井崎選手!』
『この勝負を分けたのは何じゃったのだろうのう』
『そうだな……紅薔薇が二撃目をかわした時、そこで反撃に移れればまだ勝機はあったのかも知れねぇな。だがそこで移れなかった。二太刀で必ず倒せると思っていたのかも知れねぇが……』
『奢りでもあったというのかのぅ?』
『いや、確かにあの技量なら二太刀で倒せたはずだ。奢りでも何でもねえ。だがそれで倒せなかった時、その時の』
 そしてスメラギは気づいた。その結論を言葉に出す。
『……迷いの差が、勝負を分けた』


●2回戦
『只今より、もう一人の決勝進出者を決める2回戦を開始します!』
 場内アナウンスは闘技場内を煽るようにそう叫ぶ。しかし、その声がなくても熱気は最高潮を迎えていた。
『まずはウィンス・デイランダール選手の入場です!』
 1回戦を突破したウィンスが姿を表す。1回戦で受けたダメージは完全に回復され、しかし前の戦いで温まった体は最高の状態を迎えていた。
『続きまして予選Cブロック代表、万歳丸(ka5665)選手の入場です!』
 その時万歳丸は不満気な顔をしていた。組み合わせ抽選の結果シードに入れられた事、それが不満だった。戦える回数が一回減ったのだから。
「……まァ、仕方ねェな!」
 しかし対戦相手の方には何の不満も無かった。全力で対戦相手に立ち向かうのみ。そして彼は闘技場に立った。
 両者が闘技場で向かい合えば、後はもう言葉はいらなかった。試合開始を告げる音も聞こえない。二人は二人だけの世界でぶつかり合う。
「俺ァ此処だ! 派手に打ち合おうや!!!」
 堂々と名乗る万歳丸に、ウィンスも一気に突き進む。その突進に合わせて気を練る。
 そしてその拳が届く遥か前、20メートルは離れているかという距離でその気を放つ。
 腕は黄金色に輝き、放たれた気は蒼く輝く麒麟と化して突き進む。名づけて黄金掌《蒼麒麟》。その麒麟は闘技場を駆け抜け、一瞬のうちにウィンスの体を飲み込む。
 しかしその光が晴れた時、ウィンスはその二本の足で地に立ち、ただひたすら突き進んでいた。あれだけの気を全身に浴びてタダで済む訳がない。だが彼もまたこの場に立つ資格を得たものである。その攻撃を受けても全く怯む様子はなかった。
 勿論その事は万歳丸も織り込み済み。気を放てばすぐにその脚を動かし、もう一度間合いをとって気を練る。そしてさらなる輝きを持って再びの黄金掌《蒼麒麟》。
そのさらに一回り大きくなった麒麟がウィンスの体を再度飲み込まんとした時、その姿が急に消えた。彼は一瞬のうちに横に跳び、それをかわして見せる。そのままなおも前に出れば、そこは即ち彼の槍の間合いだ。ここまでくればもはやためらうことはない。裂帛の気合と共に鋭く踏み込み、その槍を万歳丸の胴へと突き立てる。闘技場を流れる流星一つ。
「あんたの十八番……頂く、ぜ……ッ!」
 その流星は突如として90度、その方向を変えた。マテリアルの青白い輝きは垂直に伸び上がる。その光に覆われ持ち上げられる万歳丸の体、それは吹き飛ばされ、そして地に落ちる瞬間ウィンスから巻き起こった白銀の粒子による苛烈な吹雪によって吹き飛ばされた。
「名づけて“凍槍『氷天華』”……ってな」

「へぇ、やるじゃねェか」
 だがそれほどまでの技を喰らいながら、万歳丸は立ち上がった。ダメージが無いはずがない。しかしまるで傷ついてないかのように彼はすっくと立ち上がる。
 そして万歳丸は二、三度くいっ、くぃっと手を招き寄せる。先にかかってこいと言わんばかりに。
 その態度を見てウィンスは再び流星となった。その槍はもう一度鋭く突き出され、その穂先から放出された青白いマテリアルが一帯を覆う。
 そのマテリアルの奔流に対し、万歳丸は後ろに引く事も、左右にかわす事もしなかった。彼はためらいなく前へ出る。
 こんなことをしては槍の一撃をかわすことなどできようはずもない。しかし、強く大地を踏みしめ、一気に踏み込んだことで両者の間合いはウィンスの槍のみならず、万歳丸の手も届く位置になっていた。
「お袋から継ぎ、戦場で培った《技》……見せてやらァ!」
 手さえ届けば彼の身に付けた技を放つことが出来る。槍を、そしてマテリアルの輝きを浴びながら手を伸ばし、ウィンスの腕を、肩を掴む。
 彼の鋭い踏み込みの勢いをそのままに、一気にその身を引き寄せ重心を崩す。そしてその二本の腕に力を加え、一気に彼の体を回転させ投げ飛ばした。
 空中に舞い上がるウィンスの小さな身体。それが真っ逆さまに落ち、地面に落下するその瞬間だった。身の丈七尺を超え、体重100キロの万歳丸の身体がその身体そのものを武器と化して襲いかかってきた。全身の力を脚に伝えて踏み込み、その勢いのまま身体を回転させる。肩から、背中から宙を舞うウィンスの肉体に衝突する。
 全加速度を持って叩きつけられた万歳丸の肉体は、ウィンスの身体を一直線に吹き飛ばした。その身体は軽々と飛び、強烈な衝突音と共に闘技場の壁に叩きつけられる。そしてその音の残響が消えた時、その身体は地面へと落ち、そしてそのまま動かなくなった。
『……』
 熱狂に包まれていたこの闘技場を沈黙が支配する。どれだけの時がたったのだろう。それは一瞬だったのかもしれない。しかしこの場に居る者に取っては永遠に感じられる時間だった。
『……勝負あり! 決着が付きました! もう一人の決勝進出者は万歳丸選手です!』
 その技を魅せつけられ驚愕していた闘技場に、ようやく口を開いた場内アナウンスの声が響く。そこでやっと会場も興奮の坩堝と化し、勝者を湛えていた。
『……それにしても無茶苦茶じゃな……』
『……無茶苦茶に見えるかも知れねぇが、これをアイツはきっと気の遠くなるだけ繰り返してその身に染み込ませたんだ。だからこれだけの相手を前に、何のためらいもなかった』
 そんな二人の言葉は、闘技場の歓声にかき消されるのだった。


●決勝戦
『大変長らくお待たせいたしました! 只今より武闘大会マスターリーグ、決勝戦を行います!』
 この長きに渡って繰り広げられた武闘大会も、残す戦いはたった1つ、頂点を決める最後のそれのみとなっていた。
『いよいよ決勝戦じゃのう。お主はどちらが勝つとおもうのじゃ?』
『そんなものやってみなけりゃわかんねぇよ』
 ぶっきらぼうなその言葉もまた本心だった。共にここまで歩んできた二人、どちらかが遅れを取るなどということはありえない。つまり勝負は下駄を履くまでわからない、としか言いようがなかった。
『まずは万歳丸選手の入場です!』
 その声とともに万歳丸は雌雄を決する闘技場へと進み出る。そして中央に着くと全身全霊を込めて大地を震わす名乗りを上げた。
「《怪力無双》、万歳丸とは俺のことだァ!」
 その声に、観客達はさらなる声で持って応える。熱気が生み出した渦が巻き起こり、今それは天にも届かんとしていた。
『続きまして岩井崎 旭選手の入場です!』
 その熱気の渦をその翼で一つ、軽々と飛び越え岩井崎は今闘技場に降り立った。風も嵐も彼の翼を折り、その体を地に引きずり下ろすことは出来ない。軽やかに舞った彼が闘技場に立ち、そして万歳丸と向かい合う。
 もう二人の間に言葉はいらなかった。ただ、その時を待つのみだった。
『決勝戦……開始です!』
 その声とともに二人は動く。真正面からのぶつかり合い。
 万歳丸は上から下へと、マテリアルを回し大地を蹴る。そして下に行ったマテリアルを上に回し、丹田から全身に巡らせた後その両腕に回す。
 練り上げたマテリアル……否、“気”は黄金色の輝きを持って腕に集まり、そしてその勢いを両腕に伝えて一気に前方へと放出する。黄金掌《蒼麒麟》。
 先ほどの戦いよりもさらに大きくなった麒麟が現れ、一直線に闘技場を駆け、相手の体を喰らい尽くそうとする。
 しかし岩井崎は捉えられなかった。地を駆ける獣と化し、その身を低くしなやかに疾走らせ闘技場を往く。一度、二度と解き放たれたその麒麟をかわし、その先の万歳丸の元へと進んでいった。
 そして地を駆ける獣は今乱気流と化した。そのスピードをそのまま乗せ、その手のハルバートを振るう。
 地をなぎ払う様に放たれる一撃目、それを万歳丸は少しだけ飛び上がり既の所でかわす。
 そこに突き出される二撃目。例え相手がタフな鬼であろうとも、一気に打ち倒さんとする急所を貫く一撃。それが真っ直ぐ、最短距離を進んで繰り出される。
 しかし万歳丸は引かなかった。迫り来るその切っ先を見て、なお彼は全身の“気”を練り上げていた。そしてハルバートが彼を貫く瞬間、彼もまた全身の気を一気に放出する。かわす場所、それが存在しない一撃が麒麟の姿を形取り、岩井崎を襲う。
 場内に轟く衝突音。一帯を埋め尽くすマテリアルの輝き。それらが晴れたとき、そこには深く傷つきながらもまだ立っていた両者の姿があった。
『これは……』
 それにもはや続ける言葉は誰も持ち合わせなかった。ただ、この場にいるものすべてが理解していた。すなわち、この勝負次で決まる。
 皆が固唾を呑んで見守る中、二人はその次の瞬間を待っていた。どちらから仕掛けるのか、何をするのか……視線が交わる。この時二人は互いの思いが通じあっていたのかもしれない。
 そして岩井崎が動いた。再びその身を乱気流と化し、踊り狂う。乱れ、渦巻き、吹き荒れるその風は今万歳丸を捉えた。
 真横に振るわれたハルバートが、万歳丸のその頭に叩きつけられる。脳が揺らされ、意識が飛びかける。
 だがこの期に及んでも、その体に染み付いた動きは止まらなかった。
「名乗ったよなァ! 《怪力無双》、万歳丸、ってなァ!」
 次の一撃が来る前に彼はその身を前に進める。手と手が触れあい、顔と顔がくっ付く間合い。そこまでその身を進めていた。
 もはや止まらぬ乱気流は、最後の一撃とすべくハルバートをもう一度振るう。その時だった。
 得物を振るうために上げられた腕、そこに万歳丸の大きな体が潜り込んでいた。そしてハルバートが振り下ろされるその前に、全ての力を込めて岩井崎の体を跳ね上げた。
 下から上へ、突き上げる運動エネルギーにより天地が逆になって宙に舞うその体。空中に浮かんだその体に、万歳丸は己の体重を全て預けた。
 そして二人の体は一瞬空中に飛び、真っ逆さまに地面に落ちる。垂直に地面に叩きつけられる岩井崎。そしてその上に落ちる万歳丸。
 闘技場の視線はすべて二人に注がれる。しばしの沈黙。動かない二人の体。そして。
『……き、決まりましたー! 決勝戦、ついに決着! マスターリーグ優勝は、万歳丸選手です!』
 その瞬間に堰を切ったように唸りを上げ、闘技場内に雪崩れ込む観客達の歓声。しかしその声は戦った二人には聞こえていたのだろうか。共に意識を手放し、折り重なるように二人は闘技場の中心に倒れていた。
『二人共ようやったのじゃ! 素晴らしい戦いじゃったのう。さて、早速表彰式に向かわねばのっ』
『まあしばらくこのままにしてやろうぜ。どちらもすべてを出し尽くしたんだからな』
 そしてスメラギは己の思いを独りごちていた。
『技量の極みに達すれば、勝敗を分けるのはあとは迷い……ようやくその意味がわかったぜ』

(執筆:cr)

依頼結果

依頼成功度普通

MVP一覧

  • パティの相棒
    万歳丸ka5665

重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/25 02:10:23
アイコン 控室
万歳丸(ka5665
鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/08/31 11:04:21