オイマト族の夏祭り

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
少なめ
相談期間
4日
締切
2016/08/06 07:30
完成日
2016/08/19 12:19

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 ――ベスタハの悲劇。
 かつてオイマト族だった男が歪虚に通じ、連合軍の情報と、己の持ちうる知識全てを渡した。
 ――その結果、反攻作戦は失敗。
 戦地となったベスタハにおいて、オイマト族族長を含む主だった面々を含む多くの戦士が戦場に倒れ、屍の山を築き――そして、オイマト族は先祖から伝わってきた故郷の一つを捨てる結果となった。

 信念に生き、信念を失い、裏切りという業を背負った男。
 その名は、ハイルタイ。
 ――歪虚に仲間達を売った男は『怠惰』に魅入られ、『災厄の十三魔』と呼ばれる存在となった。
 そしてこの事件は、オイマト族が引き起こした辺境の災禍として語り継がれることとなり……。

 ――数カ月前に、そのベスタハの悲劇の主犯でもあった災厄の十三魔、ハイルタイが撃破された。
 闇黒の歪虚、青木 燕太郎にその力を吸収されるという、何とも後味の悪い結果とはなったが……。
 何にせよ、ハイルタイは消えた。
 オイマトの悲願は果たされたのだ。


 ――時は少し遡る。
「族長。ハンターさんへのお礼ってこれだけでいいんですかね……」
 イェルズ・オイマト(kz0143)の声にふと書類から顔を上げたバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
 彼はその言葉に小さくため息をつく。
 ハイルタイ撃破に直接関わった者達に、オイマト族の不始末への助力への感謝と、友好の意味を込めて品を送った。
 だが、ハイルタイを弱らせるきっかけと作ったハンター達はもちろん、これまでにハイルタイと戦ってきたハンター達は沢山いる。
 お礼をこれだけで済ませるのは、オイマトの者としても心苦しかった。
「……そうだな。礼を言うのであれば、彼らにも言いたいとは思っているが……なかなかその機会がな……」
「じゃあ、その機会作りましょうよ」
「……作る?」
「そうですよ。ハンターの皆さんをここに招待するんです!」
「……ここ、というのはこの逗留地か?」
 バタルトゥに満面の笑顔で頷くイェルズ。
 本来であれば、夏は大きな湖を逗留地にしていたが、ベスタハの悲劇の際歪虚に飲まれ長いこと戻れていない。
 それゆえ夏は、秋の逗留地としているケリド河の上流で逗留している。
 上流の水は冷たく、暑い夏でも涼をとれる。
 清らかな水でオイマト族の子供達も毎日のように遊んでいる――。
「……ふむ。確かにここでなら涼めるやもしれんな」
「そうですよ! 一族の皆でご馳走作れば、ちょっとしたお祭りができますよ! やりましょうよ、ね?」
「そうだな……」
「じゃあ決まりですね! 夜用に灯篭作った方がいいですかね。食事も皆に相談しなきゃ……」
「……俺はナーランギに呼ばれている為、祭には参加できんが……是非皆をもてなしてやってくれ」
「族長のご飯食べられないのかー。残念だなぁ……」
「……何か言ったか?」
「何でもないです! 了解しました。族長の代わりに頑張りますね! じゃ、俺ハンターズソサエティに行ってきます!」
 バタルトゥにひらひらと手を振って、イェルズは走り出す。

 ――しばらくして、オイマト族からの招待状が、ハンターズソサエティに張り出された。

リプレイ本文

「祭、すなわち稼ぎ時アル! 気合い入れるネ、閏!」
「そうですね。でもシーちゃん、くれぐれも無理はしないでくださいね」
 腕をぶんぶん振り回して張り切る紅 石蒜(ka5732)を、ハラハラとした様子で見守る閏(ka5673)。
 そんな調子で始まった屋台『おにのおにぎりやさん』は、朝から大賑わいだった。
 元々辺境に住んでいるオイマト族の食事は、保存性を重視する為に香辛料が多く使われているものが多い。
 それ故、素朴な塩おにぎりは、オイマト族の料理にもバッチリ合った。
「やっぱり閏のお握りは何にでも合うネ! 思った通りだったアル!」
「こんなに売れるのはちょっと予想外でしたけど……。シーちゃん、お腹空いたらおにぎり持って行っていいですからね」
「もう、閏は心配性アル!」
「店員さん、お握り2つください」
「はいアル! ありがとうネ! 今ならお茶もつけるアルよ!」
 にこにこと笑顔を振りまいて客の相手をする石蒜。
 閏は息つく暇もなく、せっせとお握りを握り続けて――。
「イェルズさん! オイマト族の伝統料理とかお菓子とか教えて! 屋台に出せそうな簡単なのがいいな!」
「丁度良かった! じゃあこれ手伝ってください!!」
 突然やってきて、そんなことを言い出したシアーシャ(ka2507)に、目を輝かせるイェルズ。
 はいっ! と渡されたそれは、串にスパイスがたっぷりかかった肉が刺さっていて……彼女が小首を傾げる。
「えっと、これ……串焼き?」
「ええ。オイマト族伝統の料理ですよ」
「もうちょっと女子力上がりそうなのない……?」
「いやいや。これが結構奥が深くてですね。意外と火加減難しいんですよ。これ以外にもサンザシ飴がありますよ」
「えっ。ホント!? 極めたら女子力上がるかなっ!」
「ふふふ。きっとお料理の腕上がりますわよ。あたしが保証しますわ」
「よーし! あたし頑張るっ」
 音羽 美沙樹(ka4757)に後押しされて張り切るシアーシャ。手際良く屋台の準備を続けている彼女をじっと見つめる。
「美沙樹さんは何を売るの?」
「葛餅と水まんじゅうですわ。あたしの故郷のお菓子なんですの。夏に最適なんですのよ」
 草や木の葉を笹舟の様に仕立てた器に盛られたお菓子は、とても涼しげで美味しそうで……何より、女子力が高い!!
 シアーシャはガッと美沙樹の肩を掴み、ずずいっと迫る。
「美沙樹さん。先生って呼んでもいい?」
「へっ? 一体何のです……?」
「そりゃあ勿論女子力の! あたしもいつか運命の人と出会うから、その為にも女子力高めなきゃって思ってて! 今日もその為に屋台だそうって思ったの!! 運命はいつやってくるかわからないし。っていうか、今日がその運命の日かもしれないし!」
「ああ、そうなんですのね……」
 でっかい冷や汗を流す美沙樹。このポジティブさはどこから来るのか分からないが、前向きなことはいいことだ。多分。
「シアーシャさん、それでは一緒に屋台をやりませんこと?」
「えっ? いいの!? やった! 先生! お願いします!!」
 ――こうして急遽、『美沙樹とシアーシャのドキドキ食べ物屋さん(シアーシャ命名)』が開かれることとなった。
 ちなみに食べ物屋さんのマスコットはイェルズお手製の木製の馬。いよいよもって謎です。


「穏やかなものですね。ついこの前までの激しい戦いがウソのようです」
「随分川の流れが速いな」
「冷たーい! お水も綺麗でいい感じ」
 準備体操を済ませ、川に入りながら三人三様の反応を示す女性陣。
 アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が身に着けた青と白のコントラストが眩しいワンピースタイプの水着が、たっぷりとして柔らかそうな胸や腰をきゅっと包んでおり、白山 菊理(ka4305)はほっそりとしているが出ているところはしっかりと出ている身体を、真っ白な肩ひものないワンピース水着で包んでいる。
 アルラウネ(ka4841)はいつもの緑色の水着だが、しなやかな身体が陽の光を浴びてとても健康的で……その様子を見ていた時音 ざくろ(ka1250)は、思わずごくり、と喉を鳴らす。
「……3人共、凄く良く似合ってる」
「あら。ありがとうございます」
「……ざくろ。顔が赤いぞ? 暑いのか?」
「違うわよー。私たちの水着姿にドキドキしちゃってるのよね! もー。ざくろんのえっち!」
「ち、違……!」
「違うんですか?」
「……違いません……」
「あはは。やっぱりー」
「正直なことはいいことだぞ」
 アデリシアに真顔でツッコまれて思わず認めるざくろ。
 菊理とアルラウネにくすくすと笑われて、彼は誤魔化すように川の奥へと進む。
「わー。やっぱり上流の水はすごく冷たいね」
「北の山の雪解け水が入っているとオイマト族の人が仰っていましたよ」
「へえ。通りで夏でも冷たい訳ねー!」
「自然の恵みだな……」
 川辺で控えめに足を濡らしているアデリシアとアルラウネ、菊理。
 そんな3人を見ていたら、ざくろの心の中にむくむくと悪戯心が湧き出した。
「えいっ。こうだー!」
「きゃあっ!!?」
「つ、冷たい……!!」
 女性陣に思い切り水をかけるざくろ。
 これできゃっきゃうふふと、皆で水の中でじゃれ合いだ……! なんて考えていた彼は、アルラウネが手にしているものを見て固まる。
「ふ。ふふふ。ざくろ、やってくれたわね……」
「……アルラウネ。一応確認するけど、それは……?」
「見ての通りのウォーターガンよ!!」
 うわあ。ガチなやつだ!!!
 慌てて逃げ出すざくろ。アルラウネは水をたっぷり充填すると、彼めがけて容赦なく放水する……!
「わああああ!!」
「待ちなさいざくろ! 逃がさないわよ!! アデリシア! 菊理! 目標ざくろ! 確保して!」
「分かりました」
「了解した」
 アルラウネの指示に頷き、素早く移動を開始するアデリシアと菊理。
 気付けば覚醒して翠色に輝いているし、アルラウネさんガチで殺る気ですね。
 3人の女性に本気で追い掛けられ、男性冥利に尽きるというか、この状況を他の男性陣が見たら『ばくはつしろ』と呪いの言葉を吐かれそうであるが、ざくろとしては必死である。
「ざくろさん、掴まえましたよ……!」
「さあ、観念しろ!」
「ああああ! いやあああ! たすけてえええ!!」
 アデリシアと菊理に両腕を掴まれ、乙女のような悲鳴をあげるざくろ。
 そこに迫る満面の笑みのアルラウネ。絶対絶命か……!?
 いいや、まだだ……!!
 両腕を思い切り振り回したざくろ。手に何かが引っかかって、ずるんっと嫌な音がした。
「……!? きゃああああああああああ!!!」
「~~~~~~っ!?」
 響き渡る黄色い悲鳴。
 水着をずり降ろされ、必死で両手で隠すアルラウネと菊理。
 隠しているも今にも手から零れそうな白い双丘に気付いたざくろは、ぶぼっと鼻血を噴き……その様子を見ていたアルラウネはポカーンとした後、深々とため息をつく。
「……ざくろん、2人同時に剥くなんて剥ぎ取りスキルに磨きがかかってない?」
「ち、違う! これは事故! 事故だからああああ!!」
「問答無用……! ざくろさん、覚悟は宜しいですねっ?」
「アルラウネ。遠慮は要らない。撃て」
「はいはーい☆」
「ちょっ。まっ。いやああああああああああ!!!」
 ぷるぷると震えている2人の敵討ちとばかりにウォーターガンをぶっ放すアルラウネ。
 ざくろの悲鳴が辺りに響き渡り……。
 楽しいじゃれ合いは、まだまだ続きそうだ。


「皆、元気にしていた?」
「うん!」
「お姉ちゃん、あそぼ!!」
「ちょ、ちょっと待って。先にお茶の用意を……きゃあっ」
 オイマト族の子供達にあっという間に取り囲まれ、川まで引っ張って行かれるイスフェリア(ka2088)。
 足だけ濡らして、子供たちを見守っていよう……何て考えていたけれど甘かった。
「服が濡れちゃうよー」
「そりゃ水遊びだもん!」
「わたし着替え持ってきてないのに」
「着替えだったら貸してあげるよ! お姉ちゃん、きっとオイマト族の服似合うよ」
「う。それはちょっと魅力的かも……。って、そういう問題じゃないの! 皆、気を付けて遊んでね! 遠くまで行っちゃダメよ!」
「はーい!!」
 輝く笑顔を向けてくる子供達に釣られて笑う彼女。
 子供達とは半年振りに会ったけれど、皆背が伸びていて……。
 彼らの成長を感じて、イスフェリアは目を細める。
 そしてその近くでは、エステル・ソル(ka3983)がペット達と一緒に川遊びに勤しんでいた。
「冷たいです! ひや~っとします。それに……あっ、お魚さんです」
 淑女のようにスカートをつまんで川を歩いていた青い髪のエステル。
 足元を掠めた魚を、彼女の白猫も気付いたらしい。
 勢い良く水に突っ込んで……そして流されていく。
「ああああ! スノウーーー!!」
 慌てて水に入って白猫を追いかける少女。慌てすぎて一緒に流されそうになったところを、ひょいと抱えあげられる。
 振り返ると、目の前に見事な赤い髪があって……。
「あっ。イェルズさんです……!」
「やあ。大丈夫かい?」
「はいです。ありがとです!」
「良かった。結構川の流れ早いから、気を付けてね」
 川辺にそっとエステルを降ろす彼。馬に助けられた白猫はイェルズの頭に駆け上がり、ブルブルと水を払う。
 その向こう側に、浮き輪に乗った黒の夢(ka0187)とスメラギがどんぶらこっこと流れて行く。
「あはははー。気持ちいーのなー♪」
「うおおおお! 早ぇええ!!」
「アルトちゃん! どっちが早く泳げるか競争しよう!!」
「よし乗った! 負けないよ!」
 子供達がわいわいと水遊びをする中、猛然とガチ勝負を始めたリューリ・ハルマ(ka0502)とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)に、天央 観智(ka0896)がまったりとした目線を送る。
「皆さん元気ですねえ……」
「観智さんは水遊びしないの?」
「まぁ……はしゃぐ程、子供でもありませんので。眺めているのは良いです」
「大人だって遊ぶの悪くないと思うけど」
「川から吹き続ける、ちょっと涼しい風を木陰で堪能する……中々に、贅沢じゃないですか? この暑い中で」
「それは確かにそうかもね」
 そう言いながら、濡れたローブの裾を絞るイスフェリア。
 川で遊ぶ子供達に気を配りながら、持ってきた軽食を広げる。
「あっ。サンドウィッチ美味しそう! ねえねえ、この串焼きと交換しない?!」
「シアーシャさん、それ売り物ですわよ」
「そーだった」
 美沙樹の指摘にテヘペロするシアーシャ。イスフェリアと観智が美沙樹の籠を覗き込む。
「わあ……涼しげなお菓子だね」
「これは冷たくて美味しそうですね」
「今移動販売中なんですの。宜しかったらお一つ如何です?」
「いい匂いです! わたくしも欲しいです!」
 そこに戻ってきたエステル。シアーシャは笑顔で彼女に串焼きを差し出す。
「はーい! ありがとう! これ結構辛いけど、エステルちゃん大丈夫?」
「大丈夫です! 辛いのなら、お父様の特製スープで慣れてるです!」
「折角だし、皆でおやつにしない? 子供達もそろそろ呼ぶし」
「わーい! 賛成です! わたくしのペットさんも呼んでいいです?」
 イスフェリアの提案に万歳する少女。観智はそれに勿論、と頷きつつ思い出したように顔を上げる。
「そういえばペットで思い出しましたが……イェジドさんの命名案募集してるんですが、何かいいのありませんかね? 大巫女様にはレギ、という案を戴いたんですけどね。大巫女様の国の言葉で『凪』を意味するそうで」
「素敵な名前です!」
「うーん。……そうですわね。大五郎とか?」
「えーと、ポチは?」
 口々に適当な名を口にする仲間達。観智が真顔で頷いているのを見て、イスフェリアが苦笑する。
「皆ー! おやつの時間だよー!!」
「わーい! おやつーー!!」
 彼女の声に応えて、水から上がって来る子供達。
 ――午後のおやつタイムは、何だがにぎやかになりそうだ。


「……お前さ。ちゃんと服着ろよ」
「えっ。浴衣着てるのな」
「そーじゃねーよ!! 下着!!」
「えへへ。川があるって聞いたから直ぐ入れるようにって水着を着てきたから忘れて来ちゃって……って、スーちゃんそんな事気にしてえっちなのなー」
「ち、違ぇよバカ!」
 ころころと笑う黒の夢にガーーッ! と吠えるスメラギ。
 以前はこうなると叱られているようで悲しくなったが、この少年、ムキになると口調が荒くなるが怒鳴っているつもりはない……ということが最近分かってきた。
 要するに照れ隠しなのだろう。それでもまあ、怒鳴らない方がモテる気はするけれど。
 赤いサンザシ飴を片手に歩く川岸。夕闇に浮かび上がる灯篭の光。
 それを見ていたら……ふと、心に懐かしい人の顔が浮かんだ。
 ――いつも仏頂面で、にこりともしなくて……それでも優しかったあの人。
 もう、逢えないところに行ってしまった――。
 じわりと滲む灯篭の光。金色の双眸が灯りとは違うもので光って……黒の夢はぷるぷると顔を振って、スメラギを振り返る。
「……スーちゃん」
「おう。なんだよ。俺様の分の串焼きはやんねーぞ」
「違うのな。……ちょっとの間だけ手を握らせて……って言ったら、怒る?」
「……? 別に怒りはしねーけどよ」
「じゃ、手握っていい?」
「……恥ずかしいだろうが」
「えっ。何でなのな!? 吾輩とスーちゃんの仲だもの、恥ずかしいこと何もないのな!」
「だからそういう言い方すんのやめろ!!!」
「それじゃ、失礼しますなのなー!」
「おい、近ぇよ!」
「スーちゃん温かいのなー」
 ぎゃーぎゃーと騒ぐ2人。それでも手は振りほどかないスメラギの優しさを感じて、黒の夢は穏やかに微笑んだ。


「提灯、上手に出来てるね」
「昔からこういうのは得意だからな」
「ふふ。エアさん、子供達に『先生』って言われてたもんね」
「ああ、あれには参った」
 手作りの鬼灯提灯を手に肩を竦めるエアルドフリス(ka1856)に、くすくすと笑うジュード・エアハート(ka0410)。
 己の想い人は、子供の扱いが適当なようで意外と懐かれる。
 それも、エアルドフリスの人柄が出ているからだと思うと誇らしいけれど。ちょっと隠しておきたいような気もして……。
 川辺に並んだ灯篭も、彼が一族の者達と一緒に作ったもの。そう思うと景色が一層美しく見える。
「ジュード、怪我はもう大丈夫か?」
「うん。火傷もすっかり良くなったよ。これなら水着も大丈夫そう!」
「それは何よりだ」
「……もしかして気にしてた?」
「そりゃあな。大事な人を傷つけて、良い気持ちがする訳ないだろう」
「全力で闘った結果じゃない。名誉の負傷だよ」
 闘祭でぶつかり合ったことを思い出し、遠い目をするジュード。
 綺麗な虫の声が聞こえて、きょろきょろと周囲を伺う。 
「……あ、虫の声。あれって鈴虫?」
「いや、鈴虫にはまだ早い。青松虫だろう」
「流石エアさん。詳しいんだね」
 ほにゃ、と笑うジュードに笑みを返すエアルドフリス。思い出したように懐から何かを取り出す。
「実はカメラってのを持ってきたんだ。ジュードの姿を残したくてね。今日の格好も可愛いし……おや、これは暗いと巧く撮れんのか、参ったな」
 提灯の灯りだけでは上手く撮れないらしい。真っ暗な画面にため息を漏らすエアルドフリス。
 しかし……彼の目には、淡い蒼の紫陽花の浴衣を着たジュードが確かに見えている。
「人の目ってのは不思議だ。暗くてもはっきり見える」
「俺にもエアさんがちゃーんと見えるよ。今日もカッコいいよね」
 ――形に残らなくても。記憶に残れば、それでいい。
 世界の様が変わっても、互いを見失わないように――。
 手を絡めたまま身を寄せるジュード。頬に唇を寄せた彼に、エアルドフリスが目を見開く。
「……誰か見ていたらどうする気だ?」
「誰もいないよ。大丈夫」
「困った子だな……」
 重なる2人の影。額に三日月型の紋を持つイェジドは、大きな欠伸をして見ないフリをした。


「んんっ。お肉すっごいスパイシー!」
「おにぎりが凄く合うって言われましたけど納得ですね。あ、お茶ありますよ」
「ありがとう。美沙樹さんのお菓子、見た目も涼やかで素敵よね」
「そうですね。オイマト族のサンザシ飴も赤くて美味しそう」
 屋台巡りを済ませ、川辺にやってきたルナ・レンフィールド(ka1565)とエステル・クレティエ(ka3783)。
 着慣れぬ浴衣が気になって、エステルは友人の前でくるりと回る。
「浴衣、ちゃんと着られてます? 変なところないですか?」
「うん。大丈夫。バッチリ! 似合う!」
「ルナさんも良くお似合いですよ」
 褒められ、にっこりと笑顔を返すルナ。彼女が元気そうに見えて、エステルは小さく安堵のため息を漏らす。
「ええと……。夏合宿、楽しみですね!」
「そうだね。何持って行く?」
「海辺なら水着も新調したいし、旅行用小物も……今度一緒にお買い物行きましょう」
「そうね! 後は勉強したい楽器がいるかな。音楽合宿だもんね」
「ええ。兄様、ちゃんとハーモニカで一曲吹けるようになるかしら。みっちり鍛えて下さいね、ルナ先生?」
 兄、という言葉に動きが止まるルナ。その様子に、エステルは考え込む。
 ――ちょっと前の依頼で、何かあったということは兄から聞いている。
 それでルナが塞ぎ込んでいたことも……。
 何があったのか気になるけれど、聞けない。仲良しであるからこそ……余計に。
 でも、彼女には元気になって欲しいから……。
 続く沈黙。光が浮かんだような川の水面。夏の日差しが優しく溶けるその光景に、二人は頷き合って……エステルはフルートを、ルナはオカリナを取り出す。
 強く弱く、追い掛けあう音色。
 エステルの気遣いに感謝しつつ、ルナは強くなりたいと願う。
 己の歌や奏でる音色が、誰かに勇気を与えるものになりますように――。
 ……そして、エステルもまた、胸の奥に切なる願いを抱えていた。
 どうか、ルナさんやアルカさん……大切なお友達が健やかでありますように。
 重なる願い。響き渡る2人の祈りを乗せた音色。川に反射する光に溶けて、広がっていく。


「串焼き肉も美味しいし、お握りも美味しいわね。後で水まんじゅうも食べましょ!」
「うん。そうだね」
「……何? ゆづきゅん。べ、別に食べても太らないんだからねっ」
「え、えっと……僕も美味しいものいっぱい食べるよっ」
 屋台で買った食事を抱えて慌てる花厳 刹那(ka3984)に、笑顔を返す霧雨 悠月(ka4130)。
 彼女はビックリするほど良く食べるけれど、何故か太らない……いや。正確には、食べた分は全て胸に行っているのか。
 思っても口には出さない辺り、悠月は空気が読める男子である。
 そんなやり取りをしながらやってきた川辺。川沿いを沿うように続く灯篭。その優しい明るさに、刹那はほっと溜息をつく。
「この灯篭、故郷を思い出す雰囲気よね。……何て言うんだろ、懐かしくて落ち着く感じ」
「そうだね。故郷のお祭りってこんな感じだよね」
 頷く悠月。2人の故郷は遠い蒼の世界だけれど。こうして転移してきた紅の世界で、同じような景色を見るというのは何だか不思議な感じがする。
 宵闇の風に揺れる長い黒髪。灯篭の仄かな灯りに照らされた刹那は目が覚める程に美しくて……悠月の心臓が早鐘となって胸を突く。
「ゆづきゅん、どうしたの?」
 小首を傾げる彼女。実は今、結構胸がドキドキしていたりするのだけれど。
 こんなに近くにいて、彼に気付かれてはいないだろうか……?
 悠月は刹那の声に応える代わりに、彼女の腕を取って引き寄せて……頬を掠める柔らかい感触。
 それが悠月の唇であると覚って、刹那は一瞬で耳まで赤くなる。
「ゆ、悠月君……!?」
「今日は一緒に来てくれてありがとうね。……あ。ごめん。もしかして嫌だった?」
「い、嫌ってことは全然ないけど、その恥ずかしいっていうか……あの……嬉しいっていうか……」
「嫌じゃないんだ。良かった。じゃあ、今度の大きな戦いが終わったら……この続きしても、いいかな?」
「えっ。えええええ!!?」
 飛び出しそうな心臓を抑えて、余裕のあるフリをする悠月に気付く様子もなくアワアワと慌てる刹那。
 ――繰り返し一緒に過ごすひと時。2人の距離は少しづつ近づいていく。


「師匠。暗いから気をつけてくださいね」
「ああ……」
 まるで騎士が姫君の手を取るように自然とルシール・フルフラット(ka4000)の手を取るレオン(ka5108)。
 その扱いが未だに慣れなくて、ルシールは困惑を覚える。
「ほら、灯篭が綺麗ですよ」
「……ああ。そうだな」
 並んで眺める仄かな灯篭の灯り。自分と大して背の変わらなくなった弟子に、彼女はため息をつく。
「師匠、どうかしました?」
「いや、随分と大きくなったものだと思ってな」
「そりゃそうですよ。俺だっていつまでも子供じゃありませんから」
「本当にな。去年は二人で出かけても特に意識することもなかったのに」
「ええ。全然意識してくれないからここまで持ってくるの大変でしたよ」
「……仕方が無いだろう。あくまでも弟子だと思っていたしな」
 咎めるようなレオンの口調に肩を竦めるルシール。
 弟子は友人の子で、赤子の頃から知っている。
 背を追いかけて来る小さな男の子が、よもや己を女性として見ているなんて夢にも思わなかった。
 でも、彼は弟子であった頃から……もっとその前の、子供の頃からずっと、彼女を想い続けていた。
 彼女を見上げるのではなく肩を寄せて、守られ導かれるのではなく、手を引き共に歩みたい――。
 そう願い続けて、やっと……手に入れた。
「あ、もしかして俺を恋人にしたこと後悔してます?」
「いや、そんなことはない。ただちょっと慣れないというか、戸惑ってしまうだけだ……」
「良かった。俺、師匠を幸せにする役目は誰にも譲りませんから」
 変わらぬ調子のレオンに、頬を染めるルシール。
 ああ、もう。本当に調子が狂う。
 ――ちょっと悔しい気もするけれど。彼は本当に、逞しくなったと。そう思う。
 レオンは手を伸ばして、彼女の金糸のような髪を撫でる。
「愛してます。……ルシール」
 子供の時、初めて会った時から。これから先も、ずっと――。
 こういう時に名を呼ぶのはずるい……と消え入るような声で囁いたルシールを、彼は笑顔で引き寄せた。


「お握り全部売れてよかったネ!」
「シーちゃん、お疲れ様でした。遊びたかっただろうにずっとお手伝いさせてしまいましたね」
「ううん。売り子、とっても楽しかったアル。皆閏のお握りで笑顔になってたアル。オイマト族のご飯も美味しかったネ」
「……食べた時咳込んでましたけど、大丈夫でした?」
「辛かったからビックリしただけアル!」
 くるくると表情の変わる石蒜に、目を細める閏。
 屋台を畳んでやってきた川原。突然飛んできた冷水に、彼は目を瞬かせる。
「閏、隙ありネ!」
「つ、冷た……! シーちゃんったら……! えいっ!」
「わぷっ! お返しアル!!」
「あああ。ずぶ濡れですよ……!」
「冷たくて気持ちいいネ!」
「それはそうですけど、着替えどうするんですか……!」
「我は持って来てるアル!」
 バシャバシャと水を掛け合う2人。
 響く歓声。跳ね上がる水が傾いた陽を浴びて、キラキラと光る。
 頑張ってくれたこの子と、せめて沢山遊んであげよう……なんて考えていた閏だったが。
 気が付けば彼自身も、童心に返っていた。


「あ。この葛餅美味しい……!」
「そうですか?」
「うん! オイマト族はりんご飴の代わりにサンザシ飴なんだね。これも美味しいけど……って、マリエルちゃんも食べなよ」
 美味しそうにお菓子を頬張る柏木 千春(ka3061)をにこにこと見守るマリエル(ka0116)。
 マリエルは、葛餅もサンザシ飴も食べたことがない……いや、食べたことはあるのかもしれないけれど、覚えていなくて……。
 恐る恐る口にして、頬を緩める。
「……美味しいです」
「でしょ!」
 マリエルに笑顔を返す千春。
 2つ並んだ色違いの紫陽花の浴衣。並べられた下駄。川辺に腰掛け、水に浸す足。
 涼やかな夜の風。足を揺らす度に、水面に映った灯篭の光がキラキラと輝く。
「綺麗ですねえ」
「そうだねー」
「あの、ちーちゃん。地球に行ったら……何か見てみたいものはありますか?」
「えっ? そうだなー。……私の、お父さんとお母さんがいるところ、かな」
「ご両親に会いたいんですか?」
「できたらね。転移して随分経ってるし、とっくの昔に死んでるって思われているかもだけど」
 小さくため息をつく千春。
 両親が無事かもわからない。それでも、私の故郷と謂われる場所。私が生まれた世界。
 私という存在が生まれたそこに行ってみたい――。
「マリエルちゃんはどこか行きたいところないの?」
「んー。故郷も家族も、何も覚えていませんからね……。でも一つだけ、行ってみたい場所があるんですよ」
「どこどこー?」
「ちーちゃんが生まれた世界を、見てみたいです」
「えっ。私?」
「ええ。私、何も覚えてませんけど……だからこそ、ちーちゃんと同じものを、見てみたいんです」
「じゃあ、私の故郷に一緒に行こうよ。両親を紹介するよ!」
「ええ、是非。ご両親にご挨拶させてくださいね」
「うん! 約束ね」
 目の前に広がる景色もこんなに素敵だし。
 蒼の世界に行っても大好きな親友と見る景色はとても素敵だと思うから――。
 絡める小指に、未来に続く約束を乗せる。


 アルカ・ブラックウェル(ka0790)は、ペットのイヌワシとシェパードを侍らせて、宵闇の川辺に膝を抱えて座り込んでいた。
 ……もう、どうしたらいいのか分からない。
 頭がぐちゃぐちゃだ。
 ――子供の頃、恋をした。
 胸を焦がすような初恋だった。
 ……その相手は双子の兄で、当然叶う可能性など微塵もなかったのだけれど。
 恋すら知らなかった幼い自分にとって、その現実は厳しいものだった。
 その時の衝撃が未だに心に棘のように刺さり、それ以来、誰かに恋をしたことがない。
 ……エステルに「恋は流れ星のように突然降ってくることがある」と言われたことがある。
 突然降って来るって何?
 そんな感情思い出したくない。
 兄以外の人にそんな感情を抱いたら、自分は一体どうなるのか――。
 兄は今まで以上に、もっともっと遠くへ行ってしまうのではないか……?
「……分からないよぉ……!」
 溢れ出る思い。
 寄り添うペット達は何も答えない。 
 闇の中に揺れるアルカ。
 いずれ、陽光の元に戻れる時が来るのだろうか――。


 ――夕闇の中、矢が風を切る音が聞こえる。
 辺境部族の中でも強い戦士が多いと言われているオイマト族。
 その技術は、ハンターであるアルトやリューリから見ても、なかなか見事なもので……。
 オイマト族の者達に話を聞くべく約束を取り付けていた2人は、浴衣に着替えて一族の住居に訪れていた。
「そうですか。青木 燕太郎が弓を……」
「……うん。青木が弓を使ったのは、ハイルタイを吸収してからなんだ。だから、オイマト族の『技』を得た可能性があると思ってね」
「ハイルタイさんって弓以外に何か得意な武器とか、特徴的な戦いかたしてたりしたかな?」
 アルトとリューリの問いに、オイマト族の男達は少し考えてから口を開く。
「剣も使えないことはなかったようじゃが、あれは弓が好きでな。他の武器は殆ど使うことはなかったのう」
「ハイルタイは知略に富んでいました。そのせいで良く族長とぶつかっていましたね」
「ぶつかる? それは何故……?」
「あれの作戦は効率重視でな。それは良いんじゃが、仲間達の安全は度外視されているものが多かったんじゃよ」
 その言葉に、眉根を寄せるアルト。
 ……青木は元々、兵の指揮が執れる程の賢さを持っている。
 もしその知略までもが継承されていたら――。
「……何かすごく面倒なことになりそうだね」
 ため息をつくリューリに、頷いたアルトは、思い出したように顔を上げる。
「忘れたいかもしれないが、ハイルタイの事を忘れてはダメだよ。強すぎる力は、使い方によっては人を不幸にする。だから……」
「あれが歪虚に堕ちたのは、儂らにも責任があった。教訓として後世に語り継いで行くつもりじゃ」
「……そっか。こんなこと言って失礼だったね。ごめん」
「燕太郎さんは、あたし達が絶対ぐーぱんちしてくるから安心して! アルトちゃんいじめた分もぼっこぼこにするから!」
「そうだね。……と。そうだ。そのハイルタイの考えた作戦について、もっと詳しく聞きたいんだけどいいかな?」
 ぐっと握り拳を作ったリューリ。アルトもまた、得た力は正しく使う、と改めて心に誓って……。
 そして尽きぬ昔話。それは夜が更けるまで続いた。


 揺れる灯篭の光。流れる川のせせらぎ。
 秋へと向かう風が、ハンター達の頬を撫で……ハンター達のそれぞれの思い出が、ひとつづつ増えて行く。

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参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 陽光の愛し子
    アルカ・ブラックウェル(ka0790
    人間(紅)|17才|女性|疾影士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 導きの乙女
    イスフェリア(ka2088
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 落花流水の騎士
    ルシール・フルフラット(ka4000
    人間(紅)|27才|女性|闘狩人
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 黒髪の機導師
    白山 菊理(ka4305
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 甘えん坊な奥さん
    アルラウネ(ka4841
    エルフ|24才|女性|舞刀士
  • 死者へ捧ぐ楽しき祈り
    レオン(ka5108
    人間(紅)|16才|男性|闘狩人
  • 招雷鬼
    閏(ka5673
    鬼|34才|男性|符術師
  • おにぎりやさんの看板娘
    紅 石蒜(ka5732
    鬼|12才|女性|符術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/06 06:39:32