ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】グリーン・グリーン
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/19 07:30
- 完成日
- 2016/08/27 18:44
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
紅い髪の女が、船上で海を眺めていた。
その表情は決して明るくはなかったが、かといって悲嘆に染まってもいない。
良くも悪くも、瞳はその景色をきちんと映してはいなかった。
「どうした、なんか見えたのか?」
そこへ声がかかり、女は振り返る。仮面をつけた大男は女の隣に立ち、大きく背筋を伸ばした。
「ここらは暗黒海域つって、何がどうなってるのかわからん海だそうだ」
「ああ。何年も人が足を踏み入れていない場所らしいな」
「人間がしばらく行き来しなくなると……あー。歪虚の汚染ってやつで、空気がマズくなっちまって、そんで余計に人が寄り付かなくなる。今は、イニシャライザーってやつが、空気をウマくしてれてるらしいけどよ」
というのは、全部受け売りの言葉だ。ここに来る前に、オズワルドから聞いた話に過ぎない。
仮面の男は腕を組み、大きくあくびをしながらその事を思い返した。
小さな村が炎に包まれ、己の宿命を知ったある男の物語――。
彼はバルトアンデルス城に保護され、自身がどのような存在であるのか、説明を受けた。
しかし、結局のところ全ての記憶を思い出す事はできなかった。
「いや、一応、チョットずつ思い出してはいるんじゃねぇかなあ? オレ、この城も見覚えあるし」
「だったらいいんだがな……いや、記憶を取り戻されても厄介ではあるんだが」
革命戦争を共にした戦友であり、あの激動の時代を共に生きた二人の男もずいぶんと歳を食った。
上着を脱いだオズワルドはグラスに注がれた酒をぐっと呷り、深々と息を零す。
「お前らの一族は本当に厄介だ。許されるなら今すぐ俺がお前の心臓に槍をブチ込んでやるんだがな」
「わはは、それは困る! だがまあ、よくわからんが苦労をかけているらしい」
「それはお前の息子に言ってやれ。なんでお前からアレが生まれたのかサッパリ理解できん程よく出来てるぞ。外見的特徴に一致がなかったら血のつながりを疑うところだ」
「それなんだがな。オレは“お父さんだよ!”と二人に会ってやるべきだろうか?」
純朴な疑問に、オズワルドは首を横に振る。
「お前の娘は親子揃って記憶喪失だ。今のヴィルヘルミナは、皇帝であることの意味を見失っている」
「意味?」
「奴には夢があった。夢を叶える手段として、皇帝になった。奴にとって皇帝は終着点ではないんだ」
ヴィルヘルミナは己が町中を歩けば周辺住民に危険が及ぶと理解し、今は毎日城の中でぼんやり過ごしている。
そんな姿を兵士に見られては士気も下がると、実質軟禁状態であった。
「……よし! オズワルド、あいつの事はオレ様に任せとけ!」
「何をどう任せろと?」
「旅に出るんだよ。自分を見つめなおす旅だ。ついでに、世直しもしてくる。どうだ、いい考えだろう?」
認めるのは癪だったが、確かに良い考えだ。
ヴィルヘルミナを城に閉じ込めておいても状況は好転しない。
記憶を取り戻す鍵はきっとこの城の外の世界にあるのだ。それに、ここに記憶喪失の皇帝二人が揃っているのも厄介。
想定し得る“敵”に居場所を悟らせない旅には、何より移動を続けるのが最善だ。
「丁度、ソサエティから連合軍に兵力の募集があったばかりだ。お前らを派遣してやっても良い。何より、今となっちゃ帝国内をうろつくより、国外に行ったほうが安全だ……ただし、一つ条件がある」
「ん? 一つでいいのか?」
「……いやとりあえず一つだ。ヴィルヘルミナには、お前が父親である事を伝えるな。無論、他の兵にもだ」
大男は腕を組み、顎鬚をいじる。
「なんでだ? オレが親父だとわかれば、あの子も記憶を戻すかもしれないだろ?」
「お前らは二人共世界的な有名人なんだ。素性くらいは隠さないと、話にならん。約束が守れないのなら、外出は許さねェぞ」
こうして男は偽名と共に、素性を隠す仮面を与えられた。
今は帝国軍から派遣された傭兵という扱いで、この船――帝国軍第四師団の軍艦に同乗していた。
「なあ。嬢ちゃんには夢があるのか?」
「夢……? いや、特にはないな。今の私にとって、夢と呼べる程はっきりとしたものは」
「そうか? よ~く考えてみろよ。多分何か、お前さんの生き方を決めるようなモンがあるはずだぜ」
ヴィルヘルミナは首を傾げる。そして男と向き合い。
「貴殿……確か、オズワルドが私につけた護衛だったな」
「おう、そうだぜ」
「にしては、随分馴れ馴れしいというか……自覚はないが、私は皇帝らしくてな。私に声をかける者は、皆腫れ物に触るようだった」
「馴れ馴れしいのはイヤかい?」
「まさか。お姫様扱いには辟易していたところだよ」
片目をつむりながら肩を竦めるヴィルヘルミナに、大男はガハハと笑う。
「ところで貴殿、名はなんというのだ?」
「ヒル……あ」
「ひる?」
「ブラ……ヒルどん……いや、ブラトンだ。ブラトン・ヨクネルクウ」
「変わった名前だな。まあ、よろしく頼むよ」
二人が握手をした直後だ。大きく船体が揺れ、咄嗟にブラトンはヴィルヘルミナを片腕で抱き留めた。
船乗りたちのざわめきの中、海中から無数の影が跳躍、船に取り付いてくる。
「うおっ、魚人間じゃねぇか!?」
「亜人……いや、これは既に歪虚……か」
魚人が銛を手に襲いかかると、ブラトンは腰に下げた機械刀を抜く。
それは光を帯びると変形し、薙刀の形を取る。絶火剣シャイターン……それでブラトンは魚人を切り捨てる。
「やべえ、ノリで斬っちまった……話せば分かる相手だったらどうしよう……なんかスマン」
更に船体が大きく揺らぐ。どうやら、船の周りに何かがいるらしい。
海中に見える大きな影が水しぶきと共に顕になる。それは非常に長い身体を持つ、海蛇のような歪虚だった。
「うっひょー! デケェなおい! 暗黒海域の正体見たりってか!? テンションあがるぜ!」
「この状況でよくそんなに楽しめるな」
「ハハハ! どんな時でも楽しむもんさ。テメエの人生、テメエの命。どんな時でも全力じゃなきゃ勿体ねぇ!」
巨大な海蛇は口から水弾を発射。かなりの威力なのか、船体に穴が空いてしまう。
「船もそう長くは持たねぇな……かといって避けずに全部防ぐわけにもいかねぇし……さて、どうするかねぇ?」
その表情は決して明るくはなかったが、かといって悲嘆に染まってもいない。
良くも悪くも、瞳はその景色をきちんと映してはいなかった。
「どうした、なんか見えたのか?」
そこへ声がかかり、女は振り返る。仮面をつけた大男は女の隣に立ち、大きく背筋を伸ばした。
「ここらは暗黒海域つって、何がどうなってるのかわからん海だそうだ」
「ああ。何年も人が足を踏み入れていない場所らしいな」
「人間がしばらく行き来しなくなると……あー。歪虚の汚染ってやつで、空気がマズくなっちまって、そんで余計に人が寄り付かなくなる。今は、イニシャライザーってやつが、空気をウマくしてれてるらしいけどよ」
というのは、全部受け売りの言葉だ。ここに来る前に、オズワルドから聞いた話に過ぎない。
仮面の男は腕を組み、大きくあくびをしながらその事を思い返した。
小さな村が炎に包まれ、己の宿命を知ったある男の物語――。
彼はバルトアンデルス城に保護され、自身がどのような存在であるのか、説明を受けた。
しかし、結局のところ全ての記憶を思い出す事はできなかった。
「いや、一応、チョットずつ思い出してはいるんじゃねぇかなあ? オレ、この城も見覚えあるし」
「だったらいいんだがな……いや、記憶を取り戻されても厄介ではあるんだが」
革命戦争を共にした戦友であり、あの激動の時代を共に生きた二人の男もずいぶんと歳を食った。
上着を脱いだオズワルドはグラスに注がれた酒をぐっと呷り、深々と息を零す。
「お前らの一族は本当に厄介だ。許されるなら今すぐ俺がお前の心臓に槍をブチ込んでやるんだがな」
「わはは、それは困る! だがまあ、よくわからんが苦労をかけているらしい」
「それはお前の息子に言ってやれ。なんでお前からアレが生まれたのかサッパリ理解できん程よく出来てるぞ。外見的特徴に一致がなかったら血のつながりを疑うところだ」
「それなんだがな。オレは“お父さんだよ!”と二人に会ってやるべきだろうか?」
純朴な疑問に、オズワルドは首を横に振る。
「お前の娘は親子揃って記憶喪失だ。今のヴィルヘルミナは、皇帝であることの意味を見失っている」
「意味?」
「奴には夢があった。夢を叶える手段として、皇帝になった。奴にとって皇帝は終着点ではないんだ」
ヴィルヘルミナは己が町中を歩けば周辺住民に危険が及ぶと理解し、今は毎日城の中でぼんやり過ごしている。
そんな姿を兵士に見られては士気も下がると、実質軟禁状態であった。
「……よし! オズワルド、あいつの事はオレ様に任せとけ!」
「何をどう任せろと?」
「旅に出るんだよ。自分を見つめなおす旅だ。ついでに、世直しもしてくる。どうだ、いい考えだろう?」
認めるのは癪だったが、確かに良い考えだ。
ヴィルヘルミナを城に閉じ込めておいても状況は好転しない。
記憶を取り戻す鍵はきっとこの城の外の世界にあるのだ。それに、ここに記憶喪失の皇帝二人が揃っているのも厄介。
想定し得る“敵”に居場所を悟らせない旅には、何より移動を続けるのが最善だ。
「丁度、ソサエティから連合軍に兵力の募集があったばかりだ。お前らを派遣してやっても良い。何より、今となっちゃ帝国内をうろつくより、国外に行ったほうが安全だ……ただし、一つ条件がある」
「ん? 一つでいいのか?」
「……いやとりあえず一つだ。ヴィルヘルミナには、お前が父親である事を伝えるな。無論、他の兵にもだ」
大男は腕を組み、顎鬚をいじる。
「なんでだ? オレが親父だとわかれば、あの子も記憶を戻すかもしれないだろ?」
「お前らは二人共世界的な有名人なんだ。素性くらいは隠さないと、話にならん。約束が守れないのなら、外出は許さねェぞ」
こうして男は偽名と共に、素性を隠す仮面を与えられた。
今は帝国軍から派遣された傭兵という扱いで、この船――帝国軍第四師団の軍艦に同乗していた。
「なあ。嬢ちゃんには夢があるのか?」
「夢……? いや、特にはないな。今の私にとって、夢と呼べる程はっきりとしたものは」
「そうか? よ~く考えてみろよ。多分何か、お前さんの生き方を決めるようなモンがあるはずだぜ」
ヴィルヘルミナは首を傾げる。そして男と向き合い。
「貴殿……確か、オズワルドが私につけた護衛だったな」
「おう、そうだぜ」
「にしては、随分馴れ馴れしいというか……自覚はないが、私は皇帝らしくてな。私に声をかける者は、皆腫れ物に触るようだった」
「馴れ馴れしいのはイヤかい?」
「まさか。お姫様扱いには辟易していたところだよ」
片目をつむりながら肩を竦めるヴィルヘルミナに、大男はガハハと笑う。
「ところで貴殿、名はなんというのだ?」
「ヒル……あ」
「ひる?」
「ブラ……ヒルどん……いや、ブラトンだ。ブラトン・ヨクネルクウ」
「変わった名前だな。まあ、よろしく頼むよ」
二人が握手をした直後だ。大きく船体が揺れ、咄嗟にブラトンはヴィルヘルミナを片腕で抱き留めた。
船乗りたちのざわめきの中、海中から無数の影が跳躍、船に取り付いてくる。
「うおっ、魚人間じゃねぇか!?」
「亜人……いや、これは既に歪虚……か」
魚人が銛を手に襲いかかると、ブラトンは腰に下げた機械刀を抜く。
それは光を帯びると変形し、薙刀の形を取る。絶火剣シャイターン……それでブラトンは魚人を切り捨てる。
「やべえ、ノリで斬っちまった……話せば分かる相手だったらどうしよう……なんかスマン」
更に船体が大きく揺らぐ。どうやら、船の周りに何かがいるらしい。
海中に見える大きな影が水しぶきと共に顕になる。それは非常に長い身体を持つ、海蛇のような歪虚だった。
「うっひょー! デケェなおい! 暗黒海域の正体見たりってか!? テンションあがるぜ!」
「この状況でよくそんなに楽しめるな」
「ハハハ! どんな時でも楽しむもんさ。テメエの人生、テメエの命。どんな時でも全力じゃなきゃ勿体ねぇ!」
巨大な海蛇は口から水弾を発射。かなりの威力なのか、船体に穴が空いてしまう。
「船もそう長くは持たねぇな……かといって避けずに全部防ぐわけにもいかねぇし……さて、どうするかねぇ?」
リプレイ本文
巨大な海竜の咆哮に応じるように海中から飛び出す魚人族。
久延毘 大二郎(ka1771)は感心したように、顎に手をやり。
「そう言えば、リアルブルーではシーサーペントもUMAの一種に数えられていた。フム、これもこれで、貴重な体験に違いない」
「余裕ぶってる場合じゃないよ! 船ってのは、損傷箇所によっては簡単に沈むんだ。さっさとあいつを片付けないと!」
レベッカ・アマデーオ(ka1963)の言葉に「違いない」とワンドを振るう大二郎。
放たれたアースバレットが海竜の腹にめり込むが、海竜は健在だ。
「ほう。あれで貫けんとは、頑丈な生物だ。いや、柔軟か?」
海竜は大きく口を開き、水弾を発射する。そのサイズは人間をまるごと擁して余りある。
飛び退く大二郎とは入れ替わり、エステル・L・V・W(ka0548)と神楽(ka2032)が飛び出す。
二人は同時に身構えて水弾の炸裂を受け、その体が大きく背後へ押しのけられる。
「ぶべえ! 威力高すぎっす!?」
「揺れる船上で踏ん張りが効きませんわ……! 一人で受けては、最悪落とされますわね!」
二人は同時にリジェネレーションを発動。先に受けたダメージは既に回復を開始している。
船体にダメージを受けない為には、攻撃を受け止める必要がある。敵の攻撃は予想以上だが、幸い船体に傷はない。
一度海中へ潜った海竜と入れ替わりに襲いかかる魚人に束ねた手裏剣を放つシェリル・マイヤーズ(ka0509)。
「軍人さん達は守るから……修理、頑張って」
船上で闘うハンターら。一方、レベッカは海竜の動きを追っていた。
「攻めてこない……って、船長、舵切って! 海中から突っ込んでくるつもりだ!」
「はああ!?」
「船は下方からの攻撃に弱いんだよ。竜骨を折られたら一撃でアウトだ! いいから切って!」
急に揺れる船にあちこちでたたらを踏むハンター達。そこへ海中から空中へと勢い良く海竜が飛び上がる。
なんとか突進を回避した船だが、大波に船が軋み、傾く。
「ああー! せっかく事前に準備したバリケードがー!」
空中へ吹っ飛びながら嘆くユノ(ka0806)。というか、殆どのハンターが空中にいる。
シェリルは近場の兵士を掴んで留め、レベッカはロープを片手に空に舞い上がった船長を掴む。
「エステルさん、神楽くん!」
ジェットブーツを使ったキヅカ・リク(ka0038)は二人の足を掴み、甲板へ放り投げ、自分も転がり込むように着地。
ユノはルミナが確保し……しかし、その目の前を大二郎とカナタ・ハテナ(ka2130)が落ちていく。
「こういうケースもあるのだな……実に興味深い」
「言っとる場合かーーーー!?」
ばしゃーんと水飛沫があがる。そこへユノは駆け寄りウォーターウォークを、そしてシェリルは浮き輪を投げ入れる。
「二人共大丈夫ー? 今助けるからねー」
「早く引き上げないとこの高波だ、覚醒者でも溺れるよ!」
ライフルで魚人を撃ち落としながら叫ぶレベッカ。長大な海竜が動けばそれだけ波が立つのだ。
距離のある海竜へ射撃するキヅカと神楽。エステルは攻撃手段がなく「ぐぬぬ」と地団駄を踏む。
「ちょっと! そんな遠くからなんて卑劣ですわ! 正々堂々戦いなさい!」
「とか言ってるそ水弾が来るっす!」
連続して放たれた水弾。一発目は神楽が受けて、吹き飛ぶ。
続けて二発目、キヅカが防御。大盾で受けた事もあり、ノックバックは少ない。
「リク!」
三発目はキヅカを背後からエステルが支えて受ける。船は揺れたが、二人にダメージはない。
海竜は水面を滑るように加速し、そのまま船へと突っ込んでくる。そこへずぶ濡れになったカナタが駆け寄り。
「さっきは良くもやってくれたの……ッ! それ以上好きにはさせんのじゃッ!」
両腕を広げ、周囲に光の結界を展開。それに激突した海竜は空中で身体を縮め、大きくのけぞった。
敵の侵入を防ぐ結界、ディヴァインウィル。武器や水弾のような攻撃は防げないが、突進は「侵入」を前提とした攻撃。であれば、侵入ができなかった時点でキャンセルされる道理。
「今じゃ! 攻撃を!」
結界を貼り続ける間、カナタは攻撃に参加できない。
代わりに遠距離攻撃を持つ者が、そして海中から復帰した大二郎が魔法を唱える。
「頭部を狙うんだ! たぶん、重要器官が密集してる!」
「承知したのである」
キヅカの声に従い、大二郎はアースバレットを放つ。
彼の魔法精度ならば距離が遠くても命中は容易。顔面に岩を受けた海竜が怯む。
再度海中へ没すると、更に魚人が出現。船に飛び乗ると銛で襲いかかる。
「ったく、キリがねぇぜ! ここらに魚人の巣でもあんのか!?」
喚きながら薙刀を振るうブラトン。そこへユノが魚人を引き連れて走ってくる。
「おじさーん、後はよろしくー!」
「お、おう……おおう!?」
ユノは敵を集めてここまで連れてきたのだ。ブラトンはマテリアルを帯びた薙ぎ払いでこれを一刀に蹴散らす。
「おおー。やるねおじさん。……みんな、次の攻撃に備えてウォーターウォークをかけるから。時間ないから、自信ない人優先ねー」
「ルミナちゃん、一応聞くっすけど、船内に避難する気はあるっす?」
「いや。だが、兵士は収容した方が良いかもしれんな。幸い、船の損傷は少ない」
「はあ……なら、自分の安全第一で頼むっすよ。前にも言ったっすけどあんたの命はあんたが思っている以上に重たいものなんすよ」
神楽の言葉の終わりを待たず、シェリルがとてとてと駆け寄りぎゅっとルミナの手を握る。
「へーかは……守る。私の手は小さいけど……でも……」
その手をルミナはしっかりと握り返す。キヅカはそれを横目に確認し、神楽とエステルに手を伸ばした。
「もう一回さっきのが来るよ! 全員備えて!」
レベッカの言葉に身構えるハンター達へ、海中から巨大な水飛沫を伴って海竜が飛び出す。
「ぬわー! 下方向からの突進は防ぎようがないのうッ!?」
「はっはっは! なんだか楽しくなってきたぜ!」
甲板に薙刀を突き刺し、ぶら下がるようにして耐えるブラトン。カナタはその小脇に抱えられ、迫る敵を睨む。
「水弾が来るのじゃ!」
「リク、このままお投げなさいな!」
「えぇ!? ま、まあそれでいいなら……」
着地前にエステルを放り投げるキヅカ。エステルは水弾に突進し、相殺して吹き飛ぶとそのままキヅカの腹にめり込む。
「ぐえぇっ、なんでこっちにーー!?」
「止めたのだからよいでしょうーー!?」
「ウォーターウォークあるし、二人はへーきでしょー」
言いながらユノは船体に手をつき、アースウォールを展開。これで水弾を防いだが、一撃で砕かれてしまった。
傾いた船を素早く駆け抜けたシェリルが二人を掴んで船上に引き止めた頃、海竜は既に突進に入っている。
「ったく、うっとーしーんだよ! 少し黙ってろ!」
腕にロープを巻きつけ船上を走ったレベッカは、突進に合わせて船を飛び出すと右手を突き出し攻性防壁を発動。
雷で海竜を停止させ自分は空に投げ出されながらデルタレイを放つ。
「僅かに動きが鈍った……!」
「うむ。これ以上距離を離される前に、ここで止めるとしよう」
カナタと大二郎は同時に魔法を詠唱。
カナタが創り出した光の杭にはなぜか猫が乗っている。そして大二郎の背には一ツ目の幻影が現れた。
「唸れ猫声ッ!」「竜神の瞬きよ」
「にゃんにゃん猫神判ッ!!」「氷嵐、一目連――!」
猫を伴った杭が海竜に突き刺さり、その身体が吹雪で凍てついていく。
海竜は水属性を持ち、同属性によるダメージは減衰する。だが、体表に水を纏った海竜への凍結効果はむしろ増強されたらしい。
「氷じゃダメージは与えられなくても、動きを止められるのは重要だよね」
ユノもこれにアイスボルトで続くと、もがく動きが鈍っていく。その様にブラトンは槍を抜き。
「よっし、攻撃のチャンスだぜ!」
「お待ちなさーーーーい!」
船の反対側から猛然と走るエステルとキヅカ。そしてシェリル。
「ええ、わたくしです! 最後の見せ場はわたくし! このわたくしが華麗に決めますからっ!!」
「でも……ちょっと距離ある、よ?」
「ここで決めないともう船も危ないでしょ! 僕達で突っ込む!」
こくりとうなずき、シェリルは手裏剣を構える。邪魔な魚人を撃ち抜き、神楽が手招きする。
「進路クリアっすよ!」
ユノは進路上に手を突き、アースウォールを出現させる。
その岩の上に乗りながらキヅカは屈み、エステルはその肩に着地する。
「「いっけええええーーーー!!」」
キヅカがジェットブーツで跳ぶと、更にエステルは再跳躍。
「ドゥン・スタリオン!! ハイドー!!」
落下と共に槍で海竜の頭部を貫くエステル。更にキヅカは落下しながら海竜に密着し、【豪炎】を放つ。
火炎放射に慄く海竜。そこへシェリルの手裏剣に続きハンターらが一斉に遠距離攻撃を行うと、海竜は悲鳴を上げてその場で塵に還っていった。
「どうやら撃破したようだな……っと」
僅かに立ち位置をずらす大二郎。そこへレベッカが着地する。
吹き飛ぶのをロープでこらえたが、高所過ぎたのでマストを通じて降りてきたのだ。
「それはいいっすけど、あの二人落ちるんじゃないっすか?」
神楽の指差す先、ドヤ顔で親指を立てたエステルがキヅカにやや遅れ水飛沫を上げた。
「船長、今回の調査はここらが潮時だよ。さっきみたいなのがまだいるかもしれないんだし」
レベッカの進言を受けるまでもなく、調査は引き上げとなった。
こう強力な歪虚があちこちにいるようでは、暗黒海域と呼ばれるのも分かる気がする。
「海ってのは陸とは比べ物にならないくらい、簡単に人が死ぬ場所だからね。さっきの大揺れで飲水けっこー失ってるし。飲水ないと覚醒者でも死ぬからね?」
「せっかく未知の領域なのだ。持ち帰る新情報が欲しいところだが……やれやれ、自慢の一張羅がずぶ濡れだ」
「ただの白衣じゃないんすか?」
「特注なのだよ、これはね」
白衣を脱いで乾かす大二郎に「へえ」と応える神楽。
「それにしても、あの二人はまた無茶したっすね」
「ほんとねー。引き上げる側の気持ちにもなってほしいよー」
神楽とユノの視線の先では、濡れ鼠状態のエステルがブラトンの胸ぐらを掴んでいた。
「偽名だなんて……そんな、面白いマネ! そういう態度ならわたくしだってデューク・ウルフスタンとでも名乗りましょうか、領地返しなさいドロボー!」
「はっはっは! なんだかよくわからねえが、すまんすまん!」
「すまんで済むかーーっ!!」
「へーかもおじさんも……本当に忘れちゃったんだね」
俯き、シェリルはルミナの手を取る。
「歪虚に憑かれた時……怖かった。失うんじゃないかと……」
こみ上げる涙を堪えたのは、掌にある温もりが本物だったから。
「記憶……せめてカッテ……弟の事は思い出せるといい、ね」
「シェリル」
ルミナは片膝を突き、小さなシェリルの身体を強く抱きしめた。
「心配をかけたね。でも、私は大丈夫だよ」
一瞬、記憶が戻った気がした。だがそんな筈はない。
それでも大丈夫だと語った言葉が苦しく、シェリルはきつく目を瞑った。
「どっちでもいいよ……だから……私、待ってるね」
ルミナの額にキスをしてシェリルは目尻の涙を拭った。ルミナは立ち上がり、優しくシェリルの頭を撫でる。
「ミナおねえさーん! 僕もハグしてーっ!」
飛びつくユノの姿を横目に、エステルは鼻を鳴らす。
「呑気なものですわね。人をめちゃくちゃにしておいて、自分たちは忘れて」
「オレは何もわからんが、多分悪いのはあいつじゃなくてオレだ。オレはお前さんに謝るべきかね?」
「まさか! 勘違いなさらないで。謝って済む問題では……ええ。そういう問題ではなくてよ」
頭を振り、エステルは複雑な笑みを浮かべる。
「必要なのよ、憎しみも。だからわたくしは愛と共に憎んであげるの。そうでなきゃ、きっと人間ではいられないもの」
「そうか。よくわからんが、お前さんはあいつの友達なんだな」
「はあああ!? 文脈読み取る能力欠如してますの!? この革命オタク!」
「ブラトンどん、この間は悪かったのじゃ」
胸ぐらを掴み上げられるブラトンにカナタは頭を下げた。
この男が住んでいた村は焼け落ちてしまった。それはともすれば回避できた事かもしれないと悩んでいたのだ。
「細かい事は気にすんな。そも、オレのせいだろアレ」
「まあそうかもしれぬが気持ちの問題じゃ。ところで、この先ずっと父親であることを隠すつもりかの?」
「それも親としてどうかと思うのでどこかで暴露したいんだが……ま、もう少ししたらな」
キヅカは騒ぎから少し離れて海を見ていた。
この世界で強い力を手に入れ、先の戦いも見事勝利に終えたが、彼の胸中にはリアルブルーでの事が引っかかっていた。
「考え事か?」
「うん。僕もルミナちゃんの気持ちが少しわかった気がする。世界のどこにもいないのに、生きているって不思議な感じだ」
ルミナは腕を組み、ふむと頷く。
「昔のルミナちゃんの夢を知ってるよ。でも、今は違う。だから、大事だと思えるものを探してみなよ」
「そのつもりだ。生きていれば、未来は無限に広がっている。それは、君にも言える事だがね」
振り返るキヅカに女は優しく笑いかける。
「私はどこにもいないが、確かにここにいる。だから考えるんだ。これからどうするべきなのか」
「前は北の雪原で骸骨と戦って今は東の海で魚人と戦ってるっす。アンタはいつでもどこでも記憶を失っても誰かを守る為に戦うんっすね。アンタは今は何で戦ってるんす?」
神楽の問いかけに女は少し考え。
「君の言う通り。誰かを守る為、かな」
そう、ぽつりと呟いた。
「おーい、せっかくなので記念写真を撮るのじゃ~!」
カナタの手招きに応じ、集まるハンター達。
色々とあったが、一先ずめでたしとシャッターを切ろうとしたその時だ。
水飛沫を上げ、魚人が甲板へ降り立った。全員が身構えた直後。
「マテ! オレ、敵ジャ、ナイ……!」
「……え? 魚人って喋るの?」
「ただでさえ解明されていない物の多いこの世界の、更に未知そのものである領域に来ているんだ。鬼が出ようが蛇が出ようが何らおかしくはあるまい」
銃口を向けたまま首を傾げるレベッカ。大二郎は説明した後、魚人ヘ歩み寄り。
「それで? 敵ではないというのなら、君は何者だね?」
「ナカマ、ホトンド歪虚ニナッタ……オレタチ、滅ブ寸前。新シイナカマ、必要。オマエラ、ツヨイ……タスケテ、ホシイ!」
「ほう? ほうほうほう? 興味深いね……ところで写真を撮ってもいいかね?」
ニヤリと笑ってカメラを取り出す大二郎。
こうして船は謎の魚人を乗せ、港へと引き返していく。
暗黒海域の謎、そして戦いは、まだまだ始まったばかりである。
久延毘 大二郎(ka1771)は感心したように、顎に手をやり。
「そう言えば、リアルブルーではシーサーペントもUMAの一種に数えられていた。フム、これもこれで、貴重な体験に違いない」
「余裕ぶってる場合じゃないよ! 船ってのは、損傷箇所によっては簡単に沈むんだ。さっさとあいつを片付けないと!」
レベッカ・アマデーオ(ka1963)の言葉に「違いない」とワンドを振るう大二郎。
放たれたアースバレットが海竜の腹にめり込むが、海竜は健在だ。
「ほう。あれで貫けんとは、頑丈な生物だ。いや、柔軟か?」
海竜は大きく口を開き、水弾を発射する。そのサイズは人間をまるごと擁して余りある。
飛び退く大二郎とは入れ替わり、エステル・L・V・W(ka0548)と神楽(ka2032)が飛び出す。
二人は同時に身構えて水弾の炸裂を受け、その体が大きく背後へ押しのけられる。
「ぶべえ! 威力高すぎっす!?」
「揺れる船上で踏ん張りが効きませんわ……! 一人で受けては、最悪落とされますわね!」
二人は同時にリジェネレーションを発動。先に受けたダメージは既に回復を開始している。
船体にダメージを受けない為には、攻撃を受け止める必要がある。敵の攻撃は予想以上だが、幸い船体に傷はない。
一度海中へ潜った海竜と入れ替わりに襲いかかる魚人に束ねた手裏剣を放つシェリル・マイヤーズ(ka0509)。
「軍人さん達は守るから……修理、頑張って」
船上で闘うハンターら。一方、レベッカは海竜の動きを追っていた。
「攻めてこない……って、船長、舵切って! 海中から突っ込んでくるつもりだ!」
「はああ!?」
「船は下方からの攻撃に弱いんだよ。竜骨を折られたら一撃でアウトだ! いいから切って!」
急に揺れる船にあちこちでたたらを踏むハンター達。そこへ海中から空中へと勢い良く海竜が飛び上がる。
なんとか突進を回避した船だが、大波に船が軋み、傾く。
「ああー! せっかく事前に準備したバリケードがー!」
空中へ吹っ飛びながら嘆くユノ(ka0806)。というか、殆どのハンターが空中にいる。
シェリルは近場の兵士を掴んで留め、レベッカはロープを片手に空に舞い上がった船長を掴む。
「エステルさん、神楽くん!」
ジェットブーツを使ったキヅカ・リク(ka0038)は二人の足を掴み、甲板へ放り投げ、自分も転がり込むように着地。
ユノはルミナが確保し……しかし、その目の前を大二郎とカナタ・ハテナ(ka2130)が落ちていく。
「こういうケースもあるのだな……実に興味深い」
「言っとる場合かーーーー!?」
ばしゃーんと水飛沫があがる。そこへユノは駆け寄りウォーターウォークを、そしてシェリルは浮き輪を投げ入れる。
「二人共大丈夫ー? 今助けるからねー」
「早く引き上げないとこの高波だ、覚醒者でも溺れるよ!」
ライフルで魚人を撃ち落としながら叫ぶレベッカ。長大な海竜が動けばそれだけ波が立つのだ。
距離のある海竜へ射撃するキヅカと神楽。エステルは攻撃手段がなく「ぐぬぬ」と地団駄を踏む。
「ちょっと! そんな遠くからなんて卑劣ですわ! 正々堂々戦いなさい!」
「とか言ってるそ水弾が来るっす!」
連続して放たれた水弾。一発目は神楽が受けて、吹き飛ぶ。
続けて二発目、キヅカが防御。大盾で受けた事もあり、ノックバックは少ない。
「リク!」
三発目はキヅカを背後からエステルが支えて受ける。船は揺れたが、二人にダメージはない。
海竜は水面を滑るように加速し、そのまま船へと突っ込んでくる。そこへずぶ濡れになったカナタが駆け寄り。
「さっきは良くもやってくれたの……ッ! それ以上好きにはさせんのじゃッ!」
両腕を広げ、周囲に光の結界を展開。それに激突した海竜は空中で身体を縮め、大きくのけぞった。
敵の侵入を防ぐ結界、ディヴァインウィル。武器や水弾のような攻撃は防げないが、突進は「侵入」を前提とした攻撃。であれば、侵入ができなかった時点でキャンセルされる道理。
「今じゃ! 攻撃を!」
結界を貼り続ける間、カナタは攻撃に参加できない。
代わりに遠距離攻撃を持つ者が、そして海中から復帰した大二郎が魔法を唱える。
「頭部を狙うんだ! たぶん、重要器官が密集してる!」
「承知したのである」
キヅカの声に従い、大二郎はアースバレットを放つ。
彼の魔法精度ならば距離が遠くても命中は容易。顔面に岩を受けた海竜が怯む。
再度海中へ没すると、更に魚人が出現。船に飛び乗ると銛で襲いかかる。
「ったく、キリがねぇぜ! ここらに魚人の巣でもあんのか!?」
喚きながら薙刀を振るうブラトン。そこへユノが魚人を引き連れて走ってくる。
「おじさーん、後はよろしくー!」
「お、おう……おおう!?」
ユノは敵を集めてここまで連れてきたのだ。ブラトンはマテリアルを帯びた薙ぎ払いでこれを一刀に蹴散らす。
「おおー。やるねおじさん。……みんな、次の攻撃に備えてウォーターウォークをかけるから。時間ないから、自信ない人優先ねー」
「ルミナちゃん、一応聞くっすけど、船内に避難する気はあるっす?」
「いや。だが、兵士は収容した方が良いかもしれんな。幸い、船の損傷は少ない」
「はあ……なら、自分の安全第一で頼むっすよ。前にも言ったっすけどあんたの命はあんたが思っている以上に重たいものなんすよ」
神楽の言葉の終わりを待たず、シェリルがとてとてと駆け寄りぎゅっとルミナの手を握る。
「へーかは……守る。私の手は小さいけど……でも……」
その手をルミナはしっかりと握り返す。キヅカはそれを横目に確認し、神楽とエステルに手を伸ばした。
「もう一回さっきのが来るよ! 全員備えて!」
レベッカの言葉に身構えるハンター達へ、海中から巨大な水飛沫を伴って海竜が飛び出す。
「ぬわー! 下方向からの突進は防ぎようがないのうッ!?」
「はっはっは! なんだか楽しくなってきたぜ!」
甲板に薙刀を突き刺し、ぶら下がるようにして耐えるブラトン。カナタはその小脇に抱えられ、迫る敵を睨む。
「水弾が来るのじゃ!」
「リク、このままお投げなさいな!」
「えぇ!? ま、まあそれでいいなら……」
着地前にエステルを放り投げるキヅカ。エステルは水弾に突進し、相殺して吹き飛ぶとそのままキヅカの腹にめり込む。
「ぐえぇっ、なんでこっちにーー!?」
「止めたのだからよいでしょうーー!?」
「ウォーターウォークあるし、二人はへーきでしょー」
言いながらユノは船体に手をつき、アースウォールを展開。これで水弾を防いだが、一撃で砕かれてしまった。
傾いた船を素早く駆け抜けたシェリルが二人を掴んで船上に引き止めた頃、海竜は既に突進に入っている。
「ったく、うっとーしーんだよ! 少し黙ってろ!」
腕にロープを巻きつけ船上を走ったレベッカは、突進に合わせて船を飛び出すと右手を突き出し攻性防壁を発動。
雷で海竜を停止させ自分は空に投げ出されながらデルタレイを放つ。
「僅かに動きが鈍った……!」
「うむ。これ以上距離を離される前に、ここで止めるとしよう」
カナタと大二郎は同時に魔法を詠唱。
カナタが創り出した光の杭にはなぜか猫が乗っている。そして大二郎の背には一ツ目の幻影が現れた。
「唸れ猫声ッ!」「竜神の瞬きよ」
「にゃんにゃん猫神判ッ!!」「氷嵐、一目連――!」
猫を伴った杭が海竜に突き刺さり、その身体が吹雪で凍てついていく。
海竜は水属性を持ち、同属性によるダメージは減衰する。だが、体表に水を纏った海竜への凍結効果はむしろ増強されたらしい。
「氷じゃダメージは与えられなくても、動きを止められるのは重要だよね」
ユノもこれにアイスボルトで続くと、もがく動きが鈍っていく。その様にブラトンは槍を抜き。
「よっし、攻撃のチャンスだぜ!」
「お待ちなさーーーーい!」
船の反対側から猛然と走るエステルとキヅカ。そしてシェリル。
「ええ、わたくしです! 最後の見せ場はわたくし! このわたくしが華麗に決めますからっ!!」
「でも……ちょっと距離ある、よ?」
「ここで決めないともう船も危ないでしょ! 僕達で突っ込む!」
こくりとうなずき、シェリルは手裏剣を構える。邪魔な魚人を撃ち抜き、神楽が手招きする。
「進路クリアっすよ!」
ユノは進路上に手を突き、アースウォールを出現させる。
その岩の上に乗りながらキヅカは屈み、エステルはその肩に着地する。
「「いっけええええーーーー!!」」
キヅカがジェットブーツで跳ぶと、更にエステルは再跳躍。
「ドゥン・スタリオン!! ハイドー!!」
落下と共に槍で海竜の頭部を貫くエステル。更にキヅカは落下しながら海竜に密着し、【豪炎】を放つ。
火炎放射に慄く海竜。そこへシェリルの手裏剣に続きハンターらが一斉に遠距離攻撃を行うと、海竜は悲鳴を上げてその場で塵に還っていった。
「どうやら撃破したようだな……っと」
僅かに立ち位置をずらす大二郎。そこへレベッカが着地する。
吹き飛ぶのをロープでこらえたが、高所過ぎたのでマストを通じて降りてきたのだ。
「それはいいっすけど、あの二人落ちるんじゃないっすか?」
神楽の指差す先、ドヤ顔で親指を立てたエステルがキヅカにやや遅れ水飛沫を上げた。
「船長、今回の調査はここらが潮時だよ。さっきみたいなのがまだいるかもしれないんだし」
レベッカの進言を受けるまでもなく、調査は引き上げとなった。
こう強力な歪虚があちこちにいるようでは、暗黒海域と呼ばれるのも分かる気がする。
「海ってのは陸とは比べ物にならないくらい、簡単に人が死ぬ場所だからね。さっきの大揺れで飲水けっこー失ってるし。飲水ないと覚醒者でも死ぬからね?」
「せっかく未知の領域なのだ。持ち帰る新情報が欲しいところだが……やれやれ、自慢の一張羅がずぶ濡れだ」
「ただの白衣じゃないんすか?」
「特注なのだよ、これはね」
白衣を脱いで乾かす大二郎に「へえ」と応える神楽。
「それにしても、あの二人はまた無茶したっすね」
「ほんとねー。引き上げる側の気持ちにもなってほしいよー」
神楽とユノの視線の先では、濡れ鼠状態のエステルがブラトンの胸ぐらを掴んでいた。
「偽名だなんて……そんな、面白いマネ! そういう態度ならわたくしだってデューク・ウルフスタンとでも名乗りましょうか、領地返しなさいドロボー!」
「はっはっは! なんだかよくわからねえが、すまんすまん!」
「すまんで済むかーーっ!!」
「へーかもおじさんも……本当に忘れちゃったんだね」
俯き、シェリルはルミナの手を取る。
「歪虚に憑かれた時……怖かった。失うんじゃないかと……」
こみ上げる涙を堪えたのは、掌にある温もりが本物だったから。
「記憶……せめてカッテ……弟の事は思い出せるといい、ね」
「シェリル」
ルミナは片膝を突き、小さなシェリルの身体を強く抱きしめた。
「心配をかけたね。でも、私は大丈夫だよ」
一瞬、記憶が戻った気がした。だがそんな筈はない。
それでも大丈夫だと語った言葉が苦しく、シェリルはきつく目を瞑った。
「どっちでもいいよ……だから……私、待ってるね」
ルミナの額にキスをしてシェリルは目尻の涙を拭った。ルミナは立ち上がり、優しくシェリルの頭を撫でる。
「ミナおねえさーん! 僕もハグしてーっ!」
飛びつくユノの姿を横目に、エステルは鼻を鳴らす。
「呑気なものですわね。人をめちゃくちゃにしておいて、自分たちは忘れて」
「オレは何もわからんが、多分悪いのはあいつじゃなくてオレだ。オレはお前さんに謝るべきかね?」
「まさか! 勘違いなさらないで。謝って済む問題では……ええ。そういう問題ではなくてよ」
頭を振り、エステルは複雑な笑みを浮かべる。
「必要なのよ、憎しみも。だからわたくしは愛と共に憎んであげるの。そうでなきゃ、きっと人間ではいられないもの」
「そうか。よくわからんが、お前さんはあいつの友達なんだな」
「はあああ!? 文脈読み取る能力欠如してますの!? この革命オタク!」
「ブラトンどん、この間は悪かったのじゃ」
胸ぐらを掴み上げられるブラトンにカナタは頭を下げた。
この男が住んでいた村は焼け落ちてしまった。それはともすれば回避できた事かもしれないと悩んでいたのだ。
「細かい事は気にすんな。そも、オレのせいだろアレ」
「まあそうかもしれぬが気持ちの問題じゃ。ところで、この先ずっと父親であることを隠すつもりかの?」
「それも親としてどうかと思うのでどこかで暴露したいんだが……ま、もう少ししたらな」
キヅカは騒ぎから少し離れて海を見ていた。
この世界で強い力を手に入れ、先の戦いも見事勝利に終えたが、彼の胸中にはリアルブルーでの事が引っかかっていた。
「考え事か?」
「うん。僕もルミナちゃんの気持ちが少しわかった気がする。世界のどこにもいないのに、生きているって不思議な感じだ」
ルミナは腕を組み、ふむと頷く。
「昔のルミナちゃんの夢を知ってるよ。でも、今は違う。だから、大事だと思えるものを探してみなよ」
「そのつもりだ。生きていれば、未来は無限に広がっている。それは、君にも言える事だがね」
振り返るキヅカに女は優しく笑いかける。
「私はどこにもいないが、確かにここにいる。だから考えるんだ。これからどうするべきなのか」
「前は北の雪原で骸骨と戦って今は東の海で魚人と戦ってるっす。アンタはいつでもどこでも記憶を失っても誰かを守る為に戦うんっすね。アンタは今は何で戦ってるんす?」
神楽の問いかけに女は少し考え。
「君の言う通り。誰かを守る為、かな」
そう、ぽつりと呟いた。
「おーい、せっかくなので記念写真を撮るのじゃ~!」
カナタの手招きに応じ、集まるハンター達。
色々とあったが、一先ずめでたしとシャッターを切ろうとしたその時だ。
水飛沫を上げ、魚人が甲板へ降り立った。全員が身構えた直後。
「マテ! オレ、敵ジャ、ナイ……!」
「……え? 魚人って喋るの?」
「ただでさえ解明されていない物の多いこの世界の、更に未知そのものである領域に来ているんだ。鬼が出ようが蛇が出ようが何らおかしくはあるまい」
銃口を向けたまま首を傾げるレベッカ。大二郎は説明した後、魚人ヘ歩み寄り。
「それで? 敵ではないというのなら、君は何者だね?」
「ナカマ、ホトンド歪虚ニナッタ……オレタチ、滅ブ寸前。新シイナカマ、必要。オマエラ、ツヨイ……タスケテ、ホシイ!」
「ほう? ほうほうほう? 興味深いね……ところで写真を撮ってもいいかね?」
ニヤリと笑ってカメラを取り出す大二郎。
こうして船は謎の魚人を乗せ、港へと引き返していく。
暗黒海域の謎、そして戦いは、まだまだ始まったばかりである。
依頼結果
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/08/18 22:24:48 |
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傭兵のルミナちゃんへの質問卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/08/17 01:52:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/15 18:18:51 |