ゲスト
(ka0000)
秋の期間限定新メニュー?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/18 19:00
- 完成日
- 2014/09/25 21:27
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
冒険都市リゼリオ。
大規模な歪虚との戦闘を終え、辺境では何年かぶりに大規模な祭祀――夜煌祭なるものが行われるとかで、どうやらハンター周囲も何かと慌ただしい。
しかし、リゼリオの一般的な住人たちとしては、何よりも
『飯の美味い季節』
という認識になるわけだった。
●
そんなわけで。
「そろそろ、新メニューを考えてみようかと思うのよね」
そう言ってにっこり微笑むのは、リゼリオにてブックカフェ『シエル』を経営しているリアルブルー出身の女主人、エリスであった。
話している相手は、『シエル』の常連客の一人でもあるもと女子高生のハンター、トワ・トモエ。コミックやライトノベルの揃えについてはリゼリオの中でもずいぶんと充実している方で、これも転移者たちから引き取ったりしたものが大半であるが、その分ジャンルを問わずの品揃えが主に若者たちに受け入れられているのであった。
「新メニューですか。この時期、美味しいもの多いですもんねぇ」
「うん。季節限定でもいいと思うのだけど、なかなか思い浮かばないのよね」
カフェであるからには飲食物の提供もしているわけだが、リアルブルー出身のエリスからすると、レパートリーとしてはまだまだ物足りない――ということのようだ。
「それなら、どんなメニューがいいか、いっそ募集しません? ハンターって物好きが多いから、こういうの、絶対に食いつくと思うんですよねっ」
トモエがいいことを思いついたという顔で笑う。なるほど、言われてみればそういうものかもしれない。
「そっか。そういうふうにすれば、美味しいものを提供しやすいわね」
そう、それもせっかくなら秋らしいものを。
「みんなにはカフェラテを振る舞いながら、その話を聞くことにしましょうか。ね?」
エリスはほんわかと微笑んで、楽しそうに湯を沸かし始めたのだった。
冒険都市リゼリオ。
大規模な歪虚との戦闘を終え、辺境では何年かぶりに大規模な祭祀――夜煌祭なるものが行われるとかで、どうやらハンター周囲も何かと慌ただしい。
しかし、リゼリオの一般的な住人たちとしては、何よりも
『飯の美味い季節』
という認識になるわけだった。
●
そんなわけで。
「そろそろ、新メニューを考えてみようかと思うのよね」
そう言ってにっこり微笑むのは、リゼリオにてブックカフェ『シエル』を経営しているリアルブルー出身の女主人、エリスであった。
話している相手は、『シエル』の常連客の一人でもあるもと女子高生のハンター、トワ・トモエ。コミックやライトノベルの揃えについてはリゼリオの中でもずいぶんと充実している方で、これも転移者たちから引き取ったりしたものが大半であるが、その分ジャンルを問わずの品揃えが主に若者たちに受け入れられているのであった。
「新メニューですか。この時期、美味しいもの多いですもんねぇ」
「うん。季節限定でもいいと思うのだけど、なかなか思い浮かばないのよね」
カフェであるからには飲食物の提供もしているわけだが、リアルブルー出身のエリスからすると、レパートリーとしてはまだまだ物足りない――ということのようだ。
「それなら、どんなメニューがいいか、いっそ募集しません? ハンターって物好きが多いから、こういうの、絶対に食いつくと思うんですよねっ」
トモエがいいことを思いついたという顔で笑う。なるほど、言われてみればそういうものかもしれない。
「そっか。そういうふうにすれば、美味しいものを提供しやすいわね」
そう、それもせっかくなら秋らしいものを。
「みんなにはカフェラテを振る舞いながら、その話を聞くことにしましょうか。ね?」
エリスはほんわかと微笑んで、楽しそうに湯を沸かし始めたのだった。
リプレイ本文
●
ブックカフェという空間は、まだリゼリオでも珍しいのだろうか。
『シエル』を初めて訪れたハンターたちは、物珍しそうに店内をきょろきょろと見回している。
「本を楽しめるカフェだけど、人によっては食べ物を持ち込んでいる人もいるのよね。そういう意味も含めて、メニューにも力を入れたくって」
この店の主であるリアルブルー人・エリスは苦笑しながら彼らを迎え入れた。長居する人の中にはそれこそ日がな一日動かない人もいるというこのブックカフェ、リアルブルー出身者にもクリムゾンウェストの住人たちにも受け入れられつつはあるようだ。ただ、それが売上に直結しているかというとそうでもないらしいのが悩みらしい。
「僕もカフェを持っているけれど、こういう肌寒い時期になると温かい飲み物が恋しくなるよね」
春空色の瞳と揃いの髪を持った少年、オルフェ(ka0290)が優しげに目をそっと細める。
「ああ、わかります! この時期になると、何かと美味しいモノも増えてきますしっ! そうなると、せっかくならとびっきり美味しいモノを出しておきたいですよね!」
長く伸びた青い髪をぴょんぴょんさせながら、幼さの残る少女――だがすでに一人前の商人として活動しているラズリー・クレエステル(ka1349)も笑った。
「えへへ、これでも食材のアテには自信があるんですよ」
そう言って胸を張るさまは、子どもだからといって一笑に付すことのできない貫禄のようなものもかいま見える。エリスは嬉しそうに頷くと、集まってくれたハンターたちに特製のカフェラテを提供した。
「それは頼もしいわ。私もリアルブルー出身だから、仕入れ先を開拓するのはなかなか難しくて」
運ばれてきたカフェラテは、ふんわりとした香りが鼻腔をくすぐってくる。更に、そのカフェラテには可愛らしい猫の絵がクリームやココアパウダーを使って描かれていた。
「これが、ラテアート……」
感心するように声を上げたのは、リアルブルー出身ながら蒼の世界での記憶が曖昧な少女、鹿乃(ka0174)。一口それをなめ、そして安堵したかのように微笑む。甘いものが好きな彼女としては、カフェラテが存外甘いことが嬉しかったようだ。
「甘い食べ物は幸せの味。い~っぱい食べて……幸せになるんです」
歌うようにそうつぶやいて。胸の奥の小さな寂しさを紛らわせて。
「そうね。じゃあ、皆さんのおすすめ料理、教えて下さいな」
エリスはにっこり笑って、ペンを取った。
●
まず手をあげたのは、赤い瞳にどことなく不思議な輝きを宿した青年、弥勒 明影(ka0189)であった。そして、林檎のタルトやパイ、アップルティーを提案する。
「俺が子どもの時分には、入手がいまほど容易くはなくてな。こういったものは時期のもの、という部分が強かったのだが……」
そのなりはまだ二十歳にも満たないように見えるのに、どこか老成したような、そんな口ぶりで青年は言葉を綴る。
「林檎はまあ、これからが旬だなぁ。あたしは、甘酸っぱいのが好きかも」
そこに口を挟むのは、やはりリアルブルー出身のハンターでこの店の常連のひとり、トワ・トモエだ。
明影が林檎のメニューを推すのは思い出というよりも定番だからという、どちらかと言うと消極的な理由だ。けれど定番は逆に言えば奇をてらうことのない味を提供することができるということである。初心者が手を出しやすい、定番――一考の価値はありそうだった。
「でも、秋の限定メニューですかー」
そう。定番とは別に、限定という『ウリ』を出したいというのが今回の企画の発端ではある。
「秋は実りの秋ですから、美味しい物もいーっぱいなのですよ♪ 美味しい物をひと口食べれば幸せ一つ、ふた口食べれば幸せふたつ、いっぱい食べれば幸せいっぱいなのです♪」
歌うようにそう言葉を紡ぐティオ・バルバディージョ(ka0547)、天真爛漫な性格がその歌にもあふれている。その小柄な身体からは想像もつかないほどの大食漢で特に甘いものには目のないティオ、口元の笑みはまるで今にもとろけてしまいそう。美味しいものにありつけないかという意味でのやる気満々だ。
「ボクのおすすめは、集落にいたころ……ちっちゃいときに食べさせてもらったものを提案なのですよ♪」
そう言うと、市場で買ってきたらしい紙袋の中身をごろりと見せる。中からは、かなり大ぶりの栗がいくつか飛び出してきた。
「ちっちゃいころ、風邪を引いちゃったときに、おかーさんがよく作ってくれたのですよ、マロンリゾット♪」
ティオは嬉しそうに笑う。緩めのミルクリゾットに粉末状のチーズを混ぜ、最後に甘く煮込んだマロンを刻んで混ぜるという、シンプルながらも暖かそうな一品。
「美味しそう……」
鹿乃がそう口にすると、ティオは満面の笑みで頷いた。
「マロンの甘さとミルクの暖かさで、心も体もほっこりなのですよ♪ 寒くなり始めるこれからの時期にはいいのですよー」
なるほど、主食に近いものだが、たしかにそういうものがあってもいいのかもしれない。
●
「そういえばマロンフレーバーの紅茶があるけど、飲む? いらないなら捨てるけど」
そんなことを口にしたのはまるで人形のように整った容姿の少年・リュシオル・ローシュタイン(ka0701)だった。見た目とは裏腹に、彼の言葉遣いは生意気そのものといった感じである。
捨てるなんて言いながらも、リュシオルは紅茶に蜂蜜を落とし、そして周りの皆に配る。リアルブルー出身のトモエは、
(こういうのをツンデレっていうのよねぇ)
なんて胸の奥でこっそり笑った。
「で、秋の限定メニューだっけ? 一応考えてきたけど?」
そう言いながらリュシオルが挙げるのは、スイートポテトに洋梨のシャーベット。
「芋なら手に入りやすいし、特別な材料も必要ない。女って小さいものとか好きだろうから、紅葉のかたちにしても喜ばれるんじゃないの? シャーベットも、簡単にできるし」
「へぇ。なにかおすすめする理由とかあるのかな? ボクもスイートポテトは考えてたんだけどね」
少女がひとり、微笑む。弓月 幸子(ka1749)というその少女もまた、リアルブルーの出身らしい。
「ちなみにボクは、やっぱり手軽なこととかが理由かな。ボクはあまり料理が得意じゃないんだけど、この学ランをくれたお兄ちゃんに作ってあげると喜んでくれるんだ」
幸子はマントのように羽織っている学ランを指さしながら、笑った。
「リアルブルーにいた頃、近所のお兄ちゃんの誕生日にお菓子を作ってあげたかったんだけど、あんまりうまくいかなくて……そんなときに出会ったんだ。こちらには電子レンジがないから手間はかかるかもしれないけれど、しっかり蒸せばさつまいもの甘味も引き立つんだよね」
そう言って一息つく幸子は、やはりどこか懐かしそうな瞳をしている。
「僕はまつわる話とか、そんなのないよ! ただ昔、姉に強請られて初めて作ったお菓子がそれだった、ってだけ。そのころは割と辺境のところを旅してて、材料がろくにない時だったから馬鹿じゃないのって思ったけど、砂糖や調味料は普段から持ってたし……宿で台所で借りて作ったんだ。その時の材料は砂糖と芋と油と卵くらいだったけど、乳製品も使えばもっと美味しくなるんじゃない?」
一方のリュシオルは僅かに顔を赤らめつつ、そうまくしたてた。曰く彼の姉の料理というのは殺人料理で、料理の腕を上げざるを得なかったのだとか。なんとなくその気持ちはわかる気がして、誰もが苦笑を浮かべる。
「……勝手にしなよっ」
なんだかんだでまじめに考えていたことを恥ずかしく感じてしまったのだろう、リュシオルは再びそっぽを向いてしまった。
●
「そういえば、肌寒い季節になると飲み物も温かいものが恋しくなるよね」
オルフェはそう言いながら、カフェラテをすする。自身もカフェを営んでいる手前、レシピの数々に興味津々なのだ。
「例えば、ヘーゼルナッツなどのペーストを、ココアやコーヒーに溶かして入れるとか。好みでさつまいもやかぼちゃのホイップも浮かべたら、見た目にもかわいいと思うし」
飲み物などの比率はリクエストに応じて自由に組み合わせられるようにすれば、バリエーションも増えて客も喜ぶだろう。
「あと、ホットミルクにメープルシロップやはちみつを加えたりね」
柔らかく甘い口当たりは、万人受けするはずだ。そこまで言ってから、オルフェは懐かしそうに目を細めた。
「僕は捨て子でね。死ぬかもっていうときにハンターに助けられて……家についてすぐこれを作ってもらったんだ。優しい味で、ホッとしたのを今でも覚えているよ。あとで知ったけれど、ホットミルクにはリラックス効果もあるんだってね」
季節の変わり目の不安定な時期には、きっとこういうものを望む人がいるに違いないだろうと頷く。エリスも同意した。
「そうね。温かいミルクはやっぱり安心するのはわかる気がする」
ひと口飲めば、心も体もほかほかと。それはきっと、誰もが感じることなのだ。
と、鹿乃がポツリと尋ねた。小柄だが大きな瞳が、心配そうな光をたたえてエリスを見つめている。
「あの、私が好きな食べ物、作れ……ます、か?」
「……どんなものが、好きなのかしら?」
エリスは視線をまっすぐに、しかし微笑みを絶やさず問いかける。
「えっと、……マカロン、です。秋の果物で作ったジャムや、餡を、マカロンで挟んだ、そんな綺麗な色の……」
マカロン。なるほど、可愛らしい見た目はいかにも少女の好みらしい感じだ。エリスやトモエはなるほどねぇと頷く。
「……リアルブルーにいた頃、よく一緒に食べていたんです。機嫌悪かったり、喧嘩したり、八つ当たりなんかもして、私が悪くても、意地を張って謝らなくても、……絶対に、怒ったりしなかった」
鹿乃がなにか懐しそうに、言葉を紡ぐ。ある特定の『誰か』を思い出しているのだろうが、あいにくどんな人物なのかは彼女自身は語らない。いや――
「仲直りの証で、よくお菓子を買ってきて一緒に食べたの。私は甘いものが好きだけれど、その人は甘いものが苦手で……自分で食べるわけでなく、食べさせて、なんてわがままを言っても、私の口に入れてくれる……優しい、人だった」
そして、誰に問いかけるわけでもなく、呟くように口に出す。
「……あの人は、誰?」
転移のショックなのだろうか、記憶が曖昧になっている鹿乃。不安な気持ちは、小さな少女の胸を震わせる。
思い出せないでいる『その人』を思い出したくて、でも思い出せなくて。不安はさざなみのように、少女の胸に押し寄せる。
「エリスさん、は……帰りたいと思ったこと、ありますか?」
その問いかけに、エリスはおっとりと目を細めた。
「ないって言ったら嘘になるわよ。でも、ここでの生活も面白いのよね、まるで物語の世界じゃない?」
そしてエリスは、ホットミルクを手渡した。
「こんな時こそ、温かいもので気持ちを落ち着けるといいのよ」
鹿乃は素直にそれを受け取って、ひと口飲む。あたたかさが、胸の小さな刺も溶かしていくような、そんな気がした。
●
「わ、私は秋口になるとよく木陰で本を読んでいたんですけれど、その時によく食べていたのが梨のパイなんです。だから私にとっては秋といえば梨、という感じで」
重くなりがちな雰囲気の中で口を開いたのは、リズ・ルーベルク(ka2102)だった。手には何冊かの本。詳しく聞いてみれば、梨と言っても洋梨ではなく和梨なのだという。
「林檎ほど甘くないですが、さっぱりした味わいと食感が涼しくなってきた秋口らしく、爽やかなデザートだと思います」
和梨についてはエリスよりもトモエのほうが知っていたらしく、なるほどと何度も頷いている。
「あと、梨のコンポートも……。こちらも甘みはしっかりとしているけれど、さっぱりしていておすすめです~。本来は白ワインを少し加える……と聞いていますが、未成年の方のためにもシロップ煮が良いかもですね。ヨーグルトに入れて提供してもいいですし~……それに、私の好きな本の騎士様もコンポートが好きで……仲の良かった気さくな王子様とよく食べていたので……私もその影響で好きだったりします~」
あら、と目をみはったのはトモエである。
「こちらの面白い物語も、やっぱり気になっちゃうんだよねー。もし良かったら、今度教えてくれないかな?」
物語と名のつくものが気になるトモエ、リズにそう語りかけると随分とご満悦な表情を浮かべる。
「私も、リアルブルーのお話、教えて欲しいです~」
リズも嬉しそうに小さく頷いた。
●
「秋といえば旬の食材はいろいろありますけど、私が真っ先に浮かぶのはカボチャなんですよね」
最後の一人となった、ラズリーが口を開く。ここまで出てきた食材はポテト、あるいは果物メインだったが、ラズリーの提案したのは野菜であるカボチャのパイだった。
「パンプキンパイは少ない材料で簡単にできるんです! パイ生地は他のものから流用できるし、生クリームや卵も問題無いですし。カボチャの仕入れがちょっと不安かもですけど……」
しかしそこで、ラズリーは笑った。ちょっぴり愉快そうに。――商人らしく。
「実はですね、ちょっと離れたところにカボチャ農園をやっている人がいるんですよ。私もたまに取引をしているんですけれど、経営者のご夫婦がすごく良い人で、仕入れに行くといつも手作り料理を振る舞ってくれるんです。だから、このパンプキンパイもよくそこでいただいて、レシピも教えていただいたんです」
なるほど、農園主なら自分の作物を活かす料理をよく知っているというわけだ。ラズリーに頼めば、あるいは仕入元になってくれるかもしれない。……幼いながらも策士である。でも、と少女は言葉を続けた。
「取引の時は一晩二晩泊まっていくだけでも、本当の家族のようにもてなしてくれるんです。行商しているといろんな方に会いますけど、ああいう人達がいるから頑張れるんだなあって、そう思います」
ラズリーの笑顔は、とてもキラキラと輝いていた。
●
「……そういえば、これはどのメニューにも共通するけど、器も大事だよね。これからの季節は暖かみのある陶器製の器が好まれるよ。シルエットや色合いも大事、口にするだけでなく五感を存分に使って秋を感じさせるといいんじゃないかな」
オルフェはそんなこともアドバイス。エリスは色々と考え込んでいたようだが、やがて
「ありがとう、とても参考になったわ」
そうハンターたちに礼をのべた。
「また今度、皆を招待させてね。きっと素敵な限定メニューを提供するから」
そしてまもなく、『シエル』の看板に新メニューが貼りだされた。
『パンプキンパイ、マロンリゾット、はじめました』
そしてその横に。
『ホットドリンク、新作あります』
ブックカフェという空間は、まだリゼリオでも珍しいのだろうか。
『シエル』を初めて訪れたハンターたちは、物珍しそうに店内をきょろきょろと見回している。
「本を楽しめるカフェだけど、人によっては食べ物を持ち込んでいる人もいるのよね。そういう意味も含めて、メニューにも力を入れたくって」
この店の主であるリアルブルー人・エリスは苦笑しながら彼らを迎え入れた。長居する人の中にはそれこそ日がな一日動かない人もいるというこのブックカフェ、リアルブルー出身者にもクリムゾンウェストの住人たちにも受け入れられつつはあるようだ。ただ、それが売上に直結しているかというとそうでもないらしいのが悩みらしい。
「僕もカフェを持っているけれど、こういう肌寒い時期になると温かい飲み物が恋しくなるよね」
春空色の瞳と揃いの髪を持った少年、オルフェ(ka0290)が優しげに目をそっと細める。
「ああ、わかります! この時期になると、何かと美味しいモノも増えてきますしっ! そうなると、せっかくならとびっきり美味しいモノを出しておきたいですよね!」
長く伸びた青い髪をぴょんぴょんさせながら、幼さの残る少女――だがすでに一人前の商人として活動しているラズリー・クレエステル(ka1349)も笑った。
「えへへ、これでも食材のアテには自信があるんですよ」
そう言って胸を張るさまは、子どもだからといって一笑に付すことのできない貫禄のようなものもかいま見える。エリスは嬉しそうに頷くと、集まってくれたハンターたちに特製のカフェラテを提供した。
「それは頼もしいわ。私もリアルブルー出身だから、仕入れ先を開拓するのはなかなか難しくて」
運ばれてきたカフェラテは、ふんわりとした香りが鼻腔をくすぐってくる。更に、そのカフェラテには可愛らしい猫の絵がクリームやココアパウダーを使って描かれていた。
「これが、ラテアート……」
感心するように声を上げたのは、リアルブルー出身ながら蒼の世界での記憶が曖昧な少女、鹿乃(ka0174)。一口それをなめ、そして安堵したかのように微笑む。甘いものが好きな彼女としては、カフェラテが存外甘いことが嬉しかったようだ。
「甘い食べ物は幸せの味。い~っぱい食べて……幸せになるんです」
歌うようにそうつぶやいて。胸の奥の小さな寂しさを紛らわせて。
「そうね。じゃあ、皆さんのおすすめ料理、教えて下さいな」
エリスはにっこり笑って、ペンを取った。
●
まず手をあげたのは、赤い瞳にどことなく不思議な輝きを宿した青年、弥勒 明影(ka0189)であった。そして、林檎のタルトやパイ、アップルティーを提案する。
「俺が子どもの時分には、入手がいまほど容易くはなくてな。こういったものは時期のもの、という部分が強かったのだが……」
そのなりはまだ二十歳にも満たないように見えるのに、どこか老成したような、そんな口ぶりで青年は言葉を綴る。
「林檎はまあ、これからが旬だなぁ。あたしは、甘酸っぱいのが好きかも」
そこに口を挟むのは、やはりリアルブルー出身のハンターでこの店の常連のひとり、トワ・トモエだ。
明影が林檎のメニューを推すのは思い出というよりも定番だからという、どちらかと言うと消極的な理由だ。けれど定番は逆に言えば奇をてらうことのない味を提供することができるということである。初心者が手を出しやすい、定番――一考の価値はありそうだった。
「でも、秋の限定メニューですかー」
そう。定番とは別に、限定という『ウリ』を出したいというのが今回の企画の発端ではある。
「秋は実りの秋ですから、美味しい物もいーっぱいなのですよ♪ 美味しい物をひと口食べれば幸せ一つ、ふた口食べれば幸せふたつ、いっぱい食べれば幸せいっぱいなのです♪」
歌うようにそう言葉を紡ぐティオ・バルバディージョ(ka0547)、天真爛漫な性格がその歌にもあふれている。その小柄な身体からは想像もつかないほどの大食漢で特に甘いものには目のないティオ、口元の笑みはまるで今にもとろけてしまいそう。美味しいものにありつけないかという意味でのやる気満々だ。
「ボクのおすすめは、集落にいたころ……ちっちゃいときに食べさせてもらったものを提案なのですよ♪」
そう言うと、市場で買ってきたらしい紙袋の中身をごろりと見せる。中からは、かなり大ぶりの栗がいくつか飛び出してきた。
「ちっちゃいころ、風邪を引いちゃったときに、おかーさんがよく作ってくれたのですよ、マロンリゾット♪」
ティオは嬉しそうに笑う。緩めのミルクリゾットに粉末状のチーズを混ぜ、最後に甘く煮込んだマロンを刻んで混ぜるという、シンプルながらも暖かそうな一品。
「美味しそう……」
鹿乃がそう口にすると、ティオは満面の笑みで頷いた。
「マロンの甘さとミルクの暖かさで、心も体もほっこりなのですよ♪ 寒くなり始めるこれからの時期にはいいのですよー」
なるほど、主食に近いものだが、たしかにそういうものがあってもいいのかもしれない。
●
「そういえばマロンフレーバーの紅茶があるけど、飲む? いらないなら捨てるけど」
そんなことを口にしたのはまるで人形のように整った容姿の少年・リュシオル・ローシュタイン(ka0701)だった。見た目とは裏腹に、彼の言葉遣いは生意気そのものといった感じである。
捨てるなんて言いながらも、リュシオルは紅茶に蜂蜜を落とし、そして周りの皆に配る。リアルブルー出身のトモエは、
(こういうのをツンデレっていうのよねぇ)
なんて胸の奥でこっそり笑った。
「で、秋の限定メニューだっけ? 一応考えてきたけど?」
そう言いながらリュシオルが挙げるのは、スイートポテトに洋梨のシャーベット。
「芋なら手に入りやすいし、特別な材料も必要ない。女って小さいものとか好きだろうから、紅葉のかたちにしても喜ばれるんじゃないの? シャーベットも、簡単にできるし」
「へぇ。なにかおすすめする理由とかあるのかな? ボクもスイートポテトは考えてたんだけどね」
少女がひとり、微笑む。弓月 幸子(ka1749)というその少女もまた、リアルブルーの出身らしい。
「ちなみにボクは、やっぱり手軽なこととかが理由かな。ボクはあまり料理が得意じゃないんだけど、この学ランをくれたお兄ちゃんに作ってあげると喜んでくれるんだ」
幸子はマントのように羽織っている学ランを指さしながら、笑った。
「リアルブルーにいた頃、近所のお兄ちゃんの誕生日にお菓子を作ってあげたかったんだけど、あんまりうまくいかなくて……そんなときに出会ったんだ。こちらには電子レンジがないから手間はかかるかもしれないけれど、しっかり蒸せばさつまいもの甘味も引き立つんだよね」
そう言って一息つく幸子は、やはりどこか懐かしそうな瞳をしている。
「僕はまつわる話とか、そんなのないよ! ただ昔、姉に強請られて初めて作ったお菓子がそれだった、ってだけ。そのころは割と辺境のところを旅してて、材料がろくにない時だったから馬鹿じゃないのって思ったけど、砂糖や調味料は普段から持ってたし……宿で台所で借りて作ったんだ。その時の材料は砂糖と芋と油と卵くらいだったけど、乳製品も使えばもっと美味しくなるんじゃない?」
一方のリュシオルは僅かに顔を赤らめつつ、そうまくしたてた。曰く彼の姉の料理というのは殺人料理で、料理の腕を上げざるを得なかったのだとか。なんとなくその気持ちはわかる気がして、誰もが苦笑を浮かべる。
「……勝手にしなよっ」
なんだかんだでまじめに考えていたことを恥ずかしく感じてしまったのだろう、リュシオルは再びそっぽを向いてしまった。
●
「そういえば、肌寒い季節になると飲み物も温かいものが恋しくなるよね」
オルフェはそう言いながら、カフェラテをすする。自身もカフェを営んでいる手前、レシピの数々に興味津々なのだ。
「例えば、ヘーゼルナッツなどのペーストを、ココアやコーヒーに溶かして入れるとか。好みでさつまいもやかぼちゃのホイップも浮かべたら、見た目にもかわいいと思うし」
飲み物などの比率はリクエストに応じて自由に組み合わせられるようにすれば、バリエーションも増えて客も喜ぶだろう。
「あと、ホットミルクにメープルシロップやはちみつを加えたりね」
柔らかく甘い口当たりは、万人受けするはずだ。そこまで言ってから、オルフェは懐かしそうに目を細めた。
「僕は捨て子でね。死ぬかもっていうときにハンターに助けられて……家についてすぐこれを作ってもらったんだ。優しい味で、ホッとしたのを今でも覚えているよ。あとで知ったけれど、ホットミルクにはリラックス効果もあるんだってね」
季節の変わり目の不安定な時期には、きっとこういうものを望む人がいるに違いないだろうと頷く。エリスも同意した。
「そうね。温かいミルクはやっぱり安心するのはわかる気がする」
ひと口飲めば、心も体もほかほかと。それはきっと、誰もが感じることなのだ。
と、鹿乃がポツリと尋ねた。小柄だが大きな瞳が、心配そうな光をたたえてエリスを見つめている。
「あの、私が好きな食べ物、作れ……ます、か?」
「……どんなものが、好きなのかしら?」
エリスは視線をまっすぐに、しかし微笑みを絶やさず問いかける。
「えっと、……マカロン、です。秋の果物で作ったジャムや、餡を、マカロンで挟んだ、そんな綺麗な色の……」
マカロン。なるほど、可愛らしい見た目はいかにも少女の好みらしい感じだ。エリスやトモエはなるほどねぇと頷く。
「……リアルブルーにいた頃、よく一緒に食べていたんです。機嫌悪かったり、喧嘩したり、八つ当たりなんかもして、私が悪くても、意地を張って謝らなくても、……絶対に、怒ったりしなかった」
鹿乃がなにか懐しそうに、言葉を紡ぐ。ある特定の『誰か』を思い出しているのだろうが、あいにくどんな人物なのかは彼女自身は語らない。いや――
「仲直りの証で、よくお菓子を買ってきて一緒に食べたの。私は甘いものが好きだけれど、その人は甘いものが苦手で……自分で食べるわけでなく、食べさせて、なんてわがままを言っても、私の口に入れてくれる……優しい、人だった」
そして、誰に問いかけるわけでもなく、呟くように口に出す。
「……あの人は、誰?」
転移のショックなのだろうか、記憶が曖昧になっている鹿乃。不安な気持ちは、小さな少女の胸を震わせる。
思い出せないでいる『その人』を思い出したくて、でも思い出せなくて。不安はさざなみのように、少女の胸に押し寄せる。
「エリスさん、は……帰りたいと思ったこと、ありますか?」
その問いかけに、エリスはおっとりと目を細めた。
「ないって言ったら嘘になるわよ。でも、ここでの生活も面白いのよね、まるで物語の世界じゃない?」
そしてエリスは、ホットミルクを手渡した。
「こんな時こそ、温かいもので気持ちを落ち着けるといいのよ」
鹿乃は素直にそれを受け取って、ひと口飲む。あたたかさが、胸の小さな刺も溶かしていくような、そんな気がした。
●
「わ、私は秋口になるとよく木陰で本を読んでいたんですけれど、その時によく食べていたのが梨のパイなんです。だから私にとっては秋といえば梨、という感じで」
重くなりがちな雰囲気の中で口を開いたのは、リズ・ルーベルク(ka2102)だった。手には何冊かの本。詳しく聞いてみれば、梨と言っても洋梨ではなく和梨なのだという。
「林檎ほど甘くないですが、さっぱりした味わいと食感が涼しくなってきた秋口らしく、爽やかなデザートだと思います」
和梨についてはエリスよりもトモエのほうが知っていたらしく、なるほどと何度も頷いている。
「あと、梨のコンポートも……。こちらも甘みはしっかりとしているけれど、さっぱりしていておすすめです~。本来は白ワインを少し加える……と聞いていますが、未成年の方のためにもシロップ煮が良いかもですね。ヨーグルトに入れて提供してもいいですし~……それに、私の好きな本の騎士様もコンポートが好きで……仲の良かった気さくな王子様とよく食べていたので……私もその影響で好きだったりします~」
あら、と目をみはったのはトモエである。
「こちらの面白い物語も、やっぱり気になっちゃうんだよねー。もし良かったら、今度教えてくれないかな?」
物語と名のつくものが気になるトモエ、リズにそう語りかけると随分とご満悦な表情を浮かべる。
「私も、リアルブルーのお話、教えて欲しいです~」
リズも嬉しそうに小さく頷いた。
●
「秋といえば旬の食材はいろいろありますけど、私が真っ先に浮かぶのはカボチャなんですよね」
最後の一人となった、ラズリーが口を開く。ここまで出てきた食材はポテト、あるいは果物メインだったが、ラズリーの提案したのは野菜であるカボチャのパイだった。
「パンプキンパイは少ない材料で簡単にできるんです! パイ生地は他のものから流用できるし、生クリームや卵も問題無いですし。カボチャの仕入れがちょっと不安かもですけど……」
しかしそこで、ラズリーは笑った。ちょっぴり愉快そうに。――商人らしく。
「実はですね、ちょっと離れたところにカボチャ農園をやっている人がいるんですよ。私もたまに取引をしているんですけれど、経営者のご夫婦がすごく良い人で、仕入れに行くといつも手作り料理を振る舞ってくれるんです。だから、このパンプキンパイもよくそこでいただいて、レシピも教えていただいたんです」
なるほど、農園主なら自分の作物を活かす料理をよく知っているというわけだ。ラズリーに頼めば、あるいは仕入元になってくれるかもしれない。……幼いながらも策士である。でも、と少女は言葉を続けた。
「取引の時は一晩二晩泊まっていくだけでも、本当の家族のようにもてなしてくれるんです。行商しているといろんな方に会いますけど、ああいう人達がいるから頑張れるんだなあって、そう思います」
ラズリーの笑顔は、とてもキラキラと輝いていた。
●
「……そういえば、これはどのメニューにも共通するけど、器も大事だよね。これからの季節は暖かみのある陶器製の器が好まれるよ。シルエットや色合いも大事、口にするだけでなく五感を存分に使って秋を感じさせるといいんじゃないかな」
オルフェはそんなこともアドバイス。エリスは色々と考え込んでいたようだが、やがて
「ありがとう、とても参考になったわ」
そうハンターたちに礼をのべた。
「また今度、皆を招待させてね。きっと素敵な限定メニューを提供するから」
そしてまもなく、『シエル』の看板に新メニューが貼りだされた。
『パンプキンパイ、マロンリゾット、はじめました』
そしてその横に。
『ホットドリンク、新作あります』
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/15 19:53:55 |
|
![]() |
相談スレッド リズ・ルーベルク(ka2102) エルフ|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/18 11:22:51 |