夏の思い出、おたから探し

マスター:四月朔日さくら

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/08/22 22:00
完成日
2016/08/31 06:18

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 そろそろ夏も終わりの兆しが見えてきた、そんな時期。
 ハンターの周囲ではきな臭い動きも見えているが、勿論そんなことには興味のないハンターだっているし、一般人ならなおのことかも知れない。
 自分たちの住まいが危ういとなればいろいろな意味で必死になるが、リゼリオの住人たちにとってはまだまだ先日の闘技大会の余韻が残っていることや、自分たちへの危害が加わるようなことはまだ余り感じられないこともあって、いつもと変わらぬ日常が続いている。
 戦いは遠い世界のこと、ではないのだけれど、それでも近いわけでもない。
 だから、リゼリオ周辺では今も、以前と何ら変わらぬ生活が続いているのだ。

 そんな中、リゼリオの下町にあるちいさな駄菓子屋が、ひょいとチラシを一枚、ハンターオフィスに届けにやってきた。
「……宝さがし大会?」
「ああ。子どもたちにしてみればハンターなんてあこがれの存在だ。その人達と一緒に遊ぶ機会があれば、喜ぶんじゃないかと思ってねぇ」
 駄菓子屋の女主人は、そう言って笑う。
 宝さがし大会――一種のオリエンテーリングだ。リゼリオの近くの雑木林にあらかじめ隠した『おたから』を、子どもたちと同じ目線で探したりしたら楽しかろうと、提案してきたのだ。子どもたちも参加するらしく、それなりの規模で行うらしい。
「ふむふむ……あ、ペアでの参加推奨なんですか?」
「ま、吊り橋効果、なんて単語もあるじゃないか。夏の思い出作りにもいいかもしれないだろう?」
 無論ひとりでの参加も大丈夫。ハンデなども特になく、単純に楽しめるなら複数で遊ぶ方が良かろうという発想なのだそうだ。
「どうかねえ。参加者、来てくれるといいんだけどね」
 『すなをや』という駄菓子屋の女店主・タマはそう言って微笑んだ。
 

リプレイ本文


 駄菓子屋『すなをや』の宝探しイベント――ハンターたちが顔を覗かせたそこには、十歳前後と思われるやんちゃそうな子どもたちも何人かやってきていた。
「ま、うちを贔屓にしてくれるお客さんはどうしても子どもが多いからねぇ」
 そんなことを言いながら、しかしその実、あのリムネラもこの店には訪れたことがあるのだ、主であるタマは気付いていないのであるが。
「ま、ハンターさんたちも物珍しさやら何やらでお客になってくれているしね。ありがたい話だよ、本当」
 今回集まったハンターは五人。決して多くはないが、それぞれにずいぶんと楽しみにしていたらしいことは顔を見れば一目瞭然だ。
「……にしても、駄菓子も宝探しも、なんだか懐かしいな。まるで子どものむかしに戻ったみたいで」
 そう感慨深げに言うのは、リアルブルー出身のハンター・鞍馬 真(ka5819)。傍にはクリムゾンウェストで出会った恋人である鬼の女性、骸香(ka6223)が立っている。リアルブルーでは伝説や昔話の存在だとばかりされていた鬼が、このクリムゾンウェストでは普通に存在していて、そしてこうやって交流できるなんて、きっと転移前の真に教えても信じられないことだろうと思う。
 リアルブルーでは鬼とは、モンスターやクリーチャーの一種であって、それを退治するためのおとぎばなしもあるくらいなのだから。
 そう考えると、やはりここはリアルブルーとはさまざまなルールの違う世界なのだと実感する。けれど、骸香を愛しく思う気持ちに偽りはない。だから、これもきっと自然な形なのだと思う。
「うちも、宝探しなんてガキのころ以来やってないっす」
 骸香はニコニコと笑いながら、気合い十分と言った感じ。戦闘にかまけるような出来事が多い中、こんな遊びで気分を発散するのもたまにはいいかと思っているようだ。
 もちろん、『宝探し』なんて子どもの頃以来という参加者のほうが当然ながら多い。
「確かに、いつぶりかしら……? もう小さいころにやったっきりだから判らないわね。でも、私は隠すのが得意だから……見つけるのも得意なのよ?」
 そう言ってふふっと笑ってみせるのは、長い銀髪も美しい小柄な少女、スフィル・シラムクルム(ka6453)。線の細い手弱女かと思いきや、活発で明るく好奇心も旺盛という、まさに宝探しというイベントに惹かれてやってきた少女である。ついでに言うと甘いお菓子も好きなので、さっそく駄菓子を頬張っている。口の中で真っ赤ないちご味のあめ玉を転がしながら、他にも珍しい菓子はないかと店内をきょろきょろ。まだハンターに成り立ての駆け出しらしいが、なかなかに肝の据わった少女だ。
(ぜったい、見つけてみせるわ)
 意気込みもばっちりだ。
 その一方で、スフィルとは別の意味で胸を高鳴らせている者もいた。
(虫取りなんて、はじめてする……)
 弟が生まれるまでは箱入り娘として、それこそ蝶よ花よと扱われてきた少女――グルナ・グレーリス(ka5914)は、少しばかりふしぎそうに、そして不安そうに視線を彷徨わせている。きっと駄菓子屋という場所に来るのもはじめてなのだろう。
 もともとグルナは弟ばかりが可愛がられるようになって、だんだん代わり映えのない日常に退屈し、そしてそれがきっかけとなってハンターになったという、言ってみれば少し変わり種だ。
 ただ、どうしてももとの育ちの良さは言動の端々に出てしまう。所作の一つ一つにも、やはり育ちのわかる品の良さがにじみ出ている。
 そんなグルナだが、普段は基本的にスカートを纏った姿をしているが、今日は蚊や蜂といった虫対策と言うこともあって動きやすいズボンをはいている。彼女なりの対策、と言う奴なのだろう。
「でも確かに宝探しなんて懐かしいな。ガキのころはお菓子のおまけや変わった形の石ころなんかをよく集めていたけど、さてさて今回の宝物、ってのはなんだろうな……?」
 にや、と笑ってみせるのはグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)。彼もまたリアルブルー出身の青年だが、もともと住んでいたのは真の住んでいたエリアとも異なるため、子どもの頃に夢中になっていたものは似て非なるものである。それでもどこか懐かしい佇まいの『すなをや』は、どんな客をも優しく迎え入れてくれる。
(折角なんだ。久々に童心に返って、がんばるとするか)
 グリムバルドはにっと唇の端をつり上げた。


「それにしても、よく来てくれたね」
 『すなをや』店主にして今回の依頼人・タマ――通称おタマさん――は、改めて嬉しそうにそう言った。
「今回は、この近くの雑木林に『宝物』を十個隠したよ。見つけたものと、見つけた早さで、順位を決めていこうじゃないか」
 詰まるところ、ちょっとした争奪戦だ。しかもその口ぶりからして、今回が初めてではないらしい。
「雑木林のヒントは、紙に書いて渡してあるだろう? これがどういうところか、よおく調べてみるんだね。ちびっ子どもは、この宝探しのついでに終わってない夏休みの課題をこなせるようなもんが見つかるといいけどねぇ」
 おタマさんはククッと笑い、そして子どもやハンターたちにぽんぽん、と激励の意味を込めて背中を叩いてやる。
「さぁ、頑張っておいで」
 子どもたちはわあっと歓声を上げて駆けだした。ハンターたちも、それを見てからついていく。土地勘がないのも、子どもたちを先に行かせるのも、ハンデのようなものだ。ハンターが――というか、大人が――大人げなく全力を出したら、まず間違いなく、子どもたちの不興を買ってしまうだろう。
 ハンターとしてもそれは望んでいないので、出発は少しゆっくりと、と言うわけだ。


 店から十分ほど歩いたところにあるのが、目的の雑木林だ。
 なるほど、それなりの広さがあり、木の種類も様々だ。文字通り、雑木林という言葉に偽りないその雰囲気が、逆にハンターたちの童心を揺さぶってくる。リアルブルーでもこういう雑木林は確実に減ってきている傾向にあるし、クリムゾンウェストでもいずれは雑木林は減っていくのだろうから、そういう意味でも大切に遺したい場所だと思えた。
 子どもが遊ぶだけでなく、大人にとっても憩いの場となる、そんな場所――こういう林はまさしくその条件にぴったりなのだから。
 まず脇目も振らず泉の近くにやってきたのはグリムバルド。
 どうやらこの雑木林の中に湧き水があるらしく、その水が泉を作り、ちいさな流れまでこしらえているらしい。この雑木林がこれだけ豊かなのも、きっとこんな風に豊かな水源があるからなのだろう。
(たしか、メモにあったのは……「みずのそば」と「こけのそば」。泉の周辺なら、その条件に合致する場所も多いはずだぜ、……ッと)
 泉の近くの苔むした地面が少し盛り上がっている。もしやと思いそっとかき分けてみると、果たして、そこにはきらきらと輝くビー玉が隠されていた。よく見ればそこには「3」という数字が書き込まれている。
 これが難易度かなにか、まあつまりグリムバルドのえた「得点」なのだろう。チェックポイントらしきヒントは全部で十個。
 この数字が良いのか悪いのかは判断がつきかねるが、まあ見つけたのだから悪いようにはならないはずだ。
 と、そう思っていると――別の探索者一行がやってきた。
「ん? それなんだい?」
「ついさっき買っちゃったのだよ……」
 首をかしげて問いかける骸香に、感慨深げな声で真が口にくわえて応えるそれは、なにやら懐かしのココアシガレット。
「もしかしてお兄ちゃん、駄菓子好き?」
 さっき店にいた子どもの数人、そして骸香と一緒に探し始める。なるほど、子ども好きらしい真が誘ったのだろうか。
「ああ。お菓子は甘くて、みんなに笑顔をくれるのだ」
 微笑みながらそう言って頷く真に、子どもたちもかっこいい、と目を輝かせる。子どもたちは予想以上にハンターという存在に憧れを抱いているらしく、きらきらした瞳で真と骸香を見つめている。
「ねえねえ! こっちにたからもの、あるかなあ?」
「こっちもこっちもー!」
 きゃいきゃいと楽しそうに声を上げながら、子どもたちは宝探しに夢中になっている。それを見た真と骸香は、まずはそのお手伝いだ。骸香は連れてきた狛犬たちにも手伝ってもらいつつ、子どもにもしものことがないように注意を配る。
「なんだか本当に子どもに返ったみたいで、楽しいね。こんな遊びなんて、本当に久しぶりだよ」
 目を細めて楽しそうに笑う骸香。
「あ、おねえちゃん! これさっきみつけたの!」
 小柄な少女が嬉しそうに見せてくれたのは、「1」と書かれたガラス玉。何でも、木の根の隙間にあったのだという。
「おお、すごいじゃない。姉さんたちもがんばらないとね!」
 そう言って、真にも声をかける。
「なにか、見つけられましたぁ?」
 すると真はうん、と嬉しそうに頷いてみせる。
「泉の中に、隠れるようにしてあったよ。ちょうど見つけられたのは、ラッキーだったかな」
 そう言いながら、そっと、さりげなく手を繋いでみる。余り教育に良くないことを子どもの前でするわけにもいかず、けれどこの程度の温もりも二人にとっては心地よい。
「うちの方は、どうやら先にとられちゃったみたい」
 骸香は肩をすくめてみせる。彼女の狙いも「こけ」のところにある宝物だったのだが、それは既にグリムバルドが見つけたあとだったらしい。
「でも、こういう機会ってなかなかないっすよね。だから、それだけでもうちはすごく楽しいっす」
 骸香は明るく笑う。それにつられて、真も心からの笑みを浮かべて見せた。


 いっぽう苦戦しているのはグルナ。というか、彼女の場合、少し目的をはき違えている気がしなくもない。今回の「宝探し」は「虫取り」とイコールではないのだから。彼女も水辺を確認していたが、どちらかというと気持ちは「宝物」よりも「虫取り」に奪われているのだから仕方がない。
「……虫って、水がきれいなところにもいるものなの……?」
 この調子では、宝探しはまだまだ遠そうだ。

 逆にスフィルは、目をきらきらと輝かせて雑木林を歩く。
 運動神経には自信があるという本人の弁の通り、彼女の狙いは「たかいところ」の「きのみのそば」。
「ね、君たち知ってる? 木って登るとすっごく気持ちいいの!」
 そういうと、するする登ってみせる。近くにいた子どもたちからも歓声がこぼれていた。
(今までは内緒で木登りだったけれど、堂々とできるのは嬉しいわね!)
 高い木の枝によじ登って腰掛けると、遠くまでも見渡せる。それがなんだか嬉しくて、スフィルはまた笑顔を浮かべた。
(でも、宝物って何かしら? 気持ち悪いのは勘弁だけれど、見せないと判らないのよね、多分)
 実のところビー玉なのだが、いろいろと考え出すと楽しくてたまらない。と、下から子どもたちの声がする。
「おねえちゃん、すごいすごい!」
「その木ね、高いところにウロがあるんだ! もしかしたら宝物、そこかも!」
 子どもたちの声に、目をぱちくりさせると、スフィルは手を伸ばしてウロを探す。確かに木の枝に立っても額あたりになるところに、かなり立派なウロがあって、スフィルはそこに手を差し入れたのだ。
(私、ひとりぼっちの参加だけど……一人より、誰かと遊ぶ方が楽しい時間を作れるって、ほんとね。子どもたちが応援してくれるから、がんばれるし)
 ややあって、ひやりとした無機質な手触り。そこにあったのは確かにビー玉、しかしそこに書かれた文字は「特」。
「すごいの見つけちゃった!」
 慌てて木から下りると、スフィルはそれを子どもたちに見せる。
「すっげー! それ、タマばあちゃんのお気に入りじゃん!」
「じゃあ、これ……すごくいいもの?」
 問えば、子どもたちは確信を持って頷く。
「うん!!!」
 初めは子どもたちと距離があるのでは、と危惧していたが、はじまってしまえばそんなものはまるで感じられない。子どもたちと一緒に歩き、なにかを見つけ、一緒に笑いあう。それだけで、もう夏の思い出はあっという間にできていくのだから。
 美しく彩られていく夏の思い出。
 子どもたちも沢山、宝物を胸にしまい込んだことだろう。


 『すなをや』の店主タマは満足そうに笑う。
 十箇所に隠した宝物は、子どもが七つ見つけ、ハンターが三つ見つけた。
 しかしその中で一番、『特等』を手にしたのはまだハンターになって間もない少女――スフィル。
 泉の中から見つけた真は一等、苔むした土の間から見つけたグリムバルドは三等。
 全部で七等までだったらしいから、ハンターの成績はやはりそれなりに優秀である。
 参加賞は駄菓子の詰め合わせ、特等のスフィルには更に、三ヶ月の食べ放題権。
 それらを有難く受け取ったころには、太陽もだいぶ西に傾いていた。オレンジ色の光が、皆の顔を照らす。
 その笑顔が、この夏の良き思い出となるよう――誰もの心に、それはきっと息づいていることだろう。

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MVP一覧

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参加者一覧

  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

  • グルナ・グレーリス(ka5914
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 孤独なる蹴撃手
    骸香(ka6223
    鬼|21才|女性|疾影士

  • スフィル・シラムクルム(ka6453
    人間(紅)|17才|女性|疾影士

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グルナ・グレーリス(ka5914
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/21 23:58:14