小さい手が求めるもの

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2016/08/10 12:00
完成日
2016/08/15 23:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ノアーラ・クンタウの下町
「おかあさん」
 台所からは包丁がまな板を叩くリズミカルな音が聞こえてくる。
「ねぇ、おかあさん」
 今度はぽちゃぽちゃと鍋に材料を放り込んだ水音が聞こえた。
「おかあさんってばっ!」
 窓辺から動かず、少女は台所に向かって叫ぶ。
「うんー? なぁに?」
 そうしてようやく気付いてくれたのか、ドアの縁からお玉を装備した母親が顔を覗かせた。
「ひょろいないよ?」
「ひょろ? ああ、あのおじいちゃんね」
 エプロンで洗った手を拭きながら母親は少女の隣までやってくる。
「あら、ほんと居ないわね。いつもこの時間にはそこで大欠伸してるのにね」
「ねぇ、おかあさん。ひょろはなんでいないの?」
 少女の大きな瞳が不安で揺れる。
「そうね、お散歩にでも行ったのかもしれないわね」
「おさんぽ……?」
「そう、おさんぽ。カンナも大好きでしょ? おさんぽ」
「うん、すき!」
「それじゃ、さっさとご飯を食べてしまって、お散歩に行きましょうね」
「いくっ!」
 母親の巧みな誘導に気をよくした幼いカンナは、嬉しそうにテーブルへと走っていった。

 それから何日も過ぎた。
「おかあさん」
 今日も変わらない包丁のリズム。
「ねぇ、おかあさん」
 コトコトと煮えるシチューが放つ芳醇な香り。
「おかあさんってばっ!」
「はいはーい、どうしたの?」
 のんびりとした返事を返し、母親が間口から顔を覗かせる。
「ひょろ、きょうもいないよ……?」
「うーん、どうしたのかしらねぇ。散歩コースを変えちゃったのかしら」
「どこにいっちゃったの?」
「どこかしらねぇ……あのおじいちゃん、気まぐれだし。そのうち帰ってくるんじゃない?」
「そのうちっていつ? あした? きのう?」
「昨日はもう過ぎちゃったから、明日かな?」
「あした!」
「うん、明日。だからご飯にしましょ」
「はーい!」
 カンナは母親の手招きに答えるように台所に走って向かった。

 再び日は変わり。
「おかあさん!」
「はいはいー」
「ひょろいない!」
「あらぁ、今日もいないの?」
「いないの! あしたいるっていったのに!」
「そうだったかしら……?」
「いったもん!」
 早めの朝食を終え、母娘二人窓から外を眺める。
 鉱山へ向かう男達が大きな声で談笑しながら闊歩し、家を預かる女達は家事に勤しむ。そんな何十年も前から続けられる日常が今日もそこにあった。
「うーん、いないわねぇ」
「うぅ……」
 大きな瞳に涙を浮かべ下唇を突き出して俯くカンナ。
「カ、カンナ……?」
 爆発寸前のカンナに、母親も気が気でない。
「……ちょっとおでかけしてくるっ!」
 何か決意に満ちた声でそういうと、カンナは台にしていた椅子から飛び降り、駆け出した。
「え、ちょっと!? カンナ!?」
 呆気にとられる母親は、バタンと勢いよく閉められた戸を呆然と見つめた。

●ハンターオフィス出張所
「はい、次の人ー」
 どんと確認印をつくと同時に、受付嬢は次の客に向かうべく顔を上げた。
「これくださいっ!」
「はい、こちらですねーーーって、あれ?」
 しかし、目の前には誰もいない。
 受付嬢は空耳だったかと首を傾げ、次の客を呼ぼうとした。
「これ、くださいっ!!」
「え……?」
 再び響いた声に、受付嬢ははっと視線を落とす。
 そこには決意に満ちた大きな瞳。そして、小さい手に握られているのは、まだ何も記入されていない依頼募集の用紙だった。

「――なるほどね。話は分かったわ。お姉さんに任せておきなさい」
 少女の話を親身に聞いた受付嬢は決意に胸を叩く。
「いいの?! ありがとう! これおかね!」
 そう言って今度は、小さな小さな袋が机に載せられた。
 いったいどれくらいの頑張りによってその小袋は膨れているのか。
 受付嬢はそれを想像し、自然と表情が緩む。
「……ううん、これは持って帰ろうね」
「なんで?」
「いいからいいから。それはあなたの大事でしょ?」
「うん、だいじ!」
 手の中の宝物を大事に抱え、誇らしげに微笑むカンナに、受付嬢も笑みをこぼす。
「ちょっと待っててね。きっと誰か手を上げてくれるから」
 そう言って、ぽかんと口を開ける少女を残し、受付嬢は掲示板の前でたむろするハンター達の元へ足を運んだ。


リプレイ本文

●ハンターオフィス
「なに? 猫探しを手伝えだと?」
 集ったハンター達を前にオフィス職員の影から、顔を覗かせるカンナにアクアレギア(ka0459)がぐっと迫った。
「おいおい、そんな顔でせまっちゃ駄目だよ。怖がってる」
「む……」
 テオバルト・グリム(ka1824)に言われ、アクアレギアは恐怖を湛える少女の瞳をから視線を外す。
「それで、俺達に何か用かな?」
 ばつの悪そうなアクアレギアを下がらせ、テオバルトが少女に問いかけた。

「ふーむ。なるほどね」
 少女の話を代弁する職員の話に、テオバルトが深く頷いた。
「よーし、じゃあ探してみるか!」
 職員の後ろに隠れるカンナに向け、テオバルトは人懐っこい笑みを向ける。
「ちょっと待て……おいガキ、確認させろ」
 そんなテオバルトの後ろから、鋭い視線を投げかけ、アクアレギアが問いかけた。
「猫は見つけるだけでいいんだな」
「う、うん……」
 恐る恐る答えたカンナをしばらくじっと見つめていたアクアレギアは。
「……ん」
 突然、カンナに向け小さなチョコを突き出す。
「え……?」
「ん!」
 しかし、カンナは怖がってか、じっとアクアレギアの指先を見つめていた。
「あれれ、チョコですの~?」
 と、そんな膠着した状況を打破したのは――。
「わたくし、チョコ大好きですの~。ぱくっ」
「あ……あぁっ!? おい、ガキ!! 出せ、出しやがれ!!」
「んーんー!! 痛いですの痛いですのー!」

 ごっくんっ。

「あ……」
 怖がらせたお詫びにと出したととっておきをチョココ(ka2449)に食べられ、アクアレギアは呆然自失。
「おー、よしよし。折角、仲良くなろうと頑張ったのにな」
 わなわなと震えるアクアレギアの背中をテオバルトが優しくさすった。
「そんなんで釣るんじゃなくてさ。この子のお願いしっかり叶えて、ちゃんとした笑顔を貰おうぜ」
「……う、五月蠅い。黙っていろ!」
 テオバルトの手を乱暴に振り払い、アクアレギアはさっさと出口へ向かう。
「おにいちゃん、おこってたの……?」
「心配ありません。アクアレギア様は少し不器用ですの~」
 不安がるカンナに、唇をチョココーティングしたチョココがニコリと微笑みかけた。
「ははは、そうだね。彼は、君と仲良くなりたいんだよ」
「カンナと?」
 入ってくるハンターに肩をぶつけながら出ていったアクアレギアを見送り、テオバルトはそう教える。
「そう。だから、いい子で待っててくれるかな?」
「うん!」
「とってもいいお返事ですの~」


「なにか騒がしいな」
 オフィスの一角の喧騒に、紅咬 暮刃(ka6298)は何事かと顔を向けた。
「なんだ、迷子か?」
「どうしたんだ、暮刃」
「ん、向こうで何かひと騒動起きてるみたいだ」
「ひと騒動……?」
 全身包帯だらけのリュー・グランフェスト(ka2419)が車いすから問いかける。
「子供でも迷い込んだのかもな」
「こんな所にか?」
「あるいは依頼か」
 と、そこまで言って暮刃ははっと口を押えた。
「……なぁ、暮刃」
 依頼?やるよな?な?な?と、視線で訴えてくる親友に、暮刃はがくりと肩を落とす。
「あー、わかったわかった。やればいいんだろ、やれば。ったく……なんでこう毎回……ただし、貸しだからな!」
 このお節介焼きが一度言い出した事を引っ込めないのはよく知っている。
 暮刃は一応と釘を刺しつつも、首を縦に振る。
「ああ、覚えてたら返してやるよ!」
「またそれか……」
 良しと拳を握るリュー。そして、面倒ごとに顔を顰める暮刃。対照的な二人だったが、その口元だけは笑っていた。

「あのー、盛り上がってるところ悪いんですけどー」
 そんな男同士で解り合う二人に声をかける者あり。
「ここまで車いす押してきた私は、ずーっと放っておかれてるんですけどー」
「……うるせぇ。だから頼んでねぇし、家で待ってろって言ったんだよ」
「……へぇ、そういう事を言うんだ。へぇ、ふーん」
 リューが乗る車いすを押す、セレスティア(ka2691)がジト目で見下ろしていた。
「あんな無茶な戦いしたのに、日課だからってオフィスに行くとか言い出すし……あまつさえ、早速面倒ごとに首を突っ込もうとしてるし……まったく何考えてるんだか」
 肺の空気を全部吐き出すかの勢いでセレスティアは溜息をつく。
「なんだ、心配してくれるのか?」
「な、何を自惚れてるのよ! リュー君の心配なんかして、私に何の得があるっていうの!」
 なんだか色々不都合なことを口走りそうなリューの口を、セレスティアは羽交い絞めで無理やり止めにかかる。
「ぐ、ぐるじい……! わるかったから! あ、あたってるから!!」
 気道を完全に潰されもがくリュー。
「当たるって何が……っ!? リュー君のバカ!! アホっ!!」
 首を絞めてたかと思えば一転、リューの側頭部に華麗な一撃を決め、セレスティアは車いすから離れると、ぎゅっと自分の体を抱いた。
「ま、まったく何を考えてるのよ! あなたなんかただの従弟で幼馴染なんだからね!」
 顔を真っ赤に何やら弁明を繰り返すセレスティア。
「あ、死んだな」
 ぐったりと垂れ下がるリューの頭を見て、暮刃は合掌したのだった。

●酒場
「年老いた猫? ああ、灰じーさんのことか」
「灰じーさん……?」
 耳慣れない単語に、暮刃は店主に聞き返した。
「ああ、立派な灰毛をした爺さん猫の事だろ?」
「ああ、たぶんその猫の事だ。だが、僕が聞いた名前と違うな」
「あー、名前なんてないんだよ」
「名前がない?」
「そりゃそうさ、野良だからな。皆好き勝手に名前をつけて呼んでるよ」
「……そうか、これは少し厄介だ」
 名前が唯一でないとすると、情報の収集難度が一気に上がる。暮刃は意外な落とし穴に表情を曇らせた。
「なんか困ってるみたいだけど。あの爺さんを探すなのは難しくないよ?」
「難しくない……? なぜだ?」
 名無しの猫を探すなど、それこそ砂漠で小石を探すようなもの。暮刃は思わず問い返した。
「あんな立派な毛並みで、そうなんていうのかねぇ、こうオーラ?みたいなもん纏ってる猫、あの爺さんくらいだよ。それこそ、貴族様の飼い猫にだっていない」
「そ、そんなに特徴的なのか?」
「見ればすぐにわかるし、特徴を話せばこの街の人間なら大概知ってるよ」
「そうか、それはいい話を聞いた。早速、仲間に伝えてみる」
「ああ、俺も最近見てないし気になっていたんだ。灰じーさんのことよろしく頼むよ」
「任されよう」
 そう言って、暮刃は懐から魔導短伝話を取り出した。

●噴水
「……いないか」
 押し手を失った車いすの車輪を回し、リューは噴水を一周する。
「こんな所に怪我人? 何か困りごとかい?」
 と、長閑な景色に不釣り合いなリューの姿に、テオバルトが思わず声をかけた。
「うん? ああ、いや。困ってるわけじゃないんだけどな。ちょっと不自由ではあるけど」
 誰がどう見ても辛そうに車いすを回すリューは、そんなことを感じさせない口調で返す。
「そうか、俺でよければ押そうか?」
「うん? いいのか?」
「ああ、構わないさ。別に急いでないしね」
「そうか、助かった。実は依頼中だったんだ」
「依頼? そんな体でかい?」
 その姿は仕事などとても行えるようには見えない。テオバルトは驚きと共に問いかけた。
「ああ、そうなんだ。実は――っと、悪ぃ。仲間からの連絡だ」
 返す答えを止めて、リューは魔導短伝話を手に取った。

「ああ、わかった。ありがとな、暮刃。――ふぅ、ごめん、待たせた」
 数分の会話の後、通話を切りリューは改めててオバルドへ向かう。
「いや、大丈夫だよ。仕事の話かい?」
「ああ、なんか成り行きで引き受けたんだけど……猫探しをしてるんだ」
「猫……? もしかして、依頼主って、小さな女の子だったり?」
「あれ? 何で知ってるんだ?」
「ははは、これは奇遇だね。実は俺もその子から依頼を受けたんだ」
 目をぱちくりとさせるリューに、テオバルトは微笑みかける。
「さっきの情報、よければ俺にも共有させてもらえないかな? 同じ依頼主を持つ者同士、是非協力させてほしい」
「ああ、こちらも望むところだ。頼りにさせてもらうぜ。えっと――」
「テオバルトだよ」
「テオバルトか、俺はリュー。よろしくな!」
 固く握手を交わした二人は、早速と情報の共有を始める。
 テオバルトは受け取った情報を、共に捜索に当たる二人に魔導短伝話で急ぎ伝えた。

●民家
「また無駄足か、くそっ」
 やや強めに民家の戸を閉め、悪態をつく。
 仲間からもたらされた情報を元に、アクアレギアは単身、民家への聞き込みを行っていた。
「まさかもう、くたばったんじゃないだろうな……」
 猫は死の寸前、姿を隠すとどこかで聞いたことがある。
 アクアレギアは思わず最悪の事態を予想したが。
「……今は考えても仕方がないな」
 その思いを振り切って、今日も抜けるような蒼を湛える空を見上げた。

「何……?」
「あれ、知らなかったかい? 灰猫ジェリオのお伽噺」
 次に訪れた民家で聞いた話に、アクアレギアは耳を止める。
「部族の飼い猫だったジェリオは、世話になった部族が滅んでもずっとその場所を見守り続けた……なーんて、お伽噺にはよくある話さ」
「その猫が、爺猫だと?」
「そんな夢のある話ならいいんだがね。ただ、似てるかなぁと、思ってただけさ」
「なんだ、ただの妄想か」
「ははは、そう言われちゃ返す言葉もない」
 男が自嘲するように笑うなか、アクアレギアは何か引っかかるものを感じながら、その場を後にした。

「残るは……」
 普段はあまり開かない瞳に差し込む夏の日差しに思わず顔を顰めながら、見上げるのは民家の屋根。
「……ガキの泣き顔は、嫌いだからな」
 誰に聞かせるでもなく小さく呟いたアクアレギアは、マテリアルを足に集中させた。

●墓地
 夏の熱気も死者の眠るこの墓地では、どこか遠慮を感じる。
「古いお墓……この地にあった部族の墓ですか」
 小さな墓地の一番奥に静かに眠る古い墓の前で、セレスティアは膝を折る。
「――古の御霊よ安らかなる眠りを……ついでに……本当についでですけど、あいつの怪我が早く治りますように……」
 墓地を守護するかのように佇む古い墓石に、セレスティアは深く祈りを捧げていた。
「灰色のー毛色のーオーラー、どこかに居ませんの~?」
 そんな時、人気もない静かな墓地に可愛らしい歌が響く。
「歌声……? それにこれって……」
 場違いな歌声よりも、その内容にセレスティアは顔を上げた。

「いませんわね~。ねぇ、パルパル~、そこから見えませんの~?」
 頭上のパルムが日よけの麦藁帽の隙間から、いないと頭を振る。
 歌声の主、チョココもまた墓地で猫を探していた。
「こんにちは」
「え、あ、こんにちはですのっ」
 突然かけられた声に、チョココは条件反射的に腰を折る。
「先ほどの歌、とても綺麗でした。あなたが歌っていたのですか?」
「そうですの、パルパルと一緒にお歌を歌いながら探し物ですの~……じゃなくて、探し人? あれれ、探し猫?」
「探し猫、やはりあの歌は猫の事だったのですね。でしたら、あなたも――」
 と、確信を得たセレスティアがチョココに問いかけようとした、その時、まったく同時に二人の魔導短伝話が着信を知らせる。
『ちょっと失礼します(の~)』
 そして、同時に通話に出た二人の耳元に、怒鳴るような声で伝えられた「見つけた!」との一言。
「お姉様、わたくしちょっと御用ができましたの~」
「奇遇ですね。私もですよ」
「あれれ、お姉様もですの~? えっと、もしかして……」
「ええ、そのようです」
 きょとんと見上げるチョココに微笑みかけたセレスティアは、その小さな手を取る。
「行きましょう。皆が待っています」
「はいですのっ!」

●教会
 鐘楼から見える陽は西の空を赤く染めている。
「あそこだ」
 駆け付けてきた仲間に、リューが鐘楼を指さした。
 鐘楼には西日に目を細める灰毛の美しい老猫がじっと佇んでいる。
「どうする? 保護するかい?」
「そもそも野良という話だ。無理に手を出す必要はないだろう」
「そうだね、元気にしていると教えてあげよ――」
「あれれ、ちょっと様子がおかしいですの~?」
 暮刃の言葉にうなずいたテオバルトの声を遮る様に、自慢の双眼鏡をのぞいていたチョココが声を上げる。
「どうしました?」
「ひょろのお姿が……薄くありません?」
「う、薄く?」
 いったい何を言っているのだと、皆が再び楼上の猫を見やった。

 西に落ちる陽は更に角度を増し、大きく赤く輝いている。
「消えかけてる……? 一体どういうことだ」
 リューが困惑するように声を上げた。
「また薄くなりましたの……!」
 チョココが叫んだように、老猫の体は先の景色を見通せるほどに薄くなっている。
「……許すか!」
 言うよりも早く駆け出したアクアレギアは、マテリアルの力を借り超跳躍をかけた。
「おい待て! 俺様の許しもなしに勝手に消えるな!!」
 鐘楼の上でほとんど色を失った猫に、アクアレギアが必死で手を伸ばす。

 しかし、その手が届く寸前、老猫の姿は完全に夕日に消えた。


「気を落とすな」
 壁を足場に駆け付けたテオバルトが、呆然とするアクアレギアの肩に手を置いた。
「うるさい、触るな」
「まぁ、そう言うなよ。これでも――ん、なんだ……?」
威嚇する様に噛みつくアクアレギアの先に、テオバルトは何かを見つけた。
「これは……綺麗だ」
そこにあったのは、小さな石。
 それは、老猫の美しい毛皮をそのまま閉じ込めた様な、鮮やかな灰色をした猫目石だった。

「へぇ、これがあそこにね」
「とってもきれいですの~」
 鐘楼から降りたテオバルトの握る猫目石を、皆が覗き込む。
「み、皆さん、この壁を見てください!」
 と、突然声を上げたセレスティアが、震える指で教会の壁を指さした。

 かつてこの地に名もなき部族在り――。
 山で生き、山で死するこの部族を護る、灰銀の毛皮を纏う祖霊在り――。

 それは教会の壁に刻まれた、古い古い昔話。
「まさか、あの猫って……」
「いやいや、まさか……ね」
 最早、真相は誰にもわからない。
「消えた……いや、最後に姿を見せてくれたのかもしれないな」
 老猫が最後に在った場所を眺め、皆は深く頷いた。

●オフィス
「これ……?」
 手渡された猫目石を食い入るように見つめ、カンナは何度も首を傾ける。
「えっと……う、うん、ひょろだよ」
 説明の言葉を探すがいい言葉が浮かばず、セレスティアはそのままを告げた。
「約束は守った。文句は言わせん」
 フンと背を向けるアクアレギアが呟き。
「会わせてあげられなくてごめん」
 テオバルトは目線を合わせるようにしゃがみ込み、首を垂れた。
「……そっかぁ」
 申し訳なさそうに沈む一行に向けカンナは。
「ひょろは、えほんのなかにかえったんだね!」
 子供らしくニカッと笑ったのだった。

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MVP一覧

  • オキュロフィリア
    アクアレギアka0459
  • 憂う友の道標
    紅咬 暮刃ka6298

重体一覧

参加者一覧

  • オキュロフィリア
    アクアレギア(ka0459
    ドワーフ|18才|男性|機導師
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 憂う友の道標
    紅咬 暮刃(ka6298
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/09 08:47:44
アイコン 猫探し
テオバルト・グリム(ka1824
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/08/10 11:09:39