リベルタース・グラスホッパー

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/29 19:00
完成日
2016/08/06 19:34

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国西方・リベルタース地方は、常に歪虚の脅威に晒されている。
 たとえ、軍勢がいなくとも、海の向こうのイスルダ島から、負のマテリアルに汚染された大地のあちこちから、雑魔の群れが現れる。
 王国もハルトフォート砦を中心に各地へ兵を派遣してはいるが、状況は良く言って『互角』──
 リベルタース以東への歪虚の浸透は封じ込めれてはいるものの…… 実際のところは、際限なく湧いて出て来る敵を相手に『もぐら叩き』(と訳された)を繰り返しているようなものだった。


 その日も、補給物資を乗せて砦を発した馬車の一隊が、海岸近くの前衛陣地に向かう途中で雑魔の群れに襲われた。
 輸送を担当したのは、ダルデンヌ子爵領から派遣された砦所属の兵士たち。商業・農業共に発展した王国南西部に領地を持つ子爵家は財政的には裕福で、派遣されてきた兵士も比較的騎兵の比率が高かった。ただ、それも見栄や体裁に頓着した結果であり、例えば、武門の家系として知られるオードラン伯爵家などの兵と比べれば、その練度は一段落ちる。

 故にか、彼らは警戒行動を軽視した。
 そのツケを、彼らは自身の敗北という形で支払うこととなった。

 何かに見られている── 彼らがそう感じた時、輸送隊は既に雑魔の群れに囲まれていた。
 気配を感じて振り返った時には、草の中から飛び出してきたその『何か』に顔面を蹴り飛ばされていた。
 前から、後ろから、右から、左から── 家畜の毛に潜んだノミの如く、草原をぴょんぴょん飛び交う『ソレ』が次々と騎兵を鞍上から蹴り薙ぎ、刈り取っていく……

 不意を打たれた兵たちになすすべはなく、雑魔の一方的な攻撃に晒され、敗走した。
 ただし、戦死者は少なかった。

 殺される間も無いほど早い段階で、彼らは逃げ出していたからだ。
 守るべき輸送馬車の隊列を放置して。


 逃げて来た騎兵の一人から輸送隊の急を報されて── 前衛陣地から彼らが救援に駆けつけて来た時、既に戦いは終わり、雑魔は引き上げた後だった。
 夏の陽の光の下、雑草が伸び放題に繁茂した草原を通る1本の道の途上── 幾台もの馬車が並んで放置された戦場跡で。血塗れで横たわった御者たちの無残な亡骸を見下ろしながら、ここまで案内してきた騎兵が膝を落として号泣する。
「えーっと…… 戦い慣れぬところにいきなり伏撃をくらったんですしね。多少は酌量すべき点も……」
 その姿を見て同情する若い部下の一言に、前衛陣地の一班長、ジャスパー・ダービーは胸糞悪そうに地面へ唾を吐き捨てた。
「ねぇよ。勝てぬ戦から逃げ出したことには、まぁ、目を瞑るにしても、だ。連中、守るべき物資や御者たちまで見捨てやがった」
 彼らを守ることこそが、奴らの任務であったはずだ。その為に最善を尽くすことが、奴らの義務であったはずだ。
 逃げるのはいい。だが、それが命令に拠らず、しかも、仲間を見捨てて逃げたのなら、ジャスパーは絶対に許さない。……味方を信じる事が出来ねば、兵は命を張って戦えない。もっとも、そんな信頼すら維持できなくなった状態をこそ『敗走』と言うのだが。
「……この雑魔の群れには指揮官でもいたのでしょうか? この襲撃には、前衛陣地と砦の補給線を断とうとする意図が……?」
 上司の表情に、自分が何か地雷を踏んでしまった、と察して、若い兵士が取り繕う様に話題を変えた。
「……ただのノラ雑魔との遭遇戦だ。もし、群れに指揮官がいたなら、こんな所で呑気にメシなど喰わせはしない」
 ジャスパーは放置された馬車の群れを指差した。
 食料の詰められた木箱や麻袋、放置された御者や馬の死骸の多くに、雑魔に『喰われた』跡があった。……雑魔たちはここで『食事』を済ませていったのだ。歪虚は食料を摂取することで、それらが持つ正のマテリアルを取り込むこともある。
「もし、この襲撃が補給線に対する攻撃の端緒だったら、こんな所で時間を喰ってる暇はない。いつ俺たちの様な救援が来るか知れんからな。目的を達したらさっさと戦場を離脱する」
 だから、この襲撃は計画されたものではなく、『食事』──正のマテリアル確保の為に行われた可能性が高い。……つまり、ただのノラの群れとの遭遇戦だ。誰にとっても運の悪いことに。
 ジャスパーの推察に、若い部下はうーん…… と唸った。
「なんだ? 何か意見があるのか?」
「いえいえ! 全然! 全く! ホントに……! ……。ただ……」
「ただ?」
「いえ、班長の推察は全くその通りだと思うんですけど…… ただ、その場合、雑魔はどこにいるのかな、と」
 その若い部下、ルイ・セルトンの歯切れの悪さに軽く苛立ちを覚えながら、ジャスパーは先を促した。
 ルイが答える。──いえ、雑魔たちがここで『食事』をしていったというのなら、ここで結構な時間を喰ったわけですよね? だったら、連中、まだこの近くにいたりするんじゃ……?
「あ。はんちょぉ~!」
 緊張感のない間延びした声が掛けられ、ジャスパーとルイの間で高まりかけた緊迫感が霧散した。
 苦笑するルイ。ジャスパーは眉間を指で押さえながら大きく溜息を吐くと、声の主──もう一人の部下の女兵士、ノエラ・ソヌラに何用か! と声を荒げた。
「班長、班長、見てくださいよ~。これ、たった今、そこで捕まえてきたんです~。かわいいですね~♪」
「捕まえた? 何を?」
「雑魔でーす。死骸ですけど」
 剣先にぶら下げたソレを、ジャスパーたちに向かって笑顔でひょいと突き出すノエラ。その剣先には何か、小動物チックな…… だが、人の子供程の大きさの、ウサギの様な生物(?)の死骸が揺れていた。兎と言っても、デフォルメして擬人化した様な、二足歩行で歩き出しそうな、そんな類。眼窩は虚ろで、代わりに長い耳の先に赤い瞳が覗き、頭部には羊の様な巻き角。足首の先がまるでフランスパン(と訳された)の様にバカでかい。
「おい、阿呆。こいつをどこで見つけた?」
「二人称が罵声!? ……ひどいですよ、班長~。だから、すぐ近くで、ですよ~。見張りをしろ、って言われたから見張ってたら、草の陰からかわいい()この耳? が見えたので、投げ槍でえいやって」
「……生きてたのか?」
「まだたくさんいますよぉ~?」
 ノエラの言葉に沈黙すること暫し── ギギギ、と首を巡らせたジャスパーは遠目、草原の中に潜望鏡(と訳された)の如くちらほら見え隠れする『兎の耳』に気が付いて。それを早く言え! とノエラの頭をすぱ~ん! と叩いた。
「全員、戦闘態勢を取れ!」
 周囲のハンターたちに叫ぶジャスパー。
「囲まれている…… 敵は新たな餌を見つけたというわけだ。返り討ちにしろ。一匹も逃がすな! 補給路に脅威を残しておくわけにもいかん!」

リプレイ本文

「どうにもバケモノな見た目だね。普通のウサギなら可愛いのだけれど……」
 ノエラの剣先にぶら~んとぶら下げられた雑魔の死骸を見やりながら── 『従騎士』イーディス・ノースハイド(ka2106)は、傍らに並んでにこにこ微笑むノエル・ウォースパイト(ka6291)にチラと目をやった。
 ──全身鎧に、ドレス姿。共に良家の出でありながら、2人の出で立ちは大きく異なっていた。……人々を守る為、騎士として育てられたことに一切の不満も後悔もない。ただ、最近、ふとした瞬間に…… 原因は自分でもよくわからないが、もやもやとした何かが心にわだかまる時がある。
 そんなイーディスの想いは知らず。ノエルはにこにこしながらノエラと語り合っていた。名前が似ているということもあり、前衛陣地で知り合って以降、仲良くしている。
「ううん…… 兎さんのような姿ですけど、私の知る兎さんとはだいぶ趣が異なりますね」
「そうですね~!」
「所詮は雑魔…… 歪虚に愛らしさを求めるのは誤り、ということですね」
「そうですか~?」
 ん? とイーディスは小首を傾げた。ノエルは変わらず柔和な笑みを浮かべている。……聞き間違いだろうか? まあ、バケモノ然としていた方が、両親の呵責なく仕留められるからラクなのは事実だが……
「何をしている。積み荷に雑魔が潜んでいないか確認するんだ。後、奇襲防止の為、できるだけ周囲の草を切り払う」
 そこへ『伍長』アーサー・ホーガン(ka0471)がやって来て、3人は塵芥と化し始めた死骸を振り捨て、慌てて作業に入った。
「うむ。射撃位置は高い方が良い。戦場を俯瞰できて戦闘も有利であるしな」
 碧眼義手のちびっこドワーフ、ミグ・ロマイヤー(ka0665)が大いに頷き、小さい身体で一生懸命、馬車の上へとよじ登り。
 紫の簪で纏めた髪を邪魔にならぬよう後ろに流して、冷泉 雅緋(ka5949)も(こちらは軽快な動きで)中央の馬車の上へと上がる。
「……あーあ。こりゃまた凄いことになってんねぇ……」
 荷の上に立って…… 雅緋が呟いた。高所からは、輸送体が被った被害の程がよりはっきりと見渡せた。
「……まったくむごいことをしよる。敵さんからすればまったく普通に食欲を満たしただけなんじゃろうが…… 恣意的な職務放棄により非戦闘員まで喰われてしまったことには、憤りしか覚えん」
「ったく、胸糞悪ぃ。弱い者を見捨てるくらいなら、てめえらが先にくたばりやがれってんです」
 座り込んだまま手に顎を乗せて零すミグのすぐ下で、『破壊修道女』シレークス(ka0752)が、泣き崩れた騎兵を睨んで吐き捨てるように呟いた。
「……逃げてしまったことをとやかく言う気はないよ。新兵だけの部隊が役に立たないのは当たり前。むしろ、実戦慣れした兵がいないという『編成』の方が問題さ」
「まったくもって嘆かわしい限りであるな。……だが、今は他にやるべきことがある」
 馬上に戻ったイーディスに答えつつ、ミグが草原へ視線を向ける。
 一面に広がる草の原── その下から潜望鏡の如く突き出された『ウサギの耳』が。その数を徐々に増やしながら、こちらとの距離を詰めつつある。
「どうだ、見えるか?」
 3台目の馬車に取り付いたアーサーが、荷の上にしゃがんで不機嫌そうに草原を見張る中年ハンター、ジャンク(ka4072)に尋ねた。
「……俺の『直感視』によれば、見えるだけで10匹以上、ってとこだな。そこかしこにいやがる」
 敵の特徴的な見た目と草葉の動きからそのおおよその数と位置を把握して。振り返りもせぬままジャンクが言う。
「なんだ、まだ喰い足りねぇってか。兎というより飢狼だな」
「見た奴来た奴襲うだけの食い意地張った奴らってことかい。面倒だなあ、おい」
 愚痴るジャンクの肩をポンと叩いて、アーサーが馬車から飛び降りた。そして、「『ソウルトーチ』を使ってウサギ共を草の陰から路上に釣り出す」と己の行動を宣言する。
「なるほど。『派手な女』に誘われてやってきたところを叩き潰すってわけだな。なに、奴らが近接攻撃しか出来ないんであればあんとかなるさね、と。攻撃を喰らうのはまずシレークスだからな! うん、俺は大丈夫!」
 その『派手な女』──友人のシレークスに対して、いつもの様に軽口を叩いたアルト・ハーニー(ka0113)は、だが、いつもと違う彼女の様子に、口を噤んで見返した。
「おい、埴輪」
「埴輪て…… なんだよ?」
「……わたくしを壁にして、一匹でも多く……いや、一匹残らず捻り潰しやがれです」
 シレークスは怒っていた。この惨劇を招いたもう一方の当事者どもにも、自分たちが仕出かしたことに対するツケを払わさなければならない……


「来たぞぉ~、来た、来た、来おりよる……! ウサギもどきが接近中! ……飽和攻撃だ。全周より仕掛けてくるぞ!」
 馬車上より敵の動きを観察・報告するミグの声に、ハンターたちが動き始めた。
 彼らは車列の東西に囮役のアーサーとシレークスを配置していた。もう一人の囮役、遊撃のイーディスは、東側の敵が優勢と聞いて急ぎそちらに馬を走らせる。
 2台目の馬車の上── 回復役として中央に位置した雅緋は、今にも笑顔で飛び出していきそうなノエラを見かねて、声を掛けた。
「ノエラ。今回、あたしは回復支援しかできない…… だから、あたしの背中をずっと守ってもらいたいんだ」
「えー」
 明らかに不満そうなノエラに向かって、おどけたように両手を合わす。
「頼むよ。みんな囮役に出払って、頼りになるのはお前さんだけなんだ」
 ピタリとノエルの動きが止まった。満面に喜色が浮かんでいる。
「頼りになる…… 私だけ?」
「ああ」
「……わかった! 私、全力で雅緋を守るよ~!」
 そう気合を入れるや否や、2台目の馬車に上り始めるノエラ。正解だ、と班長ジャスパーが呟いた。ノエラに言う事を聞かせるには、頭の悪い犬にものを言い聞かせるようにする必要がある。
「……まさか、こんな所でモグラ叩きならぬウサギ叩きをやることになるとはね。全部倒したら何かいいことあるのかねぇ」
 ただ2人で西側を担当するアルトが叩く軽口に、やはりシレークスは応じない。
「埴輪。なるべくわたくしの前方には入らねーことです。鎖の届く範囲、誰彼構わずミンチになりやがりますよ」
 瞬間、一斉に草の下へ引っ込むウサギ耳。
 一瞬の静寂──
 そして、次の瞬間、跳躍したウサギどもが彼我の距離を一瞬で越え来たる。
「うおおぉぉ……ッ!」
 振り被った錨槌を斜めに振り抜き、マテリアルの衝撃波でもって前方を殴るアルト。跳びかかって来たウサギの1がその一撃をまともに受け、まるで見えざる壁に激突したかの如くひしゃげ、逆方向へと打ち返されて草の中へと落ちていく。
 長弓を撃ち放つアーサー。3条の『デルタレイ』を操り、3目標を薙ぎ払うミグ── 魔導銃で飛び迫る敵を狙い撃ったジャンクが「いっ!?」と顔を歪め、落とした以上の敵に躍り掛かられ、銃でそれらを受け凌ぐ。
 敵は草の陰から陰へ、道路を飛び渡るようにこちらを攻撃して来た。ガンッ! と殴られる金属音──イーディスがかざした盾にウサギの蹴りが当たった音だ。
(バランスを崩して落ちるわけには……!)
 イーディスは鐙と手綱を操り、衝突の衝撃を上手くいなした。……落下した騎兵の、喰い散らかされた死体を思い出す。生き様に後悔はない。が、あのような死に様は御免被る……!
 矢を受けてもものともせずに躍り掛かって来る雑魔の群れ── アーサーは咄嗟に弓を捨てると、地面に突き立てておいた戦斧を引き抜いた。抜きつつ、空中で回し蹴りの連撃を繰り出して来るウサギの蹴りを仰け躱しつつ、地面に置いていた盾を足で踏み。跳ね上がったそれを掴んで、続く3匹目の両足蹴りをどうにか受け弾く。
 一方、西側のアルトとシレークス── 『ソウルトーチ』を焚いて敵の目標となったシレークスは、だが、一切、躱す素振りを見せなかった。ハッとして友の名を叫ぶアルト。ガバッ! と大きく口を開けて頭部から跳んで来たウサギが、その肉食獣が如き牙でもって彼女に喰いつく──
「シレークス!」
 集中攻撃を受ける友人を助けようと駆け出したアルトは、横合いから跳んできたウサギにそれを阻まれた。踏み出しかけた足を踏ん張り、急遽、身体を捩って錨槌を真横に振り上げる。だが、ジャストミートなその一振りは、ウサギによって躱された。足首より先、長い足部を翼の様に使い、その進路を変えたのだ。
「っ! こいつら、何か宙で動くぞ!?」
 頭上を跳び過ぎて行くウサギたちを振り仰ぎつつ、アルトが周囲へ警告する。
 同様にその挙動を察したノエルが、さりげなく戦列を退き、馬車を背にした。背後西側から頭上を跳び過ぎて行くウサギは無視し、前方より跳び迫る個体にのみ的を絞って対応する。
「……景気よく狩るには数が多すぎますね。しかも、雑魔だから浴びるほどの血も流さないし、人の様に悲鳴も上げないし…… まるでぬいぐるみでも裂いているかのよう。なんてつまらない」
 ぽつりと不満そうに呟くノエル。聞き間違いだろうか、と。イーディスが再び小首を捻る。

 嵐の如き敵の第一次攻撃が──一撃離脱に徹した一斉攻撃が草の中へと去っていった。
 再攻撃までの僅かな時間。雅緋は大胆にも荷の上に立ち上がり、味方に負傷の有無を尋ねた。そして、怪我人たちの様子を確認し、傷の深い者から優先して立て続けに回復の光を飛ばしていく……
「この手の奴らの習性から言って、数に勝っている内は逃げるこたぁない。ある程度まとまった数を引きつけ、また一掃すりゃあいい」
 荷の上で魔導銃に弾込めしながら、ジャンクが鼓舞するように告げる。
 だが、戦場の恐怖に囚われたのか…… ジリジリと後退さったルイがもう限界だとでも言うかのように、馬車の荷台へ逃げ込んだ。
「おい、若造! んな隅で丸まってたら、背中からばっさり食い散らかしてくださいっつってるよーなもんだぜ! 俺が足止めするから切り払え。こちとら接近戦は苦手なんだ。それとも、てめえも逃げ帰った騎士様方と同類か?」
 ジャンクの叱咤に反応せず、ガクガクと震えて動かぬルイ。ジャンクは舌を打つと、無理矢理にでも顔を上げさせようと──敵の動きを見ていなければ死ぬからだ──手を伸ばして掴み上げ…… 瞬間、ウサギ共の二次攻撃が始まり、逆に床へと伏せさせた。
「グアッッ!?」
 何かが荷台に落ちる音がして、ルイはハッと目を上げた。──ジャンクがいた。肩口が赤く染まっていた。……自分を庇って、怪我をした。
「気にすんな。伏撃とトリッキーな動きに注意して対処すりゃ、怪我はしても命にかかわるもんにゃならねぇ」
 顔をしかめつつ傷を押さえ、再び荷の上に戻るジャンク。
 どりゃあ! と背後から声がして、ルイがそちらを振り返る。
「おらおらぁ、如何したですか! この程度でわたくしが狩れるとでも!?」
 シレークスだった。自分に喰いついてきた敵を片っ端から引っ掴み、地面に叩きつけては棘鉄球で滅多打ちにしている。
「動きがトリッキー? 空中で動きを変える? んなもん、動けないようにしちまえばなんてことはねぇです!」
 叫ぶシレークス。彼女はわざと攻撃を喰らうことで、敵の機動性を封じていたのだ。
「……確かに、動きの速い相手に速さで対応するのは分が悪いです。多少の怪我は覚悟の上で、カウンター気味に切り伏せることにしましょうか」
「下手に避けようとして姿勢が崩れるより、最初から身構えていた方が結果的にダメージは少なそうだしね」
 顔を見合わせ、頷き合うノエルとイーディス。アルトは友人の中に神を見た(ぇ そうだ、金ぴかに輝く埴輪を作ってそれを埴輪神と名付けよう(えぇぇ

 ウサギどもの第三次攻撃が始まった。
 アーサーは空中のウサギの進路が確定するギリギリまで待ち…… 放たれた蹴りを頭を下げて回避しながら、突き出されたその足を戦斧で断ち折った。
 目の前に転がって来たそのウサギを刃を振り下ろすノエル。イーディスは攻撃して来たウサギを盾で上へと打ち上げると、空中で行動の自由を失ったそれが落ちて来るところへ剣を真横に振り抜き、首を刈る。
 馬車の上では、草の動きに目を光らせたジャンクが、東側の草の下へ立て続けに魔導銃を撃ち放って、跳ぼうとしていたウサギの動きを制し。その為、突出する形で西側から飛び出して来たウサギたちを、ミグと雅緋が迎え撃つ。
「ウサギの丸焼きは出来上がらんか…… 雑魔相手だと死体が残らないので、楽しみもやや半減であるのぅ」
 『攻勢防壁』──自身の周りに展開したマテリアルの電磁障壁で飛んできたウサギを焼き弾いて、どこかがっかりしながら、ミグ。雅緋は盾の両端を両手で握ると、正面より飛んできたウサギへ思いっきり振り下ろし、地面へと叩き落とした。
「ノエラ!」
「は~い」
 疾風の如く走り寄ったノエラがすかさずそれを討ち。最初の言いつけを守って雅緋の側をグルグル回る。
 ミグが落としたウサギの方は、荷台から降りたルイが倒した。振り返る彼に向かって、それでいいんだ、とジャンクが頷く。

「ウサギども、撤退を開始!」
 馬車上のミグの報告に、ハンターたちが顔を上げる。
 確かに敵は戦場から退き始めていた。刃物にドレスなノエルが「あら、おしまいですか?」と微笑みながら、全く躊躇することなく草原へと分け入り、笑顔で追撃へと移る。気づいた雑魔の反撃を円舞の如く優雅に躱し…… 刀の峰で地面へ叩き落として電光石火、返す刀で斬り捨てる。
「良い跳躍だ。だが、どんな武器でも『高所』から振り下ろした方が強いのさ」
 同じく、草原へ分け入ったイーディスが、跳んできたウサギがその身に届くより早く、馬上から縦一文字に切り裂く。
 アーサーは戦斧を下ろすと劈頭に投げ捨てた長弓を拾い上げ、それまでのせわしなさが嘘の様にゆるりと矢を番え、逃げる敵の背へ射掛ける。
 勝勢に、雅緋の許可を得たノエラが鎖の解き放たれた犬の如く追撃に加わり…… それを「あ、こら、待て! フォローしないといけない立場は大変なんだぞ!」とアルトが後を追っていく……

 揺れる草に逃げる敵を銃口で追って狙撃していた荷上のジャンクとミグが、敵が射程外に逃れたことを確認し、保持していた銃を下ろした。
「今日はすみません。そして、ありがとうございました」
 謝り、礼を言ってくるルイに、ジャンクは「それも酒代の内だ」と興味なさげにひらひらと後ろ手を振ってやる。

「後は現場の後片付け……であるな」
 倒れ伏した騎兵と御者らの遺体を見やって呟くミグ。
 シレークスは雅緋の治療を受けると、彼らの亡骸を運び、祈った。

「死すれば皆、同じこと。せめて安らかに」

 雑魔たちの死骸が塵芥となって風に舞った。

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重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 明敏の矛
    ジャンク(ka4072
    人間(紅)|53才|男性|猟撃士
  • 静かに過ごす星の夜
    冷泉 雅緋(ka5949
    人間(蒼)|28才|女性|聖導士
  • 紅風舞踏
    ノエル・ウォースパイト(ka6291
    人間(紅)|20才|女性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/28 04:07:04
アイコン 【相談卓】兎モドキ狩り
ノエル・ウォースパイト(ka6291
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/07/28 06:58:41