くるせいだーのかいたく!

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/14 07:30
完成日
2016/08/21 18:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●これまでのあらすじ
 ハンターが学校の臨時教師として教えたり歪虚退治してるよ。
 以上!

●開拓の風景
 青々とした草が生えていたのは昨日までのこと。
 2日目の昼になる前に、根まで掘り起こされて草が小山を形作っていた。
「ヘイ大将! 次は何をすればいいんだ?」
「早く指示してくれよ。俺たちゃ棒振りしか知らねぇんだからよ」
 作業着の上からでも筋肉が目立つ。
 見事な逆三角形だ。
 実家で使ったことのある小作人とは戦闘力の次元が違う。この男共がその気なら片手だけでくびり殺されてしまう!
 だからつい、虚勢を張って高圧的に草むしりを続けろと命令してしまった。
「応よ」
「麦植えるときが楽しみだぜぇ」
 気にした様子もなく男達が隣の元畑に向かう。
 草の高さも量もここ以上。しかも雑魔が現れるという危険な土地であるので、自殺強要に限りなく近い命令のはずだった。
「小隊長! スケルトン2匹!」
「お互いとっくに退役しただろうが」
 鎌というには大きすぎる刃物が振り抜かれた。
「ちっ、予想以上に鈍ってやがる」
 硬くそれでいて柔軟なはずの草が数メートルに渡って切り裂かれ、その10メートルほど横に骸骨の残骸が転がった。
「退職金を食い尽くす前に農業で食えるようになるぞ。気合いを入れろ!」
 野太い声が唱和する。
 虫や小動物が勢いよく逃げだす。
 悪くない給料と聖堂教会というネームバリューに惹かれて就職はしたものの、貴族出身の農業技術者は正直ちょっと後悔しかけていた。

●富の気配
「融資はここまでなら無審査でいけますよ」
 商人が示した数字は予想より1桁多い。
「寄付のつもりかね?」
 この学校の校長である司教は困惑している。
「いいえ」
 窓が振動する。
 演習場から響く機銃の音だ。
「我が社はこの事業を高く評価しています。大勢の貴族様方と取引するより貴方様と取引する方が手間も賄賂……失礼、手数料も省ける訳でして」
 商人は怯えもせず礼儀正しく頭を下げた。
 土地の権利も水利権もこの校長が握っている。
 今は十数人規模の開拓事業が、数年先には数百あるいは数千を抱える巨大事業に発展する可能性がある。
「ふむ」
 司教が考え込む。
 判断のための材料も能力も足りない。
 知識と人格が信用できそうな同僚は、全員王都か国外にいる。
「返答は後でいいかね?」
「はい」
 穏やかではあるけれど決して卑屈でない顔を維持したまま、商人は内心冷徹に司教を観察している。
 この司教の能力は教師としてのそれに偏っている。
 学校の規模拡張も今回の開拓事業も、この老人1人で成し遂げたとは到底思えない。
 出来れば、背後に誰あるいは何が潜んでいるか手がかりを得たい。
「イコニア司祭が間に合わなければハンターに判断を任せることになる。面倒をかけるがそのつもりで頼む」
 予想外の言葉に内心の驚きを隠せず、商人の眉が微かに動いた。

●ハンターズソサエティ本部
「身分証の提示をお願いします」
 自称美人受付嬢の職員が、すごく良い笑顔でイコニア・カーナボン(kz0040)をからかっていた。
 イコニアは仕事着だ。
 黒を基調にしたカソックは素人でも分かるほど良い生地を使っている。
 仕立ても刺繍も一級の職人によるもの。
 目立たぬように配された装身具はデザインが良いだけでなく風格がある。
 貴金属の彩りが、下品さではなく高貴さを演出していた。
「えい」
 切れ者司祭というロールを一瞬で投げ捨て、お菓子で飼い慣らしたパルムを全力で投擲するイコニア。
 華麗にレシーブする受付嬢。
 三回転半して神霊樹の分樹に着地するキノコ精霊。
 そしておざなりに拍手するハンターたち。
 あまり珍しくは無い光景であった。
 ソサエティの偉い人に2人とも怒られている間にパルム間で情報の共有がされ、軍事機密レベルの地図と膨大な情報が3Dディスプレイに映し出された。


●依頼票
 クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保を依頼します

教職員
 校長。司教。教師としては有能。リアルブルーに詳しくない
 守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当。最近は守備兵としての活動が中心
 教師5名(初等教育1、医師1、薬師1、看護1、他1)
 植物園管理人2名
 司書1名。専門書の管理は問題なし。漫画の管理に悩んでいるようです

開拓部門
 農業技術者3名
 元戦士団と元騎士団の入植者12名

在校生
 2年生。10~12歳覚醒者計12人。読み書き可能、専門書読解は難しい。戦闘力は初心者ハンター未満。戦闘慣れしています
 1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。基本的な読み書き可能。戦闘力は非覚醒者新米兵士級

滞在者
 助祭2

校舎
 教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
 武器庫 剣槍斧槌弓メイス猟銃・皮鎧金属鎧

宿舎
 5人部屋10
 厨房

見張り台
 木製。古い

周辺状況
 校舎南側の農地復旧作業がはじまっています


●付属地図(1文字縦横1キロメートル)
 abcdefgh
あ□平平道平平□□ □=未探索地域。危険。縦横各1キロメートル
い□平平道平平川□ 平=平地。低い木や放棄された畑や小屋があります。やや安全。演習場扱い
う□平平学平平川川 学=学校が中心に建っています。緑豊か。安全
え□平平作平平汚□ 川=川があります
お□平平平平平□□ 汚=微量の歪虚汚染有り。砂が多い。超微速で汚染度上昇中
か□□□平□□□□ 道=荒野。砂利道が北に向かっています。安全
き□□□□□□□□ 作=元農地。今年冬小麦を植えることを目指し作業中

 ・元薬草園
   eい。薬草が少し自生。専門家2人が復旧作業中。傷薬の原料がとれました
 ・要修理な用水路
   fえ~gえ~gう


●歪虚汚染の行方
「面倒なことになっていますね」
 自称以下略が肩をすくめようとして痛みに涙目になる。
 慣れない正座が正直つらい。
「軽度とはいえ歪虚汚染された土地でしょう? 高位歪虚の目撃情報もなく最前線からも遠いので」
 ため息をつく。
「イニシャライザーの支給は無理です。聖堂教会の管理している土地ですし浄化も聖堂教会でお願いしますね」
 イコニアからの返事がない。
 嫌な感じの汗が額に浮かんでいる。
「えっとその」
 表情筋の制御に失敗し硬質な気配が崩れていた。
 こうなると気弱な少女に見えないこともない。
「難しいです」
 一般的な、大勢が参加する形の浄化手段は困難だ。
 危険地帯なので単独あるいは少数で浄化可能な人材を使うしかない。
 上は世界レベルで高名な巫女、下は王国の強欲司教かイコニア。どれも動かすにはコネか金が大量に必要だ。
「私は借りを返すためにしばらく外で働く必要がありますから……」
 参加したハンターがうまくしてくれたらなあと、イコニアは他力本願なことを考えていた。

 なお、駄目職員と駄目司祭が正座から解放されたのは、その日の窓口営業時間が終了してからである。

リプレイ本文

●訓練の夏
「日本の夏を思い出すな」
 魔導トラックの荷台で、柊 真司(ka0705)が熱い風を感じた。
「ジョン教官見習い、体調確認を行え」
『了解。直ちに……げっ』
 運転席の少年が慌てている。
 ダッシュボードから片手で水筒を取り出し助手席の少女へ飲ませた。
「一度医療課程の講義を受けておけ。戦場に着く前に部下を死なせたら首じゃすまないぞ」
 助手席に聞こえない程度の音量で叱責を行った後、魔導カメラを手に運転席の天井へ移動する。
 濃い草の臭いと鬱陶しい羽虫が数匹、熱い空気と共に吹き付ける。
「指揮官なら休憩中も周囲への警戒を怠るな」
『っ……2時の方向100メートル先にスケルトン2を発見。機銃で迎撃します』
 荷台の大型銃が向きを変え発砲。十数秒撃って1体を消し飛ばす。
「戦闘中も警戒を緩めるな。1人で無理なら部下にやらせろ。8時の方向70メートルに骨1つ」
 距離200の時点で気づいていたがこれも訓練だ。
 真司は手は貸さず警戒は続けつつカメラをのぞき込む。
「廃村、いや開拓村か」
 トラックの全高が2メートルあり遠くまで見える。
 これまで草むらに阻まれ見えなかったものが、真司の目とカメラに写って記録されていく。
『一度校舎まで撤退します。機銃操作はお前がやれ』
『えっ』
『責任は俺がとる。弾ばらまいて近づけさせるな!』
 後方へ急発進したトラックの上で、真司は倒れるどころか揺れさえしない。
「いいじゃないか」
 ジャックの操縦技術と判断能力が予想以上に育っている。この調子でいけば短い期間で使い物になるかもしれない。
「飛ばしてるねぇ」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)は街道近くで跳躍し、魔導トラックの暴走に近い疾走を眺めていた。
 着地すると砂利道に数センチのへこみが出来る。
「よーしお前等」
 回れ右すると学校から駆けてくる生徒が数人。
 全員重装備で荒い息を吐いていた。
「学校に戻るぞ」
 生徒の倍は重い装備なのに速度は数割速かった。
「よーしよく頑張った。休憩にしてやる」
 出迎えたボルディアがにやりと笑うと生徒達が硬直する。
「お前等にはこれから俺の斧の一撃を『目ェそらさずに見てもらう』ぜ」
 全長2.5メートルで実戦用の分厚い戦斧を平然と構え。
「斧は『本気』で振るうが安心しろ。たとえ手元が狂っても絶対ェに当てねぇからよ」
 限りなく小さな予備動作を経て高速で旋回させた。
 生徒の鼻先についた汗が飛んで前髪が揺れた。
 某司祭よりずっと体格の良い少年がへたり込み、数秒遅れでぶるぶる震え出す。
「逆に、俺の斧にビビんなくなったら大抵の攻撃にゃ動じねぇよ。自信持っていいぜ」
 敵の攻撃から目を離したら回避も防御も不可能だ。
 子供の命のため、ボルディアは一切手を抜くつもりはなかった。

●融資の行方
 会議は紛糾していた。
「審査無しでの融資はなぁ。危険な香りしかしねぇ」
 鹿島 雲雀(ka3706)の声も身振りもいつも通りに豪快だけれども、初対面の者にも分かるほど警戒心が剥き出しになっていた。
「詐欺と決めつける気はねぇが」
 自分に有利な内容をしれっと署名前の契約書に書き加えるような手合い……つまり平均以上に抜け目のない相手にしか思えない。
「だがな。転入生を受け入れるとなるともう1棟必要になる。それに」
 校長がアサルトライフル30丁の見積もり書を手に渋い顔をする。
「他の幹部連中が配備に前向きでな」
 白金 綾瀬(ka0774)発案のAR配備計画が異常な速度で進行している。
「そういう派閥ですものね」
 ルシェン・グライシス(ka5745)は聞き分けのない子供を見る目で校長である司教を見た。
 聖堂教会の教えには、歪虚という闇を祓えという内容が含まれる。
 その実現のためには手段を選ばない、逆を言えばそれさえ出来るなら他はあまり気にしない派閥に属するのが校長や某司祭であり、対歪虚戦で活躍するハンターがしばしば使うARの配備推進は自然な流れだった。
「怪しいとは思いますが、下手に断って機嫌を損ねた結果邪魔をされるのも面倒ですね。様子見を兼ねて、すぐに返済できる額の融資を受けた方が無難でしょうか」
 エルバッハ・リオン(ka2434)が口を開く。
 この学校には危険を全て遠ざけられるほどの余裕はない。
「初手から利権がらみの生臭い話になっていますね」
 エリス・カルディコット(ka2572)が憂鬱なため息をこぼした。
 何も持たない子を無償でクルセイダーとして育て、歪虚に冒された土地を再度人間の土地として開拓するという事業に惹かれやって来ていきなりこの問題である。
「商人の身辺調査は最低限必要ですね。最重要なのは過去にこの商人が融資をした事業がどうなったか。他の商人との繋がりも調べたい所です。……信頼が出来る方でも、いつ事情が変わって自分に牙を向けるのかは分かりませんから」
 恐ろしく実感が籠もった言葉だった。
「はい。エリスさんの懸念もイコニアさんに伝えておいたのですが」
 ソナ(ka1352)が困り顔になる。
「忙しいようで手紙でしか連絡できませんでした」
 言い終えた直後に急ブレーキとタイヤが地面に削られる音が響く。
 校長が立ち上がったときには、ハンター達は既に戦闘準備を整え一部は窓から外に出ていた。
 見慣れぬ魔導トラックが壁にぶつかる直前で止まっている。
「届け物で、す。2種類……うぷっ」
 これが初の運転の聖堂戦士が手紙を差し出してくる。
 代表してソナが受け取り校長へ渡そうとすると、そのまま封を開け皆で目を通すよう指示される。
 差出人はイコニアで内容は愚痴が9割だった。
「まだ若いのに」
 エリスの瞳に哀れみの感情が浮かんでいる。
 愚痴を読み解くと複数貴族の醜聞が含まれている。頭の上まで貴族社会の泥沼に浸かっているようだ。
「この商人の中身、本当にクリムゾンウェスト人か?」
 残り1割の調査報告に目を通し、雲雀が目を細める。
 法を犯さない範囲であらゆる手段を使う、つまり全く油断出来ない相手だということが複数の実例付きで書かれていた。
「まずこのまま受け入れるというのはやめておきましょう。下手すれば向こうに有利な状況に陥る事になるわ。ここはあくまで「学校」、その目標を崩しては駄目よ」
 脱線しかけた議論をルシェンが元に戻す。
「業務提携の形にできればな」
 ボルディアが自分の頬をかく。
「理想は、こっちとあっち、どっちも程よく成長できる関係なんだが」
 案はあってもどれも困難だ。
 相手は王国の法と監修を知り尽くした商人で、こちらは対歪虚戦の専門家であって商取引の専門家では無い。
「どの手でいくにしても土地の権利は絶対に手放すなよ。伝家の宝刀はいつでも抜けるようにしとくんだ。ま、抜かないのが一番だけどな」
 彼女は校長に対して太い釘を刺した。
「ではそろそろまとめましょう」
 ルシェンが軽く咳払い。
「融資の提案に対する案は今のところ3つです」
 現実的で無いのは省いていると一言述べてから、執務机の上に大きな紙を広げて3つに分ける。
「1つめは返せる範囲でお金を借りること。メリットは全てこちらの自由に決められること、デメリットはお金を返すのが大変だということ」
 人材供給により社会全体に利益はもたらすが、この学校単体では金儲けには繋がらない。
 開拓も投下資金を回収するのに長い時間が必要だ。
「2つめは商人をこの領地の開発に巻き込むこと。メリットはこちらの負担が少なくなること。デメリットは」
 全く理解できていない様子の校長を見て軽く息を吐く。
「代価として多くのものを要求される可能性が高いことよ。軽度歪虚汚染領域もある土地の開拓は非常にリスクが高い。利益が目的の商人なら強力な保証を求めるか提案を拒絶するでしょうね」
 善意と悪意の有無は関係ない。儲けなければ商人は潰れる。
「3つめは一定の安全を確保してから投資を求めること。メリットは1より出費が少なく、デメリットは融資の時期が遅くなること」
「むずかしいのう」
 相変わらず校長はよく分かっていない。
 主に校長が原因で話はまとまらず、結論は次回に持ち越されることになった。

●緑の園
「納得しました。今後は緊密に協力していきたいですな」
 ソナに握手を求める医者の背後には、王都出身貴族のはずなのに田舎の肝っ玉母さんにしか見えない看護婦が控えている。筋肉は医者の3倍以上ありそうだ。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
 妙に緊張感がある医務室で、小さな手と分厚い手が堅く握手を交わした。
「失礼しました」
 ドアを閉じると無意識に安堵の息を吐く。
「どう?」
 ルシェンが顔を出す。
「腕は確かな方です」
 自負も実力もある故に気位が高く扱いが面倒だ。
 元々薬の扱いに長け、この学校で医療関連の技術と事務に慣れたソナだから辛うじて認められただけだ。
「リアルブルー技術の導入は……難しそうね」
 搦め手か長期間の説得が必要そうだった。
 建物から出ると、非番の傭兵がマティの指示に従い重そうな木箱を運んでいた。
「マティちゃん?」
「手が離せませんソナさん。危険物が届いたので確認と保管を済まさないと」
 チェックリスト片手の待祭は、幼さの残る顔が緊張で強ばっていた。
「がんばって」
 そう言い残して植物園を目指す。
 妙に歩き易い。どうやら開拓民が短時間雇われて小さな道を整備したらしい。
「その耳……あなたがソナ女史ですか」
 麦わら帽子の男が元薬草園から顔を上げた。
 緑の園が乱れ放題に見えるのは表面だけだ。ソナの目には、最小限の手入れで急速に回復している様子がはっきりと見えていた。
「使えそうでしょうか?」
「教材と域内消費は十分賄えます。長期間外部へ売るつもりなら今のうちから拡張したいですね」

●虚ろな地
「しっかりと良く周りを見て下さい。何か気付いた事があれば言って下さいね?」
 エリスが微笑むと生徒達が元気よくはいと返事をした。
 2両ある魔導トラックに分かれて乗り込み出発進行。目指すは歪虚汚染された危険地帯だ。
 その危険地帯の手前で、雲雀がハルバードを手に舞っていた。
 固い地面を蹴って加速する。
 覚醒の影響で腰まで伸びた髪が真後ろに流れ、同じく逞しさが増した四肢が長柄武器を高速で繰り出す。
 骸骨が衝突時の衝撃に負けて破裂する。
 3メートル先の武装骸骨が薄い鎧ごと縦に両断される。
 形は骸骨でも負のマテリアル製で、暑さに負けた草を揺らすこともできずに消滅した。
「ここから先は汚染地域だ」
 声に緊張感をみなぎらせて呼びかける。
 子供達の顔に程よい緊張が浮かんだのを確認し、雲雀はハルバードを片手で持って汚染領域に向き直る。
「訓練には丁度いいんだがな」
 紛れ込んだ雑魔は全て滅ぼした。生徒だけでも戦死者は出ないはずだ。
「安くて簡素、即ち扱い易い。……はずだよな?」
 支給された経費でレンタル料金を払った検査機器を汚染領域に向ける。
 一応反応しているもののメーターがふらついる。
「俺の感覚で計った方がマシな気がするぞ」
 不良品ではない。この付近の技術力が低いのである。
「おい! 1年生は、戦闘の空気に慣れる事を第一としろ。無理はすんな」
 大きな声を出す。
 生徒は不用意に広がろうとした動きを止め、近くまで這い寄る不定形雑魔未満を盾で防ぎ始める。
「2年生は戦闘慣れしてるんだよな? 1年の奴等のフォロー、頼むぜ」
 今度は朗らかな声をかけて高学年の緊張を和らげる。
 すると、視界が狭まっていた2年生が落ち着きを取り戻し、1年生の死角にいる別の雑魔未満を丁寧につぶす。
 20分後。
 再度移動した生徒達は学校近くで解散した。
「鹿島様、お疲れ様でございます。指導する姿、素敵でしたよ」
 エリスが適温に冷やした水を渡した。
「短い言葉で生徒に自ら考えさせて適切に動かすなんて、さすがですね」
「あー、そうか? 軍での経験が、こういう形で生きるとは思わなったよ」
 覚醒状態を解除した雲雀は、妙に可愛らしく見えた。
「それにしても」
 汚染地帯は非常に面倒だ。演習時に調査も行った所、歪虚が土地から湧き出ている場面に何度も出くわした。
 通常の儀式……陽気に盛り上がる祭りで浄化するなら、もう少し戦力が欲しい。

●明日を切り開く
 農業技術者が頭を下げてきた。
 いいのかなと内心戸惑いはしたがこれも仕事のうちだ。
 エルバッハはワンドを手に集中し、意外に立派な廃屋に火球を打ち込んだ。
 空気と大地が振動する。
 一瞬広がった炎の中で、複数の骸骨と不定形の何かがもがいて焼かれて縮んでいく光景が一瞬だけ見えた。
 開拓民が歓声をある。
 頑丈な建物に潜む歪虚が邪魔でエルバッハが来るまでこの付近の再開拓が滞っていたのだ。
「ありがとございます!」
 感謝を適当に受け取りエルバッハは巡回を再開した。
 手綱に軽く触れる。
 戦馬がいつもより足を高く持ち上げ凹みを回避する。
「用水路の跡?」
 かつての農業の生命線が悪質な罠になっている。
 記録をとりつつ巡回を続ける。
 力の差を理解し全力で逃げようとする骸骨には風の刃をくれてやり、希にいつ骸骨集団は吹雪でまとめて吹き飛ばす。
 なおファイアーボールは、開拓地の拡大と引き替えに既に残弾0だ。
 前方と左右の草が同時に揺れた。
 妙に体格の良いスケルトンが多数現る。
「未探査地域の歪虚ですか。嘗められたものです」
 彼女は退路を確保した上でワンドで殴り倒し、全滅させてから悠々と引き上げた。
 軽快な音が連続する。
 低い命中率はARの数で補われ、数十メートル先にいたスケルトンが弾によって削られる。
「機銃と違って固定されてないからしっかり反動は抑えないと当たらないわよ」
 最初に教えた構えを思い出すよう綾瀬が大声で伝える。
 ARの銃口が安定し、しぶとく生き残っていた骸骨がオーバーキルされた。
「残弾数を常に気に掛ける事。フルオートでも引き金を引く時間を調節して3点バーストにして無駄撃ちは極力避けなさい。2時の方向!」
 子供達が横隊を維持して向きを変える。
 今度は最初から命中率が高かった。
「残弾数を常に気に掛ける事。フルオートでも引き金を引く時間を調節して3点バーストにして無駄撃ちは極力避けなさい。そこ、足下に注意しなさい」
 端の生徒が用水路跡に足を引っかけ倒れ、地面ぶつかる前に受け身をとって暴発も防ぐ。
「次からは貸し出さなくてもよさそうね」
 ここの傭兵の強い推薦もあり、30丁と弾薬と整備用器具の購入が問題なく行われた。
 今は事務処理で手間取っているが数日中には使えるようなるはずだ。
「問題は」
 射撃中止と敵撃破の確認を指示し、ホロウレイド前から老朽化していたとしか思えない用水路の残骸をカメラで記録する。
「土地からの収益か」
 新しい収入源を確保しないと、そろそろ出来ることが減ってしまうかもしれない。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • エルフ式療法士
    ソナka1352
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

重体一覧

参加者一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ピロクテテスの弓
    ニコラス・ディズレーリ(ka2572
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • 無類の猫好き
    鹿島 雲雀(ka3706
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 最狂の信仰を
    ルシェン・グライシス(ka5745
    エルフ|22才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
柊 真司(ka0705
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/08/11 21:12:33
アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/08/13 22:21:07
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/11 02:02:23