ゲスト
(ka0000)
甲虫王者と女装の騎士
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/21 07:30
- 完成日
- 2016/08/30 02:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●甲虫の王
『東の森に巨大昆虫現る!』
この噂は商人や新聞を通してヴァリオスの人々――主に一部の子供たちに知れ渡った。仕立屋に住む少年にも、その情報が届く。
「ちょっと! どこにいくのよ」
こっそりと裏口に立った少年を、女性が呼び止めた。少年の姉のようだ。女性は目を吊り上げて言葉を発する。
「まさか、噂の巨大昆虫を獲りに行こうと思ってるんじゃないでしょうね。どうせ飼えないくせに! どうしても飼うって言ってもだめよ、今日は留守番してもらうわ」
その言葉にあからさまに渋い顔をした少年を、女性が詰る。
「行こうと思ってたのね?」
少年は何も答えず首を横に振るものの、渋い顔をしていては縦に振っているようなものだ。結局、少年は留守番となるが――当然のように抜け出していた。
「へっへへ、姉ちゃんもバカでー! 抜け道くらい覚えてるんだぜー!」
女性は気付かないのか、浮き浮きした顔で仕入れに向かっている。少年は全速力で彼の住む町から東の森へ向かった。
森に辿り着いてから、少年はその奇妙さに違和感を覚えた。森の中は昆虫を狙っている子供たちで溢れ返っているはずであるのに、人っ子一人見当たらないのだ。
しかしこれを好機と捉えた少年は、草叢を掻き分けて森の中を進んだ。噂によれば、巨大昆虫が出没する大木はそろそろである。揺れるコンパスを見ながら方向を確認し、少年たちの間で出回っている粗い地図で場所を確認する。
粗末な装備の代わりに、幸運が少年に備わっていたのだろう。その大木はすぐに見つかった。少年は罠と昆虫の餌を仕掛け、獲物を待った。それはすぐに訪れた。しかし……
現れた巨大昆虫は、少年めがけて黒光りする大顎を向け、首を切ろうとする。途中で少年の身代わりとなった哀れな木々がすぱっ、すぱっと切れてなぎ倒されていった。
少年は逃げるが、惜しくも窪みに躓き、転んでしまう。姉の言いつけを守っていればよかった……少年がそう悔やみながら目を閉じた、その時だった。
馬の嘶きと、翻るドレス。輝く刃の一閃が少年の目の前に現れた。
●俺は帰ってきた
抱えられ馬上に引き上げられた少年は、ひっくり返って蠢く巨大クワガタを後方に見つけた。
それよりも不思議なのは、助けてくれた女性の体格である。目立たないとはいえ、彼の姉に比べると随分と丸みの少ないような……
「怪我はないかい、怖かっただろう。もう大丈夫だよ」
耳に届いた女性の低音に、少年の頭はより困惑の色に染まった。
「……おにい……さん……?」
「はい、そうなんです……俺の方では一時しのぎが精一杯で……確証は持てませんが、カブトムシの方もこのように狂暴化して人を襲っているのでしょうね。そもそも、巨大化したことそのものが歪虚化によるものだと思います」
少年を姉の元へ帰したアロルドはハンターオフィスに駆け込み、そこにいた中でも話に興味を示したハンターに向かって滔々と語った。
「このままでは危険です。彼のような少年が犠牲になってしまう前に、倒してください」
報酬の代金はアロルドや彼の姉を含む、町の人々から集められるそうだ。さて、どうしたものか……ハンターは考えこんだ。
『東の森に巨大昆虫現る!』
この噂は商人や新聞を通してヴァリオスの人々――主に一部の子供たちに知れ渡った。仕立屋に住む少年にも、その情報が届く。
「ちょっと! どこにいくのよ」
こっそりと裏口に立った少年を、女性が呼び止めた。少年の姉のようだ。女性は目を吊り上げて言葉を発する。
「まさか、噂の巨大昆虫を獲りに行こうと思ってるんじゃないでしょうね。どうせ飼えないくせに! どうしても飼うって言ってもだめよ、今日は留守番してもらうわ」
その言葉にあからさまに渋い顔をした少年を、女性が詰る。
「行こうと思ってたのね?」
少年は何も答えず首を横に振るものの、渋い顔をしていては縦に振っているようなものだ。結局、少年は留守番となるが――当然のように抜け出していた。
「へっへへ、姉ちゃんもバカでー! 抜け道くらい覚えてるんだぜー!」
女性は気付かないのか、浮き浮きした顔で仕入れに向かっている。少年は全速力で彼の住む町から東の森へ向かった。
森に辿り着いてから、少年はその奇妙さに違和感を覚えた。森の中は昆虫を狙っている子供たちで溢れ返っているはずであるのに、人っ子一人見当たらないのだ。
しかしこれを好機と捉えた少年は、草叢を掻き分けて森の中を進んだ。噂によれば、巨大昆虫が出没する大木はそろそろである。揺れるコンパスを見ながら方向を確認し、少年たちの間で出回っている粗い地図で場所を確認する。
粗末な装備の代わりに、幸運が少年に備わっていたのだろう。その大木はすぐに見つかった。少年は罠と昆虫の餌を仕掛け、獲物を待った。それはすぐに訪れた。しかし……
現れた巨大昆虫は、少年めがけて黒光りする大顎を向け、首を切ろうとする。途中で少年の身代わりとなった哀れな木々がすぱっ、すぱっと切れてなぎ倒されていった。
少年は逃げるが、惜しくも窪みに躓き、転んでしまう。姉の言いつけを守っていればよかった……少年がそう悔やみながら目を閉じた、その時だった。
馬の嘶きと、翻るドレス。輝く刃の一閃が少年の目の前に現れた。
●俺は帰ってきた
抱えられ馬上に引き上げられた少年は、ひっくり返って蠢く巨大クワガタを後方に見つけた。
それよりも不思議なのは、助けてくれた女性の体格である。目立たないとはいえ、彼の姉に比べると随分と丸みの少ないような……
「怪我はないかい、怖かっただろう。もう大丈夫だよ」
耳に届いた女性の低音に、少年の頭はより困惑の色に染まった。
「……おにい……さん……?」
「はい、そうなんです……俺の方では一時しのぎが精一杯で……確証は持てませんが、カブトムシの方もこのように狂暴化して人を襲っているのでしょうね。そもそも、巨大化したことそのものが歪虚化によるものだと思います」
少年を姉の元へ帰したアロルドはハンターオフィスに駆け込み、そこにいた中でも話に興味を示したハンターに向かって滔々と語った。
「このままでは危険です。彼のような少年が犠牲になってしまう前に、倒してください」
報酬の代金はアロルドや彼の姉を含む、町の人々から集められるそうだ。さて、どうしたものか……ハンターは考えこんだ。
リプレイ本文
●払暁
「おっきな虫さんっ、わっくわくダヨっ♪」
明け方の薄明りの中で、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)を初めとしたハンターは森の中を進んでいた。異様な静けさの中で、彼らの話し声だけが響いている。
「もう、浪漫!! って感じだよね」
パトリシアの陽気さに同意するように答え、ミィリア(ka2689)は狭霧 雷(ka5296)と大伴 鈴太郎(ka6016)が町の子供たちから集めた情報によって補完された地図を見ながら、方位磁針を手にカブトムシの出現区域を確認していた。
「あぁ……腹が空いたな……」
オルタニア(ka6436)が呟いたことに、ロス・バーミリオン(ka4718)はまさか……と言いたげな視線を遣った。それに気づいたか、オルタニアは弁明する。
「あぁいや、飯は喰ったばかりだからそっちの空腹ではない」
どこか含みのある言葉を置いて、ロスはアロルドの方を見遣る
「アロルドちゃん、すっごい可愛いじゃないのぉ! メイクも今度させてくれない?」
「そうですか? ありがとうございます。では今度ロゼさんに頼んでみようかな」
ロスは女装したアロルドの姿に感激しつつ、
「皆にも可愛いお洋服を着せたいわねぇ」
と続けた。そうこうしているうちにアロルドの案内でクワガタ雑魔――戦士の出現場所に辿り着いた彼らは、それぞれ用意した餌を設置する。カブトムシの出るという場所にも忘れない。
「ヒラヒラした服ですか? 着ないわけじゃないですよ?」
雷は、手作りした寄せ餌を鈴太郎に渡しながら乗り気……というにはどこか違うが、変装の利便性について語った。
「相手を油断させるには最適ですよね。ヒラヒラした衣服は体型や武器を隠しやすいですから」
「記念撮影するなンつってたけど、意外と度胸あンよなぁ」
雷に任された寄せ餌を設置した後、パトリシアの持つカメラを眺めながら、鈴太郎は感心したように言葉をかけた。
「そうだ、髪整えたりしないと……!」
その言葉にはっとしたミィリアは、作業を終えて身嗜みを整える。ロスも同じく動いた。
カブトムシ型雑魔――キングと、戦士の出現場所の中間地点の風下を見つけ、ハンターたちは物陰で二体を待ち伏せる。話し声も途絶えた故に森は気味が悪くなるくらい静まり返った。
「リンタロも、お守りどーぞダヨ♪」
「お、どーも」
声を潜めたパトリシアに声をかけられ、鈴太郎は加護符を受け取る。手描きのそれが皆の元に渡る頃、ハンターたちの視界に噂の巨体が二つ蠢いた。
「ハイッ、みんな笑顔っ♪」
カシャリ、とパトリシアの手にあるカメラのシャッター音が響き、そのレンズは雑魔と、彼らなりの表情をしたハンターをとらえた。
●王と戦士
「さぁて、クワガタちゃーん? 私達と遊びましょ♪」
戦士と戦うべく飛び出したロス、雷、鈴太郎は武器を手に先制攻撃を仕掛ける。速かったのは雷だ。
「援護します!」
研ぎ澄ました感覚をもとに、雷は戦士に向かって撃つ。放たれた弾丸はその甲殻と鋏に当たり、怯ませた。その隙を鈴太郎は逃がさない。
鈴太郎は戦士の凶悪な大顎に恐れず飛び込み、『金剛』で頑健に強化された自らの手で戦士の大顎を抑えた。抵抗する戦士の力強さに鈴太郎の顔が険しくなる。腕にかかる負荷を『怪力無双』で軽減させた。巨大昆虫と少女の力比べだ。
「はえートコ頼むぜ姐御!」
ロスを信じ、鈴太郎は声を上げる。ロスは円を意識した動きで剣に意識を集中させ、敵のがっしりとした足、その節を正確に狙う。低い体勢から地を擦り上げるように切り上げた。赤い軌道が戦士の身体に走る。
雷もロスの切り損ねた足に銃を撃ち込んだ。それによって、何本か崩れかけた足が力の抜けたようにぷらぷらと揺れる。
「うおおおお!!!」
敵が重心を崩し、大顎に込める力の弱まったことを確認した鈴太郎は、渾身の力で戦士を引っ繰り返そうと試みる。
「オネェの馬鹿力、なめんじゃないわよ!!」
「鈴太郎さん、早く!」
ロスが戦士の大顎に鞭を絡ませ、鈴太郎を援護する。雷も銃弾でもって鈴太郎のサポートをした。
雄々しい巨体が、少女の手によってぐるりと天地を変える。轟音を立てて背から着地した戦士は、じたばたと足を蠢かせ足掻いている。晒されている無防備な腹部に、三人は攻撃を打ち込んだ。弱点を襲われ、戦士は衰弱しつつある。
「これで……終わりです!」
「これならどうだああ!!」
雷の一手と、鈴太郎の『鎧徹し』が、その巨体を破った。
「……よし! 後はキングだけよ! その後は!! みんなの!! 可愛いお洋服を探しに!! 行くんだからねっ!!!」
「あっちはまだやってンだな」
テンション高く対キングに向かったロスを横目に、鈴太郎はミィリアの通信を受け取った。
●
「ひあー! キング、おっきんダヨ……!」
ロスたちが戦士に向かって飛び出したと同時刻、パトリシアの言葉を皮切りにミィリア、パトリシア、オルタニア……そしてアロルドはキングと戦うべく駆け出した。
パトリシアが『地脈鳴動』を用いることで、符を持つものに大地のマテリアルが流れ、力が漲っていく。その後、パトリシアはキングの射程に入らないよう、距離を取った。
「さあ来い、どっちの女子力が上か、勝負でござる!」
女子力と書いてパワーと読む。ミィリアはその身に炎のようなオーラを纏って刀を抜き、キングを待ち構えた。その姿を見たキングはミィリアに応じるように突きを放つ。ミィリアの周囲に舞う桜吹雪の幻影が蕾に転じた。
正面から盾で受け止めたミィリアの腕を鈍い振動が襲う。攻撃の後に生まれた隙をミィリアは利用した。刀に受け止められた角が絶大な威力で上方向に持ち上がる。閉じた蕾が激しく返り咲いた。
「虫の体液は紅くないのか……まぁいい、その命を喰らえればいい」
ミィリアがキングに真正面から立ち向かっている間、側面から距離を詰めたオルタニアがキングの無防備な足の節に切りかかる。
「なるほど、ここが弱点ですね!」
アロルドもオルタニアの攻撃に加わり、一本、二本。踏ん張るための支えを唐突に失ったキングはミィリアの力に押されながらバランスを崩し、ひっくり返った。
「うひゃー、ミィリアの女子力さくれつなんダヨっ♪」
その場面をパトリシアはカメラに収めた。残った足をじたばたさせて起き上がろうとする光景は滑稽乍ら哀れを誘う。その隙にミィリアとオルタニアが攻撃を叩き込んだ。オルタニアの哄笑が場に響く。
しかし……その猛攻も中断された。起き上がるキングに押しつぶされないよう、二人は離れる。キングは少ない足で動く術を身に着けたか、先程より緩慢とした動きであるが戦闘態勢に戻った。それだけではない、飛び立とうとその翅を広げている。森の木々が生み出された風で揺れた。葉が擦れあい音を立てる。
ミィリアは頭上高く昇ったキングを見て思わず口を開け、トランシーバーで仲間に連絡をとった。
「離れるんだヨっ!」
パトリシアは咄嗟に符を高く投げ上げる。空中に舞い上がりキングを囲んだ符が稲妻に変じ、キングを貫いた。稲妻に襲われたキングは翅を広げたまま地に堕ちる。
「ミィリアだって突きは得意技なんだから……っ!」
柔らかく無防備な部分を狙い、ミィリアは鍛え上げられた女子力をキングに叩き込む。ふわりと桜吹雪の幻影が、朝の森に舞った。
「すまないな! これが私なりの愛なのでな!」
オルタニアも負けていない。蛇のように目を細め、弱点を突いた。
「ちょっと! 大丈夫!?」
そのタイミングで戦士との戦闘を終えて駆け付けたロスと鈴太郎、雷が四人に加勢する。七人でかかればこれまでの戦闘で弱ったキングは呆気なく力尽き、森の中に死骸を晒す。
「あぁ、甘美だったよその命……」
巨体の倒れる轟音と、陶酔したオルタニアの声がその場に残った……。
●旭日差して
「最後も写真撮る? ……あ、やっぱダメダメ! メイクボロボロぉ!」
「激戦でしたからね……」
カメラを構えたパトリシアに、ロスはテンション高く顔を隠した。それを見ながら、アロルドは滴る汗を拭く。朝日は高く上がり、森はハンターたちの訪れた時より遥かに明るくなった。太陽が巨大昆虫雑魔たちの消えつつある死骸を照らす。
「アチィ……早く帰って着替えてぇ」
戦闘の興奮と夏の暑さに疲れたのか、鈴太郎はこう零した。
「しかしカブトムシというのはここまで大きくなるのか?」
「そんなこともありますよ」
先程斃した敵に対するオルタニアの疑問に、雷はそんな答えを返す。
「本当に腹が減ったな……」
普段は朝食時であろう。オルタニアの他にも、空腹感に襲われた者がいた。
いずれにせよ、森には平穏が訪れ、突然の異端者に身を潜めていた動物たちも姿を現しつつある。子供たちが安心して虫取りが出来るようになるのも、そう遠くはないだろう。
「おっきな虫さんっ、わっくわくダヨっ♪」
明け方の薄明りの中で、パトリシア=K=ポラリス(ka5996)を初めとしたハンターは森の中を進んでいた。異様な静けさの中で、彼らの話し声だけが響いている。
「もう、浪漫!! って感じだよね」
パトリシアの陽気さに同意するように答え、ミィリア(ka2689)は狭霧 雷(ka5296)と大伴 鈴太郎(ka6016)が町の子供たちから集めた情報によって補完された地図を見ながら、方位磁針を手にカブトムシの出現区域を確認していた。
「あぁ……腹が空いたな……」
オルタニア(ka6436)が呟いたことに、ロス・バーミリオン(ka4718)はまさか……と言いたげな視線を遣った。それに気づいたか、オルタニアは弁明する。
「あぁいや、飯は喰ったばかりだからそっちの空腹ではない」
どこか含みのある言葉を置いて、ロスはアロルドの方を見遣る
「アロルドちゃん、すっごい可愛いじゃないのぉ! メイクも今度させてくれない?」
「そうですか? ありがとうございます。では今度ロゼさんに頼んでみようかな」
ロスは女装したアロルドの姿に感激しつつ、
「皆にも可愛いお洋服を着せたいわねぇ」
と続けた。そうこうしているうちにアロルドの案内でクワガタ雑魔――戦士の出現場所に辿り着いた彼らは、それぞれ用意した餌を設置する。カブトムシの出るという場所にも忘れない。
「ヒラヒラした服ですか? 着ないわけじゃないですよ?」
雷は、手作りした寄せ餌を鈴太郎に渡しながら乗り気……というにはどこか違うが、変装の利便性について語った。
「相手を油断させるには最適ですよね。ヒラヒラした衣服は体型や武器を隠しやすいですから」
「記念撮影するなンつってたけど、意外と度胸あンよなぁ」
雷に任された寄せ餌を設置した後、パトリシアの持つカメラを眺めながら、鈴太郎は感心したように言葉をかけた。
「そうだ、髪整えたりしないと……!」
その言葉にはっとしたミィリアは、作業を終えて身嗜みを整える。ロスも同じく動いた。
カブトムシ型雑魔――キングと、戦士の出現場所の中間地点の風下を見つけ、ハンターたちは物陰で二体を待ち伏せる。話し声も途絶えた故に森は気味が悪くなるくらい静まり返った。
「リンタロも、お守りどーぞダヨ♪」
「お、どーも」
声を潜めたパトリシアに声をかけられ、鈴太郎は加護符を受け取る。手描きのそれが皆の元に渡る頃、ハンターたちの視界に噂の巨体が二つ蠢いた。
「ハイッ、みんな笑顔っ♪」
カシャリ、とパトリシアの手にあるカメラのシャッター音が響き、そのレンズは雑魔と、彼らなりの表情をしたハンターをとらえた。
●王と戦士
「さぁて、クワガタちゃーん? 私達と遊びましょ♪」
戦士と戦うべく飛び出したロス、雷、鈴太郎は武器を手に先制攻撃を仕掛ける。速かったのは雷だ。
「援護します!」
研ぎ澄ました感覚をもとに、雷は戦士に向かって撃つ。放たれた弾丸はその甲殻と鋏に当たり、怯ませた。その隙を鈴太郎は逃がさない。
鈴太郎は戦士の凶悪な大顎に恐れず飛び込み、『金剛』で頑健に強化された自らの手で戦士の大顎を抑えた。抵抗する戦士の力強さに鈴太郎の顔が険しくなる。腕にかかる負荷を『怪力無双』で軽減させた。巨大昆虫と少女の力比べだ。
「はえートコ頼むぜ姐御!」
ロスを信じ、鈴太郎は声を上げる。ロスは円を意識した動きで剣に意識を集中させ、敵のがっしりとした足、その節を正確に狙う。低い体勢から地を擦り上げるように切り上げた。赤い軌道が戦士の身体に走る。
雷もロスの切り損ねた足に銃を撃ち込んだ。それによって、何本か崩れかけた足が力の抜けたようにぷらぷらと揺れる。
「うおおおお!!!」
敵が重心を崩し、大顎に込める力の弱まったことを確認した鈴太郎は、渾身の力で戦士を引っ繰り返そうと試みる。
「オネェの馬鹿力、なめんじゃないわよ!!」
「鈴太郎さん、早く!」
ロスが戦士の大顎に鞭を絡ませ、鈴太郎を援護する。雷も銃弾でもって鈴太郎のサポートをした。
雄々しい巨体が、少女の手によってぐるりと天地を変える。轟音を立てて背から着地した戦士は、じたばたと足を蠢かせ足掻いている。晒されている無防備な腹部に、三人は攻撃を打ち込んだ。弱点を襲われ、戦士は衰弱しつつある。
「これで……終わりです!」
「これならどうだああ!!」
雷の一手と、鈴太郎の『鎧徹し』が、その巨体を破った。
「……よし! 後はキングだけよ! その後は!! みんなの!! 可愛いお洋服を探しに!! 行くんだからねっ!!!」
「あっちはまだやってンだな」
テンション高く対キングに向かったロスを横目に、鈴太郎はミィリアの通信を受け取った。
●
「ひあー! キング、おっきんダヨ……!」
ロスたちが戦士に向かって飛び出したと同時刻、パトリシアの言葉を皮切りにミィリア、パトリシア、オルタニア……そしてアロルドはキングと戦うべく駆け出した。
パトリシアが『地脈鳴動』を用いることで、符を持つものに大地のマテリアルが流れ、力が漲っていく。その後、パトリシアはキングの射程に入らないよう、距離を取った。
「さあ来い、どっちの女子力が上か、勝負でござる!」
女子力と書いてパワーと読む。ミィリアはその身に炎のようなオーラを纏って刀を抜き、キングを待ち構えた。その姿を見たキングはミィリアに応じるように突きを放つ。ミィリアの周囲に舞う桜吹雪の幻影が蕾に転じた。
正面から盾で受け止めたミィリアの腕を鈍い振動が襲う。攻撃の後に生まれた隙をミィリアは利用した。刀に受け止められた角が絶大な威力で上方向に持ち上がる。閉じた蕾が激しく返り咲いた。
「虫の体液は紅くないのか……まぁいい、その命を喰らえればいい」
ミィリアがキングに真正面から立ち向かっている間、側面から距離を詰めたオルタニアがキングの無防備な足の節に切りかかる。
「なるほど、ここが弱点ですね!」
アロルドもオルタニアの攻撃に加わり、一本、二本。踏ん張るための支えを唐突に失ったキングはミィリアの力に押されながらバランスを崩し、ひっくり返った。
「うひゃー、ミィリアの女子力さくれつなんダヨっ♪」
その場面をパトリシアはカメラに収めた。残った足をじたばたさせて起き上がろうとする光景は滑稽乍ら哀れを誘う。その隙にミィリアとオルタニアが攻撃を叩き込んだ。オルタニアの哄笑が場に響く。
しかし……その猛攻も中断された。起き上がるキングに押しつぶされないよう、二人は離れる。キングは少ない足で動く術を身に着けたか、先程より緩慢とした動きであるが戦闘態勢に戻った。それだけではない、飛び立とうとその翅を広げている。森の木々が生み出された風で揺れた。葉が擦れあい音を立てる。
ミィリアは頭上高く昇ったキングを見て思わず口を開け、トランシーバーで仲間に連絡をとった。
「離れるんだヨっ!」
パトリシアは咄嗟に符を高く投げ上げる。空中に舞い上がりキングを囲んだ符が稲妻に変じ、キングを貫いた。稲妻に襲われたキングは翅を広げたまま地に堕ちる。
「ミィリアだって突きは得意技なんだから……っ!」
柔らかく無防備な部分を狙い、ミィリアは鍛え上げられた女子力をキングに叩き込む。ふわりと桜吹雪の幻影が、朝の森に舞った。
「すまないな! これが私なりの愛なのでな!」
オルタニアも負けていない。蛇のように目を細め、弱点を突いた。
「ちょっと! 大丈夫!?」
そのタイミングで戦士との戦闘を終えて駆け付けたロスと鈴太郎、雷が四人に加勢する。七人でかかればこれまでの戦闘で弱ったキングは呆気なく力尽き、森の中に死骸を晒す。
「あぁ、甘美だったよその命……」
巨体の倒れる轟音と、陶酔したオルタニアの声がその場に残った……。
●旭日差して
「最後も写真撮る? ……あ、やっぱダメダメ! メイクボロボロぉ!」
「激戦でしたからね……」
カメラを構えたパトリシアに、ロスはテンション高く顔を隠した。それを見ながら、アロルドは滴る汗を拭く。朝日は高く上がり、森はハンターたちの訪れた時より遥かに明るくなった。太陽が巨大昆虫雑魔たちの消えつつある死骸を照らす。
「アチィ……早く帰って着替えてぇ」
戦闘の興奮と夏の暑さに疲れたのか、鈴太郎はこう零した。
「しかしカブトムシというのはここまで大きくなるのか?」
「そんなこともありますよ」
先程斃した敵に対するオルタニアの疑問に、雷はそんな答えを返す。
「本当に腹が減ったな……」
普段は朝食時であろう。オルタニアの他にも、空腹感に襲われた者がいた。
いずれにせよ、森には平穏が訪れ、突然の異端者に身を潜めていた動物たちも姿を現しつつある。子供たちが安心して虫取りが出来るようになるのも、そう遠くはないだろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/17 21:44:07 |
|
![]() |
相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/08/21 06:43:03 |