ゲスト
(ka0000)
猪肉がいっぱい
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/09/13 22:00
- 完成日
- 2014/09/22 02:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
カボチャを砕くと甘い香りがたちこめた。
大小様々な猪たちが瞬く間に食い散らし、新しい南瓜を噛みちぎる。
遠くに見える見張り台から半鐘の音が響く。
元ハンターな鍛冶屋の親父が仕事道具を手に持ったまま駆けてくる。
猪が不敵に鼻を鳴らす。
先にうりぼうを逃がし、自身は親父を馬鹿にするよう尻をふりふり森へ戻っていった。
ここはグラムヘイズ王国のド田舎にある農村。
1世代に1回程度しか雑魔による襲撃のない平和な土地だが、そんな場所でも害獣という脅威は確実に存在した。
●畑防衛依頼
ハンターオフィス本部で、妙に気の抜ける音と共に新しい3Dディスプレイが立ち上がる。
3、2、1と表示されてから、可愛らしくデフォルメされた猪が表示された。
途端にディスプレイが赤く点滅し出す。
グロ注意、R18かもーと何度か文字が流れた後、巨大な肉切り包丁によってあっという間に解体が完了する。
「何の依頼だ?」
ハンター達が気付いて首をかしげる。
画面では猪肉の調理が継続し、網の上で焼かれたり串を刺して焼かれたりあく抜き不十分な野草と一緒に煮られたりしている。
控えめに表現して非常に雑な料理であった。
調理が完了する。
ディスプレイの中央、料理に重なるように、報酬は現物支給という文が太字で表示されていた。
●ド田舎村
「あれで来てくれるかのぅ」
「肉全部と薪こっちもちならいけると思うんですが」
村長と鍛冶屋の親父が悩ましく溜息をつく。
この村は貧しくはないが現金収入がほとんど無いのだ。領主へ納める税も現物だし。
「奮発して塩もつけるか」
「さっすが村長! 俺も奮発してエールを出しますぜ」
ハンターが調味料を持参しない場合、温くて雑な味のエールと塩味焼き肉だけが報酬となる。
大小様々な猪たちが瞬く間に食い散らし、新しい南瓜を噛みちぎる。
遠くに見える見張り台から半鐘の音が響く。
元ハンターな鍛冶屋の親父が仕事道具を手に持ったまま駆けてくる。
猪が不敵に鼻を鳴らす。
先にうりぼうを逃がし、自身は親父を馬鹿にするよう尻をふりふり森へ戻っていった。
ここはグラムヘイズ王国のド田舎にある農村。
1世代に1回程度しか雑魔による襲撃のない平和な土地だが、そんな場所でも害獣という脅威は確実に存在した。
●畑防衛依頼
ハンターオフィス本部で、妙に気の抜ける音と共に新しい3Dディスプレイが立ち上がる。
3、2、1と表示されてから、可愛らしくデフォルメされた猪が表示された。
途端にディスプレイが赤く点滅し出す。
グロ注意、R18かもーと何度か文字が流れた後、巨大な肉切り包丁によってあっという間に解体が完了する。
「何の依頼だ?」
ハンター達が気付いて首をかしげる。
画面では猪肉の調理が継続し、網の上で焼かれたり串を刺して焼かれたりあく抜き不十分な野草と一緒に煮られたりしている。
控えめに表現して非常に雑な料理であった。
調理が完了する。
ディスプレイの中央、料理に重なるように、報酬は現物支給という文が太字で表示されていた。
●ド田舎村
「あれで来てくれるかのぅ」
「肉全部と薪こっちもちならいけると思うんですが」
村長と鍛冶屋の親父が悩ましく溜息をつく。
この村は貧しくはないが現金収入がほとんど無いのだ。領主へ納める税も現物だし。
「奮発して塩もつけるか」
「さっすが村長! 俺も奮発してエールを出しますぜ」
ハンターが調味料を持参しない場合、温くて雑な味のエールと塩味焼き肉だけが報酬となる。
リプレイ本文
のどかな農村にハンター達がやってきた。
「カボチャと焼き肉、食べ放題と聞き参上しましたよ」
最上 風(ka0891)は口を開くやいなや村人に言葉のストレートを繰り出す。
いや、10歳という年齢相応の背丈なので、ストレートというよりアッパーカットかもしれない。
その後ろで榊 兵庫(ka0010)が荷下ろし作業を開始する。
大型の荷車に乗っているのは塩、牛乳、その他細々とした調味料、そして大量の鳴子だ。
兵庫は猪料理用の素材を屋根の下に移動させ、他数人が鳴子を持って畑へ向かう。
「ふむ。大変でしたね」
風は鍛冶屋や猟師の話を聞いている。
猪は森のどの辺りから来るかとか、住処に向いている場所の心当たりとかを、熱心にうなずきながら聞き取りメモを取り終えた。
「大変でしたね」
重傷ではないがあちこち怪我をした村人を見る。
「ヒール、基本回復は有料ですが、今なら通常の2割引でご奉仕中ですよ?」
「1回ハーブ1束でどうでしょう?」
風は小首をかしげて荷車を見る。
不知火陽炎(ka0460)は視線に気づいて手元の箱を確認する。
コンニャク、麩、豆腐、昆布、鰹節、味噌、醤油、日本酒、味醂に砂糖まで、消費期限ぎりぎりの品が詰め込まれているがハーブの類は1つもない。
ハンドサイン。
風は目で同意して鍛冶屋に向き直り、鍛冶屋の分厚い手と握手を交わすのだった。
●畑
草むらが揺れ、猪が飛び出、鳴子が取り付けられたロープを引き千切って猪が畑に侵入する。
かかった時間は10秒未満だ。この場に村の元ハンターがいても猪を迎撃するどころか反応すらできなかっただろう。
「おう、活きが良いな」
朱殷(ka1359)は猪が現れたときには猪の進路上に刃を置いていた。
猪は止まれない。勢いが付きすぎ進む方向をほとんど変えられない。
大柄な朱殷が持つと小さく見えるとはいえ実際は実戦用の刀だ。鋭い刃が猪の毛と皮と脂肪を切り裂き、致命的な部位を切断する。
「すまんな」
地面に倒れた猪を蹴りつける。
恨みがある訳ではない。血や脂肪が畑に落ちることを防ぐための措置だ。
猪が縦に数回転し、何度も地面に衝突して頸骨を含む数カ所を破壊され死亡する。
悲痛な叫びが茂みの奥から聞こえ、茂みが台風にでも吹かれたように揺れた数秒後、血走った目の猪が8匹朱殷目指して突進する。
朱殷は慌てず冷静に猪の目と足の向きを確認。数歩右に移動することで端の2匹だけを討てる状況を作り上げる。
「おーっほっほっほっほっほっほっほ!!」
銃声と高笑いの二重奏。
ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)のアサルトライフルから飛び出した弾が、左端の若い猪の額を粉砕した。
「やはり狩りには向きませんわね」
貴族然とした態度で猪の亡骸を見下ろす。
そこには悪意も侮蔑もない。力無きものの生活を守るため己の力使う、錬磨された決意だけがあった。
もう1匹の若猪が命を燃やして迫る。ベアトリスの銃は威力と射程に優れる分白兵戦に使えない。若猪の行動は、ベアトリスにとって最悪の1手のはずだった。
「まあ良い機会ですし久しぶりに練習と参りましょうか」
アサルトライフルから手を離す。
大型の銃が地面に落ちる前にベルトで支えられ、そのときにはベアトリスの手の甲にドリルが取り付けられていた。
ベアトリスのマテリアルがドリルを回す。
「ふっ」
鋭い呼気と共に突く。一見遠すぎるように見えてもそれはフェイントだ。ドリルから螺旋の稲光が若猪へ伸び、絡め取った。
「ふんっ」
腹にずんと響くかけ声を発し、ゲン・プロモントリー(ka1520)がジャンクガンを若猪の口に埋め込み、相手の必死の抵抗をものともせず引き金を引く。
ベアトリスによって動きの鈍った猪では避けることも受けることも逃げ出すこともできず、内部から脳を破壊され止めを刺された。
「猪肉……美味しそう……」
セレナ・デュヴァル(ka0206)はいつも通りだ。しかし普段と違って無表情に見えない。
青い瞳は猛烈な食欲で爛爛と輝き、全身から微かにマテリアルが漏れている。
漏れたマテリアルがセレナの手元で固まり、瞬間的に加速して遠くの猪に届く。
体が小さく速度も遅い猪に着弾。マテリアルは衝撃に変換され猪の前半分を挽肉と骨片の混合物に変える。
「煮込んでも……スープが美味しそう……」
セレナの口角が吊り上がる。
無表情でも美人な彼女がそんな顔をすると異様な迫力があった。
「ほ。大した気合よの」
朱殷は右側で数体の猪を同時に防ぎ、躱し、足止めを行っている。
手こずっているのではなくわざとだ。
「畑近くの獣をほっとくわけにもいかないよな」
ゲンは溜息に似た息を吐き真正面から猪を受け止める。
適度な脂肪に包まれた筋肉が厚みを増す。ゲンが片手だけで猪を抑え、利き手で銃を耳に押しつける。
乾いた音が響く。猪の反対側の耳から大量の血が噴き出した。
「突進には注意ですね……」
ゲンの脇を光の矢がかすめる。
朱殷との戦いに参加すべく駆けてきた猪が、マジックアローによって鼻から後頭部に達する大穴を開けられた。
濃い血の臭いが撒き散らされる。
猪達はここが死地であることをようやく悟り、180度反転して茂みへ、そして深い後の中に逃げようとした。
朱殷の動きが変わる。一見無造作に、その実精密極まりない動きで、猪1体を除く全ての急所に刃を差し込んだ。
ベアトリスが銃を下ろす。
セレナがワンドを落として猪肉の回収をはじめる。
ゲンはただ一匹逃げる猪を見つつポケットから魔導短伝話を取り出す。
「こちは畑班。撃退終了。無傷のうりぼうが1匹西北西に向け逃走中」
『森班了解です。追跡に移ります』
「畑班了解」
見た目は気の良いあんちゃんでも精鋭である元CAM乗りだ。通信機の扱いは実に見事で手慣れていた。
「うぉっ」
ゲンが足音も立てずに跳躍し畑の外へ着地する。
直前まで彼がいた場所では元気なミミズが蠢いている。
「ミミズが元気……良い畑で良いカボチャがとれる……」
内心非常に喜んでいるセレナは、龍が舌なめずりしているようにも見えたらしい。
●森
そのまま伸びれば建材として使えたはずの若木が砕かれ、食用可能な草や実も乱暴に食い荒らされている。
そんな荒れた森の中を不知火陽炎が駆ける。
畑で撃退された猪の足音を頼りに草をかきわけ凸凹の地面に足を取られないよう注意し続け、走り始めて数分後には疲労がたまっていた。
「多分そろそろ巣穴なので切ります」
風が魔導短伝話を停止させ、速度を上げて不知火陽炎を追う。
彼女の雰囲気は妙に暗い。村人から教わった穴場がいくつも全滅していたからだ。
「何かもう、追い掛けるのが、全力で億劫になって来ました! どなたか、風を背負ってくれませんか?」
自分を含めた雰囲気を変えるためだろう。風は多分彼女なりの冗談を口にする。
「今、仕事中……」
アレン=プレアール(ka1624)はくすりと笑い、そっと風の背を押してやる。
「止まってください」
不知火陽炎が抑えた声で皆に伝える。いつの間にか猪の足音が止まっていたことに気付いたのだ。
慎重に草をどける。そこは比較的開けた場所で、小さな洞窟らしきものがあった。
風が慈善の打ち合わせ通りにロッドを一振り。
薄暗い森の中に光源が出現し、洞窟の中にいる猪が数体照らし出された。
「多いぞ」
兵庫が素早く前に出て槍でひと突き。比較的若い猪が反応する前に仕留める。
「……すまない。せめて、苦しまないようにしてやる……」
アレンが覚醒状態へ移行し、ドラゴンを思わせる眼光と共に急進する。
うりぼうというには少々育ちすぎた猪の首が飛ぶ。残ったうりぼう2匹が恐怖で震えて身を寄せ合っていた。
「……必要以上の殺しは、避けたい、けど」
アレンの構えに乱れはないが、苦渋の色がひどく濃かった。
不知火陽炎と風が一瞬視線をかわす。
10頭以上の猪の猪を倒したことで、既に依頼のノルマは達成している。うりぼうを逃がしても特に問題はない。
「がおー」
風は、畑がある方向へ移動してからワンドを突き出す。
うりぼう達は激しく動揺する。アレンと兵庫が意図に気付いて後退すると、うりぼう達は恐る恐る巣穴から出てびくびくしながら森の奥へ逃げだそうとした。
不知火陽炎の デリンジャーが吼える。狙うのは猪ではなくその足下だ。
うりぼう達は悲鳴をあげて、畑や人里を襲うには遠すぎる場所に向けて逃げていった。
「念のため追うか」
「……そうですね」
兵庫は飄々とした態度で、アレンは露骨に安堵して森の奥へ向かった。
「大仕事ですね」
不知火陽炎は巣穴を再度確認しつつ拳銃からスコップに持ち替える。
利用できないほど荒らすのには時間がかかりそうだ。
「はい。火の準備と解体用の人手を……」
風は完全に調子を取り戻し、魔導短伝話を使って猪肉パーティーの準備をはじめていた。
●自然。そしてお肉
「ガキの頃、爺さん達と修行ついでにした猪狩りを思い出すな」
兵庫は苦笑して足を止めた。
確かあのときも何匹が逃がした気がする。今思えば、必要最小限の殺生ですましていたのかもしれない。
「悪い、見失った」
「俺もだ」
2人は同時に苦笑し覚醒状態を解除した。
「解体に戻る」
後は任せたと来た方向へ走る兵庫。アレンは安堵の溜息に似た息を吐き、おそらく兵庫も気付いていただろう気配に近づいていく。
愛嬌のあるうりぼうの顔が茂みから現れた。
敵意はなく怯えもあまりない。
「群れが複数あったのか」
武器には手触れずにじっくりと観察する。
うりぼうも、その背後にいる親猪も、アレンとの圧倒的な戦力差を理解しているため逃げようとも攻撃しようともしない。
「人里近くに来たら駄目だ」
剣の柄に手を添える。猪達の目力が弱まる。精神的な牙が折れたのだ。
猪の親子が森の奥へ消えていくのを、アレンは無言のまま見送っていた。
「もふもふできなかったな……」
彼は肩を落とし、解体作業が始まっているはずの巣穴跡へ向かっていった。
丁度その頃、畑の側で炎が激しく燃えていた。
血抜きされ内蔵を取り除かれた猪が何体も吊られて炙られ、脂と肉の香りが立ちこめている。
「良い」
朱殷が肉の表面を数センチの厚さで切り落とす。危なげなく宙で受け止め塩を振り、熟成されていないため固いはずの肉をひと噛みで粉砕した。
少々の獣臭さと新鮮な脂が塩と混ざり合う。
野趣に富む地元の酒で胃の腑へ流し込む。
満たされた腹から生きる力が全身に広がっていく気がした。
「げに、げに、酒は良い。おう、小僧どもよ、酒が進んでおらぬな」
ハンターが倒した猪は10体を越えている。8人のハンターでは到底食いきれないので、当然のように村人にも振る舞われていた。
「俺のことは気にするな」
ゲンは鎌でを振るって畑近くの茂みを草刈り機以上の速度で滅殺中だ。猪が畑に忍び寄ることを防ぐための処置である。さすがに夕刻以降に作業をするのは危険。しかも明日朝には村を出るため今のうちに片付けてしまうしかない。
「灰汁が」
多い。セレナが鍋の中に箸を突っ込み中から猪肉を取り出す。
臭いは残っていても肉の厚みは圧巻だ。鉄串に刺して塩を振りかがり火の近くに置いて、十数分前に同じように置いておいた串を手に取る。
囓る。固い。でも美味しい。
黙々と食べるセレナの鼻をチーズの香りがくすぐった。
香りのもとへ視線を向けると、そこではベアトリスが数人のパルムに囲まれ見上げられていた。
「おーっほっほっほ! 生憎ですがアヴェーヌの家に生を受けて以来調理場に立った経験などありませんわ!」
故に調理は他のメンバーや村人の担当である。
村人とパルムに過不足無く行き渡るよう差配し終えた後、ベアトリスはようやく自分の分を皿を受け取った。
旨くはあっても硬い肉をただのナイフで綺麗に切り分け口に運ぶ。彼女のまわりだけ、貴族が集まるパーティ会場のように見えた。
「おかわり」
風が容赦なく料理を求める。
不知火陽炎は灰汁を掬う手を止め、困った顔で風を見た。
「まだ完成していませんよ」
エプロンが防具で武器はお玉。敵は大鍋の中にいる、すくってもすくっても出てくる猪肉の灰汁だ。
「残念です」
相変わらず淡々とし過ぎていて残念そうにはあまり見えない。
「おっ」
タオルで汗を拭き拭きゲンが近づいてくる。
陽が落ちて遠くまで見えないが、畑から森の近くまで、背丈のある草は9割方刈られていた。
「この匂い、ミソにショウユがあるのか!」
鍋を覗き込む。
相変わらず灰汁がある。しかし猪から溶け出した脂が浮かび、ミソと一緒に具材に染みこんでいる。
「よく買えたな」
「消費期限切れ直前の品を安く譲ってもらえました」
風とゲンの視線に負けて、火が通っている肉とハーブ、だしをとった後の昆布を器に入れる。
ゲンが音を立てて汁をすすり肉をかみ砕き、エールで腹に流し込む。
「うん」
あまりに美味しそうに食べるので、パルムや村人が威の猪鍋の周りに集まって来る。
集まって来た村人を煙が襲う。
半数以上が咳き込み、けれど嫌な顔をするどころか目を輝かせていた。
「すぐには出来ないぞ」
簡易燻製小屋から兵庫が声をかける。
「完成するのは俺達が帰ってからだ。これから来る冬の為の貴重な食材として大いに利用してくれ」
村人から歓声があがり、いつの間にか数が増えたパルムがハイタッチをしていた。お酒や調味料も増えている。多分差し入れのつもりなのだろう。
「火の番、しようか?」
アレンが提案する。凛々しく迫力のある戦闘中とは打って変わってボーッとしている。
「おう。受け取れ」
重低音が空から迫る。
アレンが危なげなくキャッチしたそれは、大柄な猪の骨付き肉であった。
朱殷に目礼してかぶりつく。
命の味が口から体全体に染みこみ、疲れが消え肉と血が増えていくようだ。
肉と脂の匂いに甘いカボチャの香りが混じる。食いだめのつもりで黙々かつ高速で食べる風の横で、セレナが村のご婦人から大量のカボチャを渡されていた。
「お土産に持って帰っても構いませんでしょうか?」
「領主様を通さないと街の商人が縄張り荒らしだなんだのとうるさくてね。ここでならいくらでも食べて良いからさ」
ごめんなと頭を下げるご婦人に、ありがとうございますと一礼するセレナ、そして待ってましたとカボチャを焼いて食らっていくハンター達。
宴は夜明けまで続き、ハンター達は猪の不要部位を丁寧に埋葬した後、村人に惜しまれながら帰路につくのだった。
「カボチャと焼き肉、食べ放題と聞き参上しましたよ」
最上 風(ka0891)は口を開くやいなや村人に言葉のストレートを繰り出す。
いや、10歳という年齢相応の背丈なので、ストレートというよりアッパーカットかもしれない。
その後ろで榊 兵庫(ka0010)が荷下ろし作業を開始する。
大型の荷車に乗っているのは塩、牛乳、その他細々とした調味料、そして大量の鳴子だ。
兵庫は猪料理用の素材を屋根の下に移動させ、他数人が鳴子を持って畑へ向かう。
「ふむ。大変でしたね」
風は鍛冶屋や猟師の話を聞いている。
猪は森のどの辺りから来るかとか、住処に向いている場所の心当たりとかを、熱心にうなずきながら聞き取りメモを取り終えた。
「大変でしたね」
重傷ではないがあちこち怪我をした村人を見る。
「ヒール、基本回復は有料ですが、今なら通常の2割引でご奉仕中ですよ?」
「1回ハーブ1束でどうでしょう?」
風は小首をかしげて荷車を見る。
不知火陽炎(ka0460)は視線に気づいて手元の箱を確認する。
コンニャク、麩、豆腐、昆布、鰹節、味噌、醤油、日本酒、味醂に砂糖まで、消費期限ぎりぎりの品が詰め込まれているがハーブの類は1つもない。
ハンドサイン。
風は目で同意して鍛冶屋に向き直り、鍛冶屋の分厚い手と握手を交わすのだった。
●畑
草むらが揺れ、猪が飛び出、鳴子が取り付けられたロープを引き千切って猪が畑に侵入する。
かかった時間は10秒未満だ。この場に村の元ハンターがいても猪を迎撃するどころか反応すらできなかっただろう。
「おう、活きが良いな」
朱殷(ka1359)は猪が現れたときには猪の進路上に刃を置いていた。
猪は止まれない。勢いが付きすぎ進む方向をほとんど変えられない。
大柄な朱殷が持つと小さく見えるとはいえ実際は実戦用の刀だ。鋭い刃が猪の毛と皮と脂肪を切り裂き、致命的な部位を切断する。
「すまんな」
地面に倒れた猪を蹴りつける。
恨みがある訳ではない。血や脂肪が畑に落ちることを防ぐための措置だ。
猪が縦に数回転し、何度も地面に衝突して頸骨を含む数カ所を破壊され死亡する。
悲痛な叫びが茂みの奥から聞こえ、茂みが台風にでも吹かれたように揺れた数秒後、血走った目の猪が8匹朱殷目指して突進する。
朱殷は慌てず冷静に猪の目と足の向きを確認。数歩右に移動することで端の2匹だけを討てる状況を作り上げる。
「おーっほっほっほっほっほっほっほ!!」
銃声と高笑いの二重奏。
ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)のアサルトライフルから飛び出した弾が、左端の若い猪の額を粉砕した。
「やはり狩りには向きませんわね」
貴族然とした態度で猪の亡骸を見下ろす。
そこには悪意も侮蔑もない。力無きものの生活を守るため己の力使う、錬磨された決意だけがあった。
もう1匹の若猪が命を燃やして迫る。ベアトリスの銃は威力と射程に優れる分白兵戦に使えない。若猪の行動は、ベアトリスにとって最悪の1手のはずだった。
「まあ良い機会ですし久しぶりに練習と参りましょうか」
アサルトライフルから手を離す。
大型の銃が地面に落ちる前にベルトで支えられ、そのときにはベアトリスの手の甲にドリルが取り付けられていた。
ベアトリスのマテリアルがドリルを回す。
「ふっ」
鋭い呼気と共に突く。一見遠すぎるように見えてもそれはフェイントだ。ドリルから螺旋の稲光が若猪へ伸び、絡め取った。
「ふんっ」
腹にずんと響くかけ声を発し、ゲン・プロモントリー(ka1520)がジャンクガンを若猪の口に埋め込み、相手の必死の抵抗をものともせず引き金を引く。
ベアトリスによって動きの鈍った猪では避けることも受けることも逃げ出すこともできず、内部から脳を破壊され止めを刺された。
「猪肉……美味しそう……」
セレナ・デュヴァル(ka0206)はいつも通りだ。しかし普段と違って無表情に見えない。
青い瞳は猛烈な食欲で爛爛と輝き、全身から微かにマテリアルが漏れている。
漏れたマテリアルがセレナの手元で固まり、瞬間的に加速して遠くの猪に届く。
体が小さく速度も遅い猪に着弾。マテリアルは衝撃に変換され猪の前半分を挽肉と骨片の混合物に変える。
「煮込んでも……スープが美味しそう……」
セレナの口角が吊り上がる。
無表情でも美人な彼女がそんな顔をすると異様な迫力があった。
「ほ。大した気合よの」
朱殷は右側で数体の猪を同時に防ぎ、躱し、足止めを行っている。
手こずっているのではなくわざとだ。
「畑近くの獣をほっとくわけにもいかないよな」
ゲンは溜息に似た息を吐き真正面から猪を受け止める。
適度な脂肪に包まれた筋肉が厚みを増す。ゲンが片手だけで猪を抑え、利き手で銃を耳に押しつける。
乾いた音が響く。猪の反対側の耳から大量の血が噴き出した。
「突進には注意ですね……」
ゲンの脇を光の矢がかすめる。
朱殷との戦いに参加すべく駆けてきた猪が、マジックアローによって鼻から後頭部に達する大穴を開けられた。
濃い血の臭いが撒き散らされる。
猪達はここが死地であることをようやく悟り、180度反転して茂みへ、そして深い後の中に逃げようとした。
朱殷の動きが変わる。一見無造作に、その実精密極まりない動きで、猪1体を除く全ての急所に刃を差し込んだ。
ベアトリスが銃を下ろす。
セレナがワンドを落として猪肉の回収をはじめる。
ゲンはただ一匹逃げる猪を見つつポケットから魔導短伝話を取り出す。
「こちは畑班。撃退終了。無傷のうりぼうが1匹西北西に向け逃走中」
『森班了解です。追跡に移ります』
「畑班了解」
見た目は気の良いあんちゃんでも精鋭である元CAM乗りだ。通信機の扱いは実に見事で手慣れていた。
「うぉっ」
ゲンが足音も立てずに跳躍し畑の外へ着地する。
直前まで彼がいた場所では元気なミミズが蠢いている。
「ミミズが元気……良い畑で良いカボチャがとれる……」
内心非常に喜んでいるセレナは、龍が舌なめずりしているようにも見えたらしい。
●森
そのまま伸びれば建材として使えたはずの若木が砕かれ、食用可能な草や実も乱暴に食い荒らされている。
そんな荒れた森の中を不知火陽炎が駆ける。
畑で撃退された猪の足音を頼りに草をかきわけ凸凹の地面に足を取られないよう注意し続け、走り始めて数分後には疲労がたまっていた。
「多分そろそろ巣穴なので切ります」
風が魔導短伝話を停止させ、速度を上げて不知火陽炎を追う。
彼女の雰囲気は妙に暗い。村人から教わった穴場がいくつも全滅していたからだ。
「何かもう、追い掛けるのが、全力で億劫になって来ました! どなたか、風を背負ってくれませんか?」
自分を含めた雰囲気を変えるためだろう。風は多分彼女なりの冗談を口にする。
「今、仕事中……」
アレン=プレアール(ka1624)はくすりと笑い、そっと風の背を押してやる。
「止まってください」
不知火陽炎が抑えた声で皆に伝える。いつの間にか猪の足音が止まっていたことに気付いたのだ。
慎重に草をどける。そこは比較的開けた場所で、小さな洞窟らしきものがあった。
風が慈善の打ち合わせ通りにロッドを一振り。
薄暗い森の中に光源が出現し、洞窟の中にいる猪が数体照らし出された。
「多いぞ」
兵庫が素早く前に出て槍でひと突き。比較的若い猪が反応する前に仕留める。
「……すまない。せめて、苦しまないようにしてやる……」
アレンが覚醒状態へ移行し、ドラゴンを思わせる眼光と共に急進する。
うりぼうというには少々育ちすぎた猪の首が飛ぶ。残ったうりぼう2匹が恐怖で震えて身を寄せ合っていた。
「……必要以上の殺しは、避けたい、けど」
アレンの構えに乱れはないが、苦渋の色がひどく濃かった。
不知火陽炎と風が一瞬視線をかわす。
10頭以上の猪の猪を倒したことで、既に依頼のノルマは達成している。うりぼうを逃がしても特に問題はない。
「がおー」
風は、畑がある方向へ移動してからワンドを突き出す。
うりぼう達は激しく動揺する。アレンと兵庫が意図に気付いて後退すると、うりぼう達は恐る恐る巣穴から出てびくびくしながら森の奥へ逃げだそうとした。
不知火陽炎の デリンジャーが吼える。狙うのは猪ではなくその足下だ。
うりぼう達は悲鳴をあげて、畑や人里を襲うには遠すぎる場所に向けて逃げていった。
「念のため追うか」
「……そうですね」
兵庫は飄々とした態度で、アレンは露骨に安堵して森の奥へ向かった。
「大仕事ですね」
不知火陽炎は巣穴を再度確認しつつ拳銃からスコップに持ち替える。
利用できないほど荒らすのには時間がかかりそうだ。
「はい。火の準備と解体用の人手を……」
風は完全に調子を取り戻し、魔導短伝話を使って猪肉パーティーの準備をはじめていた。
●自然。そしてお肉
「ガキの頃、爺さん達と修行ついでにした猪狩りを思い出すな」
兵庫は苦笑して足を止めた。
確かあのときも何匹が逃がした気がする。今思えば、必要最小限の殺生ですましていたのかもしれない。
「悪い、見失った」
「俺もだ」
2人は同時に苦笑し覚醒状態を解除した。
「解体に戻る」
後は任せたと来た方向へ走る兵庫。アレンは安堵の溜息に似た息を吐き、おそらく兵庫も気付いていただろう気配に近づいていく。
愛嬌のあるうりぼうの顔が茂みから現れた。
敵意はなく怯えもあまりない。
「群れが複数あったのか」
武器には手触れずにじっくりと観察する。
うりぼうも、その背後にいる親猪も、アレンとの圧倒的な戦力差を理解しているため逃げようとも攻撃しようともしない。
「人里近くに来たら駄目だ」
剣の柄に手を添える。猪達の目力が弱まる。精神的な牙が折れたのだ。
猪の親子が森の奥へ消えていくのを、アレンは無言のまま見送っていた。
「もふもふできなかったな……」
彼は肩を落とし、解体作業が始まっているはずの巣穴跡へ向かっていった。
丁度その頃、畑の側で炎が激しく燃えていた。
血抜きされ内蔵を取り除かれた猪が何体も吊られて炙られ、脂と肉の香りが立ちこめている。
「良い」
朱殷が肉の表面を数センチの厚さで切り落とす。危なげなく宙で受け止め塩を振り、熟成されていないため固いはずの肉をひと噛みで粉砕した。
少々の獣臭さと新鮮な脂が塩と混ざり合う。
野趣に富む地元の酒で胃の腑へ流し込む。
満たされた腹から生きる力が全身に広がっていく気がした。
「げに、げに、酒は良い。おう、小僧どもよ、酒が進んでおらぬな」
ハンターが倒した猪は10体を越えている。8人のハンターでは到底食いきれないので、当然のように村人にも振る舞われていた。
「俺のことは気にするな」
ゲンは鎌でを振るって畑近くの茂みを草刈り機以上の速度で滅殺中だ。猪が畑に忍び寄ることを防ぐための処置である。さすがに夕刻以降に作業をするのは危険。しかも明日朝には村を出るため今のうちに片付けてしまうしかない。
「灰汁が」
多い。セレナが鍋の中に箸を突っ込み中から猪肉を取り出す。
臭いは残っていても肉の厚みは圧巻だ。鉄串に刺して塩を振りかがり火の近くに置いて、十数分前に同じように置いておいた串を手に取る。
囓る。固い。でも美味しい。
黙々と食べるセレナの鼻をチーズの香りがくすぐった。
香りのもとへ視線を向けると、そこではベアトリスが数人のパルムに囲まれ見上げられていた。
「おーっほっほっほ! 生憎ですがアヴェーヌの家に生を受けて以来調理場に立った経験などありませんわ!」
故に調理は他のメンバーや村人の担当である。
村人とパルムに過不足無く行き渡るよう差配し終えた後、ベアトリスはようやく自分の分を皿を受け取った。
旨くはあっても硬い肉をただのナイフで綺麗に切り分け口に運ぶ。彼女のまわりだけ、貴族が集まるパーティ会場のように見えた。
「おかわり」
風が容赦なく料理を求める。
不知火陽炎は灰汁を掬う手を止め、困った顔で風を見た。
「まだ完成していませんよ」
エプロンが防具で武器はお玉。敵は大鍋の中にいる、すくってもすくっても出てくる猪肉の灰汁だ。
「残念です」
相変わらず淡々とし過ぎていて残念そうにはあまり見えない。
「おっ」
タオルで汗を拭き拭きゲンが近づいてくる。
陽が落ちて遠くまで見えないが、畑から森の近くまで、背丈のある草は9割方刈られていた。
「この匂い、ミソにショウユがあるのか!」
鍋を覗き込む。
相変わらず灰汁がある。しかし猪から溶け出した脂が浮かび、ミソと一緒に具材に染みこんでいる。
「よく買えたな」
「消費期限切れ直前の品を安く譲ってもらえました」
風とゲンの視線に負けて、火が通っている肉とハーブ、だしをとった後の昆布を器に入れる。
ゲンが音を立てて汁をすすり肉をかみ砕き、エールで腹に流し込む。
「うん」
あまりに美味しそうに食べるので、パルムや村人が威の猪鍋の周りに集まって来る。
集まって来た村人を煙が襲う。
半数以上が咳き込み、けれど嫌な顔をするどころか目を輝かせていた。
「すぐには出来ないぞ」
簡易燻製小屋から兵庫が声をかける。
「完成するのは俺達が帰ってからだ。これから来る冬の為の貴重な食材として大いに利用してくれ」
村人から歓声があがり、いつの間にか数が増えたパルムがハイタッチをしていた。お酒や調味料も増えている。多分差し入れのつもりなのだろう。
「火の番、しようか?」
アレンが提案する。凛々しく迫力のある戦闘中とは打って変わってボーッとしている。
「おう。受け取れ」
重低音が空から迫る。
アレンが危なげなくキャッチしたそれは、大柄な猪の骨付き肉であった。
朱殷に目礼してかぶりつく。
命の味が口から体全体に染みこみ、疲れが消え肉と血が増えていくようだ。
肉と脂の匂いに甘いカボチャの香りが混じる。食いだめのつもりで黙々かつ高速で食べる風の横で、セレナが村のご婦人から大量のカボチャを渡されていた。
「お土産に持って帰っても構いませんでしょうか?」
「領主様を通さないと街の商人が縄張り荒らしだなんだのとうるさくてね。ここでならいくらでも食べて良いからさ」
ごめんなと頭を下げるご婦人に、ありがとうございますと一礼するセレナ、そして待ってましたとカボチャを焼いて食らっていくハンター達。
宴は夜明けまで続き、ハンター達は猪の不要部位を丁寧に埋葬した後、村人に惜しまれながら帰路につくのだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/10 01:16:03 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/13 18:32:09 |